(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-11
(45)【発行日】2025-11-19
(54)【発明の名称】光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20251112BHJP
【FI】
G02B6/44 381
G02B6/44 366
(21)【出願番号】P 2022069902
(22)【出願日】2022-04-21
【審査請求日】2024-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】松浦 昂平
(72)【発明者】
【氏名】安冨 徹也
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-098871(JP,A)
【文献】特開2005-017380(JP,A)
【文献】特開2020-148794(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0389537(US,A1)
【文献】特開2002-098870(JP,A)
【文献】米国特許第04143942(US,A)
【文献】中国実用新案第217932191(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバ心線からなるコアと、
光ファイバケーブルの長手方向に垂直な断面において、前記コアを中心に対向する部位に設けられるテンションメンバと、
前記コア及び前記テンションメンバを覆うように設けられる外被と、
を具備し、
前記外被が、前記コアの外周を覆うように配置される内層と、外面に露出する外層とを有し、前記内層の色と前記外層の色とが異な
り、
前記内層の引張強度が2.5MPa以上6MPa以下であることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記内層の引張強度が、前記外層の引張強度よりも低いことを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記内層が発泡樹脂であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光ファイバ心線からなる光ファイバケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
データトラフィックの増大に伴い、超多心光ケーブルが普及してきている。超多心光ケーブルでは、ケーブル内に多数の光ファイバを実装する必要があり、それを実現するためにスロットレス構造のケーブルが使用されている
【0003】
このようなスロットレスの光ファイバケーブルとしては、多数の光ファイバ心線からなるコアと、コアの外周に配置されたテンションメンバとが、外被で被覆されたものが用いられている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、スロットレス構造の光ファイバケーブルに対して、内部の光ファイバ心線を取り出すためにケーブルを解体する際には、引き裂き紐で外被が切り裂かれる。しかし、テンションメンバが入った構造では、外被をカッターで剥いで引き裂き紐を取り出すことが困難である。このため、パイプカッターのような輪切り工具で光ファイバケーブルの外被に輪切り状の切れ込みを入れて、引き裂き紐を取り出すことがある。
【0006】
しかし、輪切り工具によってケーブル外被を解体する場合、少しでも刃が深く入りすぎてしまうと、刃でファイバコアを傷つけてしまい、光ファイバが断線する危険性がある。このため、外被厚に合わせて刃の長さを規定する必要があるが、外被厚は多少の製造のバラツキがあるため、完全にコアの損傷を抑制することは困難である。
【0007】
これに対し、ファイバコアを傷つけないように、まず、輪切り工具で浅く輪切りし、残った薄い外被を他の刃具で除去する方法がとられる場合がある。しかし、この方法でも、輪切り工具によって外被除去する際に、適切な切れ込み深さを把握すること困難であるため、同様にファイバコアを損傷する問題があった。このため、少しずつ刃の深さを深くしていくなど、作業時間がかかるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、解体作業が容易な光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達するために本発明は、複数の光ファイバ心線からなるコアと、光ファイバケーブルの長手方向に垂直な断面において、前記コアを中心に対向する部位に設けられるテンションメンバと、前記コア及び前記テンションメンバを覆うように設けられる外被と、を具備し、前記外被が、前記コアの外周を覆うように配置される内層と、外面に露出する外層とを有し、前記内層の色と前記外層の色とが異なり、前記内層の引張強度が2.5MPa以上6MPa以下であることを特徴とする光ファイバケーブルである。
【0010】
前記内層の引張強度が、前記外層の引張強度よりも低いことが望ましい。
【0011】
前記内層が発泡樹脂であることが望ましい。
【0012】
本発明によれば、外被が複層構造であって、内層が外層とは異なる色に着色されているため、輪切り工具で外被に刃を入れた際に、残りの外被厚をおおよそ把握することができる。このため、コアを傷つけることなく、容易にコアの少し手前まで刃を入れることができる。また、内層13の引張強度を低くすることで、輪切り工具で内層まで刃を入れた後に、他の刃具を使用せずに、手で破断させることができる。このため、光ファイバの取り出し作業性が良好である。
【0013】
また、内層の引張強度を外層の引張強度よりも低くすることで、輪切り工具によってわずかに残った外被を、他の刃具を使用することなく、容易に破断して解体することができる。
【0014】
同様に、内層を発泡樹脂とすることで、輪切り工具によってわずかに残った外被を容易に破断して解体することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、解体作業が容易な光ファイバケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】光ファイバケーブル1を輪切り工具で切れ込みを入れた状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、実施形態について説明する。
図1は、光ファイバケーブル1の断面図である。光ファイバケーブル1は、スロットを用いないスロットレス型ケーブルであり、コア5、テンションメンバ9、引き裂き紐11、外被13等により構成される。
【0018】
コア5は、複数の光ファイバ心線3からなる。より詳細には、複数の光ファイバ心線3が撚り合わせられて光ファイバユニットが形成され、複数の光ファイバユニットがさらに撚り合わせられて、コア5が形成される。なお、光ファイバ心線3としては、例えば、長手方向に対して間欠的に接着された、間欠接着型の光ファイバテープ心線であってもよい。
【0019】
図1に示すように、コア5(複数の光ファイバ心線3)の外周には、押さえ巻き7が設けられる。押さえ巻き7は、テープ状の部材や不織布等であり、例えば縦添え巻きによってコア5の外周を一括して覆うように配置される。すなわち、押さえ巻き7の長手方向が光ファイバケーブル1の軸方向と略一致し、押さえ巻き7の幅方向が光ファイバケーブル1の周方向となるようにコア5の外周に縦添え巻きされる。なお、押さえ巻き7は必ずしも必須ではなく、また、押さえ巻き7を含めてコア5と呼ぶ場合がある。
【0020】
光ファイバケーブル1の長手方向に垂直な断面において、コア5を中心に対向する部位にはテンションメンバ9が設けられる。テンションメンバ9は、光ファイバケーブル1の張力を負担する。なお、テンションメンバ9の材質は特に限定されないが、例えば、アラミド繊維、ガラス繊維等による繊維補強プラスチック(FRP)等が使用できる。
【0021】
また、テンションメンバ9とは異なる周方向位置であって、コア5を挟んで互いに対向する位置には引き裂き紐11が設けられる。また、コア5の外周には、外被13が設けられる。テンションメンバ9および引き裂き紐11は、外被13に埋設される。すなわち、コア5(複数の光ファイバ心線3)及びテンションメンバ9等を覆うように外被13が設けられる。外被13の外形は略円形である。
【0022】
外被13は複層構造であり、コア5の外周を覆うように配置される内層13aと、内層13aの外周に配置され、外面に露出する外層13bとからなる。なお、内層13aは、外層13bよりも厚みが薄い。内層13aとしては、例えば1.5mm以下が望ましく、さらに1mm以下であることが望ましい。なお、ある程度の精度で光ファイバケーブルを製造可能であれば、内層13aを0.5mm以下としてもよい。なお、内層13aの最小厚みとしては、例えば0.2mm以上であることが望ましい。
【0023】
また、引き裂き紐11は、内層13aの内部に配置され、テンションメンバ9は、外層13bの内部に配置される。例えば、図示した例では、内層13aは、引き裂き紐11の外径よりも厚く、外層13bは、テンションメンバ9の外径よりも厚い。
【0024】
ここで、内層13aの色と外層13bの色とは異なる。例えば、外層13bは、対候性等を考慮して黒色である場合に対し、内層13aは、これとは異なる色で着色される。なお、内層13aの着色方法としては、着色ペレットを用いてもよく、ナチュラル色のペレットに着色剤を添加してもよい。
【0025】
ここで、内層13aと外層13bとは、色の違いが明確であることが望ましく、例えば、外層13bが黒い場合には、内層13aがグレーのように、濃淡のみが異なるのではなく、内層13aとしては、白色、黄色、青色、赤色等、全く異なる色であることが望ましい。なお、外層13bは黒以外であってもよい。また、内層13a、外層13bともに、透明(クリア)ではなく色がついた不透明色であることが望ましい。
【0026】
内層13aと外層13bとは、例えば2層押出で形成される。この際、内層13aと外層13bとを同一の樹脂材料としてもよい。すなわち、内層13aの材料として、外層13bのベース樹脂に対してカラーバッチ(着色剤)を添加した材料を用いてもよい。
【0027】
また、内層13aの引張強度を、外層13bの引張強度よりも低くすることが望ましい。外層13bは、光ファイバケーブルの保護機能を確保するため、ある程度の強度が必要である。このため、外層13bは、所定以上の引張強度を有することが望ましい。
【0028】
一方、内層13aは、外被13に対して占める割合が小さく、外被13の内周側の極一部のみを構成するため、多少強度が低くても、光ファイバケーブルの保護機能の低下への影響は小さい。また、内層13aの引張強度を低くすることで、輪切り工具で内層13aまで刃を入れた後に、残りの内層13aを破断させるのに、他の刃具を使用せずに、手で破断させることができる。このため、光ファイバの取り出し作業性が良好である。
【0029】
このように、内層13aの引張強度を外層13bよりも小さくする方法としては、内層13aの樹脂材料を、外層13bの樹脂材料よりも強度の弱い材質を選択する方法がある。例えば、外層13bを直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)で構成し、内層13aをポリウレタンで構成することで、内層13aの引張強度を低くすることができる。
【0030】
また、内層13aの引張強度を外層13bよりも小さくする方法としては、内層13aを発泡樹脂とする方法がある。この場合には、内層13aと外層13bを同一の樹脂材料で構成し、内層13aにのみ発泡剤を添加して、押出時に発泡させてもよい。
【0031】
次に、光ファイバケーブル1の解体方法を説明する。
図2は、光ファイバケーブル1の解体中の状態を示す図である。光ファイバケーブル1の内部の光ファイバ心線を取り出す部位において、まず、輪切り工具(図示せず)を用いて、外被13の所定の位置に刃を入れて、周方向に切れ込み15を入れる。
【0032】
この際、切れ込み15(輪切り工具の刃)の深さは、コア5を傷つけないように、コア5までの厚み(外被13の厚み)よりもわずかに浅く設定される。このように、輪切り工具の刃の深さを設定することで、コア5の外径バラツキの影響によっても、コア5が傷つくことを抑制することができる。
【0033】
一方、切れ込み15(輪切り工具の刃)の深さとしては、外層13bの厚みよりもわずかに深く設定される。すなわち、輪切り工具によって、内層13aまで刃を入れる。このため、輪切り工具による切れ込み15において、内部の内層13aを視認することができる。この際、内層13aが着色されているため、輪切り工具の刃が内層13aに達しているかどうかを容易に視認することができる。
【0034】
なお、輪切り工具を用いて切れ込み15を形成した際に、切れ込み15の内部に内層13aの色が露出していない場合には、わずかに刃を深くして再度輪切り工具による切れ込み作業を行う。この際、輪切り工具の刃の深さ調整として、内層13aの厚み未満だけ深くすることで、再度の切れ込み作業で、内層13aを超えてコア5が傷つくことを抑制することができる。
【0035】
輪切り工具を用いて形成された切れ込み15の奥部に内層13aが露出したら、必要に応じて他の刃具で残りの薄い内層13aを破断させて、コア5を取り出すことができる。この際、前述したように、内層13aの引張強度が所定以下であれば、残りの内層13aを手で容易に破断させることができる。このため、他の刃具を使用する必要がなく、作業が容易である。
【0036】
なお、必要に応じて、切れ込み15から軸方向へ所定の長さ離れた位置で同様の切れ込み15を形成し、互いに所定距離離れた切れ込み15同士の間の外被13を、引き裂き紐11で軸方向に引き裂くことで、切れ込み15同士の間の外被13を除去することができる。
【0037】
以上説明したように、本実施の形態によれば、外被13の内周側に着色された内層13aが形成されるため、輪切り工具等で外被13に切れ込み15を形成した際に、切れ込み15に内層13aの色が露出しているかどうかで、切れ込み15の深さが適切であるか容易に判断することができる。
【0038】
また、内層13aの引張強度を外層13bの引張強度よりも低くすることで、輪切り工具による切れ込み作業の後、他の工具を使用せずに、手で残りの内層13aを容易に破断させることができる。
【0039】
例えば、内層13aを発泡樹脂で構成することで、内層13aの破断が容易である。
【0040】
なお、本実施形態では、外被13を内層13aと外層13bの2層構造としたが、3層以上であってもよい。この際、各層ごとに色を変えることで、切れ込み深さをより精度よく把握することができる。
【実施例】
【0041】
外被の構成を変化させた種々の光ファイバケーブルについて評価した。まず、直径200μmの光ファイバ12本を間欠的に接着し12心の光ファイバテープ心線を作成した。この光ファイバテープ心線を12本撚り合わせて144心の光ファイバユニットを構成した。
【0042】
144心の光ファイバユニットを48本サプライし撚り合わせた上で、押さえ巻きを縦添えし、フォーミング治具で丸めた上に、ナイロン製の押え糸を巻付け、6912心のコアを作成した。
【0043】
こうして作成したコアの外周に、テンションメンバと、外被を切裂く切裂き紐とを配置し、線速10mm/分で外被を押出被覆し、シース後に水槽で約20℃に冷却して光ファイバケーブルを作成した。
【0044】
なお、テンションメンバとしては、φ2.0mmのG-FRP(ガラス繊維補強樹脂)を用いた。また、外被の押出は2層押出とし、内層と外層の2層構造とした。光ファイバケーブルの外径(外被の外径)は29.5mm、外被の全体の厚みは4mmとした。
【0045】
外層の樹脂としては、いずれの実施例もLLDPEとした。一方、内層の樹脂としては、外層と同一の材質(LLDPE)に着色用のカラーバッチのみを添加したもの(実施例1)と、ポリウレタンに着色用のカラーバッチのみを添加したもの(実施例2)と、外層と同一の材質(LLDPE)に着色用のカラーバッチと重曹系の発泡剤を添加したもの(実施例3)を用意した。なお、いずれも、外層の厚みを3mmとし、内層の厚みを1mmとした。
【0046】
また、比較例として、内層のない光ファイバケーブルを用意した。すなわち、比較例は、外被の全体が外層(1層)で構成されるものである。
【0047】
得られたそれぞれの光ファイバケーブルに対して、解体作業性を評価した。まず、それぞれの光ファイバケーブルに対して、輪切り工具によって切れ込みを入れた。この際、できるだけコアの近くまで輪切り工具による切れ込みを入れた。その後、外被の残りを、手で破断させた。この際、手で破断させることが困難であるものは、他の刃具を使用して、外被を切断した。
【0048】
それぞれについて、複数回の試験を行い、刃具の使用の有無や、コアの損傷の有無について評価した。各実施例及び評価結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
結果より、実施例1~実施例3は、いずれもコアの損傷が見られなかった。これは、輪切り工具を使用した際に、内層に刃が達しているかどうかを容易に把握することができるため、内層の厚みから、コアまでの残りの厚みをおおよそ把握することができ、過剰に刃を入れてしまうことがなかったためである。
【0051】
また、内層の引張強度を外層の引張強度よりも低くした実施例2、実施例3は、輪切り工具により、内層まで刃を入れた後は、手で残りの内層を破断させることができたため、他の刃具を使用する必要がなく、作業性が良好であった。
【0052】
一方、比較例1は、輪切り工具によって切れ込みを入れた際に、残りの厚みを知ることができなかったため、さらに刃を入れた際に、誤ってコアを傷つけてしまうことがあった。また、コアの損傷を防ぐために、少しずつ刃の深さを深くしていくと、作業の繰り返し数が増えてしまい、解体に時間を要した。
【0053】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0054】
1………光ファイバケーブル
3………光ファイバ心線
5………コア
7………押さえ巻き
9………テンションメンバ
11………引き裂き紐
13………外被
13a………内層
13b………外層
15………切れ込み