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特許7758277電着塗料用組成物およびこれを含む水性電着塗料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-14
(45)【発行日】2025-10-22
(54)【発明の名称】電着塗料用組成物およびこれを含む水性電着塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/08 20060101AFI20251015BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20251015BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20251015BHJP
【FI】
C09D179/08 B
C09D5/00 Z
C09D5/44 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021208396
(22)【出願日】2021-12-22
(65)【公開番号】P2023093018
(43)【公開日】2023-07-04
【審査請求日】2024-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390035219
【氏名又は名称】株式会社シミズ
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】本多 博幸
(72)【発明者】
【氏名】小澤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田鎖 暢浩
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-18534(JP,A)
【文献】特開2023-32641(JP,A)
【文献】特開2019-94404(JP,A)
【文献】特開昭49-52299(JP,A)
【文献】特開平6-329758(JP,A)
【文献】特開2003-268235(JP,A)
【文献】特開2001-316875(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059689(WO,A1)
【文献】特開2017-186413(JP,A)
【文献】特開2014-31445(JP,A)
【文献】特開2005-97607(JP,A)
【文献】特開平4-1278(JP,A)
【文献】特開平3-119076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 179/08
C09D 5/00
C09D 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドイミド樹脂、可撓性強化剤および親水性カチオンポリマーを含む電着塗料用組成物。
【請求項2】
芳香族ポリアミドイミド樹脂、可撓性強化剤および親水性カチオンポリマーの合計量に対して、芳香族ポリアミドイミド樹脂を75~90重量%、可撓性強化剤を5~15重量%、親水性カチオンポリマーを5~15重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の電着塗料用組成物。
【請求項3】
酸中和剤を含む媒体中に請求項1または2記載の電着塗料用組成物が分散状態で含有されてなることを特徴とする水性電着塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗料用組成物およびこれを含む水性電着塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗料用組成物には、その用途に応じて多種にわたる特性、たとえば絶縁性、耐熱性、耐磨耗性などが求められる。耐熱性の用途ではポリイミド樹脂、アミドイミド樹脂を用いることで特性の向上を実現している。特に昨今は車載用の用途のために振動に対する特性、後加工時の曲げ性等塗膜の屈曲性の要求が高まっている。
【0003】
これらの要求にこたえるものとして、末端がOH基またはSH基であるポリアミド樹脂もしくはポリイミド樹脂をアミンなどのアルカリで中和したアニオン型組成物(特許文献1)がある。
【0004】
また、ベンゼン環の3,3位にOH基を持つ化合物を共重合させておきそのOH基にアミノ基を有する安息香酸化合物を付加させることにより得たカチオン型組成物(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-268235号公報
【文献】特開2019-094404号公報
【文献】特開2019-218433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記の組成物は、いずれも改善の余地があり、たとえば特許文献2のアニオン型では、陽極である被塗物の溶解が生じてしまうことから、銅や銀めっきなどの電子部品に用いられる金属には適用することが不可能である。
【0007】
また、水に分散または溶解しにくいため、溶解力の高いNMP(N-メチルピロリドン)、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)などの有機極性溶媒を50%以上と多量に併用しなければならず、安全面および環境面で問題がある。
【0008】
特許文献3のカチオン型組成物の場合には、ポリイミドワニスと親水性カチオンポリマーとを反応させるので、反応の制御が必要となってくる。また反応性を考慮した場合、選択できる材料の種類が限られるという問題がある。
【0009】
さらに、特許文献1は、耐熱絶縁性および屈曲性に優れた塗料組成物ではあるものの、重縮合ポリイミドの含有量が最大60%のとき、熱架橋イミドの含有量が10%を超えると屈曲性が低下し、親水性カチオンポリマーの含有量が10%を超えると耐熱性が低下するという課題がある。
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、芳香族ポリアミドイミド樹脂、可撓性強化剤および親水性カチオンポリマーを含む電着塗料用組成物が、優れた耐熱性および屈曲性を有する電着塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、芳香族ポリアミドイミド樹脂、可撓性強化剤および親水性カチオンポリマーを含む電着塗料用組成物である。
【0012】
また、本発明は、芳香族ポリアミドイミド樹脂、可撓性強化剤および親水性カチオンポリマーの合計量に対して、芳香族ポリアミドイミド樹脂を75~90重量%、可撓性強化剤を5~15重量%、親水性カチオンポリマーを5~15重量%含むことを特徴とする。
【0013】
また、酸中和剤を含む媒体中に上記の電着塗料用組成物が分散状態で含有されてなることを特徴とする水性電着塗料である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電着塗料用組成物は、被塗物に電着塗装により塗膜を形成し、硬化させた場合には、優れた耐熱性および屈曲性を有するので、振動に対する特性、後加工時の曲げ性等塗膜の屈曲性が必要な車載用機器の塗装用途に最適である。また、親水性カチオンポリマーと芳香族ポリアミドイミドだけでは電着塗料化しても分離沈降が生じるが、親水性カチオンポリマーと芳香族ポリアミドイミド樹脂に相溶する可撓性強化剤を含有することにより、反応させることなく、電着塗料組成物として安定する。
【0015】
また、本発明の水性電着塗料は、酸中和剤を含む媒体中に電着塗料用組成物を分散状態で含有させたことによって、芳香族ポリアミドイミド樹脂、可撓性強化剤および親水性カチオンポリマーの三者のブレンドを行い、樹脂間の絡み合いならびに相溶をもって親水性カチオンポリマーと芳香族ポリアミドイミド樹脂とを反応させることなく水中への分散を可能としている。
【0016】
また組成の特性により、耐熱性および絶縁性が向上し、有機溶剤の使用量が少なくなることで、均一コーティング性が良好で、かつ安全面および環境面についても優れた特性を有している。
【0017】
また、本発明の水性電着塗料は、芳香族ポリアミドイミド樹脂を含むことで、耐熱性、絶縁性に優れ、可撓性強化剤を含むことで、親水性カチオンポリマーとの芳香族ポリアミドイミド樹脂の抱きこみ性をもってカチオン化を達成し、さらなる耐熱性、絶縁性の向上が実現できる。
【0018】
また、可撓性強化剤と親水性カチオンポリマーとによる芳香族ポリアミドイミド樹脂の抱きこみによって、芳香族ポリアミドイミド樹脂と親水性カチオンポリマーとを反応させる必要が無く、塗料を容易に製造することができる。
【0019】
また、親水性カチオンポリマーを含むことで、芳香族ポリアミドイミド樹脂を水に分散、もしくは溶解させることが可能で、有機溶剤の使用量低減によって安全面、環境面においても優れた特性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電着塗料用組成物は、芳香族ポリアミドイミド樹脂、可撓性強化剤および親水性カチオンポリマーを含む。それぞれの含有量は、例えば、芳香族ポリアミドイミド樹脂、可撓性強化剤および親水性カチオンポリマーの合計量に対して、芳香族ポリアミドイミド樹脂が75~90重量%であり、可撓性強化剤が5~15重量%であり、親水性カチオンポリマーが5~15重量%である。
【0021】
本発明において、芳香族ポリアミドイミド樹脂は、特に限定されないが、たとえば重量
平均分子量が5000以上のものがあげられ、さらには10000以上のものがあげられる。
【0022】
また、芳香族ポリアミドイミド樹脂としては、50000以下のものがあげられ、30000以下のものがあげられる。
【0023】
好ましい芳香族ポリアミドイミド樹脂としては、前記平均分子量が5000以上50000以下のものがあげられ、より好ましい芳香族ポリアミドイミド樹脂としては、前記平均分子量が10000以上30000以下のものがあげられる。
【0024】
前記平均分子量が5000以下では塗膜形成時に連続膜にならず塗膜クラックが発生するおそれがあり、50000以上では溶剤への樹脂溶解性が低下し、樹脂固形分が30%以下では塗料作成時の溶剤量が増え塗料安定性が低下するおそれがある。
【0025】
かかる芳香族ポリアミドイミド樹脂は、既知の芳香族ポリアミドイミド樹脂であってもよく、必要に応じて、既知方法によって製造されたものであってもよい。
【0026】
芳香族ポリアミドイミド樹脂としては、たとえば、一般式(1)
【化1】
【化2】
で示されるアミドイミド樹脂があげられる。
【0027】
かかる芳香族ポリアミドイミド樹脂は、新たに合成されたものであってもよく、既知のものであってもよい。
【0028】
既知方法により芳香族ポリアミドイミド樹脂を製造する場合の1例として、トリメリット酸無水物と芳香族イソシアネートをイソシアネート法により製造する場合をもとに説明する。
【0029】
具体的には、芳香族ジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5ナフタレンジイソシアネートなどあげられ、このうち
ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0030】
トリメリット酸無水物と芳香族イソシアネートとの反応は、イソシアネート法の既知方法によって実施することができ、たとえば、溶媒中で、トリメリット酸無水物と芳香族イソシアネートとを、撹拌下、120~180℃で、1~5時間反応させることにより、芳香族ポリアミドイミド樹脂を製造することができる。
【0031】
反応溶媒としては、たとえばN―メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、1,3―ジメチル-2-イミダゾリジノンなどの非プロトン性極性溶媒があげられる。
【0032】
前記反応により製造される芳香族ポリアミドイミド樹脂は、その末端基がカルボキシル基でもイソシアネート基をジオール化合物と反応させて水酸基にしてもよい。
【0033】
可撓性強化剤としては、芳香族ポリアミドイミド樹脂を室温における軟銅線の安全張力の引張圧において折り曲げた際、電着塗膜の破断を防ぐことができるものであれば、特に限定されないが、たとえば融点が100℃以下の可撓性強化剤を好適に使用することができる。
【0034】
かかる可撓性強化剤としては、たとえばトリメリット酸トリカルボン酸エステル、スルホンアミド化合物、リン酸エステル化合物、イミド化合物などがあげられる。
トリメリット酸トリカルボン酸エステルとしては、たとえばトリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)などがあげられる。
【0035】
また、スルホンアミド化合物としては、たとえばo-トルエンスルホンアミド、p-トルエンスルホンアミド、N-エチル-o/p-トルエンスルホンアミド、N-nブチルベンゼンスルホンアミド、N-シクロヘキシル-p-トルエンスルホンアミドなどがあげられる。
【0036】
さらには、リン酸エステル化合物としては、たとえばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェートなどがあげられる。
【0037】
イミド化合物としては、ジイソシアネート化合物またはジアミノ化合物のいずれかと、カルボン酸無水物とを反応させて得られる重縮合体があげられ、ジイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネートがあげられる。
【0038】
芳香族ジイソシアネートとしては、たとえばフェニレンジイソシアネート、4,4‘-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,4-ジナフタレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニレンメタンジイソシアネート、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネートもしくはその混合物、4,4‘-トルイジンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート化合物などがあげられる。
【0039】
このうち、4,4’-ジフェニレンメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネートなどのフェニル骨格にイソシアネート基が結合した化合物、または、1,4-キシリレンジイソシアネートなどが好ましい。
【0040】
また、ジアミン化合物としては、芳香族ジアミンがあげられ、具体的にはたとえば、フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチル-1,1’-ビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシ-1,1’-ビフェニル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,6-ジアミノピリジン、2,6-ジアミノ-4-メチルピリジン、4,4’-(9-フルオレニリデン)ジアニリン、α,α-ビス(4-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼンなどがあげられる。
【0041】
このうち、フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホンが好ましい。
【0042】
カルボン酸無水物としては、特に限定されないが、低粘度な液状で取り扱いやすく、また硬化物の耐熱性や機械的物性の観点から、脂環式カルボン酸の無水物が好ましい。
【0043】
かかる脂環式カルボン酸無水物としては、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、1,2,3,6テトラヒドロフタル酸無水物、メチル1,2,3,6テトラヒドロフタル酸無水物などの6員環の脂環式カルボン酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、水素化ナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、デシルコハク酸無水物、ヘキサデシルコハク酸無水物、ドデシルコハク無水物、テトラデシルコハク酸無水物、グルタル酸無水物、3-メチルグルタル酸無水物、3、3-ジメチルグルタル酸無水物、2、2-ジメチルグルタル酸無水物、3、3-テトラメチレングルタル酸無水物、3、3-ペンタメチレングルタル酸無水物などがあげられる。
【0044】
このうち、水素化メチルナジック酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物などが好ましい。
【0045】
前記イミド化合物は、イソシアネート法、高温溶液重合法などの既知方法によって実施することができ、たとえば、溶媒中で、ジイソシアネート化合物またはジアミノ化合物のいずれかと、カルボン酸無水物とを、撹拌下、150~220℃で、1~12時間反応させることにより、製造することができる。
【0046】
反応溶媒としては、たとえばN―メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、1,3―ジメチル-2-イミダゾリジノンなどの非プロトン性極性溶媒があげられる。
前記反応において、ジイソシアネート化合物またはジアミノ化合物のいずれかと、カルボン酸無水物とにモル比は、カルボン酸無水物1モルに対して、ジイソシアネート化合物を用いるときは0.49~0.55モル、ジアミノ化合物を用いるときは0.48~0.52モルとすれば、イミド化合物を製造することができる。
【0047】
可撓性強化剤は芳香族ポリアミドイミド樹脂および親水性カチオンポリマー樹脂と相溶し、電着塗膜に共析する。
【0048】
なお、可撓性強化剤の組成割合が5重量%より少ないときは各樹脂間の相溶性が低下し樹脂が水中に分散、あるいは溶解しにくい。結果として外観平滑性、絶縁性も低下する。15重量%より大きい場合は架橋不足となり、十分な塗膜強度が得られない。可撓性強化剤の組成割合としては、上記のとおり5~15重量%が好ましく、さらに5~10重量%がより好ましい。
【0049】
親水性カチオンポリマーとしては、たとえばアクリル共重合体、エポキシアミンアダクト樹脂などがあげられる。
【0050】
アクリル共重合体としては、アクリル酸もしくはメタクリル酸のアルキルアミノ誘導体、ヒドロキシアルキル誘導体、ビニル誘導体を共重合させたものがあげられる。
【0051】
アクリル酸もしくはメタクリル酸のアルキルアミノ誘導体としては、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライドなどがあげられる。
【0052】
アクリル酸もしくはメタクリル酸のアルキルヒドロキシ誘導体としては、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルなどがあげられる。
【0053】
ビニル誘導体としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n
-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボニル、メタクリル酸2-(パーフロロオクチル)エチル、メタクリル酸トリフロロメチル、スチレンなどがあげられる。
【0054】
前記共重合体は、既知のものであってもよく、適宜前記アクリル酸もしくはメタクリル酸誘導体を共重合させたものであってもよい。共重合は既知の方法によって実施することができ、たとえば、前記アクリル酸もしくはメタクリル酸誘導体を溶媒に溶解し、重合開始剤の存在下に、加熱還流下で反応させることにより、実施することができる。
【0055】
また、エポキシアミンアダクト樹脂としては、エポキシ樹脂のエポキシ基を1級および2級アミンで変性したものがあげられる。
【0056】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エピコート828、エピコート834、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(三菱ケミカル株式会社製))およびノボラックフェノール型エポキシ樹脂(商品名:エピコート152、エピコート154(三菱ケミカル株式会社製))などがあげられる。
【0057】
1級アミンとしては、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノn-プロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミンなどを用いることができ、2級アミンとしては、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジn-プロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、ジn-ブチルアミンなどを用いることができる。
【0058】
エポキシアミンアダクト樹脂の製造方法は、既知のものであってよく、適宜前記エポキシ樹脂のエポキシ基を1級および2級アミンで変性することにより製造することができる。たとえば、エポキシ樹脂を溶媒に溶解し、加温撹拌下に前記アミンを徐々に加え、加熱することにより、容易に製造することができる。
【0059】
親水性カチオンポリマーは、芳香族ポリアミドイミド樹脂および可撓性強化剤を酸性水中に分散させ、電着塗装法により被塗物に芳香族ポリアミドイミド樹脂および可撓性強化剤を析出させる。
【0060】
なお、親水性カチオンポリマーが5重量%より小さい場合は、樹脂が水に溶解しにくく、15重量%より大きい場合は、ポリイミド樹脂および可撓性強化剤の共析率が低下し、耐熱性、絶縁性が得られない。親水性カチオンポリマーの組成割合としては、上記のとおり5~15重量%が好ましく、5~10重量%がさらに好ましい。
【0061】
なお、上記樹脂の混合物を水中に分散させるための中和剤としては、乳酸、酢酸、蟻酸、コハク酸、酪酸などの有機酸を用いることができる。使用量としては塗料1リットルに対して0.2~8gであり、0.5g~7gがより好ましく、1~6gがさらに好ましい。
【0062】
本発明における被塗物は、金属はもちろんのことであるが、シリコン、チタン酸インジウムなど半導体、電気伝導性セラミックス微粒子など、電気伝導性を有するすべての導体に適用できる。すなわち、対象基材は、電着塗装ができれば限定はないが、ステンレススチール(SUS304)、アルミニウムもしくはアルマイトを施したアルミニウム素材、めっき素材またはめっきを施した物品、ダイカストなどにも適用できる。
【0063】
めっき素材としては、この分野で常用されるものをいずれも使用でき、たとえば、純鉄、炭素鋼、高抗張力鋼(低合金鋼、マルエージング鋼)、磁性鋼、非磁性鋼、高マンガン鋼、ステンレス鋼(マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、オーステナイト・フェライト系ステンレス、析出硬化型ステンレスなど)、超合金鋼などの鉄系金属、銅および銅合金(無酸素銅、リン青銅、タフピッチ銅、アルミ青銅、ベリリウム銅、高力黄銅、丹銅、洋白、黄銅、快削黄銅、ネバール黄銅など)、鉄・ニッケル合金、ニッケル・クロム合金、ニッケル、クロム、アルミニウムおよびアルミニウム合金、マグネシウムおよびマグネシウム合金、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびこれらの合金、モリブデン、タングステンおよびこれらの合金、ニオブ、タンタルおよびこれらの合金、セラミックス微粒子類(アルミナ、ジルコアなど)などがあげられる。
【0064】
めっき素材表面に施されるめっきの種類は特に制限されず、この分野で常用されるめっきをいずれも採用できる。
【0065】
たとえば、銅・ニッケル・クロムめっき、ニッケル・ボロン・タングステンめっき、ニッケル・ボロンめっき、黄銅めっき、ブロンズめっきなどの各種合金めっき、金めっき、銀めっき、銅めっき、錫めっき、ロジウムめっき、パラジウムめっき、白金めっき、カドミウムめっき、ニッケルめっき、クロムめっき、黒色クロムめっき、亜鉛めっき、黒色ニッケルめっき、黒色ロジウムめっき、亜鉛めっき、工業用(硬質)クロムめっきなどがあげられる。また、ダイカストとしては、亜鉛ダイカスト、アルミニウムダイカスト、マグネシウムダイカストおよび焼結合金ダイカストなどがあげられる。
【0066】
さらに、本発明において、被塗物としては、電着塗装が可能なものであれば、特に限定されない。たとえば、電子部品、具体的にはトランジスタ、ダイオード等の半導体素子、抵抗器、キャパシタ、インダクタ、トランス等の受動素子(チップ部品)、電磁石、ソレノイド、電気モータ、リレー、スピーカー、メーター等の電磁石関係部品、水晶振動子、セラミック発信子等の圧電素子、電線、プリント配線板、コネクタ、ソケット、プラグ、スイッチ等の配線関係部品、テストプローブ、プローブガイド、検査用テストピン、検査用ベース材、電気接点等の電子部品検査用装置部材、LED、電球、蛍光灯、ヒーター、電熱線、ヒューズ、アンテナ、ヒートシンク、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の2次電池、直流モータ、ユニバーサルモータ、同期モータ、誘導モータ等の交流モータ、ステッピングモータなどのモータ、トロイダルコイル、チョークコイル、エッジワイズコイル、リアクトルコイルなどのコイル関係部品、自動車の内燃機関の排気通路、吸気通路、それらを接続する排気再循環通路、該通路に設置される、排気循環流量調整弁、それを収納する金属製の排気再循環筐体、それらに使用される配管部品、圧力センサ等の電子部品、電子機器、電子部品、電子機器を保護するケース、カバー部品などの排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)ユニット、ラジエータ、インタークーラー、オイルクーラー(エンジンオイル用/ステアリング用/トランスミッション用/デフ用パワーテイクオフ用/)、エバポレーター、コンデンサ(凝縮器)、ヒーターコア、空冷エンジンのヒートエクスチェンジャー(暖房用排気熱交換器)などの熱交換器、モータ、発電機など電気機器に用いられる軸受け、それらの電子部品、電子機器を収納するケース、カバー部品、検査用部品などがあげられる。
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により限定されるものではない。
芳香族ポリアミドイミド樹脂としてA-1、可撓性強化剤としてB-1~B-8の8種類、親水性カチオンポリマーとしてC-1をそれぞれ用いた。
【0068】
参考例1
芳香族ポリアミドイミド樹脂A-1の合成
N-メチルピロリドン(NMP)127gと4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート69g(0.28モル)と無水トリメリット酸58g(0.3モル)の混合物を、撹拌下に、150℃で3時間反応させて末端が-COOH基である芳香族ポリアミドイミド(PAI)溶液(PAI/NMP=50/50%)を得た。
【0069】
参考例2
親水性カチオンポリマーC-1の製造
イソプロピルアルコール60gを加熱還流し、これに2,2,2-トリフルオロメチルメ
タクリレート25g、メタクリル酸メチル20g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル30g、アクリル酸n-ブチル25g、メタクリル酸ジメチルアミノエチル15g、スチレン25gおよび重合開始剤であるベンゾインパーオキサイドを1gの混合物を、8分割し、10分間隔で順次滴下する。
【0070】
ついで、70~80℃で5~6時間反応させ、反応液にベンゾインパーオキサイドを0.1g添加し、さらに約1時間モノマー臭がなくなるまで還流させ、固形分濃度70%、粘度20,000cps(25℃)、MEQ63の黄色透明な樹脂溶液を得た。
【0071】
参考例3
イミド化合物1の製造
N-メチルピロリドン193.8gと4,4‘-ジフェニルメタンジイソシアネート 125.1g(0.50モル)とヘキサヒドロフタル酸無水物155.7g(1.01モル)とキシレン23.7gの混合物を、攪拌下に室温から徐々に温度を上げていき180℃まで昇温し2時間反応させてイミド化合物1を得た。冷却後、固形分が50%になるようにN-メチルピロリドンを入れイミド溶液(イミド/NMP=50/50%)を得た。重縮合体の融点は87℃であった。
融点は180℃で1時間乾燥し溶剤を除去した成分をDSC-60(島津製作所製)を使用して測定した。
【0072】
参考例4
イミド化合物2の製造
N-メチルピロリドン215.2gとビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン231.2g(0.50モル)とヘキサヒドロフタル酸無水物155.7g(1.01モル)とキシレン30.7gの混合物を、攪拌下で室温から徐々に温度を上げていきディーンシュ・タークで水を留去しながら180℃まで昇温し2時間反応させイミド化合物2を得た。冷却後、固形分が50%になるようにN-メチルピロリドンを入れイミド溶液(イミド/NMP=50/50%)を得た。イミド分子の融点は98℃であった。
融点は180℃で1時間乾燥し溶剤を除去した成分をDSC-60(島津製作所製)を使用して測定した。
【0073】
参考例5
イミド化合物3の製造
N-メチルピロリドン164.0gと4,4‘-ジアミノジフェニルメタン99.1g(0.50モル)とコハク酸無水物101.1g(1.01モル)とキシレン18.2gの混合物を、参考例2と同様に反応させて、イミド化合物3を得た。
イミド分子の融点は210℃であった。
融点は180℃で1時間乾燥し溶剤を除去した成分をDSC-60(島津製作所製)を使用して測定した。
【0074】
<評価方法>
各評価項目と評価方法は以下のとおりである。
膜厚:JIS試験法(K5600-1-7)に従い、マイクロメーターを用い、塗装前後の試験片の厚みを測定し、差を算出して膜厚とした。
【0075】
塗料安定性:塗料安定性は、塗料100gを室温で1週間静置し、軽く振とうした後に沈降物が存在しているか目視で判定した。
<判定基準>
○:塗料の分離、沈降がないことを示す。
△:塗料に沈降物が生じていることを示す。
【0076】
耐電圧(絶縁破壊電圧):直径(φ)1.0mmの銅線に、膜厚が30μmとなるように電着塗装を行い、50Nの力で引っ張りながらR=1.0になるように折り曲げ(テンション曲げ)を行い、AC/DC耐電圧試験器(MODEL8526 敦賀電機株式会社)を使用して、膜に絶縁破壊が生じる電圧(交流)を測定し、耐電圧とした。
【0077】
芳香族ポリアミドイミド樹脂
A-1:参考例1により製造された芳香族ポリアミドイミド樹脂
可撓性強化剤
B-1:トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)
B-2:p-トルエンスルホンアミド
B-3:トリクレジルホスフェート
B-4:参考例3により製造されたイミド化合物1
B-5:参考例4により製造されたイミド化合物2
B-6:N,N‘-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(融点159℃)
B-7:N,N‘-m-キシレンビスナジイミド(融点170℃)
B-8:参考例5により製造されたイミド化合物3
親水性カチオンポリマー
C-1:参考例2により製造された親水性カチオンポリマー
【0078】
(1)実施例1~8、比較例1~3の塗料作成
表1に記載のとおり、芳香族ポリアミドイミド樹脂、可撓性強化剤および親水性カチオンポリマーをそれぞれ適量混合する。酸中和剤として乳酸を加えて60℃、2時間混合、中和し、純水を投入して水中に分散させて実施例1~6、比較例1~4の水性電着塗料を製造した。
【0079】
(2)電着塗装
次に、塗膜の特性評価を行うために試験片への電着塗装を行った。
表1に記載の実施例1~8および比較例1~3の塗料を2リットル槽に入れ、液温を25℃に保持する。陽極にカーボン板を使用し、陰極に試験片である銅線(直径1.0mm、長さ150mm)を使用して電着塗装を行った。
【0080】
まず、銅線を50℃で5分間の弱アルカリ脱脂を行い、水洗する。濃度1%の硝酸を用いて室温で1分間の中和を行い水洗する。
【0081】
ついで、イオン交換水洗を行い、実施例1~8および比較例1~3の塗料を用いて電圧100Vで1分間の電着塗装を行う。水洗し、乾燥(100℃で15分間)した後、180℃、30分間の焼付を行う。
【0082】
試験片に対して各種測定および試験を行い、塗膜の特性評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
まず、表1から明らかなように、実施例1~8では絶縁破壊電圧が2.1~3.1KVと高いのに対して、比較例1、2では、絶縁破壊電圧が0.2~0.3KVと非常に低い。
このことは、本願発明の電着塗料が、テンション曲げで塗膜が破断せず、高い可撓性を有していることを示している。また、比較例1,2は末端のアリル基同士が反応し、塗膜の架橋密度が高くなったために柔軟性が低下し、破壊されたと考えられる
比較例3はB-8の融点が高く、それ自体が凝集してしまい、芳香族アミドイミド樹脂を抱え込むことができなくなり乳化できなかったと考えられる。
【0086】
以上のように、本発明の電着塗料組成物およびこれを含む水性電着塗料は、塗膜を形成させた場合には、該塗膜に優れた耐熱性および絶縁性を付与し、屈曲性も向上するとともに安全面および環境面においても優れた特性を有している、
【0087】
本発明によれば、可撓性強化剤、親水性カチオンポリマーおよび芳香族ポリアミドイミド樹脂の三者をブレンドすることにより、樹脂間の絡み合いならびに相溶をもって親水性カチオンポリマーと芳香族ポリアミドイミド樹脂を反応させることなく水中への分散を可能としている。すなわち、親水性カチオンポリマーと芳香族ポリアミドイミドだけでは電着塗料化しても分離沈降が生じるが、親水性カチオンポリマーと芳香族ポリアミドイミド樹脂に相溶する可撓性強化剤を含有することにより、反応させることなく、電着塗料組成物として安定する。
【0088】
また組成の特性により耐電圧性が良好でかつ安全面および環境面についても優れた特性を有している。