(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-29
(45)【発行日】2025-10-07
(54)【発明の名称】水素充填装置
(51)【国際特許分類】
F17C 7/00 20060101AFI20250930BHJP
【FI】
F17C7/00 B
(21)【出願番号】P 2022071813
(22)【出願日】2022-04-25
【審査請求日】2024-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠畑 良和
【審査官】▲高▼木 直史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-071266(JP,A)
【文献】特許第7038885(JP,B1)
【文献】特開2020-106353(JP,A)
【文献】特表2013-545953(JP,A)
【文献】特開2000-146095(JP,A)
【文献】特開昭53-088222(JP,A)
【文献】独国特許発明第00634204(DE,C1)
【文献】米国特許第03898853(US,A)
【文献】独国特許出願公開第04417106(DE,A1)
【文献】特開2009-063135(JP,A)
【文献】特開2004-286189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスタンクに水素を充填する水素充填装置であり、
液体水素を蓄えている液体水素タンクと、
前記液体水素タンク内の前記液体水素を液体の状態のまま一時的に蓄える貯留槽と、
前記貯留槽の液体水素を液体のまま前記水素ガスタンクへ流す液体水素供給管と、
前記液体水素タンクから前記貯留槽への前記液体水素の流れを止める第1バルブと、
前記貯留槽内のガスを排出する第2バルブと、
前記貯留槽から前記水素ガスタンクへの前記液体水素の流れを止める第3バルブと、
前記貯留槽内の前記液体水素が液体のまま移送される補助タンクと、
前記補助タンク内で気化した前記液体水素を別の水素ガスタンクへ供給するガス供給管と、
コントローラと、
を備えており、
前記補助タンクは、
外タンクと、
前記外タンクの内面に断熱材を介して支持されている水素容器であって、当該水素容器の内と外を連通する開口を有しており、前記貯留槽から供給される前記液体水素を受ける水素容器と、
を備えており、
前記コントローラは、
前記第3バルブを閉じ、前記第1バルブと前記第2バルブを開いて前記貯留槽へ前記液体水素を注入する第1ステップと、
前記貯留槽に所定量の液体水素が溜まったら前記第1バルブと前記第2バルブを閉じる第2ステップと、
前記貯留槽の内圧が所定の水素押出圧に達したら前記第3バルブを開いて前記水素ガスタンクへ前記液体水素を注入する第3ステップと、
を実行し、
前記水素押出圧は、前記水素ガスタンクの内圧よりも高く、
前記所定量は、前記水素ガスタンクに水素ガスをフル充填したときの水素量と、前記第1ステップを実行前の前記水素ガスタンクの残留水素量との差分に相当する水素量である、水素充填装置。
【請求項2】
前記補助タンクは前記内面に対して前記水素容器を支持する支持部材を備えており、
前記支持部材は、
伸縮機構と、
一端が前記内面に固定されており、他端が前記伸縮機構の一端に固定されているボールジョイントと、
一端が前記断熱材に固定されており、他端が前記伸縮機構の他端に連結されているユニバーサルジョイントと、
を備えており、
前記断熱材が前記水素容器に固定されている、
請求項
1に記載の水素充填装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、水素ガスタンクへ水素を充填する水素充填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池など、水素ガスを用いるデバイスには水素を貯蔵する水素タンクが必要である。液体水素を貯蔵する液体水素タンクは高価である上、水素ガスを用いるデバイスに水素ガスを供給するには、液体水素タンクのほかに液体水素ポンプや気化器が必要となり、システム全体のコストが嵩む。一方、水素ガスを蓄える水素ガスタンクを用いる場合、水素ガスタンクに供給する高圧水素ガスを準備するのに時間を要する。例えば特許文献1に、水素ガスをタンクに充填する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コストの点では先に述べたように水素ガスを使うデバイスに付随するタンクは水素ガスタンクであることが望ましい。一方、先に述べたように、水素ガスステーションで高圧水素ガスを準備するには時間を要する。本明細書は、水素ガスタンクに水素を充填する装置であって、高圧水素ガスの準備を不要にする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書は、水素ガスタンクへ水素を充填する水素充填装置を開示する。水素充填装置は、液体水素タンク、貯留槽、液体水素供給管、第1バルブ、第2バルブ、第3バルブ、及び、コントローラを備える。液体水素タンクは、液体水素を蓄えている。貯留槽は、液体水素タンク内の液体水素を液体のまま一時的に蓄える。液体水素供給管は、貯留槽の液体水素を液体のまま水素ガスタンクへ流す。第1バルブは、液体水素タンクから貯留槽への液体水素の流れを止める。第2バルブは、貯留槽内のガスを排出する。第3バルブは、貯留槽から水素ガスタンクへの液体水素の流れを止める。
【0006】
コントローラは、次の3ステップを実行することができる。第1ステップ:第3バルブを閉じ、第1バルブと第2バルブを開いて貯留槽へ液体水素を注入する。第2ステップ:貯留槽に所定量の液体水素が溜まったら第1バルブと第2バルブを閉じる。第3ステップ:貯留槽の内圧が所定の水素押出圧に達したら第3バルブを開いて水素ガスタンクへ液体水素を注入する。ここで、水素押出圧は、水素ガスタンクの内圧よりも高い。所定量は、水素ガスタンクに水素ガスをフル充填したときの水素量と、第1ステップを実行前の水素ガスタンクの残留水素量との差分に相当する水素量である。
【0007】
第3ステップの処理が実行されると、貯留槽と水素ガスタンクの内圧差により、貯留槽の液体水素が水素ガスタンクへ押し出される。液体水素は水素ガスタンク内で気化する。こうして、水素ガスタンクに水素ガスが充填される。本明細書が開示する水素充填装置は、水素を液体の状態で水素ガスタンクに注入し、水素ガスタンク内で液体水素を気化させる。本明細書が開示する水素充填装置は、予め高圧の液体水素ガスを準備することなく、水素ガスタンクに水素ガスを充填することができる。
【0009】
液体水素を液体のまま一時保管する貯留槽の好適な一例は、外タンクと水素容器を備える。水素容器は外タンクの内面に断熱材を介して支持される。水素容器は、当該水素容器の内と外を連通する開口を有しており、液体水素タンクから供給される液体水素を受ける。
【0010】
上記した水素充填装置は、貯留槽と第3バルブのセットを複数セット備えていてもよい。複数の車両に同時に水素を充填することができる。
【0011】
本明細書が開示する水素充填装置は、貯留槽内の液体水素が液体のまま移送される補助タンクと、ガス供給管を備えていてもよい。ガス供給管は、補助タンク内で気化した液体水素を別の水素ガスタンクへ供給する。そして、補助タンクは、外タンクと、外タンク内に配置されている水素容器を備える。水素容器は、外タンクの内面に断熱材を介して支持されている。水素容器は、その内と外を連通する開口を有しており、貯留槽から供給される液体水素を受ける。水素容器に入った液体水素は外タンクの中で気化する。この補助タンクから別の水素ガスタンクへ水素ガスを供給することができるようになる。
【0012】
外タンク内で水素容器を支持する支持部材も、本明細書が開示する技術の一つである。支持部材は、伸縮機構、ボールジョイント、ユニバーサルジョイント、断熱材を備える。ボールジョイントの一端が外タンクの内面に固定されており、他端が伸縮機構の一端に固定されている。ユニバーサルジョイントの一端が断熱材に固定されており、他端が伸縮機構の他端に連結されている。断熱材が水素容器に固定されている。支持部材は、外タンクの内面に固定された一端に対して反対側の他端が揺動可能である。この支持部材は、外タンク内での水素容器の変形や揺れを許容する。また、支持部材は、外タンクが変形しても水素容器をしっかりと支持することができる。
【0013】
本明細書が開示する技術は、前述した水素充填装置と前述した水素ガスタンクを含んでいる水素充填システムに具現化されてもよい。水素ガスタンクは、外タンクと水素容器を備える。水素容器は、外タンクの内面に断熱材を介して支持されている。水素容器は、その内と外を連通する開口を有しており、貯留槽から供給される液体水素を受ける。水素容器に入った液体水素は外タンクの中で気化する。そのような水素ガスタンクが、前述した水素充填装置に適している。
【0014】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施例の水素充填装置を含む水素充填システムのブロック図である。
【
図2】第2実施例の水素充填装置を含む水素充填システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施例)図面を参照して第1実施例の水素充填装置100を説明する。
図1に、水素充填装置100と、水素充填装置100から水素の供給を受ける水素ガスタンク200のブロック図を示す。水素ガスタンク200は、水素充填装置100に好適なタンクであり、水素充填装置100と水素ガスタンク200は、水素充填システム10を構成する。
【0017】
水素ガスタンク200は、燃料電池車900に搭載されている。燃料電池車900は燃料電池スタック901を備えており、燃料電池スタック901は、水素ガスタンク200から水素ガスの供給を受けて動作する。
【0018】
水素充填装置100は、液体水素タンク101、貯留槽110、補助タンク140、蓄圧タンク146、排ガスタンク150を備えている。タンクや槽は、バルブ付きの管で連結されている。
【0019】
液体水素タンク101には大量の液体水素が貯蔵されている。液体水素タンク101と貯留槽110は、液体水素管121で連結されている。液体水素管121は、液体水素タンク101から貯留槽110へ液体水素を送る。液体水素管121には、第1バルブ131が備えらえている。第1バルブ131を開くと、液体水素タンク101から貯留槽110への液体水素が流れる。第1バルブ131を閉じると、液体水素タンク101から貯留槽110への液体水素の流れが止まる。
【0020】
貯留槽110には、液体水素タンク101から送られた液体水素が液体のまま一時的に蓄えられる。貯留槽110は、外タンク111と、外タンク111の中に配置された水素容器112を備えている。水素容器112は、断熱材113を介して外タンク111の内面に支持されている。水素容器112は、断熱材113と接している部位以外は、何ものにも接していない。水素容器112は、外部から断熱されている。水素容器112は、上部が開口している容器であり、水素容器112の内部と外部は連通している。
【0021】
液体水素管121を通じて供給された液体水素は液体のまま水素容器112に溜められる。水素容器112に溜められた液体水素の一部は気化し、水素ガスとなる。外タンク111は所定の上限圧力に耐えられる構造であるが、水素容器112は開口を有しているので耐圧性能は要求されない。
【0022】
貯留槽110の外タンク111には排ガス管122が接続している。排ガス管122は、排ガスタンク150につながっている。排ガス管122には、第2バルブ132が備えられている。第2バルブ132を開くと貯留槽110(外タンク111)の中のガスが排ガスタンク150へ排出される。貯留槽110(外タンク111)から排出されるガスの主成分は液体水素が気化した水素ガスである。第2バルブ132を開くことによって、貯留槽110の内部圧力の上昇が抑えられる。貯留槽110の内部圧力の上昇を抑えることにより、液体水素タンク101から貯留槽110への液体水素の供給を低圧で円滑に行うことができる。
【0023】
水素容器112の底に液体水素供給管123が接続されている。液体水素供給管123は、燃料電池車900の水素ガスタンク200に接続される。より具体的には、液体水素供給管123の先端には水素供給ノズル139が備えられており、水素供給ノズル139が燃料電池車900のボディに設けられた水素供給口902に接続される。燃料電池車900のボディの内部では、水素ガスタンク200の第1管211が水素供給口902につながっている。貯留槽110の液体水素は、水素容器112から、液体水素供給管123と第1管211を通じて水素ガスタンク200に送られる。
【0024】
液体水素供給管123には第3バルブ133が備えられている。第3バルブ133を閉じると、貯留槽110から水素ガスタンク200への液体水素の流れが止まる。
【0025】
第1バルブ131、第2バルブ132、第3バルブ133はコントローラ190によって制御される。コントローラ190がバルブ131、132、133を制御することにより、液体水素タンク101から燃料電池車900の水素ガスタンク200へ液体水素が供給される。液体水素タンク101の液体水素は、水素ガスタンク200の中で気化し、水素ガスタンク200は最終的に水素ガスで満たされる。
【0026】
コントローラ190が実行する水素充填プロセスを説明する。コントローラ190は、次に述べる3つのステップを実行可能である。
【0027】
(第1ステップ)コントローラ190は、第3バルブ133を閉じ、第1バルブ131と第2バルブ132を開く。第1バルブ131を開くと、液体水素タンク101から貯留槽110へ液体水素が送られる。液体水素は液体水素管121を通じて液体水素タンク101から貯留槽110へ送られる。液体水素管121の一端は、貯留槽110の中で、水素容器112の開口の上方に位置している。
【0028】
先に述べたように、液体水素は、貯留槽110の外タンク111の中の水素容器112に溜まる。水素は液体のまま水素容器112に溜まるが、一部の液体水素は気化して水素ガスとなる。水素容器112の上部は開いているので、水素ガスは外タンク111の中で拡がる。コントローラ190が第2バルブ132を開いているので、外タンク111の水素ガスは排ガス管122を通じて排ガスタンク150に送られる。なお、第1ステップに先立って、排ガスタンク150の内圧は大気圧に設定されている。
【0029】
(第2ステップ)コントローラ190は、所定量の液体水素が貯留槽110に溜まったら第1バルブ131と第2バルブ132を閉じる。液体水素タンク101からの液体水素の供給が止まり、貯留槽110からの水素ガスの排出も止まる。水素容器112の液体水素の一部は気化する。液体水素の気化により、外タンク111の内部の温度は下がり、圧力は上昇する。外タンク111の内部の液体水素と水素ガスが熱平衡に達すると、液体水素の気化が止まる。本実施例では、このときの水素ガスの圧力を水素押出圧と称する。
【0030】
(第3ステップ)コントローラ190は、貯留槽110の内圧が水素押出圧に達すると、液体水素供給管123の第3バルブ133を開く。先に述べたように、液体水素供給管123の一端は水素容器112の底につながっている。なお、水素ガスタンク200の内圧よりも水素押出圧が高くなるように調整される。第3バルブ133を開くと、貯留槽110と水素ガスタンク200の内圧差により、水素容器112内の液体水素が液体水素供給管123を通じて水素ガスタンク200へ押し出される。このとき水素は、一部は気化しながら液体のまま、貯留槽110から水素ガスタンク200へ移送される。
【0031】
第2ステップにて液体水素タンク101から貯留槽110へ送る液体水素の量(前述の「所定量」)について説明する。コントローラ190は、第1ステップを実行するのに先立って、水素ガスタンク200へ充填する水素の量を算出する。水素ガスタンク200へ充填する水素の量(前述の「所定量」)は、水素ガスタンク200に水素ガスをフル充填したときの水素量と、第1ステップを実行前の水素ガスタンク200の残留水素量の差分に相当する。コントローラ190は、第1ステップを実行するのに先立って、燃料電池車900のコントローラと通信し、水素ガスタンク200のフル充填時の水素量と、現在の残留水素量の情報を得る。あるいは、コントローラ190は、燃料電池車900のコントローラから、水素ガスタンク200のフル充填時の水素量と、現在の水素ガスタンク200の内圧と内部温度の情報を得る。コントローラ190は、現在の水素ガスタンク200の内圧と内部温度から、水素ガスタンク200の残留水素量を推定する。コントローラ190は、水素ガスタンク200のフル充填時に水素量から現在の残水素量を減じて、所定量、すなわち、今回の充填で水素ガスタンク200へ送る水素の量を決定する。
【0032】
ここで、水素ガスタンク200の構造について説明する。水素ガスタンク200は、外タンク201と、外タンク201の内部に配置された水素容器202を備えている。水素容器202は、断熱材203を介して外タンク201の内面に支持されている。水素容器202は、断熱材203と接している。水素容器202は、外部から断熱されている。水素容器202は、上部が開口している容器であり、液体水素供給管123と液体水素管121を通じて供給される液体水素は水素容器202に溜められる。外タンク201は所定の上限圧力に耐え得る耐圧構造を有しており、水素容器202は開口を有しているので耐圧構造は要求されない。
【0033】
液体水素が供給される前の外タンク201の内圧はタンク残量によって変化する。水素容器202に入れられた液体水素は気化し、外タンク201に水素ガスが充満する。水素ガスタンク200に注入された液体水素は全て気化する。
【0034】
実施例の水素充填システム10では、水素充填装置100から水素ガスタンク200へは液体のまま水素を注入し、水素ガスタンク200の中で液体水素を気化させ、水素ガスタンク200を水素ガスで充満させる。この充填方法は、以下の2ステップで実現される。注入ステップ:液体水素を水素ガスタンク200に注入する。気化ステップ:水素ガスタンク200の中で液体水素を気化させる。この方法によれば、水素充填装置100にて大量の高圧水素ガスを準備する必要がない。すなわち、水素充填装置100は、大量の高圧水素ガスを準備することなく、水素ガスタンク200に水素ガスを充填することができる。
【0035】
なお、燃料電池車900は、水素ガスで動作する燃料電池スタック901を備えており、水素ガスタンク200(外タンク201)の水素ガスは、第2管212を介して燃料電池スタック901へ送られる。
【0036】
水素充填装置100が備えているその他の設備について説明する。貯留槽110と補助タンク140は液体水素管124で接続されている。液体水素管124には第4バルブ134が備えられている。コントローラ190が第4バルブ134を開くと、貯留槽110の液体水素が液体のまま補助タンク140へ流れる。
【0037】
補助タンク140は、外タンク141と水素容器142を備えている。水素容器142は、外タンク141の内部に配置されている。水素容器142は、断熱材143を介して外タンク141の内面に支持されている。水素容器142は、断熱材143と接している。水素容器142は、外部から断熱されている。水素容器142は、上部が開口している容器であり、液体水素管124を通じて貯留槽110から移送される液体水素が水素容器142に溜められる。外タンク141は所定の上限圧力に耐え得る耐圧構造を有しており、水素容器142は開口を有しているので耐圧構造は要求されない。水素容器142に入れられた液体水素は気化し、外タンク141に高圧の水素ガスが充満する。すなわち、補助タンク140は水素ガスタンク200と同じ構造を有している。例えば、
図1に示すように、補助タンク140から別の燃料電池車910の水素ガスタンク911に水素ガスを充填することができる。この場合、補助タンク140に注入される液体水素の量は、充填前の水素ガスタンク911のフル充填時の水素量と、充填前の水素ガスタンク911の残留水素量の差分に相当する。補助タンク140に注入された全ての液体水素が気化し、補助タンク140には水素ガスが充満する。
【0038】
補助タンク140には水素ガス供給管144が接続されており、水素ガス供給管144にはバルブ145が備えられている。水素ガス供給管144は、通常の水素ガスタンク911に接続可能である。通常の水素ガスタンク911は、例えば燃料電池車910に搭載されている。補助タンク140に水素ガスが充填された後、バルブ145を開くと、補助タンク140から通常の水素ガスタンク911へ高圧の水素ガスが供給される。すなわち、水素充填装置100の補助タンク140は、通常の水素ガスタンク911へ高圧の水素ガスを供給することができる。
【0039】
補助タンク140の外タンク141には、水素ガス管151が接続されている。水素ガス管151は、排ガスタンク150に接続されている。水素ガス管151にはポンプ152とバルブ153が備えられている。先に述べたように、排ガスタンク150には水素ガスが蓄えられている。補助タンク140(外タンク141)の内圧が下がったら、コントローラ190は、バルブ153を開き、ポンプ152を駆動し、排ガスタンク150の水素ガスを補助タンク140(外タンク141)へ送る。ポンプ152を駆動することで、外タンク141に昇圧された水素ガスが供給され、外タンク141の内圧も上昇する。
【0040】
水素ガス管151は蓄圧タンク146にも接続されている。水素ガス管151には、排ガスタンク150から蓄圧タンク146への水素ガスの供給を止めるバルブ154が配置されている。コントローラ190は、バルブ154を開き、ポンプ152を駆動し、排ガスタンク150の水素ガスを蓄圧タンク146へ送る。ポンプ152に動作により、排ガスタンク150の水素ガスは、昇圧されて蓄圧タンク146へ送られる。バルブ154を開き、ポンプ152を駆動することで、蓄圧タンク146に高圧の水素ガスが充填される。
【0041】
蓄圧タンク146にも水素ガス供給管147が接続されており、水素ガス供給管147にはバルブ148が備えられている。水素ガス供給管147にも、通常の水素ガスタンク921が接続可能である。通常の水素ガスタンク921は、燃料電池車920に搭載されている。コントローラ190がバルブ148を開くと、蓄圧タンク146から通常の水素ガスタンク921へ高圧の水素ガスが供給される。
【0042】
コントローラ190は、排ガスタンク150の内圧を所定の目標上限圧以下に保つべく、排ガスタンク150の内圧が目標上限圧に近づいたらバルブ154を開き、ポンプ152を駆動し、排ガスタンク150の中の水素ガスを蓄圧タンク146へ移す。
【0043】
排ガスタンク150と液体水素タンク101は、水素管155で接続されており、水素管155には、バルブ157が備えられている。液体水素タンク101の圧力が所定の閾値圧以上になった場合、コントローラ190がバルブ157を開き、蒸発水素が排ガスタンク150へ流れ込む。
【0044】
貯留槽110は、外タンク111と、外タンク111の中に配置された水素容器112を備える。水素容器112は上部に開口を有しており、水素容器112の内側と外側はつながっている。水素容器112は、断熱材113で外タンク111の内面に支持されている。液体水素を水素ガスタンク200へ送る液体水素供給管123は水素容器112の底に接続されている。液体水素タンク101の液体水素は、液体のまま貯留槽110に一時的に蓄えられ、その後、水素ガスタンク200へ送られる。この貯留槽110は、液体水素を液体のまま一時的に保持するのに好適である。
【0045】
(第2実施例)
図2に、第2実施例の水素充填装置100aを示す。水素充填装置100aと水素ガスタンク200で水素充填システム10aを構成する。
図2の水素ガスタンク200は、
図1の水素ガスタンク200と同じである。
【0046】
第2実施例の水素充填装置100aは、貯留槽110と第3バルブ133のセットを3セット備えている。水素充填装置100は、貯留槽110aと第3バルブ133aのセット、貯留槽110bと第3バルブ133bのセット、貯留槽110cと第3バルブ133cのセットを備えている。貯留槽110と第3バルブ133の3セットは並列に接続されている。以下では、3個の貯留槽110a、110b、110cを区別なく表すときには貯留槽110と称する。3個の第3バルブ133a、133b、133cを区別なく表すときには第3バルブ133と称する。
【0047】
水素充填装置100aは、燃料電池車に水素を供給する3個の水素供給ノズル139a、139b、139cを備えている。また、補助バルブ133d、133eを備えている。水素供給ノズル139a-139cのそれぞれに燃料電池車の水素ガスタンクをつなぐと、3台の水素ガスタンクに同時に水素を供給することができる。
【0048】
また、水素供給ノズル139aに水素ガスタンクをつなぎ、第3バルブ133bと補助バルブ133dを開くと、貯留槽110bから水素ガスタンクへ水素を供給することができる。さらに、水素供給ノズル139aに水素ガスタンクをつなぎ、第3バルブ133cと補助バルブ133d、133eを開くと、貯留槽110cから水素ガスタンクへ水素を供給することができる。このように、3個の貯留槽110a-110cのいずれかより、3個の水素供給ノズル139a-139cのいずれかに接続された水素ガスタンクへ、水素を供給することができる。
【0049】
コントローラ190は、3セットの貯留槽110に対して前述した第1ステップと第2ステップの処理を行う。すなわち、第1ステップと第2ステップを実施すると、貯留槽110の一つの水素容器112に液体水素が溜まる。貯留槽110(外タンク111)には不図示の圧力センサが備えられており、コントローラ190は、貯留槽110(外タンク111)の内圧を知ることができる。第3ステップにおいて、コントローラ190は、貯留槽110に対する第3バルブ133を開く。
【0050】
貯留槽110aから水素ガスタンク200へ液体水素が押し出される。貯留槽110aの液体水素が少なくなると、貯留槽110aの内圧が下がる。貯留槽110aの内圧が下がり、貯留槽110aの第3バルブ133aを閉じ水素ガスタンク200の内圧が上がりその圧力温度から必要圧力を計算し貯留槽110bの内圧を充填可能な圧力まで上げる。充填可能圧力まで上昇後、コントローラ190は、貯留槽110bの第3バルブ133bを開く。貯留槽110aに代わって貯留槽110bから液体水素が水素ガスタンク200へ送られる。こうして、液体水素を素早く水素ガスタンク200に注入することができる。
【0051】
コントローラ190は、燃料電池車との通信時に充填量を算出し、第1貯留槽110aで不足する場合、算出量に見合う貯留槽に第1ステップと第2ステップを実行する。この内圧は常に設定の圧力差にて充填しその時点で最小の内圧にて実行する。例えば、残圧10MPaのタンクに70MPaの充填は不要であり、30MPaや40MPa等、低圧で充填を行う。タンク内圧上昇に合わせ低圧から高圧の順番に貯留槽に移行する。
【0052】
図2では
図1の補助タンク140と蓄圧タンク146の図示を省略したが、第2実施例の水素充填装置100aも、第1実施例の水素充填装置100と同様に、補助タンク140や蓄圧タンク146を備えていてもよい。
【0053】
水素ガスタンク200の好適な構造を説明する。
図3に、水素ガスタンク200の模式的断面図を示す。先に述べたように、水素ガスタンク200は、外タンク201と、外タンク201の中に配置された水素容器202を備えている。水素容器202は、断熱材203を介して外タンク201の内面に支持されている。水素容器202は上部に開口204を備えており、開口204は水素容器202の内と外を連通する。
【0054】
水素ガスタンク200には、液体水素を水素容器202へ導く第1管211と、外タンク201の中の水素ガスを外部へ導く第2管212が備えられている。第1管211と第2管212は、外タンク201の壁を貫通している。先に述べたように、第1管211は水素充填装置100(100a)の液体水素供給管123に接続される。第2管212は、燃料電池車900の燃料電池スタック901に接続される(
図1参照)。図示は省略しているが、第1管211と第2管212のそれぞれには、流体の流れを止めるバルブが備えられている。
【0055】
水素容器202の一端は、支持部材300を介して外タンク201の内面に支持される。支持部材300の先端に断熱材203が備えられており、その断熱材203が水素容器202に固定される。
【0056】
図3の破線範囲の拡大図(支持部材300の拡大図)を
図3の下に示してある。支持部材300は、ボールジョイント310、スライドロッド320、ユニバーサルジョイント330、断熱材203を備えている。なお、スライドロッド320は伸縮機構と呼び替えることができる。
【0057】
図中の座標系のX方向が支持部材300の長手方向に対応し、Y方向とZ方向は、X方向(長手方向)に直交する。ボールジョイント310は、アウターカップ311とインナーボール312で構成されている。インナーボール312がアウターカップ311に嵌合している。インナーボール312はアウターカップ311に対して3軸(X軸とY軸とZ軸)の各軸回りに回転することができる。アウターカップ311が外タンク201の内面に固定されており、インナーボール312はスライドロッド320に固定されている。別言すれば、ボールジョイント310は、その一端が外タンク201の内面に固定されており、他端がスライドロッド320の一端(伸縮機構の一端)に固定されている。ボールジョイント310は、外タンク201に対するスライドロッド320の三軸各軸まわりの回転を許容する。
【0058】
スライドロッド320は、筒状のアウターロッド321に棒状のインナーロッド322で構成される。アウターロッド321にインナーロッド322が嵌合しており、インナーロッド322はアウターロッド321に対してX方向に伸縮する。アウターロッド321がボールジョイント310のインナーボール312に固定されており、インナーロッド322はユニバーサルジョイント330の第1ヨーク331に固定されている。スライドロッド320は、ボールジョイント310のインナーボール312に対するユニバーサルジョイント330の伸縮を許容する。
【0059】
ユニバーサルジョイント330は、第1ヨーク331と第2ヨーク332が十字軸333に連結された構造を有しており、
図3の矢印線A、Bが示すように、第2ヨーク332は第1ヨーク331に対して、Y軸に平行な軸とZ軸に平行な軸の周りに回転可能である。第1ヨーク331がスライドロッド320のインナーロッド322に固定されており、第2ヨーク332が断熱材203に固定されている。別言すれば、ユニバーサルジョイント330の一端が断熱材203に固定されており、他端がスライドロッド320の他端に連結されている。ユニバーサルジョイント330は、スライドロッド320のインナーロッド322に対する断熱材203の2軸(Y軸とZ軸)周りの回転を許容する。
【0060】
支持部材300の水素容器202の側の他端は、外タンク201の側の一端に対して自由に移動/回転ができる。別言すれば、支持部材300の他端は一端に対して6自由度(X、Y、Zの各軸に沿った移動と各軸周りの回転)を有している。支持部材300は、外タンク201の内部で水素容器202の変形や揺れを許容する。また、支持部材300は、外タンク201が変形しても水素容器202をしっかりと支持することができる。水素容器202は外タンク201に対して(および、外部に対して)断熱されている。
【0061】
図4に、変形例の水素ガスタンク200aの断面図を示す。水素ガスタンク200aは、開口204に、逆止弁205を備えている点で
図3の水素ガスタンク200と異なる。逆止弁205以外は、
図4の水素ガスタンク200aの構造は
図3の水素ガスタンク200の構造と同じである。
【0062】
逆止弁205は、水素容器202の内から外へはガスの流れを許容し、逆方向(水素容器202の外から内への方向)へはガスの流れを遮断する。逆止弁205は、水素容器202の外側で開口204の縁に貼り付く柔軟金属板でよい。柔軟金属板は、一部が水素容器202の外側に固定されている。柔軟金属板のその他の部分は水素容器202の開口204の縁に接しているのみである。水素容器202の内側の圧力が外側の圧力よりも高くなると、逆止弁205(柔軟金属板)が水素容器202から離れる方向にまくれて水素容器202の内から外へガスが流れる。水素容器202の外側の圧力が内側の圧力よりも高い場合は、逆止弁205(柔軟金属板)は開口204の全周で縁に貼り付く。それゆえ、水素容器202の外から内へはガスが流れることができない。
【0063】
水素ガスタンク200/200aは、水素容器202に注入された液体水素を気化させて外タンク201を水素ガスで満たすのに好適なタンクである。水素ガスタンク200/200aは、実施例の水素充填装置100/100aとペアで用いることが好適である。
【0064】
貯留槽110においても、
図3の支持部材300で水素容器112が外タンク111の内面に支持されていてもよい。補助タンク140においても、支持部材300で水素容器142が外タンク141の内面に支持されていてもよい。
【0065】
貯留槽110にヒータを備えることも好適である。ヒータは、液体水素を温める。第2ステップを実行した後、第3ステップを実行する前に、コントローラ190は、ヒータを起動して液体水素を温める。ヒータの熱によって液体水素の気化が促進される。外タンク111の内部の圧力が任意の圧力に達するまでの時間を短縮することができる。
【0066】
第3ステップを実行した後、コントローラ190は、第3バルブ133を閉じ、再び第2バルブ132を開いて貯留槽110の残ガスを排ガスタンク150へ排出するようにしてもよい。
【0067】
本明細書が開示する水素タンクの特徴を列記する。本明細書が開示する水素タンクの一態様は、外タンク、水素容器、支持部材、第1管、第2管を備える。水素容器は、外タンクの内部に配置されている容器であって容器の内と外を連通する開口を備えている。支持部材は、外タンクの内面に対して水素容器を支持する。第1管は、外タンクの外から水素容器へ液体水素を導く。第2管は、外タンクの中の水素ガスを外タンクの外へ導く。支持部材は、伸縮機構、ボールジョイント、ユニバーサルジョイントを備える。ボールジョイントの一端が外タンクの内面に固定されており、他端が伸縮機構の一端に固定されている。ユニバーサルジョイントの一端が断熱材に固定されており、他端が伸縮機構の他端に連結されている。断熱材が水素容器に固定されている。
【0068】
本明細書が開示する水素タンクを用いると、水素を液体のままタンクの水素容器に入れることができる。水素容器に入れられた液体の水素は気化し、外タンク内に拡がる。水素をガスのまま充填する従来のタンクと異なり、水素を簡便に充填することができる。
【0069】
支持部材は、外タンクの内面に固定された一端に対して反対側の他端が揺動可能である。この支持部材は、外タンク内での水素容器の変形や揺れを許容する。また、支持部材は、外タンクが変形しても水素容器をしっかりと支持することができる。
【0070】
水素容器の開口に、水素容器の内から外へのガス流を許容し逆方向のガス流を遮断する逆止弁が備えられているとよい。
【0071】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0072】
10、10a:水素充填システム 100、100a:水素充填装置 101:液体水素タンク 110、110a-110c:貯留槽 111、141、201:外タンク 112、142、202:水素容器 113、143、203:断熱材 121、124:液体水素管 122:排ガス管 123:液体水素供給管 131、132、133、133a-133c、134、145、148、153、154、157:バルブ 140:補助タンク 139、139a-139c:水素供給ノズル 144:水素ガス供給管 146:蓄圧タンク 147:水素ガス供給管 150:排ガスタンク 151:水素ガス管 152:ポンプ 155:水素管 190:コントローラ 200、200a:水素ガスタンク 204:開口 205:逆止弁 211:第1管 212:第2管 300:支持部材 310:ボールジョイント 311:アウターカップ 312:インナーボール 320:スライドロッド 321:アウターロッド 322:インナーロッド 330:ユニバーサルジョイント 331:第1ヨーク 332:第2ヨーク 333:十字軸 900:燃料電池車 901:燃料電池スタック 902:水素供給口 910、920:燃料電池車 911、921:水素ガスタンク