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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-07
(45)【発行日】2025-10-16
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20251008BHJP
   B21D 5/01 20060101ALI20251008BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D5/01 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2025522975
(86)(22)【出願日】2025-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2025002758
【審査請求日】2025-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2024011324
(32)【優先日】2024-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】菅原 稔
(72)【発明者】
【氏名】上田 義紀
(72)【発明者】
【氏名】宮城 隆司
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/171228(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121358(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板をプレス成形することでプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス成形品の縦壁部は、板厚方向または板面方向に弧状に湾曲した湾曲部を有し、
当該縦壁部の上下方向の一方の端部は、屈曲部を介して前記プレス成形品の天板部に連結しており、
前記プレス成形品の製造方法は、
前記縦壁部の成形時に、前記縦壁部の上下方向の他方の端部にフランジ部を成形すると共に、前記縦壁部の長手方向の少なくとも一部において、前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度を、前記プレス成形品の最終形状における前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度よりも小さく成形して中間成形品とする工程と、
前記中間成形品の縦壁部を再成形する工程と、を含み、
前記縦壁部を再成形する工程では、前記中間成形品の下端部の水平方向の曲げ幅は、前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度が、前記プレス成形品の最終形状における前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度と略同じである場合の前記中間成形品の下端部の水平方向の曲げ幅よりも短いことを特徴とする、プレス成形品の製造方法。
【請求項2】
金属板をプレス成形することでプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス成形品の縦壁部は、板厚方向または板面方向に弧状に湾曲した湾曲部を有し、
当該縦壁部の上下方向の一方の端部は、屈曲部を介して前記プレス成形品の天板部に連結しており、
前記プレス成形品の製造方法は、
前記縦壁部の成形時に、前記縦壁部の上下方向の他方の端部にフランジ部を成形すると共に、前記縦壁部の長手方向の少なくとも一部において、前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度を、前記プレス成形品の最終形状における前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度よりも小さく成形して中間成形品とする工程と、
前記中間成形品の縦壁部を再成形する工程と、を含み、
前記縦壁部を再成形する工程では、前記中間成形品の下端部の鉛直方向の曲げ幅は、前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度が、前記プレス成形品の最終形状における前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度と略同じである場合の前記中間成形品の下端部の鉛直方向の曲げ幅よりも短いことを特徴とする、プレス成形品の製造方法。
【請求項3】
前記縦壁部を再成形する工程では、
前記フランジ部が含まれる面と前記縦壁部が含まれる面とが同一面になるように成形することを特徴とする、請求項1または2に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項4】
前記プレス成形品の前記湾曲部における前記他方の端部の曲率半径をR0、前記中間成形品の前記湾曲部における前記他方の端部の曲率半径をR1、前記R0と前記R1との差を△R、前記プレス成形品の引張強度をTSとしたとき、下記(1)(2)式を満足することを特徴とする、請求項1または2に記載のプレス成形品の製造方法。
△R<A×R0/(1+A) (1)
A=(-1.2×10-4×TS+0.25) (2)
【請求項5】
前記プレス成形品の縦壁部の長手方向に垂直な断面における前記縦壁部の長さをL0、前記中間成形品の縦壁部の長手方向に垂直な断面における前記縦壁部の長さをL1としたとき、下記式(3)を満足することを特徴とする、請求項1または2に記載のプレス成形品の製造方法。
L1>L0×0.5 (3)
【請求項6】
前記金属板は、引張強度が440MPa以上の鋼板であることを特徴とする、請求項1または2に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項7】
前記プレス成形は冷間プレス成形であることを特徴とする、請求項1または2に記載のプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレス成形品の製造方法に関する。
本願は、2024年1月29日に、日本に出願された特願2024-011324号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1~3に開示されているように、金属板(例えば鋼板)をプレス成形することでプレス成形品(自動車部品)を製造する技術が知られている。各自動車メーカーでは、衝突性能向上及びCO排出量削減のために、引張強度が440MPa以上の鋼板(所謂ハイテン鋼板)を用いてプレス成形品を製造する試みがなされている。ハイテン鋼板は高い引張強度を有するので、これを用いてプレス成形品を製造することで、衝突性能向上が期待できる。さらに、プレス成形品を薄肉化することができるので、プレス成形品が軽量化され、ひいてはCO排出量の削減が期待できる。
【0003】
ところで、プレス成形品のさらなる高強度化及び軽量化のために、ハイテン鋼板を用いて複雑形状のプレス成形品を一体的に製造することが試みられている。たとえば、弧状に湾曲した湾曲部を有する縦壁部と、当該縦壁部に屈曲部を介して連結された天板部とを有するプレス成形品を一体的に製造することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5168429号公報
【文献】特許第6696611号公報
【文献】特許第6841271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、製造コスト削減の観点からは、複雑形状のプレス成形品を冷間プレス成形で製造することが好ましいが、この場合、プレス成形品に割れや皺が入りやすいという問題があった。
【0006】
そこで、本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、複雑形状を有し、かつ高品質なプレス成形品を製造することが可能な、プレス成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の要旨は以下である。
(1)
金属板をプレス成形することでプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス成形品の縦壁部は、板厚方向または板面方向に弧状に湾曲した湾曲部を有し、
当該縦壁部の上下方向の一方の端部は、屈曲部を介して前記プレス成形品の天板部に連結しており、
前記プレス成形品の製造方法は、
前記縦壁部の成形時に、前記縦壁部の上下方向の他方の端部にフランジ部を成形すると共に、前記縦壁部の長手方向の少なくとも一部において、前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度を、前記プレス成形品の最終形状における前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度よりも小さく成形して中間成形品とする工程と、
前記中間成形品の縦壁部を再成形する工程と、を含み、
前記縦壁部を再成形する工程では、前記中間成形品の下端部の水平方向の曲げ幅は、前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度が、前記プレス成形品の最終形状における前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度と略同じである場合の前記中間成形品の下端部の水平方向の曲げ幅よりも短いことを特徴とする、プレス成形品の製造方法。
(2)
金属板をプレス成形することでプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス成形品の縦壁部は、板厚方向または板面方向に弧状に湾曲した湾曲部を有し、
当該縦壁部の上下方向の一方の端部は、屈曲部を介して前記プレス成形品の天板部に連結しており、
前記プレス成形品の製造方法は、
前記縦壁部の成形時に、前記縦壁部の上下方向の他方の端部にフランジ部を成形すると共に、前記縦壁部の長手方向の少なくとも一部において、前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度を、前記プレス成形品の最終形状における前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度よりも小さく成形して中間成形品とする工程と、
前記中間成形品の縦壁部を再成形する工程と、を含み、
前記縦壁部を再成形する工程では、前記中間成形品の下端部の鉛直方向の曲げ幅は、前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度が、前記プレス成形品の最終形状における前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度と略同じである場合の前記中間成形品の下端部の鉛直方向の曲げ幅よりも短いことを特徴とする、プレス成形品の製造方法。
(3)
前記縦壁部を再成形する工程では、
前記フランジ部が含まれる面と前記縦壁部が含まれる面とが同一面になるように成形することを特徴とする、(1)または(2)に記載のプレス成形品の製造方法。

前記プレス成形品の前記湾曲部における前記他方の端部の曲率半径をR0、前記中間成形品の前記湾曲部における前記他方の端部の曲率半径をR1、前記R0と前記R1との差を△R、前記プレス成形品の引張強度をTSとしたとき、下記(1)(2)式を満足することを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法。
△R<A×R0/(1+A) (1)
A=(-1.2×10-4×TS+0.25) (2)

前記プレス成形品の縦壁部の長手方向に垂直な断面における前記縦壁部の長さをL0、前記中間成形品の縦壁部の長手方向に垂直な断面における長さをL1としたとき、下記式(3)を満足することを特徴とする、(1)~(4)のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法。
L1>L0×0.5 (3)

前記金属板は、引張強度が440MPa以上の鋼板であることを特徴とする、(1)~()のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法。

前記プレス成形は冷間プレス成形であることを特徴とする、(1)~()のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、複雑形状を有し、かつ高品質なプレス成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態が対象とするプレス成形品の一例を示す説明図である。(a)、(b)は斜視図、(c)は(a)及び(b)のA-A矢視断面図である。以下の説明において、「断面図」は、特に断りのない限り、「縦壁部の長手方向に垂直な断面図」を意味するものとする。
図2】本実施形態が対象とするプレス成形品の一例を示す説明図である。(a)、(b)は斜視図、(c)は(a)及び(b)のB-B矢視断面図である。
図3】従来のプレス成形品の製造方法を示す平面図である。(a)は予成形及び平面トリム後の中間成形品を示す平面図である。(b)は最終成形品であるプレス成形品を示す平面図である。
図4】従来のプレス成形品の製造方法を示す断面図である。(a)は予成形後の中間成形品を示す断面図である。(b)は平面トリム後の中間成形品を示す断面図である。(c)は最終成形品であるプレス成形品を示す断面図である。
図5】本実施形態に係るプレス成形品の製造方法を示す平面図である。(a)は予成形及び平面トリム後の中間成形品を示す平面図である。(b)は最終成形品であるプレス成形品を示す平面図である。
図6】本実施形態に係るプレス成形品の製造方法を示す断面図である。(a)は予成形後の中間成形品を示す断面図である。(b)は平面トリム後の中間成形品を示す断面図である。(c)は最終成形品であるプレス成形品を示す断面図である。
図7】従来のプレス成形品の製造方法を示す側面図(平面視に対して垂直な方向から視た図)である。
図8】従来のプレス成形品の製造方法を示す断面図である。
図9】本実施形態に係るプレス成形品の製造方法を示す側面図である。
図10】本実施形態に係るプレス成形品の製造方法を示す断面図である。
図11】第1の応用例に係るプレス成形品の製造方法を示す一部破断斜視図である。
図12】第2の応用例に係るプレス成形品の製造方法を示す一部破断斜視図である。
図13】第3の応用例に係るプレス成形品の製造方法を示す一部破断斜視図である。
図14】第4の応用例に係るプレス成形品の製造方法を示す一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
<1.本実施形態が対象とするプレス成形品の例>
まず、図1及び図2に基づいて、本実施形態が対象とするプレス成形品の一例について説明する。
【0012】
図1は、本実施形態が対象とするプレス成形品の例であるプレス成形品100、200を示す説明図である。(a)はプレス成形品100の斜視図、(b)はプレス成形品200の斜視図、(c)はプレス成形品100、200の断面図である。図1(c)は、図1(a)及び(b)のプレス成形品100、200の長手方向中央におけるA-A矢視断面図である。
【0013】
図1(a)、(c)に示すように、プレス成形品100は天板部110、縦壁部120、及び屈曲部130を有する。縦壁部120は、板厚方向に弧状に湾曲した湾曲部120aを有する。湾曲部120aは、平面視(上面視)または斜視において天板部110の内側に凸になるように湾曲(図1(a)、(b)における両矢印)している。縦壁部120の上下方向の上端部は、屈曲部130を介して天板部110に連結している。天板部110は、プレス成形品100の上端側に配置される部分である。
【0014】
金属板をプレス成形することでプレス成形品100を製造する場合、縦壁部120は、金属板の縦壁部120に対応する部分が伸びることで成形される。このとき、縦壁部120の下端部120bには割れが発生する可能性がある。
【0015】
図1(b)、(c)に示すように、プレス成形品200は天板部210、縦壁部220、及び屈曲部230を有する。縦壁部220は、板面方向に弧状に湾曲した湾曲部220aを有する。湾曲部220aは、側面視(水平方向に視る場合)または斜視において下側に凸になるように湾曲している。縦壁部220の上下方向の上端部は、屈曲部230を介して天板部210に連結している。天板部210は、プレス成形品200の上端側に配置される部分である。
【0016】
金属板をプレス成形することでプレス成形品200を製造する場合、縦壁部220は金属板の縦壁部220に対応する部分が伸びることで成形される。このとき、縦壁部220の下端部220bには割れが発生する可能性がある。
【0017】
図2は、本実施形態が対象とするプレス成形品の例であるプレス成形品300、400を示す説明図である。(a)はプレス成形品300の斜視図、(b)はプレス成形品400の斜視図、(c)はプレス成形品300、400の断面図である。図2(c)は、図2(a)及び(b)のプレス成形品00、00の長手方向中央におけるB-B矢視断面図である。
【0018】
図2(a)、(c)に示すように、プレス成形品300は天板部310、縦壁部320、及び屈曲部330を有する。縦壁部320は、板厚方向に弧状に湾曲した湾曲部320aを有する。湾曲部320aは、平面視(上面視)または斜視において天板部310の外側に凸になるように湾曲(図2(a)、(b)における両矢印)している。縦壁部320の上下方向の上端部は、屈曲部330を介して天板部310に連結している。天板部310は、プレス成形品300の上端側に配置される部分である。
【0019】
金属板をプレス成形することでプレス成形品300を製造する場合、縦壁部320は、金属板の縦壁部320に対応する部分が縮むことで成形される。このとき、縦壁部320の下端部320bには皺が発生する可能性がある。
【0020】
図2(b)、(c)に示すように、プレス成形品400は天板部410、縦壁部420、及び屈曲部430を有する。縦壁部420は、板面方向に弧状に湾曲した湾曲部420aを有する。湾曲部420aは、側面視(水平方向に視る場合)または斜視において上側に凸になるように湾曲している。縦壁部420の上下方向の上端部は、屈曲部430を介して天板部410に連結している。天板部410は、プレス成形品400の上端側に配置される部分である。
【0021】
金属板をプレス成形することでプレス成形品400を製造する場合、縦壁部420は、金属板の縦壁部420に対応する部分が縮むことで成形される。このとき、縦壁部420の下端部420bには皺が発生する可能性がある。
【0022】
本実施形態では、プレス成形方法を工夫することによって、上記のプレス成形品100~400に割れや皺が入りにくくする。以下、本実施形態に係るプレス成形方法(プレス成形品の製造方法)を説明する。
【0023】
<2.従来のプレス成形品の製造方法と本実施形態に係るプレス成形品の製造方法の対比>
つぎに、従来のプレス成形品の製造方法と本実施形態に係るプレス成形品の製造方法とを対比して説明する。
【0024】
(2-1.プレス成形品100に関して)
図3及び図4は従来のプレス成形品100の製造方法を示す。図3は、従来のプレス成形品100の製造方法を示す平面図である。(a)は予成形及び平面トリム後の中間成形品100’を示す平面図である。(b)は最終成形品であるプレス成形品100を示す平面図である。図4は、従来のプレス成形品100の製造方法を示す断面図である。(a)は予成形後の中間成形品100’’を示す断面図である。(b)は平面トリム後の中間成形品100’を示す断面図である。(c)は最終成形品であるプレス成形品100を示す断面図である。
【0025】
図4(a)に示すように、従来のプレス成形品100の製造方法では、まず、金属板を予成形することで中間成形品100’’を製造する。中間成形品100’’は、天板部110’’、縦壁部120’’、屈曲部130’’及びフランジ部140’’を有する。縦壁部120’’には図示しない湾曲部が形成されている。屈曲部130’’における天板部110’’と縦壁部120’’がなす劣角の角度Wθは、プレス成形品100における天板部110と縦壁部120がなす劣角の角度Wθと略同じである。屈曲部130’’における天板部110’’と縦壁部120’’がなす劣角の角度Wθは、プレス成形品100における天板部110と縦壁部120がなす劣角の角度Wθと、例えば±5°の範囲で同じである。
【0026】
ついで、図3(a)及び図4(b)に示すように、フランジ部140’’上に設定されたトリムライン150でフランジ部140’’をトリミング(平面トリム)することで中間成形品100’を製造する。なお、平面トリムは省略されてもよい。中間成形品100’は、天板部110’、縦壁部120’、屈曲部130’、及びフランジ部140’を備える。縦壁部120’には湾曲部120a’が形成されている。トリムライン150は、中間成形品100’の縦壁部120’の長さとフランジ部140’の長さの合計が、最終成形品であるプレス成形品100の縦壁部120と同じになるように設定される。屈曲部130’における天板部110’と縦壁部120’がなす劣角の角度Wθは、プレス成形品100における天板部110と縦壁部120がなす劣角の角度Wθと略同じである。屈曲部130’における天板部110’と縦壁部120’がなす劣角の角度Wθは、プレス成形品100における天板部110と縦壁部120がなす劣角の角度Wθと、例えば±5°の範囲で同じである。
なお、断面図における縦壁部120’の長さは、縦壁部120’と天板部110’を伸ばした交点から、縦壁部120’の端部までの距離である。
【0027】
ついで、図3(b)及び図4(c)に示すように、中間成形品100’の縦壁部120’を再成形する(フランジダウンする)ことで、最終成形品であるプレス成形品100を製造する。プレス成形品100は、天板部110、縦壁部120、及び屈曲部130を備える。縦壁部120には湾曲部120aが形成されている。フランジダウンとは、フランジを曲げ下ろすことであり、例えば、中間成形品の屈曲部を潰して天板部の一部を縦壁部とし、フランジ部が含まれる面と縦壁部が含まれる面とが同一面になるように成形する場合も含まれる。なお、フランジダウンによって、中間成形品100’の下端部120b’はプレス成形品100の下端部120bとなる。言い換えれば、下端部120b’は下端部120bまで移動する。図3(b)に示す矢印は、下端部120b’が下端部120bに移動する方向を示す。このときの水平方向の移動距離(曲げ幅)はL’で示される。屈曲部130’における天板部110’と縦壁部120’がなす劣角の角度Wθはプレス成形品100における天板部110と縦壁部120がなす劣角の角度Wθと略同じであるため、曲げ幅L’は長くなる。このため、下端部120bの伸び量が大きくなり、下端部120bに割れが発生しやすくなる。屈曲部130’における天板部110’と縦壁部120’がなす劣角の角度Wθは、プレス成形品100における天板部110と縦壁部120がなす劣角の角度Wθと、例えば±5°の範囲で同じである。
【0028】
図5及び図6は本実施形態に係るプレス成形品1の製造方法を示す。図5は、本実施形態に係るプレス成形品1の製造方法を示す平面図である。(a)は予成形及び平面トリム後の中間成形品1’を示す平面図である。(b)は最終成形品であるプレス成形品1を示す平面図である。図6は、本実施形態に係るプレス成形品1の製造方法を示す断面図である。(a)は予成形後の中間成形品1’’を示す断面図である。(b)は平面トリム後の中間成形品1’を示す断面図である。(c)は最終成形品であるプレス成形品1を示す断面図である。
【0029】
図6(a)に示すように、本実施形態に係るプレス成形品1の製造方法では、まず、金属板を予成形することで中間成形品1’’を製造する。中間成形品1’’は、天板部11’’、縦壁部12’’、屈曲部13’’及びフランジ部14’’を有する。縦壁部12’’には図示しない湾曲部が形成されている。屈曲部13’’における天板部11’’と縦壁部12’’がなす劣角の角度Wθはプレス成形品1(最終形状)における天板部11と縦壁部12がなす劣角の角度Wθよりも小さい。
【0030】
ついで、図5(a)及び図6(b)に示すように、フランジ部14’’上に設定されたトリムライン15でフランジ部14’’をトリミング(平面トリム)することで中間成形品1’を製造する。なお、平面トリムは省略されてもよい。中間成形品1’は、天板部11’、縦壁部12’、屈曲部13’、及びフランジ部14’を備える。縦壁部12’には湾曲部12a’が形成されている。トリムライン15は、中間成形品1’の天板部11’の一部の長さ、縦壁部12’の長さ、及びフランジ部14’の長さの合計が、最終成形品であるプレス成形品1の縦壁部12と同じになるように設定される。縦壁部12’の長さは、縦壁部12’と天板部11’を伸ばした交点から、縦壁部12’の端部までの距離である。なお、図6(b)及び(c)に示すように、屈曲部13’における天板部11’と縦壁部12’がなす劣角の角度Wθはプレス成形品1における天板部11と縦壁部12がなす劣角の角度Wθよりも小さいので、中間成形品1’の屈曲部13’はプレス成形品1の屈曲部13よりも外側にせり出している。このため、中間成形品1’の天板部11’の一部がプレス成形品1の縦壁部12となる。中間成形品1’の屈曲部13’と天板部11’の一部とがプレス成形品1の縦壁部12となる。また、中間成形品100’の縦壁部120’の断面における鉛直方向の長さが、中間成形品1’の縦壁部12’の断面における鉛直方向の長さと同じ場合は、フランジ部14’の長さは上述したフランジ部140’よりも短い。
【0031】
ついで、図5(b)及び図6(c)に示すように、中間成形品1’の縦壁部12’を再成形する(フランジダウンする)ことで、最終成形品であるプレス成形品1を製造する。プレス成形品1は、天板部11、縦壁部12、及び屈曲部13を備える。縦壁部12には湾曲部12aが形成されている。プレス成形品1の天板部11、縦壁部12、湾曲部12a、及び屈曲部13は、それぞれプレス成形品100の天板部110、縦壁部120、湾曲部120a、及び屈曲部130に相当する。縦壁部12はフランジ部を有していても有していなくてもよい。なお、図5(b)に示す矢印は、下端部12b’が下端部12bに移動する方向を示す。
【0032】
なお、フランジダウンによって、中間成形品1’の下端部12b’はプレス成形品1の下端部12bとなる。言い換えれば、下端部12b’は下端部12bまで移動する。このときの水平方向の移動距離(曲げ幅)はLで示される。屈曲部13’における天板部11’と縦壁部12’がなす劣角の角度Wθはプレス成形品1における天板部11と縦壁部12がなす劣角の角度Wθよりも小さくなるため、フランジ部14’が短くなり、結果として、曲げ幅Lは短くなる。このため、下端部12bの伸び量が小さくなり、下端部12bの割れを抑制することができる。
【0033】
(2-2.プレス成形品200に関して)
図7及び図8は従来のプレス成形品200の製造方法を示す。図7は、従来のプレス成形品200の製造方法を示す側面図である。図8は従来のプレス成形品200の製造方法を示す断面図である。
【0034】
図7及び図8に示すように、従来のプレス成形品200の製造方法では、まず、金属板を予成形及び平面トリムすることで、中間成形品200’を製造する。平面トリムのトリムラインは、中間成形品200’の縦壁部220’の長さとフランジ部240’の長さの合計が、最終成形品であるプレス成形品200の縦壁部220と同じになるように設定される。平面トリムは省略されてもよい。中間成形品200’は、天板部210’、縦壁部220’、屈曲部230’及びフランジ部240’を有する。縦壁部220’には湾曲部220a’が形成されている。屈曲部230’における天板部210’と縦壁部220’がなす劣角の角度Wθは、プレス成形品200における天板部210と縦壁部220がなす劣角の角度Wθと略同じである。屈曲部230’における天板部210’と縦壁部220’がなす劣角の角度Wθは、プレス成形品200における天板部210と縦壁部220がなす劣角の角度Wθ 、例えば±5°の範囲で同じである。
【0035】
ついで、図7及び図8に示すように、中間成形品200’の縦壁部220’を再成形する(フランジダウンする)ことで、最終成形品であるプレス成形品200を製造する。プレス成形品200は、天板部210、縦壁部220、及び屈曲部230を備える。縦壁部220には湾曲部220aが形成されている。なお、フランジダウンによって、中間成形品200’の下端部220b’はプレス成形品200の下端部220bとなる。言い換えれば、下端部220b’は下端部220bまで移動する。このときの鉛直方向の移動距離(曲げ幅)はL’で示される。屈曲部230’における天板部210’と縦壁部220’がなす劣角の角度Wθはプレス成形品200における天板部210と縦壁部220がなす劣角の角度Wθと略同じであるため、曲げ幅L’は長くなる。このため、下端部220bの伸び量が大きくなり、下端部220bに割れが発生しやすくなる。屈曲部230’における天板部210’と縦壁部220’がなす劣角の角度Wθは、プレス成形品200における天板部210と縦壁部220がなす劣角の角度Wθと、例えば±5°の範囲で同じである。
【0036】
図9及び図10は本実施形態に係るプレス成形品2の製造方法を示す。図9は、本実施形態に係るプレス成形品2の製造方法を示す側面図である。図10は本実施形態に係るプレス成形品2の製造方法を示す断面図である。
【0037】
図9及び図10に示すように、本実施形態に係るプレス成形品2の製造方法では、まず、金属板を予成形及び平面トリムすることで中間成形品2’を製造する。平面トリムのトリムラインは、中間成形品2’の縦壁部22’の長さ、及びフランジ部24’の長さの合計が、最終成形品であるプレス成形品2の縦壁部22と同じになるように設定される。平面トリムは省略されてもよい。中間成形品2’は、天板部21’、縦壁部22’、屈曲部23’及びフランジ部24’を有する。縦壁部22’には湾曲部22a’が形成されている。屈曲部23’における天板部21’と縦壁部22’がなす劣角の角度Wθはプレス成形品2における天板部21と縦壁部22がなす劣角の角度Wθよりも小さい。
【0038】
ついで、図9及び図10に示すように、中間成形品2’の縦壁部22’を再成形する(フランジダウンする)ことで、最終成形品であるプレス成形品2を製造する。プレス成形品2は、天板部21、縦壁部22、及び屈曲部23を備える。縦壁部22には湾曲部22aが形成されている。プレス成形品2の天板部21、縦壁部22、湾曲部22a、及び屈曲部23は、それぞれプレス成形品200の天板部210、縦壁部220、湾曲部220a、及び屈曲部230に相当する。
【0039】
なお、フランジダウンによって、中間成形品2’の下端部22b’はプレス成形品2の下端部22bとなる。言い換えれば、下端部22b’は下端部22bまで移動する。このときの鉛直方向の移動距離(曲げ幅)はLで示される。屈曲部23’における天板部21’と縦壁部22’がなす劣角の角度Wθはプレス成形品2における天板部21と縦壁部22がなす劣角の角度Wθよりも小さくなるため、従来の中間成形品200’の縦壁部220’の長さと、縦壁部22’の長さが同じ場合でも、縦壁部22’の下端部22b’は鉛直方向において縦壁部22の下端部22bにより近くなる。すなわち、曲げ幅Lは短くなる。このため、下端部22bの伸び量が小さくなり、下端部22bの割れを抑制することができる。縦壁部22はフランジ部を有していても有していなくてもよい。
【0040】
なお、プレス成形品300、400については説明を省略するが、中間成形品の屈曲部における天板部と縦壁部とのなす劣角の角度Wθをプレス成形品の最終形状における天板部と縦壁部とがなす劣角の角度Wθよりも小さくすることで、縦壁部の下端部における皺の発生を抑制することができる。
【0041】
また、上述した本実施形態に係るプレス成形品の製造方法は、縦壁部の長手方向の全域に適用されることが好ましいが、縦壁部の長手方向の一部に適用してもよい。
【0042】
<3.応用例>
(3-1.第1の応用例)
次に、各種応用例を説明する。図11は第1の応用例に係るプレス成形品の製造方法を示す一部破断斜視図である。図11に示すように、以下の条件を満たすように中間成形品1’を製造することが好ましい。すなわち、プレス成形品1の湾曲部12aにおける下端部12bの曲率半径をR0(mm)、中間成形品1’の湾曲部12a’における下端部12b’の曲率半径をR1(mm)、R0とR1との差(R0-R1)をΔR、プレス成形品1の引張強度をTS(MPa)としたとき、下記(1)(2)式を満足する。この場合、割れの発生をより確実に抑制することができる。
ΔR<A×R0/(1+A) (1)
A=(-1.2×10-4×TS+0.25) (2)
なお、(1)式は、許容される歪の限界を示す。
曲率半径R1は、前工程の最終工程が完了した時点(中間成形品1’が完成した時点)での形状についての曲率半径である。
引張強度は、例えば、JIS Z2241:2022に準拠した引張試験を実施することで測定することができる。
【0043】
(3-2.第2の応用例)
第2の応用例はプレス成形品2の製造方法に第1の応用例を適用したものである。図12は第2の応用例に係るプレス成形品の製造方法を示す一部破断斜視図である。図12に示すように、以下の条件を満たすように中間成形品2’を製造することが好ましい。すなわち、プレス成形品2の湾曲部22aにおける下端部22bの曲率半径をR0、中間成形品2’の湾曲部22a’における下端部22b’の曲率半径をR1、R0とR1との差(R0-R1)をΔR、プレス成形品2の引張強度をTSとしたとき、下記(1)(2)式を満足する。この場合、割れの発生をより確実に抑制することができる。
ΔR<A×R0/(1+A) (1)
A=(-1.2×10-4×TS+0.25) (2)
【0044】
なお、第1の応用例及び第2の応用例において、曲率半径は、プレス成形品の3D計測により測定することができる。
【0045】
(3-3.第3の応用例)
図13は第3の応用例に係るプレス成形品の製造方法を示す一部破断斜視図である。図13に示すように、以下の条件を満たすように中間成形品1’を製造することが好ましい。すなわち、断面図におけるプレス成形品1の縦壁部12(湾曲部12a)の長さをL0、中間成形品1’の縦壁部12’(湾曲部12a’)の長さをL1としたとき、下記式(3)を満足する。この場合、割れの発生をより確実に抑制することができる。
L1>L0×0.5 (3)
なお、断面図における縦壁部12の長さL0は、縦壁部12と天板部11を伸ばした交点から、縦壁部12の端部までの距離である。また、縦壁部12’の長さL1は、縦壁部12’と天板部11’を伸ばした交点から、縦壁部12’とフランジ部14’を伸ばした交点までの距離である。
【0046】
(3-4.第4の応用例)
第4の応用例はプレス成形品2の製造方法に第3の応用例を適用したものである。図14は第4の応用例に係るプレス成形品の製造方法を示す一部破断斜視図である。図14に示すように、以下の条件を満たすように中間成形品2’を製造することが好ましい。すなわち、断面図におけるプレス成形品2の縦壁部22(湾曲部22a)の長さをL0、中間成形品2’の縦壁部22’(湾曲部22a’)の長さをL1としたとき、下記(3)式を満足する。この場合、割れの発生をより確実に抑制することができる。
なお、断面図における縦壁部22の長さL0は、縦壁部22と天板部21を伸ばした交点から、縦壁部22の端部までの距離である。また、縦壁部22’の長さL1は、縦壁部22’と天板部21’を伸ばした交点から、縦壁部22’とフランジ部24’を伸ばした交点までの距離である。
L1>L0×0.5 (3)
【0047】
<4.プレス成形方法、金属板の引張強度>
金属板のプレス成形方法は特に制限されないが、製造コストの観点から冷間プレス成形であることが好ましい。また、プレス成形の材料となる金属板の引張強度も特に制限されないが、衝突性能向上及びCO排出量削減(軽量化)の観点から、440MPa以上であることが好ましい。このような金属板の例として、所謂ハイテン鋼板が挙げられる。また、金属板の引張強度の上限は2000MPaであることが好ましい。
【実施例
【0048】
(1.比較例1)
金属板として、980MPa材、板厚1.4mmを準備した。これを1回の冷間プレス成形でプレス成形品100を製造した。天板部110と縦壁部120がなす劣角の角度Wθは110°であり、縦壁部120の断面(長手方向に垂直な断面)における長さL0は79.0mmであり、湾曲部120aの曲率半径R0は174mmであった。そして、プレス成形品100の下端部120bを観察した。この結果、下端部120bに割れの懸念が見られた。また、板厚減少率も18.2%と非常に大きな値となった。
【0049】
(2.比較例2)
上記金属板を図4(a)~(c)に示す手順で冷間プレス成形することでプレス成形品100を製造した。平面トリム(図4(b))を行うことで、中間成形品100’を製造した。中間成形品100’の天板部110’と縦壁部120’がなす劣角の角度Wθはプレス成形品100の天板部110と縦壁部120がなす劣角の角度Wθに一致させた。ついで、図4(c)に示すように、中間成形品100’の縦壁部120’を再成形する(フランジダウンする)ことで、最終成形品であるプレス成形品100を製造した。天板部110と縦壁部120がなす劣角の角度Wθ、縦壁部120の断面(長手方向に垂直な断面)における長さL0、湾曲部120aの曲率半径R0は比較例1と同様とした。中間成形品100’の、縦壁部120’の断面(長手方向に垂直な断面)における長さを50.0mm、曲率半径R1を155mm、フランジ部140’の長さは19.0mmとした。そして、プレス成形品100の下端部120bを観察した。この結果、下端部120bに割れの懸念が見られた。また、板厚減少率も9.5%と非常に大きな値となった。
【0050】
(3.実施例1)
上記金属板を図6(a)~(c)に示す手順で冷間プレス成形することでプレス成形品1を製造した。平面トリム(図6(b))を行うことで、中間成形品1’を製造した。中間成形品1’における天板部11’と縦壁部12’がなす劣角の角度Wθは90°とした。ついで、図6(c)に示すように、中間成形品1’の縦壁部12’を再成形する(フランジダウンする)ことで、最終成形品であるプレス成形品1を製造した。天板部11と縦壁部12がなす劣角の角度Wθ、縦壁部12の断面(長手方向に垂直な断面)における長さL0、湾曲部12aの曲率半径R0は比較例1と同様とした。中間成形品1’の、縦壁部12’の断面(長手方向に垂直な断面)における長さを50.0mm、曲率半径R1を162mm、フランジ部14’の長さは8.5mmとした。そして、プレス成形品1の下端部12bを観察した。この結果、下端部12bに割れは見受けられなかった。また、板厚減少率も7.2%と小さい値となった。
【0051】
(4.比較例3)
上記金属板を図7及び図8に示す手順で冷間プレス成形することでプレス成形品200を製造した。平面トリム(図7)を行うことで、中間成形品200’を製造した。中間成形品200’の天板部210’と縦壁部220’がなす劣角の角度Wθはプレス成形品200の天板部210と縦壁部220がなす劣角の角度Wθに一致させた。ついで、図7及び図8に示すように、中間成形品200’の縦壁部220’を再成形する(フランジダウンする)ことで、最終成形品であるプレス成形品200を製造した。天板部210と縦壁部220がなす劣角の角度Wθを100°、縦壁部220の断面(長手方向に垂直な断面)における長さL0を79.0mm、湾曲部220aの曲率半径R0を327mm、縦壁部220’の断面(長手方向に垂直な断面)における長さを66.6mm、曲率半径R1を317mm、フランジ部240’の長さは8.7mmとした。そして、プレス成形品200の下端部220bを観察した。この結果、下端部220bに割れの懸念が見られた。また、板厚減少率も12.3%となった。
【0052】
(5.実施例2)
上記金属板を図9及び図10に示す手順で冷間プレス成形することでプレス成形品2を製造した。平面トリム(図9)を行うことで、中間成形品2’を製造した。中間成形品2’における天板部21’と縦壁部22’がなす劣角の角度Wθは90°とした。ついで、図9及び図10に示すように、中間成形品2’の縦壁部22’を再成形する(フランジダウンする)ことで、最終成形品であるプレス成形品2を製造した。天板部21と縦壁部22がなす劣角の角度Wθ、縦壁部22の断面(長手方向に垂直な断面)における長さL0、湾曲部22aの曲率半径R0は比較例3と同様とした。中間成形品2’の、縦壁部22’の断面(長手方向に垂直な断面)における長さを67.5mm、曲率半径R1を318mm、フランジ部24’の長さは10.2mmとした。そして、プレス成形品2の下端部22bを観察した。この結果、下端部22bに割れは見受けられなかった。また、板厚減少率も12.1と比較例3に対して小さくなった。
【0053】
(6.実施例3)
実施例1において、中間成形品1’を製造する際に、曲率半径R1を162mmとした。この結果、上記(1)式におけるΔRは12mmとなった。上記式(2)におけるAは0.132となり、曲率半径R0は174mmとなるので、上記式(1)が満たされる。この結果、下端部12bに割れは見受けられず、板厚減少率も7.2%と非常に小さい値となった。
【0054】
(7.実施例4)
実施例1において、中間成形品1’を製造する際に、縦壁部12’の断面(長手方向に垂直な断面)における長さL1を50.0mmとした。この結果、上記式(3)が満たされる。この結果、下端部12bに割れは見受けられず、板厚減少率も7.2%と非常に小さい値となった。
【0055】
なお、プレス成形品300、400に対応するプレス成形品を実施例1と同様の方法で製造したところ、下端部に皺は見受けられなかった。
【0056】
以上述べた通り、本実施形態によれば、複雑形状を有し、かつ高品質なプレス成形品を製造することが可能な、プレス成形品の製造方法を提供することができる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示によれば、複雑形状を有し、かつ高品質なプレス成形品を製造することができる。
【符号の説明】
【0059】
1、2 プレス成形品
11、21 天板部
12、22 縦壁部
12a、22a 湾曲部
12b、22b 下端部
【要約】
本開示の要旨は以下である。
(1)
金属板をプレス成形することでプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス成形品の縦壁部は、板厚方向または板面方向に弧状に湾曲した湾曲部を有し、
当該縦壁部の上下方向の一方の端部は、屈曲部を介して前記プレス成形品の天板部に連結しており、
前記プレス成形品の製造方法は、
前記縦壁部の成形時に、前記縦壁部の上下方向の他方の端部にフランジ部を成形すると共に、前記縦壁部の長手方向の少なくとも一部において、前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度を、前記プレス成形品の最終形状における前記天板部と前記縦壁部がなす劣角の角度よりも小さく成形して中間成形品とする工程と、
前記中間成形品の縦壁部を再成形する工程と、を含むことを特徴とする、プレス成形品の製造方法。
図1
図2
図3
図4
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図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14