(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-29
(45)【発行日】2025-10-07
(54)【発明の名称】電子装置及び電子装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 60/12 20230101AFI20250930BHJP
H10N 60/81 20230101ALI20250930BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20250930BHJP
【FI】
H10N60/12 A ZAA
H10N60/81
H01L23/12 501T
(21)【出願番号】P 2023580031
(86)(22)【出願日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2022005649
(87)【国際公開番号】W WO2023152961
(87)【国際公開日】2023-08-17
【審査請求日】2024-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹野内 正壽
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼馬 悟覚
(72)【発明者】
【氏名】島内 岳明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 剛
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-231721(JP,A)
【文献】特開2000-306952(JP,A)
【文献】特開2003-204162(JP,A)
【文献】特開平11-163204(JP,A)
【文献】国際公開第2005/097396(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/169418(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/12
H10N 60/81
H01L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ビット素子を含む回路素子を有する第1の基板と、
前記第1の基板に積層され、前記回路素子を覆う第2の基板と、を含み、
前記第1の基板及び前記第2の基板のうちの一方は、
当該基板の基材によって構成され、前記第1の基板と前記第2の基板の積層方向と交差する断面の面積が先端に向けて徐々に縮小しているテーパ状の凸部と、前記凸部の表面を覆い、前記凸部の形状を反映したテーパ状の導電膜と、を含むバンプを有し、
前記導電膜は超伝導を発現する金属を含み、
前記バンプが前記第1の基板及び前記第2の基板のうちの他方に接合されている
電子装置。
【請求項2】
前記基材は、前記凸部の周囲に設けられた凹部を更に含む
請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記導電膜は、積層された複数の金属膜を含む
請求項1又は請求項2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記凸部は円錐形状又は角錐形状を有する
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の電子装置。
【請求項5】
前記凸部は、前記回路素子の周囲を囲むよう環状に形成される
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の電子装置。
【請求項6】
前記導電膜は、前記第2の基板の前記第1の基板と対向する面の全体を覆っている
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の電子装置。
【請求項7】
量子ビット素子を含む回路素子を有する第1の基板を作製する工程と、
前記回路素子を覆うための第2の基板を作製する工程と、
前記第1の基板と前記第2の基板とを積層する工程と、
を含み、
前記第1の基板を作製する工程及び前記第2の基板を作製する工程のうちの一方は、当該基板にバンプを形成する工程を含み、
前記バンプを形成する工程は、
当該基板の基材によって構成され、前記第1の基板と前記第2の基板の積層方向と交差する断面の面積が先端に向けて徐々に縮小しているテーパ状の凸部を形成する工程と、
前記凸部の表面を覆い、前記凸部の形状を反映したテーパ状の導電膜を形成する工程と、
を含み、
前記導電膜は超伝導を発現する金属を含み、
前記第1の基板と前記第2の基板とを積層する工程において、前記バンプを前記第1の基板及び前記第2の基板のうちの他方に接合する
電子装置の製造方法。
【請求項8】
前記基材の前記凸部の外周に対応する領域をエッチングすることにより、前記凸部を形成する
請求項
7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記凸部は円錐形状又は角錐形状を有する
請求項
7又は請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記凸部は前記回路素子の周囲を囲むよう環状に形成される
請求項
7又は請求項
8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記バンプを前記第1の基板に接合する工程において、前記バンプに押圧力を加えることにより前記導電膜を変形させる
請求項
7から請求項
10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
基板の基材によって構成され、前記基板の法線方向と交差する断面の面積が先端に向けて徐々に縮小しているテーパ状の凸部と、
前記凸部の表面を覆い、前記凸部の形状を反映したテーパ状の導電膜と、
を含むバンプ
と、
前記基板に設けられた量子ビット素子を含む回路素子と、
有し、
前記導電膜は超伝導を発現する金属を含む
電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、電子装置及び電子装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子演算装置に関する技術として、以下の技術が知られている。例えば、ジョゼフソン接合を含む基板と、この基板にバンプを介して接合されたインターポーザ基板と、を含む量子コンピューティングデバイスが知られている。
【0003】
また、量子ビットチップの表面に設けられた複数の突起と、複数の突起に整合するように配列された複数の窪みを有するヒートシンクと、を含む量子デバイスが知られている。
【0004】
また、超伝導体量子デバイスを含む基板と、上記基板との間に密閉された空洞を形成するように上記基板に接合されたキャップ層と、を含む量子デバイスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2020/0403138号明細書
【文献】米国特許出願公開第2020/0152540号明細書
【文献】米国特許出願公開第2019/0207075号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の基板を積層して構成される電子装置において、基板同士の接合は、一方の基板に設けられた複数のバンプを、他方の基板に設けられたパッドに接合することにより行われる。複数のバンプは、一方の基板を他方の基板に押し付ける押圧力が加えられることにより変形し、パッドに圧着される。しかしながら、製造バラツキにより、バンプの高さが不均一となった場合、相対的に高さが低い一部のバンプに押圧力が加わらず、相対的に高さが低い一部のバンプにおいて接合不良が発生するおそれがある。
【0007】
開示の技術は、バンプを介して互いに接合される複数の基板を備える電子装置において、バンプの接合不良を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の技術に係る電子装置は、回路素子を有する第1の基板と、前記第1の基板に積層され、前記回路素子を覆う第2の基板と、を含む。前記第1の基板及び前記第2の基板のうちの一方は、前記第1の基板及び前記第2の基板のうちの他方に接合されたバンプを有する。前記バンプは、当該基板の基材によって構成され、前記第1の基板と前記第2の基板の積層方向と交差する断面の面積が先端に向けて徐々に縮小しているテーパ状の凸部を含む。前記バンプは、前記凸部の表面を覆い、前記凸部の形状を反映したテーパ状の導電膜を含む。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、バンプを介して互いに接合される複数の基板を備える電子装置において、バンプの接合不良を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】開示の技術の実施形態に係る量子演算装置の部分的な等価回路図である。
【
図2】開示の技術の実施形態に係る量子ビット素子の回路構成の一例を示す図である。
【
図3】開示の技術の実施形態に係る量子ビット素子間の接続構成の一例を示す図である。
【
図4】開示の技術の実施形態に係る共振器の回路構成の一例を示す図である。
【
図5】開示の技術の実施形態に係る量子演算装置の構成の一例を示す模式的な断面図である。
【
図6A】開示の技術の実施形態に係る第2の基板の構成の一例を示す平面図である。
【
図7】開示の技術の実施形態に係るバンプの構造の一例を示す斜視図である。
【
図8A】開示の技術に実施形態に係るバンプとパッドとの接合方法の一例を示す断面図である。
【
図8B】開示の技術に実施形態に係るバンプとパッドとの接合方法の一例を示す断面図である。
【
図9】開示の技術に実施形態に係る円錐形状のバンプをモデル化した図である。
【
図10】開示の技術に実施形態に係るバンプに加えられる押圧力と、バンプの高さとの関係の一例を示すグラフである。
【
図11A】開示の技術の実施形態に係る第2の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図11B】開示の技術の実施形態に係る第2の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図11C】開示の技術の実施形態に係る第2の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図11D】開示の技術の実施形態に係る第2の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図11E】開示の技術の実施形態に係る第2の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図11F】開示の技術の実施形態に係る第2の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図11G】開示の技術の実施形態に係る第2の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図11H】開示の技術の実施形態に係る第2の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図12A】開示の技術の実施形態に係る第1の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図12B】開示の技術の実施形態に係る第1の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図12C】開示の技術の実施形態に係る第1の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図12D】開示の技術の実施形態に係る第1の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図12E】開示の技術の実施形態に係る第1の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図12F】開示の技術の実施形態に係る第1の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図12G】開示の技術の実施形態に係る第1の基板の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図13A】開示の技術の実施形態に係る第1の基板と第2の基板とを接合する方法の一例を示す断面図である。
【
図13B】開示の技術の実施形態に係る第1の基板と第2の基板とを接合する方法の一例を示す断面図である。
【
図14A】比較例に係るバンプとパッドとの接合を示す断面図である。
【
図14B】比較例に係るバンプとパッドとの接合を示す断面図である。
【
図15】比較例に係るバンプの形成方法の一例を示す断面図である。
【
図16A】開示の技術の他の実施形態に係る第2の基板の構成の一例を示す平面図である。
【
図17】開示の技術の他の実施形態に係る量子演算装置の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、開示の技術の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与し、重複する説明は省略する。
【0012】
[第1の実施形態]
図1は、開示の技術の実施形態に係る量子演算装置10の構成の一例を示す平面図である。量子演算装置10は、第1の基板30に設けられた量子ビット素子(Qubit)20、共振器21及び読み出し電極22を有する。なお、量子演算装置10は、開示の技術における電子装置の一例である。量子ビット素子20及び共振器21は、開示の技術における回路素子の一例である。
【0013】
量子ビット素子20は、超伝導を用いてコヒーレントな2準位系を形成する素子である。
図2は、量子ビット素子20の回路構成の一例を示す図である。量子ビット素子20は、非線形なエネルギーを利用して量子演算を行うものであり、超伝導ジョセフソン素子201とキャパシタ202とを並列に接続したトランズモン量子ビット回路を含んで構成されている。超伝導ジョセフソン素子201は、所定の臨界温度以下の温度で超伝導を発現する一対の超伝導体と、一対の超伝導体の間に挟まれた厚さ数nm程度の極薄の絶縁体とを含んで構成されている。超伝導体は例えばアルミニウムであってもよく、絶縁体は、例えば酸化アルミニウムであってもよい。
図3に示すように、量子演算装置10において、複数の量子ビット素子20が、隣接する他の量子ビット素子20にビット間配線24を介して接続されている。ビット間配線24の経路上には、キャパシタ23が設けられている。これにより、量子ビット素子20の各々は隣接する他の量子ビット素子20との間で量子もつれ状態を作り出して量子演算を行う。
【0014】
共振器21は、量子ビット素子20と相互作用することによって量子ビット素子20の状態を示すビット信号を読み出す。共振器21は、量子ビット素子20にキャパシタ(図示せず)を介して接続されている。
図4は共振器21の回路構成の一例を示す図である。共振器21は、超伝導インダクタ211とキャパシタ212とを並列に接続した共振回路を含んで構成されている。読み出し電極22は、共振器21に接続され、共振器21によって読み出されたビット信号を外部に引き出すための電極である。
【0015】
図5は、量子演算装置10の構成の一例を示す模式的な断面図である。なお、
図5は、1つの量子ビット素子20の周辺の構成のみを抽出して示したものである。量子演算装置10は、積層された第1の基板30及び第2の基板40を有する。
【0016】
第1の基板30の第1の面S1には量子ビット素子20及び共振器21が設けられている。第1の基板30には、貫通ビア31A、31Bが設けられている。貫通ビア31A、31Bは、それぞれ第1の基板30を貫通する貫通孔32と、貫通孔32の内壁を覆う導電膜33とを含んで構成されている。導電膜33は、第1の基板30の第1の面S1及び第1の面S1とは反対側の第2の面S2に延在する部分を有する。貫通ビア31Aは、第1の基板30及び第2の基板40にグランド電位を供給するために使用される。貫通ビア31Bは、読み出し電極22として機能する。
【0017】
第1の基板30の基材として絶縁体又は半導体を用いることができ、例えばシリコンを好適に用いることができる。第1の基板30の表面には、パッド25及びその他の配線を構成する導電膜34が設けられている。共振器21は、この導電膜34を含んで構成されていてもよい。パッド25は、貫通ビア31Aに電気的に接続されており、外部から貫通ビア31Aを介してグランド電位が供給される。
【0018】
貫通ビア31A、31Bを構成する導電膜33及びパッド25及びその他の配線を構成する導電膜34は、それぞれ、所定の温度以下の温度で超伝導を発現する金属によって構成されることが好ましい。パッド25及びその他の配線を構成する導電膜34の材料として、例えばTiN(窒化チタン)を好適に用いることができる。貫通ビア31A、31Bを構成する導電膜33の材料として、例えばAl(アルミニウム)を好適に用いることがきる。
【0019】
第2の基板40は、第1の基板30の第1の面S1の側に積層されている。第2の基板40は、量子ビット素子20及び共振器21を覆うカバーとして機能する。第2の基板40は、第1の基板30の第1の面S1と対向する面にキャビティ41を有しており、量子ビット素子20及び共振器21の周囲に空間が形成されている。第2の基板40は、キャビティ41の外周に設けられた複数のバンプ42を有しており、これら複数のバンプ42が第1の基板30に設けられたパッド25に接合されている。なお、第1の基板30と第2の基板40との間にギャップを形成することができる場合、第2の基板40にキャビティ41が設けられていなくてもよい。
【0020】
図6Aは、第2の基板40の構成の一例を示す平面図である。
図6Bは、
図6Aにおける6B-6Bに沿った断面図である。複数のバンプ42は、キャビティ41を囲むように複数の列をなして配列されている。複数のバンプ42はそれぞれ、第2の基板40の基材43によって構成された複数の凸部44と、複数の凸部44の各々の表面を覆う導電膜45A及び導電膜45Bと、を含んで構成されている。凸部44は、エッチングにより、基材43を微細加工することによって形成される。凸部44は、第1の基板30と第2の基板40の積層方向(すなわちバンプ42の高さ方向)と交差する断面の面積が、バンプ42の先端に向けて徐々に縮小している。すなわち、凸部44は、テーパ形状を有する。凸部44は、バンプ42のコアとなる部分である。
【0021】
導電膜45Aは、凸部44の表面を含む、第2の基板40の、第1の基板30と対向する面の全体を覆っている。導電膜45Bは、第2の基板40の凸部44の形成領域において、導電膜45Aの表面を覆っている。導電膜45A及び導電膜45Bの凸部44を覆う部分がバンプ42を構成する。導電膜45A及び導電膜45Bは、凸部44を覆う部分において、凸部44の形状を反映したテーパ状となっている。バンプ42の先端は、基材43の表面から突出しており、第2の基板40を第1の基板30に接合する工程において、第2の基板40を第1の基板30に重ねたときに、バンプ42の先端が第1の基板30に当接される。
【0022】
導電膜45A及び導電膜45Bは、それぞれ、所定の温度以下の温度で超伝導を発現する金属によって構成されることが好ましい。導電膜45Aの材料として、例えばTiN(窒化チタン)を好適に用いることができる。導電膜45Bの材料として、例えばIn(インジウム)を好適に用いることがきる。第2の基板40の基材43として絶縁体又は半導体を用いることができ、例えばシリコンを好適に用いることができる。基材43が例えばシリコンによって構成される場合、バンプ42のコアとなる部分を構成する凸部44は、シリコンで構成されることになる。
【0023】
図7は、バンプ42の構造の一例を示す斜視図である。
図7に示すように、複数のバンプ42は、円錐状の形状を有していてもよい。すなわち、第2の基板40の基材43に形成される凸部44は、複数の錘状構造部を含み得る。複数のバンプ42は、三角錐、四角錐等の角錐状の形状を有していてもよい。
【0024】
第2の基板40の基材43には、凸部44の各々の周囲に設けられた複数の凹部46を有する。複数の凹部46は、複数の凸部44の各々に対応して設けられている。凹部46の各々は、対応する凸部44の外周を囲んでいる。換言すれば、凸部44の各々は、対応する凹部46の内側に設けられている。後述するように、凹部46は第2の基板40の基材43の凸部44の周囲に対応する領域をエッチングすることによって形成される。凸部44は、凹部46を形成するためのエッチングにおいて、基材43のエッチングされずに残った部分に相当する。
【0025】
図8A及び
図8Bは、第2の基板40に設けられたバンプ42と第1の基板30に設けられたパッド25との接合方法の一例を示す断面図である。
図8Aに示すように、バンプ42(導電膜45B)の先端が、パッド25に接合される。テーパ形状を有するバンプ42の先端とパッド25とを当接させた状態で、第1の基板30と第2の基板40とを互いに押し付け合う押圧力(荷重)を加えることで、
図8Bに示すように、バンプ42の先端、すなわち導電膜45Bが潰れるように変形し、バンプ42とパッド25とが圧着される。バンプ42とパッド25との接合は、常温下において行われることが好ましい。バンプ42がパッド25に接合されることで、第2の基板40の表面を覆う導電膜45Aにグランド電位が供給される。グランド電位に固定された第2の基板40によって量子ビット素子20及び共振器21を覆うことで、これらの回路素子の動作に影響を及ぼす外来ノイズを抑制するとともに、これらの回路素子から放射される電磁ノイズの拡散を抑制することが可能となる。
【0026】
図9は円錐形状のバンプ42をモデル化した図である。
図9に示すように、バンプ42の底面における半径をrとし、バンプ42の高さをhとする。また、バンプ42に押圧力Fを加えたときにバンプ42作用する応力をσとし、バンプ42の潰れ量をdとし、バンプ42の潰れた先端部の断面積をSとする。この場合において、応力σは下記の(1)式のよって表すことができ、押圧力Fは下記の(2)式によって表すことができる。
σ=F/S ・・・(1)
F=σπ(dr/h)
2 ・・・(2)
【0027】
上記の(1)式及び(2)式は、バンプ42の高さが高い程、また、バンプ42の先端の断面積Sを小さくする程、所定の潰れ量dとなるようにバンプ42を変形させるために必要な押圧力Fを小さくできることを示している。
図10は、バンプ42の潰れ量dが0から10μmとなるようにバンプ42を変形させる場合における、バンプ42に加えられる押圧力Fと、バンプ42の高さhとの関係の一例を示すグラフである。なお、バンプ42の初期の高さを15μmとし、バンプ42の底面の半径rを5μmとし、応力σを2.14MPaとして試算した。
図10に示すように、バンプ42の変形の進行に伴って断面積Sが大きくなるにつれて、バンプ42を変形させるために必要な押圧力Fが増加していく。
【0028】
バンプ42がテーパ形状を有することで、バンプ42の先端の面積を小さくすることができる。これにより比較的小さい押圧力でも大きな潰れ量にてバンプ42を変形させることができる。バンプ42の潰れ量を大きくすることで、製造バラツキによりバンプ42の高さが不均一となった場合でも、全てのバンプ42に押圧力(荷重)を加えることが可能となる。すなわち、相対的に高さが低い一部のバンプにおいて接合不良が発生するリスクを低減することができる。
【0029】
以下において、量子演算装置10の製造方法について説明する。初めに、第2の基板40の製造方法の一例を、
図11A~
図11Hを参照しつつ説明する。
【0030】
第2の基板40の基材43を用意する。基材43として厚さ525μm程度のシリコン基板を好適に用いることができる(
図11A)。
【0031】
次に、基材43の表面に厚さ5μm程度のレジスト80を形成する。次に、レジスト80に露光及び現像処理を行うことにより、レジスト80にバンプ42に対応するパターニングを施す(
図11B)。ここでは、円錐形状のバンプ42を形成する場合を例示する。凸部44に対応する部分に、直径φ1の円形のマスク80aを形成し、マスク80aの周囲を囲むように、凹部46に対応する直径φ2の円環状の開口部200bを形成する。直径φ1は例えば15μm程度であり直径φ2は例えば30μm程度である。互いに隣接する開口部80b間の距離L1は、例えば25μmである。基材43の表面の内周部は、マスク80cによって覆われる。
【0032】
次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)エッチング装置を用いて基材43をエッチングする(
図11C)。ICPパワーを2000W以下、RFバイアスパワーを35W以下、チャンバー圧力を60mTorr以下、ガス比(C4F8:SF6)を3:7に設定することが好ましい。これにより、基材43の、レジスト80の開口部80bから露出した部分がエッチングされ、複数の円環状の凹部46が形成され、凹部46の内側に凸部44が形成される。凸部44は、基材43がエッチングされずに残った部分である。上記の条件でエッチングを行うことで、凹部46の上端における直径φ3は、下端における直径φ4よりも大きくなる。すなわち、テーパ形状の凹部46が形成される。その結果、凸部44の形状は円錐形状となる。凹部46の上端における直径φ3は40μm程度であり、凹部46の下端における直径φ4は30μm程度である。凹部46の深さD1は15μm程度である。凸部44の下端における直径φ5は10μm程度である。
【0033】
次に、基材43の表面にドライフィルム81を形成する。続いてドライフィルム81に露光及び現像処理を行うことにより、ドライフィルム81にキャビティ41に対応する開口部81aを形成する(
図11D)。
【0034】
次に、基材43の、ドライフィルム81の開口部81aから露出した部分をエッチングすることにより、基材43に深さ300μm程度のキャビティ41を形成する(
図11E)。基材43のエッチングは、RIE(Reactive Ion Etching)によって行うことが可能である。本エッチング工程においては、形成途中のキャビティ41の側面を保護膜で覆うステップと、形成途中のキャビティ41の底面を更にエッチングするステップとが交互に実施される。キャビティ41の側面を保護膜で覆うことで、キャビティ41の底面のエッチングにおいて、キャビティ41の側面のエッチングが抑制される。キャビティ41の側面を保護膜で覆うステップではCFガスが用いられ、キャビティ41の底面をエッチングするステップではSF6ガスが用いられる。キャビティ41の形成が完了した後、ドライフィルム81は除去される。
【0035】
次に、スパッタ法により基材43の表面全体に厚さ0.2μm程度の導電膜45Aを形成する(
図11F)。導電膜45Aの材料としてTiN(窒化チタン)を好適に用いることができる。
【0036】
次に、基材43の表面にドライフィルム82を形成する。続いてドライフィルム82に露光及び現像処理を行うことにより、ドライフィルム82にバンプ42に対応する開口部82aを形成する(
図11G)。開口部82aは、直径30μm程度の円形であり、バンプ42の形成位置に形成される。
【0037】
次に、蒸着法により、導電膜45A表面の、ドライフィルム82の開口部82aにおいて露出した部分に厚さ25μm程度の導電膜45Bを形成する(
図11G)。導電膜45Bは、ドライフィルム82上にも形成される。導電膜45Bの材料としてIn(インジウム)を好適に用いることができる。導電膜45A及び導電膜45Bは、基材43の表面形状に沿って形成され、凸部44を覆う部分において凸部44の形状を反映した円錐形状に形成される。第2の基板40には、凸部44、導電膜45A及び導電膜45Bが積層された円錐形状のバンプ42が形成される。バンプ42の底面の直径φ5は10μm程度であり、バンプ42の高さhは25μm程度である。すなわち、バンプ42のアスペクト比(h/φ5)は2.5(=25/10)である。次に、ドライフィルム82を、その表面に堆積した導電膜45Bとともに除去する(
図11H)。以上の各工程を経ることにより、第2の基板40が完成する。
【0038】
以下において、第1の基板30の製造方法の一例を、
図12A~
図12Gを参照しつつ説明する。第1の基板30の基材35を用意する。基材35として厚さ525μm程度のシリコン基板を好適に用いることができる(
図12A)。
【0039】
次に、基材35の第2の面S2に放熱基板90を貼り付ける。続いて、基材35の第1の面S1にレジスト83を形成し、レジスト83に貫通ビア31A、31Bに対応する開口部83aを形成する(
図12B)。
【0040】
次に、基材35の、レジスト83の開口部83aから露出した部分をエッチングして、基材35に貫通孔32を形成する(
図12C)。エッチングの際に発生する熱は、放熱基板90によって拡散され、基材35の温度が過度に高まることが回避される。
【0041】
次に、スパッタ法により、基材35の第1の面S1及び第2の面S2の全体に導電膜34を形成する(
図12D)。導電膜34の材料としてTiN(窒化チタン)を好適に用いることができる。
【0042】
次に、蒸着法により、基材35の第1の面S1及び第2の面S2の全体に導電膜33を形成する。先に形成された導電膜34は、導電膜33によって覆われる。導電膜33は、貫通孔32の内壁にも形成される(
図12E)。導電膜33の材料としてAl(アルミニウム)を好適に用いることができる。
【0043】
次に、フォトリソグラフィ及びエッチングにより、導電膜33及び導電膜34をパターニングする。これにより、貫通ビア31A、31B、共振器21、パッド25及びその他の配線が形成される(
図12F)。
【0044】
次に、基材35の第1の面S1に量子ビット素子20を形成する(
図12G)。量子ビット素子20を構成する超電導ジョセフソン素子は、例えば、蒸着法によって基材35の第1の面S1にAl(アルミニウム)を含む第1電極(図示せず)を形成する工程、O
2ガスを用いて第1電極の表面に厚さ数nm程度の極薄の酸化膜(図示せず)を形成する工程、蒸着法によって酸化膜の表面にAl(アルミニウム)を含む第2電極(図示せず)を形成する工程を経ることによって形成される。第1電極及び第2電極のパターニングは、例えば、パターニングされたレジスト(図示せず)を用いたリフトオフ法によって行ってもよい。この場合、レジストの開口パターンを、第1の方向に沿った第1の直線部と、第1の方向と直交する第2の方向に沿った第2の直線部とを含む十字型とし、第1の方向を回転軸として傾けて蒸着を行うことで、第1の直線部に対応する部分に第1電極を形成してもよい。続いて、第2の方向を回転軸として傾けて蒸着を行うことで、第2の直線部に対応する部分に第2電極を形成してもよい。上記の方法によれば、第1電極及び第2電極のパターニングを単一のレジストによって行うことが可能となる。以上の各工程を経ることにより、第1の基板30が完成する。
【0045】
以下に、第1の基板30と第2の基板40とを接合する工程について、
図13A~
図13Bを参照しつつ説明する。
【0046】
第1の基板30及び第2の基板40を真空チャンバー(図示せず)に収容し、真空チャンバー内において、第1の基板30及び第2の基板40の接合面にイオンビームを照射する(
図13A)。これにより、接合部を形成するパッド25及びバンプ42の表面に存在する酸化膜、水酸基及び水分子等の接合の妨げとなる要素が除去され、パッド25及びバンプ42を構成する導電膜の表面が活性化される。イオンビームには、アルゴン等の不活性ガスが用いられる。
【0047】
次に、真空チャンバー内において、第1の基板30と第2の基板40とを接合する。すなわち、第2の基板40に設けられたバンプ42と、第1の基板30に設けられたパッド25とを当接させた状態で、第2の基板40と第1の基板30とを互いに押し付ける押圧力(荷重)を加える。これにより、バンプ42(導電膜45B)の先端が潰れるように変形し、バンプ42とパッド25とが接合される。バンプ42とパッド25との接合は、常温下において行われることが好ましい。バンプ42及びパッド25を構成する導電膜の表面は、イオンビーム照射によって活性化されているため、常温下(25℃程度)で強固な接合を得ることが可能となる。この手法は、表面活性化常温接合と呼ばれている。基板間の接合を常温下で行うことで、量子ビット素子20の加熱に伴う特性変動が抑制される。以上の各工程を経ることにより、量子演算装置10が完成する。
【0048】
以上のように、本実施形態に係る量子演算装置10は、量子ビット素子20及び共振器21等の回路素子が設けられた第1の基板30と、第1の基板30に積層され、量子ビット素子20及び共振器21を覆う第2の基板40と、を有する。第2の基板40は、基材43によって構成され、基板の積層方向と交差する断面の面積が先端に向けて徐々に縮小しているテーパ状の凸部44と、凸部44の表面を覆い、凸部44の形状を反映したテーパ状の導電膜45A。45Bと、を含むバンプ42を有する。バンプ42は、第1の基板30のパッド25に接合されている。
【0049】
ここで、
図14A及び
図14Bは、比較例に係るバンプ42Xとパッド25Xとの接合を示す断面図である。比較例に係るバンプ42Xの形状は、高さ方向と交差する断面の面積は第1実施例におけるバンプ42よりも大きく、バンプの高さは概ね一定である。すなわち、バンプ42Xの形状は、テーパ形状ではない。また、製造バラツキにより、バンプ42Xの高さが不均一となっている。バンプ42Xとパッド25Xとを接合する工程では、バンプ42Xとパッド25Xとを当接させた状態で押圧力が加えられる。比較例に係るバンプ42Xは、高さ方向と交差する断面の面積が比較的大きいため、所定の押圧力に対するバンプ42Xの潰れ量は小さくなる。バンプ42Xの潰れ量が小さい場合、
図14Bに示すように、相対的に高さが低い一部のバンプ42Xに押圧力が加わらず、相対的に高さが低い一部のバンプ42Xにおいて接合不良が発生するおそれがある。
【0050】
一方、開示の技術の実施形態に係る量子演算装置10が備えるバンプ42は、テーパ形状を有するので、バンプ42の先端の面積を小さくすることができる。これにより、比較的小さい押圧力でも大きな潰れ量にてバンプ42を変形させることができる。バンプ42の潰れ量を大きくすることで、製造バラツキによりバンプ42の高さが不均一となった場合でも、全てのバンプに押圧力を加えることが可能となる。すなわち、相対的に高さが低い一部のバンプにおいて接合不良が発生するリスクを低減することができる。
【0051】
ここで、
図15は、比較例に係るバンプ42Yの形成方法の一例を示す断面図である。比較例に係るバンプ42Yは、開示の技術の実施形態に係る凸部44を含んでいない。すなわち、バンプ42Yは、コアとなる部分が基材43によって構成されておらず、導電膜45Bのみによって構成されている。比較例に係るバンプ42Yは、高アスペクト比の開口部200aを有するレジスト200を用いたリフトオフ法によって形成される。すなわち、レジスト200の開口部200aにおいて露出した導電膜45A上にバンプ42Yを構成する導電膜45Bを堆積させる。しかしながら、この方法によれば、十分な高さのバンプが形成される前に、微細な開口部200aが導電膜45Bによって塞がれる。その結果、高アスペクト比のバンプを形成することが困難となる。
【0052】
一方、開示の技術の実施形態に係るバンプ42は、第2の基板40の基材43によって構成されたテーパ状の凸部44と、凸部44の表面を覆い、凸部44の形状を反映したテーパ状の導電膜45A及び導電膜45Bと、を含む。すなわち、開示の技術の実施形態に係るバンプ42は、コアとなる部分が基材43によって構成されている。基材43は既存のエッチング技術により、所望の形状に微細加工することが比較的容易である。バンプ42のコアとなる部分を第2の基板40の基材43によって構成することで、テーパ形状を有する微細且つ高アスペクト比のバンプ42を容易に形成することが可能である。また、バンプ42のコアとなる部分を基材43の凸部44によって構成することで、凸部44を、バンプ42が過度に潰れることを防止するストッパーとして機能させることが可能となる。また、凸部44の周囲には凹部46が設けられているので、バンプ42の強度を確保することが可能となる。
【0053】
[第2の実施形態]
図16Aは、開示の技術の第2の実施形態に係る第2の基板40の構成の一例を示す平面図である。
図16Bは、
図16Aにおける16B-16Bに沿った断面図である。第2の実施形態に係る第2の基板40は、バンプ42の構造が第1の実施形態と異なる。本実施形態に係る第2の基板40の基材43によって構成される凸部44は、キャビティ41の周囲を囲む一体的な環状構造部を有する。すなわち、第2の基板40の基材43には、第1の基板30に設けられた量子ビット素子20及び共振器21等の回路素子の外周を囲む連続した矩形冠状を有する凸部44が設けられている。凸部44は、その高さ方向と交差する断面の面積が先端に向けて徐々に縮小しているテーパ形状を有する。凸部44の、冠状構造の1つの辺を構成する部分の形状は四角錐であってもよい。また、第2の基板40は、凸部44の周囲に設けられた凹部46を有する。凹部46は、凸部44の冠状構造に沿って冠状に設けられている。
【0054】
本実施形態に係る量子演算装置によれば、第1の実施形態に係る量子演算装置10と同様、バンプの接合不良を抑制することが可能となる。また、バンプ42が一体的な環状構造を有することで、量子ビット素子20及び共振器21の周囲の空間を密閉することができる。この空間を真空にすることで、量子ビット素子20表面に誘電体損失を引き起こす保護膜を形成することなく量子ビット素子20への物質の吸着を抑制することができる。
【0055】
[第3の実施形態]
図17は、開示の技術の第3の実施形態に係る量子演算装置10Aの構成の一例を示す断面図である。第3の実施形態に係る量子演算装置10Aは、第1の基板30と第2の基板40との接合部を構成するバンプ36が第1の基板30に設けられている点が第1及び第2の実施形態に係る量子演算装置10と異なる。バンプ36は、第1の基板30の基材35によって構成され、第1の基板30と第2の基板40の積層方向と交差する断面の面積が先端に向けて徐々に縮小しているテーパ状の凸部38を含む。バンプ36は、凸部38の表面を覆い、凸部38の形状を反映したテーパ状の導電膜34、37を含む。第3の実施形態に係る量子演算装置10Aによれば、第1の実施形態に係る量子演算装置10と同様、バンプの接合不良を抑制することが可能となる。
【0056】
以上の第1及び第2の実施形態においては、量子ビット素子20を有する量子演算装置10に開示の技術を適用する場合を例示したが、開示の技術はこの態様に限定されない。トランジスタ、抵抗素子、キャパシタ等の超電導デバイス以外の回路素子を含む電子装置に、開示の技術を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 量子演算装置
20 量子ビット素子
30 第1の基板
35 基材
40 第2の基板
36、42、42X、42Y バンプ
43 基材
44 凸部
34、37、45A、45B 導電膜