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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-21
(45)【発行日】2025-10-29
(54)【発明の名称】車両用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2338 20110101AFI20251022BHJP
   B60R 21/203 20060101ALI20251022BHJP
【FI】
B60R21/2338
B60R21/203
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024522994
(86)(22)【出願日】2023-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2023017033
(87)【国際公開番号】W WO2023228689
(87)【国際公開日】2023-11-30
【審査請求日】2024-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2022087173
(32)【優先日】2022-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】石垣 良太
(72)【発明者】
【氏名】志賀 由美
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-037382(JP,A)
【文献】特開2019-142338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/2338
B60R 21/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊急時に車室内の構造物と座席に着座した乗員との間に膨張展開するエアバッグクッションと、該構造物に設置されるインフレータとを備える車両用エアバッグ装置であって、
前記エアバッグクッションは、
前記構造物側の底面と、
前記乗員側の拘束面と、
前記底面と前記拘束面とをつなぐ側面と、
前記拘束面の中央の所定範囲に前記底面の方向に窪んで形成された凹部と、
を有し、
前記側面から少なくとも前記拘束面の一部にまでわたる範囲は、所定のサイドパネルで形成されていて、
前記サイドパネルは、前記側面の周方向に分割された複数のサブパネルを含み、
前記複数のサブパネルそれぞれは、
隣のサブパネルに接合される一対の側辺と、
前記拘束面側の一辺と、
前記底面側の他辺と、
を有し、
前記一辺は、前記他辺よりも短く、
前記サブパネルはさらに、前記他辺と前記一辺との間に形成される最も幅広になった中間部分を有し、
前記サブパネルは、前記中間部分から前記一辺に向かって次第に幅が細く形成されていることを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記サブパネルは、前記側面から前記拘束面の前記凹部にまでわたる範囲を形成していることを特徴とする請求項1に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記複数のサブパネルそれぞれは、隣のサブパネルと縫製によって接合されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記エアバッグクッションの底面は、所定の底面側パネルで形成されていて、
前記他辺は、前記底面側パネルの縁に接合されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記インフレータは、一部が前記底面側パネルを貫通して前記エアバッグクッションに挿入されていて、
前記エアバッグクッションはさらに、前記凹部を前記インフレータ側に引っ張るテザーを有することを特徴とする請求項4に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項6】
前記エアバッグクッションの凹部の中底は、所定の中央パネルで形成されていて、
前記一辺は、前記中央パネルの縁に接合されていて、
前記テザーは、前記中央パネルと前記インフレータまたは該インフレータの周囲の所定箇所にかけ渡されていることを特徴とする請求項5に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項7】
前記構造物は、車両のステアリングホイールであって、
前記インフレータは、前記ステアリングホイールの中央の近傍部分に設置され、
前記エアバッグクッションは、巻回または折り畳まれて前記中央の近傍部分に収容されることを特徴とする請求項6に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項8】
前記サブパネルの前記一対の側辺は、互いに離れる方向に突出し湾曲した構成を有していることを特徴とする請求項1、2、5、6のいずれか1項に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項9】
緊急時に車室内の構造物と座席に着座した乗員との間に膨張展開するエアバッグクッションと、該構造物に設置されるインフレータとを備える車両用エアバッグ装置であって、
前記エアバッグクッションは、
前記構造物側の底面と、
前記乗員側の拘束面と、
前記底面と前記拘束面とをつなぐ側面と、
前記拘束面の中央の所定範囲に前記底面の方向に窪んで形成された凹部と、
を有し、
前記側面から少なくとも前記拘束面の一部にまでわたる範囲は、所定のサイドパネルで形成されていて、
前記サイドパネルは、前記側面の周方向に分割された複数のサブパネルを含み、
前記複数のサブパネルそれぞれは、
隣のサブパネルに接合される一対の側辺と、
前記拘束面側の一辺と、
前記底面側の他辺と、
を有し、
前記一辺は、前記他辺よりも短く、
前記サブパネルは、前記他辺が最も幅広になっていて、該他辺から前記一辺に向かって次第に幅が細く形成されていることを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急時に乗員を拘束する車両用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両にはエアバッグ装置がほぼ標準装備されている。例えば、多くの車両のステアリングホイールには、ドライバエアバッグが装備されている。ドライバエアバッグのエアバッグクッションは、主にステアリングホイールの中央の部分に収容されていて、樹脂製のカバー等をその膨張圧で開裂して乗員の前方に膨張展開する。
【0003】
エアバッグクッションには、乗員のより効率的な拘束が求められている。本願の発明者らは、人体の構造上、乗員の頭部を回転させる動きが身体に負担を与えやすいことに着目し、乗員の頭部の回転を抑えたまま効率よく拘束できるエアバッグクッションの開発を進めている。
【0004】
例えば、進行方向に対して斜めからの衝突であるオブリーク衝突が生じた場合、乗員はエアバッグクッションに斜めに進入し、頭部が回転しやすいことが判明している。このことを鑑みて、本願出願人は、例えば特許文献1の図2に開示されているように、エアバッグクッション104の乗員側の中央に、内部テザー122を利用した凹部120を形成する技術を開発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-37382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の技術では、凹部120を形成するために、中央基布118や計3本の内部テザー122などの部品を利用している。現在では、さらに効率よく凹部を形成する技術についても開発が進められている。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、簡潔な構成で乗員の傷害値を抑えることが可能な車両用エアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用エアバッグ装置の代表的な構成は、緊急時に車室内の構造物と座席に着座した乗員との間に膨張展開するエアバッグクッションと、構造物に設置されるインフレータとを備える車両用エアバッグ装置であって、エアバッグクッションは、構造物側の底面と、乗員側の拘束面と、底面と拘束面とをつなぐ側面と、拘束面の中央の所定範囲に底面の方向に窪んで形成された凹部と、を有し、側面から少なくとも拘束面の一部にまでわたる範囲は、所定のサイドパネルで形成されていて、サイドパネルは、側面の周方向に分割された複数のサブパネルを含み、複数のサブパネルそれぞれは、隣のサブパネルに接合される一対の側辺と、拘束面側の一辺と、底面側の他辺と、を有し、一辺は、他辺よりも短いことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、拘束面の中央に凹部が形成されていることで、オブリーク衝突などによって乗員がエアバッグクッションに対して斜めに進入したとき、単なる平面で乗員を拘束する場合に比べて、例えば頭部の回転を抑えることができる。したがって、上記構成によれば、運転者をその傷害値をより抑えて拘束することができる。
【0010】
また、上記構成では、サブパネルの拘束面側の一辺が底面側の他辺よりも短い構成になっていることで、サブパネルの側辺同士を連結させてサイドパネルを形成したときに、サイドパネルは拘束面側が窄まった形状になる。このサイドパネルによれば、拘束面に凹部を効率よく形成することが可能である。また、このサイドパネルであれば、構成が簡潔で材料の使用量も抑えることができるため、軽量化や材料歩留まりの向上による低コスト化、さらにはエアバッグクッションをよりコンパクトに畳んで収納することなども可能になる。
【0011】
上記のサブパネルは、側面から拘束面の凹部にまでわたる範囲を形成していてもよい。
【0012】
上記構成によっても、拘束面に凹部を有するエアバッグクッションを形成することが可能である。
【0013】
上記の複数のサブパネルそれぞれは、隣のサブパネルと縫製によって接合されてもよい。
【0014】
上記構成によっても、拘束面に凹部を有するエアバッグクッションを形成することが可能である。
【0015】
上記のエアバッグクッションの底面は、所定の底面側パネルで形成されていて、他辺は、底面側パネルの縁に接合されてもよい。
【0016】
上記構成によっても、拘束面に凹部を有するエアバッグクッションを形成することが可能である。
【0017】
上記のインフレータは、一部が底面側パネルを貫通してエアバッグクッションに挿入されていて、エアバッグクッションはさらに、凹部をインフレータ側に引っ張るテザーを有してもよい。
【0018】
上記構成によれば、テザーによって凹部を引っ張ることで、凹部を窪んだ状態に効率よく形成し保持することが可能になる。
【0019】
上記のエアバッグクッションの凹部の中底は、所定の中央パネルで形成されていて、一辺は、中央パネルの縁に接合されていて、テザーは、中央パネルとインフレータまたはインフレータの周囲の所定箇所にかけ渡されていてもよい。
【0020】
上記構成によっても、テザーによって中央パネルを引っ張ることで、窪んだ形状の凹部を効率よく形成し保持することが可能になる。
【0021】
上記の構造物は、車両のステアリングホイールであって、インフレータは、ステアリングホイールの中央の近傍部分に設置され、エアバッグクッションは、巻回または折り畳まれて中央の近傍部分に収容されてもよい。
【0022】
上記構成によれば、ドライバエアバッグを実現し、運転者を好適に拘束することが可能になる。
【0023】
上記のサブパネルの一対の側辺は、互いに離れる方向に突出し湾曲した構成を有していてもよい。この構成によっても、サブパネルの側辺同士を連結させることで、拘束面側が窄まった形状のサイドパネルを好適に形成することができる。
【0024】
上記のサブパネルは、他辺が最も幅広になっていてもよい。この構成によっても、サブパネルの側辺同士を連結させることで、拘束面側が窄まった形状のサイドパネルを好適に形成することができる。
【0025】
上記のサブパネルは、他辺と一辺との間に形成される最も幅広になった中間部分を有してもよい。この構成によっても、サブパネルの側辺同士を連結させることで、拘束面側が窄まった形状のサイドパネルを好適に形成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡潔な構成で乗員の傷害値を抑えることが可能な車両用エアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態にかかる車両用エアバッグ装置の概要を例示する図である。
図2図1(b)の膨張展開時のエアバッグクッションを各方向から例示した図である。
図3図2(a)のエアバッグクッションを構成する各パネルを例示した図である。
図4図3(b)の各パネルを平面上に広げた状態で例示した図である。
図5図1(b)のエアバッグクッションの各断面図である。
図6図1(b)のエアバッグクッションがオブリーク衝突時に運転者を拘束する過程を例示した図である。
図7図4(d)に例示したサブパネルの変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態にかかる車両用エアバッグ装置(以下、エアバッグ装置100)の概要を例示する図である。図1(a)はエアバッグ装置100の可動前の状態を例示した図である。当該エアバッグ装置100は、図1(b)に示すように、左ハンドル車における前列左側の運転席102用のドライバエアバッグとして実施されている。
【0030】
本実施形態においては、運転者166(図6(a)参照)が正規の姿勢で運転席102に着座した際に、運転者166が向いている方向を前方、その反対方向を後方と称し、座標の軸を示すときは前後方向とする。また運転者166が正規の姿勢で運転席102に着座した際に、運転者166の右側を右方向、運転者166の左側を左方向と称し、座標の軸を示すときは左右方向とする。更に、運転者166が正規の姿勢で着座した際に、運転者166の頭部方向を上方、運転者166の腰部方向を下方と称し座標の軸を示すときは上下方向とする。
【0031】
以下、本発明の実施形態の説明において用いる図面では、必要に応じて、上述した運転者166(図6(a)参照)を基準とした前後左右上下方向を、矢印F(Forward)、B(Back)、L(Left)、R(Right)、U(up)、D(down)で示す。
【0032】
図1(a)のエアバッグ装置100は、緊急時にエアバッグクッション104が車室の構造物と座席に着座した運転者との間に膨張展開し、運転者を構造物への接触から保護する。上述したように、本実施形態ではエアバッグ装置100をドライバエアバッグとして実施していて、エアバッグクッション104は運転者166(図6(c)参照)を拘束してステアリングホイール106への接触やフロントガラスからの飛出し等から保護する。
【0033】
エアバッグクッション104は、ガスで膨張可能な袋状の部材であって、巻回や折り畳みによって小さくまとめられた収納形態となって、ステアリングホイール106の中央の近傍に設けられた収容部110にインフレータ112(図5参照)と共に収容されている。
【0034】
収容部110は、ステアリングホイール106のリム108よりも中央側に設けられている。収容部110は、表面の樹脂製のカバーの内側に溝状のテアライン等が設けられていて、エアバッグクッション104(図1(b)参照)の膨張展開時に開裂する仕組みになっている。
【0035】
図1(b)は、エアバッグ装置100の可動後の状態を例示した図である。エアバッグクッション104は、インフレータ112(図5参照)からのガスによる膨張圧で収容部110のカバーを開裂しながら運転席102の運転者166(図6参照)に向かって膨張展開し、前方へ移動しようとする運転者166の上半身や頭部を拘束する。
【0036】
エアバッグクッション104は、運転席側から見て円形であって、中央に凹部120が形成された形状に膨張展開する。エアバッグクッション104は、その表面を構成する複数のパネルを縫製または接着すること等によって形成されている。
【0037】
図2は、図1(b)の膨張展開時のエアバッグクッション104を各方向から例示した図である。図2(a)は、図1(b)のエアバッグクッション104を車外側のやや上方から見て例示している。
【0038】
エアバッグクッション104は、丸みを帯びた円柱状に近い形状に膨張展開する。エアバッグクッション104の表面は、大きく分けて、ステアリングホイール106(図1(a)参照)側の底面114と、乗員側の拘束面116、および底面114と拘束面116とをつなぐ側面118を含んで形成される。
【0039】
エアバッグクッション104は、特徴的な部位として、拘束面116の中央に窪んだ凹部120を有している。当該凹部120は、後述する図6に例示するように、乗員拘束時において運転者166の頭部168の回転を抑制するために利用される。
【0040】
凹部120は、エアバッグクッション104の内部に設けられたテザー122が、エアバッグクッション104の拘束面116を形成するパネルを底面114の方向に引っ張ることで形成されている。
【0041】
図2(b)は、図2(a)のテザー122を露出させて例示した図である。テザー122は、帯状の部材であって、計3本設けられている(第1テザー122a、第2テザー122b、第3テザー122c)。テザー122は、一端がエアバッグクッション104の内部にて拘束面側の中央パネル130に接続され、他端がその反対側であるエアバッグクッション104の内部の底面114側の箇所に接続されている。
【0042】
図3は、図2(a)のエアバッグクッション104を構成する各パネルを例示した図である。図3(a)は、図2(a)のエアバッグクッション104のパネルを分解した図である。
【0043】
エアバッグクッション104の底面114は、底面側パネル124によって形成されている。内部パネル126は、エアバッグクッション104の内部にて底面側パネル124に重ねて配置され、テザー122が接続される。
【0044】
複合パネル128は、テザー122と中央パネル130が一体になったパネルである。中央パネル130は、拘束面116(図2(a)参照)の中央に配置されて凹部120の中底を形成する部分である。テザー122は、中央パネル130から三又に延びていて、内部パネル126に接合される。
【0045】
サイドパネル132は、側面118から拘束面116の凹部120の内壁までにわたる範囲を形成するパネルであり、底面側パネル124と中央パネル130とに接合される。
【0046】
図3(b)は、図3(a)の各パネルを広げた状態で例示した図である。このうち、サイドパネル132は、側面118の周方向に分割された複数のサブパネル132a~132cによって形成されている。本実施形態では、サイドパネル132は3つのサブパネル132a~132cを組み合わせて形成されている。サブパネル132a~132cそれぞれは、多辺形の同じ構成になっている。これらサブパネル132a~132cは、エアバッグクッション104の側面118から拘束面116の凹部120の内壁までにわたる範囲を形成している。
【0047】
図4は、図3(b)の各パネルを平面上に広げた状態で例示した図である。図4(a)は、図3(b)の底面側パネル124を例示した図である。
【0048】
底面側パネル124は、円形であって、エアバッグクッション104の膨張展開時にはステアリングホイール106(図1(a)参照)から反力を得る反力面を形成する。底面側パネル124の中央には、インフレータ112(図5参照)が挿入されて収容部110(図1(a)参照)に固定される領域として、固定領域156が形成されている。また、ガスを外部に排出する部位として、ベントホール157a、157bが設けられている。
【0049】
図4(b)は、図3(b)の内部パネル126を例示した図である。内部パネル126は、底面側パネル124の固定領域156に重ねられてインフレータ112(図5参照)が挿入される部分として、固定領域158が形成されている。また、3つのテザー122a~122cが接合される部位として、3つの突出部160a~160cが形成されている。
【0050】
図4(c)は、図3(b)の複合パネル128を例示した図である。複合パネル128は、円形の中央パネル130から3つの帯状のテザー122a~122cが延びた三又の形状になっている。中央パネル130は、円形であって、凹部120(図2(a)参照)の中底を形成する。テザー122a~122cは、円形の中央パネル130の縁から放射状に延びていて、内部パネル126の突出部160a~160cそれぞれに縫製等によって接合される。
【0051】
なお、中央パネル130は、円形に限らず、多辺形等であってもよい。また、テザー122a~122cは、中央パネル130と一体的に形成された構成に限らず、別部材として形成してから中央パネル130に接続させることも可能であり、いずれの構成によっても中央パネル130を底面側パネル124の方向に引っ張ることができる。
【0052】
図4(d)は、図3(b)のサブパネル132aを例示した図である。サブパネル132a~132cは、多辺形の形状になっている。サブパネル132aのうち、左右一対の側辺134、135は、隣のサブパネル132b、132c(図3(b)参照)に縫製等によって接合される辺である。
【0053】
一辺136は、拘束面116(図2(a)参照)側の辺であって、円形の内部パネル126(図4(c))の縁に縫製等によって接合される。他辺138は、底面114(図2(a)参照)側の辺であって、円形の底面側パネル124(図4(a)参照)の縁に縫製等によって接合される。一辺136および他辺138は、中央パネル130および底面側パネル124の形に合わせてやや湾曲している。
【0054】
サブパネル132aは、側辺134、135の途中箇所が角状に突出し、一辺136と他辺138との間の中央よりもやや他辺138側の箇所が最も幅広になっている(中間部分140)。このとき、サブパネル132aの一辺から他辺138までの寸法は、中間部分140の寸法よりも長く設定されている。
【0055】
中間部分140から一辺136までのテーパ領域142は、一辺136に向かって次第に幅が細くなっている。テーパ領域142は、テザー122によって底面側パネル124(図3(a)参照)側に引き込まれる。
【0056】
本実施形態のサブパネル132aは、一辺136が他辺138よりも短い形状になっている。これら構成によって、図3(a)に例示したように、サブパネル132aの側辺134、135同士を連結させてサイドパネル132を形成したときに、サイドパネル132は拘束面116側が窄まった形状になる。このサイドパネル132によれば、拘束面116に凹部120を効率よく形成することができる。
【0057】
また、当該サイドパネル132であれば、上記構成のサブパネル132a~132cによって、構成の簡潔化を図りつつ凹部120を形成することができるため、材料の使用量を抑えることができ、軽量化や材料歩留まりの向上による低コスト化、さらにはエアバッグクッション104をよりコンパクトに畳んで収納することなども可能になる。
【0058】
図5は、図1(b)のエアバッグクッション104の各断面図である。図5は、図1(b)のエアバッグクッション104のA-A断面図である。エアバッグクッション104の内部の構成について説明する。
【0059】
上述したように、当該エアバッグクッション104は、テザー122によって凹部120をインフレータ112側に引っ張ることで、凹部120を窪んだ状態に効率よく形成し保持することが可能になっている。
【0060】
インフレータ112は、ガス発生装置であって、収容部110(図1(a)参照)の底に固定され、ガス噴出口を有する部分が底面側パネル124を貫通してエアバッグクッション104の内部に挿入されている。
【0061】
インフレータ112は、不図示のセンサから送られる衝撃の検知信号に起因して可動し、エアバッグクッション104にガスを供給する。インフレータ112は、ディスク型であって、噴出口を有する円柱状の本体部144と、本体部144の外周に設けられたフランジ146とを有している。
【0062】
インフレータ112は、複数のスタッドボルト148が設けられている。スタッドボルト148は、エアバッグクッション104の底面側パネル124を貫通し、収容部110(図1(a)参照)の底に締結される。このスタッドボルト148の締結によって、エアバッグクッション104も収容部110に固定されている。
【0063】
なお、現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ112としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0064】
テザー122a等の各テザーは、中央パネル130と、インフレータ112の周囲の内部パネル126とにかけ渡されている。テザー122aの中央パネル130側の根本150から、内部パネル126の突出部160aの根本162までの寸法L1は、エアバッグクッション104の膨張展開時において、中央パネル130と内部パネル126との間、すなわち中央パネル130とインフレータ112との間で緊張し、中央パネル130をインフレータ112側に引っ張ることができる寸法に形成されている。この構成のテザー122によって、拘束面116に底面114側に窪んだ凹部120を効率よく形成し保持することが可能である。
【0065】
なお、他の形態として、テザー122の先端は、インフレータ112や、インフレータ112を固定するときに使用する不図示のリテーナ、さらには収容部110(図1(a)参照)の底部など、エアバッグクッション104の底面114側の箇所に適宜接続することが可能である。
【0066】
図5(b)は、図5(a)のエアバッグクッション104のパネルのみを概略的に例示した図である。図4(d)の形状のサブパネル132aを組み合わせてサイドパネル132を形成したとき、サイドパネル132は単なる筒状ではなく、運転者側に向かって次第に幅が広がった形状になる。このとき、図4(d)の中間部分140によって、図5(b)のエアバッグクッション104にも最も径が大きい最大径部164が形成される。
【0067】
最大径部164の位置は、サブパネル132a(図4(d)参照)の中間部分140の位置を一辺136と他辺138との間で変更し調節することが可能である。サイドパネル132のうち、最大径部164から凹部120の中央パネル130にかけての部分は、曲率半径が小さく、張力も低くなりやすいため、運転者166(図6(c)参照)をより柔軟に受け止めることが可能になる。
【0068】
図6は、図1(b)のエアバッグクッション104がオブリーク衝突時に運転者166を拘束する過程を例示した図である。図6の各図は、図1(b)のエアバッグクッション104のA-A断面図に対応していて、エアバッグクッション104および運転者166を車両上方から見て例示している。
【0069】
図6(a)は、エアバッグクッション104が膨張展開した直後の様子を例示した図である。図6(a)に例示するように、車両にオブリーク衝突による衝撃が発生すると、エアバッグクッション104が運転席102(図1(b)参照)の車両前方に膨張展開する。
【0070】
図6(b)は、図6(a)の運転者166が車両前方に移動した様子を例示した図である。運転者166は、オブリーク衝突時の慣性によって、例えば図6(a)の状態から車幅方向左斜め前方に移動することがある。
【0071】
図6(c)は、図6(b)の運転者166がさらに車両前方に移動した様子を例示した図である。斜め前方に移動した運転者166は、例えば左肩を拘束面116のうち凹部120の周囲の部分に接触させつつ、頭部168の左側から凹部120の内壁に接触する。
【0072】
凹部120を形成する拘束面116であれば、従来の平面状に広がる拘束面と比べて、凹部120の周囲にて張力を抑えつつ、凹部120の内壁によって頭部168を斜め前方から拘束することができる。これによって、当該エアバッグクッション104は、凹部120によって、オブリーク衝突において斜めに移動する運転者166を外すことなく、運転者166の頭部168の肩170に対する回転172を最小限にし、頭部168の動きを肩172の動きとそろえて拘束することができる。
【0073】
これらのように、本実施形態では、テザー122が拘束面116を引っ張ることで、拘束面116の中央に窪んだ凹部120を効率よく形成することが可能になっている。このエアバッグクッション104では、通常の衝突時に乗員拘束を図るだけでなく、オブリーク衝突時において運転者166の頭部168の回転172を大幅に減少または打消し、頭部168の角速度を小さくすることで頭部168の回転172に伴う運転者166の傷害値を抑えることができる。
【0074】
本実施形態では、複数のサブパネル132a~132cを組み合わせたサイドパネル132とテザー122とを利用した簡潔な構成で凹部120を形成している。そのため、本実施形態であれば、パネル等の材料の使用量が少なくて済み、軽量化や材料歩留まりの向上による低コスト化を達成でき、さらにはエアバッグクッション104をよりコンパクトに畳んで収納することも可能になる。
【0075】
上記図6(c)を参照した説明では、頭部168に生じる回転の例として時計回りの回転172を挙げた。しかし、緊急時の状況によっては、例えば運転者166は車幅方向右斜め前方に移動し、頭部168には上方から見て首を中心に反時計回りの回転が生じる場合もある。この反時計回りの回転に対しても、本実施形態のエアバッグクッション104であれば、凹部120を利用して頭部168の回転を減少または打ち消し、頭部168の角速度を小さくすることができる。このように、本実施形態のエアバッグクッション104は、車幅方向のいずれに移動する運転者166に対しても、同様の効果を得ることができる。
【0076】
図7は、図4(d)に例示したサブパネル132aの変形例である。図7(a)は、第1変形例のサブパネル180を例示した図である。
【0077】
サブパネル180は、他辺182が最も幅広になっている。この構成によれば、底面114側に最大径部164(図5(b)参照)を有し、より安定した姿勢で膨張展開することが可能なエアバッグクッション104を実現することができる。そして、当該構成によっても、複数のサブパネル180の側辺同士を連結させることで、拘束面116側が窄まった形状のサイドパネル132(図3(a)参照)を好適に形成することができる。
【0078】
図7(b)は、第2変形例のサブパネル190を例示した図である。サブパネル190は、側辺192、194が湾曲した形状になっている。
【0079】
サブパネル190は、左右一対の側辺192、194が互いに離れる方向に突出するよう湾曲した構成になっている。そして、複数のサブパネル190を組み合わせることで、なだらかな曲面状に膨張可能なサイドパネル132(図3(a)参照)を実現することができる。そして、当該サブパネル190の側辺同士を連結させることによっても、拘束面116側が窄まった形状のサイドパネル132(図3(a)参照)を好適に形成することができる。
【0080】
上記の各例において、組み合わせるサブパネルは、同一形状ではなくともよく、また3つ以上に分割された構成であってもよい。いずれの構成においても、サブパネルの側辺を接合することで、乗員側が窄まった形状のサイドパネル132(図3(a)参照)を好適に実現することができる。
【0081】
上記の各例では、当該エアバッグ装置100の技術的思想をドライバエアバッグとして実施したが、これ以外にも、当該エアバッグ装置100は例えばニーエアバッグとしても実施可能である。エアバッグ装置100をニーエアバッグにした場合でも、テザーを利用した凹部によって、乗員の膝を前方から好適に拘束し、インストルメントパネルへの接触等から保護することができる。また、当該エアバッグ装置100は、後列座席の乗員を拘束するために実施することも可能であり、例えば後列座席の乗員を前方から拘束し、当該乗員を前列座席への接触や前方への飛出しから保護することが可能である。
【0082】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0083】
また、上記実施形態においては本発明にかかるエアバッグ装置を自動車に適用した例を説明したが、自動車以外にも航空機や船舶などに適用することも可能であり、同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、緊急時に乗員を拘束する車両用エアバッグ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
100…エアバッグ装置、102…運転席、104…エアバッグクッション、106…ステアリングホイール、108…リム、110…収容部、112…インフレータ、114…底面、116…拘束面、118…側面、120…凹部、122…テザー、122a…第1テザー、122b…第2テザー、122c…第3テザー、124…底面側パネル、126…内部パネル、128…複合パネル、130…中央パネル、132…サイドパネル、132a~132c…サブパネル、134、135…側辺、136…一辺、138…他辺、140…中間部分、142…テーパ領域、144…本体部、146…フランジ、148…スタッドボルト、150…根本、156…固定領域、157a、157b…ベントホール、158…固定領域、160a…突出部、162…根本、164…最大径部、166…運転者、168…頭部、170…肩、172…回転、180…サブパネル、182…他辺、190…サブパネル、192、194…側辺、L1…寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7