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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-30
(45)【発行日】2025-10-08
(54)【発明の名称】車体構造、および、車体構造の設計方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/04 20060101AFI20251001BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20251001BHJP
【FI】
B62D25/04 C
B62D25/20 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024511450
(86)(22)【出願日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2023006368
(87)【国際公開番号】W WO2023189029
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2022054957
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022054958
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】豊川 伸
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 晃
【審査官】山▲崎▼ 歩美
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-306165(JP,A)
【文献】特開2000-053023(JP,A)
【文献】特開平09-295160(JP,A)
【文献】特表2013-513502(JP,A)
【文献】中国実用新案第211032749(CN,U)
【文献】国際公開第2021/065301(WO,A1)
【文献】特開2012-020586(JP,A)
【文献】特開2016-193709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の上下方向に沿って配置されるセンターピラーと、
前記センターピラーの下部に連結され前記車体の前後方向に沿って配置されるサイドシルと、を備え、
前記サイドシルは、上面と、前記上面の下方に配置され前記車体の幅方向における外側を向く外側面と、前記外側面の下方に配置された下面と、を有する閉断面形状を含み、
前記サイドシルの前部および後部は、それぞれ、前記車体に含まれる相手側部材によって前拘束位置および後拘束位置で前記車体の幅方向内側への移動が規制されており、
前記前拘束位置および前記後拘束位置の少なくとも一方は、所定の拘束位置X2として規定されており、
前記センターピラーは、前記サイドシルとの連結箇所において前記サイドシルの外面を覆うように配置された重複部を有し、
前記上面の高さ位置における前記センターピラーの前記前後方向の中心位置がX0として規定され、前記中心位置X0から前記所定の拘束位置X2までの間に配置されている前記重複部についての前記前後方向の端部位置がX1として規定され、前記中心位置X0から前記所定の拘束位置X2までの前記前後方向における距離がL0として規定され、前記前後方向における前記中心位置X0から前記端部位置X1までの距離がL1として規定され、
前記距離の比L1/L0は、0.36≦L1/L0≦0.48である、車体構造。
【請求項2】
前記重複部は、前端と後端とを含み、
前記前後方向において、前記中心位置X0から前記重複部の前端位置までの距離と前記中心位置X0から前記重複部の後端位置までの距離とが実質的に同一である、請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記重複部のうち前記中心位置X0の前方に位置する前部、および、前記重複部のうち前記中心位置X0の後方に位置する後部の少なくとも一方は、前記車体のフロアクロスメンバーと前記前後方向の位置が重なるように配置されている、請求項1に記載の車体構造。
【請求項4】
前記サイドシルの板厚は、前記センターピラーの前記重複部の板厚未満である、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の車体構造。
【請求項5】
車体の前後方向に沿って配置されるサイドシルと、
車体の上下方向に沿って配置されるセンターピラーであって、前記サイドシルとの連結箇所において前記サイドシルの外面を覆うように配置された重複部を有するセンターピラーと、を備える車体構造の設計方法において、
前記重複部のうち前記前後方向における端部位置を決める位置決めステップを含み、
前記位置決めステップでは、前記センターピラーおよび前記サイドシルへの側面衝突試験を行い、この側面衝突結果と前記重複部の前記端部位置に応じた前記センターピラーの重量とに基づいて、前記端部位置を決定し、
前記センターピラーは、前記重複部の上方に配置された上部を含み、
前記サイドシルは、前記上部から前記端部位置X1側に進んだ位置において、前記車体に含まれる相手側部材によって所定の拘束位置X2で前記車体の幅方向内側への移動が規制されており、
前記位置決めステップでは、前記上部の下方における前記重複部に設定された中心位置X0から前記拘束位置X2までの距離L0と、前記中心位置X0から前記端部位置X1までの距離L1との比L1/L0に対する、前記側面衝突結果と前記センターピラーの重量とに基づいて、前記端部位置X1を決定する、車体構造の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造、および、車体構造の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の一種である乗用車の車体は、通常、車体の上下方向に沿って配置されるセンターピラーと、センターピラーの下部に連結され車体の前後方向に沿って配置されるサイドシルと、を有する(例えば、特許文献1,2参照)。センターピラーの下部とサイドシルとは、溶接等によって強固に固定されている。そして、乗用車が側面衝突したときには、センターピラーとサイドシルが協働して衝撃荷重を受けることで、衝撃を吸収し、キャビン内の乗員を保護する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-294178号公報
【文献】特開2009-101794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
側面衝突時において、車体がキャビン側へ変形する変形量は、小さいほど、乗員保護性能が高い。この変形量を小さくするためには、センターピラーとサイドシルとの結合強度が高い方がよい。この結合強度を高める方法として、センターピラー下部を前後に長く形成することでこの下部とサイドシルとが互いに重ね合わされる領域をより大きくすることが考えられる。しかしながら、この重ね合わされる領域を多くするためには、センターピラー下部を大きな形状にする必要があり、センターピラーの重量が増してしまう。近年、車体をできるだけ軽量にする要請が強く、センターピラーの重量が増すことはできるだけ避けたい。
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載の構成では、何れも、センターピラー下部の前後方向長さについて、側面衝突性能とセンターピラー重量とのバランスについて特段の考慮がされているとはいえない。
【0006】
本発明の目的の一つは、高い耐側面衝突性能を達成しつつ、より軽量な車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の車体構造を要旨とする。
【0008】
(1)車体の上下方向に沿って配置されるセンターピラーと、
前記センターピラーの下部に連結され前記車体の前後方向に沿って配置されるサイドシルと、を備え、
前記サイドシルは、上面と、前記上面の下方に配置され前記車体の幅方向における外側を向く外側面と、前記外側面の下方に配置された下面と、を有する閉断面形状を含み、
前記サイドシルの前部および後部は、それぞれ、前記車体に含まれる相手側部材によって前拘束位置および後拘束位置で前記車体の幅方向内側への移動が規制されており、
前記前拘束位置および前記後拘束位置の少なくとも一方は、所定の拘束位置X2として規定されており、
前記センターピラーは、前記サイドシルとの連結箇所において前記サイドシルの外面を覆うように配置された重複部を有し、
前記上面の高さ位置における前記センターピラーの前記前後方向の中心位置がX0として規定され、前記中心位置X0から前記所定の拘束位置X2までの間に配置されている前記重複部についての前記前後方向の端部位置がX1として規定され、前記中心位置X0から前記所定の拘束位置X2までの前記前後方向における距離がL0として規定され、前記前後方向における前記中心位置X0から前記端部位置X1までの距離がL1として規定され、
前記距離の比L1/L0は、0.36≦L1/L0≦0.48である、車体構造。
【0009】
(2)前記重複部は、前端と後端とを含み、
前記前後方向において、前記中心位置X0から前記重複部の前端位置までの距離と前記中心位置X0から前記重複部の後端位置までの距離とが実質的に同一である、前記(1)に記載の車体構造。
【0010】
(3)前記重複部のうち前記中心位置X0の前方に位置する前部、および、前記重複部のうち前記中心位置X0の後方に位置する後部の少なくとも一方は、前記車体のフロアクロスメンバーと前記前後方向の位置が重なるように配置されている、前記(1)または前記(2)に記載の車体構造。
【0011】
(4)前記サイドシルの板厚は、前記センターピラーの前記重複部の板厚未満である、前記(1)~(3)の何れか1項に記載の車体構造。
【0012】
(5)車体の前後方向に沿って配置されるサイドシルと、
車体の上下方向に沿って配置されるセンターピラーであって、前記サイドシルとの連結箇所において前記サイドシルの外面を覆うように配置された重複部を有するセンターピラーと、を備える車体構造の設計方法において、
前記重複部のうち前記前後方向における端部位置を決める位置決めステップを含み、
前記位置決めステップでは、前記センターピラーおよび前記サイドシルへの側面衝突試験を行い、この側面衝突結果と前記重複部の前記端部位置に応じた前記センターピラーの重量とに基づいて、前記端部位置を決定する、車体構造の設計方法。
【0013】
(6)前記センターピラーは、前記重複部の上方に配置された上部を含み、
前記サイドシルは、前記上部から前記端部位置X1側に進んだ位置において、前記車体に含まれる相手側部材によって所定の拘束位置X2で前記車体の幅方向内側への移動が規制されており、
前記位置決めステップでは、前記上部の下方における前記重複部に設定された中心位置X0から前記拘束位置X2までの距離L0と、前記中心位置X0から前記端部位置X1までの距離L1との比L1/L0に対する、前記側面衝突結果と前記センターピラーの重量とに基づいて、前記端部位置X1を決定する、前記(5)に記載の車体構造の設計方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い耐側面衝突性能を達成しつつ、より軽量な車体構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る車体構造が適用された車体の主要部を示す模式的な左側面図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿った、センターピラーの上部についての上下方向と直交する断面図であり、断面の奥側の図示を省略している。
図3図3は、図1におけるサイドシルアウターとピラーインナーとの結合状態を説明するための拡大図である。
図4図4は、図1のIV-IV線に沿った、サイドシルアウターと、センターピラーのピラーインナーとの結合状態を説明するための主要部の模式的な断面図であり、前後方向と直交する断面を示している。
図5図5は、本発明の一変形例を示す図である。
図6図6は、実施例における重複部の下端の位置を説明するための図である。
図7図7(A)の上側のグラフは、6種類の重複部の下端位置それぞれについて、測定高さ1における最大侵入量を示すグラフであり、横軸が各下端位置の種類を示し、縦軸が最大侵入量の値を示している。図7(A)の下側のグラフは、6種類の重複部の下端位置それぞれについて、測定高さ1における、最大侵入量低下率/重量増加率を示すグラフであり、横軸が各下端位置の種類を示し、縦軸が最大侵入量低下率/重量増加率を示している。図7(B)の上側のグラフは、6種類の重複部の下端位置それぞれについて、測定高さ2における最大侵入量を示すグラフである。図7(B)の下側のグラフは、6種類の重複部の下端位置それぞれについて、測定高さ2における、最大侵入量低下率/重量増加率を示すグラフである。図7(C)の上側のグラフは、6種類の重複部の下端位置それぞれについて、測定高さ3における最大侵入量を示すグラフである。図7(C)の下側のグラフは、6種類の重複部の下端位置それぞれについて、測定高さ3における、最大侵入量低下率/重量増加率を示すグラフである。
図8図8(A)のグラフは、測定高さ1における、2種類の重複部の下端位置00,30それぞれについて、長さの比L1/L0と最大侵入量低下率/重量増加率との関係を示すグラフである。図8(B)のグラフは、測定高さ2における、2種類の重複部の下端位置00,30それぞれについて、長さの比L1/L0と最大侵入量低下率/重量増加率との関係を示すグラフである。図8(C)のグラフは、測定高さ3における、2種類の重複部の下端位置00,30それぞれについて、長さの比L1/L0と最大侵入量低下率/重量増加率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<本願発明に想到するに至った経緯>
本願発明者は、高い対側面衝突性能を達成しつつ、より軽量な車体構造を実現するために、センターピラーとサイドシルとの結合構造に着目した。具体的には、自動車の側面衝突における、車両幅方向内側へのサイドシルおよびセンターピラーの侵入量は、以下の(a)、(b)の二点の影響を受けることに着目した。
【0017】
(a)センターピラー下端がサイドシルアウタの天板部(上向きの板状部分)に位置している場合、側面衝突時において、センターピラーから伝わった荷重により、サイドシルには、サイドシルの閉断面形状を潰すように荷重が働く。この荷重によりサイドシルの閉断面形状部分(特にサイドシルアウター部分)がつぶれることで、サイドシル断面のねじり剛性が低下するので、サイドシルのねじれ角が増大する。サイドシルのねじれ角の増大に伴い、センターピラー下部の回転角(前後方向から見たときのセンターピラー下部の回転量)も増大するため、センターピラー全体がキャビン側へ侵入する量が増大してしまう。
【0018】
(b)サイドシルのうちセンターピラーと重なっていない部分には、側面衝突時、ねじりモーメントが入力される。このため、サイドシルの天板部には、側面衝突によってせん断荷重が入力される。入力されるせん断荷重は衝突後期において増大するようになっているので、サイドシルの天板部でせん断座屈が生じる。これによりサイドシル断面(前後方向と直交する断面)におけるサイドシルのねじれ剛性が低下し、サイドシルのねじり角が増大する。サイドシルのねじれ角の増大に伴い、センターピラー下部の回転角も増大する。その結果、キャビン側へのセンターピラー全体の侵入量が増大する。
【0019】
本願発明者は、上述の(a)、(b)の知見に基づいて鋭意研究を行い、以下で説明する(1)、(2)の少なくとも一方の改良を施すことで、高い対側面衝突性能を達成しつつ、より軽量な車体構造を実現できるとの結論に至った。
【0020】
(1)センターピラーがサイドシルの下部まで抱えるようにすることで、側面衝突時にセンターピラーからサイドシルに伝わった荷重はねじりモーメントとしてサイドシルに作用する。そのため、サイドシルの閉断面形状につぶれが生じることを抑制できる。側面衝突の衝突過程を通してサイドシルの元の閉断面形状を高次元でキープできるため、サイドシルは高いねじり剛性を有し、側面衝突時におけるサイドシルのねじれ角度を低減できる。これにより、サイドシルがキャビンへ侵入する侵入量を低減できる。一方で、センターピラーがサイドシルの下端までは到達しないように配置を工夫することで、センターピラーが必要以上に重くならずに済み、センターピラー下部によるサイドシルの補強効果向上とセンターピラーの重量増加抑制とを高度にバランスさせることができる。
【0021】
(2)センターピラー下部とサイドシルとの車両前後方向における重なり部分の長さ(重ね代)を大きくすることで、側面衝突時、重なり部分では、センターピラーとサイドシルが一体となって回転(前後方向からみた回転)をするため、サイドシルにはねじりモーメントは入力されず、サイドシル天板部のせん断座屈は生じない。さらにセンターピラー下部とサイドシルとが重なっていることでねじり剛性が大きくなるため、サイドシルのねじり角を低減できる。また、サイドシルのうちセンターピラー下部と重なっていない部分が座屈したとしても、当該部分の長手方向長さが低減するため、(単位長さあたりのねじれ角と長手方向長さの積である)センターピラー下部の回転角(前後方向からみた回転の回転角)は減少する。そのため、側面衝突時におけるキャビン側へのサイドシルの侵入量を低減できる。一方で、センターピラー下部とサイドシルとの前後方向における重なり部分の長さを適度な長さとなるように工夫することで、センターピラーが必要以上に重くならずに済み、センターピラー下部によるサイドシルの補強効果向上とセンターピラーの重量増加抑制とを高度にバランスさせることができる。
【0022】
上記(1)、(2)で説明した工夫を適用することで、側面衝突時におけるサイドシルのねじれ角が減少し、高い質量効率でキャビンへのサイドシルの侵入量を抑制できる。なお、上記(1)で説明した工夫と、上記(2)で説明した工夫は、少なくとも一方が適用されればよく、また、双方が適用されることで、より高い対側面衝突性能を車体重量の増加を少なくしつつ実現できる。
【0023】
<実施形態の説明>
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、自動車に適用される車体構造を説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る車体構造が適用された車体1の主要部を示す模式的な左側面図である。図2は、図1のII-II線に沿った、センターピラー4の上部21についての上下方向Zと直交する断面図であり、断面の奥側の図示を省略している。図3は、図1におけるサイドシルアウター15とピラーインナー42との結合状態を説明するための拡大図である。図4は、図1のIV-IV線に沿った、サイドシルアウター15と、センターピラー4のピラーインナー42との結合状態を説明するための主要部の模式的な断面図であり、前後方向Xと直交する断面を示している。以下では、特記なき場合、図1図4を適宜参照して説明する。
【0025】
車体1は、車両の一部であり、車両として自動車を挙げることができる。自動車の一例として、乗用車を挙げることができる。上記乗用車の一例として、セダン型乗用車、クーペ型乗用車、ハッチバック型乗用車、ミニバン型乗用車、SUV(Sport Utility Vehicle)型乗用車等を挙げることができる。
【0026】
本実施形態では、車体1は、所定の厚みを有する鋼板を用いて形成されている。
【0027】
車体1は、フロントピラー2と、ルーフピラー3と、センターピラー4と、サイドシル5と、サイドシルリア6と、フロアクロスメンバー7,8と、フロアパネル9と、を有している。
【0028】
フロントピラー2は、当該フロントピラー2の長手方向と直交する断面における断面形状が、矩形等の閉じた形状(閉断面形状)に形成されている。フロントピラー2は、上方に進むに従い後方に向かいルーフピラー3に結合されているピラーアッパー11と、ピラーアッパー11の下方に配置されたピラーロア12と、を有している。ピラーロア12は、側面視で例えばL字状に形成されている。ピラーロア12の下後端縁部12aは、後方に向けて開口している。
【0029】
ルーフピラー3は、車体1の屋根部分に配置されており、ピラーアッパー11から後方に向かって延びている。
【0030】
サイドシル5は、車体1のうち車幅方向Yの外側部分の下部に設けられている。サイドシル5は、センターピラー4の下部に連結され車体1の前後方向Xに沿って配置されている。サイドシル5は、前後方向Xと直交する断面において無端状の閉断面形状を構成している。
【0031】
サイドシル5は、車幅方向Yに並ぶサイドシルアウター15と、サイドシルインナー16と、を有している。
【0032】
サイドシルアウター15およびサイドシルインナー16は、それぞれ、前後方向Xと直交する断面形状がハット形状に形成されており、協働してサイドシル5における閉断面形状を形成している。サイドシルアウター15は、サイドシルインナー16に対して車幅方向Yの外側に配置されている。
【0033】
サイドシルアウター15とサイドシルインナー16とは、同じ板厚でなくてもよいが、本実施形態のように、サイドシルアウター15とサイドシルインナー16とは、同じ板厚であることが好ましい。サイドシルアウター15とサイドシルインナー16は、鋼板で形成されている。これらサイドシルアウター15とサイドシルインナー16のそれぞれの板厚、すなわち、サイドシル5の板厚は、例えば0.80mm~1.60mmに設定されていることが好ましい。サイドシル5の板厚の下限は、0.80mmでもよいし、1.00mmでもよいし、1.20mmでもよい。また、サイドシル5の板厚の上限は、1.60mmより大きい値でもよいし、1.60mmでもよいし、1.45mmでもよいし、1.40mmでもよい。サイドシル5の板厚を上記の範囲内に設定することで、側面衝突時におけるサイドシル5の強度を十分に確保しつつ、サイドシル5の重量が大きくなりすぎないようにできる。サイドシルアウター15とサイドシルインナー16の引張強さは特に限定されないが、980MPa以上の値を例示できる。
【0034】
サイドシルアウター15は、上フランジ151と、上フランジ151から車幅方向Yの外側に延びる上壁152と、上壁152から下方に延びる側壁153と、側壁153から車幅方向Yの内側に延びる下壁154と、下壁154から下方に延びる下フランジ155と、を有している。
【0035】
サイドシルアウター15の上壁152は、上方を向く外面としての上面152aを有している。また、サイドシルアウター15の側壁153は、上下方向Zに沿う姿勢に配置されており、車幅方向Yにおける外側を向く外面としての外側面153aを有している。上下方向Zにおけるサイドシルアウター15の側壁153の長さは、比較的小型な車種であるAセグメントの車両と、比較的大型の車種であるEセグメントやSUVの車両とで、対側面衝突性能の観点からは、大きな差は無いといえる。また、サイドシルアウター15の下壁154は、側壁153の外側面153aの下方に配置され地面に対向する姿勢の外面である下面154aを有している。また、サイドシルアウター15の下フランジ155は、下壁154の下面154aから下方に突出している。
【0036】
側壁153と下壁154とは、R部156を介して接続されている。R部156は、前後方向Xと直交する断面において、サイドシル5で囲まれた空間内に中心を有する湾曲形状に形成されている。R部156は、側壁153の一部であるとともに、下壁154の一部でもある。前後方向Xと直交する断面において、R部156の上端156aから、側壁153のうちR部156以外の箇所が、上方へ略直線状に延びている。また、前後方向Xと直交する断面において、R部156の下端156bから、下壁154のうちR部156以外の箇所が、車幅方向Yの内側に向けて略直線状に延びている。
【0037】
下壁154と下フランジ155とは、R部157を介して接続されている。R部157は、前後方向Xと直交する断面において、サイドシル5で囲まれた空間の外側に中心を有する湾曲形状に形成されている。R部157は、下壁154の一部であるとともに、下フランジ155の一部でもある。前後方向Xと直交する断面において、R部157の上端157aから、下壁154のうちR部157以外の箇所が、車幅方向Yの外側に向けて略直線状に延びている。また、前後方向Xと直交する断面において、R部157の下端157bから、下フランジ155のうちR部157以外の箇所が、略直線状に下方に延びている。
【0038】
上壁152は、水平であってもよいし、車幅方向Yの外側に進むに従い下方に進む傾斜状に形成されていてもよい。同様に、下壁154は、水平であってもよいし、車幅方向Yの外側に進むに従い上方に進む傾斜状に形成されていてもよい。
【0039】
サイドシルインナー16は、上フランジ161と、上フランジ161から車幅方向Yの内側に延びる上壁162と、上壁162から下方に延びる側壁163と、側壁163から車幅方向Yの外側に延びる下壁164と、下壁164から下方に延びる下フランジ165と、を有している。
【0040】
上壁162は、水平であってもよいし、車幅方向Yの外側に進むに従い下方に進む傾斜状に形成されていてもよい。同様に、下壁164は、水平であってもよいし、車幅方向Yの外側に進むに従い上方に進む傾斜状に形成されていてもよい。
【0041】
上フランジ151,161が溶接または接着等によって互いに結合されている。同様に、下フランジ155,165が溶接または接着等によって互いに結合されている。サイドシルインナー16から車幅方向Yの内側に向けて、フロアクロスメンバー7,8が延びている。
【0042】
フロアクロスメンバー7,8は、例えば、車体1によって形成される車室(キャビン10)の前部座席側に配置されている。フロアクロスメンバー7,8は、前後方向Xに離隔して配置されており、フロアクロスメンバー7の後方にフロアクロスメンバー8が配置されている。フロアクロスメンバー7,8は、それぞれ、車幅方向Yと直交する断面形状が、ハット形状とされており、フロアパネル9と協働して閉断面形状を形成している。フロアパネル9は、車体1のキャビン10の底を形成しており、フロアクロスメンバー7,8が固定されている。
【0043】
フロアクロスメンバー7,8上に、スライドレール(図示せず)が設置される。スライドレールは、乗員が着座するシート(図示せず)を支持する。
【0044】
サイドシル5の前部5aは、フロントピラー2のピラーロア12に嵌合しており、このピラーロア12に溶接または接着剤等によって固定されている。そして、サイドシル5は、ピラーロア12の下後端縁部12aから後方に延びている。ピラーロア12の下後端縁部12aは、後方に向けて開口しており、本実施形態では、前後方向Xと直交する平面上に位置している。また、サイドシル5の後部5bは、サイドシルリア6に嵌合しており、このサイドシルリア6に溶接または接着剤等によって固定されている。
【0045】
サイドシルリア6は、サイドシル5の後方に配置されている。サイドシルリア6は、前後方向Xに沿って延びる中空の部材である。サイドシルリア6は、当該サイドシルリア6の長手方向と直交する断面における断面形状が、矩形等の閉じた形状(閉断面形状)に形成されている。サイドシルリア6の前端縁部6aは、前方に向けて開口しており、本実施形態では、前後方向Xと直交する平面上に位置している。サイドシル5は、サイドシルリア6の前端縁部6aから前方に延びている。
【0046】
上述の構成により、サイドシル5の前部5aおよび後部5bは、それぞれ、相手側部材としてのピラーロア12および相手側部材としてのサイドシルリア6によって前拘束位置X2(X2F)および後拘束位置X2(X2R)で車幅方向Yの内側への移動が規制されている。
【0047】
サイドシル5に物体が側面衝突したとき、特に、センターピラー4とサイドシル5との重複部22に側面衝突が生じたとき、サイドシル5は、フロントピラー2の下後端縁部12aを前拘束位置X2(X2F)、センターピラー4の重複部22を中間拘束位置、サイドシルリア6の前端縁部6aを後拘束位置X2(X2R)として物体からの衝撃荷重を受ける。そして、衝撃荷重が一定以上の場合、サイドシル5は、幅方向Yの内側に塑性変形しながら衝撃荷重を吸収する。
【0048】
なお、本実施形態では、サイドシルリア6が後拘束位置X2(X2R)を構成する部材として説明している。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、サイドシル5の後端に連結されたCピラーの下端部等、他の部材が後拘束位置X2(X2R)を構成していてもよい。この場合の他の部材として、ホイルハウスインナ、リアフロアパネル、リアクロスメンバを例示できる。後拘束位置X2(X2R)は、サイドシル5が側面衝突時に衝撃荷重を受けて塑性変形する際の後側の拘束点であればよく、後拘束位置X2(X2R)を構成する部材の具体例は限定されない。前拘束位置X2(X2F)についても同様に、前拘束位置X2(X2F)を構成する部材の具体例は限定されない。
【0049】
センターピラー4は、フロントピラー2の後方に配置されており、ルーフピラー3からサイドシル5に掛けて上下方向Zに沿って配置されている。
【0050】
センターピラー4は、サイドシル5の上方に配置された上部21と、上部21の下方に配置され、サイドシル5との連結箇所においてサイドシル5の外面を覆うように配置された重複部22と、を有している。
【0051】
また、センターピラー4は、車幅方向Yに並ぶピラーアウター41と、ピラーインナー42と、を有しており、これらのピラーアウター41とピラーインナー42とによって、上部21と重複部22が形成されている。ピラーアウター41とピラーインナー42のそれぞれにおいて、上部21と重複部22は、一体成形されていてもよい。この場合の一体成形は、例えば、ピラーアウター41およびピラーインナー42のそれぞれについて、素材(ブランク)の成形時に上部21となる部分と重複部22となる部分とが単一部材として成形されており、上部21となる部分と重複部22となる部分との間につなぎ目が存在しないことをいう。なお、この場合の一体成形は、ピラーアウター41およびピラーインナー42のそれぞれについて、素材が鋼板またはアルミ板等のテーラードブランクであり、上部21となる部分と重複部22となる部分の互いのエッジ部分が溶接等によって接合された構成も含む。
【0052】
センターピラー4は、板厚が一定であってもよいし、場所によって板厚が異なっているテーラードブランクをプレス成形することで形成されていてもよい。センターピラー4がテーラードブランクから形成されている場合、例えばセンターピラー4の上部21のうち上下方向Zの中間部の板厚が、センターピラー4の他の部分の板厚よりも大きくされる構成を例示できる。
【0053】
センターピラー4は鋼板で形成されている。センターピラー4の上部21の板厚は、特に限定されないけれども、0.80mm~2.50mm程度を例示できる。なお、上部21の板厚は、側面衝突時のキャビン10内へのサイドシル5の侵入量に大きな影響を及ぼさないので、本実施形態では、特に限定されない。
【0054】
重複部22の板厚は、例えば0.80mm~2.00mmに設定されていることが好ましい。重複部22の板厚の下限は、0.80mmでもよいし、1.00mmでもよいし、1.20mmでもよい。また、重複部22の板厚の上限は、2.00mmより大きい値でもよいし、1.80mmでもよいし、1.60mmでもよいし、1.45mmでもよいし、1.40mmでもよい。重複部22の板厚を上記の範囲内に設定することで、側面衝突時における重複部22の強度を十分に確保しつつ、重複部22の重量が大きくなりすぎないようにできる。なお、重複部22の板厚は、側面衝突時のキャビン10内へのサイドシル5の侵入量に大きな影響を及ぼす一方で、上部21の板厚は、側面衝突時のキャビン10内へのサイドシル5の侵入量にそれほど大きな影響は及ぼさない。センターピラー4の引張強さは特に限定されないが、980MPa以上の値を例示できる。
【0055】
サイドシル5の板厚は、センターピラー4の重複部22の板厚未満であることが好ましい。この構成により、サイドシル5を軽量にしつつ、重複部22の補強効果によって側面衝突時におけるキャビン内へのサイドシル5の侵入量を低減できる。
【0056】
上部21において、ピラーアウター41およびピラーインナー42は、それぞれ、上下方向Zと直交する断面形状がハット形状に形成されており、センターピラー4における閉断面形状を形成している。ピラーアウター41は、ピラーインナー42に対して車幅方向Yの外側に配置されている。
【0057】
上部21におけるピラーアウター41は、前フランジ411と、前フランジ411から車幅方向Yの外側に延びる前壁412と、前壁412から後方に延びる側壁413と、側壁413から車幅方向Yの内側に延びる後壁414と、後壁414から後方に延びる後フランジ415と、を有している。
【0058】
上部21におけるピラーインナー42は、前フランジ421と、前フランジ421から車幅方向Yの内側に延びる前壁422と、前壁422から後方に延びる側壁423と、側壁423から車幅方向Yの外側に延びる後壁424と、後壁424から後方に延びる後フランジ425と、を有している。
【0059】
前フランジ411,421が溶接または接着等によって互いに結合されている。同様に、後フランジ415,425が溶接または接着等によって互いに結合されている。
【0060】
次に、重複部22の構成をより具体的に説明する。
【0061】
重複部22におけるピラーインナー42は、サイドシルインナー16に溶接または接着剤等によって固定されている。
【0062】
重複部22におけるピラーアウター41は、本実施形態では、単に重複部22ともいう。
【0063】
重複部22は、センターピラー4のピラーアウター41のうち、サイドシル5との連結箇所においてサイドシル5の外面を幅方向Yの外側から覆うように配置されている。
【0064】
重複部22は、上フランジ221と、上フランジ221から車幅方向Yの外側に延びる上壁222と、上壁222から下方に延びる側壁223と、側壁223から車幅方向Yの内側に延びる下壁224と、を有している。
【0065】
上壁222は、水平であってもよいし、車幅方向Yの外側に進むに従い下方に進む傾斜状に形成されていてもよい。同様に、下壁224は、水平であってもよいし、車幅方向Yの外側に進むに従い上方に進む傾斜状に形成されていてもよい。側壁223は、垂直であってもよいし、上下方向Zに対して傾斜していてもよい。
【0066】
上フランジ221は、サイドシルアウター15の上フランジ151に溶接または接着剤等によって固定されている。
【0067】
上壁222の内側面(下面)は、サイドシルアウター15の上壁152の上面152aに沿わされて接触していることが好ましく、この上面152aに溶接または接着剤等で固定されていてもよいし、固定されていなくてもよい。なお、上壁222の内側面は、サイドシルアウター15の上壁152の上面152aに接触していなくてもよい。
【0068】
側壁223の内側面は、サイドシルアウター15の側壁153の外側面153aに沿わされて接触していることが好ましく、この外側面153aに溶接または接着剤等で固定されていてもよいし、固定されていなくてもよい。なお、側壁223の内側面は、サイドシルアウター15の側壁153の外側面153aに接触していなくてもよい。
【0069】
下壁224の内側面は、サイドシルアウター15の下壁154の下面154aに沿わされて接触していることが好ましく、この下面154aに溶接または接着剤等で固定されている。本実施形態では、下壁224の下端224b(下側の先端)は、重複部22の下端であり、下壁224の内側面は、サイドシルアウター15の下壁154の下面154aに沿わされている。
【0070】
このように、重複部22の下端224bがサイドシルアウター15の下壁154の下面154aに沿わされている。すなわち、センターピラー4がサイドシル5の下部である下壁154まで抱えるように構成されている。これにより、側面衝突時にセンターピラー4からサイドシル5に伝わった荷重は、ねじりモーメントとして車体1に受けられる。そのため、サイドシル5の閉断面形状、特にサイドシルアウター15につぶれが生じることを抑制できる。側面衝突の衝突過程を通して、衝突前におけるサイドシル5の元の閉断面形状を高次元でキープできるため、サイドシル5は高いねじり剛性を有し、側面衝突時におけるサイドシル5のねじれ角度を低減できる。これにより、センターピラー4およびサイドシル5がキャビン10へ侵入する侵入量を低減できる。特に、ピラーアウター41において、上部21と重複部22とが一体成形されている場合、上部21に作用した側面衝突の衝撃荷重は、高い伝達効率で重複部22に伝達されて、より確実にねじりモーメントとしてサイドシル5に伝わる。その結果、サイドシル5の閉断面形状、特にサイドシルアウター15につぶれが生じることをより確実に抑制できる。一方で、センターピラー4がサイドシル5の下端(下フランジ155)までは到達しないように配置を工夫することで、センターピラー4が必要以上に重くならずに済み、センターピラー4の下部形状によるサイドシル5の補強効果向上とセンターピラー4の重量増加抑制とを高度にバランスさせることができる。
【0071】
また、本実施形態では、ピラーアウター41の上部21の内側面と、サイドシルアウター15の上壁152の上面152aとを接続する部材は、配置されていない。より具体的には、ピラーアウター41の上部21における前壁412の内側面、側壁413の内側面、および後壁414の内側面には、何れも、サイドシルアウター15の上壁152の上面152aに接続された部材が存在しない。このような構成により、本実施形態では、サイドシル5の上方において、センターピラー4のピラーアウター41とピラーインナー42とで形成された閉断面形状内において、ピラーアウター41の上部21の内側面と、サイドシルアウター15の上壁152の上面152aとの間の空間が直接つながっている。なお、日本国特開2016-94064号公報に記載の構成では、サイドシルアウターの上面(本実施形態における上面152aに相当)と、ピラーアウターの上部の側壁の内側面(本実施形態における側壁413の内側面に相当)とを接続する荷重伝達部材が配置されている。この荷重伝達部材が存在することで、側面衝突によってセンターピラーに作用する衝撃荷重は、荷重伝達部材からサイドシルを通じてフロアクロスメンバーに伝わり、フロアクロスメンバーにて受けられる。すなわち、日本国特開2016-94064号公報に記載の構成では、荷重伝達部材が存在していることで、サイドシルは、側面衝突時においてねじりモーメントによる変形が抑制されている。このように、日本国特開2016-94064号公報に記載の構成は、本実施形態における衝撃吸収動作(サイドシルへのねじりモーメント伝達による衝撃吸収)を妨げるような動作によって、側面衝突による衝撃荷重を伝達しており、本実施形態の構成とは、側面衝突時の衝撃吸収方法が全く異なっている。本実施形態では、サイドシルアウター15の上面152aとピラーアウター41における上部21の内側面とを接続する荷重伝達部材が配置されていないこと、および重複部22が設けられていることにより、側面衝突時に重複部22に入力される衝撃荷重によって、重複部22がサイドシル5にねじりモーメントを作用する。重複部22は、側面衝突による衝撃荷重を受けることでサイドシル5をねじり変形させるねじりモーメントをサイドシル5に作用するねじりモーメント作用部といえる。
【0072】
本実施形態では、下壁224の下端224bは、サイドシルアウター15の下壁154の下面154aに接触している。
【0073】
下壁224の下端224bは、本実施形態では、前後方向Xにおけるセンターピラー4の重複部22の存在範囲の全域に配置されている。すなわち、重複部22の下端224bは、上下方向Zに沿った直線状の端部である。この構成により、前後方向Xにおいて重複部22が配置されている箇所の全域に亘って、車体1は、側面衝突時にセンターピラー4からサイドシル5に伝わった荷重を、ねじりモーメントとして受けることができる。そのため、サイドシル5の閉断面形状、特にサイドシルアウター15につぶれが生じることをより確実に抑制できる。
【0074】
なお、下壁224の下端224bは、側面視において、前後方向Xに対して傾斜した起伏状部分を含んでいてもよい。
【0075】
下壁224の下端224bは、サイドシルアウター15の下壁154のうち、R部156の下端156bと、R部157の上端157aとの間に配置されていることが好ましい。幅方向Yにおいて、下壁224の下端224bの位置は、下壁224の中央位置からキャビン10側に進んだ位置にあることがより好ましい。本実施形態では、下壁224の下端224bは、R部157の上端157aに位置している。
【0076】
上記の構成により、本実施形態では、重複部22の下端としての下壁224の下端224bは、車幅方向Yにおけるサイドシルアウター15の側壁153の外側面153aおよび下フランジ155のうちの下フランジ155寄りの位置に配置されており、この下フランジ155寄り位置において、サイドシルアウター15の下壁154の下面154aに固定されている。この構成によると、下壁224の下端224bの位置をサイドシルアウター15の側壁153から下方に僅かに延ばすことで、側面衝突時におけるサイドシル5の閉断面形状の潰れ抑制効果を格段に高くでき、しかも、重複部22の重量増加を最小限にできる。
【0077】
本実施形態では、サイドシルアウター15とセンターピラー4の重複部22とは、上下方向Zにおける2箇所で溶接によって固定されている。具体的には、上下方向Zにおけるサイドシルアウター15の側壁153の中央位置153bにおいて、サイドシルアウター15の側壁153と、センターピラー4の重複部22の側壁223と、が溶接によって固定されている。さらに、サイドシルアウター15の下壁154におけるR部157の上端157aと、重複部22の下壁224の下端224bと、が溶接によって固定されている。なお、サイドシルアウター15と重複部22の上下方向Zにおける溶接箇所は、上記の例に限定されない。
【0078】
本実施形態では、重複部22は、上部21(中心位置X0)に対して前方に突出する前部226と、上部21と上下方向Zに連続する中間部227と、上部21に対して後方に突出する後部228と、を有している。
【0079】
前部226および後部228は、上述した上フランジ221と、上壁222と、側壁223と、下壁224と、を有している。一方、中間部227は、上フランジ221および上壁222は有しておらず、側壁223と、下壁224と、を有している。中間部227の側壁223は、上部21のピラーアウター41の側壁413と連続している。
【0080】
上記の構成により、重複部22は、前後方向Xにおいて、センターピラー4の下端224bの前後方向Xの中心となる中心位置において、サイドシル5の側壁153の外側面153aから下壁154の下面154aにかけて連続してサイドシル5の外面を覆っている。
【0081】
好ましくは、重複部22は、サイドシルアウター15の側壁153の外側面153a、および、下壁154の下面154aの双方と接触している。この構成により、サイドシル5とセンターピラー4との結合強度をより高くできる。
【0082】
次に、重複部22の下端224bの高さ位置の設計方法の一例を説明する。
【0083】
重複部22の下壁224の下端224bの高さ位置は、例えば、以下の位置決めステップを経て設定される。具体的には、位置決めステップでは、下端224bの高さ位置が異なる複数種類の車体1(センターピラー4およびサイドシル5)へそれぞれ側面衝突試験を行い、この側面衝突結果と重複部22の下端224bの位置に応じたセンターピラー4の重量とに基づいて、下端224bの位置を決定する。側面衝突試験は、例えば、Euro NCAP(European New Car Assessment Programme)に沿って行われる。この側面衝突試験は、例えば、車体1のモデルをコンピュータ上で作製し、このモデルに対して側面衝突試験を実施することで行われる。
【0084】
側面衝突の評価は、例えば、以下のようにして行われる。具体的には、まず、重複部22の下端224bの位置に応じた、キャビン10側への車体1の最大侵入量を算出する。次に、重複部22の下端224bの位置毎に、下端224bの位置の変化に伴う最大侵入量低下率と、センターピラー4の重量増加率と、を算出する。そして、例えば、最大侵入量が一定の基準以下であり、且つ、最大侵入量低下率/重量増加率が一定に収束しだすような下端224bの高さ位置を探索する。これにより、例えば、本実施形態で説明したような、下端224bをサイドシルアウター15の下壁154の下面154aに沿わすレイアウトを実現できる。
【0085】
本実施形態では、重複部22の後部228における側壁223に、貫通孔229が形成されている。また、サイドシルアウター15の側壁153には、重複部22の後部228に形成された貫通孔229と重なる箇所に貫通孔158が形成されている。
【0086】
本実施形態では、重複部22の前部226の前端縁226aおよび後部228の後端縁228aは、前後方向Xと直交する平面上に位置している。
【0087】
本実施形態では、サイドシル5の上壁152の上面152aの高さ位置における、センターピラー4の重複部22の前後方向Xにおける中心位置がX0として規定されている。また、中心位置X0から前拘束位置X2(X2F)までの間に配置されている重複部22の前端縁226aの位置が前端縁位置X1(X1F)として規定されている。また、中心位置X0から前拘束位置X2(X2F)までの前後方向Xにおける距離がL0(L0F)として規定されている。また、前後方向Xにおける中心位置X0から前端縁位置X1までの距離がL1として規定されている。
【0088】
本実施形態では、距離L0F,L1Fの比であるL1F/L0Fは、0.36≦L1F/L0F≦0.48に設定されている。比L1F/L0Fを0.36以上とすることで、センターピラー4の重複部22の前部226とサイドシルアウター15との前後方向Xにおける重なり部分の長さ(重ね代)を十分に大きくできる。これにより、側面衝突時、重複部22が配置されている領域において、センターピラー4とサイドシル5が一体となって回転(前後方向Xからみた回転)をする。このため、サイドシル5にはねじりモーメントは入力されず、サイドシル5の上壁152のせん断座屈は生じないか、生じても僅かである。さらにセンターピラー4の重複部22とサイドシル5とが重なっていることでねじり剛性が大きくなるため、サイドシル5のねじり角を低減できる。また、サイドシル5のうちセンターピラー4の重複部22と重なっていない部分が座屈したとしても、当該部分の長手方向長さが低減する変形が生じるため、重複部22の回転角(前後方向からみた回転の回転角)は減少する。そのため、側面衝突時におけるキャビン側へのサイドシル5の侵入量を低減できる。一方で、L1F/L0Fを0.48以下とすることで、センターピラー4が必要以上に重くならずに済む。よって、センターピラー4の重複部22によるサイドシル5の補強効果向上とセンターピラー4の重量増加抑制とを高度にバランスさせることができる。なお、L1F/L0Fを0.48よりも大きくした場合、センターピラー4の重複部22の重量増加率に対して、側面衝突時におけるキャビン側へのサイドシル5の侵入量の低下率はほとんど向上しない。よって、L1F/L0Fが0.48を超えている場合、重複部22が車体軽量化に貢献し難くなってしまう。
【0089】
L1F/L0Fの下限は、0.38であってもよいし、0.40であってもよいし、0.42であってもよい。また、L1F/L0Fの上限は、0.46であってもよいし、0.44であってもよいし、0.42であってもよい。
【0090】
また、本実施形態では、前後方向Xにおいて、中心位置X0から重複部22の前端位置X1(X1F)までの距離L1(L1F)と中心位置X0から重複部22の後端位置X1(X1R)までの距離L1(L1R)とが実質的に同一である。この場合の「実質的に同一」とは、例えば、距離の比L1F/L1Rが0.9≦L1F/L1R≦1.1であることをいう。この構成によると、側面衝突時において、重複部22の前部226と後部228とで衝撃荷重をバランスよく受けることができる。その結果、センターピラー4の上部21の前側におけるキャビン10側への車体1の侵入量と、上部21の後側におけるキャビン10側への車体1の侵入量と、の間で偏りが生じることを抑制できる。これにより、側面衝突時においてサイドシル5がキャビン10側へ侵入する侵入量の最大値をより小さくできる。
【0091】
なお、上記の距離の比L1F/L1Rは0.9≦L1F/L1R≦1.1でなくてもよい。
【0092】
重複部22の前部226、および、重複部22の後部228の少なくとも一方は、フロアクロスメンバー8と前後方向Xの位置が重なるように配置されていることが好ましい。本実施形態では、重複部22の前部226は、フロアクロスメンバー8と幅方向Yに並んでいることにより、フロアクロスメンバー8と前後方向Xの位置が重なっている。重複部22の前部226は、フロアクロスメンバー8の全域と前後方向Xの位置が重なっていることが好ましい。この構成によると、側面衝突時に、重複部22とフロアクロスメンバー8とがサイドシル5を強固に挟んでいることで、サイドシル5のねじれ変形をより確実に抑制できる。その結果、側面衝突時におけるキャビン10側へのサイドシル5の侵入量をより一層低減できる。
【0093】
次に、重複部22の前端縁226aの前後方向位置の設計方法の一例を説明する。
【0094】
重複部22の前端縁226aの前後方向位置は、例えば、以下の位置決めステップを経て設定される。具体的には、位置決めステップでは、中心位置X0から前拘束位置X2(X2F)までの距離L0と中心位置X0から前端縁位置X1Fまでの距離L1との比L1/L0が異なる複数種類の車体1へそれぞれ側面衝突試験を行い、この側面衝突結果と前端縁位置X1Fに応じたセンターピラー4の重量とに基づいて、前端縁位置X1Fを決定する。側面衝突試験は、例えば、上述したEuro NCAPに沿って行われる。この側面衝突試験は、例えば、上述したのと同様に、車体1のモデルをコンピュータ上で作製し、このモデルに対して側面衝突試験を実施することで行われる。
【0095】
重複部22の後端縁228aの前後方向位置の設計方法についても、上記と同様に行ってもよい。すなわち、位置決めステップでは、中心位置X0から後拘束位置X2(X2R)までの距離L0と中心位置X0から後端縁位置X1Rまでの距離L1との比L1/L0が異なる複数種類の車体1へそれぞれ側面衝突試験を行い、この側面衝突結果と後端縁位置X1Rに応じたセンターピラー4の重量とに基づいて、後端縁位置X1Rを決定することができる。
【0096】
側面衝突の評価は、例えば、以下のようにして行われる。具体的には、まず、複数のL1/L0毎に、キャビン10側への車体1の最大侵入量を算出する。次に、L1/L0の変化に伴う最大侵入量低下率と、センターピラー4の重量増加率と、を算出する。そして、例えば、最大侵入量が一定の基準以下であり、且つ、最大侵入量低下率/重量増加率が一定に収束しだすようなL1/L0の値を探索する。これにより、例えば、本実施形態で説明したような、前端縁位置X1Fを0.36≦L1/L0≦0.48となるレイアウトを実現できる。このように、L1/L0に対する、側面衝突結果とセンターピラー4の重量と、に基づいて、前端縁位置X1Fが決定される。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかしながら、本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明は、請求の範囲に記載の範囲において種々の変更が可能である。なお、以下では、上述の実施形態および変形例と異なる構成を主に説明し、同様の構成には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0098】
図5は、本発明の一変形例を示す図である。図5に示す変形例では、センターピラー4の前後方向Xにおける中心位置X0から後拘束位置X2(X2R)までの間に配置されている重複部22の後端縁228aの位置が後端縁位置X1(X1R)として規定されている。また、中心位置X0から後拘束位置X2(X2R)までの前後方向Xにおける距離がL0(L0R)として規定されている。また、前後方向Xにおける中心位置X0から後端縁位置X1Rまでの距離がL1(L1R)として規定されている。
【0099】
本変形例では、距離L0R,L1Rの比であるL1R/L0Rは、0.36≦L1R/L0R≦0.48に設定されている。比L1R/L0Rを0.36以上とすることで、センターピラー4の重複部22の後部228とサイドシルアウター15との前後方向Xにおける重なり部分の長さ(重ね代)を十分に大きくできる。これにより、上記実施形態で説明したのと同様の理由により、側面衝突時におけるキャビン側へのサイドシル5の侵入量を低減できる。一方で、L1R/L0Rを0.48以下とすることで、センターピラー4が必要以上に重くならずに済む。よって、センターピラー4の重複部22によるサイドシル5の補強効果向上とセンターピラー4の重量増加抑制とを高度にバランスさせることができる。なお、L1R/L0Rを0.48よりも大きくした場合、センターピラー4の重複部22の重量増加率に対して、側面衝突時におけるキャビン側へのサイドシル5の侵入量の低下率はほとんど向上しない。よって、L1R/L0Rが0.48を超えている場合、重複部22が車体軽量化に貢献し難くなってしまう。
【0100】
L1R/L0Rの下限は、0.38であってもよいし、0.40であってもよいし、0.42であってもよい。また、L1R/L0Rの上限は、0.46であってもよいし、0.44であってもよいし、0.42であってもよい。
【0101】
なお、0.36≦L1F/L0F≦0.48と0.36≦L1R/L0R≦0.48の少なくとも一方が満たされていればよい。
【0102】
また、本変形例では、重複部22の前部226がフロアクロスメンバー8と前後方向Xの位置が重なるように配置されていることに加えて、重複部22の後部228がフロアクロスメンバー13と前後方向Xの位置が重なるように配置されている。重複部22の後部228は、フロアクロスメンバー13と幅方向Yに並んでいることにより、フロアクロスメンバー13と前後方向Xの位置が重なっている。重複部22の後部228は、フロアクロスメンバー13の全域と前後方向Xの位置が重なっていることがより好ましい。この構成によると、側面衝突時に、重複部22とフロアクロスメンバー8,13とが前後方向Xに離隔した2箇所でサイドシル5を強固に挟んでいることで、サイドシル5のねじれ変形をより確実に抑制できる。その結果、側面衝突時におけるキャビン10側への車体1の侵入量をより一層低減できる。
【0103】
なお、本変形例において、前部226は、フロアクロスメンバー8と前後方向Xの位置が重なるように配置されていなくてもよい。
【0104】
また、上述の実施形態および変形例において、重複部22の下端224bがサイドシルアウター15の下壁154の下面154aに沿わされている場合には、0.36≦L1/L0≦0.48の条件が満たされていなくてもよい。
【0105】
また、上述の実施形態および変形例において、0.36≦L1/L0≦0.48の条件が満たされている場合には、重複部22の下端224bは、サイドシルアウター15の下壁154の下面154aに沿わされていなくてもよく、上壁152、側壁153または下フランジ155に沿わされていてもよい。
【実施例
【0106】
実施形態(図1図4)で説明した車体1のモデルをコンピュータで作成した。車体1のモデルにおける仕様は以下の通りである。
サイドシル5の板厚:1.0(mm)
センターピラー4の上部21の板厚:後述する前後方向Xにおける重複部22の前端縁位置X1Fと後端縁位置X1Rが種類000の場合、ルーフピラー3との接続部周辺(上端部周辺)と重複部22との接続部周辺(下端部周辺)では、2.03(mm)であり、上下方向Zの中間部では2.45(mm)である。また、後述する前後方向Xにおける重複部22の前端縁位置X1Fと後端縁位置X1Rが種類000以外の場合、ルーフピラー3との接続部周辺(上端部周辺)と重複部22との接続部周辺(下端部周辺)では、1.45(mm)であり、上下方向Zの中間部では1.75(mm)である。
センターピラー4の重複部22の板厚:後述する前後方向Xにおける重複部22の前端縁位置X1Fと後端縁位置X1Rが種類000の場合、2.03mmであり、種類000以外の場合、1.45mmである。
サイドシル5およびセンターピラー4のヤング率:206(Gpa)
サイドシル5およびセンターピラー4のポアソン比:0.3
サイドシル5の側壁153の曲げ強度:18864(N・mm)
中心位置X0から前拘束位置X2(X2F)までの前後方向Xの距離:762mm
【0107】
また、上下方向Zにおけるセンターピラー4の重複部22における下端224bの高さ位置は、6種類(00,10,20,30,40,50の6種類)設定した。各種類における下端224bの高さ位置は、図6に示すように、以下の通りである。なお、図6は、実施例における重複部22の下端224bの位置を説明するための図である。
00:上下方向Zにおける側壁153の中心
10:R部156の上端156a
20:R部156の下端156b
30:R部157の上端157a
40:R部157の下端157b
50:下フランジ155の下端
【0108】
また、前後方向Xにおける重複部22の前端縁位置X1Fと後端縁位置X1Rは、5種類(000,0001、002,003,004)設定した。各種類において、上下方向Zに関する長さの比L1/L0は、以下の通りである。
000:重複部22の前端縁226a側のL1/L0(L1F/L0F):0.32
重複部22の後端縁228a側のL1/L0(L1R/L0R):0.55
001:重複部22の前端縁226a側のL1/L0(L1F/L0F):0.36
重複部22の後端縁228a側のL1/L0(L1R/L0R):0.62
002:重複部22の前端縁226a側のL1/L0(L1F/L0F):0.40
重複部22の後端縁228a側のL1/L0(L1R/L0R):0.68
003:重複部22の前端縁226a側のL1/L0(L1F/L0F):0.48
重複部22の後端縁228a側のL1/L0(L1R/L0R):0.82
004:重複部22の前端縁226a側のL1/L0(L1F/L0F):0.51
重複部22の後端縁228a側のL1/L0(L1R/L0R):0.89
【0109】
重複部22の下端位置6種類(00,10,20,30,40,50)と重複部22の前後端位置5種類(000,001,002,003,004)のそれぞれの組み合わせの6×5の30通りについて、コンピュータシミュレーションによって車体に側面衝突が生じたときのキャビン10側への車体1の侵入量(変形量)を算出した。側面衝突条件は、Euro NCAP(European New Car Assessment Programme)に則って設定された。具体的には、ムービングバリアが時速50kmで車体1の重複部22に衝突したときに車体1がキャビン10側へ侵入する侵入量の最大値を算出した。
【0110】
最大侵入量(mm)の算出箇所は、上下方向Zにおける3箇所とした。具体的には、以下の測定高さ位置1~3とした。測定高さ位置1~3は、図1に示されている。
測定高さ1:地面から180mmの高さ位置
測定高さ2:地面から380mmの高さ位置
測定高さ3:地面から680mmの高さ位置
【0111】
<センターピラーの重複部の下端位置に関して>
結果を図7に示す。
図7(A)の上側のグラフは、6種類の重複部22の下端位置それぞれについて、測定高さ1における最大侵入量を示すグラフであり、横軸が各下端位置の種類を示し、縦軸が最大侵入量の値を示している。図7(A)の下側のグラフは、6種類の重複部22の下端位置それぞれについて、測定高さ1における、最大侵入量低下率/重量増加率を示すグラフであり、横軸が各下端位置の種類を示し、縦軸が最大侵入量低下率/重量増加率を示している。
【0112】
図7(B)の上側のグラフは、6種類の重複部22の下端位置それぞれについて、測定高さ2における最大侵入量を示すグラフである。図7(B)の下側のグラフは、6種類の重複部22の下端位置それぞれについて、測定高さ2における、最大侵入量低下率/重量増加率を示すグラフである。図7(C)の上側のグラフは、6種類の重複部22の下端位置それぞれについて、測定高さ3における最大侵入量を示すグラフである。図7(C)の下側のグラフは、6種類の重複部の下端位置それぞれについて、測定高さ3における、最大侵入量低下率/重量増加率を示すグラフである。
【0113】
最大侵入量低下率とは、重複部22の下端位置が00であるときの最大侵入量に対する、各下端位置が10~50であるときの最大侵入量の割合をいう。また、重量増加率は、重複部22の下端位置が00であるときのセンターピラー4の重量に対する、各下端位置が10~50であるときのセンターピラー4の重量の割合をいう。
【0114】
図7(A)~図7(C)のそれぞれの上側のグラフに示されているように、重複部22の下端224bの位置が下側であるほど、最大侵入量は小さくなる。これは、重複部22が配置されている箇所はセンターピラー4とサイドシル5が一体となり回転するため、ねじりモーメントは入力されないか、小さく、サイドシルアウター15の上壁152のせん断座屈はほとんど生じないためである。さらに、重複部22が配置されている箇所のねじり剛性が大きくなるため、サイドシル5のねじり角を低減できる。但し、下端224bの位置が30~50では、侵入量はほとんど差がない。一方で、図7(A)~図7(C)のそれぞれの下側のグラフに示されているように、重複部22における下端224bの高さ位置が0~20までは、最大侵入量低下率/重量増加率の増加が大きく、重複部22の重量増加に比べて最大侵入量低下の度合い、すなわち対側面衝突性能が向上している。一方で、重複部22における下端224bの高さ位置が30を超えると、最大侵入量低下率/重量増加率は略一定に収束し、重複部22を大型化することによるメリットは生じなかった。このように、重複部22における下端224bが20~30の間の位置、すなわち、サイドシルアウター15の下壁154の下面154aに沿わされていることが、対側面衝突性能とセンターピラー4の重量増加抑制とのバランスに極めて優れていることが実証された。
【0115】
<センターピラーの重複部の前後方向長さに関して>
結果を図8に示す。
図8(A)のグラフは、測定高さ1における、2種類の重複部の下端位置00,30それぞれについて、長さの比L1/L0と最大侵入量低下率/重量増加率との関係を示すグラフである。
【0116】
図8(B)のグラフは、測定高さ2における、2種類の重複部の下端位置00,30それぞれについて、長さの比L1/L0と最大侵入量低下率/重量増加率との関係を示すグラフである。図8(C)のグラフは、測定高さ3における、2種類の重複部の下端位置00,30それぞれについて、長さの比L1/L0と最大侵入量低下率/重量増加率との関係を示すグラフである。
【0117】
図8(A)~図8(C)のそれぞれのグラフに示されているように、L1/L0が0.36となるまでは、最大侵入量低下率/重量増加率が略線形的に増加している。そして、L1/L0が0.36を超えると、最大侵入量低下率/重量増加率は略線形的に減少していく。そして、L1/L0が0.48を超えると、最大侵入量低下率/重量増加率は収束していった。このように、0.36≦L1/L0とすることで、対側面衝突性能を大きくできる。また、L1/L0≦0.48とすることで、重複部22の過度の重量増加を抑制できる。よって、0.36≦L1/L0≦0.48とすることで、対側面衝突性能とセンターピラー4の重量増加抑制とのバランスに極めて優れていることが実証された。
【0118】
なお、実施例では、重複部22の前部226についてのL1/L0(L1F/L0F)の検証を行った。しかしながら、車体1においては、サイドシル5およびセンターピラー4について、概ね前後対称な形状である。このことから、重複部22の後部228についても0.36≦L1/L0≦0.48(0.36≦L1R/L0R≦0.48)とすることで優れた対側面衝突性能と重量効率を実現できることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、車体構造、および、車体構造の設計方法として広く適用できる。
【符号の説明】
【0120】
1 車体
4 センターピラー
5 サイドシル
5a サイドシルの前部
5b サイドシルの後部
6 サイドシルリア(相手側部材)
8 フロアクロスメンバー
12 ピラーロア(相手側部材)
13 フロアクロスメンバー
21 上部
22 重複部
152a 上面
153a 外側面
154a 下面
226 前部
226a 重複部の前端
228 後部
228a 重複部の後端
X2(X2F) 拘束位置(前拘束位置)
X2(X2R) 拘束位置(後拘束位置)
X 前後方向
Y 車幅方向
Z 上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8