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特許7748737NMBA投与後の回復を制御および予測するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-25
(45)【発行日】2025-10-03
(54)【発明の名称】NMBA投与後の回復を制御および予測するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5377 20060101AFI20250926BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20250926BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20250926BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20250926BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20250926BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20250926BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61P21/00
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023522999
(86)(22)【出願日】2021-10-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 US2021055289
(87)【国際公開番号】W WO2022082051
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】63/093,179
(32)【優先日】2020-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508057896
【氏名又は名称】コーネル・ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】CORNELL UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】サヴァレーゼ ジョン ジェイ.
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-522033(JP,A)
【文献】国際公開第2014/210369(WO,A2)
【文献】Dose-response and Cardiopulmonary Side Effects of the Novel Neuromuscular-blocking Drug CW002 in Man,Anesthesiology,2016年,125(6),pp.1136-1143,doi;10.1097/ALN.0000000000001386
【文献】Pharmacokinetic/Pharmacodynamic Model of CW002, an Investigational Intermediate Neuromuscular Blocking Agent, in Healthy Volunteers,Anesthesiology,2018年,128(6),pp.1107-1116,doi;10.1097/ALN.0000000000002157
【文献】Preclinical Pharmacology in the Rhesus Monkey of CW 1759-50, a New Ultra-short Acting Nondepolarizing Neuromuscular Blocking Agent, Degraded and Antagonized by L-Cysteine,Anesthesiology,2018年,129(5),pp.970-988,doi;10.1097/ALN.0000000000002408
【文献】RAPID AND IMMEDIATE ANTAGONISM BY L-CYSTEINE OF THE NEW ULTRA-SHORT ACTING NONDEPOLARIZER CW 1759-50: PAIRED STUDIES IN RHESUS MONKEYS GIVEN CONTINUOUS INFUSIONS AT 2 X ED99 DOSAGE TO MAINTAIN 100% BLOCK OF TWITCH,ANESTHANALG,2014年,vol.118, no.5S,S-43,10.1213/01.ane.0000453015.43124.d0
【文献】Pharmacodynamics and Cardiopulmonary Side Effects of CW002, a Cysteine-reversible Neuromuscular Blocking Drug in Dogs,Anesthesiology,2010年,112(4),pp.910-916,doi: 10.1097/ALN.0b013e3181d31f71
【文献】Preclinical Pharmacology of CW002; A Nondepolarizing Neuromuscular Blocking Drug of Intermediate Duration, Degraded and Antagonized by l-cysteine - Additional Studies of Safety and Efficacy in the Anesthetized Rhesus Monkey and Cat,Anesthesiology,2016年,125(4),pp.732-743,doi;10.1097/ALN.0000000000001254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/5377
A61P 21/00
A61K 9/08
A61K 47/10
A61K 47/34
A61K 47/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RP2000またはRP1000より選択される化合物を含む、麻痺または神経筋遮断(NMB)およびそこからの回復を誘導する方法に使用するための薬学的組成物であって、
該方法は、該化合物の有効量を麻酔下のヒト患者へ投与する段階を含み、
該化合物RP2000の有効量が0.16mg/kg~0.60mg/kgであり、
該化合物RP1000の有効量が0.15mg/kg~0.48mg/kgであり、
RP2000は、4-(3-(((E)-4-(3-((1R)-6,7-ジメトキシ-1-(4-メトキシベンジル)-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-4-(3,4-ジメトキシベンジル)モルホリン-4-イウム、またはその薬学的に許容される塩であり、
RP1000は、(2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-2-(3-(((E)-4-(3-((1R,2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウム、またはその薬学的に許容される塩であり、
回復が、前記化合物の投与中止によりもたらされ、前記ヒト患者における少なくとも約0.90の四連刺激(TOF)比の測定値によって特徴づけられる、
薬学的組成物。
【請求項2】
前記化合物がRP2000であり、前記方法が、
RP2000の有効量を麻酔下のヒト患者に投与する段階;および
RP2000拮抗薬の非存在下で、麻痺または神経筋遮断(NMB)からの自然回復をもたらす段階であって、該自然回復が、ヒト患者における少なくとも約0.90のTOF比の測定値によって特徴づけられる、段階
を含む、麻痺またはNMBおよびそこからの回復を誘導する段階を含む、
請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
麻酔が吸入麻酔である、請求項2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
麻酔がIV麻酔である、請求項2記載の薬学的組成物。
【請求項5】
RP2000の有効量が、0.48mg/kg~0.60mg/kgである、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記化合物がRP1000であり、前記方法が、
RP1000の有効量を麻酔下のヒト患者に投与する段階;および
RP1000拮抗薬の非存在下で、麻痺または神経筋遮断(NMB)からの自然回復をもたらす段階であって、該自然回復が、ヒト患者における少なくとも約0.90のTOF比の測定値によって特徴づけられる、段階
を含む、麻痺またはNMBおよびそこからの回復を誘導する段階を含む、
請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
麻酔が吸入麻酔である、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
RP1000の有効量が、0.24mg/kg~0.40mg/kgである、請求項6または7に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
麻酔がIV麻酔である、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
(a)骨格筋の活動を緩めるまたは遮断するのに十分な量の化合物;
(b)該化合物をヒト患者にどのように投与するのかを説明する任意の説明書;ならびに
(c)任意で、ヒトにおける該化合物の効果を逆転させるのに有効な該化合物に対する拮抗薬、および該化合物が投与されたヒト患者に対する遮断薬の効果を逆転させるために該拮抗薬をどのように用いるのかについての説明書
を含む、麻痺または神経筋遮断(NMB)を誘導する方法に使用するためのキットであって、
該化合物は、RP2000またはRP1000より選択され、
該化合物RP2000の量が0.16mg/kg~0.60mg/kgであり、
該化合物RP1000の量が0.15mg/kg~0.48mg/kgであり、
RP2000は、4-(3-(((E)-4-(3-((1R)-6,7-ジメトキシ-1-(4-メトキシベンジル)-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-4-(3,4-ジメトキシベンジル)モルホリン-4-イウム、またはその薬学的に許容される塩であり、
RP1000は、(2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-2-(3-(((E)-4-(3-((1R,2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウム、またはその薬学的に許容される塩である、
前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年10月17日に出願された米国仮特許出願第63/093,179号の優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本開示は、神経筋遮断薬(NMBA)に関し、より具体的には、患者にNMBAを投与した後で患者の自然回復を予測しかつ制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
神経筋遮断(NMB)は、気管内挿管を容易にし、手術条件を最適化し、かつ肺コンプライアンスが低下している患者の人工呼吸を補助するために、麻酔においてよく使われている。NMBAの術後残存効果を回避するために、抜管前に不活性代謝産物へのNMBAの完全代謝を十分に達成する必要がある。そのため、患者の体内における活性NMBAの間接的尺度として、麻痺の深さを注意深くモニタリングすることが(普遍的ではないが)よく行われている。麻痺の深さは、利用可能な神経筋刺激技法、例えば、四連刺激(train-of-four:TOF)、単収縮(single twitch:ST)、ダブルバースト(double burst:DBS)、テタヌス後カウント(post-tetanic count:PTC)などによってモニタリングすることができる。
【0004】
最も一般的に使用される神経筋検知法は、電気刺激によるTOFの測定である。TOFでは通常、電気刺激として10~20秒ごとに繰り返される、2Hzでの4回の短い(100~300μs)電流パルス(一般に70mA未満)を使用する。その結果生じる単収縮を、筋電図反応、力、加速度、たわみ、または別の手段について測定し、定量化する。最初(T1単収縮)と最後(T4単収縮)を比較し、これら2つの比(TOFR)からNMBのレベルを推定する。一連の刺激は、定常状態を完全に回復させるための休息期間を与えるために、10秒以上間隔をあける(一般的には安全域を設けるために20秒を使用する);刺激をより速くすると、誘発反応がより小さくなる。NMBの程度をモニタリングするための他の方法としては、単収縮(ST)測定、ダブルバースト刺激(DBS)、およびテタヌス後カウント(PTC)が挙げられる。
【0005】
しかし、注意深くモニタリングしても、NMBA(特に長時間作用型として特徴づけられるもの)の使用は、投与された麻痺薬がその不活性形態に神経筋接合部の位置で不完全に変換されるため、術後期間に残存麻痺効果(術後残存クラーレ化(postoperative residual curarization:PORC))を依然として頻繁に引き起こす。NMBAの安全性は、十分に精査され、議論され、最も重要視される。麻酔および手術後のNMBAからの不完全な回復(残存ブロック)は、麻酔後の集中治療室では引き続き共通の問題であり、患者の安全に対する脅威となっている。残存ブロックの有害作用には、気道閉塞、低酸素エピソード、術後呼吸器合併症、術中覚醒、および筋力低下の不快な症状が含まれるが、これらに限定されない。
【0006】
NMBの逆転は逆転薬(reversal agent)により達成され得るが、最も一般的なNMBA逆転薬であるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)は単に麻痺薬に拮抗するだけである。それは、NMBAの代謝を早めるものではない。そのため、NMBA逆転薬を使用しても、生体が正常な過程でその逆転薬を代謝するので、残存クラーレ化が依然として発生する可能性がある。さらに、現在の慣例では、麻酔科医は、拮抗薬を投与する前に、患者が自然にNMBAから回復し始めるまで待たなければならないことになっている。多くの場合、この待ち時間は30分~60分またはそれ以上に及んでいる。
【0007】
NMB回復の予測および/または制御は、政府機関のガイドラインから導き出すことができる。例えば、FDAは、NMBAの最大許容臨床持続時間を義務付けており、これは、95%有効用量(ED95)の2倍の用量を投与した後、単収縮反応試験でベースラインより25%高い単収縮高に戻るまでの時間として測定される。
【0008】
必要とされているものは、患者においてNMBからの回復を誘導するだけでなく、その回復をもたらすための、効果的でありかつ術後の残存効果の発生を低減させる簡便な方法である。術中モニタリングの順守は普遍的ではなく、常に可能であるとは限らないため、この分野は、回復のタイミングと回復の程度の両方において、高度に予測可能なNMBA回復期間を提供する方法から恩恵を受けるであろう。本明細書では、以下にそのような方法の一つを記述する。
【発明の概要】
【0009】
概要
本開示は、患者においてNMBからの自然回復を誘導しかつそれをもたらすための方法に関し、該方法は、RP1000またはRP2000の有効量を患者に投与する段階を含む。この方法は、回復のタイミングと回復の程度の両方において、高度に予測可能なNMBA回復期間を提供する。
[本発明1001]
RP2000の有効量を麻酔下のヒト患者に投与する段階;および
RP2000拮抗薬の非存在下で、麻痺または神経筋遮断(NMB)からの自然回復をもたらす段階であって、該自然回復が、ヒト患者における少なくとも約0.90のTOF比の測定値によって特徴づけられる、段階
を含む、麻痺またはNMBおよびそこからの回復を誘導する方法。
[本発明1002]
麻酔が吸入麻酔である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
RP2000の有効量が、ヒトに対する少なくともED 95 である、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
RP2000の有効量が、ヒトに対するED 95 の少なくとも1.5倍である、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
RP2000の有効量が、ヒトに対するED 95 の少なくとも2倍である、本発明1001~1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
RP2000の有効量が、約0.16mg/kg~約0.60mg/kgである、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記自然回復が、RP2000の投与を中止した後、約17分以内に達成される、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
前記自然回復が、RP2000の投与を中止した後、約12分以内に達成される、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
前記自然回復が、RP2000の投与を中止した後、約10分以内に達成される、本発明1001~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
RP2000の有効量が、投与開始後2分以内に、ベースラインの約5%以下の単収縮高を誘導するのに十分である、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
麻酔がIV麻酔である、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
RP2000の有効量が、ヒトに対するED 95 の少なくとも3倍である、本発明1011の方法。
[本発明1013]
RP2000の有効量が、ヒトに対するED 95 の少なくとも4倍である、本発明1011または1012の方法。
[本発明1014]
RP2000の有効量が、ヒトに対するED 95 の少なくとも5倍である、本発明1011~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
RP2000の有効量が、約0.48mg/kg~約2.00mg/kgである、本発明1011~1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
前記自然回復が、ヒト患者におけるベースラインの少なくとも95%の単収縮高によってさらに特徴づけられる、本発明1011~1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
RP2000の投与が非経口的に行われる、本発明1011~1016のいずれかの方法。
[本発明1018]
(a)骨格筋の活動を緩めるまたは遮断するのに十分な量のRP2000;
(b)RP1000薬剤をヒト患者にどのように投与するのかを説明する任意の説明書;ならびに
(c)任意で、ヒトにおけるRP2000の効果を逆転させるのに有効なRP2000拮抗薬、およびRP2000が投与されたヒト患者に対する遮断薬の効果を逆転させるために該拮抗薬をどのように用いるのかについての説明書
を含む、キット。
[本発明1019]
約0.08mg/kg~約0.60mg/kg体重の用量で投与するのに適した剤形に製剤化された、4-(3-(((E)-4-(3-((1R)-6,7-ジメトキシ-1-(4-メトキシベンジル)-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-4-(3,4-ジメトキシベンジル)モルホリン-4-イウムジクロライド。
[本発明1020]
4-(3-(((E)-4-(3-((1R)-6,7-ジメトキシ-1-(4-メトキシベンジル)-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-4-(3,4-ジメトキシベンジル)モルホリン-4-イウムまたはその薬学的に許容される塩と、水とを含む、薬学的組成物。
[本発明1021]
4-(3-(((E)-4-(3-((1R)-6,7-ジメトキシ-1-(4-メトキシベンジル)-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-4-(3,4-ジメトキシベンジル)モルホリン-4-イウムジクロライドを含む、本発明1020の薬学的組成物。
[本発明1022]
アルコール、ポリエチレングリコール、およびジメチルスルホキシドのうちの1つまたは複数から選択される溶媒をさらに含む、本発明1020または1021の薬学的組成物。
[本発明1023]
剤形が非経口投与に適している、本発明1020~1022のいずれかの薬学的組成物。
[本発明1024]
RP1000の有効量を麻酔下のヒト患者に投与する段階;および
RP1000拮抗薬の非存在下で、麻痺または神経筋遮断(NMB)からの自然回復をもたらす段階であって、該自然回復が、ヒト患者における少なくとも約0.90のTOF比の測定値によって特徴づけられる、段階
を含む、麻痺またはNMBおよびそこからの回復を誘導する方法。
[本発明1025]
麻酔が吸入麻酔である、本発明1024の方法。
[本発明1026]
RP1000の有効量が、ヒトに対する少なくともED 95 である、本発明1024または1025の方法。
[本発明1027]
RP1000の有効量が、ヒトに対するED 95 の少なくとも1.5倍である、本発明1024~1025のいずれかの方法。
[本発明1028]
RP1000の有効量が、ヒトに対するED 95 の少なくとも2倍である、本発明1024~1027のいずれかの方法。
[本発明1029]
RP1000の有効量が、約0.08mg/kg~約0.2mg/kgである、本発明1024~1028のいずれかの方法。
[本発明1030]
RP1000の有効量が、約0.08mg/kg~約0.16mg/kgである、本発明1024~1028のいずれかの方法。
[本発明1031]
前記自然回復が、RP1000の投与を中止した後、約50分以内に達成される、本発明1024~1030のいずれかの方法。
[本発明1032]
前記自然回復が、RP1000の投与を中止した後、約40分以内に達成される、本発明1024~1030のいずれかの方法。
[本発明1033]
前記自然回復が、RP1000の投与を中止した後、約30分以内に達成される、本発明1024~1030のいずれかの方法。
[本発明1034]
RP1000の有効量が、投与開始後2分以内に、ベースラインの約5%以下の単収縮高を誘導するのに十分である、本発明1024~1033のいずれかの方法。
[本発明1035]
ヒト患者におけるベースライン測定値の25%の単収縮高からベースライン測定値の75%の単収縮高への推移によって中間の回復期間が特徴づけられ、該回復期間が約25分以下の持続時間を有する、本発明1024~1034のいずれかの方法。
[本発明1036]
麻酔がIV麻酔である、本発明1024の方法。
[本発明1037]
RP1000の有効量が、ヒトに対するED 95 の少なくとも2倍である、本発明1036の方法。
[本発明1038]
RP1000の有効量が、ヒトに対するED 95 の少なくとも3倍である、本発明1036または1037の方法。
[本発明1039]
RP1000の有効量が、ヒトに対するED 95 の少なくとも4倍である、本発明1036~1038のいずれかの方法。
[本発明1040]
RP1000の有効量が、約0.24mg/kg~約0.48mg/kgである、本発明1036~1039のいずれかの方法。
[本発明1041]
前記自然回復が、ヒト患者におけるベースラインの少なくとも95%の単収縮高によってさらに特徴づけられる、本発明1036~1040のいずれかの方法。
[本発明1042]
RP1000の投与が非経口的に行われる、本発明1036~1041のいずれかの方法。
[本発明1043]
(a)骨格筋の活動を緩めるまたは遮断するのに十分な量のRP1000;
(b)RP1000薬剤をヒト患者にどのように投与するのかを説明する任意の説明書;ならびに
(c)任意で、ヒトにおけるRP1000の効果を逆転させるのに有効なRP1000拮抗薬、およびRP1000が投与されたヒト患者に対する遮断薬の効果を逆転させるために該拮抗薬をどのように用いるのかについての説明書
を含む、キット。
[本発明1044]
(2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-2-(3-(((E)-4-(3-((1R,2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウムまたはその薬学的に許容される塩と、水とを含む、薬学的組成物。
[本発明1045]
(2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-2-(3-(((E)-4-(3-((1R,2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウムジクロライドを含む、本発明1044の薬学的組成物。
[本発明1046]
アルコール、ポリエチレングリコール、およびジメチルスルホキシドのうちの1つまたは複数から選択される溶媒をさらに含む、本発明1044または1045の薬学的組成物。
[本発明1047]
剤形が非経口投与に適している、本発明1044~1046のいずれかの薬学的組成物。
[本発明1048]
約0.04mg/kg~約0.2mg/kg体重の用量で投与するのに適した剤形に製剤化された、(2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-2-(3-(((E)-4-(3-((1R,2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウムジクロライド。
[本発明1049]
(2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-2-(3-(((E)-4-(3-((1R,2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウムまたはその薬学的に許容される塩と、水とを含む、薬学的組成物。
[本発明1050]
(2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-2-(3-(((E)-4-(3-((1R,2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウムジクロライドを含む、本発明1049の薬学的組成物。
[本発明1051]
アルコール、ポリエチレングリコール、およびジメチルスルホキシドのうちの1つまたは複数から選択される溶媒をさらに含む、本発明1049または1050の薬学的組成物。
[本発明1052]
剤形が非経口投与に適している、本発明1049~1051のいずれかの薬学的組成物。
[本発明1053]
RP2000の有効量を麻酔下のヒト患者に投与する段階を含む、麻痺または神経筋遮断(NMB)を誘導する方法。
[本発明1054]
麻痺またはNMBから回復させる段階をさらに含む、本発明1052の方法。
[本発明1055]
前記回復が、ヒト患者における少なくとも約0.90のTOF比の測定値によって特徴づけられる、本発明1053の方法。
[本発明1056]
RP1000の有効量を麻酔下のヒト患者に投与する段階を含む、麻痺または神経筋遮断(NMB)を誘導する方法。
[本発明1057]
麻痺またはNMBから回復させる段階をさらに含む、本発明1056の方法。
[本発明1058]
前記回復が、ヒト患者における少なくとも約0.90のTOF比の測定値によって特徴づけられる、本発明1057の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】単収縮高 対 回復間隔のグラフ表示である。
図2】単収縮高 対 回復間隔のグラフ表示である。
図3】セボフルラン/N2O麻酔下の健康な成人ボランティアにおけるCW002の回復曲線を示す。曲線は、100%ブロック後の、ベースラインT1の5%T1から95%T1までの自然回復を示す。左から右へ:0.08mg/kg群(n=2);0.01mg/kg群(n=6);および0.14mg/kg群(n=4)。これらの用量は、ED95の約1.0、1.4および1.8倍である。右の4番目の曲線は、3つ全ての投与群の混成である(混成曲線、n=12)。5~95%回復間隔をANOVAで比較したところ、群間に有意差はなかった。
図4】混成群(n=12)の線形回帰を示す。T1が5%からベースラインの25%、50%、75%、95%のT1に回復するまでの時間。この線形関係は有意である(P=0.002)。これは、CW002誘導NMBからの回復に要する時間を、ヒトにおいてかなり正確に予測できることを示唆している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
本組成物および方法を説明する前に、本開示の範囲は、説明した特定のプロセス、組成物、または方法論に限定されず、これらは変化し得ることを理解されたい。また、説明で使用される用語は、特定のバージョンまたは態様を説明する目的だけのものであり、本開示の範囲を限定することを意図したものではないことも理解されたい。別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似または同等の方法および材料はどれも、本明細書に開示された様々な態様の実施または試験に使用され得るが、好適な方法、装置、および材料がここに記載される。本明細書で言及される全ての刊行物は、それが説明しているとして特定される側面に関して、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書のいかなる部分も、本明細書に添付された特許請求の範囲が先行発明という理由でそのような開示に先行する権利がない、ことを認めるものと解釈されるべきではない。
【0012】
一般的な医療手術では、患者は、不快感を軽減し、かつ/または医療処置の妨げとなる動きを防止するために、様々な化学薬品を投与されることがある。患者はまず、麻酔を誘導するために麻酔薬を投与される。本明細書で使用する麻酔とは、医療目的(例えば、外科手術)のために誘導される、制御された一時的な感覚または意識の喪失状態を指し、麻酔薬の連続または間欠投与により麻酔中期間(intra-anesthetic period)にわたって維持され得る。
【0013】
麻酔は、吸入によって、または静脈内に投与することができる。本明細書で使用する吸入麻酔とは、別段の指示がない限り、患者の気道・気管への揮発性の液体または気体麻酔薬からの蒸気の呼吸作用による麻酔を指す。適切な吸入薬としては、亜酸化窒素(N2O)、デスフルラン、セボフルラン、イソフルラン、メトキシフルラン、ハロタン、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、吸入麻酔薬ならびにその使用方法について精通しているであろう。
【0014】
本明細書で使用する静脈麻酔とは、別段の指示がない限り、患者の1つまたは複数の静脈への液体麻酔薬の投与を指す。適切な静脈麻酔薬としては、プロポフォール、エトミデート、NMDA拮抗薬(例:ケタミン)、デクスメデトミジン、バルビツール酸系(例:チオペンタール、メトヘキシタール)、合成オピオイド類(例:レミフェンタニル、スフェンタニル)、ベンゾジアゼピン類(例:ミダゾラム、ジアゼパム、ロラゼパム)、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、IV麻酔薬ならびにその使用方法について精通しているであろう。
【0015】
ひとたび麻酔がかかると、例えば患者に挿管するために、患者は、必要に応じて、NMBAを投与され得る。NMBAは、通常、静脈内または筋肉内に投与される。
【0016】
麻酔薬の投与およびNMBAの投与は、それぞれ、薬剤を最初に投与した時から、その後薬剤が完全な効果を発揮する時までにわたる発現期間(onset period)を伴う。医療処置、例えば外科手術は、麻酔薬とNMBAが完全な効果を発揮した後で術中期間に実施することができる。医療処置が終了した後、NMBAと麻酔薬の投与を中止して、そこからの回復をもたらすことが可能である。発現期間と同様に、麻酔薬とNMB薬の中止は、麻酔薬またはNMB薬を最初に中止した時から、その後薬剤の効果が完全に逆転する時までにわたる回復期間(recovery period)を伴う。この完全な逆転の時点で、回復が達成されたとみなされる。
【0017】
本明細書で使用する場合、NMBからの回復は、少なくとも約0.90のTOF比(TOFR)が測定される場合に達成されると考えられる。例えば、約0.90~1.00のTOFRが測定され得る。回復は、NMBAに対する拮抗薬の使用または投与の有無にかかわらず、達成される可能性がある。本明細書で使用する「自然回復」は、NMBA拮抗薬の使用または投与なしに、少なくとも約0.90のTOFRが測定される場合に達成されると考えられる。任意で、回復および/または自然回復を特徴づけるために、他の指標を使用してもよく、例えば、ベースラインに対して少なくとも95%の単収縮高などであるが、これに限定されない。
【0018】
RP1000は、AV002またはCW002の別名で呼ばれることもあり、以下に示されるような、非脱分極性の中間持続時間のNMBAである。
【0019】
化学的には、RP1000は、そのIUPAC名である(2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-2-(3-(((E)-4-(3-((1R,2S)-1-(3,4-ジメトキシベンジル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-6,7-ジメトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イウムジクロライドと呼ばれることがある。
【0020】
用語「RP1000」、「AV002」および「CW002」は、本明細書では交換可能に使用され、本明細書でRP1000と特定された上記の構造を指す。上に示されたRP1000は、RP1000の塩化物塩の形態を反映しているが、本明細書で使用されるRP1000は、その薬学的に許容される有効な他の塩をも含むことができる。RP1000は、米国特許第8,148,398号およびPrabhakar, et al.(Journal of Anesthesiology and Clinical Pharmacology, 2016 Jul-Sep; 32(3): 376-378)に以前に開示されており、その両方が、RP1000(またはAV002)化合物のその開示、その調製方法、その製剤、ならびに使用方法に関して、参照により本明細書に組み入れられる。RP1000を使用した前臨床試験では、投与後約90秒以内に100%のNMBが確認されている。
【0021】
もう1つの非脱分極性のNMBAはRP2000(別名「CW 1759-50」ともいう)であり、これは短時間作用型のNMBAである。
【0022】
化学的には、RP2000は、そのIUPAC名である4-(3-(((E)-4-(3-((1R)-6,7-ジメトキシ-1-(4-メトキシベンジル)-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリン-2-イウム-2-イル)プロポキシ)-4-オキソブタ-2-エノイル)オキシ)プロピル)-4-(3,4-ジメトキシベンジル)モルホリン-4-イウムと呼ばれることがある。用語「CW 1759-50」および「RP2000」は、本明細書では交換可能に使用され、本明細書でRP2000と特定された上記の構造を指す。上に示されたRP2000は、RP2000の塩化物塩の形態を反映しているが、本明細書で使用されるRP2000は、その薬学的に許容される有効な他の塩をも含むことができる。
【0023】
本明細書では、RP1000またはRP2000の少なくとも一方の有効量を患者に投与する段階を含む、患者におけるNMBからの自然回復を誘導しかつそれをもたらすための方法が開示される。この方法は、回復のタイミングと回復の程度の両方において、高度に予測可能なNMBA回復期間を提供することができる。本明細書に開示された方法を使用すると、術中期間の終了、麻酔薬からの回復期間、および/または麻酔薬からの回復の達成などの、1つまたは複数の他の関連イベントに関連して、NMB回復を予測および制御することが可能である。さらに、投与中止後の時間と、NMB回復期間中の様々な測定時点(例えば、5%単収縮、10%単収縮、25%単収縮、50%単収縮、75%単収縮、95%単収縮(いずれもベースラインとの比較))との間に実質的に線形相関があることから、回復の程度を正確に予測することができる。RP1000のこの特性により、麻酔中にNMBを誘導する方法は、手術後にNMB下で費やされる時間を、回復期間の正確な予測を介して最小限にする能力を得ることができる。例えば、患者がNMB遮断から解放され始める時までに外科的処置を終わらせるという認識の下で、NMB投与を術中期間の終了前に中止することができる。
【0024】
したがって、本開示の一局面は、NMBを誘導する方法であって、RP1000を、ベースライン測定値より約5%を上回らない単収縮高を維持するのに有効な量で、吸入麻酔下のヒト患者に投与し、それによってヒト患者にNMBを誘導する段階;および、所望の持続時間後、患者へのRP1000の投与を中止し、それによってNMBからの患者の自然回復をもたらす段階を含む、方法を提供する。化合物の「有効量」とは、所望の効果(例えば、単収縮高によって測定されるNMBの程度)を達成するために計算された所定の量のことである。治療に使用することに関する化合物の「有効量」とは、所望の投薬計画の一部として(ヒトなどの哺乳動物に)投与した場合に、治療すべき疾患・状態または美容上の目的のための臨床的に受け入れられる基準に従って、例えばどのような医療処置にも適用できる妥当なベネフィット/リスク比で、症状を緩和し、状態を改善し、または病状の発症を遅らせる、製剤中の化合物の量を指す。任意で、NMBは、手術中の期間内および/または麻酔中の期間内に誘導することができる。
【0025】
様々な態様において、RP1000は、単回用量または複数回用量でヒト患者に投与することができ、各用量は、ヒトに対するED95(約0.077mg/kg)の約1.0~約3.0倍の量のRP1000を含む。用量は、単回のIVボーラス用量、複数回のIVボーラス用量で投与されてもよいし、連続IV注入として投与されてもよい。RP1000の単回ボーラスの投与は、約5秒~約15秒の期間にわたって実施することができる。この方法による投与は、NMB(ベースラインと比較して約5%以下の単収縮)を維持するために、術中処置全体を通して、必要に応じて、継続することができる。あるいは、RP1000は、約1分~約2分の期間にわたって緩徐な注入として、または例えば術中期間の少なくとも一部にわたって、緩徐な連続注入として投与することもできる。
【0026】
具体的な用量としては、限定するものではないが、体重1kgあたり約0.08mg(陽イオンに基づく)から約0.25mg/kgのRP1000を患者に投与することができる。他の想定される投与量範囲には、約0.8mg/kg~約0.15mg/kg、約0.10mg/kg~約0.20mg/kg、約0.15mg/kg~約0.25mg/kg、または約0.10mg/kg~約0.25mg/kgのRP1000が含まれる。具体的な投与量としては、その間の任意の用量、例えば、0.8mg/kg、0.1mg/kg、0.16mg/kg、0.2mg/kg、0.24mg/kg、および0.3mg/kgのRP1000などが挙げられるが、これらに限定されない。患者は、例えば、亜酸化窒素、デスフルラン、セボフルラン、イソフルラン、メトキシフルラン、またはこれらの任意の組み合わせなどの吸入麻酔下にあり得る。麻酔の用量は、任意の所望の用量、例えば、0.5MAC、0.75MAC、1.0MAC、1.25MAC、またはそれ以上とすることができる。より高い麻酔投与量では、麻酔の状態が深くなるために、より長くなるとはいえ、依然として自然回復は予測可能であると予想される。
【0027】
さらに、1つまたは複数の態様では、ベースラインより25%高い単収縮高は、RP1000の投与中止後、約14分、11分、または8分以内に患者において測定され得る。1つまたは複数の態様では、ベースラインより50%高い単収縮高は、RP1000の投与中止後、約28分、約22分、または約17分以内に患者において測定され得る。1つまたは複数の態様では、ベースラインより75%高い単収縮高は、RP1000の投与中止後、約42分、約33分、または25分以内に患者において測定され得る。様々な態様では、患者は、約1.5MAC以下の濃度で吸入麻酔下にある。様々な態様では、患者は、約1.0MAC以下の濃度で吸入麻酔下にある。
【0028】
RP1000は比較的速い発現期間を有し、患者がNMB下にいる時間を最小限にするための追加の機会を提供する。したがって、任意にかつ追加的に、麻酔中の期間内での患者へのRP1000の投与は、投与開始後、約2分以内、より好ましくは約90秒以内に、ベースライン測定値より約5%を上回らない単収縮高の測定値を患者においてもたらすことができる。
【0029】
本明細書に記載の方法は、NMBAの拮抗薬または逆転薬を使用することなく、NMBからの自然回復をもたらす段階を含む。1つまたは複数の態様では、自然回復は、RP1000の投与を中止した後、約50分以内に達成される。より好ましくは、自然回復は、約40分以内、約30分以内、または約25分以内に達成される。追加の測定、例えばベースラインに対して少なくとも95%の単収縮高を測定するなどは、TOFR測定を補足することができる。
【0030】
RP2000がNMBAとして使用されることもある。したがって、本開示の別の局面は、NMBを誘導する方法であって、RP2000を、ベースライン測定値より約5%を上回らない単収縮高を維持するのに有効な量で、吸入麻酔下のヒト患者に投与し、それによってヒト患者にNMBを誘導する段階;および、所望の持続時間後、患者へのRP2000の投与を中止し、それによってNMBからの患者の自然回復をもたらす段階を含む、方法を提供する。任意で、NMBは、手術中の期間内および/または麻酔中の期間内に誘導することができる。
【0031】
様々な態様において、RP2000は、単回用量または複数回用量でヒト患者に投与することができ、各用量は、ヒトに対するED95(約0.077mg/kg)の約1.0~約3.0倍の量のRP2000を含む。用量は、複数回のIVボーラス用量によって投与されてもよいし、連続IV注入として投与されてもよい。RP1000の単回ボーラスの投与は、約5秒~約15秒の期間にわたって実施することができる。この方法による投与は、NMB(ベースラインと比較して約5%以下の単収縮)を維持するために、術中処置全体を通して、必要に応じて、継続することができる。あるいは、RP1000は、約1分~約2分の期間にわたって緩徐な注入として、または例えば術中期間の少なくとも一部にわたって、緩徐な連続注入として投与することもできる。
【0032】
RP2000の作用持続時間はRP1000よりも短いため、RP2000の適切な投与量は、RP1000の場合より約2倍~3倍多くなるだろう。例えば、RP2000の適切な用量としては、限定するものではないが、体重1kgあたり約0.16mg(陽イオンに基づく)から約0.60mg/kgのRP2000を患者に投与することができる。他の想定される投与量範囲には、約0.16mg/kg~約0.60mg/kg、約0.16mg/kg~約0.50mg/kg、約0.16mg/kg~約0.40mg/kg、または約0.24mg/kg~約0.45mg/kgのRP2000が含まれる。具体的な投与量としては、その間の任意の用量、例えば、約0.16mg/kg、約0.24mg/kg、約0.32mg/kg、約0.40mg/kg、および約0.50mg/kgのRP2000などが挙げられるが、これらに限定されない。患者は、上記のいずれかのタイプの吸入麻酔下にあり得る。
【0033】
RP1000と同様に、RP2000は比較的速い発現期間を有し、患者がNMB下にいる時間を最小限にするための追加の機会を提供する。したがって、任意にかつ追加的に、麻酔中の期間内での患者へのRP1000の投与は、投与開始後約2分以内、より好ましくは約90秒以内に、ベースライン測定値より約5%を上回らない単収縮高の測定値を患者においてもたらすことができる。
【0034】
1つまたは複数の態様では、自然回復は、RP1000の場合よりもRP2000では約25%速く達成される。例えば、様々な態様では、自然回復が、RP2000の投与を中止した後、約17分以内に達成され得る。より好ましくは、自然回復は約12分以内、約10分以内、または約7分以内に達成される。
【0035】
NMBからの予測可能な自然回復は、NMBA拮抗薬を使用してNMBを逆転させる現在の方法に比べて大きな利点を示すが、それは、これらの拮抗薬が予測不可能で、制御困難である傾向にあるためである。RP1000またはRP2000でNMBを誘導することによって、NMBの持続時間および注入を中止し得る時点が、自然回復のタイミングを正確に決定づける。この方法では、NMBA拮抗薬の投与を完全に回避することができ、また、術後にNMB下で費やされる時間を短縮することができる。
【0036】
RP1000は、さらに、安全であることが証明されている。NMBAを使用するときはいつでも、呼吸などの重要な自律神経機能が遮断される可能性がある。動物モデル(例えば、サルおよびネコ)では、自律神経系または循環器系に対する悪影響は全く観察されなかった(例えば、Sunaga, et al. (Preclinical Pharmacology of RP1000: A Nondepolarizing Neuromuscular Blocking Drug of Intermediate Duration, Degraded and Antagonized by l-cysteine-Additional Studies of Safety and Efficacy in the Anesthetized Rhesus Monkey and Cat; Anesthesiology, 2016 Oct; 125(4); 732-743を参照のこと;参照により本明細書に組み入れられる)。イヌでは、非常に高用量のRP1000(27および54×ED95)のみが、平均動脈圧の20%低下と心拍数の20%上昇をもたらした。さらに、RP1000は、気管支収縮作用またはヒスタミン放出の可能性が低いことを示した。
【0037】
上述したように、吸入麻酔下でのRP1000およびRP2000を使用したNMBからの患者の自然回復は、広範囲の用量にわたって十分に予測可能である。しかし、セボフルランなどの吸入麻酔は、NMBを増強する可能性があることが観察されている(例えば、Ye, L., et al.; Int. J. Physicol. Pathophysiol Pharmacol; 2015 7(4), 172-177を参照のこと)。それゆえ、臨床上の意義としては、例えばプロポフォールなどの静脈麻酔下で、同レベルのNMBに必要とされる用量と比べて、吸入麻酔中の患者では、より低用量のNMBAを使用し得ることが示唆される。例えば、吸入麻酔下の患者には約0.08mg/kg~約0.25mg/kgのRP1000(または約0.08mg/kg~約0.20mg/kg)の用量を使用することができるが、同じ患者がIV麻酔下にいる場合に同じNMB効果を達成するには、約0.2mg/kg~約0.5mg/kgの用量を必要とすることがある。
【0038】
したがって、本開示の別の局面は、NMBを誘導する方法であって、RP1000を、ベースライン測定値より約5%を上回らない単収縮高を維持するのに有効な量で、IV麻酔下のヒト患者に投与し、それによってヒト患者にNMBを誘導する段階;および、所望の持続時間後、患者へのRP1000の投与を中止し、それによってNMBからの患者の自然回復をもたらす段階を含む、方法を提供する。任意で、NMBは、手術中の期間内および/または麻酔中の期間内に誘導することができる。
【0039】
様々な態様において、RP1000は、ヒトに対するED95の約3.0~約6.0倍の量でヒト患者に投与することができる。その量は、単回IVボーラス用量、複数回IVボーラス用量で投与されてもよいし、IV連続注入として投与されてもよい。RP1000の単回ボーラスの投与は、約5秒~約15秒の期間にわたって実施することができる。この方法による投与は、NMB(ベースラインと比較して約5%以下の単収縮)を維持するために(例えば、術中処置全体を通して)、必要に応じて、継続することができる。あるいは、RP1000は、約1分~約2分の期間にわたって緩徐な注入として、または(例えば、術中期間の少なくとも一部にわたって)緩徐な連続注入として投与することもできる。
【0040】
具体的な用量としては、限定するものではないが、体重1kgあたり約0.24mg(陽イオンに基づく)から約0.48mg/kgのRP1000を患者に投与することができる。他の想定される投与量範囲には、約0.24mg/kg~約0.40mg/kg、約0.24mg/kg~約0.32mg/kg、約0.32mg/kg~約0.40mg/kg、または約0.32mg/kg~約0.48mg/kgのRP1000が含まれる。具体的な投与量としては、その間の任意の用量、例えば、約0.24mg/kg、約0.30mg/kg、約0.32mg/kg、約0.35mg/kg、約0.40mg/kg、約0.45mg/kg、および約0.48mg/kgのRP1000などが挙げられるが、これらに限定されない。患者は、例えば、プロポフォール、エトミデート、ケタミン、バルビツール酸系(例:チオペンタールおよびメトヘキシタール)、またはこれらの任意の組み合わせのIV麻酔下にあり得る。
【0041】
1つまたは複数の態様において、自然回復は、吸入麻酔下よりもIV麻酔下で約25%速く達成される。例えば、自然回復は、RP1000の投与を中止した後、約38分以内に達成され得る。より好ましくは、自然回復は、約30分以内、約25分以内、約22.5分以内、または約20分以内に達成される。
【0042】
RP2000もまた、IV麻酔中にNMBを誘導するために利用することができる。したがって、本開示の別の局面は、NMBを誘導する方法であって、RP2000を、ベースライン測定値より約5%を上回らない単収縮高を維持するのに有効な量で、IV麻酔下のヒト患者に投与し、それによってヒト患者にNMBを誘導する段階;および、所望の持続時間後、患者へのRP2000の投与を中止し、それによってNMBからの患者の自然回復をもたらす段階を含む、方法を提供する。任意で、NMBは、手術中の期間内および/または麻酔中の期間内に誘導することができる。
【0043】
様々な態様において、RP2000は、ヒトに対するED95の約3.0~約6.0倍の量でヒト患者に投与することができる。その量は、単回IVボーラス用量、複数回IVボーラス用量で投与されてもよいし、IV連続注入として投与されてもよい。RP2000のボーラス投与は、約5秒~約15秒の期間にわたって、または約1分~約2分の期間にわたって緩徐な注入として実施され得る。この方法による投与は、NMB(ベースラインと比較して約5%以下の単収縮)を維持するために、術中処置全体を通して、必要に応じて、継続することができる。適切な用量としては、体重1kgあたり約0.48mg(陽イオンに基づく)から約3.6mg/kgのRP2000を患者に投与することが含まれる。他の想定される投与量範囲には、約0.48mg/kg~約3.0mg/kg、約0.48mg/kg~約2.4mg/kg、約0.48mg/kg~約1.8mg/kg、約0.48mg/kg~約1.0mg/kg、約0.64mg/kg~約3.0mg/kg、約0.80mg/kg~約3.0mg/kg、約0.96mg/kg~約1.8mg/kg、および約0.96mg/kg~約2.4mg/kgのRP2000が含まれる。具体的な投与量としては、その間の任意の用量、例えば、0.64mg/kg、0.80mg/kg、0.96mg/kg、1.80mg/kg、2.4mg/kg、3.0mg/kg、および3.60mg/kgのRP1000などが挙げられるが、これらに限定されない。患者は、上記のようなIV麻酔下であり得る。
【0044】
1つまたは複数の態様において、自然回復は、RP1000の場合の回復よりもRP2000では約25%速く達成される。例えば、自然回復は、RP2000の投与を中止した後、約15分以内に達成され得る。より好ましくは、自然回復は、約10分以内、約7.5分以内、または約5分以内に達成される。
【0045】
理論に縛られることは望まないが、NMBAからの自然回復の予測可能性は、人体で容易に利用できる、例えばグルタチオンによる、人体でのその代謝から導き出せると考えられる。これはRP1000およびRP2000に特有のことであり、他のNMBAはより複雑な分解を受けるため、自然回復の予測可能なタイムテーブルが得られない。比較代謝研究により、グルタチオン代謝パターンは、霊長類などの他の種と比較して、ヒトに特異的であり得ることが実証されている;そのため、自然回復の予測可能性がRP1000の投与後にヒトで達成され得ることを示すデータは、特に心強かった。さらに、NMBの程度ならびに体内でのNMBAの崩壊に影響を及ぼし得る疾患状態の患者にNMBAを投与する場合には、通常、慎重な配慮が必要である。RP1000ならびにRP1000およびRP2000は、予測可能な崩壊について単にグルタチオンに依存しているため、これらの薬剤は、多種多様な集団に、他のNMBAの使用を困難にする病状または状態の人々にさえも、使用することが可能である。
【0046】
RP1000およびRP2000により誘導されたNMBからの自然回復を予測することは、本明細書に開示された方法によって提供されているが、有利には、RP1000およびRP2000の各々は、いずれも、そのそれぞれの拮抗薬に対して特に応答性である。RP1000およびRP2000の逆転薬が開発されており、それらは、ED95の3倍の用量を使用した場合でも、RP1000によって引き起こされたNMBを数分以内に効果的に取り除くことができる。したがって、患者がRP1000またはRP2000により誘導されたNMBから直ちに回復する必要があり、自然回復のタイミングが不適切であるという状況が生じた場合には、NMBの拮抗薬を投与してNMBを速やかに逆転させることができる。そのような薬剤としては、システイン、グルタチオン、N-アセチルシステイン、ホモシステイン、メチオニン、S-アデノシル-メチオニン、ペニシラミン、関連システイン類似体、これらの組み合わせ、またはその薬学的に許容される塩が挙げられるが、これらに限定されない。このような拮抗薬の使用は、米国特許第8,148,398号にも開示されており、その開示内容は参照により本明細書に組み入れられる。いくつかの態様では、拮抗薬はシステインである。他の態様では、拮抗薬はグルタチオンと組み合わせたシステインである。他の態様では、拮抗薬はシステインまたはグルタチオンを他の拮抗薬のいずれかと組み合わせたものである。例えば、いくつかの態様では、システインとグルタチオンとの組み合わせが特に有効である。
【0047】
RP1000は、RP1000を含む組成物として患者に投与され得る。同様に、RP2000は、RP2000を含む組成物として投与され得る。本明細書に開示された方法に適する組成物は、RP1000またはRP2000を含み、水性もしくは非水性の溶液または混合液であってよく、それは静菌剤(例:ベンジルアルコール)、抗酸化剤、緩衝剤、または他の薬学的に許容される添加剤(例:デキストロース)を含むことができる。該組成物には、アルコール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド、またはこれらの任意の混合物のような溶媒が含まれてもよい。
【0048】
RP1000またはRP2000の組成物は、上記のような用量で吸入麻酔下のヒト患者に投与することができる。例えば、成人(150ポンドまたは70kg)においてNMBを得るためのRP1000の適量は、約0.1mg~約14mg、またはいくつかの態様では約1mg~約14mg、または他の態様では約0.5mg~約14mg、またはさらなる態様では約3.5mg~約14mgである。より高体重のヒト患者の場合、この用量はより多くなり、例えば、200ポンド(90kg)の患者では約18mgまで、250ポンド(114kg)の患者では約23mgまでとなろう。かくして、ヒトへの投与に適した薬学的非経口製剤は、溶液中に約0.1mg/mL~約50mg/mLのRP1000を含有し、または複数回量バイアルの場合にはその倍数を含有し得る。RP2000の投与についても、上記開示に基づいて同様の計算を行うことができる。
【0049】
本開示の別の局面は、別々に包装された、(a)骨格筋の活動を緩めるまたは遮断するのに十分な量のRP1000またはRP2000と、(b)RP1000またはRP2000の薬剤をヒト患者にどのように投与するのかを説明する説明書とを含む、キットを提供する。任意で、キットはさらに、(c)必要に応じて、ヒトにおいてRP1000またはRP2000の効果をそれぞれ逆転させるのに有効な量のRP1000またはRP2000の拮抗薬と、(d)RP1000またはRP2000が投与されたヒト患者に対する遮断薬の効果を逆転させるために拮抗薬をどのように用いるのかについての説明書とを含むことができる。このようなキットでは、RP1000またはRP2000は、水性もしくは非水性の溶液または混合液で供給され、それは静菌剤(例:ベンジルアルコール)、抗酸化剤、緩衝剤、または他の薬学的に許容される添加剤(例:デキストロース)を含有し得る。該組成物には、アルコール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド、またはこれらの任意の混合物のような溶媒が含まれてもよい。あるいは、RP1000またはRP2000は、水(注射用)またはデキストロース溶液もしくは生理食塩水で再調製するための、任意で他の固形分を含む、凍結乾燥固体の形態で提示されてもよい。このような製剤は、通常、アンプルまたは使い捨て注射器などの単位用量剤形で提示される。それらはまた、適切な量を取り出せるボトルのような複数回用量剤形で提示されてもよい。このような製剤は全て無菌でなければならない。
【0050】
本発明の別の局面は、NMBAを投与されている患者において自然回復を予測する方法を含み、該方法は、患者をTOFモニタリングに供し、それによって単収縮高の測定値を含む電子データを生成する段階;該データを、単収縮高測定値をベースライン測定値に対するようにプログラムされたデータ処理装置に伝達する段階;ベースライン測定値の5%を超える単収縮高の測定値が収集された時間として定義される第1の時間に予測計算を開始する段階;および本明細書に記載の自然回復時間に基づく予めプログラムされた式にその時間を入力することによって、患者のNMBの予測された自然回復時間を生成する段階を含む。
【0051】
例えば、約0.08~約0.14mg/kgの用量でRP1000を投与されている吸入麻酔下の患者の場合、ベースラインを上回る特定の単収縮高までの時間は、図4のデータに基づく式(1)によって算出することができ、ここで、T回復は特定の単収縮高までの時間(分)であり、Htは特定の単収縮高である。
【0052】
その後、予測された回復時間は、麻酔の投与および術中の持続時間に関して、NMBの望ましい維持を確実にするためにいかなる行動をとるべきかを知らせることができる。例えば、この計算は、術中の期間内にさらなるNMBA投与が必要かどうかを警告したり、麻酔をいつ中止できるか(NMBからの回復は、麻酔からの回復前に達成される必要があるため)を知らせたりすることができる。
【0053】
上記の式1は、吸入麻酔下でのRP1000の使用に関連しているが、IV麻酔下でのRP1000、ならびにいずれのタイプの麻酔下でのRP2000についても同様の計算を行うことができる。
【0054】
NMBを測定するための様々な検査が本明細書に開示され、以下でさらに詳細に説明される。
【0055】
単収縮高:表面電極を介して手首の尺骨神経に最大上刺激(supramaximal stimulus)を加える末梢神経刺激装置を神経筋モニタリングに使用した。麻酔導入後、単収縮刺激(0.10Hz)を15~20分間連続的に与えて、ベースラインの単収縮高を確立する。単収縮モニタリングは、NMBAの投与中および投与後にも継続し得る。
【0056】
四連単収縮刺激パターン比(Train-of-Four twitch stimulation pattern ratio:TOFR):TOFは、刺激された筋肉の4つの同じ強さの単収縮を含む4つの最大上電気インパルスを提供する。単収縮のフェード(fade)は、神経筋遮断が増加する場合に現れる。第4の単収縮(T4)と第1の単収縮(T1)との比較により、TOFRが得られる。
【0057】
下限および上限を伴う数値範囲が開示されている場合はいつでも、その範囲内に入る任意の数値および含まれる任意の範囲が具体的に開示されている。特に、本明細書に開示される数値のあらゆる範囲(「約aから約bまで」、または同等に「約aからbまで」、または同等に「約a~b」という形式の範囲)は、より広い範囲内に包含されるあらゆる数値および範囲を明記するものと理解すべきである。また、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上特に明記されていない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。本明細書で使用される「約」という用語は、それが使用されている数値のプラスマイナス10%を意味する。したがって、約50%は、45%~55%の範囲内を意味する。
【0058】
本明細書には、1つまたは複数の例示的な態様が提示されている。分かりやすくするために、物理的実装の全ての特徴が本出願で説明されたり、示されたりしているわけではない。本開示の物理的態様の開発では、システム関連、ビジネス関連、政府関連、およびその他の制約の順守など、実装によってその時々に異なる開発者の目標を達成するために、多数の実装時固有の決定を行わなければならないことが理解される。開発者の努力には時間がかかるかもしれないが、それでもなお、そのような努力は、本開示の利益を有する当業者にとって日常的な仕事であるだろう。
【0059】
したがって、本開示は、言及された目的および利点、ならびにそれに固有のものを達成するようにうまく適合される。上に開示された特定の態様は単なる例示にすぎず、本開示は、本明細書の教示の利益を有する当業者には明らかな、異なっているが同等の方法で修正および実施することができる。さらに、以下の特許請求の範囲に記載されている以外に、本明細書に示された構造または設計の詳細に対して、いかなる限定も意図されていない。したがって、上に開示された特定の例示的な態様は、変更、組み合わせ、または修正が可能であり、そのような全ての変形は本開示の範囲および精神内にあるとみなされることが明らかである。本明細書に例示的に開示された態様は、本明細書に具体的に開示されていない要素および/または本明細書に開示された任意的な要素がない場合にも、適切に実施することが可能である。
【実施例
【0060】
実施例1:アカゲザルにおける前臨床試験結果
イソフルラン麻酔下のアカゲザルに、RP2000またはRP1000のいずれかのボーラス用量を、該投与化合物のアカゲザルにおけるED95の1倍~10倍に等しい用量で投与した(ED95, RP1000=0.040mg/kg;ED95, RP2000=0.053mg/kg)。6~10時間の実験の間中、単収縮(0.15Hz)およびTOF(2Hz×2秒)を記録した。ベースラインの5%から95%までの単収縮の回復によって特徴づけられる、ボーラス投与後の自然回復までの時間を測定した。
【0061】
これとは別に、20~180分間の連続注入を(別の対象に)行い、注入の中止後、ベースラインの5%から95%までの単収縮の回復によって特徴づけられるNMBの自然回復までの時間を測定した。以下の表1には、これらの実験から収集されたデータが示される。図1および図2は、このデータをグラフで表したものである。
【0062】
この実験の詳細は、2019年10月の麻酔学年次総会のポスター番号F1004に関する要約に見出すことができ、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0063】
実施例2:ヒトにおける第I相臨床試験結果
要約は、Journal of Anesthesia and Analgesia、2020年5月(第30巻、第5号、73~74ページ)の最終補足資料で入手可能であり、参照により本明細書に組み入れられる。18~55歳の男女の健康なボランティア(n=34)は、IRBが承認した第I相プロトコルにインフォームドコンセントに同意した。セボフルラン(0.5MAC)/N2O(70%)麻酔中に筋音図法(mechanomyography)でNMBを測定した。各ボランティアは、RP1000の単回IVボーラスを受けた。
【0064】
以下の表3には、試験した各用量についての様々な薬物動態データが提供される。
AUC=血漿中濃度-時間曲線下面積;CL=クリアランス;Cmax=最大血漿中濃度;SD=標準偏差;t1/2=終末消失半減期;Tmax=Cmaxが発生する時間;Vss=定常状態での体積
【0065】
RP1000の注射は、迅速な作用発現およびNMB効果の中間持続時間を示した。0.08mg/kgのED95用量がセボフルラン麻酔下で確立され、0.14mg/kgの用量は全ての対象において100%の単収縮抑制をもたらした。0.08mg/kg未満の用量では、100%(n=18)の単収縮抑制がボランティアの誰にも発生しなかった。しかし、0.08、0.10、または0.14mg/kgの用量を投与されたボランティア14名中12名が100%ブロックを発現した:(0.08mg/kgではn=6名中2名、0.10mg/kgでは6名中6名、0.14mg/kgでは4名中4名)。ED95以上の用量では、95%T1抑制が約2~3分で達成され、最大T1抑制は約3~5分で達成された。
【0066】
全てのボランティアにおいて、100%ブロックからの自然回復の間、TOF刺激を尺骨神経に20秒ごとに加えた;TOFのT1がベースラインの95%まで回復し、かつTOFRが0.90に達するまで、親指の反応を連続的にモニタリングした。ブロックの総持続時間は、注射から、T1がベースラインの95%まで回復しかつTOFRが0.90に回復するまでを計算した。100%ブロックからの回復中の5~95%回復間隔を測定した。全ての投与群のデータ取得が完了した後、0.08、0.10および0.14mg/kgの投与後に得られる5~95%回復時間をANOVAによって比較した。その後、単一の混成回復パターンを示すために、100%ブロックを発現した12名のボランティアの回復データを組み合わせた。再度ANOVAを行って、混成群の回復データ(5~95%間隔)を、0.08、0.10および0.14mg/kgの別々の投与群の対応する間隔と比較した。
【0067】
自然に回復させた場合、95%T1回復までの平均時間は、0.08mg/kg、0.10mg/kgおよび0.14mg/kgの用量で、それぞれ約45分、55分および60分であった。最大T1回復までの時間は、0.08mg/kg用量で約50分であり、0.10mg/kgおよび0.14mg/kg用量では約20分長かった(約70分)。T4:T1>0.9までの平均時間は、0.08mg/kg、0.10mg/kgおよび0.14mg/kgの用量で、それぞれ約50分、70分および80分であった。5%から95%のT1回復までの平均時間は、以下の表2に示すように、0.1mg/kgと0.145mg/kgの用量で類似していた(35~40分)。
【0068】
【表2】
【0069】
次に、12名の混成群の回復データを線形回帰で分析した。回帰は、基本的に5~95%回復時間のデータを含んでいた。混成回帰線の傾きを算出した。結果を図3および図4にまとめた。図3は、0.08、0.10および0.14mg/kg群および混成群についての、全ての回復曲線の明らかな平行(parallelism)を示す。ANOVAを2回適用した両方の比較は、0.08、0.10および0.14mg/kg群間で有意差を示さなかった;混成群の比較を追加した場合にも、差は依然として有意でなかった:それぞれP=0.58およびP=0.76。図4は、単収縮の100%ブロックを発現した12名についての、時間に対する、5%単収縮高から25、50、75および95%単収縮高までの混成回復直線の回帰を示す。この関係は有意である(P=0.002)。この直線の傾きは2.518である。
【0070】
セボフルラン下でのRP1000のED95(0.07mg/kg~0.08mg/kg)を他の市販NMBAと比較する公表ヒトデータからの外挿および間接比較に基づいて、RP1000は、揮発性麻酔下でシサトラクリウムの約2/3の効力およびロクロニウムの4倍の効力を有することが期待される。さらに、同じ倍数の比較を利用すると、NMBの持続時間は、シサトラクリウムの約80%~85%およびロクロニウムの約60%~70%の持続時間であると予想される。以前に完了した最初のヒト試験のデータおよびED95の2倍でのブロックの発現に関する動物データに基づいて、RP1000による発現は、シサトラクリウムで達成される発現よりも速いが、ロクロニウムの発現よりもわずかに遅いことが分かった。
【0071】
安全性。ヒトでは、最大0.14mg/kgの用量でRP1000を投与しても、重大な心肺の副作用もヒスタミン放出の兆候も発生しなかった。一般に、0.02mg/kg~0.14mg/kgの範囲のRP1000の用量は、この試験に登録された健康なボランティアの間でおおむね良好な耐容性を示した。
【0072】
実施例3:RP1000およびRP2000の代謝
予測可能な回復時間の観察と一致して、薬物動態の測定により、この投与範囲での消失半減期も全投与群において約25~26分で一致することが明らかになった。
【0073】
理論に縛られることは望まないが、再現性の高い半減期は、システイン付加による(例えば、グルタチオンとの反応による)RP1000の分解に起因すると考えられる。RP1000の薬力学の理解によってもたらされる利点には、限定するものではないが、ヒト患者において機能回復のレベルを容易に予測できるということが含まれる。さらに、理論に縛られることを望まないが、RP2000はRP1000と同様の経路を介して体内で分解されるため、ED95の2.5~3倍までの用量のRP2000を投与した後の吸入麻酔下の患者の自然回復もまた、この投与範囲での消失半減期がその分解経路に依存することから、高度に予測可能であろうことが予測される。したがって、本開示はこの予測を反映するものである。
【0074】
実施例4
健康なボランティアは、患者が吸入麻酔、IV麻酔、またはそれらの組み合わせの下にある間に、10分間にわたってIV投与されるRP1000の最大0.24mg/kgの注入を受ける。用量は、0.8mg/kg、0.10mg/kg、0.12mg/kg、0.14mg/kg、0.16mg/kg、0.18mg/kg、0.2mg/kg、0.22mg/kg、または0.24mg/kgを含み得る。中心コンパートメントの分布容積(Vc)および血漿中濃度とNMBの間の遅延を表す速度定数(keo)が、各用量について決定される。
【0075】
実施例5
健康なボランティアは、RP1000の単回IVボーラス、またはRP1000の2回の単回ボーラスを受ける。ボーラス用量は、患者が吸入麻酔、IV麻酔、またはそれらの組み合わせ下にある間に、0.02mg/kg、0.4mg/kg、0.8mg/kg、0.10mg/kg、0.14mg/kg、0.16mg/kg、0.18mg/kg、または0.2mg/kgであり得る。用量は、0.8mg/kg、0.10mg/kg、0.12mg/kg、0.14mg/kg、0.16mg/kg、0.18mg/kg、0.2mg/kg、0.22mg/kg、または0.24mg/kgを含み得る。
図1
図2
図3
図4