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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-17
(45)【発行日】2025-11-26
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20251118BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20251118BHJP
   C09B 23/10 20060101ALN20251118BHJP
   C09B 57/00 20060101ALN20251118BHJP
   C09B 53/02 20060101ALN20251118BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B5/28
C09B23/10
C09B57/00 X
C09B53/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022551923
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2021034011
(87)【国際公開番号】W WO2022065170
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020158813
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】長田 崇
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-066814(JP,A)
【文献】国際公開第2015/099060(WO,A1)
【文献】特開2019-200399(JP,A)
【文献】特開2019-012121(JP,A)
【文献】特開2018-180533(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054786(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0241185(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 5/28
C09B 23/10
C09B 57/00
C09B 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記基材は、ジクロロメタン中で380~425nmに最大吸収波長を有する色素(U)と、ジクロロメタン中で690~730nmに最大吸収波長を有する色素(A)と、樹脂とを含む樹脂膜を有し、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-8)をすべて満たす光学フィルタ。
(i-1)波長1000~1200nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T1000-1200(0deg)AVEが1.5%以下
(i-2)波長1000~1200nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における平均透過率T1000-1200(40deg)AVEが10%以下
(i-3)波長440~600nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T440-600(0deg)AVEが90%以上
(i-4)波長440~600nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における平均透過率T440-600(40deg)AVEが83%以上
(i-5)入射角0度において透過率が50%となる波長UV50(0deg)が、420~435nmの範囲にある
(i-6)波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が20%のときの波長をUV20(0deg)、透過率が40%のときの波長をUV40(0deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(0deg)とし、
波長350~450nmおよび入射角40度において、透過率が20%のときの波長をUV20(40deg)、透過率が40%のときの波長をUV40(40deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(40deg)としたとき、
UV20(0deg)とUV20(40deg)との差の絶対値が12nm以下、
UV40(0deg)とUV40(40deg)との差の絶対値が12nm以下、
UV50(0deg)とUV50(40deg)との差の絶対値が12nm以下
(i-7)波長640~700nmおよび入射角0度において、透過率が20%のときの波長をIR20(0deg)とし、
波長640~700nmおよび入射角40度において、透過率が20%のときの波長をIR20(40deg)としたとき、
IR20(0deg)とIR20(40deg)との差の絶対値が15nm以下
(i-8)入射角0度において透過率が20%となる波長IR20(0deg)が、640~700nmの範囲にある
【請求項2】
前記光学フィルタが下記分光特性(i-9)をさらに満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-9)波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が10%のときの波長をUV10(0deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(0deg)としたとき、
UV10(0deg)とUV50(0deg)との差の絶対値が15nm以下
【請求項3】
前記誘電体多層膜が下記分光特性(iv-1)~(iv-8)をすべて満たす、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
(iv-1)入射角0度において透過率が50%となる波長UV50(0deg)が、420~430nmの範囲にある
(iv-2)波長440~600nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T440-600(0deg)AVEが90%以上
(iv-3)波長440~600nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における最小透過率T440-600(0deg)MINが90%以上
(iv-4)波長440~600nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における平均透過率T440-600(40deg)AVEが90%以上
(iv-5)波長440~600nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における最小透過率T440-600(40deg)MINが80%以上
(iv-6)入射角0度において透過率が20%となる波長IR20(0deg)が、680~740nmの範囲にある
(iv-7)波長1000~1200nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T1000-1200(0deg)AVEが1.5%以下
(iv-8)波長1000~1200nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における平均透過率T1000-1200(40deg)AVEが10%以下
【請求項4】
前記樹脂膜が下記分光特性(iii-1)~(iii-6)をすべて満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(iii-1)波長400nmでの分光透過率曲線における内部透過率が2%以下
(iii-2)波長400~420nmでの分光透過率曲線における平均内部透過率T400-420AVEが5%以下
(iii-3)内部透過率が50%となる波長UV50が、415~440nmの範囲にある
(iii-4)波長400~430nmにおいて、内部透過率が10%のときの波長をUV10、内部透過率が50%のときの波長をUV50としたとき、
UV10とUV50との差の絶対値が15nm以下
(iii-5)波長440~550nmでの分光透過率曲線における平均内部透過率T440-550AVEが93%以上
(iii-6)内部透過率が20%となる波長IR20が、650~700nmの範囲にある
【請求項5】
前記樹脂膜が下記分光特性(iii-7)~(iii-8)をさらに満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(iii-7)波長350~390nmでの分光透過率曲線における平均内部透過率T350-390AVEが10%以下
(iii-8)波長400~430nmでの分光透過率曲線における平均内部透過率T400-430AVEが15%以下
【請求項6】
前記色素(U)が下記式(M)に示す化合物を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【化1】

式(M)における記号は以下のとおり。
は、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。
~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を表す。
Yは、RおよびRで置換されたメチレン基または酸素原子を表す。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を表す。
Xは、下記式(X1)~(X5)で表される2価基のいずれかを表す(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、R10~R19は、それぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。)。
【化2】
【請求項7】
前記色素(U)が、
前記式(M)における前記Yが前記RおよびRで置換されたメチレン基であり、前記Xが前記式(X1)で表される2価基である化合物を含む、請求項6に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記色素(U)が、
前記式(M)における前記Yが前記RおよびRで置換されたメチレン基であり、前記Xが前記式(X1)で表される2価基である化合物と、
前記式(M)における前記Yが酸素原子であり、前記Xが前記式(X1)で表される2価基である化合物と、を含む、請求項6に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
前記色素(U)が、
前記式(M)における前記Yが前記RおよびRで置換されたメチレン基であり、前記Xが前記式(X1)で表される2価基である化合物と、
前記式(M)における前記Yが酸素原子であり、前記Xが前記式(X1)で表される2価基である化合物と、
前記式(M)における前記Yが前記RおよびRで置換されたメチレン基であり、前記Xが前記式(X2)で表される2価基である化合物と、を含む、請求項6に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記色素(A)はスクアリリウム色素を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項11】
前記基材は、支持体と前記樹脂膜を含み、前記樹脂膜は前記支持体の少なくとも一方の主面に積層され、前記支持体はリン酸ガラスまたはフツリン酸ガラスを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項12】
前記樹脂は透明樹脂である、請求項1~11のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視波長領域の光を透過し、紫外波長領域と近赤外波長領域の光を遮断する光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた撮像装置には、色調を良好に再現し鮮明な画像を得るため、可視域の光(以下「可視光」ともいう)を透過し、紫外波長領域の光(以下「紫外光」ともいう)や近赤外波長領域の光(以下「近赤外光」ともいう)を遮断する光学フィルタが用いられる。
【0003】
このような光学フィルタは、例えば、透明基板の片面または両面に、屈折率が異なる誘電体薄膜を交互に積層(誘電体多層膜)し、光の干渉を利用して遮蔽したい光を反射する反射型のフィルタ等、様々な方式が挙げられる。
【0004】
ここで、人間の視感度は700nm程度までとされる一方、撮像装置に搭載されるイメージセンサの感度は1200nm程度までとされる。700nm以降の近赤外領域が遮光されないまま光がセンサに入ると、画像が人間の目を通して見るものと異なり、画像再現性の低下が懸念される。両者の感度範囲を近づけ色調を補正するために、近赤外光波長領域、特に1000~1200nmの波長領域の光を遮断する光学フィルタが求められている。
【0005】
また、誘電体多層膜を有する光学フィルタは、光の入射角により誘電体多層膜の光学膜厚が変化するために、入射角による分光透過率曲線の変化や、高入射角において高反射率を得るべき紫外光および近赤外光が高透過率化する光抜け、誘電体多層膜が反射した紫外光および近赤外光によるノイズが発生することが問題である。このようなフィルタを使用すると、固体撮像素子の分光感度が入射角の影響を受けるおそれがある。特に、近年のカメラモジュール低背化に伴い高入射角条件での使用が想定される。したがって、可視光の透過率に略影響を及ぼすことなく、入射角依存性なく紫外光および近赤外光を遮断する光学フィルタが求められていた。
【0006】
特許文献1には、波長1100~1200nmの領域における平均透過率が5%以下である光学フィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/043564号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の光学フィルタは、1100~1200nmの波長範囲に吸収帯を有する色素を添加することで当該範囲の低い透過率を達成しているが、かかる色素は可視域にも吸収帯を有するため、長波長領域だけでなく、可視域の透過率も低下してしまう。
【0009】
よって本発明は、可視光の高い透過性、1000~1200nmの波長領域の光の高い遮蔽性を有し、かつ高入射角における紫外光および近赤外光の遮蔽性の低下が抑制された光学フィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成を有する光学フィルタを提供する。
〔1〕基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記基材は、ジクロロメタン中で380~425nmに最大吸収波長を有する色素(U)と、ジクロロメタン中で690~730nmに最大吸収波長を有する色素(A)と、樹脂とを含む樹脂膜を有し、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-8)をすべて満たす光学フィルタ。
(i-1)波長1000~1200nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T1000-1200(0deg)AVEが1.5%以下
(i-2)波長1000~1200nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における平均透過率T1000-1200(40deg)AVEが10%以下
(i-3)波長440~600nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T440-600(0deg)AVEが90%以上
(i-4)波長440~600nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における平均透過率T440-600(40deg)AVEが83%以上
(i-5)入射角0度において透過率が50%となる波長UV50(0deg)が、420~435nmの範囲にある
(i-6)波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が20%のときの波長をUV20(0deg)、透過率が40%のときの波長をUV40(0deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(0deg)とし、
波長350~450nmおよび入射角40度において、透過率が20%のときの波長をUV20(40deg)、透過率が40%のときの波長をUV40(40deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(40deg)としたとき、
UV20(0deg)とUV20(40deg)との差の絶対値が12nm以下、
UV40(0deg)とUV40(40deg)との差の絶対値が12nm以下、
UV50(0deg)とUV50(40deg)との差の絶対値が12nm以下
(i-7)波長640~700nmおよび入射角0度において、透過率が20%のときの波長をIR20(0deg)とし、
波長640~700nmおよび入射角40度において、透過率が20%のときの波長をIR20(40deg)としたとき、
IR20(0deg)とIR20(40deg)との差の絶対値が15nm以下
(i-8)入射角0度において透過率が20%となる波長IR20(0deg)が、640~700nmの範囲にある
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可視光の高い透過性、1000~1200nmの波長領域の光の高い遮蔽性を有し、かつ高入射角における紫外光および近赤外光の遮蔽性の低下が抑制された光学フィルタが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図2図2は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
図3図3は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
図4図4は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
図5図5は例3-1の光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本明細書において、近赤外線吸収色素を「NIR色素」、紫外線吸収色素を「UV色素」と略記することもある。
本明細書において、式(I)で示される化合物を化合物(I)という。他の式で表される化合物も同様である。化合物(I)からなる色素を色素(I)ともいい、他の色素についても同様である。また、式(I)で表される基を基(I)とも記し、他の式で表される基も同様である。
【0014】
本明細書において、内部透過率とは、{実測透過率/(100-反射率)}×100の式で示される、実測透過率から界面反射の影響を引いて得られる透過率である。
本明細書において、基材の透過率、色素が樹脂に含有される場合を含む樹脂膜の透過率の分光は、「透過率」と記載されている場合も全て「内部透過率」である。一方、色素をジクロロメタン等の溶媒に溶解して測定される透過率、誘電体多層膜を有する光学フィルタの透過率は、実測透過率である。
【0015】
本明細書において、特定の波長域について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らない、すなわちその波長領域において最小透過率が90%以上であることをいう。同様に、特定の波長域について、透過率が例えば1%以下とは、その全波長領域において透過率が1%を超えない、すなわちその波長領域において最大透過率が1%以下であることをいう。内部透過率においても同様である。特定の波長域における平均透過率および平均内部透過率は、該波長域の1nm毎の透過率および内部透過率の相加平均である。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0016】
<光学フィルタ>
本発明の一実施形態の光学フィルタ(以下、「本フィルタ」ともいう)は、基材と、基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備え、後述する特定の分光特性を満たす光学フィルタである。ここで、基材は、ジクロロメタン中で380~425nmに最大吸収波長を有する色素(U)と、ジクロロメタン中で690~730nmに最大吸収波長を有する色素(A)と、樹脂とを含む樹脂膜を有する。色素(U)はUV色素であり、色素(A)はNIR色素である。基材が紫外線や近赤外線を吸収する色素を含有することで、誘電体多層膜の高入射角における分光特性の低下、例えば、紫外域や近赤外域における光抜けやノイズ等の発生を、基材の吸収特性により抑制することができる。各色素および樹脂については後述する。
【0017】
図面を用いて本フィルタの構成例について説明する。図1~4は、一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図1に示す光学フィルタ1Aは、基材10の一方の主面側に誘電体多層膜30を有する例である。なお、「基材の主面側に特定の層を有する」とは、基材の主面に接触して該層が備わる場合に限らず、基材と該層との間に、別の機能層が備わる場合も含む。
【0018】
図2に示す光学フィルタ1Bは、基材10の両方の主面側に誘電体多層膜30を有する例である。
【0019】
図3に示す光学フィルタ1Cは、基材10が、支持体11と、支持体11の一方の主面側に積層された樹脂膜12とを有する例である。光学フィルタ1Cはさらに、樹脂膜12の上と、支持体11の樹脂膜12が積層されていない主面側に、誘電体多層膜30をそれぞれ有する。
【0020】
図4に示す光学フィルタ1Dは、基材10が、支持体11と、支持体11の両方の主面側に積層された樹脂膜12とを有する例である。光学フィルタ1Dはさらに、それぞれの樹脂膜12の上に、誘電体多層膜30を有する。
【0021】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-1)~(i-8)を全て満たす。
(i-1)波長1000~1200nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T1000-1200(0deg)AVEが1.5%以下
(i-2)波長1000~1200nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における平均透過率T1000-1200(40deg)AVEが10%以下
(i-3)波長440~600nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T440-600(0deg)AVEが90%以上
(i-4)波長440~600nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における平均透過率T440-600(40deg)AVEが83%以上
(i-5)入射角0度において透過率が50%となる波長UV50(0deg)が、420~435nmの範囲にある
(i-6)波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が20%のときの波長をUV20(0deg)、透過率が40%のときの波長をUV40(0deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(0deg)とし、
波長350~450nmおよび入射角40度において、透過率が20%のときの波長をUV20(40deg)、透過率が40%のときの波長をUV40(40deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(40deg)としたとき、
UV20(0deg)とUV20(40deg)との差の絶対値が12nm以下、
UV40(0deg)とUV40(40deg)との差の絶対値が12nm以下、
UV50(0deg)とUV50(40deg)との差の絶対値が12nm以下
(i-7)波長640~700nmおよび入射角0度において、透過率が20%のときの波長をIR20(0deg)とし、
波長640~700nmおよび入射角40度において、透過率が20%のときの波長をIR20(40deg)としたとき、
IR20(0deg)とIR20(40deg)との差の絶対値が15nm以下
(i-8)入射角0度において透過率が20%となる波長IR20(0deg)が、640~700nmの範囲にある
【0022】
分光特性(i-1)~(i-8)を全て満たす本フィルタは、可視光の高い透過性、1000~1200nmの波長領域の光の高い遮蔽性を有し、かつ高入射角における紫外光および近赤外光の遮蔽性の低下が抑制された光学フィルタである。
【0023】
分光特性(i-1)を満たすことで、1000~1200nmにおける遮蔽性に優れることを意味する。T1000-1200(0deg)AVEは、好ましくは1%以下、より好ましくは0.7%以下である。
【0024】
分光特性(i-2)を満たすことで、高入射角においても1000~1200nmにおける遮蔽性に優れることを意味する。T1000-1200(40deg)AVEは、好ましくは8%以下、より好ましくは7%以下である。
【0025】
分光特性(i-3)を満たすことで、可視光域の透過性に優れることを意味する。T440-600(0deg)AVEは、好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上である。
【0026】
分光特性(i-4)を満たすことで、高入射角においても可視光域の透過性に優れることを意味する。T440-600(40deg)AVEは、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上である。
【0027】
分光特性(i-5)は、UVカット帯域が長波長よりにシフトすることを意味し、これにより1000~1200nm波長領域の遮蔽性が高められる。UV50(0deg)は、好ましくは420~430nmの範囲にある。
【0028】
分光特性(i-6)を満たすことで、波長350~450nmのUV吸収開始帯域前後において、高い入射角度でもシフトが少なく色再現性に優れることを意味する。分光特性(i-6)において、UV20(0deg)とUV20(40deg)との差の絶対値は、好ましくは10nm以下、より好ましくは9nm以下であり、UV40(0deg)とUV40(40deg)との差の絶対値は、好ましくは10nm以下、より好ましくは9nm以下であり、UV50(0deg)とUV50(40deg)との差の絶対値は、好ましくは8nm以下、より好ましくは7nm以下である。
【0029】
分光特性(i-7)を満たすことで、波長640~700nmのNIR吸収開始帯域前後において、高い入射角度でもシフトが少なく色再現性に優れることを意味する。分光特性(i-7)において、IR20(0deg)とIR20(40deg)との差の絶対値は、好ましくは13nm以下、より好ましくは12nm以下である。
【0030】
分光特性(i-8)を満たすことで、700nm以降の近赤外波長領域をカットでき、可視光領域を多く取り込めることを意味する。分光特性(i-8)において、IR20(0deg)は好ましくは650~680nmの範囲にある。
【0031】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-9)をさらに満たすことが好ましい。
(i-9)波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が10%のときの波長をUV10(0deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(0deg)としたとき、
UV10(0deg)とUV50(0deg)との差の絶対値が15nm以下
【0032】
分光特性(i-9)を満たすことで、波長350~450nmのUV吸収開始帯域において、分光透過曲線の傾きが急峻であることを意味する。分光特性(i-9)は、より好ましくは8nm以下、特に好ましくは7nm以下である。
【0033】
以下、基材および誘電体多層膜について説明する。本フィルタは、例えば、基材に紫外光および近赤外光に対する吸収能を持たせ、基材の吸収特性と誘電体多層膜の反射特性とにより、上記各分光特性(i-1)~(i-8)を満たすように設計される。
【0034】
<誘電体多層膜>
本フィルタにおいて、誘電体多層膜は、基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層される。
【0035】
本フィルタにおいて、誘電体多層膜は、下記分光特性(iv-1)~(iv-8)をすべて満たすことが好ましい。
(iv-1)入射角0度において透過率が50%となる波長UV50(0deg)が、420~430nmの範囲にある
(iv-2)波長440~600nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T440-600(0deg)AVEが90%以上
(iv-3)波長440~600nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における最小透過率T440-600(0deg)MINが90%以上
(iv-4)波長440~600nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における平均透過率T440-600(40deg)AVEが90%以上
(iv-5)波長440~600nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における最小透過率T440-600(40deg)MINが80%以上
(iv-6)入射角0度において透過率が20%となる波長IR20(0deg)が、680~740nmの範囲にある
(iv-7)波長1000~1200nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T1000-1200(0deg)AVEが1.5%以下
(iv-8)波長1000~1200nmおよび入射角40度での分光透過率曲線における平均透過率T1000-1200(40deg)AVEが10%以下
【0036】
分光特性(iv-1)を満たすことで、UVカット帯域の中心が420~430nmにあることを意味する。UV50(0deg)は、好ましくは420~427nmの範囲にある。
【0037】
分光特性(iv-2)を満たすことで、可視光域の透過性に優れることを意味する。T440-600(0deg)AVEは、好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上である。
【0038】
分光特性(iv-3)を満たすことで、可視光域の透過性に優れることを意味する。T440-600(0deg)MINは、好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上である。
【0039】
分光特性(iv-4)を満たすことで、高入射角においても可視光域の透過性に優れることを意味する。T440-600(40deg)AVEは、好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上である。
【0040】
分光特性(iv-5)を満たすことで、高入射角においても可視光域の透過性に優れることを意味する。T440-600(40deg)MINは、好ましくは82%以上、より好ましくは85%以上である。
【0041】
分光特性(iv-6)を満たすことで、700nm以降の近赤外波長領域を遮光しつつ、入射角依存性が小さい光学フィルタを作成できることを意味する。IR20(0deg)は、好ましくは660~700nmの範囲、より好ましくは660~690nmの範囲にある。
【0042】
分光特性(iv-7)を満たすことで、1000~1200nmの長波長領域において遮光性に優れることを意味する。T1000-1200(0deg)AVEは、好ましくは1.2%以下、より好ましくは1%以下である。
【0043】
分光特性(iv-8)を満たすことで、高入射角においても1000~1200nmの長波長領域において遮光性に優れることを意味する。T1000-1200(40deg)AVEは、好ましくは9%以下、より好ましくは8%以下である。
【0044】
誘電体多層膜の透過帯域は、多層膜の膜厚等を調整することで、遮光帯域全体を長波長側または短波長側にシフトさせることができる。本発明では、特性(iv-1)および特性(iv-6)に示すように多層膜の遮光帯域全体を長波長側にシフトさせることで、特性(iv-7)に示すように1000~1200nmの帯域を多層膜により遮光できる。これにより、上記分光特性(i-1)に示したように1000~1200nmの遮光性に優れた光学フィルタが得られる。
一方で、1000~1200nmを遮光するために遮光帯域全体を長波長側にシフトさせると、400~430nmの紫外光領域の斜入射シフトが生じやすい。かかる斜入射シフトは、後述するUV色素(U)の吸収特性によってカバーすることが好ましい。具体的には、後述する分光特性(ii-1)を満たすUV色素、すなわち波長400~430nmのUV吸収帯域において分光透過曲線の傾きが急峻なUV色素を樹脂膜に含有させることで、後述する分光特性(iii-4)を満たす樹脂膜、すなわち波長400~430nmのUV吸収帯域において分光透過曲線の傾きが急峻な樹脂膜が得られる。かかる樹脂膜と上記誘電体多層膜を組み合わせることで、上記分光特性(i-6)に示したように紫外光領域の斜入射シフトが抑制された光学フィルタが得られる。
【0045】
本フィルタにおいて、誘電体多層膜の少なくとも一方は近赤外線反射層(以下、NIR反射層とも記載する。)として設計されることが好ましい。誘電体多層膜の他方はNIR反射層、近赤外域以外の反射域を有する反射層、または反射防止層として設計されることが好ましい。
【0046】
NIR反射層は、近赤外域の光を遮蔽するように設計された誘電体多層膜である。NIR反射層としては、例えば、可視光を透過し、吸収層である樹脂膜の遮光域以外の近赤外域の光を主に反射する波長選択性を有する。なお、NIR反射層の反射領域は、樹脂膜の近赤外域における遮光領域を含んでもよい。NIR反射層は、NIR反射特性に限らず、近赤外域以外の波長域の光、例えば、近紫外域をさらに遮断する仕様に適宜設計してよい。
【0047】
NIR反射層は、例えば、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)と高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される。高屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6以上であり、より好ましくは2.2~2.5である。高屈折率膜の材料としては、例えばTa、TiO、Nbが挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiOが好ましい。
【0048】
一方、低屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6未満であり、より好ましくは1.45以上1.55未満である。低屈折率膜の材料としては、例えばSiO、SiO等が挙げられる。成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiOが好ましい。
【0049】
NIR反射層の遮光帯域を長波長側にシフトさせるためには、所望の波長帯域を透過、選択する際に数種類の分光特性の異なる誘電多層膜を組み合わせることが挙げられる。その際、多層膜を構成するシリカとチタニアの膜厚比を変えずに、膜厚を増加することで遮光帯域を長波長化させることができる。具体的にはシリカとチタニアの厚みを1~8%増加させて所望の遮光帯域に調整できる。
NIR反射層は、遮光帯域を長波長側にシフトさせ、1000~1200nmの領域を遮光するために、反射層を構成する誘電体多層膜の合計積層数が、好ましくは20層以上、より好ましくは30層以上、さらに好ましくは35層以上である。かかる積層数であれば、誘電体多層膜によって1000~1200nmの領域を遮光でき、また、透過域と遮光域の境界波長領域で透過率が急峻に変化できる点でも好ましい。ただし、合計積層数が多くなると、反り等が発生したり、膜厚が増加したりするため、合計積層数は100層以下が好ましく、75層以下がより好ましく、60層以下がより一層好ましい。
また、反射層の膜厚は、全体として2~10μmが好ましい。
【0050】
誘電体多層膜の合計積層数や膜厚が上記範囲内であれば、NIR反射層は小型化の要件を満たし、高い生産性を維持しながら入射角依存性を抑制できる。
【0051】
また、誘電体多層膜の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0052】
NIR反射層は、1層(1群の誘電体多層膜)で所定の光学特性を与えたり、2層で所定の光学特性を与えたりしてもよい。2層以上有する場合、各反射層は同じ構成でも異なる構成でもよい。反射層を2層以上有する場合、通常、反射帯域の異なる複数の反射層で構成される。2層の反射層を設ける場合、一方を、近赤外域のうち短波長帯の光を遮蔽する近赤外反射層とし、他方を、該近赤外域の長波長帯および近紫外域の両領域の光を遮蔽する近赤外・近紫外反射層としてもよい。
【0053】
反射防止層としては、誘電体多層膜や中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造などが挙げられる。中でも光学的効率、生産性の観点から誘電体多層膜が好ましい。反射防止層は、反射層と同様に誘電体多層膜を交互に積層して得られる。
【0054】
<基材>
本発明の光学フィルタにおいて、基材は、色素(U)と、後述の色素(A)および樹脂を含む樹脂膜を有する。
【0055】
<樹脂膜の分光特性>
樹脂膜は下記分光特性(iii-1)~(iii-6)をすべて満たすことが好ましい。
(iii-1)波長400nmでの分光透過率曲線における内部透過率が2%以下
(iii-2)波長400~420nmでの分光透過率曲線における平均内部透過率T400-420AVEが5%以下
(iii-3)内部透過率が50%となる波長UV50が、415~440nmの範囲にある
(iii-4)波長400~430nmにおいて、内部透過率が10%のときの波長をUV10、内部透過率が50%のときの波長をUV50としたとき、
UV10とUV50との差の絶対値が15nm以下
(iii-5)波長440~550nmでの分光透過率曲線における平均内部透過率T440-550AVEが93%以上
(iii-6)内部透過率が20%となる波長IR20が、650~700nmの範囲にある
【0056】
分光特性(iii-1)を満たすことで、400nm付近の紫外光の遮光性に優れることを意味する。T400は、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1%以下である。
【0057】
分光特性(iii-2)を満たすことで、400~420nmの紫外光の遮光性に優れることを意味する。T400-420AVEは、好ましくは4.5%以下、より好ましくは4%以下である。
【0058】
分光特性(iii-3)を満たすことで、UVカット帯域の中心が415~440nmにあることを意味する。UV50は、好ましくは420~435nmの範囲にある。
【0059】
分光特性(iii-4)を満たすことで、波長400~430nmのUV吸収開始帯域において、分光透過曲線の傾きが急峻であることを意味する。分光特性(iii-4)は、好ましくは14nm以下、より好ましくは13nm以下である。
【0060】
分光特性(iii-5)を満たすことで、可視光域の透過性に優れることを意味する。
440-550AVEは、好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上である。
【0061】
分光特性(iii-6)を満たすことで、700nm以降の領域を遮光しつつ、可視光を透過させる上記の誘電多層膜と組み合わせて斜入射シフトが小さい光学フィルタが得られることを意味する。分光特性(iii-6)において、IR20は好ましくは660~690nmの範囲にある。
【0062】
樹脂膜は、下記分光特性(iii-7)および(iii-8)をさらに満たすことが好ましい。
(iii-7)波長350~390nmでの分光透過率曲線における平均内部透過率T350-390AVEが10%以下
(iii-8)波長400~430nmでの分光透過率曲線における平均内部透過率T400-430AVEが15%以下
【0063】
分光特性(iii-7)および分光特性(iii-8)を満たすことで、紫外光を幅広く遮光できることを意味する。T350-390AVEは、好ましくは9%以下、より好ましくは8%以下である。T400-430AVEは、好ましくは14%以下、より好ましくは13%以下である。
【0064】
<UV色素>
色素(U)は、ジクロロメタン中で380~425nmに最大吸収波長を有するUV色素である。かかる色素を含有することで、紫外光を効果的にカットできる。
【0065】
色素(U)は、ジクロロメタン中で好ましくは385~420nm、より好ましくは390~420nmに最大吸収波長を有する。
【0066】
また、色素(U)は、下記分光特性(ii-1)を満たすことが好ましい。
(ii-1)波長400~430nmにおいて、ジクロロメタン中における透過率が10%のときの波長をUV10、透過率が50%のときの波長をUV50としたとき、
UV10とUV50との差の絶対値が好ましくは18nm以下、より好ましくは16nm以下
【0067】
分光特性(ii-1)を満たすことで、UV吸収開始帯域において、分光透過曲線の傾きが急峻であることを意味する。
【0068】
色素(U)としては、オキサゾール色素、メロシアニン色素、シアニン色素、ナフタルイミド色素、オキサジアゾール色素、オキサジン色素、オキサゾリジン色素、ナフタル酸色素、スチリル色素、アントラセン色素、環状カルボニル色素、トリアゾール色素等が挙げられる。この中でも、メロシアニン色素が特に好ましい。また、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
色素(U)としては、特に、下式(M)で示されるメロシアニン色素が好ましい。
【0070】
【化1】
【0071】
式(M)における記号は以下のとおり。
【0072】
は、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。
置換基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子が好ましい。上記アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1~6が好ましい。
【0073】
置換基を有しないRとして具体的には、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1~12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、および水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基が好ましい。
【0074】
が非置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1~6がより好ましい。
【0075】
が水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1~12のアルキル基である場合、炭素数3~6のシクロアルキル基を有する炭素数1~4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基が特に好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3-ブテニル基等をいう。
【0076】
好ましいRは、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基である。特に好ましいQは炭素数1~6のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0077】
~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を表す。アルキル基およびアルコキシ基の炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましい。
【0078】
およびRは、少なくとも一方が、アルキル基であることが好ましく、いずれもアルキル基であることがより好ましい。RおよびRがアルキル基でない場合は、水素原子がより好ましい。RおよびRは、いずれも炭素数1~6のアルキル基が特に好ましい。
【0079】
およびRは、少なくとも一方が、水素原子が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。RまたはRが水素原子でない場合は、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0080】
Yは、RおよびRで置換されたメチレン基または酸素原子を表す。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を表す。
【0081】
Xは、下記式(X1)~(X5)で表される2価基のいずれかを表す。
【0082】
【化2】
【0083】
およびRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、R10~R19は、それぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。
~R19の置換基としては、Rにおける置換基と同様の置換基が挙げられ、好ましい態様も同様である。R~R19が置換基を有しない炭化水素基である場合、置換基を有しないRと同様の態様が挙げられる。
【0084】
式(X1)において、RおよびRは異なる基であってもよいが、同一の基が好ましい。RおよびRが非置換のアルキル基である場合、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、炭素数は1~6がより好ましい。
【0085】
好ましいRおよびRは、いずれも、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基である。特に好ましいRおよびRは、いずれも、炭素数1~6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0086】
式(X2)において、R10とR11は、いずれも、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、それらは同一のアルキル基が特に好ましい。
【0087】
式(X3)において、R12およびR15は、いずれも水素原子であるか、置換基を有しない炭素数1~6のアルキル基が好ましい。同じ炭素原子に結合した2つの基であるR13とR14は、いずれも水素原子であるか、いずれも炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0088】
式(X4)における、同じ炭素原子に結合した2つの基R16とR17およびR18とR19は、いずれも水素原子であるか、いずれも炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0089】
化合物(M)としては、下記化合物(M1)、化合物(M2)、化合物(M3)が好ましい。
化合物(M1)は、式(M)におけるYがRおよびRで置換されたメチレン基を表し、Xが式(X1)で表される2価基を表す化合物である。
化合物(M2)は、式(M)におけるYが酸素原子を表し、Xが式(X1)で表される2価基を表す化合物である。
化合物(M3)は、式(M)におけるYがRおよびRで置換されたメチレン基を表し、Xが式(X2)で表される2価基を表す化合物である。
【0090】
色素(U)としては、最大吸収波長が420nm付近であり、かつ紫外光吸収帯付近の分光曲線が急峻な化合物(M1)を含むことが好ましい。
さらに、色素(U)としては、化合物(M1)および化合物(M2)を含むことがより好ましい。2種類のUV色素を組み合わせることで、400~420nmの平均透過率を低減できる。
またさらに、色素(U)としては、化合物(M1)、化合物(M2)および化合物(M3)を含むことが特に好ましい。3種類のUV色素を組み合わせることで、400~430nmすなわちより幅広い波長領域の平均透過率を低減できる。
【0091】
色素(U)として用いうる化合物(M1)の具体例としては、以下の表に示す化合物が挙げられる。
【0092】
【表1】
【0093】
色素(U)として用いうる化合物(M2)の具体例としては、以下の表に示す化合物が挙げられる。
【0094】
【表2】
【0095】
色素(U)として用いうる化合物(M3)の具体例としては、以下の表に示す化合物が挙げられる。
【0096】
【表3】
【0097】
化合物(M)としては、これらの中でも、樹脂や溶媒への溶解性、可視透過性、最大吸収波長、特には光学特性(ii-1)を満足できる等の点から、化合物M1-1~M1-4が好ましく、また、樹脂や溶媒への溶解性、可視透過性、最大吸収波長、合成が簡便な点から化合物M2-5~M2-8が好ましく、樹脂や溶媒への溶解性、可視透過性、最大吸収波長の観点から化合物M3-5~M3-8が好ましい。
また、構造の異なる2種の化合物(M)を併用する場合、化合物M1-1~M1-4から選ばれる1種と化合物M2-5~M2-8から選ばれる1種との組み合わせが、400~430nmの吸収帯域を効率的に広げられる観点から好ましい。構造の異なる3種の化合物(M)を併用する場合、化合物M1-1~M1-4から選ばれる1種と、化合物M2-5~M2-8から選ばれる1種と、化合物M3-5~M3-8から選ばれる1種との組み合わせが、400~430nmの吸収帯域と、短波長帯域である350~395nmの吸収帯域も効率的に広げられる観点から好ましい。
なお、化合物(M)は公知の方法で製造できる。
【0098】
樹脂膜におけるUV色素(U)の含有量は、樹脂100質量部に対し好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは1~10質量部である。かかる範囲であれば、樹脂特性の低下を招きにくい。
【0099】
<NIR色素>
本発明の光学フィルタにおいて、基材は、上記の色素(U)と、色素(A)とを含む。
色素(A)は、ジクロロメタン中で690~730nmに最大吸収波長を有するNIR色素である。かかる色素を含有することで、赤外光を効果的にカットすることができる。
【0100】
色素(A)としては、スクアリリウム色素、シアニン色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、ジチオール金属錯体色素、アゾ色素、ポリメチン色素、フタリド色素、ナフトキノン色素、アン卜ラキノン色素、インドフェノール色素、ピリリウム色素、チオピリリウム色素、クロコニウム色素、テ卜ラデヒドオコリン色素、卜リフェニルメタン色素、アミニウム色素およびジインモニウム色素からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
これらのNIR色素のうちでもスクアリリウム色素が分光上の観点から好ましい。
【0101】
スクアリリウム色素としては、下記式(I)に示す化合物が好ましい。
【0102】
【化3】
【0103】
ただし、式(I)中の記号は以下のとおりである。
24およびR26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、-NR2728(R27およびR28は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、-C(=O)-R29(R29は、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数6~11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有してもよい炭素数7~18のアルアリール基)、-NHR30、または、-SO-R30(R30は、それぞれ1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)を示す。)、または、下記式(S)で示される基(R41、R42は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。kは2または3である。)を示す。
【0104】
【化4】
【0105】
21とR22、R22とR25、およびR21とR23は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成してもよい。
【0106】
複素環Aが形成される場合のR21とR22は、これらが結合した2価の基-Q-として、水素原子が炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
【0107】
複素環Bが形成される場合のR22とR25、および複素環Cが形成される場合のR21とR23は、これらが結合したそれぞれ2価の基-X-Y-および-X-Y-(窒素に結合する側がXおよびX)として、XおよびXがそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、YおよびYがそれぞれ下記式(1y)~(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。XおよびXが、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、YおよびYはそれぞれ単結合であってもよく、その場合、
炭素原子間に酸素原子を有してもよい。
【0108】
【化5】
【0109】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または-NR3839(R38およびR39は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す)を示す。R31~R36はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を、R37は炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。
【0110】
27、R28、R29、R31~R37、複素環を形成していない場合のR21~R23、およびR25は、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R31とR36、R31とR37は直接結合してもよい。
【0111】
複素環を形成していない場合の、R21およびR22は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基もしくはアリル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。複素環を形成していない場合の、R23およびR25は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【0112】
化合物(I)としては、例えば、可視光透過率を高くできる観点から式(I-1)で示される化合物が好ましい。
【0113】
【化6】
【0114】
式(I-1)中の記号は、式(I)における同記号の各規定と同じであり、好ましい態様も同様である。
【0115】
化合物(I-1)において、Xとしては、基(2x)が好ましく、Yとしては、単結合または基(1y)が好ましい。この場合、R31~R36としては、水素原子または炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。なお、-Y-X-として、具体的には、式(11-1)~(12-3)で示される2価の有機基が挙げられる。
【0116】
-C(CH-CH(CH)- …(11-1)
-C(CH-CH- …(11-2)
-C(CH-CH(C)- …(11-3)
-C(CH-C(CH)(nC)- …(11-4)
-C(CH-CH-CH- …(12-1)
-C(CH-CH-CH(CH)- …(12-2)
-C(CH-CH(CH)-CH- …(12-3)
【0117】
また、化合物(I-1)において、R21は、溶解性、耐熱性、さらに分光透過率曲線における可視域と近赤外域の境界付近の変化の急峻性の観点から、独立して、式(4-1)または式(4-2)で示される基がより好ましい。
【0118】
【化7】
【0119】
式(4-1)および式(4-2)中、R71~R75は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0120】
化合物(I-1)において、R24は可視光の透過率、特に波長430~550nmの光の透過率を高める観点から、-NH-SO-R30が好ましい。
化合物(I-1)において、R24が-NH-SO-R30の化合物を式(I-12)に示す。
【0121】
【化8】
【0122】
化合物(I-12)におけるR23およびR26は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。
【0123】
化合物(I-12)において、R30は耐光性の点から、独立して、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルコキシ基、または不飽和の環構造を有する炭素数6~16の炭化水素基が好ましい。不飽和の環構造としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、フラン、ベンゾフラン等が挙げられる。R30は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基もしくは分岐を有してもよい炭素数1~12のアルコキシ基がより好ましい。なお、R30を示す各基において、水素原子の一部または全部がハロゲン原子、特にはフッ素原子に置換されていてもよい。
【0124】
化合物(I)は、例えば米国特許第5,543,086号明細書、米国特許出願公開第2014/0061505号明細書、国際公開第2014/088063号に記載された公知の方法で製造できる。
【0125】
樹脂膜におけるNIR色素(A)の含有量は、樹脂100質量部に対し好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは1~10質量部である。
【0126】
<基材構成>
本フィルタにおける基材は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。また基材の材質としては400~700nmの可視光を透過する透明性材料であれば有機材料でも無機材料でもよく、特に制限されない。
基材が単層構造の場合、樹脂とUV色素(U)とNIR色素(A)とを含む樹脂膜からなる樹脂基材が好ましい。
基材が複層構造の場合、支持体の少なくとも一方の主面にUV色素(U)とNIR色素(A)を含有する樹脂膜を積層した複合基材が好ましい。このとき支持体は透明樹脂または透明性無機材料からなることが好ましい。
【0127】
樹脂としては、透明樹脂であれば制限されず、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、およびポリスチレン樹脂等から選ばれる1種以上の透明樹脂が用いられる。これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
樹脂膜の分光特性やガラス転移点(Tg)、密着性の観点から、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂から選ばれる1種以上の樹脂が好ましい。
【0128】
UV色素(U)とNIR色素(A)は同一の樹脂膜に含まれてもよく、また、それぞれ別の樹脂膜に含まれてもよい。
【0129】
透明性無機材料としては、ガラスや結晶材料が好ましい。
支持体に使用できるガラスとしては、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等に銅イオンを含む吸収型のガラス(近赤外線吸収ガラス)、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。
ガラスとしては、赤外光(特に1000~1200nm)を吸収できる観点から、リン酸塩系ガラス、フツリン酸塩系ガラスが好ましい。なお、「リン酸塩系ガラス」は、ガラスの骨格の一部がSiOで構成されるケイリン酸塩ガラスも含む。
【0130】
ガラスとしては、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換により、ガラス板主面に存在するイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリイオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオンである。)に交換して得られる化学強化ガラスを使用してもよい。
【0131】
支持体に使用できる結晶材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイア等の複屈折性結晶が挙げられる。
【0132】
支持体としては、光学特性、機械特性等の長期にわたる信頼性に係る形状安定性の観点、フィルタ製造時のハンドリング性等から、無機材料が好ましく、特にガラス、サファイアが好ましい。
【0133】
樹脂膜は、色素(U)および色素(A)と、樹脂または樹脂の原料成分と、必要に応じて配合される各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを支持体に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて形成できる。上記支持体は、本フィルタに含まれる支持体でもよいし、樹脂膜を形成する際にのみ使用する剥離性の支持体でもよい。また、溶媒は、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。
【0134】
また、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。さらに、塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、またはスピンコート法等を使用できる。上記塗工液を支持体上に塗工後、乾燥させることにより樹脂膜が形成される。また、塗工液が透明樹脂の原料成分を含有する場合、さらに熱硬化、光硬化等の硬化処理を行う。
【0135】
また、樹脂膜は、押出成形によりフィルム状に製造可能でもある。基材が、色素(U)および色素(A)を含む樹脂膜からなる単層構造(樹脂基材)である場合、樹脂膜をそのまま基材として用いることができる。基材が、支持体と、支持体の少なくとも一方の主面に積層した色素(U)および色素(A)を含む樹脂膜とを有する複層構造(複合基材)である場合、このフィルムを支持体に積層し熱圧着等により一体化させることにより基材を製造できる。
【0136】
樹脂膜は、光学フィルタの中に1層有してもよく、2層以上有してもよい。2層以上有する場合、各層は同じ構成であっても異なってもよい。
【0137】
樹脂膜の厚さは、基材が、色素(U)および色素(A)を含む樹脂膜からなる単層構造(樹脂基材)である場合、好ましくは50~150μmである。
基材が、支持体と、支持体の少なくとも一方の主面に積層した色素(A)を含有する樹脂膜とを有する複層構造(複合基材)である場合、樹脂膜の厚さは、好ましくは0.3~20μmである。
【0138】
基材の形状は特に限定されず、ブロック状、板状、フィルム状でもよい。
また基材の厚さは、誘電体多層膜成膜時の反り低減、光学素子低背化の観点から、300μm以下が好ましく、基材が樹脂膜からなる樹脂基材である場合、好ましくは50~300μmであり、基材が支持体と樹脂膜を備える複合基材である場合、好ましくは100~300μmである。
【0139】
本フィルタは、他の構成要素として、例えば、特定の波長域の光の透過と吸収を制御する無機微粒子等による吸収を与える構成要素(層)などを備えてもよい。無機微粒子の具体例としては、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタン等が挙げられる。ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域の広範囲に光吸収性を有するため、かかる赤外光の遮蔽性を必要とする場合に使用できる。
【0140】
本フィルタは、例えば、デジタルスチルカメラ等の撮像装置に使用した場合に、色再現性に優れる撮像装置を提供できる。本フィルタを用いた撮像装置は、固体撮像素子と、撮像レンズと、本フィルタとを備える。本フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置されたり、撮像装置の固体撮像素子、撮像レンズ等に粘着剤層を介して直接貼着されたりして使用できる。
【実施例
【0141】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
各光学特性の測定には、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、UH-4150形)を用いた。
なお、入射角度が特に明記されていない場合の分光特性は入射角0度(光学フィルタ主面に対し垂直方向)で測定した値である。
【0142】
各例で用いた色素は下記のとおりである。
なお、化合物1~17がUV色素であり、化合物18~19がNIR色素である。
化合物1(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物2:日本化学工業(株)製、Nikkafluor U1を用いた。
化合物3(シアニン化合物):林原化学製、SMP-416を用いた。
化合物4(シアニン化合物):林原化学製、SMP-370を用いた。
化合物5(シアニン化合物):林原化学製、SMP-471を用いた。
化合物6:日本化薬(株)製、Kayalight 408を用いた。
化合物7:日本化薬(株)製、Kayalight Bを用いた。
化合物8:日本化学工業(株)製、Nikkafluor MCTを用いた。
化合物9(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物10(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物11(ベンゾオキサゾール化合物):東京化成製、UVITEX OB
化合物12(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物13(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物14(アゾ化合物):日本国特許第6256335号公報を参考に合成した。
化合物15(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物16(トリアジン化合物):日本国特許第6256335号公報を参考に合成した。
化合物17(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物18:日本国特許第605169号公報を参考に合成した。
化合物19:日本国特許第4800769号公報を参考に合成した。
【0143】
【化9】
【0144】
【化10】
【0145】
【化11】
【0146】
<例1-1~例1-6:誘電体多層膜の分光特性>
ガラス基板(アルカリガラス、Schott製D263)に、TiO膜とSiO膜を蒸着により交互に積層させた42層の誘電体多層膜1~6を製造した。SiO膜の屈折率は1.47であり、TiO膜の屈折率は2.39である。また、SiO膜/TiO膜の厚み比率は0.9~1.1の範囲内とした。また、各多層膜の膜厚は下記表に示すとおりである。
入射角0度および40度の各分光特性を下記表に示す。
なお例1-1~1-6は参考例である。
【0147】
【表4】
【0148】
<UV色素のジクロロメタン中の分光特性>
各色素をそれぞれジクロロメタンに均一に溶解した。得られた各溶液について、分光光度計を用い、最大吸収波長、波長350~450nmにおいて透過率が50%のときの波長UV50、波長350~450nmにおいて透過率が10%のときの波長UV10と透過率が50%のときの波長UV50との差の絶対値(UV50-UV10)を測定した。
結果を下記表に示す。
【0149】
【表5】
【0150】
<例2-1:樹脂膜の分光特性>
ポリイミド樹脂(三菱ガス化学製C-3G30G)100質量部に対して、化合物1を2質量部、化合物12を3.3質量部、化合物18を4質量部の濃度で混合し、有機溶媒(γブチロラクトンとシクロヘキサノンの混合溶媒)を添加し、50℃に加熱しながら2時間攪拌した。色素含有樹脂溶液をガラス基板(アルカリガラス、Schott製D263)に塗布し、乾燥して膜厚2μmの樹脂膜1を得た。
【0151】
<例2-2~2-5>
色素の種類と含有量を下記表に示すものとした以外は例2-1と同様にして、樹脂膜2~5をそれぞれ得た。
【0152】
この樹脂膜付きガラス基板の分光透過率曲線と分光反射率曲線を用いて、分光内部透過率曲線を算出した。
下記表に分光特性を示す。
なお例2-1~2-5は参考例である。
【0153】
【表6】
【0154】
<光学フィルタの分光特性>
<例3-1>
ガラス基板(アルカリガラス、Schott製D263)に例1-4の多層膜4を成膜した。その上に例2-1の樹脂層1をスピンコートで作成した。その後、樹脂層1の上に7層のシリカ/チタニアからなる反射防止膜を成膜し、吸収タイプの赤外線カットフィルタを作成した。得られた赤外線カットフィルタについて、分光光度計で波長350nm~1200nmの波長範囲で0度、40度の入射方向における透過分光を測定した。結果を下記表に示す。また、分光透過率曲線を図5に示す。
【0155】
<例3-2~3-7、3-9~3-12>
多層膜と樹脂膜の種類を下記表に記載の組み合わせとした以外は例3-1と同様の方法で赤外線カットフィルタを作成し、透過分光を測定した。
結果を下記表に示す。
【0156】
<例3-8>
用いる支持体をアルカリガラス基板からフツリン酸ガラス基板(AGC社製 NF50T、板厚0.2mm)に変更した以外は例3-1と同様の方法で赤外線カットフィルタを作成し、透過分光を測定した。
結果を下記表に示す。
【0157】
例3-1~3-3、3-8、3-9が実施例であり、例3-4~3-7、3-10~3-12が比較例である。
UV20シフト量:UV20(0deg)とUV20(40deg)との差の絶対値
UV40シフト量:UV40(0deg)とUV40(40deg)との差の絶対値
UV50シフト量:UV50(0deg)とUV50(40deg)との差の絶対値
IR20シフト量:IR20(0deg)とIR20(40deg)との差の絶対値
【0158】
【表7】
【0159】
上記結果より、例3-1~3-3、3-8、3-9の光学フィルタは、近赤外光領域、特に1000~1200nmの領域が良好に遮光され、かつ、440~600nmの可視光領域の透過性に優れることが分かる。例3-8は、支持体であるガラス基板自体が吸収性を有するため、例3-1よりも1000~1200nmの領域がさらに遮光された。
一方、400~420nmにおける平均内部透過率が高い樹脂膜3を用いた例3-4の光学フィルタは、UV20シフト量が大きく斜入射特性が低い結果となった。
また、樹脂膜に含まれる色素の吸収能によって1000~1200nmの領域を遮光した例3-5および例3-7の光学フィルタは、440~600nmの可視光領域も吸収されてしまい透過性が低い結果となった。
さらに、UV50が420nmより小さい、すなわち遮光領域が長波長化しておらず、1000~1200nmの領域の遮光性が低い多層膜1、2または3を用いた例3-6、3-7、3-10~3-12の光学フィルタは、1000~1200nmの領域の遮光性が低い結果となった。
【0160】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2020年9月23日出願の日本特許出願(特願2020-158813)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の光学フィルタは、可視光の高い透過性、1000~1200nmの波長領域の光の高い遮蔽性を有し、かつ高入射角における紫外光および近赤外光の遮蔽性の低下が抑制された良好な近赤外光遮蔽特性を有する。近年、高性能化が進む、例えば、輸送機用のカメラやセンサ等の情報取得装置の用途に有用である。
【符号の説明】
【0162】
1A、1B、1C、1D…光学フィルタ、10…基材、11…支持体、12…樹脂膜、30…誘電体多層膜
図1
図2
図3
図4
図5