(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-06
(45)【発行日】2025-10-15
(54)【発明の名称】シート融着体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/16 20060101AFI20251007BHJP
【FI】
B29C65/16
(21)【出願番号】P 2023114813
(22)【出願日】2023-07-13
【審査請求日】2024-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門脇 史弥
(72)【発明者】
【氏名】小林 賢司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良彦
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特許第6389113(JP,B2)
【文献】特開2015-009505(JP,A)
【文献】特開2003-311838(JP,A)
【文献】特開昭63-064732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
A61F 13/00-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシートの積層構造を有し、該積層構造の縁部に該複数のシートの縁部どうしが融着したシール縁部を有し、該複数のシートそれぞれの少なくとも一方の面が、熱可塑性樹脂を含む繊維で構成された繊維面である、シート融着体の製造方法であって、
前記複数のシートを重ねて、前記繊維面どうしの重なり部を有するシート積層体を形成するシート積層工程と、
前記シート積層体に、前記複数のシートどうしが剥離可能に密着した密着部を形成する密着部形成工程と、
前記密着部が形成された前記シート積層体を非加圧状態として、該シート積層体にレーザー光を所望のパターンで照射することにより、該シート積層体を溶断するとともに、その溶断によって生じた前記複数のシートの切断縁部どうしを融着させて、該シート積層体における該レーザー光の被照射部にシール縁部を形成するレーザー光照射工程と
を備え
、
前記密着部形成工程では、前記シート積層体を前記重なり部となる前記繊維面の前記熱可塑性樹脂の融点以下の温度で加熱しながら押圧することにより、前記密着部を形成する、シート融着体の製造方法。
【請求項2】
複数のシートの積層構造を有し、該積層構造の縁部に該複数のシートの縁部どうしが融着したシール縁部を有し、該複数のシートそれぞれの少なくとも一方の面が、熱可塑性樹脂を含む繊維で構成された繊維面である、シート融着体の製造方法であって、
前記複数のシートを重ねて、前記繊維面どうしの重なり部を有するシート積層体を形成するシート積層工程と、
前記シート積層体に、前記複数のシートどうしが剥離可能に密着した密着部を形成する密着部形成工程と、
前記密着部が形成された前記シート積層体を非加圧状態として、該シート積層体にレーザー光を所望のパターンで照射することにより、該シート積層体を溶断するとともに、その溶断によって生じた前記複数のシートの切断縁部どうしを融着させて、該シート積層体における該レーザー光の被照射部にシール縁部を形成するレーザー光照射工程と
を備え、
前記密着部形成工程では、前記シート積層体に超音波を印加しながら押圧することにより、前記密着部を形成する、シート融着体の製造方法。
【請求項3】
複数のシートの積層構造を有し、該積層構造の縁部に該複数のシートの縁部どうしが融着したシール縁部を有し、該複数のシートそれぞれの少なくとも一方の面が、熱可塑性樹脂を含む繊維で構成された繊維面である、シート融着体の製造方法であって、
前記複数のシートを重ねて、前記繊維面どうしの重なり部を有するシート積層体を形成するシート積層工程と、
前記シート積層体に、前記複数のシートどうしが剥離可能に密着した密着部を形成する密着部形成工程と、
前記密着部が形成された前記シート積層体を非加圧状態として、該シート積層体にレーザー光を所望のパターンで照射することにより、該シート積層体を溶断するとともに、その溶断によって生じた前記複数のシートの切断縁部どうしを融着させて、該シート積層体における該レーザー光の被照射部にシール縁部を形成するレーザー光照射工程と
を備え、
前記密着部形成工程では、前記シート積層体に前記密着部を部分的に形成し、
前記レーザー光照射工程では、前記レーザー光の被照射部が前記密着部及び前記密着部の非形成部の双方を跨がるように、前記レーザー光を照射する、シート融着体の製造方法。
【請求項4】
前記密着部形成工程では、前記シート積層体を押圧することにより、前記密着部を形成する、請求項
3に記載のシート融着体の製造方法。
【請求項5】
前記シート積層体は、複数の前記シート融着体又はその中間品が一方向に連なる連続体であり、
前記レーザー光照射工程の後に、前記連続体を切断して枚葉の前記シート融着体を製造する連続体切断工程を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート融着体の製造方法。
【請求項6】
前記シート積層体は、複数の前記シート融着体又はその中間品が一方向に連なる連続体であり、
前記レーザー光照射工程において、レーザー光の照射により前記連続体を切断して枚葉の前記シート融着体を製造する、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート融着体の製造方法。
【請求項7】
前記繊維面の構成繊維の平均繊維径が0.3~3μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート融着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を用いたシート融着体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シート融着体として、複数のシートの積層構造を有し、該積層構造の縁部に該複数のシートの縁部どうしが融着したシール縁部を有するものが知られており、例えば、樹脂フィルム製の袋状容器がこれに相当する。このようなシート融着体の製造は従来、複数のシートを重ね合わせてシート積層体を得、該シート積層体におけるシール縁部の形成予定部位を押圧しつつ加熱することでシール部を形成した後、該シール部を切断刃で切断することにより行われている。特許文献1には、このような従来製法により、シート融着体の一種である手袋を製造することが記載されている。
【0003】
特許文献2には、複数の合成樹脂製フィルムからなるシート融着体の製造方法として、重ね合わされた合成樹脂製フィルムどうしの所定の部分を、該フィルムの融点よりも低い所定の温度に少なくとも一方が加熱された一対の挟持部材間で挟持して剥離可能に密着させるステップと、密着された該所定の部分を加熱した溶断刃により切断することにより、切断及び溶着シールを同時に行うステップとを備えるものが記載されている。
【0004】
特許文献1及び2に記載の如き、従来のシート融着体の製造方法は、シート積層体における融着予定部位を挟持部材で挟持しつつ加熱することによりシール部を形成するため、シール部の形状を変更する場合には挟持部材の変更も必要になる場合があり、シール部の形状変更が容易ではない。このように、従来のシート融着体の製造方法は、シール部の形状の自由度が低く、シール部の形状に関する様々な要望に十分に対応できないという問題がある。特許文献3には、この問題を解決し得るプラスチックフィルムの溶着方法として、一対の押さえロールにより押圧された複数のプラスチックフィルムの表面に、レーザー光を照射して溶着部を形成する工程を有するものが記載されている。なお、特許文献3に具体的に開示されているのは、複数のプラスチックフィルムどうしをレーザー光照射による溶着させる技術であり、レーザー光照射による溶断は記載されていない。
【0005】
特許文献4には、パンツ型着用物品の製造方法において、パンツ型着用物品のサイドシール部を、レーザー光を用いて形成することが記載されている。具体的には、特許文献4に記載の製造方法では、シート積層体(前身頃側の外装体と後身頃の外装体との積層体)におけるサイドシール部の形成予定部位を加圧状態とした上で、該形成予定部位にレーザー光を照射することにより、該複数のシートを分断するとともに、その分断によって生じた積層状態のシートの切断縁部どうしを融着させてサイドシール部を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-047972号公報
【文献】特開平10-86223号公報
【文献】特開2009-255461号公報
【文献】特開2015-8943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4に記載のレーザー光照射によるシート積層体の溶断技術は、溶断対象のシート積層体を支持部材と押さえ部材との間で挟持しつつ、両部材のうちの一方に設けられた開口部から該シート積層体に向けてレーザー光を照射する方法を採用しているため、レーザー光の照射パターンの自由度が低く、したがって、製造目的物であるシート融着体の形状(輪郭)の自由度が低いという問題がある。所望の形状のシート融着体を効率良く製造する技術は未だ提供されていない。
【0008】
本発明は、レーザー光を用い、所望の形状のシート融着体を効率良く製造し得る方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数のシートの積層構造を有し、該積層構造の縁部に該複数のシートの縁部どうしが融着したシール縁部を有し、該複数のシートそれぞれの少なくとも一方の面が、熱可塑性樹脂を含む繊維で構成された繊維面である、シート融着体の製造方法である。
本発明のシート融着体の製造方法の一実施形態では、前記複数のシートを重ねて、前記繊維面どうしの重なり部を有するシート積層体を形成するシート積層工程を備える。
本発明のシート融着体の製造方法の一実施形態では、前記シート積層体に、前記複数のシートどうしが剥離可能に密着した密着部を形成する密着部形成工程を備える。
本発明のシート融着体の製造方法の一実施形態では、前記密着部が形成された前記シート積層体を非加圧状態として、該シート積層体にレーザー光を所望のパターンで照射することにより、該シート積層体を溶断するとともに、その溶断によって生じた前記複数のシートの切断縁部どうしを融着させて、該シート積層体における該レーザー光の被照射部に前記シール縁部を形成するレーザー光照射工程を備える。
本発明のシート融着体の製造方法の一実施形態では、前記シート積層体を製造目的の前記シート融着体の輪郭に沿って切断する切断工程とを備える。
本発明の他の特徴、効果及び実施形態は、以下に説明される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レーザー光を用い、所望の形状のシート融着体を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の製造方法によって製造されたシート融着体の一実施形態である手袋の一方の面側を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すシート融着体の製造方法の説明図である。
【
図3】
図3は、繊維面どうしの重なり部を有するシート積層体の該重なり部を所定の押圧力で押圧した後の、該シート積層体における被押圧部の複数のシートどうしの界面を撮像した図面代用写真であり、
図3(a)は、複数のシートどうしが剥離可能に密着した密着部が形成されている様子を示し、
図3(b)は、該密着部が形成されていない様子を示す。
【
図4】
図4は、
図3に示す図面代用写真の撮像方法の説明図である。
【
図5】
図5(a)は、密着部が形成されたシート積層体の一例の厚み方向に沿う断面を模式的に示す断面図、
図5(b)は、
図5(a)に示すシート積層体にレーザー光を照射してシール縁部を形成した状態を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明のシート融着体の製造方法の他の実施形態の説明図である。
【
図7】
図7は、本発明のシート融着体の製造方法の更に他の実施形態の説明図(
図2相当図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。なお、複数の図面どうしで互いに同一の部分には、共通の符号を付している。図面は基本的に模式的なものであり、寸法、ある部分と他の部分との寸法比などは、現実のものとは異なる場合がある。
【0013】
図1には、本発明の製造方法によって製造されたシート融着体の一実施形態である手袋1が示されている。手袋1は、複数のシート2,3の積層構造4を有し、積層構造4の縁部に複数のシート2,3の縁部どうしが融着したシール縁部5を有している。シール縁部5は、複数のシート2,3の融着部5Mを含む。
【0014】
本実施形態では、手袋1は、シール縁部5と、シール縁部5に包囲された非接合部6とを有する袋体であり、5本の手指に対応した5つの小袋体を有する。積層構造4は、手袋1の一方の面(手の甲側の面)を形成するシート2と、他方の面(手の平側の面)を形成するシート3とからなる二層構造であり、シール縁部5と非接合部6とからなる。積層構造4を構成する複数のシート2,3は、シール縁部5では融着により互いに接合されているが、非接合部6では互いに接合されておらず、剥離可能に重ねられている。非接合部6における積層構造4の縁部に位置する部分は、手袋1を装着する際に手を挿入するのに利用される開口部7である。開口部7から挿入された手は非接合部6に配置される。
【0015】
複数のシート2,3それぞれの少なくとも一方の面は、熱可塑性樹脂を含む繊維(熱可塑性繊維)で構成された繊維面である。前記繊維面は、繊維を主体として構成された面であり、繊維に起因する微細な凹凸を有する。例えば、オレフィン系樹脂等の合成樹脂からなるフィルムは繊維を含んでおらず、その表面は平滑であり、前記繊維面とは対照的である。本発明において、製造目的物であるシート融着体を構成する複数のシートとして、前記繊維面を有するものを使用する理由は、後述するように、本発明の所定の効果(レーザー光を用い、所望の形状のシート融着体を効率良く製造する)の発現と密接に関連する繊維シートとしては、例えば、不織布、織布、紙が挙げられる。典型的には不織布であり、例えば、エアスルー法、スパンボンド法、スパンレース法、電界紡糸法等の公知の製法により製造された不織布が挙げられる。シート2,3は、それぞれ、典型的には、繊維シートのみからなるが、繊維シートと繊維シート以外のシート(例えば樹脂製フィルム)との積層構造を有する複合シートでもよい。その場合、手袋1の内面(開口部7から挿入された手と接触する面)は繊維シートで形成され、手袋1の外面は、繊維シート以外のシートで形成される。
【0016】
次に、本発明のシート融着体の製造方法について、前述の手袋1の製造方法を例にとり、図面を参照しながら説明する。
図2には、手袋1の製造方法の概略構成が示されている。
図2の上段は、手袋1の製造方法の実施に使用される製造装置10の概略構成を示し、
図2の下段は、製造装置10において原料(シート2,3)が中間品(シート積層体11)を経てシート融着体(手袋1)となる様子を示している。
製造装置10は、被加工物(原料又は中間品)を所定の一方向に搬送し、その搬送途中で被加工物を用いて、シート積層体形成工程、密着部形成工程及びレーザー光照射工程を含む加工工程を実施して、製造目的のシート融着体である手袋1を製造する。
本実施形態では、被加工物は、手袋1の原料であるシート2,3、又は原料を加工して得られた中間品(シート積層体11)であり、原料及び中間品の何れも一方向に長い連続帯状をなしているところ、MDは、被加工物の長手方向に一致する。
【0017】
本明細書において「MD」は、被加工物の搬送方向(Machine Direction)を示し、「CD」は、MDに直交する搬送直交方向(Cross machine Direction)を示す。
【0018】
製造装置10は、
図2に示すように、MDの上流側から下流側に向かって、シート積層体形成部20、密着部形成部30、レーザー光照射部40及び切断部50をこの順で備える。
【0019】
シート積層体形成部20は、本発明の製造方法の必須工程の1つであるシート積層体形成工程を実施する装置であり、シート供給手段21と、一対のロール22,23とを含む。本実施形態では、手袋1の原料として2枚のシート2,3を使用するところ、両シート2,3は、それぞれ、一方向に長い連続帯状をなし、使用前は、ロール状に巻回された原反ロール2R,3Rとされている。シート積層体形成部20は、シート供給手段21により、原反ロール2R,3Rからシート2,3を連続的に繰り出し、繰り出されたシート2,3を一対のロール22,23の間に導入して合流させることで、手袋1の中間品であるシート積層体11を形成する。シート積層体形成部20の各部の構成は、この種のシート加工装置における同様の機能を有するものと同じである。
【0020】
密着部形成部30は、本発明の製造方法の必須工程の1つである密着部形成工程を実施する装置であり、間欠押圧手段31を備える。間欠押圧手段31は、一対の非ロール状の押圧具32,33を含む。押圧具32,33は、それぞれ、被加工物(シート積層体11)と接触してこれを押圧する押圧面が平面である。押圧具32,33は、被加工物を挟んで両側(図示の形態では上下)に配置され、且つ被加工物に対して接離自在に配置されている。一対の押圧具32,33は、それぞれ、不使用時には、被加工物から離間した位置にある所定の待機位置で待機しており、使用時(被加工物の押圧時)には、該待機位置から所定の押圧位置(待機位置よりも被加工物に近い位置)に移動して被加工物を押圧する。被加工物であるシート積層体11は、一対の押圧具32,33によって厚み方向の両側から同時に押圧され、これにより、シート積層体11に密着部13が形成される。密着部13については後述する。
【0021】
レーザー光照射部40は、本発明の製造方法の必須工程の1つであるレーザー光照射工程を実施する装置であり、被加工物(シート積層体11)に向けて、レーザー光41Lを照射するレーザー光照射機41と、レーザー光が照射される側とは反対側からシート積層体11を支持するとともに、シート積層体11をMDに搬送する搬送手段42とを備える。搬送手段42は、公知のベルトコンベアと同様に構成されている。
レーザー光照射機41は、レーザー光を照射しながらその照射位置を任意に移動可能になされている。レーザー光としては、シート積層体11を構成する複数のシートのうちの少なくとも1つに吸収され、且つ該1つのシートを発熱させ得る発振波長のものが好ましい。本発明で使用可能なレーザー光として、CO2レーザー、YAGレーザー、LDレーザー(半導体レーザー)、YVO4レーザー、ファイバーレーザーが挙げられる。
【0022】
切断部50は、本発明の製造方法に採用可能な連続体切断工程を実施する装置である。本実施形態では、被加工物であるシート積層体11が、複数のシート融着体(手袋1)又はその中間品が一方向MDに連なる連続体であるので、該連続体を切断して
図1に示す枚葉の手袋1を製造する工程(連続体切断工程)が必要である。
切断部50は、カッターロール51と、カッターロール51の周面に対向配置されたアンビルロール52と、アンビルロール52の周面に対向配置された移送ロール53と、搬送手段54とを含む。カッターロール51は、被加工物と接触してこれを切断する刃51aを周面に有する接触型切断手段である。アンビルロール52及び移送ロール53は、それぞれ周面上の被加工物を吸引保持可能に構成されている。搬送手段54は、公知のベルトコンベアと同様に構成されている。
【0023】
ここで、本発明の技術思想について説明する。
本発明が解決しようとする課題は、レーザー光を用い、所望の形状のシート融着体を効率良く製造し得る方法を提供することである。
例えば、特許文献4に記載のシート融着体(サイドシール部を有するパンツ型着用物品)の製造方法は、前述したとおり、シート積層体にレーザー光を照射することで、該シート積層体を構成する複数のシートを分断するとともに、その分断によって生じた積層状態のシートの切断縁部どうしを融着させてシール縁部(サイドシール部)を形成するというものであり、シート積層体の溶断と融着とを同時に行うため、シート融着体を効率良く製造することができる。
一方、特許文献4に記載の製造方法は、レーザー光照射工程において、溶断対象のシート積層体を支持部材と押さえ部材との間で挟持することで加圧状態としつつ、両部材のうちの一方に設けられた開口部から該シート積層体に向けてレーザー光を照射するため、該開口部の形状はレーザー光の照射パターンに対応したものとする必要がある。そのため、特許文献4に記載の製造方法は、レーザー光の照射パターン(軌跡)が直線のみからなるような単純なパターンであればよいが、
図1に示す手袋1の輪郭のような、凹凸の多い比較的複雑なパターンであると、それに対応する前記開口部の作製難易度が上がるため、手袋1のような比較的複雑な輪郭のシート融着体を設計どおりに製造することが難しい場合があり、製造可能なシート融着体の形状に制限がある。また、特許文献4に記載の製造方法は、レーザー光の照射パターンを変更する場合には、前記開口部の形状を変更する必要があるため、レーザー光の照射パターンの変更が容易ではなく、シート融着体の形状変更にスムーズに対応できないという課題がある。
そこで、特許文献4に記載の製造方法において、レーザー光の照射パターンの自由度を高めるために、レーザー光照射工程において、前記押さえ部材を不使用とする等して、溶断対象のシート積層体を非加圧状態としてこれにレーザー光を照射することが考えられる。しかしながら、溶断対象のシート積層体を単に非加圧状態としただけでは、レーザー光照射によって生じた複数のシートの切断縁部どうしの融着が不十分となり、シール縁部が形成できない、又はシール縁部の融着強度が著しく低下する等の問題が発生することが判明した。この問題は、非加圧状態のシート積層体においては、該シート積層体を構成する複数のシートどうしが密着していないため、レーザー光の被照射部の近傍に生じるシート形成材料の溶融物が、該被照射部から周辺の繊維を介して浸透し難いことによるものと推察される。前記溶融物は、熱可塑性樹脂等のシート形成材料がレーザー光によって熱せられることで発生するもので、シール縁部を構成する複数のシートの切断縁部どうしを接合する接着剤としての役割を果たすものである。実用上十分な融着強度を有するシール縁部を形成するためには、前記溶融物の発生量、位置等を適切に制御することが重要である。
【0024】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、その主な特徴(課題解決手段)として下記構成1~3が挙げられる。
・構成1:繊維面を有する複数のシートを用い、それらの繊維面どうしを重ねてシート積層体を形成する。
・構成2:シート積層体にレーザー光を照射する前に、シート積層体に複数のシートどうしが剥離可能に密着した密着部を形成する。
・構成3:非加圧状態のシート積層体に対してレーザー光を照射する。
【0025】
前記構成3を採用することで、レーザー光照射工程でシート積層体を加圧状態とするための設備(例えば、特許文献4に記載の製造方法における押さえ部材)が不要になるため、レーザー光の照射パターンの自由度が大幅に向上し、基本的には、レーザー光の照射パターンに制限がなくなる。そのため、所望の形状のシート融着体を製造することが可能となる。
一方、前記構成3を採用することで、前述したように、レーザー光照射時にシート積層体を構成する複数のシートどうしが密着しない状態となるため、複数のシートの切断縁部どうしの融着が不十分となることが懸念される。これに対し、本発明では前記構成1及び2を採用することでこの懸念を払拭している。すなわち本発明では、前記構成1を採用し、複数のシートの繊維面どうしを重ねてシート積層体を形成するとともに、前記構成2を採用し、該シート積層体を押圧する等して、レーザー光照射工程の実施前に該シート積層体に密着部を形成することにより、レーザー光照射工程で該シート積層体を非加圧状態としても、該密着部が維持されるようにした。このようなシート積層体の密着部に対し、該シート積層体を非加圧状態としてレーザー光を照射すると、レーザー光の被照射部の近傍に生じたシート形成材料(熱可塑性樹脂等)の溶融物が、該被照射部から該密着部の繊維を介して比較的広い範囲に浸透するので、該シート積層体における該被照射部を含むある程度広い範囲に接着剤を塗布したのと同様の状態となり、複数のシートの切断縁部どうしが実用上十分な融着強度で融着したシール縁部が得られる。
したがって、前記構成1~3を具備する本発明によれば、レーザー光を用い、所望の形状のシート融着体を効率良く製造することができる。
【0026】
前記構成2の「密着部」は、前記構成1の「繊維面」どうしが密着した部分であり、シート積層体を構成する複数のシートどうしは接合されてはいないものの、繊維面を構成する繊維どうしが交絡する等して、繊維面を介して剥離可能に密着している。ここで言う「剥離可能に密着」とは、シート積層体からシートを剥がす際に、シートを破損させずに剥がすことが可能な程度に密着した状態を指す。前記密着部は、複数のシートの繊維面どうしを単に重ねるだけでは形成されず、例えば、複数のシートの繊維面どうしを重ねた状態で該複数のシート(シート積層体)を厚み方向に押圧することで形成される。本発明の製造方法の必須工程の1つである密着部形成工程では、典型的には、このシート積層体の押圧を実施することで、シート積層体に密着部を形成する。
【0027】
シート積層体に前記密着部を確実に形成する観点からは、シート積層体を構成するシートの繊維面の構成繊維(熱可塑性樹脂を含む繊維)は細い方が好ましい。一般に、繊維径が小さく細い繊維は、曲げ剛性が比較的低く変形しやすいため、該繊維を含む繊維面どうしは交絡しやすく、前記密着部を形成しやすい。一方で、繊維面の構成繊維の繊維径が小さすぎると、生産性が低下するおそれがある。以上を考慮すると、シート積層体を構成するシートの繊維面の構成繊維(熱可塑性樹脂を含む繊維)の平均繊維径は、好ましくは0.3~3μm、より好ましくは0.4~2μmである。
【0028】
シートの繊維面の構成繊維の平均繊維径は、以下の方法により測定される。測定対象のシートの繊維面から任意に200本の繊維を選択し、各繊維について、その長手方向と直交する方向(径方向)に延びる直線を引いた場合に、該直線における当該繊維と重複する部分の径方向の長さを測定し、その測定値を当該繊維の繊維径とする。こうして測定した200本の繊維の繊維径の算術平均値を算出し、当該シートの繊維面の構成繊維の平均繊維径とする。
【0029】
手袋1の製造方法は、前述した本発明の技術思想が反映されたものである。以下、手袋1の製造方法について
図2を参照しながら説明する。
【0030】
手袋1の製造方法では、まず、複数のシート2,3を重ねて、繊維面どうしの重なり部12を有するシート積層体11を形成する(シート積層体形成工程)。
【0031】
製造装置10では、
図2に示すように、シート供給手段21により、原反ロール2R,3Rから連続帯状のシート2,3を繰り出し、一対のロール22,23の間隙でそれらの繊維面どうしが対向するように合流させることで、連続帯状のシート積層体11を形成する(シート積層体形成工程)。
【0032】
シート積層体形成工程の実施後(シート積層体11がシート積層体形成部20を通過した直後)から次工程の密着部形成工程の実施前(シート積層体11が密着部形成部30に導入される前)までの間、シート積層体11を構成する複数のシート2,3どうしは単に重ねられているだけであり、繊維面どうしの重なり部12において前記の「複数のシート2,3どうしが剥離可能に密着した密着部」は形成されていない。すなわち斯かる期間は、
図2に示すように、シート積層体11の重なり部12はその全域が非密着部である。
シート積層体形成工程では、シート積層体11の原料である複数のシート2,3を単に重ねるだけであり、シート積層体11を実質的に押圧しない。一対のロール22,23の間隙の長さ(被加工物の厚み方向に沿う長さ)は、該間隙に導入される複数のシート2,3(被加工物)を実質的に押圧しないように調整される。ここで言う「実質的に押圧しない」には、1)被加工物を押圧しない、すなわち押圧力がゼロの形態と、2)被加工物を、前記密着部の形成に至らない程度の押圧力で押圧する形態とが含まれる。前記2)の形態において、前記密着部の形成に至らない程度の押圧力は、好ましくは1MPa未満である。この押圧力1MPa未満というのは、シートをロール対で挟持しつつ搬送する機構を有する一般的なシート搬送装置において、該ロール対による該シートへの押圧力(ニップ圧)と同程度である。
【0033】
手袋1の製造方法では、次に、シート積層体11に、複数のシート2,3どうしが剥離可能に密着した密着部13を形成する(密着部形成工程)。
【0034】
製造装置10では、シート積層体11を押圧することにより、密着部13を形成する。具体的には
図2に示すように、繊維面どうしの重なり部12を有するシート積層体11を間欠押圧手段31に導入し、一対の押圧具32,33で厚み方向に押圧することで、重なり部12の少なくとも一部を、複数のシート2,3どうしが剥離可能に密着した密着部13とする(密着部形成工程)。
【0035】
本実施形態では、シート積層体11(複数のシート融着体1の中間品が一方向に連なる連続体)の搬送を間欠的に実施し、シート積層体11の搬送停止中に、間欠押圧手段31(一対の押圧具32,33)でシート積層体11を押圧する。すなわち本実施形態では、シート積層体11に対して間欠プレスを実施することで、シート積層体11に密着部13を形成する。具体的には本実施形態では、シート積層体11をMDに搬送し、シート積層体11の押圧予定領域(密着部形成予定領域)が一対の押圧具32,33の間隙に導入されると、シート積層体11の搬送を停止し、所定の待機位置で待機する一対の押圧具32,33を所定の押圧位置に移動させて該押圧予定領域を押圧させ、密着部13を形成する。その後、一対の押圧具32,33を押圧位置から待機位置に移動させるとともに、シート積層体11の搬送を再開する。本実施形態ではこのように、「シート積層体11の搬送→停止→押圧(密着部13の形成)」という一連の動作が繰り返されることで、シート積層体11が間欠プレスに供され、シート積層体11の所望の部位に密着部13が形成される。また本実施形態では、シート積層体11の原料である複数のシート2,3の搬送は、シート積層体11の搬送と連動しており、シート積層体11の搬送停止中は、複数のシート2,3の搬送も停止される。なお、シート積層体11に対して間欠プレスを実施する場合、複数のシート2,3の搬送は間欠搬送である必要はなく、例えば、公知のアキューム機構を用いる等して、連続搬送してもよい。
【0036】
本実施形態では、
図2に示すように、複数のシート2,3の繊維面どうしの重なり部12の全域を、複数のシート2,3どうしが剥離可能に密着した密着部13としている。
また本実施形態では、一対の押圧具32,33それぞれの押圧面(被加工物との接触面)のCDの長さは、被加工物であるシート積層体11のCDの長さに比べて長く、押圧具32,33の一回の押圧動作(待機位置から押圧位置被加工物までの移動、被加工物の押圧、被加工物から待機位置への移動)で、シート積層体11における押圧具32,33の間隙に位置する部分の全体を押圧可能になされている。すなわち本実施形態では、一回の押圧動作で、シート積層体11の押圧予定領域の全体に密着部13を形成可能になされている。
【0037】
密着部形成工程において、シート積層体11を押圧する際の圧力(押圧力)は、密着部13を一層確実に形成する観点から、好ましくは1MPa以上、より好ましくは10MPa以上である。一方、押圧力が大きすぎると、密着部13の剥離が困難になることが懸念されるので、これを防止する観点から、押圧力は好ましくは50MPa以下、より好ましくは40MPa以下である。
また、前記と同様の観点から、押圧時間(所定の押圧力を維持する時間)は、好ましくは0.01秒以上、より好ましくは0.1秒以上、そして、好ましくは30秒以下、より好ましくは20秒以下である。
【0038】
図3には、繊維面どうしの重なり部を有するシート積層体の該重なり部を所定の押圧力で押圧した後の、該シート積層体における被押圧部の複数のシートどうしの界面を撮像した図面代用写真が示されている。
図3の図面代用写真の被写体であるシート積層体は、密着部13の形成前のシート積層体11の一部を所定の押圧力で押圧したものであり、該被写体の基本構成はシート積層体11と同じである。
図3の図面代用写真を得る手順は次のとおりである。まず、2枚のシート2,3を重ねて、繊維面どうしの重なり部12を有するシート積層体11を形成し、次に
図4に示すように、重なり部12の一部を所定の押圧力で押圧して被押圧部P1を形成した後、被押圧部P1とその周辺の非押圧部とを跨ぐ領域P2をシート積層体11から切り出して被写体とし、該被写体(領域P2)における被押圧部P1で重なり合う2枚のシート2,3を剥離して、2枚のシート2,3の界面(繊維面)を含む領域P3を電子顕微鏡で撮像する。領域P2の平面視形状及び大きさは特に限定されないが、例えば、短辺長さ5mm、長辺長さ10mmの平面視長方形形状とすることができる。
図3の図面代用写真は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM-6510」)を用いて撮像したものである。また、
図3の図面代用写真におけるシート2,3は何れも、繊維径0.9μmのポリプロピレン繊維からなる坪量5g/m
2の不織布である。
図3(a)の被写体と
図3(b)の被写体とは、被押圧部P1の形成工程における重なり部12に対する押圧力が互いに異なっており、
図3(a)の被写体の該押圧力は10MPa、
図3(b)の被写体の該押圧力は1MPaである。両被写体ともに、被押圧部P1の形成工程における押圧時間は1秒、加熱温度は25℃である。
図3(a)では、シート2,3どうしが繊維面を介して密着している部分が存在しているのに対し、
図3(b)では、シート2,3どうしが密着している部分が実質的に存在せず、シート2,3の界面に比較的大きな間隙(黒色部分)が存在している。このことから、密着部形成工程においてシート積層体11の重なり部12を押圧して密着部13を確実に形成するためには、重なり部12に対する押圧力が、一般的なシート搬送装置におけるシート搬送のためのニップ圧(1MPa未満)程度では足らず、該ニップ圧を超える押圧力(例えば1MPa以上)で重なり部12を押圧することが好ましいことがわかる。
【0039】
密着部形成工程では、シート積層体11を単に押圧するだけでもよいが、シート積層体11に含まれる熱可塑性樹脂(複数のシート2,3の構成繊維の形成材料)の融点以下の温度で加熱しながら押圧することにより、密着部13を形成してもよい。これにより、密着部13の形成が容易且つ確実になされるようになり得る。ここで言う「密着部13の形成が容易」とは、加温しながら押圧することで、加温せずに押圧するよりも、低面圧又は短時間で密着部13を形成できることを指す。本発明者らの知見によれば、例えば、シート積層体を構成する複数のシートがスパンボンド不織布又はエアスルー不織布である場合に、該シート積層体を単に押圧するだけでは、該複数のシートの繊維面どうしが剥離可能に密着した密着部を形成することは困難である。そこで、シート融着体の原料としてこのような不織布を使用する場合には、密着部形成工程では、該不織布の形成材料である熱可塑性樹脂の融点以下の温度で加熱しながら押圧することが好ましい。
シート積層体11に融点の異なる複数種類の熱可塑性樹脂が含まれている場合、具体的には例えば、複数のシート2,3どうしで熱可塑性樹脂の種類が異なる場合、その複数種類の熱可塑性樹脂のうちで最も融点が低いものの融点以下の温度で、シート積層体11を加熱しながら押圧することが好ましい。
【0040】
密着部形成工程でシート積層体を押圧する際の加熱温度は、シート積層体に含まれる熱可塑性樹脂の種類等に応じて適宜調整すればよく、特に制限されないが、該熱可塑性樹脂が不織布の材料として汎用されているものである場合、具体的には例えば、該熱可塑性樹脂にポリプロピレンが含まれる場合は、好ましくは50℃以上、より好ましくは100℃以上、そして、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。
ここで言う「加熱温度」とは、シート積層体を構成するシートの品温を指す。前記シートの品温は、典型的には、シート積層体を加熱する加熱手段の加熱設定温度と同じである。前記加熱手段としては、この種のいわゆるヒートプレスに使用可能な公知のものを特に制限なく用いることができる。例えば、間欠押圧手段31の一対の押圧具32,33の一方又は両方にヒーター等の加熱手段を内蔵させ、押圧具32,33によるシート積層体11の押圧中に該加熱手段によりシート積層体11を加熱してもよい。あるいは、間欠押圧手段31よりもMDの上流側にヒーター等の加熱手段を配置し、一対の押圧具32,33による押圧に先立ち、シート積層体11を該加熱手段により加熱してもよい。
【0041】
手袋1の製造方法では、次に、密着部13が形成されたシート積層体11を非加圧状態として、シート積層体11にレーザー光を所望のパターンで照射することにより、シート積層体11を溶断するとともに、その溶断によって生じた複数のシート2,3の切断縁部どうしを融着させて、シート積層体11におけるレーザー光の被照射部にシール縁部5を形成する(レーザー光照射工程)。
【0042】
製造装置10では、
図2に示すように、シート積層体11を、レーザー光照射部40の搬送手段42における被加工物の載置面上に導入し、該載置面に対向配置されたレーザー光照射機41からシート積層体11に向けてレーザー光41Lを照射することで、シート積層体11の密着部13に、手袋1の輪郭に対応した形状のシール縁部5を形成する(レーザー光照射工程)。
【0043】
図5(a)に示す如き、密着部13が形成されたシート積層体11に対し、レーザー光を照射すると、
図5(b)に示すように、そのレーザー光の被照射部の形成材料(熱可塑性樹脂等)の一部が発熱・気化して消失することで該被照射部が切断(溶断)され、複数のシート2,3の切断縁部が発生するとともに、該切断縁部がレーザー光によって熱せられることで該被照射部の近傍に融着部5Mが形成される。こうして、複数のシート2,3の切断縁部どうしが融着部5Mによって互いに接合されてなる、シール縁部5が形成される。またこのとき、前述したように、レーザー光の被照射部の近傍が、レーザー光によって熱せられることで溶融し、その溶融物が該被照射部から密着部13の繊維を介して比較的広い範囲に浸透するので、シール縁部5における複数のシート2,3の切断縁部どうしの融着が強固なものとなる。
レーザー光照射工程は、レーザー光照射機という、被加工物(シート積層体11)と接触せずにこれを切断する非接触型切断手段を用い、被加工物を切断(溶断)する工程であり、切断工程とも言える。
【0044】
レーザー光照射工程の実施後、シート積層体11は、
図2に示すように、シール縁部5に包囲された部分からなる手袋1(シート融着体)と、それ以外の不要部分9とに区分される。本実施形態では、レーザー光照射工程では、シート積層体11に、製造目的物である手袋1の輪郭の一部のみに対応したシール縁部5を形成し、手袋1の輪郭の他の一部にはレーザー光を照射しないので、レーザー光照射工程の実施後で次工程の連続体切断工程の実施前の時点では、手袋1及び不要部分9は何れもシート積層体11から切り離されていない。
【0045】
本実施形態では、被加工物であるシート積層体11が、複数の手袋1(シート融着体)又はその中間品が一方向MDに連なる連続体であるので、該連続体を切断して枚葉の手袋1を製造する工程(連続体切断工程)を実施する。具体的には
図2に示すように、レーザー光照射部40を通過した、シール縁部5が形成された連続帯状のシート積層体11を切断部50に導入し、カッターロール51で製品一単位分の長さに切断して、枚葉の手袋1を複数連続的に製造する。
図2中、CDに延びる直線状の切断線8は、カッターロール51の刃51aによって切断される箇所を示す。シート積層体11を切断線8で切断することにより、シート積層体11は手袋1又はその中間品(製品)とそれ以外の部分である不要部分9(非製品)とに切り分けられる。手袋1又はその中間品は、搬送手段54によって包装工程等の次工程に搬送され、不要部分9は、別ルートで回収される。不要部分9の回収方法は、この種の製造ラインで従来採用されている、被加工物の切断に伴って発生する不要部分の回収方法を適宜利用できる。本発明のシート融着体の製造方法は、このような不要部分の回収工程を備えていてもよい。
なお、本実施形態では
図2に示すように、切断線8はシート積層体11のCDの全長にわたって連続しておらず、すなわち本実施形態では、切断部50にてシート積層体11をCDの全長にわたっては切断せず、シート積層体11のCDの両端部は切断しない。これは、シート積層体11の搬送のしやすさ、不要部分9の回収のしやすさ等を考慮し、切断後のシート積層体11のMDの連続性を確保したものである。
【0046】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。後述する他の実施形態については、前記実施形態と異なる構成を主として説明し、前記実施形態と同様の構成は前記実施形態における符号と同一の符号を付して説明を省略する。後述する実施形態において特に説明しない構成は、前記実施形態についての説明が適宜適用される。
【0047】
前記実施形態では、シート積層体11に対して間欠プレスを実施することでシート積層体11に密着部13を形成していたが、本発明において密着部形成工程の実施方法(シート積層体の押圧方法)は特に制限されず、例えば連続プレス法でもよい。
図6には、連続プレス法により密着部形成工程を実施する製造装置10Aの要部が示されている。
【0048】
製造装置10Aは、密着部形成部30として連続押圧手段35を備える点で、密着部形成部30として間欠押圧手段31を備える製造装置10と異なる。また製造装置10Aは、シート積層体形成部20の如き、シート積層工程を実施するための専用設備を備えていない点でも、これを備える製造装置10と異なる。製造装置10Aでは、密着部形成部30(連続押圧手段35)がシート積層工程及び密着部形成工程を実施する。
連続押圧手段35は、シート供給手段34と、一対の押圧ロール36,37とを含む。シート供給手段34は、製造装置10が備えるシート供給手段21と同様に構成されている。押圧ロール36,37は、それぞれ、被加工物と接触する押圧面が周面(曲面)であり、該押圧面が平面である前記押圧具32,33と異なる。押圧ロール36,37は、被加工物であるシート積層体11を挟んで両側(図示の形態では上下)に配置され、且つそれらの押圧面が、搬送中のシート積層体11と常時接触するように配置されている。
【0049】
製造装置10Aでは、
図6に示すように、原反ロール2R,3Rからシート2,3を連続的に繰り出し、繰り出されたシート2,3を一対の押圧ロール36,37の間隙(ニップ部)に導入しつつ合流させることで、シート積層体11を製造する(シート積層工程)のと同時に、そのシート積層体11を厚み方向に押圧して密着部13を形成する(密着部形成工程)。また、製造装置10Aでは、シート積層体11の搬送は連続的に実施され、連続帯状のシート積層体11における連続押圧手段35を通過した部分には密着部13が該部分のMDに全長にわたって形成される。このような連続プレス法によっても本発明に係る密着部形成工程を実施することが可能であり、本発明の所定の効果が得られる。
【0050】
図7には、手袋1の製造装置の他の実施形態である製造装置10Bが示されている。製造装置10を用いた手袋1の製造方法では、密着部形成工程において、繊維面どうしの重なり部12を有するシート積層体11の全体に密着部13を形成したが(
図2参照)、
図7に示すように、密着部形成工程において、シート積層体11に密着部13を部分的に形成してもよい。すなわち密着部形成工程を経たシート積層体11には、密着部13と、密着部13の非形成部すなわち重なり部12とが混在していてもよい。製造装置10Bを用いた手袋1の製造方法では、密着部形成工程でシート積層体11に、密着部13をMDに間欠的に形成しており、密着部形成工程を経たシート積層体11には、密着部13と、密着部13の非形成部である重なり部12とが、MDに交互に配置されている。
そして、製造装置10Bを用いた手袋1の製造方法では、符号14で示すレーザー光41Lの被照射部(軌跡)が、密着部13及び重なり部12(非密着部)の双方を跨がるように、レーザー光41Lを照射する。
図7に示す形態では、レーザー光41Lの被照射部(軌跡)が、密着部13及び重なり部12の双方を跨いで連続するように、レーザー光41Lを照射している。これにより、密着部13の被照射部14はシール縁部5となるが、重なり部12の被照射部14は、非加圧状態のシート積層体11において複数のシート2,3が密着していない部分であり、レーザー光41Lの照射によって生じた複数のシート2,3の切断縁部どうしが融着されないため、シール縁部5とはならず、手袋1の開口部7となる。
【0051】
このように、シート積層体11の密着部13及び重なり部12(非密着部)の双方にレーザー光を照射する場合、密着部13と重なり部12とで、レーザー光の照射条件(出力、照射速度、照射回数等)を異ならせてもよい。密着部13にレーザー光を照射し、レーザー光の被照射部を溶断・融着するのと、重なり部12(非密着部)にレーザー光を照射し、溶断するのとでは、達成するのに必要なエネルギーが異なるため、目的に応じたレーザー光の照射条件を選択することで、シート融着体を一層効率よく製造することが可能となる。
【0052】
また、製造装置10Bは切断部50を備えておらず、製造装置10Bを用いた手袋1の製造方法では、レーザー光照射工程において、レーザー光の照射によりシート積層体11(複数のシート融着体又はその中間品が一方向MDに連なる連続体)を切断して枚葉の手袋1(シート融着体)を製造する(連続体切断工程)。具体的には、レーザー光照射部40にてシート積層体11にレーザー光41Lを照射し、製造目的物である手袋1の輪郭の全部に対応したシール縁部5と開口部7とを形成することで、連続帯状のシート積層体11を、複数の枚葉の手袋1と、それ以外の不要部分9とに切り分ける。こうして製造された枚葉の手袋1は、搬送手段42によって包装工程等の次工程に搬送され、不要部分9は、別ルートで回収される。
【0053】
本発明によって製造されるシート融着体は、種々の用途に使用でき、前述の手袋の他、例えば、指サック、足袋、帽子、関節のサポーター等に使用可能である。
【0054】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、前記実施形態では、シート融着体(手袋1)の原料として、一方向に長い連続帯状のシートを使用したが、製造目的物である枚葉のシート融着体に対応したサイズの枚葉のシートを使用してもよい。
また前記実施形態では、シート積層体におけるシートの積層数は2層であったが、該積層数は3層以上であってもよい。その場合、シート積層体には、厚み方向に隣り合う2枚のシートの重なり部が、厚み方向に複数(積層数-1)間欠配置されるところ、その複数の重なり部の少なくとも1つが、繊維面どうしの重なり部であればよい。
【0055】
また、密着部形成工程では、被加工物であるシート積層体に超音波を印加しながら押圧することにより、密着部を形成してもよい。シート積層体に超音波を印加する手段としては、超音波シールに従来使用されているものを用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
1 手袋(シート融着体)
2,3 シート
4 積層構造
5 シール縁部
10,10A,10B 製造装置
11 シート積層体
12 繊維面どうしの重なり部(非密着部)
13 密着部
20 シート積層体形成部
30 密着部形成部
31 間欠押圧手段
35 連続押圧手段
40 レーザー光照射部
50 切断部