(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-02
(45)【発行日】2025-10-10
(54)【発明の名称】制御装置及び燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04303 20160101AFI20251003BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20251003BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20251003BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20251003BHJP
【FI】
H01M8/04303
H01M8/04746
H01M8/04 J
H01M8/04858
(21)【出願番号】P 2023197240
(22)【出願日】2023-11-21
【審査請求日】2024-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 玄
(72)【発明者】
【氏名】間庭 秀人
(72)【発明者】
【氏名】小岩 信基
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-108930(JP,A)
【文献】特開2014-56771(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110553386(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電セルを含む燃料電池スタックと、
前記発電セルの発電電力を蓄積するバッテリと、
前記燃料電池スタックに接続される酸化剤ガス供給路と、
前記燃料電池スタックに接続される酸化剤ガス排出路と、
一端が前記酸化剤ガス供給路に接続され、他端が前記酸化剤ガス排出路に接続されるバイパス路と、
前記酸化剤ガス供給路に酸化剤ガスを供給するコンプレッサと、
前記バイパス路の前記一端が接続される接続部分と前記燃料電池スタックとの間の前記酸化剤ガス供給路、及び、前記バイパス路の前記他端が接続される接続部分と前記燃料電池スタックとの間の前記酸化剤ガス排出路の少なくとも一方に設けられる1以上の封止弁と、
前記バイパス路に設けられ、開度を調整可能なバイパス弁と、
を有する燃料電池システムに備えられる制御装置であって、
指令を受け付ける受付部と、
前記指令に基づいて制御を行う制御部と
を備え、
前記燃料電池システムを動作させた状態で前記発電セルの発電を停止するための発電停止指令を前記受付部が受け付けた場合、前記制御部は、前記封止弁を閉弁するとともに前記バイパス弁の開度を最大開度よりも小さい第1の開度に設定し、かつ、前記コンプレッサの回転数を前記発電セルの発電中の前記回転数よりも低い所定回転数に設定する、制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記バイパス弁の開度が前記第1の開度に設定され、かつ、前記コンプレッサの前記回転数が前記所定回転数に設定された状態において、前記バッテリに蓄積されている電力の消費を要求するための電力消費指令を前記受付部が受け付けた場合、前記制御部は、前記バイパス弁の開度の設定を前記第1の開度よりも大きい第2の開度に変更し、かつ、前記回転数の設定を前記所定回転数よりも大きい前記回転数に変更する、制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記所定回転数は、前記コンプレッサにおいて許容されるノイズレベルの上限値に対応する前記回転数よりも低い前記回転数である、制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の制御装置であって、
前記制御部は、前記電力消費指令により指定される電力量に応じて、前記バイパス弁の開度の設定を変更する、制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載の制御装置であって、
前記制御部は、前記電力消費指令により指定される電力量に応じて、前記回転数の設定を変更する、制御装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の制御装置を備える、燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保するために、エネルギーの効率化に貢献する燃料電池に関する研究開発が行われている。
【0003】
燃料電池に関し、発電セルを含む燃料電池スタックを備えた燃料電池システムがある。燃料電池システムは、車両等の移動体に搭載され得る。移動体に搭載される燃料電池システムでは、移動体が動作された状態であっても発電セルの発電が停止される場合がある。
【0004】
特許文献1には、移動体の動作中に発電停止に関わる信号を受信した場合に、アイドル制御を行うことが開示されている。特許文献1に開示のアイドル制御では、燃料電池スタックに供給される酸化剤ガスを出力するコンプレッサ(エアポンプ)の電力消費量より小さい電力で発電セルの発電が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンプレッサが動作していると、コンプレッサからノイズが発生する。ノイズの低減に寄与する技術が待望される。
【0007】
本発明は上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様は、発電セルを含む燃料電池スタックと、前記発電セルの発電電力を蓄積するバッテリと、前記燃料電池スタックに接続される酸化剤ガス供給路と、前記燃料電池スタックに接続される酸化剤ガス排出路と、一端が前記酸化剤ガス供給路に接続され、他端が前記酸化剤ガス排出路に接続されるバイパス路と、前記酸化剤ガス供給路に酸化剤ガスを供給するコンプレッサと、前記バイパス路の前記一端が接続される接続部分と前記燃料電池スタックとの間の前記酸化剤ガス供給路、及び、前記バイパス路の前記他端が接続される接続部分と前記燃料電池スタックとの間の前記酸化剤ガス排出路の少なくとも一方に設けられる1以上の封止弁と、前記バイパス路に設けられ、開度を調整可能なバイパス弁と、を有する燃料電池システムに備えられる制御装置であって、指令を受け付ける受付部と、前記指令に基づいて制御を行う制御部とを備え、前記燃料電池システムを動作させた状態で前記発電セルの発電を停止するための発電停止指令を前記受付部が受け付けた場合、前記制御部は、前記封止弁を閉弁するとともに前記バイパス弁の開度を最大開度よりも小さい第1の開度に設定し、かつ、前記コンプレッサの回転数を前記発電セルの発電中の前記回転数よりも低い所定回転数に設定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コンプレッサから発生するノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、燃料電池システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、アイドル制御が実行された場合の燃料電池システムを示す図である。
【
図3】
図3は、アイドル制御処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、アイドル制御処理時における燃料電池システムでの挙動を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1 燃料電池システム10の構成]
図1は、燃料電池システム10の概略構成図である。燃料電池システム10は、車両(燃料電池車両)に搭載されるが、これに限定されない。例えば、燃料電池システム10が搭載される搭載対象物は、船舶、航空機、ロボット等、車両以外の移動体であってもよい。また、搭載対象物は、設備、家庭等での定置用の電源であってもよい。
【0012】
燃料電池システム10においては、反応ガスとして、燃料ガスと酸化剤ガスとが使用される。燃料ガスは、水素含有ガスである。酸化剤ガスは、エア等の酸素含有ガスである。燃料ガスと酸化剤ガスの各々は、燃料電池スタック12に供給され電気化学反応に供される。なお、本明細書では、電気化学反応に供されずに燃料電池スタック12から排出される燃料ガスを、燃料オフガスとも称する。また、本明細書では、電気化学反応に供されずに燃料電池スタック12から排出される酸化剤ガスを、酸化剤オフガスとも称する。
【0013】
燃料電池システム10は、燃料電池スタック12と、タンク14と、アノードシステム16と、カソードシステム18と、冷却システム20と、制御装置22とを備える。燃料電池スタック12により生成された電力は、負荷26に供給される。負荷26は、燃料電池スタック12での発電電力を蓄積するバッテリ26Aと、車両の駆動モータ26Bとを含む。タンク14には、高圧の燃料ガスが充填される。
【0014】
燃料電池スタック12は、燃料電池スタック12の内部に燃料ガスを供給する燃料ガス供給ポート12aと、燃料電池スタック12の内部から燃料オフガスを排出する燃料ガス排出ポート12bとを備える。燃料電池スタック12は、燃料電池スタック12の内部に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給ポート12cと、燃料電池スタック12の内部から酸化剤オフガスを排出する酸化剤ガス排出ポート12dとを備える。燃料電池スタック12は、燃料電池スタック12の内部に冷媒を供給する冷媒供給ポート12eと、燃料電池スタック12の内部から冷媒を排出する冷媒排出ポート12fとを備える。
【0015】
燃料電池スタック12は、複数の発電セル28を有する。複数の発電セル28は、それぞれ同等の構成を有する。発電セル28は、電解質膜・電極構造体30と、第1セパレータ32と、第2セパレータ34とを備える。電解質膜・電極構造体30は、第1セパレータ32と第2セパレータ34とにより挟まれる。複数の発電セル28のうちの1つの発電セル28が、
図1には図示されている。
【0016】
第1セパレータ32及び第2セパレータ34は、断面が波型の金属薄板により形成される。互いに隣接する2つの発電セル28において、一方の発電セル28の第1セパレータ32と他方の発電セル28の第2セパレータ34とは、互いに接合される。第1セパレータ32と第2セパレータ34との間には、セル冷却流路(図示せず)が形成される。セル冷却流路は、冷媒供給ポート12eと冷媒排出ポート12fとに連通する。
【0017】
電解質膜・電極構造体30は、電解質膜36と、アノード電極38と、カソード電極40とを備える。電解質膜36は、アノード電極38とカソード電極40との間に介在する。第1セパレータ32とアノード電極38との間にはアノード流路42が形成される。第2セパレータ34とカソード電極40との間にはカソード流路44が形成される。アノード流路42は、燃料ガス供給ポート12aと燃料ガス排出ポート12bとに連通する。カソード流路44は、酸化剤ガス供給ポート12cと酸化剤ガス排出ポート12dとに連通する。
【0018】
燃料ガス排出ポート12bの近傍には温度センサ46が設けられる。例えば、燃料ガス排出ポート12bに接続される燃料ガス排出路86に温度センサ46が設けられる。温度センサ46は、燃料ガスの温度を検出する。温度センサ46は、酸化剤ガス排出ポート12dの近傍に設けられてもよい。例えば、酸化剤ガス排出ポート12dに接続される酸化剤ガス排出路108に温度センサ46が設けられてもよい。この場合、温度センサ46は、酸化剤ガスの温度を検出する。燃料電池スタック12の排出口付近の燃料ガス又は酸化剤ガスの温度(ガス温度)は、燃料電池スタック12の代表温度となる。つまり、ガス温度は、燃料電池スタック12の温度(スタック温度)に相当する。
【0019】
アノードシステム16は、燃料ガス供給路84と、燃料ガス排出路86と、循環路88と、排水路90とを備える。また、アノードシステム16は、インジェクタ94と、エジェクタ96と、気液分離器98と、排水弁100とを備える。
【0020】
燃料ガス供給路84は、タンク14の排出口と、燃料電池スタック12の燃料ガス供給ポート12aとに接続される。燃料ガス供給路84には、インジェクタ94と、エジェクタ96とが備えられる。エジェクタ96は、インジェクタ94よりも燃料電池スタック12の近くに配される。
【0021】
燃料ガス排出路86は、燃料電池スタック12の燃料ガス排出ポート12bと、気液分離器98の供給口とに接続される。循環路88は、気液分離器98の排気口と、エジェクタ96とに接続される。
【0022】
排水路90は、気液分離器98の排水口と、希釈器121の入口とに接続される。希釈器121の出口は、車両に備えられた排出口に接続される。排水路90には、排水弁100が備えられる。
【0023】
カソードシステム18は、酸化剤ガス供給路106と、酸化剤ガス排出路108(排出路)と、バイパス路110とを備える。また、カソードシステム18は、コンプレッサ112(酸化剤ガス供給器)と、加湿器114と、第1封止弁116と、第2封止弁118と、バイパス弁119とを備える。
【0024】
酸化剤ガス供給路106は、車両に備えられたエアの吸気口と、燃料電池スタック12の酸化剤ガス供給ポート12cとに接続される。酸化剤ガス供給路106には、コンプレッサ112と、第1封止弁116と、加湿器114の加湿器供給路114Aとが備えられる。酸化剤ガス供給路106のうち、加湿器114よりも上流に配される部分を、酸化剤ガス供給路106Aと称する。酸化剤ガス供給路106のうち、加湿器114よりも下流に配される部分を、酸化剤ガス供給路106Bと称する。酸化剤ガス供給路106Aには、コンプレッサ112と、第1封止弁116とが備えられる。
【0025】
コンプレッサ112は、酸化剤ガス供給路106Aに酸化剤ガスを供給する機器である。コンプレッサ112は、回転軸にエアベアリングを用いたターボコンプレッサであってもよい。ターボコンプレッサでは、回転軸は、エアにより浮上される。第1封止弁116は、酸化剤ガス供給路106Aを開閉する開閉弁である。第1封止弁116は、コンプレッサ112よりも加湿器114の近くに配される。
【0026】
酸化剤ガス排出路108は、燃料電池スタック12の酸化剤ガス排出ポート12dと、希釈器121の入口とに接続される。酸化剤ガス排出路108には、加湿器114の加湿器排出路114Bと、第2封止弁118とが備えられる。酸化剤ガス排出路108のうち、加湿器114よりも上流に配される部分を酸化剤ガス排出路108Aと称する。酸化剤ガス排出路108のうち、加湿器114よりも下流に配される部分を酸化剤ガス排出路108Bと称する。酸化剤ガス排出路108Bには、第2封止弁118が備えられる。第2封止弁118は、酸化剤ガス排出路108Bを開閉する開閉弁である。
【0027】
バイパス路110は、酸化剤ガス供給路106と、酸化剤ガス排出路108とを接続する。バイパス路110の一端は、コンプレッサ112と第1封止弁116との間の酸化剤ガス供給路106Aに接続される。第1封止弁116は、バイパス路110の一端が接続される接続部分CP1と燃料電池スタック12との間の酸化剤ガス供給路106Aに位置する。バイパス路110の他端は、第2封止弁118よりも下流の酸化剤ガス排出路108Bに接続される。第2封止弁118は、バイパス路110の他端が接続される接続部分CP2と燃料電池スタック12との間の酸化剤ガス排出路108Bに位置する。バイパス路110には、バイパス弁119が備えられる。バイパス弁119は、開度を調整可能な調整弁である。調整弁として、バタフライ弁等が挙げられる。バイパス弁119の開度に応じて、燃料電池スタック12に供給される酸化剤ガスの量が調整される。
【0028】
冷却システム20は、冷媒流路120を備える。また、冷却システム20は、ポンプ126と、ラジエータ128と、温度センサ130と、分流弁132とを備える。
【0029】
冷媒流路120は、燃料電池スタック12とラジエータ128との間で冷媒を循環させる。冷媒は、例えば、エチレングリコールを含有する水である。冷媒流路120は、冷媒供給路122と、冷媒排出路124と、分流路125とを含む。冷媒供給路122は、ラジエータ128の流体排出口と、燃料電池スタック12の冷媒供給ポート12eとを接続する。冷媒排出路124は、燃料電池スタック12の冷媒排出ポート12fと、ラジエータ128の流体供給口とを接続する。分流路125は、冷媒排出路124から分岐し、冷媒供給路122に合流する。
【0030】
ポンプ126は、冷媒供給路122に備えられる。なお、ポンプ126は、冷媒排出路124に備えられてもよい。ラジエータ128は、冷媒流路120内の冷媒を放熱する放熱器である。ラジエータ128は、ファンを備えてもよい。
【0031】
温度センサ130は、冷媒排出路124に設けられる。温度センサ130は、冷媒供給路122に設けられてもよい。温度センサ130は、冷媒の温度(冷媒温度)を検出する。冷媒温度は、燃料電池スタック12の内部の温度(スタック温度)に相当する。
【0032】
分流弁132は、分流路125が冷媒供給路122に合流する合流部分に設けられる。なお、分流弁132は、分流路125が冷媒排出路124から分岐する分岐部分に設けられてもよい。分流弁132は、開度を調整可能である。分流弁132の開度に応じて、ラジエータ128に供給される冷媒の量が調整される。
【0033】
制御装置22は、ECU(Electronic Control Unit)により構成され得る。制御装置22は、演算部136と、記憶部138とを備える。
【0034】
演算部136は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサである。演算部136は、受付部140と、制御部142とを備える。受付部140は、車両を制御する制御システムから指令を受け付ける。制御部142は、受付部140によって受け付けられた指令に基づいて制御を行う。制御部142は、発電制御を行う発電制御部150と、アイドル制御を行うアイドル制御部152とを有する。
【0035】
受付部140と制御部142とは、記憶部138に記憶されるプログラムが演算部136によって実行されることにより作動する。受付部140と制御部142との少なくとも1つは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路によって実現されてもよい。或いは、受付部140と制御部142との少なくとも1つは、ディスクリートデバイスを含む電子回路によって実現されてもよい。
【0036】
記憶部138は、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体である。記憶部138は、揮発性メモリと不揮発性メモリとを含む。揮発性メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)等である。不揮発性メモリは、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等である。データ等が、例えば、揮発性メモリに記憶される。プログラム、テーブル、マップ等が、例えば、不揮発性メモリに記憶される。記憶部138の少なくとも一部が、上述したプロセッサ、集積回路等に備えられてもよい。
【0037】
[2 燃料電池システム10における流体の流れ]
[2-1 アノードシステム16における流体の流れ]
インジェクタ94は、タンク14から供給される燃料ガスを、燃料ガス供給路84の下流に噴射する。インジェクタ94から噴射された燃料ガスは、燃料ガス供給路84を介して、燃料電池スタック12の燃料ガス供給ポート12aに供給される。燃料電池スタック12の内部で反応しなかった燃料ガスは、燃料オフガスとして、燃料電池スタック12の燃料ガス排出ポート12bから排出される。燃料オフガスは、酸素と反応しなかった水素と、電解質膜36を透過した酸化剤ガス中の窒素と、酸素と水素との反応によって生成された水分とを含む。
【0038】
燃料オフガスは、燃料ガス排出路86を介して気液分離器98に供給される。気液分離器98は、燃料オフガスをガス成分(燃料オフガス)と液体成分(水)とに分離する。気液分離器98から排出される燃料オフガスは、循環路88を介してエジェクタ96に供給される。気液分離器98から吸引された燃料オフガスと、インジェクタ94から噴射された燃料ガスとが、エジェクタ96において合流する。
【0039】
[2-2 カソードシステム18における流体の流れ]
コンプレッサ112は、車両の外部から吸入した酸化剤ガス(エア)を、酸化剤ガス供給路106の下流に吐出する。コンプレッサ112から吐出された酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給路106を介して、燃料電池スタック12の酸化剤ガス供給ポート12cに供給される。燃料電池スタック12の内部で反応しなかった酸化剤ガスは、酸化剤オフガスとして、燃料電池スタック12の酸化剤ガス排出ポート12dから排出される。酸化剤オフガスは、酸化剤ガスに含まれる各成分と、酸素と水素との反応によって生成された水分とを含む。
【0040】
酸化剤オフガスは、酸化剤ガス排出路108を介して希釈器121に排出される。酸化剤オフガスは、水分を含む。加湿器114において、酸化剤オフガスに含まれる水分の一部は、加湿器供給路114Aを流通する酸化剤ガスを加湿するために使用される。
【0041】
[2-3 冷却システム20における流体の流れ]
ポンプ126は、冷媒を、燃料電池スタック12の冷媒供給ポート12eに向けて吐出する。ポンプ126から吐出された冷媒は、冷媒供給路122を介して燃料電池スタック12の冷媒供給ポート12eに供給される。燃料電池スタック12の内部を流通した冷媒は、燃料電池スタック12の冷媒排出ポート12fから排出される。冷媒排出ポート12fから排出された冷媒は、冷媒排出路124を介してラジエータ128に供給される。ラジエータ128で放熱した冷媒は、ポンプ126に達する。
【0042】
なお、冷媒排出ポート12fから排出された冷媒の一部は、ラジエータ128に供給されずに、分流路125を介して、冷媒供給路122に流入する。この流入量は、分流弁132の開度に応じて調整される。
【0043】
[3 発電制御]
発電制御部150は、インジェクタ94、コンプレッサ112、ポンプ126、各バルブ等の動作を制御して、発電セル28に発電を実施させる。
【0044】
より具体的には、燃料電池システム10を起動するための指令であるシステム起動指令を受付部140が受け付けると、発電制御部150は、第1封止弁116及び第2封止弁118を開弁する。その後、発電制御部150は、発電セル28の発電電力が要求発電電力になるように、インジェクタ94、コンプレッサ112、バイパス弁119を制御する。要求発電電力は、例えば、アクセル開度、車速、道路勾配等に基づいて発電制御部150により算出される。燃料電池システム10を停止するための指令であるシステム停止指令を受付部140が受け付けると、発電制御部150は、第1封止弁116及び第2封止弁118を閉弁する。また、発電制御部150は、インジェクタ94、コンプレッサ112を停止する。
【0045】
なお、システム起動指令は、燃料電池システム10のスイッチ(起動スイッチ)がオンになった場合に供給される。システム停止指令は、燃料電池システム10のスイッチがオフになった場合に供給される。燃料電池システム10のスイッチは、車両のイグニッションスイッチに相当する。
【0046】
[4 アイドル制御]
イグニッションスイッチがオンの車両運転中に受付部140が発電停止指令を受け付けると、アイドル制御部152は、アイドル制御を実行する。発電停止指令は、燃料電池システム10を動作させた状態で発電セル28の発電を停止するための指令である。
図2は、アイドル制御が実行された場合の燃料電池システム10を示す図である。
【0047】
アイドル制御では、アイドル制御部152は、コンプレッサ112を停止させず、かつ、バイパス弁119を閉弁せずに、第1封止弁116及び第2封止弁118を閉弁する。そのため、コンプレッサ112から酸化剤ガス供給路106に出力される酸化剤ガスは、燃料電池スタック12に供給されずに、バイパス路110を介して酸化剤ガス排出路108に流入する。その結果、燃料電池システム10が動作された状態で発電セル28の発電が停止される。なお、アイドル制御では、アイドル制御部152は、インジェクタ94を停止させずに、燃料ガスを燃料ガス供給路84に供給し続ける。これにより、アノード電極38とカソード電極40との間に比較的高い電圧が発生することが抑制される。
【0048】
アイドル制御では、バイパス弁119の開度及びコンプレッサ112の回転数は、所定の値に設定される。即ち、アイドル制御部152は、バイパス弁119の開度を、最大開度よりも小さい第1の開度に設定する。また、アイドル制御部152は、コンプレッサ112の回転数を、発電中の回転数よりも低い所定回転数に設定する。より具体的には、アイドル制御部152は、コンプレッサ112の回転数を、コンプレッサ112において許容されるノイズレベルの上限値に対応する回転数(ノイズ発生上限回転数)よりも低く設定する。なお、所定回転数は、コンプレッサ112が安定した状態で回転可能な最低回転数であってもよい。
【0049】
アイドル制御の実行中に、バッテリ26Aに蓄積されている電力の消費を要求する電力消費指令を受付部140が受け付けると、アイドル制御部152は、バイパス弁119の開度と、コンプレッサ112の回転数との設定を変更する。より具体的には、アイドル制御部152は、上記の第1の開度から、当該第1の開度よりも大きい第2の開度にバイパス弁119の開度を設定変更する。第2の開度は、最大開度であってもよい。また、アイドル制御部152は、上記の所定回転数から、当該所定回転数よりも大きい回転数にコンプレッサ112の回転数を設定変更する。なお、電力消費指令は、バッテリ26Aに蓄積されている残容量が所定の残容量閾値以上の場合に供給される。
【0050】
図3は、アイドル制御処理の手順を示すフローチャートである。
図4は、アイドル制御処理時における燃料電池システム10での挙動を示すタイムチャートである。アイドル制御処理は、ステップS1において受付部140が発電停止指令を受け付けると、ステップS2に移行する。
【0051】
ステップS2において、アイドル制御部152は、第1封止弁116及び第2封止弁118を閉弁する。第1封止弁116及び第2封止弁118が閉弁されると、アイドル制御処理はステップS3に移行する。
【0052】
ステップS3において、アイドル制御部152は、バイパス弁119の開度を第1の開度に設定する。バイパス弁119の開度が設定されると、アイドル制御処理はステップS4に移行する。
【0053】
ステップS4において、アイドル制御部152は、コンプレッサ112の回転数を、発電中の回転数よりも低い所定回転数に設定する。所定回転数は、コンプレッサ112において許容されるノイズレベルの上限値に対応する回転数(ノイズ発生上限回転数)よりも低い。そのため、コンプレッサ112から酸化剤ガス供給路106に出力される酸化剤ガスの流量は、コンプレッサ112において許容されるノイズレベルの上限値に対応する流量(ノイズ発生上限流量)LFR未満となる(
図4参照)。コンプレッサ112の回転数が設定されると、アイドル制御処理はステップS5に移行する。
【0054】
ステップS5において、アイドル制御部152は、電力消費指令を受付部140が受け付けたか否かを判定する。受付部140が電力消費指令を受け付けていない場合、アイドル制御処理はステップS5に留まる。一方、受付部140が電力消費指令を受け付けた場合、アイドル制御処理はステップS6に移行する。
【0055】
ステップS6において、アイドル制御部152は、バイパス弁119の開度の設定を、ステップS2で設定された第1の開度から第2の開度に変更する。また、アイドル制御部152は、コンプレッサ112の回転数の設定を、ステップS4で設定された所定回転数から、当該所定回転数よりも大きい回転数に変更する。これにより、コンプレッサ112から酸化剤ガス供給路106に出力される酸化剤ガスの流量が増加する(
図4参照)。これに伴ってコンプレッサ112の電力消費量が高くなる。バイパス弁119の開度及びコンプレッサ112の回転数の設定が変更されると、アイドル制御処理はステップS7に移行する。
【0056】
ステップS7において、アイドル制御部152は、発電停止指令の供給が継続しているか否かを判定する。受付部140が発電停止指令を受け続けている場合、アイドル制御部152は、発電停止指令の供給が継続していると判定する。この場合、アイドル制御処理はステップS7に留まる。受付部140が発電停止指令を受け付けていない場合、アイドル制御部152は、発電停止指令の供給が継続していないと判定する。この場合、アイドル制御処理は終了する。
【0057】
[5 上記実施形態の作用効果]
制御装置22は、車両が動作している状態(車両の運転中)で発電停止指令を受け付けた場合、コンプレッサ112の回転数を、発電中の回転数よりも低い所定回転数に設定する。
【0058】
その際、制御装置22は、バイパス弁119を閉弁せずに、第1封止弁116及び第2封止弁118を閉弁する。しかし、バイパス弁119が最大開度である場合には圧力損失が低くなるため、コンプレッサ112の回転数が低く設定されても酸化剤ガスが流通し易い。その結果、コンプレッサ112からノイズが発生する虜がある。これに対し、本実施形態の制御装置22は、バイパス弁119の開度を、最大開度よりも小さい第1の開度に設定する。これにより、バイパス弁119が最大開度である場合に比べて、コンプレッサ112から発生するノイズを良好に低減することができる。また、コンプレッサ112の起動時間を短縮することができる。
【0059】
酸化剤ガスが比較的流通し難い状態であるにもかかわらず、コンプレッサ112の回転数を上げると、コンプレッサ112が損傷する虜がある。これに対し、本実施形態の制御装置22は、電力消費指令を受け付けた場合、バイパス弁119の開度の設定を第1の開度よりも大きい第2の開度に変更する。また、制御装置22は、電力消費指令を受け付けた場合、コンプレッサ112の回転数の設定を所定回転数よりも大きい回転数に変更する。これにより、コンプレッサ112の損傷を抑えながら、コンプレッサ112において電力を消費させることができる。
【0060】
[6 上記実施形態の変形例]
上記実施形態は、下記のように変形されてもよい。
【0061】
(変形例1)
本変形例では、電力消費指令は、バッテリ26Aから消費する電力量を指定する。本変形例の場合、上記のステップS5において、アイドル制御部152は、電力消費指令により指定される電力量に応じて、バイパス弁119の開度(第2の開度)の設定を変更する。この場合、電力消費指令により指定される電力量が大きいほど、バイパス弁119の開度(第2の開度)が大きく設定される。本変形例によれば、コンプレッサ112の損傷を抑えることができる。
【0062】
(変形例2)
本変形例では、電力消費指令は、バッテリ26Aから消費する電力量を指定する。本変形例の場合、上記のステップS5において、アイドル制御部152は、電力消費指令により指定される電力量に応じて、コンプレッサ112の回転数の設定を変更する。この場合、電力消費指令により指定される電力量が大きいほど、コンプレッサ112の回転数が大きく設定される。本変形例によれば、電力消費指令により指定される電力量にかかわらず概ね一定期間でバッテリ26Aの電力を消費することができる。なお、本変形例は、上記変形例1と組み合わさされてもよい。
【0063】
(変形例3)
第1封止弁116及び第2封止弁118の一方は設けられていなくてもよい。このようにしても上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
[7 付記]
上述した開示に関し、更に以下の付記を開示する。
【0065】
(付記1)
本開示は、発電セル(28)を含む燃料電池スタック(12)と、前記発電セルの発電電力を蓄積するバッテリ(26A)と、前記燃料電池スタックに接続される酸化剤ガス供給路(106)と、前記燃料電池スタックに接続される酸化剤ガス排出路(108)と、一端が前記酸化剤ガス供給路に接続され、他端が前記酸化剤ガス排出路に接続されるバイパス路(110)と、前記酸化剤ガス供給路に酸化剤ガスを供給するコンプレッサ(112)と、前記バイパス路の前記一端が接続される接続部分(CP1)と前記燃料電池スタックとの間の前記酸化剤ガス供給路、及び、前記バイパス路の前記他端が接続される接続部分(CP2)と前記燃料電池スタックとの間の前記酸化剤ガス排出路の少なくとも一方に設けられる1以上の封止弁(116、118)と、前記バイパス路に設けられ、開度を調整可能なバイパス弁(119)と、を有する燃料電池システム(10)に備えられる制御装置(22)であって、指令を受け付ける受付部(140)と、前記指令に基づいて制御を行う制御部(142)とを備え、前記燃料電池システムの動作状態を維持しながら前記発電セルを発電停止するための発電停止指令を前記受付部が受けた場合、前記制御部は、前記封止弁を閉弁するとともに前記バイパス弁の開度を最大開度よりも小さい第1の開度に設定し、かつ、前記コンプレッサの回転数を前記発電セルの発電中の前記回転数よりも低い所定回転数に設定する。
【0066】
封止弁が閉弁され、かつ、コンプレッサの回転数が発電中の回転数よりも低い所定回転数に設定された場合に、バイパス弁が最大開度であると圧力損失が低くなる。そのため、コンプレッサの回転数が低く設定されても酸化剤ガスが流通し易く、コンプレッサからノイズが発生する虜がある。本開示では、バイパス弁の開度が最大開度よりも小さい第1の開度に設定される。これにより、バイパス弁が最大開度である場合に比べてコンプレッサから発生するノイズを良好に低減することができる。
【0067】
(付記2)
付記1に記載の制御装置であって、前記バイパス弁の開度が前記第1の開度に設定され、かつ、前記コンプレッサの回転数が前記所定回転数に設定された状態において、前記バッテリに蓄積されている電力の消費を要求するための電力消費指令を前記受付部が受け付けた場合、前記制御部は、前記バイパス弁の開度の設定を前記第1の開度よりも大きい第2の開度に変更し、かつ、前記回転数の設定を前記所定回転数よりも大きい前記回転数に変更してもよい。
【0068】
これにより、燃料電池システムを動作させた状態で発電セルの発電を停止している場合に電力消費指令を受けても、コンプレッサの損傷を抑えながら、コンプレッサにおいて電力を消費させることができる。
【0069】
(付記3)
付記1に記載の制御装置であって、前記所定回転数は、前記コンプレッサにおいて許容されるノイズレベルの上限値に対応する前記回転数よりも低い前記回転数であってもよい。
【0070】
これにより、コンプレッサから発生するノイズを良好に低減することができる。
【0071】
(付記4)
付記2に記載の制御装置であって、前記制御部は、前記電力消費指令により指定される電力量に応じて、前記バイパス弁の開度の設定を変更してもよい。
【0072】
上記によれば、コンプレッサ112の損傷を抑えることができる。
【0073】
(付記5)
付記2に記載の制御装置であって、前記制御部は、前記電力消費指令により指定される電力量に応じて、前記回転数の設定を変更してもよい。
【0074】
上記によれば、電力消費指令により指定される電力量にかかわらず概ね一定期間でバッテリの電力を消費することができる。
【0075】
(付記6)
本開示は、付記1~5のいずれかに記載の制御装置を備える燃料電池システムである。
【0076】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0077】
10…燃料電池システム 12…燃料電池スタック
20…冷却システム 22…制御装置
26A…バッテリ 28…発電セル
106…酸化剤ガス供給路 108…酸化剤ガス排出路
110…バイパス路 112…コンプレッサ
116…第1封止弁 118…第2封止弁
119…バイパス弁 140…受付部
142…制御部 150…発電制御部
152…アイドル制御部