(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-17
(45)【発行日】2025-11-26
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20251118BHJP
C08G 69/00 20060101ALI20251118BHJP
C08G 69/02 20060101ALI20251118BHJP
C08G 69/40 20060101ALI20251118BHJP
【FI】
C08L77/00
C08G69/00
C08G69/02
C08G69/40
(21)【出願番号】P 2022555419
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2021036150
(87)【国際公開番号】W WO2022075180
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2024-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2020168497
(32)【優先日】2020-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】和田 秀作
(72)【発明者】
【氏名】鯵坂 詩菜
(72)【発明者】
【氏名】東山 耕士
【審査官】渡邉 勇磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/123450(WO,A1)
【文献】特開2004-352792(JP,A)
【文献】特開2000-248085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08G 69/00
C08G 69/02
C08G 69/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
ISO
1133に準拠して190℃、1.00kgの荷重で測定したMFRが15g/10分未満である請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミド系エラストマー(A)が、下記式(1)で表されるアミノカルボン酸化合物及び/又は下記式(2)で表されるラクタム化合物に由来する構成単位、下記式(3)で表されるXYX型トリブロックポリエーテルジアミン化合物に由来する構成単位、並びに下記式(4)で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位を含む重合体である請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【化1】
[但し、R
1は、炭化水素鎖を含む連結基を表す。]
【化2】
[但し、R
2は、炭化水素鎖を含む連結基を表す。]
【化3】
[但し、xは1~20の整数、yは4~50の整数、zは1~20の整数を表す。]
【化4】
[但し、R
3は、炭化水素鎖を含む連結基を表し、mは0または1である。]
【請求項8】
請求項7の磁性材樹脂複合材料の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂の柔軟性や耐衝撃性を改良する目的で、ポリアミド樹脂にポリアミド系エラストマーを配合したポリアミド樹脂組成物が報告されている(特許文献1参照)。
【0003】
このポリアミド系エラストマーを配合したポリアミド樹脂組成物に磁性粉末を混合して、プラスチックマグネットとして知られている磁性材樹脂複合材料とすることが報告されている(特許文献2参照)。
【0004】
磁性材樹脂複合材料は、OA機器、モーター、アクチュエーター、センサー等に幅広く使用されている。磁性材樹脂複合材料には、磁気特性に優れることが求められるが、そのためには、磁性粉末を多量に配合しても、磁性粉末が良好に分散することが求められる。
【0005】
さらには、上記幅広い用途に使用されるために、磁性材樹脂複合材料には、機械特性その他の物性が求められる。
磁性材樹脂複合材料の成形加工性と機械特性とを両立させるために、磁性粉末とポリアミド樹脂とエポキシ化合物とを含む磁性材樹脂複合材料が知られている(特許文献3参照)。
磁性材樹脂複合材料の耐熱性を向上させるために、磁性粉末と芳香族ポリアミド樹脂とを含む磁性材樹脂複合材料が知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-352789号公報
【文献】特開2004-352792号公報
【文献】特開2009-57524号公報
【文献】特開2003-342468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3の磁性材樹脂複合材料は、ポリアミド樹脂のアミノ基とエポキシ樹脂のエポキシ基との反応により、剛直で柔軟性に欠ける複合樹脂が生成する可能性があり、ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基と末端アミノ基との比を特定の範囲にする必要があった。
特許文献4の磁性材樹脂複合材料は、柔軟性に乏しかった。特許文献1のポリアミド樹脂組成物及び特許文献2の磁性材樹脂複合材料は、さらなる強靭さが求められた。
【0008】
本発明は、成形加工性が良好である上に、強靭で、柔軟性があり、耐衝撃性に優れる成形品を得ることのできるポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、例えば以下の[1]~[8]である。
[1]ポリアミド樹脂組成物100質量%中、ポリアミド系エラストマー(A)15~35質量%、アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族ポリアミド樹脂(B)40~79質量%、芳香族ポリアミド樹脂(C)0.1~35質量%及びアミド基1個に対する平均炭素原子数が6以下である脂肪族ポリアミド樹脂(D)0~10質量%を含むポリアミド樹脂組成物。
[2]ポリアミド系エラストマー(A)が、ポリエーテル構造を有する[1]のポリアミド樹脂組成物。
[3]密度が、1.02g/cm
3以上である[1]又は[2]のポリアミド樹脂組成物。
[4]ISO 1133に準拠して190℃、1.00kgの荷重で測定したMFRが15g/10分未満である[1]~[3]のいずれかのポリアミド樹脂組成物。
[5]ポリアミド系エラストマー(A)が、下記式(1)で表されるアミノカルボン酸化合物及び/又は下記式(2)で表されるラクタム化合物に由来する構成単位、下記式(3)で表されるXYX型トリブロックポリエーテルジアミン化合物に由来する構成単位、並びに下記式(4)で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位を含む重合体である[1]~[4]のいずれかのポリアミド樹脂組成物。
【化1】
[但し、R
1は、炭化水素鎖を含む連結基を表す。]
【化2】
[但し、R
2は、炭化水素鎖を含む連結基を表す。]
【化3】
[但し、xは1~20の整数、yは4~50の整数、zは1~20の整数を表す。]
【化4】
[但し、R
3は、炭化水素鎖を含む連結基を表し、mは0または1である。]
[6][1]~[5]のいずれかのポリアミド樹脂組成物の成形品。
[7][1]~[5]のいずれかのポリアミド樹脂組成物と磁性粉末とを含む磁性材樹脂複合材料。
[8][7]の磁性材樹脂複合材料の成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形加工性が良好である上に、強靭で、柔軟性があり、耐衝撃性に優れる成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、ポリアミド系エラストマー(A)15~35質量%、アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族ポリアミド樹脂(B)40~79質量%、芳香族ポリアミド樹脂(C)0.1~35質量%及びアミド基1個に対する平均炭素原子数が6以下である脂肪族ポリアミド樹脂(D)0~10質量%を含むポリアミド樹脂組成物に関する。
【0012】
<ポリアミド系エラストマー(A)>
ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド系エラストマー(A)を含む。
ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド系エラストマー(A)を含むことにより、その成形品は優れた柔軟性を奏する。
ポリアミド系エラストマー(A)は、ハードセグメントとソフトセグメントを有し、ハードセグメントがポリアミドの構造を有する。ポリアミド系エラストマーのソフトセグメントはポリエーテル構造を有することが好ましく、ポリエーテルジアミン化合物に由来する構成単位を有することがより好ましい。ソフトセグメントとしてポリエーテル構造を有するポリアミド系エラストマーとしては、ハードセグメントとソフトセグメントをエステル結合で結合したポリエーテルエステルアミドエラストマー、ハードセグメントとソフトセグメントをアミド結合で結合したポリエーテルポリアミドエラストマーが挙げられる。本発明の効果発現の観点、耐加水分解性に優れ、安定性の観点から、ハードセグメントとソフトセグメントをアミド結合で結合したポリエーテルポリアミドエラストマーが好ましい。
【0013】
ハードセグメントにおけるポリアミド構造は、ジアミンとジカルボン酸からなるナイロン塩、下記式(1)で表されるアミノカルボン酸化合物及び下記式(2)で表されるラクタム化合物からなる群から選択される少なくとも1種であるポリアミド形成性モノマーに由来する構成単位を有する重縮合体が好ましい。
【0014】
【化5】
[但し、R
1は、炭化水素鎖を含む連結基を表す。]
【0015】
【化6】
[但し、R
2は、炭化水素鎖を含む連結基を表す。]
【0016】
上記式(1)において、R1は、炭素数2~20の脂肪族基、脂環族基及び/又は芳香族基を含む二価の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは炭素数3~18の上記炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数4~15の上記炭化水素基であり、さらにより好ましくは炭素数10~15の上記炭化水素基であり、特に好ましくは炭素数10~15のアルキレン基である。
【0017】
アミノカルボン酸化合物(1)としては、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、10-アミノデカン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等の炭素数5~20の脂肪族ω-アミノカルボン酸等が挙げられる。
【0018】
式(2)において、R2は、炭素数3~20の脂肪族基、脂環族基及び/又は芳香族基を含む二価の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは炭素数3~18の上記炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数4~15の上記炭化水素基であり、さらにより好ましくは炭素数10~15の上記炭化水素基であり、特に好ましくは炭素数10~15のアルキレン基である。
【0019】
ラクタム化合物(2)としては、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ウンデカラクタム、ω-ラウリルラクタム、2-ピロリドン等の炭素数4~20の脂肪族ラクタム等が挙げられる。
【0020】
これらの中でも、低吸水による寸法安定性、耐薬品性、機械特性の観点からω-ラウリルラクタム、11-アミノウンデカン酸又は12-アミノドデカン酸が好ましい。
【0021】
ナイロン塩におけるジアミンとしては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサン-1,6-ジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサン-1,6-ジアミン、3-メチルペンタン-1,5-ジアミン等の炭素数2~20の脂肪族ジアミン等のジアミン化合物が挙げられる。
【0022】
ナイロン塩におけるジカルボン酸としては、脂肪族、脂環族及び芳香族ジカルボン酸から選ばれる少なくとも一種のジカルボン酸又はこれらの誘導体を用いることができる。
【0023】
ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの炭素数2~25の直鎖脂肪族ジカルボン酸、又は、トリグリセリドの分留により得られる不飽和脂肪酸を二量化した炭素数14~48の二量化脂肪族ジカルボン酸(ダイマー酸)及びこれらの水素添加物(水添ダイマー酸)などの脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、および、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を挙げることができる。ダイマー酸及び水添ダイマー酸としては、クローダ社製商品名「プリポール1004」、「プリポール1006」、「プリポール1009」、「プリポール1013」などを用いることができる。
【0024】
ハードセグメントは、両末端基にカルボキシル基を有するポリアミドから誘導することもでき、その場合ハードセグメントは、ポリアミド構造と、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸(4)に由来する構成単位とを含むセグメントでもある。
【0025】
【化7】
[但し、R
3は、炭化水素鎖を含む連結基を表し、mは0または1である。]
【0026】
ジカルボン酸化合物(4)としては、脂肪族、脂環族及び芳香族ジカルボン酸から選ばれる少なくとも一種のジカルボン酸又はこれらの誘導体を用いることができる。
【0027】
式(4)において、R3は、炭素数1~20の脂肪族基、脂環族基及び/又は芳香族基を含む二価の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1~15の上記炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数2~12の上記炭化水素基であり、さらにより好ましくは炭素数4~10の上記炭化水素基であり、特に好ましくは炭素数4~10のアルキレン基である。
上記式(4)で表されるジカルボン酸化合物の具体例としては、ジアミン化合物とジカルボン酸化合物からなるナイロン塩のジカルボン酸化合物として例示した化合物を挙げることができる。
【0028】
ジカルボン酸(4)の存在下、上記ポリアミド形成性モノマーを、常法により、開環重合又は重縮合させることによって両末端にカルボキシル基を有するポリアミドを得ることができる。ハードセグメントのジカルボン酸は、分子量調整剤として使用することができる。
【0029】
ハードセグメントの数平均分子量は、300~15000であることが好ましく、柔軟性、成形加工性の観点から300~6000であることがより好ましい。本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求めた値である。
【0030】
ソフトセグメントは、ポリエーテル構造を有することが好ましく、ポリエーテル構造の構成単位としては、炭素数2~4のオキシアルキレンが好ましい。オキシアルキレンのアルキレン基は、炭素数2~4の直鎖状または分枝状のアルキレン基が好ましく、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、1-メチルエチレン基、2-メチルエチレン基、n-ブチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、ジメチルエチレン基、エチルエチレン基等が挙げられる。ポリエーテル構造の構成単位は1種単独でも、2種以上でもよいが、2種以上が好ましい。ソフトセグメントのポリエーテル構造としては、具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、XYX型トリブロックポリエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を用いることができる。
XYX型トリブロックポリエーテルは、例えば以下の化学式で表させる構造が挙げられる。
【化8】
(式中、xは1~20の整数、yは4~50の整数、及びzは1~20の整数をそれぞれ表す。)
【0031】
上記式(5)において、x及びzは、それぞれ独立して、1~18の整数が好ましく、1~16の整数がより好ましく、1~14の整数がさらに好ましく、1~12の整数が特に好ましい。また、yは、5~45の整数が好ましく、6~40の整数がより好ましく、7~35の整数がさらに好ましく、8~30の整数が特に好ましい。
これらのポリエーテルの末端にアンモニア等を反応させることによってポリエーテルジアミン化合物を得ることができる。ソフトセグメントの数平均分子量は、200~6000であることが好ましく、650~2000であることがより好ましい。
XYX型トリブロックポリエーテルジアミン化合物は、例えば下記式(3)で表される。
【0032】
【化9】
[但し、xは1~20の整数、yは4~50の整数、zは1~20の整数を表す。]
【0033】
上記式(3)において、x及びzは、それぞれ独立して、1~18の整数が好ましく、1~16の整数がより好ましく、1~14の整数がさらに好ましく、1~12の整数が特に好ましい。また、yは、5~45の整数が好ましく、6~40の整数がより好ましく、7~35の整数がさらに好ましく、8~30の整数が特に好ましい。
【0034】
上記ハードセグメントと上記ソフトセグメントとの組み合わせとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組み合わせを挙げることができる。この中でも、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリエチレングリコールの組み合わせ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ジカルボン酸由来の構成単位/ポリプロピレングリコールの組み合わせ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ジカルボン酸由来の構成単位/ポリテトラメチレンエーテルグリコールの組み合わせ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ジカルボン酸由来の構成単位/XYX型トリブロックポリエーテルの組み合わせ、12-アミノドデカン酸由来の構成単位/ジカルボン酸由来の構成単位/XYX型トリブロックポリエーテルの組み合わせが好ましく、12-アミノドデカン酸由来の構成単位/ジカルボン酸由来の構成単位//XYX型トリブロックポリエーテルの組み合わせ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/XYX型トリブロックポリエーテルの組み合わせが特に好ましい。これらの組み合わせにおいて、ポリエーテルは、ポリエーテルジアミン由来の構成単位であることが好ましい。
【0035】
上記ハードセグメントと上記ソフトセグメントとの割合(質量比)は、ハードセグメント/ソフトセグメント=95/5~20/80であることが好ましい。この範囲であれば、成形体からのブリードアウトを回避しやすく、十分な柔軟性も確保しやすい。ハードセグメント/ソフトセグメント(質量比)は、95/5~25/75であることがより好ましい
【0036】
なお、本発明において、ハードセグメントとソフトセグメントとの割合(質量比)は、各セグメントを構成するモノマー成分の配合量を基準として算出される値である。通常、得られるポリアミドエラストマーのハードセグメントとソフトセグメントの割合(質量比)は、各セグメントを構成するモノマー成分の配合量を基準として算出される値と等しい。
【0037】
上記ハードセグメント/ソフトセグメント(質量比)が上記範囲より小さい場合、ポリアミド成分の結晶性が低くなる場合があり、強度、弾性率などの機械特性が低下するので好ましくない場合がある。上記ハードセグメント/ソフトセグメント(質量比)が上記範囲より大きい場合、ゴム弾性や柔軟性などのエラストマーとしての機能、性能が発現しにくくなるために好ましくない場合がある。
【0038】
以上のようなポリアミド系エラストマーの市販品としては、例えば、ダイセル・エボニック社製商品名「ダイアミド(登録商標)」シリーズ、ARKEMA社製商品名「Pebax」シリーズ、エムスケミー・ジャパン社製商品名「グリルフレックス(登録商標)EBG」、「グリルフレックス(登録商標)ELG」、「グリロン(登録商標)ELX」、宇部興産株式会社製商品名「UBESTA XPA(登録商標)」シリーズ等が挙げられる。
【0039】
この中でも、本発明の効果発現の観点、耐加水分解性に優れる観点から、宇部興産株式会社製商品名「UBESTA XPA(登録商標)」シリーズが好ましい。
【0040】
ポリアミド系エラストマー(A)は、単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0041】
ポリアミド系エラストマー(A)の重合度には特に制限はないが、JIS K 6920-2に準拠し、ポリアミド系エラストマー0.25gを試薬特級品のm-クレゾール50mlに溶解させ、25℃で測定した相対粘度が、1.10~5.00であることが好ましく、1.50~4.50であることがより好ましく、1.50~3.00であることが特に好ましい
【0042】
ポリアミド系エラストマー(A)の硬度(ショアD)は、柔軟性の観点から、好ましくは15~70の範囲、さらに好ましくは18~70の範囲、より好ましくは20~70の範囲、特に好ましいのは25~70の範囲のものである。
【0043】
ポリアミド系エラストマー(A)の好ましい態様は、上記式(1)で表されるアミノカルボン酸化合物及び/又は上記式(2)で表されるラクタム化合物由来の構成単位、上記式(3)で表されるXYX型トリブロックポリエーテルジアミン化合物由来の構成単位、並びに上記式(4)で表されるジカルボン酸化合物由来の構成単位を含む重合体である。
【0044】
好ましい態様のポリアミド系エラストマー(A)の製造方法として、一例を挙げると、
ポリアミド形成性モノマー、XYX型トリブロックポリエーテルジアミン及びジカルボン酸の三成分を、加圧及び/又は常圧下で溶融重合し、必要に応じさらに減圧下で溶融重合する工程からなる方法を用いることができ、さらにポリアミド形成性モノマー、XYX型トリブロックポリエーテルジアミン及びジカルボン酸の三成分を同時に、加圧及び/又は常圧下で溶融重合し、必要に応じさらに減圧下で溶融重合する工程からなる方法を用いることができる。なお、ポリアミド形成性モノマーとジカルボン酸の二成分を先に重合させ、ついで、XYX型トリブロックポリエーテルジアミンを重合させる方法も利用できる。
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等から誘導されるポリエーテル構成単位をソフトセグメントとして有するポリアミドエラストマーについても同様の製造方法が挙げられる。
【0045】
ポリアミドエラストマーの製造は、重合温度が好ましくは150~300℃、さらに好ましくは160~280℃、特に好ましくは180~250℃で行うことができる。重合温度が上記温度より低い場合、重合反応が遅くなりやすく、上記温度より高い場合、熱分解が起きやすく良好な物性のポリマーが得られない場合がある。
【0046】
ポリアミドエラストマーは、ポリアミド形成性モノマーとしてω-アミノカルボン酸を使用する場合、常圧溶融重合又は常圧溶融重合とそれに続く減圧溶融重合の工程からなる方法で製造することができる。
【0047】
一方、ポリアミド形成性モノマーとしてラクタム化合物、又はジアミン化合物とジカルボン酸化合物から合成されるもの及び/若しくはそれらの塩を用いる場合には、適量の水を共存させ、0.1~5MPaの加圧下での溶融重合とそれに続く常圧溶融重合及び/又は減圧溶融重合からなる方法で製造することができる。
【0048】
ポリアミドエラストマーは、重合時間が通常0.5~30時間で製造することができる。重合時間が上記範囲より短いと、分子量の上昇が不十分となりやすく、長いと熱分解による着色等が起こりやすく、いずれの場合も所望の物性を有するポリエーテルアミドエラストマーが得られない場合がある。
【0049】
ポリアミドエラストマーの製造は、回分式でも、連続式でも実施することができ、またバッチ式反応釜、一槽式ないし多槽式の連続反応装置、管状連続反応装置等を単独であるいは適宜組み合わせて用いることができる。
【0050】
ポリアミドエラストマーの製造の際に、必要に応じて分子量調節や成形加工時の溶融粘度安定のために、ラウリルアミン、ステアリルアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン等のモノアミン及びジアミン、酢酸、安息香酸、ステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等のモノカルボン酸、或はジカルボン酸等を添加することができる。
これらの使用量は、最終的に得られるエラストマーの相対粘度が1.10~5.00の範囲になるように適宜添加することが好ましい。
【0051】
上記のモノアミン及びジアミン、モノカルボン酸及びジカルボン酸等の添加量は、得られるポリアミドエラストマーの特性を阻害されない範囲とするのが好ましい。
【0052】
ポリアミドエラストマーの製造の際に、必要に応じて触媒として、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等を、また触媒と耐熱剤の両方の効果をねらって亜リン酸、次亜リン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機系リン化合物を添加することができる。添加量は、通常、仕込み原料に対して50~3000ppmである。
【0053】
ポリアミド樹脂組成物100質量%中、ポリアミド系エラストマー(A)の含有量は15~35質量%であり、15~30質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。ポリアミド系エラストマー(A)の含有量が上記範囲にあると、柔軟性と強靭性を併せ持ち、耐衝撃性に優れる成形品を得ることができる。
【0054】
<アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族ポリアミド樹脂(B)>
ポリアミド樹脂組成物は、アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族ポリアミド樹脂(B)(以下、「脂肪族ポリアミド樹脂(B)」ともいう。)を含む。
ポリアミド樹脂組成物は、アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族ポリアミド樹脂(B)を含むと、成形加工性を向上させやすくなり、かつ、成形品の柔軟性及び機械特性を向上させやすくなる。また、ポリアミド樹脂は、低吸水性であるため、他の熱可塑性樹脂よりも、耐加水分解性に優れる。
脂肪族ポリアミド樹脂としては、脂肪族ホモポリアミド樹脂及び脂肪族共重合ポリアミド樹脂が挙げられる。脂肪族ホモポリアミド樹脂は、脂肪族モノマー由来の1種類の構成単位からなるポリアミド樹脂である。脂肪族ホモポリアミド樹脂は、1種類のラクタム及び当該ラクタムの加水分解物であるアミノカルボン酸の少なくとも一方からなるものであってもよく、1種類のジアミンと1種類のジカルボン酸との組合せからなるものであってもよい。脂肪族共重合ポリアミド樹脂は、脂肪族モノマー由来の2種以上の構成単位からなるポリアミド樹脂である。脂肪族共重合ポリアミド樹脂は、ジアミンとジカルボン酸の組合せ、ラクタム及びアミノカルボン酸からなる群から選択される2種以上の共重合体である。ここで、ジアミンとジカルボン酸の組み合わせは、1種類のジアミンと1種類のジカルボン酸の組合せで1種類のモノマーとみなす。
【0055】
アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族ホモポリアミド樹脂とは、構成単位がラクタム及びアミノカルボン酸である場合は、構成単位の炭化水素鎖の炭素原子数が6を超えることをいう。構成単位がジアミンとジカルボン酸の組合せである場合は、ジアミンの炭化水素鎖の炭素原子数にポリアミド中のジアミンのモル濃度を乗じた値と、ジカルボン酸の炭化水素鎖の炭素原子数にポリアミド中のジカルボン酸のモル濃度を乗じた値との和が6を超えることをいう。
たとえば、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)は、テトラメチレンジアミンがポリアミド中67モル%未満であれば、アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族ホモポリアミド樹脂である。また、67モル%以上であれば、後述するアミド基1個に対する平均炭素原子数が6以下である脂肪族ホモポリアミド樹脂である。
【0056】
アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族共重合ポリアミド樹脂とは、上述のように共重合体を構成する各構成単位のアミド基1個に対する炭素原子数を求め、共重合体中の各構成単位のモル濃度と各構成単位のアミド基1個に対する炭素原子数を乗じた値の共重合体における平均炭素原子数が6を超えることをいう。
【0057】
アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族ホモポリアミド樹脂としてはポリウンデカンラクタム(ポリアミド11)、ポリラウリルラクタム(ポリアミド12)、ポリテトラメチレンドデカミド(ポリアミド412)、ポリペンタメチレンアゼラミド(ポリアミド59)、ポリペンタメチレンセバカミド(ポリアミド510)、ポリペンタメチレンドデカミド(ポリアミド512)、ポリヘキサメチレンスベラミド(ポリアミド68)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ポリアミド69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンウンデカミド(ポリアミド611)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリヘキサメチレンテトラデカミド(ポリアミド614)、ポリヘキサメチレンヘキサデカミド(ポリアミド616)、ポリヘキサメチレンオクタデカミド(ポリアミド618)、ポリノナメチレンアジパミド(ポリアミド96)、ポリノナメチレンスベラミド(ポリアミド98)、ポリノナメチレンアゼラミド(ポリアミド99)、ポリノナメチレンセバカミド(ポリアミド910)、ポリノナメチレンドデカミド(ポリアミド912)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンスベラミド(ポリアミド108)、ポリデカメチレンアゼラミド(ポリアミド109)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリドデカメチレンアジパミド(ポリアミド126)、ポリドデカメチレンスベラミド(ポリアミド128)、ポリドデカメチレンアゼラミド(ポリアミド129)、ポリドデカメチレンセバカミド(ポリアミド1210)、ポリドデカメチレンドデカミド(ポリアミド1212)、ポリアミド122等が挙げられる。
【0058】
アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族共重合ポリアミド樹脂としては、アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族ホモポリアミド樹脂を形成する原料単量体を数種用いた共重合体に加え、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアゼライン酸共重合体(ポリアミド6/69)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノセバシン酸共重合体(ポリアミド6/610)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノウンデカンジカルボン酸共重合体(ポリアミド6/611)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノドデカンジカルボン酸共重合体(ポリアミド6/612)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ポリアミド6/11)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ポリアミド6/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ラウリルラクタム共重合体(ポリアミド6/66/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノセバシン酸共重合体(ポリアミド6/66/610)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノドデカンジカルボン酸共重合体(ポリアミド6/66/612)等が挙げられる。
これらの脂肪族ポリアミド樹脂(B)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
これらの中でも、柔軟性の観点から、脂肪族ポリアミド樹脂(B)は、アミド基1個に対する平均炭素原子数が8~12のものが好ましく、10~12のものがより好ましい。ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド611、ポリアミド610、ポリアミド6/12共重合体及びポリアミド6/66/12共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0060】
脂肪族ポリアミド樹脂(B)の重合度には特に制限はないが、JIS K 6933に準拠し、ポリアミド樹脂1gを96%濃硫酸100mlに溶解させ、25℃で測定した相対粘度が、1.10~5.00であることが好ましく、1.50~4.50であることがより好ましく、1.50~3.00であることが特に好ましい。
【0061】
ポリアミド樹脂組成物100質量%中、アミド基1個に対する平均炭素原子数が6超である脂肪族ポリアミド樹脂(B)の含有量は40~79質量%であるが、45~77質量%が好ましく、50~75質量%がより好ましい。脂肪族ポリアミド樹脂(B)の含有量が上記範囲にあると、柔軟性と強靭性を併せ持ち、耐衝撃性に優れる成形品を得ることができる。
【0062】
<芳香族ポリアミド樹脂(C)>
ポリアミド樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂(C)を含む。
ポリアミド樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂(C)を含むと、その剛直な構造により、強靭性及び耐衝撃性を向上させることができる。
芳香族ポリアミド樹脂とは、芳香族系モノマー成分を少なくとも1成分含む芳香族ポリアミド樹脂であり、例えば、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミン、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンまたは芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を原料とし、これらの重縮合によって得られるポリアミド樹脂である。
【0063】
原料の脂肪族ジアミン及び脂肪族ジカルボン酸としては、前記の脂肪族共重合ポリアミド樹脂の説明で例示したものと同様のものが挙げられる。
芳香族ジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸としては、ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等が挙げられる。
これらの芳香族ジアミン及び芳香族ジカルボン酸は1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0064】
具体的な例としては、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6I)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6I/6)、ポリドデカミド/ポリヘキサメチレンテレフタラミドコポリマー(ポリアミド12/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド)コポリマー(ポリアミド6T/M5T)、ポリキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)などが挙げられる。これらの芳香族ポリアミド(C)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
これらの中でも、耐衝撃性の観点から、モノマー成分を少なくとも2成分含む芳香族共重合ポリアミドが好ましく、芳香族モノマー成分を1種以上と脂肪族モノマー成分1種以上とが共重合した半芳香族ポリアミドがより好ましく、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)がさらに好ましい。
【0066】
芳香族ポリアミド樹脂(C)として、特に有用なものとしては、芳香族系モノマー成分を少なくとも2成分含む非晶性部分芳香族共重合ポリアミド樹脂が挙げられる。非晶性部分芳香族共重合ポリアミド樹脂としては、動的粘弾性の測定によって得られた絶乾時の損失弾性率のピーク温度によって求められたガラス転移温度が100℃ 以上の非晶性ポリアミドが好ましい。非晶性部分芳香族共重合ポリアミド樹脂としては、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/6I)が挙げられる。
ここで、非晶性とは、示差走査熱量計(DSC)で測定した結晶融解熱量が1cal/g以下であることをいう。
【0067】
芳香族ポリアミド樹脂(C)の重合度には特に制限はないが、JIS K 6933に準拠し、ポリアミド樹脂1gを試薬特級品のm-クレゾール100mlに溶解させ、25℃で測定した相対粘度が、1.50~4.00であることが好ましく、1.80~2.50であることがより好ましい。
【0068】
ポリアミド樹脂組成物100質量%中、芳香族ポリアミド樹脂(C)の含有量は0.1~35質量%であり、0.1~33質量%が好ましく、0.2~30質量%がより好ましい。芳香族ポリアミド樹脂(C)の含有量が上記範囲にあると、柔軟性を損なわないとともに、耐衝撃性に優れる。
【0069】
<アミド基1個に対する平均炭素原子数が6以下である脂肪族ポリアミド樹脂(D)>
ポリアミド樹脂組成物は、任意に、アミド基1個に対する平均炭素原子数が6以下である脂肪族ポリアミド樹脂(D)(以下、「脂肪族ポリアミド樹脂(D)」ともいう。)を含むことが好ましい。
ポリアミド樹脂組成物は、アミド基1個に対する平均炭素原子数が6以下である脂肪族ポリアミド樹脂(D)を含むと、芳香族ポリアミド(C)の配合を容易にすることができ、成型加工性の点から好ましい。
【0070】
アミド基1個に対する平均炭素原子数が6以下である脂肪族ポリアミド樹脂(D)としては、ポリカプロラクタム(ポリアミド6)、ポリエチレンアジパミド(ポリアミド26)、ポリテトラメチレンスクシナミド(ポリアミド44)、ポリテトラメチレングルタミド(ポリアミド45)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリテトラメチレンスベラミド(ポリアミド48)、ポリペンタメチレンスクシナミド(ポリアミド54)、ポリペンタメチレングルタミド(ポリアミド55)、ポリペンタメチレンアジパミド(ポリアミド56)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸共重合体(ポリアミド6/66)が挙げられる。これらの脂肪族ポリアミド樹脂(D)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、芳香族ポリアミド樹脂(C)との相溶性の観点から、ポリアミド6が好ましい。
【0071】
脂肪族ポリアミド樹脂(D)の重合度には特に制限はないが、JIS K 6933に準拠し、ポリアミド樹脂1gを96%濃硫酸100mlに溶解させ、25℃で測定した相対粘度が、1.10~5.00であることが好ましく、1.50~4.20であることがより好ましい。
【0072】
ポリアミド樹脂組成物100質量%中、アミド基1個に対する平均炭素原子数が6以下である脂肪族ポリアミド樹脂(D)の含有量は0~10質量%である。脂肪族ポリアミド樹脂(D)の含有量が上記範囲にあると、柔軟性が良好であるとともに、芳香族ポリアミド樹脂(C)の配合が容易となる。
【0073】
(ポリアミド樹脂の製造)
ポリアミド樹脂の製造装置としては、バッチ式反応釜、一槽式ないし多槽式の連続反応装置、管状連続反応装置、一軸型混練押出機、二軸型混練押出機等の混練反応押出機等、公知のポリアミド製造装置が挙げられる。重合方法としては溶融重合、溶液重合や固相重合等の公知の方法を用い、常圧、減圧、加圧操作を繰り返して重合することができる。これらの重合方法は単独で、あるいは適宜、組合せて用いることができる。
【0074】
ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度は、フェノールとメタノールの混合溶媒に溶解させ中和滴定で求められる末端アミノ基濃度として、30μmol/g以上であることが好ましく、30μmol/g以上110μmol/g以下の範囲がより好ましく、30μmol/g以上70μmol/g以下の範囲がさらに好ましい。前記範囲であると、ポリアミド樹脂組成物の成形加工性が良好である。
【0075】
ポリアミド樹脂が、末端アミノ基濃度の異なる2種以上のポリアミド樹脂を含む場合、ポリアミド樹脂における末端アミノ基濃度は、上記中和摘定で測定されるのが好ましいが、それぞれのポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度とその混合比が判明している場合、それぞれの末端アミノ基濃度にその混合比を乗じた値を合計して算出される平均値を、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度としてもよい。
【0076】
<その他の樹脂>
ポリアミド樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリアミド系エラストマー及びポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。ポリアミド系エラストマー及びポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、2質量%以下が好ましく、0~1.5質量%がより好ましい。
【0077】
<その他の成分>
ポリアミド樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記成分以外の、染料、顔料、繊維状補強物、粒子状補強物、可塑剤、酸化防止剤、耐熱剤、発泡剤、耐候剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤等の機能性付与剤等を適宜含有していてもよい。
任意の成分の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0078】
[ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
ポリアミド樹脂組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、例えば次の方法を適用することができる。
各成分の原材料の混合には、単軸、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機が用いられる。各成分の原材料を、タンブラーミキサーやブレンダーなど通常公知の混合機で、単純混合する方法も適用することができる。
【0079】
例えば、二軸押出機を使用する場合は、全ての原材料を配合後、溶融混練する方法、一部の原材料を配合後、溶融混練し、更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよいが、全ての原材料を配合後、溶融混練する方法が好ましい。
【0080】
(ポリアミド樹脂組成物のMFR)
ポリアミド樹脂組成物のISO 1133に準拠して、温度190℃、荷重1.00kgで測定したMFR(メルトフローレート)は、15g/10分未満が好ましく、4g/10分以上15g/10分未満がより好ましく、7g/10分以上15g/10分未満がさらに好ましい。MFRがこの範囲にあると、ポリアミド樹脂の成形加工性が良好でありながら、得られる成形品の靭性を損なわない。
【0081】
(ポリアミド樹脂組成物の密度)
ポリアミド樹脂組成物の密度は、1.02g/cm3以上が好ましく、1.03~1.10g/cm3がより好ましく、1.03~1.06g/cm3がさらに好ましい。密度がこの範囲にあると、例えば、磁性粉末などの各種無機添加剤が均一分散しやすくなる傾向にある。ポリアミド樹脂組成物の密度は、各成分の密度に含有量(質量%)を乗じ、それらの和を求めたものである。各成分の密度はISO1183-3に準拠し測定した。
【0082】
ポリアミド樹脂組成物は、脂肪族ポリアミド樹脂(B)、ポリアミド系エラストマー(A)及び芳香族ポリアミド樹脂(C)がそれぞれ異なる温度域でエネルギー吸収するため、幅広い温度領域で柔軟性を保つことができると考えられ、寸法変化による応力集中に起因するクラック発生を抑制することができると期待される。
【0083】
[ポリアミド樹脂組成物の成形品及びその用途]
ポリアミド樹脂組成物は、射出成形による射出成形品、押出成形による押出成形品、ブロー成形によるブロー成形品、回転成形による回転成形品の製造に好適に用いることができる。ポリアミド樹脂組成物は、射出成形性が良好であるので、射出成形による射出成形品により好適に用いることができる。
【0084】
ポリアミド樹脂組成物から射出成形による射出成形品を製造する方法については特に制限されず、公知の方法を利用することができる。
【0085】
ポリアミド樹脂組成物から押出成形により押出成形品を製造する方法については特に制限されず、公知の方法を利用することができる。
【0086】
ポリアミド樹脂組成物からブロー成形によりブロー成形品を製造する方法については特に制限されず、公知の方法を利用することができる。
【0087】
ポリアミド樹脂組成物から回転成形による回転成形品を製造する方法については特に制限されず、公知の方法を利用することができる。例えば国際公開公報2019/054109に記載の方法が参酌される。
【0088】
射出成形による射出成形品、押出成形による押出成形品、ブロー成形によるブロー成形品、及び回転成形による回転成形品としては、特に限定されないが、スポイラー、エアインテークダクト、インテークマニホールド、レゾネーター、燃料タンク、ガスタンク、作動油タンク、燃料フィラーチューブ、燃料デリバリーパイプ、その他各種ホース・チューブ・タンク類などの自動車部品、電動工具ハウジング、パイプ類などの機械部品を始め、タンク、チューブ、ホース、フィルム等の電気・電子部品、家庭・事務用品、建材関係部品、家具用部品など各種用途が好適に挙げられる。
【0089】
また、ポリアミド樹脂組成物は、ガスバリア性に優れるため、高圧ガスと接触する成形品、たとえば、高圧ガスに接するタンク、チューブ、ホース、フィルム等に好適に用いられる。前記ガスの種類としては、特に制限されず、水素、窒素、酸素、ヘリウム、メタン、ブタン、プロパン等が挙げられ、極性の小さいガスが好ましく、水素、窒素、メタンが特に好ましい。
【0090】
[ポリアミド樹脂組成物と磁性粉末とを含む磁性材樹脂複合材料]
ポリアミド樹脂組成物は、磁性粉末と共に配合することで、磁性材樹脂複合材料として使用することができる。
磁性粉末は、磁性を付与する機能を有し、プラスチック磁石に使用することができる公知の磁性粉末であれば、特に制限はなく、例えば、フェライト系磁性粉、アルニコ系磁性粉、希土類磁性粉等が挙げられる。フェライト系磁性粉としては、酸化鉄、炭酸バリウム等のバリウムフェライト系磁性粉、酸化鉄、炭酸ストロンチウム等のストロンチウムフェライト系磁性粉等が挙げられる。アルニコ系磁性粉としては、ニッケル、アルミニウム、コバルト、銅から成るアルニコ、ニッケル、アルミニウム、コバルト、銅、チタンから成るアルニコ等が挙げられる。希土類磁性粉としては、サマリウムコバルト、サマリウムコバルトのコバルト成分を銅、鉄、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル等で置換した希土類コバルト磁石、ネオジウム- 鉄-ホウ素磁石等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0091】
磁性粉末の平均粒径は、0 .1~300μmであることが好ましく、0.1 ~ 200μmであることがより好ましく、0 .5 ~ 100μm であることがさらに好ましい。磁性粉末の平均粒径が、前記の値を超えると、磁性材樹脂複合材料の流動性や成形体の機械的強度が低下する場合がある。
磁性粉末の配合量は、磁性材樹脂複合材料全体に対して、50~98質量% であることが好ましく、65~97質量% であることがより好ましく、70~95質量% であることがさらに好ましい。
【0092】
配合量が前記の値未満であると、残留磁束密度が低く、永久磁石用途としての実用性は小さいうえに、樹脂の流動特性に対する効果が小さくなる場合がある。一方、前記の値を超えると磁場配向性に劣り、樹脂成分の減少に伴う残留磁束密度の向上が見られない上に樹脂量が少ないため、流動性が劣り、これが混練及び成形工程にて充填不良等のトラブルを惹起させ、実用性に欠ける場合がある。
【0093】
磁性粉末は、ポリアミド樹脂組成物に配合した際の分散性又は密着性を改良するために、磁性粉末をカップリング剤や表面改質剤であらかじめ処理してもよい。カップリング剤又は表面改質剤として、シラン系、チタネート系、アルミニウム系、亜リン酸エステルその他の有機リン化合物系、クロム系、メタクリレート系等の慣用のカップリング剤又は表面改質剤を使用できる。これらの種類は、バインダーとして用いる樹脂の種類により適宜最適なものを選択される。これらの中でも、ポリアミド樹脂との相溶性を高めるため、アミノ基含有シラン系化合物、チタネート系化合物であることがより好ましい。これらに加えて、添加剤として滑剤や安定剤等を使用し、磁性材樹脂複合材料の流動性、成形加工性や磁気特性を改良することも可能である。
【0094】
磁性材樹脂複合材料は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記成分以外の、染料、顔料、繊維状補強物、粒子状補強物、可塑剤、酸化防止剤、耐熱剤、発泡剤、耐候剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、滑剤、安定剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤等の機能性付与剤等を適宜含有していてもよい。
【0095】
(磁性材樹脂複合材料の製造方法)
磁性材樹脂複合材料は、ポリアミド樹脂組成物と磁性粉末とを、混合工程により混合し、さらに混練工程を経て製造される。また、ポリアミド樹脂組成物の各成分と磁性粉末とを直接混合工程により混合し、さらに混練工程を経て製造される。
混合工程にて、磁性粉末と、ポリアミド樹脂組成物又はポリアミド樹脂組成物の各成分と、必要に応じて各種添加剤とを配合し、公知の方法で混合する。混合工程は、後記混練工程の前に行うことが好ましい。また、混合時に溶媒を使用する事は、カップリング剤及び滑剤を使用する際、均一に添加する意味で有効な手段となるが、必ずしも必要ではない。混合機は特に限定されるものではなく、リボンミキサー、V 型ミキサー、ロータリーミキサー、ヘンシェルミキサー、フラッシュミキサー、ナウタミキサー、タンブラー等が挙げられる。また、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ウエットミル、ジェツトミル、ハンマーミル、カッターミル等を用いて、添加、粉砕混合をする方法も有効である。
【0096】
その際、磁性材樹脂複合体成形用ポリアミド樹脂組成物の形状は、ペレット、ビーズ、パウダー、ペースト状等、いずれでも良いが、混合物の均質性を高める意味で、粒度の細かい形態が望ましい。
【0097】
混練工程は、混合した磁性粉末、ポリアミド樹脂組成物及び任意の各種添加剤を、又は混合した磁性粉末、ポリアミド樹脂組成物の各成分及び任意の各種添加剤を、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機等を用いて50~400 ℃ の温度領域で混練する工程である。混練温度は、一般にポリアミド樹脂が溶融し、分解しない温度領域から選ばれる。混練物は、ストランドやシート状に押し出した後カッティング或いは、ホットカット、アンダーウオーターカット、もしくは冷却固化したブロック状の物を粉砕機にかける、といった方法でペレット状態やパウダー状態にして成形に供される。こうして磁性材樹脂複合材料を得ることができる。
【0098】
(磁性材樹脂複合材料の成形品及びその用途)
混練工程で得られた磁性材樹脂複合材料から、磁性材樹脂複合材料の成形品を得るためには、更に成形加工処理を施す成形工程を行なう 。混合物を溶融混練しながらそのまま所望の形状に成形する一段成形法、混練工程の後、磁場をかけながら、射出成形、押出成形、圧縮成形等の慣用の方法により成形する成形工程を行なう二段成形法のどちらでも製造可能である。
中でも高い磁気特性をもつ磁性材樹脂複合材料の成形品を製造する方法として、ペレット或いはパウダー状の磁性材樹脂複合材料を加熱溶融し、必要に応じ磁場をかけながら、射出成形、押出成形、圧縮成形する方法が挙げられる。押出成形の場合には、混練と共に行うこともできる。これらの成形法のなかで、特に射出成形法は、表面平滑性及び磁気特性に優れた磁性材樹脂複合体が得られることから有用性が大きい。射出成形、押出成形については、ポリアミド樹脂組成物の項で述べた内容が参照される。成形温度は、前記混練温度と同様である。
【0099】
成形品は、通常さらに着磁を行って、永久磁石としての性能を高める。着磁は通常行われる方法、例えば静磁場を発生する電磁石、パルス磁場を発生するコンデンサー着磁機等によって行われる。このときの磁場強度は、15kOe以上であることが好ましく、30kOe以上であることがより好ましい。
【0100】
磁性材樹脂複合材料の成形品は、電磁機器、車載用電磁機器(電動機、発電機等)、玩具、事務機器、音響機器等に用いられる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0102】
実施例の測定値は、以下の測定方法で測定した値である。
<密度>
各成分の密度に含有量(質量%)を乗じ、それらの和を求めたものである。各成分の密度はISO1183-3に準拠し測定した。
【0103】
<MFR>
ポリアミド樹脂組成物のMFR(メルトフローレート)は、ISO 1133に準拠して190℃、1.00kgの荷重で測定した。
得られたMFRの測定結果から、成形加工性を以下の基準で評価した。
◎:MFRが7g/10分以上15g/10分未満。
〇:MFRが4g/10分以上~7g/10分未満。
×:MFRが4g/10分未満又は15g/10分以上。
【0104】
≪機械特性の評価≫
下記1~3の機械特性の評価の全てが、〇又は◎のいずれかである場合は、成形品のクラック発生を抑制することが期待できる。
【0105】
1.強靭性
<引張降伏応力、引張降伏ひずみ、引張破壊呼びひずみ及び引張弾性率>
ISO527-2/1A/50に準じて、島津製作所製自動伸び計AGX-AT/SIE-560SAを使用して、試験片(試験片の大きさ:10×170×4mm)の引張降伏応力及び引張降伏ひずみを、23℃、相対湿度50%RH、試験速度50mm/分で測定した。
得られた引張降伏応力の測定結果から、強靭性を以下の基準で評価した。
◎:引張降伏応力が35MPa以上。
〇:引張降伏応力が32MPa以上35MPa未満。
×:引張降伏応力が32MPa未満。
得られた引張降伏ひずみの測定結果から、強靭性を以下の基準で評価した。
◎:引張降伏ひずみが9%以上。
〇:引張降伏ひずみが7%以上9%未満。
×:引張降伏ひずみが7%未満。
得られた引張破壊呼びひずみの測定結果から、強靭性を以下の基準で評価した。
◎:引張破壊呼びひずみが20%以上。
〇:引張破壊呼びひずみが14%以上20%未満。
×:引張破壊呼びひずみが14%未満。
得られた引張弾性率の測定結果から、強靭性を以下の基準で評価した。
◎:引張弾性率が1100MPa以上。
〇:引張弾性率が1000MPa以上1100MPa未満。
×:引張弾性率が1000MPa未満。
【0106】
2.柔軟性
<曲げ強さ及び曲げ弾性率>
ISO178に準じて、島津製作所製全自動曲げ試験機AGX-AT/SIE-560SAを使用して、三点曲げモードでの試験片(試験片の大きさ:10×80×4mm)の最大曲げ強さ及び曲げ弾性率を、23℃、相対湿度50%RH、試験速度2mm/分で測定した。
得られた曲げ強さの測定結果から、柔軟性を以下の基準で評価した。
◎:曲げ強さが45MPa以上。
〇:曲げ強さが39MPa以上45MPa未満。
×:曲げ強さが39MPa未満。
得られた曲げ弾性率の測定結果から、柔軟性を以下の基準で評価した。
◎:曲げ弾性率が1100MPa以上。
〇:曲げ弾性率が1000MPa以上1100MPa未満。
×:曲げ弾性率が1000MPa未満。
【0107】
3.耐衝撃性
<シャルピー衝撃強さ>
ISO179-1/1eAに準じて、安田精機製万能衝撃試験機No.141-PCを用いて、23℃及び-40℃において、Aノッチ入り厚み4mmの試験片(10×80×4mm)を用いてエッジワイズ衝撃試験を行った(n=10)。表1中、「C」は、完全破壊の意味である。
得られた23℃のシャルピー衝撃強さの測定結果から、耐衝撃性を以下の基準で評価した。
◎:シャルピー衝撃強さが5kJ/m2以上。
〇:シャルピー衝撃強さが4kJ/m2以上5kJ/m2未満。
×:シャルピー衝撃強さが4kJ/m2未満。
得られた-40℃のシャルピー衝撃強さの測定結果から、耐衝撃性を以下の基準で評価した。
◎:シャルピー衝撃強さが3kJ/m2以上。
〇:シャルピー衝撃強さが2kJ/m2以上3kJ/m2未満。
×:シャルピー衝撃強さが2kJ/m2未満。
【0108】
[製造例1:ポリアミド系エラストマーの製造]
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、窒素ガス導入口、圧力調整装置及びポリマー取り出し口を備えた容量70リットルの圧力容器に、12-アミノドデカン酸(宇部興産株式会社製)8.00kg、アジピン酸(旭化成ケミカルズ株式会社製)1.49kg、上記式(3)(x=3、y=9、z=2)で表されるXYX型のトリブロックポリエーテルジアミン(HUNTSMAN社製、商品名:ELASTAMINE RT-1000)10.51kg、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン社製、商品名:イルガノックス(登録商標)245)0.06kg、及び次亜リン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製)0.03kgを仕込んだ。容器内を十分窒素置換したあと、1時間かけて室温から230℃まで昇温し重合を行った。
【0109】
[実施例1~11、比較例1~6]
表1に記載した各成分をブレンダーにて10分間ブレンドし、各ブレンド組成物を得た。得られた各ブレンド組成物から、住友重機械工業製住友SG75射出成形機を使用して、上記機械特性の評価に用いる試験片を作製した。実施例1および実施例4~11の試験片は、射出成形機のシリンダー温度を250℃に設定し、実施例2および実施例3の試験片は、シリンダー温度を270℃に設定することにより試験片を作製した。比較例1については、シリンダー温度を210℃に設定し、比較例2~6はシリンダー温度を250℃に設定した。物性及び機械特性評価の結果を表1に示す。
なお、表中の組成の単位は質量%であり、ポリアミド樹脂組成物全体を100質量%とする。
【0110】
【0111】
実施例及び比較例で使用した材料は以下の通りである。
ポリアミド系エラストマー(A)
製造例1で製造したポリアミド系エラストマー(相対粘度:1.83)
脂肪族ポリアミド樹脂(B)
ポリアミド12(PA12):宇部興産株式会社製(相対粘度:1.60)
ポリアミド6/12(PA6/12=25/75質量比):宇部興産株式会社製(相対粘度:1.72)
脂肪族ポリアミド樹脂(D)
ポリアミド6(PA6):宇部興産株式会社製(相対粘度:2.47)
なお、上記ポリアミド樹脂(B)および(D)の相対粘度は、JIS K 6933に準拠し、ポリアミド樹脂1gを96%濃硫酸100mlに溶解させ、25℃で測定した値である。上記ポリアミド系エラストマー(A)の相対粘度は、JIS K 6920-2に準拠し、ポリアミド系エラストマー0.25gを試薬特級品のm-クレゾール50mlに溶解させ、25℃で測定した値である。
芳香族ポリアミド樹脂(C)
ポリアミド6T/6I(PA6T/6I):EMS-CHEMIE(Japan)株式会社製、製品名「Grivory(登録商標) G21」)
【0112】
表1から、実施例1~11のポリアミド樹脂組成物は、成形加工性、強靭性、柔軟性及び耐衝撃性を兼ね備えることがわかる。
比較例1は、ポリアミド系エラストマー(A)及び芳香族ポリアミド(C)を含まないため、引張降伏応力、引張破壊呼びひずみ及び引張弾性率は高いが、引張降伏ひずみ及び23℃でのシャルピー衝撃強さは低いため、破断しやすく、強靭性に欠ける。また、成形加工性も劣る。
比較例2は、ポリアミド系エラストマー(A)の量が、本願発明の範囲よりも少ないため、引張破壊呼びひずみ、シャルピー衝撃強さの値が悪く、耐衝撃性に欠けることが分かる。
比較例3は、脂肪族ポリアミド樹脂(B)の量が、本願発明の範囲よりも少ないため、引張降伏応力の値が低く、強靭性に欠ける。
比較例4は、ポリアミド系エラストマー(A)の量が、本願発明の範囲よりも多いため、引張降伏応力、引張弾性率、曲げ強さ及び曲げ弾性率が低く、強靭性に欠けるとともに、柔軟性に欠ける。
比較例5は、脂肪族ポリアミド樹脂(B)の量が、本願発明の範囲よりも多いため、23℃におけるシャルピー衝撃強さの値が悪く、耐衝撃性に欠けることが分かる。
比較例6は、ポリアミド系エラストマー(A)の量が、本願発明の範囲よりも少なく、芳香族ポリアミド(C)の量が多いため、MFR、引張降伏ひずみ、引張破壊呼びひずみ、シャルピー衝撃強さの値が悪く、成形加工性、強靭性、及び耐衝撃性に欠けることが分かる。