7771598 車両用エンジンマウントブラケット

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2025-11-10

(45)【発行日】2025-11-18

(54)【発明の名称】車両用エンジンマウントブラケット

(51)【国際特許分類】

   B60K 5/12 20060101AFI20251111BHJP

   F16F 15/08 20060101ALI20251111BHJP

【ＦＩ】

B60K5/12 Z

F16F15/08 K

F16F15/08 W

【請求項の数】 5

(21)【出願番号】P 2021157915

(22)【出願日】2021-09-28

(65)【公開番号】P2023048540

(43)【公開日】2023-04-07

【審査請求日】2024-07-02

(73)【特許権者】

【識別番号】000002082

【氏名又は名称】スズキ株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100124110

【弁理士】

【氏名又は名称】鈴木 大介

(74)【代理人】

【識別番号】100120400

【弁理士】

【氏名又は名称】飛田 高介

(72)【発明者】

【氏名】植村 将典

【審査官】熊谷 健治

(56)【参考文献】

【文献】特開２０１４－２１４８４７（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１７－０２４５４３（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００９－２１６１２７（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０００－２７４４８５（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｂ６０Ｋ ５／１２

Ｆ１６Ｆ １５／０８

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

車両のパワーユニット搭載ルームに設置されてエンジンマウントを支える車両用エンジンマウントブラケットにおいて、
当該車両用エンジンマウントブラケットは、
前記パワーユニット搭載ルームの車幅方向の端部で車両前後方向に延びているサイドメンバに設置される下側部材と、
前記下側部材の天面部の所定範囲に形成された車幅方向にわたって円筒状に窪んだ湾曲凹部と、
筒型で前記湾曲凹部に設置されてエンジンマウントのブッシュ部を保持する筒形状部材と、
前記筒形状部材の前側と前記下側部材の天面部とをつなぐ前側ブラケットと、
前記筒形状部材の後側と前記下側部材の天面部とをつなぐ後側ブラケットとを備え、
前記下側部材の前記天面部は、前記サイドメンバの上部に取り付けられ、
前記下側部材は、前記サイドメンバに締結される複数の締結孔を有し、
前記複数の締結孔の一部は、前記天面部のうち上方から見て前記前側ブラケットに囲われた範囲と前記後側ブラケットに囲われた範囲それぞれに設けられて前記サイドメンバの上部に締結されていることを特徴とする車両用エンジンマウントブラケット。

【請求項2】

前記下側部材の天面部は、前記湾曲凹部よりも前側の前側天面部と該湾曲凹部よりも後側であって該前側天面部よりも低い位置に形成された後側天面部とを含み、
前記前側ブラケットは、車幅方向から見て前記前側天面部と前記筒形状部材とに沿ったＬ字形状をしていて、
前記後側ブラケットは、車幅方向から見て前記後側天面部と前記筒形状部材とに沿ったＬ字形状をしていて、
前記下側部材はさらに、前記天面部の車幅方向内側から下方に延びて前記サイドメンバの車幅方向内側の側部に取り付けられる壁面部を有し、
前記複数の締結孔の他の一部は、前記壁面部のうち前記前側ブラケットの下方に重なる範囲と前記後側ブラケットの下方に重なる範囲それぞれに設けられて前記サイドメンバの側部に締結されていることを特徴とする請求項１に記載の車両用エンジンマウントブラケット。

【請求項3】

前記湾曲凹部は、前記後側天面部よりも下方に窪んでいることを特徴とする請求項２に記載の車両用エンジンマウントブラケット。

【請求項4】

当該車両用エンジンマウントブラケットはさらに、前記筒形状部材の上部と前記パワーユニット搭載ルームの側壁とをつなぐ上側ブラケットを備えることを特徴とする請求項１から３のいずれか１項に記載の車両用エンジンマウントブラケット。

【請求項5】

前記前側ブラケットおよび前記後側ブラケットは、前記筒形状部材と接触する部分が線溶接されていることを特徴とする請求項１から４のいずれか１項に記載の車両用エンジンマウントブラケット。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、車両用エンジンマウントブラケットに関するものである。

【背景技術】

【0002】

一般に、車両のエンジンは、車両前部のエンジンやモータが搭載されるパワーユニット搭載ルームにおいて、エンジンマウントを利用して車体に懸架されている。エンジンマウントは、主に、弾性体から成るブッシュと、ブッシュを包むハウジングを含んで構成されている。例えば、特許文献１の図２には、弾性部材２４と外側管２２とを含んだエンジン側マウント８が開示されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【文献】特開２０００－２７４４８５号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

一般に、上記エンジンマウントは、パワーユニット搭載ルーム内の車幅方向の片側の位置にブラケット等を利用して設置される。例えば、特許文献１の図１０には、従来からの構成として、エンジンルームのサイドメンバ１２０の上方に車体側マウンティングブラケット１２４が取り付けられている様子が記載されている。しかしながら、このようなエンジンマウントブラケットは、車幅方向内側に向かってエンジンの荷重がかけられるため、車幅方向内側に倒れる方向への挙動を生じさせやすく、車体振動を悪化させる原因にもなりかねない。

【0005】

本発明は、このような課題に鑑み、エンジンマウントを高い剛性で支えることが可能な車両用エンジンマウントブラケットを提供することを目的としている。

【課題を解決するための手段】

【0006】

上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用エンジンマウントブラケットの代表的な構成は、車両のパワーユニット搭載ルームに設置されてエンジンマウントを支える車両用エンジンマウントブラケットにおいて、当該車両用エンジンマウントブラケットは、パワーユニット搭載ルームの車幅方向の端部で車両前後方向に延びているサイドメンバに設置される下側部材と、下側部材の天面部の所定範囲に形成された車幅方向にわたって円筒状に窪んだ湾曲凹部と、筒型で湾曲凹部に設置されてエンジンマウントのブッシュ部を保持する筒形状部材と、筒形状部材の前側と下側部材の天面部とをつなぐ前側ブラケットと、筒形状部材の後側と下側部材の天面部とをつなぐ後側ブラケットとを備えることを特徴とする。

【発明の効果】

【0007】

本発明によれば、エンジンマウントを高い剛性で支えることが可能な車両用エンジンマウントブラケットを提供することが可能になる。

【図面の簡単な説明】

【0008】

【図1】本発明の実施例に係る車両用エンジンマウントブラケットの概要を示す斜視図である。

【図2】図１のエンジンマウントブラケットを単独で示した図である。

【図3】図２のエンジンマウントブラケットを各方向から見て示した図である。

【発明を実施するための形態】

【0009】

本発明の一実施の形態に係る車両用エンジンマウントブラケットは、車両のパワーユニット搭載ルームに設置されてエンジンマウントを支える車両用エンジンマウントブラケットにおいて、当該車両用エンジンマウントブラケットは、パワーユニット搭載ルームの車幅方向の端部で車両前後方向に延びているサイドメンバに設置される下側部材と、下側部材の天面部の所定範囲に形成されて車幅方向にわたって円筒状に窪んだ湾曲凹部と、筒型で湾曲凹部に設置されてエンジンマウントのブッシュ部を保持する筒形状部材と、筒形状部材の前側と下側部材の天面部とをつなぐ前側ブラケットと、筒形状部材の後側と下側部材の天面部とをつなぐ後側ブラケットとを備えることを特徴とする。

【0010】

上記構成によれば、エンジンマウントのブッシュ部の特に車幅方向の振動を効率よく抑え、車体の振動性能を高めることが可能になる。

【0011】

上記の下側部材の天面部は、湾曲凹部よりも前側の前側天面部と湾曲凹部よりも後側であって前側天面部よりも低い位置に形成された後側天面部とを含み、前側ブラケットは、車幅方向から見て前側天面部と筒形状部材とに沿ったＬ字形状をしていて、後側ブラケットは、車幅方向から見て後側天面部と筒形状部材とに沿ったＬ字形状をしていてもよい。

【0012】

上記構成によれば、前側ブラケットおよび後側ブラケットを利用して、ブッシュ部が取り付けられる筒形状部材の振動をより効率よく抑えることが可能になる。

【0013】

上記の湾曲凹部は、後側天面部よりも下方に窪んでいてもよい。

【0014】

上記構成によれば、湾曲凹部に設置される筒形状部材に対して、後側ブラケットおよび前側ブラケットがより上方から接合するため、筒形状部材の振動をより効率よく抑えることが可能になる。

【0015】

上記の下側部材の天面部は、サイドメンバの上部に取り付けられ、当該車両用エンジンマウントブラケットはさらに、天面部の車幅方向内側から下方に延びてサイドメンバの車幅方向内側の側部に取り付けられる壁面部と、筒形状部材の上部とパワーユニット搭載ルームの側壁とをつなぐ上側ブラケットを備えてもよい。

【0016】

上記構成によれば、下側部材の壁面部および上側ブラケットを利用することで、当該車両用エンジンマウントブラケットの車幅方向の振動を効率よく抑えることが可能になる。

【0017】

上記の前側ブラケットおよび後側ブラケットは、筒形状部材と接触する部分が線溶接されていてもよい。

【0018】

上記構成によれば、筒形状部材と前側ブラケットおよび後側ブラケットとをより高い剛性で接合し、筒形状部材の振動を効率よく抑えることが可能になる。

【実施例】

【0019】

以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。

【0020】

図１は、本発明の実施例に係る車両用エンジンマウントブラケット（以下、エンジンマウントブラケット１００）の概要を示す斜視図である。以下、図１その他の本願のすべての図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Backward)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Leftward)、R(Rightward)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(upward)、D(downward)で例示する。

【0021】

エンジンマウントブラケット１００は、車両前部のパワーユニット搭載ルームに設置され、エンジンを懸架する不図示のエンジンマウントを支える。エンジンマウントブラケット１００は、パワーユニット搭載ルーム内の車幅方向の左側であって、バッテリ１０２を支えるバッテリブラケット１０６の後方に配置されている。

【0022】

図２は、図１のエンジンマウントブラケット１００を単独で示した図である。図２（ａ）は、図１のエンジンマウントブラケット１００の斜視図である。

【0023】

下側部材１１０は、当該エンジンマウントブラケット１００の基礎となる部分であって、パワーユニット搭載ルームの車幅方向の端部で車両前後方向に延びているサイドメンバ１０８（図１参照）に設置される。

【0024】

下側部材１１０の天面部１１６は、複数の締結孔１３８を利用して、サイドメンバ１０８の上部に取り付けられる。下側部材１１０の壁面部１４０は、天面部１１６の車幅方向内側から下方に延びる部分であって、サイドメンバ１０８の車幅方向内側の側部に取り付けられる。壁面部１４０にも、サイドメンバ１０８に締結するための複数の締結孔１４２が設けられている。

【0025】

筒形状部材１１２は、下側部材１１０の上に設置される筒状の部材であって、不図示のエンジンマウントのブッシュ部が内側に挿入された状態で保持される。

【0026】

前側ブラケット１１４は、筒形状部材１１２の前側と下側部材１１０の天面部１１６とをつなぐ。後側ブラケット１１８は、筒形状部材１１２の後側と下側部材１１０の天面部１１６とをつなぐ。これら前側ブラケット１１４および後側ブラケット１１８は、前後方向から見て、逆Ｕ字状の形になっている（図３（ｂ）の前側ブラケット参照）。

【0027】

前側ブラケット１１４および後側ブラケット１１８は、筒形状部材１１２と接触する部分、および下側部材１１０と接触する部分が線溶接１２８で接合されている。線溶接１２８によって、前側ブラケット１１４および後側ブラケット１１８それぞれは、筒形状部１１２および下側部材１１０に対してより高い剛性で接合され、筒形状部材１１２の振動を効率よく抑えることが可能になっている。

【0028】

図２（ｂ）は、図１のエンジンマウントブラケット１００を車幅方向内側から見た図である。下側部材１１０の天面部１１６の中央側の範囲には、湾曲凹部１２０が形成されている。湾曲凹部１２０は、車幅方向にわたって円筒状に窪んでいて、筒形状部材１１２が設置される。

【0029】

下側部材１１０の天面部１１６は、前側天面部１１６ａと、後側天面部１１６ｂとを含んで構成されている。前側天面部１１６ａは、湾曲凹部１２０よりも前側に形成されている。後側天面部１１６ｂは、湾曲凹部１２０よりも後側であって、前側天面部１１６ａよりも低い位置に形成されている。

【0030】

前側ブラケット１１４は、車幅方向から見て、前側天面部１１６ａと筒形状部材１１２とに沿ったＬ字形状になっている。また、後側ブラケット１１８は、車幅方向から見て、後側天面部１１６ｂと筒形状部材１１２とに沿ったＬ字形状になっている。

【0031】

上記構成のエンジンマウントブラケット１００によれば、筒形状部材１１２を下側部材１１０に高い剛性で接合させることができるため、筒形状部材１１２の内側に取り付けられるエンジンマウントのブッシュ部の特に車幅方向の振動を抑え、車体の振動性能を高めることが可能になる。特に、前側ブラケット１１４および後側ブラケット１１８を利用することで、筒形状部材１１２の振動をより効率よく抑えることが可能になる。

【0032】

湾曲凹部１２０は、後側天面部１１６ｂよりも下方に窪んでいる。この構成によれば、湾曲凹部１２０に設置される筒形状部材１１２に対して、後側ブラケット１１８および前側ブラケット１１４がより上方から接合するため、筒形状部材１１２の特に前後方向の振動をより効率よく抑えることが可能になる。

【0033】

図３は、図２のエンジンマウントブラケット１００を各方向から見て示した図である。図３（ａ）は、図２のエンジンマウントブラケット１００を上方から見て示した図である。筒形状部材１１２の上部には、上側ブラケット１２２が設けられている。上側ブラケット１２２は、筒形状部材１１２の上部とパワーユニット搭載ルームの側壁１３０（図１参照）とをつなぐ部材である。

【0034】

上側ブラケット１２２は、筒形状部材１１２に接合される基部１２４と、基部１２４の車幅方向外側から上方に屈曲してパワーユニット搭載ルームの側壁１３０（図１参照）に接合される側壁接合部１２６とを有している。基部１２４は、筒形状部材１１２の上部に溶接部１３２（図２（ａ）参照）によって接合される。側壁接合部１２６には、側壁１３０に接合するための締結孔１３４が設けられている。また、上側ブラケット１２２には、基部１２４から側壁接合部１２６にわたる前後の縁にフランジ１３６が設けられ、剛性が高められている。

【0035】

図３（ｂ）は、図２のエンジンマウントブラケット１００を車両前方から見て示した図である。エンジンマウントブラケット１００は、下側部材１１０の壁面部１４０および上側ブラケット１２２の側壁接合部１２６によって、車幅方向における異なる位置にて車両に接合することができる。この構成によって、当該エンジンマウントブラケット１００は、マウントブラケットから筒形状部材１１２にかけられる車幅方向の振動や変形を効率よく抑えることが可能になる。

【0036】

以上のように、当該エンジンマウントブラケット１００によれば、エンジンマウントの振動性能を改善し、ひいてはエンジンマウントからの入力に起因する音圧感度や車体のフロアの振動感度なども改善することが可能である。

【0037】

以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

【産業上の利用可能性】

【0038】

本発明は、車両用エンジンマウントブラケットに利用することができる。

【符号の説明】

【0039】

１００…エンジンマウントブラケット、１０２…バッテリ、１０６…バッテリブラケット、１０８…サイドメンバ、１１０…下側部材、１１２…筒形状部材、１１４…前側ブラケット、１１６…天面部、１１６ａ…前側天面部、１１６ｂ…後側天面部、１１８…後側ブラケット、１２０…湾曲凹部、１２２…上側ブラケット、１２４…基部、１２６…側壁接合部、１２８…線溶接、１３０…側壁、１３２…溶接部、１３４…締結孔、１３６…フランジ、１３８…締結孔、１４０…壁面部、１４２…締結孔

【図1】

【図2】

【図3】