(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-13
(45)【発行日】2025-11-21
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20251114BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20251114BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20251114BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20251114BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2022544568
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2021030718
(87)【国際公開番号】W WO2022045037
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2020146067
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 千咲希
(72)【発明者】
【氏名】石黒 祐
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/082543(WO,A1)
【文献】特開2019-164999(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151234(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/154913(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169184(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/39
H01M 4/00- 4/62
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、電解液と、を備え、
前記電解液は、式(1):(R-O-SO
3)
nX1
で示される有機硫酸塩を含み、
ただし、Rは炭素数1以上の有機基であり、X1はカチオンであり、nは1~3の整数であり、
前記電解液に含まれる有機硫酸塩の含有量が、0.1質量%以上、5質量%以下であり、
前記電解液は、更に、エチレンカーボネートと、フルオロエチレンカーボネートと、を含み、
前記エチレンカーボネートの体積Vecと前記フルオロエチレンカーボネートの体積Vfecとが、
0.1≦Vec/Vfec≦
4を満たす、非水電解液二次電池。
【請求項2】
0.1≦Vec/Vfec≦2を満たす、請求項
1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記X1が、アルカリ金属イオンまたはNH
4
+である、請求項1
または2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記Rが、炭素数1以上、6以下のアルキル基である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記Rが、メチル基またはエチル基である、請求項
4に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記電解液が、更に、式(2):(F-SO
3)
mX2
で示されるフルオロスルホン酸塩を含み、
ただし、X2はカチオンであり、mは1~3の整数であり、
前記電解液に含まれる前記フルオロスルホン酸塩の含有量が、0.5質量%以上、5質量%以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
前記X2が、アルカリ金属イオンまたはNH
4
+である、請求項
6に記載の非水電解液二次電池。
【請求項8】
前記正極が、層状岩塩型結晶構造を有し、リチウム以外の金属の80原子%以上がニッケルであるリチウム含有複合酸化物を含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、高出力かつ高エネルギー密度を有するため、小型民生用途、電力貯蔵装置および電気自動車の電源として期待されている。一方、非水電解液二次電池の急速な普及に伴い、急速充電性能の重要性が高まってきている。
【0003】
特許文献1は、電池の内部抵抗が低減され、ハイレートな充放電や高出力がもとめられる車両駆動用のリチウムイオン二次電池用途に特に適する正極活物質として、電荷担体の吸蔵および放出が可能な化合物からなる基体部と、前記基体部の表面の少なくとも一部に配置された誘電体と、前記基体部の表面の少なくとも一部に配置された炭酸化合物と、を備える、正極活物質を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
正極抵抗が低減すると、充電時に正極活物質がより深くまで充電されるため、正極電位が上昇しやすい。そのため、充放電サイクルの過程で電解液の酸化分解が促進され、正極抵抗が増大し、耐久性(容量維持率)が低下することがある。
【0006】
以上に鑑み、本開示の一側面は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、電解液と、を備え、
前記電解液は、式(1):(R-O-SO3)nX1
で示される有機硫酸塩を含み、
ただし、Rは炭素数1以上の有機基であり、X1はカチオンであり、nは1~3の整数であり、前記電解液は、更に、エチレンカーボネートと、フルオロエチレンカーボネートと、を含み、前記エチレンカーボネートの体積Vecと前記フルオロエチレンカーボネートの体積Vfecとが、
0.1≦Vec/Vfec≦15を満たす、非水電解液二次電池に関する。
【0007】
本開示によれば、正極抵抗を低減しつつ、非水電解液二次電池の耐久性を向上させることがきる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態に係る非水電解液二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、電解液とを備える。正極は正極活物質を含む。正極活物質は、例えばリチウム含有複合酸化物であり、遷移金属を含む。
【0010】
電解液は、式(1):(R-O-SO3)nX1
で示される有機硫酸塩を含む。ただし、Rは炭素数1以上の有機基であり、X1はカチオンであり、nは1以上、3以下の整数である。
【0011】
有機硫酸塩は、正極活物質の表面に高抵抗の被膜が形成されることを防止する役割を果たす。高抵抗の被膜は、電解液の酸化分解成分、正極活物質の劣化成分などで構成される。そのメカニズムは、有機硫酸塩が電解液中で電離して生成する有機硫酸アニオンの負電荷が非局在化することで発現する。
【0012】
まず、負電荷が非局在化した有機硫酸アニオン(R-O-SO4
-)は、高酸化状態の正極活物質(特に高酸化状態の遷移金属イオン)に配位する。その結果、正極活物質の表面が有機硫酸アニオン(R-O-SO4
-)で保護され、正極活物質と電解液との副反応が抑制される。すなわち、表面保護により正極抵抗の増大が抑制され、電池反応がより優先的に進行する。よって、非水電解液二次電池の急速充電する場合でも、正極の充電受け入れ性が向上する(すなわち、急速充電性能が向上する)。
【0013】
また、R-O-SO4
-イオンは、高酸化状態の正極活物質に有効に作用するため、正極抵抗が低減された結果として正極活物質がより深くまで充電される場合でも、高電位の正極(高酸化状態の正極活物質)と電解液との副反応は抑制されている。そのため、充放電サイクルの過程においても正極での高抵抗の被膜生成が抑制され、電池の耐久性が向上する。
【0014】
ただし、R-O-SO4
-イオンが有効に作用する場合でも、正極活物質がより深くまで充電されると、電解液と正極活物質との副反応を抑制することが困難になる場合がある。例えば、正極の平均的な電位が高くなると、正極活物質の一部では酸化状態が平均値よりも相当に高くなる場合がある。よって、高電位の正極で酸化されにくい(耐酸化性の高い)電解液成分を選択することの重要性が大きくなる。換言すれば、有機硫酸塩が電解液中に存在する場合と、存在しない場合とでは、耐酸化性の高い電解液成分による電池の耐久性の向上の程度に大きな差が生じるようになる。
【0015】
電解液は、エチレンカーボネート(EC)と、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とを含む。ECは、負極に低抵抗の固体電解質界面(SEI)を形成する成分であり、電池の内部抵抗を低減する上で重要な役割を果たすと考えられている。一方、ECは、高電位の正極に対する耐酸化性がやや低く、正極が高電位まで充電される充放電サイクルを繰り返すと、次第に酸化分解され、正極に高抵抗の被膜を生成させ得る。FECは、ECの水素1個をフッ素に置換した構造を有し、ECよりも耐酸化性に優れるとともに、負極にフッ素塩(例えばLiF)を含む低抵抗な無機被膜を形成することが期待される。FECを所定割合で電解液に含ませることで、正極が高電位になる場合でも、ECの酸化分解が顕著に抑制されるようになる。そして、ECの分解を抑制し、電池の耐久性を向上させる効果は、有機硫酸塩が電解液中に存在する場合に顕在化する。
【0016】
電池の耐久性を顕著に向上させるには、電解液に含まれるECの体積VecとFECの体積Vfecとが、0.1≦Vec/Vfec≦15を満たすことが必要である。また、電池の耐久性をより顕著に向上させる場合、0.1≦Vec/Vfec≦12もしくは0.1≦Vec/Vfec≦5を満たすことが望ましく、0.1≦Vec/Vfec≦4を満たしてもよく、0.1≦Vec/Vfec≦2を満たしてもよい。
【0017】
式(1)で示される有機硫酸塩において、カチオンX1は、電解液中で電離し得る塩を形成するものであれば特に限定されない。カチオンX1の価数は1~3であればよいが、2価以下のカチオン(n=2)が好ましく、1価のカチオン(n=1)がより好ましい。例えば、カチオンX1として、アルカリ金属イオンまたはNH4
+を用い得る。中でも電離しやすく、入手が容易であり、電解液の粘度増大への影響が小さいことから、ナトリウムイオン、リチウムイオンなどが好ましい。
【0018】
式(1)で示される有機硫酸塩において、Rは、例えば、炭素数1以上、6以下のアルキル基であればよいが、Rが大きすぎると、高酸化状態の正極活物質を保護して副反応を抑制する作用だけでなく、電池反応自体が阻害される可能性がある。効率よく副反応を抑制し、かつ電池反応を促進する観点から、Rの炭素数は1~3が好ましく、特に1または2が好ましい。このような条件を満たす有機硫酸塩の具体例として、例えば、メチル硫酸リチウム、メチル硫酸ナトリウム、エチル硫酸リチウム、エチル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。中でも、エチル硫酸リチウムやエチル硫酸ナトリウムが好ましい。有機硫酸塩は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
電解液に含まれる有機硫酸塩の含有量C1は、例えば0.1質量%以上、5質量%以下であってもよく、0.5質量%以上、5質量%以下であってもよく、0.5質量%以上、3質量%以下であってもよい。
【0020】
電解液は、更に、式(2):(F-SO3)mX2
で示されるフルオロスルホン酸塩を含んでもよい。ただし、X2はカチオンであり、mは1~3の整数である。フルオロスルホン酸塩は、電解液中で電離して、負電荷が非局在化したF-SO3
-イオンを生成するため、有機硫酸塩と同様に、高酸化状態の正極活物質の表面を保護し、高電位の正極と電解液との副反応を抑制するものと考えられる。ただし、フルオロスルホン酸塩単独では、正極活物質の表面を十分に保護することができず、正極抵抗の増大を抑制する効果は顕在化しない。一方、有機硫酸塩とフルオロスルホン酸塩とを併用すると、有機硫酸アニオンでは保護できない部分がフルオロスルホン酸アニオンで保護されるようになり、正極抵抗の増大がより顕著に抑制されるようになる。
【0021】
式(2)で示されるフルオロスルホン酸塩において、カチオンX2は、電解液中で電離し得る塩を形成するものであれば特に限定されない。カチオンX2の価数は1~3であればよいが、2価以下のカチオン(m=2)が好ましく、1価のカチオン(m=1)がより好ましい。例えば、カチオンX2として、アルカリ金属イオンまたはNH4
+を用い得る。中でも電離しやすく、電解液の粘度増大への影響が小さいことから、リチウムイオンが好ましい。フルオロスルホン酸塩は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
電解液に含まれるフルオロスルホン酸塩の含有量C2は、例えば0.5質量%以上、5質量%以下であってもよく、0.5質量%以上、3質量%以下であってもよい。
【0023】
電解液に含まれるフルオロスルホン酸塩の含有量C2と有機硫酸塩の含有量C1との質量比:C2/C1は、例えば0≦C2/C1≦3を満たしてもよく、0<C2/C1≦2を満たしてもよく、0.05≦C2/C1≦1.5を満たしてもよく、0.5≦C2/C1≦1.5を満たしてもよい。
【0024】
正極活物質は、例えば、層状岩塩型結晶構造を有し、リチウム以外の金属の80原子%以上がニッケルであるリチウム含有複合酸化物を含んでもよい。一般に、ニッケルを高含有量で含む正極活物質は高容量であるが、ニッケル含有量が大きくなるほど複合酸化物が劣化しやすく、電池の耐久性が低下しやすい。複合酸化物においてニッケルは3価または4価で存在して充放電に寄与するが、元素としての安定状態は2価である。2価になる反応は不可逆反応である。高酸化状態の複合酸化物に含まれる4価のニッケルは副反応により強く還元されて2価になりやすい。正極活物質の表面に酸化ニッケル(NiO)層が形成されると、正極の抵抗が上昇し、電池の耐久性が低下する。これに対し、電解液に有機硫酸塩が含まれる場合、4価のニッケルにR-O-SO4
-イオン(有機硫酸アニオン)が配位し、4価のニッケルを保護する。よって、有機硫酸塩による正極抵抗を低減する効果や、電池の耐久性を向上させる効果は、ニッケルを高含有量で含む正極活物質を用いる場合に最も顕著になる。
【0025】
リチウム含有複合酸化物は、例えば、化学式LiaNixM1-xO2-δ(ただし、0<a≦1.2、0.8≦x<1、0≦δ≦0.05であり、Mは、Mn、Fe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo、Co、Al、Zn、W、SrおよびCaからなる群より選択された少なくとも1種を含む。)で表されるリチウム-ニッケル複合酸化物であってもよい。上記化学式におけるNi比率xは、0.85以上(0.85≦x)であってもよく、0.90以上(0.90≦x)であってもよい。
【0026】
リチウム-ニッケル複合酸化物において、Mは、Mn、Fe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo、Co、AlおよびZnからなる群より選択された少なくとも1種の元素と、W、SrおよびCaからなる群より選択された少なくとも1種の元素とを含んでもよい。W、SrおよびCaの少なくとも1つが複合酸化物に含まれていることで、複合酸化物の表面構造が安定化し、正極活物質の劣化をより効果的に抑制できるようになる。複合酸化物内において、W、SrおよびCaは、正極活物質である複合酸化物の表面近傍に偏在していると効果的である。
【0027】
次に、本開示の実施形態に係る非水電解液二次電池について詳述する。
【0028】
[正極]
正極は、正極集電体と、正極集電体の表面に形成され、かつ正極活物質を含む正極合剤層とを具備する。正極合剤層は、正極活物質を必須成分として含み、結着剤、増粘剤、導電剤等を任意成分として含む正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極活物質、結着剤、増粘剤、導電剤等としては、公知の材料を利用できる。
【0029】
正極活物質として用いられるリチウム含有複合酸化物は、例えば、複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子である。一次粒子の粒径は、一般的に0.05μm~1μmである。複合酸化物の平均粒径は、例えば3μm~30μm、好ましくは5μm~25μmである。ここで、複合酸化物の平均粒径は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が50%となるメジアン径(D50)を意味し、レーザー回折式の粒度分布測定装置により測定される。
【0030】
複合酸化物を構成する元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)、あるいはエネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により測定することができる。
【0031】
正極集電体としては、無孔の導電性基板(金属箔など)、多孔性の導電性基板(メッシュ体、ネット体、パンチングシートなど)が使用される。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどが例示できる。
【0032】
[負極]
負極は、例えば、負極集電体と、負極集電体の表面に形成された負極活物質層とを具備する。負極活物質層は、例えば、負極活物質を必須成分として含み、結着剤、増粘剤、導電剤等を任意成分として含む負極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。つまり、負極活物質は、合剤層であってもよい。また、リチウム金属箔あるいはリチウム合金箔を負極集電体に貼り付けてもよい。負極活物質、結着剤、導電剤、増粘剤としては、公知の材料を利用できる。
【0033】
負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する材料、リチウム金属、リチウム合金などを含む。電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する材料としては、炭素材料、合金系材料などが用いられる。炭素材料としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)などが例示できる。合金系材料としては、ケイ素、スズ、ケイ素合金、スズ合金、ケイ素化合物などが挙げられる。
【0034】
負極集電体としては、無孔の導電性基板(金属箔など)、多孔性の導電性基板(メッシュ体、ネット体、パンチングシートなど)が使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金などが例示できる。
【0035】
[電解液]
電解液は、溶媒と、溶媒に溶解した溶質とを含む。溶質は、電解液中でイオン解離する電解質塩である。溶質には、有機硫酸塩およびフルオロスルホン酸塩が含まれるが、有機硫酸塩およびフルオロスルホン酸塩は、通常、添加剤として扱われる。溶質の主成分はリチウム塩である。
【0036】
溶媒としては、公知の材料を利用できる。溶媒として、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステルなどが用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)等の非水溶媒が挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
溶媒は、ECとFECを必須成分として含む。溶媒全体に占めるECとFECとの合計体積は、10体積%以上、30体積%以下が好ましく、15体積%以上、25体積%以下がより好ましい。また、ECおよびFECと併用する溶媒としては、電解液の粘度を適正化しやすい点で、鎖状炭酸エステルが好ましい。溶媒全体に占めるECとFECと鎖状炭酸エステルとの合計体積は、80体積%以上が好ましく、100体積%でもよい。
【0038】
有機硫酸塩およびフルオロスルホン酸塩以外のリチウム塩としては、例えば、塩素含有酸のリチウム塩(LiClO4、LiAlCl4、LiB10Cl10など)、フッ素含有酸のリチウム塩(LiPF6、LiPF2O2、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2など)、フッ素含有酸イミドのリチウム塩(LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiN(C2F5SO2)2など)、リチウムハライド(LiCl、LiBr、LiIなど)などが使用できる。リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
電解液におけるリチウム塩(有機硫酸塩およびフルオロスルホン酸塩以外)の濃度は、1mol/リットル以上2mol/リットル以下であってもよく、1mol/リットル以上1.5mol/リットル以下であってもよい。リチウム塩濃度を上記範囲に制御することで、イオン伝導性に優れ、適度の粘性を有する電解液を得ることができる。ただし、リチウム塩濃度は上記に限定されない。
【0040】
電解液は、他の公知の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、ビニレンカーボネート、1,3-プロパンサルトン、メチルベンゼンスルホネート、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、フルオロベンゼンなどが挙げられる。
【0041】
電解液中の各成分の含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー‐質量分析法(GC-MS)、NMR、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、および元素分析などを用いて求められる。
【0042】
[セパレータ]
正極と負極との間には、セパレータが介在している。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布などを用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0043】
非水電解液二次電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群が非水電解質と共に外装体に収容された構造が挙げられる。ただし、これに限られず、他の形態の電極群が適用されてもよい。例えば、正極と負極とがセパレータを介して積層された積層型の電極群でもよい。非水電解液二次電池の形態も限定されず、例えば、円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型などであればよい。
【0044】
図1は、本開示の一実施形態に係る角形の非水電解液二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。電池は、有底角形の電池ケース4と、電池ケース4内に収容された電極群1および非水電解質とを備えている。電極群1は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在するセパレータとを有する。負極の負極集電体は、負極リード3を介して、封口板5に設けられた負極端子6に電気的に接続されている。負極端子6は、樹脂製ガスケット7により封口板5から絶縁されている。正極の正極集電体は、正極リード2を介して、封口板5の裏面に電気的に接続されている。すなわち、正極は、正極端子を兼ねる電池ケース4に電気的に接続されている。封口板5の周縁は、電池ケース4の開口端部に嵌合し、嵌合部はレーザー溶接されている。封口板5には非水電解質の注入孔があり、注液後に封栓8により塞がれる。
【0045】
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1~3>
[負極の作製]
SiOと、黒鉛と、を5:95の質量比で混合し、負極活物質として用いた。負極活物質と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)と、水とを所定の質量比で混合し、負極スラリーを調製した。次に、負極集電体である銅箔の表面に負極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に負極合剤層を形成した。
【0047】
[正極の作製]
リチウム含有複合酸化物として、層状構造を有する岩塩型のリチウム含有遷移金属酸化物であるLiNi0.8Co0.18Al0.02O2(NCA:正極活物質)と、アセチレンブラック(AB:導電材)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF:結着材)とを、NCA:AB:PVdF=95:2.5:2.5の質量比で混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて撹拌して、正極スラリーを調製した。正極集電体であるAl箔の両面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、Al箔の両面に正極合剤層を形成した。
【0048】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)を、(EC+FEC):EMC:DMC=20:10:70の体積比で含む混合溶媒に、リチウム塩としてLiPF6を加え、更に、エチル硫酸ナトリウム(NaES)を添加剤として加え、電解液を調製した。非水電解液におけるLiPF6の濃度は1.0mol/リットル、NaESの濃度は1質量%とした。
【0049】
混合溶媒に占めるECとFECとの合計体積を一定のままとして、ECの体積VecとFECの体積Vfecとの比:Vec/Vfecを表1に示すように変化させた。
【0050】
[二次電池の作製]
各電極にリードタブをそれぞれ取り付け、リードが最外周部に位置するように、セパレータを介して正極および負極を渦巻き状に巻回することにより電極群を作製した。アルミニウム箔をバリア層とするラミネートフィルム製の外装体内に電極群を挿入し、105℃で2時間真空乾燥した後、非水電解液を注入し、外装体の開口部を封止して、二次電池A1~A3を作製した。
【0051】
<実施例4~7>
電解液に、更に、フルオロスルホン酸リチウム(FSO3Li)を添加剤として加え、非水電解液におけるFSO3Liの濃度を1質量%とし、Vec/Vfec比を表1に示すように変化させたこと以外、実施例1~3と同様に二次電池A4~A7を作製した。
【0052】
<比較例1~5>
電解液に、NaESを添加せず、Vec/Vfec比を表1に示すように変化させたこと以外、実施例1~3と同様に二次電池B1~B5を作製した。
【0053】
<比較例6>
電解液に、NaESを添加せず、電解液におけるFSO3Liの濃度を1質量%としたこと以外、実施例3と同様に二次電池B6を作製した。
【0054】
<比較例7>
Vec/Vfec比を表1に示すように20としたこと以外、実施例1~3と同様に二次電池B7を作製した。
【0055】
[評価]
(容量維持率)
完成後の各電池について、25℃の環境に置き、0.3Itの電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの定電圧で電流が0.02Itになるまで定電圧充電した。その後、0.5Itの電流で電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行い、初期容量C0を求めた。充放電は25℃の環境で行った。
【0056】
充電と放電との間の休止期間は10分とし、25℃の環境で、上記充放電条件で充放電を200サイクル繰り返し、200サイクル目の放電容量C1を求めた。放電容量C1の初期容量C0に対する割合R1=C1/C0の百分率値を容量維持率として求めた。結果を表1に示す。
【0057】
(急速充電指標(反応抵抗成分))
25℃環境下で、100%の充電状態(SOC100%)における電池の反応抵抗を交流インピーダンス測定により求めた。
【0058】
【0059】
表1において、NaESを含まない電池B1~B6では、Vec/Vfec比を変化させても、R1値(79.8~81(振れ幅1.2))がほとんど変化していない。Vec/Vfec比が小さくなると(つまりFECの割合が増加すると)、僅かに改善が見られる程度である。一方、NaESを含む電池B7、A1~A3では、Vec/Vfec比が小さくなると、R1値は79.9から84.1まで改善している(振れ幅4.2)。また、フルオロスルホン酸リチウムを併用した電池A4~A7では、R1値は85.0まで更に大きく改善している。
【0060】
表1において、電池B1~B7を対比すると、NaESを含む電池B7では、急速充電指標が1.00であり、NaESを含まない電池B1~B6に比べて大きく改善している。また、NaESを含まない電池B1~B6では、Vec/Vfec比を変化させても、急速充電指標にほとんど変化がないことが理解できる。一方、NaESを含む電池A1~A3を見ると、急速充電指標は、電池B7と同程度を維持している。つまり、電池A1~A3では、電池B7と同様に正極抵抗を低減しつつ、電池の耐久性が向上している。また、電池A4~A7では、正極抵抗が更に低減しているにもかかわらず、電池の耐久性は更に向上している。
【0061】
なお、電池B5、B6を対比すると、フルオロスルホン酸リチウム(FSO3Li)を単独で添加剤として加えてもR1値および急速充電指標にほとんど影響がないことがわかる。一方、電池A3、A7を対比すると、NaESとフルオロスルホン酸リチウムを併用することで、R1値が顕著に増加し、急速充電指標が顕著に改善している。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本開示に係る非水電解液二次電池は、高速充電性能と耐久性が要求される用途、例えば、移動体通信機器、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド自動車などの主電源に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 電極群
2 正極リード
3 負極リード
4 電池ケース
5 封口板
6 負極端子
7 ガスケット
8 封栓