(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-17
(45)【発行日】2025-11-26
(54)【発明の名称】金属部品付き車両用窓ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
B60J 1/02 20060101AFI20251118BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20251118BHJP
【FI】
B60J1/02 111S
C03C27/12 Z
(21)【出願番号】P 2023527874
(86)(22)【出願日】2022-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2022022976
(87)【国際公開番号】W WO2022260041
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2025-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2021097651
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 俊司
(72)【発明者】
【氏名】江畑 研一
(72)【発明者】
【氏名】明石 裕太
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-216880(JP,A)
【文献】特開2016-199457(JP,A)
【文献】特開2020-116876(JP,A)
【文献】特開2021-086082(JP,A)
【文献】特開2017-165608(JP,A)
【文献】特開2015-105356(JP,A)
【文献】特開2005-193563(JP,A)
【文献】特開2019-014608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/02
C03C 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品付き車両用窓ガラスの製造方法であって、
窓ガラスの主面に接着剤を介して金属部品を配置し、
前記金属部品を局所的に加熱し、
前記金属部品からの熱を前記接着剤に伝達することによって前記接着剤を加熱し、前記接着剤を硬化
させ、
前記窓ガラスは、2枚のガラス板が中間膜を介して接合された合わせガラスであり、
前記金属部品の加熱を、前記中間膜の温度が100℃以下で行う、金属部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記金属部品の加熱を、輻射及び/又は伝導によって行う、請求項1記載の金属部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記金属部品の加熱を、無風で行う、請求項1又は2に記載の金属部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記金属部品の加熱を、近赤外線ヒータを用いて行う、請求項1又は2のいずれか一項に記載の金属部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記金属部品が、車載機器の取付け用部品である、請求項1又は2に記載の金属部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記接着剤が、熱により硬化促進される接着剤である、請求項1又は2に記載の金属部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記車両用窓ガラスの周縁部に、セラミックスペーストが焼成されてなる遮蔽層が設けられており、前記金属部品を前記遮蔽層に接着させる、請求項1又は2に記載の金属部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品付き車両用窓ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用窓ガラスの主面に、ミラーベース、ブラケットといった部品が接着剤によって接着されてなる構成が知られている。このような部品付き車両用窓ガラスの製造には、一般に、部品を接着剤を介して車両用窓ガラスに取り付けた後、接着剤を十分に硬化させるための養生プロセスが含まれる。
【0003】
上記養生プロセスの時間を短縮するために、様々な方法が検討されている。例えば特許文献1には、接着剤を用いて被着体及び自動車用ガラスの接着面を貼り合わせた後、過熱水蒸気発生装置を用いて接着剤を硬化させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、発明の効果として、大がかりな装置を必要とせず、短時間で接着剤を硬化できると記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の過熱水蒸気釜は、被着体全体を十分に覆うサイズを有さなくてはならないし、また釜以外にもボイラー部、加熱器といった装置も必要である。よって、設備としては依然として大きく、また複雑と言わざるを得ない。さらに、高温の蒸気を吹き付ける必要がある為、小型部品を接着させた場合は位置ズレや接着剤の形状変化等の懸念がある。
【0006】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様は、部品付き車両用窓ガラスを、短時間で且つより省スペースで製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、金属部品付き車両用窓ガラスの製造方法であって、窓ガラスの主面に接着剤を介して金属部品を配置し、前記金属部品を局所的に加熱し、前記金属部品からの熱を前記接着剤に伝達することによって前記接着剤を加熱し、前記接着剤を硬化させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、部品付き車両用窓ガラスを、短時間で且つより省スペースで製造できる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態による部品付き車両用窓ガラスの例を示す。
【
図3】本発明の一実施形態による部品付き車両用窓ガラスの製造における加熱プロセスの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0011】
図1に、本形態によって製造される金属部品付き車両用窓ガラス1の一例を、車内面側から見た図である。また、
図2に、
図1のI-I線断面の部分拡大図を示す。
図1及び
図2に示すように、金属部品30が車両用窓ガラス10の主面に接着されており、その接着に接着剤20が利用されている。図示の例では、金属部品30はミラーベースであり、当該ミラーベースが、車両用窓ガラス10の車内面の上方、左右方向の中央付近に接着されている(
図1)。また、
図1の車両用窓ガラス10はフロントガラスであるが、本形態における車両用窓ガラスは、リアガラス、サイドガラス、ルーフガラス等であってもよい。
【0012】
本形態において用いられる車両用窓ガラス1には、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス板が用いられていてよい。ガラス板の成形法は特に限定されないが、例えばフロート法により成形されたガラスが好ましい。ガラス板は未強化であってよいし、風冷強化又は化学強化処理が施された強化ガラスであってもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものである。強化ガラスが風冷強化ガラスである場合は、加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷し、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることで、ガラス表面を強化してもよい。一方、強化ガラスが化学強化ガラスである場合は、イオン交換法等によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることでガラス表面を強化してもよい。また、車両用窓ガラスは透明であることが好ましいが、透明性を損なわない程度に着色されたガラスであってもよい。ガラスの形状は、特に矩形状に限定されるものではなく、種々の形状に加工されていてよい。また、車両用窓ガラスに用いられるガラス板は曲げ成形され、湾曲していてもよい。曲げ成形としては、重力成形、又はプレス成形等が用いられる。
【0013】
車両用窓ガラス1は、単板のガラスであってもよいし、合わせガラスであってもよい。合わせガラスは、複数のガラス板11、12を、中間膜15を介して貼り合わせてなるガラスである(
図2)。合わせガラスに用いられる複数のガラス板も上述のガラスが用いられる。
【0014】
合わせガラスにおいて、複数のガラス板11、12の間に配置される中間膜15(
図2)の材料は特に限定されないが、熱可塑性樹脂であると好ましい。中間膜の材料の具体例としては、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、アイオノマー樹脂等の従来から用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。また、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。上記の熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0015】
中間膜は、可塑剤を含有していない樹脂、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂等であってもよい。上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(PVB)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適な材料として挙げられる。なお、上記の樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0016】
合わせガラスの場合、車両用窓ガラス全体の厚み(中間膜も含めた厚み)は、2.3mm以上8.0mm以下であってよい。また、合わせガラスを構成する複数のガラス板のそれぞれの厚みは、0.5mm以上3.5mm以下であってよい。複数のガラス板の厚みは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、なお、車内側のガラス板の厚みを0.5mm以上2.3mm以下としてもよい。
【0017】
一方、金属部品30は、車両用窓ガラス10の主面のいずれかの場所に取り付けられる金属製の部品であれば、特に限定はされない。金属部品30は、インナーミラー取付け用のミラーベース(
図1)、センサ、カメラ等を取り付けるためのブラケット、モール、プロテクタ、ピン、ホルダ、ヒンジ等であってよい。また、金属部品30を構成する金属は、1種の金属元素からなる単体金属であってもよいし、合金であってもよい。金属部品30を構成する金属は、例えば、アルミニウム、亜鉛、鉄、ステンレス等であってよい。
【0018】
金属部品30は、車両用窓ガラスのガラス板の主面に直接接着されてもよいし、車両用窓ガラスに形成された遮蔽層50に接触させて、接着されてもよい(
図1)。遮蔽層は、車両用窓ガラス1の周縁部に沿って設けられた、黒色、灰色、濃茶色有色のセラミックスペースト(ガラスペースト)が塗布され焼成されてなる層である。遮蔽層50は、車両において車両用窓ガラスを車体に装着して保持するためのシーラント等を紫外線等から保護する働きを有する。なお、窓ガラスが合わせガラスの場合、遮蔽層は、車外側のガラス板の車内面(中間膜に接する面)、及び車内側のガラス板の車内面の1以上に設けられていてよい。
【0019】
本形態で用いられる接着剤は、窓ガラスと金属部品との接着に用いられる接着剤であれば特に限定されず、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、変成シリコーン系、メラミン系、フェノール系、アクリル系等であってよい。また、一液型であってもよいし、二液型であってもよい。接着剤は、熱によって硬化が促進される接着剤、すなわち、熱トリガー型(熱カチオン、熱ラジカル等の加熱により硬化が促進されるもの)であること、若しくは熱硬化性ポリマーを主成分として含むことが好ましい。接着剤は、加熱硬化式(通常の使用形態で加熱を要するとされているもの)であってもよいし、常温硬化式(通常の使用形態で放置により硬化反応させ、加熱不要とされているもの)であってもよいが、本形態による方法では、常温硬化式の接着剤を好適に使用できる。接着剤の具体例としては、変成シリコーン/エポキシ接着剤、二液ウレタン接着剤、一液熱硬化ウレタン接着剤、第二世代アクリル系接着剤(SGA)等が挙げられる。
【0020】
本形態は、
図1及び
図2に示すような金属部品付き車両用窓ガラス1を製造する方法であって、金属部品30を車両用窓ガラス10の主面に接着剤20を用いて接着する際に、金属部品を局所的に加熱するものである。本明細書において、所定部品を局所的に加熱するとは、所定部品と組み合わされた構造体全体を加熱することではなく、所定部品を局所的に昇温させることを指す。例えば、熱に伴い所定部品、及び構造体のそれ以外の部品の温度を測定した場合、所定部品の温度が先行して上昇すること、若しくは所定部品の昇温速度が速くなっていることを指す。よって、金属部品30を局所的に加熱するためには、例えば、金属部品30に加熱手段を対向させる、又は加熱手段を接触させることで金属部品30を局所的に加熱することができる。
【0021】
本形態では、金属部品の局所的な加熱によって、接着剤を間接的に加熱し、接着剤を硬化させ、当該接着剤の接着機能を発揮させることができる。本形態による方法では、窓ガラスの主面の一部に接着剤を介して金属部品を配置した後、金属部品を加熱する。当該方法は、窓ガラスの主面に接着剤を介して金属部品を配置してなる構造体が置かれた雰囲気を加熱する等して構造体全体を加熱するのではないため、例えば金属部品を覆うための筐体等は不要である。また、そのような筐体内の比較的大きな体積の雰囲気を高温にするためには加熱装置は大がかりになり得るが、本形態ではそのような大がかりな装置も不要であり、製造のための装置もコンパクトにでき、コストも抑えられる。
【0022】
また、金属部品を局所加熱して接着剤を加熱するという本形態によれば、金属部品は熱伝導率が高いため、短時間で接着剤を昇温できる。よって、接着剤の温度を目標とする温度(狙い温度)まで上げるまでの時間を短縮でき、ひいては金属部品付き車両用窓ガラスの製造効率を上げることができる。また、接着剤以外の部分の昇温が抑えられるので、接着剤以外の部分が熱によるダメージを受けることを防止できる。
【0023】
本形態における加熱は無風で行うことが好ましい。本明細書において「無風で」とは、接着剤20を介して配置された窓ガラス10及び金属部品30からなる構造体に衝突する空気又はその他の気体(水蒸気を含む)の流れを発生させる手段を設けないことを指す。加熱を無風で行うことにより、小型部品の取り付けにおいて位置ズレを防止でき、また接着剤の形状変化等がないか若しくは少なく、汎用性も高い。
【0024】
図3に、本形態による製造方法における加熱で用いられる加熱手段の一例を模式的に示す。また、
図4に、
図3のII-II線断面図を示す。
【0025】
本形態による製造方法では、まず、窓ガラス10の主面に接着剤20を介して金属部品30を配置する。その際、接着剤は、金属部品30の接着面(窓ガラス10に対向する面)の全体に塗布されていてもよいし、部分的に塗布されていてもよい。接着剤20の厚みは、加熱前の状態で、0.1mm以上4mm以下とすることが好ましい。また、金属部品30と接着剤20とを接触させる前には、必要に応じて金属部品30の接着面にプライマーを塗布することができ、窓ガラス10と接着剤20とを接触させる前には、必要に応じて窓ガラス10の接着面にプライマーを塗布することもできる。
【0026】
金属部品30の局所的な加熱(局所加熱)は、輻射及び/又は伝導による伝熱を利用することが好ましい。中でも、所定波長の電磁波を照射する手段であると、部品に対して非接触で加熱を行うことができるので、表面形状が複雑な部品にも対応ができ、好ましい。また、近赤外線(波長780nm以上2500nm以下)を照射することによって加熱を行う加熱手段、例えばハロゲンランプヒータ(ハロゲンポイントヒータ、ハロゲンラインヒータ等)であると、電磁波エネルギーが金属に良好に吸収されるので金属を集中的に加熱でき、且つ金属部品以外の部分に加熱のダメージが及ぶことも防止できる。なお、本形態における加熱には、誘導加熱、レーザ、熱風等も利用できる。
【0027】
本形態における加熱の方法は、熱水や水蒸気を使用することを排除するものではないが、熱水や水蒸気を用いることなく効率良く加熱を行うことができる。そのため、乾燥工程等が不要であり、接着剤を含む部分を水に浸漬させたり過熱水蒸気中に配置したりする従来の方法に比べて、より簡単に接着剤の硬化を進めることができる。
【0028】
図3及び
図4に示す例では、加熱手段80としてハロゲンランプ加熱装置を示す。ハロゲンランプ加熱装置は、1つ又は複数のハロゲンランプヒータ本体81と、電源・制御部85とを備えていてよい。
図3及び
図4に示すように、塗布された接着剤20の面積が広い場合、接着剤全体をより均一に加熱できることから、ヒータ本体は複数あると好ましい。
【0029】
ハロゲンポイントヒータの場合、直径10mm以上100mm以下、焦点径1mm以上5mm以下のものを用いることが好ましい。また、ヒータは、焦点が金属部品30の表面又は内部に位置するように設置することが好ましい。
【0030】
金属部品30が加熱され、昇温すると、金属中の熱は、接触して配置されている接着剤20に熱伝導によって伝わる。加熱手段によって加熱が始まるのは金属部品30の露出面(接着剤20とは反対側の面)側となり得るが、金属は熱伝導率が高いため、金属からの熱は迅速に接着剤20に伝わることができる。これにより、接着剤20の温度が上昇し、硬化の速度を速めることができる。
【0031】
本形態における金属部品の局所加熱は、接着剤の温度が、接着剤の硬化のための目標温度(硬化狙い温度)に達するよう行うことができる。ここで、硬化狙い温度は、接着剤の種類、金属部品の種類、車両用窓ガラスの構成、接着剤の所望の硬化度合等によって決定できる。硬化狙い温度の決定に際しては、例えば複数の温度に対する接着剤のゲル化時間を測定した上で、決定してもよい。接着剤の硬化狙い温度は、常温(15~25℃)より高い温度であり、例えば40℃以上100℃以下であってよい。
【0032】
さらに、車両用窓ガラスが合わせガラスの場合であっても、本形態における金属部品の加熱によれば、中間膜に変性(発泡、変色、変形等)が生じないように行うことができる。例えば、本形態における加熱は、中間膜の温度が100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下で行うことができる。なお、従来の過熱水蒸気により接着部分を加熱する方法では、接着剤の温度を上げようとした場合、接着剤以外の部分も加熱せざるを得ない。そうすると、車両用窓ガラスが合わせガラスの場合には、中間膜を構成する樹脂が変性したり、内部に封入されていた空気が膨張したりして中間膜にダメージが生じ、合わせガラス内での発泡や、剥がれ、中間膜の変色等の不具合が生じ得る。これに対し、本形態のように金属部品を局所的に加熱する方法では、接着剤を迅速に昇温しつつも中間膜の過度な昇温を抑えることができる。そのため、合わせガラスにダメージを与えることなく、短時間での部品の接着が可能となる。
【0033】
なお、本形態における加熱では、金属部品30が達する温度は、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃であってよい。また、加熱に際して車両用窓ガラス(ガラス板の表面、若しくは遮蔽層)が達する温度は、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下であってよい。
【0034】
本形態では、金属部品と車両用窓ガラスとの接着強度も十分であり、例えば引っ張り接着強さ試験(JIS K 6849)による測定方法で1.0MPa以上の接着強度を達成することができる。また、引っ張り接着強さ試験(JIS K 6849)による評価方法で90%以上という良好な凝集破壊率(CF率)も達成できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態についてさらに詳説する。本実施例では、様々な条件で、部品を接着剤によって窓ガラスの主面に接着し、部品付き自動車用窓ガラスを作製した。
【0036】
本実施例における測定・評価は以下のようにして行った。
【0037】
<接着剤の硬化狙い温度(狙い値)の決定>
硬化狙い温度は、硬化工程において加熱される接着剤が達すべき所望の温度である。短時間で高温に接着剤を上昇させる場合、接着剤の分解が起こる懸念がある一方で、低温で加熱すると十分な硬化度が得られず性能を発揮することが出来ない可能性がある。加えて、被着体の耐熱性を鑑みた上で狙い温度を決定する必要もある。本実施例では、使用される接着剤ごとに、複数の温度に対するゲル化時間を測定して、接着剤や被着体にダメージが出ない温度範囲で、最も高い温度となるゲル化温度を硬化狙い値とした。なお、ゲル化時間の測定は、JIS K 6910:2007におけるゲル化時間A法に準拠した方法で測定した。
【0038】
<外観評価>
部品の状態を目視により、部品、接着剤、及び合わせガラスの状態をそれぞれ評価した。加熱開始前と比較して、色及び/又は形に変化があった場合、その変化、変色(焦げを含む)、変形等というように記録した。一方、加熱開始前と比較して、色及び/又は形に変化がなかった場合、「良好」と評価した。
【0039】
<硬化時間>
加熱を開始してから(加熱手段の作動を開始してから)、接着剤が上述の硬化狙い温度に達するまでの時間を記録した。
【0040】
<接着性評価>
(強度)
加熱終了から1時間経過した後、引っ張り接着強さ試験(JIS K 6849)に準拠する方法によって強度を測定した。なお、加熱を行わなかった例(例9)の場合には、部品を接着剤を介して窓ガラスに配置してから1時間後に強度を測定した。
【0041】
(熱水試験後CF率)
完全硬化した後、40℃の熱水に240時間浸漬した。その後、引っ張り接着強さ試験(JIS K 6849)によって評価を行った。破壊の状態を目視によって観察し、接着剤が凝集破壊している面積の割合を、凝集破壊率(CF率、単位%)とした。なお、CF率0%とは、接着剤が全く凝集破壊しておらず、界面剥離が起こっている状態であり、CF率100%とは、接着剤が塗布された全面にわたって凝集破壊している状態である。CF率が高い程、接着剤に凝集破壊が生じた割合が大きく、部品と接着剤との接着性が良好であった。
【0042】
(例1)
板厚2mmの2枚のガラス板をポリビニルブチラール中間膜(0.73mm)を介して貼り合わせてなる合わせガラスのサンプル(100mm×100mm)を準備した。合わせガラスのサンプルの一方の面には、セラミックスペーストが焼成されてなる遮蔽層が形成されていた。ステンレス製ミラーベース(長さ700mm、最大幅250mm、接着面の面積約950mm2)の接着面全面に計1.1gの二液変成シリコーン/エポキシ接着剤(コニシ社製「MOS400」)を塗布し、接着剤が塗布された面を上記合わせガラスサンプルの遮蔽層が形成されている面に配置した。その際、ミラーベースと合わせガラスとに間に挟まれた接着剤の厚みが1.0mmになるようにした。なお、ミラーベース(部品)の接着面は、窓ガラスの主面に対向させる側の平坦な面の面積である。
【0043】
加熱手段として、開口径18mmのハロゲンポイントヒータ(近赤外ヒータ、フィンテック社製「HSH-18」)3つを備えた装置を用いた。当該ヒータの照射口がミラーベースの接着面と反対側の面に対向するように、ミラーベースの長手方向に並ぶように互いに離間させて配置した。この際、上記ハロゲンポイントヒータの開口からミラーベースの対向面までの距離が3mmとなるように配置した。焦点距離は9mm、焦点径は2.5mmであった。このハロゲンポイントヒータを出力50%~90%、照射時間30秒~60秒の条件で作動させ、接着剤の温度、並びに合わせガラスに形成された遮蔽層の温度、及び中間膜の温度をそれぞれ測定しつつ、接着剤の温度が硬化狙い温度に達するまで加熱手段による加熱を行った。加熱後、各例で得られた部品付き合わせガラス(部品付き自動車用窓ガラス)の接着部分の接着強度、及び熱水試験後CF率を求めた。
【0044】
(例2)
ミラーベースをアルミニウム製に替えたこと以外は例1と同様にして(ミラーベースのサイズ、形状も例1と同様)、部品(ミラーベース)を接着剤を介して合わせガラスの遮蔽層に配置し、ハロゲンポイントヒータによる加熱を行った。
【0045】
(例3)
ミラーベースを亜鉛製に替えたこと以外は例1と同様にして(ミラーベースのサイズ、形状も例1と同様)、部品(ミラーベース)を接着剤を介して合わせガラスの遮蔽層に配置し、ハロゲンポイントヒータによる加熱を行った。
【0046】
(例4)
ミラーベースに替えて、部品として鉄製のセンサブラケット(長手方向長さ74mm、幅方向長さ3.8mm、接着面の面積320mm2)を使用した。なお、センサブラケット(部品)の接着面の面積は、窓ガラスの主面に対向させる側の平坦な面の面積である。センサブラケットの接着面全面に、例1と同様の二液変成シリコーン/エポキシ接着剤を塗布し、例1と同様、合わせガラスに配置した。接着剤の厚みは0.6mmになるようにした。
【0047】
加熱手段として、開口径12mmのハロゲンポイントヒータ(フィンテック社製「HSH-12」)4つを備えた装置を用いた。当該ヒータの照射口がブラケットの露出面(接着面と反対側の面)に対向するように、全体として矩形のブラケットの角にそれぞれ配置した。この際、上記ハロゲンポイントヒータの開口からブラケットの対向面までの距離が3mmとなるように配置した。焦点距離は6mm、焦点径は1.5mmであった。このハロゲンポイントヒータを出力70%、照射時間60秒の条件で作動させた。
【0048】
(例5)
接着剤を一液熱硬化ウレタン接着剤(サンスター社製「Penguin Cement #8800」)に替え、さらに接着剤を塗布する前にガラスの接着面にプライマー(サンスター社製「SC-241」)を塗布したこと以外は、例1と同様にして実験を行った。
【0049】
(例6)
接着剤を二液ウレタン接着剤(ヘンケルジャパン社製「Hysol-10FL」)に替え照射時間を90秒の条件で、例1と同様にして実験を行った。
【0050】
(例7)
加熱手段として、ハロゲンポイントヒータに替えて誘導加熱装置を利用したこと以外は、例1と同様にして実験を行った。誘導加熱装置(熱産ヒート社製「iDuctor2」)のコイル部分を、ミラーベースの露出面(接着剤と反対側の面)外周に配置し、出力70%、昇温時間60秒の条件で操作した。
【0051】
(例8)
加熱手段として、ハロゲンポイントヒータに替えてレーザ発生装置を利用したこと以外は、例1と同様にして実験を行った。レーザ発生装置(浜松フォトニクス社製「LD照射高原」)は、出力30W、周波数940nm、集光径1.6mmの条件で調整し、レーザ光を、ミラーベースの露出面に当てた。
【0052】
(例9)
加熱を行わなかったこと以外は例1と同様の手順を踏んだ。すなわち、ミラーベースを接着剤を介して、合わせガラスサンプルの遮蔽層が形成された面に配置した。
【0053】
(例10)
加熱手段として、ハロゲンポイントヒータに替えてオーブンを用いたこと以外は、例1と同様にして実験を行った。ミラーベースを接着剤を介して合わせガラスサンプルの遮蔽層上に配置し、オーブン(ESPEC社製「PV-222」)内に置いた。オーブンは、90℃の条件で運転した。
【0054】
(例11)
加熱手段として、ハロゲンポイントヒータに替えて遠赤外線ヒータを用いたこと以外は、例1と同様にして実験を行った。より具体的には、遠赤外線ヒータ(日本ヒーター社製「QFE-125」)の加熱面を、ミラーベースの露出面に200mmの間隔を置いて対向させ、ヒータを出力125W、加熱時間150秒の条件で運転した。
【0055】
(例12)
鉄製のセンサブラケットに替えて、ポリブチレンテレフタレート(PBT)製のセンサブランケットを用いたこと以外は、例4と同様にして実験を行った。本例で用いたセンサブラケットのサイズ及び形状は、例4で用いたセンサブラケットとほぼ同じであった。
【0056】
(例13)
鉄製のセンサブラケットに替えて、ポリアミド(PA)製のセンサブランケットを用いたこと以外は、例4と同様にして実験を行った。本例で用いたセンサブラケットのサイズ及び形状は、例4で用いたセンサブラケットとほぼ同じであった。
【0057】
(例14)
鉄製のセンサブラケットに替えて、ポリカーボネート(PC)製のセンサブランケットを用いたこと以外は、例4と同様にして実験を行った。本例で用いたセンサブラケットのサイズ及び形状は、例4で用いたセンサブラケットとほぼ同じであった。
【0058】
表1及び表2に、実験条件及び結果を示す。例1~8が実施例であり、例9~14が比較例である。
【0059】
【0060】
【0061】
表1及び表2に示すように、金属部品を局所的に加熱することによって接着剤を間接的に加熱した例1~8では、短い時間で接着剤の温度が所望温度(硬化狙い温度)に達し、且つ接着剤以外の部分、すなわち部品自体及び合わせガラス(特に中間膜)へのダメージもなかった。また、例1~8で得られた部品付き自動車用窓ガラスの部品の接着性も十分なものであった。
【0062】
一方、加熱を行わなかった例9について、例1と同等時間後に接着性を評価したが、部品の接着性は低かった。また、加熱を行ったが部品を局所的に加熱しなかった例10、11の場合には、接着剤の温度が所望温度に達するまでに時間がかかった。特に例11では、中間膜の温度が上がって中間膜が発泡するという不都合が生じることが分かった。さらに、金属製でなく、樹脂製部品を用いた例12~14の場合には、本形態のような部品を局所的に加熱する方法では、樹脂部品自体に焦げや変形が生じるということが分かった。
【0063】
以上、本発明を実施形態及び実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施形態及び実施例によって限定されるものではない。また、上記実施形態は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、様々な変更、修正、置換、付加、削除、及び組合せ等が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に属する。
【0064】
本出願は、2021年6月10日に出願された日本国特許出願2021-097651号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容をここに援用する。
【符号の説明】
【0065】
1 部品付き車両用窓ガラス
10 車両用窓ガラス
11、12 ガラス板
15 中間膜
20 接着剤
30 金属製部品
50 遮蔽層
80 加熱手段
81 ハロゲンランプヒータ
85 電源・制御部