(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-10
(45)【発行日】2025-11-18
(54)【発明の名称】導電性高分子溶液及びその用途
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20251111BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20251111BHJP
C09D 165/00 20060101ALI20251111BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20251111BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20251111BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20251111BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20251111BHJP
H01B 5/16 20060101ALI20251111BHJP
【FI】
C08L65/00
C08K3/24
C09D165/00
C09D5/24
H01B1/20 A
H01B1/12 F
H01B13/00 Z
H01B5/16
(21)【出願番号】P 2021152485
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2024-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】川上 淳一
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-042266(JP,A)
【文献】特開2016-178204(JP,A)
【文献】特開2016-219807(JP,A)
【文献】特開2018-049970(JP,A)
【文献】特開2013-026432(JP,A)
【文献】特開2007-063033(JP,A)
【文献】特開昭61-158826(JP,A)
【文献】特開2002-293544(JP,A)
【文献】特開平08-273692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
H01B 1/20、1/12、5/16、13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)0.01~10重量%と、
モリブデン酸塩、バナジン酸塩、及びタングステン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種である金属オキソ酸塩(B)と、を含み、
前記金属オキソ酸塩(B)の含有量が、前記ポリチオフェン(A) 1重量部に対して、0.1~2重量部である、導電性高分子溶液。
【化1】
[一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(1)及び(2)において、R
2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
【請求項2】
前記金属オキソ酸塩(B)の含有量が0.001~20重量%である、請求項1に記載の導電性高分子溶液。
【請求項3】
水、アルコール、及び非プロトン性極性有機溶媒からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒(C)を含む、請求項1
または2に記載の導電性高分子溶液。
【請求項4】
pHが2~12である、請求項
3に記載の導電性高分子溶液。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の導電性高分子溶液を基材に塗布し、次いで乾燥させることを特徴とする、導電性高分子膜の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と、
酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び酸化タングステンからなる群より選ばれる少なくとも一種である金属酸化物(B’)と、を含む膜であって、
前記金属酸化物(B’)の含有量が、前記ポリチオフェン(A) 1重量部に対して、0.1~2重量部であり、
導電率が1~1000S/cmである、導電性高分子膜。
【化2】
[一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(1)及び(2)において、R
2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子溶液及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機太陽電池、又は有機EL素子等の分野では、透明電極として、例えば酸化インジウムスズ(ITO)電極、又はフッ素ドープ酸化スズ(FTO)電極が使用されている。しかし、例えばITO電極は仕事関数が4.6eV程度と浅いように、電極と活性層との間にはエネルギー準位差が生じやすい。したがって、アノード電極と正孔輸送層とを隣接させることで、円滑な電荷移動を行うことが一般的である。
【0003】
このような正孔輸送層として、例えば非特許文献1には、有機太陽電池の正孔輸送層にPEDOT:PSSを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nature Materials, volume4, pages864-868 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PEDOT:PSSは、仕事関数が5.0eV程度と活性層に近いエネルギー準位を有している。しかし、PEDOT:PSSにて高い導電率を得るためにはエチレングリコール等にて処理を行う必要がある。また、PEDOT:PSSについては、水分散液であるために、例えば、有機太陽電池製造プロセスで現在主流になっているインクジェットを使用した塗工プロセスへの適用が難しい。
【0006】
水溶性の付与とドーピング作用とを兼ね備えた置換基(スルホ基、スルホネート基等)を直接又はスペーサを介してポリマー主鎖中に有する、いわゆる自己ドープ型導電性高分子(例えば、スルホン化ポリアニリン、PEDOT-S等)等が知られている。このような材料は高い導電率を有し、更に水溶性であるために製造装置の制約がない。しかし、自己ドープ型導電性高分子そのものについては、PEDOT:PSSに比べて仕事関数が小さく、ITO電極に隣接させる正孔輸送層として適切ではないという課題があった。
【0007】
すなわち、本発明の一態様は、正孔輸送層に適した大きさの仕事関数を有する自己ドープ型導電性高分子溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、以下に示す通りの導電性高分子溶液、導電性高分子膜及び当該導電性高分子膜の製造方法に関するものである。
【0009】
[1]下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)0.01~10重量%と、金属オキソ酸塩(B)と、を含む導電性高分子溶液。
【0010】
【0011】
[一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
[2]前記金属オキソ酸塩(B)の含有量が0.001~20重量%である、[1]に記載の導電性高分子溶液。
【0012】
[3]前記金属オキソ酸塩(B)が、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、及びタングステン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子溶液。
【0013】
[4]水、アルコール、及び非プロトン性極性有機溶媒からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒(C)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の導電性高分子溶液。
【0014】
[5]pHが2~12である、[4]に記載の導電性高分子溶液。
【0015】
[6][1]~[5]のいずれかに記載の導電性高分子溶液を基材に塗布し、次いで乾燥させることを特徴とする、導電性高分子膜の製造方法。
【0016】
[7]下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と、金属酸化物(B’)と、を含む膜であって、前記金属酸化物(B’)の含有量が、前記ポリチオフェン(A) 1重量部に対して、0.1~10重量部であり、導電率が1~1000S/cmである、導電性高分子膜。
【0017】
【0018】
[一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、正孔輸送層に適した大きさの仕事関数を有する自己ドープ型導電性高分子溶液を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0021】
本実施形態は、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)0.01~10重量%と、金属オキソ酸塩(B)と、を含む導電性高分子溶液である。
【0022】
【0023】
[一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
前記一般式(1)中、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。
【0024】
また、前記一般式(1)及び(2)中、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表す。
【0025】
炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、2-エチルブチル基、及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0026】
前記のR2については、成膜性の点で、水素原子、メチル基、エチル基、又はフッ素原子であることが好ましい。
【0027】
前記一般式(1)及び(2)中、mは、1~10の整数を表し、成膜性の点で、1~6の整数であることが好ましく、1~4の整数であることがより好ましく、2又は3であることがより好ましい。
【0028】
前記一般式(1)及び(2)中、nは、0又は1を表し、導電性に優れる点で、nは1であることが好ましい。
【0029】
前記一般式(2)で表される構造単位は、前記一般式(1)で表される構造単位のドーピング状態を表す。
【0030】
ドーピングにより絶縁体-金属転移を引き起こすドーパントは、アクセプタとドナーとに分けられる。前者は、ドーピングにより導電性ポリマーの高分子鎖の近くに入り主鎖の共役系からπ電子を奪う。結果として、主鎖上に正電荷(正孔、ホール)が注入されるため、p型ドーパントとも呼ばれる。また、後者は、逆に主鎖の共役系に電子を与えることになり、この電子が主鎖の共役系を動くことになるため、n型ドーパントとも呼ばれる。
【0031】
本実施形態のポリチオフェン(A)は、下記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーを、水又はアルコール溶媒中、酸化剤の存在下に重合させ、次いで必要に応じて酸処理することで製造することができる。なお、必要に応じて、溶媒洗浄、再沈殿、遠心沈降、限外ろ過、透析、イオン交換樹脂処理等の操作を組み合わせることもできる。
【0032】
【0033】
[一般式(3)において、R2、m、nは、前記一般式(1)及び(2)のR2、m、nと同じ定義である。Mは、水素イオン、又は金属イオンを表す。]
前記一般式(3)におけるMで表される金属イオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、遷移金属イオン(鉄イオン、クロムイオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、又は銅イオン等)、アルカリ金属イオン(例えば、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、ルビジウムイオン、又はセシウムイオン等)、及びアルカリ土類金属イオン(マグネシウムイオン、カルシウムイオン、又はストロンチウムイオン等)等が挙げられる。
【0034】
前記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーの重合後に得られるポリマーが金属塩(本実施形態におけるポリチオフェン(A)に含まれる)である場合、得られた金属塩ポリマーを酸処理することでMを水素イオンへ変換してもよい。当該Mが水素イオンであるものについても本実施形態におけるポリチオフェン(A)に含まれる。
【0035】
前記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーとしては、特に限定するものではないが、具体的には、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸ナトリウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸リチウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸カリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸ナトリウム、及び8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ヘキシル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソプロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、及び4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸カリウム等が例示される。
【0036】
なお、本実施形態におけるポリチオフェン(A)については、公知情報に基づいて合成したものを用いることもできる。
【0037】
また、前記に従って製造されたポリチオフェン(A)であって、前記のMが水素イオンであるものについては、当該ポリチオフェン(A)と、スルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物とを相互作用させてもよい。スルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、アルカリ金属化合物、アンモニア、有機アミン化合物、第4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの化合物は、それぞれ、前記のMが水素イオンであるポリチオフェン(A)のスルホン酸基と作用して、ポリチオフェン(A)のアルカリ金属イオン塩、アンモニウムイオン塩、有機アンモニウムイオン塩、又は第4級アンモニウムイオン塩を形成する。このようにして形成した塩もまた、本実施形態におけるポリチオフェン(A)に含まれる。
【0038】
前記のアルカリ金属化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、アルカリ金属塩化合物(例えば、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム等)、及びアルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等)が挙げられる。
【0039】
前記のアルカリ金属化合物を本実施形態の導電性高分子溶液に含有させることによって、アルカリ金属イオン塩としてのポリチオフェン(A)を調製することができる。前記のアルカリ金属イオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、ルビジウムイオン、及びセシウムイオンが挙げられる。
【0040】
前記の有機アミン化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、総炭素数が1~30の1級、2級、若しくは3級の有機アミン化合物を例示することができ、より具体的には、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ノルマル-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ヘキシルアミン、アミノエタノール(エタノールアミン)、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリペンチルアミン、トリイソペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリイソヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリイソオクチルアミン、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、1、2-ジメチルイミダゾール、ピリジン、ピコリン、及びルチジン等が挙げられる。
【0041】
前記の有機アミン化合物を本実施形態の導電性高分子溶液に含有させることによって、当該有機アミン化合物は、前記のポリチオフェン(A)と作用し、有機アンモニウムイオンとなり、有機アンモニウムイオン塩としてのポリチオフェン(A)が調製される。前記の有機アンモニウムイオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、総炭素数が1~30の1級、2級、若しくは3級の有機アンモニウムイオンを例示することができ、より具体的には、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ノルマル-プロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、ノルマルブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、2-ヒドロキシエチルアンモニウム、N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、ジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N-メチル-N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N,N,N-トリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、2,3-ジヒドロキシプロピルアンモニウム、N-メチル-N-(2,3-ジヒドロキシプロピル)アンモニウム、N,N-ジメチル-N-(2,3-ジヒドロキシプロピル)アンモニウム、1,4-ブタンジアンモニウム、トリブチルアンモニウム、トリイソブチルアンモニウム、トリペンチルアンモニウム、トリイソペンチルアンモニウム、トリヘキシルアンモニウム、トリイソヘキシルアンモニウム、トリオクチルアンモニウム、トリイソオクチルアンモニウム、イミダゾールカチオン、N-メチルイミダゾールカチオン、1、2-ジメチルイミダゾールカチオン、ピリジニウムイオン、ピコリニウムイオン、及びルチジニウムイオンが挙げられる。
【0042】
前記の第4級アンモニウム塩としては、特に限定するものではないが、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラノルマルプロピルアンモニウムクロリド、テトラノルマルブチルアンモニウムクロリド、及びテトラノルマルヘキシルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0043】
前記の第4級アンモニウム塩を本発明の一実施形態の導電性高分子溶液に含有させることによって、当該第4級アンモニウム塩は、前記のポリチオフェン(A)と作用し、第4級アンモニウムイオンとなり、第4級アンモニウムイオン塩としてのポリチオフェン(A)が調製される。当該第4級アンモニウムイオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラノルマルプロピルアンモニウムイオン、テトラノルマルブチルアンモニウムイオン、及びテトラノルマルヘキシルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0044】
本実施形態の導電性高分子溶液の製造において、上述したスルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物の添加量については、前記のポリチオフェン(A)(Mが水素イオンのもの)1重量部に対して、前記のポリチオフェン(A)のスルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物が0.001~10重量部であることが好ましく、高い仕事関数を得る観点からは、0.001~5重量部であることが好ましく、0.01~1重量部であることがより好ましい。
【0045】
本実施形態の導電性高分子溶液において、前述した一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)の含有量については、0.01~10重量%であることを特徴とするが、高い仕事関数を得る観点からは、0.05~8重量%であることが好ましく、0.1~7重量%であることがより好ましい。
【0046】
本実施形態の導電性高分子溶液に含まれる金属オキソ酸塩(B)としては、特に限定するものではないが、例えば、鉄酸塩、銅酸塩、クロム酸塩、コバルト酸塩、マンガン酸塩、チタン酸塩、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、及びタングステン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、及びタングステン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。鉄酸塩としては、例えば、鉄酸カリウムが挙げられる。銅酸塩としては、例えば、銅酸カリウムが挙げられる。クロム酸塩としては、例えば、クロム酸、又はクロム酸アンモニウムが挙げられる。コバルト酸塩としては、例えば、コバルト酸リチウムが挙げられる。マンガン酸塩としては、例えば、マンガン酸アンモニウム、又は過マンガン酸アンモニウムが挙げられる。チタン酸塩としては、例えば、チタン酸リチウムが挙げられる。モリブデン酸塩としては、例えば、モリブデン酸アンモニウムが挙げられる。バナジン酸塩としては、例えば、バナジン酸アンモニウムが挙げられる。タングステン酸塩としては、例えば、タングステン酸アンモニウムが挙げられる。
【0047】
本実施形態の導電性高分子溶液において、前述した金属オキソ酸塩(B)の含有量については、0.001~20重量%であることが好ましく、高い仕事関数を得る観点からは、0.01~20重量%であることがより好ましく、0.1~20重量%であることがさらに好ましい。
【0048】
なお、本実施形態の導電性高分溶液において、金属オキソ酸塩(B)の含有量が、ポリチオフェン(A) 1重量部に対して、0.1~10重量部であることが好ましく、0.1~5重量部であることがより好ましく、0.1~2重量部であることがより好ましい。このような含有比率によりポリチオフェン(A)と金属オキソ酸塩(B)とを含む導電性高分子溶液を用いて形成した導電性高分子膜は、良好な均一膜となりやすい。当該導電性高分子膜については後述する。
【0049】
本実施形態の導電性高分子溶液の溶媒(C)としては、特に限定するものではないが、水、アルコール、及び非プロトン性極性有機溶媒からなる群の少なくとも一種が挙げられ、好ましくは水である。特に溶媒(C)が水である導電性高分子溶液を導電性高分子水溶液とも称する。
【0050】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、及びエチレングリコール等が挙げられる。
【0051】
非プロトン性極性有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、及び1-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0052】
前記の溶媒(C)は、水と、アルコール及び/又は非プロトン性極性有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、導電性高分子溶液中のアルコール及び/又は非プロトン性極性有機溶媒の含有量は、0.001~20重量%であることが好ましく、操作性に優れる点で、0.01~15重量%であることがより好ましく、0.1~10重量%であることがさらに好ましい。
【0053】
本実施形態の導電性高分子溶液は、溶媒(C)中での分散性に優れる点で、そのpHが、2.0~12.0の範囲であることが好ましく、2.0~10.5の範囲であることがより好ましく、3.0~7.0の範囲であることがより好ましい。当該pHについては、例えば、導電性高分子溶液への前記のスルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物(例えば、水酸化ナトリウム等の塩基性物質)の添加によって制御することができる。pHの測定方法は、例えば、JIS Z8802:2011に示す方法を用いてよい。前記のpH範囲は、試料温度25℃で測定した場合の測定値を示す。
【0054】
本実施形態の導電性高分子溶液については、前記以外の成分(D)を含んでいてもよい。前記の成分(D)としては、特に限定するものではないが、例えば、バインダー、及び界面活性剤等が挙げられる。
【0055】
前記のバインダーとしては、特に限定するものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、水溶性ポリエステル樹脂化合物、水溶性ポリウレタン樹脂化合物、及び多価アルコールとカルボキシル基を2つ以上持つ有機酸の混合物が挙げられる。
【0056】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、及びポリトリメチレンテレフタラート等が挙げられる。当該水溶性ポリエステル樹脂化合物については、自己乳化型であってもよいし、強化乳化型であってもよいが、耐水性、耐溶剤性の観点から自己乳化型水溶性ポリエステル樹脂化合物であることが好ましい。
【0057】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物としては、例えば、東洋紡株式会社製、商品名:バイロナール(登録商標)、高松油脂株式会社製、商品名:ペスレジン、互応化学株式会社製、商品名:プラスコート(登録商標)、東亞合成株式会社製、商品名:アロンメルト(登録商標)、高松油脂株式会社製、商品名:ぺスレジンA、DIC株式会社製、商品名:ウォーターゾール(登録商標)等が、商業的に容易に入手することができる。
【0058】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物は、1種を単独で用いることができるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0059】
前記の水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、ウレタン樹脂エマルションとして主に産業用途に用いられており、自己乳化型であってもよいし、強化乳化型であってもよいが、耐水性、耐溶剤性の観点から自己乳化型水溶性ポリウレタン樹脂化合物であることが好ましい。自己乳化型としては、アニオン型、カチオン型、及び非イオン型等が挙げられるが、いずれであってもよい。また、当該水溶性ポリウレタン樹脂化合物については、特に限定するものではないが、ポリエーテル型、ポリエステル型、及びポリカーボネート型等が挙げられる。
【0060】
水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、例えば、三洋化成工業株式会社製、商品名:ユーコート(登録商標)、パーマリン(登録商標)、ユープレン(登録商標)、楠本化成株式会社製、商品名:NeoRez(登録商標)、株式会社ADEKA製、商品名:アデカボンタイター(登録商標)、明成化学工業株式会社製、商品名:パスコール(登録商標)、DIC株式会社製、商品名:ハイドラン(登録商標)等が商業的に容易に入手することができる。
【0061】
前記の水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、1種を単独で用いることができるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0062】
前記の多価アルコールとしては、特に限定するものではないが、例えば、エリスリトール、及びペンタエリトリトール等が挙げられる。
【0063】
前記のカルボキシル基を2つ以上持つ有機酸としては、特に限定するものではないが、例えば、アジピン酸、及びフタル酸等が挙げられる。
【0064】
前記の界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、又はシリコーン系界面活性剤等が使用できるが、より好ましくは非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0065】
前記のアニオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0066】
前記のカチオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、市販品を用いることもできるし、一般公知のものを別途製造して用いることもできる。
【0067】
前記の非イオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール型界面活性剤、アセチレングリコール型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、及び高分子型非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0068】
前記のポリエチレングリコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、及びポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0069】
前記のアセチレングリコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、サーフィノール(登録商標)(エアプロダクツ社製)、オルフィン(登録商標)(日信化学工業社製)等が挙げられる。
【0070】
前記の多価アルコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、高アルコールのアルキルエーテル、及びアルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0071】
前記の両性界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ベタイン型両性界面活性剤が挙げられる。ベタイン型両性界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、アルキルジメチルベタイン、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、及びラウリルジヒドロキシエチルベタイン等が挙げられる。
【0072】
前記のフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキル基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、プラスコート(登録商標) RY-2、パーフルオロアルカン、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、及びパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0073】
前記のシリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、及びシリコーン変性アクリル化合物等が挙げられる。
【0074】
なお、フッ素系界面活性剤、又はシリコーン系界面活性剤はレベリング剤として、導電性高分子溶液の塗膜の平坦性を改善するのに有効である。
【0075】
本実施形態の導電性高分子溶液において、前述した成分(D)の含有量については、0.001~20重量%であることが好ましく、操作性に優れる点で、0.01~15重量%であることがより好ましく、0.1~10重量%であることがさらに好ましい。
【0076】
本実施形態の導電性高分子溶液を調製する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、本実施形態のポリチオフェン(A)の溶液又は固体と、金属オキソ酸塩(B)と、必要に応じて溶媒(C)とを混合し、撹拌等によって均一化する方法が挙げられる。その際、必要に応じてその他添加剤(例えば、成分(D)等)を追加で添加したうえで混合調製することもできるし、一旦ポリチオフェン(A)と金属オキソ酸塩(B)とを含む導電性高分子溶液を調製したうえで、前記のその他添加物を添加混合して調製してもよい。
【0077】
ここで、混合する際の温度は、特に限定するものではないが、例えば、室温~加温下で行うことができる。好ましくは0℃以上100℃以下が好ましい。
【0078】
混合する際の雰囲気は、特に限定するものではないが、大気中でも、不活性ガス中でもよい。
【0079】
本実施形態の導電性高分子溶液を混合する際には、スターラーチップ又は攪拌羽根による一般的な混合溶解操作に加えて、超音波照射、ホモジナイズ処理(例えば、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等の使用)を行ってもよい。ホモジナイズ処理する場合には、ポリマーの熱劣化を防ぐため、冷温しながら行うことが好ましい。
【0080】
本実施形態の導電性高分子溶液の濃度調整は、配合比で調整してもよいし、配合後に濃縮により調整しても良い。濃縮の方法は、減圧下に溶媒(C)を留去する方法であっても、限外ろ過膜を利用する方法であってもよい。
【0081】
本実施形態の導電性高分子溶液中において、固形分の粒子径は、特に限定するものではないが、小さいほど水溶性が良好であり、導電性及び成膜時の均一な膜形成の観点からも望ましい。例えば、室温又は加温下で調製した導電性高分子溶液の固形分濃度が10重量%以下の場合、固形分の粒子径(D50)が0.02μm以下であることが好ましい。
【0082】
本実施形態の導電性高分子溶液の粘度(20℃)は、200mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは100mPa・s以下であり、さらに好ましくは50mPa・s以下である。
【0083】
本実施形態の導電性高分子膜については、本実施形態の導電性高分子溶液を用いて形成することができる。本実施形態の導電性高分子膜を形成する方法(導電性高分子膜の製造方法)としては、本実施形態の導電性高分子溶液を、基材に塗布し、次いで乾燥させる工程を含む方法が挙げられる。当該製造方法により得られる本実施形態の導電性高分子膜は、前記一般式(1)で表される構造単位及び前記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と、金属酸化物(B’)と、を含む膜である。
【0084】
金属酸化物(B’)は、本実施形態の導電性高分子溶液に含まれていた金属オキソ酸塩(B)に由来する。当該金属オキソ酸塩(B)は、前記の乾燥させる工程において酸化されて金属酸化物(B’)となるためである。本実施形態の導電性高分子膜に含まれる金属酸化物(B’)は、特に限定するものではないが、例えば、酸化鉄(例えば、酸化鉄(I)、酸化鉄(II))、酸化銅(例えば、酸化銅(I)、酸化銅(II))、酸化クロム(例えば、酸化クロム(II)、酸化クロム(III)、酸化クロム(IV))、酸化コバルト(例えば、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III))、酸化マンガン(例えば、酸化マンガン(II)、酸化マンガン(III)、酸化マンガン(IV))、酸化チタン(例えば、酸化チタン(IV))、酸化モリブデン(例えば、酸化モリブデン(VI))、酸化バナジウム(例えば、酸化バナジウム(II))又は酸化タングステン(例えば、酸化タングステン(VI))が挙げられる。これらのうち、ITO電極に適した仕事関数が得られるという点で、酸化モリブデン(例えば、酸化モリブデン(VI))、酸化バナジウム(例えば、酸化バナジウム(II))又は酸化タングステン(例えば、酸化タングステン(VI))が好ましい。金属酸化物(B’)は、これらのうち二種以上を含んでいてもよい。
【0085】
本実施形態の導電性高分子膜は、金属酸化物(B’)の含有量が、ポリチオフェン(A) 1重量部に対して、0.1~10重量部であり、0.1~5重量部であることがより好ましく、0.1~2重量部であることがより好ましい。このような含有比率によりポリチオフェン(A)と金属酸化物(B’)とを含む導電性高分子膜は、良好な均一膜となりやすい。
【0086】
乾燥雰囲気は大気中、不活性ガス中、真空中、又は減圧下のいずれであってもよい。導電性高分子膜の劣化抑制の観点からは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中が好ましい。
【0087】
前記の基材としては、特に限定するものではないが、例えば、ガラス、プラスチック、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、金属酸化物、セラミックス、及びレジスト基板等が挙げられる。
【0088】
前記の塗布する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、スピンコート法、及びインクジェット印刷法等が挙げられる。
【0089】
塗膜の乾燥温度は、均一な導電性高分子膜が得られる温度であれば特に限定されないが、室温~300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは室温~250℃の範囲であり、さらに好ましくは室温~200℃の範囲である。室温とは、例えば25℃であってよい。
【0090】
導電性高分子膜の膜厚としては、特に限定するものではないが、10-2~102μmの範囲が好ましい。導電性高分子膜の表面抵抗率としては、特に限定するものではないが、1~109Ω/□の範囲のものが好ましい。
【0091】
本実施形態で得られる導電性高分子膜の導電率としては、フィルム状態での導電率(電気伝導度)が0.01~1000S/cmであればよく、0.1~1000S/cmであることが好ましく、1~1000S/cmであることがより好ましい。
【0092】
本実施形態の導電性高分子膜は、例えば、帯電防止剤、電解コンデンサの固体電解質、導電性塗料、エレクトロクロミック素子、電極材料、熱電変換材料、透明導電膜、化学センサ、及びアクチュエータ等に使用できる。特に、有機太陽電池及び有機EL素子等に用いられる、ITO電極の正孔輸送層として極めて有用である。本実施形態の導電性高分子膜は、ITO電極と隣接させるために好適な仕事関数を有した正孔輸送層として用いることができる。
【0093】
また、本実施形態の導電性高分子膜は、有機太陽電池等に好適な正孔輸送層を提供できる。そのため、有機太陽電池に用いられる場合には、クリーンエネルギーの産生効率の改善に貢献し得る。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の、例えば目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」等の目標達成に貢献できる。
【0094】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0095】
後述する導電性高分子膜の導電率、及び当該導電性高分子膜の仕事関数については、以
下の方法に従って測定した。
【0096】
[導電性高分子膜の作製方法]
具体的には後述する実施例の導電性高分子溶液 0.1mLを25mm角の無アルカリガラス板に1000rpm10秒の条件にてスピンコート法を用いて塗布し、大気下、ホットプレート上で140℃にて15分加熱して導電性高分子膜を得た。
【0097】
[導電性高分子膜の膜厚測定]
装置:BRUKER社製 DEKTAK XT
前記の作製方法で作製した導電性高分子膜をx方向に6.25mm、y方向に6.25mmピッチの間隔で、切れ目を入れガラス部を露出させ、測定箇所9点の膜厚を25℃50%RH雰囲気で測定した。
【0098】
[導電性高分子膜の表面抵抗率測定]
装置:三菱化学社製ロレスタGP MCP-T600
表面抵抗測定器ロレスタGP MCP-T600を用い、測定プローブをASPとして、x方向に6.25mm、y方向に6.25mmピッチの間隔で、測定箇所9点の表面抵抗率を25℃50%RH雰囲気で測定した。
【0099】
[導電性高分子膜の導電率測定]
前記の測定方法で測定した導電性高分子膜の膜厚及び表面抵抗率から、以下の式に基づき導電率を算出した。
導電率[S/cm]=104/(表面抵抗率[Ω/□]×膜厚[μm])
[仕事関数の測定方法]
前記の導電性高分子膜の作製方法にて作製した膜を用い、紫外光電子分光法にて得られたスペクトルから、下記の式に基づき前記導電性高分子膜の仕事関数値を算出した。
仕事関数[eV]=照射紫外線のエネルギー[21.22eV]-測定したエネルギー幅[eV]
実施例1 (導電性高分子溶液の調製と評価)
98.5gの純水に、従来公知の製造方法に従って製造した、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ポリマー(下記式(6)及び式(7)で表される構造単位からなる導電性高分子、数平均分子量約7千、以下「A1ポリマー」と称する) 1.0gと、モリブデン酸アンモニウム(富士フィルム和光純薬製) 0.5gとを加え、次いで、チップ撹拌を行って導電性高分子溶液 A1を調整した(本実施形態の導電性高分子溶液であって、以下、A1と略す)。当該A1のpH(25℃)は、4.5であった。当該A1の導電性高分子溶液を用いて作製した膜の導電率及び仕事関数を前記の方法に従って測定した。当該膜の導電率は、25S/cmであった。当該膜の仕事関数は、4.91eVであった。なお、成膜時の加熱焼成によって、モリブデン酸アンモニウムは、酸化モリブデンに酸化されていた。
【0100】
【0101】
実施例2 (導電性高分子溶液の調製と評価)
98.0gの純水に、前記A1ポリマー 1.0gと、モリブデン酸アンモニウム(富士フィルム和光純薬製) 1.0gとを加え、次いで、チップ撹拌を行って導電性高分子溶液 A2を調整した(本実施形態の導電性高分子溶液であって、以下、A2と略す)。当該A2のpH(25℃)は、4.8であった。当該A2の導電性高分子溶液を用いて作製した膜の導電率及び仕事関数を前記の方法に従って測定した。当該膜の導電率は、8.7S/cmであった。当該膜の仕事関数は4.94eVであった。なお、成膜時の加熱焼成によって、モリブデン酸アンモニウムは、酸化モリブデンに酸化されていた。
【0102】
実施例3 (導電性高分子溶液の調製と評価)
98.5gの純水に、前記A1ポリマー 1.0gと、バナジン酸アンモニウム(富士フィルム和光純薬製) 0.5gとを加え、次いで、チップ撹拌を行って導電性高分子溶液 A3を調整した(本実施形態の導電性高分子溶液であって、以下、A3と略す)。当該A3のpH(25℃)は、5.1であった。当該A3の導電性高分子溶液を用いて作製した膜の導電率及び仕事関数を前記の方法に従って測定した。当該膜の導電率は、89S/cmであった。当該膜の仕事関数は4.95eVであった。なお、成膜時の加熱焼成によって、バナジン酸アンモニウムは、酸化バナジウムに酸化されていた。
【0103】
実施例4 (導電性高分子溶液の調製と評価)
98.5gの純水に、前記A1ポリマー 1.0gと、タングステン酸アンモニウム(富士フィルム和光純薬製) 0.5gとを加え、次いで、チップ撹拌を行って導電性高分子溶液 A4を調整した(本実施形態の導電性高分子溶液であって、以下、A4と略す)。当該A4のpH(25℃)は、4.8であった。当該A4の導電性高分子溶液を用いて作製した膜の導電率及び仕事関数を前記の方法に従って測定した。当該膜の導電率は、155S/cmであった。当該膜の仕事関数は4.90eVであった。なお、成膜時の加熱焼成によって、タングステン酸アンモニウムは、酸化タングステンに酸化されていた。
【0104】
参考例1
98.8gの純水に、前記A1ポリマー 1.0gと、28% アンモニア水溶液 0.2gとを加え、次いで、チップ撹拌を行って導電性高分子溶液 A5を調整した(以下、A5と略す)。当該A5のpH(25℃)は、3.2であった。当該A5の導電性高分子溶液を用いて作製した膜の導電率及び仕事関数を前記の方法に従って測定した。当該膜の導電率は、220S/cmであった。当該膜の仕事関数は4.48eVであった。
【0105】
各実施例及び参考例の結果を、下記表1にまとめる。
【0106】
【0107】
表1に示す通り、金属オキソ酸塩を含む本実施形態の導電性高分子溶液を用いた実施例1~4に係る膜は、金属オキソ酸塩を含まない導電性高分子溶液を用いた参考例1に係る膜と比較して、高い仕事関数を示した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、例えば有機太陽電池等に利用することができる。