(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-30
(45)【発行日】2025-10-08
(54)【発明の名称】熱電発電デバイス
(51)【国際特許分類】
H10N 15/20 20230101AFI20251001BHJP
H01F 1/01 20060101ALI20251001BHJP
【FI】
H10N15/20
H01F1/01 150
(21)【出願番号】P 2023529844
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2022023476
(87)【国際公開番号】W WO2022264940
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2021098950
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー・環境新技術先導プログラム/未踏チャレンジ2050/磁気-熱-電気間相互作用の体系的解明と新原理デバイスの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桜庭 裕弥
(72)【発明者】
【氏名】政岡 文平
(72)【発明者】
【氏名】内田 健一
(72)【発明者】
【氏名】周 偉男
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-072256(JP,A)
【文献】米国特許第03554815(US,A)
【文献】特開2008-130718(JP,A)
【文献】特開2016-103535(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218613(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/009308(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/090638(WO,A1)
【文献】特開2018-078147(JP,A)
【文献】特開2017-084854(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038553(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038717(WO,A1)
【文献】特表2013-522861(JP,A)
【文献】特開2011-181601(JP,A)
【文献】特表2012-529763(JP,A)
【文献】特開平10-303471(JP,A)
【文献】桜庭裕弥,外3名,異常ネルンスト効果を利用した新規熱電応用,第64回化合物新磁性材料専門研究会,公益社団法人日本磁気学会,2018年,[online],[令和7年5月15日検索],インターネット<URL:https://www.magnetics.jp/wp-content/uploads/64th_abstract_sakuraba.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 15/20
H01F 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材料よりなる絶縁膜と、
異常ネルンスト効果
を発現可能な単一の磁性材料よりなり、前記絶縁膜の一方の面に並列に配置された薄膜細線形状又は棒材形状の複数の磁性線と、
非磁性材料よりなり、前記絶縁膜の他方の面に前記複数の磁性線の配列方向に対して平行又は斜めに並列に配置された、薄膜細線形状又は棒材形状の複数の非磁性線と、
前記複数の磁性線のうち隣接する第1磁性線及び第2磁性線を、前記複数の非磁性線のうちの1つを介して直列接続可能なように、前記絶縁膜を貫通し前記複数の磁性線と前記複数の非磁性線を電気的に接続する貫通接触穴と、
絶縁材料、又は絶縁材料で被覆された導電性材料よりなり、前記複数の磁性線、前記絶縁膜、及び前記複数の非磁性線の積層体を保持し、前記積層体と熱的に接触している基板と、
を備え、前記複数の非磁性線の各幅は、前記複数の磁性線の各幅より狭い、熱電発電デバイス。
【請求項2】
前記隣接する第1及び第2磁性線を接続する非磁性線の配列方向の両端部は、それぞれ、前記第1磁性線の配列方向の一方の端部と、前記第2磁性線の配列方向の他方の端部と、導体材料で充填された前記貫通接触穴を介して電気的に接続される請求項1に記載の熱電発電デバイス。
【請求項3】
前記非磁性材料は、Cu、Ag、Au、Al、Rh、W、Mo、Pt、Pdおよびこれらを含む合金材料の何れか1種類である請求項1又は2に記載の熱電発電デバイス。
【請求項4】
前記複数の磁性線の間隔は、前記磁性線の長さ又は幅の少なくとも一方よりも狭い請求項
1に記載の熱電発電デバイス。
【請求項5】
前記複数の磁性線の磁性材料は、Fe-Al、Fe-Ga、Fe-Sn、Fe-Pt、Mn-Ga、Mn-Ge、Mn-Sn、Ni-Pt、Co-Gd、Fe
4N、Mn
3AN(A=Mn、Pt、又はNi)、Co
2YZ(Y=Ti、V、Cr、Mn、又はFe;Z=Ga、Ge、Al、Si、Sn、又はSb)ホイスラー合金、Sm-Co永久磁石材料、Nd-Fe-B永久磁石材料、又はGaMnAsの何れか1種類である請求項
1に記載の熱電発電デバイス。
【請求項6】
前記絶縁膜を構成する絶縁材料は、MgO、Si-O、Si-N、Al-O、Al-N、BN、又はCの何れか1種類である請求項
1に記載の熱電発電デバイス。
【請求項7】
前記基板を構成する材料は
、絶縁材料として、MgO、熱酸化膜付きシリコン、Si-O、Si-N、Al-O、Al-N、SiC、サファイア、ガラス、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、又はダイヤモンドの何れか1種類であり、あるいは、絶縁材料で被覆された導電性材料として、シリコン、Cu、Ag、Au、Al、Rh、W、Mo、Pt、又はPdの何れか1種類である請求項
1に記載の熱電発電デバイス。
【請求項8】
前記熱電発電デバイスが熱流センサに用いられる場合においては、前記複数の磁性線は薄膜細線形状であり、幅Wが10nm~1mm、厚さTが1nm~100μm、長さLが1μm~10cmである請求項
1に記載の熱電発電デバイス。
【請求項9】
前記熱電発電デバイスが熱電発電モデュールに用いられる場合においては、前記複数の磁性線は棒材形状であり、幅Wが10μm~5mm、厚さTが10μm~1cm、長さLが1mm~100cmである請求項
1に記載の熱電発電デバイス。
【請求項10】
前記絶縁膜の膜厚は、1nm~1cmである請求項
1に記載の熱電発電デバイス。
【請求項11】
前記基板の厚さは、3μm~3mmである請求項
1に記載の熱電発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電発電デバイスに関し、特に発電モデュール/熱流センサを通過する熱エネルギー/熱流を効率的に利用する熱電対列構造を有する熱電発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体において発現する熱電効果「異常ネルンスト効果」を利用した熱電発電や熱流センサの実現に向けた基礎と応用面の研究開発が進んでいる。一般的なゼーベック効果は、熱の流れと同じ方向に起電力が生じるが、異常ネルンスト効果は、熱の流れと直交方向に起電力が現れることが最大の特徴であり、これを利用することで、ゼーベック効果を利用した従来の熱電発電では実現できない熱電発電や熱流センシングが可能となる。
異常ネルンスト効果では面直方向への熱流に対して面内方向へ出力が現れるため、磁性線を面内に並べ直列接続を作ることで直列電圧を高めることができるが、"行き"と"戻り"で磁性体の異常ネルンストによる熱電能の大きさまたは符号が異なるか、磁化が逆方向を向いていることが求められる。
【0003】
また、磁性体における異常ネルンスト効果は、磁化と温度勾配の外積方向(∇T×M)に電界を生じさせる現象である。これを利用すると、単純な面内接続型の熱電対列(正と負の符号の熱電能を持つ磁性体の直列接続)構造で電圧を増幅できるため、熱電発電応用や熱流センサへの応用が期待できる(
図3、特許文献1)。
しかし、異常ネルンスト効果を用いた熱電発電や熱流センサにおいて、熱エネルギー/熱流を無駄にしないような構造を構築するためには、熱電対列で正負の大きな熱電能を持つ2種類の磁性材料を利用するか、磁化反転制御により隣接する磁性線の磁化が逆方向に向くように制御を加える必要があり、その作製は容易ではないという課題がある。
【0004】
また、現在まで報告されている異常ネルンスト効果の熱電能で大きいものは、FeAl合金で+3.4μV/K(非特許文献1),Co2MnGaホイスラー合金で+6μV/K(非特許文献2)、FeGa合金で+2.1μV/K(非特許文献3)、SmCo5永久磁石で+3μV/K(非特許文献4)、D03-Fe3GaやFe3Alで3-6μV/K(非特許文献5)であり、符号が正の材料に限られており、符号が負で異常ネルンスト効果による熱電能の大きい材料は未だ探索の途上にある。そこで、これまでに報告のある熱電対列の構造は繋ぎの金属線を非磁性体とした構造(ユニレグ型構造)がほとんどである(非特許文献1、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】W. Zhou, Y. Sakuraba Appl. Phys.Express 13, 043001 (2020).
【文献】Sakai et al., Nature Physics,14 1119 (2018)
【文献】Nakayama et al., Phys. Rev. Mat. 3, 114412 (2019)
【文献】Miura et al., Appl. Phys. Lett. 115, 222403 (2019)
【文献】Sakai et al., Nature 581, 53-57 (2020)
【文献】Sakuraba et al., Appl. Phys. Express 6, 033003 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の異常ネルンスト効果による熱電能を用いた熱電発電デバイスでは、非磁性体部分を通過する熱流/熱エネルギーは、電圧出力/電力を生み出さないため、無駄になってしまう問題がある。
本発明の目的は、発電モデュール/熱流センサを通過する熱エネルギー/熱流を効率的に利用する熱電対列構造を有する熱電発電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題を解決するため、
図1に示すように、異常ネルンスト効果の熱電能の大きな1つの磁性材料の磁性線列を極めて狭い隙間で敷き詰めた構造を、絶縁膜を介して非磁性線で直列接続させた構造を持つ熱電発電デバイスを考案した。
本構造によって、熱流が通過する面のほぼ全領域を1つの磁性材料でカバーすることが可能になり、熱電発電モデュール/熱流センサの性能の向上させることができる。本発明のおける非磁性線部分を、磁性線部分と逆の熱電能を持つ磁性材料に置き換えることで、さらに高い性能を得ることもできる。
【0009】
〔1〕本発明の熱電発電デバイスは、例えば
図1に示すように、絶縁材料よりなる絶縁膜22と、異常ネルンスト効果による熱電能の大きな単一の磁性材料よりなり、絶縁膜22の一方の面に並列に配置され、配列方向26へ異常ネルンスト電界を発生させる薄膜細線形状又は棒材形状の複数の磁性線21と、非磁性材料よりなり、絶縁膜22の他方の面に複数の磁性線21の配列方向に対して平行又は斜めに並列に配置された、薄膜細線形状又は棒材形状の複数の非磁性線23と、複数の磁性線21のうち隣接する第1磁性線21a及び第2磁性線21bを、非磁性線23を介して直列接続可能なように、絶縁膜22を貫通し複数の磁性線21と複数の非磁性線23を電気的に接続する貫通接触穴24と、絶縁材料、又は絶縁材料で被覆された導電性材料よりなり、複数の磁性線21、絶縁膜22、及び複数の非磁性線23の積層体を保持し、積層体と熱的に接触している基板20と、を備える。
〔2〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、隣接する第1及び第2磁性線21a,21bを接続する非磁性線23aの配列方向の両端部は、それぞれ、第1磁性線21aの配列方向の一方の端部と、第2磁性線21bの配列方向の他方の端部と、導体材料で充填された貫通接触穴24を介して電気的に接続されてもよい。
〔3〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、好ましくは、複数の非磁性線23の非磁性材料は、Cu、Ag、Au、Al、Rh、W、Mo、Pt、又はPdおよびこれらを含む合金材料の何れか1種類であるとよい。
〔4〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、例えば
図2に示すように、絶縁材料よりなる絶縁膜22と、異常ネルンスト効果による熱電能の大きな単一の磁性材料よりなり、絶縁膜22の一方の面に並列に配置された薄膜細線形状又は棒材形状の複数の磁性線21と、複数の磁性線を構成する磁性材料と逆符号の熱電能を持つ磁性材料よりなり、絶縁膜22の他方の面に複数の磁性線21の配列方向に対して平行又は斜めに並列に配置された、薄膜細線形状又は棒材形状の複数の逆磁性線27と、複数の磁性線21のうち隣接する第1磁性線及び第2磁性線21a,21bを、複数の逆磁性線27のうちの1つを介して直列接続可能なように、絶縁膜22を貫通し複数の磁性線21と複数の逆磁性線27を電気的に接続する貫通接触穴24と、絶縁材料、又は絶縁材料で被覆された導電性材料よりなり、複数の磁性線21、絶縁膜22、及び複数の逆磁性線27の積層体を保持し、積層体と熱的に接触している基板20と、を備える。
〔5〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、隣接する第1及び第2磁性線21a,21bを接続する逆磁性線27aの配列方向の両端部は、それぞれ、第1磁性線21aの配列方向の一方の端部と、第2磁性線21bの配列方向の他方の端部と、導体材料で充填された貫通接触穴24を介して電気的に接続されてもよい。
〔6〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、複数の磁性線21を構成する磁性材料は、正の熱電能を持ち、複数の逆磁性線27を構成する磁性材料は、負の熱電能を持ってもよい。
〔7〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、記複数の磁性線21を構成する磁性材料は、負の熱電能を持ち、複数の逆磁性線27を構成する磁性材料は、正の熱電能を持ってもよい。
〔8〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、好ましくは、複数の磁性線21の間隔は、磁性線21の長さ又は幅の少なくとも一方よりも狭いとよい。
〔9〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、好ましくは、複数の磁性線21を構成する磁性材料は、Fe-Al、Fe-Ga、Fe-Sn、Fe-Pt、Mn-Ga、Mn-Ge、Mn-Sn、Ni-Pt、Co-Gd、Fe
4N、Mn
3AN(A=Mn、Pt、又はNi)、Co
2YZ(Y=Ti、V、Cr、Mn、Fe、Z=Ga、Ge、Al、Si、Sn、又はSb)ホイスラー合金、Sm-Co永久磁石材料、Nd-Fe-B永久磁石材料、又はGaMnAsの何れか1種類であるとよい。
〔10〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、好ましくは、絶縁膜22を構成する絶縁材料は、MgO、Si-O、Si-N、Al-O、Al-N、BN、又はCの何れか1種類であるとよい。
〔11〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、基板20を構成する材料は、好ましくは、絶縁材料として、MgO、熱酸化膜付きシリコン、Si-O、Si-N、Al-O、Al-N、SiC、サファイア、ガラス、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、又はダイヤモンドの何れか1種であり、あるいは、絶縁材料での被覆された導電性材料として、シリコン、Cu、Ag、Au、Al、Rh、W、Mo、Pt、又はPdの何れか1種類であるとよい。
〔12〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、好ましくは、上記熱電発電デバイスが熱流センサに用いられる場合においては、磁性線21は薄膜細線形状であり、幅Wが10nm~1mm、厚さTが1nm~100μm、長さLが1μm~10cmであるとよい。
〔13〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、好ましくは、上記熱電発電デバイスが熱電発電モデュールに用いられる場合においては、磁性線21は棒材形状であり、幅Wが10μm~5mm、厚さTが10μm~1cm、長さLが1mm~100cmであるとよい。
〔14〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、好ましくは、絶縁膜22の膜厚は、1nm~1cmであるとよい。
〔15〕本発明の熱電発電デバイスにおいて、好ましくは、基板20の膜厚は、3μm~3mmであるとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱電発電デバイスによれば、異常ネルンスト効果を用いた熱電発電モデュール/熱流センサを1つの磁性材料で構築することが可能になり、大きな異常ネルンスト効果を示す一つの磁性材料が実現されれば、熱エネルギー/熱流をデバイス構造的にはロスしない熱電発電モデュール/熱流センサを作製することができる。
本発明の熱電発電デバイスにおいて、好ましくは、〔4〕のように、磁性線21の磁性材料と逆符号の熱電能を持つ磁性材料である逆磁性線27を用いると、非磁性線23の場合と比較して、熱流センサの場合はその感度、発電モデュールの場合はその発電性能を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態を示す熱電発電デバイスの概念的構成を示す構成図である。
【
図2】本発明の他の実施形態を示す熱電発電デバイスの概念的構成を示す構成図である。
【
図3】従来の異常ネルンスト効果に基づく熱電変換装置を説明する概念的構成を示す構成図である。
【
図4】本発明の実施例1として作製したデバイスの熱流センサ性能の評価結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例2として作製した30mm角サイズの熱流センサの外観写真(A)とその性能評価結果を示すグラフ(B)である。
【
図6】本発明の実施例3として作製した30mm角サイズの熱流センサの外観写真(A)と、その内部写真(B)と、その性能評価結果を示すグラフ(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本明細書で用いる技術用語の定義を記載する。
(1)ネルンスト効果(Nernst effect)
ネルンスト効果とは、温度勾配があって熱が流れている導体(金属または半導体)に,熱流の方向(ΔTz)に垂直な方向(My)に磁場を作用させると,両者に垂直な方向(Vx)に電位差を生ずる現象をいう。ここで、座標系Vx、My、ΔTzは
図3(A)に示すような座標系としている。
(2)異常ネルンスト効果(anomalous Nernst effect:ANE)
異常ネルンスト効果とは、自発磁化を持つ金属または半導体に、自発磁化と垂直方向に温度差があると、それらの外積方向に電位差が生じる現象である。このため、異常ネルンスト効果を利用すると、例えば、My方向に磁化を持つ強磁性体に、ΔTz方向に面直熱勾配を加えるだけでMy面内方向で電圧が得られ、Vx方向の距離を稼ぐだけで簡便に大電圧を得ることができる。また、異常ネルンスト効果は、自発磁化の向きによって電流が流れる方向が異なる、性能指数に対する発電効率はゼーベック効果よりも高い、出力電圧は温度差と直交する方向の長さに比例するため、温度差を自由に設計できる、通常のネルンスト効果と比較して、残留磁化を利用すれば磁場を印加する必要がない、という特徴を有している。
(3)ゼーベック効果(Seebeck effect)は、金属や半導体の温度差が電圧に直接変換される現象で、熱電効果の一種である。キャリアが電子かホールかによってゼーベック係数の符号が異なるという特徴を有している。
なお数値範囲を示す『~』については、下限値と上限値の間の数値範囲を示すもので、本明細書においては、特に明記する場合を除いて、下限値以上で上限値以下の範囲を表すものとする。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態を示す熱電発電デバイスの概念的構成を示す構成図であり、(A)は斜視図、(B)は平面図を示している。
図1において、熱電発電デバイス18は、基板20、複数の磁性線21、絶縁膜22、複数の非磁性線23、及び貫通接触穴24を備えている。本発明は、複数の磁性線21が、複数の非磁性線23を介して直列接続される構造(熱電対列構造)を有する。
【0014】
基板20は、複数の磁性線21、絶縁膜22、複数の非磁性線23の積層体を保持するものである。
図1は、基板20との接合面側に複数の磁性線21が配置された場合を示しているが、これに限定されるものではなく、複数の磁性線21、絶縁膜22、複数の非磁性線23の積層体の積層順序を逆にして、基板20との接合面側に複数の非磁性線23が配置されてもよい。
基板20は、電気的な絶縁性を持つか絶縁体で被覆された導電性材料よりなる。基板20を構成する材料は、熱伝導率が高いものが好ましく、例えばMgO基板が好ましいが、MgO基板に限定されるものではなく、熱酸化膜付きシリコン、Si-O、Si-N、Al-O、Al-N、SiC、サファイア、ガラス、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、又はダイヤモンドの何れか1種類であってもよい。あるいは、絶縁材料での被覆された導電性材料として、シリコン、Cu、Ag、Au、Al、Rh、W、Mo、Pt、Pd箔などを用いると、また柔軟性のある基板が得られる。
基板20の膜厚は、1μm~1mであるとよい。好ましくは、基板20の膜厚は、好適範囲としては3μm~3mm、最適範囲として5μm~1mmであるとよい。
【0015】
複数の磁性線21は、異常ネルンスト効果の熱電能の大きな単一の磁性材料よりなり、薄膜細線形状又は棒材形状の第1及び第2磁性線21a、21bが複数並列に配置されたものである。複数の磁性線21は、絶縁膜22の一方の面に縦縞状に配列され、例えば、基板20側に配置される。磁性材料としては、異常ネルンスト効果を生じる全ての磁性材料を用いることができるが、好ましくは異常ネルンスト効果が大きいFe-Al、Fe-Ga、Fe-Sn、Fe-Pt、Mn-Ga、Mn-Ge、Mn-Sn、Ni-Pt、Co-Gd、Fe4N、Mn3AN(A=Mn、Pt、Ni)、Co2YZ(Y=Ti、V、Cr、Mn、Fe;Z=Ga、Ge、Al、Si、Sn、Sb)ホイスラー合金、Sm-Co、Nd-Fe-B永久磁石材料、GaMnAsなどが望ましい。
複数の磁性線21の間隔は、出力電圧の観点から、磁性線21の長さ又は幅の少なくとも一方よりも狭いとよい。
【0016】
複数の非磁性線23は、非磁性材料よりなり、薄膜細線形状又は棒材形状の非磁性線23aが複数並列して配置されたものであり、絶縁膜22の他方の面に複数の磁性線21の配列方向に対して平行又は斜めに並列に配置される。つまり、複数の非磁性線23は、磁性線21に対して平行な縦縞状又は斜め縦縞状に配列される。
非磁性線23aは、その配列方向の両端において、複数の磁性線21のうちの隣接する第1及び第2磁性線21a,21bをつなぐ構造を持つ。
非磁性線23aは、第1及び第2磁性線21a,21bの電気抵抗に比べて無視されるほど小さい電気抵抗を持つとともに、第1及び第2磁性線21a,21bとの間に磁性線部分の抵抗に比べて小さい電気的な接触抵抗をもつことが望ましい。
非磁性材料は、電気伝導性がある全ての材料を用いることができるが、電気伝導性が高い材料が好ましく、Cu、Ag、Au、Al、Rh、W、Mo、Pt、Pdおよびこれらを含む合金材料などが望ましい。
【0017】
絶縁膜22は、絶縁材料よりなるもので、複数の磁性線21と複数の非磁性線23の対向面に位置して、複数の磁性線21と複数の非磁性線23を絶縁している。絶縁材料は、電気的な絶縁性を持つ材料であれば全て用いることができるが、熱伝導率が高いものが好ましく、MgO、Si-O、Si-N、Al-O、Al-N、BN、Cなどが望ましい。絶縁膜22は非磁性線23aと第1及び第2磁性線21a,21bとを接続する貫通接触穴24以外で電気的な接触を生まない範囲で十分に薄いことが好ましく、例えば膜厚が1nm~1cmであるとよい。好ましくは、絶縁膜22の膜厚は、好適範囲としては10nm~5mm、最適範囲として30nm~1mmであるとよい。絶縁膜22は非磁性線23と磁性線21とを接続する貫通接触穴24以外で電気的な接触を生まない範囲で十分に薄いことが好ましい。
【0018】
貫通接触穴24は、複数の磁性線21のうち隣接する第1磁性線21a及び第2磁性線21bを、非磁性線23を介して直列接続可能なように、絶縁膜22を貫通し複数の磁性線21と複数の非磁性線23を電気的に接続する。
貫通接触穴24は、典型的には、絶縁膜22における磁性線21aの配列方向の両方の端部近傍部位に設けられるものであり、絶縁膜22の一方の面に位置する第1磁性線21aの端部近傍部位と、絶縁膜22の他方の面に位置する非磁性線23aの端部近傍部位とが接続されるように、絶縁膜22を貫通する形状を有する。
斜め縦縞状に配置された複数の非磁性線23は、第1磁性線21aと隣接して配置された第2磁性線21bについて、貫通接触穴24を介して非磁性線23aの両方の端部により直列接続される構造を備えることができる。
隣接する第1及び第2磁性線21a,21bを接続する非磁性線23aの配列方向の両端部は、それぞれ、第1磁性線21aの配列方向の一方の端部と、第2磁性線21bの配列方向の他方の端部と、導体材料で充填された貫通接触穴24を介して電気的に接続されてもよい。
絶縁膜22の膜厚が薄い場合は、貫通接触穴24は、磁性線21aの端部と非磁性線23aの端部とが、屈曲して直接接触して導電性を獲得するものでもよい。また絶縁膜22の膜厚が厚い場合は、貫通接触穴24が銀ペーストのような導体材料で充填されていることで、第1磁性線21aの端部と非磁性線23aの端部の対向面を電気的に接続してもよい。
【0019】
このように構成された熱電発電デバイスでは、磁性線を高密度で配置できることで、該熱電発電デバイスを熱流センサに適用した場合、高い感度が得られ、該熱電発電デバイスを発電モデュールに適用した場合には、高い出力電圧が得られる。
【0020】
本発明の熱電発電デバイスにおいて、好ましくは、上記熱電発電デバイスが熱流センサに用いられる場合においては、磁性線21は薄膜細線形状であり、幅Wが10nm~1mm、厚さTが1nm~100μm、長さLが1μm~10cmであるとよい。
好ましくは、熱流センサにおいては、磁性線21の幅W、厚さT、長さLが、好適範囲としては1μm~1mm、10nm~10μm、100μm~5cm、最適範囲としては、10μm~500μm、100nm~5μm、1mm~3cmであるとよい。
【0021】
本発明の熱電発電デバイスにおいて、好ましくは、上記熱電発電デバイスが熱電発電モデュールに用いられる場合においては、磁性線21は棒材形状であり、幅Wが10μm~5mm、厚さTが10μm~1cm、長さLが1mm~100cmであるとよい。
好ましくは、熱電発電モデュールにおいては、磁性線21の幅W、厚さT、長さLが、好適範囲としては100μm~3mm、100μm~5mm、3mm~50cm、最適範囲としては、300μm~2mm、500μm~3mm、5mm~30cmであるとよい。
【0022】
図2は、本発明の他の実施形態を示す熱電発電デバイスの概念的構成を示す構成図であり、(A)は斜視図、(B)は平面図を示している。なお、
図2において、前出の
図1の発明特定事項と同一作用をするものには同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態においては、熱電発電デバイス18での非磁性線23aに代えて、磁性線21の磁性材料と逆符号の熱電能を持つ磁性材料に置き換えた逆磁性線27を有する熱電発電デバイス19を示している。
【0023】
例えば、複数の磁性線21を構成する磁性材料は、正の熱電能を持ち、複数の逆磁性線27を構成する磁性材料は、負の熱電能を持ってもよい。
このとき、磁性線21が正の熱電能を持つ材料として、Fe-Al、Fe-Ga、Fe-Sn、Fe-Pt、Mn-Sn、Fe4N、Mn3AN(A=Mn、Pt、又はNi)又はCo2YZ(Y=Ti、V、Cr、Mn、又はFe;Z=Ga、Ge、Al、Si、Sn、又はSb)ホイスラー合金、Sm-Co永久磁石材料の何れかである場合は、逆磁性線27は、負の熱電材料を持つ材料として、Mn-Ga、Mn-Ge、Nd-Fe-B永久磁石材料、又はGaMnAsの何れか1種類であるとよい。
【0024】
例えば、複数の磁性線21を構成する磁性材料は、負の熱電能を持ち、複数の逆磁性線27を構成する磁性材料は、正の熱電能を持ってもよい。
このとき、磁性線21が負の熱電能を持つ材料として、Mn-Ga、Mn-Ge、又はNd-Fe-B永久磁石材料の何れかである場合は、逆磁性線27が正の熱電材料を持つ材料として、Fe-Al、Fe-Ga、Fe-Sn、Fe-Pt、Mn-Sn、Co2YZ(Y=Ti、V、Cr、Mn、又はFe;Z=Ga、Ge、Al、Si、Sn、又はSb)ホイスラー合金、Sm-Co永久磁石材料の何れか1種類であるとよい。
【0025】
即ち、熱電発電デバイス19は、絶縁材料からなる基板20と、絶縁材料よりなる絶縁膜22と、異常ネルンスト効果の熱電能の大きな単一の磁性材料よりなり、配列方向26へ異常ネルンスト電界を発生させる薄膜細線形状又は棒材形状の第1及び第2磁性線21a,21bが複数並列して配置され、絶縁膜22の一方の面に縦縞状に配列される複数の磁性線21と、磁性線21aの磁性材料と逆符号の熱電能を持つ磁性材料よりなり、薄膜細線形状又は棒材形状の逆磁性線27aが複数並列して配置され、絶縁膜22の他方の面に複数の磁性線21に対して平行又は斜めに配置(平行な縦縞状又は斜め縦縞状に配列)される複数の逆磁性線27と、絶縁膜22における磁性線21aの両方の端部近傍部位に設けられた貫通接触穴24とを備える。
基板20は、磁性線21、絶縁膜22、逆磁性線27の積層体を保持する機械的な耐久性があって、該積層体と熱的に接触していると共に、貫通接触穴24は、絶縁膜22の一方の面に位置する磁性線の端部近傍部位と、絶縁膜22の他方の面に位置する非磁性線の端部近傍部位とが接続されるように絶縁膜22を貫通する。複数の逆磁性線27は、典型的には、第1磁性線21aと隣接して配置された第2磁性線21bについて、貫通接触穴24を介して逆磁性線27aの配列方向の両端部により直列接続されるように配置される。
【0026】
図3は、従来の異常ネルンスト効果に基づく熱電変換デバイスを説明する概念的構成を示し、異常ネルンスト効果を利用した熱電発電/熱流センサの基本的な構造を示す。(A)は斜視図、(B)は平面図を示している。
図3に示すように、従来の熱電発電デバイス10は、基板11と発電体12と接続体13とを有している。
【0027】
基板11は、少なくとも表層がMgOから成っている。基板11は、例えば、MgO単層から成るものや、Au層の上にMgO層が載っているものから成っている。
発電体12は、基板11の表面に沿って互いに平行(Vx)に配置された複数の細線12aから成っている。各細線12aは、高磁気異方性を有するL1
0型規則合金の強磁性体から成り、同じ方向(My)に磁化している。
図3(A)および(B)に示す具体的な一例では、各細線12aは、基板11上に成膜したFePt薄膜を細線化して形成され、幅方向に磁化している(My)。発電体12は、異常ネルンスト効果により、磁化の方向に対して垂直の方向の温度差(ΔTz)で発電するよう構成されている。
【0028】
接続体13は、基板11の表面に沿って、発電体12の各細線12aに平行に、各細線12aの間に配置された複数の細線13aから成っている。接続体13の各細線13aは、発電体12の各細線12aの一端部と、各細線12aの一方の側で隣り合う細線12aの他端部とを電気的に接続している。これにより、接続体13は、発電体12の各細線12aを電気的に直列に接続している。
図3(A)に示す具体的な一例では、接続体13は、各細線12aの磁化の方向とは反対方向に磁化した強磁性体から成り、
図3(B)に示す具体的な一例では、接続体13は、非磁性体のCrから成っている。なお、接続体13は、各細線12aとは逆符号のネルンスト係数を有する強磁性体から成っていてもよい。
図3(B)に示す具体的な一例では、基板の大きさは、10mm×10mmで、発電体12の細線12aの数は、60本である。
【0029】
次に、作用について説明する。
熱電発電デバイス10は、異常ネルンスト効果を利用することにより、電位差が温度差と垂直の方向に発生するため、ゼーベック効果を利用したものと比べて、単純な構造で構成することができるため、比較的容易に作製することができ、大面積を利用した発電デバイスを実現することもできる。しかし、比較例で示す、従来の異常ネルンスト効果の熱電能を用いた熱電発電デバイスでは、熱電対列で正負の大きな熱電能を持つ2種類の磁性材料を利用するか、磁化反転制御により隣接する磁性線の磁化が逆方向に向くように制御を加える必要があり、その作製は容易ではないという課題がある。
【0030】
また、熱電発電デバイス10は、異常ネルンスト効果を利用するため、ゼーベック効果を利用するものと比べて同じ性能指数に対する発電効率が高く、熱電変換効率を高めることができる。また、通常のネルンスト効果とは異なり、保磁力や交換バイアスを利用することにより、外部磁場を印加しなくとも発電することができる。
【0031】
熱電発電デバイス10は、発電体12として高磁気異方性を有するL10型規則合金を使用し、各細線12aの幅方向に磁化しているため、例えば細線12aの幅を数十ナノメートルサイズまで狭小化しても自発磁化を得ることができる。このため、小面積であってもmVを超える大きな電圧を実現することができ、微細化が有効である。
【0032】
なお、上記実施の形態においては、正の熱電能を持つ材料として、Fe-Al、Fe-Ga、Fe-Sn、Fe-Pt、Mn-Sn、Co2YZ(Y=Ti、V、Cr、Mn、Fe、Z=Ga、Ge、Al、Si、Sn、Sb)ホイスラー合金、Sm-Co永久磁石材料を示し、負の熱電材料を持つ材料として、Mn-Ga、Mn-Ge、Nd-Fe-B永久磁石材料の場合を示しているが、上記材料の元素組成のみから熱電能の符号が定まるものではないことが分かっている。即ち、同じ材料系でも熱電能の符号が正と負になるものもあり(例えばFe-GaはGaが薄い濃度ならば負になる)、この場合は熱電能の符号が正と負の場合を優先して、磁性材料の組み合わせを定めるとよい。
【0033】
以下、本実施形態の実施例について説明する。しかし、本発明は以下に説明する構成に限定されない。
【0034】
図4は、本発明の実施例1として作製した熱流センサの性能評価結果を示すグラフである。
ここでは、基板20は厚さ500μmの熱酸化膜付きシリコン、磁性線21には厚さ30nm、幅200μm、長さ6mmのFe
72Ga
28、絶縁膜22として300nmのSiO
2、非磁性線23として厚さ350nm、幅40μmのCuを用い、20本のFe
72Ga
28線が直列につながるようにフォトリソグラフィーを用いてパターニングを行いサンプルを作製した。
図4(B)は、熱流束密度(W/m
2)に対するサンプルの異常ネルンスト効果による電圧シグナル(mV)である。その結果、0.027μV/(W・m
-2)の感度を実現し、20本のFe
72Ga
28の直列接続が構築され、高い感度が得られていることが確認された。なお、貫通接触穴24の内径は160μmとしている。
【0035】
この感度はセンサの実質有効面積で規格化すると1cm2あたりで0.10μV/(W・m-2)の感度が得られていることを示す。この面積あたりの感度は、例えば、非特許文献2においてFe72Ga28よりも熱電能の高いFe81Al19を用いた従来構造のセンサの感度が1cm2あたりで、0.04μV/(W・m-2)と報告されているのと比較しても明らかに大きく、本発明が面積あたりの感度を増大させるために有効であることを示している。
【0036】
実施例2
図5は、本発明の実施例1として作製した30mm角サイズの熱流センサの外観写真(A)とその性能評価結果(B)を示す。
実施例1では、基板20は厚さ500μmの熱酸化膜付きシリコン、磁性線21aには厚さ200nm、幅180μm、長さ30mmのFe
72Ga
28、絶縁膜22として200nmのSiO
2、非磁性線23aとして厚さ100nm、幅110μmのAuを用い、150本のFe
72Ga
28線が直列につながるようにフォトリソグラフィーを用いてパターニングを行ってサンプルを作製した。尚、ここでは非磁性線23aを磁性線21aに対して平行に配置した。
図5(B)は、作製したサンプルに与えた熱流束密度(W/m
2)に対するサンプルの異常ネルンスト効果による電圧シグナル(mV)を示したグラフである。
その結果、外部磁場を印加した飽和状態で測定した場合では(図中、丸印で表記)1.226μV/(W・m
-2)、外部磁場がない残留磁化状態で測定した場合では(図中、四角印で表記)1.001μV/(W・m
-2)の感度を実現し、150本のFe
72Ga
28の直列接続が構築され、非特許文献1で報告される感度0.04μV/(W・m
-2)のおよそ25~30倍の高い感度が得られていることが確認された。
【0037】
図6は、本発明の実施例3として作製した55×23mm角サイズの異常ネルンスト熱電発電モデュールの外観写真(A)と、その内部写真(B)と、その性能評価結果を示すグラフ(C)である。基板20は厚さ500μmのAl-N基板、磁性線21aには厚さ1.5mm、幅1.4mm、長さ55mmのSmCo5永久磁石、絶縁膜22として約500μmのシリコンボンド、非磁性線23aとして厚さ30μm、幅300μmのAlを用い、24本のSmCo5線が直列につながるように配線した。その後、上部にもAl-N基板を配置し熱電発電モデュールとした。尚、ここでは非磁性線23aを磁性線21aに対して斜めに配置した。
図6(C)は、発電モデュールの上下Al-N基板に与えた温度差dTに対する外部磁場がない残留磁化状態での最大発電量Pmaxを示す。module1、module2は測定装置に対して面内方向で90°回転させてセットした測定結果を表し、1st、2nd、3rdは同じ条件で繰り返し測定した結果を示している。65Kの温度差をモデュールに印加の際には出力電圧25mV、発電量56μW,47Kの温度差をモデュールに印加際には出力電圧18mV、発電量30μWを観測し、本発明が熱電発電モデュールに利用できることを示された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上詳細に説明したように、本発明の熱電発電デバイスによれば、発電モデュール/熱流センサを通過する熱エネルギー/熱流を効率的に利用する熱電対列構造が提供できる。
そこで、本発明の熱電発電デバイスは、例えば、体温と外界温度との差を利用して発電するスーツや鞄、時計、温泉の配管を利用した発電装置、パソコンの廃熱を利用した自発発電リサイクルシステムなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 従来の熱電発電デバイス
11 基板
12 発電体
12a 発電体細線
13 接続体
13a 接続体細線
18、19 熱電発電デバイス
20 基板(基材)
21 複数の磁性線
21a 第1磁性線
21b 第1磁性線21aに隣接して配置された第2磁性線
22 絶縁膜
23 複数の非磁性線
23a 非磁性線
24 貫通接触穴
26 磁性材料の異常ネルンスト電界の方向
27 複数の逆磁性線
27a 逆磁性線
28 逆磁性材料の異常ネルンスト電界の方向