(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-10
(45)【発行日】2025-11-18
(54)【発明の名称】画像処理方法、プログラム、および画像処理装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20251111BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20251111BHJP
【FI】
A61B5/055 380
G06T1/00 290C
(21)【出願番号】P 2023502507
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2022007747
(87)【国際公開番号】W WO2022181726
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2024-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2021029161
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】舘脇 康子
(72)【発明者】
【氏名】米田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】荒井 晃
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-047224(JP,A)
【文献】特開2021-006250(JP,A)
【文献】特表2019-514475(JP,A)
【文献】特開2009-125582(JP,A)
【文献】特開2009-268741(JP,A)
【文献】国際公開第2010/073923(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021543(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0086929(KR,A)
【文献】特許第7504340(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管マスク作成部が、
MRI画像に対して血管に相当する領域を強調した磁気共鳴信号から得られた画像または画像取得部が取得した血管強調画像に
対して、点状低信号
を除去
するステップと
、
前記点状低信号が除去された画像に対して、線状低信号
を除去
するステップと
、
前記点状低信号が除去された画像と、前記線状低信号が除去された画像とを用いて、線状低信号
を抽出
するステップと、
前記MRI画像に対して血管に相当する領域を強調した磁気共鳴信号から得られた画像または前記画像取得部が取得した血管強調画像に対して、点状高信号
を除去
するステップと
、
前記点状高信号が除去された画像に対して、線状高信号
を除去
するステップと
、
前記点状高信号が除去された画像と、前記線状高信号が除去された画像とを用いて、線状高信号
を抽出
するステップと、
を行うことで血管マスク画像を作成するステップと、
マスク処理部が、前記磁気共鳴信号から得られた画像または前記画像取得部が取得した血管強調画像に対して、前記血管マスク画像を用いて血管構造を除去した画像を生成するステップと、
を含む画像処理方法。
【請求項2】
分離部が、前記血管構造が除去された画像に対して、局所低信号とびまん性成分を分離するステップと、
脳表投影画像出力部が、前記びまん性成分を脳表に投影して脳表投影画像を生成するステップと、
を更に含む請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項3】
前記血管マスク作成部が、モルフォロジー演算処理によって前記血管マスク画像を作成し、
前記分離部が、前記モルフォロジー演算処理によって前記局所低信号とびまん性成分画像を分離する、
請求項2に記載の画像処理方法。
【請求項4】
前記血管マスク作成部が、
13方向の3×3×3の線状カーネルを用いたモルフォロジー演算処理によって前記点状低信号を除去するステップと、
前記点状低信号が除去された画像に対して、13方向の3×3×3の面状カーネルを用いたモルフォロジー演算処理によって前記線状低信号を除去するステップと、
前記点状低信号が除去された画像と、前記線状低信号が除去された画像とを用いて、前記線状低信号を抽出するステップと、
13方向の3×3×3の線状カーネルを用いたモルフォロジー演算処理によって前記点状高信号を除去するステップと、
前記点状高信号が除去された画像に対して、13方向の3×3×3の面状カーネルを用いたモルフォロジー演算処理によって前記線状高信号を除去するステップと、
前記点状高信号が除去された画像と、前記線状高信号が除去された画像とを用いて、前記線状高信号を抽出するステップと、
を含む請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項5】
前記血管マスク作成部が、
異なるピクセル幅に対して、前記点状低信号を除去する処理と、前記線状低信号を除去する処理と、前記線状低信号を抽出する処理と、前記点状高信号を除去する処理と、前記線状高信号を除去する処理と、前記線状高信号を抽出する処理と、を行う、
請求項3に記載の画像処理方法。
【請求項6】
前記分離部が、
前記血管構造が除去された画像に対して、半径p(pは1以上nまでの整数)ピクセルの球状カーネルを用いてモルフォロジー演算処理によってクロージング処理を行い、サイズnの前記局所低信号を分離し、
前記血管構造が除去された画像に対して、半径nピクセルの球状カーネルを用いてクロージング処理がおこなわれたp個の結果を用いて、びまん性画像を分離するステップ、
を含む請求項2に記載の画像処理方法。
【請求項7】
前記マスク処理部が、前記MRI画像から作成された位相差強調画像に対して、前記血管マスク画像を用いて血管構造を除去した画像を生成するステップを含む請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項8】
前記位相差強調画像は、前記MRI画像に対してアミロイドβ結合鉄-位相差強調画像化法によって作成されたAP-PADRE画像である、請求項7に記載の画像処理方法。
【請求項9】
前記血管マスク作成部が、前記血管マスク画像を用いて、関心領域の情報を抽出する、請求項1から請求項8のうちのいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項10】
前記血管マスク作成部が、
前記血管マスク画像と、関心領域のテンプレートと、取得された強調画像を前記磁気共鳴信号から得られた画像または前記画像取得部が取得した血管強調画像へ合わせこみ双方の画像の位置合わせを行った情報と、前記強調画像を非線形変換によって変形して標準脳座標上の前記強調画像のテンプレート画像に合わせ込むことにより個人脳座標と標準脳座標との間の変換ベクトル場求めた情報に基づいて標準化された情報を前記個人脳座標へ変換した情報と、に基づいてマスク処理を行うことで、関心領域の情報を抽出する、請求項1から請求項8のうちのいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項11】
コンピュータに、
MRI画像に対して血管に相当する領域を強調した磁気共鳴信号から得られた画像または画像取得部が取得した血管強調画像に
対して、点状低信号
を除去
させるステップと、
前記点状低信号が除去された画像に対して、線状低信号
を除去
させるステップと、
前記点状低信号が除去された画像と、前記線状低信号が除去された画像とを用いて、線状低信号
を抽出
させるステップと、
前記MRI画像に対して血管に相当する領域を強調した磁気共鳴信号から得られた画像または前記画像取得部が取得した血管強調画像に対して、点状高信号
を除去
させるステップと、
前記点状高信号が除去された画像に対して、線状高信号
を除去
させるステップと、
前記点状高信号が除去された画像と、前記線状高信号が除去された画像とを用いて、線状高信号
を抽出
させるステップと、を行
わせることで血管マスク画像を作成させ、
前記磁気共鳴信号から得られた画像または前記画像取得部が取得した血管強調画像に対して、前記血管マスク画像を用いて血管構造を除去した画像を生成させる、
プログラム。
【請求項12】
MRI画像に対して血管に相当する領域を強調した磁気共鳴信号から得られた画像または画像取得部が取得した血管強調画像に
対して、点状低信号
を除去
するステップと、前記点状低信号が除去された画像に対して、線状低信号
を除去
するステップと、前記点状低信号が除去された画像と、前記線状低信号が除去された画像とを用いて、線状低信号
を抽出
するステップと、前記MRI画像に対して血管に相当する領域を強調した磁気共鳴信号から得られた画像または前記画像取得部が取得した血管強調画像に対して、点状高信号
を除去
するステップと、前記点状高信号が除去された画像に対して、線状高信号
を除去
するステップと、前記点状高信号が除去された画像と、前記線状高信号が除去された画像とを用いて、線状高信号
を抽出
するステップと、を行うことで血管マスク画像を作成する血管マスク作成部と、
前記磁気共鳴信号から得られた画像または前記画像取得部が取得した血管強調画像に対して、前記血管マスク画像を用いて血管構造を除去した画像を生成するマスク処理部と、
を備える画像処理装置。
【請求項13】
前記血管マスク作成部が、前記血管マスク画像を用いて、関心領域の情報を抽出する、請求項12に記載の画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理方法、プログラム、および画像処理装置に関する。
本願は、2021年 2月25日に、日本に出願された特願2021-029161号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドβは、認知症の原因第1位の病態であるアルツハイマー病の原因物質である。アルツハイマー病患者の脳内には、認知症を発症する例えば20年から30年も前の段階からアミロイドβが沈着するため、無症状の時期にアミロイドβを検出することは認知症の早期治療や発症予防、創薬におけるモニタリングなどの観点でも大きな需要を持つ。アミロイドβの脳内沈着を診断するための従来技術としてPiB(Pittsburgh compound-B)などのアミロイドβに結合する放射性薬剤を用いたPET(Positron Emission Tomography)検査(アミロイドPET)がある。アミロイドPETは脳内のアミロイドβ沈着を可視化できる有用な画像検査であるが、患者の被ばくを伴う点、検査費用が高額である点、実施施設が少ないなどの欠点がある。そこで、被ばくを伴わない診断方法として、MRI(Magnetic Resonance Imaging)で脳アミロイドβ沈着を予測する研究が精力的におこなわれている。例えば、MRI画像の位相成分情報から得られるQSM(Quantitative Susceptibility Mapping)という定量値を元に、アミロイドβ、および加齢鉄の脳内沈着を予測しようとする研究がおこなわれている。また、PADRE(Phase Difference Enhances Imaging;位相差強調画像化法)によって強調したい組織コントラストに応じた位相を選択して強調する手法が提案されている(例えば特許文献1参照)。PADREの手法では、例えば組織や血管等、アミロイド斑や血管等の目的とする組織の、組織分解能を高めることができる。
【0003】
また、AP-PADRE(Amyloid Plaque-PADRE)による視覚評価が提案されている。AP-PADREの大脳皮質の低信号分布には、臨床的にアルツハイマー病として診断された患者(アルツハイマー型認知症患者)とコントロール群において視覚的評価において有意差が見られ、アルツハイマー病患者において上側頭回の低信号分布はMMSE(Mini-Mental State Examination)に正相関することが報告されている(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2010/073923号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【文献】Tateishi M. et al. , “Differentiating between Alzheimer Disease Patients and Controls with Phase-difference-enhanced Imaging at 3T: A Feasibility Study” ,Magn Reson Med Sci. 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1の評価は、視覚的評価を行ったものの、アルツハイマー病の原因であるアミロイドβを抽出して比較評価したものではなく、あくまでも臨床症状を拠り所として弁別能を見たものであった。また、AP-PADRE画像を用いた手法では、単純な皮質の低信号分布のみではPiB陽性と陰性症例との区別が難しい。なお、PiB陽性とは、PiB-PET検査で陽性と診断されたことを指し、PiB陰性とは、PiB-PET検査で陰性と診断されたことを指す。また、PiB陽性症例では、皮髄境界の不鮮明、作成したカラーマップにおける信号の領域差などの傾向がみられるものの、確実ではなかった。このように、従来技術では、アミロイドβ沈着を視覚評価することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、アミロイドβ沈着の有無の視覚的判定や定量評価、アルツハイマー病罹患の有無の診断をすることができる画像処理方法、プログラム、および画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る画像処理方法は、血管マスク作成部が、MRI画像に対して血管に相当する領域を強調した磁気共鳴信号から得られた画像に、点状低信号の除去と線状低信号の除去と線状低信号の抽出と、点状高信号の除去と線状高信号の除去と線状高信号の抽出と、を行うことで血管マスク画像を作成するステップと、マスク処理部が、前記MRI画像から作成された位相差強調画像に対して、前記血管マスク画像を用いて血管構造を除去した画像を生成するステップと、を含む。
【0009】
(2)また、本発明の一態様に係る画像処理方法において、分離部が、前記血管構造が除去された画像に対して、局所低信号とびまん性成分を分離するステップと、脳表投影画像出力部が、前記びまん性成分を脳表に投影して脳表投影画像を生成するステップと、を更に含むようにしてもよい。
【0010】
(3)また、本発明の一態様に係る画像処理方法において、前記血管マスク作成部が、モルフォロジー演算処理によって前記血管マスク画像を作成し、前記分離部が、前記モルフォロジー演算処理によって前記局所低信号とびまん性成分画像を分離するようにしてもよい。
【0011】
(4)また、本発明の一態様に係る画像処理方法において、前記血管マスク作成部が、13方向の3×3×3の線状カーネルを用いたモルフォロジー演算処理によって前記点状低信号を除去するステップと、前記点状低信号が除去された画像に対して、13方向の3×3×3の面状カーネルを用いたモルフォロジー演算処理によって前記線状低信号を除去するステップと、前記点状低信号が除去された画像と、前記線状低信号が除去された画像とを用いて、前記線状低信号を抽出するステップと、13方向の3×3×3の線状カーネルを用いたモルフォロジー演算処理によって前記点状高信号を除去するステップと、前記点状高信号が除去された画像に対して、13方向の3×3×3の面状カーネルを用いたモルフォロジー演算処理によって前記線状高信号を除去するステップと、前記点状高信号が除去された画像と、前記線状高信号が除去された画像とを用いて、前記線状高信号を抽出するステップと、を含むようにしてもよい。
【0012】
(5)また、本発明の一態様に係る画像処理方法において、前記血管マスク作成部が、異なるピクセル幅に対して、前記点状低信号を除去する処理と、前記線状低信号を除去する処理と、前記線状低信号を抽出する処理と、前記点状高信号を除去する処理と、前記線状高信号を除去する処理と、前記線状高信号を抽出する処理と、を行うようにしてもよい。
【0013】
(6)また、本発明の一態様に係る画像処理方法において、前記分離部が、前記血管構造が除去された画像に対して、半径p(pは1以上nまでの整数)ピクセルの球状カーネルを用いてモルフォロジー演算処理によってクロージング処理を行い、サイズnの前記局所低信号を分離し、前記血管構造が除去された画像に対して、半径nピクセルの球状カーネルを用いてクロージング処理がおこなわれたp個の結果を用いて、びまん性画像を分離するステップ、を含むようにしてもよい。
【0014】
(7)また、本発明の一態様に係る画像処理方法において、前記位相差強調画像は、前記MRI画像に対してアミロイドβ結合鉄-位相差強調画像化法によって作成されたAP-PADRE画像であるようにしてもよい。
【0015】
(8)また、本発明の一態様に係る画像処理方法において、前記血管マスク作成部が、前記血管マスク画像を用いて、関心領域の情報を抽出するようにしてもよい。
【0016】
(9)また、本発明の一態様に係る画像処理方法において、前記血管マスク作成部が、前記血管マスク画像と、関心領域のテンプレートと、取得された強調画像を前記位相差強調画像へ合わせこみ双方の画像の位置合わせを行った情報と、前記強調画像を非線形変換によって変形して標準脳座標上の前記強調画像のテンプレート画像に合わせ込むことにより個人脳座標と標準脳座標との間の変換ベクトル場求めた情報に基づいて標準化された情報を前記個人脳座標へ変換した情報と、に基づいてマスク処理を行うことで、関心領域の情報を抽出するようにしてもよい。
【0017】
(10)上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータに、MRI画像に対して血管に相当する領域を強調した磁気共鳴信号から得られた画像に、点状低信号の除去と線状低信号の除去と線状低信号の抽出と、点状高信号の除去と線状高信号の除去と線状高信号の抽出と、を行うことで血管マスク画像を作成させ、前記MRI画像から作成された位相差強調画像に対して、前記血管マスク画像を用いて血管構造を除去した画像を生成させる。
【0018】
(11)上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る画像処理装置は、MRI画像に対して血管に相当する領域を強調した磁気共鳴信号から得られた画像に、点状低信号の除去と線状低信号の除去と線状低信号の抽出と、点状高信号の除去と線状高信号の除去と線状高信号の抽出と、を行うことで血管マスク画像を作成する血管マスク作成部と、前記MRI画像から作成された位相差強調画像に対して、前記血管マスク画像を用いて血管構造を除去した画像を生成するマスク処理部と、を備える。
【0019】
(12)また、本発明の一態様に係る画像処理装置において、前記血管マスク作成部が、前記血管マスク画像を用いて、関心領域の情報を抽出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アミロイドβ沈着の有無の視覚的判定や定量評価、アルツハイマー病罹患の有無の診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る画像処理装置の構成例を示す図である。
【
図2】AP-PADREの概略を説明するための2コンポーネントモデルを示す図である。
【
図3】モルフォロジー演算を説明するための図である。
【
図4】実施形態に係る血管構造の抽出処理例を示す図である。
【
図6】実施形態に係る血管マスク画像の作成処理例を示す図である。
【
図7】実施形態に係る血管マスク画像の適用前の画像とAP-PADRE画像から血管マスクにより血管構造を除去し、さらにMPRAGEから作成した脳実質マスクにより実質外成分を除去した画像の例を示す図である。
【
図8】実施形態に係る血管マスク画像作成手順のフローチャートである。
【
図9】実施形態に係る1ピクセル幅で点状低信号を除去する処理手順のフローチャートである。
【
図10】実施形態に係る1ピクセル幅で線状低信号を除去する処理手順のフローチャートである。
【
図11】13方向の3×3×3ピクセルの線状カーネルを示す図である。
【
図12】13方向の3×3×3ピクセルの面状カーネルを示す図である。
【
図13】比較例におけるPiB陰性群の血管構造と脳実質外成分を除去したPADRE画像と、PiB-PETについて比較に使用した画像例を示す図である。
【
図14】比較例におけるPiB陽性群の血管構造と脳実質外成分を除去したPADRE画像と、PiB-PETについて比較に使用した画像例を示す図である。
【
図15】標準脳座標上に設定されたAALアトラス画像例と、AALアトラスによるROIをPADRE画像に重ねた画像例である。
【
図16】AALアトラスでROI解析した皮質における、小脳平均値で正規化したPADRE信号のPiB陽性群と陰性群それぞれの平均値を示す図である。
【
図17】AALアトラスでROI解析した皮質における、小脳平均値で正規化したPADRE信号のPiB陽性群と陰性群それぞれの平均値を示す図である。
【
図18】AALアトラスでROI解析した皮質における、小脳平均値で正規化したPADRE信号のPiB陽性群と陰性群それぞれの平均値を示す図である。
【
図19】AALアトラスでROI解析した皮質の正規化したPADRE信号のPiB陽性群と陰性群それぞれの平均値に統計学的有意差があった領域を脳表にマッピングして三次元で可視化した図である。
【
図20】AALアトラスでROI解析した脳局所皮質に含まれるボクセル値について、PADRE信号のPiB陽性群と陰性群のヒストグラムを色分けして示す図である。
【
図21】実施形態に係る局所低信号成分とびまん性成分との分離処理のフローチャートである。
【
図22】びまん性成分画像のROI内の正規化したPADRE信号値のPiB陽性群とPiB陰性群それぞれの平均値を示す図である。
【
図23】びまん性成分画像のROI内の正規化したPADRE信号値のPiB陽性群とPiB陰性群それぞれの平均値を示す図である。
【
図24】びまん性成分画像のROI内の正規化したPADRE信号値のPiB陽性群とPiB陰性群それぞれの平均値を示す図である。
【
図25】びまん性成分画像のROI内の正規化したPADRE信号値のPiB陽性群とPiB陰性群それぞれの平均値を示す図である。
【
図26】PiB陰性群と陽性群においてPADRE画像から抽出したびまん性成分の平均値を脳表に投影した画像例を示す図である。
【
図27】脊髄小脳変性症のPiB陰性者のMRI画像に対して実施形態の手法で血管と低信号とを除去し、抽出したびまん性成分を脳表にマッピングした画像である。
【
図28】健康者(NC)のPiB陰性者のMRI画像に対して実施形態の手法で血管と低信号とを除去し、抽出したびまん性成分を脳表にマッピングした画像である。
【
図29】軽度認知障害のPiB陽性者のMRI画像に対して実施形態の手法で血管と低信号とを除去し、抽出したびまん性成分を脳表にマッピングした画像である。
【
図30】軽度認知障害のPiB陽性者のMRI画像に対して実施形態の手法で血管と低信号とを除去し、抽出したびまん性成分を脳表にマッピングした画像である。
【
図32】アルツハイマー病によるMCIの患者のAP-PADRE画像から作成された点状成分画像とびまん性成分画像を示す図である。
【
図33】各ROIにおけるAP-PADREの点状成分画像の小脳で正規化した信号のPiB陽性群とPiB陰性群の各群での平均値の信号差を算出し、脳表にカラーマップ投影した図である。
【
図34】各ROIにおけるAP-PADREのびまん性成分画像の小脳で正規化した信号のPiB陽性群とPiB陰性群の各群での平均値の信号差を算出し、脳表にカラーマップ投影した図である。
【
図35】第5の検証におけるNon-AD群対MCI群+アルツハイマー型認知症群の結果を示す図である。
【
図36】第5の検証におけるNon-AD群対MCI群+アルツハイマー型認知症群の結果を示す図である。
【
図37】第5の検証におけるNon-AD群対MCI群+アルツハイマー型認知症群の結果を示す図である。
【
図38】第5の検証におけるNon-AD群対アルツハイマー型認知症病群の片側のt検定の結果を示す図である。
【
図39】第5の検証におけるNon-AD群対アルツハイマー型認知症病群の片側のt検定の結果を示す図である。
【
図40】第5の検証におけるNon-AD群対アルツハイマー型認知症病群の片側のt検定の結果を示す図である。
【
図41】第5の検証におけるPiBデータを有する11症例について、PiBによる陰性群と陽性群の二群での同様のROI解析結果の片側t検定の結果を示す図である。
【
図42】第5の検証におけるPiBデータを有する11症例について、PiBによる陰性群と陽性群の二群での同様のROI解析結果の片側t検定の結果を示す図である。
【
図43】第5の検証におけるPiBデータを有する11症例について、PiBによる陰性群と陽性群の二群での同様のROI解析結果の片側t検定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0023】
図1は、本実施形態に係る画像処理装置1の構成例を示す図である。
図1のように、画像処理装置1は、画像取得部11、血管強調画像生成部12、Bias Field補正部13、血管マスク作成部14、AP-PADRE画像生成部15、Bias Field補正部16、マスク処理部17、分離部18、脳表投影画像出力部19、3D-T1強調画像生成部20、位置合わせ部21、解剖学的標準化部22、座標変換部23、統計画像解析結果出力部24、テンプレート記憶部25、座標変換部26、マスク処理部27、および関心領域解析結果出力部28を備える。
【0024】
画像処理装置1は、取得したMRI画像に対して画像処理を行って、脳表投影画像、統計画像解析結果および関心領域解析結果を出力する。
【0025】
画像取得部11は、磁気共鳴信号から得られた患者のMRI画像に基づくPADREの元画像と3D-T1強調画像生成の元画像の2種類を取得する。画像取得部11は、取得したPADREの元画像を血管強調画像生成部12とAP-PADRE画像生成部15に出力し、取得した3D-T1強調画像生成の元画像を3D-T1強調画像生成部20に出力する。なお、画像取得部11は、血管強調画像、AP-PADRE画像、3D-T1強調画像を外部装置から取得するようにしてもよい。
【0026】
血管強調画像生成部12は、PADREの元画像に対して、例えばSWI(Susceptibility Weighted Imaging)的な再構成手法によって画像を磁化率変化で血管部分を強調して、血管強調画像を生成する。なお、血管強調画像生成部12は、画像取得部11が血管強調画像を取得した場合、画像取得部11出力する血管強調画像をBias Field補正部13に出力する。
【0027】
Bias Field補正部13は、血管強調画像に対して、位置合わせ部21が出力する情報を用いて、Bias Field補正を行う。なお、Bias Field補正とは、磁場の影響を均一化する補正である。
【0028】
血管マスク作成部14は、Bias Field補正された血管強調画像から、血管構造を除去するための血管マスク画像を生成する。なお、血管マスク画像の作成方法については後述する。
【0029】
AP-PADRE画像生成部15は、PADREの元画像に対して再構成手法によって、AP-PADRE画像を生成する。なお、AP-PADRE画像生成部15は、画像取得部11がAP-PADRE画像を取得した場合、画像取得部11出力するAP-PADRE画像をBias Field補正部16に出力する。
【0030】
Bias Field補正部16は、AP-PADRE画像に対して、位置合わせ部21が出力する情報を用いて、Bias Field補正を行って補正画像を得る。同時に組織分割により灰白質成分画像を得る。
【0031】
マスク処理部17は、Bias Field補正部16が出力する灰白質画像を2値化して得られる灰白質マスク画像と、血管マスク作成部14が作成した血管マスク画像とを、Bias Field補正部16が出力するBial Field補正画像に対して適用して、血管に対応する部分や灰白質以外の部分を画像から取り除く。
【0032】
分離部18は、血管に対応する画像が取除かれた画像に対して、局所低信号成分とびまん性成分を分離する。なお、分離処理については後述する。
【0033】
脳表投影画像出力部19は、分離部18が分離した結果に基づいて、脳表投影画像を外部装置(例えば画像表示装置、印刷装置等)に出力する。
【0034】
3D-T1強調画像生成部20は、例えばグラディエントエコー法による撮像によって全脳(Whole Brain)領域を含むT1強調画像を生成する。3D-T1強調画像は、PADRE画像(血管強調画像、および、AP-PADRE画像)との相互の位置合わせおよび、画像の解剖学的標準化のプロセスに用いる。なお、3D-T1強調画像生成部20は、画像取得部11が3D-T1強調画像を取得した場合、画像取得部11出力する3D-T1強調画像を位置合わせ部21と解剖学的標準化部22に出力する。
【0035】
位置合わせ部21は、3D-T1強調画像をAP-PADRE画像へ合わせこみ、双方の画像の位置合わせを行う。
【0036】
解剖学的標準化部22は、3D-T1強調画像を非線形変換によって変形して、標準脳座標上の3D-T1テンプレート画像(T1強調画像テンプレート)に合わせ込むことにより、個人脳座標と標準脳座標との間の変換ベクトル場を求める。
【0037】
座標変換部23は、分離部18が出力する情報を、解剖学的標準化部22が出力する情報に基づいて、標準脳座標へ変換する。
【0038】
統計画像解析結果出力部24は、座標変換部23が出力する情報に基づいて、周知の手法によってボクセルベースで統計画像解析を行い、解析した結果を外部装置へ出力する。
【0039】
テンプレート記憶部25は、関心領域のテンプレートを記憶する。なお、関心領域のテンプレートは、例えば後述するROI解析等に使用される。
【0040】
座標変換部26は、テンプレート記憶部25が記憶する関心領域のテンプレートと、位置合わせ部21が出力する情報と、解剖学的標準化部22が出力する情報に基づいて、標準化された情報を個人脳座標へ変換する。
【0041】
マスク処理部27は、血管マスク作成部14が作成した血管マスク画像と、座標変換部26が出力する情報に基づいて、マスク処理を行うことで関心領域の情報を抽出する。
【0042】
関心領域解析結果出力部28は、マスク処理部27が出力する情報に基づいて、周知の手法で関心領域の解析を行い、解析した結果を外部装置へ出力する。
【0043】
なお、
図1に示した構成は一例であり、これに限られない。画像処理装置1は、例えば、3D-T1強調画像生成部20、位置合わせ部21、解剖学的標準化部22、座標変換部23、統計画像解析結果出力部24、テンプレート記憶部25、座標変換部26、マスク処理部27、および関心領域解析結果出力部28を備えていなくてもよい。
【0044】
(AP-PADRE)
ここで、AP-PADREの概略を説明する。
図2は、AP-PADREの概略を説明するための2コンポーネントモデルを示す図である。
図2において、横軸は位相(rad)であり、縦軸はボクセルの個数(分布の度数)である。鎖線g31はROI(Region of Interest;関心領域)から収集された位相画像データの分布(phase distribution)であり、鎖線g32は検出対象であるAPの鉄(アミロイド鉄)位相分布に対するバックグラウンド成分である加齢に伴い生理的に蓄積する鉄沈着(加齢鉄)の位相分布であり、鎖線g33はAPに蓄積する鉄の位相分布であり、閾値g34は位相閾値である。各白抜き四角(□)は実測データである。閾値g34は、鎖線g31の分布と鎖線g33の分布との交点の位相値を表し、交点より低い位相値ではAPの鉄分布が優位となる閾値の役割を果たす。また、
図2のように、位相分布全体が位相値0以下の負の領域がほとんどを占めている、さらに、
図2のように、APの位相分布が全体の分布の(向かって左側)負側に偏っている。なお、ROI内の位相分布は、バックグラウンド成分に対応する鉄の位相分布と、APに蓄積する鉄の位相分布との和であることを、2コンポーネントモデルは仮定している。
【0045】
まず、PADRE(位相差強調画像化法)の概略を説明する。PADREは、従来のSWI(磁化率強調画像)を元にしたpost-processing技術であり、強調したい組織に応じた位相を選択して強調することで、目的とする組織の描出能を高めている。PADREを用いることで、MRIの頭部画像において、例えば組織や血管、アミロイドβなど、目的の組織のコントラストを向上させることで強調できる(特許文献1参照)。
【0046】
次に、本実施形態で用いるAP-PADREについて説明する。
AP-PADREは、アミロイド斑を強調した画像である。AP-PADREは、アルツハイマー病の要因の1つであるアミロイドβ蛋白と重合する鉄に特有の位相差を選択してそのコントラストを強調することでアミロイドβの蓄積を描出可能にする画像再構成法である。大脳皮質に存在する鉄は、加齢鉄を含む生理鉄とアミロイド関連鉄を含む非生理鉄に分類される。AP-PADREでは、その位相差の違いによりアミロイドβ結合鉄を強調して描出する。
【0047】
このようなAP-PADREを用いた視覚評価では、大脳皮質の低信号分布にアルツハイマー型認知症患者とコントロール群において視覚的評価において有意差が見られた。そして、AP-PADREを用いた視覚評価では、アルツハイマー型認知症患者において上側頭回の低信号分布はMMSEに正相関することが報告されている(非特許文献1参照)。なお、この評価では、臨床評価であり、実際のアミロイドβを評価していなかった。PiB-PETは脳内のアミロイドβ蓄積を可視化できる画像技術である。アルツハイマー型認知症患者、軽度認知障害、健康者、非アルツハイマー型認知症患者等のAP-PADREとPiB-PETを視覚評価した結果は、AP-PADRE画像では、単純な皮質の低信号分布のみではPiB陽性と陰性症例との区別は難しかった。なお、アミロイドβの脳内蓄積がある患者を「アルツハイマー病」といい、それが原因で認知症の症状を呈している患者を「アルツハイマー型認知症」と呼ぶ。
【0048】
AP-PADRE画像による臨床診断の課題の要因と考えられるAP-PADRE画像の脳実質内部でのコントラストの悪さは、着目する領域である大脳皮質の近傍を走行している無数の微細な血管構造がAP-PADRE画像上で著明な低信号に描出されていることが一因であると考えられた。また、AP-PADRE画像では皮質内に斑状の低信号構造が観察されるが、この斑状構造、そのバックグラウンドとなる皮質自体の信号値とのどちらがアミロイドβ沈着を反映しているのかは明らかではなかった。このため、本実施形態では、これらに対して、定量評価の妨げとなる血管構造の除去と、皮質の斑状構造とびまん性成分の分離等を、画像処理の過程で行うようにした。
【0049】
(血管構造の抽出、除去)
次に、定量評価の妨げとなる血管構造の除去処理について、
図3、
図4を用いて説明する。
図3は、モルフォロジー演算を説明するための図である。
図4は、本実施形態に係る血管構造の抽出処理例を示す図である。本実施形態では、例えばモルフォロジー(Morphology)演算によって血管の線状構造の抽出を行う。
図3のように、モルフォロジー変換は、グレースケール画像に関して、「膨張」や「収縮」などの画像処理を行う。モルフォロジー変換では、入力画像と構造的要素(Kernel)の二つを入力として与える。基本的なモルフォロジー処理として、収縮(Erosion)(g52、g61)と膨張(Dilation)(g51、g62)、この二つの処理を組み合わせたオープニング処理g50とクロージング処理g60を行う。そして、モルフォロジー変換では、入力画像g61とクロージング処理が施された画像g53との差分を求めるブラックハット変換処理g71と、入力画像g61とオープニング処理が施された画像g63との差分を求めるトップハット変換処理g72を行う。なお、カーネルは、後述するように点状成分除去用に線状カーネルを用い、線状成分除去用に面状カーネルを用いる。また、
図3に示した各画素の値は一例であり、これに限らない。なお、分離部18は、
図3を用いて説明した収縮、膨張、クロージング、ブラックハットを利用する。
【0050】
画像処理装置1は、
図3の処理によって入力画像の背景にあるノイズを除去したり、オブジェクトの中に含まれる細かい黒点を埋めたりして、
図4のように、入力画像g81から線状カーネルを用いて点状成分g82を抽出し、面状カーネルを用いて線状成分g83を抽出することで、線状構造の抽出g84を行う。
【0051】
次に、モルフォロジー演算による血管マスク画像の作成処理について、
図5~
図7を用いて説明する。
図5は、血管径ごとの抽出例を示す図である。画像g101は3ピクセル幅で演算した場合の画像であり、画像g102は4ピクセル幅で演算した場合の画像であり、画像g103は5ピクセル幅で演算した場合の画像である。このように、演算に用いるピクセル幅を変更することで、血管の太さに応じた画像から取り除きたい血管画像を抽出、除去できる。なお、低信号とは、強調画像で低信号(画像で黒)を呈するものである。また、高信号とは、強調画像で高信号(画像で白)を呈するものである。なお、
図5に示したピクセル幅は一例であり、これに限らず、6以上のピクセル幅等であってもよい。
【0052】
図6は、本実施形態に係る血管マスク画像の作成処理例を示す図である。
図6のように、画像処理装置1は、まず入力画像g121に対して2値化処理g122を行う。2値化処理に用いる閾値は、頭蓋内容積に対する体積割合によって設定する。なお、頭蓋内における動静脈部分の体積比は、頭蓋内容積のおよそ2%程度であり、これに基づいて閾値を設定する。本実施形態では、マスク処理部17が、さらにマージンを含めて血管マスク画像を作成して血管画像を除去する。
【0053】
次に、画像処理装置1は、二値化処理された画像g123に対して、膨張処理g124を行って(g125)、
図7のような血管マスク画像を用いて血管構造をMRI画像から取り除く。
図7は、本実施形態に係る血管マスク画像の適用前の画像g121とAP-PADRE画像から血管マスクにより血管構造を除去し、さらにMPRAGEから作成した脳実質マスクにより実質外成分を除去した画像g126を示す図である。なお、視覚評価では、灰白質、白質も含んだ画像g126を使用している。定量解析では、ROIは灰白質部分のみを使用している。
図7のように、血管構造をMRI画像から取り除くことで、皮質内にある画像の低信号構造等を視覚評価することや画像解析することが可能になる。
【0054】
(血管マスク作成手順)
次に、血管マスク作成手順例を説明する。
図8は、本実施形態に係る血管マスク画像作成手順のフローチャートである。
【0055】
(ステップS11)血管マスク作成部14は、Bias Field補正された血管強調画像に対して、1ピクセル幅の点状低信号を除去する。なお、低信号を除去する処理方法については、
図9を用いて説明する。
【0056】
(ステップS12)血管マスク作成部14は、1ピクセル幅の点状低信号が除去された画像から、1ピクセル幅の線状低信号を除去かつ、1ピクセル幅の線状低信号を抽出する。なお、線状低信号を抽出の除去と抽出の処理方法については、
図10を用いて説明する。
【0057】
(ステップS13)血管マスク作成部14は、1ピクセル幅の点状低信号と1ピクセル幅の線状低信号とが除去された画像から、2ピクセル幅の点状低信号を除去する。
【0058】
(ステップS14)血管マスク作成部14は、1ピクセル幅の点状低信号と線状低信号と2ピクセル幅の点状低信号とが除去された画像から、2ピクセル幅の線状低信号を除去し、かつ2ピクセル幅の線状低信号を抽出する。
【0059】
(ステップS15)血管マスク作成部14は、1ピクセル幅の点状低信号と1ピクセル幅の線状低信号と2ピクセル幅の点状低信号と2ピクセル幅の線状低信号とが除去された画像から、3ピクセル幅の点状低信号を除去する。
【0060】
(ステップS16)血管マスク作成部14は、1ピクセル幅の点状低信号と1ピクセル幅の線状低信号と2ピクセル幅の点状低信号と2ピクセル幅の線状低信号と3ピクセル幅の点状低信号とが除去された画像から、3ピクセル幅の線状低信号を除去し、かつ3ピクセル幅の線状低信号を抽出する。
【0061】
(ステップS17)血管マスク作成部14は、抽出された1ピクセル幅の線状低信号抽出画像と、2ピクセル幅の線状低信号抽出画像と、3ピクセル幅の線状低信号抽出画像とを用いて、線状低信号画像を作成する。ステップS11~S17の処理によって、血管マスク作成部14は、主に静脈成分の低信号成分を抽出する。
【0062】
(ステップS18)血管マスク作成部14は、線状低信号画像の二値化処理を行う。2値化処理に用いる閾値は、頭蓋内容積に対する体積割合によって設定する。処理後、マスク処理部17は、血管マスク画像を用いてAP-PADRE画像から血管成分を除去する。
【0063】
(ステップS21~S26)血管マスク作成部14は、Bias Field補正された血管強調画像に対して、1ピクセル幅で点状高信号を除去する。以下、血管マスク作成部14は、ステップS11~S16における「低信号」のかわりに「高信号」に対して処理を行う。
【0064】
(ステップS27)血管マスク作成部14は、抽出された1ピクセル幅の線状高信号抽出画像と、2ピクセル幅の線状高信号抽出画像と、3ピクセル幅の線状高信号抽出画像とを用いて、線状高信号画像を作成する。なお、高信号成分の処理を行う理由は、血管マスク画像を作成する際、動脈も一緒に導出され流れのある動脈に高信号が出てくる。画像から判断する際、この成分も読影に影響を与える。このため、ステップS21~S27の処理によって、血管マスク作成部14は、動脈成分の高信号成分を除去する。
【0065】
(ステップS28)血管マスク作成部14は、線状高信号画像の二値化処理を行う。処理後、マスク処理部27は、マスク処理を行って関心領域の情報を抽出する。
【0066】
(ステップS31)血管マスク作成部14は、二値化処理された線状低信号画像と線状高信号画像に対して膨張処理を行う。
【0067】
(ステップS32)血管マスク作成部14は、膨張処理された画像に基づいて、血管マスク画像を生成して出力する。
【0068】
なお、
図8において、血管マスク作成部14は、ステップS10(S11~S16)の処理と、ステップS20(S21~S26)の処理とを、同時に行ってもよく、並列で行ってもよく、時分割で行ってもよい。また、血管マスク作成部14は、ステップS17とS18の処理と、ステップS27とS28の処理とを、同時に行ってもよく、並列で行ってもよく、時分割で行ってもよい。
【0069】
なお、
図8に示した例では、ピクセル幅が1~3、除去処理が3段階の例を示したが、これに限らない。ピクセル幅と除去処理の段数は、元の画像の分解能などに依存し、任意のピクセル幅で除去処理をするようにしてもよい。この場合は、nピクセル幅で点状低信号を除去しnピクセル幅で線状低信号を除去・抽出する処理をn回行い、nピクセル幅で点状高信号を除去しnピクセル幅で線状高信号を除去・抽出する処理をn回行うようにしてもよい。
【0070】
(点状信号除去の処理方法)
次に、点状信号除去の処理方法について説明する。なお、代表として、1ピクセル幅で点状低信号を除去する処理手順を説明する。
図9は、本実施形態に係る1ピクセル幅で点状低信号を除去する処理手順のフローチャートである。
【0071】
(ステップS101)血管マスク作成部14は、Bias Field補正された血管強調画像(A)を取得する。
【0072】
(ステップS102)血管マスク作成部14は、血管強調画像(A)に対して、点状低信号を除去用の13方向の3×3×3ピクセルの線状カーネル(Fi1)を用いて、次式(1)のモルフォロジー演算処理によって1ピクセル幅の点状低信号を除去した除去画像(B)を作成する。なお、13方向の3×3×3ピクセルの線状カーネルについては後述する。
【0073】
【0074】
なお、式(1)において、演算子「●」は、クロージング処理である。
【0075】
(ステップS103)血管マスク作成部14は、作成した1ピクセル幅の点状低信号を除去した除去画像(B)を出力する。
【0076】
なお、血管マスク作成部14は、2ピクセル幅の点状低信号を除去した画像の演算を、線状構造単位として式(1)においてFi1の代わりにFi2として行う。
血管マスク作成部14は、3ピクセル幅の点状低信号を除去した画像の演算を、線状構造単位として式(1)においてFi1の代わりにFi3として行う。
【0077】
また、血管マスク作成部14は、1ピクセル幅の点状高信号を除去した画像の演算を、高信号除去用の13方向の3×3×3ピクセルの線状カーネル(Fi1)を用いて、次式(2)のモルフォロジー演算処理によって1ピクセル幅の線状低信号を除去した除去画像(B)を作成する。
【0078】
【0079】
なお、式(2)において、演算子「〇」は、オープニング処理である。
【0080】
なお、血管マスク作成部14は、2ピクセル幅の点状高信号を除去した画像の演算を、線状構造単位として式(2)においてFi1の代わりにFi2として行う。
血管マスク作成部14は、3ピクセル幅の点状高信号を除去した画像の演算を、線状構造単位として式(2)においてFi1の代わりにFi3として行う。
【0081】
(線状信号除去・抽出の処理方法)
次に、線状信号除去・抽出の処理方法について説明する。なお、代表として、1ピクセル幅で線状低信号を除去・抽出する処理手順を説明する。
図10は、本実施形態に係る1ピクセル幅で線状低信号を除去する処理手順のフローチャートである。
【0082】
(ステップS201)血管マスク作成部14は、1ピクセル幅の点状低信号が除去された除去画像(B)を取得する。
【0083】
(ステップS202)血管マスク作成部14は、除去画像(B)に対して、線状低信号を除去用の13方向の3×3×3ピクセルの面状カーネル(Gi1)を用いて、次式(3)のモルフォロジー演算処理によって1ピクセル幅の線状低信号を除去した除去画像(C)を作成する。なお、13方向の3×3×3ピクセルの面状カーネルについては後述する。
【0084】
【0085】
(ステップS203)血管マスク作成部14は、作成した1ピクセル幅の線状低信号を除去した除去画像(C)を出力する。
【0086】
(ステップS204)血管マスク作成部14は、除去画像(B)から除去画像(C)を減算して1ピクセル幅の線状低信号を抽出し、抽出した抽出画像(B-C)を出力する。
【0087】
なお、血管マスク作成部14は、2ピクセル幅の線状低信号を除去した画像の演算を、面状構造単位として式(3)においてGi1の代わりにGi2として行う。
血管マスク作成部14は、3ピクセル幅の線状低信号を除去した画像の演算を、面状構造単位として式(3)においてGi1の代わりにGi2として行う。
【0088】
また、血管マスク作成部14は、1ピクセル幅の線状高信号を除去した画像の演算を、高信号除去用の13方向の3×3×3ピクセルの面状カーネル(Gi1)を用いて、次式(4)のモルフォロジー演算処理によって1ピクセル幅の面状低信号を除去した除去画像(C)を作成する。なお、血管マスク作成部14は、除去画像(C)から除去画像(B)からを減算して1ピクセル幅の線状低信号を抽出し、抽出した抽出画像(C-B)を出力する。
【0089】
【0090】
また、血管マスク作成部14は、2ピクセル幅の線状高信号を除去した画像の演算を、面状構造単位として式(4)においてGi1の代わりにGi2として行う。
血管マスク作成部14は、3ピクセル幅の線状高信号を除去した画像の演算を、面状構造単位として式(4)においてGi1の代わりにGi3として行う。
【0091】
(13方向の3×3×3のカーネル)
次に、13方向の3×3×3ピクセルのカーネルについて説明する。
図11は、13方向の3×3×3ピクセルの線状カーネルを示す図である。
図11のように、13方向の線状カーネルg201~g213それぞれは、3×3×3ピクセル空間内において3つの近接する線状のピクセルである。本実施形態では、このような線状カーネルによって点成分を除去している。
【0092】
図12は、13方向の3×3×3ピクセルの面状カーネルを示す図である。
図12のように、13方向の面状カーネルg301~g313それぞれは、3×3×3ピクセル空間内において9つの近接する面状のピクセルである。本実施形態では、線状構造単位、面状構造単位を使った処理を、
図8~
図10の順番で処理することによって、点状成分と線状成分を分類することができる。
【0093】
なお、上述した例では、AP-PADRE画像から血管マスク画像を用いて血管構造を除去した画像に対して、局所低信号成分を除去し、びまん性成分を抽出する例を示したが、これに限らない。画像処理装置1は、例えばAP-PADRE画像に対して、局所低信号成分を除去し、びまん性成分を抽出するようにしてもよい。
【0094】
<検証>
以下、上述した本実施形態によって作成された画像による視覚評価と、従来技術によって作成された画像による視覚評価とを検証結果例を説明する。
【0095】
(第1の検証)
まず、MRI画層をPADRE処理し血管マスク画像によって血管構造を除去した画像を医師によって視覚評価し、PiB-PET(Positron Emission Tomography;ポジトロン断層撮影法)の陽性群と陰性群について比較した結果を、
図13と
図14を参照しつつ説明する。
【0096】
図13は、比較例におけるPiB陰性群(Normal Contral)の血管構造と脳実質外成分を除去したPADRE画像(MRI-PADRE画像)と、PiB-PETについて比較に使用した画像例を示す図である。
図14は、比較例におけるPiB陽性群(アルツハイマー病(AD;Alzheimer’s disease))の血管構造と脳実質外成分を除去したPADRE画像(MRI-PADRE画像)と、PiB-PETについて比較に使用した画像例を示す図である。画像g401と画像g411は、上述した方法で血管画像と脳実質外成分を除去した後のMRI-PADRE画像である。画像g402と画像g412は、PiB-PET画像である。
【0097】
比較例におけるPiB-PET陰性例と陽性例のMRI-PADRE画像の11例を医師によって視覚評価した結果、PADRE画像から血管部分および脳実質外成分を除去した場合は、血管部分を除去前より評価しやすかった。しかしながら、PADRE画像から血管部分を除去した画像のみでは、陰性群であるか陽性群であるかの視覚評価が困難な場合もあった。
【0098】
(第2の検証)
次に、AAL(Automated Anatomical Labeling(参考文献1参照))アトラスを用いて皮質の信号をROI(Region of Interest)解析した結果例を、
図15~
図18を参照しつつ説明する。この検証では、脳の各領域のPADRE信号をPiB-PET陽性群と陰性群で比較した。
図15は、標準脳座標上に設定されたAALアトラス画像例と、AALアトラスによるROIをPADRE画像に重ねた画像例である。画像g451は、AALアトラスによる画像例である。画像g452は、標準脳上で設定されたAALアトラス画像を個人脳座標に変換した後、血管マスクと灰白質マスクで処理した画像例である。
図16から、皮質部分に信号が分布していることが分かる。
【0099】
参考文献1;N. Tzourio-Mazoyer , B. Landeau, al, ” Automated Anatomical Labeling of Activations in SPM Using a Macroscopic Anatomical Parcellation of the MNI MRI Single-Subject Brain”, NeuroImage, Volume 15, Issue 1, January 2002, Pages 273-289
【0100】
図16~
図18は、AALアトラスでROI解析した皮質における、小脳平均値で正規化したPADRE信号のPiB陽性群と陰性群それぞれの平均値を示す図である。なお、
図16~
図18の各グラフg511~g522において、左の項目g501は陰性群の結果であり、右の項目g502は陽性群の結果である。また、
図16~
図18の各グラフg511~g522において、縦軸は小脳灰白質の平均値を1としたときの相対的な信号値である。
【0101】
グラフg511は、下前頭葉眼窩部(右)(Frontal Inf Orb R)結果である。グラフg512は、ローランド野弁蓋(左)(Rolandic Oper L)の結果である。グラフg513は、ローランド野弁蓋(右)(Rolandic Oper L)の結果である。グラフg514は、楔部(左)(Cunrus L)の結果である。
【0102】
グラフg515は、右上後頭回(Occipital Sup R)の結果である。グラフg516は、左中後頭回(Occipital Mid L)の結果である。グラフg517は、右中後頭回(Occipital Mid R)の結果である。グラフg518は、上頭頂小葉(左)(Parietal Sup L)の結果である。
【0103】
グラフg519は、上頭頂小葉(右)(Parietal Sup R)の結果である。グラフg520は、縁上回(右)(SupraMarginal R)の結果である。グラフg521は、右角回(Angular R)の結果である。グラフg522は、傍中心小葉(左)(Paracentral Lob L)の結果である。
【0104】
なお、
図16~
図18の各グラフg511~g522において、「*」、「**」、「***」は、P値に基づく評価であり、アスタリスクの数が多いほど統計学的に陽性群と陰性群との差が有意であることを示している。
【0105】
図19は、AALアトラスでROI解析した皮質のPADRE信号のPiB陽性群と陰性群それぞれの平均値に統計学的有意差があった領域を脳表にマッピングして三次元で可視化した図である。なお、
図19において、濃い領域ほど群間差が明瞭であることを示す。 画像g561は左半球の外側画像であり、画像g562は左半球の内部断面画像である。画像g571は右半球の外側画像であり、画像g562は右半球の内部断面画像である。画像g561、g562、g571、g572において、最も濃い領域が例えばp<0.001であり、領域g551が例えばp<0.01であり、領域g552が例えばp<0.05である。
【0106】
図16~
図18のように、陽性群が陰性群よりある程度のPADRE信号が低下する傾向がある。また、
図19のように、PiB陽性群は、頭頂後頭葉付近の信号が低い。
【0107】
図20は、AALアトラスでROI解析した脳局所皮質に含まれるボクセル値について、PADRE信号のPiB陽性群と陰性群のヒストグラムを色分けして示す図である。グラフg591は右上後頭回の陰性群と陽性群の分布であり、グラフg592は右内側後頭回の陰性群と陽性群の分布であり、グラフg593は上頭頂小葉(左)の陰性群と陽性群の分布である。グラフg591~g593において、分布g581は陽性群の分布であり、分布g582は陰性群の分布である。また、グラフg591~g593において、横軸は正規化したPADRE信号値であり、縦軸はピクセル数である。また、グラフg591~g593において、分布の各線は被験者毎のデータである。
図20のように、陽性群の方が陰性群より、信号値が低い方に分布している。
【0108】
図20は、皮質内の点状成分、びまん性成分(バックグラウンド成分)のどちらかがアミロイドβを反映している可能性を示唆している。このため、本実施形態では、皮質内の点状成分とびまん性成分を分離する。
【0109】
(皮質内の点状成分とびまん性成分の分離)
次に、局所低信号成分とびまん性成分との分離処理手順を説明する。
図21は、本実施形態に係る局所低信号成分とびまん性成分との分離処理のフローチャートである。
【0110】
(ステップS301)分離部18は、マスク処理部17によってマスク処理された後のAP-PADRE画像(D)を取得する。
【0111】
(ステップS302-p)(pは1からnまでの整数)分離部18は、半径pピクセルの球状カーネル(Hp)を用いてモルフォロジー演算処理によって、次式(5)でクローズ処理を行う。なお、分離部18は、ステップS302-1~S302-nの処理を並列に行っても時分割処理で行ってもよい。
【0112】
【0113】
(ステップS303-1)分離部18は、サイズ1の局所低信号をモルフォロジー演算処理によって、次式(6)で算出することでサイズ1の局所低信号を分離する。
【0114】
【0115】
(ステップS303-n)分離部18は、サイズnの局所低信号をモルフォロジー演算処理によって、次式(7)で算出することでサイズnの局所低信号を分離する。
【0116】
【0117】
(ステップS304)分離部18は、ステップS302-1~S302-nで算出したn個のS1,…,Snをびまん性成分画像として出力する。
【0118】
(第3の検証)
次に、ROI各領域内のびまん性成分のPADRE信号を、それぞれPiB-PET陽性群、陰性群で比較して検証した結果を、
図22~
図27を参照しつつ説明する。
【0119】
図22~
図25は、びまん性成分画像のROI内の正規化したPADRE信号値のPiB陽性群とPiB陰性群それぞれの平均値を示す図である。なお、
図22~
図25の各グラフg611~g624において、左の項目g601は陰性群の結果であり、右の項目g602は陽性群の結果である。また、
図22~
図25の各グラフg611~g624において、縦軸はびまん性成分のPADRE画像の正規化した信号値である。なお、
図22~
図25の各グラフg611~g624は、各領野の斑状成分(低信号成分)を取り除いたびまん性成分のみの画像のROI解析結果である。
【0120】
グラフg611は、上前頭葉眼窩部(右)(Frontal Sup Orb R)結果である。グラフg612は、下前頭葉眼窩部(右)(Frontal Inf Orb R)結果である。グラフg613は、ローランド野弁蓋(左)(Rolandic Oper L)の結果である。グラフg614は、ローランド野弁蓋(右)(Rolandic Oper L)の結果である。
【0121】
グラフg615は、楔部(左)(Cunrus L)の結果である。グラフg616は、右上後頭回(Occipital Sup R)の結果である。グラフg617は、左中後頭回(Occipital Mid L)の結果である。グラフg618は、右中後頭回(Occipital Mid R)の結果である。
【0122】
グラフg619は、上頭頂小葉(左)(Parietal Sup L)の結果である。グラフg620は、上頭頂小葉(右)(Parietal Sup L)の結果である。グラフg621は、縁上回(右)(SupraMarginal R)の結果である。グラフg622は、左角回(Angular L)の結果である。
【0123】
グラフg623は、傍中心小葉(左)(Paracentral Lob L)の結果である。グラフg624は、下側頭回(右)(Temporal Inf L)の結果である。
【0124】
図22~
図25は、
図16~
図18と比較すると、より陰性群と陽性群との間の差がはっきりした。
このことから、びまん性成分の方がアミロイドβを反映する傾向があることが分かる。
【0125】
(検証4)
検証3の結果に基づいて、PADRE画像から血管画像部分をマスクし、かつ斑状の低信号成分を取り除いた後、びまん性成分のPADRE信号のみを取り出して脳表に投影して表示し、読影実験を行った。
図26は、PiB陰性群と陽性群においてPADRE画像から抽出したびまん性成分の平均値を脳表に投影した画像例を示す図である。
図26において、画像g701は陰性群の平均値を投影した画像であり、画像g702は陽性群の平均値を投影した画像である。また、領域g711は、信号が高い(=アミロイドβが少ない)領域である。領域g712は、相対的にPADRE信号の低い領域である。
図26より、陰性群では頭頂後頭葉の信号が高く、陽性群では頭頂後頭葉の信号が陰性群より低いことが、視覚的に分かる。
【0126】
(各症例に対する評価)
次に、各症例に対して本実施形態の手法を適用した例を、
図27~
図30を参照しつつ説明する。
図27は、脊髄小脳変性症(SCD; SpinoCerebellar Degenerati)のPiB陰性者のMRI画像に対して本実施形態の手法で血管と低信号とを除去し、抽出したびまん性成分を脳表にマッピングした画像である。
3人の医師(放射線診断医、脳外科医、内科医)によるこの画像の読影結果は、アミロイドβ沈着が陰性と判断した結果が3つであった。
【0127】
図28は、健康者(NC)でPiB陰性者のMRI画像に対して本実施形態の手法で血管と低信号とを除去し、抽出したびまん性成分を脳表にマッピングした画像である。
3人の医師によるこの画像の読影結果は、アミロイドβ沈着が陰性と判断した結果が3つであった。
【0128】
図29は、軽度認知障害(MCI due to AD)でPiB陽性者のMRI画像に対して本実施形態の手法で血管と低信号とを除去し、抽出したびまん性成分を脳表にマッピングした画像である。
3人の医師によるこの画像の読影結果は、アミロイドβ沈着が陽性と判断した結果が3つであった。
【0129】
図30は、軽度認知障害(MCI due to AD)でPiB陽性者のMRI画像に対して本実施形態の手法で血管と低信号とを除去し、抽出したびまん性成分を脳表にマッピングした画像である。
3人の医師によるこの画像の読影結果は、陽性と判断した結果が3つであった。
【0130】
図31は、
図27~
図30を含む11人の被験者に対する読影結果を示す図である。
図31において、上段の表g801は、読影判断結果である。表g801において、「-」は陰性と判断した結果を示し、「+」は陽性と判断した結果を示す。なお、陽性とは、「アミロイドβが沈着」していると判断される場合を「陽性」とした。
図31において、下段の表g802は、表g801における各医師の判断結果を評価した結果である。
図31のように、本実施形態の手法による画像を医師が読影した結果、高精度でアミロイドβ沈着の予測を行うことができる。
【0131】
ここで、本実施形態で用いるAP-PADREについてさらに説明する。
大脳皮質に存在する鉄は、加齢によって蓄積する加齢鉄とアミロイド蓄積にともない蓄積するアミロイド鉄の2つで構成されていると仮定した、2成分モデル(two components model)を採用できる。本実施形態において、AP-PADREでは、この2成分モデルを用いて、その位相差の違いによりアミロイドβ結合鉄を強調して描出する。
【0132】
なお、加齢鉄に関しては、従来、例えば、MRI画像の位相成分情報から得られるQSMという定量値を元に、アミロイドβに付随する鉄(アミロイド鉄)と加齢に伴って蓄積する鉄(加齢鉄)を区別せずに、これらを総量として評価予測する研究がおこなわれている。このように、従来技術では、アミロイド鉄と加齢鉄とを区別していなかった。これに対して、本実施形態では、上記を区別してアミロイド鉄に基づく情報を検出するようにした。
【0133】
なお、上述した式(1)、式(3)では、maxを用いる例を説明したが、maxの代わりにsupを用いてもよい。また、上述した式(2)、式(4)では、mixを用いる例を説明したが、mixの代わりにinfを用いてもよい。
【0134】
さらに検証結果について説明する。
AP-PADRE画像からびまん性成分以外を抽出する例として、点状成分画像を例に説明する。なお、この場合は、AP-PADRE画像から血管マスク画像を用いて血管構造を除去した画像に対して、点状成分画像を抽出する。
【0135】
図32は、アルツハイマー病によるMCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)の患者のAP-PADRE画像から作成された点状成分画像とびまん性成分画像を示す図である。
点状成分画像g811は、コントラストが強いのでAP-PADRE元画像から容易に認識できることがわかる。一方、びまん性成分画像g812は、大きい信号差があるが、コントラストが小さいために、元のAP-PADRE画像で認識することが困難である。
【0136】
図33は、各ROIにおけるAP-PADREの点状成分画像の小脳で正規化した信号のPiB陽性群とPiB陰性群の各群での平均値の信号差を算出し、脳表にカラーマップ投影した図である。
図34は、各ROIにおけるAP-PADREのびまん性成分画像の小脳で正規化した信号のPiB陽性群とPiB陰性群の各群での平均値の信号差を算出し、脳表にカラーマップ投影した図である。なお、
図33、34では、カラー画像をグレースケール化して示している。なお、
図33、34において、画像g831、g832、g841、およびg842は側面図である。画像g833、g834、g843、およびg844は断面図である。また、色の濃い領域g845は、陰性群のPiB(-)値が陽性群のPiB(+)値より信号値が高く、信号差が大きいことを表している。
【0137】
図33のように、点状成分画像においては群間で差が乏しい。これに対して、
図34のように、びまん性成分画像では、PiB陽性群が陰性群と比較して全体に信号値が低い傾向にあることがわかる。
なお、各実施形態、検証等では、局所低信号、点状、および斑状を同じ意味で使用している。
【0138】
(第5の検証)
第5の検証では、東北大学病院の加齢・老年病科を、物忘れを主訴に受診した191人の患者のAP-PADRE画像のAAL atlasを用いた定量解析を行った。検証では、症例の症状や経過、既往や併存症、心理検査、血液検査、脳MRI検査、脳血流SPECT(single photon emission computed tomography)検査などから得られる総合的な診断名に基づいて3つの群に分けた。1つ目の群は、non-AD群として、認知機能正常者とアルツハイマー病以外の原因による認知症患者を含めた。2つ目の群は、アルツハイマー病によるMCI患者とした。3つ目の群は、アルツハイマー型認知症(AD)とした。
【0139】
検証では、AP-PADRE画像をモルフォロジー解析によりdiffuse成分画像を作成し、小脳皮質または海馬の信号で除することによって信号を正規化した。また、検証では、AAL atlasによるROIで90か所の灰白質領域の当該画像の平均信号値を算出して、二群間で片側t検定を行い、各群の平均値に差があるかを検証した。
図35~
図37は、第5の検証におけるNon-AD群対MCI群+アルツハイマー型認知症群の結果を示す図である。
図38~
図40は、第5の検証におけるNon-AD群対アルツハイマー型認知症病群の片側のt検定の結果を示す図である。
図41~
図43は、第5の検証におけるPiBデータを有する11症例について、PiBによる陰性群と陽性群の二群での同様のROI解析結果の片側t検定の結果を示す図である。なお、
図35~
図43において、表記はp値であり、p<0.05を統計学的有意水準としてある。なお、AD群はアルツハイマー型認知症の群であり、Non-AD群は非アルツハイマー型認知症の群であり、MCI群は軽度認知障害の群である。
【0140】
また、
図35~
図43において、左側の値はcerebellum(小脳)で正規化した値であり、右側の値はhippocampus(海馬)で正規化した値である。また、
図35の表g851、
図38の表g861および
図41の表g871は、領域Precentral L~Rolandic Oper Lの結果である。
図35の表g852、
図38の表g862および
図41の表g872は、領域Rolandic Oper R~Hippcampus Lの結果である。
図36の表g853、
図39の表g863および
図42の表g873は、領域Hippcampus R~Postcentral Lの結果である。
図36の表g854、
図39の表g864および
図42の表g874は、領域Postcentral R~Thalamus Lの結果である。
図37の表g855、
図40の表g865および
図43の表g875は、領域Thalamus R~Temporal Rの結果である。
【0141】
図35~
図37のように、Non-AD群対MCI群+AD群において、小脳で正規化した場合は、大脳90カ所中の21箇所の領域でMCI+AD群での信号の低下が認められた。海馬で正規化した場合は、90カ所中69カ所でのAD群での信号低下が認められた。
次に、
図38~
図40のように、non-AD群とAD群とで二群比較した場合、小脳正規化画像では90カ所中の23カ所、海馬正規化画像では90カ所中の79カ所でAD群での信号低下が認められた。
【0142】
図41~
図43のように、小脳正規化画像では、90カ所のうち14カ所でのPiB陽性群での信号低下が見られた。一方で、海馬正規化画像では、90所中で3カ所の領域でPiB陽性群での信号低下が見られた。
【0143】
臨床症例での検討において、AP-PADREのびまん性成分画像の海馬信号は年齢やMMSEとの高い相関性を持ち、主に海馬の構造的萎縮を反映した信号上昇がみられることが予想される。アルツハイマー型認知症では、海馬周囲に領域選択的に病的な萎縮が生じる。臨床診断をベースとして行った検討の場合は、海馬の病的萎縮の明らかな進行期のAD患者が多数含まれていた。このため、海馬信号で正規化を行った場合は、AP-PADREによるアミロイドに関連した信号低下と、アルツハイマー型認知症に特異的な海馬萎縮による信号上昇との相乗効果によりアルツハイマー型認知症の弁別能が向上したと考えられる。一方で、海馬萎縮の少ないMCIや早期のアルツハイマー型認知症患者、海馬萎縮の見られる非アルツハイマー型認知症患者、健常者を含む少数例でのPiBとの関連性の検討では、海馬信号で正規化によって海馬の萎縮情報が入ることでAP-PADREのアミロイド特異的な信号低下が相殺され、弁別能が低下したと考えた。
【0144】
なお、上述した実施形態では、MRI画像から作成された位相差強調画像の一例として、アミロイドβ結合鉄の強調を行うアミロイドβ結合鉄-位相差強調画像化法によって作成されたAP-PADRE画像を説明したが、位相差強調画像はこれに限らない。
【0145】
以上のように、本実施形態では、AP-PADRE画像に対して、モルフォロジー演算処理によって、血管構造のマスクと、局所低信号成分(点状成分)とびまん性成分との分離とを行うことで、アミロイドβの有無を視覚的に評価できる画像を作成するようにした。
【0146】
なお、現在おこなわれているアミロイドβの脳内沈着の評価では、髄液検査やアミロイドPETを行うため、侵襲的であり、検査にかかる費用が高く、被ばくを伴っていた。
これに対して、本実施形態によれば、MRI画像の撮像の際に画像処理を行うため、PETによる被ばくをなくし、廉価な検査を提供できる。例えば、本実施形態は、脳ドックなどの検査時にも適用可能であり、発症前のアルツハイマー病を早期に効率的に拾い上げられる可能性を有しており、認知症診療にとっても大きなブレークスルーとなる。
【0147】
また、上述した例では、読影をアルツハイマー型認知症に対して行ったが、これに限らない。本実施形態の手法で処理した画像を用いて、非アルツハイマー病の認知症(CBDS:皮質基底核変性症)等の判別も読影によって可能であった。認知症の臨床現場では、アルツハイマー病であるか、それ以外のどの病態であるかによって、有効な治療法が異なり、誤った治療法がかえって副作用を及ぼすこともある。本実施形態の画像を使用することによって、認知症患者の原因が推定できれば、認知症の治療戦略上、非常に有用と考えられる。
【0148】
なお、上述した説明では「アミロイドβ」の用語を用いて説明したが、各実施形態、各実施例、各検証例等において、「アミロイドβ」は、「アミロイド斑」の意でも用いている。
【0149】
なお、本実施形態の画像処理装置1をMRI撮影装置等が備えていてもよい。また、画像処理装置1は、例えばパーソナルコンピュータ等であってもよい。
【0150】
なお、本発明における画像処理装置1の機能の全てまたは一部を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより画像処理装置1の処理の全てまたは一部を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0151】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0152】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0153】
1…画像処理装置、11…画像取得部、12…血管強調画像生成部、13…Bias Field補正部、14…血管マスク作成部、15…AP-PADRE画像生成部、16…Bias Field補正部、17…マスク処理部、18…分離部、19…脳表投影画像出力部、20…3D-T1強調画像生成部、21…位置合わせ部、22…解剖学的標準化部、23…座標変換部、24…統計画像解析結果出力部、25…テンプレート記憶部、26…座標変換部、27…マスク処理部、28…関心領域解析結果出力部