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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-26
(45)【発行日】2025-10-06
(54)【発明の名称】医用システムおよび記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/58 20240101AFI20250929BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20250929BHJP
【FI】
A61B6/58 500Z
A61B6/03 573
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024063670
(22)【出願日】2024-04-10
【審査請求日】2024-04-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】319011672
【氏名又は名称】ジーイー・プレシジョン・ヘルスケア・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100151286
【弁理士】
【氏名又は名称】澤木 亮一
(72)【発明者】
【氏名】星野 耕一
(72)【発明者】
【氏名】今井 靖浩
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-119375(JP,A)
【文献】特開2014-128456(JP,A)
【文献】特開2024-013138(JP,A)
【文献】特開2001-070297(JP,A)
【文献】特開昭54-022192(JP,A)
【文献】特開2022-103615(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064446(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0311917(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線発生装置と、
前記X線発生装置から照射されたX線を検出する検出器と、
1つ又は複数のプロセッサであって、
所定のキャリブレーションスキャンが実行されるたびに、前記検出器で検出されたX線のデータに基づいて、前記X線発生装置から照射されたX線の特性値を計算すること、
前記特性値の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうか判断すること
を実行する1つ又は複数のプロセッサと
を含む、医用システムであって、
前記医用システムは、管電圧を第1の管電圧と第2の管電圧との間で交互に切り替えながら前記所定のキャリブレーションスキャンを定期的に実行し、
前記特性値は、第1の基準物質の吸収係数と、第2の基準物質の吸収係数とを含む、医用システム。
【請求項2】
前記1つ又は複数のプロセッサは、前記所定のキャリブレーションスキャンが実行されるたびに、第1の基準物質の吸収係数と、第2の基準物質の吸収係数を計算する、請求項1に記載の医用システム。
【請求項3】
前記1つ又は複数のプロセッサは、
アラートを出力するかどうかを判断するための基準となる第1の基準吸収係数を計算すること、
前記第1の基準吸収係数と前記第1の基準物質の吸収係数との第1の差を計算すること、および
前記第1の差と第1の閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断すること
を実行する、請求項2に記載の医用システム。
【請求項4】
前記1つ又は複数のプロセッサは、
アラートを出力するかどうかを判断するための基準となる第2の基準吸収係数を計算すること、
前記第2の基準吸収係数と前記第2の基準物質の吸収係数との第2の差を計算すること、および
前記第2の差と第2の閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断すること
を実行する、請求項3に記載の医用システム。
【請求項5】
前記1つ又は複数のプロセッサは、前記所定のキャリブレーションスキャンを実行するたびに、
過去に実行された前記所定のキャリブレーションスキャンにより得られた第1の基準物質の吸収係数に基づいて、前記第1の基準吸収係数を計算すること、又は
過去に実行された前記所定のキャリブレーションスキャンにより得られた第2の基準物質の吸収係数に基づいて、前記第2の基準吸収係数を計算すること
を実行する、請求項4に記載の医用システム。
【請求項6】
前記第1の基準物質は水であり、前記第2の基準物質はヨードである、又は
前記第1の基準物質は水であり、前記第2の基準物質はカルシウムである、請求項5に記載の医用システム。
【請求項7】
前記アラートが出力された場合、前記医用システムは、吸収係数の時間変化を表すデータをバックオフィスに送る、請求項1に記載の医用システム。
【請求項8】
前記第1の基準物質の吸収係数および前記第2の基準物質の吸収係数は、前記検出器の各列のチャネルごとに計算される、請求項1に記載の医用システム。
【請求項9】
前記医用システムは、複数のキャリブレーションスキャンを実行し、
前記複数のキャリブレーションスキャンのうちの1つのキャリブレーションスキャンが、前記所定のキャリブレーションスキャンとして実行される、請求項1に記載の医用システム。
【請求項10】
X線発生装置と、
前記X線発生装置から照射されたX線を検出する検出器と、
1つ又は複数のプロセッサと
を含む医用システムに含まれる又は前記医用システムと通信可能である非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、
前記記憶媒体に記憶された命令が、前記1つ又は複数のプロセッサによって実行されると、前記1つ又は複数のプロセッサに、
所定のキャリブレーションスキャンが実行されるたびに、前記検出器で検出されたX線のデータに基づいて、前記X線発生装置から照射されたX線の特性値を計算すること、
前記特性値の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうか判断すること
を実行させ、
前記医用システムは、管電圧を第1の管電圧と第2の管電圧との間で交互に切り替えながら前記所定のキャリブレーションスキャンを定期的に実行し、
前記特性値は、第1の基準物質の吸収係数と、第2の基準物質の吸収係数とを含む、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を照射する医用システム、および当該医用システムを制御するための命令が記録された記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体を非侵襲的に撮影する医用システムとしてCTシステムが知られている。CTシステムは、短いスキャン時間で被検体の断層画像を取得することができるので、病院などの医療施設に普及している。
【0003】
CTシステムは、X線管の陰極-陽極管に所定の電圧を印加し、X線を発生させる。発生したX線は被検体を透過して検出器で検出される。CTシステムは、検出器で検出されたデータに基づいて、被検体のCT画像を再構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6031618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CTシステムの撮影技術として、SECT(Single Energy CT)が知られている。SECTは、X線管の陰極-陽極管に所定の電圧(例えば、120kV)を印加し、X線を発生させ、被検体のCT画像を得る方法である。しかし、SECTでは、異なる物質であってもCT値が近い値になることがあり、異なる物質の同定が難しい場合がある。
【0006】
そこで、DECT(Dual Energy CT)の技術が研究、開発されている。DECTは、異なるエネルギー領域のX線を利用して物質の弁別を行うことができる技術であり、臨床現場での診断に有益な画像を取得することができ、広く普及し始めている。DECTの技術では、X線管の管電圧を、低い管電圧と高い管電圧との間で切り替えるkVスイッチング技術が知られている。
【0007】
一方、DECTのkVスイッチング法による物質の弁別精度は、X線発生装置(例えば、X線管、ジェネレータなど)の経年劣化によって低下する。したがって、物質の弁別精度を低下させないようにするために、CTシステムのユーザは、X線発生装置などの経年劣化をできるだけ早急に知ることが重要となる。しかし、X線発生装置の劣化を検出することは行われておらず、CTシステムのユーザは、X線発生装置の劣化がCT画像にノイズやアーチファクトとして現れることによって、X線発生装置の劣化に気が付く。したがって、CT画像の画質が低下する前に(CT画像にノイズやアーチファクトが現れる前に)、X線発生装置に経年劣化が発生している恐れがあることをユーザに知らせる技術が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、X線発生装置と、
前記X線発生装置から照射されたX線を検出する検出器と、
1つ又は複数のプロセッサであって、
所定のキャリブレーションスキャンが実行されるたびに、前記検出器で検出されたX線のデータに基づいて、前記X線発生装置から照射されたX線の特性値を計算すること、
前記特性値の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうか判断すること
を実行する1つ又は複数のプロセッサと
を含む、医用システムである。
【0009】
また、本発明の第2の観点は、X線発生装置と、
前記X線発生装置から照射されたX線を検出する検出器と、
1つ又は複数のプロセッサと
を含む医用システムに含まれる又は前記医用システムと通信可能である非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、
前記記憶媒体に記憶された命令が前記1つ又は複数のプロセッサによって実行されると、前記1つ又は複数のプロセッサに、
所定のキャリブレーションスキャンが実行されるたびに、前記検出器で検出されたX線のデータに基づいて、前記X線発生装置から照射されたX線の特性値を計算すること、
前記特性値の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうか判断すること
を実行させる、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、前記検出器で検出されたX線の情報を含むデータに基づいて、前記X線発生装置から照射されたX線の特性値を計算し、前記特性値の経時的な変化に基づいてアラートを出力するかどうか判断される。したがって、特性値の経時的な変化が大きい場合にアラートが出力されるようにすることで、CT画像の画質が低下する前に、X線発生装置に劣化の徴候があることをユーザに知らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態におけるCTシステム10のブロック図である。
図2】各診療日に実行されるフローを示す図である。
図3】キャリブレーションの説明図である。
図4】診療日1において取得されたキャリブレーションデータの説明図である。
図5】吸収係数データg11の拡大図である。
図6】吸収係数データh11の拡大図である。
図7】診療日2に得られた第1の基準物質の吸収係数データg21を示す図である。
図8】診療日2に得られた第2の基準物質の吸収係数データh21を示す図である。
図9】ステップST20のフローの一例を示す図である。
図10図9のフローの説明図である。
図11】チャネル2に対してステップST201およびST202を実行するときの説明図である。
図12】チャネルjに対してステップST201およびST202を実行するときの説明図である。
図13】チャネルnに対してステップST201およびST202を実行するときの説明図である。
図14】第2の基準物質の吸収係数データに対してステップST20を実行するときの説明図である。
図15】診療日1~3に得られた第1の基準物質の吸収係数データg11~g31を示す図である。
図16】診療日1~3に得られた第2の基準物質の吸収係数データh11~h31を示す図である。
図17】ステップST20の説明図である。
図18】第2の基準物質の吸収係数データに対してステップST201~ST204を実行するときの説明図である。
図19】診療日iに得られた第1の基準物質の吸収係数データgi1を示す図である。
図20】診療日iに得られた第2の基準物質の吸収係数データhi1を示す図である。
図21】ステップST20の説明図である。
図22】CTシステムの稼働再開後のフローの説明図である。
図23】診療日pに得られた第1の基準物質の吸収係数データgp1を示す図である。
図24】診療日pに得られた第2の基準物質の吸収係数データhp1を示す図である。
図25】診療日qに得られた第1の基準物質の吸収係数データgq1を示す図である。
図26】診療日qに得られた第2の基準物質の吸収係数データhq1を示す図である。
図27】ステップST20の説明図である。
図28】第2の基準物質の吸収係数データに対してステップST201~ST204を実行するときの説明図である。
図29】複数列の検出器が使用された場合のステップST20のフローの一例を示す図である。
図30】診療日ごとに基準吸収係数を更新する場合のステップST20のフローの説明図である。
図31】診療日1~診療日iで取得された第1の基準物質の吸収係数データg11~gi1を示す図である。
図32】第2の実施形態で実施されるフローの説明図である。
図33】X線スペクトルの説明図である。
図34】診療日2で生成された低kVに対応するX線スペクトルSL2と、診療日2で生成された高kVに対応するX線スペクトルSH2を概略的に示す図である。
図35】ステップST60のフローの一例を示す図である。
図36図35のフローの説明図である。
図37】ステップST604~ST606の説明図である。
図38】診療日iで生成された低kVに対応するX線スペクトルSLiと、診療日iで生成された高kVに対応するX線スペクトルSHiを概略的に示す図である。
図39】ステップST60の説明図である。
図40】CTシステムの稼働再開後のフローの説明図である。
図41】診療日ごとにエネルギー基準値を計算する場合のステップST60のフローの説明図である。
図42】診療日1~診療日iで取得された低kVに対応するX線スペクトルSL1~SLを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、以下の形態に限定されることはない。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態におけるCTシステム10のブロック図である。
CTシステム10は、ガントリ102およびテーブル116を含んでいる。
【0014】
ガントリ102はボア107を有しており、そのボア107に被検体112が搬送され、被検体112がスキャンされる。
【0015】
ガントリ102には、X線発生装置104、フィルタ部103、前置コリメータ105、および検出器108などが取り付けられている。
【0016】
X線発生装置104は、X線管104Aと、ジェネレータ104Bとを含んでいる。ジェネレータ104Bは、X線管104Aに電力を供給する。X線管104Aは、陰極-陽極管に所定の電圧が印加されることにより、X線を出力する。X線管104は、XY面内において、回転軸206を中心とした経路上を回転することができるように構成されている。ここで、Z方向は体軸方向を表し、Y方向は鉛直方向(テーブル116の高さ方向)を表し、X方向は、Z方向およびY方向に対して垂直の方向を表している。本実施形態では、X線管104Aは、X線管に印加される管電圧が第1の管電圧と第2の管電圧との間で交互に切り替えることができるkVスイッチング方式に対応したX線管である。尚、本実施形態では、CTシステム10は1つのX線管104Aを備えているが、2つのX線管104Aを備えてもよい。
【0017】
フィルタ部103は、例えば、平板フィルタおよび/又はボウタイフィルタを含んでいる。
前置コリメータ105は、不要な領域にX線が照射されないようにX線の照射範囲を絞り込むための部材である。
【0018】
検出器108は複数の検出器素子202を含んでいる。複数の検出器素子202は、X線管104Aから照射され、患者などの被検体112を通過するX線106を検出する。したがって、X線検出器108は、ビューごとに投影データを取得することができる。
【0019】
検出器108により検出された投影データは、DAS214で収集される。DAS214は、収集した投影データに対して、サンプリング、デジタル変換などを含む所定の処理を実行する。処理された投影データは、コンピュータ216に送信される。コンピュータ216は、DAS214からのデータを記憶装置218に記憶する。記憶装置218は、プログラムや、プロセッサで実行される命令などを記録する1つ以上の記憶媒体を含むものである。記憶媒体は、例えば、1つ以上の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体とすることができる。記憶装置218は、例えば、ハードディスクドライブ、フロッピーディスクドライブ、コンパクトディスク読み出し/書き込み(CD-R/W)ドライブ、デジタル多用途ディスク(DVD)ドライブ、フラッシュドライブ、および/またはソリッドステート記録ドライブを含むことができる。
【0020】
コンピュータ216は1つ又は複数のプロセッサ217を含んでいる。コンピュータ216は、1つ又は複数のプロセッサを使用して、DAS214、X線コントローラ210、および/又はガントリモータコントローラ212に、コマンドおよびパラメータを出力し、データ取得および/または処理などのシステム動作を制御する。また、コンピュータ216は、1つ又は複数のプロセッサを使用して、後述するフローの各ステップにおいて、信号処理、データ処理、画像処理など、様々な処理を実行する。尚、図1では、1つ又は複数のプロセッサ217はコンピュータ216に含まれているが、1つ又は複数のプロセッサ217は、コンピュータ216と他の構成要素(例えば、X線コントローラ210、ガントリモータコントローラ212、テーブルコントローラ118など)に分散させるように設けられていてもよい。
【0021】
コンピュータ216には、オペレータコンソール220が結合されている。オペレータは、オペレータコンソール220を操作することにより、CTシステム10の動作に関連する所定のオペレータ入力をコンピュータ216に入力することができる。コンピュータ216は、オペレータコンソール220を介して、コマンドおよび/またはスキャンパラメータを含むオペレータ入力を受信し、そのオペレータ入力に基づいてシステム動作を制御する。オペレータコンソール220は、オペレータがコマンドおよび/またはスキャンパラメータを指定するためのキーボード(図示せず)またはタッチスクリーンを含むことができる。
【0022】
X線コントローラ210は、コンピュータ216からの命令に基づいてX線発生装置104を制御する。また、ガントリモータコントローラ212は、コンピュータ216からの命令に基づいて、X線管104Aおよび検出器108などの構成要素が回転するように、ガントリモータを制御する。
【0023】
図1は、1つのオペレータコンソール220のみを示しているが、2つ以上のオペレータコンソールをコンピュータ216に結合してもよい。
【0024】
また、CTシステム10は、例えば、有線ネットワークおよび/又は無線ネットワークを介して、遠隔に位置する複数のディスプレイ、プリンタ、ワークステーション、および/もしくは同様のデバイスが結合されるようにしてもよい。
【0025】
一実施形態では、例えば、CTシステム10は、画像保管通信システム(PACS)224を含んでいてもよいし、PACS224に結合されていてもよい。例示的な実施態様では、PACS224は、放射線科情報システム、病院情報システム、および/または内部もしくは外部ネットワーク(図示せず)などの遠隔システムに結合されていてもよい。
【0026】
コンピュータ216は、テーブルモータコントローラ118に、テーブル116を制御するための命令を供給する。テーブルモータコントローラ118は、受け取った命令に基づいて、テーブル116が移動するように、テーブルモータを制御することができる。例えば、テーブルモータコントローラ118は、被検体112が撮影に適した位置に位置決めされるように、テーブル116を移動させることができる。
【0027】
前述のように、DAS214は、検出器素子202によって取得された投影データをサンプリングしてデジタル変換する。その後、画像再構成器230が、サンプリングされデジタル変換されたデータを使用して画像を再構成する。画像再構成器230は1つ又は複数のプロセッサを含んでおり、このプロセッサが画像再構成の処理を実行することができる。図1では、画像再構成器230は、コンピュータ216とは別個の構成要素として示されているが、画像再構成器230は、コンピュータ216の一部を形成するものであってもよい。また、コンピュータ216が、画像再構成器230の1つまたは複数の機能を実施してもよい。さらに、画像再構成器230は、CTシステム10から離れた位置に設けられ、有線ネットワークまたは無線ネットワークを使用してCTシステム10に動作可能に接続されるようにしてもよい。
【0028】
画像再構成器230は、再構成された画像を記憶装置218に記憶することができる。また、画像再構成器230は、再構成された画像をコンピュータ216に送信してもよい。コンピュータ216は、再構成された画像および/または患者情報を、コンピュータ216および/または画像再構成器230に通信可能に結合された表示装置232に送信することができる。
【0029】
本明細書で説明される様々な方法およびプロセスは、CTシステム10に含まれる又はCTシステム10と通信可能である非一時的なコンピュータ可読記憶媒体に実行可能命令として記録することができる。この実行可能命令は、1つの記憶媒体に記録されていてもよいし、複数の記憶媒体に分散させて記録されるようにしてもよい。CTシステム10に備えられる1つ以上のプロセッサは、記憶媒体に記録された命令に従って、本明細書で説明される様々な方法、ステップ、およびプロセスを実行する。
【0030】
CTシステム10は上記のように構成されている。本実施形態のCTシステムは、DECT(Dual Energy CT)のkVスイッチング法」に対応しており、物質の弁別を行うことができる。しかし、DECTのkVスイッチング法による物質の弁別精度は、X線発生装置の経年劣化によって低下する。したがって、物質の弁別精度を低下させないようにするために、CTシステムのユーザは、X線発生装置の経年劣化をできるだけ早急に知ることが重要となる。しかし、現状はX線発生装置の劣化を検出することは行われていない。したがって、CTシステムのユーザは、CT画像の画質が低下していることを視覚的に認識することによって、X線発生装置の劣化に気が付く。このため、CT画像の画質が低下する前に、X線発生装置に経年劣化が発生している恐れがあることをユーザに知らせる技術が要求されている。
【0031】
そこで、発明者等は、鋭意研究し、CTシステムのユーザがCT画像の画質低下を視覚的に認識する前に、ユーザに、X線発生装置に経年劣化が発生している恐れがあることを報知する方法を考え出した。以下に、本方法について説明する。
【0032】
本実施形態について具体的に説明する前に、本実施形態の特徴を要約すると、以下の通りである。本実施形態では、定期的にキャリブレーションスキャンを実行する。プロセッサは、キャリブレーションスキャンが実行されることにより検出器108で検出されたX線のデータに基づいて、X線発生装置104から照射されたX線の特性値を計算する。そして、プロセッサは、特性値の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうかを判断する。したがって、特性値の経時的な変化が大きい場合にアラートが出力されるようにすることで、CT画像の画質が低下する前に、X線発生装置に劣化の徴候があることをユーザに知らせることができる。
【0033】
また、キャリブレーションスキャンは、安定したCT画像を得るために、定期的に(例えば、毎朝)実行することが推奨されているスキャンである。したがって、これまで通りにキャリブレーションスキャンを定期的に実行していけば、必要に応じてアラートが出力され、ユーザに知らせることができる。このため、キャリブレーションスキャンとは別に、追加のスキャンを実行しなくても、CT画像の画質が低下する前に、X線発生装置に劣化の徴候があることをユーザに知らせることができる。
【0034】
以下に、本実施形態のCTシステムにおいて、X線の特性値の経時的な変化に基づいてアラートを出力するかどうかを判断する方法について説明する。尚、以下では、X線の特性値として、2つの特性値、即ち、第1の基準物質の吸収係数および第2の基準物質の吸収係数を考えることにする。
【0035】
図2は、各診療日に実行されるフローを示す図である。以下では、説明の便宜上、診療日にキャリブレーションスキャンが一回実行する例を取り上げて、本方法を説明するが、キャリブレーションスキャンが実行される頻度は、一日一回に限定されることはない。例えば、キャリブレーションスキャンは、一日に複数回(例えば、朝と昼)実行されてもよいし、キャリブレーションスキャンが実行されない日を定期的に設定してもよい。
【0036】
先ず、診療日1について説明する。診療日1では、フロー100が実行される。以下、フロー100について説明する。
【0037】
ステップST11では、X線管104Aに印加される管電圧が第1の管電圧(低kV)と第2の管電圧(高kV)との間で交互に切り替えられるkVスイッチングを使用したキャリブレーションスキャンが実行される。
【0038】
図3は、キャリブレーションの説明図である。
kVスイッチング法のキャリブレーションでは、例えば、3つのパラメータ(回転速度,コーン角,管電流)の値の組合せとしてz通りの組合せP1~Pzが用意されている。そして、z通りの組合せP1~PzをプリセットしてCTシステムに保存しておき、各組合せに対してキャリブレーションスキャンS1~Szが実行される。キャリブレーションスキャンを実行することにより、検出器108でX線が検出される。プロセッサは、検出器108で検出されたX線のデータに基づいて、キャリブレーションデータを生成する。図2では、z個のプリセットP1~Pzに対して、z個のキャリブレーションデータD1~Dzが生成された例が示されている。各キャリブレーションデータには、例えば、吸収係数、ビームハードニング用の補正係数など、様々な係数などが含まれているが、ここでは、キャリブレーションデータとして、本実施形態の説明に関係する吸収係数を表すキャリブレーションデータのみを考えることにする。
【0039】
尚、吸収係数を解析する場合、全てのキャリブレーションデータD1~Dzの吸収係数を解析する必要は無く、キャリブレーションスキャンS1~Szのうちの特定のキャリブレーションスキャンで得られたキャリブレーションデータの吸収係数の経時的な変化を解析すればよい。そこで、以下では、キャリブレーションスキャンS1により得られたキャリブレーションデータD1にのみ着目し、吸収係数を説明することにする。
【0040】
吸収係数には、第1の基準物質の吸収係数と、第2の基準物質の吸収係数が含まれている。したがって、キャリブレーションスキャンを実行することにより、第1の基準物質の吸収係数と、第2の基準物質の吸収係数が計算される。2つの基準物質は、例えば、水とヨードの組合せや、水とカルシウムの組合せが考えられる。図4は、診療日1において取得されたキャリブレーションデータの説明図である。
【0041】
図4には、診療日1において取得されたキャリブレーションデータの第1の基準物質の吸収係数を表す吸収係数データg11~g1mと、第2の基準物質の吸収係数を表す吸収係数データh11~h1mの概略が示されている。
【0042】
吸収係数データg11は、検出器の第1列の各チャネルにおける第1の基準物質の吸収係数を表しており、吸収係数データg12~g1mは、それぞれ、検出器の第2列~第m列の各チャネルにおける第1の基準物質の吸収係数を表している。また、吸収係数データh11は、検出器の第1列の各チャネルにおける第2の基準物質の吸収係数を表しており、吸収係数データh12~h1mは、それぞれ、検出器の第2列~第m列の各チャネルにおける第2の基準物質の吸収係数を表している。例えば、m=64、即ち、検出器が64列の多列構造を有している場合、第1の基準物質については、64個の吸収係数データg11~g1,64が生成され、第2の基準物質については64個の吸収係数データh11~h1,64が生成される。尚、以下では、吸収係数データの説明を簡略化するため、m=1、即ち、検出器が1列構造を有している場合を考えることにする。したがって、第1の基準物質については、吸収係数データg11のみを考え、第2の基準物質については吸収係数データh11のみを考えることにする。
【0043】
図5は、吸収係数データg11の拡大図であり、図6は、吸収係数データh11の拡大図である。
尚、以下に示す吸収係数データの波形は、実施形態を説明するために示されたものであり、実際の波形とは異なっていることに留意されたい。
【0044】
図5では、検出器のチャネル1~nにおける第1の基準物質の吸収係数のうち、代表して、チャネル1、チャネル2、チャネルj、および、チャネルnの吸収係数のみを示している。チャネル1では、吸収係数は「a11」で示されており、チャネル2では、吸収係数は「a12」で示されており、チャネルjでは、吸収係数は「a1j」で示されており、チャネルnでは、吸収係数は「a1n」で示されている。
【0045】
図6では、検出器のチャネル1~nにおける第2の基準物質の吸収係数のうち、代表して、チャネル1、チャネル2、チャネルj、および、チャネルnの吸収係数のみを示している。チャネル1では、吸収係数は「b11」で示されており、チャネル2では、吸収係数は「b12」で示されており、チャネルjでは、吸収係数は「b1j」で示されており、チャネルnでは、吸収係数は「b1n」で示されている。
【0046】
本実施形態では、診療日1に計算された第1の基準物質の吸収係数a11~a1nは、アラートを出力するかどうかを判断するための基準となる第1の基準吸収係数として保存される。また、診療日1に計算された第2の基準物質の吸収係数b11~b1nは、アラートを出力するかどうかを判断するための基準となる第2の基準吸収係数として保存される。
【0047】
ステップST11が実行された後は、ステップST12に進み、診療日1の検査スケジュールに従って被検体の検査が実行される。
【0048】
次に、診療日2について説明する。診療日2では、フロー200が実行される。
先ず、ステップST11において、キャリブレーションスキャンが実行される。プロセッサは、キャリブレーションスキャンで得られたデータに基づいて、キャリブレーションデータ(吸収係数データなど)を生成する。
【0049】
図7は、診療日2に得られた第1の基準物質の吸収係数データg21を示す図であり、図8は、診療日2に得られた第2の基準物質の吸収係数データh21を示す図である。
【0050】
尚、図7には、診療日2で得られた吸収係数データg21の他に、診療日1で得られた吸収係数データg11も示されている。また、図8には、診療日2で得られた吸収係数データh21の他に、診療日1で得られた吸収係数データh11も示されている。
ステップST11を実行した後、ステップST20に進む。
【0051】
ステップST20では、吸収係数の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。
図9は、ステップST20のフローの一例を示す図、図10は、図9のフローの説明図である。図10には、図7に示す第1の基準物質の吸収係数データg11およびg21が示されている。
【0052】
ステップST201において、プロセッサは、基準吸収係数(診療日1の吸収係数)と診療日2の吸収係数との差を計算する。具体的には、プロセッサは、チャネル1における診療日1の基準吸収係数a11と診療日2の吸収係数a21との差Δa21を計算する。吸収係数の差Δa21を計算したら、ステップST202に進む。
【0053】
ステップST202では、プロセッサは、Δa21と閾値TH1とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、Δa21が閾値TH1を超えた場合(Δa21>TH1)、プロセッサは、吸収係数の経時的な変化が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST21に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0054】
一方、吸収係数の差Δa21が閾値TH1を超えていない場合(Δa21≦TH1)、吸収係数の経時的な変化は小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST203に進む。
【0055】
ステップST203では、プロセッサは、全チャネルに対してステップST201およびST202が実行されたかどうかを判断する。ここでは、チャネル1に対してステップST201およびST202が実行されたが、他のチャネル2~チャネルnに対しては、まだ実行されていない。したがって、ステップST204に進み、プロセッサは、チャネルをチャネル1からチャネル2にインクリメントする。チャネルがインクリメントされると、ステップST201に戻る。
【0056】
図11は、チャネル2に対してステップST201およびST202を実行するときの説明図である。
ステップST201において、プロセッサは、チャネル2における診療日1の吸収係数a12と診療日2の吸収係数a22との差Δa22を計算する。吸収係数の差Δa22を計算したら、ステップST202に進む。
【0057】
ステップST202では、プロセッサは、Δa22と閾値TH1とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、Δa22が閾値TH1を超えた場合(Δa22>TH1)、プロセッサは、吸収係数の経時的な変化が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST21に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0058】
一方、吸収係数の差Δa22が閾値TH1を超えていない場合(Δa22≦TH1)、吸収係数の経時的な変化は小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST203に進む。
【0059】
ステップST203では、プロセッサは、全チャネルに対してステップST201およびST202が実行されたかどうか判断する。ここでは、チャネル1および2に対してステップST201およびST202が実行されたが、他のチャネル3~チャネルnに対しては、まだ実行されていない。したがって、ステップST204に進み、プロセッサは、チャネルをチャネル2からチャネル3にインクリメントする。そして、ステップST201に戻る。
【0060】
以下同様に、プロセッサは、ステップST204でチャネルがインクリメントされるたびに、ステップST201に戻り、ステップST201~ST204のループを繰り返し実行する(図12参照)。
【0061】
図12は、チャネルjに対してステップST201およびST202を実行するときの説明図である。
ステップST201において、プロセッサは、チャネルjにおける診療日1の吸収係数a1jと診療日2の吸収係数a2jとの差Δa2jを計算する。吸収係数の差Δa2jを計算したら、ステップST202に進む。
【0062】
ステップST202では、プロセッサは、Δa2jと閾値TH1とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、Δa2jが閾値TH1を超えた場合(Δa2j>TH1)、プロセッサは、吸収係数の経時的な変化が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST21に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0063】
一方、吸収係数の差Δa2jが閾値TH1を超えていない場合(Δa2j≦TH1)、吸収係数の経時的な変化が小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST203に進む。
【0064】
以下同様に、プロセッサは、ステップST204でチャネルがインクリメントされるたびに、ステップST201に戻り、ステップST201~ST204のループを繰り返し実行する(図13参照)。
【0065】
図13は、チャネルnに対してステップST201およびST202を実行するときの説明図である。
ステップST201において、プロセッサは、チャネルnにおける診療日1の吸収係数a1nと診療日2の吸収係数a2nとの差Δa2nを計算する。吸収係数の差Δa2nを計算したら、ステップST202に進む。
【0066】
ステップST202では、プロセッサは、Δa2nと閾値TH1とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、Δa2nが閾値TH1を超えた場合(Δa2n>TH1)、プロセッサは、吸収係数の経時的な変化が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST21に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0067】
一方、吸収係数の差Δa2nが閾値TH1を超えていない場合(Δa2n≦TH1)、吸収係数の経時的な変化が小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST203に進む。
【0068】
ステップST203では、プロセッサは、全チャネルに対してステップST201~ST204が実行されたかどうか判断する。ここでは、全チャネル1~nに対してステップST201~ST204が実行されている。したがって、ステップST205に進む。
【0069】
ステップST205では、プロセッサは、第1および第2の基準物質の両方の吸収係数の解析が終了したかどうか判断する。ここでは、第1の基準物質の吸収係数は解析したが、第2の基準物質の吸収係数は解析されていない。したがって、ステップST201に戻る。
【0070】
ステップST201に戻ると、プロセッサは、第1の基準物質に対して説明したように、第2の基準物質の吸収係数データh11およびh21図8参照)に対して、ステップST201~ST204の処理を実行する。
【0071】
図14は、第2の基準物質の吸収係数データに対してステップST20を実行するときの説明図である。図14には、図8に示す第2の基準物質の吸収係数データh11およびh21が示されている。
【0072】
ステップST201において、プロセッサは、チャネル1における診療日1の基準吸収係数b11と診療日2の吸収係数b21との差Δb21を計算する。吸収係数の差Δb21を計算したら、ステップST202に進む。
【0073】
ステップST202では、プロセッサは、Δb21と閾値TH2とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、Δb21が閾値TH2を超えた場合(Δb21>TH2)、プロセッサは、吸収係数の経時的な変化が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST21に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0074】
一方、吸収係数の差Δb21が閾値TH2を超えていない場合(Δb21≦TH2)、吸収係数の経時的な変化が小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST203に進む。
【0075】
ステップST203では、プロセッサは、全チャネルに対してステップST201およびST202が実行されたかどうかを判断する。ここでは、チャネル1に対してステップST201およびST202が実行されたが、他のチャネル2~チャネルnに対しては、まだ実行されていない。したがって、ステップST204に進み、プロセッサは、チャネルをチャネル1からチャネル2にインクリメントする。チャネルがインクリメントされると、ステップST201に戻る。
【0076】
以下同様に、ステップST201~ST204のループが実行される。そして、吸収係数データh11およびh21のチャネル1~nに対してスステップST201~ST204の処理を実行している間に、あるチャネルにおいて、吸収係数の差が閾値TH2を超えた場合、アラートを出力すると判断する。
【0077】
一方、プロセッサは、第2の基準物質の吸収係数データh11およびh12の全チャネルに対してステップST201~ST204を実行したが、どのチャネルにおいても吸収係数の差が閾値TH2以下である場合、ステップST205に進む。
【0078】
ステップST205では、プロセッサは、第1および第2の基準物質の両方の吸収係数の解析が終了したかどうか判断する。ここでは、第1および第2の基準物質の両方の吸収係数の解析が終了している。したがって、プロセッサは、アラートの出力は不要であると判断して、ステップST20を終了する。この場合、ステップST22に進み、診療日2の検査スケジュールに従って、被検体の検査が実行される。
【0079】
本実施形態では、診療日2では、アラートは出力されなかったとする。したがって、ステップST20の終了後、被検体の検査が実行される。
図2に戻って説明を続ける。
【0080】
次に、診療日3について説明する。診療日3では、診療日2と同様に、フロー200が実行される。
先ず、ステップST11において、キャリブレーションスキャンが実行される。プロセッサは、キャリブレーションスキャンで得られたデータに基づいて、キャリブレーションデータ(吸収係数データなど)を生成する。
【0081】
図15には、診療日1~3に得られた第1の基準物質の吸収係数データg11~g31が示されており、図16には、診療日1~3に得られた第2の基準物質の吸収係数データh11~h31が示されている。
【0082】
ステップST11を実行した後、ステップST20に進む。
ステップST20では、吸収係数の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。
【0083】
図17は、ステップST20の説明図である。
ステップST201において、プロセッサは、チャネル1における診療日1の基準吸収係数a11と診療日2の吸収係数a31との差Δa31を計算する。吸収係数の差Δa31を計算したら、ステップST202に進む。
【0084】
ステップST202では、プロセッサは、Δa31と閾値TH1とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、Δa31が閾値TH1を超えた場合(Δa31>TH1)、プロセッサは、吸収係数の経時的な変化が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST21に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0085】
一方、吸収係数の差Δa31が閾値TH1を超えていない場合(Δa31≦TH1)、吸収係数の経時的な変化が小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST203に進む。
【0086】
ステップST203では、プロセッサは、全チャネルに対してステップST201およびST202が実行されたかどうかを判断する。ここでは、チャネル1に対してステップST201およびST202が実行されたが、他のチャネル2~チャネルnに対しては、まだ実行されていない。したがって、ステップST204に進み、プロセッサは、チャネルをチャネル1からチャネル2にインクリメントする。チャネルがインクリメントされると、ステップST201に戻る。
【0087】
以下同様に、ステップST201~ST204のループが実行される。そして、吸収係数データg11およびg31のチャネル1~nに対してステップST201~ST204の処理を実行している間に、あるチャネルにおいて、吸収係数の差が閾値TH1を超えた場合、アラートを出力すると判断する。
【0088】
一方、プロセッサは、第1の基準物質の吸収係数データg11およびg31の全チャネルに対してステップST201~ST204を実行したが、どのチャネルにおいても吸収係数の差が閾値TH1以下である場合、ステップST205に進む。ステップST205では、プロセッサは、第1および第2の基準物質の両方の吸収係数の解析が終了したかどうか判断する。ここでは、第1の基準物質の吸収係数の解析は終了したが、第2の基準物質の吸収係数は解析されていない。したがって、ステップST201に戻る。
【0089】
ステップST201に戻ると、プロセッサは、第2の基準物質の吸収係数に対して、ステップST201~ST204の処理を実行する。
【0090】
図18は、第2の基準物質の吸収係数データに対してステップST201~ST204を実行するときの説明図である。
【0091】
ステップST201において、プロセッサは、チャネル1における診療日1の吸収係数b11と診療日2の吸収係数b21との差Δb21を計算する。吸収係数の差Δb31を計算したら、ステップST202に進む。
【0092】
ステップST202では、プロセッサは、Δb31と閾値TH2とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、Δb31が閾値TH2を超えた場合(Δb31>TH2)、プロセッサは、吸収係数の経時的な変化が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST21に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0093】
一方、吸収係数の差Δb31が閾値TH2を超えていない場合(Δb31≦TH2)、吸収係数の経時的な変化が小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST203に進む。
【0094】
ステップST203では、プロセッサは、全チャネルに対してステップST201およびST202が実行されたかどうかを判断する。ここでは、チャネル1に対してステップST201およびST202が実行されたが、他のチャネル2~チャネルnに対しては、まだ実行されていない。したがって、ステップST204に進み、プロセッサは、チャネルをチャネル1からチャネル2にインクリメントする。チャネルがインクリメントされると、ステップST201に戻る。
【0095】
以下同様に、ステップST201~ST204のループが実行される。そして、吸収係数データh11およびh31のチャネル1~nに対してステップST201~ST204の処理を実行している間に、あるチャネルにおいて、吸収係数の差が閾値TH2を超えた場合、アラートを出力すると判断する。
【0096】
一方、プロセッサは、第2の基準物質の吸収係数データh11およびh13の全チャネルに対してステップST201~ST204を実行したが、どのチャネルにおいても吸収係数の差が閾値TH2以下である場合、ステップST205に進む。
【0097】
ステップST205では、プロセッサは、第1および第2の基準物質の両方の吸収係数の解析が終了したかどうか判断する。ここでは、第1の基準物質および第2の基準物質の両方の吸収係数の解析が終了している。したがって、プロセッサは、アラートの出力は不要であると判断して、ステップST20を終了する。この場合、ステップST22に進み、診療日3の検査スケジュールに従って、被検体の検査が実行される。
【0098】
本実施形態では、診療日3では、アラートは出力されなかったとする。したがって、ステップST20の終了後、被検体の検査が実行される。
【0099】
次に、診療日iについて説明する。診療日iでは、診療日2と同様に、フロー200が実行される。
ステップST11では、キャリブレーションスキャンが実行される。プロセッサは、キャリブレーションスキャンで得られたデータに基づいて、キャリブレーションデータ(吸収係数データなど)を生成する。図19には、診療日iに得られた第1の基準物質の吸収係数データgi1が示されており、図20には、診療日iに得られた第2の基準物質の吸収係数データhi1が示されている。
【0100】
ステップST11を実行した後、ステップST20に進む。
【0101】
ステップST20では、吸収係数の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。
【0102】
図21は、ステップST20の説明図である。
図21には、診療日1~診療日iにおいて取得された吸収係数データg11~gi1が示されている。
【0103】
ステップST201において、プロセッサは、チャネル1における診療日1の吸収係数a11と診療日iの吸収係数ai1との差Δai1を計算する。吸収係数の差Δai1を計算したら、ステップST202に進む。
【0104】
ステップST202では、プロセッサは、Δai1と閾値TH1とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、Δai1が閾値TH1を超えた場合(Δai1>TH1)、プロセッサは、吸収係数の経時的な変化が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST21に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0105】
一方、吸収係数の差Δai1が閾値TH1を超えていない場合(Δai1≦TH1)、吸収係数の経時的な変化が小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST203に進む。
【0106】
ここでは、チャネル1において計算された吸収係数の差Δai1が、Δai1>TH1を満たすとする。したがって、アラートが出力される。
【0107】
アラートが出力されると、ユーザは、例えば、サービスに点検11(図2参照)を依頼することができる。また、アラートが出力された場合、CTシステムは、吸収係数の時間変化を表すデータをバックオフィスに送り、バックオフィスで、吸収係数の時間変化を表すデータを解析するようにしてもよい。
【0108】
サービスによる点検11の結果、X線発生装置に障害が発生している又はX線発生装置が故障していると認められた場合、X線発生装置が修理又は交換される。CTシステムは、X線発生装置の修理又は交換の後、動作チェックが行われ、正常に動作することが確認できたら、CTシステムの稼働を再開する。図22は、CTシステムの稼働再開後のフローの説明図である。
ここでは、診療日iに点検等が完了し、次の診療日pにCTシステムの稼働が再開できたとする。
【0109】
以下、診療日pについて説明する。
診療日pでは、診療日1と同じフロー100が実行される。したがって、ステップST11において、キャリブレーションスキャンが実行される。プロセッサは、キャリブレーションスキャンで得られたデータに基づいて、キャリブレーションデータ(吸収係数データなど)を生成する。
【0110】
図23は、診療日pに得られた第1の基準物質の吸収係数データgp1を示す図であり、図24は、診療日pに得られた第2の基準物質の吸収係数データhp1を示す図である。
【0111】
吸収係数データgp1は、検出器の第1列の各チャネルにおける第1の基準物質の吸収係数を表している。また、吸収係数データhp1は、検出器の第1列の各チャネルにおける第2の基準物質の吸収係数を表している。図23および図24では、検出器のチャネル1~nにおける第1の基準物質の吸収係数のうち、代表して、チャネル1、チャネル2、チャネルj、および、チャネルnの吸収係数のみを示している。
【0112】
診療日1~診療日iでは、診療日1に取得された第1の基準物質の吸収係数a11~a1nが、診療日2~診療日iで取得された第1の基準物質の吸収係数(例えば、吸収係数a21、a31、ai1)の経時的な変化量を求めるための基準値として使用されていた。しかし、X線発生装置は診療日iに点検され、次の診療日pにCTシステムの稼働が再開されている。したがって、X線発生装置の点検前に取得された診療日1の吸収係数a11~a1nは、第1の基準物質の吸収係数の経時的な変化量を求めるための基準値として使用することはできない。そこで、プロセッサは、診療日pに取得された吸収係数ap1~apnを、第1の基準物質の吸収係数の経時的な変化量を求めるための新たな第1の基準値として保存する。
【0113】
同様に、プロセッサは、診療日pに取得された吸収係数bp1~bpnを、第2の基準物質の吸収係数の経時的な変化量を求めるための新たな第2の基準値として保存する。
【0114】
ステップST11が実行された後は、ステップST12に進み、被検体の検査が実行される。
【0115】
次に、診療日qについて説明する。
診療日qでは、診療日2と同様に、フロー200が実行される。したがって、ステップST11において、キャリブレーションスキャンが実行される。プロセッサは、キャリブレーションスキャンで得られたデータに基づいて、キャリブレーションデータ(吸収係数データなど)を生成する。図25には、診療日qに得られた第1の基準物質の吸収係数データgq1が示されており、図26には、診療日qに得られた第2の基準物質の吸収係数データhq1が示されている。
【0116】
ステップST11を実行した後、ステップST20に進む。
ステップST20では、吸収係数の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。
【0117】
図27は、ステップST20の説明図である。
ステップST201において、プロセッサは、チャネル1における診療日pの吸収係数ap1と診療日qの吸収係数aq1との差Δaq1を計算する。吸収係数の差Δaq1を計算したら、ステップST202に進む。
【0118】
ステップST202では、プロセッサは、Δaq1と閾値TH1とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、Δaq1が閾値TH1を超えた場合(Δaq1>TH1)、プロセッサは、吸収係数の経時的な変化が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST21に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0119】
一方、吸収係数の差Δaq1が閾値TH1を超えていない場合(Δaq1≦TH1)、吸収係数の経時的な変化が小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST203に進む。
【0120】
ステップST203では、プロセッサは、全チャネルに対してステップST201およびST202が実行されたかどうかを判断する。ここでは、チャネル1に対してステップST201およびST202が実行されたが、他のチャネル2~チャネルnに対しては、まだ実行されていない。したがって、ステップST204に進み、プロセッサは、チャネルをチャネル1からチャネル2にインクリメントする。チャネルがインクリメントされると、ステップST201に戻る。
【0121】
以下同様に、ステップST201~ST204のループが実行される。そして、吸収係数データgp1およびgq1のチャネル1~nに対してステップST201~ST204の処理を実行している間に、あるチャネルにおいて、吸収係数の差が閾値TH1を超えた場合、アラートを出力すると判断する。
【0122】
一方、プロセッサは、第1の基準物質の吸収係数データg11およびg31の全チャネルに対してステップST201~ST204を実行したが、どのチャネルにおいても吸収係数の差が閾値TH1以下である場合、ステップST205に進む。ステップST205では、プロセッサは、第1および第2の基準物質の両方の吸収係数の解析が終了したかどうか判断する。ここでは、第1の基準物質の吸収係数は解析されたが、第2の基準物質の吸収係数は解析されていない。したがって、ステップST201に戻る。
【0123】
ステップST201に戻ると、プロセッサは、第2の基準物質の吸収係数に対して、ステップST201~ST204の処理を実行する。
【0124】
図28は、第2の基準物質の吸収係数データに対してステップST201~ST204を実行するときの説明図である。
【0125】
ステップST201において、プロセッサは、チャネル1における診療日pの吸収係数bp1と診療日qの吸収係数bq1との差Δbq1を計算する。吸収係数の差Δbq1を計算したら、ステップST202に進む。
【0126】
ステップST202では、プロセッサは、Δbq1と閾値TH2とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、Δbq1が閾値TH2を超えた場合(Δbq1>TH2)、プロセッサは、吸収係数の経時的な変化が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST21に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0127】
一方、吸収係数の差Δbq1が閾値TH2を超えていない場合(Δbq1≦TH2)、吸収係数の経時的な変化が小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST203に進む。
【0128】
ステップST203では、プロセッサは、全チャネルに対してステップST201およびST202が実行されたかどうかを判断する。ここでは、チャネル1に対してステップST201およびST202が実行されたが、他のチャネル2~チャネルnに対しては、まだ実行されていない。したがって、ステップST204に進み、プロセッサは、チャネルをチャネル1からチャネル2にインクリメントする。チャネルがインクリメントされると、ステップST201に戻る。
【0129】
以下同様に、ステップST201~ST204のループが実行される。そして、吸収係数データh11およびhq1のチャネル1~nに対してステップST201~ST204の処理を実行している間に、あるチャネルにおいて、吸収係数の差が閾値TH2を超えた場合、アラートを出力すると判断する。
【0130】
一方、プロセッサは、第2の基準物質の吸収係数データh11およびh13の全チャネルに対してステップST201~ST204を実行したが、どのチャネルにおいても吸収係数の差が閾値TH2以下である場合、ステップST205に進む。
【0131】
ステップST205では、プロセッサは、第1および第2の基準物質の両方の吸収係数の解析が終了したかどうか判断する。ここでは、第1および第2の基準物質の両方の吸収係数の解析が終了している。したがって、プロセッサは、アラートの出力は不要であると判断して、ステップST20を終了する。この場合、ステップST22に進み、診療日qの検査スケジュールに従って、被検体の検査が実行される。
【0132】
本実施形態では、診療日qでは、アラートは出力されなかったとする。したがって、ステップST20の終了後、被検体の検査が実行される。
【0133】
以下同様に、診療日q以降もフロー200が実行される。そして、吸収係数の差が閾値を超えた場合、アラートが出力され、X線発生装置の点検が実行され、必要に応じて、X線管の修理、X線管の交換が行われる。そして、CTシステムが再稼働されると、再稼働の初日に得られたキャリブレーションデータの吸収係数が新たな基準吸収係数として決定される。したがって、CTシステムが再稼働した後は、再稼働の初日に得られた吸収係数を基準値として、吸収係数の経時的な変化が解析される。
【0134】
以上説明したように、本実施形態によれば、キャリブレーションスキャンを実行するたびに、吸収係数データが取得される。そして、吸収係数の差を計算することにより、吸収係数の経時的な変化量を求め、吸収係数の差が閾値(TH1又はTH2)よりも大きいかどうかが判断される。閾値TH1又はTH2は、例えば、X線発生装置に経年劣化が発生したかどうかを判断するのに適した値に設定することができる。したがって、X線発生装置に経年劣化が発生した場合、アラートが出力されるので、ユーザは、X線発生装置の劣化がCT画像にノイズやアーチファクトとして現れる前に、X線発生装置に障害又は故障が発生している恐れがあることを事前に把握することができる。このため、ユーザは、X線発生装置の劣化がCT画像にノイズやアーチファクトとして現れる前に、サービスに点検依頼するなど、必要な処置をとることができる。
【0135】
尚、第1の実施形態では、説明の便宜上、単列の検出器を取り上げて、アラートを出力するかどうかを判断する方法を説明したが、本発明は、複数列の検出器にも適用することができる。
【0136】
図29は、複数列の検出器が使用された場合のステップST20のフローの一例を示す図である。
図29に示すステップST20は、図9に示すステップST20と比較すると、ステップST205とステップST22との間に、ステップST2051が設けられている点が異なっている。
【0137】
ステップST2051は、プロセッサが、検出器の全ての列に対して、ステップST201~ST205の処理が完了したかどうかを判断するステップである。ステップST201~ST205の処理が完了していない列がある場合は、ステップST1に戻る。一方、検出器の全ての列に対してステップST201~ST205の処理が完了した場合、ステップST22に進む。
【0138】
このステップST2051を設けておくことにより、複数列の検出器の場合にも対応することができる。
【0139】
尚、本実施形態では、チャネル1~nの順序でステップST201~ST204の処理が実行されているが、必ずしもチャネル1~nの順序でステップST201~ST204の処理を実行する必要は無く、任意のチャネルの順序でステップST201~ST204の処理を実行することができる。また、複数列の検出器が使用されている場合、第1列~第m列の順序でステップST201~ST205の処理を実行する必要は無く、任意の列の順序でステップST201~ST205を実行することができる。また、検出器の或る列の1つ以上のチャネルに対してステップST201およびST202の処理を実行した後、検出器の別の列の1つ以上のチャネルに対してステップST201およびST202の処理を実行してもよい。
【0140】
また、本実施形態では、ステップST20において、第1の基準物質の吸収係数データを解析する場合、診療日1に取得された吸収係数a11~a1nを第1の基準吸収係数として使用して、アラートを出力するかどうかを判断している。また、ステップST20において、第2の基準物質の吸収係数データを解析する場合、診療日1に取得された吸収係数b11~b1nを第2の基準吸収係数として使用して、アラートを出力するかどうかを判断している。しかし、診療日ごとに基準吸収係数を更新してもよい(図30参照)。
【0141】
図30は、診療日ごとに基準吸収係数を更新する場合のステップST20のフローの説明図である。
図30では、ステップST20は、ステップST11とステップST201との間に、基準吸収係数を計算するステップST200を含んでいる。ステップST200を設けておくことにより、診療日ごとに基準吸収係数を更新してステップST20を実行することができる。以下に、図30に示すステップST20の処理の流れについて、図31を参照しながら説明する。
【0142】
図31は、診療日1~診療日iで取得された第1の基準物質の吸収係数データg11~gi1を示す図である。
【0143】
ステップST11において、診療日iにおける第1の基準物質の吸収係数データgi1を取得したら、ステップST20に進む。
【0144】
ステップST20では、吸収係数の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。
先ず、ステップST200において、プロセッサは、診療日1~診療日i-1のチャネル1の吸収係数a11~ai-1,1(過去に実行されたキャリブレーションスキャンにより得られた吸収係数)に基づいて、基準吸収係数ri1を計算する。この基準吸収係数ri1は、チャネル1における第1の基準吸収係数として使用される。基準吸収係数ri1は、例えば、吸収係数a11~ai-1,1の平均値でもよいし、吸収係数a11~ai-1,1の加重平均であってもよい。基準吸収係数ri1を計算したら、ステップST201に進む。
【0145】
ステップST201では、プロセッサは、基準吸収係数r11と診療日iの吸収係数ai1との差Δdi1を計算する。吸収係数の差Δdi1を計算したら、ステップST202に進む。
【0146】
ステップST202では、プロセッサは、Δdi1と閾値TH3とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、Δdi1が閾値TH3を超えた場合(Δdi1>TH3)、プロセッサは、吸収係数の経時的な変化が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST21に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0147】
一方、吸収係数の差Δdi1が閾値TH3を超えていない場合(Δdi1≦TH3)、吸収係数の経時的な変化が小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST203に進む。
【0148】
ステップST203では、プロセッサは、全チャネルに対してステップST200~ST202が実行されたかどうかを判断する。ここでは、チャネル1に対してステップST200~ST202が実行されたが、他のチャネル2~チャネルnに対しては、まだ実行されていない。したがって、ステップST204に進み、プロセッサは、チャネルをチャネル1からチャネル2にインクリメントする。チャネルがインクリメントされると、ステップST200に戻る。
【0149】
以下同様に、ステップST200~ST204のループが繰り返し実行されるので、チャネルごとに、基準吸収係数を計算し、アラートを出力するかどうかを判断することができる。
【0150】
尚、図31では、第1の基準物質の吸収係数の経時的な変化を解析するときに使用される第1の基準吸収係数を計算することが説明されているが、同様の方法で、第2の基準物質の吸収係数の経時的な変化を解析するときに使用される第2の基準吸収係数を計算することもできる。
【0151】
また、図31では、診療日1~診療日i-1の吸収係数a11~ai-1,1の全てを使用して基準吸収係数ri1を計算している。しかし、必ずしも、全ての吸収係数a11~ai-1,1を使用して基準吸収係数ri1を計算する必要は無く、吸収係数a11~ai-1,1のうちの少なくとも1つの吸収係数を使用して基準吸収係数ri1を計算してもよい。
【0152】
尚、図31では、診療日iにおける基準吸収係数ri1を計算する方法が示されているが、他の診療日も、診療日iと同様に、過去の吸収係数に基づいて基準吸収係数を計算することができる。
【0153】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、X線の特性値の例として吸収係数を計算する例を説明したが、第2の実施形態では、X線の特性値の例としてX線スペクトルの代表値を計算する例を説明する。
【0154】
尚、第2の実施形態について具体的に説明する前に、第2の実施形態の特徴を要約すると、以下の通りである。つまり、第2の実施形態では、キャリブレーションスキャンを実行し、キャリブレーションスキャンにより得られたデータに基づいて、高kVに対応するX線スペクトルと、低kVに対応するX線スペクトルを求める。そして、プロセッサは、高kVに対応するX線スペクトルの代表値と、低kVに対応するX線スペクトルの代表値を計算する。X線スペクトルの代表値は、例えば、エネルギー平均値、エネルギー積分値である。プロセッサは、X線スペクトルの代表値の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうかを判断する。したがって、X線スペクトルの代表値の経時的な変化が大きい場合にアラートが出力されるようにすることで、CT画像の画質が低下する前に、X線発生装置に劣化の徴候があることをユーザに知らせることができる。
【0155】
図32は、第2の実施形態で実施されるフローの説明図である。
先ず、診療日1について説明する。診療日1では、フロー300が実行される。
【0156】
ステップST51では、X線管104Aに印加される管電圧が第1の管電圧(低kV)と第2の管電圧(高kV)との間で交互に切り替えられるkVスイッチングを使用したキャリブレーションスキャンが実行される。キャリブレーションスキャンを実行した後、プロセッサは、キャリブレーションスキャンで得られたデータに基づいて、X線スペクトルを生成する(図33参照)。
【0157】
図33は、X線スペクトルの説明図である。
X線スペクトルSL1は、低kVに対応するX線スペクトルであり、X線スペクトルSH1は、高kVに対応するX線スペクトルである。X線スペクトルSL1およびSH1を生成した後、ステップST52に進む。
【0158】
ステップST52では、プロセッサは、X線スペクトルSL1の代表値を計算する。第2の実施形態では、プロセッサは、X線スペクトルSL1の代表値として、X線スペクトルSL1のエネルギー平均値RL1を計算する。また、プロセッサは、X線スペクトルSH1の代表値を計算する。第2の実施形態では、プロセッサは、X線スペクトルSH1の代表値として、X線スペクトルSH1のエネルギー平均値RH1を計算する。しかし、X線スペクトルSL1の代表値は、エネルギー平均値RL1に限定されることはなく、エネルギー積分値など、X線スペクトルSL1の特徴を表す任意の値を、X線スペクトルSL1の代表値として使用することができる。同様に、X線スペクトルSH1の代表値は、エネルギー平均値RH1に限定されることはなく、エネルギーの積分値など、X線スペクトルSH1の特徴を表す任意の値を、X線スペクトルSH1の代表値として使用することができる。
【0159】
尚、診療日1に計算されたエネルギー平均値RL1は、アラートを出力するかどうかを判断するための基準となる第1のエネルギー基準値として保存される。また、診療日1に計算されたエネルギー平均値RH1は、アラートを出力するかどうかを判断するための基準となる第2のエネルギー基準値として保存される。
【0160】
ステップST52が実行された後は、ステップST53に進み、被検体の検査が実行される。
【0161】
次に、診療日2について説明する。診療日2では、フロー400が実行される。
ステップST51では、キャリブレーションスキャンが実行される。キャリブレーションスキャンを実行した後、プロセッサは、キャリブレーションスキャンで得られたデータに基づいて、X線スペクトルを生成する。図34に、診療日2で生成された低kVに対応するX線スペクトルSL2と、診療日2で生成された高kVに対応するX線スペクトルSH2を概略的に示す。
【0162】
ステップST51を実行した後、ステップST60に進む。
【0163】
ステップST60では、X線スペクトルのエネルギー平均値の経時的な変化に基づいてアラートを出力するかどうかを判断する。
【0164】
図35は、ステップST60のフローの一例を示す図、図36は、図35のフローの説明図である。
ステップST601では、プロセッサは、診療日2のX線スペクトルSL2のエネルギー平均値RL2を計算する。エネルギー平均値RL2を計算したら、ステップST602に進む。
【0165】
ステップST602では、プロセッサは、エネルギー基準値RL1とエネルギー平均値RL2とのエネルギー差ΔDL1を計算する。エネルギー差ΔDL1を計算した後、ステップST603に進む。
【0166】
ステップST603では、エネルギー差ΔDL1と閾値TH5とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、エネルギー差ΔDL1が閾値TH5を超えた場合(ΔDL1>TH5)、プロセッサは、エネルギー差ΔDL1が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST61に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0167】
一方、エネルギー差ΔDL1が閾値TH5を超えていない場合(ΔDL1≦TH5)、エネルギー差ΔDL1が小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST604に進む(図37参照)。
【0168】
図37は、ステップST604~ST606の説明図である。
ステップST604において、プロセッサは、診療日2のX線スペクトルSH2のエネルギー平均値RH2を計算する。エネルギー平均値RH2を計算したら、ステップST605に進む。
【0169】
ステップST605では、プロセッサは、エネルギー基準値RH1とエネルギー平均値RH2とのエネルギー差ΔDH1を計算する。エネルギー差ΔDH1を計算した後、ステップST606に進む。
【0170】
ステップST606では、エネルギー差ΔDH1と閾値TH6とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、エネルギー差ΔDH1が閾値TH6を超えた場合(ΔDH1>TH6)、プロセッサは、エネルギー差ΔDH1が大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST61に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0171】
一方、エネルギー差ΔDH1が閾値TH6を超えていない場合(ΔDH1≦TH6)、エネルギー差ΔDL1が小さいので、アラートは出力しないと判断する。この場合、低kVのエネルギー平均値の経時的な変化と、高kVのエネルギー平均値の経時的な変化の両方を解析したが、アラートは出力しないと判断されたので、ステップST62に進み、診療日2の検査スケジュールに従って、被検体の検査が実行される。
【0172】
以下同様に、診療日3~診療日iも、診療日2と同様に、フロー400が実行される。したがって、診療日3~診療日iも、診療日2と同様の手順で、X線スペクトルのエネルギー平均値の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうかが判断される。
【0173】
次に、診療日iについて説明する。
ステップST51では、キャリブレーションスキャンが実行される。キャリブレーションスキャンを実行した後、プロセッサは、キャリブレーションスキャンで得られたデータに基づいて、X線スペクトルを生成する。図38に、診療日iで生成された低kVに対応するX線スペクトルSLiと、診療日iで生成された高kVに対応するX線スペクトルSHiを概略的に示す。
【0174】
ステップST51を実行した後、ステップST60に進む。
ステップST60では、プロセッサは、X線スペクトルのエネルギー平均値の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうかを判断する。
【0175】
図39は、ステップST60の説明図である。
ステップST601において、プロセッサは、診療日iのX線スペクトルSLiのエネルギー平均値RLiを計算する。エネルギー平均値RLiを計算したら、ステップST602に進む。
【0176】
ステップST602では、プロセッサは、エネルギー基準値RLiとエネルギー平均値RLiとのエネルギー差ΔDLiを計算する。エネルギー差ΔDLiを計算した後、ステップST603に進む。
【0177】
ステップST603では、エネルギー差ΔDLiと閾値TH5とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、エネルギー差ΔDLiが閾値TH5を超えた場合(ΔDLi>TH5)、プロセッサは、エネルギー差ΔDLiが大きいので、アラートを出力すると判断する。
【0178】
ここでは、エネルギー差ΔDLiがΔDLi>TH5を満たすとする。したがって、アラートが出力される。
【0179】
アラートが出力されると、ユーザは、例えば、サービスに点検11(図2参照)を依頼することができる。サービスによる点検11の結果、X線発生装置に障害が発生している又はX線発生装置が故障していると認められた場合、X線発生装置が修理又は交換される。CTシステムは、X線発生装置の修理又は交換の後、動作チェックが行われ、正常に動作することが確認できたら、CTシステムの稼働を再開する。図40は、CTシステムの稼働再開後のフローの説明図である。
ここでは、診療日iに点検等が完了し、次の診療日pにCTシステムの稼働が再開できたとする。
【0180】
診療日pでは、診療日1と同じフロー300が実行され、X線スペクトルのエネルギー平均値が計算される。そして、診療日q以降は、診療日2と同じフロー400が実行される。したがって、診療日pで計算されたエネルギー平均値を基準にして、エネルギー差が計算され、エネルギー差が閾値を超えた場合は、アラートが出力される。したがって、診療日q以降も、X線スペクトルのエネルギー平均値の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうか判断することができる。
【0181】
以上説明したように、第2の実施形態によれば、キャリブレーションスキャンを実行するたびに、X線スペクトルが生成される。そして、エネルギー差を計算することにより、エネルギー平均値の経時的な変化量を求め、エネルギー差が閾値よりも大きいかどうかが判断される。したがって、エネルギー差が大きい場合、アラートが出力されるので、ユーザは、CT画像の画質が低下する前に、X線発生装置に障害又は故障が発生している恐れがあることを事前に把握することができる。このため、ユーザは、サービスにX線発生装置の点検を依頼するなど、必要な処置をとることができる。
【0182】
尚、第2の実施形態では、診療日1で計算されたX線スペクトルのエネルギー平均値をエネルギー基準値として決定し、アラートを出力するかどうかを判断している。しかし、過去に取得したX線スペクトルのエネルギー平均値に基づいて、診療日ごとにエネルギー基準値を計算するようにしてもよい(図41参照)。
【0183】
図41は、診療日ごとにエネルギー基準値を計算する場合のステップST60のフローの説明図である。
【0184】
図41では、ステップST60は、ステップST601とステップST602との間に、低kVのX線スペクトルのエネルギー基準値を計算するステップST6011を含んでいる。更に、ステップST60は、ステップST604とステップST605との間に、高kVのX線スペクトルのエネルギー基準値を計算するステップST6041を含んでいる。ステップST6011およびステップST6041を設けておくことにより、診療日ごとにエネルギー基準値を計算してステップST60を実行することができる。以下に、図41に示すステップST60の処理の流れについて、図42を参照しながら説明する。
【0185】
図42は、診療日1~診療日iで取得された低kVに対応するX線スペクトルSL1~SLを示す図である。
【0186】
ステップST51において、診療日iの低kVに対応するX線スペクトルSLを取得したら、ステップST601に進む。
【0187】
ステップST601では、プロセッサは、診療日iのX線スペクトルSLiのエネルギー平均値RLiを計算する。エネルギー平均値RLiを計算したら、ステップST6011に進む。
【0188】
ステップST6011において、プロセッサは、診療日1~診療日i-1のエネルギー平均値RL1~RLi-1に基づいて、第1のエネルギー基準値vを計算する。このエネルギー基準値vは、診療日iにおいて、アラートを出力するかどうかを判断するための基準値として使用される。エネルギー基準値vは、例えば、エネルギー平均値RL1~RLi-1の平均値でもよいし、エネルギー平均値RL1~RLi-1の加重平均であってもよい。エネルギー基準値vを計算したら、ステップST602に進む。
【0189】
ステップST602では、プロセッサは、エネルギー基準値viとエネルギー平均値RLiとのエネルギー差ΔRLiを計算する。エネルギー差ΔRLiを計算した後、ステップST603に進む。
【0190】
ステップST603では、エネルギー差ΔRLiと閾値TH5とを比較し、その比較結果に基づいて、アラートを出力するかどうか判断する。例えば、エネルギー差ΔRLiが閾値TH5を超えた場合(ΔRLi>TH5)、プロセッサは、エネルギー差ΔRLiが大きいので、アラートを出力すると判断する。この場合、ステップST61に進み、プロセッサは、表示部にアラートを出力させる。
【0191】
一方、エネルギー差ΔRLiが閾値TH5を超えていない場合(ΔRLi≦TH5)、エネルギー差ΔRLiが小さいので、プロセッサは、アラートは出力しないと判断する。この場合、ステップST604に進む。
したがって、アラートを出力するかどうかを判断することができる。
【0192】
尚、図42では、低kVに対応するX線スペクトルのエネルギー平均値の経時的な変化を解析するときに使用される第1のエネルギー基準値を計算することが説明されているが、同様の方法で、高kVに対応するX線スペクトルのエネルギー平均値の経時的な変化を解析するときに使用される第2のエネルギー基準値を計算することもできる。
【0193】
また、図42では、診療日1~診療日i-1のエネルギー平均値RL1~RLi-1の全てを使用してエネルギー基準値viを計算している。しかし、診療日1~診療日i-1のエネルギー平均値RL1~RLi-1のうちの少なくとも1つのエネルギー平均値を使用してエネルギー基準値viを計算してもよい。
【0194】
尚、図42では、診療日iにおけるエネルギー基準値viを計算する方法が示されているが、他の診療日も、診療日iと同様に、過去のX線スペクトルから得られたエネルギー平均値に基づいて、エネルギー基準値を計算することができる。
【0195】
尚、本実施形態では、医用システムとしてCTシステムを使用した例が示されている。しかし、本発明は、CTシステムに限定されることはなく、X線源を被検体112に照射する医用システムであれば、CTシステム以外の他のシステム(例えば、PET-CTシステム)に適用することができる。
【符号の説明】
【0196】
10 CTシステム
100 フロー
102 ガントリ
103 フィルタ部
104 X線発生装置
104A X線管
104B ジェネレータ
106 X線
107 ボア
108 検出器
116 テーブル
118 テーブルモータコントローラ
200 フロー
202 検出器素子
210 X線コントロ-ラ
212 ガントリモータコントローラ
214 DAS
216 コンピュータ
218 記憶装置
220 オペレータコンソール
224 PACS
230 画像再構成器
232 表示装置
300 フロー
400 フロー
【要約】      (修正有)
【課題】CT画像の画質が低下する前に、X線発生装置に経年劣化が発生している恐れがあることをユーザに知らせる。
【解決手段】X線発生装置と、前記X線発生装置から照射されたX線を検出する検出器と、1つ又は複数のプロセッサであって所定のキャリブレーションスキャンが実行されるたびに、前記検出器で検出されたX線のデータに基づいて、前記X線発生装置から照射されたX線の特性値を計算すること、前記特性値の経時的な変化に基づいて、アラートを出力するかどうか判断することを実行する1つ又は複数のプロセッサとを含む、医用システム。
【選択図】図10
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42