(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-23
(45)【発行日】2025-10-31
(54)【発明の名称】スパッタ装置およびスパッタ方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20251024BHJP
【FI】
C23C14/34 U
(21)【出願番号】P 2020115908
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2023-05-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】末次 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野口 憲路
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/126175(WO,A1)
【文献】特開2016-141861(JP,A)
【文献】特開2003-342725(JP,A)
【文献】特開2008-050654(JP,A)
【文献】特開2004-266112(JP,A)
【文献】特開2019-099907(JP,A)
【文献】上田祥平、ほか6名,対向ターゲット式スパッタ装置によるCrAlN薄膜の作製,日本金属学会北陸信越支部・日本鉄鋼協会北陸信越支部連合講演会概要集,日本,2007年,Page.104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にターゲット材と基板とを互いに対向して配置可能な真空チャンバーと、
前記ターゲット材と電気的に接続可能な直流電源と、
前記真空チャンバー内に窒素ガスを含む成膜ガスを導入するガス供給源と、
前記直流電源から前記ターゲット材に流れる電流をパルス化するパルス化ユニットと、
前記真空チャンバー内に発生するプラズマを観察するビューポートと、
前記プラズマの発光スペクトルを検出する分光器と、
検出した前記発光スペクトルの特性ピークの位置と強度から前記ターゲット材と窒素ガスとを含む成膜ガスの発光強度比を算出する発光スペクトル演算器と、
算出した前記成膜ガスの前記発光強度比を元に前記パルス化ユニットにパルスのON/OFF時間を設定するパルス制御器と、
を備え、
前記ターゲット材として
Si及びCrを含む2元以上の組成の焼結合金ターゲット材料を用いて、前記真空チャンバー内でプラズマを生成し、
前記発光スペクトル演算器は、測定した前記プラズマの発光ピークの現在値の発光強度を事前に記録した基準値となるプラズマ状態の発光強度の値で規格化した発光強度とし、
前記パルス制御器において、前記成膜ガス全体における現在値の窒素の発光強度比を算出すると共に、前記窒素の発光強度比が前記基準値と前記現在値との差を最小とするように、パルスON時間をフィードバック制御し、
さらに
、前記Siと前記Crの合計発光強度比に対する前記
Siの発光強度比の前記現在値と前記基準値との差が所定範囲より大きい場合には、
前記Siと前記Crの合計発光強度比に対する前記
Siの発光強度比の前記現在値を前記基準値に近づけるように、
前記パルスON時間をフィードバック制御して、
前記パルスON時間を5μsec以上長く変化させる場合には、窒素ガス流量を0.1sccm減らし、前記パルスON時間を5μsec以上短く変化させる場合には、窒素ガス流量を0.1sccm増やして、前記基板上にSiと
Crと窒素を含む3元以上の組成の窒化物薄膜を形成する、スパッタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタ装置を利用するスパッタ方法であって、
前記パルス化ユニットにパルスのON/OFF時間を設定して、窒化物薄膜に含まれる2元以上の金属の組成比を変化させる、
スパッタ方法。
【請求項3】
請求項1に記載のスパッタ装置を利用するスパッタ方法であって、
前記真空チャンバー内で生成したプラズマを前記分光器で測定するステップと、
測定した前記プラズマの発光ピークの現在値の発光強度を事前に記録した基準値となるプラズマ状態の発光強度の値で規格化した発光強度とするステップと、
前記成膜ガス全体における現在値の窒素の発光強度比を算出するステップと、
前記窒素の発光強度比が前記基準値と前記現在値との差を最小とするように、パルスON時間をフィードバック制御するステップと、
前記Siと前記Crの合計発光強度比に対する前記
Siの発光強度比の前記現在値と前記基準値との差が所定範囲より大きい場合には、
前記Siと前記Crの合計発光強度比に対する前記
Siの発光強度比の前記現在値を前記基準値に近づけるように、
前記パルスON時間をフィードバック制御
して、前記パルスON時間を5μsec以上長く変化させる場合には、窒素ガス流量を0.1sccm減らし、前記パルスON時間を5μsec以上短く変化させる場合には、窒素ガス流量を0.1sccm増やす、ステップと、
を含む、スパッタ方法。
【請求項4】
内部に
Si及びCrを含む2元以上の組成のターゲット材と基板とを互いに対向して配置可能な真空チャンバーを用意するステップと、
前記ターゲット材と電気的に接続するステップと、
前記真空チャンバー内に窒素ガスを含む成膜ガスを導入するステップと、
前記真空チャンバー内に発生するプラズマの発光スペクトルを検出するステップと、
検出した前記発光スペクトルの特性ピークの位置と強度から前記ターゲット材と窒素ガスとを含む成膜ガスの発光強度比を算出するステップと、
算出した前記成膜ガスの前記発光強度比を元にパルスのON/OFF時間を設定して前記ターゲット材に流れる電流をパルス化するステップと、
を含み、
前記成膜ガスの発光強度比を算出するステップにおいて、検出した前記発光スペクトルの窒素の特性ピークの現在値の発光強度について、事前に記録した基準値となるプラズマ状態の窒素の発光強度の値で規格化した現在値の窒素の発光強度を算出し、
前記成膜ガス全体における窒素の発光強度比が前記基準値と前記現在値との差を最小とするように、パルスON時間をフィードバック制御するステップと、
前記Siと前記Crの合計発光強度比に対する前記
Siの発光強度比の前記現在値と前記基準値との差が所定範囲より大きい場合には、
前記Siと前記Crの合計発光強度比に対する前記
Siの発光強度比の前記現在値を前記基準値に近づけるように、
前記パルスON時間をフィードバック制御して、
前記パルスON時間を5μsec以上長く変化させる場合には、窒素ガス流量を0.1sccm減らし、前記パルスON時間を5μsec以上短く変化させる場合には、窒素ガス流量を0.1sccm増やす、ステップと、
をさらに含む、スパッタ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハなどの基板に対する窒化物抵抗体薄膜の成膜を行う、スパッタ装置およびスパッタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に薄膜を形成し所望のパターンに形成した、抵抗やサーミスタなどのデバイスにおいて、近年、より高い抵抗レンジが求められるようになり、ニクロムなどの合金系材料に比べ高比抵抗である窒化物薄膜の形成技術への必要性が高まっている。
【0003】
窒化物薄膜の形成は、一般的に、生産速度や生産安定性の観点から、原料となるターゲット材料と反応ガスとを反応させて堆積する反応性スパッタを用いることが多い。
従来、反応ガスである窒素の流量と成膜圧力で窒化度を制御するスパッタ方法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
そこで、
図12を主として参照しながら、従来の反応性スパッタ法について説明する。ここに、
図12は、従来の反応性スパッタ装置の概略断面図である。真空チャンバー1は、バルブ3を介して接続された真空ポンプ2で排気することによって減圧を行って、真空状態にすることができる。ガス供給源4は、窒素を含むガスを真空チャンバー1へ一定速度で供給することができる。バルブ3は、その開閉率を変化させることで、真空チャンバー1内の真空度を所望のガス圧力に制御することができる。真空チャンバー1内には、ターゲット材7が配置されている。バッキングプレート8は、ターゲット材7を支持している。直流電源30はバッキングプレート8に電気的に接続され、バッキングプレート8を介してターゲット材7に電圧を印加することにより、真空チャンバー1内の一部のガスが解離し、プラズマを発生させることができる。真空チャンバー1内には、ターゲット材7に対向して、基板6が配置されている。基板ホルダー5は、基板6の下部に配置され、基板6を支持する。
【0005】
真空チャンバー1内に発生させたプラズマによってターゲット材7がスパッタリングされて飛び出し、基板6に到達してターゲット材7の薄膜が堆積する。それと同時に、真空チャンバー内のガスおよびプラズマが、基板上に堆積されつつあるターゲット材7と反応することで、窒化物薄膜を得る。
【0006】
窒化物薄膜に含まれる窒素の割合は、抵抗デバイスで重要となる比抵抗やその温度係数(TCR)といった電気物性と相関があり、電気物性が所望の値となる様にガス供給源4から供給するガスを、薄膜と反応する窒素と、薄膜と反応しないアルゴンなどの不活性なガスとの混合比などで調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述された従来の反応性スパッタ装置(
図12参照)については、ガス流量を設定するマスフローコントローラの分解能の限界から、薄膜の窒化度を精密に制御することが難しく、薄膜の比抵抗や温度係数TCRを所望の値に精度よく合わせこむのが難しく安定して生産することが難しい。
【0009】
また、より高比抵抗が得られる3元以上の窒化物薄膜、例えば3元の場合、金属A-金属Bx-窒素Nyを形成する場合には、ターゲット材7として金属AB合金を用いるが、AB比によっても比抵抗やTCRが異なる。すなわち、窒化度yだけでなくAB比xについても精密に制御する必要があるが、原材料であるターゲット材7のAB比xがターゲットの製造時にばらつきがある場合は電気特性も変化してしまう。さらに、ターゲット材7が消耗した際にAB比xが変化して電気特性も変化してしまうことがあり、さらに安定した生産が難しいといった問題があった。
【0010】
本発明は、上述された従来の問題点を考慮し、窒化物薄膜の組成比が高精度に制御可能で、安定して成膜することが可能なスパッタ装置およびスパッタ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るスパッタ装置は、内部にターゲット材と基板とを互いに対向して配置可能な真空チャンバーと、
前記ターゲット材と電気的に接続可能な直流電源と、
前記真空チャンバー内に窒素ガスを含む成膜ガスを導入するガス供給源と、
前記直流電源から前記ターゲット材に流れる電流をパルス化するパルス化ユニットと、
を備え、
前記ターゲット材として2元以上の組成の焼結合金ターゲット材料を用いて、前記真空チャンバー内でプラズマを生成して前記基板上に窒素を含む3元以上の組成の窒化物薄膜を形成する。
【0012】
本発明に係るスパッタ方法は、内部にターゲット材と基板とを互いに対向して配置可能な真空チャンバーを用意するステップと、
前記ターゲット材と電気的に接続するステップと、
前記真空チャンバー内に窒素ガスを含む成膜ガスを導入するステップと、
前記真空チャンバー内に発生するプラズマの発光スペクトルを検出するステップと、
検出した前記発行スペクトルの特性ピークの位置と強度から前記ターゲット材料と窒素ガスとを含む成膜ガスの発光強度比を算出するステップと、
算出した前記成膜ガスの前記発光強度比を元にパルスのON/OFF時間を設定して前記ターゲット材に流れる電流をパルス化するステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るスパッタ装置及びスパッタ方法によれば、3元以上の窒化物薄膜の組成をパルス放電の条件によって精密に制御可能となる。このため、所望の比抵抗とTCRに微調整可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1に係るスパッタ装置の構成を示す概略断面図である。
【
図2】(a)は、比較例1のN
2ガス流量比と比抵抗との関係を示すグラフであり、(b)は、(a)のグラフの一部を拡大した部分拡大図である。
【
図3】(a)は、比較例1のN
2ガス流量比とTCRとの関係を示すグラフであり、(b)は、(a)のグラフの一部を拡大した部分拡大図である。
【
図4】(a)は、実施例1に係るスパッタ方法において、パルスON時間と比抵抗との関係を示すグラフであり、(b)は、(a)のグラフの一部を拡大した部分拡大図である。
【
図5】(a)は、実施例1に係るスパッタ方法において、パルスON時間とTCRとの関係を示すグラフであり、(b)は、(a)のグラフの一部を拡大した部分拡大図である。
【
図6】実施例1に係るスパッタ方法において、パルスON時間とCrSi合金におけるSi組成比との関係を示すグラフである。
【
図7】実施の形態2に係るスパッタ装置の構成を示す概略断面図である。
【
図8】(a)は、実施の形態2に係るスパッタ方法において、プラズマの発光スペクトルの測定例を示す図であり、(b)は、Siの発光ピーク及び周辺の発光スペクトルの部分拡大図であり、(c)は、Crの発光ピーク及び周辺の発光スペクトルの部分拡大図であり、(d)は、N
2の発光ピーク及び周辺の発光スペクトルの部分拡大図であり、(e)は、Arの発光ピーク及び周辺の発光スペクトルの部分拡大図である。
【
図9】実施の形態2で成膜した窒化物薄膜の比抵抗とTCRを示す図である。
【
図10A】実施例3に係るスパッタ方法において、N
2ガス流量とTCRとの関係を示すグラフであって、パルスON時間を最小から最大まで制御する場合を示す図である。
【
図10B】実施例3に係るスパッタ方法において、N
2ガス流量と比抵抗との関係を示すグラフであって、パルスON時間を最小から最大まで制御する場合を示す図である。
【
図11A】実施例4に係るスパッタ方法において、パルスON時間とN
2発光強度比との関係を示すグラフであって、N
2ガス流量を変化させる場合を示す図である。
【
図11B】実施例4に係るスパッタ方法において、パルスON時間とSiの発光強度比との関係を示すグラフであって、N
2ガス流量を変化させる場合を示す図である。
【
図12】従来のスパッタ装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の態様に係るスパッタ装置は、内部にターゲット材と基板とを互いに対向して配置可能な真空チャンバーと、
前記ターゲット材と電気的に接続可能な直流電源と、
前記真空チャンバー内に窒素ガスを含む成膜ガスを導入するガス供給源と、
前記直流電源から前記ターゲット材に流れる電流をパルス化するパルス化ユニットと、
を備え、
前記ターゲット材として2元以上の組成の焼結合金ターゲット材料を用いて、前記真空チャンバー内でプラズマを生成して前記基板上に窒素を含む3元以上の組成の窒化物薄膜を形成する。
【0016】
第2の態様に係るスパッタ装置は、上記第1の態様において、前記真空チャンバー内に発生するプラズマを観察するビューポートと、
前記プラズマの前記発光スペクトルを検出する分光器と、
検出した前記発光スペクトルの特性ピークの位置と強度から前記ターゲット材料と窒素ガスとを含む成膜ガスの発光強度比を算出する発光スペクトル演算器と、
算出した前記成膜ガスの前記発光強度比を元に前記パルス化ユニットにパルスのON/OFF時間を設定するパルス制御器と、
をさらに備えてもよい。
【0017】
第3の態様に係るスパッタ方法は、上記第1又は第2の態様に係るスパッタ装置を利用するスパッタ方法であって、
前記パルス化ユニットにパルスのON/OFF時間を設定して、窒化物薄膜に含まれる2元以上の金属の組成比を変化させる。
【0018】
上記構成によれば、ターゲット材のロットによって組成が異なる場合や、長時間成膜してターゲット材が消耗しても、プラズマの発光スペクトルからターゲット材の状況に応じてガス流量とパルス条件を変更できる。そこで、電気特性のバラツキが最小限に抑制されるので、例えば、窒化物抵抗薄膜を安定して成膜することが可能となる。
【0019】
第4の態様に係るスパッタ方法は、上記第2の態様に係るスパッタ装置を利用するスパッタ方法であって、
前記真空チャンバー内で生成したプラズマを前記分光器で測定するステップと、
測定した前記プラズマの発光ピークの現在値の発光強度を事前に記録した基準値となるプラズマ状態の発光強度の値で規格化して規格化した発光強度とするステップと、
前記成膜ガス全体における窒素の発光強度比を算出するステップと、
前記窒素の発光強度比が前記基準値と前記現在値との差を最小とするように、パルスON時間をフィードバック制御するステップと、
を含む。
【0020】
第5の態様に係るスパッタ方法は、内部にターゲット材と基板とを互いに対向して配置可能な真空チャンバーを用意するステップと、
前記ターゲット材と電気的に接続するステップと、
前記真空チャンバー内に窒素ガスを含む成膜ガスを導入するステップと、
前記真空チャンバー内に発生するプラズマの発光スペクトルを検出するステップと、
検出した前記発光スペクトルの特性ピークの位置と強度から前記ターゲット材料と窒素ガスとを含む成膜ガスの発光強度比を算出するステップと、
算出した前記成膜ガスの前記発光強度比を元にパルスのON/OFF時間を設定して前記ターゲット材に流れる電流をパルス化するステップと、
を含む。
【0021】
第6の態様に係るスパッタ方法は、上記第5の態様において、前記成膜ガスの発光強度比を算出するステップにおいて、検出した前記発光スペクトルの窒素の特性ピークの現在値の発光強度について、事前に記録した基準値となるプラズマ状態の窒素の発光強度の値で規格化して規格化した窒素の発光強度を算出し、
前記成膜ガス全体における窒素の発光強度比が前記基準値と前記現在値との差を最小とするように、パルスON時間をフィードバック制御するステップをさらに含んでもよい。
【0022】
以下、図面を参照しながら、実施の形態に係るスパッタ装置及びスパッタ方法について詳細に説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0023】
(実施の形態1)
まず、
図1を主として参照しながら、実施の形態1のスパッタ装置10の構成について説明する。
図1は、実施の形態1に係るスパッタ装置10の構成を示す概略断面図である。
このスパッタ装置10は、真空チャンバー1と、直流電源30と、パルス化ユニット32と、パルス制御器41と、を備える。真空チャンバー1には、内部にターゲット材7と基板6とを互いに対向して配置可能である。直流電源30は、ターゲット材7と電気的に接続可能である。パルス化ユニット32によって、直流電源30からターゲット材7に流れる電流をパルス化する。パルス制御器41によって、パルスON時間とパルスOFFの時間をパルス化ユニット32に設定する。
この実施の形態1に係るスパッタ装置10によれば、3元以上の窒化物薄膜の組成をパルス制御器41によるパルス放電の条件によって精密に制御可能となる。このため、所望の比抵抗とTCRに微調整可能となる。
【0024】
以下に、このスパッタ装置10を構成する各構成部材について説明する。
【0025】
<真空チャンバー>
真空チャンバー1は、バルブ3を介して接続された真空ポンプ2で排気することによって、真空状態への減圧を行うことができる。
【0026】
<ガス供給源>
ガス供給源4は、ガスボンベ等のガス源と、マスフローコントローラ等の流量制御器で構成され、スパッタに必要なガスを真空チャンバー1へ一定速度で供給することができる。ガス供給源4で供給するガスは、例えば窒素や酸素など目的の材料と反応性を持ったガスや、反応性を持ったガスとアルゴンなどの希ガスとの混合ガスなどが選択できる。
【0027】
<バルブ>
バルブ3は、その開閉率を変化させることで、真空チャンバー1内の真空度を所望のガス圧力に制御することができる。
【0028】
<ターゲット材>
図1において、真空チャンバー1内の上部には、ターゲット材7が配置されている。ターゲット材7は、2元以上の組成の金属材料であり、例えば高比抵抗の材料としては、シリコンと遷移金属との組み合わせを選択することが可能である。例えば、2元合金ABの金属Aとしてシリコン、金属Bとしてタンタル、ニオブ、クロムなどを選択することが可能である。なお、ターゲット材7の導電体である範囲で酸素を含むこともできる。これは、原材料の金属のアトマイズ粉を焼結したターゲットに含有する微量の酸素も含まれる。
【0029】
<バッキングプレート>
バッキングプレート8は、ターゲット材7を支持している。
【0030】
<直流電源>
直流電源30は、パルス化ユニット32と、バッキングプレート8とを介して、ターゲット材7に電気的に接続され、ターゲット材7に電圧を印加することができる。
【0031】
<パルス化ユニット>
パルス化ユニット32は、直流電源30によって発生した直流電流を、内蔵するコンデンサ等に蓄積し、内蔵する半導体スイッチング素子等によりオン、オフして、パルス化することができる。オン、オフのスイッチングはデジタル値として設定可能な構成を選択可能であり、時間設定の分解能は、例えば、1μ秒以下とすることが出来る。
【0032】
<パルス制御器>
パルス制御器41は、プラズマを発生させるパルス条件と、薄膜の電気物性との、関係に基づいて、パルス化ユニット32へ指示するパルスのオン時間、オフ時間を制御する。
【0033】
<マグネット及びヨーク>
マグネット11およびヨーク12は、バッキングプレート8の裏面に配置され、ターゲット材7の表面において磁場を発生させることができる。マグネット11は1つ以上であればよい。なお、マグネット11は、永久磁石、電磁石のいずれであってもよい。ヨーク12は、マグネット11の一端と接続されており、磁気回路を構成し、ターゲット材7と反対側への不要な磁場の漏洩を抑制できる。マグネット11およびヨーク12により、ターゲット材7の平面に対する平行磁場が最大となる位置にプラズマを集中させて、成膜速度を向上させている。なお、このプラズマが集中する位置をエロージョンと呼ぶ。また、エロージョンが特定の位置に集中するとターゲット材7の一部だけが消耗し、材料を効率的に利用できないため、マグネット11とヨーク12を、マグネット回転機構20によってターゲット材7の面に対して平行に移動して、エロージョン位置を移動させてもよい。
【0034】
<基板及び基板ホルダー>
図1において真空チャンバー1内の下部には、ターゲット材7と対向として基板6が配置されている。基板ホルダー5は、基板6の下部に配置され、基板6を支持する。
【0035】
(スパッタ装置の動作)
次に、本実施の形態1に係るスパッタ装置10の動作について説明するとともに、本実施の形態1に係るスパッタ方法についても説明する(他の実施の形態2についても同様である)。
(1)まず、真空チャンバー1にターゲット材7をセットするとともに、基板6をターゲット材7の下方に略水平にセットする。
(2)次に、真空ポンプ2を作動させて真空チャンバー1内が真空状態になるように減圧を行い、所定の真空度に到達した後、ガス供給源4からガスを導入し、所定のガス圧力となるようにゲートバルブ3の開度を調整する。
(3)次いで、直流電源30により電圧を発生させ、パルス化ユニット32により所定のオン時間、オフ時間でスイッチングすることでパルス化させて、ターゲット材7にパルス化した電圧を印加し、真空チャンバー1内にプラズマを発生させる。
(4)真空チャンバー1内に発生させたパルス状のプラズマによってターゲット材7がスパッタリングされて飛び出し、基板6に到達してターゲット材料を構成する元素を含む薄膜が堆積する。それと同時に、真空チャンバー1内のガスおよびプラズマが、基板6上に堆積されつつあるターゲット材料と反応する。また、電圧印加のオフの時間に、真空チャンバー1内のガスおよびプラズマが、基板6上に堆積したターゲット材料と反応することで、緻密なターゲット材料とガスとが反応した化合物の薄膜が形成される。
一連のパルス成膜を所定の回数繰り返すことで、基板6の上に窒化物薄膜が堆積する。
【0036】
(比較例1)
比較例1では、
図12に示す従来例の構成、すなわち直流電源30を直接ターゲット材7に接続した構成で、窒化物薄膜を成膜した。このとき、成膜条件を、到達真空度1×10
-4Pa以下、成膜圧力0.45Pa、直流電源30の電力100Wで固定し、Arガス流量を15sccm、窒素ガスの流量を3.0sccmから5.5sccmの範囲で変化させた条件で、ガラス基板上に成膜した。この際、3.8sccmから4.2sccmまでの範囲は、使用したマスフローコントローラの最小分解能である0.1sccm毎に変化させた条件で成膜した。
【0037】
(実施例1)
実施例1では、実施の形態1の構成で、窒化物薄膜を成膜した。このとき、成膜条件を、到達真空度1×10-4Pa以下、成膜圧力0.45Pa、直流電源30の電力100Wで、Arガス流量を15sccm、窒素ガスの流量を4.1sccmで固定し、パルス周期(=パルスON時間+パルスOFF時間)を100μsecとして、パルスONの時間を使用したパルスコントローラの最小分解能である1μsec毎に変化させた条件で、抵抗測定用の試料はガラス基板上に成膜した。また一部の条件では、組成分析用の試料としてSiを含まないサファイア基板上に成膜した。
【0038】
図2(a)は、比較例1のN
2ガス流量比と比抵抗との関係を示すグラフであり、
図2(b)は、
図2(a)のグラフの一部を拡大した部分拡大図である。
図3(a)は、比較例1のN
2ガス流量比とTCRとの関係を示すグラフであり、
図3(b)は、
図3(a)のグラフの一部を拡大した部分拡大図である。
図4(a)は、実施例1に係るスパッタ方法において、パルスON時間と比抵抗との関係を示すグラフであり、
図4(b)は、
図4(a)のグラフの一部を拡大した部分拡大図である。
図5(a)は、実施例1に係るスパッタ方法において、パルスON時間とTCRとの関係を示すグラフであり、
図5(b)は、
図5(a)のグラフの一部を拡大した部分拡大図である。
【0039】
なお、成膜した薄膜試料の膜厚は触針式の段差計を用いて測定し、シート抵抗値は四探針法で測定し、シート抵抗[Ω/□]×膜厚[cm]=比抵抗[Ω・cm]として算出した。また、試料をホットプレート上で加熱した状態で同様の抵抗測定を行い、温度に対する抵抗値変化の傾きΔR÷R0÷ΔT[ppm/℃]を算出した。抵抗測定する温度は40℃、75℃、110℃とし、40℃での抵抗値をR0としてTCRを算出した。また、実施例1の組成分析用の試料は、蛍光X線(XRF)を用いファンダメンタルパラメータ法(FP法)でSiとCrの組成比を測定した。
【0040】
図2(a)のグラフは、比較例1で成膜した薄膜抵抗体において、比抵抗のN
2流量3.0sccmから5.5sccmでの依存性を示すものであり、N
2流量が増加するにつれて比抵抗が増大する傾向であることがわかる。
図2(b)のグラフは、N
2流量3.8sccmから4.2sccmの範囲の部分拡大図である。
図2(b)に示すように、N
2ガス流量を制御するマスフローコントローラの分解能である0.1sccmごとに変化させた場合の比抵抗の制御性を示している。この範囲での、分解能あたりの比抵抗の変化率は20.2%である。なお、分解能あたりの比抵抗の変化率は、
図2(b)のグラフにおいて、測定範囲の下限値のN
2流量3.8sccmでの比抵抗と上限値のN
2流量4.2sccmでの比抵抗との差を、上限値及び下限値の幅0.4sccmをN
2流量の分解能0.1sccmで除した値4(無次元)で除すると共に、中央値のN
2流量4.0sccmでの比抵抗で除して規格化した値である。
【0041】
図3(a)のグラフは、比較例1で成膜した薄膜抵抗体において、TCRのN
2流量3.0sccmから5.5sccmでの依存性であり、N
2流量が増加するにつれてTCRは負の絶対値が増大する傾向であることがわかる。
図3(b)のグラフは、N
2流量3.8sccmから4.2sccmの範囲の部分拡大図であり、N
2ガス流量を制御するマスフローコントローラの分解能である0.1sccm毎に変化させた場合のTCRの制御性を示している。この範囲での、分解能あたりのTCRの変化率は19.5%である。なお、分解能あたりのTCRの変化率は、
図3(b)のグラフにおいて、測定範囲の下限値のN
2流量3.8sccmでのTCRと上限値のN
2流量4.2sccmでのTCRとの差を、上限値及び下限値の幅0.4sccmをN
2流量の分解能0.1sccmで除した値4(無次元)で除すると共に、中央値のN
2流量4.0sccmでのTCRで除して規格化した値である。
【0042】
図4(a)のグラフは、実施例1で成膜した薄膜抵抗体において、比抵抗のN
2流量を4.1sccm、パルスの周期を100μsecの場合の、パルスON時間が10μsecから100μsecでの依存性であり、パルスのON時間が増加するにつれて比抵抗が増大する傾向であることがわかる。
図4(b)のグラフは、パルスのON時間が48μsecから52μsecの範囲の部分拡大図であり、パルスを制御するパルス化ユニット32の時間分解能である1μsec毎に変化させた場合の比抵抗の制御性を示している。この範囲での、分解能あたりの比抵抗の変化率は2.7%である。なお、分解能あたりの比抵抗の変化率は、測定範囲の下限値のパルスのON時間の48μsecでの比抵抗と上限値のパルスのON時間の52μsecでの比抵抗との差を、上限値及び下限値の幅4μsecをパルスのON時間の分解能1μsecで除した値4(無次元)で除すると共に、中央値のパルスのON時間の50μsecでの比抵抗で除して規格化した値である。
【0043】
図5(a)のグラフは、実施例1で成膜した薄膜抵抗体において、比抵抗のパルスON時間が10μsecから100μsecでの依存性であり、パルスのON時間が増加するにつれてTCRは負の絶対値が増大する傾向であることがわかる。
図5(b)のグラフは、パルスのON時間が48μsecから52μsecの範囲の拡大図であり、パルスを制御するパルス化ユニット32の時間分解能である1μsec毎に変化させた場合のTCRの制御性を示している。この範囲での、分解能あたりのTCRの変化率は0.5%である。なお、分解能あたりのTCRの変化率は、測定範囲の下限値のパルスのON時間の48μsecでのTCRと上限値のパルスのON時間の52μsecでのTCRとの差を、上限値及び下限値の幅4μsecをパルスのON時間の分解能1μsecで除した値4(無次元)で除すると共に、中央値のパルスのON時間の50μsecでのTCRで除して規格化した値である。
【0044】
図6は、実施例1に係るスパッタ法において、パルスON時間とCrSi合金におけるSi組成比との関係を示すグラフである。
図6に示すように、パルスのON時間が増加するにつれSi比=Si/(Si+Cr)が下がる傾向であることがわかる。この範囲での、Si比の変化率は-0.016%/μsecである。パルスON時間の分解能である1μsec程度では影響が小さいが、10μsecから70μsecまで変化させた場合、Si比をΔ1.1%の幅で微調整させることが可能である。
【0045】
これらによれば、このパルススパッタ装置10において、N2ガス流量を制御するよりも、パルスON時間を制御することによって、電気特性である比抵抗及びTCRを細かく制御することができることがわかった。つまり、パルスON時間は、比抵抗及びTCRを制御するための分解能が高い。そこで、パルスON時間、パルスOFF時間で、精密に調整して成膜することが可能となり、より高精度なサーミスタや抵抗デバイスを形成することが可能となる。
【0046】
また、ターゲット材7の合金組成が、製造上のバラツキ等により1%未満の範囲でずれている場合でもパルスON時間の条件を変更することで対応することができる。
なお、抵抗デバイスなどで、TCRを零としたい場合には、成膜後に温度300℃~600℃、処理時間1時間~5時間程度の熱処理によりTCRが負から正に変化することを利用して、所定の温度と時間で熱処理を行うことでTCRを調整することが出来る。
【0047】
(実施の形態2)
次に、
図7を主として参照しながら、実施の形態2に係るスパッタ装置10aの構成について説明する。
ここに、
図7は、実施の形態2に係るスパッタ装置10aの構成を示す概略断面図である。
図7に関しては、
図1に示されている部分と同じまたは相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
図7においては、真空チャンバー1の側壁にプラズマ発光を真空チャンバー外から観察するビューポート50と、プラズマ発光のスペクトルを観測する分光器51と、発光スペクトルからプラズマの成分比を算出する発光スペクトル演算器52と、が配置されている。このスパッタ装置10aでは、実施の形態1に係るスパッタ装置と対比すると、パルス制御器41には、発光スペクトル演算器52が接続され、得られたプラズマの成分比に基づいてパルス条件をフィードバック制御させることができる点で相違する。
【0048】
<プラズマの発光スペクトルの計測>
プラズマの発光スペクトルの計測について説明する。真空チャンバー1内に発生させたパルス状のプラズマの発光強度は、パルス化ユニット32で設定可能な50μsec~1msec程度の周期で変動している。また、材料を効率的に利用するために、マグネット11とヨーク12を、マグネット回転機構20によって移動させ、エロージョン位置を移動させている場合、プラズマの空間的な位置が移動するため、ビューポート50から検出されるプラズマの発光強度も変動することになる。マグネット11の回転周期は0.1sec~10sec程度である。そのため、分光器51で測定する際の積算時間は、少なくともパルス状のプラズマの変動周期よりも長く設定する必要がある。また、マグネット11の回転周期と一致させることが望ましく、マグネット11の回転による発光強度の時間変動を観測し最大値となるタイミングで計測してもよい。
【0049】
<発光強度比の計算>
プラズマの発光強度比の計算について、発光スペクトルの例を用いて説明する。
図8(a)の発光スペクトルは、ターゲット材7としてCr
30Si
70合金を用い、Ar流量16sccm、N
2流量4sccm、パルスON時間100μsec、パルスOFF時間100μsecの条件でのプラズマの発光を、分光器51により露光時間1msecで測定した結果である。
図8(a)に示す通り、プラズマの発光スペクトルには多数の発光ピークがある。これらの発光ピークは、Ar(
図8(e))やN
2(
図8(d))といったガス粒子や、Cr(
図8(c))やSi(
図8(b))などのスパッタ粒子が、プラズマを構成する電子などの荷電粒子との衝突により励起して発光したものである。つまり、発光ピークは、それぞれの原子や分子特有のエネルギー準位に対応した複数の波長のピークを持つ。そこで、比較的強い発光ピークを持ち、それぞれの原子、分子の発光ピークが重なっておらず判別することが出来るピークという条件で選択する。例えば、Siは288.2nm、Crイオンは357.8nm、N
2分子イオンは391.4nm、Arイオンは811.4nmが選択される。
(A)まず、それぞれのピーク位置でのカウント数を集計し、Arのカウント数で他のピークSi、Cr、N
2を除して現在値の発光強度とし、それぞれI
1(Si)、I
1(Cr)、I
1(N
2)とする。
(B)次に、Ir
1(N
2)=I
1(N
2)/(I
1(Si)+I
1(Cr)+I
1(N
2))をN
2の発光強度比する。また、Ir
1(Si)=I
1(Si)/(I
1(Si)+I
1(Cr))をSiとCrの発光強度比とする。
(C)次に、事前に記録した基準値とするプラズマ状態のN
2の発光強度比Ir
0(N
2)、SiとCrの発光強度比Ir
0(Si)で除し、規格化したN
2の発光強度比I
N2=Ir
1(N
2)/Ir
0(N
2)、規格化したSiとCrの発光強度比I
Si=Ir
1(Si)/Ir
0(Si)とする。
【0050】
(実施例2)
実施例2では、実施の形態2に係るスパッタ装置の構成にて、以下の成膜条件で窒化物薄膜を成膜した。このとき、成膜条件を、到達真空度1×10-4Pa以下、成膜圧力0.45Pa、直流電源30の電力100Wで、Arガス流量を15sccm、窒素ガスの流量を4.1sccmで固定した。また、パルス周期(=パルスON時間+パルスOFF時間)を201μsecとして、初回の成膜時はパルスON時間97μsecでプラズマ放電させ、分光器51での観測データを元に、発光スペクトル演算器52で算出されたN2発光強度比を基準のデータとして記録し、成膜した。次回の成膜はパルス周期(=パルスON時間+パルスOFF時間)を201μsecとして、パルスON時間は前回設定値の97μsecを中心にパルスコントローラの最小分解能である1μsec毎に変化させ、記録したN2発光強度比との差が最小となるパルスON時間に設定して成膜し、全体として成膜実験を3回行った。
【0051】
(比較例2)
比較例2では、実施の形態2に係るスパッタ装置の構成にて、実施例2とは以下のように成膜条件を変えて窒化物薄膜を成膜した。このとき、成膜条件を、到達真空度1×10-4Pa以下、成膜圧力0.45Pa、直流電源30の電力100Wで、Arガス流量を15sccm、窒素ガスの流量を4.1sccmで固定した。また、パルス周期(=パルスON時間+パルスOFF時間)を201μsecとして、パルスON時間100μsecに固定した条件で固定して、すなわちプラズマ発光強度比をパルス条件にフィードバックさせずに、成膜実験を2回行った。
【0052】
上記の条件で成膜した実施例2と比較例2のプラズマ発光強度比、比抵抗、TCRの結果を
図9に示す。なお、比抵抗とTCRの評価方法は実施例1と同様である。
【0053】
実施例2において、基準値のN2発光強度比との差が最小となるようにパルス条件を微調整した結果、N2発光強度比の変化はΔ0.5%、Si発光強度比の変化はΔ0.3%となっており、その結果、比抵抗の変動はΔ0.9%、TCRの変動はΔ0.1%に抑えられていることがわかる。
【0054】
比較例2においては、成膜条件を固定して成膜した結果、N2発光強度比の変化はΔ3.9%、Si発光強度比の変化はΔ0.3%となっており、その結果、比抵抗の変動はΔ7.4%、TCRの変動はΔ3.5%となっていることがわかる。
【0055】
これらによれば、パルススパッタ装置10aにおいて、発光強度比の変化が最小限に抑制され、その結果、比抵抗とTCRの変動を抑制することが可能となり、高品質の膜を長期間安定して成膜することが可能となる。
【0056】
(実施例3)
図10Aは、実施例3に係るスパッタ方法において、N
2ガス流量とTCRとの関係を示すグラフであって、パルスON時間を最小から最大まで制御する場合を示す図である。
図10Bは、実施例3に係るスパッタ方法において、N
2ガス流量と比抵抗との関係を示すグラフであって、パルスON時間を最小から最大まで制御する場合を示す図である。
【0057】
図10A及び
図10Bは、あるターゲット材料の組成を想定して、パルスON時間の条件と、N
2ガス流量の条件に対して、TCR、比抵抗の傾向をまとめたグラフである。このようなグラフ、つまり、データのテーブルを持っておくことで、TCR、比抵抗を目標値となる様に精密に条件設定して成膜可能である。
図10A及び
図10Bにおいて、横軸はN
2ガス流量であり、ガス流量の分解能は大きく粗いのでグラフは階段状である。また、3種のプロット●▲■は、パルスON時間の違いである。パルスON時間の分解能は小さく精密に設定できるので、実際には3段階でなく50段階以上に設定できる。つまり、同じガス流量の条件でもパルスON時間を変化させると、比抵抗、TCRを細かく変化させることが出来る。
【0058】
(調整例1)
例えば、調整例1として、目標値のTCRに調整する場合を考える。
図10Aに示すように、TCRは、N
2ガス流量が増加するとマイナス側に変化し、パルスON時間を減少させるとプラス側に変化する傾向であることがわかる。
そこで、例えば、TCRが目標値を下回るN
2ガス流量を設定し、パルスON時間を最大値から減少させる方向で変化させ、目標値との差が最小となるパルスON時間を設定すればよい。
【0059】
なお、パルスON時間単独で変化させるのでなく、パルスONのデューティ比を変化させてもよい。デューティ比=ON時間/(ON時間+OFF時間)であり、変化させる傾向は同じである。デューティ比で変化させる場合には、パルスの周波数が一定なので、プラズマ放電の安定性が向上する場合がある。
比抵抗は、
図10Bのグラフに示す通り、TCRの場合とは正負が逆の傾向であり、
調整方向も逆に変化させればよい。そこで、説明を省略する。
【0060】
(実施例4)
図11Aは、実施例4に係るスパッタ方法において、パルスON時間とN
2発光強度比との関係を示すグラフであって、N
2ガス流量を変化させる場合を示す図である。
図11Bは、実施例4に係るスパッタ方法において、パルスON時間とSiの発光強度比との関係を示すグラフであって、N
2ガス流量を変化させる場合を示す図である。
【0061】
図11A及び
図11Bは、あるCr-Siターゲット組成での、パルスON時間の条件と、N
2ガス流量の条件に対して、N発光比、Si発光比の結果をまとめたグラフである。
N発光比のパルスON時間に対する変化率は0.31%/μsecであり、N
2流量に対する変化率は0.1sccmあたり2%程度である。一方、Si発光比のパルスON時間に対する変化率は-0.04%/μsecであり、N
2流量に対する変化はこのグラフの範囲ではほとんど考慮しなくてもよい。このようなグラフ、つまり、データのテーブルを持っておくことで、発光比の変化に対して、パルス条件をどのように変化させれば組成比を制御できるかがわかる。
【0062】
(調整例2)
例えば、調整例2として、組成比を一定に調整する場合、例えば、N比がずれた場合を調整する場合について説明する。
プラズマ発光から得られた組成比が一定となる様にパルスON時間を変化させる。具体的には、
図11Aに示すように、N比が低い場合には右上に向かう矢印のようにパルスON時間を長く、N比が高い場合には左下に向かう矢印のようにパルスON時間を短くするように調整する。なお、パルスON時間を変化させると、Si比も変化することとなるが、
図11Bに示すように、Si比の変化率は、N比の変化率と比べて10分の1程度なので、パルスON時間の5μsec程度の調整による影響は少なく、Si比の変化は問題ない。
【0063】
(調整例3)
例えば、調整例3として、組成比を一定に調整する場合、例えば、Si比がずれた場合を調整する場合について説明する。
図11Bに示すように、Si比が低い場合には左上に向かう矢印のようにパルスON時間を短く、Si比が高い場合には右下に向かう矢印のようにパルスON時間を長くするように調整する。なお、パルスON時間を5μsec以上変化させる場合には、N比の変化を無視できないので、N比の変化をキャンセルするためにN
2流量も0.1sccm程度変化させる。つまり、パルスON時間を短くする場合にはN
2流量を0.1sccm程度増やし、パルスON時間を長くする場合には0.1sccm程度減らすように調整する。
以上のように、ターゲット材のロットによって組成が異なる場合や、長時間成膜してターゲット材が消耗しても、プラズマの発光スペクトルからターゲット材の状況に応じてガス流量とパルス条件を変更できる。そこで、電気特性のバラツキが最小限に抑制されるので、例えば、窒化物抵抗薄膜を安定して成膜することが可能となる。
【0064】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係るスパッタ装置およびスパッタ方法は、高抵抗でTCRが零の高精度な抵抗や、TCRが大きく感度の高い高精度のサーミスタ、などの窒化物薄膜デバイスの安定した形成に有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 真空チャンバー
2 ポンプ
3 ゲートバルブ
4 ガス供給源
5 基板ホルダー
6 基板
7 ターゲット材
8 バッキングプレート
10、10a スパッタ装置
11 マグネット
12 ヨーク
20 マグネット回転機構
30 直流電源
32 パルス化ユニット
40 電源制御器
41 パルス制御器
50 ビューポート
51 分光器
52 発光スペクトル演算器