(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-01
(45)【発行日】2025-10-09
(54)【発明の名称】球状ポリ乳酸微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/14 20060101AFI20251002BHJP
【FI】
C08J3/14 CFD
(21)【出願番号】P 2021144324
(22)【出願日】2021-09-03
【審査請求日】2024-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 健太
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-143957(JP,A)
【文献】特開2016-164240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D体の含有率が10%以上であるポリ乳酸を溶媒に溶解させたポリ乳酸溶液と、けん化度が68~85%であるポリビニルアルコール水溶液とを混合して攪拌することによって液滴を形成する工程と、液滴から溶媒を除去してポリ乳酸粒子を得る工程と、塩基性条件下においてポリ乳酸粒子およびカルシウムイオンを含む溶液に対してリン酸塩化合物を添加する工程と、を含むことを特徴とするポリ乳酸微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記
塩基性条件下が、pH9以上であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記
リン酸塩化合物の添加量がポリ乳酸100重量部に対し0.5~50重量部であることを特徴とする請求項1
又は2いずれかに記載のポリ乳酸微粒子の製造方法。
【請求項4】
得られたポリ乳酸微粒子
の粒子径が3~20μmであることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載のポリ乳酸微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸から球状ポリ乳酸微粒子を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メチルメタクリレート、スチレン、ナイロン、ウレタンなどを原料して合成され、ナノやマイクロオーダーの粒子径を有する有機微粒子は、伸展性や光拡散性を利用して化粧料用添加剤や、洗顔剤、ボディソープなどのスクラブ剤としてスキンケア用途に用いられるようになっている。
【0003】
化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途においては、使用後に洗浄されて排水として環境中に放出されることが想定される。そこで、近年では有機微粒子が環境中の微生物の作用によって分解される生分解性を有していることが求められるようになっている。
【0004】
生分解性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエートなどが知られている。一方、通常これらの樹脂はペレット形状にて取扱われており、スキンケア用途で前記機能を発現するためには球状微粒子形状に加工する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1には、平均粒径3~50μmの生分解性ポリエステル粒子を含有する化粧料が開示されている。しかしながら、具体的に開示されているのはポリヒドロキシアルカノエート粒子であり、より汎用的な生分解性樹脂であるポリ乳酸への適用は検討されていない。
特許文献2には、平均粒径30~500μmの生分解性プラスチック粉体を含有する身体用洗浄剤組成物が開示されている。しかしながら、当該粉体は粉砕により得られるものであるため球状ではなく、伸展性や触感の点で改善の余地がある。
【0006】
特許文献3には、生分解性ポリエステル樹脂微粒子の製造方法が開示されているが、2軸押出機を用いた溶融混練が必要となるため、特別な設備を必要とし、工程が煩雑となる点で改善の余地がある。
【0007】
特許文献4には、球状ポリ乳酸微粒子の簡便な製造方法が開示されているが、耐熱性の点で改善の余地があった。
【文献】特開平5-194141号公報
【文献】特開平10-25239号公報
【文献】特開2002-363291号公報
【文献】特開2016-164240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途に適した耐熱性に優れる球状ポリ乳酸微粒子を製造する簡便な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はD体の含有率が10%以上であるポリ乳酸を溶媒に溶解させたポリ乳酸溶液と、けん化度が68~85%であるポリビニルアルコール水溶液とを混合して攪拌することによって液滴を形成する工程と、液滴から溶媒を除去してポリ乳酸粒子を得る工程と、塩基性条件下においてポリ乳酸粒子およびカルシウムイオンを含む溶液に対してリン酸塩化合物を添加する工程と、を含むことを特徴とするポリ乳酸微粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法により、化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途に適した耐熱性に優れる球状ポリ乳酸微粒子が簡便に得られる。特に、特別な設備を必要とせず、副生成物の量が少なく、取り扱いが容易な点において優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明のポリ乳酸微粒子の製造方法は、D体の含有率が10%以上であるポリ乳酸を溶媒に溶解させたポリ乳酸溶液と、けん化度が68~85%であるポリビニルアルコール水溶液とを混合して攪拌することによって液滴を形成する工程(液的形成工程)と、塩基性条件下においてポリ乳酸粒子およびカルシウムイオンを含む溶液に対してリン酸塩化合物を添加する工程(被覆工程)とを含む。
【0012】
液滴形成工程では、D体の含有率が10%以上であるポリ乳酸を溶媒に溶解させたポリ乳酸溶液を用いる。D体の含有率が10%未満であるポリ乳酸は、溶媒への溶解性が劣るため好ましくない。溶媒としては、ポリ乳酸を溶解できるものであれば特に限定なく使用できるが、ポリ乳酸の溶解度が小さいと収率が低下するため、溶解度が大きいものが好ましい。また、取り出し工程において溶媒および水を除去する際、水よりも優先的に溶媒を除去する必要があるため、水より沸点が低いことが好ましい。水よりも沸点が低いことにより、減圧によって容易に水より優先的に除去することができる。このような条件を満たす溶媒としては、酢酸エチルが好ましい。
【0013】
ポリ乳酸溶液の濃度は、ポリ乳酸が溶解可能な濃度であれば特に限定されない。溶媒が酢酸エチルの場合であれば、20重量%程度までは調製可能である。
【0014】
ポリビニルアルコール水溶液は、けん化度が68~85%であるポリビニルアルコールを用いて調製する。けん化度が85%を超えるポリビニルアルコールのみを用いた場合、取り出し工程において、粒子が不安定となり凝集しやすくなるため好ましくないが、けん化度が68~85%であるポリビニルアルコールと併用することは可能である。ポリビニルアルコール水溶液の濃度を1~20重量%とすることが好ましい。この範囲とすることにより液滴が形成されやすくなり、液滴径の調整も容易となる。
【0015】
前記のように調製したポリ乳酸溶液とポリビニルアルコール水溶液とを混合して攪拌することによって液滴を形成する。両者を静置状態で混合すると混和せずに分離して2層となるが、撹拌羽根などでせん断力をかけて攪拌することにより、ポリビニルアルコール水溶液中にポリ乳酸溶液が乳化分散した液滴が形成される。液滴径はせん断力が強い程、また攪拌時間が長い程小さくなるため、攪拌手段の選択、攪拌の回転数、攪拌時間を適宜調整することにより、所望の径を有する液滴を形成できる。
【0016】
ポリ乳酸溶液とポリビニルアルコール水溶液の混合比は、重量を基準として100:10~100:40とすることが好ましい。この範囲とすることにより液滴が形成されやすくなり、液滴径の調整も容易となる。
【0017】
このように液滴を形成した後、液滴から溶媒を除去してポリ乳酸粒子を得て、被覆工程を行う。液滴から溶媒を除去する方法は特に限定されないが、溶媒の沸点に応じた温度で減圧濃縮する方法が挙げられる。例えば溶媒が酢酸エチルの場合、45℃、3Torrで3時間減圧濃縮を行う。この際に水の一部が除去されても構わない。なお、液滴の粘度が高い場合、溶媒が除去されにくいため、必要に応じて水を添加して希釈してもよい。
【0018】
次に、ポリ乳酸粒子分散液およびカルシウムイオンを含む溶液に対してリン酸塩化合物を添加することにより、ポリ乳酸微粒子がヒドロキシアパタイト化され、粉体として取り出す際の凝集を抑制するとともに耐熱性が向上し、微粒子として取り扱いやすくすることができる。
【0019】
カルシウムイオン源となる化合物としては、公知の水溶性カルシウム化合物が使用でき、硝酸カルシウム、硝酸カルシウム四水和物、塩化カルシウム、塩化カルシウム1~6水和物、乳酸カルシウム、塩素酸カルシウム二水和物、過塩素酸カルシウム、臭化カルシウム、酢酸カルシウム、グルタミン酸カルシウムなどが例示され、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ポリ乳酸100重量部に対して、カルシウムイオン源となる化合物を0.5~50重量部用いることが好ましい。
【0020】
リン酸塩化合物としては、公知の水溶性リン酸化合物が使用でき、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、リン酸二水素ナトリウム二水和物、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムなどが例示され、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ポリ乳酸100重量部に対して、リン酸塩化合物を0.5~50重量部用いることが好ましい。
【0021】
リン酸化合物を添加する際は塩基性とすることが好ましく、具体的にはpH=7.8以上、好ましくはpH=8以上、さらに好ましくpH=9以上を維持することが好ましい。pH=9以上にすることで、ヒドロキシアパタイトの析出速度が最適になり、ヒドロキシアパタイト被覆層が形成し易くなる。
塩基性にするための添加物としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらの中では、乾燥時に除去しやすいことからアンモニアが好ましい。添加量としては、上記塩基条件を満たす範囲であれば、特に限定されない。
【0022】
このようなヒドロキシアパタイト化の処理をする際、温度は一定であってもよいし、途中でもしくは各段階によって変化させてもよく、例えば0~95℃を例示できる。リン酸塩化合物の添加方法としては、特に限定されず、最初に一括して全量仕込む方法、最初に一部を仕込み残りを連続フィード添加する方法、断続的に添加する方法等、公知の方法を採用できる。リン酸塩化合物を含む溶液を添加する時間についても、特に限定はなく、適宜設定すればよいが、例えば開始から終了まで0.5~120分が例示できる。リン酸塩化合物添加後の反応時間についても、特に限定はなく、反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、例えば5~180分が例示できる。
【0023】
ヒドロキシアパタイト化されたポリ乳酸粒子水分散液から水分を除去することにより、ポリ乳酸粒子が得られる。水分の除去はろ過、遠心脱水、減圧乾燥など公知の方法で行われ、ポリビニルアルコールを除くための洗浄を併せて行うことが好ましい。このようにして得られたポリ乳酸微粒子は二次凝集体や、粗大粒子が含まれることがあるため、必要に応じてハンマーミルなどを用いた粉砕や、篩、空気分級による精製を行ってもよい。
【0024】
このようにして得られたポリ乳酸微粒子は粒子径が3~20μm程度の略球状であるため、有機微粒子が使用されている各種用途に使用できる。特に、化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途においては、従来の有機微粒子と同様に使用でき、使用後に洗浄されて排水として環境中に放出されても生分解性を有することから環境への負荷が小さい。
【0025】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0026】
ポリ乳酸微粒子分散液の調製
D体の含有量が12%であるペレット状ポリ乳酸120重量部を、酢酸エチル480重量部に添加し、攪拌することによりポリ乳酸溶液を調製した。けん化度が78~81.5%であるポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA 420H、商品名)4重量部を水116重量部に分散し、常温で撹拌することにより、ポリビニルアルコール水溶液を調製した。
【0027】
前記ポリ乳酸溶液600重量部および前記ポリビニルアルコール水溶液120重量部を混合し、碇型撹拌羽根を用いてせん断力をかけて攪拌することによって混合液が白濁し、液滴が形成されたことを確認した。
【0028】
得られた液滴に水を540部添加し系を希釈したのち、45℃、3Torrで3時間減圧濃縮することによって酢酸エチルを除去し、ポリ乳酸微粒子水分散液を得た。
実施例1
撹拌機を取り付けたセパラブルフラスコに、ポリ乳酸微粒子水分散液720重量部を投入した。次に濃度28.6重量%の塩化カルシウム一水和物水溶液58.2重量部を添加した後、28重量%アンモニア水10重量部を添加することで分散液のpHを10.5に調整した。この分散液に、4.0重量%リン酸二水素アンモニウム222重量部に28重量%アンモニア水53.4重量部を加えてpH11.2とした3.2重量%リン酸二水素アンモニウムを30分かけて滴下した後、室温で1時間反応することでヒドロキシアパタイト被覆されたポリ乳酸微粒子の分散液を得た。
得られた分散液を遠心脱水機および真空乾燥機にかけて水を除去することにより、ヒドロキシアパタイト被覆されたポリ乳酸微粒子を得た。得られた粒子の体積平均粒子径を電気抵抗法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社、マルチサイザー3)で測定したところ5.8μmであった。
実施例2
撹拌機を取り付けたセパラブルフラスコに、ポリ乳酸微粒子水分散液720重量部を投入した。次に濃度28.6重量%の塩化カルシウム一水和物水溶液29.1重量部を添加した後、重量%アンモニア水7.5重量部を添加することで分散液のpHを10.5に調整した。この分散液に、4.0重量%リン酸二水素アンモニウム111重量部に28重量%アンモニア水26.7重量部を加えてpH11.2とした3.2重量%リン酸二水素アンモニウムを30分かけて滴下した後、室温で1時間反応することでヒドロキシアパタイト被覆されたポリ乳酸微粒子の分散液を得た。
得られた分散液を遠心脱水機および真空乾燥機にかけて水を除去することにより、ヒドロキシアパタイト被覆されたポリ乳酸微粒子を得た。得られた粒子の体積平均粒子径を電気抵抗法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社、マルチサイザー3)で測定したところ6.2μmであった。
実施例3
撹拌機を取り付けたセパラブルフラスコに、ポリ乳酸微粒子水分散液720重量部を投入した。次に濃度28.6重量%の塩化カルシウム一水和物水溶液17.5重量部を添加した後、28重量%アンモニア水5.0重量部を添加することで分散液のpHを10.5に調整した。この分散液に、4.0重量%リン酸二水素アンモニウム67重量部に28重量%アンモニア水16重量部を加えてpH11.2とした3.2重量%リン酸二水素アンモニウムを30分かけて滴下した後、室温で1時間反応することでヒドロキシアパタイト被覆されたポリ乳酸微粒子の分散液を得た。
得られた分散液を遠心脱水機および真空乾燥機にかけて水を除去することにより、ヒドロキシアパタイト被覆されたポリ乳酸微粒子を得た。得られた粒子の体積平均粒子径を電気抵抗法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社、マルチサイザー3)で測定したところ6.0μmであった。
比較例1
ポリ乳酸微粒子水分散液をそのまま遠心脱水機および真空乾燥機にかけて水を除去することにより、ヒドロキシアパタイト被覆されていないポリ乳酸微粒子を得た。得られた粒子の体積平均粒子径を電気抵抗法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社、マルチサイザー3)で測定したところ6.5μmであった。
篩性評価
得られたステアリン酸微粒子を目開き35μmメッシュの振動篩または超音波振動篩を通して、当該篩を通過した微粒子の質量から算出した数値。70%以上通過した場合を〇、70%未満20%以上の場合を△、20%未満の場合を×として評価した。ここで評価が×となった比較例1は以後の評価を行わなかった。
触感評価
10人のパネラーを用いて、触感について評価を行った。基準試料として、工業的に生産・利用されているポリメタクリル酸メチル粒子(アイカ工業社製、ガンツパールGMX-0610、商品名)を参考例1として使用した。評価方法は、粉末0.1gを手に取り、手の甲に広げて指でこすり、「滑り性の良さ」、「きしみ感を感じないか」、「手触りの良さ」について官能評価を比較した。7人以上が良好と評価した場合は〇、4~6人が良好と評価した場合は△、3人以下が良好と評価した場合は×として評価した。
【0029】
【0030】
以上のように、本願発明の所定事項を満たす各実施例では数μmの粒子径を有する略球状のポリ乳酸微粒子が得られたが、各比較例では工程中に不具合が生じてしまい、ポリ乳酸微粒子を得られなかった。