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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-14
(45)【発行日】2025-11-25
(54)【発明の名称】人工耳介および人工軟骨組織の骨格構造
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/18 20060101AFI20251117BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20251117BHJP
【FI】
A61F2/18
A61L27/38 112
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021100818
(22)【出願日】2021-06-17
(65)【公開番号】P2023000160
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 典孝
(72)【発明者】
【氏名】寺村 岳士
(72)【発明者】
【氏名】増谷 一成
(72)【発明者】
【氏名】三田地 博史
(72)【発明者】
【氏名】四ッ柳 高敏
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/167381(WO,A1)
【文献】特許第5320526(JP,B1)
【文献】特開2017-221298(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0188090(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101366674(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104490491(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104224440(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109620472(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/18
A61L 27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料を用いた繊維構造体で形成された平面形状の基部と、
前記基部の表面に配置された耳輪部と、対耳輪部を有し、
前記耳輪部と前記対耳輪部とはそれぞれ繊維構造体で形成された三次元繊維構造を有る人工耳介の骨格構造。
【請求項2】
前記基部は、生体吸収性材料を用いた繊維構造体で形成された二次元弾性構造を有する平面部材である請求項1に記載された人工耳介の骨格構造。
【請求項3】
前記耳輪部と前記対耳輪部は生体吸収性材料からなる請求項1または2の何れかの請求項に記載された人工耳介の骨格構造。
【請求項4】
前記耳輪部と前記対耳輪部は、前記基部に溶着され請求項1乃至3の何れか一の請求項に記載された人工耳介の骨格構造。
【請求項5】
記基部の裏面に配置されたC軟骨部を有する請求項1乃至4の何れか一の請求項に記載された人工耳介の骨格構造。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一の請求項に記載された人工耳介の骨格構造と、
前記骨格構造を覆う生体吸収性不織布を有し
前記生体吸収性不織布上には、前記生体吸収性不織布において、培養された軟骨細胞が配された人工耳介。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は失われた耳介を再建する際に利用する人工耳介の骨格構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
形成外科において、複雑な三次元構造をもつ鼻や外耳の軟骨組織の再建は、大きな課題の1つと言われている。特に耳は最も複雑な構造をもつ軟骨組織である。耳介の再建は、先天性の奇形、小耳症、黒色腫に関連する組織の犠牲および事故および重度の火傷を含む傷害の際に必要とされる。
【0003】
耳介再建で通常用いられるのは、Tanzerによる方法である。これは、患者の第6、第7および第8の肋骨から採取された肋軟骨で耳介のフレーム(外形)を作製し、側頭部の皮下に埋め込む。そして数か月後に移植した耳介フレームと皮膚を立たせて耳介後面と側頭部に植皮を行うものである。
【0004】
しかしこの方法は、侵襲性が高く、患者の負担は大きい。そこで、細胞を生体外で一定期間培養し、その後に生体内に移植するインプラント型再生治療法が開発されている。この方法では、生体内に移植する際に、培養した細胞が安定した組織形状を維持できないと、その後の組織再生が期待できない。
【0005】
そこで、足場材としてプラスチック(ポリエチレン)製の人工耳介の移植が行われた。しかし、プラスチックは生体親和性が低く異物反応による炎症惹起、突出など臨床的課題も散見される。
【0006】
この問題の対応として、移植する細胞の足場材として生体吸収材で構成された人工耳介が提案されている。特許文献1では、ヒドロキシアパタイト/コンドロイチン硫酸-コラーゲン複合体あるいはヒドロキシアパタイト-コラーゲン複合体を細胞足場材として用い、人工耳介を形成する点が開示されている。この材料は、多孔質性担体であり、弾性力と機械的強度を有しているとされている。
【0007】
弾力性や機械的強度を調整する方法として、複合材料を用いるという手法が考えられる。特許文献2では皮膚シミュレーション層(201)、ヒドロゲル層(202)、ヒドロゲルマイクロカプセル層(203)と骨格シミュレーション層(204)といった複数の要素に、人工耳介に必要とされる役割を分担し、それを合わせることで、生体の耳介に似せたものを得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-262号公報
【文献】中国特許出願公開第104490491号明細書
【文献】国際公開第2013/081103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2の人工耳介では、骨格に相当する部分が網目を有する平面構造体で形成されているので、ひねり方向にはある程度の柔軟性を有するものの、面内方向からの力に対しては、応力を有しており、柔軟性を得るのは容易ではない。また、対耳輪部を有さないので、人が耳と認識しにくいという課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、外観が自己耳介に酷似し、なおかつ強度としなやかさを有する人工耳介の骨格構造を提供するものである。
【0011】
より具体的に本発明に係る人工耳介の骨格構造は、
生体吸収性材料を用いた繊維構造体で形成された平面形状の基部と、
前記基部の表面に配置された耳輪部と、対耳輪部を有し、
前記耳輪部と前記対耳輪部とはそれぞれ繊維構造体で形成された三次元繊維構造を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る人工軟骨組織の骨格構造は、
生体吸収性材料を用いた繊維構造体を波状に形成した第1の層と、前記第1の層に密着させ、前記第1の層と位相をずらし波状にした第2の層を積層される波状に形成した2層が繰り返されたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る人工軟骨組織の骨格構造は、生体吸収性材料を用いた繊維構造体を縦に並べた層と、横に並べた層を交互に重ねて形成されたことを特徴とするものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る人工耳介の骨格構造は、生体吸収性材料を用いた繊維構造体で、基部と耳輪部と対耳輪部を形成しているので、繊維間空間が多い構造体として、これらの部材を得ることができる。したがって、これらの部材を接合すると、各部材は非常に柔軟になり、大きな変位でも破壊されず、元の形状に復元することができる。
【0015】
また、骨格構造としては、繊維間空間が多いので、細胞等が内部に侵入しやすいという効果を有する。
【0016】
また、基部は平面部材であるが、生体吸収性材料を用いた繊維構造体で形成されたメアンダー構造を付与することで、多くの方向からの力に対して変形し、かつ復元することができる。
【0017】
また、耳輪部および対耳輪部は、生体吸収性材料を用いた繊維構造体で形成された三次元繊維構造を有するので、硬度の高い生体吸収性材料(所謂プラスチック)であっても、全体として柔軟性を有し、なおかつ変形させても元の形状に復元することができる。
【0018】
また、三次元繊維構造は、同一層内で折り曲げた繊維状間の距離を調整することで、全体の硬さを調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る人工耳介の骨格構造の組立図である。
図2】骨格構造の平面図である。
図3】骨格構造の視点違いの図である。
図4】二次元弾性構造の拡大図である。
図5】組合せメアンダー構造を示す図である。
図6】二次元弾性構造の他の形態を例示する図である。
図7】三次元繊維構造(ラティス型)を説明する図である。
図8】三次元繊維構造(ラティス型)の端部の斜視図である。
図9】三次元繊維構造の他の構成(編み重ね型)を示す図である。
図10】ラティス型の基本構造を示す図である。
図11】編み重ね型の基本構造を示す図である。
図12】C軟骨部を含めた骨格構造を複数の視点から見た図である。
図13】力学的変形試験を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明に係る人工耳介の骨格構造について図面を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0021】
図1に本発明に係る人工耳介の骨格構造1(以下単に「骨格構造1」と呼ぶ。)の組立図を示す。骨格構造1は、耳輪部30と、対耳輪部20と、基部10で構成される。さらにC軟骨部40を含めてもよい。耳輪部30と対耳輪部20は平面状の基部10の表側に配置される。なお、基部10は特に表裏で構成上の違いはなく、説明のために「表」「裏」を用いる。C軟骨部40は後述するように傾斜面を持った部材であり、骨格構造1を平面に対して傾斜させる場合に用いられる。
【0022】
以後、耳輪部30が形成されている方を「上」とし、反対側を「下」とする。また、上記のように基部10に対して耳輪部30と対耳輪部20が載置されている側を「表」とし、反対側を「裏」と呼ぶ。
【0023】
図2には、基部10の表面に耳輪部30と対耳輪部20を載置した平面図を示す。また、図3には、骨格構造1を異なる視点から見た図を示す。図3(a)は平面図であり、図2と同じものである。図3(b)は骨格構造1を右側面表側から見た斜視図である。図3(c)は骨格構造1を下方からみた側面図である。図3(d)は、骨格構造1を上方裏面から見た斜視図である。図3(e)は、骨格構造1を下方表面から見た斜視図である。
【0024】
まず、図1から図3を参照し、基部10は、茄子状をした平面部材である。図3(c)では、裏面側がフラットになっていることが判る。図1を参照して、基部10の周囲には縁10aが設けられる。縁10aには、固定用貫通孔10bhが穿たれたブラケット10bが設けられていてもよい。縁10aの内部は後述する二次元弾性構造12で形成されている。
【0025】
図2を参照して、基部10の表面には、耳輪部30と対耳輪部20が接続される。耳輪部30は、外耳道に相当する領域32の上部の耳輪脚部30aから耳垂部25まで、基部10の縁10aに沿って形成されている。なお、耳輪脚部30aは、固定用貫通孔10bhを覆う位置まで延設されていてもよい。
【0026】
一方、対耳輪部20は、上端の対耳輪上脚部20aと対耳輪下脚部20bが基部10の上部中央付近で耳輪部30に接近して配置される。そして、下方に向かい、対珠部22を形成した後、耳垂部25を形成し、耳珠部24まで一体的に形成されている。耳輪部30および対耳輪部20は後述する三次元繊維構造50で形成されている。
【0027】
基部10、耳輪部30、対耳輪部20の位置関係より、舟状窩部14は基部10で覆われることになる。また、耳甲介部16は一部が基部10で覆われ、外耳道に相当する領域32から、耳垂部25にかけては、空間が開いている。
【0028】
<二次元弾性構造>
本発明において、「生体吸収性材料を用いた繊維構造体」とは、繊維の様に形成した生体吸収性材料をいう。例えば、ゲル状若しくは溶融した生体吸収性材料をノズルから細長く吐出されたものであってもよいし、粒状の生体吸収性材料を繊維の様に形成し、あとから一体化したもの、または板状の生体吸収性材料から不要部分を除去し、繊維でできたように見える様に形成したものであってもよい。また、「繊維の様に」とは、1本の繊維でなくてもよく、複数の繊維で構成された繊維であっても、「生体吸収性材料を用いた繊維構造体」と呼んでよい。なお、「生体吸収性材料を用いた繊維構造体」を「繊維状」とも呼ぶ。
【0029】
図4には、基部10の縁10aの内部を構成する二次元弾性構造12の拡大図を示す。二次元弾性構造12は、生体吸収性材料の繊維状60で構成された平面部材であって、単位構造12aを連続して連結することで、縦方向および横方向に弾性を有する構造である。構成する繊維状60は直径50μm~1mm程度であるのが好ましい。図4では、組合せメアンダー構造を例示する。
【0030】
図5を参照して、メアンダー構造は図5(a)に示すようなメアンダー模様と呼ばれる模様を積層して1mm~3mm程度の厚みを持たせ平面部材としたものである。メアンダー構造は、元々ギリシア雷文とも呼ばれる模様で、1本の線を折り曲げ、渦形状12zを作り、それを線の長さ方向に連続的に続けたものである。
【0031】
この模様は、長さ方向の線材を束ねて短くした構造とみることができる。したがって、縦方向にも横方向にも伸縮性を有する。特に長さ方向には大きな伸縮力を有し、メアンダー構造を縦に並べた縦方向(図5(a))や、横に並べた横方向(図5(b))の矢印方向には大きな伸縮力を有する。
【0032】
組合せメアンダー構造は、図5(a)の縦方向の単位模様12zaによる積層構造と図5(b)の横方向の単位模様12zbによる積層構造を組み合わせたものを基本単位構造12zc(図5(c))とし、これを並列し、つなぎ部12zdで連結したものである(図5(d))。これは図4の符号12aの部分に該当する。
【0033】
なお、二次元弾性構造12は、縦方向および横方向に繊維状60を二次元的にまとめて短くした部分を連続的に並べた構造であればよい。例えば、図5(e)のように縦方向の矩形繰り返し模様による構造と横方向の矩形繰り返し模様による構造を単位構造とし、これらをつなぎ部で連結して、平面構造を得てもよい(図5(f))。
【0034】
図6には、二次元弾性構造12の他の構成を例示する。図6(a)および図6(b)は、繊維状60を卍模様にした場合である。図6(a)では、点線で囲った部分が卍模様になっている。図6(b)は、図6(a)を繰り返した模様である。図6(c)および図6(d)は、卍模様を少し崩した模様である。また、図6(e)および図6(f)は、繊維状60の交点60a間を波形の繊維状60で連結した模様である。
【0035】
このように、繊維状60の交点60aと交点60aの間の繊維状60の長さが交点60a同士の最短距離よりも長く形成されることで二次元弾性構造を形成することができる。
【0036】
<三次元繊維構造>
三次元繊維構造50とは所望の形状の外周の一部と内部を通過するように生体吸収性材料の繊維状60を折り曲げて形成した層を積層して立体形状を形成した構造である。「編重ね構造」と呼んでもよい。積層方向に隣接する各層は、同一パターンでないようにすることで、繊維状60間に多くの隙間のある構造を得ることができる。なお繊維状60の太さは、直径50μm~1mm程度が好ましい。
【0037】
このような構造は、積層方向には高い強度を付与し、積層方向と直角な面内では弾性を付与することができる。また繊維状60間に多くの隙間があるので、軟骨組織が内部に浸透しやすいという利点もある。
【0038】
図7には、三次元繊維構造50の例を示す。図7(a)のような半ドーナツ状の底面形状を有し、この形状を立体的に(紙面裏から表側)に三次元繊維構造50を用いて立体構造とする場合を例示する。この時、図7(b)のように、外形の一部52と内部54を通過する繊維状60によって層を形成する。なお、図7(b)は1層目、図7(c)は2層目、図7(e)は3層目のパターンとする。
【0039】
この三次元繊維構造50は隣接する各層のパターンは異なるようにするのがよい。同じパターンであると、隙間を作りにくいからである。ここでは、1層目(図7(b))と3層目(図7(e))は、矩形の繰り返し構造だが、位相が異なる。すなわち、外周において、1層目で、繊維状60の無い部分52zに3層目は位相違いで、繊維状60が存在する(符号52y)。なお、内部54を通過する繊維状60は同じ位置で重なっていてもよい。
【0040】
また、三次元繊維構造50は、外形の外周だけ若しくは内部54だけのパターンの層が含まれていてもよい。図7(c)は、所望の形状(図7(a))の内部54だけを通過するパターンである。
【0041】
三次元繊維構造50を作製する方法は、基板上に生体吸収性材料の、繊維状60で図7(b)のパターンを形成する。次に図7(c)のパターンを第2層として積層する(図7(d))。次に図7(e)のパターンを図7(d)の上に形成する(図7(f))。
【0042】
三次元繊維構造50は、平面的にみると、縦横の、繊維状60によって格子50Lが形成されている。このような格子50Lは、10μm×10μm四方から1mm×1mm程度の大きさに設定するのが好ましい。細胞や細胞外気質が内部に入り込めるためである。
【0043】
図7(f)はこのようにして3層形成したものである。符号50aや50bの部分は、1層目と3層目で繊維状60が重なる部分である。
【0044】
図8には、このようなパターンを複数層積層した構造の斜視図を示す。ここでは1層目から8層目までのパターンが積層されている様子を示す。各層は丸字で示した。
【0045】
側面を見ると、4層目と8層目の間には6層目が挟まれるので、繊維状60がない部分52zが形成される。繊維状60がない部分52zの上下には、位相違いの繊維状60の部分52yが形成されている。
【0046】
このように、側面から見ると、繊維状60がない部分52zと位相違いの、繊維状60の部分52yが互い違いにできるので、多くの隙間が形成される。
【0047】
ここで、符号50cの部分は、各層が設計時から密接若しくは交差して積層される部分である。このような部分を「疑似柱部分50c」と呼ぶ。三次元繊維構造50は、このように、複数の層が密接して積層される疑似柱部分50cを有してもよい。交差部分では、積層方向で上側の層を形成する際に溶けた繊維状60が乗るために、溶けた繊維状60が冷えると上下の層は接着される。疑似柱部分50cでは、繊維状60が冷えて固まると、矢印方向(厚み方向)は、繊維状60の材料特性通りの圧縮応力を有する。すなわち、堅く、変形しにくい。
【0048】
一方、図7(f)に示すように、構造体全体としては、側面方向からの力Ftには弾力性を有することができる。すなわち、柔らかく、変形しやすく、復元しやすい。
【0049】
図9は、三次元繊維構造50の他の形態を示す。図9では、所望の形状の内部54を三角波の模様で形成した層を積層する場合を示す。なお、ここでは三角波を例示しているが、波形形状であれば、三角波以外の形状であってもよい。図9(b)は1層目であり図9(c)は2層目を表す。これらの各層は、所望の形状(図9(a))の外周の一部52と内部54を通る。
【0050】
外形の一部52はこの場合のように、点であってもよい。このような1層目と2層目を積層していくと、内部54において、1層目と2層目が交差する部分で疑似柱部分50cが形成される(図9(d))。したがって、このような形状でも積層方向には、繊維状60の材料特性通りの圧縮応力を有し、平面内のFtの方向や三次元繊維構造50の形成方向(長さ方向)FLの方向には弾性を有する。
【0051】
特に三角波の模様を積層する場合は、側面方向(矢印で示した。)の引っ張り圧縮を受ける部分がないので、図7のような矩形波を基本とするパターンと比較すると弾性が高くなる。したがって、耳輪部30に利用すると、耳介の外周が変形しやすく、より本物の耳介に近い感触を得ることができる。また、長さ方向FLへ伸縮もすることができる。これは、1層目と2層目の交差点が三次元繊維構造50の形成方向FLに順に並ぶためである。
【0052】
なお、三次元繊維構造50は、繊維状60間の距離を調節することで、平面内の弾性を低くすることもできる。つまり、変形しにくくなる。
【0053】
<三次元繊維構造(基本)>
より基本的には、三次元繊維構造50は、交差する矩形タイプ(「ラティス型56」と呼ぶ。)と位相違いの波形の重ね合わせタイプ(「編み重ね型58」と呼ぶ。)の2種を含む。図10には、ラティス型56の基本構造を示す。ラティス型56は、生体吸収性材料の、繊維状60で形成した上から下に形成される矩形波の層(図10(a))と左から右に形成される矩形波の層(図10(b))を重ね合わせることで構成される。
【0054】
ラティス型56の特徴は、縦方向と横方向のどちらにも、繊維状60の交差点60aがあるので、縦横どちらの方向にも変形しにくい。交差点60aでは、積層方向の上下の層が接続される(図10(c))。交差点60aが二次元的に存在するので、縦方向にも横方向にも剛性が高くなる。なお、上記2つの層を繰り返すことで、高さ方向に延設することができる。図7の構造は、ラティス型56の一例である。
【0055】
図11には、編み重ね型58の基本構造を示す。編み重ね型58(図11(c))は一方方向に延設された生体吸収性材料の、繊維状60で形成した波形形状の第1層(図11(a))の上に、位相違いの波形形状の第2層(図11(b))を重ねることで形成される。編み重ね型58は、上下の層の間の、繊維状60の交差点60aが、一次元的に存在するので、長さ方向Lやそれと直角方向Tへの弾力に優れることである。ここで一次元的とは、積層方向に隣接する層の、繊維状60同士の交差点60aが三次元繊維構造50の形成方向に沿って並んでいることをいう。
【0056】
また、編み重ね型58の基本構造は、ある交差点60aと交差点60aの間に、交差点60aを持たないループ部分60bを有すると言ってもよい。このような基本形状を有することで、交差点60a間が離れてもループ部分60bが変形することで、全体の変形に各部が追従することができる。図9は編み重ね型58の一例である。
【0057】
ラティス型56や編み重ね型58は、軟骨形成の基本骨格として非常に有用な形状と言える。なお、ラティス型56や編み重ね型58を形成する各層は、強度設計に基づき形状を変化させることができる。また、積層数が増えた場合、交差点(接続点)60aは多少ずれてもよい。ずらすことで、全体の弾力性や可撓性を調節することができるからである。さらに、図1に示すようにラティス型56の骨格構造1と編み重ね型58の骨格構造1を組み合わせた人工軟骨(又は「人工軟骨組織」と言ってもよい)の骨格構造とすることができる。
【0058】
以上のように二次元弾性構造12を有する基部10上に三次元繊維構造50を有する耳輪部30と対耳輪部20を接着した骨格構造1は、全体が弾性を有する。しかも大きな変形を受けても元の形状に復元することができる。すなわち、生体吸収性材料といういわばプラスチック樹脂材料を用いているにも関わらず、しなやかさを有する人工耳介の骨格構造1を得ることができる。ここでしなやかさとは、大きな変形を受けても破壊されず、元の形状に復元できることをいう。
【0059】
図12には、C軟骨部40を基部10の裏面に接着した状態を示す。C軟骨部40は、基部10を平面に対して角度をつける場合に利用される。図12(a)は平面図であり、図2と同じものである。図12(b)は骨格構造1を右側面表側から見た斜視図である。図12(c)は骨格構造1を下方からみた側面図である。C軟骨部40が基部10、耳輪部30、対耳輪部20を接合した骨格構造1に傾斜を与えているのがわかる。図12(d)は、骨格構造1を上方裏面から見た斜視図である。図12(e)は、骨格構造1を下方表面から見た斜視図である。
【0060】
なお、C軟骨部40も骨格構造1に含めてよい。C軟骨部40も三次元繊維構造50で形成されていてもよい。ただし、C軟骨部40は、頭骨と耳介の間に配置されるものなので、横方向への弾性は、基部10、耳輪部30、対耳輪部20ほど高くなくてもよい。
【0061】
<素材>
基部10、耳輪部30、対耳輪部20、C軟骨部40とも、ポリグリコリド、ポリラクチド(D、L、DL体)、ポリカプロラクトン、グリコール酸-ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコール酸-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体、ポリ(p-ジオキサノン)といった生体吸収性材料を、繊維状60としたもので形成されることができる。繊維状60は直径50μm~1mm程度が好ましい。
【0062】
これらの造形には、3Dプリンタが好適に利用できる。特にFDM方式(Fused Deposition Modeling/熱溶解積層方式)は、上記の材料が熱可塑性であるので、好適に利用できる。SLS方式(粉末積層型造形法)、SLA方式(光造形法)、DLP方式(デジタル・ライト・プロセッシング)およびその他の方式を排除するものではない。
【0063】
<人工耳介>
骨格構造1には、生体吸収性の不織布を巻き、軟骨細胞を播種し、培養する。培養後に患者の側頭部に埋植手術を行っていく。これらの工程は、公知の方法を利用することができる。例えば、特許文献3に記載された以下の材料および方法を好適に利用することができる。
【0064】
生体吸収性不織布の原料としては、ポリグリコリド、ポリラクチド(D、L、DL体)、ポリカプロラクトン、グリコール酸-ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコール酸-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体、ポリ(p-ジオキサノン)等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ポリグリコリド又はラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体が好ましく利用できる。
【0065】
また、生体吸収性不織布は、上記の材料を平均繊維径が0.90~20.00μmの糸状とし、不織布にしたものが好適に利用できる。
【0066】
このようにして不織布にしたもので骨格構造1を包む。生体吸収性不織布は、少なくとも骨格構造1の隙間を覆うようにすればよいが、全体を覆えば好適である。また、できるだけ、骨格構造1に密着するように包むのが好ましい。本発明に係る骨格構造1は、舟状窩部14が基部10で埋められており、生体吸収性不織布を好適に支持することができる。
【0067】
耳介軟骨細胞は、人や動物から得た耳介から、皮膚、結合組織、軟骨膜を除去したうえで、5mm×5mm程度の小片に細切した後、コラゲナーゼ処理することにより、耳介軟骨細胞を単離することができる。単離した耳介軟骨細胞は、そのまま利用してもよく、また、培養により増殖させた後に用いてもよい。
【0068】
耳介軟骨細胞を生体吸収性不織布上に播種する方法は特に限定されず、従来公知の播種方法を用いることができる。播種の際の播種の密度は特に限定されないが、好ましい下限は2.0×10cells/cm、好ましい上限は1.0×10cells/cmである。細胞播種密度が2.0×10cells/cm未満であると、充分な厚みと力学的強度とを有する耳介軟骨組織が形成されるまでに時間がかかることがあり、1.0×10cells/cmを超えて細胞を播種しても、それ以上の効果は認められない。細胞播種密度のより好ましい下限は5.0×10cells/cmである。
【0069】
培養を行う場合の培養液としては、例えば、MEM、DMEM等の一般的な培養液に、1~10重量%程度のウシ胎児血清を添加した血清添加培地を用いることができる。
【0070】
このようにして骨格構造1上に巻き付けられた生体吸収性不織布で軟骨細胞を培養された人工耳介は、生体内部に移植することで十分な強度と弾力性を有する耳介軟骨組織を再生することができる。
【実施例
【0071】
ポリカプロラクトン製の基部10上に、耳輪部30と対耳輪部20を熱融着で接着した骨格構造1を図13に示すように、厚み方向と、平面方向の力学的変形試験を行った。基部10は線幅250μm、線間隔500μm、厚み2mmで形成した。耳輪部30は直径300μmの繊維状60をピッチ約1mmの三角波形状(図9を基本)にした層を15層積み上げて形成した。また、対耳輪部20はピッチ2~10mmの方形波形状(図7を基本)にした層を25層積み上げて形成した。これらの部材は、熱溶着で接着し、図13(a)に示す形状の骨格構造1を作製した。
【0072】
図13(a)の横方向の力学的変形試験では、一般的に用いられる応力・ひずみ測定器を用い、変位10mmまでの変位を5サイクル繰り返す応力・ひずみ試験を行い、圧縮試験前後の寸法の割合より復元率を求めた。その結果、横方向は10mm変位させるのに約20N(およそ2kg重)の力で変位させることができ、復元率は99.6%であった。
【0073】
このことより、横方向には、約20N程度の力で破壊されることなく10mmの変形ができ、しかもほとんど完全に元の形状に戻る特性を示した。
【0074】
図13(b)の厚み方向の力学的変形試験は、図13(a)の場合と同様に応力・ひずみ測定器を用いて150Nの応力を5サイクル繰り返して与え、その復元率を調べた。その結果、厚み方向には150Nの応力で約1mm変位し、その復元率は98.8%であった。
【0075】
このことより厚み方向には約15kg重程度の力がかかっても破壊されることなく1mmほどの変位が可能で、しかも応力が解放されるとほとんど完全に元の形状に戻る特性を示した。
【0076】
人の頭部が約5kgであるので、側臥位で寝た際に頭部重量がそのままこの骨格構造1にかかっても、本発明に係る人工耳介の骨格構造1は破壊されることはなく、また元の形状に復元する。
【0077】
また、横方向からの力がかかっても、10mmという大きな変位をすることができ、その場合も元の形状に復元することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る人工耳介の骨格構造1は、失われた耳介再建を、インプラント型再生治療でする際の細胞足場材として、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 骨格構造
10 基部
10a 縁
10b ブラケット
10bh 固定用貫通孔
12 二次元弾性構造
12a 単位構造
12za 単位模様
12zb 単位模様
12zc 基本単位構造
12z 渦形状
14 舟状窩部
16 耳甲介部
20 対耳輪部
20a 対耳輪上脚部
20b 対耳輪下脚部
22 対珠部
24 耳珠部
25 耳垂部
30 耳輪部
30a 耳輪脚部
32 外耳道に相当する領域
40 C軟骨部
50 三次元繊維構造
50c 疑似柱部分
52 外形の一部
54 内部
56 ラティス型
58 編み重ね型
60 繊維状
60a 交差点
図1
図2
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図13