(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-06
(45)【発行日】2025-10-15
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック素子、及び、眼鏡用レンズ
(51)【国際特許分類】
G02F 1/153 20060101AFI20251007BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20251007BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20251007BHJP
【FI】
G02F1/153
G02F1/15 503
G02C7/10
(21)【出願番号】P 2023522672
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2022020520
(87)【国際公開番号】W WO2022244768
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2021082860
(32)【優先日】2021-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川上 宏典
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 滋樹
【審査官】中村 百合子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-010106(JP,A)
【文献】特開2004-004176(JP,A)
【文献】特開2006-215096(JP,A)
【文献】特表2009-545767(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181181(WO,A1)
【文献】中国実用新案第209132561(CN,U)
【文献】特開2018-132635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
G02C 7/00
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
一対の電極層及び
前記一対の電極層の間に設けられたエレクトロクロミック層を有するエレクトロクロミックフィルムと、が積層されたエレクトロクロミック素子であって、
前記エレクトロクロミック素子を構成する積層構造に、バリア層が積層されており、
前記エレクトロクロミックフィルムは、一対の基板と、前記
一対の基板間に積層された前記
一対の電極層と、前記エレクトロクロミック層と、を有し、
前記一対の基板の間であって、前記エレクトロクロミック層の周囲にはシール層が設けられており、
前記バリア層は、前記一対の
基板と
前記一対の電極層との間に
、夫々配置されるとともに、前記シール層に対面接触するように延出しており、
前記シール層もガスバリア性を有する、
ことを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
前記バリア層は、ガスバリア性とともに透明性を有することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記バリア層は、更に、前記支持体と前記エレクトロクロミックフィルムとの間に配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のエレクトロクロミック素子であり、前記支持体は、レンズ基板であることを特徴とする眼鏡用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気により発消色を可逆的に制御可能なエレクトロクロミック素子、及び、眼鏡用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧の印加により可逆的に酸化還元反応を起こして、可逆的に色を変化させるエレクトロクロミズム現象を利用したエレクトロクロミック素子は、例えば、眼鏡用レンズとして用いられる。特許文献1には、一対の基板と、基板の間に配置された電極層及びエレクトロクロミック層とが積層されたエレクトロクロミック素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エレクトロクロミック素子は、両極に電圧を印加することにより可逆的に酸化還元反応を起こして、可逆的に色を変化させるエレクトロクロミズム現象を利用した素子である。
【0005】
しかしながら、エレクトロクロミック素子の表面や裏面からの水分或いは酸素の侵入により、応答性が低下する問題があった。
【0006】
本発明は、以上の課題を解決するためのものであり、積層構造にガスバリア性を持たせて、応答性の低下を抑制したエレクトロクロミック素子、及び、眼鏡用レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明におけるエレクトロクロミック素子は、支持体と、一対の電極層及び前記一対の電極層の間に設けられたエレクトロクロミック層を有するエレクトロクロミックフィルムと、が積層されたエレクトロクロミック素子であって、前記エレクトロクロミック素子を構成する積層構造に、バリア層が積層されており、前記エレクトロクロミックフィルムは、一対の基板と、前記一対の基板間に積層された前記一対の電極層と、前記エレクトロクロミック層と、を有し、前記一対の基板の間であって、前記エレクトロクロミック層の周囲にはシール層が設けられており、前記バリア層は、前記一対の基板と前記一対の電極層との間に、夫々配置されるとともに、前記シール層に対面接触するように延出しており、前記シール層もガスバリア性を有することを特徴とする。
【0008】
本発明では、前記バリア層は、ガスバリア性とともに透明性を有することが好ましい。
【0009】
本発明では、前記バリア層は、更に、前記支持体と前記エレクトロクロミックフィルムとの間に配置された構成にできる。
【0010】
本発明における眼鏡用レンズは、上記に記載のエレクトロクロミック素子であり、前記支持体は、レンズ基板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエレクトロクロミック素子によれば、積層構造にバリア層を備えており、これにより、ガスバリア性を向上させることができ、優れた応答性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施の形態におけるエレクトロクロミック素子の断面模式図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態におけるエレクトロクロミック素子の断面模式図である。
【
図3】本発明の第3の実施の形態におけるエレクトロクロミック素子の断面模式図である。
【
図4】本発明の実施の形態におけるエレクトロクロミック素子の製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。
【0014】
<エレクトロクロミック素子における従来の課題と、本実施の形態の概要について>
エレクトロクロミック素子は、両極に電圧を印加することにより可逆的に酸化還元反応を起こして、可逆的に色を変化させるエレクトロクロミズム現象を利用した素子である。例えば、エレクトロクロミック素子は、眼鏡用レンズとして用いることができ、明るい場所では、サングラスとして、暗い場所では、クリアレンズとして機能させることができる。スイッチ操作や、自動で、最適な明るさに調整することを可能とする。
【0015】
エレクトロクロミック素子は、支持体の表面に、電極層及びエレクトロクロミック層を有するエレクトロクロミックフィルムが積層された積層構造である。
【0016】
ところで、エレクトロクロミック素子の表面や裏面から積層構造を通して、水分や酸素がエレクトロクロミック層まで浸透すると、酸化還元反応の可逆性が低下するなど、エレクトロクロミズム現象による色変化の応答性が低下する問題があった。
【0017】
そこで、本発明者らは、鋭意研究した結果、エレクトロクロミック素子を構成する積層構造にバリア層を配置することで、積層内部への水分や酸素の浸透を抑制し、応答性を向上させるに至った。以下、本実施の形態におけるエレクトロクロミック素子の層構成を具体的に説明する。
【0018】
<第1の実施の形態におけるエレクトロクロミック素子10>
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるエレクトロクロミック素子10の断面模式図である。
エレクトロクロミック素子10は、支持体1と、支持体1の表面に積層されたエレクトロクロミックフィルム2と、を有して構成される。
【0019】
[支持体1]
支持体1は、透明であること、及び、透過率が高いことが求められる。支持体1は、材質を限定するものではないが、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のモールド成形可能な樹脂基板やガラス基板などである。このうち、支持体1は、ポリカーボネート樹脂で形成されることが、成形性や製造コストの観点から好ましい。
【0020】
[エレクトロクロミックフィルム2]
エレクトロクロミックフィルム2は、一対の第1の基板3及び第2の基板4と、第1の基板3及び第2の基板4の各内面に設けられた一対の第1の電極層5及び第2の電極層6と、第1の電極層5と第2の電極層6の間に設けられたエレクトロクロミック層7と、を有する。エレクトロクロミック層7は、第1の電極層5側に配置された還元層7aと、第2の電極層6側に配置された酸化層7bと、還元層7aと酸化層7bの間に設けられた電解質層7cと、を有して構成される。このように、エレクトロクロミックフィルム2は、
図1の下から第2の基板4/第2の電極層6/酸化層7b/電解質層7c/還元層7a/第1の電極層5/第1の基板3の順に積層されている。
【0021】
エレクトロクロミックフィルム2を構成する基板3、4は、フィルム或いはシート状であり、支持体1と同様の樹脂材料で形成できる。基板3、4も、支持体1と同様に、透明であること、透過率が高いことが求められる。基板3、4は、支持体1と同様に、ポリカーボネート樹脂で形成されることが好ましい。
【0022】
エレクトロクロミックフィルム2を構成する電極層5、6に求められる特性としては、透明であること、透過率が高いこと、及び伝導性に優れていることを挙げることができる。このような特性を満たすために、電極層5、6は透明電極層であり、特に、ITO(酸化インジウムスズ;Indium Tin Oxide)が好ましく用いられる。
エレクトロクロミック層7を構成する還元層7a、酸化層7b及び電解質層7cには、既存の材料を用いることができる。
【0023】
還元層7aは、還元反応に伴って発色する層である。還元層7aには、既存の還元型エレクトロクロミック化合物を用いることができる。有機物、無機物の別を問わず、限定されるものではないが、例えば、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタンなどが挙げられる。
【0024】
酸化層7bは、酸化反応に伴って発色する層である。酸化層7bには、既存の酸化型エレクトロクロミック化合物を用いることができる。有機物、無機物の別を問わず、限定されるものではないが、例えば、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物、プルシアンブルー型錯体、酸化ニッケル、酸化イリジウムなどから選択することができる。
【0025】
電解質層7cは、電子的な絶縁性とイオン導電性を備えており、また、透明であることが好ましい。電解質層7cは固体電解質や、ゲル状、液体状などであってもよい。高いイオン導電性を維持するためにはゲル状であることが好ましい。限定するものではないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類等の既存の電解質材料を用いることができる。
【0026】
[機能層15]
図1に示すように、エレクトロクロミックフィルム2の表面には、例えば、ハードコート層12、反射防止層13及び撥水層14からなる機能層15が設けられる。
【0027】
ハードコート層12は、エレクトロクロミック素子10に対し耐擦傷性を付与できる。ハードコート層12は、硬化性組成物であり、硬化性組成物としては、例えば、光硬化性シリコーン組成物、アクリル系紫外線硬化型モノマー組成物、SiO2、TiO2などの無機微粒子を含有した熱硬化性組成物などを好ましく使用できる。
【0028】
反射防止層13は、通常、屈折率の異なる層を積層した多層構造であり、干渉作用により光の反射を防止する膜である。反射防止層13は、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した構造である。限定するものではないが、低屈折率層には、SiO2を用いることが好ましい。また、高屈折率層には、ZrO2、Y2O3、Al2O3等を用いることができる。
撥水層14は、例えば、フッ素系物質を好ましく用いることができる。撥水層14は、撥水性能のみならず抗菌性能も有することが好適である。
なお、機能層15は、ハードコート層12、反射防止層13、帯電防止層、撥水層14、及び防曇層のうち、少なくともいずれか1層を含む構成にできる。
【0029】
[シール層16]
図1に示すように、第1の基板3と第2の基板4の間であって、エレクトロクロミック層7の周囲にはシール層16が設けられている。
図1に示すように、第1の電極層5及び第2の電極層6の一部は、シール層16の位置まで延出し、各電極層5、6に金属端子部17が重ねて形成される。金属端子部17は、外部に露出しており、金属端子部17を通して一対の電極層5、6間に電圧を印加することができる。
【0030】
[バリア層11]
バリア層11について説明する。
図1に示す第1の実施の形態では、エレクトロクロミックフィルム2と機能層15との間に、バリア層11が配置されている。
【0031】
バリア層11は、ガスバリア性及び透明性を有することが好ましい。ガスバリア性は、水蒸気透過度(WVTR:Water Vapor Transmission Rate)及びO2透過率で評価できる。ガスバリア性は、乾湿センサ-(Lyssy)法、モコン(MOCON)法、ガスクロマトグラフ法、API-MS法、Ca腐食法、差圧法を用いて測定できる。例えば、水蒸気透過度及びO2透過率は、「モコン法(JIS K 7129(B))」により測定する。本実施の形態では、水蒸気透過度(WVTR)は、温度40℃、湿度90%RHの雰囲気下で、30(g/m2・day)以下、好ましくは、25(g/m2・day)以下、より好ましくは、10(g/m2・day)以下、更に好ましくは、3(g/m2・day)以下、更に好ましくは、1(g/m2・day)以下、更により好ましくは、0.1(g/m2・day)以下、更により好ましくは、0.01(g/m2・day)以下であり、更により好ましくは、0.001(g/m2・day)以下、更により好ましくは、10-4(g/m2・day)以下、最も好ましくは、10-5(g/m2・day)以下である。また、水蒸気透過度の下限値を限定するものではないが、例えば、10-6(g/m2・day)程度を下限値に設定できる。O2透過率は、温度20℃、湿度65%RHの雰囲気下で、20(cc/m2・day・atm)以下であることが好ましく、15(cc/m2・day・atm)以下であることがより好ましく、10(cc/m2・day・atm)以下であることが更に好ましく、5(cc/m2・day・atm)以下であることが更により好ましく、1(cc/m2・day・atm)以下であることが更により好ましく、0.08(cc/m2・day・atm)以下であることが更により好ましく、0.06(cc/m2・day・atm)以下であることが最も好ましい。
本実施の形態では、バリア層11の水蒸気透過度及びO2透過率のうち、少なくとも水蒸気透過度を満たすことが必要であり、両方を満たすことが好ましい。
【0032】
バリア層11は、無機膜の単層又は積層、或いは、有機膜の単層又は積層、又は、無機膜と有機膜との積層で形成される。材質を限定するものではないが、無機膜としては、SiO、SiO
2、Al
2O
3、CaF
2、SnO
2、CeF
3、MgO、MgAl
2O
4、SiNx、SiCN、SiC、SiOC、SiOAl等から1種以上を選択できる。これらのうち、SiO
2、Al
2O
3及びMgAl
2O
4を選択することで、ガスバリア性を効果的に向上させることができる。また、有機膜としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等から1種以上を選択することができる。
例えば、バリア層11の構成としては、バリア層11に無機膜を含む場合、無機膜を成膜するための基材が必要であり、すなわち、基材/バリア層11によりバリアフィルムを構成する。この基材は、
図1の第1の基板3とすることができ、これにより、第1の基板3/バリア層11によりバリアフィルムを構成できる。このようなバリアフィルムにあっては、上記した水蒸気透過度及びO
2透過率の値は、バリア層11単体でなく、バリアフィルムとして満たされればよい。例えば、基材としての第1の基板3は、厚さ100μmのポリカーボネートフィルムである。
【0033】
バリア層11に無機膜を設けたことで、バリア層11が薄くても、優れたガスバリア性を得ることができる。また、バリア層11に有機膜を設けたことで、バリア層11の取り扱いを容易化できる。したがって、バリア層11を、有機膜と無機膜との積層構造とすることで上記した双方の効果を得ることができる。また、有機膜と無機膜との積層構造とすることで、例えば、エレクトロクロミックフィルム2を曲面状に折り曲げた際に、無機膜に欠陥が生じても有機膜には欠陥が生じにく、ガスバリア性を維持することができる。
【0034】
バリア層11の厚みを限定するものではないが、例えば、10nm~200μm程度であり、好ましくは、15nm~150μm程度、より好ましくは、20nm~100μm程度である。このうち、バリア層11を構成する無機膜の厚みは、10nm~200nm程度であることが好ましく、15nm~150nm程度であることがより好ましく、20nm~100nm程度であることが更に好ましい。無機膜は一例としてSiO2膜を例示できる。有機フィルムの基材表面に無機膜を成膜したバリア層11(バリアフィルム)は、基材が数十μm~百十数μm程度を有しており、無機膜は上記のようにnm単位に薄くできる。本実施の形態では、例えば、PET基材の表面に無機膜、或いは、PET基材の表面に無機膜と有機膜とを積層したバリアフィルムの厚みを調整する。本実施の形態では、バリア層11の厚みを数十μmに薄くしても、上記した数値範囲の水蒸気透過度及びO2透過率を得ることができる。
【0035】
バリア層11は、ガスバリア性とともに、透明性を有している。「透明性」とは、可視域で透明であることを意味し、可視域吸光度で定義できる。例えば、可視域吸光度は、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の紫外可視近赤外分光光度計 UH4150を用い、波長400~750mmで、0.1Abs以下であることが好ましく、0.09Abs以下であることがより好ましい。
【0036】
また、バリア層11の「透明性」とは、光が散乱しないことを意味し、ヘイズで定義できる。ヘイズは、一般的には、積分球式光線透過率測定装置を用いて、バリア層11の全光線透過率及び拡散透過率を測定し、以下の式により求めることができる。
ヘイズ値(%)=拡散透過率(%)/全光線透過率(%)×100
ここで、拡散透過率は、全光線透過率から平行光線透過率を差し引いた値である。
本実施の形態では、ヘイズ値を30%以下とし、20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、1%以下が更により好ましい。
バリア層11の透明性は、上記した可視吸光度及びヘイズの双方を満たすことが好ましい。なお、樹脂フィルム/無機膜のバリアフィルムにあっては、バリアフィルムの可視域吸光度及びヘイズ値で規定される。
【0037】
また、バリア層11と隣り合う隣接層との間の屈折率差を小さくすることで、干渉縞を低減することができ好適である。例えば、
図1では、バリア層11を、第1の基板3とハードコート層12との間に配置するため、バリア層11の屈折率は、第1の基板3の屈折率とハードコート層12の屈折率の間の値であることが好ましい。これにより、バリア層11と隣接層との間の屈折率差を小さくできる。具体的には、バリア層11と隣接層との間の屈折率差を0.4以下とし、好ましくは、屈折率差を0.2以下に調整し、より好ましくは、屈折率差を、0.1以下に調整する。
【0038】
なお、バリア層11が反射防止層13を兼ねる場合は、光学設計により入射光に対して反射光が弱くなるように光学的な設計をすることが好ましい。
【0039】
また、バリア層11は、可撓性を有することが好ましい。後述するように、本実施の形態のエレクトロクロミックフィルム2を曲面状に折り曲げる形態では、バリア層11が可撓性を有することで、エレクトロクロミックフィルム2の形状に追従して適切にバリア層11を変形させることができる。上記のように、バリア層11を無機膜と有機膜との積層構造としたバリアフィルムとすることで、バリア層11を変形させた際に無機膜に欠陥が生じても有機膜にまで欠陥が生じるのを抑制できガスバリア性を適切に維持することができる。可撓性の評価は、バリア層11の両側を近づくように折り曲げ、バリア層11に欠陥が生じる曲げ角度を測定する。曲げ角度は、平坦の位置(0度)から各端部の夫々の折り曲げ角度で規定される。各端部の折り曲げ角度は、15度以上であることが好ましく、30度以上であることがより好ましく、45度以上であることが更に好ましい。例えば、眼鏡レンズに適用する場合、曲率半径で可撓性を評価でき、具体的には、曲率半径は、150mm以下であることが好ましく、100mm以下であることがより好ましく、90mm以下であることが更に好ましく、60mm以下であることが更により好ましい。
【0040】
図1に示す第1の実施の形態では、バリア層11を、エレクトロクロミックフィルム2と機能層15との間に介在させる。これにより、機能層15が持つ作用効果(反射防止効果や撥水効果)を維持しつつ、ガスバリア性を向上させることができ、水分や酸素のエレクトロクロミック層7への侵入を効果的に防ぎ、良好な応答性を得ることができる。
【0041】
図1では、機能層15とは別にバリア層11を設けたが、バリア層11自体に、ハードコート層12や反射防止層13の機能を持たせてもよい。これにより、バリア層11以外に、ハードコート層12や反射防止層13の形成が不要になり、エレクトロクロミック素子10の積層構造の簡素化を図ることができる。
【0042】
<第2の実施の形態におけるエレクトロクロミック素子20>
図2は、本発明の第2の実施の形態におけるエレクトロクロミック素子20の断面模式図である。
【0043】
図2に示す第2の実施の形態のエレクトロクロミック素子20は、
図1に示す第1の実施の形態のエレクトロクロミック素子10の構成に、更に、支持体1とエレクトロクロミックフィルム2との間にバリア層21を配置した。
【0044】
支持体1は、例えば、成形性や製造コストの観点からポリカーボネート樹脂などの樹脂基板であることが好ましいが、ガラス基板に比べて吸水率が高い。このため、第2の実施の形態では、支持体1側にもバリア層21を配置することで、支持体1側からの水分や酸素の侵入を防ぐことができる。
図2では、支持体1とバリア層21との間を、接着層22を介して接合するが、支持体1とバリア層21とを直接接合できる場合は、接着層22は必須でない。
【0045】
図2に示す第2の実施の形態のエレクトロクロミック素子20は、エレクトロクロミック層7の両側を挟むように、2層のバリア層11、21が設けられており、エレクトロクロミック層7から見て機能層15側及び支持体1側の両方からの水分及び酸素の侵入を効果的に抑制することができる。これにより、より効果的に、ガスバリア性を高めることができ、より良好な応答性を得ることができる。
なお、
図2に示す第2の実施の形態においても、第2の基板4の表面にバリア層21を成膜してバリアフィルムを構成できる。
【0046】
<第3の実施の形態におけるエレクトロクロミック素子30>
図3は、本発明の第3の実施の形態におけるエレクトロクロミック素子30の断面模式図である。
【0047】
図3では、バリア層31、32が、エレクトロクロミックフィルム2を構成する第1の基板3の内面に位置する第1の電極層5と第1の基板3との間、及び第2の基板4の内面に位置する第2の電極層6と第2の基板4との間に夫々、配置されている。
【0048】
第1の基板3及び第2の基板4は、例えば、ポリカーボネートなどの樹脂フィルムであり、ガスバリア性を高めるには、各基板3、4の内側にバリア層31、32を設けることが好ましい。例えば、バリア層31、32は、SiO2等の無機膜であり、バリア層31、32を、第1の基板3及び第2の基板4の各内面に成膜したバリアフィルムを構成できる。これにより、バリアフィルムの取り扱い性に優れ、かつ、水分及び酸素のエレクトロクロミック層7への侵入を抑制でき、効果的に、ガスバリア性を高めることができ、良好な応答性を得ることができる。
【0049】
なお、第1の電極層5/エレクトロクロミック層7/第2の電極層6の積層は、連続した構造であることが好ましいため、バリア層は、
図3のように、この積層構造の外側に設けることが好適である。
【0050】
<その他の形態>
本実施の形態では、エレクトロクロミック素子を構成する積層構造のどこかの位置にバリア層を配置すればよく、バリア層の配置は、
図1~
図3に限らず、また、バリア層の配置数も限定するものでない。バリア層は、積層構造の内部に配置しても積層構造の表面(外面)に配置してもよいが、エレクロトクロミック現象やそのほかに併せ持つ機能を損なわない位置、更には製造工程も加味して、適切な位置にバリア層を配置することが好ましい。このことから、上記のように、エレクトロクロミック層7と各電極層5、6とは直接接していたほうが好ましく、したがって、バリア層は、少なくとも電極層5、6の外側に配置することが好ましい。
加えて、エレクトロクロミック素子を構成する積層構造にバリア層を配置するとともに、シール層16にガスバリア性を持たせることが更に好ましい。
【0051】
例えば、シール層16は、パターン成膜が可能なガスバリア性を有する材質で形成されることが好ましい。例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、低融点合金、及び低融点ガラスのうち少なくとも1種を選択できる。UV硬化樹脂であれば、高温の加熱処理を必要とせずに硬化でき好ましい。
【0052】
<用途>
本実施の形態のエレクトロクロミック素子の用途を限定するものではないが、調光眼鏡レンズに好ましく適用することができる。眼鏡用レンズでは、支持体1はレンズ基板である。
本実施の形態のエレクトロクロミック素子を眼鏡用レンズ以外に適用してもよい。例えば、エレクトロクロミック調光装置や、防眩ミラーなどである。
【0053】
<本実施の形態におけるエレクトロクロミック素子の製造方法>
図4は、本実施の形態におけるエレクトロクロミック素子の製造方法を示す説明図である。
【0054】
図4(a)では、一対の基板3、4と、各基板3、4の内側に配置された電極層5、6と、各電極層5、6の間に挟持されるエレクトロクロミック層7と、を有するエレクトロクロミックフィルム2を用意する。なお、エレクトロクロミックフィルム2の積層構造を限定するものでなく、
図4(a)以外の積層構造であってもよい。
【0055】
次に、エレクトロクロミックフィルム2を金型(図示せず)にセットし、支持体1を構成する材料を金型内に射出し、支持体1を成形するが、
図4(b)に示すように、エレクトロクロミックフィルム2を曲面状にプレフォーミングしてもよい。すなわち、本実施の形態のエレクトロクロミック素子を眼鏡レンズに適用する場合、眼鏡レンズは三次元曲面を有するため、支持体1をモールドする前段階で、エレクトロクロミックフィルム2を三次元曲面にプレフォーミングすることが好適である。例えば、加熱しながら、金型にエレクトロクロミックフィルム2をセットし、押し付けながら球体形状に加工する。
【0056】
そして、
図4(a)と
図4(b)の間に、バリア層形成工程(1)を設けることができる。すなわち、
図4(a)に示す平板状のエレクトロクロミックフィルム2の表面(外面)に、バリア層を設けることができる。例えば、エレクトロクロミックフィルム2の第1の基板3の表面にバリア層11を形成することができ(
図1を参照)、或いは、各基板3、4の表面にバリア層11、21を形成することもできる(
図2を参照)。又は、第2の基板4の表面のみにバリア層21を形成してもよい。バリア層11、21を、CVD法、スパッタ法、及び蒸着法などのドライ成膜法や、コーティング法、印刷法などのウェット成膜法により形成できる。また、バリア層11、21を、各基板3、4の表面に直接成膜してバリアフィルムを構成でき、或いは、別途、バリアフィルムを用意し、バリアフィルムを接着層を介して基板3、4に貼り付けたり、或いは、接着層を介さずに、熱圧着などで直接、基板3、4の表面に貼り付けることもできる。
【0057】
次に、
図4(c)では、支持体1を成形し、支持体1の表面にエレクトロクロミックフィルム2が形成されたエレクトロクロミック素子中間体42を得る。
本実施の形態では、
図4(b)と
図4(c)の間に、バリア層形成工程(2)を設けることができる。
【0058】
バリア層形成工程(1)では、その後に、エレクトロクロミックフィルム2を曲面状にプレフォーミングするため、エレクトロクロミックフィルム2の表面に設けられたバリア層11、21には可撓性が必要である。一方、バリア層形成工程(2)では、エレクトロクロミックフィルム2を曲面状にプレフォーミングした後、曲面に沿って、バリア層11、21を、ドライ成膜法やウェット成膜法にて形成することができる。
【0059】
図4(c)の工程後、エレクトロクロミックフィルム2の表面にハードコート層12、反射防止層13及び撥水層14からなる機能層15を形成する。このとき、バリア層形成工程(3)として、ハードコート層12や反射防止層13をガスバリア性を有する材料で形成することもできる。
その後、
図4(d)で、エレクトロクロミック素子中間体42を所定形状にカットしてエレクトロクロミック素子10を得る。
【0060】
また、
図4に記載したバリア層形成工程(1)~(3)は、このうち少なくとも1回実施すればよく、複数回行うことも可能である。または、バリア層形成工程(1)~(3)以外の別のタイミングでバリア層を形成することもできる。
【0061】
また、
図3に示すエレクトロクロミック素子30を形成するには、
図4(a)のエレクトロクロミックフィルム2を形成する段階で、バリア層31、32を配置することが必要である。
【0062】
本実施の形態では、エレクトロクロミック素子を製造する工程内に、バリア層形成工程(1)~(3)を設けることができ、製造工程を煩雑化させることなく、ガスバリア性に優れたエレクトロクロミック素子を製造することが可能である。
【実施例】
【0063】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例を用いて、より具体的に説明する。
【0064】
<水蒸気透過度、O2透過率、可視域吸光度、ヘイズに関する実験>
実験では、基材/バリア層からなるバリアフィルムを用いた。基材には、厚さ100μmのポリカーボネートフィルムを用い、ポリカーボネートフィルムの表面に、バリア層として、SiO2膜をCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)で成膜した。
【0065】
SiO2膜の厚みを、0nm、5nm、20nm、50nm、100nm、2100nmと変えた各実験例により、水蒸気透過度、O2透過率、可視域吸光度、及びヘイズを求めた。
水蒸気透過度及びO2透過率を、モコン法(JIS K 7129(B))により測定した。水蒸気透過度(WVTR)は、温度40℃、湿度90%RHの雰囲気下で測定した。O2透過率は、温度20℃、湿度65%RHの雰囲気下で測定を行った。
【0066】
可視域吸光度は、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の紫外可視近赤外分光光度計 UH4150を用い、波長400~750mmとして測定した。
【0067】
ヘイズは、積分球式光線透過率測定装置を用いて、バリアフィルムの全光線透過率及び拡散透過率を測定し、ヘイズ値(%)=拡散透過率(%)/全光線透過率(%)×100より求めた。その実験結果を以下の表1に示す。
【0068】
【0069】
<目視検査>
また、実験例1から実験例6の各バリアフィルムを用いて、
図1に示すエレクトロクロミック素子10を作成し、加速試験として、各実験サンプルを、温度40℃、湿度90%の恒温恒湿器に240時間放置後、10回の通電試験(着色と退色を繰り返す)後に目視検査を行った。
【0070】
実験例1から実験例3では、恒温恒湿試験の前後で、エレクトロクロミック素子の状態は同等であり、着色時の劣化等は見られず、良好な状態を維持していることがわかった。
【0071】
一方、実験例4では、エレクトロクロミックレンズを恒温恒湿機に放置後の目視検査で、エレクトロクロミックレンズが黄変していることがわかった。また、エレクトロクロミックレンズを着色させた時の濃度が薄くなり、さらに、白濁がみられた。
【0072】
また、実験例5では、エレクトロクロミックレンズを恒温恒湿機に放置後の目視検査で、エレクトロクロミックレンズが黄変していることがわかった。また、エレクトロクロミックレンズを着色させた時の濃度が薄くなった。
【0073】
実験例4及び実験例5では、水分がエレクトロクロミックレンズの内部に侵入したことで、恒温恒湿試験後で、エレクトロクロミック素子の状態の劣化が生じたと考えられる。
【0074】
実験例6では、SiO2膜の成膜後から、SiO2膜に細かい亀裂が入っていることを確認できた。エレクトロクロミック素子を分解し、エレクトロクロミック素子のヘイズを測定したところ、30%だった。実験例6では、バリア層がひび割れていて、ヘイズとO2透過率が大幅に悪化したことがわかった。バリア層のひび割れは、SiO2膜が厚すぎて、膜の応力により、割れてしまったと考えられる。
この実験結果から、実験例1から実験例3を実施例とし、実験例4から実験例6を比較例とした。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のエレクトロクロミック素子は、ガスバリア性に優れるため、エレクトロクロミック素子を例えば、調光眼鏡としてのレンズとして用いると、応答性に優れた使用感を得ることが可能になる。
【0076】
本出願は、2021年5月17日出願の特願2021-082860に基づく。この内容は全てここに含めておく。