(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-25
(45)【発行日】2025-10-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物、並びに、それを用いたプリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板及び配線基板
(51)【国際特許分類】
C08F 287/00 20060101AFI20250926BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20250926BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20250926BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250926BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20250926BHJP
【FI】
C08F287/00
C08F290/06
B32B15/08 U
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
C08J5/24 CER
(21)【出願番号】P 2022550534
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2021033408
(87)【国際公開番号】W WO2022059625
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2024-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2020157403
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】王 誼群
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宏典
(72)【発明者】
【氏名】井上 博晴
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/158849(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/159080(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194917(WO,A1)
【文献】特表2010-523788(JP,A)
【文献】特開2007-131763(JP,A)
【文献】国際公開第2021/166847(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
B32B
H05K
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系ブロック共重合体と、
ラジカル重合性化合物と、
下記式(1)で表される化合物(A)、下記式(2)で表される化合物(B)、並びに、下記式(3-1)及び式(3-2)で表される基から選択される少なくとも1つの基を2つ以上有する化合物(C)からなる群より選択される少なくとも1つのフリーラジカル化合物とを含
み、
前記フリーラジカル化合物の含有量は、前記スチレン系ブロック共重合体と前記ラジカル重合性化合物の合計100質量部に対して、0.001~1質量部である、樹脂組成物。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(式(1)
中、X
A
は、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、イソチオシアネート、メトキシ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミド基、または、ベンゾイルオキシ基を示
し;式(2)中、X
B
は水素原子、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、イソチオシアネート、メトキシ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミド基、または、ベンゾイルオキシ基を示す。)
【請求項2】
前記スチレン系ブロック共重合体の重量平均分子量が10000~200000である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記のスチレン系ブロック共重合体が、メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体、メチルスチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)メチルスチレン共重合体、スチレンイソプレン共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体、スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体、スチレンエチレン共重合体、スチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)スチレン共重合体、スチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレン(ブタジエン/ブチレン)スチレン共重合体、スチレンイソブチレンスチレン共重合体、及びこれらの水添物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ラジカル重合性化合物が、炭素―炭素不飽和二重結合を有する置換基に末端変性されたポリフェニレンエーテル化合物を含む、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリフェニレンエーテル化合物が、下記式(4)で表される基を有する、請求項
4に記載の樹脂組成物。
【化5】
(式(4)中、R
1は、水素原子又はアルキル基を示す)
【請求項6】
さらに反応開始剤を含む、請求項1~
5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記フリーラジカル化合物と前記反応開始剤との含有量比(質量比)が、0.001:1.0~0.1:1.0である、請求項
6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを有する、プリプレグ。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれかに記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、支持フィルムとを有する、樹脂付きフィルム。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれかに記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金属箔とを有する、樹脂付き金属箔。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項
8に記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを有する、金属張積層板。
【請求項12】
請求項1~
7のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項
8に記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、配線とを有する、配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、並びに、それを用いたプリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板及び配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器は、情報処理量の増大に伴い、搭載される半導体デバイスの高集積化、配線の高密度化、及び多層化等の実装技術が急速に進展している。各種電子機器において用いられる配線基板の基材を構成するための基板材料には、信号の伝送速度を高め、信号伝送時の損失を低減させるために、誘電率及び誘電正接が低いことが求められる。
【0003】
ポリフェニレンエーテル(PPE)は、誘電率や誘電正接が低い等の誘電特性に優れ、MHz帯からGHz帯という高周波数帯(高周波領域)においても誘電率や誘電正接等の誘電特性が優れていることが知られている。このため、ポリフェニレンエーテルは、例えば、高周波用成形材料として用いられることが検討されている。より具体的には、高周波数帯を利用する電子機器に備えられる配線板の基材を構成するための基板材料等に好ましく用いられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、変性ポリフェニレンエーテル化合物と、重量平均分子量が10000以上のスチレン系熱可塑性エラストマーなどを含む樹脂組成物が開示されている。
【0005】
前記特許文献1に開示されているような樹脂組成物によれば、低誘電特性、耐熱性を損なうことなく、フィルム形成能を付与できると報告されている。
【0006】
一方で、近年、さらなる薄型化が求められる基板材料において、より優れた低誘電特性が求められている。そのため、スチレン系熱可塑性エラストマーの添加量を増加させることなどが考えられるが、前記エラストマーは分子量が高いため、その含有量を増加させると、樹脂組成物を基板材料とした際の回路充填性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その硬化物において優れた低誘電特性、低熱膨張率、高Tgなどの特性を備え、基板材料として使用する際の回路充填性にも優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。また、前記樹脂組成物を用いたプリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線基板を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、スチレン系ブロック共重合体と、ラジカル重合性化合物と、下記式(1)で表される化合物(A)、下記式(2)で表される化合物(B)、並びに、下記式(3-1)及び式(3-2)で表される基から選択される少なくとも1つの基を2つ以上有する化合物(C)からなる群より選択される少なくとも1つのフリーラジカル化合物とを含むことを特徴とする。
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
【化4】
(式(1)および式(2)中、X
AおよびX
Bは、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、イソチオシアネート、メトキシ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミド基、または、ベンゾイルオキシ基を示す。)
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るプリプレグの構成を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る金属張積層板の構成を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る配線基板の構成を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る樹脂付き金属箔の構成を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムの構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ともいう)は、スチレン系ブロック共重合体と、ラジカル重合性化合物と、前記式(1)で表される化合物(A)、前記式(2)で表される化合物(B)、並びに、前記式(3-1)及び式(3-2)で表される基から選択される少なくとも1つの基を2つ以上有する化合物(C)からなる群より選択される少なくとも1つのフリーラジカル化合物とを含むことを特徴とする。
【0016】
スチレン系ブロック共重合体とラジカル重合性化合物とを含むことによって、その硬化物において低誘電特性、低熱膨張率、高Tg(ガラス転移温度)を備える樹脂組成物とすることができる。一方で、スチレン系ブロック共重合体の使用により、樹脂組成物または樹脂組成物の半硬化物(Bステージ)として用いる際の樹脂流れ性が悪化し、回路充填性が懸念されるが、本実施形態のようにフリーラジカル化合物を加えることにより、樹脂の硬化開始を遅延させたり、最低溶融粘度を下げたりすることが可能となる。よって、低誘電特性や高Tgなどを維持したまま、回路充填性を向上させることができると考えられる。
【0017】
なお、材料特性として、硬化物のTgが高い材料では、耐熱性(リフロー耐熱性等)が、より向上する要因の1つとなる。また、硬化物においてTgが高い材料であることは、より高温領域での材料の熱膨張率が小さいという利点もある。一般にガラス転移温度を越える温度では、急激に熱膨張が大きくなるため、ガラス転移温度が低いと、そのガラス転移温度を越える高温領域では、熱膨張率が大きくなる。高温領域での熱膨張率が大きいと、配線基板における、例えば、層間接続信頼性(スルーホールのバレルクラック発生等)が悪くなり、プリント板として機能しない恐れがある。これは基板内の樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層と、金属からなるスルーホールとの材質間で、高温での熱膨張率の差が大きくなるため、金属からなるスルーホールの壁面にクラックが生じ、接続信頼性が悪くなるためと考えられる。
【0018】
すなわち、本発明によれば、その硬化物において優れた低誘電特性、低熱膨張率、高Tgなどの特性を備え、基板材料として使用する際の回路充填性にも優れる樹脂組成物を提供することができる。また、前記樹脂組成物を用いることにより、前記特性に優れたプリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線基板を提供することができる。
【0019】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物の各成分について、具体的に説明する。
【0020】
(スチレン系ブロック共重合体)
本実施形態の樹脂組成物は、スチレン系ブロック共重合体を含む。それにより、さらなる樹脂の低誘電率化や、樹脂組成物または樹脂組成物の半硬化物(Bステージ)にした際のハンドリング性(フィルム性)の向上といった利点があると考えられる。
【0021】
本実施形態で使用されるスチレン系ブロック共重合体とは、例えば、スチレン系単量体を含む単量体をブロック重合して得られる共重合体である。前記スチレン系共重合体としては、例えば、スチレン系単量体の1種以上と、スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体の1種以上とを、ブロック重合させて得られる共重合体等が挙げられる。スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、及び、スチレン誘導体等が挙げられる。
【0022】
本実施形態のスチレン系ブロック共重合体の重量平均分子量は、10,000~200,000程度であることが好ましく、さらに50,000~180,000程度であることがより好ましい。重量平均分子量が上記範囲であれば、樹脂組成物又は樹脂組成物の半硬化状態(Bステージ)において適正な樹脂流動性を担保することが可能であるといった利点がある。なお、本明細書において、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー測定(GPC:Gel Permeation Chromatography)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0023】
好ましい実施形態において、本実施形態のスチレン系ブロック重合体は、硬さが20~100のスチレン系ブロック共重合体でることが好ましい。さらに、スチレン系ブロック共重合体の硬さは、30~80であることが好ましい。硬さが前記範囲内であるスチレン系ブロック共重合体を含有することによって、硬化させると、より誘電特性が低く、かつ、熱膨張係数の低い硬化物となる樹脂組成物が得られると考えられる。
【0024】
なお、前記硬さは、例えば、デュロメータ硬さ等が挙げられ、より具体的には、JIS K 6253に準拠のタイプAデュロメータを用いて測定したデュロメータ硬さ等が挙げられる。
【0025】
具体的なスチレン系ブロック共重合体としては、従来公知のものを広く使用でき、特に限定されないが、例えば、下記式(5)で表される構造単位(スチレン系単量体由来の構造)を分子中に有する重合体等が挙げられる。
【0026】
【化5】
式(5)中、R
2~R
4は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、R
5は水素原子、アルキル基、アルケニル基、または、イソプロペニル基を示す。前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。また、前記アルケニル基は、炭素数1~10のアルケニル基が好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0027】
本実施形態のスチレン系ブロック共重合体は、上記式(5)で表される構造単位を少なくとも1種含んでいることが好ましいが、異なる2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。また、上記式(5)で表される構造単位を繰り返した構造を含んでいてもよい。
【0028】
さらに、本実施形態のスチレン系ブロック共重合体は、上記式(5)で表される構造単位に加えて、スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体として、下記式(6)~(8)で表される構造単位のうち少なくとも一つを有していてもよい。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
前記式(6)~(8)中、R6~R23は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、及び、イソプロペニル基からなる群から選択されるいずれかの基を示す。前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。また、前記アルケニル基は、炭素数1~10のアルケニル基が好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。本実施形態のスチレン系ブロック共重合体は、上記式(6)~(8)で表される構造単位を少なくとも1種含んでいることが好ましく、こられのうち異なる2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。また、上記式(6)、式(7)および/または式(8)で表される構造単位を繰り返した構造を含んでいてもよい。
【0033】
また、上記式(5)で表される構造単位としては、より具体的には、例えば、下記式(9)~(11)で表される構造単位などが挙げられる。上記式(5)で表される構造単位はこれらのうち1種単独であってもよいし、異なる2種以上を組み合わせたものであってもよい。さらに、下記式(9)~(11)で表される構造単位を、それぞれ繰り返した構造等でもよい。
【0034】
【0035】
上記式(6)で表される構造単位としては、より具体的には、例えば、下記式(12)~(18)で表される構造単位などが挙げられる。上記式(6)で表される構造単位はこれらのうち1種単独であってもよいし、異なる2種以上を組み合わせたものであってもよい。さらに、下記式(12)~(18)で表される構造単位を、それぞれ繰り返した構造等でもよい。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
また、上記式(7)で表される構造単位としては、より具体的には、例えば、下記式(19)~(20)で表される構造単位などが挙げられる。上記式(7)で表される構造単位はこれらのうち1種単独であってもよいし、異なる2種以上を組み合わせたものであってもよい。さらに、下記式(19)~(20)で表される構造単位を、それぞれ繰り返した構造等でもよい。
【0044】
【0045】
【0046】
また、上記式(8)で表される構造単位としては、より具体的には、例えば、下記式(21)~(22)で表される構造単位などが挙げられる。上記式(8)で表される構造単位はこれらのうち1種単独であってもよいし、異なる2種以上を組み合わせたものであってもよい。さらに、下記式(21)~(22)で表される構造単位を、それぞれ繰り返した構造等でもよい。
【0047】
【0048】
【0049】
スチレン系ブロック共重合体の好ましい例示としては、スチレン、スチレンエチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、イソプロペニルトルエン、ジビニルベンゼン、アリルスチレンなどのスチレン系単量体の1種以上を重合もしくは共重合して得られる共重合体が挙げられる。より具体的には、メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体、メチルスチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)メチルスチレン共重合体、スチレンイソプレン共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体、スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体、スチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)スチレン共重合体、スチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレン(ブタジエン/ブチレン)スチレン共重合体、スチレンイソブチレンスチレン共重合体、及びこれらの水添物等が挙げられる。
【0050】
なお、前記スチレン系ブロック共重合体としては、上記例示したものを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
前記スチレン系ブロック共重合体において、前記式(9)~(11)で表される構造単位の少なくとも一種を含む場合において、その質量分率(すなわち、スチレン由来の構成単位の含有量)は、前記重合体全体に対して10~60%程度であることが好ましく、さらに、20~40%程度であることがより好ましい。それにより、ラジカル重合性化合物との良好な相溶性を保ちつつ、樹脂組成物を硬化した際により優れる誘電特性も得られるという利点がある。
【0052】
本実施形態のスチレン系ブロック共重合体は、市販のものを使用することもでき、例えば、株式会社クラレ製の「セプトンV9827」、「セプトン2063」、旭化成株式会社製の「タフテック(登録商標)H1052」、「タフテック(登録商標)H1041」及び「タフテック(登録商標)H1221」、JSR株式会社製「Dynaron9901P」等が挙げられる。
【0053】
<ラジカル重合性化合物>
本実施形態で使用されるラジカル重合性化合物は、ラジカル重合性を有する化合物であれば特に限定はされないが、炭素―炭素不飽和二重結合を有する置換基に末端変性されたポリフェニレンエーテル化合物を含んでいることが好ましい。
【0054】
本実施形態で使用できるポリフェニレンエーテル化合物は、硬化させた場合に優れた低誘電特性を発揮できる変性ポリフェニレンエーテル化合物であることが好ましく、さらに下記式(4)表される基を有するポリフェニレンエーテル化合であることが好ましい。このような変性ポリフェニレンエーテル化合物を含有することによって、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物を得ることができる樹脂組成物となると考えられる。
【0055】
【化21】
式(4)中、R
1は、水素原子又はアルキル基を示す。前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0056】
または、本実施形態のポリフェニレンエーテル化合物は、下記式(23)表される基を有するポリフェニレンエーテル化合であってもよい。
【0057】
【化22】
式(23)中、pは0~10の整数を示す。また、Zは、アリーレン基を示す。また、R
1~R
3は、それぞれ独立している。すなわち、R
24~R
26は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R
24~R
26は、水素原子又はアルキル基を示す。
【0058】
なお、式(23)において、pが0である場合は、Zがポリフェニレンエーテルの末端に直接結合していることを示す。
【0059】
上記Zのアリーレン基は、特に限定されない。このアリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の多環芳香族である多環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。また、前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0060】
前記式(4)で表される置換基としては、例えば、アクリレート基及びメタクリレート基等が挙げられる。また、前記式(23)で表される置換基の好ましい具体例としては、例えば、ビニルベンジル基を含む置換基等が挙げられる。前記ビニルベンジル基を含む置換基としては、例えば、下記式(24)で表される置換基等が挙げられる。
【0061】
【0062】
また、前記置換基としては、より具体的には、p-エテニルベンジル基及びm-エテニルベンジル基等のビニルベンジル基(エテニルベンジル基)、ビニルフェニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基等が挙げられる。
【0063】
前記ポリフェニレンエーテル化合物は、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有しており、例えば、下記式(25)で表される繰り返し単位を分子中に有していることが好ましい。
【0064】
【化24】
式(25)において、tは、1~50を示す。また、R
27~R
30は、それぞれ独立している。すなわち、R
27~R
30は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R
27~R
30は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0065】
R27~R30において、挙げられた各官能基としては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
【0066】
アルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0067】
アルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及び3-ブテニル基等が挙げられる。
【0068】
アルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、例えば、エチニル基、及びプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
【0069】
アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0070】
アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びクロトノイル基等が挙げられる。
【0071】
アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、プロピオロイル基等が挙げられる。
【0072】
前記ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。具体的には、500~5000であることが好ましく、800~4000であることがより好ましく、1000~3000であることがさらに好ましい。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。また、ポリフェニレンエーテル化合物が、前記式(25)で表される繰り返し単位を分子中に有している場合、tは、ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内になるような数値であることが好ましい。具体的には、tは、1~50であることが好ましい。
【0073】
前記ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を有し、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものとなる。このことは、以下のことによると考えられる。通常のポリフェニレンエーテルでは、その重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。この点、本実施形態に係るポリフェニレンエーテル化合物は、末端に不飽和二重結合を1つ以上有するので、硬化物の耐熱性が充分に高いものが得られると考えられる。また、ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、成形性にも優れると考えられる。よって、このようなポリフェニレンエーテル化合物は、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものが得られると考えられる。
【0074】
前記ポリフェニレンエーテル化合物における、ポリフェニレンエーテル化合物1分子当たりの、分子末端に有する、前記置換基の平均個数(末端官能基数)は、特に限定されない。具体的には、1~5個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1.5~3個であることがさらに好ましい。この末端官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生する恐れがある。すなわち、このようなポリフェニレンエーテル化合物を用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼性の高いプリント配線板が得られにくいという成形性の問題が生じるおそれがある。
【0075】
なお、ポリフェニレンエーテル化合物の末端官能基数は、ポリフェニレンエーテル化合物1モル中に存在する全ての変性ポリフェニレンエーテル化合物の1分子あたりの、前記置換基の平均値を表した数値等が挙げられる。この末端官能基数は、例えば、得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数を測定して、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。そして、変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数の測定方法は、変性ポリフェニレンエーテル化合物の溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加し、その混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0076】
本実施形態のポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度は、特に限定されない。具体的には、0.03~0.12dl/gであればよいが、0.04~0.11dl/gであることが好ましく、0.06~0.095dl/gであることがより好ましい。この固有粘度が低すぎると、分子量が低い傾向があり、低誘電率や低誘電正接等の低誘電特性が得られにくい傾向がある。また、固有粘度が高すぎると、粘度が高く、充分な流動性が得られず、硬化物の成形性が低下する傾向がある。よって、ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度が上記範囲内であれば、優れた硬化物の耐熱性及び成形性を実現できる。
【0077】
なお、ここでの固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、例えば、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計で測定した値等である。この粘度計としては、例えば、Schott社製のAVS500 Visco System等が挙げられる。
【0078】
本実施形態のポリフェニレンエーテル化合物としては、例えば、下記式(26)~(28)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。また、本実施形態のポリフェニレンエーテル化合物としては、これらの変性ポリフェニレンエーテル化合物を単独で用いてもよいし、これらの変性ポリフェニレンエーテル化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
式(26)~式(28)中、R30~R37、R38~R45並びにR46~R49は、それぞれ独立している。すなわち、R30~R37、R38~R45並びにR46~R49は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。R30~R37、R38~R45並びにR46~R49は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。
【0083】
また、上記式(28)中、sは1~100の整数を示す。
【0084】
前記R30~R37、R38~R45並びにR46~R49について、上記で挙げられた各官能基としては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
【0085】
アルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0086】
また、アルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及び3-ブテニル基等が挙げられる。
【0087】
また、アルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、例えば、エチニル基、及びプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
【0088】
また、アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0089】
また、アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びクロトノイル基等が挙げられる。
【0090】
また、アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、プロピオロイル基等が挙げられる。
【0091】
また、上記式(26)及び(27)中、A及びBは、それぞれ、下記式(29)及び下記式(30)で表される繰り返し単位を示す。また、式(27)中、Yは、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素を示す。
【0092】
【0093】
【0094】
式(29)及び式(30)中、m及びnは、それぞれ、0~20を示す。また、m及びnは、mとnとの合計値が、1~30となる数値を示すことが好ましい。よって、mは、0~20を示し、nは、0~20を示し、mとnとの合計は、1~30を示すことがより好ましい。
【0095】
また、式(29)及び式(30)において、R50~R53並びにR54~R57は、それぞれ独立しており、R50~R53並びにR54~R57は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよく、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。
【0096】
前記式(27)中において、Yは、上述したように、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素である。Yとしては、例えば、下記式(31)で表される基等が挙げられる。
【0097】
【化30】
前記式(31)中、R
58及びR
59は、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。また、式(31)で表される基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、及びジメチルメチレン基等が挙げられ、この中でも、ジメチルメチレン基が好ましい。
【0098】
前記式(26)~式(28)中において、X1~X3は、例えば、それぞれ独立して、上記式(4)で表される置換基及び/又は上記式(23)で表される置換基を示す。なお、前記式(26)~式(28)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物において、X1~X3は、同一の置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。
【0099】
前記式(26)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(32)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0100】
【0101】
前記式(26)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(33)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物、及び下記式(34)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0102】
【0103】
【0104】
前記式(32)~式(34)において、m及びnは、上記式(29)及び上記式(30)におけるm及びnと同じ意味である。また、上記式(32)及び上記式(33)において、R24~R26、p及びZは、それぞれ、上記式(23)におけるR24~R26、p及びZと同じである。また、上記式(33)及び上記式(34)において、Yは、上記(27)におけるYと同じである。また、上記式(34)において、R1は、上記式(4)におけるR1と同じである。高いTgをより確実に得るという観点から、前記式(32)~式(34)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物は、上記式(4)に示される基を末端に有していることが好ましい。
【0105】
本実施形態において用いられるポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、例えば、前記式(4)及び/又は式(23)で表される基により末端変性されたポリフェニレンエーテル化合物を合成する方法等が挙げられる。より具体的には、ポリフェニレンエーテルに、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物を反応させる方法等が挙げられる。
【0106】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、例えば、前記式(4)、(23)、(24)で表される置換基とハロゲン原子とが結合された化合物等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子が挙げられ、この中でも、塩素原子が好ましい。炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、より具体的には、p-クロロメチルスチレンやm-クロロメチルスチレン等が挙げられる。
【0107】
原料であるポリフェニレンエーテルは、最終的に、所定の変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、2,6-ジメチルフェノールと2官能フェノール及び3官能フェノールの少なくともいずれか一方とからなるポリフェニレンエーテルやポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)等のポリフェニレンエーテルを主成分とするもの等が挙げられる。また、2官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に2個有するフェノール化合物であり、例えば、テトラメチルビスフェノールA等が挙げられる。また、3官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に3個有するフェノール化合物である。
【0108】
本実施形態のポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、上述した方法が挙げられる。具体的には、上記のようなポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶媒に溶解させ、攪拌する。そうすることによって、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とが反応し、本実施形態で用いられるポリフェニレンエーテル化合物が得られる。
【0109】
前記反応の際、アルカリ金属水酸化物の存在下で行うことが好ましい。そうすることによって、この反応が好適に進行すると考えられる。このことは、アルカリ金属水酸化物が、脱ハロゲン化水素剤、具体的には、脱塩酸剤として機能するためと考えられる。すなわち、アルカリ金属水酸化物が、ポリフェニレンエーテルのフェノール基と、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とから、ハロゲン化水素を脱離させ、そうすることによって、ポリフェニレンエーテルのフェノール基の水素原子の代わりに、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基が、フェノール基の酸素原子に結合すると考えられる。
【0110】
アルカリ金属水酸化物は、脱ハロゲン化剤として働きうるものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属水酸化物は、通常、水溶液の状態で用いられ、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液として用いられる。
【0111】
反応時間や反応温度等の反応条件は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物等によっても異なり、上記のような反応が好適に進行する条件であれば、特に限定されない。具体的には、反応温度は、室温~100℃であることが好ましく、30~100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましい。
【0112】
反応時に用いる溶媒は、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶解させることができ、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物との反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、トルエン等が挙げられる。
【0113】
上記の反応は、アルカリ金属水酸化物だけではなく、相間移動触媒も存在した状態で反応させることが好ましい。すなわち、上記の反応は、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させることが好ましい。そうすることによって、上記反応がより好適に進行すると考えられる。このことは、以下のことによると考えられる。相間移動触媒は、アルカリ金属水酸化物を取り込む機能を有し、水のような極性溶剤の相と、有機溶剤のような非極性溶剤の相との両方の相に可溶で、これらの相間を移動することができる触媒であることによると考えられる。具体的には、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液を用い、溶媒として、水に相溶しない、トルエン等の有機溶剤を用いた場合、水酸化ナトリウム水溶液を、反応に供されている溶媒に滴下しても、溶媒と水酸化ナトリウム水溶液とが分離し、水酸化ナトリウムが、溶媒に移行しにくいと考えられる。そうなると、アルカリ金属水酸化物として添加した水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しにくくなると考えられる。これに対して、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、アルカリ金属水酸化物が相間移動触媒に取り込まれた状態で、溶媒に移行し、水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しやすくなると考えられる。このため、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、上記反応がより好適に進行すると考えられる。
【0114】
相間移動触媒は、特に限定されないが、例えば、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0115】
本実施形態で用いられる樹脂組成物は、ラジカル重合性化合物として、上記のようにして得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物を含むことが好ましい。
【0116】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、ラジカル重合性化合物として、以下に例示するような化合物を含んでいてもよい。
【0117】
具体的には、例えば、分子中にアクリロイル基を有する化合物、分子中にメタクリロイル基を有する化合物、分子中にビニル基を有する化合物、分子中にアリル基を有する化合物、分子中にアセナフチレン構造を有する化合物、分子中にマレイミド基を有する化合物、及び分子中にイソシアヌレート基を有するイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0118】
前記分子中にアクリロイル基を有する化合物が、アクリレート化合物である。前記アクリレート化合物としては、分子中にアクリロイル基を1個有する単官能アクリレート化合物、及び分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物が挙げられる。前記単官能アクリレート化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、及びブチルアクリレート等が挙げられる。前記多官能アクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等のジアクリレート化合物等が挙げられる。
【0119】
前記分子中にメタクリロイル基を有する化合物が、メタクリレート化合物である。前記メタクリレート化合物としては、分子中にメタクリロイル基を1個有する単官能メタクリレート化合物、及び分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物が挙げられる。前記単官能メタクリレート化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、及びブチルメタクリレート等が挙げられる。前記多官能メタクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等のジメタクリレート化合物、及びトリメチロールプロパントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物等が挙げられる。
【0120】
前記分子中にビニル基を有する化合物が、ビニル化合物である。前記ビニル化合物としては、分子中にビニル基を1個有する単官能ビニル化合物(モノビニル化合物)、及び分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物が挙げられる。前記多官能ビニル化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン、及びポリブタジエン等が挙げられる。
【0121】
前記分子中にアリル基を有する化合物が、アリル化合物である。前記アリル化合物としては、分子中にアリル基を1個有する単官能アリル化合物、及び分子中にアリル基を2個以上有する多官能アリル化合物が挙げられる。前記多官能アリル化合物としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアリルイソシアヌレート化合物、ジアリルビスフェノール化合物、及びジアリルフタレート(DAP)等が挙げられる。
【0122】
前記分子中にアセナフチレン構造を有する化合物が、アセナフチレン化合物である。前記アセナフチレン化合物としては、例えば、アセナフチレン、アルキルアセナフチレン類、ハロゲン化アセナフチレン類、及びフェニルアセナフチレン類等が挙げられる。前記アルキルアセナフチレン類としては、例えば、1-メチルアセナフチレン、3-メチルアセナフチレン、4-メチルアセナフチレン、5-メチルアセナフチレン、1-エチルアセナフチレン、3-エチルアセナフチレン、4-エチルアセナフチレン、5-エチルアセナフチレン等が挙げられる。前記ハロゲン化アセナフチレン類としては、例えば、1-クロロアセナフチレン、3-クロロアセナフチレン、4-クロロアセナフチレン、5-クロロアセナフチレン、1-ブロモアセナフチレン、3-ブロモアセナフチレン、4-ブロモアセナフチレン、5-ブロモアセナフチレン等が挙げられる。前記フェニルアセナフチレン類としては、例えば、1-フェニルアセナフチレン、3-フェニルアセナフチレン、4-フェニルアセナフチレン、5-フェニルアセナフチレン等が挙げられる。前記アセナフチレン化合物としては、前記のような、分子中にアセナフチレン構造を1個有する単官能アセナフチレン化合物であってもよいし、分子中にアセナフチレン構造を2個以上有する多官能アセナフチレン化合物であってもよい。
【0123】
前記分子中にマレイミド基を有する化合物が、マレイミド化合物である。前記マレイミド化合物としては、分子中にマレイミド基を1個有する単官能マレイミド化合物、分子中にマレイミド基を2個以上有する多官能マレイミド化合物、及び変性マレイミド化合物等が挙げられる。前記変性マレイミド化合物としては、例えば、分子中の一部がアミン化合物で変性された変性マレイミド化合物、分子中の一部がシリコーン化合物で変性された変性マレイミド化合物、及び分子中の一部がアミン化合物及びシリコーン化合物で変性された変性マレイミド化合物等が挙げられる。
【0124】
前記分子中にイソシアヌレート基を有する化合物が、イソシアヌレート化合物である。前記イソシアヌレート化合物としては、分子中にアルケニル基をさらに有する化合物(アルケニルイソシアヌレート化合物)等が挙げられ、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0125】
これらの中でも、上述した変性ポリフェニレンエーテル化合物以外のラジカル重合性化合物としては、アリル化合物、ビニル化合物、マレイミド化合物等が好適に例示される。
【0126】
上述のラジカル重合性化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0127】
2種以上を組み合わせる場合、上述の末端変性のポリフェニレンエーテル化合物1種以上と、さらに、例えば、上述したような分子中にアリル基を有するアリル化合物を含むことが好ましい。前記アリル化合物としては、分子中に2個以上のアリル基を有するアリルイソシアヌレート化合物が好ましく、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)がより好ましい。それにより、末端変性のポリフェニレンエーテルとトリアリルイソシアヌレートがラジカル反応する場合、得られる樹脂硬化物は高い耐熱性を示すという利点がある。
【0128】
(フリーラジカル化合物)
本実施形態で用いるフリーラジカル化合物は、下記式(1)で表される化合物(A)、下記式(2)で表される化合物(B)、並びに、下記式(3-1)及び式(3-2)で表される基から選択される少なくとも1つの基を2つ以上有する化合物(C)からなる群より選択される少なくとも1つを含む。このようなフリーラジカル化合物を含むことにより、本実施形態の樹脂組成物は、低誘電特性や高Tg等の特性を有しつつ、優れた成形性(回路パターンを充填することができる樹脂流れ性、すなわち、回路充填性)を発揮することができると考えられる。
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
前記式(1)および式(2)において、XAおよびXBは、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、イソチオシアネート、メトキシ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミド基、またはベンゾイルオキシ基を示す。
【0134】
また、前記式(3-1)及び式(3-2)で表される基から選択される少なくとも1つの基を2つ以上有する化合物(C)としては、特に限定されず、式(3-1)及び式(3-2)で表される基を両方有する化合物であっても、式(3-1)で表される基を2つ以上有する化合物であっても、式(3-2)で表される基を2つ以上有する化合物であってもよい。具体的には、例えば、下記式(3-3)で表される化合物などが挙げられる。
【0135】
【化38】
式(3-3)中、X
Cはアルキレン基、芳香族構造、カルボニル基、アミド基またはエーテル結合を示す。
【0136】
これらのより具体的な例示としては、例えば、4-アセトアミド、4-グリシジルオキシ、4-ベンゾイルオキシ、4-(2-ヨードアセトアミド)、4-[2-[2-(4-ヨードフェノキシ)エトキシ]カルボニル]ベンゾイルオキシ、4-メタクリロイルオキシ、4-オキソ、4-プロパルギルオキシ等が挙げられる。
【0137】
本実施形態で好ましく使用されるより具体的なフリーラジカル化合物としては、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-カルボキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-シアノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-グリシジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルベンゾアート フリーラジカル、4-イソチオシアナト-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-(2-ヨードアセトアミド)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-[2-[2-(4-ヨードフェノキシ)エトキシ]カルボニル]ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル フリーラジカル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-メタクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル、2,2,6,6-テトラメチル-4-(2-プロピニルオキシ)ピペリジン1-オキシル フリーラジカル、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1-オキシル)、3-カルボキシ-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン1-オキシル フリーラジカル、4-(2-クロロアセトアミド)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル等が挙げられる。
【0138】
以上、様々なフリーラジカル化合物を挙げたが、これらは1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0139】
本実施形態の上述したようなフリーラジカル化合物は市販のものを使用することもでき、例えば、東京化成工業株式会社などから入手可能である。
【0140】
(無機充填剤)
本実施形態に係る樹脂組成物は、さらに無機充填剤を含有してもよい。無機充填剤としては、樹脂組成物の硬化物の、耐熱性や難燃性を高めるために添加するもの等が挙げられ、特に限定されない。無機充填剤を含有させることによって、耐熱性や難燃性等をより高めるとともに、熱膨張率の増加を抑制することもできると考えられる。
【0141】
本実施形態で使用できる無機充填剤としては、具体的には、球状シリカ等のシリカ、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、シリカ、マイカ、及びタルクが好ましく、球状シリカがより好ましい。また、無機充填剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上述したような無機充填剤は、そのまま用いてもよいが、エポキシシランタイプ、ビニルシランタイプ、メタクリルシランタイプ、又はフェニルアミノシランタイプのシランカップリング剤で表面処理したものを用いてもよい。このシランカップリング剤としては、充填剤に予め表面処理する方法でなく、インテグラルブレンド法で添加して用いることもできる。
【0142】
(反応開始剤)
本実施形態に係る樹脂組成物には、上述の通り、反応開始剤(開始剤)を含有してもよい。前記樹脂組成物は、特に反応開始剤を含めなくとも、硬化反応が進行し得る。しかしながら、プロセス条件によっては硬化が進行するまで高温にすることが困難な場合があるので、反応開始剤を添加してもよい。
【0143】
前記反応開始剤は、前記樹脂組成物の硬化反応を促進することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、金属酸化物、アゾ化合物、過酸化物等が挙げられる。
【0144】
金属酸化物としては、具体的には、カルボン酸金属塩等が挙げられる。
【0145】
過酸化物としては、α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0146】
アゾ化合物としては、具体的には、2,2’-アゾビス(2,4,4―トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等が挙げられる。
【0147】
中でも好ましい反応開始剤としては、α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンが好ましく用いられる。α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンは、揮発性が低いために、乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。また、α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンは、反応開始温度が比較的に高いため、プリプレグ乾燥時等の硬化する必要がない時点での硬化反応の促進を抑制することができる。この硬化反応の抑制により、樹脂組成物の保存性の低下を抑制することができる。
【0148】
上述したような反応開始剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0149】
(各成分の含有量)
前記フリーラジカル化合物の含有量は、前記樹脂組成物における前記スチレン系ブロック共重合体と前記ラジカル重合性化合物の合計100質量部に対して、0.001~1質量部であることが好ましく、0.001~0.5質量部であることがより好ましく、0.001~0.2質量部であることがさらに好ましい。前記フリーラジカル化合物の含有量が上記範囲内であれば、誘電特性が低く、Tgが高く、熱膨張率が低い硬化物が得られ、かつ成形性に優れる樹脂組成物がより確実に得られると考えられる。
【0150】
前記スチレン系ブロック共重合体の含有量は、前記樹脂組成物における樹脂成分(有機成分)100質量部に対して、10~60質量部であることが好ましく、15~50質量部であることがより好ましく、20~40質量部であることがさらに好ましい。すなわち、前記スチレン系ブロック共重合体の含有率は、前記樹脂組成物における前記無機充填剤(無機成分)以外の成分に対して、10~60質量%であることが好ましい。
【0151】
前記ラジカル重合性化合物の含有量は、前記樹脂組成物における樹脂成分(有機成分)100質量部に対して、30~90質量部であることが好ましく、40~80質量部であることがより好ましく、50~70質量部であることがさらに好ましい。すなわち、前記ラジカル重合性化合物の含有率は、前記樹脂組成物における前記無機充填剤(無機成分)以外の成分に対して、30~90質量%であることが好ましい。
【0152】
特に、好ましい実施形態のラジカル重合性化合物(変性ポリフェニレンエーテル化合物)を含む場合、それら好ましいラジカル重合性化合物の含有量は、前記樹脂組成物における樹脂成分(有機成分)100質量部に対して、10~50質量部であることが好ましく、20~50質量部であることがより好ましく、30~40質量部であることがさらに好ましい。
【0153】
さらに、ラジカル重合性化合物として、上記以外のラジカル重合性化合物(アリル化合物等)を含む場合、それらその他のラジカル重合性化合物の含有量は、前記樹脂組成物における樹脂成分(有機成分)100質量部に対して、10~50質量部であることが好ましく、20~40質量部であることがより好ましい。
【0154】
本実施形態の樹脂組成物が前記反応開始剤を含む場合、その含有量としては、特に限定されないが、例えば、前記樹脂組成物における樹脂成分(有機成分)100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.01~5質量部であることがより好ましく、0.1~3質量部であることがさらに好ましい。前記反応開始剤の含有量が少なすぎると、前記樹脂組成物の硬化反応が好適に開始しない傾向がある。また、前記開始剤の含有量が多すぎると、得られたプリプレグの硬化物の誘電正接が大きくなり、優れた低誘電特性を発揮しにくくなる傾向がある。よって、前記反応開始剤の含有量が上記範囲内であれば、優れた低誘電特性を有するプリプレグの硬化物が得られる。
【0155】
本実施形態の樹脂組成物が前記反応開始剤を含む場合、樹脂組成物中における前記フリーラジカル化合物と前記反応開始剤との割合は、フリーラジカル化合物:反応開始剤=0.001:1.0~0.1:1.0程度となっていることが好ましく、0.005:1.0~0.1:1.0程度となっていることがより好ましく、0.01:1.0~0.1:1.0程度となっていることがさらに好ましい。それにより、本発明の効果をより確実に得ることができると考えられる。
【0156】
また、本実施形態の樹脂組成物が無機充填剤を含有する場合、その含有率(フィラーコンテンツ)は、前記樹脂組成物全体に対して、30~300質量%であることが好ましく、50~200質量%であることがより好ましい。
【0157】
<その他の成分>
本実施形態に係る樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上述した成分以外の成分(その他の成分)を含有してもよい。本実施形態に係る樹脂組成物に含有されるその他の成分としては、例えば、硬化剤、シランカップリング剤、難燃剤、消泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、分散剤及び滑剤等の添加剤をさらに含んでもよい。また、本実施形態の樹脂組成物には、前記ポリフェニレンエーテル化合物、前記アリル化合物、前記スチレン系ブロック共重合体以外にも、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の他の熱硬化性樹脂を含有してもよい。
【0158】
(プリプレグ、樹脂付きフィルム、金属張積層板、配線板、及び樹脂付き金属箔)
次に、本実施形態の樹脂組成物を用いた配線基板用のプリプレグ、金属張積層板、配線板、及び樹脂付き金属箔について説明する。
【0159】
図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグ1の一例を示す概略断面図である。なお、以下の説明において、各符号はそれぞれ、1 プリプレグ、2 樹脂組成物又は樹脂組成物の半硬化物、3 繊維質基材、11 金属張積層板、12 絶縁層、13 金属箔、14 配線、21 配線基板、31 樹脂付き金属箔、32、42 樹脂層、41 樹脂付きフィルム、43 支持フィルムを示す。
【0160】
本実施形態に係るプリプレグ1は、
図1に示すように、前記熱膨張性マイクロカプセルを含む前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、繊維質基材3とを備える。このプリプレグ1としては、前記樹脂組成物又はその半硬化物2の中に繊維質基材3が存在するものが挙げられる。すなわち、このプリプレグ1は、前記樹脂組成物又はその半硬化物と、前記樹脂組成物又はその半硬化物2の中に存在する繊維質基材3とを備える。
【0161】
なお、本実施形態において、「半硬化物」とは、樹脂組成物を、さらに硬化しうる程度に途中まで硬化された状態のものである。すなわち、半硬化物は、樹脂組成物を半硬化した状態の(Bステージ化された)ものである。例えば、樹脂組成物は、加熱すると、最初、粘度が徐々に低下し、その後、硬化が開始し、粘度が徐々に上昇する。このような場合、半硬化としては、粘度が上昇し始めてから、完全に硬化する前の間の状態等が挙げられる。
【0162】
本実施形態に係る樹脂組成物を用いて得られるプリプレグとしては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を備えるものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物そのものを備えるものであってもよい。すなわち、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよい。具体的には、例えば、前記樹脂組成物の中に繊維質基材が存在するもの等が挙げられる。なお、樹脂組成物またはその半硬化物は、前記樹脂組成物を加熱乾燥したものであってもよい。
【0163】
本実施形態に係る樹脂組成物は、前記プリプレグや、後述の樹脂付金属箔や金属張積層板等を製造する際には、ワニス状に調製し、樹脂ワニスとして用いられることが多い。このような樹脂ワニスは、例えば、以下のようにして調製される。
【0164】
まず、樹脂成分、反応開始剤等の有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて加熱してもよい。その後、有機溶媒に溶解しない成分である無機充填剤等を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、前記スチレン系ブロック共重合体、前記ラジカル重合性化合物等を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。これらは単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0165】
本実施形態のワニス状の樹脂組成物を用いて本実施形態のプリプレグ1を製造する方法としては、例えば、樹脂ワニス状の樹脂組成物2を繊維質基材3に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。
【0166】
プリプレグを製造する際に用いられる繊維質基材としては、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、LCP(液晶ポリマー)不織布、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙等が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特に偏平処理加工したガラスクロスが好ましい。本実施形態で使用するガラスクロスとしては特に限定はされないが、例えば、Eガラス、Sガラス、NEガラス、Qガラス、Lガラス、L2ガラス、Tガラスなどの低誘電率ガラスクロス等が挙げられる。偏平処理加工としては、具体的には、例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧してヤーンを偏平に圧縮することにより行うことができる。なお、繊維質基材の厚みとしては、例えば、0.01~0.3mmのものを一般的に使用できる。
【0167】
樹脂ワニス(樹脂組成物2)の繊維質基材3への含浸は、浸漬及び塗布等によって行われる。この含浸は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂ワニスを用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする組成(含有比)及び樹脂量に調整することも可能である。
【0168】
樹脂ワニス(樹脂組成物2)が含浸された繊維質基材3を、所望の加熱条件、例えば、80℃以上、180℃以下で1分間以上、10分間以下で加熱する。加熱によって、ワニスから溶媒を揮発させ、溶媒を減少又は除去させて、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)のプリプレグ1が得られる。
【0169】
また、
図4に示すように、本実施形態の樹脂付金属箔31は、上述した樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層32と金属箔13とが積層されている構成を有する。すなわち、本実施形態の樹脂付金属箔は、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付金属箔であってもよいし、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付金属箔であってもよい。
【0170】
そのような樹脂付金属箔31を製造する方法としては、例えば、上述したような樹脂ワニス状の樹脂組成物を銅箔などの金属箔13の表面に塗布した後、乾燥する方法が挙げられる。前記塗布方法としては、バーコーター、コンマコーターやダイコーター、ロールコーター、グラビアコータ等が挙げられる。
【0171】
前記金属箔13としては、金属張積層板や配線基板等で使用される金属箔を限定なく用いることができ、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられる。
【0172】
さらに、
図5に示すように、本実施形態の樹脂付きフィルム41は、上述した樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層42とフィルム支持基材43とが積層されている構成を有する。すなわち、本実施形態の樹脂付フィルムは、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)と、フィルム支持基材とを備える樹脂付フィルムであってもよいし、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、フィルム支持基材とを備える樹脂付フィルムであってもよい。
【0173】
そのような樹脂付きフィルム41を製造する方法としては、例えば、上述したような樹脂ワニス状の樹脂組成物をフィルム支持基材43表面に塗布した後、ワニスから溶媒を揮発させて、溶媒を減少させる、又は溶媒を除去させることにより、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)の樹脂付フィルムを得ることができる。
【0174】
前記フィルム支持基材としては、ポリイミドフィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアリレートフィルム等の電気絶縁性フィルム等が挙げられる。
【0175】
なお、本実施形態の樹脂付フィルム及び樹脂付金属箔においても、上述したプリプレグと同様、樹脂組成物またはその半硬化物は、前記樹脂組成物を乾燥または加熱乾燥したものであってもよい。
【0176】
上記金属箔13やフィルム支持基材43の厚み等は、所望の目的に応じて、適宜設定することができる。例えば、金属箔13としては、0.2~70μm程度のものを使用できる。金属箔の厚さが例えば10μm以下となる場合などは、ハンドリング性向上のために剥離層及びキャリアを備えたキャリア付銅箔であってもよい。樹脂ワニスの金属箔13やフィルム支持基材43への適用は、塗布等によって行われるが、それは必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂ワニスを用いて塗布を繰り返し、最終的に希望とする組成(含有比)及び樹脂量に調整することも可能である。
【0177】
樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41の製造方法における乾燥もしくは加熱乾燥条件について、特に限定はされないが、樹脂ワニス状の樹脂組成物を上記金属箔13やフィルム支持基材43に塗布した後、所望の加熱条件、例えば、50~170℃で0.5~10分間程度加熱し、ワニスから溶媒を揮発させて、溶媒を減少又は除去させることにより、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)の樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41が得られる。
【0178】
樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41は、必要に応じて、カバーフィルム等を備えてもよい。カバーフィルムを備えることにより異物の混入等を防ぐことができる。カバーフィルムとしては樹脂組成物の形態を損なうことなく剥離することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、TPXフィルム、またこれらのフィルムに離型剤層を設けて形成されたフィルム、さらにはこれらのフィルムを紙基材上にラミネートした紙等を用いることができる。
【0179】
図2に示すように、本実施形態の金属張積層板11は、上述の樹脂組成物の硬化物または上述のプリプレグの硬化物を含む絶縁層12と、金属箔13とを有することを特徴とする。なお、金属張積層板11で使用する金属箔13としては、上述した金属箔13と同様ものを使用することができる。
【0180】
また、本実施形態の金属張積層板11は、上述の樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41を用いて作製することもできる。
【0181】
上記のようにして得られたプリプレグ1、樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41を用いて金属張積層板を作製する方法としては、プリプレグ1、樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41を一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔13を重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層体を作製することができるものである。加熱加圧条件は、製造する積層板の厚みや樹脂組成物の種類等により適宜設定することができるが、例えば、温度を170~230℃、圧力を0.5~5.0MPa、時間を60~150分間とすることができる。
【0182】
また、金属張積層板11は、プリプレグ1等を用いずに、フィルム状の樹脂組成物を金属箔13の上に形成し、加熱加圧することにより作製されてもよい。
【0183】
そして、
図3に示すように、本実施形態の配線基板21は、上述の樹脂組成物の硬化物又は上述のプリプレグの硬化物を含む絶縁層12と、配線14とを有する。
【0184】
本実施形態の樹脂組成物は、配線基板の絶縁層の材料として好適に使用される。配線基板21の製造方法としては、例えば、上記で得られた金属張積層体13の表面の金属箔13をエッチング加工等して回路(配線)形成をすることによって、積層体の表面に回路として導体パターン(配線14)を設けた配線基板21を得ることができる。回路形成する方法としては、上記記載の方法以外に、例えば、セミアディティブ法(SAP:Semi Additive Process)やモディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)による回路形成等が挙げられる。
【0185】
本実施形態の樹脂組成物を用いて得られるプリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔は、その硬化物において、低誘電特性、低熱膨張率、高Tgを備えつつ、成形性(回路充填性)に優れているため、産業利用上非常に有用である。また、それらを硬化させた金属張積層板及び配線基板は、低誘電特性を備え、高Tg、及びハンドリング性に優れるという利点を備える。
【0186】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0187】
まず、本実施例において、樹脂組成物を調製する際に用いる成分について説明する。
【0188】
(スチレン系ブロック共重合体)
・スチレン系ブロック共重合体1:スチレンイソプレンスチレン共重合体(株式会社クラレ製のSepton2063、デュロメータ硬さ:36、スチレン由来の構成単位の含有量13質量%、重量平均分子量95000)
・スチレン系ブロック共重合体2:水添スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体(旭化成株式会社製のTuftec H1052、デュロメータ硬さ:67、スチレン由来の構成単位の含有量20質量%、重量平均分子量91000)
・スチレン系ブロック共重合体3:水添メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体(株式会社クラレ製のSeptonV9827、デュロメータ硬さ:78、スチレン由来の構成単位の含有量30質量%、重量平均分子量92000)
・スチレン系ブロック共重合体4:水添スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体(JSR株式会社製のDynaron9901P、デュロメータ硬さ:98、スチレン由来の構成単位の含有量53質量%、重量平均分子量100000)
【0189】
(ラジカル重合性化合物:ポリフェニレンエーテル化合物)
・PPE1:ポリフェニレンエーテルの末端水酸基をメタクリロイル基で変性した変性ポリフェニレンエーテル(上記式(34)で表され、式(34)中のYがジメチルメチレン基(式(31)で表され、式(31)中のR58及びR59がメチル基である基)である変性ポリフェニレンエーテル化合物、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA9000、重量平均分子量Mw2000、末端官能基数2個)
・PPE2:末端にビニルベンジル基(エテニルベンジル基)を有するポリフェニレンエーテル化合物(三菱ガス化学株式会社製のOPE-2st 1200、Mn1200、上記式(32)で表され、Zが、フェニレン基であり、R24~R26が水素原子であり、pが1であるポリフェニレンエーテル化合物)
【0190】
(ラジカル重合性化合物:アリル化合物)
・TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成株式会社製)
【0191】
(フリーラジカル化合物)
・フリーラジカル化合物1:4-ベンゾイルオキシtempo、下記式で示されるフリーラジカル化合物(東京化成工業株式会社製「H0878」)
【0192】
【0193】
・フリーラジカル化合物2:セバシン酸bis-tempo、下記式で示されるフリーラジカル化合物(東京化成工業株式会社製「B5642」
【0194】
【0195】
・フリーラジカル化合物3:tempo、下記式で示されるフリーラジカル化合物(東京化成工業株式会社製「T3751」
【0196】
【0197】
・フリーラジカル化合物4:4H-tempo、下記式で示されるフリーラジカル化合物(東京化成工業株式会社製「H0865」
【0198】
【0199】
(重合禁止剤)
・ヒドロキノンHQ:ハイドロキノン(東京化成工業株式会社製)
【0200】
(反応開始剤)
・過酸化物:「パーブチルP」、1,3-ビス(ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日本油脂株式会社製)
【0201】
(無機充填剤)
シリカ粒子:「SC2300―SVJ」ビニルシラン処理された球状シリカ(株式会社アドマテックス製)
【0202】
<実施例1~13、比較例1~3>
[調製方法]
(樹脂ワニス)
まず、無機充填剤以外の上記各成分を表1に記載の組成(質量部)で、固形分濃度が50質量%となるように、トルエンに添加し、混合させた。その混合物を60分間攪拌した。その後、得られた液体に無機充填剤を添加し、ビーズミルで充填剤を分散させた。そうすることによって、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)が得られた。
【0203】
(樹脂付き金属箔および評価基板)
上記で作製した各実施例および比較例の樹脂ワニスを用いて樹脂付き金属箔を作製した。得られたワニスを、金属箔(銅箔、三井金属鉱業株式会社製の3EC-VLP、厚み12μm)に、厚み20μmとなるように塗布し、80℃で、2分間加熱することにより、樹脂付き金属箔を得た。そして、得られた樹脂付き金属箔を、樹脂層同士が接触するように2枚重ねた。これを被圧体とし、真空下200℃、圧力4MPaの条件で2時間加熱加圧することにより、樹脂付き金属箔の樹脂層を硬化させた。これを評価基板(樹脂付き金属箔の硬化物)とした。なお、評価基板における樹脂層の厚み(金属箔以外の厚み)は、40μmであった。
【0204】
<評価試験>
(ガラス転移温度(Tg))
前記評価基板(樹脂付き金属箔の硬化物)の銅箔を除去した積層板において、セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性スペクトロメータ「DMS100」を用いて、Tgを測定した。このとき、引張モジュールで周波数を10Hzとして動的粘弾性測定(DMA)を行い、昇温速度5℃/分の条件で室温から320℃まで昇温した際のtanδが極大を示す温度をTgとした。本実施例では、Tgが230℃以上であれば◎、200℃以上であれば○、200℃未満を×として評価した。
【0205】
(誘電特性:比誘電率(Dk))
10GHzにおける評価基板(樹脂付き金属箔の硬化物)の銅箔を除去した積層板の比誘電率を、空洞共振器摂動法で測定した。具体的には、ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製のN5230A)を用い、10GHzにおける評価基板の銅箔を除去した積層板の比誘電率(Dk)を測定した。本実施例では、Dkが2.6以下であれば◎、2.7以下であれば○、2.7超を×として評価した。
【0206】
[線膨張係数(CTE)]
JIS C 6481に準拠の方法で、評価基板(樹脂付き金属箔の硬化物)の銅箔を除去した積層板の、面方向における線膨張係数を引っ張りモードで測定した。なお、測定条件は、昇温速度10℃/分、温度範囲は、Tg未満の温度範囲、具体的には、50~100℃で熱機械分析(TMA)装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製のTMA/SS7000)を用い測定した。本実施例では、CTEが30ppm以下であれば◎、40ppm以下であれば○、40ppm超を×として評価した。
【0207】
(成形性:回路充填性)
残銅率50%、銅線厚みが12μm、銅線の配線幅が2μmとなる、格子上の銅パターンが250mm×250mmの硬化物を用意した。その両側に、樹脂面が硬化物と接触するように250mm×250mmの樹脂付き金属箔を重ねた。これらを厚さ3mm程度の金属製プレートで挟み、積層成形用プレス機で、以下に示す、条件で、加熱加圧した。加温条件としては、30度から、200度に到達するまでに、毎分6度で昇温させた。加圧条件としては、加温開始時は、樹脂付き金属箔にかかる圧力が1MPaとなるように設定し、その後、温度は80℃になった際に、樹脂付き金属箔にかかる圧力が4MPaとなるようにし、樹脂付き金属箔を硬化させた。
【0208】
本実施例では、格子パターンと樹脂硬化物との間に隙間が発生せず、充填された場合は「〇」と評価し、隙間が発生する場合は「×」と評価した。隙間の有無については、積層成形用プレス機で作製した硬化物の銅箔を、除去し、他面から光を透過させた際に、白っぽく見える隙間が確認できるかどうかで判断した。
【0209】
以上の結果を表1に示す。
【0210】
【0211】
(考察)
表1に示す結果から明らかなように、本発明の樹脂組成物により、低誘電特性、低CTEおよび高Tgをバランス良く備えつつ、回路充填性に優れる硬化物が得られることが確認できた。
【0212】
それに対し、本発明に係るフリーラジカル化合物を使用していない比較例1では十分な回路充填性が得られないことがわかった。また、フリーラジカル化合物の代わりに一般的な重合開始剤を使用した比較例2では、Tgが下がり、かつCTEが高くなってしまった。また、スチレン系ブロック共重合体を含まない比較例3は、十分な低誘電特性が得られなかった。
【0213】
この出願は、2020年9月18日に出願された日本国特許出願特願2020-157403を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0214】
本発明を表現するために、前述において具体例や図面等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0215】
本発明は、電子材料やそれを用いた各種デバイスに関する技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。