(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-20
(45)【発行日】2025-10-28
(54)【発明の名称】腸透過性及び胃排出率を測定する方法
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20251021BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20251021BHJP
【FI】
A61B10/00 M
A61B10/00 E
G01N21/64 F
(21)【出願番号】P 2022546132
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2021052175
(87)【国際公開番号】W WO2021152135
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2024-01-10
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519340400
【氏名又は名称】インペリアル・カレッジ・イノベーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IMPERIAL COLLEGE INNOVATIONS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン、アレクサンダー・ジェイ
【審査官】素川 慎司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-535102(JP,A)
【文献】特表平10-510807(JP,A)
【文献】特表2017-520527(JP,A)
【文献】特表2018-534965(JP,A)
【文献】特開2002-336234(JP,A)
【文献】国際公開第2007/129574(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 9/00 - 10/06
G01N 21/62 - 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
健康な腸によって吸収される蛍光造影剤を含む試験食を対象に経口投与された対象の胃排出率を測定する装置の作動方法であって、
前記装置は、
光放射により、前記対象の胃から漏出し前記対象の血流に入った前記試験食中の前記蛍光造影剤の少なくとも一部が蛍光を発するように、光放射を用いて前記対象の皮膚を照射するための光源と、
前記皮膚上の照射位置における前記蛍光造影剤の蛍光強度を定期的に経皮的に検出するための経皮検知装置と、
前記経皮検知装置によって得られた、蛍光強度についての蛍光データを処理するための情報処理装置と、を備え、
前記方法は、
前記光源が、前記対象の身体部分の皮膚上の位置を照射するステップと、
前記経皮検知装置が、時間の関数としての前記蛍光強度についての蛍光データを取得するべく、前記位置における前記試験食中の前記蛍光造影剤の蛍光強度を定期的に経皮的に検出するステップと、
前記情報処理装置が、時間の関数としての前記蛍光強度の正規化されたデータを取得するために、前記蛍光データを正規化するステップと、
前記情報処理装置が、時間の関数としての前記対象の胃に残っている前記試験食の割合を算出するために、前記対象に経口投与された前記蛍光造影剤の全量の蛍光強度のピーク値で割った、時間の関数としての前記対象の血流に入った前記試験食中の前記蛍光造影剤の蛍光強度に基づいて前記正規化されたデータを分析するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記強度の前記ピーク値は、前記蛍光データにおける第1ピークまたは第2ピークにおける前記強度の前記値、または前記蛍光データにおける前記強度の最大値である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記試験食は液体試験食または固体試験食を含む、請求項
1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光造影剤は、フルオレセイン、メチレンブルー、フルオレセインイソチオシアネート結合デキストラン、それらの塩、またはそれらの組み合わせを含む色素を有している、請求項
1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記経皮検知装置は取得時間を有し、前記光源は励起出力を有し、前記蛍光データは前記取得時間及び前記励起出力に基づいて正規化される、請求項
1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記蛍光データを正規化するステップにおいて使用されるバックグラウンド信号を取得するために、前記試験食が前記対象に投与される前に前記経皮検知装置が定期的な測定を開始することにより、前記試験食が前記対象に投与される前に前記試験食の前記蛍光強度の前記定期的な検出が開始される、請求項
1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記光源は発光ダイオードまたはレーザを含む、請求項
1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記経皮検知装置は、1以上のフォトダイオード、フォトトランジスタ、及び/または光ファイバプローブを含み、前記対象の前記身体部分の上及び/または周囲に装着されるように構成されている、請求項
1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記蛍光強度を定期的に検出するために前記経皮検知装置を使用するステップにおいて、前記経皮検知装置によって少なくとも1分間に1回測定値が記録される、請求項
1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記身体部分は、指、手首、腕、または耳たぶである、請求項
1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記正規化されたデータを分析するステップは、最小二乗法などの数値フィッティング手順を使用して、以下の関数を前記正規化されたデータにフィッティングするステップを含み、
式中、tは時間を表し、
I(t)は、時間の関数としての前記蛍光強度の前記正規化されたデータを表し、
B
maxは、時間の関数としての前記対象の前記血流中の前記蛍光造影剤からの強度寄与の最大値を表し、
L
maxは、時間の関数としての前記対象の皮膚の上皮に漏出した前記蛍光造影剤からの強度寄与の最大値を表し、
t
B1/2は、時間の関数としての前記対象の前記血流中の前記蛍光造影剤からの強度寄与がその最大値の半分に達する時点を表し、
t
L1/2は、時間の関数としての前記対象の皮膚の上皮に漏出した前記蛍光造影剤からの強度寄与がその最大値の半分に達する時点を表し、
Cは、前記蛍光造影剤が前記対象の体から排出される速度を表し、
k
Bは定数であり、時間の関数としての前記対象の前記血流中の前記蛍光造影剤からの強度寄与のロジスティック成長率を表し、
k
Lは定数であり、時間の関数としての前記対象の皮膚の上皮に漏出した前記蛍光造影剤からの強度寄与のロジスティック成長率を表している、請求項
1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記正規化されたデータを分析するステップは、前記対象の前記胃から漏出した蛍光造影剤の量を時間の関数S(t)として算出するステップをさらに含み、
S(t)=B(t)+B(t)Ctであり、
式中、B(t)は時間の関数としての前記対象の前記血流中の前記蛍光造影剤からの前記強度寄与を表している、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記正規化されたデータを分析するステップは、前記対象の前記胃に残っている前記試験食の前記割合を時間の関数R
pcとして算出するステップをさらに含み、
式中、S(t
peak)は、時間の関数としての、前記強度の前記正規化されたデータにおいて最終ピークが観察される時間におけるS(t)の値を表している、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記正規化されたデータを分析するステップは、前記対象の前記胃に残っている前記試験食の前記割合を時間の関数R
pcとして算出するステップをさらに含み、
式中、B(t)は、時間の関数としての、前記対象の前記血流中の前記蛍光造影剤からの前記強度寄与を表している、請求項
11に記載の方法。
【請求項15】
前記正規化されたデータを分析するステップは、前記対象の前記胃に残っている前記試験食の前記割合を時間の関数R
pcとして算出するステップを含み、
式中、I(t)は、時間の関数としての前記強度の前記正規化されたデータを表し、t
peak1は、前記時間の関数としての前記強度において、第1ピークが観察された時間を表している、請求項
1~10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象の腸透過性を測定する方法、及び対象の胃排出率を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胃腸管の機能は、セリアック病、炎症性腸疾患(IBD)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、脂肪肝疾患、敗血症、慢性肝疾患、環境性腸機能障害(EED)、及び栄養失調などの、無数の健康障害において極めて重要な役割を果たしている。特に、腸バリアの破壊は、上記の健康状態において重要な影響を及ぼし、腸透過性の増加(「漏出」とも呼ばれる)を引き起こし、さらには腸内細菌及び病原体関連分子ペプチドを全身循環へ移行させ、炎症反応を生じさせる。
【0003】
例えば、腸透過性の増加(「リーキーガット」とも呼ばれる)は、腸のバリアが損なわれると発生し、細菌やその他の病原体が腸からリンパや血管に漏れることを伴う。これにより、追加の結果を引き起こし、腸透過性の増加の問題をさらに悪化させ得る感染及び炎症のサイクルが発生する。この状態は、上記の病気のうちの多くに関連しており、生活の質に大きな影響を与え、栄養失調の子供の身体的及び認知的発達を制限する。
【0004】
さらに、上記で強調した健康状態のうちの多くにおける腸や腸のバリア機能の役割及び影響はよくわかっていない。
【0005】
同様に、機能性消化不良、胃不全麻痺、胃がんなどの多くの疾患において、胃排出率(食物が胃から腸に排出される速度)の変化が観察される。さらに、胃排出率は、栄養素が吸収され得る速度を決定するので、人間栄養学において重要である。
【0006】
腸や胃腸の機能(特に、腸透過性及び胃排出率)を評価するための現在の技術は、扱いにくく、費用がかかり、侵襲性が高く(例えば、内視鏡生検と組織病理学的検査またはX線検査とを必要とする)、信頼性が低く(例えば、尿及び/または血液のサンプルを使用する)、乳児における実施は困難である。
【0007】
したがって、疾患の病因における胃腸機能の理解を深めることができ、それが役割を果たす多くの病気の早期診断及び改善されたモニタリングを提供するのに役立つ新たな技術が必要である。特に、腸透過性を評価及び定量化するための改善された手段や、胃排出率を評価及び定量化するための改善された手段が必要とされている。
【0008】
国際公開第2015/070256号は、腸機能を評価するための組成物及び方法を開示している。腸機能を評価するための組成物が開示されているが、この組成物は蛍光チャレンジ分子(fluorescent challenge molecule)を含み、蛍光チャレンジ分子は健康な腸によって実質的には吸収されない。少なくとも2つの蛍光チャレンジ分子を含む腸機能を評価するための組成物も開示されており、一方の蛍光チャレンジ分子は健康な腸によって実質的には吸収されず、他方の蛍光チャレンジ分子は健康な腸によって実質的に吸収される。
【0009】
国際公開第2010/020673号は、臓器の機能、特に腎臓の機能を経皮的に測定するためのセンサプラスターを開示している。センサプラスターは、少なくとも1つの接着面を備えた、可撓性を有する少なくとも1つの支持要素を備えており、接着面によって体表面に接着することができる。センサプラスターはまた、少なくとも1つの放射線源、特に光源を有し、放射線源は、体表面を少なくとも1つの検査光によって照射するように設定されている。センサプラスターはまた、体表面の方向から照射する少なくとも1つの応答光を検出するように設定された少なくとも1つの検出器を有している。
【0010】
本開示は、先行技術に関連する問題を少なくともある程度緩和し、及び/または、少なくともある程度対処しようとするものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の第1の態様によれば、対象の腸透過性を測定するための方法が提供され、当該方法は、健康な腸によって吸収される蛍光造影剤を含む溶液を対象に経口投与するステップと、光放射により、対象の腸から漏出し対象の血流中にもたらされた溶液の少なくとも一部が蛍光を発するように、光放射を用いて対象の身体部分の皮膚上の位置を照射するために光源を使用するステップと、時間の関数としての強度についての蛍光データを取得するべく、前記位置における前記溶液の蛍光強度を定期的に検出するために経皮検知装置を使用するステップと、前記時間の関数としての前記強度の正規化されたデータを取得するために、前記蛍光データを正規化するステップと、前記対象の前記腸透過性を測定するために、前記強度の第1ピーク値、時間に対する前記強度の積分、前記強度の前記第1ピーク値と、前記第1ピーク値における前記時間との積、前記強度の前記第1ピーク値と、前記第1ピーク値の前記時間を過ぎた時点における前記時間との積、前記強度の前記第1ピーク値が発生する前記時間、または前記強度の前記第1ピーク値を前記ピーク値が発生する前記時間で割った値、のうちの1以上を算出することによって前記正規化されたデータを分析するステップと、を含む。
【0012】
有利なことに、このような方法は、対象の腸透過性を評価するための、侵襲性が低く、信頼性が高く、かつ定量化可能な方法を提供することができる。
【0013】
特に、健康な腸によって吸収される蛍光造影剤を使用することによって、有利なことにベースライン測定値を得ることができ、これにより、様々な分子特性を有する複数の異なる蛍光造影剤を使用する必要なく、透過性のわずかな変化さえも検出することができる。そのため、健康な腸によって吸収される蛍光造影剤を使用すると、腸が健康であるか不健康であるかにかかわらず、すべての個人において診断測定を行うことができる。有利なことに、これは、健康な腸によって吸収され得ない蛍光造影剤が代わりに使用された場合のように、蛍光造影剤が最初に吸収される上記の任意の閾値を超えた病状だけでなく、すべての病状を評価できることを意味している。したがって、このような方法は、ひどく損傷した腸よりもむしろ僅かに損傷した腸を評価するために有利に使用され、腸が損傷しているかどうかという単なる二値(バイナリ)表示ではなく、腸がどの程度損傷しているかという定量的表示を提供することができる。
【0014】
任意選択で、蛍光データは、取得時間と、後方散乱光放射、すなわち後方散乱励起光の強度と、に関して正規化される。
【0015】
任意選択で、正規化されたデータを分析することにより、前記強度の第1ピーク値が発生する時間までの時間に対する前記強度の積分を算出することにより、対象の腸透過性を測定する。
【0016】
さらに、後方散乱励起光の強度(すなわち、蛍光を励起するために使用される光源(レーザ、発光ダイオード、または他の光源など)からの信号の強度)に関して蛍光データを正規化するステップと、対象の腸透過性を測定するために、前記強度の第1ピーク値、時間に対する前記強度の積分(選択された時点:例えば、第1ピークの時間、または第1ピークの時間に第1ピークの前記時間の選択された割合(すなわち、第1ピークの時間を過ぎた時点において、例えば、その5、10または20%)を加えた合計)、前記強度の第1ピーク値と前記第1ピーク値における時間との積、前記強度の第1ピーク値と、前記第1ピーク値の時間を過ぎた時点における時間との積、前記強度の第1ピーク値が発生する時間、または前記強度の第1ピーク値を前記ピーク値が発生する時間で割った値、のうちの1以上を算出することにより、前記正規化されたデータを分析するステップと、は、単一の蛍光造影剤のみを使用することによって(すなわち、異なる分子量を有する2つの異なる蛍光造影剤などの2以上の異なる蛍光造影剤を含む溶液を必要とすることなく)、腸透過性の定量的評価を得ることができるという利点を提供することができる。したがって、単一の蛍光造影剤を使用することにより、腸透過性の連続的な測定値を得ることができる。
【0017】
前記強度の第1ピーク値は、対象の血流中の蛍光造影剤のピーク濃度の読み出しを提供することができるので、対象の腸透過性を測定するために使用され得る。前記ピーク値は、対象の血流中の蛍光造影剤の濃度が最大である時点を表すことができ、典型的には、身体からの(例えば、腎臓または肝臓を介した)溶液の有意な排出が起こる前に生じる。
【0018】
したがって、全体として、このような方法は、正規化された蛍光強度データに基づいて腸透過性の定量化を提供することができ、また、尿、血液、または他のサンプルを収集する必要なく、胃腸(GI)機能の他の側面の指標を提供することもできる。これにより、健康な腸のバリアさえも通過する色素の漏出の定量化が可能になり、このことは、非常に透過性のある/損傷した腸を有する患者だけでなく、幅広い患者(すなわち、対象)において意味のある臨床データを提供できる可能性があることを意味する。さらに、このような方法における定量化/算出は、(先行技術におけるような)腸が「透過性」または「非透過性」であるかどうかという大まかな臨床結果のみを提供することができる単純なバイナリマーカではなく、腸の透過性に関して連続的に変化する測定値を提供することができる。これにより、治療やその他の介入(栄養介入など)に対する患者の反応のモニタリングが可能になり、異なる個人において測定された値の比較(すなわち、スクリーニング/診断アプリケーションのための)も可能になる。これは、(後方散乱励起信号に対する)蛍光データの正規化と、定期的なデータ収集とによって可能になる。
【0019】
さらに、このような方法は、腸透過性の非侵襲的センシングの可能性を示しており、現場配置可能な使用に適した、小型化された低コストのウェアラブルセンサの開発を提供することができる。
【0020】
任意選択で、正規化されたデータを分析することにより、前記強度の第1ピーク値後の選択された時点までの時間に対する前記強度の積分を算出することにより、対象の腸透過性を測定する。
【0021】
例えば、前記選択された時点は、前記強度の第1ピーク値が生じる時間の値と、前記時間の値の選択された割合(パーセンテージ)との合計に等しくてもよい。前記選択された割合は、約5パーセントから25パーセントの間であり、例えば、前記選択された割合は、約5パーセント、10パーセント、または20パーセントであってよい。例えば、前記強度の第1ピーク値が60分の時間値で観察された場合、データは、63分、66分、または72分の時間まで積分され、時間調整のための選択された割合の値はそれぞれ5%、10%、及び20%である。有利なことに、前記強度の第1ピーク値の時間をわずかに過ぎた時点までデータを積分することにより、結果として得られる分析は、対象の血流から造影剤が除去されたことを説明することができる。前記第1ピークが(時間的に)遅く発生するほど、身体からの造影剤の排出が多くなるので、前記第1ピークが遅く発生する場合、このような補正は、より重要かつ有利になる。有利なことに、ピークをわずかに過ぎた時間まで積分することにより、これが補正される。
【0022】
任意選択で、溶液は、健康な腸によって吸収される単一の蛍光造影剤のみを含む。すなわち、溶液は、健康な腸によって吸収される前記蛍光造影剤を含み、他の蛍光造影剤を含まない。
【0023】
任意選択で、前記強度の第1ピーク値を算出するために、以下の方程式を使用してもよい。
【0024】
【0025】
式中、GP1は腸透過性の量記号(quantifier)を表し、I(tpeak)は前記強度データにおける最初のピークの時間(tpeak)における時間の関数としての正規化された前記強度のデータの値を表している。
【0026】
時間に対する前記強度の積分(すなわち、時間に対してプロットされた前記強度の曲線下の面積)を使用することにより、胃排出率の影響を考慮して、対象の腸透過性を測定することができる。任意選択で、前記強度の第1ピークまで積分を算出することができる。任意選択で、前記強度の第1ピークを過ぎた選択された時点まで積分を算出することができる。これにより、前記第1のピークの時間まで(あるいは、第1ピークの時間を過ぎた選択された時点などの別の選択された時点まで)、腸から対象の血流に漏出した蛍光造影剤の総量の定量的測定を提供することができる。データからピーク濃度の時間を特定することにより、対象の血流中の蛍光造影剤の総回収量を正確に定量化することが可能になる。
【0027】
必要に応じて、時間に対する前記強度の積分を算出するために、以下の方程式を使用してもよい。
【0028】
【0029】
式中、GP2は腸透過性の量記号を表し、I(t)は時間の関数としての前記強度の正規化されたデータを表し、tpeakは蛍光データにおける最初のピークの時点を表す。あるいは、GP2についての方程式は以下のように変更されてもよい。
【0030】
【0031】
式中、tpeak+は蛍光データにおける第1ピークの後の選択された時点を表す。例えば、前記選択された時点は、蛍光データにおいて第1ピークが生じた時間の値の合計に、その時間の前記値の選択された割合(パーセンテージ)を加えたものに等しくてもよい。前記選択された割合は、約5パーセントから25パーセントの間であってもよく、例えば、前記選択された割合は、約5パーセント、10パーセント、または20パーセントであってもよい。
【0032】
前記強度の第1ピーク値と前記ピーク値における時間との積は、対象の腸透過性を測定するために使用することができ、時間に対する前記強度の積分を算出するための単純化された分析アプローチを有利に表すことができる。
【0033】
あるいは、前記強度の第1ピーク値と前記ピーク値の時間を過ぎた時点における時間との積を使用して、対象の腸透過性を測定することができる。これはまた、時間に対する前記強度の積分を算出するための単純化された分析アプローチを有利に表すことができる。前記ピーク値の時間を過ぎた時点は、第1ピークの時間と、第1ピークの前記時間の選択された割合(例えば、その5、10、または20パーセント)との合計として定義される(すなわち、時間は、第1ピークの時間を過ぎた/後の時点として定義される)。例えば、前記強度の第1ピーク値が60分の時間値で観察される場合、前記時点は、時間調整の選択された割合の値(それぞれ5%、10%、20%である)に対して、63分、66分、または72分の時間値になるように選択することができる。有利なことに、第1ピーク値での強度と、前記強度の第1ピーク値の時間をわずかに過ぎた時点における時間との積をとることにより、得られた分析は、対象の血流から造影剤が除去されたことを説明することができる。前記第1ピークが(時間的に)遅く発生するほど、身体からの造影剤の排出が多くなるので、前記第1ピークが遅く発生する場合、このような補正は、より重要かつ有利になる。有利なことに、強度の第1ピーク値と、ピークをわずかに過ぎた時点における時間との積をとることで、これが補正される。
【0034】
任意選択で、前記強度の第1ピーク値と前記ピーク値における時間との積を算出するために、以下の方程式を使用してもよい。
【0035】
【0036】
式中、GP3は腸透過性の量記号を表し、I(tpeak)は前記強度データにおける最初のピークの時間(tpeak)における時間の関数としての前記強度の正規化されたデータの値を表し、tpeakは、蛍光データにおける第1ピークの時間を表す。あるいは、前記強度の第1ピーク値と、前記第1ピーク値の時間を過ぎた時点における時間との積を算出するために、GP3についての上記の式を以下のように変更してもよい。
【0037】
【0038】
式中、tpeak+は、蛍光データにおける最初のピーク後の選択された時点(例えば、前記最初のピークの時間から5、10、または20パーセント過ぎた時点)を表す。
【0039】
前記強度の第1ピーク値が生じる時間、または、前記強度の第1ピーク値を前記ピーク値が生じる時間で割った値を使用することにより、対象の腸透過性を測定することができ、前記ピーク値が発生する時間の値が小さいほど、透過性はより高くなる。
【0040】
任意選択で、前記強度の第1ピーク値が発生する時間を算出するために、以下の方程式を使用してもよい。
【0041】
【0042】
式中、GP4は腸透過性の量記号を表し、tpeakは蛍光データにおける最初のピークの時間を表す。
【0043】
任意選択で、前記強度の第1ピーク値を前記ピーク値が発生する時間で割った値を算出するために、以下の方程式を使用してもよい。
【0044】
【0045】
式中、GP5は腸透過性の量記号を表し、I(tpeak)は前記強度データにおける最初のピークの時間(tpeak)における時間の関数としての前記強度の正規化されたデータの値を表し、tpeakは、蛍光データにおける最初のピークの時間を表す。
【0046】
有利なことに、GP2及びGP3は、胃排出率を説明するためのある程度の補正を提供することができ、したがって、透過性についての、より定量的な評価を提供することができる。
【0047】
任意選択で、前記位置における溶液の蛍光強度を定期的に検出することにより、時間の関数としての前記強度の蛍光データを取得するべく、経皮検知装置を使用するステップは、溶液の蛍光強度を測定し、前記身体部分の皮膚上の前記位置を照射するために使用される前記光放射の後方散乱強度を測定するべく、前記経皮検知装置を使用するステップを含む。
【0048】
任意選択で、前記位置における溶液の蛍光強度を定期的に検出することにより、時間の関数としての前記強度の蛍光データを取得するべく、経皮検知装置を使用してステップは、前記蛍光を検出すると同時に後方散乱光を測定するステップを含む。
【0049】
任意選択で、前記後方散乱光の測定は、溶液の蛍光強度が定期的に検出される位置と同一の位置、すなわち前記身体部分の皮膚上の前記位置で行われる。
【0050】
任意選択で、前記後方散乱光の測定は、溶液の蛍光強度が定期的に検出される位置とは異なる位置、例えば、前記身体部分の皮膚上の前記位置に近接しているが前記位置から離れている、別の位置で行われる。
【0051】
任意選択で、前記異なる位置は、対象の皮膚上の位置である。任意選択で、これは、蛍光測定とレーザ(励起)測定との切り替えを提供するべく近位端にフィルタホイールを備えた光ファイバプローブによって提供されるが、これにより、測定位置は同一であるが測定時間が異なるという利点がもたらされる。任意選択で、これは、代替的に、1つの励起源(例えば、LED)と、2つの非常に近接して配置された検出器(1つは蛍光信号を検出するため、もう1つは励起信号を検出するため)とを備えたウェアラブルセンサによって提供されるが、これにより、測定位置が略同一のであり、測定時間が同一であるという利点がもたらされる。
【0052】
有利なことに、これにより、データを正しく正規化し、患者間及び/または同一の患者における繰り返し測定間等の変動を考慮することができる。
【0053】
有利なことに、光源自体ではなく皮膚上の位置における後方散乱励起信号の強度を記録して励起出力に関し正規化を行うことにより、皮膚のトーン、皮膚の厚さ、光源の移動等による変動を補正することができる。
【0054】
任意選択で、溶液は、水またはジュースを含む。
【0055】
有利なことに、蛍光造影剤を水またはジュース中の溶液として対象に送達することにより、飲物の他の成分が腸透過性に影響を与えないようにすることができる。溶液の味が苦すぎると感じる若い患者においては、溶液をオレンジジュースに溶かすことができる。
【0056】
任意選択で、造影剤は、色素、例えば、フルオレセイン、メチレンブルー、フルオレセインイソチオシアネート共役デキストラン、それらの塩、またはそれらの組み合わせを含む。
【0057】
有利なことに、フルオレセインは、胃から排出された後に小腸に急速に取り込まれる、臨床的に承認された色素である。したがって、フルオレセインの血流への取り込み速度(及び、上記の他の透過性の量記号)を利用することにより、腸透過性を評価することができる。
【0058】
有利なことに、メチレンブルーは、胃から排出された後に小腸に急速に取り込まれる、臨床的に承認された色素である。したがって、メチレンブルーの血流への取り込み速度(及び、上記の他の透過性の量記号)を利用することにより、腸透過性を評価することができる。
【0059】
任意選択で、溶液は、約100-500mgの用量の造影剤を含む。
【0060】
有利なことに、造影剤のこのような用量は、臨床的に許容されるレベル内に留まりながら、蛍光データの信号対雑音比が良好であることを保証することができる。
【0061】
任意選択で、溶液は、蛍光造影剤として、少なくとも25mgの用量のフルオレセインを含む。
【0062】
任意選択で、溶液は、約100mgの用量の造影剤を含む。
【0063】
任意選択で、溶液は、蛍光造影剤として、100mgの用量のフルオレセインまたはメチレンブルーを含む。
【0064】
任意選択で、溶液は、約100mlの水またはジュース中に、蛍光造影剤として、約100-500mgの用量のフルオレセインを含む。
【0065】
任意選択で、溶液は、25-500mgの間の用量の造影剤を含む。
【0066】
任意選択で、溶液は、造影剤として、最大500mgの用量のフルオレセインを含む。
【0067】
任意選択で、溶液は、造影剤として、最大100mgの用量のメチレンブルーを含む。
【0068】
溶液中の蛍光造影剤の用量は、用量の最小化と信号対雑音比の最大化との間の最適なバランスを見出すように選択される。
【0069】
任意選択で、経皮検知装置は取得時間を有し、光源は励起出力を有し、蛍光データは前記取得時間及び前記励起出力に基づいて正規化される。
【0070】
有利なことに、それぞれの場合に使用される取得時間及び励起出力によって各時点についての蛍光強度値を正規化することにより、すべての時点を互いに比較することができる。有利なことに、これにより、異なる日または時間からの、あるいは異なる対象における測定値を定量的に比較することができる。さらに、これにより、造影剤が使用されているかどうかに関する二値評価を単に提供するのではなく、蛍光値を使用して、腸透過性の変動(例えば、異なる患者間でのばらつき、または1人の患者の経時的な変化)の意味のある定量化を提供することができる。
【0071】
任意選択で、経皮検知装置は、100ミリ秒から15秒の間の取得時間を有する。
【0072】
任意選択で、経皮検知装置は、少なくとも100ミリ秒の取得時間を有する。
【0073】
任意選択で、経皮検知装置は、各測定についての取得時間が、前記経皮検知装置自体によって自動化された方法で決定できるように構成される。すなわち、任意選択で、経皮検知装置は、蛍光及び/または後方散乱励起信号の現在のレベルに基づいて、各時点についての最適な取得時間を決定するように構成される。任意選択で、時間の関数としての前記強度の蛍光データは、蛍光データと後方散乱励起データとの両方を収集するために、使用される取得時間によって正規化されてもよい。
【0074】
有利なことに、これにより、蛍光レベルが低い場合(例えば、測定/検出プロセスの開始時または終了時)であっても、すべての時点で良好な信号レベルが取得されることが保証される。これにより、蛍光信号が最大であるときに検出器の飽和に関連する問題がないことも保証される。有利なことに、これにより、肌の色が濃い対象において高用量の蛍光造影剤を必要とすることなく、肌のトーンが異なる患者間で測定を確実に行うことができる。臨床的に受け入れられない可能性のある、より高い用量またはより高い励起出力を必要とする代わりに、経皮検知装置は、より長い積分時間でデータを自動的に取得することにより、適切な信号レベルを取得することができる。
【0075】
任意選択で、経皮検知装置は、蛍光分光法を使用して前記蛍光の強度を検出するように構成される。
【0076】
任意選択で、経皮検知装置は、蛍光データを正規化するステップで使用されるバックグラウンド信号を取得するために、溶液が対象に投与される前に溶液の蛍光強度の定期的な検出が開始されるように、溶液が対象に投与される前に定期的な測定を開始する。
【0077】
任意選択で、バックグラウンド信号は、各時点についての(すなわち、検出された/得られた各定期的な測定値についての)時間の関数として、前記強度の蛍光データから差し引かれる。
【0078】
任意選択で、蛍光データは、前記光放射の後方散乱強度に基づいて正規化される。
【0079】
有利なことに、蛍光データのこのような正規化は、単一の蛍光造影剤のみを使用することにより、様々な測定値にわたって、かつ様々な対象にわたって、前記蛍光データが比較可能になる。
【0080】
任意選択で、光源は、発光ダイオードまたはレーザを含む。
【0081】
任意選択で、光源は、対象の前記身体部分の上及び/または周囲に装着されるように構成される。
【0082】
任意選択で、経皮検知装置は、1以上のフォトダイオード、フォトトランジスタ、及び/または光ファイバプローブを含み、対象の前記身体部分の上及び/または周囲に装着されるように構成される。
【0083】
任意選択で、経皮検知装置を使用して前記蛍光強度を定期的に検出するステップでは、測定値は、前記経皮検知装置によって少なくとも5分間に1回記録される。
【0084】
任意選択で、経皮検知装置を使用して前記蛍光強度を定期的に検出するステップでは、測定値は、前記経皮検知装置によって少なくとも2分間に1回記録される。
【0085】
任意選択で、経皮検知装置を使用して前記蛍光強度を定期的に検出するステップでは、測定値は、前記経皮検知装置によって少なくとも1分間に1回記録される。
【0086】
有利なことに、前記測定の頻度は、収集されたデータが十分な時間分解能を有することを確実にするように選択される。少なくとも5分間に1回測定値を記録することで、これを確実にすることができる。これは、対象の血流中の蛍光造影剤のピーク濃度を表す前記強度の第1ピーク値を正確に特定するのに役立つ。
【0087】
さらに、十分に高い頻度で、例えば5分毎、2分毎、または1分毎に1回測定を行うと、取得されたデータは、頻度のより低い定期的な測定と比較して、漏出が発生している腸内の位置を具体的に示すことができる。
【0088】
任意選択で、前記身体部分は、指、手首、腕、または耳たぶである。
【0089】
有利なことに、指、手首、腕、または耳たぶの皮膚上の位置で前記経皮検知装置を使用して測定を行うと、取得時間が短い場合でも、蛍光造影剤の明確な蛍光が観察される。
【0090】
任意選択で、前記身体部分は指先である。
【0091】
有利なことに、指先の位置において前記経皮検知装置を使用して測定を行うことにより、取得時間が短い場合でも、蛍光造影剤の明らかな蛍光を観察することができ、指先の皮膚の表面に血管が近接していることに起因して、蛍光データの強度をより高めることができる。指先で測定することにより、血管からの色素の漏出の影響も最小限に抑えることができる。
【0092】
本開示の第2の態様によれば、対象の胃排出率を測定するための方法が提供され、当該方法は、健康な腸によって吸収される蛍光造影剤を含む試験食を対象に経口投与するステップと、放射により、前記対象の胃から漏出し前記対象の前記血流に入った前記試験食中の前記蛍光造影剤の少なくとも一部が蛍光を発するように、光放射を用いて前記対象の身体部分の皮膚上の位置を照射するために光源を使用するステップと、時間の関数としての前記強度についてのデータを取得するべく、前記位置における試験食中の蛍光造影剤の蛍光強度を定期的に検出するために経皮検知装置を使用するステップと、時間の関数としての前記強度の正規化されたデータを取得するために、蛍光データを正規化するステップと、強度のピーク値で割った時間の関数としての強度に基づいて、時間の関数として対象の胃に残っている試験食の割合を算出するために、前記正規化されたデータを分析するステップと、を含む。
【0093】
有利なことに、このような方法は、対象の胃排出率を評価するための、侵襲性が低く、信頼性が高く、かつ定量化可能な方法を提供することができる。
【0094】
特に、健康な腸によって吸収される蛍光造影剤を使用することによって、有利なことに、すべての参加者(すなわち、腸透過性が正常である対象、または腸透過性が亢進した対象)において測定値を取得することができる。これにより、胃排出率のわずかな変化でも検出することができ、胃腸の健康状態にかかわらず、すべての参加者において胃排出率を測定することができる。また、様々な分子特性を有する複数の異なる蛍光造影剤を使用する必要なく、単一の蛍光造影剤のみをすべての対象に使用できるようにすることもできる。そのため、健康な腸によってれる蛍光造影剤を使用すると、腸が健康であるか不健康であるかにかかわらず、すべての個人においてを行うことができる。有利なことに、これは、健康な腸によって吸収され得ない蛍光造影剤が代わりに使用された場合のように、蛍光造影剤が最初に吸収される上記の任意の閾値を超えた病状だけでなく、すべての病状を評価できることを意味している。したがって、このような方法は、ひどく損傷した腸よりもむしろ僅かに損傷した腸を評価するために有利に使用され、腸が損傷しているかどうかという単なる二値表示ではなく、腸がどの程度損傷しているかという定量的表示を提供することができる。特に、損傷した腸によってのみ吸収される蛍光造影剤を使用するのではなく、健康な腸によって吸収される蛍光造影剤を使用することによって、このような方法は、有利なことに、対象が他の腸の健康問題を抱えているかにかかわらず、胃排出率を測定できることを可能にする。
【0095】
さらに、蛍光データを正規化するステップと、時間の関数としての対象の胃に残っている試験食の割合を算出するために前記正規化されたデータを分析するステップとは、単一の蛍光造影剤のみを使用することによって(すなわち、異なる分子量を有する2つの異なる蛍光造影剤などの2以上の異なる蛍光造影剤を含む試験食を必要とすることなく、及び、腸の健康状態が異なる対象において異なる造影剤を使用する必要なく)、胃排出率の定量的評価を得ることができるという利点を提供することができる。したがって、単一の蛍光造影剤を使用することにより、胃排出率の連続的な測定値を得ることができる。
【0096】
したがって、全体として、このような方法は、正規化された蛍光強度データに基づいて胃排出率の定量化を提供することができ、また、尿、血液、または他のサンプルを収集する必要なく、胃腸(GI)機能の他の側面の指標を提供することもできる。これにより、健康な腸のバリアさえも通過する色素の漏出の定量化が可能になり、このことは、非常に透過性のある/損傷した腸を持つ患者だけでなく、幅広い患者(すなわち、対象)において意味のある臨床データを提供できる可能性があることを意味する。ささらに、このような方法における定量化/算出は、胃排出率に関して連続的に変化する測定値を提供することができる。これにより、治療やその他の介入(栄養介入など)に対する患者のモニタリングが可能になり、異なる個人において測定された値の比較(すなわち、スクリーニング/診断アプリケーションのための)も可能になる。これは、蛍光データの正規化と、定期的なデータの収集とによって可能になる。
【0097】
さらに、このような方法は、胃排出率の非侵襲的検知の可能性を示し、現場配置での使用に適した、小型化された低コストのウェアラブルセンサの開発を提供することができる。
【0098】
任意選択で、前記強度のピーク値は、蛍光データの第1ピークまたは第2ピークでの強度の値であるか、あるいは、蛍光データの強度の最大値である。これは、使用される特定の算出方法に基づいて選択される。
【0099】
任意選択で、前記強度のピーク値は、蛍光データの第1ピークにおける強度の値である。
【0100】
任意選択で、試験食は、健康な腸によって吸収される単一の蛍光造影剤のみを含む。すなわち、試験食は、健康な腸によって吸収される前記蛍光造影剤を含み、他の蛍光造影剤を含まなくてもよい。
【0101】
任意選択で、前記位置における試験食の蛍光の強度を定期的に検出することにより、時間の関数としての前記強度の蛍光データを取得するべく、経皮検知装置を使用するステップは、試験食の蛍光の強度を測定し、前記光放射の後方散乱強度の強度を測定するべく、前記経皮検知装置を使用するステップを含む。
【0102】
任意選択で、前記位置における試験食の蛍光の強度を定期的に検出することにより、時間の関数としての前記強度の蛍光データを取得するべく、経皮検知装置を使用するステップは、試験食の蛍光の強度を測定し、前記身体部分の皮膚上の前記位置を照射するために使用される前記光放射の後方散乱強度を測定するべく、前記経皮検知装置を使用するステップを含む。
【0103】
任意選択で、前記位置における試験食の蛍光強度を定期的に検出することにより、時間の関数としての前記強度の蛍光データを取得するべく、経皮検知装置を使用するステップは、前記蛍光を検出すると同時に後方散乱光を測定するステップを含む。
【0104】
任意選択で、前記後方散乱光の測定は、試験食の蛍光の強度が定期的に検出される位置と同一の位置、すなわち前記身体部分の皮膚上の前記位置で行われる。
【0105】
任意選択で、前記後方散乱光の測定は、試験食の蛍光の強度が定期的に検出される位置とは異なる位置、例えば、前記身体部分の皮膚上の前記位置に近接しているが前記位置から離れている、別の位置で行われる。
【0106】
任意選択で、前記異なる位置は、対象の皮膚上の位置である。
【0107】
有利なことに、光源自体ではなく皮膚上の位置における後方散乱励起信号の強度を記録して励起出力に関し正規化を行うことにより、皮膚のトーン、皮膚の厚さ、光源の移動等による変動を補正することができる。
【0108】
任意選択で、蛍光造影剤は試験食内に分散される。
【0109】
任意選択で、試験食は溶液を含む。
【0110】
任意選択で、試験食は液体試験食または固体試験食を含む。
【0111】
任意選択で、試験食はトーストにのせたミルクセーキまたはスクランブルエッグを含む。
【0112】
任意選択で、造影剤は、色素、例えば、フルオレセイン、メチレンブルー、フルオレセインイソチオシアネート共役デキストラン、それらの塩、またはそれらの組み合わせを含む。
【0113】
有利なことに、フルオレセインは、胃から排出された後に小腸で急速に取り込まれる、臨床的に承認された色素である。したがって、フルオレセインの血流への取り込み速度を利用することにより、胃排出率を評価することができる。
【0114】
有利なことに、メチレンブルーは、胃から排出された後に小腸に急速に取り込まれる、臨床的に承認された色素である。したがって、メチレンブルーの血流への取り込み速度を利用することにより、胃排出率を評価することができる。
【0115】
任意選択で、試験食は、約100-500mgの用量の造影剤を含む。
【0116】
有利なことに、造影剤のこのような用量は、臨床的に許容されるレベル内に留まりながら、蛍光データの信号対雑音比が良好であることを保証することができる。
【0117】
任意選択で、試験食は、蛍光造影剤として、少なくとも25mgの用量のフルオレセインを含む。
【0118】
任意選択で、試験食は、約100mgの用量の造影剤を含む。
【0119】
任意選択で、試験食は、蛍光造影剤として、100mgの用量のフルオレセインまたはメチレンブルーを含む。
【0120】
任意選択で、試験食は、約100mlの水またはジュース中に、蛍光造影剤として、約100-500mgの用量のフルオレセインを含む。
【0121】
任意選択で、試験食は、25-500mgの用量の造影剤を含む。
【0122】
任意選択で、試験食は、造影剤として、最大500mgの用量のフルオレセインを含む。
【0123】
任意選択で、試験食は、造影剤として、最大100mgの用量のメチレンブルーを含む。
【0124】
試験食中の蛍光造影剤の用量は、用量の最小化と信号対雑音比の最大化との間の最適なバランスを見出すように選択される。
【0125】
任意選択で、経皮検知装置は取得時間を有し、光源は励起出力を有し、蛍光データは前記取得時間及び前記励起出力に基づいて正規化される。
【0126】
有利なことに、それぞれの場合に使用される取得時間及び励起出力によって各時点についての蛍光強度値を正規化することにより、すべての時点を互いに比較することができる。有利なことに、これにより、胃排出率の定量的測定と、異なる日または時間に、あるいは異なる対象において行われた測定の定量的比較が可能になる。さらに、これにより、造影剤が胃の中に残っているかどうかに関する二値評価を単に提供するのではなく、蛍光値を使用して、胃排出率の変動(例えば、異なる患者間でのばらつき、または1人の患者の経時的な変化)の意味のある定量化を提供することができる。
【0127】
任意選択で、経皮検知装置は、100ミリ秒から15秒の間の取得時間を有する。
【0128】
任意選択で、経皮検知装置は、少なくとも100ミリ秒の取得時間を有する。
【0129】
任意選択で、経皮検知装置は、各測定についての取得時間が、前記経皮検知装置自体によって自動化された方法で決定できるように構成される。すなわち、任意選択で、経皮検知装置は、蛍光及び/または後方散乱励起信号の現在のレベルに基づいて、各時点についての最適な取得時間を決定するように構成される。任意選択で、時間の関数としての前記強度の蛍光データは、蛍光データと後方散乱励起データとの両方を収集するために、使用される取得時間によって正規化されてもよい。
【0130】
有利なことに、これにより、蛍光レベルが低い場合(例えば、測定/検出プロセスの開始時または終了時)であっても、すべての時点で良好な信号レベルが取得されることが保証される。これにより、蛍光信号が最大であるときに検出器の飽和に関連する問題がないことも保証される。有利なことに、これにより、肌の色が濃い対象において高用量の蛍光造影剤を必要とすることなく、肌のトーンが異なる患者間で測定を確実に行うことができる。臨床的に受け入れられない可能性のある、より高い用量またはより高い励起出力を必要とする代わりに、経皮検知装置は、より長い積分時間でデータを自動的に取得することにより、適切な信号レベルを取得することができる。
【0131】
任意選択で、経皮検知装置は、蛍光分光法を使用して前記蛍光の強度を検出するように構成される。
【0132】
任意選択で、経皮検知装置は、蛍光データを正規化するステップにおいて使用されるバックグラウンド信号を取得するために、試験食が対象に投与される前に試験食中の蛍光造影剤の蛍光強度の定期的な検出が開始されるように、試験食が対象に投与される前に定期的な測定を開始する
【0133】
任意選択で、バックグラウンド信号は、各時点についての(すなわち、検出された/得られた各定期的な測定値についての)時間の関数として、前記強度の蛍光データから差し引かれる。
【0134】
任意選択で、蛍光データは、蛍光を励起するために使用される前記光放射の後方散乱強度に基づいて正規化される。
【0135】
有利なことに、蛍光データのこのような正規化は、単一の蛍光造影剤のみを使用することにより、様々な測定値にわたって、かつ様々な対象にわたって、前記蛍光データが比較可能になる。
【0136】
任意選択で、光源は、発光ダイオードまたはレーザを含む。
【0137】
任意選択で、光源は、対象の前記身体部分の上及び/または周囲に装着されるように構成される。
【0138】
任意選択で、経皮検知装置は、1以上のフォトダイオード、フォトトランジスタ、及び/または光ファイバプローブを含み、対象の前記身体部分の上及び/または周囲に装着されるように構成される。
【0139】
任意選択で、経皮検知装置を使用して前記蛍光強度を定期的に検出するステップでは、測定値は、前記経皮検知装置によって少なくとも5分間に1回記録される。
【0140】
任意選択で、経皮検知装置を使用して前記蛍光強度を定期的に検出するステップでは、測定値は、前記経皮検知装置によって少なくとも2分間に1回記録される。
【0141】
任意選択で、経皮検知装置を使用して前記蛍光強度を定期的に検出するステップでは、測定値は、前記経皮検知装置によって少なくとも1分間に1回記録される。
【0142】
有利なことに、前記測定の頻度は、収集されたデータが十分な時間分解能を有することを確実にするように選択される。少なくとも5分間に1回測定値を記録することで、これを確実にすることができる。これは、対象の血流中の蛍光造影剤のピーク濃度を表す前記強度の第1ピーク値を正確に特定するのに役立つ。
【0143】
さらに、十分に高い頻度で、例えば5分毎または1分毎に1回測定を行うと、取得されたデータは、頻度のより低い定期的な測定と比較して、漏出が発生している腸内の位置を具体的に示すことができる。
【0144】
任意選択で、経皮検知装置を使用して前記蛍光強度を定期的に検出するステップでは、測定値は、前記経皮検知装置によって少なくとも30分間にわたって記録される。
【0145】
任意選択で、経皮検知装置を使用して前記蛍光強度を定期的に検出するステップでは、測定値は、前記経皮検知装置によって少なくとも60分間にわたって記録される。
【0146】
任意選択で、経皮検知装置を使用して前記蛍光強度を定期的に検出するステップでは、測定値は、前記経皮検知装置によって少なくとも4時間にわたって記録される。
【0147】
任意選択で、前記身体部分は、指、手首、腕、または耳たぶである。
【0148】
有利なことに、指、手首、腕、または耳たぶの皮膚上の位置で前記経皮検知装置を使用して測定を行うと、取得時間が短い場合でも、蛍光造影剤の明確な蛍光が観察される。
【0149】
任意選択で、前記身体部分は指先である。
【0150】
有利なことに、指先の位置において前記経皮検知装置を使用して測定を行うことにより、取得時間が短い場合でも、蛍光造影剤の明らかな蛍光を観察することができ、指先の皮膚の表面に血管が近接していることに起因して、蛍光データの強度をより高めることができる。指先で測定することにより、血管からの色素の漏出の影響も最小限に抑えることができる。
【0151】
任意選択で、前記正規化されたデータを分析するステップは、最小二乗法などの数値フィッティング手順を使用して、以下の関数を正規化されたデータにフィッティングするステップを含む。
【0152】
【0153】
式中、
tは時間を表し、
I(t)は、時間の関数としての前記蛍光強度の正規化されたデータを表し、
Bmaxは、時間の関数としての対象の血流中の蛍光造影剤からの強度寄与の最大値を表し、
Lmaxは、時間の関数としての対象の皮膚の上皮に漏出した蛍光造影剤からの強度寄与の最大値を表し、
tB1/2は、時間の関数としての対象の血流中の蛍光造影剤からの強度寄与がその最大値の半分に達する時点を表し、
tL1/2は、時間の関数としての対象の皮膚の上皮に漏出した蛍光造影剤からの強度寄与がその最大値の半分に達する時点を表し、
Cは、色素が対象の体から排出される速度を表し、
kBは定数であり、時間の関数としての対象の血流中の蛍光造影剤からの強度寄与のロジスティック成長率を表し、
kLは定数であり、時間の関数としての対象の皮膚の上皮に漏出した蛍光造影剤からの強度寄与のロジスティック成長率を表す。
【0154】
任意選択で、前記正規化されたデータを分析するステップは、対象の胃から空になった色素の量を時間の関数S(t)として算出するステップをさらに含み、
式中、S(t)=B(t)+B(t)Ctであり、
式中、B(t)は、時間の関数としての対象の血流中の蛍光造影剤からの強度寄与を表す。
【0155】
任意選択で、前記正規化されたデータを分析するステップは、対象の胃に残っている試験食の割合を時間の関数Rpcとして以下のように算出するステップをさらに含む。
【0156】
【0157】
式中、S(tpeak)は、時間の関数としての前記強度の正規化されたデータにおいて最終ピークが観察される時点におけるS(t)の値を表す。
【0158】
任意選択で、前記正規化されたデータを分析するステップは、代替的に、対象の胃に残っている試験食の割合を時間の関数Rpcとして以下のように算出するステップを含む。
【0159】
【0160】
式中、B(t)は、時間の関数としての対象の血流中の蛍光造影剤からの強度寄与を表す。
【0161】
任意選択で、前記正規化されたデータを分析するステップは、対象の胃に残っている試験食の割合を時間の関数Rpcとして以下のように算出するステップを含み、
【0162】
【0163】
式中、I(t)は、時間の関数としての前記強度の正規化されたデータを表し、tpeak1は、時間の関数としての前記強度において第1ピークが観察される時間を表す。
【0164】
任意選択で、本開示の第1の態様または本開示の第2の態様による上記の方法のいずれも、蛍光データを最初に正規化することなく、前記蛍光強度データに対して実行される。換言すれば、任意選択で、本開示の第1の態様による対象の腸透過性を測定する方法において、時間の関数としての前記強度の正規化されたデータを取得するために蛍光データを正規化するステップは、省略されてもよい。同様に、任意選択で、本開示の第2の態様による胃排出率を測定する方法において、時間の関数としての前記強度の正規化されたデータを取得するために蛍光データを正規化するステップは、省略されてもよい。いずれの場合も、時間の関数としての前記強度のデータは、前記分析が実行される前に正規化されることなく、上記のように分析され得る。
【図面の簡単な説明】
【0165】
本開示は様々な方法で実施され、本開示の実施形態は、添付の図面を参照して以下に実施例として説明される。
【0166】
【
図1】対象の腸透過性を測定する方法を説明するフローチャート。
【
図2】フルオレセインナトリウムの化学構造及び分子量(MW)を示す図。
【
図3】対象の腸透過性を測定する方法を用いて得られた、異なる用量のフルオレセインを含む溶液の蛍光強度対波長のプロットである例示的なデータを示す図。
【
図4A】対象の指先に装着されたウェアラブルプローブを示す図。
【
図4B】対象の前腕に装着されたウェアラブルプローブを示す図。
【
図5A】
図4Aのウェアラブルプローブを指先と接触させて位置決めするための台座を示す図。
【
図5B】
図4Bのウェアラブルプローブを前腕に接触させて位置決めするための台座を示す図。
【
図6】フルオレセインを注射された試験対象の指、腕、及び手首で行われた試験測定についての、波長に対してプロットされた蛍光強度データの例示的なプロットを示す図。
【
図7】フルオレセインの経口摂取後に対象の腕、手首、及び指上の位置で測定されたフルオレセインの分布の共焦点内視鏡画像を示す図。
【
図8】ポータブルなデュアルチャネルの光ファイバ蛍光分光計光学システムを示す図。
【
図9】車輪付きの台車に載置された
図8の光学システムを示す図。
【
図10】正規化された蛍光強度を時間の関数としてプロットしたプロットを示す図。
【
図11】異なる日に同一の対象において記録された、時間の関数としての正規化された蛍光強度の2つのプロットを示す図。
【
図12】対象の胃排出率を測定する方法を示すフローチャート。
【
図13】
図10のプロットに、正規化された蛍光強度データにあてはめられた例示的なフィッティングカーブを追加した図。
【
図14A】時間の関数としての正規化された蛍光強度の例示的なプロットを例示的なフィッティングカーブとともに示す図であり、サブプロットは蛍光データとフィッティングカーブとの間の差の残差を示している。
【
図14B】時間の関数としての正規化された蛍光強度の例示的なプロットを例示的なフィッティングカーブとともに示す図であり、サブプロットは蛍光データとフィッティングカーブとの間の差の残差を示している。
【
図14C】時間の関数としての正規化された蛍光強度の例示的なプロットを例示的なフィッティングカーブとともに示す図であり、サブプロットは蛍光データとフィッティングカーブとの間の差の残差を示している。
【
図14D】時間の関数としての正規化された蛍光強度の例示的なプロットを例示的なフィッティングカーブとともに示す図であり、サブプロットは蛍光データとフィッティングカーブとの間の差の残差を示している。
【
図15A】フルオレセイン及びパラセタモールに基づく測定方法を用いてそれぞれ得られたデータについての、時間の関数としての正規化された蛍光強度及びパラセタモール濃度のプロットを示す図。
【
図15B】
図15Aに示したデータに基づいて、保持率を時間の関数としてプロットした図。
【発明を実施するための形態】
【0167】
図1を参照して、対象の腸透過性を測定する方法のステップと、前記方法を実行するための例示的な手順とを、以下で説明する。
【0168】
第1のステップ1では、健康な腸によって吸収される蛍光造影剤を含む溶液が、対象13(すなわち、患者)に経口投与される。すなわち、蛍光造影剤は、対象が飲む溶液(例えば、水またはジュース)として送達される。例示的な適切な造影剤であるフルオレセインナトリウム(これは、健康な腸によって吸収される色素である)の化学構造及び分子量を
図2に示す。しかし、例えばフルオレセイン、メチレンブルー、フルオレセインイソチオシアネート共役デキストラン、それらの塩、またはそれらの組み合わせなどの、任意の他の適切な蛍光造影剤を使用できることも想定される。
【0169】
以下に説明する例では、蛍光造影剤はフルオレセインであり、100mlの水に溶解した溶液として、100~500mgの用量で送達される。しかし、溶液は水の代わりに他の液体、例えばオレンジジュース、または他のジュースを含んでいてもよく、他の用量の任意の他の適切な蛍光造影剤及び他の量の溶液が使用されることも想定される。例えば、オレンジジュース100ml中の用量100mgのメチレンブルーが使用されてもよい。
【0170】
図3は、
図1に示す方法を使用して得られた例示的なデータを示し(その後のステップは以下に概説されている)、蛍光造影剤として5mgのフルオレセインを含む溶液(摂取後29分に記録されたスペクトル)及び蛍光造影剤として25mgのフルオレセインを含む溶液(摂取後37分に記録されたスペクトル)についての、蛍光強度(y軸)対波長(x軸)のプロットを示している。プロットは、バックグラウンドスペクトルと比較して、5mgのフルオレセインからの蛍光はほとんど検出できなかったのに対し、25mgのフルオレセインからの蛍光はバックグラウンドスペクトルよりもはっきりと観察できたことを示している。これらの結果は、本明細書に記載の例示的なハードウェアを使用したフルオレセインの検出限界が25mg未満であることを示している。好ましくは、用量の最小化と信号対雑音比の最大化との間の最適なバランスを見つけるために、500mgの用量のフルオレセインが使用され得る。
【0171】
図1を再び参照すると、第2のステップ2では、光放射により、対象の腸から漏出し対象の血流中にもたらされた溶液の少なくとも一部が蛍光を発するように、光放射を用いて対象の身体部分の皮膚上の位置を照射するために光源を使用している。
【0172】
図1をさらに参照すると、第3のステップ3では、時間の関数としての強度の蛍光データを取得するべく、前記位置における溶液の蛍光強度を定期的に検出するために経皮検知装置を使用している。図示の例では、前記蛍光データはスペクトルデータである。しかしながら、前記蛍光データは他の形式であってもよい(すなわち、前記蛍光データは必ずしも各時点について(すなわち、取得された定期的な各測定について)のスペクトルである必要はない)ことも想定される。例えば、前記蛍光データは、各時点について(すなわち、取得された定期的な各測定について)の単一の強度測定値を代わりに含むことができる。
【0173】
光源及び経皮検知装置は、ウェアラブルプローブ6の一部である。
図4A及び
図4Bにそれぞれ示されるように、ウェアラブルプローブ6は、対象13の指先14または前腕15に装着される。ウェアラブルプローブ6は、指、手首、腕、または耳たぶなどの他の身体部分に、またはその周囲に装着されることも想定される。対象13の皮膚の厚さが信号に影響を与える可能性があり、時間に対する蛍光信号の挙動が身体の位置に依存する可能性があるので、身体部分は、経皮検知装置によって取得される信号を最適化するように選択されるべきである。これは、血管から皮膚の上皮への蛍光造影剤の起因する可能性がある。血流中の蛍光造影剤の濃度に関心があるので、上皮への漏出という影響を最小限に抑えられる身体の位置を選択する必要がある。指先及び耳たぶでは、血管が皮膚の表面の近くにあるので、検出された蛍光信号は、上皮に漏出した残留色素の影響をほとんど受けない。ウェアラブルプローブ6が指先または耳たぶ以外の身体部分に装着されている場合(あるいは、プローブを指先または耳たぶに装着しているにもかかわらず、何らかの漏出の影響が観察される場合)、上皮漏出を考慮したデータ解析の補正が必要とされる。
【0174】
身体部分が他の部位よりも適切な測定位置であることを説明するために、
図6は、フルオレセインを注射された試験対象の指、腕、及び手首で行われた試験測定についての、波長に対してプロットされた蛍光強度データの例示的なプロットを示している。バックグラウンドの蛍光もプロットされている。
図6は、腕や手首における蛍光強度よりも指における蛍光強度の方が大きいことを示しているが、これは、おそらく指の皮膚の表面に血管が近接していることに起因し、したがって、より強く、より容易に観察可能な信号は腕や手首よりも指において取得される。
【0175】
指が腕や手首よりも好ましい位置であることを示すさらなるデータが
図7に示されている。
図7は、フルオレセインの経口摂取後の試験対象の腕、手首、及び指の位置において測定されたフルオレセインの分布の例示的な共焦点蛍光内視鏡画像を示している。ラベルは、様々な共焦点蛍光内視鏡画像についての経口摂取後の分単位の時点を示している。すべての画像は、直径240μmの視野を示している。
図7に示すように、バックグラウンド信号と比較して、腕及び手首において画像を記録したときには拡散蛍光信号(diffuse fluorescence signal)のみが検出され、識別可能な構造は観察されなかった。しかしながら、指では、細胞構造及び/または血管から発せられるように見える蛍光を伴う明確な構造が観察された。これは、指がプローブ6を配置するための最適な位置であることを示している。
【0176】
ウェアラブルプローブは、マウント7、8によって身体部分と接触して配置されるように構成される。例示的なマウント7、8は、それぞれ
図5A及び5Bに示され、例えばアディティブ・マニュファクチュアリングによって製造される。例示的なマウント7、8はそれぞれ、ウェアラブルプローブ6の端部を受容するための円筒形部分9と、関連する身体部分に近接して配置される実質的に平坦な部分10と、円筒形部分9の内側にウェアラブルプローブ6を固定するための調整手段11とを備える。マウント7、8の形状及び/または寸法は、ウェアラブルプローブ6のサイズ及び形状に応じて、かつ、ウェアラブルプローブ6を装着する身体部分に応じて選択される。
図4A及び4Bに示すように、テープ、ストラップ、及び/または面ファスナなどの固定手段12を使用することにより、マウント7、8及びウェアラブルプローブ6を対象13の関連する身体部分(指先14、前腕15)に固定することができる。代わりに、プローブ6を対象13の皮膚に接触させて手動で保持することにより、経皮的蛍光測定を行うことも想定される。
【0177】
例えばレーザまたはLEDであり得る光源は、本明細書に記載される一例では、450-490nmの範囲の中心波長を有するレーザであるように選択される。経皮検知装置は、後方散乱励起信号(すなわち、光源の励起出力)と、対象13の血流の溶液中の蛍光造影剤からの蛍光信号との両方を検出するように構成され、これは、例えば適切な光学フィルタを備えた2つの検出器(小型のLED/フォトダイオードベースのセンサに、より適している)を使用することによって、あるいは、単一の検出器及び回転フィルタホイール(本明細書の例で説明されているように、レーザまたは光ファイバベースのセンサによる使用に、より適している)を使用することによって、達成することができる。
【0178】
経皮検知装置は、対象13の同一の位置において励起信号及び蛍光信号を測定できるように設計されている(例えば、複数の検出器を互いに対して近接して配置するか、あるいは同一の検出器を回転フィルタホイールと組み合わせて使用することによって)。すなわち、経皮検知装置は、対象13の同一の位置、あるいは代替的に対象13の異なるそれぞれの位置において、励起信号及び蛍光信号の測定を可能にするように構成され得ることが想定されるが、異なるそれぞれの位置は互いに近接している。
【0179】
蛍光信号と同一の(あるいは、非常によく似た/近い)位置で励起出力を測定することにより、蛍光データを正規化して、励起強度の変動、ウェアラブルプローブの動き、皮膚のトーン、皮膚吸収特性、及び/または、皮膚散乱特性などを含む要因を補正することができる。これにより、(励起出力について補正された)検出された蛍光信号を、時間の関数として定量的に分析することができる。この方法では単一の(すなわち、1つだけの)蛍光造影剤(本明細書に記載の実施例ではフルオレセイン)が使用され、2以上の色素について検出された強度の比率を算出することはできないので、これは特に重要である(これは、強度の変動や上記で強調したその他の問題に対して本質的に正しい)。したがって、蛍光信号を適切に正規化し、時間の関数としてのデータを記録することにより、蛍光強度、及び、蛍光造影剤が対象13の血流に入るのにかかる時間の定量的評価を行うことができる(この2つは、腸透過性及び/または胃排出率を算出するときに注目される)。
【0180】
励起出力(すなわち、後方散乱励起信号)は、蛍光信号を取り除くことにより励起光のみを測定することができる適切な光学フィルタ(すなわち、励起光源の波長を中心とする500nmのショートパスフィルタまたは10-20nmのバンドパスフィルタ)に光を通すことによって、測定することができる。あるいは、励起出力は、フィルタリングされていない光を検出することによって簡単に測定することができる。励起出力は蛍光よりも桁外れに強いので、フィルタリングされていない信号の測定値は、励起光強度の適切な近似値として機能し得る。続いて、500nmのロングパスフィルタに光を通すことによって、蛍光信号を測定することができる。これにより励起信号がカットされ、フルオレセイン蛍光の高感度検出が可能になる。
【0181】
本方法の前記第2のステップ2及び第3のステップ3において使用するのに適した例示的な携帯型デュアルチャネルの光ファイバ蛍光分光光学システム22の概略図が
図8に示されている。
図8の挿入図は、分岐ファイバ型のウェアラブルプローブ6における光ファイバの遠位配置及び近位配置を示しており、励起ファイバ16は青色で示され、収集ファイバ17は黄色で示されている。
図8の「ND」は「中性濃度」を表している。例示的な分光計は、蛍光を励起するための2つのレーザ源18a、18b(それぞれ488nm及び785nm)、蛍光信号を確実に検出するための市販の分光計19、光励起/発光フィルタ20、自動化されたフィルタホイール(発光フィルタを含む)、及び、対象13の皮膚に光を伝達し、そこから光を収集するための分岐光ファイバ型のウェアラブルプローブ6を含む。
【0182】
この実施例では、488nm及び785nmのレーザ光源を選択して、実験目的で、それぞれフルオレセイン(またはフルオレセインイソチオシアネート)及びICG(インドシアニングリーン)から(及び、同等のスペクトル特性を有する他の色素から)蛍光を励起できるようにした。レーザ源(及び、光学フィルタ)は、必要に応じて他の波長を有するように代替的に選択されてもよいことが想定される。
【0183】
光学システム22は、レーザの安全性のために、陽極酸化処理された遮光アルミニウムボックス21の中に収容され、LabVIEWソフトウェアを実行するラップトップコンピュータによって制御される。
図9に示すように、光学システム22全体を車輪付き台車23に載置することにより、診療所内での使用を可能にすることができる。
【0184】
個々の測定ごとに、適切な信号レベルが取得されるまで積分を行うように経皮検知装置をプログラムすることができる。典型的な取得時間は、100ミリ秒-15秒の範囲である。この方法で経皮検知装置をプログラミングすると、蛍光レベルが低い場合(例えば、測定プロセスの開始時または終了時)でも、すべての時点において(すなわち、定期的な測定のすべてにおいて)良好な信号レベルを確実に取得することができる。また、蛍光信号が最大であるときに、検出器の飽和に関連する問題が生じないことを確実にすることができる。これにより、肌の色が暗い対象にも高用量を必要とすることなく、肌のトーンが異なる対象/患者間で確実に測定を行うことができる。より高い用量、あるいはより高い励起出力(臨床的に許容できないこともある)を必要とする代わりに、経皮検知装置は、より長い積分時間をかけてデータを自動的に取得することにより、適切な信号レベルを取得することができる。
【0185】
図1を再び参照すると、第4のステップ4において、蛍光データが正規化され、時間の関数としての前記強度の正規化されたデータが取得される。
【0186】
この例では、各時点(すなわち、各定期的な測定)の蛍光強度値は、それぞれの場合に使用される取得時間及び励起出力によって正規化され、これにより、すべての時点を互いに比較することができる。これにより、異なる日/時点、または異なる参加者の測定値を定量的に比較することができる。さらに、これは、蛍光値を使用することによって、造影剤が腸バリアを通過したかどうかに関する二値評価を単に提供するのではなく、(異なる対象/患者間の、あるいは、1人の対象/患者における経時的な)透過性の変動の意味のある定量化を提供することができることを意味する。
【0187】
本明細書に記載の実施例では、この正規化を達成するために、まず、各時点の蛍光信号からバックグラウンド信号を差し引く。スペクトル分解されたデータ(例えば、
図8に示す光ファイバ蛍光分光光学システム22を使用して収集されたデータ)では、バックグラウンドは、350-450nmの波長範囲(信号が観察されない範囲)にわたる平均強度として算出される。続いて、バックグラウンドを差し引いたスペクトルを、蛍光信号のスペクトルピークを含む波長範囲(フルオレセインの場合は500-580nm)にわたって合計する。この積分された蛍光値は、積分時間とレーザ出力との両方によって(2つの積で除算することによって)正規化される。励起(レーザ)出力値も、励起(レーザ)スペクトル(各蛍光スペクトルの直後/直前に記録される)に基づいて算出される。レーザ出力値を取得するために、レーザスペクトルは、上記のようにバックグラウンドを差し引いた後、485-492nmの範囲にわたって合計される。これらの合計値は、レーザスペクトルの収集に使用される積分時間(通常は1ミリ秒)によって正規化される。したがって、フルオレセインの正規化された積分蛍光強度値は、以下の方程式に従って算出することができる。
【0188】
【0189】
式中、Inormは積分され、正規化された蛍光強度であり、λは波長であり、tF及びtLはそれぞれ蛍光スペクトル及びレーザスペクトルについての積分時間であり、I(λ)は蛍光スペクトルであり、L(λ)はレーザスペクトルであり、BF及びBLはそれぞれ蛍光スペクトル及びレーザスペクトルについてのバックグラウンド値を表す。
【0190】
LED及びフォトダイオードに基づくウェアラブルプローブ6が使用される場合(収集されたデータがスペクトル分解されない場合)、バックグラウンドの測定は、励起光(すなわち、光源)をオフに切り替えた蛍光検出器によって測定を記録することにより、行うことができる。さらに、励起出力は、第2の光検出器を使用して測定することができる。これは、励起LEDをオフにして信号レベルを記録して、バックグラウンドを差し引くことができる。正規化された蛍光強度は、上記の前の方程式のように算出できるが、合計することはできない(波長範囲は光検出器の前に配置された光学フィルタによって定義され、データは収集されるときにそれらの範囲にわたって効果的に合計されるため)。したがって、正規化された強度は以下のように示すことができる。
【0191】
【0192】
式中、IF及びIEはそれぞれ蛍光及び励起強度の値を表し、BF及びBEはそれぞれ蛍光及び励起光検出器のバックグラウンド値を表し、tF及びtEはそれぞれ蛍光及び励起光の測定に使用される積分時間を表す。蛍光/励起レベル及びバックグラウンドレベルを記録するために異なる積分時間を使用する場合、上記の方程式にこれを組み込む必要があることに注意されたい。すなわち、BE及びBFはそれぞれの取得時間によって正規化する必要がある。この場合、上記の前の式は以下のようになる。
【0193】
【0194】
式中、tBF及びtBEはそれぞれ、蛍光検出器及び励起光検出器についてのバックグラウンド測定値を記録するために使用される積分時間を表す。
【0195】
上記の正規化手順は、光ファイバ蛍光分光計の光学システム22で実行することができ、出力データは、さらなる分析なしに診断目的ですぐに使用できることを意味する。
【0196】
蛍光データの収集及び正規化に続いて、時間の関数(I(t))としての正規化された蛍光強度のプロットを提供することができる。このようなデータの典型的な例を
図10に示す。上記の正規化手順により、このようなプロットを使用して、様々な方法で腸透過性を定量化することができる。
【0197】
すなわち、
図1を再び参照すると、第5のステップ5において、正規化されたデータを分析し、以下の1以上を算出することによって対象の腸透過性が測定される;(a)前記強度の第1ピーク値、(b)時間に対する前記強度の積分、(c)前記強度の第1ピーク値と、前記ピーク値における時間との積、(d)前記強度の第1ピーク値と、前記第1ピーク値における時間を過ぎた時点における時間との積、(e)前記強度の第1ピーク値が発生する時間、(f)前記強度の第1ピーク値を、前記ピーク値が発生する時間で割ったもの。本明細書に記載の実施例では、分析は正規化されたデータに対して実行されるが、分析の精度及び信頼性の低下が許容できる場合、代わりに、分析が正規化されていないデータに対して実行され得ることも想定されると留意されたい。このような分析は、有用な診断情報を提供する。具体的には、これは、I
normについての上記の前の式を以下のように修正することによって達成される。
【0198】
【0199】
及び
【0200】
【0201】
式中、Iintはそれぞれ、スペクトルデータ(第1の式)及び非スペクトルデータ(第2の式)についての、各時点の積分された、非正規化蛍光強度データを表す。以下の説明では、上記の第1のInormの方程式によって正規化されたデータに対し、すべてのさらなる分析を実行することによって正規化されたデータが使用される。ただし、上記のIintについての2つの方程式のいずれかから開始することにより、正規化されていないデータに対して同一の分析を実行することができる。
【0202】
正規化されたデータの分析を続けると、一例として、蛍光対時間曲線25(
図10参照)の第1のピーク24の強度を使用することにより、対象13の血流における溶液中の蛍光造影剤のピーク濃度を読み取ることができる。第1のピーク24は、血流中の蛍光造影剤の最大濃度が存在する時点を表し、典型的には、対象13の身体からの(例えば、腎臓または肝臓を介した)有意な排出が起こる前に生じる。
【0203】
場合によっては、蛍光造影剤が血流から測定位置における皮膚の表皮に漏出することに起因して、最初のピーク24の後も蛍光信号が増加し続ける。したがって、最初のピーク24(対象13の血流中の蛍光造影剤のピーク濃度を表す)を正確に特定するためには、十分な時間分解能でデータを収集する必要がある。1分間に1回測定値を記録することで、これが事実であることを快適に確認することができる。逆に、測定間隔が5分を超えると、最初のピーク24を観察するために必要な分解能が失われる危険性がある。
【0204】
あるいは、(最初のピーク24の時間及び強度を変化させる)胃排出率の影響を説明するために、積分法を使用して決定される最初のピーク24までの曲線25の下の面積を算出することによって、腸透過性を定量化することもできる。これは、第1のピーク24の時間までに腸から血流に漏出した蛍光造影剤の総量の測定値を提供する。このアプローチは、多くの糖ベースの尿透過アッセイにおいて使用される総ラクチュロース回収量の測定と類似している。しかし、尿を採取するべき正確な時間がわからないという問題には悩まされることはなく、データからピーク濃度の時間を特定することにより、血流中のフルオレセイン(または、他の蛍光造影剤)の総回収量を正確に定量化することが可能である。
【0205】
あるいは、腸透過性は、ピーク強度と、ピーク24が発生する時間との積を算出することによって(あるいは、以下で説明するように、強度のピーク値と、第1ピーク値の時間を過ぎた時点における時間との積を算出することによって)定量化することもできる。これは、上記の曲線下面積アプローチを単純化したものである。
【0206】
したがって、腸透過性は、以下の3つの等式のうちのいずれかを使用して、正規化された蛍光データに基づいて定量化され得る。
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
式中、Iは(上記のInormについての方程式を使用して算出するように)正規化された蛍光強度を表し、tは時間を表し、tpeakは蛍光データの第1ピークの時間を表し、GP1-3は腸透過性の3つの提案された量記号を表す(余談であるが、分析の信頼性の低下が許容できる場合、正規化されていない蛍光強度データ、すなわち上記のIintについての方程式を使用して算出されたものを代わりに表すことができる点も注目に値する)。あるいは、GP2及びGP3についての方程式は以下のように変更されてもよい。
【0211】
【0212】
【0213】
GP2及びGP3についてのこれらの修正された方程式では、tpeak+は、蛍光データにおける第1ピークの後の選択された時点、例えば、蛍光データにおいて最初のピークが発生した時間の値と、上記の時間の値の選択された割合との合計に等しい、選択された時点を表す。
【0214】
上記の3つの方程式で示される量記号に加えて、最初のピークの時間(tpeak)もまた、tpeakの値が低いほど透過性が高くなる透過性の指標となる。
【0215】
さらに、I(tpeak)をtpeakで除算すると、透過性に応じて変化する(この場合、透過性の増加に応じて増加する)別の量記号が得られる。したがって、以下に説明するように、さらに2つの透過性についての量記号を定義することができる。
【0216】
【0217】
【0218】
GP4及びGP5は、胃排出率の影響によって混同されるが、これは、排出率がより高い場合にもGP4及びGP5の値に変化をもたらす可能性があるためである。逆に、GP2及びGP3は、tpeakを乗算するか、あるいはtpeakまでの曲線下面積を算出することによって、ある程度の胃排出率の補正を提供することができる。したがって、より定量的な透過性の評価を提供する。
【0219】
全体として、正規化された蛍光強度に基づいて透過性を定量化することが可能である。これにより、健康な腸のバリアさえも通過する蛍光造影剤の漏出の定量化が可能になり、非常に透過性の高い腸を有する患者だけでなく、幅広い対象/患者において意味のある臨床データを提供することが可能であることを意味する。さらに、上記の量記号は、腸が「透過性」であるか「透過性でない」かという大まかな臨床結果のみを提供する単なるバイナリマーカではなく、透過性に関して連続的に変化する測定値を提供する。これにより、治療及びその他の介入(例えば、栄養介入)に対する患者の反応のモニタリングが可能になり、様々な個人において測定された値の比較(すなわち、スクリーニング/診断アプリケーションなどについて)も可能になる。これは、上記の正規化手順と、蛍光対時間曲線における最初のピーク(すなわち、血液中のピーク濃度の点)の識別を可能にするのに十分な時間分解能を備えたデータの収集と、によって可能になる。
【0220】
最後に、腸透過性を測定するための前記方法に関して、
図11は、高浸透圧溶液を使用した場合と使用しない場合とで得られたデータの比較を示している。使用した高浸透圧溶液は、60gの砂糖を含む代表的な高浸透圧溶液である。プロットは、分単位の経過時間に対してプロットされた正規化された蛍光強度と、参加者が別々の日に2つの腸透過性テストを受けた実験の結果とを示している。第1のケースでは、消費された溶液は、100mlの水に溶解した500mgのフルオレセインで構成されていた。第2の実験では、溶液は、100mlの水に溶解した500mgのフルオレセイン及び60gの砂糖で構成されていた。濃縮糖液には、高浸透圧作用があることが知られている。すなわち、濃縮糖液は、腸透過性を一時的に高める。したがって、
図11に示される例示的な実験データは、上記のように単一の蛍光造影剤(例えば、フルオレセイン)を使用して腸透過性の変化を評価できることを示している。
図11に示すように、60gの砂糖が溶液に含まれている場合、ピーク値(GP
1)は、砂糖を含まない溶液を使用した実験と比較してわずかに高くなった。さらに、曲線下面積(GP
2)及びI(t)×t
peak(GP
3)の値に大きな増加が観察された。したがって、
図11に示される例示的なデータは、上記の提案された透過性マーカGP
1-GP
3の予備的検証を提供する。
【0221】
腸透過性を測定するための上記の方法及び手順の態様のいくつかは、胃排出率を測定するための方法にも使用され得る。
図12を参照して、対象の胃排出率(すなわち、胃が空になる速さ)を測定する方法のステップ、及び前記方法を実行するための例示的な手順を以下に説明する。
【0222】
図12に示す方法のステップ101からステップ104は、それぞれ、
図1に示す方法のステップ1からステップ4と同様であり、したがって、上記のステップ1からステップ4と実質的に同様の方法で、実質的に同様のハードウェアを使用して、実行することができる。
【0223】
図12に示す方法のステップ101は、現実的かつ生理学的に興味深い状況における胃排出率の測定を可能にするために、
図1に示す方法のステップ1及び上記の方法とは異なり、蛍光造影剤を(水またはジュースの中ではなく)液体試験食又は固体試験食の一部として調製する。これは、液体試験食または固形試験食が、純粋な水またはジュースよりもゆっくりと胃から排出されるためである。適切な例示的な液体試験食はミルクセーキであり、適切な例示的な固体試験食はトーストにのせたスクランブルエッグである。しかしながら、任意の他の適切な液体試験食または固体試験食を試験食として採用することも想定される。
【0224】
有利なことに、ミルクセーキは、固形食品と同様の方法で胃から空になる液体ベースの試験食であり(こでは、生理学的に重要である)、対象13が消費するのに快適/楽しいものとなるように設計される。500mgのフルオレセインは、静脈内注射用のフルオレセインの臨床的に承認された用量であり、(臨床的に許容される最も高い用量であるため)最適な信号レベルを与えるので、例示的なミルクセーキ製剤に含めて使用することができる。ただし、許容可能な信号対雑音比を維持しながら、より低い用量(約100mgまで)を採用することもできる。これにより、造影剤の用量を減らすことができ、したがって、対象13にもたらされる影響及び危険性を低減することができる。例示的なミルクセーキは、チョコレートパウダー、プロテインパウダー、砂糖、及び/またはミルクも含んでいてもよい。
【0225】
試験食を摂取する前に、対象13は12時間断食するように求められる。すなわち、対象13は、胃排出率を測定する方法が実行される前に、(水を除いてもよい)いかなる飲食物も摂取しないように求められる。これは、午前中に測定を実行し、かつ、測定前に一晩絶食するよう対象13に求めることによって達成することができる。これにより、胃排出率の測定値が、対象13の胃または腸に残っている飲食物によって悪影響を受けないようにすることができる。
【0226】
測定プロセスの開始時に、経皮検知装置は、対象13の皮膚の選択された位置(例えば、指先)に取り付けられる。次いで、ベースライン/バックグラウンド信号の測定を可能にするために、造影剤の摂取前に蛍光測定が開始される。本明細書で説明する実施例では、蛍光信号及び励起出力は、1分間に1回、経皮検知装置を使用して測定される。代替的なタイミング(すなわち、測定頻度)が使用できることも想定されるが、1分間に1回の測定により、有利なことに、良好な信号対雑音比及び十分な時間分解能でデータを収集することができる。
【0227】
最初の測定が行われた後、対象/患者はできるだけ早く(例えば、次の3分間で)ミルクセーキを飲むように求められる。3分間の消費時間は、試験食(ミルクセーキ)全体が胃にすばやく到達することを保証するのに役立つが、対象/患者が飲物を快適に消費できることも意味する。蛍光(及び励起出力)の測定は、次の4時間にわたって、1分間に1回実行される。このタイムスケールにより、大多数の対象において蛍光造影剤のすべてが胃から排出され、胃排出の結果として、蛍光造影剤が血流に入らなくなっている(すなわち、蛍光造影剤が血流から単に除去されている)間に、少なくとも1時間分のデータが収集されることが保証される。これは、定常状態クリアランスと呼ばれる。定常状態クリアランス率を測定することで、蛍光データを、排出された胃の内容物の割合の測定値に正確に変換することができる。しかし、異なる測定タイムスケールを使用することも想定される。例えば、蛍光(及び励起出力)の測定は、次の4時間ではなく、次の30分間にわたって実行されてもよい。測定タイムスケールは、使用される算出に基づいて選択されてよい。有利なことに、短い測定タイムスケールにより、結果をより迅速に報告することができ、これにより、対象13への影響が軽減される。
【0228】
個々の測定ごとに、適切な信号レベルが取得されるまで積分を行うように経皮検知装置はプログラムされている。典型的な取得時間は、100ミリ秒-5秒の範囲である。このように経皮検知装置をプログラミングすることによって、蛍光レベルが低い場合でも(例えば、測定プロセスの開始時または終了時)、すべての時点において良好な信号レベルを確実に取得することができる。また、蛍光信号が最大であるときに検出器の飽和に関連する問題がないことを確実にすることもできる。各時点についての蛍光強度値は、各ケースで使用される取得時間によって正規化され、これにより、すべての時点を互いに比較することができる。
【0229】
得られたデータは、時間の関数としての(励起出力及び取得時間によって正規化された)フルオレセイン蛍光強度によって構成される。これは、以下に説明するように、本方法の第5のステップ105において胃排出率を算出するために使用することができる。
【0230】
図12の方法は、第5のステップ105において、対象の腸透過性を測定するために正規化されたデータを分析するのではなく、代わりに、時間の関数としての対象の胃に残っている試験食の割合を算出するために正規化されたデータが分析されるという点において、
図1の方法とは異なる。これは、時間の関数としての強度の(すなわち、それに基づく)関数を、強度のピーク値で割る算出によって達成される。この算出は、以下に概説するように実行することができる。本明細書に記載の例では、分析は正規化されたデータに対して実行されているが、分析の精度及び信頼性の低下が許容できる場合、代わりに正規化されていないデータに対して分析を実行できることも想定されることに留意されたい。このような分析は、その場合であっても有用な診断情報を提供する。いずれの場合も、以下に説明する分析の前に、腸透過性の測定の説明において概説したI
norm(正規化されたデータの場合)またはI
int(正規化されていないデータの場合)についての式にしたがって、強度データが準備される。
【0231】
典型的な蛍光対時間曲線25は、
図10の例に示されるような形状を有する。図示の例では、最初に、蛍光信号は、S字のシグモイド状の形状であり、第1のピーク24に到達するまで時間の関数として(時間に応じて)増加する(点(0,0)で開始する(赤色の)破線で示されるように)。第1のピーク24に続いて、蛍光造影剤が身体から排出されると、安定した減少26の前に、より緩やかな増加(または、場合によっては平坦域)が観察される(第2の(黄色の)破線で示される)。
【0232】
最初の増加は、主に、腸から対象13の血流への蛍光造影剤の取り込みを表している。第2の増加は、血管から上皮への蛍光造影剤の漏出に起因するものであると考えられる(造影剤がプローブの検知領域に近づくにつれて、観察される蛍光強度が増加する)。経皮蛍光分光法は、血液中の蛍光造影剤の絶対濃度の測定値を提供せず、血液中の蛍光造影剤と上皮内の蛍光造影剤との相対強度がわからないので、パラセタモール吸収試験や呼気試験で通常行われるように、蛍光データから保持率曲線(すなわち、時間の関数としての胃に残っている造影剤の割合)を直接かつ正確に算出することは困難である。したがって、蛍光データから保持率曲線を抽出することが可能にするための最小二乗法によるフィッティングに基づく適切な例示的なアプローチを以下に提示する。
【0233】
蛍光対時間曲線25は、蛍光造影剤の血流への取り込み(
図10の点(0,0)から開始する(赤色の)破線で示されている)及び血管から上皮への漏出(
図10の(黄色の)第2の破線で示されている)をそれぞれ表す2つのシグモイド(ロジスティック)関数と、
図10の例示的なプロットに示されるように、対象13の身体からの蛍光造影剤の排出を表す直線的に減少する線とを合わせることによって表すことができる。したがって、時間の関数としての蛍光強度I(t)は、以下のように示すことができる。
【0234】
【0235】
式中、B(t)は時間の関数としての血流中の蛍光造影剤の強度寄与を表し、L(t)は時間の関数としての上皮に漏出した蛍光造影剤の強度寄与を表し、E(t)は時間tにおいて身体から排出されている(したがって、総強度には寄与しない)蛍光造影剤からの強度寄与を表す。これらの関数は、以下のように定義することができる。
【0236】
【0237】
【0238】
【0239】
Bmaxは血流中の蛍光造影剤からの最大強度寄与を表し、kB及びtB1/2はB(t)曲線のロジスティック成長(傾き)及びB(t)がその最大値の半分に達する時間をそれぞれ表している。同様に、Lmaxは上皮における蛍光造影剤の最大強度寄与を表し、kL及びtL1/2はL(t)曲線のロジスティック成長及びL(t)曲線についての最大値の半分の時点を表している。Lmax及びBmaxは血液中の蛍光造影剤及び上皮内の蛍光造影剤から観察される蛍光の相対レベルを決定する。このアプローチは、これらのパラメータのフィッティングを伴うので、これらの相対レベルの事前知識は必要とされないという利点がある。Cは、クリアランス率、すなわち蛍光造影剤が身体から排出される速度を表している。したがって、時間tまでに排出された蛍光造影剤の総量からの強度寄与(E(t))は、時間(t)、クリアランス率(C)、及びその時点におけるシステム内の蛍光造影剤からの総強度寄与(B(t)+L(t))の積として定義される。
【0240】
代入により、I(t)についての以下の方程式を得ることができる。
【0241】
【0242】
パラメータC、B
max、L
max、k
B、k
L、t
B1/2、及びt
L1/2を抽出するために、例えば最小二乗法によるフィッティングまたは別の数値フィッティング手順を使用して、この方程式を、観測されたI(t)データにあてはめることができる。これは、様々な最小二乗法によるフィッティングアルゴリズムを使用して(及び、様々なプログラミング言語を使用して)、例えばMATLABの「lsqcurvefit」関数を使用することにより、実現することができる。本明細書で説明する実施例では、約1分間隔でデータが収集されるので、未知の値よりも多くのデータポイントが存在するが、これは正確にフィッティングを行うことができることを意味する。
図10に示される例示的なデータについて、例示的なフィッティングカーブ27が
図13に示される。
【0243】
例示的なプロットA、B、C及びDを含む、時間に対する蛍光の他のフィッティングカーブのさらなる例を、
図14に示す。
図14に示される例示的な曲線は、上記の方法にしたがってフィッティングされている。例A、B、C及びDのそれぞれにおいて、メインプロット(上)及びサブプロット(下)が示されている。メインプロットのそれぞれにおいて、蛍光対時間のデータプロットは、複数の円形マーカによって表され、実線は、上記の方法にしたがってフィッティングされた対応するフィッティングカーブを表す。対応するサブプロットのそれぞれにおける円形マーカは、残差を表す。すなわち、サブプロットの各データポイント/円形マーカは、各データポイント/時間値における実際のデータポイント(メインプロットにおいて対応する円形マーカで表されている)とフィッティングカーブ(メインプロットにおいて実線で表されている)との差を表している。例えば
図14のA、B、C、Dについて、対応するサブプロットを有するメインプロットのそれぞれを調べることによって理解できるように、4つの例すべてにおいて良好なフィッティングが得られた。これは、上記のフィッティング方法の成功を示している。
【0244】
フィッティング手順に続いて、フィッティングされたパラメータを使用することにより、時間tにおいて胃から排出された蛍光造影剤の量S(t)を定義することができる。S(t)を血管内の蛍光造影剤からの強度寄与とその時点までに排出された蛍光造影剤の量との合計として近似できると仮定すると、S(t)を以下のように示すことができる。
【0245】
【0246】
式中、EB(t)は血管からの蛍光造影剤の除去を表し、以下のように定義される。
【0247】
【0248】
これは、血管から上皮への蛍光造影剤の漏出がS(t)の絶対値に与える影響は無視できるという仮定に基づいている。L(t)は通常、B(t)よりもはるかに緩やかなロジスティック成長を伴い、胃の大部分が空になったと予想される時間経過の後半まで、観察されたI(t)データに対して大きな影響を与えないので、これは正しい仮定である。
【0249】
次に、時間tにおいて胃に保持されていた蛍光造影剤の割合Rpcを以下のように算出することができる。
【0250】
【0251】
式中、S(tpeak)は、I(t)データにおいて最後のピークが観測された時点におけるS(t)の値である。これは定常状態の排出段階(蛍光造影剤が身体から排出され始め、蛍光強度のさらなる増加が観察されない)の前の最終時点であるので、この時点でRpc曲線を正規化することを選択してもよい。したがって、tpeakの後、蛍光造影剤が胃から排出されることはない。
【0252】
単一のピークのみが観察される場合、tpeakは、蛍光信号において一定の直線的な減少が観察される定常状態排出段階の開始時点として設定することができる。パラセタモールまたは呼気試験(通常は10-15分の長い測定間隔が採用される)よりも、蛍光データ(データポイントが約1分間に1回収集される)においてこのポイントを特定する方が簡単である。さらに、この時点に達すると(例えば、選択した時間間隔にわたるデータが一定の直線的な減少を示し、その後増加しない場合)データ取得を自動的に終了するように、経皮検知装置をプログラムすることができる。
【0253】
排出率を正確に測定できない場合(例えば、取得時間が短い場合)、排出の影響を無視して、B(t)のデータのみに基づいてRpcを算出することができる。この場合、Rpcを以下のように示すことができる。
【0254】
【0255】
上記のアプローチを使用することにより、パラセタモール吸収試験から取得された値とよく一致するRpc値を得ることができます。したがって、有利なことに、これは、胃排出率の評価において明確かつ臨床的価値のある読み出しを提供することができる方法を表している。例えば、算出されたRpc曲線を使用することにより、胃に保持された蛍光造影剤/試験食の割合が初期値の75%、50%、25%などに低下した時間を測定することができる。
【0256】
さらに、抽出されたパラメータ(例えば、Bmax、tB1/2など)を使用することにより、上記に提示したものと同様の方法で腸透過性を定量化することもできる(すなわち、上記のGP1-GP5の式を参照されたい)。
【0257】
結論として、このアプローチには、観察された経皮蛍光データに関数(2つのシグモイド線及び直線的に減少する直線による)をフィッティングするステップが含まれる。このアプローチは、直接算出を実行するのではなく、関数をデータにあてはめるので、血管及び上皮における蛍光造影剤の相対的な強度の寄与に関する事前の知識は必要ない。また、パラセタモール吸収試験を使用して胃排出率を評価するために必要な、体重、体液の総量などの要因に関する知識も必要ない(これらは多くの場合、仮定に基づいて推定される)。さらに、観察された蛍光の傾向は、データの収集に使用される経皮検知装置/プローブの形状に応じて異なるが、このフィッティングベースのアプローチは、このような変動の影響を受けない。例えば、プローブの形状がL(t)(皮膚の上皮への蛍光造影剤の漏出)に対する感度を低下させるように調整されている場合、フィッティングはLmaxの値を最小化する(または、ゼロに設定する)ことによってこれを単純に修正する。したがって、このアプローチは、任意の経皮蛍光プローブまたは経皮検知装置設計による使用に適している。全体として、臨床使用に適した胃排出率(及び、腸透過性)の評価のためのパラメータの抽出が可能になる。これは、非侵襲的なデータ収集に基づいて可能であり、血液、尿、またはその他のサンプルを収集する必要がない。さらに、分析は、経皮検知装置自体によって実行される処理を使用して、自動化された方法によってリアルタイムで実行することができ、フィッティングベースのアプローチでは、(パラセタモール吸収試験、及び/または炭素-13(「13C」)呼気試験を使用した胃排出率についての分析に通常必要とされる)4時間を超える全時間経過を収集する必要がなく、適切なフィッティングを提供することにより、取得時間を短縮することもできる。
【0258】
上記のフィッティングベースのアプローチの代わりに、保持率曲線を、観察された蛍光データから直接(すなわち、I(t)から直接)算出することもできる。この場合、保持率は以下のように定義される。
【0259】
【0260】
式中、Rpc_directは保持率曲線であり、tpeak1は蛍光データ(I(t))において第1ピークが観察される時間を表す。この場合、第1ピークは、迅速な算出を可能にするべく、保持率曲線の正規化のために使用される。このアプローチを使用することにより、経皮検知装置は、蛍光対時間データの最初の最大値を自動的に検出した後、すぐに保持率曲線(ここから、保持率が75%、50%、25%などに低下する時間などの診断パラメータを抽出することができる)を算出することができる。
【0261】
このアプローチを使用することにより、診断パラメータを約60分以内に報告することができ、得られたデータは、特に50-100%の範囲のRpc_directの値について、パラセタモール吸収試験とのよく一致する。さらに、直接の算出により、分析手順におけるエラーや不一致の可能性を最小限に抑えることができる。
【0262】
保持率を最も正確に算出するために、上記の方程式で使用する前に、I(t)に対してバックグラウンド減算を実行することができる。これは、例えば、バックグラウンドレベルを最初の強度値(すなわち、I(t=0))として設定し、これを各I(t)値から差し引くことによって実現することができる。あるいは、バックグラウンド値は、例えば、最初の5つの時点において記録された強度の平均として定義することができる。このアプローチでは、バックグラウンド減算のために選択された正確な時間窓は、蛍光対時間曲線(I(t))が増加し始める時点によって決定される(バックグラウンド領域は、最初の増加の開始前のすべての時点として定義される)。最適な結果を保証するために、このバックグラウンド減算も、上記のフィッティングプロセスの前に実行する必要がある。
【0263】
排出を算出することができる場合は、これを保持率の算出に含めることにより、算出の精度をさらに向上させることもできる。簡略化のため、この例では、胃から排出された蛍光造影剤の量Sdirect(t)を以下のように定義することができる。
【0264】
【0265】
蛍光信号の除去EI(t)は、以下のように定義することができる。
【0266】
【0267】
上記のように、Cはクリアランス率を表す。これは、(上記のような)フィッティングによって、または蛍光対時間曲線の定常状態排出領域におけるデータに基づく直接的な算出によって得ることができる。後者の場合、Cは以下のように定義することができる。
【0268】
【0269】
式中、tsは定常状態排出が観察される時間領域を表し、ts1は定常状態排出の除去における最初の時点であり、tsfは定常状態排出領域における最後の時点であり、Δtsは定常状態間隔(すなわち、tsf-ts1)にわたる時間における変化を表し、及び
【0270】
【0271】
は、定常状態領域にわたる平均蛍光強度を表す。
【0272】
上記のようにC、EI(t)、及びSdirect(t)を算出すると、以下のように保持率曲線を算出することができる。
【0273】
【0274】
この場合、tpeakは、蛍光データにおいて第1または第2のピークが観察される時点、あるいは、定常状態排出が開始する時点(例えば、前記ピークが観察された時点から5%、10%、または20%が経過した時点)として選択することができ、これは、データに基づいて(例えば、定常状態領域を観察するために十分なデータが収集されたかどうかに応じて)決定することができる。このアプローチは、パラセタモール吸収試験データともよく一致する。ただし、このアプローチでは、(クリアランス率Cの算出/フィッティングを可能にするために)少なくとも定常状態領域の開始までデータを収集する必要があるので、以下の方程式に基づく直接算出よりも長い取得時間が必要になる。
【0275】
【0276】
全体として、蛍光対時間曲線に基づく保持率曲線/値の直接算出は、特に50-100%の範囲の保持率の値について、ゴールドスタンダードデータ(すなわち、パラセタモール吸収試験)と一致する正確な評価を提供することができる。以下の方程式に示されているアプローチを使用することにより、有利なことに、保持率の値と曲線とを、非常に短いデータ収集時間(例えば、30-60分以上)に基づいて算出することができる。
【0277】
【0278】
これらの算出は、経皮検知装置によって自動的に実行することができるので、診断パラメータ(例えば、50%保持までの時間など)を他のアプローチよりもはるかに迅速に報告することができる(例えば、パラセタモール吸収試験では、4時間を超えるデータ収集に加えて、病理検査室で血液サンプルを処理し、得られたデータを手作業で分析するので、診断結果が1-2日以内に報告されることはめったにない)。したがって、胃排出率を算出するための上記のアプローチはいずれも、結果の報告を大幅に高速化するとともに、現在の治療のスタンダードを大幅に改善する可能性を提供する。
【0279】
図15A及び
図15Bは、上記のフルオレセインベースの測定法を使用して得られた胃排出率データと、20人の健康なボランティアにおいて実施された、臨床的に承認されたパラセタモール吸収試験を使用して得られた胃排出率データとの比較を示す。参加者はそれぞれ、500mgのフルオレセイン及び1.5gのパラセタモールを含む液体試験食(ミルクセーキ)を摂取した。その後、経皮蛍光強度の測定を1分間隔で行った。血清中のパラセタモール濃度を評価するために、血液サンプルを10-15分間隔で採取した。
【0280】
図15Aは、時間の関数としての蛍光強度及び平均パラセタモール濃度を示す。影付きの領域は、平均からの1つの標準偏差を示す。図示のように、蛍光及びパラセタモールのデータは、実験の全期間(250分)にわたって明確にオーバーラップしている。
【0281】
図15A及び
図15Bを比較すると、蛍光対時間データ(
図15Aを参照)は、上記の胃排出率の算出及びあてはめ方法を使用することにより、時間の関数としての対象の胃に残っている試験食の割合Rpc(
図15Bを参照)に変換され得ることが示されている。
【0282】
図15Bは、パラセタモールデータ(2001年12月24日に最初に公開された「Delay of gastric emptying by duodenal intubation: sensitive measurement of gastric emptying by the paracetamol absorption test」:https://doi.org/10.1046/j.1365-2036.1999.00519.xに詳細に記載されるように、Medhusらの方法によって算出された)及び蛍光データ(上記の方法によって算出された)についての時間の関数としての平均保持率(Rpc)値を示す。影付きの領域は、平均からの1つの標準偏差の境界を示している。「蛍光-直接」データ(点で表される)は、蛍光強度データ(すなわち、上記のR
pc_direct)から直接算出された保持率を表す。「蛍光-S(t)」データ(三角形で表される)は、(上記の)変数S(t)のデータによって算出されたRpcを使用して、上記のフィッティング手順に基づいて算出された保持率を表す。
【0283】
したがって、
図15A及び15Bに示すように、上記の分析は、有利なことに、胃排出遅延の臨床診断(例えば、胃シンチグラフィーまたはパラセタモール吸収試験)において使用されるものと同様のグラフ及び測定値を提供することができ、胃に保持された胃の内容物の割合は、時間の関数としてプロットされ、診断評価のために使用される。有利なことに、本明細書に記載の方法を使用することにより、侵襲性が非常に低い手順を使用して、これを達成することができる。
【0284】
添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、説明された実施形態に対して様々な変更を行うことができる。