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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-26
(45)【発行日】2025-10-06
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20250929BHJP
【FI】
G08G1/16 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021167894
(22)【出願日】2021-10-13
(65)【公開番号】P2023058112
(43)【公開日】2023-04-25
【審査請求日】2024-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591141784
【氏名又は名称】学校法人大阪産業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一也
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-250171(JP,A)
【文献】国際公開第2018/142458(WO,A1)
【文献】特開2008-206688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン音の音像変化を、車両を運転するドライバーの覚醒度の向上に用い
前記音像変化が、複数のスピーカを用いることで、前記ドライバーに対して、左右方向及び上下方向の少なくともいずれかの方向を含み、左右交互又は上下交互に前記スピーカの音圧を変化させるものであ
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記車両の走行時に、前記エンジン音として擬似エンジン音を出力し、
前記ドライバーの覚醒低下を検出し又は予測することで出力タイミングを決定し、
決定した前記出力タイミングで前記擬似エンジン音による音像を変化させる
ことを特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記擬似エンジン音を、前記車両の速度に応じた周波数で出力し、
前記出力タイミングにおける前記周波数で前記音像変化を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記周波数をトルクに応じて変化させる
ことを特徴とする請求項3に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記擬似エンジン音を、前記ドライバーによる前記車両の駆動系デバイスの操作に応じた周波数で出力し、
前記出力タイミングにおける前記周波数で前記音像変化を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項6】
前記車両が駆動モータによって走行する
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバーの覚醒度を向上させる運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通事故件数と死亡人数は数年前に比べて減少している傾向にある。警視庁の統計によると、2019年度では交通事故件数は381,002件、死亡者は3,215人となっている。ここで、交通事故形態別による死亡者件数を調査した結果、漫然運転が交通事故の死亡発生件数の4割程度を占める。また、ここ数年の漫然運転の件数は減少率が少なく、過労運転は逆に増えている。漫然運転や過労運転に必要な集中力に影響する覚醒度がマイクロスリープ現象や疲労などによって安全な運転に支障が生じる前に覚醒度の低下を抑える必要がある。
従来、覚醒度の低下を抑える手段として、運転支援システムの警告音を提示してドライバーの注意力を喚起するのが一般的であったが、ドライバーが警告音に対して煩わしく感じるために運転支援システムを停止させてしまうことが考えられる。また、覚醒度低下などによって自動車が車線逸脱しそうな場面ではステアリングを振動させてドライバーへ注意喚起を促す機能が実用化されているが、自動運転技術使用中のようにステアリングから手を保持する必要がない状態には適用出来ないことが挙げられる。以上の先行事例を基に、ドライバーの煩わしさ増加の影響の低減と覚醒度低下の抑制を両立する手段として、ドライバーが常に耳にする環境音、とりわけエンジン音の音像が動くことでドライバーが違和感を認識し、覚醒制度を高める手法に着目した。
なお、特許文献1にはエンジン音の変化によってドライバーの覚醒を図ることが記載され、特許文献2にはエンジンの回転数を周期的に増減させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-23086号公報
【文献】特開2016-68799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載されているような、エンジン音の変化やエンジンの回転数の周期的な増減では十分な覚醒効果が得られないことが実験で判明した。
【0005】
本発明は、エンジン音の音像表現における主観的な覚醒度の変化と心拍数の変化に着目し、心拍数が大きく変化することなく覚醒度向上効果を得ることができる運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の運転支援装置は、エンジン音の音像変化を、車両を運転するドライバーの覚醒度の向上に用い、前記音像変化が、複数のスピーカを用いることで、前記ドライバーに対して、左右方向及び上下方向の少なくともいずれかの方向を含み、左右交互又は上下交互に前記スピーカの音圧を変化させるものであることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の運転支援装置において、前記車両の走行時に、前記エンジン音として擬似エンジン音を出力し、前記ドライバーの覚醒低下を検出し又は予測することで出力タイミングを決定し、決定した前記出力タイミングで前記擬似エンジン音による音像を変化させることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項2に記載の運転支援装置において、前記擬似エンジン音を、前記車両の速度に応じた周波数で出力し、前記出力タイミングにおける前記周波数で前記音像変化を行うことを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の運転支援装置において、前記周波数をトルクに応じて変化させることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項2に記載の運転支援装置において、前記擬似エンジン音を、前記ドライバーによる前記車両の駆動系デバイスの操作に応じた周波数で出力し、前記出力タイミングにおける前記周波数で前記音像変化を行うことを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の運転支援装置において、前記車両が駆動モータ10によって走行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の運転支援装置によれば、心拍数が大きく変化することなく覚醒度向上効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例による運転支援装置を機能実現手段で表したブロック図
図2】本実験において提示したエンジン音と警報音の供試音のパターンを示す図
図3】KSSの指標を示す図
図4】KSSの平均値を示すグラフ
図5】KSSの変化量を示すグラフ
図6】心拍数の変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による運転支援装置は、エンジン音の音像変化を、車両を運転するドライバーの覚醒度の向上に用い、音像変化が、複数のスピーカを用いることで、ドライバーに対して、左右方向及び上下方向の少なくともいずれかの方向を含み、左右交互又は上下交互にスピーカの音圧を変化させるものである。
本実施の形態によれば、心拍数が大きく変化することなく覚醒度向上効果を得ることができる。また、左右方向及び上下方向の少なくともいずれかの方向を含む音像変化とすることで覚醒度効果を得ることができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による運転支援装置において、車両の走行時に、エンジン音として擬似エンジン音を出力し、ドライバーの覚醒低下を検出し又は予測することで出力タイミングを決定し、決定した出力タイミングで擬似エンジン音による音像を変化させるものである。
本実施の形態によれば、走行状態を認識できる擬似エンジン音を用いることで、心拍数が大きく変化することなく覚醒度向上効果を得ることができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態による運転支援装置において、擬似エンジン音を、車両の速度に応じた周波数で出力し、出力タイミングにおける周波数で音像変化を行うものである。
本実施の形態によれば、車両の速度に応じた周波数で音像変化を行うことで、心拍数が大きく変化することなく覚醒度向上効果を得ることができる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第3の実施の形態による運転支援装置において、周波数をトルクに応じて変化させるものである。
本実施の形態によれば、周波数をトルクに応じて変化させることで、走行状態を更に把握しやすく、心拍数が大きく変化することなく覚醒度向上効果を得ることができる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第2の実施の形態による運転支援装置において、擬似エンジン音を、ドライバーによる車両の駆動系デバイスの操作に応じた周波数で出力し、出力タイミングにおける周波数で音像変化を行うものである。
本実施の形態によれば、ドライバーによる駆動系デバイスの操作に応じた周波数で音像変化を行うことで、心拍数が大きく変化することなく覚醒度向上効果を得ることができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第1から第5のいずれかの実施の形態による運転支援装置において、車両が駆動モータによって走行するものである。
本実施の形態によれば、エンジン音が無い駆動モータによって走行する車両において、心拍数が大きく変化することなく覚醒度向上効果を得ることができ、走行時に擬似エンジン音を発することで、風切り音、ロードノイズなどの走行音、又はインバータが発する高周波による音による生理的な影響を低減できる。
【実施例
【0015】
以下本発明の一実施例による運転支援装置について説明する。
図1は本実施例による運転支援装置を機能実現手段で表したブロック図である。
本実施例による運転支援装置は、内燃機関によるエンジンを用いずに、駆動モータ10によって走行する電気自動車や燃料電池自動車に適しているが、エンジン及び駆動モータ10を択一的に用いるハイブリッド自動車における駆動モータ10での走行時にも有効である。
本実施例による運転支援装置は、走行状態検出手段1、擬似エンジン音生成手段2、擬似エンジン音出力手段3、出力タイミング決定手段4、及び音像変化手段5を有している。
走行状態検出手段1は、例えば駆動モータ10の回転数やトルクから走行状態を検出する。車両の走行に用いる駆動モータ10の回転数によって車両速度を検出でき、駆動モータ10のトルクによって、車両の加速・減速状態や路面の傾斜状態を検出できる。
擬似エンジン音生成手段2は、内燃機関であるエンジン音を生成するもので、走行状態検出手段1で検出される走行状態に応じた周波数を生成する。すなわち、駆動モータ10の回転数に応じた周波数を生成することで、車両速度に応じた擬似エンジン音を生成することができる。また、駆動モータ10のトルクに応じた周波数を生成することで、車両の加速・減速状態や路面の傾斜状態に応じた擬似エンジン音を生成することができる。
擬似エンジン音出力手段3は、擬似エンジン音生成手段2で生成した擬似エンジン音をスピーカ11に対して出力する。スピーカ11は車両内に配置され、少なくとも一対の音源がドライバーに対して左右又は上下に配置されることが好ましい。
出力タイミング決定手段4は、覚醒低下の検出/予測手段12からの信号によって出力タイミングを決定する。覚醒低下の検出/予測手段12は、ドライバーの眠気や居眠り状態を検知し又は予測する。覚醒低下の検出/予測手段12としては、例えば瞳孔検知センサによる検知、生体信号を検知して体表脈動の揺らぎ解析による検知、車線逸脱などの車両走行の状態からの予測、直線走行が継続するなどの道路状態からの予測などがある。
音像変化手段5は、出力タイミング決定手段4で決定したタイミングで擬似エンジン音による音像を変化させるものである。出力タイミングにおける車両の速度に応じた周波数で音像変化を行うことが好ましく、出力タイミングにおける車両の速度及びトルクに応じた周波数で音像変化を行うことが好ましい。
【0016】
音像変化手段5で音像変化を行うことで、擬似エンジン音出力手段3は、ドライバーに対して左右に配置したスピーカ11の音圧を左右交互に変化させ、又はドライバーに対して上下に配置したスピーカ11の音圧を上下交互に変化させる。音像変化は、ドライバーに対して斜め右上と斜め右下に、又はドライバーに対して斜め左下と斜め右上に変化させてもよい。このような斜め方向の音像変化は、左右方向の音像変化及び上下方向の音像変化によるものである。音像変化は、このようにドライバーに対して、左右方向及び上下方向の少なくともいずれかの方向を含むものであれば、更に前後方向を加えてもよい。
【0017】
図1では、走行状態検出手段1は、駆動モータ10の回転数やトルクを検出するものとして説明したが、駆動モータ10の回転数やトルクの検出に加えて、又は駆動モータ10の回転数やトルクの検出に代えて、ドライバーによる車両の駆動系デバイスの操作を検出してもよい。
駆動系デバイスの操作を検出する場合には、擬似エンジン音生成手段2では、駆動系デバイスの操作に応じた周波数を生成する。
走行状態検出手段1が、駆動モータ10の回転数やトルクの検出に加えて、ドライバーによる車両の駆動系デバイスの操作を検出して擬似エンジン音を生成することで、ドライバーの運転の意図を加味した車両の走行状態に応じた周波数を出力でき、出力タイミングにおける周波数で音像変化を行うことで、心拍数が大きく変化することなく覚醒度向上効果を得ることができる。
ここで、車両の駆動系デバイスは、例えば、加速デバイス、減速デバイス、及び走行モード変更デバイスであり、更に具体的にはアクセルペダル、ブレーキペダル、及びシフトレバーである。シフトレバーは、前進及び後進の選択以外に、出力を抑制するエコモードや回生ブレーキの強さを調整する回生設定モードの設定を行うものである。
【0018】
図2から図6を用いて本発明の実証実験の結果を説明する。
実験では、エンジン音の音像表現による覚醒度向上の効果を、ドライビングシミュレータ(以下、DS)を用いて検証した。
【0019】
実験シナリオ
本実験では、実験参加者の覚醒度を低下させた後に提示音となるエンジン音もしくは警報音を提示させた際の覚醒度変化を検証することとした。そのため、完全自動運転状態の車両に搭乗した状態を想定して、以下の実験シナリオとした。
ドライビングシミュレータソフトウェア:Foru8 UC-Win/Road DrivingSin
走行コース:片側3車線の直線高速道路
走行場面:夜間
室内照度:10lx以下
伴走車両:あり(ランダムに出現)
走行方法:自動運転状態で100km/h一定走行
走行時間:30分
走行開始後、25分時点で、ドライバーに提示し続けているエンジン音を後述する提示音に切り替え、提示音の提示前と提示後における覚醒度と心拍数の変化を評価した。なお、評価指標については後述する。
実験は、1回の走行につき提示音を提示出来る回数が1回と限られるため、実験参加者1人あたり5回とした。
【0020】
提示書ついて
図2は、本実験において提示したエンジン音と警報音の供試音のパターンを示している。
走行開始後25分時点で提示するエンジン音および警報音は、図2に示す5パターンとした。エンジン音はヘッドホン(SONY製 MDR-V6)を用いて実験参加者に提示した。基準となるエンジン音の音圧は65dBに調整した。また、提示音の提示における音圧の増加量、もしくは減少量は8dBとした。なお、バターン3の音像表現における最小音圧は0dBとし、音像が左右に移動したことを鮮明に表現するようにした。
提示音として用いるエンジン音はドライビングシミュレータから出力されるエンジン音を、PC(OS:Windows10)上でサンプリング周波数44.1kHzのステレオデータとしてサンプリングし、SoundEngine Free Ver.5.23を用いて音圧を調整した。また、警告音と警告音声はWaveGene Ver.1.50とWindows10のText-to-Speech機能を用いて生成し、SoundEngine Freeで編集した。提示音の音圧は73dBとした。
提示音の提示は、1回の走行につきランダムに選んだ1種類とした。また、実験参加者への提示音の提示順番については、実験参加者毎にカウンターバランスをとるように配慮し、提示順による学習効果の影響を相殺するようにした。
【0021】
評価指標
本実験における覚醒度の変化を検証するために、主観的指標と客観的指標の2種類を用いた。
主観的評価指標は、KSS(Kalorinska Sleepiness Scale)を用いた。
図3はKSSの指標を示している。
評価は、実験中5分毎に、実験者が実験参加者にKSSのスケールを示した表を無言で提示し、実験参加者が指で指し示すことで評価してもらった。なお、実験参加者が完全に寝てしまい評価が困難な場合は、10点とした。
客観的評価指標は、心拍を用いた。これは、エンジン音の変化や警告音の提示による生理的な影響が生じることを想定して、心電のR-R間隔を計測し、1分間あたりの心拍数に換算した。そして、提示音提示前と提示後の心拍数の変化によって、実験参加者に与える刺激の大きさを評価した。心拍は、ユニオンツール製WHS-1とRRI Analyzer2を用いて、ノートPC上でリアルタイムにて計測した。なお、いずれの評価指標も10人の実験結果を平均して比較した。また、実験条件間の有意差を検定するために、Tukey-Kramerの多重比較による検定を用いた。
【0022】
実験参加者
実験参加者は18歳~22歳の男子学生10名とした。なお、サーカディアンリズムによる覚醒度変化を配慮して、実験実施時間帯を実験参加者毎に極力統一した。また、提示音による覚醒効果を正確に把握するため、実験当日の起床以降は覚醒作用があるカフェイン等を含有する飲食物の摂取を控えてもらうことを実験参加者へ教示した。本実験は、2020年11月から2021年2月の間に、著者の前所属先である一関工業高等専門学校 伊藤一也研究室内で実施され、実験参加者に同意書による実験趣旨および実験内容の説明、実験参加者からの同意を得た上で実験を実施した。
【0023】
KSSの変化についての結果
図4はKSSの平均値、図5はKSSの変化量を示すグラフである。
提示音を提示する前と提示した後のKSSについて、図4では10人の平均値を、図5では同様にKSSの変化量を示している。パターン5の警告音はKSSの変化量が最も大きく、パターン3の音像表現はパターン5とほぼ同等であった。エンジン音の音圧が増加して一定になるパターン1と、減少して一定になるパターン2では、KSSの変化量が小さかった。また、エンジン音の音圧を周期的に増減させたパターン4のKSSの変化量はパターン1とパターン3の中間程度であった。なお、提示音を提示する前にKSSの値が10点になった実験参加者が1名いたが、提示音を提示してもKSSの量が変化しなかった。
【0024】
心拍数の変化についての結果
図6は心拍数の変化を示すグラフである。
図6では、提示音を提示する前1分間と提示後1分間における心拍数の平均値の差に関する10人の平均値を示している。パターン3の音像表現はパターン5と比較して心拍数の増加が少ない傾向が確認された。パターン2の音圧減少は他のパターンとは異なり、心拍数が減少する傾向が示された。なお、検定の結果、有意な差は認められなかった。
【0025】
聴取者に与える影響について
主観的な覚醒度ではエンジン音の音像表現は警告音の提示と同程度の覚醒効果が示されたが、心拍数の変化に有意性は見られなかった。また、提示音を提示する前より提示した後に心拍数が1割以上上昇した実験参加者の人数は、パターン5の警報音が6人に対し、パターン3の音像表現は2人であった。この背景としては、刺激に対する定位反射(Orienting Reflex、以下OR)および防御反射(Defensive Reflex、以下DR)の違いが考えられる。ORは刺激の新しさに対する興味や関心によって知覚の感受性が高まることで情報取得量および情報処理量が増加し、心拍の抑制が関連することが示されている。また、DRは刺激に対する知覚の感受性を低下させ、心拍の促進が関連することが示されている。このことにより、エンジン音の音像変化はORによる情報処理量の増大に伴い覚醒度が向上する効果を有する可能性があると考えられる。一方、エンジン音に対する興味や関心の度合いによって、刺激に対する反応がORなのかDRなのかが異なる可能性も考えられる。また、実車を用いた実験においては、ドライビングシミュレータ実験でORが生じた実験参加者であってもDRが生じる可能性も考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明による運転支援装置は、駆動モータによって走行する電気自動車や燃料電池自動車に特に適している。
【符号の説明】
【0027】
1 走行状態検出手段
擬似エンジン音生成手段
擬似エンジン音出力手段
4 出力タイミング決定手段
5 音像変化手段
10 駆動モータ
11 スピーカ
12 覚醒低下の検出/予測手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6