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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-06
(45)【発行日】2025-10-15
(54)【発明の名称】ホップ酸化反応産物ポリオール水溶液
(51)【国際特許分類】
   C12C 3/12 20060101AFI20251007BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20251007BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20251007BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20251007BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20251007BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20251007BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20251007BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20251007BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20251007BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20251007BHJP
【FI】
C12C3/12
A61P7/10
A61P25/20
A61P17/14
A61P37/08
A61K31/215
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/14
A61K36/185
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021058919
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022155608
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】山城 晶
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-199639(JP,A)
【文献】特開2017-178850(JP,A)
【文献】特開2004-081113(JP,A)
【文献】特開2008-212041(JP,A)
【文献】特開2007-089439(JP,A)
【文献】特開2016-124816(JP,A)
【文献】特開2004-284968(JP,A)
【文献】特開平11-246387(JP,A)
【文献】国際公開第2016/120962(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/034895(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A61K8/、36/
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホップ酸化反応産物の水系抽出物を、
ペンチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルグルセス-10、シクロヘキシルグリセリン、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル-10からなる群から選ばれる1種以上のポリオールと、水に溶解させたホップ酸化反応産物のポリオール水溶液であって、
ホップ酸化反応産物の水系抽出物の濃度が0.1質量%以上3質量%以下、
ポリオールと水の重量比が5:95~40:60、
ペンチレングリコールを8質量%以上22質量%以下含むことを特徴とするホップ酸化反応産物のポリオール水溶液
【請求項2】
前記ホップ酸化反応産物が、熟成ホップ由来苦味酸(MHBA)を含むことを特徴とする請求項1に記載のホップ酸化反応産物のポリオール水溶液。
【請求項3】
前記熟成ホップ由来苦味酸(MHBA)の含有量が、0.01質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のホップ酸化反応産物のポリオール水溶液。
【請求項4】
ホップ酸化反応産物の水系抽出物に、
ペンチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルグルセス-10、シクロヘキシルグリセリン、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル-10からなる群から選ばれる1種以上のポリオールと水を加え
ホップ酸化反応産物の水系抽出物の濃度が0.1質量%以上3質量%以下、
ポリオールと水の重量比が5:95~40:60、
ペンチレングリコールを8質量%以上22質量%以下含むことを特徴とするホップ酸化反応産物のポリオール水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホップ酸化反応産物の水系抽出物を、ポリオールと水とに溶解させたホップ酸化反応産物のポリオール水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップ(Humulus lupulus、セイヨウカラハナソウ)は、ビールの主原料の一つであり、ビールの苦味、香り、保存性等に関わっている。また、ホップは、古くから民間薬として用いられており、鎮静作用、利尿作用、脱毛予防作用、抗アレルギー作用などの効果を有することが知られている。ホップは、これらの作用に関わる多様な成分を有している。
ホップ含有成分に由来する機能性効果は、医薬分野、食品分野、化粧品分野等へ研究、利用されている。例えば、特許文献1(特開2003-183171号公報)にはホップを配合した睡眠障害用組成物、特許文献2(特開2003-238383号公報)にはホップを配合した皮膚配合剤、特許文献3(特開2016-147917号公報)には、ホップを配合した自律神経調節剤が提案されている。
【0003】
ここで、ホップは苦味が非常に強く、そのままで経口医薬品や食品に利用するのは難しい。この苦味を軽減したものとして、特許文献4(特許第5980687号公報)、非特許文献1には、ホップを酸化(熟成)させることにより、ホップの苦味成分であるイソα酸、α酸、β酸等の苦味酸が酸化物である熟成ホップ由来苦味酸(matured hop bitter acids;MHBA)となること、この熟成ホップ由来苦味酸を含むホップ酸化反応産物が、苦味が低減され、かつ脂質代謝機能改善作用等の健康機能性効果を有していることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-183171号公報
【文献】特開2003-238383号公報
【文献】特開2016-147917号公報
【文献】特許第5980687号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Morimoto-Kobayashi, Y., Ohara, K., Ashigai, H. et al. Matured hop extract reduces body fat in healthy overweight humans: a randomized, double-blind, placebo-controlled parallel group study. Nutr J 15, 25 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水系溶媒を用いてホップ酸化反応産物を抽出することにより、様々な有効成分を含むホップ酸化反応産物の水系抽出物を得ることができる。
しかし、この水系抽出物は、抽出直後の高温では溶解していた成分が、室温に冷やされると析出して懸濁液となり、この水系抽出物を水等の溶媒に再溶解する際に、特に高濃度での取り扱い性に劣るという問題を本発明者が初めて見出した。
また、本発明は、この問題を解決するためのものであり、析出物が生じにくく、保存安定性にすぐれたホップ酸化反応産物のポリオール水溶液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するための主な手段は、次のとおりである。
1.ホップ酸化反応産物の水系抽出物を、
ペンチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルグルセス-10、シクロヘキシルグリセリン、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル-10からなる群から選ばれる1種以上のポリオールと、水に溶解させたホップ酸化反応産物のポリオール水溶液。
2.前記ホップ酸化反応産物が、熟成ホップ由来苦味酸(MHBA)を含むことを特徴とする1.に記載のホップ酸化反応産物のポリオール水溶液。
3.ポリオールとして、ペンチレングリコールを含むことを特徴とする1.または2.に記載のホップ酸化反応産物のポリオール水溶液。
4.ペンチレングリコールを8質量%以上22質量%以下含むことを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のホップ酸化反応産物のポリオール水溶液。
5.前記熟成ホップ由来苦味酸(MHBA)の含有量が、0.01質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載のホップ酸化反応産物のポリオール水溶液。
6.ホップ酸化反応産物の水系抽出物に、
ペンチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルグルセス-10、シクロヘキシルグリセリン、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル-10からなる群から選ばれる1種以上のポリオールと水を加えることを特徴とするホップ酸化反応産物のポリオール水溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のホップ酸化反応産物のポリオール水溶液は、水のみを溶媒とする水溶液、ポリオールのみを溶媒とするポリオール溶液と比較して、ホップ酸化反応産物由来の成分を多く、かつ、安定して溶解することができる。本発明のポリオール水溶液は、安定性に優れ、析出物が生じにくく、長期間に亘って保存することができる。
本発明のポリオール水溶液は、固形分を含む懸濁液であるために十分に利用できなかった有効成分による様々な高次効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例2における析出物の高さを示すグラフ。
図2】実施例3における析出物の高さを示すグラフ。
図3】実施例4における析出物の高さを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ホップ酸化反応産物の水系抽出物を、
ペンチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルグルセス-10、シクロヘキシルグリセリン、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル-10からなる群から選ばれる1種以上のポリオールと、水に溶解させたホップ酸化反応産物のポリオール水溶液に関する。
【0011】
・ホップ酸化反応産物
ホップ酸化反応産物とは、ホップまたはその加工物(ホップペレット等)を酸化処理して得られるものをいう。本発明のホップ酸化反応産物は、ホップを空気中の酸素に接触させて酸化することにより得ることができる。本発明における酸化処理方法は、特に限定されるものではないが、ホップを空気中で加熱することが好ましい。
【0012】
本発明の酸化処理方法における加熱温度は、特に限定されないが、好ましい上限は100℃であり、より好ましい上限は80℃である。加熱温度を100℃以下とする場合には異性化よりも酸化を優先的に進行させる上で有利である。また、好ましい加熱温度の下限は40℃であるが、室温および低温で酸化させてもよい。より好ましい加熱温度の下限は60℃であり、特に好ましい加熱温度の下限は65℃である。加熱温度を60℃以上とする場合には酸化反応を効率的に進行させる上で有利である。また、反応時間も特に限定されるものではなく、ホップの品種や反応温度により適宜決定することができる。酸化処理は、例えば、60~80℃、8~120時間の条件下で行うことができ、60℃であれば48~120時間、80℃であれば8~24時間が好ましい。さらにホップの形態は空気中の酸素と接触できれば特に限定されるものではないが、好ましくは粉末状にすることにより、反応時間を短縮できる。また、高湿の環境下で保管してもよい。
【0013】
また、本発明においてホップ(Humulus lupulus L.)は、ルプリン部を含有するものであれば任意の形態のものでよく、収穫して乾燥させる前のもの、収穫して乾燥したもの、圧縮したもの、粉砕したもの、またはペレット状に加工したもの等を用いてもよいが、好ましくはホップペレットの形態である。ホップペレットは、市販品を使用してもよく、例えば、ホップ毬花を圧縮しペレット状にしたもの(Type90ペレット)、ルプリン部が選択的に濃縮されたペレット(Type45ペレット)、または異性化処理したホップペレット(例えば、Isomerized Pellets (hopsteiner社))等が挙げられる。
【0014】
ホップの品種は、特に限定されるものではないが、例えば、ギャラクシー(Galaxy)、ザーツ(Saaz)、カスケード(Cascade)、ハラタウトラディッション(Hallertau Tradition)、ブリオン(Bullion)、ブリューワーズゴールド(Brewers Gold)、チヌーク(Chinook)、クラスター(Cluster)、イーストケントゴールディング(East Kent Golding)、ファグルス(Fuggles)、ハラタウ(Hallertau)、マウントフッド(Mount Hood)、ノーザンブリューワー(Northan Brewer)、ペルレ(Perle)、スティリアン(Styrian)、ターゲット(Target)、テットナンガー(Tettnanger)、ウィラメット(Willamette)、ヘルスブルッカー(Hersbrucker)、ブラボー(Bravo)、コロンブス(Columbus)、ヘラクレス(Herkules)、マグナム(Magnum)、ミレニアム(Millennium)、ナゲット(Nugget)、サミット(Summit)、トマホーク(Tomahawk)、ウォリアー(Warrior)、ゼウス(Zeus)、ハラタウペルレ(Hallertau Perle)等が挙げられ、原料の安定供給の観点からは、比較的安価なビター品種であることが好ましく、具体的な例としては、ブラボー(Bravo)、コロンブス(Columbus)、ヘラクレス(Herkules)、マグナム(Magnum)、ミレニアム(Millennium)、ナゲット(Nugget)、サミット(Summit)、トマホーク(Tomahawk)、ウォリアー(Warrior)、ゼウス(Zeus)等が挙げられる。
【0015】
ホップには、α酸(フムロン類)、β酸(ルプロン類)、イソα酸(イソフムロン類)等の樹脂由来の苦味成分が含まれている。本発明において「α酸(フムロン類)」は、フムロン、アドフムロン、コフムロン、ポストフムロン、およびプレフムロンを含む意味で用いられる。また、本発明において「β酸(ルプロン類)」はルプロン、アドルプロン、コルプロン、ポストルプロン及びプレルプロンを含む意味で用いられる。さらに、本発明において「イソα酸(イソフムロン類)」は、イソフムロン、イソアドフムロン、イソコフムロン、イソポストフムロン、イソプレフムロン、Rho-イソフムロン、Rho-イソアドフムロン、Rho-イソコフムロン、Rho-イソポストフムロン、Rho-イソプレフムロン、テトラハイドロイソフムロン、テトラハイドロイソアドフムロン、テトラハイドロイソコフムロン、テトラハイドロイソプレフムロン、テトラハイドロイソポストフムロン、ヘキサハイドロイソフムロン、ヘキサハイドロイソアドフムロン、ヘキサハイドロイソコフムロン、ヘキサハイドロイソポストフムロン、ヘキサハイドロイソプレフムロンを含む意味で用いられる。なお、イソα酸にはシスおよびトランス立体異性体が存在するが、特に断りがない限りその両者を含む意味で用いられる。
【0016】
ホップまたはその加工物(ホップペレット等)を酸化処理に付すことにより、α酸、β酸、イソα酸の含有量が低減し、これら以外の成分の含有量が増加した「ホップ酸化反応産物」が得られる。
本発明のホップ酸化反応産物は、α酸、β酸、イソα酸等の苦味成分の酸化物である熟成ホップ由来苦味酸(matured hop bitter acids;MHBA)を高レベルで含有することが好ましい。MHBAはα酸、β酸、イソα酸等に比較し、非常に苦味が低くかつ健康機能性効果を有しており(特許文献4、Biosci. Biotech. Biochem. 2015;79:1684-1694.)、ホップ酸化反応産物に健康機能を付与する上で有利である。かかるMHBAを構成する成分の好適な例としては、以下の式(1a-c)~(8a-c)に記載の化合物を挙げることができる。したがって、本発明のホップ酸化反応産物は、以下の式(1a-c)~(8a-c)から選択される少なくとも一つ以上の化合物を含み、二つ以上または全部の化合物を含むことが好ましい。MHBAの定量は、特開2018-199639号公報の試験例1に記載の方法に従い実施することができる。
【0017】
【化1】
【0018】
ホップ酸化反応産物は、「トリシクロオキシイソフムロン類」を含有することが好ましい。「トリシクロオキシイソフムロン類」とは、トリシクロオキシイソコフムロン A(tricyclooxyisocohumulone A)(TCOIcoH A:式(5a)、IUPAC名:(3aS,5aS,7S,8aS)-3,3a-dihydroxy-7-(1-hydroxy-1-methylethyl)-6,6-dimethyl-2-(2-methylpropanoyl)-5a,6,7,8-tetrahydro-3aH,5H-cyclopenta[c]pentalene-1,4-dione)、トリシクロオキシイソフムロン A(tricyclooxyisohumulone A)(TCOIH A:式(5b)、IUPAC名:(3aS,5aS,7S,8aS)-3,3a-dihydroxy-7-(1-hydroxy-1-methylethyl)-6,6-dimethyl-2-(3-methylbutyryl)-5a,6,7,8-tetrahydro-3aH,5H-cyclopenta[c]pentalene-1,4-dione)、トリシクロオキシイソアドフムロン A(tricyclooxyisoadhumulone A)(TCOIadH A:式(5c)、IUPAC名:(3aS,5aS,7S,8aS)-3,3a-dihydroxy-7-(1-hydroxy-1-methylethyl)-6,6-dimethyl-2-(2-methylbutanoyl)-5a,6,7,8-tetrahydro-3aH,5H-cyclopenta[c]pentalene-1,4-dione)を含む化合物群である。
【0019】
本発明のホップ酸化反応産物におけるMHBAの含有量について、ホップ酸化反応産物全体の乾燥質量に対して、好適な下限は、0.1質量%、0.5質量%または1質量%とすることができ、好適な上限は、15質量%、20質量%、30質量%、50質量%、70質量%、90質量%、96質量%または98質量%とすることができる。また、本発明のホップ酸化反応産物におけるMHBAの含有量の範囲は、例えば、0.1~98質量%であり、より好ましくは0.1~90質量%であり、さらに好ましくは0.1~70質量%であり、さらに好ましくは0.1~30質量%であり、さらに好ましくは1~20質量%である。
【0020】
また、本発明のホップ酸化反応産物においては、ホップを酸化処理に付すことにより、α酸、β酸、イソα酸の含有量が低減される。本発明のホップ酸化反応産物の苦味成分の含有量の範囲は、ホップ全体の乾燥質量に対するα酸、β酸およびイソα酸の合計含有量に換算する場合、好適な下限は、0.01質量%、0.02質量%、0.05質量%、または0.1質量%とすることができ、好適な上限は、0.5質量%、1質量%、5質量%、または10質量%とすることができる。本発明のホップ酸化反応産物の苦味成分の含有量の範囲は、上記換算値として、例えば、0.01~5質量%であり、好ましくは0.05~5質量%であり、より好ましくは0.1~1質量%である。かかる苦味成分の含有量は、例えば、特開2018-199639号公報の試験例1に記載の手法に従い、α酸、β酸およびイソα酸の合計含有量に換算して決定することができる。
【0021】
また、苦味の低減と健康機能付与の両立の観点からは、ホップ酸化反応産物におけるMHBAの含有量は、苦味成分(α酸、β酸およびイソα酸の合計量)に対して、好ましくは等量以上であり、より好ましくは4倍以上であり、さらに好ましくは50倍以上であり、さらに好ましくは90倍以上であり、さらに好ましくは100倍以上である。
【0022】
・ホップ酸化反応産物の水系抽出物
本発明のホップ酸化反応産物の水系抽出物は、上記したホップ酸化反応産物を水系溶媒による抽出に供して得られる抽出物である。水系溶媒としては、水、または水と相溶するメタノール、エタノール等の低級アルコール、エチレングリコール等のグリコール類、アセトン、酢酸、またはこれらの混合物等の極性溶媒を用いることができる。抽出方法は特に制限されず、例えば、非特許文献1(Nutr J. 2016;15:25.)に記載の方法を用いることができる。水抽出により、ホップ酸化反応産物の苦味を低減することができる。抽出温度は特に限定されないが、好ましくは60℃以下であり、抽出効率を勘案すれば、50~60℃がより好ましい。
【0023】
本発明において、ホップ酸化反応産物の水系抽出物は、乾燥させた固形分、濃縮液、または、抽出したままの水系抽出液として使用することができるが、抽出液に水を用い、抽出したままの水系抽出液として用いることが、取り扱い性の点から好ましい。また、上述の乾燥または濃縮のほか、加熱殺菌処理等を行うことができる。具体的には煮沸、減圧脱気、減圧濃縮、噴霧乾燥、凍結乾燥、高温短時間加熱処理、高温短時間殺菌、またはこれらの組み合わせを用いることもできる。
ホップ酸化反応産物の水系抽出液は、抽出直後の高温では透明な溶液であるが、低温になると溶解していた成分が析出してしまうため、通常は、懸濁液である。本発明において、ホップ酸化反応産物の水系抽出液は、懸濁液のままでもよく、必要に応じて濾過、活性炭もしくはポリビニルポリピロリドン(PVPP)等の吸着剤、濾過助剤、清澄剤または澱下剤等を用いた処理を行うこともできる。ただし、本発明のポリオール水溶液は、ホップ酸化反応産物の水系抽出液中の不溶分の多くを溶解することができるため、この不溶分に含まれる有効成分を利用する観点から、懸濁液のまま使用することが好ましい。
【0024】
ホップ酸化反応産物の水系抽出液における、ホップ酸化反応産物の水系抽出物の含有量は1~30質量%であり、MHBAの含有量は、機能性効果の観点から0.1~10質量%が好ましく、0.5~8質量%がより好ましく、1~5質量%が特に好ましい。また、ホップ酸化反応産物の水系抽出液のBrix値は、取扱いのしやすさの観点から5~30°Bxであることが好ましく、10~20°Bxであることがより好ましい。
【0025】
・ポリオール
ポリオールは、ペンチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルグルセス-10、シクロヘキシルグリセリン、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル-10からなる群から選ばれる1種以上を利用することができ、本発明の効果を妨げない範囲内において2種以上を混合して使用することもできる。これらの中で、ペンチレングリコールが、固形分の溶解性、取り扱いのしやすさ、においの変化が少ないため好ましい。また、本発明の効果を妨げない範囲内において、上記したポリオール以外の水性溶媒を含むこともできる。
【0026】
本発明のポリオール水溶液において、ポリオールとしてペンチレングリコールを用いる場合、ペンチレングリコールの配合量は、8質量%以上22質量%以下であることが好ましく、8質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。ペンチレングリコールの配合量がこの範囲内であると、溶解性に優れており、不溶分を少なくすることができ、場合によっては完全に溶解することもできる。
【0027】
本発明のポリオール水溶液において、ホップ酸化反応産物の水系抽出液とポリオールの比率は、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、ホップ酸化反応産物の水系抽出液の配合量が30質量%以下である場合において、ホップ酸化反応産物の水系抽出液の配合量に対するポリオールの配合量の割合は、0.1以上4.5以下であることが好ましく、0.2以上4.0以下であることがより好ましく、0.3以上3.8以下であることがさらに好ましい。
【0028】
・水
本発明のポリオール水溶液において、ポリオールと水の比率は、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、ポリオールと水の重量比(ポリオール:水)が、5:95~40:60の範囲内であることが好ましく、10:90~30:70の範囲内であることがより好ましく、10:90~25:75の範囲内であることがさらに好ましい。
【0029】
・ポリオール水溶液
本発明のホップ酸化反応産物のポリオール水溶液は、ポリオールと水の両者を溶媒とする。ホップ酸化反応産物の水系抽出液(懸濁液であってもよい)の不溶分は、ポリオールのみ、または水のみには全てが溶解せず、ホップ酸化反応産物の水系抽出液(懸濁液であってもよい)に、ポリオールと水とを加え、必要に応じて加熱することにより、室温の水に対する不溶分の多くを溶解して減らすことができ、場合によっては完全に溶解することもできる。加熱を行う場合の温度は、用いるポリオール水溶液の沸点未満であれば特に制限はないが、好ましくは100℃未満である。ポリオールと水は、ポリオールを加えた後に水を加えることが、溶解性向上の点から好ましい。また、加熱は、ポリオールと水を加えた後に行うことが、溶解性向上の点から好ましい。
【0030】
本発明のポリオール水溶液において、ホップ酸化反応産物の水系抽出物濃度は、3質量%以下であることが好ましい。このホップ酸化反応産物の水系抽出物濃度が3質量%を超えると、不溶分が残りやすく、また、保存安定性が低下して経時で析出物が生じやすくなる場合がある。このホップ酸化反応産物の水系抽出物濃度は、2質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることがさらに好ましい。また、このホップ酸化反応産物の水系抽出物濃度の下限値は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明のポリオール水溶液において、MHBAの含有量は、機能性の点から、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、また、3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明のポリオール水溶液は、不溶分を含んでいてもよく、含まなくてもよい。ポリオール水溶液中の不溶分は、濾過や遠心分離により取り除くことができる。本発明のポリオール水溶液は、凝集の核となる不溶分を取り除くことで、経時での析出を起こりにくくすることができ、保存安定性が向上する。本発明のポリオール水溶液が不溶分を含む場合、不溶分の割合は、ポリオール水溶液に対して0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明のポリオール水溶液は、ホップ酸化反応産物の水系抽出物が、特定のポリオールと水とに溶解していればよく、他の成分を含むこともできる。本発明のポリオール水溶液が含むことのできる他の成分としては、例えば、界面活性剤、増粘剤、香料、pH調整剤等が挙げられる。
【実施例
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
・ホップ酸化反応産物の水抽出液
熟成ホップエキス(キリンホールディングス株式会社製、固形分11質量% MHBA2.65質量%)
【0035】
・ポリオール
【表1】
【0036】
「実施例1」
15mL遠沈管(住友ベークライト社製)に、熟成ホップエキス1gとポリオール2gを秤量し、撹拌溶解した。そこに、精製水7gを添加し、総量10gとし、混合溶解させ、ホップ酸化反応産物の水系抽出物の濃度(質量%)が約1%のポリオール水溶液とした。また、ポリオールの代わりに精製水を用いた以外は同様にして、約1%水溶液を得た。
調製直後の透明性と、静置後4日目の析出物の高さを測定し、下記基準で安定性を評価した。結果を表2に示す。
なお、実施例において特別な記載がない限りにおいて、ポリオール水溶液の調製または安定性評価等の操作は全て室温にて行った。
【0037】
・透明性
○:析出物が視認できず、透明である。
×:析出物が視認でき、懸濁している。
・安定性
○:析出物の高さが2.0mm以下。
△:析出物の高さが2.0mmを超え、3.0mm以下。
×:析出物の高さが3.0mmを超える。
・総合評価
○:上澄み透明性、安定性がともに○。
△:上澄み透明性が○であり、安定性が△。
×:上澄み透明性、安定性のいずれか1以上が×。
【0038】
【表2】
【0039】
ペンチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルグルセス-10、シクロヘキシルグリセリンは、20%ポリオール添加後には溶解せず、懸濁物が膨潤したようなふわふわしたものが見られたが、水を添加して約1%ポリオール水溶液とすると、懸濁物がある程度溶解して減少した。これらの中で、特にペンチレングリコールとシクロヘキシルグリセリンが、析出物が少なく安定性に優れていた。
(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル-10とグリセリンの混合物は、ポリオールのみの添加後、水を添加後の両方とも溶解して透明であった。また、析出物も少なく、安定性に優れていた。
グリセリン、ジグリセリンは、ポリオール溶液にはある程度溶解するが、水を添加して約1%ポリオール水溶液とすると、析出物が生じ、懸濁した。
その他のポリオールは、ポリオール、ポリオール水溶液のいずれにも溶解性が劣っていた。
【0040】
「実施例2」
下記表3に示す試料を15mL容遠沈管に総量10gとなるように秤量し、室温にて撹拌溶解した。調製直後のポリオール水溶液は、いずれも透明で、析出物は目視できなかった。静置1週間後、析出した固形分の高さを測定した。結果を図1に示す。
【0041】
【表3】

ペンチレングリコールが20質量%のとき、熟成ホップエキスが30質量%以下で析出物が顕著に少なくなることが確かめられた。
【0042】
「実施例3」
No.1~5の中で、熟成ホップエキスを高濃度で含むNo.3を中心濃度として、ペンチレングリコールの濃度を検討した。下記表4に示す試料を15mL容遠沈管に総量10gとなるように秤量し、室温にて撹拌溶解した。静置後4日目の析出物の高さを測定した。結果を図2に示す。
【0043】
【表4】

ペンチレングリコールが5質量%および25質量%のときに特に多くの析出物が生じた。8質量%~22質量%の析出物の高さは6mm以下であり、特に、8~20質量%のときに析出物が顕著に少なかった。このことから、ポリオールが多いほど安定性に優れるのではなく、適切な範囲内において安定性に優れることが示唆された。なお、ペンチレングリコールを含有しないNo.20の水溶液は、No.11~19のポリオール水溶液に比べて明らかに上澄みが懸濁していた。
【0044】
「実施例4」
15mL容遠沈管に、No.5の配合を総量10g秤量し、室温にて撹拌溶解させた。
また、同様の配合で、熟成ホップエキスにペンチレングリコールを加えて90℃1時間加熱後、精製水を添加したものと、全て加えた後に90℃1時間加熱したものを作成した。調製直後のポリオール水溶液は、いずれも透明で、析出物は目視できなかった。
室温で1週間静置した後、析出した固形分の高さを測定した。結果を図3に示す。
【0045】
ポリオールと水を加えた後に加熱することにより、析出物が顕著に減少することが確認できた。
ポリオールのみを加えた状態で加熱すると、加熱した時点で析出物が多く生じ、さらに水を添加しても析出物は溶解せず、室温で溶解させるよりも析出物が多く確認された。そのため、本発明のポリオール水溶液の製造時に加熱する場合は、全て加えた後に加熱することが好ましいことが確認できた。
図1
図2
図3