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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-29
(45)【発行日】2025-10-07
(54)【発明の名称】HMGB1部分ペプチドを含有する製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20250930BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20250930BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20250930BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20250930BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20250930BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250930BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20250930BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61K9/19
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/26
A61P43/00 107
C07K14/47
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022517022
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015792
(87)【国際公開番号】W WO2021215375
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2024-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2020074929
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001926
【氏名又は名称】塩野義製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506364400
【氏名又は名称】株式会社ステムリム
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】松岡 奈穂
(72)【発明者】
【氏名】畑野 修一
(72)【発明者】
【氏名】空閑 裕也
(72)【発明者】
【氏名】岡部 真希
(72)【発明者】
【氏名】山崎 尊彦
(72)【発明者】
【氏名】横田 耕一
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/065347(WO,A1)
【文献】特開2019-189633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/17
A61K 9/19
A61K 47/02
A61K 47/12
A61K 47/26
A61P 43/00
C07K 14/47
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)に記載の物質、クエン酸、クエン酸ナトリウムおよびスクロースを含有する医薬組成物であって、当該医薬組成物を注射用蒸留水に溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物;
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるペプチドまたはその酸付加塩。
【請求項2】
前記の注射用蒸留水に溶解した際のpHが、3.0~4.0である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記の注射用蒸留水に溶解した際のpHが、3.0~3.6である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記の注射用蒸留水に溶解した際のpHが、3.1~3.3である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
医薬組成物中のスクロースの量が、(a)に記載の物質の量に対し、10~300倍モルである、請求項1から4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
医薬組成物中のスクロースの量が、(a)に記載の物質の量に対し、50~300倍モルである、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
アルカリ金属、アルカリ土類金属およびマグネシウムからなる群から選択される1以上の金属の水酸化物を用いて、pHを調整したものである、請求項1~6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
水酸化物が、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化マグネシウムからなる群から選択される1以上である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
水酸化物が、水酸化ナトリウムである、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
(a)に記載の酸付加塩を含有し、当該酸付加塩が、トリフルオロ酢酸塩である、請求項1~9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
凍結乾燥物である、請求項1~10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
凍結乾燥物1gに対する、(a)に記載の物質の量が、6.0~50.0mgである、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
以下の工程を含む、医薬組成物の製造方法:
1)注射用蒸留水にクエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、およびスクロースを溶解し、pH3.0~4.0に調整する工程;
2)1)の工程で製造した液を18℃以下に冷却する工程;
3)2)の工程で得た液に、請求項1の(a)に記載の物質を溶解する工程;
4)3)の工程で得た液のpHを、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびマグネシウムからなる群から選択される1以上の金属の水酸化物によって、2.5~4.0に調整する工程;ならびに
5)4)の工程で得た液を凍結乾燥する工程。
【請求項14】
以下の工程を含む、医薬組成物の製造方法:
1)注射用蒸留水にクエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、およびスクロースを溶解し、pHを3.0~4.0に調整する工程;
2)1)の工程で製造した液を18℃以下に冷却する工程;
3)2)の工程で得た液に、請求項1の(a)に記載の物質を溶解する工程;
4)3)の工程で得た液のpHを、水酸化ナトリウムによって、2.9~3.5に調整する工程;ならびに
5)4)の工程で得た液を凍結乾燥する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織再生を誘導するHMGB1部分ペプチドを安定化するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、骨髄間葉系幹細胞を骨髄血採血により採取し、細胞培養により増殖させた後、難治性組織損傷部位あるいは末梢循環血中に移植して、損傷組織の再生を誘導する再生医療が精力的に開発されつつある。既に脳梗塞、心筋梗塞、難治性皮膚潰瘍などの再生医療において、骨髄間葉系幹細胞移植の臨床応用が進められている。さらに、移植した骨髄間葉系幹細胞は生体内局所で炎症・免疫反応抑制作用、線維性瘢痕形成抑制作用を発揮することが明らかとなり、骨髄移植や輸血後の重篤な副作用である移植片対宿主反応(graft versus host disease, GVHD)や自己免疫疾患である強皮症に対する新しい治療法として、骨髄間葉系幹細胞移植療法の臨床試験が開始されている。しかし、骨髄間葉系幹細胞を含有する骨髄血は、腸骨に太い針を何度も刺入するという観血的手法でのみ採取される。また、骨髄間葉系幹細胞は体外で継代培養を続けると次第に増殖能力や多分化能を失ってしまう。さらに、生体内移植の安全性を保証する高品質管理に基づいた骨髄間葉系幹細胞培養はCPC(cell processing center)等の特殊培養設備を必要とするため、現時点では極めて限られた大学や企業でのみ実施可能である。即ち、骨髄間葉系幹細胞を用いた再生医療を難治性組織損傷に苦しんでいる世界中の多くの患者に届けるためには、あらゆる医療施設で実施可能な間葉系幹細胞再生医療のための技術開発が喫緊の課題である。
【0003】
HMGB1(High mobility group box 1:高移動性グループ1タンパク質)は、約30年前に核内クロマチン構造を制御して遺伝子発現やDNA修復を制御する非ヒストンクロマチンタンパク質として同定された。HMGB1タンパク質の構造は主に二つのDNA結合ドメインから構成され、N末端側にあるDNA結合ドメインをA-box、C末端側のDNA結合ドメインをB-boxと呼ぶ。過去の研究により、HMGB1分子内でTLRと結合して炎症反応を喚起するドメインはB-box内に存在することが明らかにされている。
【0004】
HMGB1(High mobility group box 1)タンパク質の断片ペプチドが骨髄間葉系幹細胞を骨髄から末梢血中に動員すること、ならびに心筋梗塞の急性期において当該断片ペプチドを投与することにより骨髄由来間葉系幹細胞が梗塞部位およびその近傍に集積し、心機能改善効果をもたらすことを見出されている(特許文献1および2)。
【0005】
多くのペプチドやタンパク質は、経口投与で分解され、注射剤として投与されることが多い。注射剤は、有効成分を安定化させるために様々な添加剤を添加されるが、この添加剤の種類は、有効成分によって大きく異なることが知られている(特許文献3~5)。HMGB1の断片ペプチドを安定化させる添加剤も、種々検討する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2012/147470号 国際公開パンフレット
【文献】WO2014/065347号 国際公開パンフレット
【文献】WO2008/102849号 国際公開パンフレット
【文献】WO2013/154045号 国際公開パンフレット
【文献】特開2000-169372号 公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願は、HMGB1の断片ペプチドを安定化する医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、HMGB1の断片ペプチドを安定化する医薬組成物の添加物や製剤の物性を検討した結果、HMGB1の断片ペプチドを含有する医薬組成物であって、当該医薬組成物を精製水に溶解した際のpHが3~4.5である医薬組成物であれば、HMGB1の断片ペプチドが安定化できることを見出した。詳しくは、HMGB1の断片ペプチド、有機酸の緩衝剤、糖類および/または糖アルコール、およびアルカリ金属の水酸化物を含有することによって、当該ペプチドを安定化することができる。
【0009】
すなわち、本発明は
(1)以下の(a)から(c)のいずれかに記載の物質を含有する医薬組成物であって、当該医薬組成物を注射用蒸留水に溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物;
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩;
(b)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するペプチドまたはその酸付加塩; および
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するペプチドまたはその酸付加塩、
(2)有機酸、有機酸のアルカリ金属塩、および有機酸のアルカリ土類金属塩からなる群から選択される1以上を含有する上記(1)記載の医薬組成物、
(3)有機酸を含有し、当該有機酸がクエン酸、酢酸およびリン酸からなる群から選択される1以上である上記(2)記載の医薬組成物、
(4)有機酸および/または有機酸のアルカリ金属塩を含有し、当該有機酸、有機酸のアルカリ金属塩が、それぞれクエン酸、クエン酸ナトリウムである、上記(2)記載の医薬組成物、
(5)糖および/または糖アルコールを含有する、上記(1)から(4)のいずれかに記載の医薬組成物、
(6)糖を含有し、当該糖が単糖類、二糖類および多糖類からなる群から選択される1以上である、上記(5)記載の医薬組成物、
(7)糖および/または糖アルコールがグルコース、フルクトース、スクロース、マンニトールおよびトレハロースからなる群から選択される1以上である、上記(5)記載の医薬組成物、
(8)糖および/または糖アルコールがスクロースである、上記(7)記載の医薬組成物、
(9)医薬組成物中の糖および/または糖アルコールの量が、(a)から(c)のいずれかに記載の物質の量に対し、10~300倍モルである、上記(5)から(8)のいずれかに記載の医薬組成物、
(10)医薬組成物中の糖および/または糖アルコールの量が、(a)から(c)のいずれかに記載の物質の量に対し、50~300倍モルである、上記(9)記載の医薬組成物、
(11)アルカリ金属、アルカリ土類金属およびマグネシウムからなる群から選択される1以上の金属の水酸化物を用いて、pHを調整したものである、上記(1)から(10)のいずれかに記載の医薬組成物、
(12)水酸化物が、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化マグネシウムからなる群から選択される1以上である、上記(11)記載の医薬組成物、
(13)水酸化物が、水酸化ナトリウムである、上記(11)の医薬組成物、
(14)(a)から(c)のいずれかに記載の酸付加塩を含有し、当該酸付加塩が、トリフルオロ酢酸塩である上記(1)から(13)のいずれかに記載の医薬組成物、
(15)凍結乾燥物である、上記(1)から(14)のいずれかに記載の医薬組成物、
(16)凍結乾燥物1gに対する、(a)から(c)のいずれかに記載の物質の量が、6.0~50.0mgである、上記(15)記載の医薬組成物、
(17)上記(1)から(16)のいずれかに記載の医薬組成物を、注射用蒸留水に溶解することにより調製された注射用製剤、
(18)以下の工程を含む、医薬組成物の製造方法:
1)注射用蒸留水に有機酸の水和物、有機酸の金属塩の水和物、および糖および/または糖アルコールを溶解し、pH3.0~4.0に調整する工程;
2)1)の工程で製造した液を18℃以下に冷却する工程;
3)2)の工程で得た液に、上記(1)の(a)から(c)のいずれかに記載の物質を溶解する工程;
4)3)の工程で得た液のpHを、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびマグネシウムからなる群から選択される1以上の金属の水酸化物によって、2.5~4.0に調整する工程;ならびに
5)4)の工程で得た液を凍結乾燥する工程、
(19)以下の工程を含む、医薬組成物の製造方法:
1)注射用蒸留水にクエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、およびスクロースを溶解し、pHを3.0~4.0に調整する工程;
2)1)の工程で製造した液を18℃以下に冷却する工程;
3)2)の工程で得た液に、上記(1)の(a)から(c)のいずれかに記載の物質を溶解する工程;
4)3)の工程で得た液のpHを、水酸化ナトリウムによって、2.9~3.5に調整する工程;ならびに
5)4)の工程で得た液を凍結乾燥する工程、
(20)上記(18)または(19)記載の製造方法によって製造された、医薬組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のHMGB1断片ペプチドを含有する医薬組成物は、pHや添加剤によって、安定性を高めることができる医薬組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明製剤の有効成分は、本明細書中、
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩;
(b)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するペプチドまたはその酸付加塩;または
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するペプチドまたはその酸付加塩である。
【0012】
本願において、「医薬組成物」という用語は、「医薬」、「薬剤」または「薬学的組成物」と互換的に用いられる。
【0013】
本願において、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むHMGB1断片ペプチドとは、HMGB1タンパク質の一部からなるペプチドであって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドを意味する。このようなペプチドは、該ペプチドをコードするDNAを適当な発現系に組み込んで遺伝子組換え体(recombinant)として得ることができるし、または、人工的に合成することもできる。
【0014】
本願において、HMGB1タンパク質としては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、および、配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
本願における配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むHMGB1断片ペプチドとしては、以下を例示できるが、これらに限定されるものではない:
1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するHMGB1断片ペプチド;
2) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、間葉系幹細胞の遊走を刺激する活性を有するHMGB1断片ペプチド;
3) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるHMGB1断片ペプチド。
【0016】
本願において、HMGB1断片ペプチドにより遊走が刺激される細胞としては、骨髄細胞または骨髄由来細胞(例えば骨髄幹細胞または骨髄由来幹細胞)が挙げられるが、これに制限されない。
【0017】
本願において、「骨髄細胞」とは、骨髄内に存在する細胞を意味し、一方、「骨髄由来細胞」とは、骨髄から骨髄外に動員された「骨髄細胞」を意味する。また、「骨髄細胞」は骨髄内に存在する幹細胞および前駆細胞等の未分化な細胞を含み得る。
【0018】
本願において、HMGB1断片ペプチドにより遊走が刺激される細胞としては、間葉系幹細胞も挙げられるが、これに制限されない。「間葉系幹細胞」とは、骨髄またはその他の組織(血液、例えば臍帯血、および皮膚、脂肪、歯髄等)から採取され、培養皿(プラスチックあるいはガラス製)への付着細胞として培養・増殖可能であり、骨、軟骨、脂肪、筋肉などの間葉系組織への分化能を有する細胞である。一つの態様において、間葉系幹細胞は、上皮系組織や神経組織への分化能をも有する。本願における間葉系幹細胞は、狭義の幹細胞のみならず前駆細胞をも含む不均一な細胞集団として存在してもよく、培養条件下では狭義の幹細胞および/または前駆細胞に加えて分化した細胞をも含み得る。一つの態様において、間葉系幹細胞は狭義の幹細胞のみによって構成されていてもよく、複数種の前駆細胞からなる細胞集団であってもよい。
【0019】
本願において、前駆細胞は、血液系以外の特定組織細胞への一方向性分化能を持つ細胞と定義され、間葉系組織、上皮系組織、神経組織、実質臓器、血管内皮への分化能を有する細胞を含む。
【0020】
本願において、HMGB1断片ペプチドにより遊走が刺激される細胞としては、骨髄間葉系幹細胞および骨髄由来間葉系幹細胞も挙げられるが、これに制限されない。「骨髄間葉系幹細胞」とは、骨髄内に存在する細胞であって、骨髄から採取され、培養皿(プラスチックあるいはガラス製)への付着細胞として培養・増殖可能であり、骨、軟骨、脂肪、筋肉などの間葉系組織、ならびに神経組織、上皮組織への分化能を有するという特徴を持つ細胞である。本願において、「骨髄間葉系幹細胞」という用語は、「骨髄間葉系間質細胞」、「骨髄多能性幹細胞」および「骨髄多能性間質細胞」と互換的に用いられる。
【0021】
また、「骨髄由来間葉系幹細胞」とは、骨髄から骨髄外に動員された骨髄間葉系幹細胞をいい、末梢血採血、さらには脂肪などの間葉系組織、皮膚などの上皮組織、脳などの神経組織からの採取によって取得することができる細胞である。本願において、「骨髄由来間葉系幹細胞」という用語は、「骨髄由来間葉系間質細胞」、「骨髄由来多能性幹細胞」および「骨髄由来多能性間質細胞」と互換的に用いられる。
【0022】
また、骨髄間葉系幹細胞および骨髄由来間葉系幹細胞は、採取後直接、あるいは一度培養皿へ付着させた細胞を生体の損傷部に投与することにより、例えば皮膚を構成するケラチノサイトなどの上皮系組織、脳を構成する神経系の組織への分化能も有するという特徴も持つ。
【0023】
骨髄間葉系幹細胞および骨髄由来間葉系幹細胞は、骨芽細胞(分化を誘導するとカルシウムの沈着を認めること等で特定可能)、軟骨細胞(アルシアンブルー染色陽性、サフラニン-O染色陽性等で特定可能)、脂肪細胞(ズダンIII染色陽性等で特定可能)の他に、例えば線維芽細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、ストローマ細胞、腱細胞などの間葉系細胞、神経細胞、色素細胞、表皮細胞、毛包細胞(サイトケラチンファミリー、ヘアケラチンファミリー等を発現する)、上皮系細胞(たとえば表皮角化細胞、腸管上皮細胞はサイトケラチンファミリー等を発現する)、内皮細胞、さらに肝臓、腎臓、膵臓等の実質臓器細胞に分化する能力を有することが好ましいが、分化後の細胞は上記細胞に限定されるものではない。
【0024】
ヒト間葉系幹細胞のマーカーとしては、PDGFRα陽性、PDGFRβ陽性、Lin陰性、CD45陰性、CD44陽性、CD90陽性、CD29陽性、Flk-1陰性、CD105陽性、CD73陽性、CD90陽性、CD71陽性、Stro-1陽性、CD106陽性、CD166陽性、CD31陰性、CD271陽性、CD11b陰性の全部または一部が例示できるが、これらに制限されるものではない。
【0025】
マウスに使用するマウス間葉系幹細胞のマーカーとしては、例えば、CD44陽性、PDGFRα陽性、PDGFRβ陽性、CD45陰性、Lin陰性、Sca-1陽性、c-kit陰性、CD90陽性、CD105陽性、CD29陽性、Flk-1陰性、CD271陽性、CD11b陰性の全部または一部が例示できるが、これらに制限されるものではない。
【0026】
ラットに使用するラット間葉系幹細胞のマーカーとしては、例えば、PDGFRα陽性、CD44陽性、CD54陽性、CD73陽性、CD90陽性、CD105陽性、CD29陽性、CD271陽性、CD31陰性、CD45陰性の全部または一部が例示できるが、これらに制限されるものではない。
【0027】
本願において、HMGB1断片ペプチドにより遊走が刺激される細胞としては、PDGFRα陽性細胞もまた挙げられるが、これに制限されない。HMGB1断片ペプチドにより遊走が刺激されるPDGFRα陽性細胞としては、PDGFRα陽性の間葉系幹細胞、PDGFRα陽性の骨髄由来間葉系幹細胞、PDGFRα陽性の骨髄由来細胞であって、骨髄採取(骨髄細胞採取)または末梢血採血により得られた血液中の単核球分画細胞培養により、付着細胞として得られる細胞などが例示できるが、これらに制限されるものではない。PDGFRα陽性の間葉系幹細胞の例としては、PDGFRαおよびCD44が陽性である細胞、PDGFRαおよびCD90が陽性である細胞、PDGFRαおよびCD105が陽性である細胞、PDGFRαおよびCD29が陽性である細胞等が挙げられる。一つの態様において、PDGFRα陽性の間葉系幹細胞は、CD44が陰性の細胞であってもよい。
【0028】
本発明製剤においては、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むHMGB1断片ペプチドに代えて、またはこれと共に、配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸残基が改変(置換、欠失、挿入若しくは付加)されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するペプチドを用いることもできる。かかるペプチドの例としては、以下のものを例示できるが、これらに限定されるものではない:
i) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個(例えば1個~10個、1個~9個、1個~8個、1個~7個、1個~6個、1個~5個、1個~4個、1個~3個、または1個若しくは2個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するペプチド;
ii) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個(例えば1個~10個、1個~9個、1個~8個、1個~7個、1個~6個、1個~5個、1個~4個、1個~3個、または1個若しくは2個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するペプチド;
iii) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列と約80%以上、例えば約85%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するペプチド;
iv) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列と約80%以上、例えば約85%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するペプチド。
また、これらのペプチドにより遊走が刺激される細胞としては、間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、PDGFRα陽性細胞、PDGFRα陽性の間葉系幹細胞、PDGFRα陽性の骨髄由来間葉系幹細胞、およびPDGFRα陽性の骨髄由来細胞であって骨髄採取(骨髄細胞採取)または末梢血採血により得られた血液中の単核球分画細胞培養により付着細胞として得られる細胞などが例示できるが、これらに制限されるものではない。
【0029】
本発明製剤中のHMGB1断片ペプチドとしては、塩であってもよいが、好ましくは酸付加塩である。酸付加塩とは、例えば、硫酸、塩酸等のような無機酸又は、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸等のような有機酸が付加した塩である。好ましい酸付加塩とは、トリフルオロ酢酸塩である。
【0030】
本願のペプチドを含有する本発明製剤の有効量が、本明細書に記載の疾患や症状の治療や予防のために対象に投与される。
【0031】
特に、本発明製剤の有効成分である、HMGB1断片ペプチドは、表皮水泡症、脳梗塞、心筋梗塞、心疾患、陳旧性心筋梗塞、脊髄損傷、繊維性疾患、炎症性腸疾患、乾癬等に有効である。
【0032】
本願における有効量とは、本明細書に記載の疾患や症状の治療や予防に十分な量をいう。本願における治療には、軽減、遅延、阻止、改善、寛解、治癒、完治などが含まれるが、これらに限定されない。また本願における予防には、軽減、遅延、阻止などが含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
本願における対象としては、特に制限はなく、哺乳類、鳥類、魚類等が挙げられる。哺乳類としては、ヒト又は非ヒト動物が挙げられ、例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ウマ、ヒツジ、クジラなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。本願において、「対象」という用語は、「患者」、「個体」および「動物」と互換的に用いられる。
【0034】
本願のペプチド等の投与部位に制限はなく、組織の構造的または機能的異常を有する部位もしくはその近傍、それらとは異なる部位(それら以外の部位)、組織の構造的または機能的異常を有する部位から離れた部位、組織の構造的または機能的異常を有する部位から遠位にある部位、または、組織の構造的または機能的異常を有する部位に対して遠位かつ異所である部位など、いかなる部位に投与されても、本願のペプチド等は、その効果を発揮することができる。
【0035】
本発明製剤の投与方法としては、経口投与または非経口投与が挙げられ、非経口投与方法としては、血管内投与(動脈内投与、静脈内投与等)、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられるが、これらに限定されない。また、本願のペプチド等を、注射投与、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって全身または局部的(例えば、皮下、皮内、皮膚表面、眼球あるいは眼瞼結膜、鼻腔粘膜、口腔内および消化管粘膜、膣・子宮内粘膜、または損傷部位など)に投与できる。
【0036】
本発明製剤は、点滴静注することができる。点滴静注する場合、バイアル中の凍結乾燥製剤を生理食塩液に再溶解し、当該液を生理食塩液バックへ必要添加して、投与液とすることができる。この投与液の濃度は、0.1~2.5mg/mLであり、点滴静注することができる。
【0037】
また、本願のペプチド等に代えて、本願のペプチドを分泌する細胞、該ペプチドをコードするDNAが挿入された遺伝子治療用ベクター、およびこれらを含有する医薬組成物を用いることもできる。
【0038】
また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。本願のペプチドを投与する場合、例えば、一回の投与につき、体重1kgあたり0.0000001mgから1000mgの範囲で投与量が選択できる。本願のペプチドを分泌する細胞や該ペプチドをコードするDNAが挿入された遺伝子治療用ベクターを投与する場合も、該ペプチドの量が上記範囲内となるように投与することができる。しかしながら、本願における医薬組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0039】
本発明製剤中のHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩の含有量としては、特に限定はされないが、HMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩が、製剤中で安定化できる含有量(力価)であればよい。本発明製剤中のHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩の含有量は、製剤全量、特に凍結乾燥製剤とした場合、当該製剤全量に対して、通常1.0~50.0重量%、好ましくは3.0~40.0重量%、より好ましくは6.0~30.0重量%、特に好ましくは6.5~28.3重量%(64.6~283.3mg/g)である。この量より少なければ、製剤を過剰に投与しなければならない恐れがあり、多ければ、凍結乾燥できない恐れがある。
【0040】
本発明製剤を注射用蒸留水に溶解した場合、pH3.0~4.5、好ましくはpH3.0~4.3、より好ましくはpH3.0~4.0、特に好ましくはpH3.0~3.6である。なお、pH測定は、pHメーター等で測定するが、測定時に±0.05程度の誤差を生じる場合がある。
【0041】
本発明製剤には、種々の添加物を含有することができる。
【0042】
本発明製剤中には、緩衝剤を含有してもよく、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格または食品添加物公定書等に収載されている緩衝剤を使用することができる。緩衝剤とは、他の酸や塩基が溶液にある程度まで加えられても溶液のpHを特定の値に保持されるようにするために、その溶液に加えられる化合物である。すなわち、緩衝剤は、pHの急激な変化を抑制する。例えば、緩衝剤としては、アミノ酸またはその塩酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などの塩、両性電解質またはそのナトリウム塩などの塩、弱酸のナトリウム塩、カリウム塩などの塩、弱酸の塩と、弱酸、塩酸、硫酸などの強酸との組み合わせ、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等が挙げられる。アミノ酸またはその塩酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などの塩としては、グリシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ε-アミノカプロン酸、リジン、ロイシンなどのアミノ酸、またはその塩酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などの塩等が挙げられる。両性電解質またはそのナトリウム塩などの塩としては、ニコチン酸アミド、アミノ安息香酸などの両性電解質、またはそのナトリウム塩などの塩等が挙げられる。弱酸のナトリウム塩、カリウム塩などの塩としては、クエン酸、リン酸、乳酸、酢酸、ホウ酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、安息香酸、サリチル酸、フタル酸、酒石酸などの弱酸のナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。弱酸またはその塩と、塩酸、硫酸などの強酸との組み合わせとしては、クエン酸、リン酸、乳酸、酢酸、ホウ酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、安息香酸、サリチル酸、フタル酸、酒石酸などの弱酸の塩と、弱酸、塩酸、硫酸などの強酸との組み合わせ等が挙げられる。好ましくは、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸カルシウム、酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム水和物、リン酸、リン酸一水素カルシウム、リン酸二カリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウムである。より好ましくは、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物である。特に好ましくは、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物である。これら緩衝剤は、2種以上で用いてもよい。
【0043】
本発明製剤中の緩衝剤の含有量は、特に限定はされないが、HMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩が、製剤中で安定化できる含有量であればよい。本発明製剤中の緩衝剤の含有量は、製剤全量、特に凍結乾燥製剤とした場合、当該製剤全量に対して、通常0.1~10重量%、好ましくは0.25~7.5重量%、より好ましくは0.5~5.0重量%、特に好ましくは0.9~3.9重量%である。この量より少なくても、多くても有効成分であるHMGB1断片ペプチドが安定化しない恐れがある。
【0044】
本発明製剤中には、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩を安定化する添加剤(以下、本明細書中で「安定化剤」という場合がある。)を含有してもよく、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格または食品添加物公定書等に収載されている添加剤を使用することができる。例えば、有効成分を安定化する添加剤としては、糖類、糖アルコール、アミノ酸、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物等が挙げられる。
糖類としては、単糖類、二糖類、多糖類が挙げられ、詳しくは、スクロース(白糖、精製白糖)、トレハロース、グルコース、フルクトース、ラフィノース、マルトース、マルトトリオーススクロース等が挙げられる。
糖アルコールとしては、マンニトール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、粉末麦芽糖水あめ、マルチトール等が挙げられる。
アミノ酸としては、メチオニン、ヒスチジン、アルギニン等が挙げられる。
アルカリ金属塩化物としては、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属塩化物としては、塩化ベリウム、塩化カルシウム等がある。
好ましくは、糖類、糖アルコールであり、より好ましくは、単糖類、二糖類、多糖類等である。また、より好ましくは、グルコース、フルクトース、スクロース、マンニトール、トレハロースであり、特に好ましくは、スクロース(白糖、精製白糖)である。
【0045】
本発明製剤中の安定化剤の含有量は、特に限定はされないが、HMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩が、製剤中で安定化できる含有量であればよい。本発明製剤中の安定化剤の含有量は、製剤全量、特に凍結乾燥製剤とした場合、当該製剤全量に対して、通常30.0~99.0重量%、好ましくは35.0~97.5重量%、より好ましくは40.0~95.0重量%、特に好ましくは67.8~92.7重量%である。この量より多くても、少なくても有効成分であるHMGB1断片ペプチドが安定化しない恐れがある。
【0046】
本発明製剤中の安定化剤の含有量、特に糖および/または糖アルコールの量は、有効成分であるHMGB1断片ペプチドの量に対して、10~300倍モル、好ましくは25~300倍モル、より好ましくは50~300倍モルである。この量よりも多くても少なくても、凍結乾燥製剤を製造することができない恐れがある。
【0047】
本発明製剤は、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩や添加剤を含有した液(以下、本明細書中で「調製液」という場合がある。)を凍結乾燥することによって、凍結乾燥製剤を製造する。この調製液のpHによっては、凍結乾燥製剤中のHMGB1断片ペプチドの安定性が変化する。HMGB1断片ペプチドを安定化する場合、この調製液のpHとしては、pH2.5~5.0、好ましくは、pH2.5~4.5、より好ましくは、pH2.5~4.0、特に好ましくは、pH2.9~3.5ある。また、調製液中の有効成分の濃度としては、凍結乾燥できる濃度であればよいが、通常、1.0~100.0mg/g、好ましくは、2.5~80.0mg/g、より好ましくは、5.0~60.0mg/g、特に好ましくは、7.5~50.0mg/gである。
【0048】
本発明製剤の調製液は、上記の通り、pHを調整する必要があり、調製液のpHを調整できる添加剤によって、pHを調整することができる。例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、マグネシウムの水酸化物によって、このpHを調整することができる。好ましくは、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、より好ましくは、水酸化ナトリウムを用いることができる。
【0049】
本発明製剤の調製液のpHを調整する添加剤の量としては、調製液の最適pHを調整できる量であればよい。
【0050】
本発明製剤中には、その他添加剤として、注射剤一般に用いられる添加剤を添加してもよく、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格等または食品添加物公定書等に収載されている添加剤を添加してもよい。例えば、添加剤としては、懸濁化剤、界面活性剤、親水性高分子、乳化剤、保存剤、無痛化剤、等張化剤、溶剤等がある。
【0051】
本発明製剤中には、懸濁化剤を含有してもよい。懸濁化剤としては、有効成分を液中で懸濁できる添加剤であればよく、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格等または食品添加物公定書等に収載されている懸濁化剤を使用することができる。例えば、懸濁化剤としては、界面活性剤、親水性高分子、アラビアゴム、トラガント等が挙げられる。界面活性剤としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオナート、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン、ポロキサマー、モノステアリン酸アルミニウム、ポリソルベート80等が挙げられる。親水性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0052】
本発明製剤中には、乳化剤を含有してもよい。乳化剤としては、有効成分を液中で乳化できる添加剤であればよく、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格等または食品添加物公定書等に収載されている乳化剤を使用することができる。例えば、乳化剤としては、リン脂質、界面活性剤、コロイドクレー(コロイド性粘土)、金属水酸化物、天然ガム、ゼラチン等が挙げられる。リン脂質としては、天然リン脂質、合成リン脂質(アニオン性リン脂質)等が挙げられる。天然リン脂質としては、卵黄レシチン、大豆レシチン、大豆、レシチン等が挙げられる。合成リン脂質(アニオン性リン脂質)としては、ジミリストイルフォスファチジルグリセロール、ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール、ジステアロイルフォスファチジルグリセロール、ジオレオイルフォスファチジルグリセロール、オレオイルパルミトイルフォスファチジルグリセロール、ジオクタノイルフォスファチジン酸、ジデカノイルフォスファチジン酸、ジラウロイルフォスファチジン酸、ジミリストイルフォスファチジン酸、ジパルミトイルフォスファチジン酸、ジヘプタデカノイルフォスファチジン酸、ジステアロイルフォスファチジン酸、ジオレオイルフォスファチジン酸、アラキドニルステアロイルフォスファチジン酸、ジパルミトイルフォスファチジルセリン、ジオレオイルフォスファチジルセリン、ジミリストイルフォスファチジルイノシトール、ジパルミトイルフォスファチジルイノシトール、ジステアロイルフォスファチジルイノシトール、ジオレオイルフォスファチジルイノシトール、ジミリストイルフォスファチジルセリン、ジステアロイルフォスファチジルセリン等が挙げられる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、硬化ヒマシ油ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン誘導体、ポリオキシエチレンソルビトール誘導体、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、レシチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレグリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。コロイドクレー(コロイド性粘土)としては、ベントナイト、ビーガム等が挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。天然ガムとしては、アラビアガム、トラガカントガム、トラガント等が挙げられる。
【0053】
本発明製剤中には、保存剤を含有してもよい。保存剤としては、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格または食品添加物公定書等に収載されている保存剤を使用することができる。例えば、保存剤としては、パラベン類、安息香酸類、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、クレゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等が挙げられる。パラベン類としては、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等が挙げられる。安息香酸類としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸エステル類(パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸エチルナトリウム、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸プロピルナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸メチルナトリウム)等が挙げられる。
【0054】
本発明製剤中には、無痛化剤を含有してもよい。無痛化剤としては、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格または食品添加物公定書等に収載されている無痛化剤を使用することができる。例えば、無痛化剤としては、アミノ安息香酸エチル、イノシトール、液状フェノール、塩酸メプリルカイン、塩酸リドカイン、クレアチニン、クロロブタノール、炭酸水素ナトリウム、チョウジ油、ブドウ糖、プロカイン塩酸塩、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、メピバカイン塩酸塩、リドカイン、硫酸マグネシウム水和物、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。
【0055】
本発明製剤中には、防腐剤を含有してもよい。防腐剤としては、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格または食品添加物公定書等に収載されている防腐剤を使用することができる。例えば、防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類(パラベン)、アルコール、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、クロルヘキシジン、過酸化水素等が挙げられる。パラオキシ安息香酸エステル類(パラベン)としては、パラオキシ安息香酸メチル(メチルパラベン)、パラオキシ安息香酸プロピル(プロピルパラベン)等が挙げられる。アルコールとしては、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、クロロブタノール、フェノール等が挙げられる。
【0056】
本発明製剤中には、等張化剤を含有してもよい。等張化剤としては、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格または食品添加物公定書等に収載されている等張化剤を使用することができる。例えば、等張化剤としては、イオン性等張化剤、非イオン性等張化剤が挙げられる。イオン性等張化剤としては、無機塩類、有機塩基があり、無機塩類としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、ホウ砂等が挙げられ、有機塩基としては、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。非イオン性等張化剤としては、2個以上のアルコール性水酸基を分子内に有する多価アルコール、アミノ酸、糖類が挙げられ、2個以上のアルコール性水酸基を分子内に有する多価アルコールとしては、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられ、アミノ酸としては、グリシン、アラニン等が挙げられ、糖類としては、グルコース、フルクトース、トレハロース、スクロース、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。
【0057】
本発明製剤中には、溶剤を含有してもよい。また、本発明製剤を溶剤中に溶解または懸濁させてもよい。溶剤としては、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格または食品添加物公定書等に収載されている溶剤を使用することができる。例えば、溶剤としては、水性溶剤、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油等が挙げられる。水性溶剤としては、蒸留水、生理食塩水、リンゲル液、注射用水、注射用蒸留水等が挙げられる。
【0058】
本発明製剤の剤形は、日本薬局方の製剤各条に記載の剤形であればよいが、好ましくは注射剤である。注射剤は直接血管内または組織内に投与される他、点滴によって投与される場合もある。
【0059】
本発明製剤の製法としては、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩を安定化できる医薬組成物を製造する方法であればよい。例えば、以下の工程を含む、医薬組成物の製造方法であればよい。
1)注射用蒸留水に有機酸の水和物、有機酸のアルカリ金属塩の水和物、糖および/または糖アルコールを含む添加剤を溶解し、pHを3.0~4.0に調整する工程;
2)1)の工程で製造した液を18℃以下に冷却する工程;
3)2)の工程で得た液に、HMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩を溶解する工程;
4)3)の工程で得た液のpHを、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびマグネシウムからなる群から選択される1以上の金属の水酸化物によって、2.5~4.0に調整する工程;ならびに
5)4)の工程で得た液を凍結乾燥する工程。なお、4)の工程の後、5)の工程までの間に、注射用蒸留水で濃度調製をする工程を含んでもよい。
【0060】
本発明製剤の製法の別の態様としては、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩を安定化できる医薬組成物を製造する方法であればよい。例えば、以下の工程を含む、医薬組成物の製造方法であればよい。
1)注射用蒸留水にクエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、スクロースを含む添加剤を溶解し、pHを3.0~4.0に調整する工程;
2)1)の工程で製造した液を18℃以下に冷却する工程;
3)2)の工程で得た液に、HMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩を溶解する工程;
4)3)の工程で得た液のpHを、水酸化ナトリウムによって、2.9~3.5に調整する工程;ならびに
5)4)の工程で得た液を凍結乾燥する工程。なお、4)の工程の後、5)の工程までの間に、注射用蒸留水で濃度調製をする工程を含んでもよい。
【0061】
本発明製剤の医薬組成物は、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩および糖および/または糖アルコールを含有する医薬組成物である。
【0062】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩、および糖および/または糖アルコールとして、単糖類、二糖類および多糖類からなる群から選択される1以上を含有する医薬組成物がある。
【0063】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩、および糖および/または糖アルコールとして、グルコース、フルクトース、スクロース、マンニトールおよびトレハロースからなる群から選択される1以上を含有する医薬組成物がある。
【0064】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを含有する医薬組成物がある。
【0065】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを含有する医薬組成物がある。
【0066】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを含有する医薬組成物がある。
【0067】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを含有する医薬組成物がある。
【0068】
本発明製剤の医薬組成物は、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩および糖および/または糖アルコールを含有し、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物である。
【0069】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩、および糖および/または糖アルコールとして、単糖類、二糖類および多糖類からなる群から選択される1以上を含有し、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0070】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩、および糖および/または糖アルコールとして、グルコース、フルクトース、スクロース、マンニトールおよびトレハロースからなる群から選択される1以上を含有し、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0071】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを含有し、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0072】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを含有し、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0073】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを含有し、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0074】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを含有し、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0075】
本発明製剤は、調製液を凍結乾燥することによって、製造することができる。凍結乾燥とは、有効成分を含有する水溶液または分散液を凍結させ、水を昇華して除く乾燥方法である。すなわち、有効成分を含有する水溶液または分散液の状態で凍結し、高真空下で凍結表面より昇華によって乾燥を行うものである。
【0076】
本発明製剤の医薬組成物は、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩および糖および/または糖アルコールを含有する、凍結乾燥された医薬組成物である。
【0077】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩、および糖および/または糖アルコールとして、単糖類、二糖類および多糖類からなる群から選択される1以上を含有する、凍結乾燥された医薬組成物がある。
【0078】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩、および糖および/または糖アルコールとして、グルコース、フルクトース、スクロース、マンニトールおよびトレハロースからなる群から選択される1以上を含有する、凍結乾燥された医薬組成物がある。
【0079】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを含有する、凍結乾燥された医薬組成物がある。
【0080】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを含有する、凍結乾燥された医薬組成物がある。
【0081】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを含有する、凍結乾燥された医薬組成物がある。
【0082】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを含有する、凍結乾燥された医薬組成物がある。
【0083】
本発明製剤の医薬組成物は、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩および糖および/または糖アルコールを含有する、凍結乾燥された医薬組成物であり、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物である。
【0084】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩、および糖および/または糖アルコールとして、単糖類、二糖類および多糖類からなる群から選択される1以上を含有する、凍結乾燥された医薬組成物があり、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0085】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩、および糖および/または糖アルコールとして、グルコース、フルクトース、スクロース、マンニトールおよびトレハロースからなる群から選択される1以上を含有する、凍結乾燥された医薬組成物があり、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0086】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを含有する、凍結乾燥された医薬組成物があり、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0087】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを含有する、凍結乾燥された医薬組成物があり、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0088】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを含有する、凍結乾燥された医薬組成物があり、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0089】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを含有する、凍結乾燥された医薬組成物があり、当該医薬組成物を注射用蒸留水で溶解した際のpHが3.0~4.5である医薬組成物がある。
【0090】
本発明製剤の医薬組成物は、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸の水和物、有機酸の金属塩の水和物および糖および/または糖アルコールを注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整して製造した医薬組成物である。
【0091】
本発明製剤の医薬組成物は、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸の水和物、有機酸の金属塩の水和物、および糖および/または糖アルコールとして、単糖類、二糖類および多糖類から選択される1以上を注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整して製造した医薬組成物である。
【0092】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩、および糖および/または糖アルコールとして、グルコース、フルクトース、スクロース、マンニトールおよびトレハロースからなる群から選択される1以上を注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整して製造した医薬組成物である。
【0093】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整して製造した医薬組成物である。
【0094】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整して製造した医薬組成物である。
【0095】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整して製造した医薬組成物である。
【0096】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整して製造した医薬組成物である。
【0097】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを注射用蒸留水に溶解し、水酸化ナトリウムによって、pHを2.9~3.5に調整して製造した医薬組成物である。
【0098】
本発明製剤の医薬組成物は、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸の水和物、有機酸の金属塩の水和物および糖および/または糖アルコールを注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整し、凍結乾燥して製造した医薬組成物である。
【0099】
本発明製剤の医薬組成物は、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸の水和物、有機酸の金属塩の水和物、および糖および/または糖アルコールとして、単糖類、二糖類および多糖類から選択される1以上を注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整し、凍結乾燥して製造した医薬組成物である。
【0100】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩、有機酸、有機酸の金属塩、および糖および/または糖アルコールとして、グルコース、フルクトース、スクロース(精製白糖)、マンニトールおよびトレハロースからなる群から選択される1以上を注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整し、凍結乾燥して製造した医薬組成物である。
【0101】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整し、凍結乾燥して製造した医薬組成物である。
【0102】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、有機酸の金属塩、およびスクロースを注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整し、凍結乾燥して製造した医薬組成物である。
【0103】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、有機酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整し、凍結乾燥して製造した医薬組成物である。
【0104】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを注射用蒸留水に溶解し、水酸化物によって、pHを2.9~3.5に調整し、凍結乾燥して製造した医薬組成物である。
【0105】
本発明製剤の医薬組成物の別の態様として、有効成分であるHMGB1断片ペプチドまたはそのトリフルオロ酢酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、およびスクロースを注射用蒸留水に溶解し、水酸化ナトリウムによって、pHを2.9~3.5に調整し、凍結乾燥して製造した医薬組成物である。
【0106】
なお、本明細書において引用されたすべての先行技術文献の記載は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例
【0107】
以下、実施例、比較例および参考例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。実施例、比較例および参考例の製剤は、下記方法によって、製造した。
【0108】
(1)調製液のpHの検討
本発明製剤は、調製液を凍結乾燥することによって、製造する。そこで、調製液のpHの違いが凍結乾燥製剤の品質に与える影響を評価した。なお、有効成分(以下、「原薬」という場合がある。)としては、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の物質を言う。
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含むHMGB1断片ペプチドまたはその酸付加塩;
(b)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するペプチドまたはその酸付加塩;および
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、細胞の遊走を刺激する活性を有するペプチドまたはその酸付加塩。
【0109】
(実験方法)
a.製剤製造法
表1に製剤の処方を示す。クエン酸水和物(メルク社製)およびクエン酸ナトリウム水和物(メルク社製)をそれぞれ所定量計り、注射用水に溶解した。これらの溶解液を混合して、所定のpHに調整し、所定濃度のクエン酸緩衝液を調製した。このクエン酸緩衝液に、原薬およびポリソルベート80(メルク社製)を所定量溶解した後、水酸化ナトリウム水溶液で最終pHを調整、攪拌し、液量をクエン酸緩衝液で最終重量に調整した。
調製した液を、親水性PVDFフィルタ(メルクミリポア社製)でろ過した後、そのろ液を3mL容のバイアル(大成化工社製)に充填し、バイアルにゴム栓を半封打栓した。その後、以下の条件で、凍結乾燥機によって、凍結乾燥を行い、凍結乾燥終了後、窒素により凍結乾燥機庫内を復圧、ゴム栓を全封打栓した。
【0110】
(凍結乾燥の条件)
1)5℃冷却、2)-5℃で1時間冷却、3)-40℃で4時間凍結、4)-35℃で24時間以上、10Pa真空圧で一次乾燥、6)25℃で5時間以上、2Pa真空圧で二次乾燥を行い、凍結乾燥物を製造した。
【0111】
【表1】
*1:フリー体として
*2:所定のpHとなるように20mmol/Lクエン酸水和物溶解液及び20mmol/Lクエン酸ナトリウム水和物溶解液を混合して製した
【0112】
b.類縁物質の測定方法
UPLC(型式:ACQUITY(Waters社製))によって、類縁物質を測定した。
(1)試料希釈溶媒の調製法
調製量500mLに対し、Cetyltrimethylammmonium
Chlorideを0.16gの割合で溶解し、0.001Mの試料希釈溶媒とした。
(2)標準溶液の調製法
試料と同ロットの原薬を試料希釈溶媒に溶解し、約0.5mg/mLの濃度となるよう調製した。
(3)調製液の試料溶液調製法
調製液を試料希釈溶媒にて原薬濃度が0.5mg/mLとなるよう溶解し、試料溶液とした。
(4)凍結乾燥製剤の試料溶液調製法
凍結乾燥製剤1バイアルを試料希釈溶媒にて原薬濃度が0.5mg/mLとなるよう溶解し、試料溶液とした。類縁物質量は面積百分率法により算出した。
試験条件
検出器:紫外吸光光度計 (測定波長220nm)
カラム:AQUITY UPLC BEH300 C18、2.1×150mm,
1.7 μm (Waters)
カラム温度:70℃付近の一定温度
移動相A:I:水/液体クロマトグラフィー用トリフルオロ酢酸 (1000:1)
II:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル/液体クロマトグラフィー用トリフルオロ酢酸 (1000:1) を準備,I/ IIを混和 (95:5)
移動相B:I:水/液体クロマトグラフィー用トリフルオロ酢酸 (1000:1),
II:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル/液体クロマトグラフィー用トリフルオロ酢酸 (1000:1) を準備,I/IIを混和 (75:25)
移動相A、Bのグラジエントプログラムは、表2の通りである。
【0113】
【表2】
流量:0.2 mL/min
注入量:5μL
サンプルクーラー温度:5℃付近の一定温度
面積測定範囲:試料注入後55分間
【0114】
c.pH測定方法
調製液を攪拌しながら,pHメーター(堀場製作所製)によってpHを測定した。
【0115】
(実験結果)
表3に実験結果を示す。その結果、凍結乾燥製剤は、調製液のpHが低いほど、二量体量および総類縁物質量の低減が認められ、品質が向上した。特に、pHが3~4の付近で二量体や総類縁物質の量が低減できることが明らかとなった、
【0116】
【表3】
【0117】
(2)安定化剤の検討
本発明製剤の安定化剤を検討した。安定化剤として、非還元性二糖類の精製白糖を選択し、添加量と固体安定性の関係を評価した。
【0118】
(実験方法)
a.製剤製造法
表4および5に製剤の処方を示す。クエン酸水和物およびクエン酸ナトリウム水和物を所定量計り、注射用蒸留水に溶解した。この溶液のpHを4.0に調整し,所定濃度のクエン酸緩衝液を調製した。このクエン酸緩衝液に秤量した添加剤および原薬を添加、溶解し、水酸化ナトリウム水溶液にて最終pHを4.0に調整し攪拌した。その後、液量をクエン酸緩衝液で最終重量に調整した。
調製した液を、親水性PVDFフィルタ(メルクミリポア社製)でろ過した後、そのろ液を3mL容のバイアル(大成化工社製)に充填し、バイアルにゴム栓を半封打栓した。その後、以下の条件で、凍結乾燥機によって、凍結乾燥を行い、凍結乾燥終了後、窒素により凍結乾燥機庫内を復圧、ゴム栓を全封打栓した。
【0119】
(凍結乾燥の条件)
1)5℃冷却、2)-5℃で1時間冷却、3)-40℃で4時間凍結、4)-35℃で24時間以上、10Pa真空圧で一次乾燥、6)25℃で5時間以上、2Pa真空圧で二次乾燥を行い、凍結乾燥物を製造した。
【0120】
【表4】
*1:フリー体として
*2:pH4.0となるように20mmol/Lクエン酸水和物溶解液及び20mmol/Lクエン酸ナトリウム水和物溶解液を混合して製した
*3:原薬の換算係数1.41倍を考慮し,添加した精製白糖及び20mmol/Lのクエン酸緩衝液 (無水クエン酸分子量:192.1235)から溶質濃度を算出した.
【0121】
【表5】

*1:フリー体として
*2:pH4.0となるように20mmol/Lクエン酸水和物溶解液及び20mmol/Lクエン酸ナトリウム水和物溶解液を混合して製した
*3:原薬の換算係数1.41倍を考慮し,添加した精製白糖及び20mmol/Lのクエン酸緩衝液 (無水クエン酸分子量:192.1235)から溶質濃度を算出した.
【0122】
b.経時安定性試験
凍結乾燥製剤を、恒温恒湿機で40℃/75%RH(相対湿度)下、1ヶ月間、保存し、イニシャルおよび経時保存後の二量体量および総類縁物質量を測定した。
【0123】
c.類縁物質の測定方法
実施例1および2と同様に、UPLCによって測定した。
【0124】
d.pH測定方法
調製液を攪拌しながら,pHメーター(堀場製作所製)によってpHを測定した。
【0125】
(実験結果)
表6~8に実験結果を示す。その結果、安定化剤のない比較例3と比較すると、精製白糖を含有した実施例3~6の製剤で、安定性が改善した。
【0126】
【表6】
【0127】
【表7】
【0128】
【表8】
【0129】
(3)調製液のpHにおける溶液安定性の検討
調製液のpHの違いが、有効成分の安定性に影響することが明らかとなり、特に、pHが3~4で、類縁物質量が低減できることが明らかとなった。そこで、実際、このpH付近の調製液で、安定性を検討した。
【0130】
(実験方法)
a.製剤製造法
表9、10に製剤の処方を示す。ビーカーに注射用水を秤量、その後添加物を添加し、溶解した。この溶液をクールスターラーで5℃に冷却した後、所定量の有効成分を添加し、0.5N水酸化ナトリウムで溶液のpHを2.7、3.2、3.5、3.7、4.0に調整した。pHを調整後、注射用水で最終重量を調整した。なお、精製白糖は、原薬に対し25倍モル配合した。この調製液を25℃で24時間保存した。
【0131】
【表9】
*1:フリー体として
【0132】
【表10】
*1:フリー体として
【0133】
b.類縁物質の測定方法
実施例1および2と同様に、UPLCによって測定した。
【0134】
c.pH測定方法
調製液を攪拌しながら,pHメーター(堀場製作所製)によってpHを測定した。
【0135】
(実験結果)
表11~13に実験結果を示す。その結果、溶液のpHが高くなるほど、二量体,総類縁物質共に顕著に増加した。特に、溶液のpHを4.0とした調製液で、安定性が最も悪かった。
【0136】
【表11】
【0137】
【表12】
【0138】
【表13】
【0139】
(4)添加剤の影響の検討
本発明製剤における添加剤の種類やその量によって、凍結乾燥製剤の安定性に与える影響を評価した。
【0140】
(実験方法)
a.製剤製造法
表14、15に製剤の処方を示す。ビーカーに注射用水を秤量、その後添加物を添加し、溶解した。この溶液をクールスターラーで5℃に冷却した後、所定量の有効成分を添加し、pHを測定した。その後、0.5N水酸化ナトリウム溶液でpHを2.7に調整した。pHを調整後、注射用水で最終重量を調整した。
調製した液を、親水性PVDFフィルタ(メルクミリポア社製)でろ過した後、そのろ液を3mL容のバイアル(大成化工社製)に充填し、バイアルにゴム栓を半封打栓した。その後、以下の条件で、凍結乾燥を行い、凍結乾燥終了後、窒素により凍結乾燥機庫内を復圧、ゴム栓を全封打栓した。
【0141】
(凍結乾燥の条件)
1)5℃冷却、2)-5℃で1時間冷却、3)-40℃で4時間凍結、4)-35℃で24時間以上、10Pa真空圧で一次乾燥、6)40℃で5時間以上、2Pa真空圧で二次乾燥を行い、凍結乾燥物を製造した。
【0142】
【表14】
*1:フリー体として
【0143】
【表15】
*1:フリー体として
【0144】
b.経時安定性試験
凍結乾燥製剤を、恒温恒湿機で40℃/75%RH(相対湿度)下、2週間保存し、二量体および総類縁物質量を測定した。
【0145】
c.類縁物質の測定方法
実施例1および2と同様に、UPLCによって測定した。
【0146】
d.pH測定方法
調製液を攪拌しながら,pHメーター(堀場製作所製)によってpHを測定した。
【0147】
(実験結果)
表16~18に実験結果を示す。その結果、精製白糖を含有する実施例11~14の製剤と比較して、比較例4および5のトレハロースを含有する製剤は、経時保存後の二量体量および総類縁物質量が増大した。一方、安定化剤として、ポリソルベート80および精製白糖を含有する実施例11および12とポリソルベート80を含有せず、精製白糖を含有する実施例13および14の二量体量および総類縁物質量は、ほとんど変わらなかった。従って、安定化剤としては、精製白糖のみでも、十分に類縁物質量を低減できることが明らかとなった。
【0148】
【表16】
【0149】
【表17】
【0150】
【表18】
【0151】
(5)調製液の濃度の検討
本発明製剤における調製液の濃度によって、凍結乾燥製剤の安定性に与える影響を評価した。
【0152】
(実験方法)
a.製剤製造法
表19に製剤の処方を示す。ビーカーに注射用水を秤量、その後、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物および精製白糖を添加し、溶解させた。この溶液のpHを測定した後、原薬を添加して溶解させ、再度pHを測定した。その後、pH3.2となるように、水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを調整後、注射用水で最終重量を調整した。
調製した液を、親水性PVDFフィルタ(メルクミリポア社製)でろ過した後、そのろ液をバイアル(不二硝子社製)に充填し、バイアルにゴム栓を半封打栓した。その後、以下の条件で、凍結乾燥機によって、凍結乾燥を行い、凍結乾燥終了後、窒素により凍結乾燥機庫内を復圧、ゴム栓を全封打栓した。
【0153】
【表19】
*1フリー体として
【0154】
(凍結乾燥の条件)
表20、21の通り、1)5℃冷却、2)-5℃で2時間冷却、3)-40℃で4時間凍結、4)-33℃で45時間以上、10Pa真空圧で一次乾燥、6)40℃で8時間以上、5Pa真空圧で二次乾燥を行い、凍結乾燥物を製造した。
【0155】
【表20】
【0156】
【表21】
【0157】
b.経時安定性試験
凍結乾燥製剤を、恒温恒湿機で25℃/60%RH(相対湿度)下、26週間保存し、二量体量および総類縁物質量を測定した。
【0158】
c.類縁物質の測定方法
HPLC(型式:Alliance(Waters社製))によって、類縁物質を測定した。
(試料希釈溶媒の調製法)
調製量500mLに対し、Cetyltrimethylammmonium
Chlorideを0.16gの割合で溶解し、0.001Mの試料希釈溶媒とした。
(試料溶液調製法)
1バイアルに試料希釈溶媒3mLを加え再溶解し、1.5mLをとり、3.5mLの試料希釈
溶媒を加えて試料溶液とした。類縁物質量は面積百分率法により算出した。
試験条件
検出器:紫外吸光光度計 (測定波長215nm)
カラム:XBridge Peptide BEH C18,300Å,
4.6×250mm、5μm(Waters)
カラム温度:55℃付近の一定温度
移動相A:トリフルオロ酢酸試液
移動相B:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル/液体クロマトグラフィー用2-プロパノール/トリフルオロ酢酸混液 (500:500:1)
移動相A、Bのグラジエントプログラムは、表22の通りである。
【0159】
【表22】
流量:1.0 mL/min
注入量:20μL
サンプルクーラー温度:5℃付近の一定温度
面積測定範囲:試料注入後70分間
【0160】
d.pH測定方法
調製液を攪拌しながら,pHメーター(堀場製作所製)によってpHを測定した。
【0161】
(実験結果)
表23に実験結果を示す。その結果、調製液の最終濃度を変更し、当該液で凍結乾燥製剤を製造し、経時保存しても、調製液の濃度は安定性に影響しないことが明らかとなった。
【0162】
【表23】
【0163】
(6)調製液の高濃度化及びスクロースを増量した製剤の検討
本発明製剤において、調製液の高濃度化及びスクロースを増量した製剤の検討を行った。
【0164】
(実験方法)
a.製剤製造法
表24~26に製剤の処方を示す。ビーカーに注射用水を秤量、その後、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物および精製白糖を添加し、溶解させた。この溶液のpHを測定した後、原薬を添加して溶解させ、再度pHを測定した。その後、注射用水で最終重量を調整し、攪拌した。
調製した液を、親水性PVDFフィルタ(メルクミリポア社製)でろ過した後、そのろ液をバイアル(大成化工製)に0.25gずつ充填し、ゴム栓で半封打栓した。その後、以下の条件で、凍結乾燥機によって、凍結乾燥を行い、凍結乾燥終了後、窒素により凍結乾燥機庫内を復圧、ゴム栓を全封打栓した。
【0165】
【表24】

*1 フリー体として
【0166】
【表25】

*1 フリー体として
【0167】
【表26】

*1 フリー体として
【0168】
(凍結乾燥の条件)
実施例17、18、22、23は、表27、28の通り、実施例19、20、21、24は、表29、30の通り、凍結乾燥を行い、凍結乾燥物を製造した。
【0169】
【表27】
【0170】
【表28】
【0171】
【表29】
【0172】
【表30】
【0173】
b.経時安定性試験
凍結乾燥製剤を、恒温恒湿機で40℃/75%RH(相対湿度)下、1ヶ月間保存し、二量体量および総類縁物質量を測定した。
【0174】
c.類縁物質の測定方法
実施例15および16と同様に、HPLCによって測定した。
【0175】
(実験結果)
表31、32に二量体の量(イニシャル、40℃/75%RH(相対湿度)/1ヶ月保存後(経時保存後)、イニシャルからの増加量)、表33、34に総類縁物質の量(イニシャル、40℃/75%RH(相対湿度)/1ヶ月保存後(経時保存後)、イニシャルからの増加量)を示す。その結果、二量体のイニシャルからの増加量は、製剤間において、ほとんど差がなかったが、総類縁体量は、スクロースの量が増加すると、低下する傾向となった。
【0176】
【表31】
【0177】
【表32】
【0178】
【表33】
【0179】
【表34】
【0180】
(7)調製液を高濃度化した高用量製剤の検討
臨床試験での使用が想定される高用量製剤(120mg製剤)での品質評価を行った。
【0181】
(実験方法)
a.製剤製造法
表35に調製液の処方、表36に1バイアルあたり、有効成分が120mgの処方を示す。ビーカーに注射用水を秤量、その後、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物および精製白糖を添加し、溶解させた。この溶液のpHを測定した後、原薬を添加して溶解させ、再度pHを測定した。その後、pH3.2となるように、水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを調整後、注射用水で最終重量を調整した。調製した液を、親水性PVDFフィルタ(メルクミリポア社製)でろ過した後、そのろ液をバイアル(不二硝子社製)に充填し、バイアルにゴム栓を半封打栓した。その後、表37、38の条件で、凍結乾燥機によって、凍結乾燥を行い、凍結乾燥終了後、窒素により凍結乾燥機庫内を復圧、ゴム栓を全封打栓した。なお、1バイアルの充填量は、実施例25で3.0g、実施例26で4.0g、対照として、実施例22で0.25gとした。
【0182】
【表35】

*1 フリー体として
【0183】
【表36】

*1 フリー体として
【0184】
【表37】
【0185】
【表38】
【0186】
b.経時安定性試験
凍結乾燥製剤を、恒温恒湿機で40℃/75%RH(相対湿度)下、1ヶ月間保存し、二量体量および総類縁物質量を測定した。
【0187】
c.類縁物質の測定方法
実施例15および16と同様に、HPLCによって測定した。
【0188】
(実験結果)
表39に二量体の量(イニシャル、40℃/75%RH(相対湿度)/1ヶ月保存後(経時保存後)、イニシャルからの増加量)、表40に総類縁物質の量(イニシャル、40℃/75%RH(相対湿度)/1ヶ月保存後(経時保存後)、イニシャルからの増加量)を示す。その結果、二量体のイニシャルからの増加量も、総類縁体量の増加量も、製剤間において、ほとんど差がなかった。
【0189】
【表39】
【0190】
【表40】
【産業上の利用可能性】
【0191】
ペプチドである本原薬を含有する本発明製剤は、安定化剤、特に糖類を含有し、特定のpH領域に調整することで、安定性を向上することができた。これによって、不安定なペプチドであっても、経時安定化することができる。
【配列表】
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