(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-06
(45)【発行日】2025-10-15
(54)【発明の名称】エレベータ
(51)【国際特許分類】
B66B 1/34 20060101AFI20251007BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20251007BHJP
【FI】
B66B1/34 C
B66B5/00 D
(21)【出願番号】P 2024206058
(22)【出願日】2024-11-27
【審査請求日】2024-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【氏名又は名称】浅野 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100199761
【氏名又は名称】福屋 好泰
(74)【代理人】
【識別番号】100182121
【氏名又は名称】三宅 紘子
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-184792(JP,A)
【文献】特表2009-542550(JP,A)
【文献】特開2007-308288(JP,A)
【文献】特開平11-175192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/34
B66B 5/00
H05K 5/00- 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ用昇降路を昇降する乗りかごと、前記乗りかごのかご上に設置される安全柵とを備えるエレベータであって、
前記乗りかごの昇降移動範囲に近接配置された筐体と、前記筐体内に収容された保守点検対象物と、前記筐体に上端部を回転可能に支持され前記筐体から突き出すように折り曲げることで開閉可能に構成されるカバー部とを含み、前記カバー部は前記筐体から突き出すように折り曲げることにより前記保守点検対象物のうち下側に位置する下側点検対象物が露出する第1の開放位置で保持可能に構成される制御ユニットと、
前記制御ユニットの前記カバー部を閉じた状態から前記第1の開放位置まで変位させるときに前記カバー部の変位を前記安全柵が妨げず且つ前記カバー部に近接する上下方向位置である第1所定位置まで前記乗りかごを昇降させる第1の昇降操作部と、
を含むエレベータ。
【請求項2】
前記筐体は、前記保守点検対象物のうち上側に位置する上側点検対象物も露出する第2の開放位置で前記カバー部を保持可能に構成され、
前記乗りかごのかご上に設けられ、前記第1の開放位置から前記第2の開放位置まで前記カバー部を変位させるときに前記カバー部の変位を前記安全柵が妨げない位置であり且つ前記カバー部に近接する上下方向位置である第2所定位置まで前記乗りかごを昇降させる第2の昇降操作部を含む、
請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
前記第1の昇降操作部は、前記乗りかごのかご上に設けられている、
請求項1に記載のエレベータ。
【請求項4】
前記第1の昇降操作部は、前記乗りかごのかご内に設けられている、
請求項1に記載のエレベータ。
【請求項5】
前記第1所定位置は、前記乗りかごのかご上に乗り込んだ状態で前記カバー部に手が届く位置に設定される、
請求項1に記載のエレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータに関し、特に、エレベータ用昇降路内における保守点検作業に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータの中には、昇降路のピット(底部)に乗りかごの運転を制御する電子機器などの保守点検時などに点検作業を行う必要がある保守対象機器などを格納する制御ユニットが設置されているものもある。
【0003】
ところで、昇降路のピットに制御ユニットを設置した場合には、大雨などによりピットが冠水すると制御ユニットも冠水することとなり、その後の復旧作業に手間を要することとなる。そのため、エレベータの中には昇降路内のピットよりも高い位置、例えば、昇降路内の最上部などに制御ユニットを設置するものもある。
【0004】
また、昇降路内の高い位置に制御ユニットを設置する場合には、乗りかごのかご上に保守員が乗り込むとともに、かご上の周辺部に安全柵を設置した上で、かご上に設置されているかご上操作部を介して乗りかごを昇降させて制御ユニットが設置されている位置周辺まで乗りかごを昇降させた上で作業を行う必要がある。
【0005】
この点に関し、特許文献1には、機器取付板に取り付けられた保守対象機器が回転パネルと一体に変位するように設けられており、同回転パネルに取り付けられた操作レバーを介して同パネルを回転軸周りに回転させることによって上方の通常位置と下方の点検位置との間で回転移動するように構成された制御ユニットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載のエレベータは、制御ユニットが昇降路内のピットよりも高い位置に設置されている場合に、かご上に保守員が乗り込んだ上で制御ユニットに近接する位置まで乗りかごを昇降させて保守点検作業を行う必要がある。この際、仮に、乗りかごの上下方向位置が相対的に低すぎると制御ユニットの開閉作業がスムーズに行なうことができない場合がある。
【0008】
一方、乗りかごの上下方向位置が相対的に高すぎると操作レバーを操作するときに同レバーに保守員の手は届くものの操作レバーや回転パネルなど昇降路中央部側に変位して飛び出す部分が安全柵に当接してしまい開閉作業を円滑に行うことができない場合も発生する。
【0009】
これらの点から、制御ユニットに対する保守点検作業を支障なく行うためには乗りかごの昇降位置を保守員がかご上操作部を介して目視で確認しながら調整しなければならず昇降位置の調整に手間を要するという問題がある。
【0010】
本発明では、保守点検作業の作業手間を軽減させることが可能なエレベータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のエレベータは、エレベータ用昇降路を昇降する乗りかごと、乗りかごのかご上に設置される安全柵とを備えるエレベータであって、乗りかごの昇降移動範囲に近接配置された筐体と、筐体内に収容された保守点検対象物と、筐体に上端部を回転可能に支持され筐体から突き出すように折り曲げることで開閉可能に構成されるカバー部とを含み、カバー部は筐体から突き出すように折り曲げることにより保守点検対象物のうち下側に位置する下側点検対象物が露出する第1の開放位置で保持可能に構成される制御ユニットと、制御ユニットのカバー部を閉じた状態から第1の開放位置まで変位させるときにカバー部の変位を安全柵が妨げず且つカバー部に近接する上下方向位置である第1所定位置まで乗りかごを昇降させる第1の昇降操作部と、を含むものである。
【0012】
本発明のエレベータにおいて、筐体は、保守点検対象物のうち上側に位置する上側点検対象物も露出する第2の開放位置でカバー部を保持可能に構成され、乗りかごのかご上に設けられ、第1の開放位置から第2の開放位置までカバー部を変位させるときにカバー部の変位を安全柵が妨げない位置であり且つカバー部に近接する上下方向位置である第2所定位置まで乗りかごを昇降させる第2の昇降操作部を含んでもよい。
【0013】
本発明のエレベータにおいて、第1の昇降操作部は、乗りかごのかご上に設けられてもよい。
【0014】
本発明のエレベータにおいて、第1の昇降操作部は、乗りかごのかご内に設けられてもよい。
【0015】
本発明のエレベータにおいて、第1所定位置は、乗りかごのかご上に乗り込んだ状態でカバー部に手が届く位置に設定されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るエレベータによれば、第1の昇降操作部を介して乗りかごの上下方向位置を第1所定位置に昇降させることにより保守員がカバー部を閉じた状態から第1の開放位置まで折り曲げて開く作業をスムーズに行うことが可能となる。この結果、保守点検作業の作業手間を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態であるエレベータにおける昇降路天井周辺の構成を示す図である。
【
図2】
図1に含まれる制御盤を中心とした機能ブロック図である。
【
図3】
図3(a)は制御盤の正面構成を示す図であり、
図3(b)は制御盤の側面構成を乗りかごの位置とともに示す図である。
【
図4】乗りかごが第1の所定位置に停止している状態で全閉状態から半開状態まで正面カバー部を変位させるときの同カバー部の動作を模式的に示す図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、正面カバー部の下部パネル下端部を受け部に挿し込んで支持させることで半開状態として第2保守対象機器を露出させた状態から第2パネルをさらに上方に回動させて同パネルに設けられた突起部を本体部のフックに係合させることで同カバー部を全開状態とするまでの同カバー部の動作を乗りかごの位置とともに示す図である。
【
図6】本実施形態の変形例に係るエレベータにおける制御盤を中心とした機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態であるエレベータ10について図面を参照しながら説明する。
図1は、エレベータ10の昇降路12の構成を示す概略構成図である。
図2は、制御盤40を中心とした機能ブロック図である。
図1および
図2に示すように、エレベータ10は、鋼製の主ロープ11を介して昇降路12内を上下方向に移動可能に吊り下げられた乗りかご20および釣り合い重り21と、第1定滑車13Aと、第2定滑車13Bと、巻上機Mとを含む。第1定滑車13Aおよび第2定滑車13Bは、昇降路12の最上部である頂部12Tに配置された梁12Aに固定された支持部FL1,FL2に各々取り付けられている。
【0019】
また、本実施形態のエレベータ10では、巻上機Mが備える綱車M1の巻上速度と乗りかご20の昇降速度の速度比(ローピング比)が2:1となるよう主ロープ11が架け渡されている。具体的には、主ロープ11は、一端側が昇降路12の頂部12T付近に設けられた支持フレームFL3にヒッチBL1を介して固定されるとともに、直下方に垂下して乗りかご20の底部に設けられた一対のかご下滑車20a,20b、昇降路12の頂部12Tに設置された第1定滑車13A、昇降路12におけるピット12Pの直上方に固定された巻上機Mの綱車M1、昇降路12の頂部12Tの第2定滑車13B、釣り合い重り21の上部に設けられた滑車21aを、この順に架け渡され他端側がヒッチBL2を介して昇降路12の梁12Aに連結固定される。本実施形態において、乗りかご20のかご下滑車20a,20bは動滑車として機能する。
【0020】
本実施形態では、巻上機Mは洪水時等における冠水対策の一環として昇降路12のピット12Pよりもやや上方に配置されているが、ピット12P内に配置するものとしてもよいし、昇降路12内の他の場所に配置するものとしてもよい。
【0021】
エレベータ10は、乗りかご20の運転を統括的に制御する制御盤(制御ユニット)40を備える。制御盤40は、昇降路12の頂部12T、すなわち、最上階乗場14Aよりもやや上方に位置する昇降路12の壁面に設置されている。本実施形態では、制御盤40を最上階乗場14Aのやや上方に設置しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、制御盤40を中間階や最下階の乗場14のやや上方など昇降路12における他の場所に設置するものとしてもよい。
【0022】
図1に示すように、乗りかご20は、かご扉22を有する。一方、各階の乗場14A,14B,14C,…(以下、特に区別する必要がない場合には乗場「14」と適宜表記)には乗場扉16A,16B,16C,…(以下、特に区別する必要がない場合には乗場扉「16」と適宜表記)が設けられている。
【0023】
各乗場扉16は、バネなどの弾性部材を介して扉が閉まる方向に常時付勢されており、上部に取り付けられたロック機構17A,17B,17C,…(以下、特に区別する必要がない場合には、ロック機構「17」と適宜表記)を介して閉じた状態で保持されている。そして、各乗場扉16は、上述した乗りかご20が予め設定された着床位置、すなわち、乗場扉16を介して乗客が乗りかご20に乗降可能となる乗場14における床面の上下方向位置に乗りかご20のかご内空間の床面の上下方向位置が略一致する位置(換言すると、乗場扉16とかご扉22とが対向する位置)に停止している場合にのみ、ロック機構17による固定が解除され開放可能となるように設けられている。
【0024】
また、ロック機構17には乗場扉16の開閉状態を検知する機能を有する戸開センサ18A,18B,18C,…(以下、特に区別する必要がない場合には戸開センサ「18」と適宜表記)が設けられている。
【0025】
図1に示すように、乗りかご20のかご上20Tには、かご上操作部26が設けられている。かご上操作部26は、乗りかご20の運転モードを後述する通常運転モードから手動運転に切り替える操作を行うための切り替え操作部27(
図2参照)と、手動運転時に乗りかご20の昇降操作を行うための昇降操作部28(
図2参照)とを含む。これにより、保守点検時に乗りかご20のかご上20Tに保守員が乗り込んだ状態で乗りかご20を昇降させることができる。
【0026】
また、昇降操作部28は、後段にて詳述する第1の所定位置L1(
図3(b)参照)まで乗りかご20を昇降させる第1操作部(第1の昇降操作部)28Aと、第1の所定位置L1から第2の所定位置L2(
図5(a)参照)まで乗りかご20を昇降させる第2操作部(第2の昇降操作部)28Bと、が設けられている。
【0027】
乗りかご20には、
図1に破線で示すように保守点検時に保守員の足場となるかご上20Tの外周部分に安全柵70が設置される。この安全柵70は、一例として、組み立て式の柵であり保守点検時のみ、かご上20Tにおける外周部分に沿って設置される。そして、安全柵70は、保守点検終了時にかご上20Tの外周部分から撤去され、かご上20Tの所定の場所に収められる。
【0028】
図2に示すように、制御盤40は、各種制御プロブラムが記憶されたROM、RAM、およびHDDなどからなる記憶デバイス43や、CPUなどの演算処理装置(不図示)を備え、記憶デバイス43から上記制御プログラムを読み出して演算処理を行うことにより巻上機Mの駆動を制御する運転制御部44、および、上述した戸開センサ18を介して乗場扉16の開閉状態を検知する扉監視部46として機能する。
【0029】
運転制御部44は、各階の乗場14に設置されている乗場操作盤15A,15B,15C,…(以下、特に区別する必要がない場合には乗場操作盤「15」と適宜表記)を介して行われた乗りかご20を乗場14に呼ぶ乗場呼びや、乗りかご20内に設置されているかご操作盤24を介して行われる行先階操作、換言するとかご呼び操作に基づいて乗りかご20を各階乗場14まで昇降(移動)させる通常運転モードを実行するように構成される。
【0030】
かご操作盤24(
図2参照)は、上述したかご上操作部26と同様に乗りかご20の運転モードを後述する通常運転モードから手動運転に切り替える操作と手動運転時に乗りかご20の昇降操作を行う機能も具備する。
【0031】
ここで、乗りかご20には、乗りかご20の位置を検出する機能を有する床位置検出ユニット45が取り付けられている。この着床位置検出ユニット45は、各乗場14に対応して昇降路12の壁面に設けられた遮光板(不図示)を検出する機能を有する。これにより、運転制御部44は、乗りかご20が予め設定された着床位置に位置しているか否かを把握することが可能となる。
【0032】
続いて、制御盤40の構成について、
図3(a)および
図3(b)をさらに参照しつつ説明を行う。
図3(a)は制御盤40の正面構成を示す図であり、
図3(b)は制御盤40の側面構成を示す図である。
【0033】
図3(a)および
図3(b)に示すように、制御盤40は、略縦長箱状の外観を呈する筐体41を有し、昇降路12の壁面に設置されている。この筐体41には乗りかご20の昇降制御などを行うための各種電子機器などで構成される第1保守対象機器(上側点検対象物)52および第2保守対象機器(下側点検対象物)54が格納されている。第1保守対象機器52は上方に配置され、第2保守対象機器54は下方に配置されている。また、両保守対象機器52,54の正面側には、中折れ式に開閉可能な正面カバー部60が取り付けられている。
【0034】
図3(a)に示すように、正面カバー部60は、筐体41に上端部を回転支持された第1パネル62と同パネル62の下端部に回転可能に連結される第2パネル64とを含む。両パネル62,64は正面視略四角形状を呈する部材であり、第2パネル64の幅方向両端側のやや上部には幅方向に突出する突起部Q1,Q2が設けられている。また、第2パネル64における下端部の幅方向両端側部分は筐体41にボルトBT1,BT2を用いて固定されている。ボルトBT1,BT2は、第2パネル64における下端部の幅方向両端側に設けられたスリットSL1,SL2に挿し込まれることにより第2パネル64を筐体41に固定する役割を有する。
【0035】
第1パネル62は上述した第1保守対象機器52と第2保守対象機器54の上部正面側とを覆うように配置されており、第2パネル64は第2保守対象機器54の上部を除く他の部分全体の正面側を覆うように配置されている。
【0036】
なお、本実施形態では、正面カバー部60の上下方向における中央部、より具体的には第1パネル62の下端部や第2パネル64の上端部は筐体41に固定していないが、ボルトを用いて着脱可能に固定するものとしてもよい。
【0037】
ここで、
図4は、正面カバー部60が全閉(状態)位置から半開(状態)位置に至るまでの正面カバー部60の動作と第1の所定位置L1に位置しているときに乗りかご20に設置されている安全柵70の位置との関係を示す図であり、破線で示すP1は少しだけ開いたときの正面カバー部60の状態を、1点鎖線で示すP2はP1よりもさらに開いたときの正面カバー部60の状態を、実線で示すP3は半開位置(第1の開放位置)としたときの正面カバー部60の状態を各々示す。
【0038】
図4に示すように、正面カバー部60を半開状態としたときには第2パネル64の下端部が筐体41の受け部U1に挿し込まれることにより正面カバー部60は側面視において略三角形状に中折れした状態で保持される。
【0039】
図4に示すように、正面カバー部60は、第2パネル64の下端部を筐体41に連結固定しているボルトBT1,BT2(
図3(a)参照)を取り外した状態で回動可能な状態となる。そして、第2パネル64を上方に押し上げることにより正面カバー部60をP1,P2,P3の順に上方に折り曲げつつ回動させる。
【0040】
この際、乗りかご20は、安全柵70の上端部70Tが正面カバー部60の下端部、すなわち、第2パネル64の下端部に対向する位置又は正面カバー部60の下端部の直下方に位置するように設定された第1の所定位置L1に位置している。また、本実施形態において、安全柵70の上下方向の長さ(安全柵70における上端部70Tとかご上20Tとの間の距離)は、一例として、900mmに設定されている。
【0041】
上記第1の所定位置L1は、正面カバー部60がP1~P3の位置まで変位するときに第2パネル64の変位を妨げない位置であり、且つ、全閉状態の正面カバー部60に近接した位置である。従って、かご上20Tに乗り込んだ保守員が手を伸ばせば正面カバー部60に充分に手が届くこととなる。このため、正面カバー部60を開きやすくでき、半開状態とするときに受け部U1,U2に第2パネル64の下端部を挿し込みやすい。この結果、正面カバー部60を筐体41に保持させることができる。
【0042】
この結果、正面カバー部60が半開状態となり、第2保守対象機器54が露出し外部から保守員が目視点検や交換作業などのメンテナンス作業を行うことが可能な状態となる。
【0043】
本実施形態において、上記第1の所定位置L1は、最上階乗場14Aの予め設定された着床位置よりもやや低い位置に乗りかご20が停止する位置となるように設定されている。
【0044】
次に、
図5(a)および
図5(b)を用いて正面カバー部60を上述した半開状態から全開(状態)位置とするときの作業手順について説明を行う。
図5(a)に示すように、第1の所定位置L1から第2の所定位置L2まで乗りかご20を上昇させる。ここで、第2の所定位置L2は、半開状態で保持される正面カバー部60の第2パネル64に近接する直下方に設定されている。これにより、かご上20Tの保守員が第2パネル64をさらに上方に手で押し上げやすくなる。
【0045】
そして、
図5(b)に示すように、筐体41における上端部(換言すると、正面カバー部60よりも上方)の幅方向両端側に設けられたフックR1,R2(
図3(a)参照)が回転可能に取り付けられている。保守員は、第2パネル64を持ち上げつつ突起部Q1,Q2を
図5(b)の一部に含まれる部分拡大図において破線で示す位置から実線で示す位置までフックR1,R2を回転させて各々突起部Q1,Q2に係合させる。
【0046】
これにより、正面カバー部60を全開位置とし筐体41に格納された第1保守対象機器52も露出させることができる。この結果、第1保守対象機器52の保守点検作業も行うことができる。全開位置は、第2の開放位置に相当する。
【0047】
続いて、上述した制御盤40の保守点検作業の作業手順について説明を行う。
図3(a)および
図3(b)に示すように、例えば、2名の保守員により点検作業を行う場合には、一方の保守員が予め乗りかご20内に乗り込んだ状態でかご操作盤24を介して通常運転モードから手動運転モードに切り替える。そして、最上階乗場14Aから乗りかご20におけるかご上20Tに乗り込むことができる位置まで乗りかご20を昇降させる。
【0048】
次に、最上階乗場14Aに待機している他方の保守員が専用工具を用いて乗場扉16Aを開いてかご上20Tに乗り込み、かご上操作部26における切り替え操作部27を介して手動操作に切り替える。そして、
図1に破線で示すようにかご上20Tに予め積載されている安全柵70を組み立てて設置する。
【0049】
続いて、
図3(b)に示すように、かご上操作部26(
図2参照)の第1操作部28Aを介して制御盤40に近接する第1の所定位置L1まで乗りかご20を手動操作で昇降させる。
【0050】
ここで、
図4は、第1の所定位置L1において全閉状態から半開状態に正面カバー部60を変位させるときの状態と安全柵70との位置関係を示す図である。この状態で、
図4に示すように正面カバー部60を符号P1,P2,P3の順に変位させて半開状態とし第1保守対象機器52に対する保守点検作業を行う。
【0051】
その後、
図5(a)に示すように、かご上操作部26(
図2参照)の第2操作部28Bを介して乗りかご20を破線で示す第1の所定位置L1から実線で示す第2の所定位置L2まで上昇させる。これにより、半開状態の正面カバー部60に保守員が充分に接近することができる。そして、半開状態の正面カバー部60をさらに持ち上げ第2パネル64の突起部Q1,Q2をフックR1,R2に係合させて全開状態とする。そして、この状態で、第1保守対象機器52に対する保守点検作業を実施する。
【0052】
第1保守対象機器52に対する保守点検作業終了後、上述した手順と反対の手順で正面カバー部60を元の位置に戻す作業を実施する。より具体的には、正面カバー部60の第2パネル64の突起部Q1,Q2とフックR1,R2の係合を解除し、第2パネル64の下端部を筐体41の受け部U1,U2に挿し込む位置まで下方に回転させて半開状態で一旦保持させる。次に、かご上操作部26における第2操作部28Bを介して乗りかご20を第2の所定位置L2から第1の所定位置L1まで下降させた後に、第2パネル64の下端部を受け部U1,U2から引き抜いて下方に回動させ、同パネル64の下端部のスリットSL1,SL2に各々ボルトBT1,BT2を挿し込んで固定する。
【0053】
その後、かご上操作部26を介して乗りかご20の上下方向位置を調整し、かご上20Tから最上階乗場14Aに移動する。その後、乗りかご20内に乗り込んでいる保守員がかご操作盤24を介して所定の乗場の予め設定された着床位置まで乗りかご20を手動運転モードで昇降させてから通常運転モードに切り替える。これにより、一連の制御盤40に対する保守点検作業が終了する。
【0054】
本実施形態の制御盤40によれば、第1操作部28Aを介して乗りかご20の上下方向位置を第1の所定位置L1に昇降させることにより保守員が正面カバー部60を閉じた状態(全閉状態)から第1の開放位置(半開状態)まで正面カバー部60を中折れ状態で折り曲げて開く作業をスムーズに行うことが可能となる。この結果、保守点検作業の作業手間を軽減できる。
【0055】
また、本実施形態の筐体41によれば、正面カバー部60よりも上方に設けられたフックR1,R2に突起部Q1,Q2を係合させることで正面カバー部60を折り曲げ状態で保持することにより第1保守対象機器52および第2保守対象機器54を露出させることができる。これにより、第1保守対象機器52および第2保守対象機器54を移動させることなく保守点検作業を行うことができる。この結果、保守点検作業の作業性を向上させることもできる。
【0056】
上記第1実施形態において、筐体41は正面カバー部60を半開および全開状態の双方の状態で保持可能である例を挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、正面カバー部60を半開状態で保持するだけでよい場合には上述したフックR1,R2を設けなくともよい。また、正面カバー部60を全開状態で保持するだけでよい場合には筐体41の側板41A,41Bに受け部U1,U2を設けないものとしてもよい。
【0057】
上記実施形態では、乗りかご20の運転を制御する制御盤40を例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、昇降路12内に設置される他の制御ユニットに本発明を適用してもよい。
【0058】
上記実施形態では、かご上操作部26に第1の昇降操作部として第1操作部28Aを設ける場合を例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、かご上操作部26に第1操作部28Aを設ける代わりに、或いは、これに加えて乗りかご20内のかご操作盤24に第1の昇降操作部24Aを設け1人の保守員だけでも保守点検作業を実施できるようにしてもよい。この場合の変形例に係るエレベータ100について
図6を用いて説明を行う。以下の説明において、上記実施形態と構成の異なる部分について主に説明を行うとともに、上記実施形態と同一の構成部分については適宜同一の符号を付して示しつつ説明を省略するものとする。
【0059】
図6は、上記実施形態の変形例であるエレベータ100における制御盤40を中心とした機能ブロックを示す図である。
図6に示すように、エレベータ100は、乗りかご20内に設けられたかご操作盤24に第1の昇降操作部24Aを備える点を除きエレベータ10と同一の構成を具備する。この第1の昇降操作部24Aは、上記実施形態における第1操作部28Aと同様に最上階乗場14Aの予め設定された着床位置と上記第1の所定位置L1との間で乗りかご20を昇降させる機能を有する。
【0060】
一方で、第1の昇降操作部24Aは、最上階乗場14Aの予め設定された着床位置と上記第1の所定位置L1との間を乗りかご20内に保守員が居ない無人状態で昇降させる機能を有する点で上記実施形態の第1操作部28Aと相違する。以下、第1の昇降操作部24Aを用いた保守点検作業の作業手順について上記実施形態と異なる部分について説明を行う。
【0061】
第1の昇降操作部24Aは、最上階乗場14Aの予め設定された着床位置に乗りかご20が停止した状態でかご操作盤24を介して通常運転モードから手動運転モードに切り替える操作を行った上で操作が行われると乗場扉16Aおよびかご扉22が所定時間だけ戸開する。この戸開したタイミングで、保守員は乗りかご20のかご内から最上階乗場14Aに移動することができる。
【0062】
そして、上記所定時間の経過後に乗場扉16Aおよびかご扉22が閉じ(戸閉)、乗りかご20は第1の所定位置L1まで乗りかご20内が無人の状態で下降する。最上階乗場14Aに移動した保守員は、専用工具を用いて乗場扉16Aを開き、かご上20Tに乗り込む。かご上20Tに乗り込んだ保守員は、乗場扉16Aを戸閉し、切り替え操作部27を介して通常運転モードから手動運転モードに切り替える。
【0063】
次に、保守員は、上記実施形態と同様に、安全柵70をかご上20Tの外周部分に設置して正面カバー部60を全閉状態から半開状態とした後、かご上操作部26の第2操作部28Bを介して乗りかご20を第1の所定位置L1から第2の所定位置L2に上昇させて正面カバー部60を半開状態から全開状態とすることで保守点検作業を実施する。
【0064】
保守点検作業の完了後、保守員は、上記と反対の手順で正面カバー部60を全開状態から一旦半開状態とした後、第2操作部28Bを介して第2の所定位置L2から第1の所定位置L1に乗りかご20を下降させて正面カバー部60を全閉状態とする。
【0065】
そして、安全柵70をかご上20Tの外周部分から撤去後、乗場扉16Aを手で開いてかご上20Tから最上階乗場14Aに移動した上で、最上階乗場14Aから手を伸ばすなどしてかご上20Tの切り替え操作部27を操作し手動運転モードから通常運転モードに切り替える。本実施形態において、切り替え操作部27を介して手動運転モードから通常運転モードに切り替える切り替え操作が行われた後に乗場扉16Aが閉じられると、運転制御部44は最上階乗場14Aの予め設定された着床位置まで乗りかご20を上昇させる。そして、保守員は、最上階乗場14Aから乗りかご20内に移動し、かご操作盤24を介して手動運転モードから通常運転モードに切り替えて一連の制御盤40に対する保守点検作業が終了する。
【0066】
この変形例に係るエレベータ100の場合においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
【符号の説明】
【0068】
10 エレベータ
11 主ロープ
12 昇降路
12T 頂部
14,14A,14B,14C 乗場
15,15A,15B,15C 乗場操作盤
16,16A,16B,16C 乗場扉
17,17A,17B,17C ロック機構
18,18A,18B,18C 戸開センサ
20 乗りかご
24 かご操作盤
24A 第1の昇降操作部
26 かご上操作部
27 切り替え操作部
28 昇降操作部
28A 第1操作部(第1の昇降操作部)
28B 第2操作部(第2の昇降操作部)
40 制御盤(制御ユニット)
41 筐体
43 記憶デバイス
44 運転制御盤
46 扉監視部
52 第1保守対象機器(上側点検対象物)
54 第2保守対象機器(下側点検対象物)
60 正面カバー部
62 第1パネル
64 第2パネル
BT1,BT2 ボルト
U1,U2 受け部
Q1,Q2 突起部
R1,R2 フック
【要約】
【課題】保守点検作業の作業手間を軽減させることが可能なエレベータを提供する。
【解決手段】エレベータ10は、乗りかご20の昇降範囲に近接配置された筐体41と、筐体41に収容される第1保守対象機器52,第2保守対象機器54と、筐体41に上端部を回転可能に支持され折り曲げることで開閉可能に構成される正面カバー部60とを含み、正面カバー部60は、筐体41から突き出すように折り曲げることにより両保守対象機器51,52のうち下側に位置する第2保守対象機器54が露出する第1の開放位置で保持可能に構成される制御盤40と、制御盤40の正面カバー部60を閉じた状態から第1の開放位置まで変位させるときに正面カバー部60の変位を安全柵70が妨げず且つ正面カバー部60に近接する上下方向位置である第1の所定位置L1まで乗りかご20を昇降させる第1操作部28Aと、を含む。
【選択図】
図3