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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-10
(45)【発行日】2025-11-18
(54)【発明の名称】釉薬層付きセラミック構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/86 20060101AFI20251111BHJP
   C04B 35/117 20060101ALI20251111BHJP
【FI】
C04B41/86 R
C04B35/117
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022560832
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2021040861
(87)【国際公開番号】W WO2022097728
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2020185205
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】上野 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】宮田 拓実
(72)【発明者】
【氏名】豊田 諭史
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169591(WO,A1)
【文献】特開平06-144959(JP,A)
【文献】特開昭63-311910(JP,A)
【文献】特表2012-508684(JP,A)
【文献】特開平08-012469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/86
C04B 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを85質量%以上含有するセラミックスからなる基体と、
前記基体の上に位置し、金属元素としてSiを含む厚みが50μm以上の釉薬層と
を有し、
前記基体は、前記釉薬層との界面から20μmまでの深さの領域である第1領域と、前記第1領域よりも前記釉薬層から遠く、前記界面を基準として1000μmから1200μmの深さの領域である第2領域とを含み、
前記第1領域における結晶粒径は、前記第2領域における結晶粒径よりも小さい、釉薬層付きセラミック構造体。
【請求項2】
前記釉薬層のSi濃度は、前記界面から、前記釉薬層の表面に向けて前記釉薬層の厚みの1/2離れた位置である中央部と比較して、前記中央部よりも前記基体に近く、前記界面からμmまでの領域の方が低い、請求項1に記載の釉薬層付きセラミック構造体。
【請求項3】
前記釉薬層は、前記界面から20μmまでの領域に、前記界面から離れるにつれてSi濃度が増加するSi濃度増加領域を有する、請求項2に記載の釉薬層付きセラミック構造体。
【請求項4】
前記Si濃度増加領域は、前記基体との界面を含み、前記界面からμmまでの第3領域と、前記第3領域よりも前記基体から遠い第4領域とを含み、前記第3領域におけるSi濃度の増加率は、前記第4領域におけるSi濃度の増加率よりも大きい、請求項3に記載の釉薬層付きセラミック構造体。
【請求項5】
前記釉薬層は、前記第4領域よりも前記基体からさらに遠く、前記釉薬層の外表面から20μm~30μmまでの第5領域を含み、
前記第5領域におけるSi濃度の変化率は、前記第4領域におけるSi濃度の変化率よりも小さい、請求項4に記載の釉薬層付きセラミック構造体。
【請求項6】
前記基体は、Siを含有し、
前記第1領域におけるSi濃度は、前記第2領域におけるSi濃度よりも高い、請求項1~5のいずれか一つに記載の釉薬層付きセラミック構造体。
【請求項7】
前記第1領域におけるAl濃度は、前記第2領域におけるAl濃度よりも低い、請求項6に記載の釉薬層付きセラミック構造体。
【請求項8】
前記基体は、容器の形状を有し、
前記釉薬層は、前記容器の内面に位置する、請求項1~7のいずれか一つに記載の釉薬層付きセラミック構造体。
【請求項9】
前記基体は、一方主面と他方主面を有する板状部と、前記板状部と一体的に繋がり且つ前記一方主面から前記他方主面に向かう方向に延びる側壁部とを有し、
前記釉薬層のうち前記板状部と前記側壁部との稜部における厚みは、前記釉薬層のうち前記板状部および前記側壁部における厚みよりも厚い、請求項8に記載の釉薬層付きセラミック構造体。
【請求項10】
耐熱容器として用いられる、請求項1~9のいずれか一つに記載の釉薬層付きセラミック構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、釉薬層付きセラミック構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば気密性および絶縁性等を確保する観点から、セラミック構造体に釉薬層を設ける技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、セラミック焼結体を作製した後、作製したセラミック焼結体に釉薬ペーストを塗布し、その後、釉薬ペーストが塗布されたセラミック構造体を熱処理することによって釉薬層付きセラミック構造体を製造する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-252524号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様による釉薬層付きセラミック構造体は、セラミックスからなる基体と、基体の上に位置する釉薬層とを有する。基体は、釉薬層との界面を含む第1領域と、第1領域よりも釉薬層から遠い第2領域とを含む。第1領域における結晶粒径は、第2領域における結晶粒径よりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係る釉薬層付きセラミック構造体の模式的な斜視図である。
図2図2は、実施形態に係る釉薬層付きセラミック構造体の模式的な縦断面図である。
図3図3は、図2に示すIII部の模式的な拡大図である。
図4図4は、実施例に係るセラミック構造体および比較例に係るセラミック構造体のSEM像である。
図5図5は、実施例に係るセラミック構造体および比較例に係るセラミック構造体における基体の平均結晶粒径の測定結果を示す表である。
図6図6は、実施例に係るセラミック構造体および比較例に係るセラミック構造体における基体のボイド率の測定結果を示す表である。
図7図7は、曲げ強度測定の説明図である。
図8図8は、実施例に係るセラミック構造体および比較例に係るセラミック構造体の曲げ強度測定の結果を示す表である。
図9図9は、実施例に係るセラミック構造体における釉薬層のSi濃度の測定結果を示すグラフである。
図10図10は、実施例に係るセラミック構造体における釉薬層のSi濃度の測定結果を示すグラフである。
図11図11は、実施例に係るセラミック構造体における釉薬層のCa濃度の測定結果を示すグラフである。
図12図12は、実施例に係るセラミック構造体における釉薬層のCa濃度の測定結果を示すグラフである。
図13図13は、実施例に係るセラミック構造体における基体のSi濃度の測定結果を示すグラフである。
図14図14は、実施例に係るセラミック構造体における基体のAl濃度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本開示による釉薬層付きセラミック構造体を実施するための形態(以下、「実施形態」と記載する)について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示による釉薬層付きセラミック構造体が限定されるものではない。また、各実施形態は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。また、以下の各実施形態において同一の部位には同一の符号を付し、重複する説明は省略される。
【0008】
また、以下に示す実施形態では、「一定」、「直交」、「垂直」あるいは「平行」といった表現が用いられる場合があるが、これらの表現は、厳密に「一定」、「直交」、「垂直」あるいは「平行」であることを要しない。すなわち、上記した各表現は、たとえば製造精度、設置精度などのずれを許容するものとする。
【0009】
従来の釉薬層付きセラミック構造体には、機械的強度を向上させるという点でさらなる改善の余地がある。本開示は、機械的強度を向上させることができる釉薬層付きセラミック構造体を提供する。
【0010】
図1は、実施形態に係る釉薬層付きセラミック構造体の模式的な斜視図である。また、図2は、実施形態に係る釉薬層付きセラミック構造体の模式的な縦断面図である。具体的には、図2には、セラミック構造体1の断面のうち、第1壁部21および第2壁部22に直交する断面を示している。釉薬層付きセラミック構造体1における基体2は、板状であってもよい。図2における第2壁部22には、開口が位置していてもよい。
【0011】
図1および図2に示すように、実施形態に係る釉薬層付きセラミック構造体1(以下、単に「セラミック構造体1」と記載する)は、基体2と、釉薬層3とを有する。
【0012】
基体2は、容器形状を有していてもよい。容器形状は、たとえば、一方主面と他方主面を有する板状部と、板状部の端部側と一体的に繋がり且つ一方主面側から他方主面側に向かう方向に延びる側壁部とを有し、側壁部における板状部と反対側の端部が開放された形状であってもよい。一例として、図1および図2に示すように、基体2は、たとえば4つの第1壁部21(側壁部に相当)と、4つの第1壁部21に連続する1つの第2壁部22(板状部に相当)とを有していてもよい。セラミック構造体1の第2壁部22と反対側は、開放されていてもよい。なお、第1壁部21または第2壁部22には、凹部または凸部が位置していてもよい。
【0013】
ここでは、第2壁部22がセラミック構造体1の下壁を構成するものとしたが、これに限らず、第2壁部22は、セラミック構造体1の上壁を構成するものであってもよい。すなわち、セラミック構造体1は、図1に示す状態と上下が逆であってもよい。また、ここでは、基体2の輪郭形状が、平面視において四角形である場合の例を示しているが、基体2の輪郭形状は、四角形以外の多角形状であってもよいし、円形状であってもよい。
【0014】
実施形態に係るセラミック構造体1は、耐熱容器として用いられてもよい。たとえば、セラミック構造体1は、高温の物質(一例として、溶融金属など)を収容する容器として用いられてもよい。なお、高温の物質は、液体に限らず固体であってもよい。高温の物質が固体である場合、耐熱容器としてのセラミック構造体1は、底面や壁面に開口が位置していてもよい。また、セラミック構造体1は、内壁面の少なくとも一部がプラズマに曝される容器として用いられてもよい。この場合、セラミック構造体1は、底面や壁面に開口が位置していてもよい。さらに、開口した部分が、セラミック構造体1以外の部材(たとえば、耐熱性の金属部材)により閉塞されていてもよい。
【0015】
実施形態に係るセラミック構造体1は、セラミックスからなる。セラミック構造体1を構成するセラミックスとしては、たとえば、酸化アルミニウム質セラミックス、窒化珪素質セラミックス、窒化アルミニウム質セラミックスまたは炭化珪素質セラミックス等を用いることができる。
【0016】
セラミック構造体1が酸化アルミニウム質セラミックスからなる場合、セラミックスの中で、原料価格や作製コストまで含めて比較的安価でありながら、優れた機械的特性を有する。また、釉薬層付きセラミック構造体1を廃棄しても環境汚染が少ない。
【0017】
酸化アルミニウム質セラミックスは、セラミックスを構成する全成分100質量%のうち、アルミナ(Al)を85質量%以上含有するものであってもよい。すなわち、アルミナを主成分とするセラミックスを、酸化アルミニウム質セラミックスと呼ぶ。本実施形態において、基体2は、酸化アルミニウム質セラミックスからなる(すなわち、アルミナを主成分とする)ものであってもよい。実施形態にかかる基体2は、アルミナを90質量%以上含有していてもよい。また、実施形態にかかる基体2のアルミナ含有率は、96質量%以下であってもよい。
【0018】
基体2の材質は、たとえば以下の方法により確認することができる。まず、X線回折装置(XRD)を用いて、基体2を測定し、得られた2θ(2θは、回折角度)の値より、JCPDSカードと照合する。次に、ICP発光分光分析装置(ICP)または蛍光X線分析装置(XRF)を用いて、アルミニウム(Al)の定量分析を行なう。そして、ICPまたはXRFで測定したAlの含有率から酸化アルミニウム(Al)に換算した値である含有率が85質量%以上であれば、基体2の材質は、酸化アルミニウム質セラミックスである。
【0019】
また、基体2は、焼結助剤として用いた成分を含有していてもよい。具体的には、基体2はSi(ケイ素)を含んでいてもよい。なお、焼結助剤には、Siの他、たとえば、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)等が含有されていてもよい。
【0020】
基体2は、密度が3.5g/cm以上であってもよい。また、基体2は、断面により測定した気孔の面積比率が0.5%以下であってもよい。このような緻密な基体であると、特に強度が高い。
【0021】
釉薬層3は、基体2の内面に位置していてもよい。釉薬層3は、たとえば、セラミック構造体1の気密性および絶縁性等を確保するために基体2の内面に設けられてもよい。
【0022】
このように、容器形状を有する基体2の内面に釉薬層3を設けることで、容器の開口部が閉じる方向(開口部の中心に向かう方向)に応力が残留するようになることから、セラミック構造体1の機械的強度が向上する。
【0023】
なお、図1および図2では、釉薬層3が基体2の内面にのみ位置する場合の例を示しているが、釉薬層3は、基体2の外面にも位置していてもよい。基体2は、釉薬層3によって全体的に覆われていてもよい。
【0024】
釉薬層3は、金属元素として少なくともSi(ケイ素)を含んでいてもよい。一例として、釉薬層3は、金属元素として、Siの他、Al(アルミニウム)、Ca(カルシウム)、K(カリウム)、Na(ナトリウム)等を含んでいてもよい。
【0025】
このように、基体2および釉薬層3の両方にSiを含むことで、基体2と釉薬層3との化学的結合性が向上する。これにより、セラミック構造体1の機械的強度が向上する。
【0026】
図3は、図2に示すIII部の模式的な拡大図である。図3に示すように、基体2のうち、釉薬層3との界面を含む領域を第1領域R1と規定する。
【0027】
後述するように、釉薬層3の主成分は、基体2と釉薬層3との界面から基体2の内部に含浸する。釉薬層3の主成分の濃度は、基体2と釉薬層3との界面から基体2の深さ方向中心部に向かって徐々に減少していく。そこで、釉薬層3の主成分(たとえば、Si)の濃度が基体2の深さ方向に沿って傾斜(減少)する範囲を第1領域R1として特定してもよい。具体的には、基体2の深さ方向中心部におけるSi濃度を「中心部濃度」とし、基体2と釉薬層3との界面を第1領域R1の「一方端部」とした場合、第1領域R1の「他方端部」は、Si濃度が中心部濃度と一致する基体2の深さ方向における位置であってもよい。
【0028】
一例として、第1領域R1は、釉薬層3との界面から70μmの深さまでの領域であってもよい。また、基体2のうち、第1領域R1よりも釉薬層3から遠い領域、言い換えれば、第1領域R1よりも基体2のより内部(釉薬層3側から見て深部)に位置する領域を第2領域R2と規定する。
【0029】
たとえば、第2領域R2の一方側端部(釉薬層3側の端部)は、第1領域R1の他方端部から少なくとも150μm以上離れていてもよい。一例として、第2領域R2は、釉薬層3との界面を基準として、1000μm(1mm)の深さから1020μmの深さまでの領域である。
【0030】
実施形態に係るセラミック構造体1において、第1領域R1における結晶粒径は、第2領域R2における結晶粒径よりも小さくてもよい。
【0031】
このように、第1領域R1の結晶粒径を第2領域R2の結晶粒径よりも小さくすることにより、基体2の機械的強度が向上する。
【0032】
また、第2領域R2の結晶粒径を第1領域R1よりも大きくすることにより、次の効果が得られる。すなわち、結晶粒径の大きな第2領域R2のヤング率が、結晶粒径の小さな第1領域R1のヤング率よりも大きくなる。このため、第1領域R1および第2領域R2に同時に繰り返し応力(引張り応力または圧縮応力)が加えられたときに、第2領域R2からの微細なクラックの発生が抑制されることで、第2領域R2から疲労破壊が発生することが抑制される。これは、ヤング率が大きいほど、応力が加えられたときの弾性変形が抑制されるためである。ここで、疲労破壊とは、破壊強度よりも小さい応力が多数回加えられたときに、基体2に微細なクラックが生じていき、やがてこの微細なクラックが大きくなって機械的強度が低下すること、または破壊(割れ)に至ることをいう。一方、第1領域R1は、第2領域R2よりも結晶粒径が小さいため、ヤング率が第2領域R2よりも小さくても、曲げ強度が大きく、かつ、繰り返し応力が加えられたときに発生する微細なクラックを抑制することができる。結果として、実施形態に係るセラミック構造体1は、機械的な曲げ強度を大きく維持しつつ、繰り返し応力がかかっても疲労破壊しにくい。
【0033】
さらに、第2領域R2の結晶粒径を第1領域R1よりも大きくすることにより、次の効果も得られる。すなわち、第2領域R2の結晶粒径を大きくすることで、第2領域R2の熱伝導率を第1領域R1よりも大きくすることができる。このため、釉薬層3から基体2へ熱が伝えられたときに、第1領域R1から第2領域R2へ熱を効率良く伝えることができる。これにより、第1領域R1と第2領域R2との間に熱応力が発生することが抑制される。したがって、急激な温度変化によって基体2に熱応力が加えられた場合であっても、基体2にクラックが生じたり、破壊されたりすることが抑制される。
【0034】
また、実施形態に係るセラミック構造体1において、第1領域R1におけるボイド率は、第2領域R2におけるボイド率よりも低くてもよい。
【0035】
このように、釉薬層3に接する第1領域R1のボイド率を低くすることで、基体2と釉薬層3との界面から基体2にクラックが発生することが抑制される。したがって、実施形態に係るセラミック構造体1は、機械的強度が高い。
【0036】
なお、実施形態に係るセラミック構造体1は、第1領域R1と第2領域R2との間に、平均結晶粒径が第2領域R2よりも小さい領域を有していてもよい。言い換えると、セラミック構造体1は、第1領域R1と第2領域R2との間に、平均結晶粒径が第1領域R1と同等の領域を有していてもよい。
【0037】
実施形態に係る釉薬層3は、上述したように金属元素としてSiを含んでいてもよい。かかる釉薬層3のSi濃度は、釉薬層3の厚み方向における中央部と比較して、当該中央部よりも基体2に近い領域の方が低くてもよい。
【0038】
このように、釉薬層3に含まれるSiを基体2側で少なくすることにより、基体2にかかる残留応力が低減するため、セラミック構造体1の機械的強度が向上する。
【0039】
なお、実施形態に係る釉薬層3は、上述したように金属元素としてCaを含有していてもよい。かかる釉薬層3のCa濃度は、釉薬層3の厚み方向中央部と比較して、厚み方向中央部よりも基体2に近い領域の方が高い。
【0040】
このように、釉薬層3に含まれるCaを基体2側で多くすることにより、基体2にかかる残留応力が低減するため、セラミック構造体1の機械的強度が向上する。
【0041】
また、図3に示すように、釉薬層3は、基体2との界面から離れるにつれてSi濃度が増加するSi濃度増加領域Rxを有していてもよい。
【0042】
このように、釉薬層3のうち基体2から遠い領域ほどSi含有量を多くすることで、基体2に圧縮応力を生じさせることができる。これにより、セラミック構造体1の機械的強度が向上する。また、別の観点によれば、基体2に近い釉薬層3中のSi含有量を少なくすることで、基体2に接する釉薬層3の熱膨張係数を基体2の熱膨張係数に近づけることができる。これにより、基体2と釉薬層3との熱膨張係数の差が小さくなるため、基体2と釉薬層3との間の残留応力が小さくなる。結果として、セラミック構造体1の機械的強度が向上する。
【0043】
Si濃度増加領域Rxは、基体2との界面を含む第3領域R3と、第3領域R3に連続し、第3領域R3よりも基体2から遠い第4領域R4とを含んでいてもよい。この場合、第3領域R3におけるSi濃度の増加率は、第4領域R4におけるSi濃度の増加率より大きくてもよい。
【0044】
このような構成によれば、釉薬層3の外表面にかかる残留応力が減少するため、セラミック構造体1の機械的強度が向上する。
【0045】
また、釉薬層3は、Si濃度増加領域Rxにおける第4領域R4よりも基体2からさらに遠い第5領域R5を含んでいてもよい。この場合、第5領域R5におけるSi濃度の変化率は、第4領域R4におけるSi濃度の変化率よりも小さくてもよい。具体的には、第5領域R5におけるSi濃度は、略一定であってもよい。
【0046】
このような構成によれば、基体2の表面にクラックが入った場合に、釉薬層3にクラックが進展することが抑制されるため、セラミック構造体1の機械的強度が向上する。
【0047】
また、上述したように、第1領域R1におけるSi濃度は、基体2の深さ方向中心部におけるSi濃度、たとえば、第2領域R2におけるSi濃度よりも高い。
【0048】
このように、釉薬層3に近い基体2の部分のSi量を多くした場合、釉薬層3と基体2との界面付近の領域における熱膨張係数の急激な変化が抑制される。これにより、釉薬層3が固化した後の基体2と釉薬層3との間の残留応力が減少するため、セラミック構造体1の機械的強度が向上する。
【0049】
また、実施形態に係る基体2は、上述したようにAlを含有していてもよい。かかる基体2において、第1領域R1におけるAl濃度は、基体2の深さ方向中心部におけるAl濃度、たとえば、第2領域R2におけるAl濃度よりも低くてもよい。
【0050】
このように、釉薬層3に近い基体2の部分のAl量を少なくした場合、釉薬層3と基体2との界面付近の領域における熱膨張係数の急激な変化が抑制される。これにより、釉薬層3が固化した後の基体2と釉薬層3との間の残留応力が減少するため、セラミック構造体1の機械的強度が向上する。
【0051】
実施形態に係るセラミック構造体1において、釉薬層3のうち第1壁部21と第2壁部22との稜部(容器内底面の辺)に位置する釉薬層33の厚さは、第1壁部21に位置する釉薬層31および第2壁部22に位置する釉薬層32の厚さよりも厚くてもよい。
【0052】
第1壁部21と第2壁部22との稜部には、熱衝撃が集中しやすい。これに対し、稜部における釉薬層31の厚さを相対的に厚くすることで稜部の強度が増し、この結果、稜部に熱衝撃によるクラックや割れが生じることが好適に抑制される。
【0053】
また、釉薬層3のうち隣り合う第1壁部21同士の稜部に位置する釉薬層の厚さは、第1壁部21に位置する釉薬層31および第2壁部22に位置する釉薬層32の厚さよりも厚くてもよい。かかる構成とした場合、稜部に熱衝撃によるクラックや割れが生じることがより好適に抑制される。
【0054】
<セラミック構造体1の製造方法>
次に、セラミック構造体1の製造方法の一例について説明する。まず、セラミックスの素焼体を準備する。ここで、素焼体とは、基体2の生成形体を焼結温度(釉薬が無い場合の焼結温度)よりも200~800℃低い温度で熱処理したものである。たとえば、素焼体は、基体2の生成形体を1000℃で30分間熱処理したものである。
【0055】
基体2の生成形体の作製手順は以下の通りである。まず、基体2の主原料である酸化アルミニウム(Al)粉末と、焼結助剤としての酸化珪素(SiO)粉末、炭酸カルシウム(CaCO)粉末および炭酸マグネシウム(MgCO)粉末等を所定の割合で混合した後、湿式粉砕を行なうことで、1次スラリーを作製する。つづいて、1次スラリーにバインダを添加、混合して、2次スラリーを作製する。つづいて、2次スラリーを噴霧乾燥して顆粒を作製する。その後、作成した顆粒を一軸プレス成形して容器形状に成形して生成形体を作製する。
【0056】
つづいて、釉薬を含むペースト、たとえば、公知の釉薬原料粉に、液体とバインダとを混ぜて混練し、ペースト状または低粘度液体状にしたものを準備する。つづいて、概ねの気孔率(ボイド率)が30~50体積%程度の素焼体に釉薬ペーストを塗布する。塗布の方法は特に限定されず、たとえば、スプレー、噴霧、含浸などであってもよい。一例として、釉薬ペーストを槽に貯留し、かかる槽に素焼体を浸すことにより、素焼体に釉薬ペーストを含浸させることができる。その後、素焼体を槽から取り出し、容器の内側に溜まった釉薬ペーストを排出する。この際、容器内底面の4辺に釉薬ペーストが相対的に多く残存することで、容器内底面の4辺における釉薬層の厚さが相対的に厚くなる。
【0057】
つづいて、釉薬が塗布された素焼体を熱処理することにより、素焼体の焼結と釉薬の緻密化(固化)とを同時に行う。たとえば、釉薬が塗布された素焼体は、1350℃以上1450℃以下で2時間熱処理される。これにより、実施形態に係るセラミック構造体1が得られる。
【0058】
素焼体の開気孔内および連通孔内に、釉薬ペーストの一部が入り込むことで、釉薬の一部は素焼体の表面に残存する。この状態で素焼体を焼結すると、素焼体の開気孔および連通孔に、釉薬が入り込んだ状態で焼結が進行する。なお、開気孔とは、釉薬の塗布面に開口する気孔のことである。また、連通孔とは、上記塗布面から素焼体の内部に繋がる気孔のことである。釉薬は、初めはペースト状であるが、熱処理によって溶融すると低粘度の溶融物となり、焼結工程の降温後は開気孔および連通孔の中で固化したまま残存する。これにより、基体2のうち釉薬が入り込んだ部分は、それ以外の部分よりも結晶粒径が小さくなる。同様に、基体2のうち釉薬が入り込んだ部分は、それ以外の部分よりもボイド率が低くなる。具体的には、基体2の第1領域R1におけるボイド率は、基体2の第2領域R2のボイド率の1/3以下となる。より具体的には、基体2の第1領域R1におけるボイド率は、2%以下となる。
【0059】
また、上述したように、素焼体との界面付近に位置する釉薬の一部は素焼体の開気孔および連通孔に入り込む。そして、この状態で素焼体の焼結が進行する。このとき、釉薬に含有されるSiが素焼体の開気孔および連通孔であった領域に移動することで、釉薬層3のうち基体2に近い領域は、Siが相対的に少なくなる。
【0060】
釉薬層3にSi濃度増加領域Rxを形成する方法は、上記と同様である。他の方法として、たとえば、釉薬を多層塗りしてもよい。このとき、たとえば1層目の釉薬におけるSi濃度を2層目の釉薬におけるSi濃度よりも低く調整することで、Si濃度増加領域Rxを好適に形成することができる。素焼体は、1層目の釉薬が塗布された後に乾燥処理が施されても良いし、乾燥処理を行わずに連続的に2層目の釉薬が塗布されても良い。
【実施例
【0061】
次に、本開示によるセラミック構造体の実施例について説明する。本願発明者は、上述した製法により作製したセラミック構造体について、基体の結晶粒径ならびにボイド率、曲げ強度、釉薬層のSi濃度ならびにCa濃度および基体のSi濃度ならびにAl濃度の測定を行った。
【0062】
測定に用いたセラミック構造体の組成は、以下の通りである。
(釉薬層)
SiO 80質量%
Al 12.5質量%
O 5質量%
CaO 1質量%
NaO 1質量%
その他 0.5質量%
その他は、たとえば、Fe,TiO,MgOなどの微量不純物である。
(基体)
Al 86質量%
SiO 9質量%
MgO 2.3質量%
CaO 1.4質量%
TiO 1質量%
その他 0.3質量%
その他は、たとえば、Fe,NaO,KOなどの微量不純物である。
【0063】
<基体の結晶粒径について>
本願発明者は、実施例に係るセラミック構造体と比較例に係るセラミック構造体とについて、基体の結晶粒径の測定を行った。ここで、比較例に係るセラミック構造体は、基体を焼結した後、焼結後の基体に釉薬を塗布し、熱処理を行うことによって釉薬層の緻密化を行ったものである。各セラミック構造体の切断面を鏡面研磨し、得られた鏡面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、倍率3000倍程度で測定箇所を観察した。そして、得られたSEM像からコード法を用いて平均結晶粒径を算出した。具体的には、得られたSEM像(四角形に枠取られた画像)に3本の線分(2本の対角線と1本の横線)を引き、線分の長さと、線分と交差する結晶(粒子)の個数とから平均の結晶粒径を算出する。SEM像の端に位置する結晶のうち線分と重なっているものは結晶粒径を算出するための結晶の個数に含めるものとする。
【0064】
なお、SEM像(二次電子像)に代えて、BEM像(反射電子像)にて平均結晶粒径を算出してもよい。
【0065】
測定箇所は、基体と釉薬層との界面から基体の内部20μmの深さまでの領域(上述した第1領域R1の一部に相当。以下、界面領域と記載する)と、基体と釉薬層との界面を基準として、100μmの深さから120μmの深さまでの領域(以下、中間領域と記載する)と、基体と釉薬層との界面を基準として、1000μm(1mm)の深さから1020μmの深さまでの領域(上述した第2領域R2に相当。以下、深部領域と記載する)の3箇所である。
【0066】
図4は、実施例に係るセラミック構造体および比較例に係るセラミック構造体のSEM像である。図4(a)~図4(c)は、比較例に係るセラミック構造体のSEM像であり、図4(d)~図4(f)は、実施例に係るセラミック構造体のSEM像である。また、図4(a)および図4(d)は界面領域のSEM像であり、図4(b)および図4(e)は中間領域のSEM像であり、図4(c)および図4(f)は深部領域のSEM像である。
【0067】
また、図5は、実施例に係るセラミック構造体および比較例に係るセラミック構造体における基体の平均結晶粒径の測定結果を示す表である。
【0068】
図4(a)~図4(c)に示すように、比較例に係るセラミック構造体における基体の結晶粒径は、界面領域、中間領域および深部領域において概ね同じである。これに対し、図4(d)~図4(f)に示すように、実施例に係るセラミック構造体における基体の結晶粒径は、深部領域よりも界面領域の方が小さいことがわかる。具体的には、界面領域における結晶粒径は、深部領域における結晶粒径に対して80%程度の大きさであった。
【0069】
具体的には、図5に示すように、比較例に係るセラミック構造体における基体の結晶粒径は、界面領域において1.8μm、中間領域において1.7μm、深部領域において1.7μmであった。これに対し、実施例に係るセラミック構造体における基体の結晶粒径は、界面領域において1.4μm、中間領域において1.4μm、深部領域において1.8μmであった。
【0070】
このように、実施例に係るセラミック構造体は、基体のうち釉薬層との界面を含む第1領域における結晶粒径が、基体のうち第1領域よりも釉薬層から遠い第2領域における結晶粒径よりも小さい。
【0071】
<基体のボイド率について>
本願発明者は、実施例に係るセラミック構造体と比較例に係るセラミック構造体とについて、基体のボイド率の測定を行った。まず、上述した鏡面を金属顕微鏡を用いて倍率200倍程度で観察し、得られた画像を画像解析ソフト「A像くん」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製、なお、以降に画像解析ソフト「A像くん」と記した場合、旭化成エンジニアリング(株)製の画像解析ソフトを示すものとする。)を用いて画像を2値化した。そして、2値化した画像を解析することによりボイド率を算出した。測定箇所は、上述した界面領域、中間領域および深部領域の3箇所である。なお、画像の2値化は、「A像くん」以外の画像解析ソフトを用いて行われてもよい。「A像くん」以外の画像解析ソフトとしては、たとえば、(株)キーエンス製のデジタルマイクロスコープ(一例として、VHX-5000、VHX-7000、VHX-8000)が用いられ得る。
【0072】
図6は、実施例に係るセラミック構造体および比較例に係るセラミック構造体における基体のボイド率の測定結果を示す表である。図6に示すように、比較例に係るセラミック構造体における基体のボイド率は、界面領域において2.5%、中間領域において7.0%、深部領域において7.2%であった。これに対し、実施例に係るセラミック構造体における基体のボイド率は、界面領域において0.8%、中間領域において6.0%、深部領域において5.9%であった。
【0073】
このように、実施例に係るセラミック構造体は、基体のうち釉薬層との界面を含む第1領域におけるボイド率が、基体のうち第1領域よりも釉薬層から遠い第2領域におけるボイド率よりも低い。具体的には、実施例に係るセラミック構造体において、第1領域におけるボイド率は、第2領域におけるボイド率の1/6以下である。
【0074】
<セラミック構造体の曲げ強度について>
本願発明者は、実施例に係るセラミック構造体と比較例に係るセラミック構造体とについて、釉薬層の厚みが異なる複数の測定試料を用いて曲げ強度の測定を行った。釉薬層の厚みは、50μm、65μm、75μm、100μmおよび180μmの5パターンである。
【0075】
図7は、曲げ強度測定の説明図である。図7に示すように、まず、板状の測定試料を用意する。測定試料の寸法は、縦30mm、横15mm、厚み2mmである。つづいて、三角柱形状を有する2つの支持部材の稜線部に、釉薬層を下側に向けた状態で測定試料を載置する。2つの支持部材間の距離は、25mmである。つづいて、測定試料における2つの支持部材間の中間位置を測定試料の上方から端子を用いて押圧する。端子は、支持部材の稜線部分と平行に線状に測定試料を押圧する。そして、測定試料が割れたときに測定試料が端子から受けていた圧力を曲げ強度として算出した。
【0076】
図8は、実施例に係るセラミック構造体および比較例に係るセラミック構造体の曲げ強度測定の結果を示す表である。図8に示すように、比較例に係るセラミック構造体の曲げ強度は、釉薬層の厚みが50μmの場合で307MPa、65μmの場合で280MPa、75μmの場合で373MPa、100μmの場合で378MPa、180μmの場合で334MPaであった。これに対し、実施例に係るセラミック構造体の曲げ強度は、釉薬層の厚みが50μmの場合で349MPa、65μmの場合で398MPa、75μmの場合で463MPa、100μmの場合で441MPa、180μmの場合で489MPaであった。
【0077】
このように、実施例に係るセラミック構造体は、比較例に係るセラミック構造体と比較して機械的強度が高いことがわかる。また、実施例に係るセラミック構造体の機械的強度は、釉薬層の厚みを厚くするほど高くなることがわかる。
【0078】
<釉薬層のSi濃度およびCa濃度について>
本願発明者は、実施例に係るセラミック構造体について、釉薬層のSi濃度およびCa濃度の測定を行った。Si濃度およびCa濃度の測定は、波長分散型X線分析装置(WDS)を用いて行われた。
【0079】
図9および図10は、実施例に係るセラミック構造体における釉薬層のSi濃度の測定結果を示すグラフである。図9には、釉薬層の外表面(基体との界面とは反対側に位置する面)を含む、深さ方向30μmの測定範囲におけるSi濃度の測定結果を示している。また、図10には、基体との界面を含む、深さ方向30μmの測定範囲におけるSi濃度の測定結果を示している。
【0080】
図9において、釉薬層の外表面の位置は30μm付近である。また、図10において、釉薬層と基体との界面の位置は5μm付近である。図9および図10に示すグラフにおいて、測定開始点および終了点(図9および図10では、0μmおよび30μm)におけるグラフの挙動は、測定装置の仕様によるものであるため無視するものとする。これは、後述する図11図14においても同様である。
【0081】
図10に示すように、実施例に係る釉薬層は、基体との界面から離れるにつれてSi濃度が増加するSi濃度増加領域を有していることがわかる。Si濃度増加領域は、たとえば、基体との界面(図10に示す5μmの位置)から20μm(図10に示す25μmの位置)の深さまでの領域である。
【0082】
また、実施例に係るSi濃度増加領域は、基体との界面を含む領域(第3領域R3に相当)におけるSi濃度の増加率が、第3領域よりも基体から遠い領域(第4領域R4に相当)におけるSi濃度の増加率よりも大きいことがわかる。ここでの第3領域は、たとえば、基体との界面から2μmの深さまでの領域である。また、ここでの第4領域は、Si濃度増加領域のうち第3領域以外の領域である。
【0083】
また、図9に示すように、実施例に係る釉薬層は、第4領域よりも基体からさらに遠い領域(第5領域R5に相当)におけるSi濃度の変化率が、第4領域におけるSi濃度の変化率よりもさらに小さいことがわかる。ここでの第5領域は、たとえば、図9に示す0~10μmの領域である。かかる第5領域におけるSi濃度は、略一定である。
【0084】
図11および図12は、実施例に係るセラミック構造体における釉薬層のCa濃度の測定結果を示すグラフである。図11には、釉薬層の外表面を含む、深さ方向30μmの測定範囲におけるCa濃度の測定結果を示している。また、図12には、基体との界面を含む、深さ方向30μmの測定範囲におけるCa濃度の測定結果を示している。
【0085】
図12に示すように、実施例に係る釉薬層は、基体との界面から離れるにつれてCa濃度が増加するCa濃度増加領域を有していることがわかる。Ca濃度増加領域は、たとえば、基体との界面(図12に示す5μmの位置)から7.5μm(図12に示す12.5μmの位置)の深さまでの領域である。
【0086】
また、実施例に係るCa濃度増加領域は、基体との界面を含む領域(第8領域と記載する)におけるCa濃度の増加率が、第8領域よりも基体から遠い領域(第9領域と記載する)におけるCa濃度の増加率よりも大きいことがわかる。第8領域は、たとえば、基体との界面から2μmの深さまでの領域である。また、第9領域は、Ca濃度増加領域のうち第8領域以外の領域である。
【0087】
<基体のSi濃度およびAl濃度について>
本願発明者は、実施例に係るセラミック構造体について、基体のSi濃度およびAl濃度の測定を行った。基体におけるSi濃度およびAl濃度の測定方法は、上述した釉薬層におけるSi濃度およびCa濃度の測定方法と同様である。
【0088】
図13は、実施例に係るセラミック構造体における基体のSi濃度の測定結果を示すグラフである。また、図14は、実施例に係るセラミック構造体における基体のAl濃度の測定結果を示すグラフである。図13および図14には、基体と釉薬層との界面を含む、深さ方向90μmの測定範囲におけるSi濃度およびAl濃度の測定結果を示している。図13および図14において、釉薬層と基体との界面の位置は40μm付近であり、0~40μmの範囲が基体、40~90μmの範囲が釉薬層である。
【0089】
図13に示すように、基体のうち釉薬層との界面を含む領域(界面領域に相当)におけるSi濃度は、基体のうち界面領域よりも釉薬層から遠い領域におけるSi濃度よりも高いことがわかる。ここでの界面領域は、たとえば、基体と釉薬層との界面(図13に示す40μmの位置)から20μm(図13に示す20μmの位置)の深さまでの領域である。また、基体のうち界面領域よりも釉薬層から遠い領域は、たとえば、界面領域よりも20μm深い位置(図13に示す0μm)から界面領域の下端(図13に示す20μm)までの領域である。
【0090】
また、図14に示すように、基体のうち釉薬層との界面を含む領域(界面領域に相当)におけるAl濃度は、基体のうち界面領域よりも釉薬層から遠い領域におけるAl濃度よりも低いことがわかる。ここでの界面領域は、たとえば、基体と釉薬層との界面(図14に示す40μmの位置)から20μm(図14に示す20μmの位置)の深さまでの領域である。また、基体のうち界面領域よりも釉薬層から遠い領域は、たとえば、界面領域よりも20μm深い位置(図14に示す0μm)から界面領域の下端(図14に示す20μm)までの領域である。
【0091】
<釉薬層の厚み測定>
実施例に係るセラミック構造体を第1壁部および第2壁部に直交する面で切断し、切断面に位置する釉薬層の厚みを測定した。測定位置は、図2に示す符号31~33と同様の3箇所である。その結果、第1壁部に位置する釉薬層の厚みは260μm、第2壁部に位置する釉薬層の厚みは295μmであったのに対し、第1壁部と第2壁部との稜部に位置する釉薬層の厚みは596μmであった。この結果から、釉薬層の厚みは、第1壁部と第2壁部との稜部において相対的に厚いことがわかる。
【0092】
また、隣り合う2つの第1壁部間の稜部における釉薬層の厚みの測定も行った。具体的には、実施例に係るセラミック構造体を第1壁部に直交し且つ第2壁部と平行な面で切断し、切断面に位置する釉薬層の厚みを測定した。その結果、隣り合う2つの第1壁部間の稜部に位置する釉薬層の厚みは、360μmであった。
【0093】
また、基体内部の四隅における釉薬層の厚みの測定も行った。具体的には、実施例に係るセラミック構造体を、隣り合う2つの第1壁部における外側の稜部および内側の稜部の両方を通る面で切断し、切断面に位置する釉薬層の厚みを測定した。その結果、基体内部の四隅に位置する釉薬層の厚みは、851μmであった。
【0094】
このように、実施例に係るセラミック構造体は、第1壁部と第2壁部との稜部(基体内部の四隅を含む)において釉薬層の厚みが厚い。
【0095】
上述してきたように、実施形態に係る釉薬層付きセラミック構造体(一例として、セラミック構造体1)は、セラミックスからなる基体(一例として、基体2)と、基体の上に位置する釉薬層(一例として、釉薬層3)とを有する。また、基体のうち釉薬層との界面を含む第1領域(一例として、第1領域R1)における結晶粒径は、基体のうち第1領域よりも釉薬層から遠い第2領域(一例として、第2領域R2)における結晶粒径よりも小さい。
【0096】
また、実施形態に係る釉薬層付きセラミック構造体(一例として、セラミック構造体1)は、セラミックスからなる基体(一例として、基体2)と、基体の上に位置する釉薬層(一例として、釉薬層3)とを有する。また、基体のうち釉薬層との界面を含む第1領域(一例として、第1領域R1)におけるボイド率は、基体のうち第1領域よりも釉薬層から遠い第2領域(一例として、第2領域R2)におけるボイド率よりも低い。
【0097】
したがって、実施形態に係る釉薬層付きセラミック構造体によれば、機械的強度を向上させることができる。
【0098】
上述した実施形態では、基体2が酸化アルミニウム質セラミックスからなる場合の例について説明した。これに限らず、基体2は、酸化アルミニウム質セラミックス以外の材質からなるものであってもよい。酸化アルミニウム質セラミックス以外の材質は、たとえば、コージェライト、フォルステライトおよびジルコニア等であってもよい。
【0099】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 :釉薬層付きセラミック構造体
2 :基体
3 :釉薬層
21 :第1壁部
22 :第2壁部
R1 :第1領域
R2 :第2領域
R3 :第3領域
R4 :第4領域
R5 :第5領域
Rx :Si濃度増加領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14