IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジーシーの特許一覧

特許7754441歯科用組成物の製造方法、及び歯科用組成物
<>
  • 特許-歯科用組成物の製造方法、及び歯科用組成物 図1
  • 特許-歯科用組成物の製造方法、及び歯科用組成物 図2
  • 特許-歯科用組成物の製造方法、及び歯科用組成物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-06
(45)【発行日】2025-10-15
(54)【発明の名称】歯科用組成物の製造方法、及び歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20251007BHJP
   A61K 6/76 20200101ALI20251007BHJP
   A61K 6/62 20200101ALI20251007BHJP
   A61K 6/878 20200101ALI20251007BHJP
   A61K 6/849 20200101ALI20251007BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/76
A61K6/62
A61K6/878
A61K6/849
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021062369
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157888
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシーMfg
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】舩山 直矢
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慎
(72)【発明者】
【氏名】福與 悠里
(72)【発明者】
【氏名】森 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】葛西 侑毅
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-044757(JP,A)
【文献】特開2013-133300(JP,A)
【文献】特表2019-510859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の成分の中に、第2の成分が分散している歯科用組成物を製造する方法であって、
前記第1の成分は、液体である第1の重合性単量体を含むペーストであり、
前記第2の成分は、第2の重合性単量体として2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド又はジアリルジメチルアンモニウムクロライドと、前記第1の重合性単量体が不溶な溶媒とを含み、
前記第1の成分と、前記第2の成分を混合する工程を含む、
歯科用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第1の成分は、さらに疎水性フィラーを含む、
請求項1に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第2の重合性単量体は、前記溶媒に可溶である、
請求項1又は2に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記工程は、前記第2の重合性単量体を前記溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、
前記溶液と、前記第1の成分を混合する工程と、を含む、
請求項3に記載の歯科用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記歯科用組成物は、フロアブルコンポジットレジンである、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の歯科用組成物の製造方法
【請求項6】
第1の成分の中に、第2の成分が分散している歯科用組成物であって、
前記第1の成分は、液体である第1の重合性単量体を含むペーストであり、
前記第2の成分は、第2の重合性単量体として2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド又はジアリルジメチルアンモニウムクロライドと、前記第1の重合性単量体が不溶な溶媒とを含む、
歯科用組成物。
【請求項7】
前記第2の重合性単量体は、前記溶媒に可溶である、
請求項に記載の歯科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用組成物の製造方法、及び歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野において、歯科用コンポジットレジン等の重合性組成物が使用されている。歯科用コンポジットレジンは、光重合開始剤を含有することで、光照射により適時に重合硬化させることができるため広く使用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、天然歯に光が当たると特有の光散乱現象(オパール効果)が見られることが知られており、これを目的とした歯科用複合修復材料が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
光散乱性の高いコンポジットレジンは、充填部周囲の天然歯の色を取り込むため色なじみがよく審美性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6793106号公報
【文献】特許第6793241号公報
【文献】特許第5762405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の有機無機複合フィラーを使用する方法ではフィラーの配合量が増えるため、コンポジットレジンとしての操作性(流動性)が低下する問題がある。
【0007】
本発明の課題は、光散乱性の高い硬化体が得られ、かつ操作性に優れた歯科用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、第1の成分の中に、第2の成分が分散している歯科用組成物を製造する方法であって、前記第1の成分は、液体である第1の重合性単量体を含むペーストであり、前記第2の成分は、第2の重合性単量体として2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド又はジアリルジメチルアンモニウムクロライドと、前記第1の重合性単量体が不溶な溶媒とを含み前記第1の成分と、前記第2の成分を混合する工程を含む、歯科用組成物の製造方法である。

【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、光散乱性の高い硬化体が得られ、かつ操作性に優れた歯科用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る歯科用組成物の断面を示す模式図である。
図2】実施形態に係る歯科用組成物の硬化前の光学顕微鏡写真である。
図3】実施形態に係る歯科用組成物の硬化後の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0012】
<歯科用組成物の製造方法>
本実施形態に係る歯科用組成物の製造方法は、第1の成分の中に、第2の成分が分散している歯科用組成物を製造する方法である。本実施形態の歯科用組成物の製造方法は、第1の成分と、第2の成分と、を混合する工程(以下、混合工程という)を含む。
【0013】
<第1の成分>
第1の成分は、液体である第1の重合性単量体を含むペーストである。本明細書において、ペーストとは、ペースト状の液体を示す。
【0014】
<第1の重合性単量体>
液体である第1の重合性単量体は、例えば、常温常圧で液体である。第1の重合性単量体は、後述する第1の溶媒に不溶である。
【0015】
第1の重合性単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレートであることが好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレートであることがさらに好ましい。
【0016】
第1の重合性単量体としては、例えば、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ウレタンジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等が挙げられる。これらの第1の重合性単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
歯科用組成物中の第1の重合性単量体の含有量は、特に限定されないが、例えば、1質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5質量%以上79質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上49質量%以下である。
【0018】
歯科用組成物中の第1の重合性単量体の含有量が1質量%以上であると、歯科用組成物の硬化体の機械的強度が向上し、99.9質量%以下であると、歯科用組成物の硬化体の第2の重合性単量体に由来する機能又は性能が向上する。
【0019】
第1の成分は、さらに疎水性フィラーを含有することが好ましい。
【0020】
疎水性フィラーとしては、例えば、シラン処理されたガラスフィラー等が挙げられる。シラン処理されたガラスフィラーは、例えば、バリウムガラスに3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで処理されたものである。これらの疎水性フィラーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
歯科用組成物中の疎水性フィラーの配合量は、例えば、45質量%以上75質量%以下であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上70質量%以下、さらに好ましくは55質量%以上65質量%以下である。歯科用組成物中の疎水性フィラーの配合量が45質量%以上であると、歯科用組成物の硬化体の機械的強度が向上し、75質量%以下であると、歯科用組成物の分散性が向上し、歯科用組成物の操作性を向上させることができる。
【0022】
第1の成分は、その他の成分として、疎水性フィラー以外の無機フィラーを含有してもよい。
【0023】
このような無機フィラーとしては、例えば、無水ケイ酸粉末、ヒュームドシリカ、アルミナ粉末、ガラス粉末(例えば、バリウムガラス粉末、フルオロアルミノシリケートガラス粉末)等が挙げられる。なお、これらの無機フィラーは、シランカップリング剤等の表面処理剤で処理されていてもよい。これらの無機フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
歯科用組成物中の無機フィラーの配合量は、例えば、0.01質量%以上30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上10質量%以下である。
【0025】
歯科用組成物中の無機フィラーの配合量が0.01質量%以上30質量%以下であると、該ガラスを含む歯科用組成物の粘性が低くなり、歯科用組成物の操作性を向上させることができる。
【0026】
なお、上述の疎水性フィラー及び/又は無機フィラーを含有する場合、ペースト状の第1の成分の製造には、混合に自動乳鉢を使用するのが好ましい。なお、ペースト状の第1の成分と、第2の成分との混合は、すでにフィラーペースト化されているため、自動乳鉢は不要であり、自転公転ミキサー等を使用すればよい。
【0027】
<第2の成分>
第2の成分は、上述の第1の重合性単量体が不溶な第1の溶媒を含む。本明細書において、不溶とは、25℃において、溶媒100gに溶解する第1の重合性単量体の量が1g未満であることを示す。
【0028】
<第1の溶媒>
第1の溶媒は、第1の重合性単量体が不溶な溶媒である。本明細書において、第1の溶媒は、本実施形態の歯科用組成物の製造方法における第1の重合性単量体が不溶な溶媒の一例である。
【0029】
第1の溶媒としては、第1の重合性単量体が不溶な溶媒であれば特に限定されないが、例えば、水、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、平均分子量1200以下のポリエチレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられる。これらの第1の溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
歯科用組成物中の第1の溶媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以上35質量%以下、さらに好ましくは0.03質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
歯科用組成物中の第1の溶媒の含有量が0.01質量%以上であると、歯科用組成物の硬化体の第2の重合性単量体に由来する機能又は性能が向上し、40質量%以下であると、歯科用組成物の硬化体の光散乱性及び操作性が向上する。
【0032】
第2の成分は、さらに固体である第2の重合性単量体を含むことが好ましい。
【0033】
<第2の重合性単量体>
固体である第2の重合性単量体は、常温常圧で固体であり、第1の溶媒に可溶である。可溶とは、25℃で、溶媒100gに第2の重合性単量体が10g以上溶解することを示す。また、第2の重合性単量体は、第1の重合性単量体に不溶であることが好ましい。
【0034】
第2の重合性単量体は、(メタ)アクリレートであることが好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基を1個有する単官能(メタ)アクリレートであることがさらに好ましい。
【0035】
歯科用組成物中の第2の重合性単量体の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上99質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以上79質量%以下、さらに好ましくは0.03質量%以上49質量%以下である。
【0036】
歯科用組成物中の第2の重合性単量体の含有量が0.01質量%以上であると、歯科用組成物の硬化体の第2の重合性単量体に由来する機能又は性能が向上し、99質量%以下であると、歯科用組成物の硬化体の光散乱性及び操作性が向上する。
【0037】
なお、第1の溶媒が水である場合、大気中の水分を第2の重合性単量体に吸湿させて、第2の重合性単量体を水に溶解させてもよい。
【0038】
歯科用組成物中の第1の溶媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以上35質量%以下、さらに好ましくは0.03質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
歯科用組成物中の第1の溶媒の含有量が0.01質量%以上であると、歯科用組成物の硬化体の第2の重合性単量体に由来する機能又は性能が向上し、40質量%以下であると、歯科用組成物の硬化体の光散乱性及び操作性が向上する。
【0040】
第2の重合性単量体に対する第1の溶媒の質量比は、0.01以上5以下であることが好ましく、0.1以上2以下であることがさらに好ましい。第2の重合性単量体に対する第1の溶媒の質量比が0.01以上であると、第2の重合性単量体を第1の溶媒に溶解させた際の安定性が向上し、5以下であると、歯科用組成物の硬化体の機械的強度が向上する。
【0041】
第2の重合性単量体と第1の溶媒の総量に対する第1の重合性単量体の質量比は、0.1以上100以下であることが好ましく、0.5以上50以下であることがさらに好ましい。第2の重合性単量体と第1の溶媒の総量に対する第1の重合性単量体の質量比が0.1以上であると、歯科用組成物の硬化体の機械的強度が向上し、100以下であると、歯科用組成物の硬化体の第2の重合性単量体に由来する性能が向上する。
【0042】
本実施形態に係る歯科用組成物の製造方法では、上述のように、液体である第1の重合性単量体を含むペースト状の第1の成分と、第1の重合性単量体が不溶な第1の溶媒を含む第2の成分と、を混合することで、第1の成分中の第2の成分の分散性を制御することできる。これにより、第1の成分の中に、第2の成分を均一に局在させることができる。
【0043】
その結果、本実施形態の歯科用組成物の製造方法では、歯科用組成物が硬化すると第1成分と第2成分とが複合フィラーに類似した状態となり光散乱性が得られる。そのため、本実施形態によれば、硬化体の光散乱性に優れる歯科用組成物が得られる。
【0044】
また、本実施形態の歯科用組成物の製造方法では、従来の有機無機複合フィラーを配合しなくても、上述のように、光散乱性の高い硬化体が得られる。そのため、本実施形態によれば、従来の有機無機複合フィラーを添加することによる操作性の低下を防ぐことができる。
【0045】
本実施形態では、上述のように、第1の成分が疎水性フィラーを含有することで、ペーストである第1成分の分散性を向上させることができる。また、このような第1成分を第2の成分と混合することで、歯科用組成物の分散性を向上させることができる。さらに、第1の成分は、このような疎水性フィラーを含有することで、操作性を低下させずに、硬化体の光散乱性を向上させることができる。
【0046】
本実施形態では、上述のように、第2の成分が固体である第2の重合性単量体を含むことで、第1の成分と第2の成分を混合させると、第1の重合性単量体と、第2の重合性単量体と、第1の溶媒とが混合される。
【0047】
このとき、第1の溶媒を用いずに、第1の重合性単量体と、第2の重合性単量体を混合すると、第2の重合性単量体の粒径を制御することが困難であるため、第1の重合性単量体の中に、第2の重合性単量体を均一に局在させることができない。その結果、歯科用組成物の硬化体の外観及び強度が低下する。
【0048】
また、第1の溶媒を用いずに、第1の重合性単量体と、第2の重合性単量体を混合すると、第2の重合性単量体が、第1の重合性単量体とは極性の異なるフィラーとして機能するため、歯科用組成物の粘度が著しく上昇し、歯科用組成物の操作性が低下する。
【0049】
これに対して、本実施形態では、第1の溶媒に不溶なペースト状の第1の重合性単量体と、第1の溶媒に可溶な第2の重合性単量体と、第1の溶媒を混合すると、歯科用組成物中に第2の重合性単量体を均一に局在させることができる。その結果、歯科用組成物の硬化体に第2の重合性単量体に由来する機能又は性能を付与しながら、光散乱性に優れる、操作性が低下しにくい歯科用組成物が得られる。
【0050】
また、本実施形態では、第1の溶媒に可溶な第2の重合性単量体が第2成分に含まれていることで、歯科用組成物中で、第2の重合性単量体が、第1の重合性単量体とは極性の異なるフィラーとして機能することができる。そのため、本実施形態では、このような第2の重合性単量体の存在により、歯科用組成物の保存中に変化し、光散乱性が低下するのを防ぐことができる。
【0051】
第2の重合性単量体は、抗菌性及び抗ウイルス性の少なくとも一方を示す官能基を有することが好ましい。なお、抗菌性及び抗ウイルス性の少なくとも一方を示す官能基とは、一つの官能基が抗菌性及び抗ウイルス性の両方を示す場合、一つの官能基が抗菌性及び抗ウイルス性の何れかを示す場合を示す。また、抗菌性及び抗ウイルス性を示す官能基は、抗菌性を示す官能基と抗ウイルス性を示す官能基を各々有する場合も含まれる。
【0052】
抗菌性及び抗ウイルス性の少なくとも一方を示す官能基としては、特に限定されないが、例えば、4級アンモニウム塩基等が挙げられる。なお、4級アンモニウム塩基は、抗菌性を示す官能基(以下、抗菌性基という)として機能し得るとともに、抗ウイルス性を示す官能基(以下、抗ウイルス性基という)としても機能し得る。
【0053】
抗菌性及び抗ウイルス性の少なくとも一方を示す官能基を有する第2の重合性単量体としては、例えば、2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド、(2-(アクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロライド、N-(2-アクリロイルオキシエチル)-N-ベンジル-N,N-ジメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩、ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩等の単官能の重合性単量体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジエチルアンモニウムクロライド等のジアリル型4級アンモニウム塩及び下記化学式
【0054】
【化1】
で表される化合物等の多官能の重合性単量体等が挙げられる。抗菌性及び抗ウイルス性の少なくとも一方を示す官能基を有するこれらの第2の重合性単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
抗菌性基及び抗ウイルス性基の何れも有さない第2の重合性単量体としては、例えば、フェノキシエチレングリコールメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0056】
なお、抗菌性基及び抗ウイルス性基の何れも有さないこれらの第2の重合性単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
本実施形態において、第2の重合性単量体が抗菌性基を有する場合、歯科用組成物の硬化体に第2の重合性単量体に由来する機能又は性能として抗菌性を付与することができる。また、第2の重合性単量体が抗ウイルス性基を有する場合、歯科用組成物の硬化体に第2の重合性単量体に由来する機能又は性能として抗ウイルス性を付与することができる。
【0058】
本実施形態では、第1の重合性単量体と、第2の重合性単量体と、第1の溶媒を混合する際に、界面活性剤を添加してもよいし、界面活性剤を添加しなくてもよい。
【0059】
界面活性剤としては、溶液の分散性を向上させることが可能であれば、特に限定されないが、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
本実施形態において、混合工程では、その他の成分として光重合開始剤、第3級アミン、重合禁止剤等を添加して混練することが好ましい。
【0061】
光重合開始剤としては、例えば、カンファーキノン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンジルケタール、ジアセチルケタール、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルビス(2-メトキシエチル)ケタール、4,4'-ジメチル(ベンジルジメチルケタール)、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキシド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
第3級アミンは、第3級脂肪族アミン及び第3級芳香族アミンの何れであってもよいが、第3級芳香族アミンであることが好ましく、p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキルであることがより好ましい。
【0063】
第3級脂肪族アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0064】
p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキルとしては、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸メチル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p-ジメチルアミノ安息香酸アミル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p-ジエチルアミノ安息香酸エチル、p-ジエチルアミノ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0065】
p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキル以外の第3級芳香族アミンとしては、例えば、7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N,2,4,6-ペンタメチルアニリン、N,N,2,4-テトラメチルアニリン、N,N-ジエチル-2,4,6-トリメチルアニリン等が挙げられる。
【0066】
なお、これらの第3級アミンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
重合禁止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール)、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール等が挙げられる。これらの重合禁止剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
なお、その他の成分は、混合工程で混合する前の第1の重合性単量体、第2の重合性単量体及び/又は第1の溶媒に添加してもよい。また、その他の成分は、混合工程で第1の重合性単量体と、第2の重合性単量体と、第1の溶媒とを混合した後に添加してもよい。
【0069】
混合工程は、第2の重合性単量体を第1の溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、該溶液と、第1の成分を混合する工程と、を含んでいてもよい。
【0070】
第2の重合性単量体が第1の溶媒に溶解している溶液と、第1の重合性単量体を含む第1の成分を混合すると、歯科用組成物中に第2の重合性単量体をより均一に局在させることができる。その結果、歯科用組成物の硬化体に第2の重合性単量体に由来する機能又は性能を付与しながら、歯科用組成物の硬化体の光散乱性及び操作性をさらに向上させることができる。
【0071】
例えば、第2の重合性単量体が抗菌性基を有する場合、歯科用組成物の硬化体に抗菌性を付与することができる。また、第2の重合性単量体が抗ウイルス性基を有する場合、歯科用組成物の硬化体に抗ウイルス性を付与することができる。
【0072】
第2の重合性単量体が第1の溶媒に溶解している溶液と、第1の重合性単量体を含む第1の成分を混合する方法としては、例えば、乳鉢を用いて、該溶液と、第1の成分を混練する方法、マグネチックスターラーを用いて、該溶液と、第1の成分を混合する方法、撹拌翼を有する撹拌機を用いて、該溶液と、第1の成分を混合する方法等が挙げられる。
【0073】
なお、混合する前の該溶液及び/又は第1の重合性単量体に、その他の成分を添加してもよい。また、該溶液と、第1の成分を混合した後に、その他の成分を添加してもよい。
【0074】
混合工程は、第1の重合性単量体の少なくとも一部と、第2の重合性単量体を、第2の溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、該溶液から第2の溶媒を留去して、第1の重合性単量体の少なくとも一部の中に、第2の重合性単量体が分散している分散液を得る工程と、分散液と、第1の溶媒を混合する工程と、を含んでいてもよい。
【0075】
<第2の溶媒>
第2の溶媒としては、特に限定されず、例えば、エタノール、アセトン、ヘキサン等の有機溶媒等が挙げられる。これらの第2の溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
溶液中の第2の溶媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、10質量%以上99質量%以下であることが好ましい。溶液中の第2の溶媒の含有量が10質量%以上であると、重合性単量体の溶解安定性が向上し、99質量%以下であると、溶液から第2の溶媒を留去しやすくなる。
【0077】
本実施形態では、第1の重合性単量体の中に、第2の重合性単量体が分散している分散液と、第1の溶媒を混合すると、歯科用組成物中に第2の重合性単量体をより均一に局在させることができる。その結果、歯科用組成物の硬化体に第2の重合性単量体に由来する機能又は性能を付与しながら、歯科用組成物の硬化体の外観及び強度をさらに向上させることができる。
【0078】
例えば、第2の重合性単量体が抗菌性基を有する場合、歯科用組成物の硬化体に抗菌性を付与することができる。また、第2の重合性単量体が抗ウイルス性基を有する場合、歯科用組成物の硬化体に抗ウイルス性を付与することができる。
【0079】
ここで、溶液を得る際に、第1の重合性単量体の一部を用いる場合は、分散液を得た後に、分散液と、第1の重合性単量体の残部を混合する。このとき、分散液と、第1の重合性単量体の残部を混合するタイミングは、特に限定されないが、分散液と、第1の溶媒を混合する際に、第1の重合性単量体の残部を混合することが好ましい。
【0080】
溶液を得る際の第1の重合性単量体の少なくとも一部に対する第2の重合性単量体の質量比は、0.01以上100以下であることが好ましく、0.05以上50以下であることがさらに好ましい。第1の重合性単量体及び第2の重合性単量体の質量比が0.01以上100以下であると、溶液から第2の溶媒を留去して得られる分散液の分散状態が良好となる。
【0081】
分散液と、第1の溶媒を混合する方法としては、例えば、分散液と、第1の溶媒を攪拌する方法、マグネチックスターラーを用いて、分散液と、第1の溶媒を混合する方法、撹拌翼を有する撹拌機を用いて、分散液と、第1の溶媒を混合する方法等が挙げられる。
【0082】
本実施形態においては、分散液と、第1の溶媒を混合する際に、界面活性剤を添加してもよいし、界面活性剤を添加しなくてもよい。
【0083】
界面活性剤としては、溶液の分散性を向上させることが可能であれば、特に限定されないが、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
本実施形態においては、分散液と、第1の溶媒を混合した後に、その他の成分として上述の疎水性フィラー、無機フィラー、光重合開始剤、第3級アミン、重合禁止剤等を添加して混練することが好ましい。
【0085】
なお、混合する前の分散液及び/又は第1の溶媒に、その他の成分を添加してもよい。また、分散液と、第1の溶媒を混合する際に、その他の成分を添加してもよい。
【0086】
<歯科用組成物>
本実施形態の歯科用組成物は、第1の成分の中に、第2の成分が分散している。ここで、第1の成分は、液体である第1の重合性単量体を含むペーストであり、第2の成分は、第1の重合性単量体が不溶な溶媒を含む。
【0087】
本実施形態の歯科用組成物は、上述の歯科用組成物の製造方法により製造することができる。本実施形態の歯科用組成物に用いられる第1の成分には、上述の歯科用組成物の製造方法で用いられる第1の成分を用いることができる。また、第1の重合性単量体には、上述の歯科用組成物の製造方法で用いられる第1の重合性単量体を用いることができる。
【0088】
また、本実施形態の歯科用組成物に用いられる第2の成分には、上述の歯科用組成物の製造方法で用いられる第2の成分を用いることができる。また、本実施形態の歯科用組成物に用いられる溶媒には、上述の歯科用組成物の製造方法で用いられる第1の溶媒を用いることができる。
【0089】
歯科用組成物中の第1の重合性単量体の含有量は、特に限定されないが、例えば、1質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5質量%以上79質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上49質量%以下である。
【0090】
歯科用組成物中の第1の溶媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以上35質量%以下、さらに好ましくは0.03質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0091】
本実施形態に係る歯科用組成物では、液体である第1の重合性単量体を含むペースト状の第1の成分と、第1の重合性単量体が不溶な第1の溶媒を含む第2の成分と、を含むことで、上述の製造方法で得られる歯科用組成物と同様の効果が得られる。具体的には、本実施形態に係る歯科用組成物では、第1の成分中の第2の成分の分散性が制御され、第1の成分の中に第2の成分を均一に局在させることができる。
【0092】
そのため、本実施形態では、歯科用組成物が硬化すると第1成分と第2成分とが複合フィラーに類似した状態となり光散乱性が得られる。これにより、本実施形態の歯科用組成物は、硬化体の光散乱性に優れるものとなり得る。
【0093】
また、本実施形態では、従来の有機無機複合フィラー等を配合しなくても、上述のように、光散乱性の高い硬化体が得られる。そのため、本実施形態の歯科用組成物では、従来の有機無機複合フィラーを添加することによる操作性の低下を防ぐことができる。
【0094】
本実施形態の歯科用組成物では、第2の成分が、さらに固体である第2の重合性単量体を含むことが好ましい。また、第2の重合性単量体は、上述の第1の溶媒に可溶であることが好ましい。第2の重合性単量体には、上述の歯科用組成物の製造方法で用いられる第2の重合性単量体を用いることができる。
【0095】
歯科用組成物中の第2の重合性単量体の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上99質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以上79質量%以下、さらに好ましくは0.03質量%以上49質量%以下である。
【0096】
本実施形態に係る歯科用組成物では、このような第2の重合性単量体が第2の成分に含まれていることで、上述の製造方法で得られる歯科用組成物と同様の効果が得られる。具体的には、本実施形態の歯科用組成物では、第1の溶媒に不溶なペースト状の第1の重合性単量体と、第1の溶媒に可溶な第2の重合性単量体と、第1の溶媒とを混合したときに、歯科用組成物中に第2の重合性単量体を均一に局在させることができる。
【0097】
そのため、本実施形態の歯科用組成物は、歯科用組成物の硬化体に第2の重合性単量体に由来する機能又は性能が付与され、しかも光散乱性に優れ、操作性が低下しにくい歯科用組成物となり得る。
【0098】
本実施形態の歯科用組成物において、第2の重合性単量体は、抗菌性及び抗ウイルス性の少なくとも一方を示す官能基を有することが好ましい。抗菌性及び抗ウイルス性の少なくとも一方を示す官能基を有する第2の重合性単量体には、上述の歯科用組成物の製造方法で用いられる、抗菌性基及び/又は抗ウイルス性基を有する第2の重合性単量体を用いることができる。
【0099】
具体的には、第2の重合性単量体に用いられる抗菌性基及び/又は抗ウイルス性基に、上述の歯科用組成物の製造方法で用いられる4級アンモニウム塩基等を用いることができる。
【0100】
本実施形態に係る歯科用組成物では、第2の重合性単量体が抗菌性基及び/又は抗ウイルス性基を有することで、第2の重合性単量体が抗菌性基を有する場合、歯科用組成物の硬化体に第2の重合性単量体に由来する機能又は性能として抗菌性を付与することができる。また、第2の重合性単量体が抗ウイルス性基を有する場合、歯科用組成物の硬化体に第2の重合性単量体に由来する機能又は性能として抗ウイルス性を付与することができる。
【0101】
本実施形態の歯科用組成物の用途は、特に限定されず、本実施形態の歯科用組成物は、例えば、歯科用コンポジットレジン、歯科用セメント、義歯床用レジン、歯科汎用レジン等に使用することができる。
【0102】
なお、本実施形態の歯科用組成物は、上述のように、光散乱性に優れ、操作性が低下しにくい歯科用組成物となり得る観点から、これらの中でも、歯科用コンポジットレジンに好ましく使用でき、より好ましくはフロアブルコンポジットレジンに使用できる。なお、本実施形態の歯科用組成物をフロアブルコンポジットレジンに使用する場合は、該フロアブルコンポジットレジンは、1剤型であってもよいし、2剤型であってもよい。
【0103】
また、本実施形態の歯科用組成物がフロアブルコンポジットレジンの場合、該フロアブルコンポジットレジンの押し出し固さは、通常、10kgf以下とすることができる。これにより、フロアブルコンポジットレジンの付形性・操作性を向上させることができる。
【0104】
フロアブルコンポジットレジンを提供する態様は、特に限定されず、例えば、フロアブルコンポジットレジンが充填されているシリンジと、シリンジの後端側からシリンジに嵌め込まれているプランジャーと、シリンジの先端部に装着されるニードルチップを有するパッケージとして提供される。
【0105】
フロアブルコンポジットレジンがこのようなニードルチップを備える場合、該ニードルチップが有するニードルの内径は、0.3mm以上0.9mm以下とすることができる。
【0106】
また、フロアブルコンポジットレジンが2剤型である場合、パッケージは、例えば、並列に連結されている2つのシリンジ及び並列に連結されている2つのプランジャーを有し、両方のシリンジの先端部に、スタティックミキサーが備えられていてもよい。
【0107】
本実施形態の歯科用組成物は、上述のように、歯科用組成物の硬化体に第2の重合性単量体に由来する機能又は性能として抗菌性及び/又は抗ウイルス性を付与し得る観点から、抗菌性、抗ウイルス性等の性能が要求される歯科分野における製品に好適に用いられる。
【実施例
【0108】
以下、本実施形態について、さらに実施例を用いて説明する。なお、以下において、単位のない数値又は「%」は、特に断りのない限り、質量基準(質量%)である。
【0109】
<元液の調製>
重合性モノマー成分として、ビスフェノールAポリエトキシメタクリレート(BPE-80N)120g、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(NPG)30g、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(DCP)30gをそれぞれ計量し、次いで、カンファーキノン(CQ)1.5g、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル(EPA)3.0g、6-tert-ジブチル-2,4-キシレノール(BHT)1.2g加え、スターラーを用いて均一に混錬し、元液を調製した。
【0110】
<ペーストの作製>
に調製した元液を3.5g計量し、アエロジルR812(ヘキサメチルジシラザンで表面処理された微粒子シリカ、日本アエロジル社製、AEROSIL(登録商標)R812)0.16g計量して加え、自動乳鉢を用いて混錬した。5分間混錬した後に、シラン処理ガラスフィラーを8g計量し、8回に分けて投入し混錬した。シラン処理ガラスフィラーを投入後、混錬時間が計30分となるように混錬し、均一なペーストとした。
【0111】
<後成分の添加>
作製したペーストを7g計量し、下記の表1の通りに後添加成分を加え、ヘラでなじませた。その後、自転公転ミキサーを用いて、800rpmにて3分間混錬し、フロアブル性状コンポジットレジンを得た(図1図4)。
【0112】
元液の調製とペーストの作製は、何れの実施例、比較例においても同様に行った。後成分の添加において、配合組成を変更した。実施例、比較例の配合組成を表2に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
表1、表2において、略称の意味は、以下の通りである。
BPE-80N:ビスフェノールAポリエトキシメタクリレート
NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
DCP:トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート
CQ:カンファーキノン
EPA:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル
BHT:6-tert-ジブチル-2,4-キシレノール
MTMAC:2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド
DADMAC:ジアリルジメチルアンモニウムクロライド
UDMA:ジ-2-メタクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート
【0116】
なお、元液に含まれる各成分の屈折率は、BPE-80Nが1.543、NPGが1.452、DCPが1.500、MTMACが1.460、DADMACが1.480、水が1.333、バリウムガラス(SCHOTT社製、G018-053)が1.53、二酸化ケイ素(SiO)が1.457、である。
【0117】
また、表2において、シラン処理ガラスフィラーは、対ガラス重量比8w/w%の3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにて、バリウムガラス粉末(SCHOTT社製、G018-053 UF 0.4μm)にシラン処理を行ったものである。シラン処理方法は、先行技術文献の特許文献2(特許6793241号公報)を参照して行った。
【0118】
また、表2において、有機フィラーは、特開2011-68596を参照して作製した有機無機複合フィラーである。具体的には、この有機無機複合フィラーは、SiO、SrO、B、BaO、Al、NaO、CaO、ZnO、La、WO、ZrO、TiO、Nb、F等を主成分とするガラス粉末に(メタ)アクリレート化合物を混合して重合硬化させた硬化物を粉砕したものである。
【0119】
実施例、比較例について、以下の通り、光散乱特性、透明性、ペースト流動性、審美性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0120】
<光散乱特性>
得られたフロアブルコンポジットレジンのペーストをアクリル板の表面にまんべんなく塗布して直径15mm、厚み1mmの円盤型の試験片を作製し(図1図2)、光照射器(ジーシー社製、G-ライトプリマII Plus)を用いて、試験片の表と裏の両面に10秒照射を9回ずつ行い、硬化体を作製し、これを試験体とした(図3)。変角光度計(村上色彩技術研究所製)を用いて、±90°の測定範囲条件において、光散乱特性(光散乱性)を評価した。評価基準は以下の通りである。
良:透過光強度が初めて10%以下になる測定角度が-90°以上-30°以下または+30°以上+90°以下の場合
不可:透過光強度が初めて10%以下になる測定角度が-30°超え+30°未満の場合

【0121】
<透明性>
上述の光散乱特性の試験で得られた試験体(図3)について、ヘイズメーター(日本電色工業社製)を用いて、全光線透過率(T.T)を測定し、透明性を評価した。透明性の評価は、全光線透過率(T.T)が35%以上となるものを良(透明性がある)と判定した。
【0122】
<ペースト流動性>
得られたフロアブルコンポジットレジンのペーストを、上述の光散乱特性の試験と同じ条件でアクリル板の表面に塗布し(図1図2)、その外観を確認し、流動性を評価した。評価基準は、以下の通りである。
良:フロアブル性状(流動性がある)
不可:パテ性状(流動性がない)
【0123】
<審美性>
光散乱特性の試験で得られた試験体(図3)について、外観評価を行った。外観評価では、作製した硬化体について、目視で確認可能な凹凸及び明らかな白濁を確認した(図3)。審美性の評価基準は、以下の通りである。なお、審美性の評価が不可の場合でも、上述の透明性の評価が良であれば、歯科用組成物としては良好なものと評価した。
良:凹凸及び白濁の何れもない場合
不可:凹凸及び/又は白濁がある場合
【0124】
【表3】
【0125】
表3から、実施例1~6は、光散乱特性、透明性、ペースト流動性が良好であった。このうち実施例1~3は、さらに審美性が良好であった。
【0126】
これに対して、比較例1は、光散乱性が不可であり、比較例2はペースト流動性が不可であった。
【0127】
なお、実施例1では、アクリル板(対象物)10に固定された硬化前のフロアブルコンポジットレジン20において、第1の重合性単量体30中に第2の重合性単量体が第1の溶媒に溶解している溶液40が均一に分散されている(第2の重合性単量体が第1の溶媒に溶解している溶液40の液滴径が細かい)と考えられる(図1図2参照)。
【0128】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0129】
10 アクリル板(対象物)
20 フロアブルコンポジットレジン
30 第1の重合性単量体
40 第2の重合性単量体が第1の溶媒に溶解している溶液
図1
図2
図3