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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-06
(45)【発行日】2025-10-15
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20251007BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20251007BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20251007BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20251007BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20251007BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20251007BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M10/0567
H01M4/133
H01M4/62 Z
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021570079
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2021000276
(87)【国際公開番号】W WO2021141074
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2020001435
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】岡島 宇史
(72)【発明者】
【氏名】奥坊 崇司
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/083937(WO,A1)
【文献】特開2019-096629(JP,A)
【文献】特開2013-118138(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034043(WO,A1)
【文献】特開2018-125198(JP,A)
【文献】特開2016-091987(JP,A)
【文献】特開2013-157339(JP,A)
【文献】特開2010-129363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 10/0567
H01M 4/133
H01M 4/62
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、正極と、非水電解液とを備え、
上記負極が黒鉛及びアクリル系樹脂を含む負極活物質層を有し、
上記非水電解液がリチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有し、
上記アクリル系樹脂が、アクリル酸由来の構造単位の含有割合が75質量%以上の樹脂である、非水電解質蓄電素子。
【請求項2】
上記非水電解液におけるリチウムジフルオロオキサラトボレート又はリチウムジフルオロホスフェートの含有割合が0.2質量%以上2.0質量%以下である請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
上記正極が、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む正極活物質を含む請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項4】
負極、正極、及び非水電解液をケースに収容することを備え、
上記負極は、黒鉛及びアクリル系樹脂を含む負極活物質層を有し、
上記非水電解液は、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有し、
上記アクリル系樹脂が、アクリル酸由来の構造単位の含有割合が75質量%以上の樹脂である、非水電解質蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン非水電解質二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極を有する電極体、及び電極間に介在する非水電解質を備え、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
上記自動車等のエネルギー源としては、急速充電性能を有するリチウムイオン非水電解質二次電池が求められている。例えば特許文献1には、正極活物質として特定の組成を有しスピネル構造を有するマンガン含有酸化物と、特定の組成を有し、層状構造を有するニッケル含有酸化物を有するものを用いることで、急速充電を可能とする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-076997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年のエネルギー源としてのリチウムイオン二次電池に対する需要も急増して状況においては、急速充電性能のさらなる向上が求められている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、急速充電特性に優れる非水電解質蓄電素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、負極と、正極と、非水電解液とを備え、上記負極が黒鉛及びアクリル系樹脂を含む負極活物質層を有し、上記非水電解液がリチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有する。
【0008】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、負極、正極及び非水電解液をケースに収容することを備え、上記負極は、黒鉛及びアクリル系樹脂を含む負極活物質層を有し、上記非水電解液は、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、急速充電特性に優れる。
【0010】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、急速充電特性に優れる非水電解質蓄電素子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す外観斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、負極と、正極と、非水電解液とを備え、上記負極が黒鉛及びアクリル系樹脂を含む負極活物質層を有し、上記非水電解液がリチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有する。
【0013】
非水電解質蓄電素子に用いられる負極材料としては、リチウムに近い卑な電位で単位質量あたりの充放電容量の大きい黒鉛が広く用いられ、負極用バインダーとしては、比較的少ない添加量で利用可能なスチレンブタジエンゴムが広く用いられている。一方、本発明者らは、非水電解質蓄電素子の負極活物質層が負極活物質としての黒鉛と、バインダーとしてのアクリル系樹脂とを含み、非水電解液がリチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有することで、非水電解質蓄電素子の急速充電性能が優れることを知見した。この理由は定かではないが、次のように考えられる。負極用バインダーとしてスチレンブタジエンゴムが含まれる場合、負極活物質である黒鉛のエッジ面に比較的多く分布する。これに対し、負極用バインダーとしてアクリル系樹脂が含まれる場合、上記黒鉛の周囲に均一に分布する。また、非水電解液にリチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方が含有されると、リチウムジフルオロオキサラトボレートやリチウムジフルオロホスフェートによる良質な被膜が、上記黒鉛のエッジ面に多く形成される。その結果、非水電解質蓄電素子の急速充電性能が向上したと考えられる。
【0014】
上記非水電解液におけるリチウムジフルオロオキサラトボレート又はリチウムジフルオロホスフェートの含有割合が0.2質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。リチウムジフルオロオキサラトボレート又はリチウムジフルオロホスフェートの含有割合が上記範囲であることで、非水電解質蓄電素子の急速充電性能をより向上できる。
【0015】
上記正極が、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む正極活物質を含むことが好ましい。上記正極が、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む正極活物質を含むことで、当該非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を向上できる。
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子について詳説する。
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、負極と、正極と、非水電解液とを備える。以下、非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、非水電解質二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属ケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0017】
[負極]
負極は、負極基材と、負極活物質層とを有する。上記負極活物質層は、負極活物質を含有する。上記負極活物質層は、上記負極基材の少なくとも一方の面に沿って直接又は中間層を介して積層される。
【0018】
(負極基材)
上記負極基材は、導電性を有する基材である。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。また、負極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が1×10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が1×10Ω・cm超であることを意味する。
【0019】
(負極活物質層)
負極活物質層は、負極基材の少なくとも一方の面に沿って直接又は中間層を介して積層される。負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成される。負極活物質層は、黒鉛及びアクリル系樹脂を含む。
【0020】
負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。当該非水電解質蓄電素子は、負極活物質として黒鉛(グラファイト)を含む。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。
【0021】
上記負極活物質層は、その他の負極活物質として、例えば、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)や易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等のその他の炭素材料、Si等の半金属、Sn等の金属、これら半金属又は金属の酸化物、又は、これら半金属又は金属と炭素材料との複合体等が含まれていてもよい。これらの材料は1種を単独で、または2種以上を適宜組みあわせて用いることができる。これらの中でも難黒鉛化性炭素を含むことが好ましい。難黒鉛化性炭素を含むことで、充電時の負極の膨張を小さく抑えることができる。また、負極活物質層の形状を長期にわたってより良く安定的に維持することができる。
【0022】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0023】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0024】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0025】
負極活物質中の黒鉛の含有量の下限としては、60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。
【0026】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は特に限定されないが、その下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量がより好ましい。
【0027】
(バインダー)
当該非水電解質蓄電素子の負極合剤は、バインダーとしてアクリル系樹脂を含む。「アクリル系樹脂」とは、アクリル酸若しくはメタクリル酸、又はこれらの誘導体を主成分とするモノマーから形成された樹脂をいう。「主成分とする」とは、アクリル系樹脂におけるアクリル酸若しくはメタクリル酸、又はこれらの誘導体由来の構造単位の含有割合が、50質量%以上であることを意味する。アクリル系樹脂におけるアクリル酸若しくはメタクリル酸、又はこれらの誘導体由来の構造単位の含有割合の下限は50質量%であり、60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、75質量%がさらに好ましい。上記アクリル系樹脂としては、例えばポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリルアミド、アクリル酸を含む共重合体、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩が挙げられ、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩が好ましく、ポリアクリル酸がより好ましい。なお、ポリアクリロニトリル及びアクリロニトリルを含む共重合体は、アクリル系樹脂に含まれないものとする。
【0028】
上記負極合剤は、その他のバインダーとして、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が含まれていてもよい。なお、入力特性の観点から、上記バインダーは、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)のように、ブタジエン由来の構造単位を有する樹脂の含有量が少ないことが好ましく、ブタジエン由来の構造単位を有する樹脂を実質的に含まないことがより好ましい。具体的には、アクリル系樹脂に対する上記スチレン-ブタジエンゴム(SBR)の質量比の上限としては、2.3が好ましく、1.5がより好ましく、1.0がさらに好ましく、0.5が特に好ましい。また、アクリル酸由来の構造単位とブタジエン由来の構造単位との共重合体においても同様に、ブタジエン由来の構造単位の含有割合が少ないことが好ましい。具体的には、アクリル酸由来の構造単位とブタジエン由来の構造単位を含む共重合体におけるブタジエン由来の構造単位の含有割合の上限は、例えば、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましく、30質量%がさらに好ましく、25質量%がよりさらに好ましい。上記アクリル系樹脂は、出力性能を向上させる観点から、ブタジエン由来の構造単位を含まなくてもよく、負極活物質層の密着性の観点から、ブタジエン由来の構造単位を含んでいてもよい。アクリル酸由来の構造単位とブタジエン由来の構造単位を含む共重合体におけるブタジエン由来の構造単位の含有割合の下限は、例えば、1質量%であってもよく、2質量%、5質量%、又は10質量%が好ましい場合もある。
【0029】
上記バインダーにおけるアクリル系樹脂の含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましく、100質量%であってもよい。
【0030】
負極活物質層中のバインダーの含有量の下限としては、0.2質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましく、1質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量がより好ましい。
【0031】
負極活物質層におけるバインダーの含有量は、0.2質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がより好ましい。バインダーの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0032】
(その他の任意成分)
負極合剤は、必要に応じて導電剤、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0033】
上記導電剤としては、導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛化炭素、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0034】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0035】
上記フィラーとしては、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0036】
(中間層)
上記中間層は、負極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材と負極活物質層との接触抵抗を低減する。上記正極と同様、中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0037】
[正極]
正極は、正極基材と、正極活物質層とを有する。上記正極活物質層は、正極活物質を含有する。上記正極活物質層は、上記正極基材の少なくとも一方の面に沿って直接又は中間層を介して積層される。
【0038】
(正極基材)
上記正極基材は、導電性を有する基材である。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H4000(2014)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0039】
(正極活物質層)
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される。上記正極活物質としては、例えば、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi1-x]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物として、LiMn,LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。上記正極活物質としては、これらの中でも、高エネルギー密度化の観点から上記リチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、Li以外に、ニッケル、コバルト及びマンガンを構成元素として含むニッケルコバルトマンガン含有リチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。
【0040】
上記正極活物質として挙げられた材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
正極活物質層中の正極活物質の含有量は特に限定されないが、その下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましい。
【0042】
(その他の任意成分)
正極合剤は、必要に応じてバインダー、導電剤、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0043】
バインダーとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0044】
導電剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記負極で例示した材料から選択できる。
【0045】
(中間層)
上記中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0046】
[非水電解質]
上記非水電解質は、通常、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。本実施形態に係る非水電解質蓄電素子では、非水電解液が添加剤としてリチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有する。
【0047】
(非水溶媒)
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0048】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0049】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0050】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0051】
(電解質塩)
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0052】
上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiC(SOCF、LiC(SO等の水素がフッ素で置換された炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0053】
上記電解質塩の非水溶液における含有量の下限としては、0.1mol/dmが好ましく、0.3mol/dmがより好ましく、0.5mol/dmがさらに好ましく、0.7mol/dmが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5mol/dmが好ましく、2mol/dmがより好ましく、1.5mol/dmがさらに好ましい。非水溶液とは、非水溶媒に電解質塩を溶解させた状態のものを意味し、ホウ素含有オキサラト錯塩等の添加剤を溶解させる前の状態を意味する。
【0054】
(添加剤)
上記非水電解質は、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有する。上記非水電解質がリチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有することで、当該非水電解質蓄電素子は急速充電特性に優れる。
【0055】
上記非水電解質におけるリチウムジフルオロオキサラトボレート又はリチウムジフルオロホスフェートの含有量の下限としては、0.05質量%が好ましく、0.2質量%がより好ましく、0.3質量%がさらに好ましく、0.5質量%がよりさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、2.0質量%が好ましく、1.5質量%がさらに好ましい。リチウムジフルオロオキサラトボレート又はリチウムジフルオロホスフェートの含有量が上記範囲であることで、充放電サイクル後の内部抵抗の増加に対する抑制効果をより向上できる。ここで、リチウムジフルオロオキサラトボレート又はリチウムジフルオロホスフェートの含有量とは、非水溶液の質量に対するリチウムジフルオロオキサラトボレート又はリチウムジフルオロホスフェートの質量を意味する。
【0056】
上記非水電解質は、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの両方を含有してもよい。
上記非水電解質が、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの両方を含有する場合、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの含有量の和の下限としては、0.05質量%が好ましく、0.2質量%がより好ましく、0.3質量%がさらに好ましく、0.4質量%がよりさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、4.0質量%が好ましく、3.0質量%がさらに好ましく、2.0質量%がよりさらに好ましく、1.5質量%が好ましい場合もある。リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの含有量の和が上記範囲であることで、充放電サイクル後の内部抵抗の増加に対する抑制効果をより向上できる。ここで、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの含有量の和とは、非水溶液の質量に対するリチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの質量の和を意味する。
【0057】
上記非水電解質には、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェート以外のその他の添加剤が添加されていてもよい。上記その他の添加剤としては、例えばリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、フルオロスルホン酸リチウム、テトラフルオロオキサラトリン酸リチウム等が挙げられる。
【0058】
上記非水電解質は、上記非水溶媒に上記電解質塩、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を溶解させることにより得ることができる。
【0059】
[セパレータ]
上記セパレータとしては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0060】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていてもよい。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダーとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。
【0061】
[蓄電素子の具体的構成]
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、ケース内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2がケース3に収納されている。電極体2は、正極活物質層を備える正極と、負極活物質層を備える負極とが、セパレータを介して巻回されることにより形成されている。正極は、正極集電体4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極集電体5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、ケース3には、非水電解質が注入されている。
【0062】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【0063】
[非水電解質蓄電素子の製造方法]
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、上記負極と、正極と、上述のリチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有する非水電解質とをケースに収容することを備える。上記正極は、正極基材に直接又は中間層を介して上記正極活物質層を積層することにより得ることができる。上記正極活物質層の積層は、正極基材に、正極合剤ペーストを塗工することにより行う。また、上記負極は、上記正極と同様、負極基材に直接又は中間層を介して上記負極活物質層を積層することにより得ることができる。上記負極活物質層の積層は、負極基材に、黒鉛及びアクリル系樹脂を含む負極合剤ペーストを塗工することにより行う。上記正極合剤ペースト及び負極合剤ペーストは、分散媒を含んでいてもよい。この分散媒としては、例えば、水、水を主体とする混合溶媒等の水系溶媒;N-メチルピロリドン、トルエン等の有機系溶媒を用いることができる。
【0064】
また、上記非水電解質蓄電素子の製造方法は、その他の工程として、例えば、セパレータを介して上記負極及び上記正極を積層することを備える。セパレータを介して上記負極及び上記正極を積層することにより、電極体が形成される。
【0065】
上記負極、正極、非水電解質等をケースに収容する方法は、公知の方法により行うことができる。収容後、収容口を封止することにより非水電解質蓄電素子を得ることができる。上記製造方法によって得られる非水電解質蓄電素子を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0066】
[その他の実施形態]
本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0067】
また、上記実施形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。非水電解質二次電池としては、リチウムイオン非水電解質二次電池が挙げられる。
【0068】
また、上記実施形態においては巻回型の電極体を用いていたが、正極、負極及びセパレータを備える複数のシート体を重ねた積層体から形成される積層型電極体を備えてもよい。
【0069】
本発明は、複数の上記非水電解質蓄電素子を備える蓄電装置としても実現することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。また、単数又は複数個の本発明の非水電解質蓄電素子(セル)を用いることにより組電池を構成することができ、さらにこの組電池を用いて蓄電装置を構成することができる。上記蓄電装置は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として用いることができる。さらに、上記蓄電装置は、エンジン始動用電源装置、補機用電源装置、無停電電源装置(UPS)等の種々の電源装置に用いることができる。
【0070】
図2に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【実施例
【0071】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
[実施例1から実施例2及び比較例1から比較例8]
(負極)
負極活物質としての黒鉛及び難黒鉛化性炭素と、表1に記載のバインダーと、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)を含有し、水を分散媒とする塗工液(負極合剤ペースト)を調製した。上記負極活物質における黒鉛及び難黒鉛化性炭素の質量比は、85:15とした。負極活物質、バインダー、増粘剤の混合比率は、質量比で96:2:2とした。塗工液を厚さ10μmの銅箔基材の両面に塗工し、乾燥して、負極活物質層を形成し、実施例及び比較例の負極を得た。
(非水電解質)
エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比30:70で混合した非水溶媒に、LiPFを1.4mol/dm溶解させたものを非水溶液として、表1に示す含有量(非水溶液を100質量%としたときの含有割合)の添加剤を溶解させて非水電解質を得た。添加剤には、リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiFOB)、リチウムジフルオロホスフェート(LiDFP)、ビニレンカーボネート(VC)、リチウムジフルオロビスオキサラトホスフェート(LiFOP)、リチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)を用いた。なお、表1において、「-」は各成分を用いなかった場合を示す。
(正極)
α―NaFeO型結晶構造を有するNCM(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)を正極活物質として含有する正極を作製した。正極は、上記正極活物質と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤としてのアセチレンブラックとを含有し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とする塗工液(正極合剤ペースト)を調製した。正極活物質、バインダー、導電剤の混合比率は、質量比で、93:4:3とした。塗工液を正極基材の両面に塗工し、乾燥し、プレスして、正極活物質層を形成した。正極基材には、厚さ15μmのアルミニウム箔を使用した。
【0073】
(非水電解質蓄電素子の作製)
次に、ポリエチレン基材及び上記ポリエチレン基材上に形成された無機層からなるセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層し、電極体を作製した。この電極体をアルミニウム製の角形電槽缶に収納し、正極端子及び負極端子を取り付けた。このケース(角形電槽缶)内部に上記非水電解質を注入した後、封口し、実施例及び比較例の非水電解質蓄電素子を得た。
【0074】
[評価]
(初期放電容量の測定)
得られた各非水電解質蓄電素子について、充電終止電圧を4.25Vとして、25℃の温度環境下、0.18Aで7時間の定電流定電圧充電をおこなった。充電の終了後、放電終止電圧を2.75Vとして、0.18Aの電流値で定電流放電をおこない、10分間の休止を設けた後、充電終止電圧を4.25Vとして、25℃の温度環境下、0.9Aで3時間の定電流定電圧充電をおこなった。10分間の休止を設けた後、0.9Aの電流値で定電流放電をおこなった。この放電容量を「初期放電容量」とした。
【0075】
(急速充電性能)
上記初期放電容量の測定後の各非水電解質蓄電素子について、以下の条件にて急速充電性能の評価を行った。
25℃において、4.25Vまで充電電流2.2Aの定電流にて充電したのち、4.25Vの定電圧にて充電した。充電の終了条件は、充電時間が3時間とした。その後、10分間の休止時間を設けた。その後、2.75Vまで2.2Aの定電流放電を行い、その後、10分間の休止時間を設けた。この充放電を10サイクル実施した。
得られた値は、10サイクル後に低下した容量を示し、値が小さいほど急速充電性能が良好である。結果を下記表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示されるように、負極活物質層がバインダーとしてアクリル系樹脂を含み、非水電解液が添加剤としてリチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有する実施例1及び実施例2は、急速充電性能が良好であった。
【0078】
非水電解液が添加剤を含まない比較例1及び比較例2は、バインダーがアクリル系樹脂であるか、スチレンブタジエン共重合体であるかに係わらず、実施例と比較して急速充電性能が劣っていた。また、非水電解液が添加剤としてリチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジフルオロホスフェートの少なくとも一方を含有していても、バインダーがスチレンブタジエン共重合体である比較例3及び比較例4は、急速充電特性の向上効果が得られなかった。さらに、非水電解液が添加剤としてビニレンカーボネート(VC)、リチウムジフルオロビスオキサラトホスフェート(LiFOP)、リチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)のいずれかを含有する比較例5から比較例7は、バインダーがアクリル系樹脂であるにも係わらず、急速充電特性の向上効果が得られなかった。
【0079】
一方、比較例1及び比較例8の結果から、バインダーとしてアクリル系樹脂がブタジエンのモノマーユニットを含む場合、急速充電性能が低下することがわかる。
【0080】
以上のように、当該非水電解質蓄電素子は、急速充電特性に優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質二次電池をはじめとした非水電解質蓄電素子として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0082】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 ケース
4 正極端子
4’ 正極集電体
5 負極端子
5’ 負極集電体
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2