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特許7762905VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-23
(45)【発行日】2025-10-31
(54)【発明の名称】VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/04 20060101AFI20251024BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20251024BHJP
   B01J 23/889 20060101ALI20251024BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20251024BHJP
【FI】
B01J37/04 102
B01J37/08 ZAB
B01J23/889 A
B01D53/86 150
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021167022
(22)【出願日】2021-10-11
(65)【公開番号】P2023057469
(43)【公開日】2023-04-21
【審査請求日】2024-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】趙 井崗
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】王 佩芬
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-179315(JP,A)
【文献】特開2010-058074(JP,A)
【文献】特開2016-117055(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106179173(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0094187(US,A1)
【文献】特開2021-030173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00-38/74
B01D53/73
B01D53/86-53/90
A61L 9/00- 9/22
B01D53/02-53/12
B01D53/14-53/18
B01J20/00-20/28
B01J20/30-20/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VOC除去触媒の製造方法であって、
Mnを含む酸化剤と、Coを含む金属有機構造体とを混合して前駆体を得る工程1、及び、
前記工程1で得られた前駆体を焼成してMnおよびCoを含む複合酸化物を得る工程2、
を備える、VOC除去触媒の製造方法。
【請求項2】
前記複合酸化物は、Mn元素を1~35モル%含有する、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法で得られたVOC除去触媒用いてVOCを分解する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
VOCは、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の略称であり、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、メタノール及びジクロロメタン等が知られている。このようなVOCは、溶剤、接着剤、化学品原料等に広く利用されている反面、VOCは、光化学オキシダント、あるいは、浮遊粒子状物質(SPM)の原因になると指摘されていることから、大気汚染防止法によりその排出量が厳しく規制されている。このため、VOC排出量をさらなる低減すべく、VOCをより効率良く除去する技術の確立が望まれている。
【0003】
VOCを除去する技術としては、触媒酸化による方法が知られている。この方法では、比較的低温でVOC除去が行われる点で最も有望であると考えられている。触媒酸化による方法では、主に遷移金属酸化物が使用されることから、貴金属触媒と比較してコスト面でも有利であり、この観点から遷移金属酸化物の触媒性能を向上させる研究が広く行われている。例えば、特許文献1には、酸化マンガン(IV)を含む材料により、VOCを効率的に除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-147131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のVOC除去触媒は、低温環境化においてはVOCの除去性能が未だ十分ではなく、また、製造にも時間を要するという問題点もあり、実用化を考えると総合的には依然として課題を有するものであった。このような観点から、容易に製造でき、低温であっても効率よくVOCを除去することができる触媒の開発が望まれているのが現状である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、製造が容易であり、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができるVOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のMn系金属酸化物を必須成分とすることにより、あるいは、特定の工程を経て製造されたMn系金属酸化物を必須成分とすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
VOC除去触媒の製造方法であって、
Mnを含む酸化剤と、金属元素Mを含む金属有機構造体とを混合して前駆体を得る工程1、及び、
前記工程1で得られた前駆体を焼成してMnを含む金属酸化物を得る工程2、
を備える、VOC除去触媒の製造方法。
項2
前記金属元素Mが遷移金属及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の製造方法。
項3
前記金属元素MがMn、Ce、La、Sm、Fe、Co、Ni、Cu及びHoからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項2に記載の製造方法。
項4
前記Mnを含む金属酸化物は、Mn元素を1~35モル%含有する、項1~3に記載の製造方法。
項5
VOC除去触媒であって、
少なくともMnを含む金属酸化物を含有し、
前記金属酸化物は、Mn元素を1~35モル%含有し、
前記金属酸化物のBET比表面積が50~500m/gである、VOC除去触媒。
項6
前記金属酸化物は、金属元素M(ただしMnは除く)をさらに含む複合酸化物であり、
前記金属元素Mは遷移金属及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項5に記載のVOC除去触媒。
項7
前記金属元素Mは、Ce、La、Sm、Fe、Co、Ni、Cu及びHoからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項6に記載のVOC除去触媒。
項8
前記複合酸化物は、前記金属元素Mを5~40モル%含有する、項6又は7に記載の製造方法。
項9
項1~4のいずれか1項に記載の製造方法で得られたVOC除去触媒又は項5~8のいずれか1項に記載のVOC除去触媒を用いてVOCを分解する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のVOC除去触媒は、製造が容易であり、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。また、本発明のVOC除去触媒の製造方法は、前述の本発明のVOC除去触媒を簡便な方法製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】VOC除去触媒の評価試験方法のフローを示す概略図である。
図2】実施例1~3及び比較例1~2で得たVOC除去触媒のSEM画像を示す。
図3】実施例1~3及び比較例1~2で得たVOC除去触媒のXRDスペクトルを示す。
図4】実施例1~3及び比較例1~2で得たVOC除去触媒によるVOC除去試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.VOC除去触媒の製造方法
本発明の製造方法は、下記工程1及び工程2を備える。
工程1:Mnを含む酸化剤と、金属元素Mを含む金属有機構造体とを混合して前駆体を得る工程
工程2:前記工程1で得られた前駆体を焼成してMnを含む金属酸化物を得る工程。
【0013】
工程1及び工程2を備える製造方法では金属酸化物を含むVOC除去触媒を製造することができる。斯かるVOC除去触媒は、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができるものである。
【0014】
(工程1)
工程1は、Mnを含む酸化剤(以下、単に「酸化剤」と表記する)と、金属元素Mを含む金属有機構造体(以下、単に「金属有機構造体剤」と表記する)とを混合して前駆体を得るための工程である。具体的に工程1では、金属有機構造体が酸化剤によってエッチングされる。
【0015】
工程1で使用する酸化剤は、例えば、Mnを含み、かつ、酸化作用を有する化合物を広く使用することができ、具体的には、過マンガン酸塩を挙げることができる。中でも、Mnを含む酸化剤は、過マンガン酸カリウム(KMnO、KMnO等)であることが好ましく、KMnOがより好ましい。
【0016】
工程1で使用する金属有機構造体は、金属元素Mを含む限りは特に限定されない。なお、金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)は、金属と有機リガンドが相互作用することで、活性炭やゼオライトをはるかに超える高表面積を有する多孔質の配位ネットワーク構造を備えた三次元ミクロポーラス材料として知られている。
【0017】
金属有機構造体において、金属元素Mとしては各種金属元素を挙げることができる。金属元素Mは、例えば、遷移金属及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、中でも、VOC除去触媒がより低温でVOCを分解できるという点で、金属元素Mは、Mn、Ce、La、Sm、Fe、Co、Ni、Cu及びHoからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Co、Ni及びCuからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Coであることが特に好ましい。
【0018】
金属有機構造体は、金属元素Mを含む限りは、例えば、公知の金属有機構造体を広く挙げることができる。斯かる金属有機構造体の具体例として、金属元素MがCoである場合は、ZIF-67(2-Methylimidazole cobalt salt)、Co(MeIM)(MEIMは2-methylimidazoleを意味する。以下、同じ)、Co-THT(THTはtriphenylene hexathiolを意味する。以下、同じ。)、Co(THT)を挙げることができる。金属元素MがNiである場合は、Ni-BHT(BHTはbenzene hexathiolを意味する。以下、同じ。)、Ni(BTC)(BTCはbenzene tricarboxylateを意味する。以下、同じ。)、Ni-THT(triphenylene hexathiol)を挙げることができる。金属元素MがFeである場合は、Fe-MIL-88A(MILはMetarial sofistitute Lavoisier frameworksを意味する。以下同じ。)、FeO(FA)-(HO)(NO)(FAはfumaric acidを意味する。)、MIL-100、Benzene-1,3,5-tricarboxylate; iron (3+); hydrateを挙げることができる。金属元素MがCuである場合は、Cu-BHT、Cu(BHT)、CuBDC(BDCは1,4-benzenedicarboxylateを意味する。以下、同じ。)を挙げることができる。金属元素MがMnである場合は、Mn-BTCを挙げることができる。金属元素MがMoである場合は、Mo-BTCを挙げることができる。
【0019】
中でも、金属有機構造体は、Coを含むことがより好ましく、ZIF-67が特に好ましい。この場合、本発明の製造方法で得られるVOC除去触媒は、VOCの除去効率が特に優れる。
【0020】
前記金属有機構造体の製造方法は特に限定されず、たとえば、公知の方法を広く採用することができる。具体的には、金属源及び有機配位子との反応によって金属有機構造体を合成することができる。
【0021】
前記金属源は、金属元素M単体又は金属元素Mの化合物もしくはこれらの混合物である。金属元素Mの化合物の種類は特に限定されず、例えば、金属元素Mの無機化合物、塩化物、有機化合物を挙げることができる。金属元素Mの無機化合物としては、例えば、金属元素Mの酸化物、金属元素Mのオキソアニオンを含む化合物(金属酸塩)、金属元素Mの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩素酸塩、過塩素酸塩、クロリド錯体、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができ、中でも、金属元素Mの無機化合物は、硝酸塩であることが好ましい。金属元素Mの有機化合物としては、酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。
【0022】
有機配位子の種類は特に限定されず、遷移金属に配位することができる有機配位子を広く挙げることができる。例えば、配位子として機能することが知られている芳香族系カルボン酸化合物、イミダゾール化合物、アミノ化合物等を挙げることができる。
【0023】
具体的に有機配位子としては、p-ベンゼンジカルボン酸(H2BDC)、o-ベンゼンジカルボン酸、m-ベンゼンジカルボン酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(H4DOBDC)、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(H3BTC)、1,4-ベンゼンジカルボキシレート、2,4,6-トリス(4-カルボキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(H3TATB)、2-アミノテレフタル酸(NH2BDC)、2-メチルイミダゾール(2-MIM)、1-メチルイミダゾール(1-MIM)、1,4-ビス(イミダゾール-1-イル)ベンゼン(1,4-BIB)、4-(イミダゾール-1-イル)フタル酸(H2IPC)、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、4,4’-オキシビス安息香酸、フマル酸、シュウ酸、コハク酸、ビフェニル-3,4’、5-トリカルボン酸(BPTC)、4,4’-ビフェニルジカルボキシレート(BPDC)、2,5-ジオキシドテレフタレート(DOT)等を挙げることができる。
【0024】
金属源及び有機配位子の反応では溶媒を使用することができる。斯かる溶媒は、例えば、水、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒を挙げることができる。
【0025】
金属源及び有機配位子の反応において、金属源及び有機配位子の使用割合も特に限定されず、公知の金属有機構造体の製造方法と同様とすることができる。例えば、金属源の濃度が、0.01~10M(好ましくは0.05~5M、より好ましくは0.1~3M)である溶液と、有機配位子の濃度が0.1~20M(好ましくは0.2~15M、より好ましくは0.5~10M)である溶液どうしを混合して反応を行うことができる。
【0026】
金属源及び有機配位子の反応では必要に応じて、臭化セチルトリメチルアンモニウム等のアンモニウム塩を使用することができる。斯かるアンモニウム塩は、例えば、0.001~1Mの溶液で使用することができる。
【0027】
金属源及び有機配位子の反応温度は、10~50℃、好ましくは15~35℃であり、また、温度に応じて混合時間は適宜選択される。
【0028】
金属源及び有機配位子の反応により、金属有機構造体(MOF)が、例えば、固形分として得られる。斯かる固形分は適宜の方法で分離及び洗浄することができる。
【0029】
工程1において、前記酸化剤と前記金属有機構造体とを混合させて前駆体を生成させるにあたっては、必要に応じて溶媒を使用することができる。
【0030】
すなわち、工程1において、前記酸化剤と前記金属有機構造体との混合は溶媒中で行うことができる。斯かる溶媒は、例えば、水を使用することができ、その他、メタノール、エタノール等の低級アルコール等を使用することもできる。溶媒は、水と低級アルコールとの混合溶媒でもよく、好ましくは水である。
【0031】
溶媒を使用する場合、例えば、溶媒中に固体状態の前記金属有機構造体及び前記酸化剤を添加してもよい。あるいは、前記酸化剤と前記金属有機構造体との混合は、一方の溶液に他方を固体状態又は溶液状態で添加することもできる。好ましくは、前記金属有機構造体の溶液及び前記酸化剤の溶液どうしを混合することである。
【0032】
前記酸化剤と前記金属有機構造体との混合において溶媒を使用する場合、その溶媒の使用量は特に限定されない。例えば、前記金属有機構造体の濃度が0.1~10g/L、好ましくは0.5~5g/Lとなるように溶媒を使用することが好ましい。
【0033】
工程1の混合では、前記金属有機構造体の濃度が0.1~10g/Lである溶液と、濃度が0.1~20g/Lである前記酸化剤の溶液とを混合することが好ましい。この場合において、前記金属有機構造体の溶液濃度は0.5~5g/Lであることがより好ましく、また、前記酸化剤の溶液濃度は、0.5~16g/Lであることがより好ましく、1~13g/Lであることがさらに好ましい。必要に応じて、混合前にそれぞれ溶液を超音波処理することもできる。
【0034】
工程1において、前記酸化剤と前記金属有機構造体とを混合するときの温度は特に限定されず、例えば、10~50℃、好ましくは15~35℃であり、また、温度に応じて混合時間は適宜選択される。
【0035】
工程1において、前記酸化剤と前記金属有機構造体とを混合して生成する前駆体は、例えば、ろ過、遠心分離等の適宜の方法で分離することができる。その後、必要に応じて溶媒で洗浄してもよい。
【0036】
工程1で生成する前駆体は、Mn及び金属元素を含む酸化物である。工程1で得られた前駆体は、次の工程2の焼成処理に供する。
【0037】
(工程2)
工程2は、工程1で得られた前駆体を焼成処理するための工程である。斯かる焼成処理により、工程1で得られた前駆体、すなわち、Mnを含む金属酸化物中に含まれる不純物等が除去され、高い純度の酸化物になり得る。
【0038】
工程2において、焼成処理の方法は特に限定的ではなく、公知の焼成方法を広く採用することができる。例えば、焼成処理の温度は、200℃以上とすることができる。また、得られる金属酸化物の結晶化度が低くなりやすいという点で、焼成処理の温度は、600℃以下とすることが好ましい。好ましい焼成温度は250~480℃、より好ましい焼成温度は290~450℃、さらに好ましい焼成温度は300~400℃である。
【0039】
焼成時間は、焼成温度によって適宜選択すればよく、例えば、1.5~5時間とすることができる。工程2において、焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、適宜設定することができ、例えば、1~10℃/分である。
【0040】
焼成処理は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。好ましくは、空気中で焼成処理を行うことである。焼成処理は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0041】
工程2での焼成処理によって得られる金属酸化物を、目的のVOC除去触媒として得ることができる。
【0042】
上記工程1及び2を備える製造方法で得られるVOC除去触媒は、Mnを含む金属酸化物を含むので、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。前記金属酸化物は、金属元素MがMn以外である場合は、異種金属を含む複合酸化物となる。なお、金属元素MがMnである場合は、見かけ上はMnの酸化物であるが、当該酸化物中には、例えば、価数の異なるMnが存在し得る。
【0043】
従来、金属有機構造体から合成した金属酸化物をVOC除去触媒に適用することが行われているが、本願発明では、金属有機構造体を前記酸化剤で処理、すなわち、エッチングすることに特徴を有するものであり、毒性の低い原料だけで触媒を製造することができる。必ずしも限定的な解釈を望むものではないが、本発明の製造方法はエッチング処理を備えていることにより、得られる金属酸化物は、マンガンと金属元素M(例えば、コバルト)が均一に分散した複合酸化物が形成されると考えられる。これによって、金属酸化物は高い比表面積を有し、かつ、低い結晶化度を有するので、いわゆる構造欠陥が多くなり、この結果、多くの酸素空孔と活性種が提供されるので、BET比表面積が大きくなり、VOC除去触媒は低温であっても効率よくVOCを除去することができるものと推察される。
【0044】
本発明の製造方法で生成するMnを含む金属酸化物(具体的には工程2で生成する金属酸化物)において、Mn元素の含有割合は特に限定されない。例えば、Mnを含む金属酸化物は、Mn元素を1~35モル%含有することが好ましい。この場合、VOC除去触媒はVOCの除去効率が高まりやすい。
【0045】
また、Mnを含む金属酸化物がMn以外の金属元素Mを含有する場合、当該複合酸化物は、金属元素Mを5~40モル%含有することが好ましい。この場合、VOC除去触媒はVOCの除去効率が高まりやすい。当該複合酸化物は、金属元素Mを6モル%以上含有することがより好ましく、7モル%以上含有することがさらに好ましく、8モル%以上含有することが特に好ましく、また、35モル%以下含有することがより好ましく、30モル%以下含有することがさらに好ましい。
【0046】
2.VOC除去触媒
本発明のVOC除去触媒は、少なくともMnを含む金属酸化物を含有し、前記金属酸化物は、Mn元素を1~35モル%含有し、前記金属酸化物のBET比表面積が50~500m/gである。斯かるVOC除去触媒は、例えば、前述の工程1及び工程2を備える本発明の製造方法で製造することができる。
【0047】
本発明のVOC除去触媒において、前記金属酸化物は、金属元素M(ただしMnは除く)をさらに含む複合酸化物であることが好ましい。この場合、金属元素Mは、遷移金属及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、中でもCe、La、Sm、Fe、Co、Ni、Cu及びHoからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Co、Ni及びCuからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特にCoであることが好ましい。
【0048】
前記金属酸化物のBET比表面積は、80m/g以上であることが好ましく、90m/g以上であることがより好ましく、95m/g以上であることがさらに好ましく、100m/g以上であることが特に好ましい。
【0049】
本発明のVOC除去触媒が前記複合酸化物を含む場合、前記金属元素Mを5~40モル%含有することが好ましい。この場合、VOC除去触媒はVOCの除去効率が高まりやすい。
【0050】
前記複合酸化物は、Mn元素を6モル%以上含有することがより好ましく、また、38モル%以下含有することがより好ましい。また、前記複合酸化物は、金属元素Mを10モル%以上含有することがより好ましく、15モル%以上含有することがさらに好ましく、18モル%以上含有することが特に好ましく、また、35モル%以下含有することがより好ましく、30モル%以下含有することがさらに好ましい。
【0051】
前記複合酸化物において、金属元素Mの含有割合は3モル%以上であることが好ましく、5.5モル%以上であることがより好ましく、6モル%以上であることがよりさらに好ましく、また、40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることが特に好ましい。
【0052】
前記複合酸化物は、Mn元素及び金属元素M以外に酸素を含む。酸素は、前記複合酸化物中、例えば、50モル%以上、70モル%以下含まれる。前記複合酸化物は、Mn元素、金属元素M及び酸素以外に、例えば、合成時に使用する酸化剤由来の金属元素(例えば、カリウム等の金属元素)を含み得る。
【0053】
本発明のVOC除去触媒は、前記金属酸化物又は前記複合酸化物のみで形成することができ、あるいは、本発明の効果が阻害されない程度である限りは、前記金属酸化物又は前記複合酸化物以外の成分を含むこともできる。
【0054】
本発明のVOC除去触媒に含まれる前記金属酸化物は、例えば、粉末状である。前記金属酸化物の形状は特に限定されず、例えば、粒子状、多角形状、鱗片状、繊維状、棒状等の種々の形状を形成することができ、中でもナノ粒子状であることが好ましい。
【0055】
本発明のVOC除去触媒に含まれる前記金属酸化物は、結晶性を有していてもよいし、アモルファスであってもよく、触媒性能が向上しやすい点でアモルファスが好ましい。
【0056】
前記金属酸化物が複合酸化物である場合、当該複合酸化物において、金属元素Mの単独の酸化物(例えば、Co)の含有割合は低いほど好ましい。この場合VOC除去触媒は、低温においても特に優れたVOCの除去効率を有することができる。当該複合酸化物において、金属元素Mの単独の酸化物(例えば、Co)の含有割合は、50質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0057】
3.VOC除去方法
本発明のVOC除去方法は、前述のVOC除去触媒、又は、前記工程1及び前記工程2を備える製造方法で得られたVOC触媒を用いてVOCを燃焼する工程を備える。
【0058】
例えば、VOC除去触媒を容器内に収容し、該容器にトルエン等のVOCを導入し、所定の温度で処理することで、VOCを燃焼する。これにより、VOCを除去することができる。必要に応じて、容器内には窒素及び酸素の一方又は両方を流入させることができ、窒素及び酸素の一方又は両方の存在下でVOCを燃焼させることができる。
【0059】
VOCの除去にあたり、使用する容器の種類は特に限定されず、例えば、VOCの触媒燃焼で使用される公知の容器を広く使用することができる。容器内でのVOCの処理温度は特に限定されず、公知のVOCの除去のために設定される処理温度と同様とすることができる。特に本発明では、上記VOC除去触媒を使用することで、低温であってもVOC除去効率に優れる。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0061】
(製造例1)
11.2gの2-メチルイミダゾールを含む水溶液(A)、及び、1791mgの硝酸コバルトと20mgの臭化セチルトリメチルアンモニウムとを含む水溶液(B)を準備した。水溶液(A)及び水溶液(B)を混合し、室温(25℃)で12時間撹拌した後、生成した固形分を水洗浄及びアルコール洗浄を数回繰り返しながら、遠心分離によって固形分を回収した。この固形分を60℃で12時間、次いで、110℃で24時間連続して乾燥し、金属有機構造体(Co-MOFと表記する)を得た。得られたCo-MOFは、ZIF-67であることを確認した。
【0062】
(実施例1)
製造例1で得られたCo-MOFを400mg秤量して脱イオン水100mLに分散させ、さらに30分間超音波処理を行うことで分散液Cを調製した。この分散液Cに酸化剤として100mLのKMnO溶液(濃度は1g/L)を加えて1時間撹拌した後、固体沈殿物を水とアルコールで数回洗浄しながら遠心分離で回収し、次いで、60℃で24時間乾燥することで前駆体を得た(工程1)。この前駆体を350℃で3時間焼成処理することで、金属酸化物の粉末を得た。この金属酸化物をVOC除去触媒とし、「MnCoxOy-1」と表記した。
【0063】
(実施例2)
KMnO溶液の濃度を6g/Lに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で金属酸化物の粉末を得た。この金属酸化物をVOC除去触媒とし、「MnCoxOy-6」と表記した。
【0064】
(実施例3)
KMnO溶液の濃度を11g/Lに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で金属酸化物の粉末を得た。この金属酸化物をVOC除去触媒とし、「MnCoxOy-11」と表記した。
【0065】
(比較例1)
11.2gの2-メチルイミダゾールを含む水溶液(A)、及び、1791mgの硝酸コバルトと20mgの臭化セチルトリメチルアンモニウムとを含む水溶液(B)を準備した。水溶液(A)及び水溶液(B)を混合し、室温(25℃)で12時間撹拌した後、生成した固形分を水洗浄及びアルコール洗浄を数回繰り返しながら、遠心分離によって固形分を回収した。この固形分を60℃で12時間、次いで、110℃で24時間連続して乾燥した後、空気雰囲気下、350℃で3時間の焼成処理を行うことで、Coの酸化物(CoO)を得た。
【0066】
(比較例2)
400mgの2-メチルイミダゾールを含む水溶液(A)、及び、1100mgのKMnOを含む水溶液(B)を混合し、室温(25℃)で12時間撹拌した後、生成した固形分を水洗浄及びアルコール洗浄を数回繰り返しながら、遠心分離によって固形分を回収した。この固形分を60℃で12時間乾燥した後、空気雰囲気下、350℃で3時間の焼成処理を行うことで、Mnの酸化物(MnO)を得た。
【0067】
(比較例3)
Journal of Hazardous Materials、349(2018)119-127)に開示される酸化マンガンコバルトを下記手順で合成した。1.5gのポリビニルピロリドン、0.22gのMn(CHCOO)・4HO、30mLの脱イオン水および60mLのエタノールを、マグネチックスターラー条件下で攪拌しながら、60mLのKCo(CN)(Mn:Coモル比1:1)水溶液を上記の溶液に滴下し、室温で24時間熟成させて沈殿物を得た。得られた沈殿物を収集し、脱イオン水とエタノールで洗浄し、続いて、-46℃で12時間凍結処理した後、60℃のオーブンで6時間乾燥させた。その後、空気雰囲気下、450℃(加熱速度1℃/分)で2時間焼結し、マンガン及びコバルトを含む酸化物(MOF-MnCo)を得た。
【0068】
<評価方法>
(VOC除去試験)
図1に示す概略フローにより、各実施例で得たVOC除去触媒のトルエン除去試験を行った。この試験では、容器内にVOC除去触媒(図中のCatalyst)を石英ウールで挟み込むように充填し、そこへトルエンを所定の流速で流入させて反応させることで、トルエンを除去するようにした。図1に示すように、容器は、酸素ボンベ及び窒素ボンベと連結しており、容器内に酸素及び窒素を流入できるようにしている。トルエン除去試験の条件として、内径8mmのガラス反応器を使用し、そこへVOC除去触媒の充填量を50mgとし、容器内のトルエン濃度を1000体積ppmとなるようにした。また、容器内へのキャリアー用窒素ガス流量を35cm/min、トルエン導入用窒素ガス流量を5cm/min、酸素ガス流量を10cm/minとした。容器内での反応温度を130~300℃の範囲の種々の温度に調節して、トルエン除去特性を評価した。なお、130~200℃の範囲では10℃毎に3回サンプリングをし、200~250℃の範囲では5℃毎に3回サンプリングをし、260~300℃の範囲では10℃毎に3回サンプリングをした。VOC濃度の測定は、島津製作所社製「GC-2014ガスクロマトグラフ」を使用した。また、容器出口から排出される二酸化炭素濃度をHORIBA社製FT-IRガス分析装置「FG-120」を使用して計測した。
【0069】
図2は、実施例1~3及び比較例1~2で得た触媒のSEM画像を示している。比較例1は立体的多角度形状を有し、比較例2は特有の形状は見られなかったのに対し、実施例1の触媒は不規則な片状が観察され、KMnOの添加量が増加するに伴い、不規則ナノ粒子状へと形状変化が観察された(実施例2,3)。
【0070】
表1には、EDS分析によって、実施例1~3及び比較例1~3で得た触媒の各元素分析を行った結果を示している。
【0071】
【表1】
【0072】
表2には、実施例1~3及び比較例1~3で得た触媒のBET比表面積測定を行った結果を示している。実施例で得られた触媒(金属酸化物)は、高いBET比表面積を有していた。
【0073】
【表2】
【0074】
図3は、実施例1~3及び比較例1~2で得た触媒のXRDスペクトルを示している。XRDスペクトルにおいて、比較例1(CoOx)は、Co相の鋭い回折ピークを示すことが認められ、比較例2(MnOx)は、MnO、Mn、及びKMn相を含む多相混合物であることがわかった。一方、実施例のMnCoxOy-11及びMnCoxOy-6は、MnO及びCo相の弱い特徴的な回折ピークを示し、Coピーク強度は、KMnO含有量の増加とともに減少した。実施例の触媒は、Coの含有割合は35質量%以下であり、これにより、実施例の触媒がVOC除去性能に優れる要因となり得る。
【0075】
図4は、実施例1~3及び比較例1~3で得られた触媒によるVOC除去試験の結果を示している。具体的に図4は、温度(X軸)とトルエン除去率(Y軸)との関係を示すプロットである。また、図4のグラフ中には、各触媒のトルエンの50%分解温度(T50%)、90%分解温度(T90%)、100%分解温度(T100%)の値を挿入している。
【0076】
表3は、図4の結果のまとめであり、実施例1~3及び比較例1~3で得られた触媒によるVOC除去試験の結果である。図4及び表3の結果から、各実施例で得られたVOC除去触媒は、比較例よりも優れたVOC除去性能を有していることがわかる。従って、各実施例で得られたVOC除去触媒は、代表的なVOC物質の一種であるトルエンの触媒燃焼の触媒として好適に使用できることがわかった。特に、触媒の製造に使用する過マンガン酸カリウムの使用量に依存することがわかった。
【0077】
【表3】
図1
図2
図3
図4