(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-06
(45)【発行日】2025-10-15
(54)【発明の名称】グラフェン分散液およびリチウムイオン電池正極
(51)【国際特許分類】
C01B 32/182 20170101AFI20251007BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20251007BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20251007BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20251007BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20251007BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20251007BHJP
C09C 1/44 20060101ALI20251007BHJP
C09C 3/10 20060101ALI20251007BHJP
【FI】
C01B32/182
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/525
C01B32/198
C09D17/00
C09C1/44
C09C3/10
(21)【出願番号】P 2021173630
(22)【出願日】2021-10-25
【審査請求日】2024-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2020180232
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智博
(72)【発明者】
【氏名】竹内 孝
(72)【発明者】
【氏名】片瀬 郁也
(72)【発明者】
【氏名】玉木 栄一郎
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-075795(JP,A)
【文献】特表2019-512442(JP,A)
【文献】特開2018-174134(JP,A)
【文献】国際公開第2020/090704(WO,A1)
【文献】特開2004-043525(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/004/62
C09D 17/00
C09C 1/44
C09C 3/10
C09K 23/52
JSTPlus/JSTchina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーおよび分散媒を含有するグラフェン分散液であって、前記グラフェンの平均厚みが0.3nm以上10nm以下であり、前記グラフェン100重量部に対するヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーの含有量が10重量部以上300重量部以下であり、前記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーの温度25℃、ずり速度1.0s
-1における粘度が0.1Pa・s以上100Pa・s以下である、グラフェン分散液。
【請求項2】
前記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーの水酸基価が10mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である、請求項1に記載のグラフェン分散液。
【請求項3】
前記分散媒100重量部に対するグラフェンの含有量が0.10重量部以上5重量部以下である、請求項1または2に記載のグラフェン分散液。
【請求項4】
前記グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさが0.1μm以上100μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項5】
前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.35以下である、請求項1~4のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項6】
前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素比(N/C比)が0.005以上0.020以下である、請求項1~5のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項7】
前記分散媒として、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンおよび/またはN,N-ジメチルアセトアミドを含有する、請求項1~6のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項8】
集電体上に、正極活物質、グラフェン、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーを含有する合剤層を有するリチウムイオン電池正極であって、前記グラフェンの平均厚みが0.3nm以上10nm以下であり、前記グラフェン100重量部に対するヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーの含有量が10重量部以上300重量部以下であり、前記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーの温度25℃、ずり速度1.0s
-1における粘度が0.1Pa・s以上100Pa・s以下である
、リチウムイオン電池正極。
【請求項9】
前記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーの水酸基価が10mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である、請求項8に記載のリチウムイオン電池正極。
【請求項10】
前記正極活物質100重量部に対するグラフェンの含有量が0.05重量部以上2.5重量部以下である、請求項8または9に記載のリチウムイオン電池正極。
【請求項11】
前記グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさが0.1μm以上100μm以下である、請求項8~10のいずれかに記載のリチウムイオン電池正極。
【請求項12】
前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.35以下である、請求項8~11のいずれかに記載のリチウムイオン電池正極。
【請求項13】
前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素比(N/C比)が0.005以上0.020以下である、請求項8~12のいずれかに記載のリチウムイオン電池正極。
【請求項14】
前記正極活物質として、リチウムおよびニッケルを含む、請求項8~13のいずれかに記載のリチウムイオン電池正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン分散液およびリチウムイオン電池正極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、携帯電話機などの携帯機器、ハイブリッド自動車、電気自動車、家庭用蓄電等の各種用途において、リチウムイオン電池の研究開発が盛んに行われている。これらの分野に用いられるリチウムイオン電池には、充放電を繰り返すことによる電池容量の減少を抑制し、電池寿命を向上することが求められている。
【0003】
その一手段として、カーボンナノチューブやグラフェンなどの導電助剤が用いられている。導電助剤の分散性を向上させる技術として、これまでに、N-メチル-2-ピロリドンを分散媒とし、炭素導電材及び高分子分散剤を含み、前記高分子分散剤のアミン価が25~75mgKOH/g、かつ、溶解度パラメータ(SP値)が10.0~15.0(cal/cm3)1/2であることを特徴とする炭素導電材スラリー(例えば、特許文献1参照)や、少なくともナノカーボン物質、水系溶剤及び高分子分散剤を含有してなるナノカーボン水系分散液において、A-Bブロックコポリマーが、90質量%以上がメタクリル系モノマーで構成されており、A-BブロックコポリマーのAブロックは、芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーを少なくとも70質量%以上構成成分とし、且つ酸価が0~30mgKOH/gであり、且つゲルパーミエーションクロマトグラフにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000~5,000、重量平均分子量/数平均分子量(分子量分布)が1.3以下であり、A-BブロックコポリマーのBブロックは、酸性基を有するメタクリル系モノマーを少なくとも構成成分とし、酸価が100~300mgKOH/gであり、A-Bブロックコポリマーの数平均分子量からAブロックの数平均分子量を引いた分子量が1,000~10,000であり、A-Bブロックコポリマーの分子量分布が1.6以下であるナノカーボン水系分散液(例えば、特許文献2参照)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-45820号公報
【文献】特開2013-75795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン電池の電池寿命向上には、充放電の繰り返しに伴う導電パスの劣化を抑制することが重要である。そのためには、導電パスを形成する導電助剤が正極活物質等の材料と均一に混合され、均質かつ安定な塗膜を形成することが重要であると考えられる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された炭素導電材スラリーは、炭素導電材の分散が不十分であり、流動性が不十分である課題があった。また、炭素導電材の凝集体により塗膜均一性が低下し、炭素導電材の偏在により電池寿命が不十分である課題があった。また、特許文献2に記載されたナノカーボン水系分散液は、高分子分散剤によりナノカーボンの分散性を向上することができるものの、流動性はなお不十分であり、抵抗値が高い傾向にあるため、電池寿命向上効果が不十分である場合があった。
【0007】
そこで本発明は、グラフェンの分散性および流動性に優れ、正極活物質と混合した時にグラフェンが均一に混合され得るグラフェン分散液を提供し、これらによって電池寿命が向上されたリチウムイオン電池正極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、グラフェン、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーおよび分散媒を含有するグラフェン分散液であって、前記グラフェンの平均厚みが0.3nm以上10nm以下であり、前記グラフェン100重量部に対するヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーの含有量が10重量部以上300重量部以下であり、前記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーの温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度が0.1Pa・s以上100Pa・s以下である、グラフェン分散液である。また、本発明は、集電体上に、正極活物質、グラフェン、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーを含有する合剤層を有するリチウムイオン電池正極であって、前記グラフェンの平均厚みが0.3nm以上10nm以下であり、前記グラフェン100重量部に対するヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーの含有量が10重量部以上300重量部以下であり、前記(メタ)アクリルポリマーの温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度が0.1Pa・s以上100Pa・s以下である、前リチウムイオン電池正極である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のグラフェン分散液はグラフェンの分散性および流動性に優れ、正極活物質と混合した時のグラフェンの均一性に優れる。本発明のリチウムイオン電池正極は、電池寿命を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明のグラフェン分散液について説明する。本発明のグラフェン分散液は、グラフェン、ヒドロキシを有する(メタ)アクリルポリマーおよび分散媒を有する。グラフェンの平均厚みは0.3nm以上10nm以下であり、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーの温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は0.1Pa・s以上100Pa・s以下である。
【0011】
平均厚み0.3nm以上10nm以下の薄いグラフェンは、柔軟であるため被覆対象の表面に対してよく追従し、導電パスを形成しやすい。一方で、薄いグラフェンは凝集を起こしやすいために、従来はグラフェン分散液中における分散性維持が困難であり、また、高粘度化しやすく分散液の流動性が不十分となることがあった。また、かかる分散液をリチウムイオン電池正極に用いた場合、グラフェンの凝集体により正極活物質との混合が不均一となり、電池寿命が低下する課題があった。
【0012】
そこで、本発明においては、かかる薄いグラフェンとともに、温度25℃、ずり速度1.0s-1において特定粘度であり、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーを用いる。かかる(メタ)アクリルポリマーは、グラフェン分散液においてグラフェンの分散性を高める分散剤として機能し、グラフェン分散液の分散性および流動性を向上させることができる。このため、本発明のグラフェン分散液をリチウムイオン電池正極に用いる場合、正極活物質とグラフェンが均一に混合されやすく、効果的な導電パスが形成され、電池寿命を向上させることができる。
【0013】
<グラフェン>
グラフェンは、導電助剤として薄層形状で単位重量当りの導電パスが多く、電極内において良好な導電ネットワークを形成しやすいために有用である。グラフェンとは、狭義には1原子の厚さのsp2結合炭素原子のシート(単層グラフェン)を指すが、本明細書においては、単層グラフェンが積層した薄片状の形態を持つものも含めてグラフェンと呼ぶ。また、酸化グラフェンも同様に、積層した薄片状の形態を持つものも含めた呼称とする。
【0014】
また、本明細書においては、X線光電子分光分析(XPS)によって測定される酸素原子の炭素原子に対する原子割合であるO/C比が0.4を超えるものを酸化グラフェン、0.4以下のものをグラフェンと呼称する。また、酸化グラフェンを還元処理することによって得られる還元型酸化グラフェンであって、O/C比が0.4以下のものもグラフェンと呼称する。
【0015】
さらに、グラフェンや酸化グラフェンには分散性の向上等を目的とした表面処理がなされる場合があるが、本明細書においては、このような表面処理剤が付着したグラフェンまたは酸化グラフェンも含めて「グラフェン」または「酸化グラフェン」と呼称するものとする。
【0016】
グラフェンの平均厚みは、0.3nm以上10nm以下である。本発明のグラフェン分散液は、平均厚みがかかる範囲にある、薄いグラフェンを用いることにより、後述の(メタ)アクリルポリマーとの相互作用を高め、分散性および流動性を向上させることができる。また、導電性を維持しながら正極活物質の表面に対する追従性を向上させ、導電パスを形成しやすくするため、電池寿命を向上させることができる。グラフェンの平均厚みが0.3nm未満であると、欠陥が生じやすいため、導電性が低下し、電池寿命が短くなる。一方、グラフェンの平均厚みが10nmを超えると、分散性が低下し、正極活物質表面に対する追従性が低下するため、導電パス形成が不十分になり、電池寿命が短くなる。導電パスをより効果的に形成し、電池寿命をより向上させる観点から、グラフェンの平均厚みは、8nm以下が好ましく、6nm以下がより好ましい。ここで、グラフェン分散液中におけるグラフェンの平均厚みは、グラフェン分散液からグラフェンを採取し、原子間力顕微鏡を用いて、グラフェンが適切に観察できる様に、視野範囲1~10μm四方程度に拡大観察し、無作為に選択した10個のグラフェンについて、それぞれ厚みを測定し、その算術平均値を求めることにより算出することができる。なお、各グラフェンの厚みは、それぞれのグラフェンにおいて無作為に選択した5箇所の厚みの測定値の算術平均値とする。
【0017】
グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさは、正極活物質との接触面積を高め、導電パスをより効果的に形成し、電池寿命をより向上させる観点から、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。一方、グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさは、グラフェン分散液の分散性及び流動性を向上させ、正極活物質とグラフェンをより均一に混合させ、電池寿命をより向上させる観点から、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。ここで、グラフェン分散液中におけるグラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさは、グラフェン分散液からグラフェンを採取し、電子顕微鏡を用いて、グラフェンが適切に視野に収まる様に、倍率1,500~50,000倍に拡大観察し、無作為に選択した10個のグラフェンについて、グラフェン層に平行な方向の最も長い部分の長さ(長径)と最も短い部分の長さ(短径)をそれぞれ測定し、(長径+短径)/2で求められる数値の算術平均値を求めることにより算出することができる。なお、グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさは、酸化グラフェンまたは還元後のグラフェンを後述の方法により微細化することにより、前述の範囲に容易に調整することができる。また、所望の大きさの市販の酸化グラフェンやグラフェンを用いてもよい。
【0018】
グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)は、残存官能基により分散性および流動性をより向上させる観点から、0.05以上が好ましく、0.07以上がより好ましく、0.08以上がさらに好ましい。一方、グラフェン分散液の流動性をより向上させる観点、還元によりπ電子共役構造を復元して導電性をより高め、電池寿命をより向上させる観点から、O/C比は、0.35以下が好ましく、0.20以下がより好ましく、0.15以下がさらに好ましい。ここで、グラフェン分散液中におけるグラフェンのO/C比は、グラフェン分散液からグラフェンを採取し、X線光電子分光分析(XPS)により測定することができる。炭素原子に基づくC1sメインピークを284.3eVとし、酸素原子に基づくO1sピークを533eV付近のピークに帰属し、各ピークの面積比からO/C比を算出し、得られた値の小数点第3位を四捨五入して小数点第2位まで求める。なお、グラフェンのO/C比は、例えば、化学剥離法を用いた場合は、原料となる酸化グラフェンの酸化度や、還元反応条件による還元度の調整により、前述の範囲に容易に調整することができる。また、所望のO/C比を有する市販の酸化グラフェンやグラフェンを用いてもよい。
【0019】
前述の如く、グラフェンや酸化グラフェンには表面処理がなされる場合があり、特に窒素原子を含む表面処理剤はグラフェンの分散性を高めやすい傾向がある。さらに、表面処理剤は、後述する(メタ)アクリルポリマーとの相互作用を高め、分散性向上の効果をより高めると共に、リチウムイオン電池正極に用いた場合に結着力をより向上させることができる。
【0020】
窒素原子を含む表面処理剤によりグラフェンを処理した場合、グラフェンに付着している表面処理剤の量を、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の原子比(N/C比)から求めることができる。グラフェンのN/C比は、グラフェン分散液の分散性および流動性をより向上させ、電池寿命をより向上させる観点から、0.005以上が好ましく、0.006以上がより好ましく、0.008以上がさらに好ましい。一方、グラフェンのN/C比は、グラフェン分散液の流動性をより向上させる観点、導電性をより高め、電池寿命をより向上させる観点から、0.020以下が好ましく、0.018以下がより好ましく、0.016以下がさらに好ましい。ここで、グラフェン分散液中におけるグラフェンのN/C比は、グラフェン分散液からグラフェンを採取し、X線光電子分光分析(XPS)により測定することができる。炭素原子に基づくC1sメインピークを284.3eVとし、窒素原子に基づくN1sピークを402eV付近のピークに帰属し、各ピークの面積比からN/C比を算出し、得られた値の小数点第4位を四捨五入して小数点第3位まで求める。なお、グラフェンのN/C比は、例えば、後述する表面処理剤の付着量により前述の範囲に容易に調整することができる。
【0021】
表面処理剤は、グラフェンの表面に付着して存在していることにより、グラフェンの分散性をより高める効果を発揮するものである。本明細書においては、このような表面処理剤が付着した状態のグラフェンを「表面処理グラフェン」と呼称するものとする。ここで、本発明において、表面処理剤がグラフェンに付着して存在している、とは、表面処理グラフェンを質量比100倍の水に分散してろ過する洗浄工程を5回以上繰り返し、その後凍結乾燥、スプレードライ等の方法で乾燥させた後に、当該表面処理剤が表面処理グラフェン中に残存していることをいう。表面処理剤が残存していることは、乾燥後の表面処理グラフェンを飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定をした時に、正二次イオンスペクトルで表面処理剤分子がプロトン付加分子の形で検出できることを言う。ただし、表面処理剤が中和塩の場合は、アニオン分子が除去された表面処理剤分子にプロトンが付加した形で検出することができる。表面処理グラフェン中に含まれる表面処理剤の化学構造は、TOF-SIMSにより特定することができる。なお、表面処理剤の定量は、表面処理グラフェンを、質量比100倍の水に分散してろ過する洗浄工程を5回以上繰り返し、その後凍結乾燥して得たサンプルを用いて行う。
【0022】
表面処理剤としては、グラフェン表面に吸着しやすいという観点から、芳香環を有する化合物が好ましい。
【0023】
また、表面処理剤は、酸性基および/または塩基性基を有することが好ましい。
【0024】
酸性基としては、ヒドロキシ基、フェノール性ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、カルボニル基が好ましく、これらを2種以上有してもよい。これらの中でも、フェノール性ヒドロキシ基が好ましい。
【0025】
フェノール性ヒドロキシ基および芳香環を有する化合物としては、例えば、フェノール、ニトロフェノール、クレゾール、カテコールなどが挙げられる。これらの化合物の水素の一部が置換されていてもよい。これらの中でも、グラフェンとの接着性や分散媒への分散性の観点から、カテコールやその誘導体が好ましく、例えば、カテコール、ドーパミン塩酸塩、3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-L-アラニン、4-(1-ヒドロキシ-2-アミノエチル)カテコール、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸、カフェイン酸、4-メチルカテコールおよび4-tert-ブチルピロカテコールなどが好ましい。
【0026】
塩基性基としては、アミノ基が好ましい。
【0027】
アミノ基および芳香環を有する化合物としては、例えば、ベンジルアミン、フェニルエチルアミンやこれらの塩などが挙げられる。これらの化合物の水素の一部が置換されていてもよい。
【0028】
酸性基、塩基性基および芳香環を有する化合物も好ましく、例えば、ドーパミン塩酸塩などが好ましい。
【0029】
本発明に用いられるグラフェンは、物理剥離法で製造されたものであってもよく、化学剥離法で製造されたものであってもよい。化学剥離法で製造される場合、酸化グラフェンの作製法に特に限定はなく、ハマーズ法等の公知の方法を使用できる。また、市販の酸化グラフェンを購入してもよい。
【0030】
化学剥離法は、黒鉛を酸化剥離して酸化グラフェンを得る工程(黒鉛剥離工程)、還元を行う工程(還元工程)をこの順に有することが好ましい。必要に応じて、黒鉛剥離工程と還元工程の間に、表面処理剤をグラフェンに付着させる工程(表面処理工程)および/またはグラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさを調整する工程(微細化工程)を行ってもよい。表面処理グラフェンを用いる場合、表面処理剤はグラフェンに付着させてもよく、酸化グラフェンに付着させた後に還元処理を行って表面処理グラフェンとしてもよい。また、グラフェンを微細化する場合、酸化グラフェンを微細化してもよいし、還元後のグラフェンを微細化してもよい。還元反応の均一性の観点から、酸化グラフェンを微細化した状態で還元工程を行うことが好ましく、微細化工程は還元工程の前または還元工程の最中に行うことが好ましい。このため、黒鉛剥離工程、表面処理工程、微細化工程、還元工程をこの順に含むことが好ましい。
【0031】
[黒鉛剥離工程]
まず、黒鉛を酸化剥離して酸化グラフェンを得る。酸化グラフェンの酸化度は、黒鉛の酸化反応に用いる酸化剤の量を変化させることにより調整することができる。具体的には、酸化反応の際に用いる、黒鉛に対する硝酸ナトリウムおよび過マンガン酸カリウムの量が多いほど、酸化度は高くなり、少ないほど、酸化度は低くなる。黒鉛に対する硝酸ナトリウムの重量比は、0.200以上0.800以下が好ましい。黒鉛に対する過マンガン酸カリウムの比は、1.0以上4.0以下が好ましい。
【0032】
[表面処理工程]
次に、酸化グラフェンと表面処理剤を混合し、グラフェンに表面処理剤を付着させる。混合方法としては、例えば、自動乳鉢、三本ロール、ビーズミル、遊星ボールミル、ホモジナイザー、ホモディスパー、ホモミクサー、プラネタリーミキサー、二軸混練機などのミキサーや混練機を用いて混合する方法などが挙げられる。
【0033】
[微細化工程]
次に、酸化グラフェンを微細化する。微細化方法としては、例えば、圧力を印加した分散液を単体のセラミックボールに衝突させる方法、圧力を印加した分散液同士を衝突させて分散を行う液―液せん断型の湿式ジェットミルを用いる方法、分散液に超音波を印加する方法などが挙げられる、微細化工程においては、処理圧力や出力が高いほど酸化グラフェンまたはグラフェンは微細化する傾向にあり、処理時間が長いほど微細化する傾向にある。微細化工程における微細化処理の種類・処理条件・処理時間により、還元後のグラフェンの大きさを調製することが可能である。グラフェン層に平行な大きさを前述の範囲に調整するためには、微細化工程における酸化グラフェンやグラフェンの固形分濃度は、0.01重量%以上2重量%以下が好ましい。また、超音波処理を行う場合、超音波出力は、100W以上3,000W以下が好ましい。
【0034】
[還元工程]
次に、微細化した酸化グラフェンを還元する。還元方法としては、化学還元が好ましい。化学還元の場合、還元剤としては、有機還元剤、無機還元剤が挙げられるが、還元後の洗浄の容易さから無機還元剤がより好ましい。
【0035】
有機還元剤としては、例えば、アルデヒド系還元剤、ヒドラジン誘導体還元剤、アルコール系還元剤が挙げられる。中でも、アルコール系還元剤は、比較的穏やかに還元することができるため、特に好適である。アルコール系還元剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ベンジルアルコール、フェノール、エタノールアミン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなどが挙げられる。
【0036】
無機還元剤としては、例えば、亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウム、亜リン酸、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジンなどが挙げられる。中でも、亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウムは、酸性基を比較的保持しながら還元できるので、分散媒への分散性の高いグラフェンが製造でき、好適に用いられる。
【0037】
還元工程を終えた後、好ましくは水で希釈し濾過する洗浄工程を行うことより、グラフェンの純度を向上させることができる。
【0038】
<(メタ)アクリルポリマー>
本明細書においては、アクリルポリマーおよびメタアクリルポリマーをあわせて「(メタ)アクリルポリマー」と呼称するものとする。なお、(メタ)アクリル酸等の類似の表現についても同様である。
【0039】
前述のとおり、本発明においては、薄いグラフェンとともに、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度が特定範囲であり、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーを用いる。(メタ)アクリルポリマー上の水酸基と、グラフェン上の酸素含有官能基および/または表面処理剤上の官能基との間の水素結合等の相互作用により、グラフェンの分散性を向上すると共に、グラフェンと、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーの結着力が向上する。従って、本発明においては(メタ)アクリルポリマーがヒドロキシ基を有することが重要となる。以下、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーを単位に「(メタ)アクリルポリマー」と記載する場合がある。
【0040】
本発明における(メタ)アクリルポリマーは、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度が0.1Pa・s以上100Pa・s以下である。本発明者らの検討により、かかる温度およびずり速度における粘度が、グラフェン分散液の粘度と相関する傾向にあり、グラフェン分散液の分散性および流動性に影響することが分かった。そこで、本発明においては、粘度の指標として、温度25℃、剪断速度1.0s-1における粘度に着目した。温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度がかかる範囲であることにより、(メタ)アクリルポリマーがグラフェン分散液内でより均一に混合され、グラフェンとの相互作用によって、分散性および流動性を向上させることができる。(メタ)アクリルポリマーの粘度が0.1Pa・s未満であると、分散性向上効果が不十分となり、電池寿命が低下する。一方、(メタ)アクリルポリマーの粘度が100Pa・sを超えると、グラフェン分散液の流動性が低下し、正極活物質とグラフェンの混合が不均一となる。また後述のリチウムイオン電池正極に用いた際に、導電パスの形成が不十分となり、電池寿命が低下する。グラフェン分散液の流動性および分散性をより向上させ、電池寿命をより向上させる観点から、(メタ)アクリルポリマーの粘度は、0.5Pa・s以上がより好ましく、1.0Pa・s以上がさらに好ましく、2.0Pa/s以上がいっそう好ましい。一方、グラフェン分散液の流動性をより向上させ、電池寿命をより向上させる観点から、(メタ)アクリルポリマーの粘度は、80Pa・s以下がより好ましく、60Pa・s以下がさらに好ましい。
【0041】
ここで、(メタ)アクリルポリマーの粘度は、粘弾性測定装置Physica MCR301(Anton Paar社製)を用い、温度25℃、ずり速度1.0s-1、角周波数0.018rad/s、サンプル厚み0.5mmの条件で、測定治具に43mmφのパラレルプレートを用い、回転測定により測定することができる。
【0042】
(メタ)アクリルポリマーの水酸基価は、グラフェンとの相互作用により分散性をより向上させ、電池寿命をより向上させる観点から、10mgKOH/g以上が好ましく、15mgKOH/g以上がより好ましく、20mgKOH/g以上がさらに好ましい。一方、分散媒への(メタ)アクリルポリマーの溶解性を向上させる観点、(メタ)アクリルポリマーのヒドロキシ基によるネットワーク結合の形成を抑制することにより流動性をより向上させ、電池寿命をより向上させる観点から、(メタ)アクリルポリマーの水酸基価は、300mgKOH/g以下が好ましく、250mgKOH/g以下がより好ましく、200mgKOH/g以下がさらに好ましい。ここで、(メタ)アクリルポリマーの水酸基価は、JISK0070-1992に従って求めることができる。
【0043】
ヒドロキシ基を有する、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度が0.1Pa・s以上100Pa・s以下である(メタ)アクリルポリマーとしては、例えば、商品名「“ARUFON”(登録商標)」(東亞合成株式会社製)UH-2000、UH-2041、UH-2170、UH-2190、商品名「“アクトフロー”(登録商標)」(綜研化学株式会社製)UMM-1001、UT-1001などが挙げられる。
【0044】
本発明のグラフェン分散液は、(メタ)アクリルポリマーを2種以上含有してもよい。かかる場合、2種以上の(メタ)アクリルポリマー全体としての粘度および水酸基価が前記範囲内であることが好ましい。
【0045】
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルポリマーは、ヒドロキシ基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーを重合することによっても得ることができる。ヒドロキシ基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーを2種以上用いてもよいし、必要に応じてその他のモノマーを共重合させてもよい。モノマーの種類および比率は、得られる(メタ)アクリルポリマーのガラス転移温度が25℃未満となるように選択することが好ましい。
【0046】
ヒドロキシ基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、下記一般式(a)で表される構造を有するものが好ましい。
【0047】
【0048】
一般式(a)中、Xは水素またはメチル基を示し、YはOまたはNHを示し、Rは炭素数1~12の2価の有機基を示す。
【0049】
一般式(a)中、Rの炭素数は2以上が好ましく、3以上がより好ましい。一方、Rの炭素数は10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0050】
ヒドロキシ基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸5-ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸(4-ヒドロキシメチル)シクロへキシルメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル、2-(メタ)アクリロイロキシエチル2-ヒドロキシエチルフタル酸、(メタ)アクリル酸2,2-ジメチル-2-ヒドロキシエチル、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエトキシモノエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエトキシモノプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエトキシジプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0051】
その他のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基を有する化合物、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物などが好ましい。これらを2種以上用いてもよい。
【0052】
カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等が挙げられる。これらの中でも、共重合反応性から、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0053】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジルが好ましい。
【0054】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、o-エチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロルスチレン、p-ヒドロキシスチレン、tert-ブトキシスチレン、2-ビニルナフタレンなどが挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0055】
(メタ)アクリルポリマーの製造方法としては、例えば、ヒドロキシ基を有するα,β-エチレン性不飽和結合モノマーおよび必要に応じてその他のモノマーを、公知のラジカル重合反応により重合させる方法が挙げられる。反応は、無溶媒下で行っても構わないが、合成安定性およびハンドリングの観点から、溶媒を使用することが好ましい。また、分子量を調節するために、ラジカル重合開始剤(重合開始剤)や連鎖移動剤を添加してもよい。
【0056】
溶媒としては、例えば、酢酸エチル、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノール、3,7-ジメチル-3-オクタノール、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0057】
重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーベンゾエート、クメンヒドロパーオキシドや、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等の有機過酸化物や、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2’-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等のアゾ系化合物が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。重合開始剤の添加量は、(メタ)アクリルポリマーを構成する全モノマー100質量部に対して、3質量部以下が好ましい。
【0058】
連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸ノニル、チオグリコール酸-2-エチルヘキシル等のチオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、β-ピネン等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、(メタ)アクリルポリマーの臭気を低減する観点から、チオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、β-ピネン等が好ましい。連鎖移動剤の添加量は、(メタ)アクリルポリマーを構成する全モノマー100質量部に対して、3質量部以下が好ましい。
【0059】
本発明のグラフェン分散液は、前述のグラフェン100重量部に対して、前述の(メタ)アクリルポリマーを10重量部以上300重量部以下含有する。(メタ)アクリルポリマーの含有量が10重量部未満であると、(メタ)アクリルポリマーの分散性向上効果が十分に得られず、グラフェン分散液の流動性が低下し、電池寿命が低下する。(メタ)アクリルポリマーの含有量は、15重量部以上が好ましく、20重量部以上がより好ましい。一方、(メタ)アクリルポリマーの含有量が300重量部を超えると、グラフェン分散液の粘度が上昇し、流動性が低下する。また、正極活物質と混合した際に導電パスの形成を阻害し、抵抗となるため、電池寿命が低下する。(メタ)アクリルポリマーの含有量は、200重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましい。
【0060】
本発明のグラフェン分散液は、さらに分散媒を含有する。分散媒としては、(メタ)アクリルポリマーの溶解性に優れる観点から、極性溶媒が好ましい。特に、リチウムイオン電池用途においては、バインダーポリマー溶液との親和性の観点から、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、表面処理剤による分散性向上効果をより効果的に奏する観点から、N-メチルピロリドンを含むことがより好ましい。N-メチルピロリドンがグラフェンに付着された表面処理剤に溶媒和することにより、分散性がより高められる。
【0061】
本発明のグラフェン分散液は、分散媒100重量部に対して、前述のグラフェンを0.10重量部以上5重量部以下含有することが好ましい。グラフェンの含有量を0.10重量部以上とすることにより、リチウムイオン電池正極内での導電パスを形成しやすく、電池寿命がより向上する。グラフェンの含有量は0.15重量部以上が好ましく、0.20重量部以上がより好ましい。一方、グラフェンの含有量を5重量部以下とすることにより、グラフェン分散液の流動性をより向上させ、電池寿命をより向上させることができる。グラフェンの含有量は4.5重量部以下が好ましく、4.0重量部以下がさらに好ましい。
【0062】
本発明のグラフェン分散液の製造方法としては、例えば、前記分散媒中に(メタ)アクリルポリマーを溶解させたものに、グラフェン粉末または分散液を混合する方法などが挙げられる。グラフェンの凝集をより抑制する観点から、グラフェン分散液を用いることが好ましい。
【0063】
本発明のグラフェン分散液中におけるグラフェン、(メタ)アクリルポリマーおよび分散媒の含有量は、以下の方法により求めることができる。まず、ろ過によってグラフェンと(メタ)アクリルポリマーを分離し、分散媒によりろ物をよく洗浄した後、ろ物(グラフェンを含む)を乾燥することにより、グラフェンの含有量を求めることができる。また、ろ液((メタ)アクリルポリマーを含む)から分散媒を留去した後に乾燥することにより、(メタ)アクリルポリマーの含有量を求めることができる。グラフェン分散液の重量からグラフェンの含有量および(メタ)アクリルポリマーの含有量を差し引いた重量が分散媒の含有量である。ただし、グラフェン分散液に用いる原料組成が既知である場合には、原料組成から求めることもできる。
【0064】
(メタ)アクリルポリマー溶液とグラフェン粉末または分散液との混合装置としては、せん断力を加えることのできる装置が好ましく、例えば、プラネタリーミキサー、“フィルミックス”(登録商標)(プライミクス社)、自転公転ミキサー、遊星ボールミル、3本ロールミルなどを用いることができる。
【0065】
高せん断ミキサーを用いて、せん断速度毎秒5,000~毎秒50,000で撹拌処理する強撹拌工程を行ってもよい。強撹拌工程において高せん断ミキサーによりグラフェンを剥離することにより、グラフェン同士のスタックを解消することができ、グラフェンの平均厚みを調整することができる。高いせん断ミキサーとしては、薄膜旋回方式、ローター/ステーター式、メディアミル式を採用したものが好ましく、例えば、“フィルミックス”(登録商標)30-30型(プライミクス社)、“クレアミックス”(登録商標)CLM-0.8S(エム・テクニック社)、“ラボスター”(登録商標)ミニLMZ015(アシザワ・ファインテック社)、スーパーシェアミキサーSDRT0.35-0.75(佐竹化学機械工業社)などが挙げられる。
【0066】
強撹拌工程におけるせん断速度は、上述のとおり、毎秒5,000~毎秒50,000が好ましい。せん断速度を毎秒5,000以上とすることにより、グラフェンの剥離を促進し、グラフェンの平均厚みを前述の範囲に容易に調整することができる。また、強撹拌工程の処理時間は15秒間から30分間が好ましい。
【0067】
次に、本発明のリチウムイオン電池正極について説明する。本発明のリチウムイオン電池正極は、集電体上に、正極活物質、グラフェンおよびヒドロキシを有する(メタ)アクリルポリマーを含有する合材層を有する。グラフェンの平均厚みは0.3nm以上10nm以下であり、(メタ)アクリルポリマーの温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は0.1Pa・s以上100Pa・s以下である。集電体上に、正極ペーストの乾燥膜を有することが好ましい。さらに必要に応じて、後述のグラフェン以外の導電助剤を含有してもよい。
【0068】
正極活物質は、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、スピネル型構造のマンガン酸リチウム(LiMn2O4)、岩塩型構造のマンガン酸リチウム(LiMnO2)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、ニッケルをマンガン・コバルトで一部置換した三元系(LiNixMnyCo1-x-yO2)、コバルト・アルミニウムで一部置換した三元系(LiNixCoyAl1-x-yO2)、V2O5等の金属酸化物活物質やTiS2、MoS2、NbSe2などの金属化合物系活物質、オリビン型構造のリン酸鉄リチウム(LiFePO4)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、固溶体系活物質などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、リチウムとニッケルを含有する活物質が好ましい。リチウムとニッケルを含有する活物質としては、例えば、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、ニッケルをマンガン・コバルトで一部置換した三元系(LiNixMnyCo1-x-yO2)、コバルト・アルミニウムで一部置換した三元系(LiNixCoyAl1-x-yO2)が好ましく、エネルギー密度を向上させることができる。
【0069】
さらに、造粒体の正極活物質を用いる場合は、グラフェンが正極活物質表面の凹凸形状に追従しつつ面で接する傾向があるため、特に本発明の効果が顕著になる。造粒体とは粉体を分散させたスラリーを噴霧乾燥などで球状に造粒した粒子を意味する。造粒体として用いられる正極活物質には三元系(LiNixMnyCo1-x-yO2)やLiNixCoyAl1-x-yO2などがあり、一次粒子が集合して二次粒子が形成されているため、表面が凹凸形状となる傾向があり、正極活物質と導電助剤の接する面を増やす必要があるため、本発明の効果が顕著に発揮される。
【0070】
正極活物質の粒子径は、前述のグラフェンによる導電パス形成のしやすさの観点から、20μm以下が好ましい。なお、本明細書において粒子径はメジアン径(D50)を意味するものとする。メジアン径は、レーザー散乱粒度分布測定装置(例えば、日機装社製マイクロトラックHRAX-100)により測定することができる。また、本明細書において「正極活物質の粒子径」は、正極活物質が造粒体の場合には二次粒子径を意味するものとする。
【0071】
グラフェンとしては、グラフェン分散液の材料として例示したものが挙げられる。グラフェンの平均厚み、グラフェン層に平行な方向の大きさ、O/C比およびN/C比は、それぞれリチウムイオン電池正極からグラフェンを採取し、前述の方法により求めることができる。
【0072】
(メタ)アクリルポリマーとしては、グラフェン分散液の材料として例示したものが挙げられる。
【0073】
本発明のリチウムイオン電池正極は、さらに、バインダー、グラフェン以外の導電助剤、その他添加剤を含有してもよい。
【0074】
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴムなどのゴム、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、ポリイミド前駆体および/またはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0075】
バインダーの含有量は、正極活物質の含有量100重量部に対して、0.2重量部以上2重量部以下が好ましい。バインダーの含有量を0.2重量部以上とすることにより、電池寿命をより向上させることができる。一方、バインダーの含有量を2重量部以下とすることにより、正極ペーストの流動性をより向上させ、電池寿命をより向上させることができる。なお、本発明のグラフェン分散液は、自立膜を形成し、正極活物質を保持する特徴を有するため、バインダーを含有しなくてもよい。
【0076】
グラフェン以外の導電助剤としては、高い電子伝導性を有することが好ましく、例えば、炭素繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、“VGCF”(登録商標)-H(昭和電工社製)などの炭素材料、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属材料などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、繊維形状のカーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、“VGCF”(登録商標)-H(昭和電工社製)が好ましく、電極の厚み方向の導電性を向上させることができる。
【0077】
グラフェン以外の導電助剤の含有量は、正極活物質の含有量100重量部に対して、0.1重量部以上2重量部以下が好ましい。グラフェン以外の導電助剤の含有量を0.1重量部以上とすることにより、電池寿命をより向上させることができる。一方、グラフェン以外の導電助剤の含有量を2重量部以下とすることにより、正極ペーストの流動性をより向上させ、固形分率をより向上させることができる。
【0078】
本発明のリチウムイオン電池正極は、前述のグラフェン100重量部に対して、前述の(メタ)アクリルポリマーを10重量部以上300重量部以下含有する。(メタ)アクリルポリマーの含有量が10重量部未満であると、(メタ)アクリルポリマーの分散性向上効果が十分に得られず、グラフェン分散液の流動性が低下し、電池寿命が低下する。(メタ)アクリルポリマーの含有量は、15重量部以上が好ましく、20重量部以上がより好ましい。一方、(メタ)アクリルポリマーの含有量が300重量部を超えると、相対的に正極活物質やグラフェンの含有量が低下し、(メタ)アクリルポリマーによる抵抗も増加しやすいことから、電池寿命が低下する。そのため、(メタ)アクリルポリマーの含有量は、200重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましい。
【0079】
本発明のリチウムイオン電池正極は、正極活物質100重量部に対して、前述のグラフェンを0.05重量部以上2.5重量部以下含有することが好ましい。グラフェンの含有量を0.05重量部以上とすることにより、正極ペースト固形分率を高くすることができ、電池寿命をより向上させることができる。グラフェンの含有量は、0.1重量部以上が好ましく、0.2重量部以上がより好ましい。一方、グラフェンの含有量を2.5重量部以下とすることにより、導電パスを形成しやすく、電池寿命をより向上させることができる。
【0080】
リチウムイオン電池正極中のグラフェンの含有量および正極活物質の各種物性および含有量は、以下のように測定することができる。まず電池をArグローブボックス内で解体し、電極をジメチルカーボネートで洗浄し、グローブボックスのサイドボックス内で1時間真空乾燥を行う。次にスパチュラを用いて、集電体からリチウムイオン電池正極層を剥離し、得られた粉体を、N-メチルピロリドンや水などの溶媒に溶解させ、ろ過を行うことでろ物(正極活物質、導電助剤、溶媒)とろ液(溶媒、その他)に分離する。得られたろ液を乾燥後重溶媒に再溶解しNMRを用いて分析することにより、バインダーを同定することができる。また、得られたろ物を乾燥することで溶媒を除去し、正極活物質と導電助剤の総重量を求める。正極活物質の組成比は、得られた粉末をX線回折測定することにより特定することができる。正極活物質を2種以上含有する場合は、さらに粉末をエネルギー分散型X線分光法またはICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)により分析することにより、正極活物質の混合比率を求めることができる。ただし、正極活物質に用いる原料組成が既知である場合には、原料組成から求めることもできる。さらに塩酸および硝酸などの酸を用いることで正極活物質を溶解し、ろ過を行うことでろ物(導電助剤)とろ液(電極活物質の溶解物、水)に分離する。ろ物を水で洗浄後、乾燥し、重量を測定することで導電助剤の含有量を測定することができる。また、正極活物質と導電助剤の総重量と導電助剤の重量から正極活物質の含有量を求めることができる。なお、導電助剤にグラフェンとそれ以外の材料が含まれている場合は、粉体のSEM画像から、それぞれの導電助剤の大きさを求め、グラフェンのみを通過、あるいは捕捉するように篩を用いて回収することにより、グラフェンのみの含有量を求めることができる。複数の導電助剤の大きさが同程度であり、篩がけが困難な場合は、粉体の表面SEM画像の断面面積の比率から、それぞれの含有量を求めることができる。ただし、リチウムイオン電池正極に用いる原料組成が既知である場合には、原料組成から求めることもできる。
【0081】
本発明のリチウムイオン電池正極の製造方法としては、正極ペーストを集電体上に塗工し、乾燥させる方法などが挙げられる。
【0082】
正極ペーストは、前記正極活物質、グラフェンおよびヒドロキシを有する(メタ)アクリルポリマーを含有する。グラフェンの平均厚みは0.3nm以上10nm以下であり、(メタ)アクリルポリマーの温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は0.1Pa・s以上100Pa・s以下である。さらに必要に応じて、バインダー、グラフェン以外の導電助剤、その他添加剤を含有してもよい。
【0083】
正極活物質としては、リチウムイオン電池正極の材料として例示したものが挙げられる。
【0084】
グラフェンとしては、グラフェン分散液の材料として例示したものが挙げられる。グラフェンの平均厚み、グラフェン層に平行な方向の大きさ、O/C比およびN/C比は、それぞれ正極ペーストからグラフェンを採取し、前述の方法により求めることができる。
【0085】
(メタ)アクリルポリマーとしては、グラフェン分散液の材料として例示したものが挙げられる。
【0086】
正極ペーストは、正極活物質100重量部に対して、前述のグラフェンを0.05重量部以上2.5重量部以下含有することが好ましい。グラフェンの含有量を0.05重量部以上とすることにより、正極ペースト固形分率を高くすることができ、電池寿命をより向上させることができる。グラフェンの含有量は、0.1重量部以上が好ましく、0.2重量部以上がより好ましい。一方、グラフェンの含有量を2.5重量部以下とすることにより、導電パスを形成しやすく、電池寿命をより向上させることができる。
【0087】
(メタ)アクリルポリマーの含有量は、前述のグラフェン100重量部に対して、10重量部以上300重量部以下が好ましい。(メタ)アクリルポリマーの含有量は、分散性向上効果が得られやすく、グラフェン分散液の流動性をより向上させ、電池寿命をより向上させる観点から、15重量部以上が好ましく、20重量部以上がより好ましい。一方、(メタ)アクリルポリマーの含有量は、グラフェン分散液の粘度上昇を抑制し、流動性をより向上させる観点、正極活物質と混合した際に導電パスを形成しやすく、抵抗上昇を抑制し、電池寿命をより向上させる観点から、200重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましい。
【0088】
正極ペースト中における正極活物質、グラフェンおよび(メタ)アクリルポリマーの含有量は、以下の方法により求めることができる。正極ペーストから固形分をろ過により採取し、溶媒で洗浄した後、乾燥した粉末から正極活物質と導電助剤の総重量を求める。また、ろ液((メタ)アクリルポリマーを含む)から分散媒を留去した後に乾燥することにより、(メタ)アクリルポリマーの含有量を求めることができる。さらに塩酸および硝酸などの酸を用いて正極活物質を溶解し、ろ過を行うことにより導電助剤を分離する。さらにこれを水で洗浄後、乾燥し、重量を測定することにより導電助剤の含有量を測定することができる。また、正極活物質と導電助剤の総重量と導電助剤の重量から、正極活物質の含有量を求めることができる。
【0089】
バインダーおよびグラフェン以外の導電助剤としては、リチウムイオン電池正極の材料として例示したものが挙げられる。
【0090】
バインダーの含有量は、正極活物質の含有量100重量部に対して、0.2重量部以上2重量部以下が好ましい。バインダーの含有量を0.2重量部以上とすることにより、電池寿命をより向上させることができる。一方、バインダーの含有量を2重量部以下とすることにより、正極ペーストの流動性をより向上させ、電池寿命をより向上させることができる。なお、正極ペーストは、自立膜を形成し、正極活物質を保持する特徴を有するため、バインダーを含有しなくてもよい。
【0091】
グラフェン以外の導電助剤の含有量は、正極活物質の含有量100重量部に対して、0.1重量部以上2重量部以下が好ましい。グラフェン以外の導電助剤の含有量を0.1重量部以上とすることにより、電池寿命をより向上させることができる。一方、グラフェン以外の導電助剤の含有量を2重量部以下とすることにより、正極ペーストの流動性をより向上させ、電池寿命をより向上させることができる。
【0092】
正極ペーストの構成材料および組成比を分析する方法としては、正極ペーストから固形分をろ過により採取し、溶媒で洗浄した後に乾燥した粉末を、X線回折測定することにより、正極活物質の種類を特定することができる。2種類以上の正極活物質が混ざっている場合は、さらに粉末をエネルギー分散型X線分光法またはICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)により分析することにより、正極活物質の混合比率を求めることができる。ただし、正極ペーストに用いる原料組成が既知である場合には、原料組成から求めることもできる。
【0093】
ろ液をFT-IRで測定し、得られたスペクトルよりPVDF由来のC-F吸収が観測された場合、バインダーとしてPVDFが含まれていると判断できる。また、ろ液を乾燥させ、重量を測定することで合剤層中のバインダーの含有量を測定することができる。ろ液を乾燥させたものを重溶媒に再溶解し、NMR(核磁気共鳴分光装置)を用いて分析することにより、その他のバインダーについても同定することができる。
【0094】
正極ペーストの25℃における粘度は、塗工性の観点から、1,800mPa・s以上2,200mPa・s以下が好ましい。所望の粘度になるように、分散媒を混合することが好ましい。ここで、正極ペーストの25℃における粘度は、ブルックフィールド粘度計LVDV-Eを用いて、スピンドルNo.34、60rpmの条件による測定することができる。
【0095】
本明細書中において、正極ペーストの固形分率とは、ブルックフィールド粘度計LVDV-Eを用いて、スピンドルNo.34、60rpmの条件による25℃における粘度から測定することができる。上記の測定法で1,800mPa・s以上2,200mPa・s以下となる様に調整された後の正極ペーストにおいて、スライドガラスに1gの正極ペーストを乗せ、120℃の真空オーブンで5時間加熱乾燥し、乾燥後の重量を乾燥前の重量で除した値を指す。
【0096】
正極ペーストの固形分率は、導電パスを形成させ電池寿命を向上する観点から、70重量%以上が好ましい。グラフェン分散液の流動性が高ければ、正極ペーストのおける各材料の混合状態が向上し、粘度の調整に要する分散媒の量が少なくなり、正極ペーストの固形分率を高められる。
【0097】
正極ペーストの製造方法としては、例えば、前述の本発明のグラフェン分散液と、正極活物質と、バインダーまたはバインダー溶液と、を所望の比率で混合した後、前述の方法で粘度を測定し、1,800mPa・s以上2,200mPa・s以下となる様に分散媒を追加した後、再度混合する方法が挙げられる。分散媒としては、グラフェン分散液の分散媒として例示したものが挙げられる。粘度を調整する前に、グラフェン以外の導電助剤およびその他添加剤を加えてもよい。
【0098】
正極ペーストの混合装置としては、例えば、(メタ)アクリルポリマーとグラフェン粉末または分散液との混合装置として例示したものが挙げられる。
【0099】
集電体を構成する材料は、アルミニウムやその合金が好ましい。アルミニウムは、正極反応雰囲気下で安定であることから、JIS規格1030、1050、1085、1N90、1N99等に代表される高純度アルミニウムが好ましい。集電体の厚みは、10μm以上100μm以下が好ましい。集電体の厚みを10μm以上とすることにより、破断を抑制することができる。一方、集電体の厚みを100μm以下とすることにより、エネルギー密度を向上させることができる。
【0100】
集電体上への正極ペーストの塗工方法としては、例えば、ドクターブレード、ダイコータ、コンマコータ、スプレー等により塗布する方法が挙げられる。
【0101】
本発明の正極ペーストを集電体に塗布した後、乾燥工程により分散媒を除去することが好ましい。分散媒を除去する方法としては、オーブンや真空オーブンを用いた乾燥が好ましい。分散媒を除去する雰囲気としては、空気、不活性ガス、真空状態などが挙げられる。また、分散媒を除去する温度は、60℃以上250℃以下が好ましい。
【0102】
また、乾燥後に塗膜の密度を上げるため、正極ペーストを塗布した集電体をプレスする工程を有することが好ましい。
【実施例】
【0103】
以下に実施例を用いて本発明を説明する。まず、各実施例および比較例における評価方法を説明する。
【0104】
[測定例1:グラフェンの平均厚み]
各実施例および比較例において作製したグラフェン分散液を、N-メチルピロリドンを用いて0.002重量%にまで希釈した。この時、表面処理グラフェンについては“フィルミックス”(登録商標)30-30型(プライミクス社)を用いて回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20,000)で60秒間処理した。希釈液をマイカ基板上に滴下、乾燥し、基板上に付着させた。基板上のグラフェンを、原子間力顕微鏡(Dimension Icon;Bruker社)を用いて、視野範囲1~10μm四方程度に拡大観察して、無作為に選択した10個のグラフェンについて、それぞれ厚みを測定した。なお、各グラフェンの厚みは、それぞれのグラフェンにおいて無作為に選択した5箇所の厚みの測定値の算術平均値とした。10個のグラフェンの厚みの算術平均値を求めることにより、グラフェンの平均厚みを算出した。なお、グラフェンの厚みは、グラフェン分散液、正極ペースト、リチウムイオン電池正極中で変化しないことから、グラフェン分散液のみを用いて測定した。
【0105】
[測定例2:グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさ]
各実施例および比較例において作製したグラフェン分散液を、N-メチルピロリドンを用いて0.002重量%に希釈した。この時、表面処理グラフェンについては“フィルミックス”(登録商標)30-30型(プライミクス社)を用いて回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20,000)で60秒間処理した。希釈液をマイカ基板上に滴下、乾燥し、基板上に付着させた。基板上のグラフェンを、電子顕微鏡S-5500((株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて倍率30,000倍に拡大観察し、無作為に選択した10個のグラフェンについて、グラフェン層に平行な方向の最も長い部分の長さ(長径)と最も短い部分の長さ(短径)をそれぞれ測定し、(長径+短径)/2で求められる数値の算術平均値を求めることにより、グラフェン層に平行な面の大きさを算出した。
【0106】
[測定例3:X線光電子分光法によるO/C比およびN/C比の測定]
各実施例および比較例において作製したグラフェン分散液を、吸引濾過器を用いて濾過した後、水で0.5質量%まで希釈して吸引濾過する洗浄工程を5回繰り返して洗浄し、さらに凍結乾燥して表面処理グラフェン粉末を得た。得られた表面処理グラフェン粉末について、X線光電子分光分析装置Quantera SXM (PHI社製)を用いて、光電子スペクトル測定した。励起X線は、monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6eV)とし、X線径は200μm、光電子脱出角度は45°とした。炭素原子に基づくC1sメインピークを284.3eVとし、酸素原子に基づくO1sピークを533eV付近のピーク、窒素原子に基づくN1sピークを402eV付近のピークに帰属した。O1sピークとC1sピークの面積比からO/C比を算出し、得られた値の小数点第3位を四捨五入して小数点第2位まで求めた。また、N1sピークとC1sピークの面積比からN/Cを算出し、得られた値の小数点第4位を四捨五入して小数点第3位まで求めた。
【0107】
[測定例4:(メタ)アクリルポリマーの水酸基価]
各実施例および比較例において用いた(メタ)アクリルポリマーについて、JISK0070-1992に従って水酸基価を測定した。
【0108】
[測定例5:(メタ)アクリルポリマーの粘度]
各実施例および比較例において用いた(メタ)アクリルポリマー約1gを、粘弾性測定装置Physica MCR301(Anton Paar社製)のガラスプレートに載せ、測定治具に43mmφのパラレルプレートを用い、温度25℃、ずり速度1.0s-1、角周波数0.018rad/s、サンプル厚み0.5mmの条件で、測定治具を動かしてから3分後の粘度を回転測定により測定した。
【0109】
[測定例6:グラフェン分散液の粘度]
各実施例および比較例において作製したグラフェン分散液約15gを、ブルックフィールド粘度計LVDV-Eの試料チャンバにスピンドルヘッドを覆うように入れ、No.34のスピンドルを使用し、温度:25℃、回転数:3rpmの条件で、ローターを動かしてから3分後の粘度を測定した。
【0110】
[測定例7:グラフェン分散液の分散性]
各実施例および比較例において作製したグラフェン分散液0.2gを、0―25μmの鋼製のグラインドゲージ(長さ180mm、幅60mm、厚さ12mm)の溝の深いほうの先端に流し込み、鋼製のスクレーパーの長辺がゲージの幅方向と平行になり、ゲージの溝の深い先端に刃先が接触するように置き、スクレーパーをゲージの表面に垂直になるように保持しながら、溝の長辺方向に対して直角に10cm/sの速度で溝がなくなるまで引き、引き終わってから3秒以内にゲージの溝に沿って3mm幅の帯に5以上10以下の粒子を含む点の溝の深さを測定した。グラフェン分散液がゲージの溝に沿って3mm幅の帯に5以上10以下の粒子を含む点の溝の深さが1μm未満の場合を◎、1μm以上5μm未満の場合を〇、5μm以上10μm未満の場合を△、10μm以上の場合を×とした。
【0111】
[測定例8:グラフェン分散液の流動性]
各実施例および比較例において作製したグラフェン分散液1gを、清浄かつ平坦な幅5cm長さ15cmのアルミ箔の非光沢面の一端に直径1cm程度の円形状に滴下し、アルミ箔のグラフェン分散液を設置した側を把持して上に引き上げて垂直に立て、振動を与えずに保持し、10分静置後にグラフェン分散液が自重によって垂れた距離を測定した。グラフェン分散液が垂れた距離は、アルミ箔を垂直に立てた時に重力のかかる方向のグラフェン分散液の端部について、グラフェン分散液が垂れる前と垂れた後の前記端部までの距離を測定する。グラフェン分散液が垂れた距離が10cm以上の場合を〇、3cm以上10cm未満の場合を△、3cm未満の場合を×とした。
【0112】
[測定例9:電池寿命(電池容量維持率)]
各実施例および比較例において作製した2032型コイン電池について、上限電圧4.2V、下限電圧3.0Vでレート0.1C、1C、5Cの順に充放電測定を各3回ずつ行った後、2Cでさらに191回、計200回の充放電測定を行い、200回目の電池容量を測定し、1回目の電池容量に対する比(百分率)を算出した。
【0113】
[合成例1:酸化グラフェンの調製]
1500メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社)を原料として、氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、30gの過マンガン酸カリウムを入れ、混合液の温度を20℃以下に保持しながら1時間機械撹拌した。この混合液を氷浴から取り出し、35℃水浴中で4時間撹拌し、その後イオン交換水500mlを入れて得られた懸濁液を90℃で更に15分間撹拌した。最後に600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を入れ、5分間撹拌を行い、酸化グラフェン分散液を得た。熱いうちにこれを濾過し、希塩酸溶液で金属イオンを洗浄し、イオン交換水で酸を洗浄し、pHが7になるまで洗浄を繰り返して酸化グラフェンを調製した。調製した酸化グラフェンの、X線光電子分光法により測定される酸素原子の炭素原子に対する元素比(O/C比)は0.53であった。
【0114】
[合成例2:酸化グラフェンの調製]
1500メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社)にかえてAGB-32(伊藤黒鉛工業株式会社製)に変更したこと以外は合成例1と同様にして酸化グラフェンを調製した。調製した酸化グラフェンの、X線光電子分光法により測定される酸素原子の炭素原子に対する元素比(O/C比)は0.51であった。
【0115】
[合成例3:(メタ)アクリルポリマー-1の合成]
撹拌機、還流コンデンサー、温度計、窒素導入管を取り付けた反応装置内に、溶媒として酢酸ブチル35g、モノマーとしてメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)11.7g、メタクリル酸メチル(MMA)7.30g、アクリル酸2-エチルヘキシル(EHA)0.86g、アクリル酸(AA)0.20g、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.20gを添加した後、反応装置内を窒素雰囲気下にした。そして、窒素ガスを導入しながら撹拌し、マントルヒーターにて65℃に加熱した。撹拌速度300rpmで撹拌しながら反応装置内をそのまま65℃に保ち、3時間重合した。得られたポリマー溶液を、500mLのヘキサン:エタノール=10:1(重量比)溶液中に投入し、ポリマーを沈殿させた。沈殿したポリマーを再度30gの酢酸ブチルに溶解し、500mLのヘキサン:エタノール=10:1溶液に投入してポリマーを沈殿させる作業を3回繰り返した。得られたポリマーを液体窒素で凍結粉砕した後、40℃に加熱しながら真空乾燥器で8時間乾燥し、(メタ)アクリルポリマー-1を得た。得られた(メタ)アクリルポリマー-1の温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は16Pa・s、水酸基価は252mgKOH/gであった。
【0116】
[合成例4:(メタ)アクリルポリマー-2の合成]
HEMAの添加量を1.50g、MMAの添加量を17.3gに変更した以外は合成例3と同様にして(メタ)アクリルポリマー-2を得た。得られた(メタ)アクリルポリマー-2の温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は14Pa・s、水酸基価は30mgKOH/gであった。
【0117】
[合成例5:(メタ)アクリルポリマー-3の合成]
HEMA11.7gの代わりにN-ヒドロキシエチルアクリルアミド5.85gを用い、MMAの添加量を13.2gに変更した以外は合成例3と同様にして(メタ)アクリルポリマー-3を得た。得られた(メタ)アクリルポリマー-3の温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は80Pa・s、水酸基価は110mgKOH/gであった。
【0118】
[合成例6:(メタ)アクリルポリマー-4の合成]
HEMAの添加量を2.9g、MMAの添加量を13.2gに変更し、さらにN-ヒドロキシエチルアクリルアミドを2.9g添加した以外は合成例3と同様にして(メタ)アクリルポリマー-4を得た。得られた(メタ)アクリルポリマー-4の温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は56Pa・s、水酸基価は124mgKOH/gであった。
【0119】
[合成例7:(メタ)アクリルポリマー-5の合成]
HEMAの添加量を5.85g、MMAの添加量を13.2g、AIBNの添加量を0.50gに変更し、さらに連鎖移動剤としてオクチルメルカプタンを0.50g添加した以外は合成例3と同様にして(メタ)アクリルポリマー-5を得た。得られた(メタ)アクリルポリマー-5の温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は1.2Pa・s、水酸基価は115mgKOH/gであった。
【0120】
[合成例8:(メタ)アクリルポリマー-6の合成]
HEMAの添加量を5.85g、MMAの添加量を13.2g、AIBNの添加量を0.10gに変更し、重合時間を8時間にした以外は合成例3と同様にして(メタ)アクリルポリマー-6を得た。得られた(メタ)アクリルポリマー-6は固体であり、水酸基価は112mgKOH/gであった。
【0121】
[合成例9:(メタ)アクリルポリマー-7の合成]
HEMAの添加量を3.0g、EHAの添加量を3.0gに変更した以外は合成例3と同様にして(メタ)アクリルポリマー-7を得た。得られた(メタ)アクリルポリマー-7の温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は41Pa・s、水酸基価は52mgKOH/gであった。
【0122】
[合成例10:(メタ)アクリルポリマー-8の合成]
HEMAの添加量を4.5g、MMAの添加量を15.3g、EHAの添加量を2.0gに変更した以外は合成例3と同様にして(メタ)アクリルポリマー-8を得た。得られた(メタ)アクリルポリマー-8の温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は22Pa・s、水酸基価は81mgKOH/gであった。
【0123】
[合成例11:(メタ)アクリルポリマー-9の合成]
HEMAの添加量を8.0g、MMAの添加量を4.0g、EHAの添加量を6.0gに変更した以外は合成例3と同様にして(メタ)アクリルポリマー-9を得た。得られた(メタ)アクリルポリマー-9の温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は35Pa・s、水酸基価は175mgKOH/gであった。
【0124】
[合成例12:(メタ)アクリルポリマー-10の合成]
モノマーとして(HEMA 1.0g、日油株式会社製“ブレンマー”(登録商標)PME-200 13.2g、EHA 0.86g、AA 0.20gを用い、重合開始剤としてAIBN 0.30gを用いたこと以外は合成例3と同様にしてポリマー溶液得て、ポリマーを沈殿させた。沈殿したポリマーを30gのクロロホルムに溶解し、500mLのヘキサン:エタノール=10:1溶液に投入してポリマーを沈殿させる作業を3回繰り返した。得られたポリマーを実施例1と同様に凍結粉砕し、乾燥して、(メタ)アクリルポリマー-10を得た。得られた(メタ)アクリルポリマー-10の温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度は0.7Pa・s、水酸基価は22mgKOH/gであった。
【0125】
[実施例1]
(表面処理グラフェンN-メチルピロリドン分散ペーストの調製)
合成例1により調製した酸化グラフェンを、イオン交換水を用いて濃度30mg/mlに希釈し、ホモディスパー2.5型(プライミクス社)を用いて回転数3,000rpmで30分間処理し、均一な酸化グラフェン分散液を得た。得られた酸化グラフェン分散液20mlと、表面処理剤として0.3gのドーパミン塩酸塩を混合し、ホモディスパー2.5型(プライミクス社)を用いて、回転数3,000rpmで60分間処理した。処理後の酸化グラフェン分散液を、超音波装置UP400S(hielscher社)を使用して、出力300Wで超音波を30分間印加(微細化工程)した。微細化工程を経た酸化グラフェン分散液を、イオン交換水を用いて5mg/mlに希釈し、希釈した分散液20mlに0.3gの亜ジチオン酸ナトリウムを入れて、40℃の水浴上でホモディスパー2.5型(プライミクス社)を用いて、回転数3,000rpmで1時間撹拌した。その後、減圧吸引濾過器を用いて濾過し、さらに水を用いて0.5重量%まで希釈して吸引濾過する洗浄工程を5回繰り返して洗浄して、吸引濾過後のグラフェン水ウェットケーキ(2.9重量%)を得た。得られたグラフェン水ウェットケーキに0.5重量%となるようにN-メチルピロリドンを添加し、“フィルミックス”(登録商標)30-30型(プライミクス社)を用いて、回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20,000)で60秒間処理した。処理後に減圧吸引濾過により溶媒を除去した。さらに水分を除くために、グラフェン濃度が0.5重量%になるまでN-メチルピロリドンを添加し、ホモディスパー2.5型(プライミクス社)を使用して回転数3000rpmで30分間処理して希釈し、ろ液が落ちなくなるまで減圧吸引濾過する工程を2回繰り返し、ろ物として表面処理グラフェンを5.0重量%含有するN-メチルピロリドン分散ペーストを得た。
【0126】
((メタ)アクリルポリマー溶液の調製)
N-メチルピロリドン95重量%に対し、(メタ)アクリルポリマー“ARUFON”(登録商標)UH-2041(東亞合成株式会社製、水酸基価121mgKOH/g、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度11Pa・s)5重量%を加え、密閉された容器中でマグネチックスターラーの撹拌下、“ARUFON”UH-2041を完全に混合させ、5重量%“ARUFON”UH-2041/N-メチルピロリドン溶液を得た。
【0127】
(グラフェン分散液の調製)
表面処理グラフェンを5.0重量%含有するN-メチルピロリドン分散ペースト10gに対し、5重量%“ARUFON”UH-2041/N-メチルピロリドン2.5gおよびN-メチルピロリドン4.2gを加えた後、“フィルミックス”(登録商標)30-30型(プライミクス社)を用いて回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20,000)で15分間撹拌し(強撹拌工程)、グラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液のグラフェン固形分濃度は3重量%であり、(メタ)アクリルポリマー含有量はグラフェン100重量部に対して25重量部であった。
【0128】
得られたグラフェン分散液について、測定例1および2に従って、グラフェンの厚みおよびグラフェン層に平行な方向の大きさを測定した。また、測定例3に従って、O/C比およびN/C比を測定し、測定例6に従ってグラフェン分散液の粘度を測定し、測定例7および8に従ってグラフェン分散液の分散性および流動性を評価した。
【0129】
(コイン電池の作製)
正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3O220gと、導電助剤として3重量%グラフェン分散液5gと、バインダーとして10重量%PVDF/N-メチルピロリドン溶液2gを、自転公転ミキサーを用いて回転速度2,000rpmで15分間混合し、ブルックフィールド粘度計LVDV-Eを用いて、スピンドルNo.34、60rpm、25℃の条件で粘度を測定し、粘度が2,200mPa・sになるまでN-メチルピロリドンを追加した。ここで、正極ペーストの粘度が2,200mPa・sとなる様に追加するN-メチルピロリドンの量を調整した。これを、再度自転公転ミキサーを用いて回転速度2,000rpmで15分間混合して正極ペーストを得た。
【0130】
得られた正極ペーストを、アルミニウム箔(厚さ18μm)に、乾燥後の正極ペースト目付け量が18mg/cm2となるようにドクターブレードを用いて塗布し、80℃15分間乾燥後、120℃2時間の真空乾燥を行い、電極板を得た。
【0131】
作製した電極板を直径15.9mmに切り出して正極とし、対極として銅箔上に形成された黒鉛98重量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム1重量部、SBR水分散液1重量部からなる負極を直径16.1mmに切り出して用いた。直径17mmに切り出したセルガード#2400(セルガード社製)をセパレータとし、LiPF6を1mol/L含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=7:3の溶媒を電解液として、2032型コイン電池を作製した。得られたコイン電池の電池寿命(電池容量維持率)を、測定例9に従って測定した。
【0132】
[実施例2]
強撹拌工程を5分間に短縮したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0133】
[実施例3]
微細化工程を120分間に延長したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0134】
[実施例4]
亜ジチオン酸ナトリウムの使用量を0.05gに減量したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0135】
[実施例5]
ドーパミン塩酸塩をカテコールに変更したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0136】
[実施例6]
実施例1のドーパミン塩酸塩の使用量を0.7gに増量したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0137】
[実施例7]
グラフェン分散液の調製において、表面処理グラフェンを5.0重量%含有するN-メチルピロリドン分散ペースト10gに対し、5重量%“ARUFON”UH-2041/N-メチルピロリドン溶液1.0gを加え、N-メチルピロリドン5.7gを追加したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0138】
[実施例8]
実施例1と同様に表面処理グラフェンN-メチルピロリドン分散ペーストを調製した。
【0139】
N-メチルピロリドン80重量%に対し、(メタ)アクリルポリマー“ARUFON”UH-2041 20重量%を加え、密閉された容器中でマグネチックスターラーの撹拌下、90℃に加熱し、“ARUFON”UH-2041を完全に混合させ、20重量%“ARUFON”UH-2041/N-メチルピロリドン溶液を得た
グラフェン分散液の調製において、表面処理グラフェンを5.0重量%含有するN-メチルピロリドン分散ペースト10gに対し、20重量%“ARUFON”UH-2041/N-メチルピロリドン2.5gを加え、N-メチルピロリドン4.2gを加えた後、“フィルミックス”(登録商標)30-30型(プライミクス社)を用いて回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20,000)で15分間撹拌し(強撹拌工程)、グラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0140】
[実施例9]
グラフェン分散液の調製において、表面処理グラフェンを5.0重量%含有するN-メチルピロリドン分散ペースト10gに対し、20重量%“ARUFON”UH-2041/N-メチルピロリドン6.25gを加え、N-メチルピロリドン0.45gを追加したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0141】
[実施例10]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを“ARUFON”UH-2000(東亞合成株式会社製、水酸基価19mgKOH/g、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度13Pa・s)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0142】
[実施例11]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを(メタ)アクリルポリマー-1(水酸基価252mgKOH/g、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度16Pa・s)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0143】
[実施例12]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを(メタ)アクリルポリマー-2(水酸基価30mgKOH/g、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度14Pa・s)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0144】
[実施例13]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを(メタ)アクリルポリマー-3(水酸基価110mgKOH/g、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度80Pa・s)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0145】
[実施例14]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを(メタ)アクリルポリマー-4(水酸基価124mgKOH/g、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度56Pa・s)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0146】
[実施例15]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを(メタ)アクリルポリマー-5(水酸基価115mgKOH/g、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度1.2Pa・s)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0147】
[実施例16]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを(メタ)アクリルポリマー-7(水酸基価52mgKOH/g、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度41Pa・s)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0148】
[実施例17]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを(メタ)アクリルポリマー-8(水酸基価81mgKOH/g、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度22Pa・s)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0149】
[実施例18]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを(メタ)アクリルポリマー-9(水酸基価175mgKOH/g、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度35Pa・s)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0150】
[実施例19]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを(メタ)アクリルポリマー-10(水酸基価22mgKOH/g、温度25℃、ずり速度1.0s-1における粘度0.7Pa・s)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0151】
[実施例20]
ドーパミン塩酸塩をベンジルアミン塩酸塩に変更し、添加量を0.1gに変更したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0152】
[実施例21]
ドーパミン塩酸塩をベンジルアミン塩酸塩に変更し、添加量を0.2gに変更したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0153】
[実施例22]
ドーパミン塩酸塩をフェニルエチルアミン塩酸塩に変更し、添加量を0.5gに変更し、添加時の温度を60℃に変更したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0154】
[実施例23]
強撹拌工程を7分間に短縮したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0155】
[比較例1]
(メタ)アクリルポリマーを用いなかったこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0156】
[比較例2]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを“ARUFON”(登録商標)UC-3510(東亞合成株式会社製、水酸基なし、粘度6.7Pa・s)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0157】
[比較例3]
グラフェン分散液の調製において、(メタ)アクリルポリマーを(メタ)アクリルポリマー-6(水酸基価112mgKOH/g、固体)にしたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0158】
[比較例4]
グラフェン分散液の調製において、表面処理グラフェンを5.0重量%含有するN-メチルピロリドン分散ペースト10gに対し、5重量%“ARUFON”UH-2041/N-メチルピロリドン0.5gを加え、N-メチルピロリドン6.2gを追加したこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0159】
各実施例および比較例の組成および評価結果を表1に示す。
【0160】
[比較例5]
実施例1の表面処理グラフェンN-メチルピロリドン分散ペーストの調製において、グラフェン水分散液の代わりにグラファイトナノプレートレット(型番M-5,XGサイエンス社製)を、イオン交換水を用いて濃度0.5重量%になる様に希釈し、ホモディスパー2.5型(プライミクス社)を用いて回転数3,000rpmで30分間処理したものを用いたこと以外は実施例1と同様にしてグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液を用いて、実施例1と同様に正極ペーストおよび2032型コイン電池を作製した。
【0161】
各実施例および比較例のグラフェン分散液の構成と評価結果を表1に示す。
【0162】