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7777122フォトクロミックレンズの製造方法、フォトクロミックレンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-18
(45)【発行日】2025-11-27
(54)【発明の名称】フォトクロミックレンズの製造方法、フォトクロミックレンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/10 20060101AFI20251119BHJP
   G02B 5/23 20060101ALI20251119BHJP
   B29C 39/10 20060101ALI20251119BHJP
【FI】
G02C7/10
G02B5/23
B29C39/10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023508884
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2022009072
(87)【国際公開番号】W WO2022202182
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021046914
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】加曽利 祐基
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸介
(72)【発明者】
【氏名】末杉 幸治
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/005391(WO,A1)
【文献】特開2017-040819(JP,A)
【文献】特開平08-216271(JP,A)
【文献】国際公開第2020/230889(WO,A1)
【文献】特開2020-139085(JP,A)
【文献】特開2008-030439(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0231839(US,A1)
【文献】特開2015-069045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/10
G02B 5/23
B29C39/00-39/44
B29D11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円形状の基板と、
前記基板の面と対向するように配置された略円形状の樹脂基板と、
前記基板の周端部および前記樹脂基板の周端部を固定する固定部材と、
前記基板と前記樹脂基板との間に形成された、略円中心部の厚さ方向の幅が0.1~0.7mmの間隙と、
前記固定部材に設けられた、前記間隙内に重合性組成物を注入するための注入部と、
前記間隙の周縁の少なくとも一部に形成された、前記注入部と前記間隙とを連通する空間と、を備え、
前記空間は前記樹脂基板の周縁の少なくとも一部に形成され、当該空間の厚さ方向の幅は当該間隙の厚さ方向の幅よりも大きい、注入成形装置を用いた、フォトクロミックレンズの製造方法であって、
前記注入部から、前記重合性組成物を注入し、前記空間を介して前記間隙に当該重合性組成物を充填する工程と、
充填された前記重合性組成物を加熱して重合硬化させ、前記樹脂基板上にフォトクロミック層を形成する工程と、
得られた前記樹脂基板と前記フォトクロミック層とからなる積層体を取り出す工程と、
を含み、
前記フォトクロミック層の略円中心部の厚みが0.1mm~0.7mmであって、
前記重合性組成物は、イソシアネート化合物、チオール化合物、ポリオール化合物、およびフォトクロミック化合物を含有し、かつ、当該フォトクロミック化合物を1,000ppm~8,000ppm含有する、フォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項2】
前記フォトクロミック化合物がナフトピラン系化合物である、請求項1に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項3】
前記ポリオール化合物が下記一般式(iia)で表される化合物である、請求項1または2に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【化10】
(一般式(iia)中、RおよびRは、水素原子あるいは炭素数1~18のアルキル基を表し、少なくともどちらか一方は水素原子である。複数存在するR同士は同一または相異なっていてもよく、複数存在するR同士は同一または相異なっていてもよい。mは15以上500以下の整数を示す。)
【請求項4】
前記樹脂基板がチオウレタン樹脂を含む、請求項1~3いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項5】
前記重合性組成物の粘度(25℃)が5~1000mPa・sである、請求項1~4いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項6】
前記積層体を取り出す前記工程のあと、さらに
前記積層体の周縁の前記空間内で重合硬化した前記重合性組成物を除去し、前記間隙内で重合硬化して得られた前記フォトクロミック層を当該積層体の端面に露出させる工程を含む、請求項1~5いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項7】
対物面を備えるフォトクロミック層と、前記フォトクロミック層上に積層された樹脂基板と、を備え、
前記フォトクロミック層は、イソシアネート化合物、チオール化合物、ポリオール化合物、およびフォトクロミック化合物を含有する重合性組成物の重合硬化物からなり、かつ、当該フォトクロミック化合物を1,000ppm~8,000ppm含有し、
前記フォトクロミック層の略円中心部の厚みが0.1mm~0.7mmであり、
前記フォトクロミック層の周縁の少なくとも一部に突出部を有し、当該突出部の厚みが、当該周縁に囲まれた部分の厚みより厚い、フォトクロミックレンズ。
【請求項8】
前記フォトクロミック層の周縁部の4点平均厚みが0.1~2.5mmである、請求項7に記載のフォトクロミックレンズ。
【請求項9】
前記フォトクロミック層の周縁部の4点平均厚みと、前記フォトクロミック層の略円中心部の厚みとの差が、0.3mm以下である、請求項7または8に記載のフォトクロミックレンズ。
【請求項10】
前記フォトクロミックレンズの初期視感透過率が80%以上である、請求項7~9いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズ。
【請求項11】
前記対物面を備える前記フォトクロミック層と、前記樹脂基板と、が接している請求項7~10いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズ。
【請求項12】
前記フォトクロミック化合物が、ナフトピラン系化合物である、請求項7~11いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズ。
【請求項13】
前記ポリオール化合物が下記一般式(iia)で表される化合物である、請求項7~12いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズ。
【化11】
(一般式(iia)中、RおよびRは、水素原子あるいは炭素数1~18のアルキル基を表し、少なくともどちらか一方は水素原子である。複数存在するR同士は同一または相異なっていてもよく、複数存在するR同士は同一または相異なっていてもよい。mは15以上500以下の整数を示す。)
【請求項14】
前記樹脂基板がポリチオウレタン樹脂を含む、請求項7~13いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミックレンズの製造方法、フォトクロミックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
重合性化合物を含む組成物を重合し成形体を得る方法としては、注型重合法等が挙げられる。注型重合法においては、2つのモールド基板が対向した状態で、その周縁部を固定部材で固定し、2つのモールド基板の空間に前記組成物を注入する手段を備える注入成形装置が一般的に用いられる。そして、当該空間内に前記組成物を注入し、次いで重合硬化させる方法により成形体が得られる。
【0003】
近年では、フォトクロミック性能を有するプラスチックレンズの開発が進められている。フォトクロミック性能を有するプラスチックレンズを作製するには、いくつかの製法がある。プラスチックレンズの製法としては、フォトクロミック化合物をプラスチックレンズ基材中に添加してフォトクロミックレンズを作製するインマス方式(特許文献1)、フォトクロミック化合物が添加されていないプラスチックレンズ基材を、フォトクロミック化合物を含むコートによりコーティングしてフォトクロミックレンズを作製するコート方式(特許文献2)などが挙げられる。
また、特許文献3には、所定の金型を用いた成形体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/141306号
【文献】国際公開第2003/58300号
【文献】国際公開第2020/230889号
【非特許文献】
【0005】
【文献】P. Alexandridis, T.A. Hatton/Colloids Surfaces A: Physicochem. Eng. Aspects 96 (1995) 1-46
【文献】Phys. Chem. Chem. Phys., 1999, 1, 3331-3334
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フォトクロミックレンズは、その効果を発揮させるために受光する対物面側に所定量のフォトクロミック化合物を存在させる必要がある。
特許文献1に記載のインマス方式で得られたフォトクロミックレンズにおいては、対物面側に必要とされるフォトクロミック化合物の濃度を基準とした組成物が用いられることから、レンズ全体のフォトクロミック化合物の総量が多くなり、初期の着色が認められる場合があった。
【0007】
特許文献2に記載のコート方式で得られたフォトクロミックレンズは、対物面側に形成された薄膜のコート層に所定量のフォトクロミック化合物を高濃度で含む必要があり、初期の着色が認められる場合があった。
特許文献3には、フォトクロミックレンズの製造方法については具体的に開示されておらず、フォトクロミック化合物を用いた場合の課題について示唆されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、所定の製造方法によれば、フォトクロミックレンズを2層構造とし、フォトクロミック化合物を含む対物面側の層を所定の厚みとすることが可能となることから、対物面側の層にのみフォトクロミック化合物を適切な濃度で含有させることができ、得られたフォトクロミックレンズは、初期の着色が抑制され、さらにフォトクロ応答性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0009】
[1]
略円形状の基板と、
前記基板の面と対向するように配置された略円形状の樹脂基板と、
前記基板の周端部および前記樹脂基板の周端部を固定する固定部材と、
前記基板と前記樹脂基板との間に形成された、略円中心部の厚さ方向の幅が0.1~2.5mmの間隙と、
前記固定部材に設けられた、前記間隙内に重合性組成物を注入するための注入部と、
前記間隙の周縁の少なくとも一部に形成された、前記注入部と前記間隙とを連通する空間と、を備え、
前記空間は前記樹脂基板の周縁の少なくとも一部に形成され、当該空間の厚さ方向の幅は当該間隙の厚さ方向の幅よりも大きい、注入成形装置を用いた、フォトクロミックレンズの製造方法であって、
前記注入部から、前記重合性組成物を注入し、前記空間を介して前記間隙に当該重合性組成物を充填する工程と、
充填された前記重合性組成物を加熱して重合硬化させ、前記樹脂基板上にフォトクロミック層を形成する工程と、
得られた前記樹脂基板と前記フォトクロミック層とからなる積層体を取り出す工程と、
を含み、
前記重合性組成物は、イソシアネート化合物と、チオール化合物と、ポリオール化合物と、フォトクロミック化合物と、を含有する、フォトクロミックレンズの製造方法。
[2]
前記重合組成物は、前記フォトクロミック化合物を100~10,000ppm含有する、[1]に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[3]
前記フォトクロミック化合物がナフトピラン系化合物である、[1]または[2]に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[4]
前記ポリオール化合物が下記一般式(iia)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれか一項に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【化1】
(一般式(iia)中、RおよびRは、水素原子あるいは炭素数1~18のアルキル基を表し、少なくともどちらか一方は水素原子である。複数存在するR同士は同一または相異なっていてもよく、複数存在するR同士は同一または相異なっていてもよい。mは15以上500以下の整数を示す。)
[5]
前記樹脂基板がチオウレタン樹脂を含む、[1]~[4]いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[6]
前記重合性組成物の粘度(25℃)が5~1000mPa・sである、[1]~[5]いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[7]
前記積層体を取り出す前記工程のあと、さらに
前記積層体の周縁の前記空間内で重合硬化した前記重合性組成物を除去し、前記間隙内で重合硬化して得られた前記フォトクロミック層を当該積層体の端面に露出させる工程を含む、[1]~[6]いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[8]
対物面を備えるフォトクロミック層と、前記フォトクロミック層上に積層された樹脂基板と、を備え、
前記フォトクロミック層の略円中心部の厚みが0.1~2.5mmであり、
前記フォトクロミック層にフォトクロミック化合物を含有する、フォトクロミックレンズ。
[9]
前記フォトクロミック層の周縁部の4点平均厚みが0.1~2.5mmである、[8]に記載のフォトクロミックレンズ。
[10]
前記フォトクロミック層の周縁部の4点平均厚みと、前記フォトクロミック層の略円中心部の厚みとの差が、0.3mm以下である、[8]または[9]に記載のフォトクロミックレンズ。
[11]
前記フォトクロミック層の周縁の少なくとも一部の厚みが、当該周縁に囲まれた部分の厚みより厚い、[8]または[9]に記載のフォトクロミックレンズ。
[12]
前記フォトクロミック層は、前記フォトクロミック化合物を100~10,000ppm含有する、[8]~[11]いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズ。
[13]
前記フォトクロミックレンズの初期視感透過率が80%以上である、[8]~[12]いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズ。
[14]
前記対物面を備える前記フォトクロミック層と、前記樹脂基板と、が接している[8]~[13]いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズ。
[15]
前記フォトクロミック化合物が、ナフトピラン系化合物である、[8]~[14]いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズ。
[16]
前記フォトクロミック層は、イソシアネート化合物と、チオール化合物と、ポリオール化合物と、をさらに含有する、[8]~[15]のいずれか一項に記載のフォトクロミックレンズ。
[17]
前記ポリオール化合物が下記一般式(iia)で表される化合物である、[16]に記載のフォトクロミックレンズ。
【化2】
(一般式(iia)中、RおよびRは、水素原子あるいは炭素数1~18のアルキル基を表し、少なくともどちらか一方は水素原子である。複数存在するR同士は同一または相異なっていてもよく、複数存在するR同士は同一または相異なっていてもよい。mは15以上500以下の整数を示す。)
[18]
前記樹脂基板がポリチオウレタン樹脂を含む、[8]~[17]いずれか一項に記載のフォトクロミックレンズ。
【0010】
本発明において、「初期」とは光が照射されずフォトクロミック化合物が発色していない状態を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、初期の着色が抑制されており、さらにフォトクロ応答性にも優れたフォトクロミックレンズが得られるフォトクロミックレンズの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は第1実施形態の注入成形装置を模式的に示す概略断面図である。
図2図2は第1実施形態の注入成形装置を模式的に示す概略平面図である。
図3図3は第1実施形態の注入成形装置における空間断面の他の態様を模式的に示す拡大断面図である。
図4図4は第1実施形態の注入成形装置における空間断面の他の態様を模式的に示す拡大断面図である。
図5図5は第1実施形態の注入成形装置における空間断面の他の態様を模式的に示す拡大断面図である。
図6図6は第2実施形態の注入成形装置を模式的に示す概略断面図である。
図7図7は本実施形態の積層レンズ(積層体)の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のフォトクロミックレンズの製造方法について説明する。
本発明のフォトクロミックレンズの製造方法は、
略円形状の基板と、前記基板の面と対向するように配置された略円形状の樹脂基板と、前記基板の周端部および前記樹脂基板の周端部を固定する固定部材と、前記基板と前記樹脂基板との間に形成された、略円中心部の厚さ方向の幅が0.1~2.5mmの間隙と、前記固定部材に設けられた、前記間隙内に重合性組成物を注入するための注入部と、前記間隙の周縁の少なくとも一部に形成された、前記注入部と前記間隙とを連通する空間と、を備え、前記空間は前記樹脂基板の周縁の少なくとも一部に形成され、当該空間の厚さ方向の幅は当該間隙の厚さ方向の幅よりも大きい、注入成形装置を用いて行われる。
具体的に、前記注入部から、イソシアネート化合物、チオール化合物と、ポリオール化合物と、フォトクロミック化合物と、を含有した前記重合性組成物を注入し、前記空間を介して前記間隙に当該重合性組成物を充填する工程と、
充填された前記重合性組成物を加熱して重合硬化させ、前記樹脂基板上にフォトクロミック層(フォトクロミック化合物含有層)を形成する工程と、
得られた前記樹脂基板と前記フォトクロミック層とからなる積層体を取り出す工程と、
を含む。
【0014】
本発明の注入成形装置を用いたフォトクロミックレンズの製造方法によれば、樹脂基板上に所定の層厚を有するフォトクロミック層を積層することができ、初期の着色が抑制されており、フォトクロ応答性に優れたフォトクロミックレンズが得られる。さらに、重合性組成物を、基板と樹脂基板との間に形成される間隙に均一に充填することができ、気泡の混入や脈理の発生等が抑制された外観に優れたフォトクロミックレンズを製造することができる。
【0015】
本発明の注入成形装置を用いたフォトクロミックレンズの製造方法を実施の形態により説明する。実施形態について添付の図面を参照して第1実施形態または第2実施形態により説明する。なお、同一の符号については適宜説明を省略する。本実施形態において、「~」は特に断りがなければ「以上」から「以下」を表す。
【0016】
まず、本実施形態のフォトクロミックレンズの製造方法に用いられる注入成形装置について、第1実施形態または第2実施形態により説明する。
【0017】
[第1実施形態]
図1の概略断面図に示すように、本実施形態の注入成形装置10は、略円形状の基板12と、基板12の面12aと対向するように配置された略円形状の樹脂基板14と、基板12の周端部および樹脂基板14の周端部を固定する固定部材16と、固定部材16に設けられた、基板12と樹脂基板14との間隙20内に重合性組成物を注入するための注入部18と、を備える。間隙20の周縁全体に亘って空間22を備える。本実施形態において、間隙20内に充填した重合性組成物を重合することによって、成形体を得ることができる。
【0018】
略円形状の基板12は、間隙20内で成形体を調製することができれば特に限定されないが、例えばガラス、金属、樹脂等から構成することができる。略円形状の基板12は、モールド基板として用いることができ、間隙20内で形成された薄膜状の成形体と基板12との積層体とすることもできる。基板12は、樹脂基板14と対向する面12aを有する。成形体を光学レンズの積層膜として用いる場合、面12aは対物面を形成するための形成面とすることができる。
【0019】
略円形状の樹脂基板14は、間隙20内で成形体を調製することができれば特に限定されないが、ポリ(チオ)ウレタン、ポリ(チオ)ウレタンウレア、ポリスルフイド(例えばポリエピスルフィド、ポリエンーポリチオール重合体、ポリチオエーテル等)、ポリエポキシド、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ADC(アリルジグリコールカーボネート)、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、開環メタセシス重合体、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリアミド及びポリイミド等から選択される樹脂から構成することができる。略円形状の樹脂基板14は、間隙20内で形成された薄膜状のフォトクロミック層とともに積層体(フォトクロミックレンズ)を得ることができる。
【0020】
前記フォトクロミック層は後述するようにチオウレタン樹脂からなることから、樹脂基板14はポリエピスルフィド樹脂、ポリウレタン樹脂またはポリチオウレタン樹脂からなることが好ましく、ポリエピスルフィド樹脂またはポリチオウレタン樹脂がより好ましい。樹脂基板14に含まれる樹脂を構成するモノマー成分としては、後述する重合性組成物に含まれるモノマー成分を挙げることができ、これらのモノマー成分は同一でも異なっていてもよい。
【0021】
略円形状の樹脂基板14は、基板12の面12aと対向する面14aを備え、基板12と樹脂基板14は同一方向に湾曲している。面(湾曲面)12aと面(湾曲面)14aの曲率半径は略同一であり、これらの面の間の間隙20の厚さ方向の幅は略同一であることが好ましい。間隙20の厚さ方向の幅は0.1mm~2.5mm、好ましくは0.3mm~2.0mm、さらに好ましくは0.5mm~1.5mm、特に好ましくは0.6mm~1.2mmである。また、間隙20の厚さ方向の幅の下限値は、0.1mm以上であり、好ましくは0.3mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上であり、特に好ましくは0.6mm以上である。一方、間隙20の厚さ方向の幅の上限値は、2.5mm以下であり、好ましくは2.0mm以下であり、さらに好ましくは1.5mm以下であり、特に好ましくは1.2mm以下である。
間隙20の厚さ方向の幅を上記下限値以上とすることにより、間隙20内で重合性組成物が適度に流動し均一に充填されるため、フォトクロミック化合物の偏りを低減できるようになる。一方、間隙20の厚さ方向の幅を上記上限値以下とすることにより、樹脂基板14上に所定の層厚を有するフォトクロミック層を積層することができ、フォトクロミック化合物の濃度を高めても、初期の着色を抑制しやすくなり、フォトクロ応答性に優れたフォトクロミックレンズを得ることができる。
【0022】
なお、間隙20とは、樹脂基板14の面14aと、基板12の面12aとが対向するように配置したときに両者の間に形成される隙間である。また、樹脂基板14の面14aと、基板12の面12aとは、少なくとも一部が平行に配置されることで、間隙20に充填される重合性組成物によって得られるフォトクロミック層の厚みを均一にすることができる。間隙20の厚み方向の幅とは、面14aと面12aの最短距離の平均を意図し、後に得られるフォトクロミック層の厚みに相当する。
【0023】
本実施形態の注入成形装置10を製造方法によれば、このような幅の間隙20であっても、空間22を介して重合性組成物を充填するため、間隙20内に気泡が混入することを抑制しつつ、均一に充填することができ、気泡の混入等が抑制された外観に優れたフォトクロミックレンズを製造することができる。
また、従来技術においては、スピンコート法等を用いて重合性組成物を塗工しフォトクロミック層を得ていたため、フォトクロミック層の周縁部でのフォトクロミック化合物濃度が高くなりやすい傾向があった。これに対し、本実施形態では、間隙20内に重合性組成物を均一に充填できるため、フォトクロミック化合物の偏りを低減できる。
【0024】
樹脂基板14は、その周縁の全周に亘って切欠き部24を有する。図1に示すように、注入成形装置10は、樹脂基板14の切欠き部24と基板12と固定部材16とによって囲繞された空間22を備える。空間22の基板厚さ方向の幅iは、間隙20の幅より大きければ特に限定されず、上限値は樹脂基板14の厚さや強度等により適宜変化し得る。空間22の基板直径方向の幅iは、例えば、1~10mm程度であることが好ましい。
【0025】
図1に示すように、空間22の樹脂基板14の直径方向の幅ii(換言すると、樹脂基板14の端部から樹脂14の中心に向かう長さ)は、空間22が形成されていれば特に限定されないが、1~10mm程度であることが好ましい。
樹脂基板14の直径iiiは、50mm~100mm程度である。
樹脂基板14の直径iiiに対する空間22の基板直径方向の幅iiの比(ii/iii)は、0を超え0.27以下であり、好ましくは0.01~0.27程度である。
【0026】
図1に示すように、空間22は注入部18および間隙20と連通しており、図2の概略平面図に示すように、注入部18から注入された重合性組成物を、空間22を介して間隙20に充填することができるように構成されている。
すなわち、本実施形態の重合性組成物は後述するように比較的粘度が高いものであるため充填時に気泡を巻き込みやすい傾向があるが、本実施形態の注入成形装置10によれば、幅が広い空間22を介して間隙20に重合性組成物が充填されるため、気泡の混入を抑制することができる。
【0027】
本実施形態においては、基板12および樹脂基板14はモールド基板として用いることができる。本実施形態においては、間隙20内で形成された薄膜状のフォトクロミック層と樹脂基板14との積層体をフォトクロミックレンズとして用いることから、基板12は対物面を形成するための形成面(面12a)を樹脂基板14側に備えるモールド基板であり、樹脂基板14の凹面は対眼面とすることができる。
【0028】
固定部材16は、基板12の面12aと樹脂基板14の面14aとを対向して配置できれば特に限定されないが、テープまたはガスケット等から構成することができる。テープは基板12の周端部と樹脂基板14の周端部を巻き回すことによりこれらの位置を固定することができる。また、基板12の面12aと樹脂基板14の面14aとの少なくとも一部の領域が平行になるように固定されることが好適である。
【0029】
図示されない注入部18は、空間22内に重合性組成物を注入できるように固定部材16に設けられる。例えば、開口部や注入装置のジョイント等が挙げられる。注入部18から空間22内に重合性組成物を注入することができ、注入部18には、ピペットチップ、注射器、自動注入装置等の注入手段を接続することもできる。
本実施形態において用いられる重合性組成物の粘度は5~1000mPa・s、好ましくは10~500mPa・sとすることができる。
重合性組成物の粘度は、B型粘度計を用いて25℃で測定することができる。
【0030】
本実施形態の注入成形装置10は、このような粘度の重合性組成物であっても、空間22を介して当該重合性組成物を間隙20内に均一に充填することができ、樹脂基板14上に所定の層厚を有するフォトクロミック層を積層することができ、初期の着色が抑制されており、フォトクロ応答性に優れたフォトクロミックレンズを得ることができるとともに、気泡の混入等が抑制された外観に優れたフォトクロミックレンズを製造することができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【0032】
図1においては、空間22が、樹脂基板14の切欠き部24と基板12と固定部材16とによって囲繞されて形成された例によって示したが、樹脂基板14の周縁の全周に亘って断面U字形状の溝が設けられ、空間22が樹脂基板14に形成された溝と基板12により形成されていてもよい。
図1においては、基板12の面12aが凹面、樹脂基板14の面14aが凸面となる例によって説明したが、面12aが凸面、面14aが凹面であってもよい。
【0033】
図1においては、基板12と樹脂基板14が湾曲した例によって説明したが、成形体に用途によって様々な形状を採用することができ、例えば基板12と樹脂基板14は何れも略円形状の平板であってもよい。すなわち、樹脂基板14としては、両面が湾曲面である樹脂レンズ、面14aのみが湾曲面である樹脂レンズ、または両面が平らな樹脂平板を挙げることができる。他の実施形態においても同様である。
【0034】
図1においては、空間22が樹脂基板14の周縁の全周に亘って設けられている例によって説明したが、図3に示すように、空間22が樹脂基板14の周縁の略半周に亘って設けられていてもよく、略半周(1/2)から全周未満において選択されるいずれかの位置まで設けられていてもよい。また、空間22は、連続であるものに限られず、非連続のものが複数設けられていてもよい。
【0035】
図4に示すように、切欠き部24が基板12の周縁に設けられて空間22を形成していてもよく、図5に示すように、切欠き部24が基板12および樹脂基板14の周縁に設けられて空間22を形成していてもよい。さらに、切欠き部24が、円周方向に基板12および樹脂基板14に互い違いに設けられていてもよい。
【0036】
[第2実施形態]
図6の概略断面図に示すように、本実施形態の注入成形装置10は、略円形状の基板12と、基板12の面12aと対向するように配置された略円形状の樹脂基板15と、基板12の周端部および樹脂基板15の周端部を固定する固定部材16と、固定部材16に設けられた、基板12と樹脂基板15との間隙20内に重合性組成物を注入するための注入部18と、を備える。
基板12の湾曲面12aと、湾曲面12aと対向する樹脂基板15の湾曲面15aとの間に間隙20を備え、樹脂基板15の湾曲面15aの周縁の湾曲面15bの曲率半径bが、周縁に囲まれた湾曲面15aの曲率半径aよりも小さい。これにより、間隙20の周縁に空間23が形成される。
略円形状の基板12および面12a、図示されない注入部18は、第1実施形態と同様であり説明を省略する。
基板12の湾曲面12aと、湾曲面12aと対向する樹脂基板15の湾曲面15aとの間は少なくとも一部が平行であり、間隙20は当該平行な空間に設けられる。
【0037】
略円形状の樹脂基板15は、間隙20内で成形体を調製することができれば特に限定されないが、ポリ(チオ)ウレタン、ポリ(チオ)ウレタンウレア、ポリスルフイド(例えばポリエピスルフィド、ポリエンーポリチオール重合体、ポリチオエーテル等)、ポリエポキシド、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ADC(アリルジグリコールカーボネート)、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、開環メタセシス重合体、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリアミド及びポリイミド等から選択される樹脂から構成することができる。略円形状の樹脂基板14は、間隙20内で形成された薄膜状のフォトクロミック層とともに積層体(フォトクロミックレンズ)を得ることができる。
前記フォトクロミック層(フォトクロミック化合物含有層)は後述するようにチオウレタン樹脂からなることから、樹脂基板15はウレタン樹脂またはチオウレタン樹脂からなることが好ましく、チオウレタン樹脂がより好ましい。樹脂基板15に含まれる樹脂を構成するモノマー成分としては、後述する重合性組成物に含まれるモノマー成分を挙げることができ、これらのモノマー成分は同一でも異なっていてもよい。
【0038】
略円形状の樹脂基板15は、基板12の面12aと対向する面15aを備え、基板12と樹脂基板15は同一方向に湾曲している。面(湾曲面)12aと面(湾曲面)15aの曲率半径は略同一であり、これらの面の間の間隙20の厚さ方向の幅は略同一である。間隙20の厚さ方向の幅は0.1mm~2.5mm、好ましくは0.3mm~2.0mm、さらに好ましくは0.5mm~1.5mm、特に好ましくは0.6mm~1.2mmである。また、間隙20の厚さ方向の幅の下限値は、0.1mm以上であり、好ましくは0.3mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上であり、特に好ましくは0.6mm以上である。一方、間隙20の厚さ方向の幅の上限値は、2.5mm以下であり、好ましくは2.0mm以下であり、さらに好ましくは1.5mm以下であり、特に好ましくは1.2mm以下である。
間隙20の前記幅は当該範囲であることにより、樹脂基板15上に所定の層厚を有するフォトクロミック層を積層することができ、初期の着色が抑制されており、フォトクロ応答性に優れたフォトクロミックレンズを得ることができる。
【0039】
樹脂基板15は、湾曲面15aと、全周に亘る周縁部分に湾曲面15bと、を備える。面周縁の湾曲面15bの曲率半径bと、湾曲面15bに囲まれた湾曲面15aの曲率半径aとが異なり、曲率半径bが曲率半径aよりも小さい。これにより、湾曲面15aにおける樹脂基板15の厚さ方向の幅cは、周縁部分の湾曲面15bにおける樹脂基板15の厚さ方向の幅dよりも大きくなる。基板12の面12aの曲率半径は一定であることから間隙20の周縁に空間23が形成される。
【0040】
湾曲面15bの曲率半径bが、湾曲面15bに囲まれた湾曲面15aの曲率半径aよりも小さければ特に限定されないが、曲率半径aは好ましくは100mm~500mm、さらに好ましくは150mm~300mm、曲率半径bは好ましくは10mm~100mm、さらに好ましくは15mm~50mmとすることができる。
【0041】
湾曲面15bを備える周縁部分の基板直径方向の幅iiは、空間23が形成されていればその長さは特に限定されないが、1mm~10mm程度であることが好ましい。
樹脂基板15の直径iiiは、50mm~100mm程度である。
樹脂基板15の直径iiiに対する、湾曲面15aを備える周縁部分の基板直径方向の幅iiの比(ii/iii)は、0を超え0.27以下であり、好ましくは0.01~0.27程度である。
【0042】
本実施形態の注入成形装置10によれば、このような幅の間隙20であっても、空間23を介して重合性組成物を間隙20内に均一に充填することができ、気泡の混入等が抑制された外観に優れた成形体を製造することができる。
【0043】
図6に示すように、空間23は注入部18および間隙20と連通しており、図2の概略平面図に示すように、注入部18から注入された重合性組成物を、空間23を介して間隙20に充填することができるように構成されている。
【0044】
本実施形態においては、基板12および樹脂基板15はモールド基板とすることができる。間隙20内で形成された薄膜状の成形体を光学レンズの積層膜として用いる場合、基板12は対物面を形成するための形成面を樹脂基板15側に備えるモールド基板であり、樹脂基板15の凹面は対眼面とすることができる。
樹脂基板15を構成するモノマー成分としては、後述する重合性組成物に含まれるモノマー成分を挙げることができ、これらのモノマー成分は同一でも異なっていてもよい。
【0045】
本実施形態において用いられる重合性組成物の粘度は5mPa・s~1000mPa・s、好ましくは10mPa・s~500mPa・sとすることができる。
【0046】
本実施形態の注入成形装置10は、このような粘度の重合性組成物であっても、空間23を介して当該重合性組成物を間隙20内に均一に充填することができ、気泡の混入等が抑制された外観に優れた成形体を製造することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【0048】
図6においては、空間23が樹脂基板15の周縁の全周に亘って設けられている例によって説明したが、空間23が樹脂基板15の周縁の略半周に亘って設けられていてもよく、略半周(1/2)から全周未満において選択されるいずれかの位置にまで設けられていてもよい。
【0049】
本実施形態においては、基板12の面12aは全面が略同一の曲率半径を有する湾曲平板であり、樹脂基板15が、湾曲面15aと、全周に亘る周縁部分に湾曲面15bと、を備える例により説明したが、逆の構成となるように、樹脂基板15の基板12に対向する面の全面が略同一の曲率半径を有する湾曲平板であり、基板12の樹脂基板15に対向する面が、その周縁部分に曲率半径が大きい湾曲面を備え、空間を形成することもできる。
さらに、樹脂基板15が周縁部分に湾曲面15bを備え、さらに基板12が周縁部分に上記湾曲面を備え、周縁部分において対向する湾曲面により空間23を形成していてもよい。さらに、周縁部分の湾曲面が、円周方向に基板12および樹脂基板14に互い違いに設けられていてもよい。
【0050】
<フォトクロミックレンズの製造方法>
本実施形態のフォトクロミックレンズの製造方法は、上述の注入成形装置10を用いて実施され、以下の工程を含む。
工程a:注入部18から、イソシアネート化合物と、チオール化合物と、ポリオール化合物と、フォトクロミック化合物と、を含有した前記重合性組成物を注入し、空間22を介して間隙20に当該重合性組成物を充填する。
工程b:充填された前記重合性組成物を加熱して重合硬化させ、樹脂基板14上にフォトクロミック層を形成する。
工程c:得られた前記フォトクロミック層と樹脂基板14とからなる積層体を取り出す。
本実施形態の注入成形装置を用いたフォトクロミックレンズの製造方法によれば、樹脂基板上に所定の層厚を有するフォトクロミック化合物を含有するフォトクロミック層を積層することができ、初期の着色が抑制されており、フォトクロ応答性に優れたフォトクロミックレンズが得られる。さらに、重合性組成物を、基板12と樹脂基板14との間に形成される間隙20に均一に充填することができ、気泡の混入や脈理の発生等が抑制された外観に優れたフォトクロミックレンズを製造することができる。
また、さらに、以下の工程dを含んでもよい。
工程d:上記の積層体の周縁の空間22内で重合硬化した当該重合性組成物を除去し、間隙20内で重合硬化して得られた当該フォトクロミック層を当該積層体の端面に露出させる。
これにより、均一な厚みのフォトクロミック層と樹脂基板14とからなる積層体が得られ、フォトクロミックレンズとして好適に使用できるようになる。
【0051】
以下、本発明の注入成形方法および成形体の製造方法の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。なお、同一の符号については適宜説明を省略する。なお、第1実施形態の注入成形装置10を用いた例によって説明するが、第2実施形態の注入成形装置10を用いた場合も同様に行うことができる。
【0052】
[工程a]
本実施形態の注入成形方法は、まず、本実施形態の注入成形装置10を注入部18が水平面に対して垂直方向の上方に位置するように配置する。なお、偏光レンズを調製するには、樹脂基板14の面14a表面に予め偏光フィルムを接着させておくことができる。
【0053】
偏光フィルムは、熱可塑性樹脂から構成することができる。熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリカーボネート、熱可塑性ポリオレフィン、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミド、ポリビニルアルコール(PVA)、トリアセチルセルロース(TAC)等の単一層、あるいは複数層を積層したものを挙げることができる。耐水性、耐熱性および成形加工性の観点から、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリカーボネートが好ましく、耐水性、耐候性の観点からは熱可塑性ポリエステルがより好ましい。
【0054】
熱可塑性ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びポリブチレンテレフタレート等を挙げることができ、耐水性、耐熱性および成形加工性の観点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0055】
偏光性を付与する目的で、前記熱可塑性樹脂からなる機能性層に二色性染料等を添加することができる。二色性染料としては、公知の染料が使用される。例えば、特開昭61-087757号公報、特開昭61-285259号公報、特開昭62-270664号公報、特開昭62-275163号公報、特開平1-103667号公報等に開示されている。具体的には、アントラキノン系、キノフタロン系、アゾ系等の色素が挙げられる。
【0056】
そして、図示しない注入手段を用いて、注入部18から空間22内に重合性組成物を注入する。注入速度は、重合性組成物の粘度等により適宜設定され、空間22内の充填速度が均一となるように変化させてもよい。
当該重合性組成物の粘度は5mPa・s~1000mPa・s、好ましくは10mPa・s~500mPa・sとすることができる。
【0057】
図2の概略平面図に示すように、空間22内に注入された重合性組成物は、主に空間22内を下方に移動し、最下部に到達すると間隙20内に移動する。組成物が間隙20内の下部から主に充填されていくので、気泡の混入等が抑制された外観に優れた成形体を得ることができ、一定の方向に均一に充填されることから脈理の発生が抑制された成形体を得ることができる。
【0058】
本実施形態において用いられる重合性組成物は、イソシアネート化合物と、チオール化合物と、ポリオール化合物と、フォトクロミック化合物と、を含む。
【0059】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物としては、脂肪族イソシアネート化合物、脂環族イソシアネート化合物、芳香族イソシアネート化合物、複素環イソシアネート化合物、芳香脂肪族イソシアネート化合物等が挙げられ、1種または2種以上混合して用いられる。これらのイソシアネート化合物は、二量体、三量体、プレポリマーを含んでもよい。
これらのイソシアネート化合物としては、WO2011/055540号に例示された化合物を挙げることができる。
【0060】
本実施形態において、イソシアネート化合物が、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、トリレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、およびフェニレンジイソシアネートから選択される少なく1種であることがより好ましい。
【0061】
(チオール化合物)
チオール化合物としては、2以上のメルカプト基を有するポリチオール化合物、1以上のメルカプト基と1以上の水酸基を有するヒドロキシチオール化合物等が挙げられ、1種または2種以上混合して用いられる。これらのチオール化合物としては、WO2016/125736号に例示された化合物を挙げることができる。
【0062】
ポリチオール化合物としては、好ましくは4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、2,5-ジメルカプトメチル-1,4-ジチアン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、および2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタンから選択される少なく1種である。
チオール化合物は、2以上のメルカプト基を有するポリチオール化合物が好ましい。
【0063】
本実施形態において、イソシアネート化合物におけるイソシアナト基に対する、チオール化合物におけるチオール基のモル比率は0.8~1.2の範囲内であり、好ましくは0.85~1.15の範囲内であり、さらに好ましくは0.9~1.1の範囲内である。上記範囲内で、光学材料、特に眼鏡用プラスチックレンズ材料として好適に使用される樹脂を得ることができる。
【0064】
(ポリオール化合物)
ポリオール化合物としては、本発明の本発明の効果を奏する範囲で公知の化合物を用いることができ、例えば、WO2018/158813号に記載の重合体(ii)を用いることができる。本実施形態においては、下記一般式(iia)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0065】
【化3】
【0066】
一般式(iia)中、RおよびRは、水素原子あるいは炭素数1~18のアルキル基を表し、少なくともどちらか一方は水素原子である。複数存在するR同士は同一または相異なっていてもよく、複数存在するR同士は同一または相異なっていてもよい。mは15以上500以下、好ましくは30以上500以下の整数を示す。
一般式(iia)で表される化合物としては、数平均分子量が150以上、好ましくは200以上のものを用いることができる。
【0067】
一般式(iia)で表される化合物としては、具体的に下記一般式(iia-1)で表される化合物を用いることができる。具体的には、一般式(ii)において、Rがアルキレン(炭素数C2~C20)グリコレート基であり、Aがポリアルキレン(炭素数C2~C20)グリコール鎖、Rがオキシプロピレン基、Aがポリエチレングリコール鎖であり、Rがヒドロキシエチレン基、nがプロピレングリコレート基の価数の2の場合、当該化合物は下記一般式(iia-1)で表される。
【0068】
【化4】
【0069】
一般式(iia-1)中、RおよびRは、水素原子あるいは炭素数1~18のアルキル基を表し、少なくともどちらか一方は水素原子である。a+cは2以上600以下、好ましくは2以上400以下の整数であり、bは1以上300以下、好ましくは1以上100以下の整数を表す。複数存在するRおよびRは、同一でも異なっていてもよい。
【0070】
このような化合物の例としてはBASF社製の登録商標プルロニック(Pluronic)シリーズなどが挙げられる。プルロニックに含まれる化合物の構造は非特許文献1に示される。
なお、一般式(iia)で表される化合物の末端水酸基は、イソシアネート化合物等の重合性化合物と反応する場合もある。
【0071】
本実施形態においては重合反応性化合物(イソシアネート化合物およびチオール化合物)100重量部に対して、ポリオール化合物を0.01重量部~50重量部、好ましくは0.05重量部~20重量部、好ましくは0.1重量部~10重量部含むことができる。ポリオール化合物を含むことにより、フォトクロ応答性を向上することができる。
【0072】
(フォトクロミック化合物)
フォトクロミック化合物としては、特定の波長の光に対して吸光特性(吸収スペクトル)が変化する化合物が挙げられる。
フォトクロミック化合物としては、公知のものを使用することができ、例えば、ナフトピラン、クロメン、スピロピラン、スピロオキサジンおよびチオスピロピラン、ベンゾピラン、スチルベン、アゾベンゼン、チオインジゴ、ビスイミダゾール、スピロジヒドロインドリジン、キニーネ、ペリミジンスピロシクロヘキサジエノン、ビオロゲン、フルギド、フルギミド、ジアリールエテン、ヒドラジン、アニリン、アリールジスルフィド、アリールチオスルホネート、スピロペリミジン、トリアリールメタンなどの化合物から誘導される化合物が挙げられる。
本実施形態においては、フォトクロミック化合物としてナフトピラン誘導体を用いることが好ましい。
【0073】
本実施形態においては、一般式(c1)および一般式(c2)から選択される少なくとも1種のフォトクロミック化合物を用いることが好ましい。
PC-L-Chain (c1)
PC-L-Chain-L'-PC' (c2)
PCとPC'は一般式(1)~(4)の化合物から誘導される1価の基を示す。PCとPC'は同一でも異なっていてもよい。
【0074】
【化5】
【0075】
式(1)~(4)中、R~R18は、水素、ハロゲン原子、カルボキシル基、アセチル基、ホルミル基、置換されてもよい炭素数1~炭素数20の脂肪族基、置換されてもよい炭素数3~炭素数20の脂環族基、または置換されてもよい炭素数6~炭素数20の芳香族有機基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。これら脂肪族基、脂環族基または芳香族有機基は、酸素原子、窒素原子を含んでもよい。一般式(1)~(4)で表される化合物に含まれる、いずれか1つの基は、2価の有機基であるLまたはL'と結合する。
【0076】
置換されてもよい炭素数1~炭素数20の脂肪族基としては、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルコキシ基、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数2~炭素数10アルケニル基、炭素数1~炭素数10ヒドロキシアルキル基、炭素数1~炭素数10ヒドロキシアルコキシ基、炭素数1~炭素数10アルコキシ基で置換された炭素数1~炭素数10アルキル基、炭素数1~炭素数10アルコキシ基で置換された炭素数1~炭素数10アルコキシ基、炭素数1~炭素数5ハロアルキル基、炭素数1~炭素数5ジハロアルキル基、炭素数1~炭素数5トリハロアルキル基、炭素数1~炭素数10アルキルアミノ基、炭素数1~炭素数10アミノアルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数20アルコキシカルボニル基等を挙げることができる。
置換されてもよい炭素数3~炭素数20の脂環族基として、炭素数3~炭素数20のシクロアルキル基、炭素数6~炭素数20のビシクロアルキル基等を挙げることができる。
【0077】
置換されてもよい炭素数6~炭素数20の芳香族有機基としては、フェニル基、炭素数7~炭素数16アルコキシフェニル基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アリール炭素数1~炭素数5アルキルアミノ基、環状アミノ基、アリールカルボニル基、アロイル基等を挙げることができる。
【0078】
とRとして、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;?
直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルコキシ基、炭素数1~炭素数10ヒドロキシアルコキシ基、炭素数1~炭素数10アルコキシ基で置換された炭素数1~炭素数10アルコキシ基、炭素数1~炭素数5ハロアルキル基、炭素数1~炭素数5ジハロアルキル基、炭素数1~炭素数5トリハロアルキル基、炭素数1~炭素数5アルキルアミノ基等の、置換されてもよい炭素数1~炭素数20の脂肪族基;
フェニル基、炭素数7~炭素数16アルコキシフェニル基、炭素数1~炭素数5ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アリール炭素数1~炭素数5アルキルアミノ基、環状アミノ基等の、置換されてもよい炭素数6~炭素数20の芳香族有機基;等を挙げることができる。RとRは、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0079】
として、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;カルボキシル基;アセチル基;
直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数2~炭素数10アルケ二ル基、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルコキシ基、炭素数1~炭素数10ヒドロキシアルキル基、炭素数1~炭素数10アルコキシ基で置換された炭素数1~炭素数10アルキル基、炭素数1~炭素数10アミノアルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数20アルコキシカルボニル基等の、置換されてもよい炭素数1~炭素数20の脂肪族基;
炭素数3~炭素数20のシクロアルキル基、炭素数6~炭素数20のビシクロアルキル基等の、置換されてもよい炭素数3~炭素数20の脂環族基;
アリールカルボニル基、ホルミル基、アロイル基等の、置換されてもよい炭素数6~炭素数20の芳香族有機基;等を挙げることができる。
として、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;カルボキシル基;アセチル基;ホルミル基;
直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数2~炭素数10アルケ二ル基、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルコキシ基、炭素数1~炭素数10ヒドロキシアルキル基、炭素数1~炭素数10アルコキシ基で置換された炭素数1~炭素数10アルキル基、炭素数1~炭素数10アミノアルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数20アルコキシカルボニル基等の、置換されてもよい炭素数1~炭素数20の脂肪族基;
炭素数3~炭素数20のシクロアルキル基、炭素数6~炭素数20のビシクロアルキル基等の、置換されてもよい炭素数3~炭素数20の脂環族基;
アリールカルボニル基、アロイル基、フェニル基、炭素数7~炭素数16アルコキシフェニル基、炭素数1~炭素数10ジアルコキシフェニル基、炭素数1~炭素数10アルキルフェニル基、炭素数1~炭素数10ジアルキルフェニル基等の、置換されてもよい炭素数6~炭素数20の芳香族有機基;等を挙げることができる。
【0080】
とRは互いに結合してもよい。RとRが互いに結合して環構造を形成する場合、一般式(5)または(6)が挙げられる。点線部分がRが結合している炭素原子とRが結合している炭素原子との間の結合を表す。
【0081】
【化6】
【0082】
、R、R、R、R、R10、R14、R15、R16は、R、Rと同様な官能基を示す。複数存在するR~Rとは同一でも異なっていてもよい。
【0083】
11として、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;
直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数20アルキル基、炭素数1~炭素数5ハロアルキル基、炭素数1~炭素数5ジハロアルキル基、炭素数1~炭素数5トリハロアルキル基等の、置換されてもよい炭素数1~炭素数20の脂肪族基;
炭素数3~炭素数20のシクロアルキル基、炭素数6~炭素数20のビシクロアルキル基、炭素数1~炭素数5アルキル基で置換された炭素数3~炭素数20シクロアルキル基、炭素数1~炭素数5アルキル基で置換された炭素数6~炭素数20のビシクロアルキル基等の、置換されてもよい炭素数3~炭素数20の脂環族基;
炭素数1~炭素数5アルキル基で置換されたアリール基等の、置換されてもよい炭素数6~炭素数20の芳香族有機基;等を挙げることができる。
【0084】
12とR13として、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;
炭素数1~炭素数10アルキル基、炭素数1~炭素数5アルキルアルコキシカルボニル基等の、置換されてもよい炭素数1~炭素数20の脂肪族基;炭素数5~炭素数7のシクロアルキル基等の、置換されてもよい炭素数3~炭素数20の脂環族基;等を示す。
【0085】
17とR18として、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;
直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルキル基、炭素数1~炭素数10ヒドロキシアルキル基等の、置換されてもよい炭素数1~炭素数20の脂肪族基;炭素数5~炭素数7のシクロアルキル基等の、置換されてもよい炭素数3~炭素数20の脂環族基;等を示す。
【0086】
一般式(c1)または(c2)のLとL'は、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖、(チオ)エステル基、(チオ)アミド基から選択される少なくとも1種の基を含む2価の有機基を示す。
具体的には、LとL'は、一般式(7)~(13)で表される。LとL'は同一でも異なっていてもよい。
【0087】
【化7】
【0088】
式(7)~(13)中、
Yは、酸素、硫黄を示す。
19は、水素、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルキル基を示す。
20は、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルキル基を示す。
pは、0~15の整数を示し、rは、0~10の整数を示す。
【0089】
Qは、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルキレン基、炭素数1~炭素数10アルケニレン基、1,2-、1,3-、1,4-位の置換アリール基から誘導される2価の基、置換ヘテロアリール基から誘導される2価の基等を示す。
*1、*2は結合手を表し、*1は「Chain」で表される1価または2価の有機基と結合し、*2はPCまたはPC' で表される1価の有機基と結合する。
【0090】
一般式(c1)または(c2)の「Chain」は、ポリシロキサン鎖、ポリオキシアルキレン鎖から選択される少なくとも1種の鎖を含む1価または2価の有機基を示す。
ポリシロキサン鎖としては、ポリジメチルシロキサン鎖、ポリメチルフェニルシロキサン鎖、ポリメチルヒドロシロキサン鎖等が挙げられる。
ポリオキシアルキレン鎖としては、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシヘキサメチレン鎖等が挙げられる。
【0091】
具体的には、
「Chain」は、フォトクロミック化合物が一般式(c1)の場合は、一般式(14)または(15)の1価の有機基を示す。
【0092】
【化8】
【0093】
「Chain」は、フォトクロミック化合物が一般式(c2)の場合、一般式(16)または(17)の2価の有機基を示す。
【0094】
【化9】
【0095】
式(14)~(17)中、
21は、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルキル基を示す。
22は、直鎖あるいは分枝鎖状の炭素数1~炭素数10アルキル基を示す。
23は、水素、メチル基、エチル基を示す。
nは4~75の整数を示し、mは1~50の整数を示す。
qは1~3の整数を示す。
*3、*4は結合手を表し、*3はLで表される2価の有機基と結合し、*4はL'で表される2価の有機基と結合する。
【0096】
本実施形態のフォトクロミック化合物(C)、WO2009/146509公報、WO2010/20770公報、WO2012/149599公報、WO2012/162725公報に記載の方法により得られる。
【0097】
本実施形態のフォトクロミック化合物としては、Vivimed社のReversacol Humber Blue(ポリジメチルシロキサン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、Reversacol Calder Blue(ポリジメチルシロキサン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、Reversacol Trent Blue(ポリジメチルシロキサン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、Reversacol Pennine Green(ポリジメチルシロキサン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、Reversacol Heath Green(ポリオキシアルキレン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、Reversacol Chilli Red(ポリジメチルシロキサン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、Reversacol Wembley Grey(ポリオキシアルキレン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、Reversacol Cayenne Red(ポリオキシアルキレン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、
Reversacol Jalapeno Red(ポリオキシアルキレン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、
Reversacol Marine Blue(ポリオキシアルキレン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、
Reversacol Adriatic Blue(ポリオキシアルキレン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、
Reversacol Mendip Green(ポリオキシアルキレン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式3))、等が挙げられ、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0098】
本実施形態の重合性組成物は、本発明の効果の観点から、フォトクロミック化合物を100ppm~10,000ppm、好ましくは1,000ppm~8,000ppm、さらに好ましくは2,500ppm~6,000ppm含むことができる。
ポリオール化合物とフォトクロミック化合物との重量比は特に限定されるものではないが、ポリオール化合物100重量部に対してフォトクロミック化合物が好ましくは0.01~100重量部、より好ましくは1~10重量部である。
フォトクロミック化合物は、当該フォトクロミック化合物とポリイソシアネート化合物とのプレミックスにより添加することもできる。なお、本実施形態におけるポリイソシアネート化合物の使用全量は、プレミックスに用いられるポリイソシアネート化合物の量を含む。
【0099】
[その他の成分]
本実施形態の重合性組成物は、上記の成分以外に、密着性向上剤、重合触媒、内部離型剤、紫外線吸収剤などを含むことができる。
重合性組成物は、上記の成分を所定の方法で混合することにより得ることができる。
【0100】
[工程b]
工程aで空間22および間隙20に充填された前記重合性組成物を加熱して重合硬化させ、樹脂基板14上に樹脂層を形成し、積層体を得る。
重合条件については、成分の種類と使用量、触媒の種類と使用量、モールドの形状等によって条件が異なるため限定されるものではないが、およそ、-50~150℃の温度で1~50時間かけて行われる。
【0101】
[工程c]
工程bの後、基板12や固定部材16から、前記樹脂層(フォトクロミック含有層)と樹脂基板14とからなる積層体を離型し、当該積層体取り出す。
【0102】
[工程d]
得られた積層体は、その周縁部に空間22内で硬化した膜厚の厚い部分が存在することから、積層体の周縁の空間22内で重合硬化した重合性組成物を除去し、間隙22内で重合硬化して得られたフォトクロミック層を積層体の端面に露出させる工程を含んでもよい。硬化した重合性組成物の一部を除去する方法は特に限定されない。例えば、NIDEK社製パターンレスエッジャーLe 1000 Express装置を用いて高速回転刃で研磨を施し、研磨面にフォトクロミック層が露出するまで周縁部の重合性組成物を削り取ってもよい。
すなわち、積層体は、その周縁部に空間22内で硬化した膜厚の厚い部分が存在することから、用途に応じて膜厚の厚い部分を適宜削り取ることができる。
その後、アニール等を行い、フォトクロミックレンズを得ることができる。
【0103】
[フォトクロミックレンズ]
本実施形態の製造方法において、図7に示されるフォトクロミックレンズ30が調製される。フォトクロミックレンズ30は、対物面32aを備えるフォトクロミック層32と、樹脂層36(樹脂基板14)とを備える。
フォトクロミック層32はその周縁部に突出部34を備え、突出部34は樹脂層36に埋め込まれるように一体化されている。本実施形態のフォトクロミック層32の略円中心部の厚みは、0.1~2.5mmであり、好ましくは0.3mm~2.0mm、さらに好ましくは0.5mm~1.5mm、特に好ましくは0.6mm~1.2mmである。また、フォトクロミック層32の略円中心部の厚みの下限値は、0.1mm以上であり、好ましくは0.3mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上であり、特に好ましくは0.6mm以上である。一方、フォトクロミック層32の略円中心部の厚みの上限値は、2.5mm以下であり、好ましくは2.0mm以下であり、さらに好ましくは1.5mm以下であり、特に好ましくは1.2mm以下である。
また、本実施形態においては、フォトクロミック層32の周縁の突出部34の厚みは、突出部34に囲まれた部分のフォトクロミック層32の厚みより厚い。
【0104】
本実施形態のフォトクロミックレンズ30は、図7に示される点線部分で研磨することにより用いることができる。すなわち、フォトクロミックレンズ30の端面に、フォトクロミック層32が露出している。
この場合、フォトクロミック層32の周縁部の4点平均厚みが0.1~2.5mmであることが好ましく、0.3mm~2.0mmであることがより好ましく、0.5mm~1.5mmであることがさらに好ましく、0.6mm~1.2mmであることがことさらに好ましい。また、フォトクロミック層32の略円中心部の厚みの下限値は、好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.3mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上であり、特に好ましくは0.6mm以上である。
また、フォトクロミック層32の周縁部の4点平均厚みと、記フォトクロミック層の略円中心部の厚みとの差が、0.3mm以下であることが好ましく、0.25mm以下であることがより好ましく、0.2mm以下であることがさらに好ましい。
【0105】
なお、フォトクロミック層32の厚み(20℃)は、TECLOCK社製 ダイヤルシックネスゲージ SM-130LW等により測定することができる。
【0106】
さらに、用途に応じて、樹脂層36の対眼面36aを研磨することもできる。
本実施形態のフォトクロミックレンズ30は、初期の着色が抑制されており、以下の調光性能評価の条件で測定された、光が照射されずフォトクロミック化合物が発色していない状態の初期視感透過率(%)が80%~100%であり、好ましくは85%~100%である。
(調光性能評価)
キセノンランプ(180W)光源装置を用いて、温度23℃、積算光量計で測定した紫外線強度50000ルクス(lx)の条件で、成形体サンプルを15分間発色させ発色濃度を確認した。
・光源:ウシオ電気(株)MS-35AAF/FB
・瞬間マルチ測光システム:大塚電子(株)MSPD-7700
【0107】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【0108】
図7においては、フォトクロミック層32と、樹脂層36とが湾曲した例によって説明したが、成形体に用途によって様々な形状を採用することができ、例えばフォトクロミック層32と樹脂層36は何れも略円形状の平板であってもよい。
【0109】
図7においては、突出部34がフォトクロミック層32の周縁の全周に亘って設けられている例によって説明したが、フォトクロミック層32の周縁の略半周に亘って設けられていてもよく、略半周(1/2)から全周未満において選択されるいずれかの位置まで設けられていてもよい。
【0110】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例
【0111】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0112】
(1)フォトクロミックレンズ(成形体サンプル)の評価・測定
成形体サンプルの性能試験において、消色時の色調、耐光性は、以下の方法により評価した。
・23℃最大発色濃度:ウシオ電気社製励起光源キセノンランプMS-35AAA/FB2000-Oを備えた、大塚電子製瞬間マルチ測光システムMSPD-7700を用いて、得られた成形体サンプルに、温度23℃、照度50000ルクスの条件で、励起光を15分間照射する。15分後の分光透過率を測定し、ISO8980-3に基づいて、視感透過率を算出した。
[初期着色値(初期視感透過率ともいう)]
A:視感透過率(%)85%以上
B:視感透過率(%)80%以上85%未満
C:視感透過率(%)70%以上80%未満
【0113】
[23℃最大発色濃度]
A:視感透過率(%)9%以上13%未満
B:視感透過率(%)13%以上17%未満
C:視感透過率(%)17%以上21%未満
D:視感透過率(%)21%以上25%未満
E:視感透過率(%)25%以上
【0114】
[退色速度]
成形体サンプルに、温度23℃で、ウシオ電機MS-35AAF/FBキセノンランプ光源装置(照度50000ルクス)を用いて、15分間光線照射した後、光線照射を止めてから成形体サンプルの550nmにおける吸光度が発色前後の吸光度の中間値まで回復するのに要する時間を測定した。この時間を退色速度とし、以下の基準で評価した。発色時の視感透過率が低く、退色速度が速い成形体サンプルを調光性能が良好と判断した。
A:60秒以下
B:60秒を超えた
【0115】
[脈理の発生]
作成された成形体サンプルを高圧水銀灯(光源型式OPM-252HEG:ウシオ電機社製)で投影し、透過した像について目視にて脈理の有無を観察し、以下の基準で評価した。
〇:全く脈理がなかった。
△:部分的、または数本の脈理があった。肉眼で脈理を確認することができないが水銀灯で確認することができた。
△-×:全体的、1~9本の脈理があった。肉眼で脈理を確認することができないが水銀灯で確認することができた。
×:全体的、または10本以上の脈理があった。肉眼ではっきり脈理を確認することができた。
××:全体的、または15本以上の脈理があった。肉眼ではっきり脈理を確認することができた。
【0116】
[厚み]
成形体サンプルの表面と裏面の距離が最短となる点におけるフォトクロミック層と樹脂基板の厚みをそれぞれ測定し、略中心部の厚み(mm)とした。なお、成形体サンプルの表面と裏面の距離が最短となる点は、成形体サンプルにおける略中心部であった。
また、成形体サンプルの略中心部から21mm離れた同心円上の等間隔な4点でのフォトクロミック層の厚みを測定し、その平均値を端部の平均厚み(mm)とした。
上記で測定されたフォトクロミック層の略中心部の厚みと端部4点の厚みについて、最も厚い厚み(mm)から最も薄い厚み(mm)を引いた値を5点厚みバラツキ(mm)とした。
なお、厚みの測定にはTECLOCK社製 ダイヤルシックネスゲージ SM-130LWを用いた。
【0117】
[色ムラ]
太陽光下に成形サンプルを1分間放置した後、成形サンプルの外観を目視確認し、以下の評価基準に従い評価した。
有り:レンズ略中心部よりレンズ外周部の色の濃度が濃く見えた。
なし:レンズ略中心部とレンズ外周部の色の濃度差が無いように見えた。
【0118】
(2)フォトクロミックレンズの原料
実施例においては以下の原料を用いた。
(ポリオール)
・ポリオールA:ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリエチレングリコール(PluronicL64、BASF社製)
・ポリオールB:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、(PluronicF127、BASF社製)
【0119】
(フォトクロミック化合物)
・フォトクロミック化合物D1:以下の化合物の混合物
Reversacol Wembley Grey:200ppm
Reversacol Jalapeno Red:200ppm
Reversacol Marine Blue:200ppm
Reversacol Adriatic Blue:500ppm
Reversacol Mendip Green:800ppm
【0120】
・フォトクロミック化合物D2:以下の化合物の混合物
Reversacol Wembley Grey:360ppm
Reversacol Heath Green:600ppm
Reversacol Peacock Blue:300ppm
Reversacol Jalapeno Red:24ppm
【0121】
・フォトクロミック化合物D3:以下の化合物の混合物
Reversacol Wembley Grey:180ppm
Reversacol Cayenne Red:300ppm
Reversacol Jalapeno Red:160ppm
Reversacol Mendip Green:800ppm
【0122】
(3)フォトクロミックレンズの作製および評価
[実施例1]
(樹脂基板S1および注入成形装置10の作成)
ジブチル錫ジクロリドを0.035重量部、STEPAN社製ZelecUNを0.1重量部、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンとの混合物を50.6重量部、紫外線吸収剤として共同薬品社製Viosob583を1.5重量部、有本化学工業社製PlastBlue8514を0.00005重量部仕込んで混合溶液を作製した。この混合溶液を25℃で1時間攪拌して完全に溶解させた。その後、この調合液に、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンを含むチオール組成物25.5重量部と、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を含むチオール組成物23.9重量部とを仕込み、これを25℃で30分攪拌し、均一溶液(光学材料用重合性組成物)を得た。この光学材料用重合性組成物を600Paにて1時間脱泡を行い、1μmPTFEフィルターにて濾過を行い、調合液を得た。
フロントのガラスモールド(バックのガラスモールドに対向する凹面のRが215.80mm)と、バックのガラスモールド(フロントのガラスモールドと対向する凸面のRが75.53mm)とを対向するようにテープで固定された注型モールドを作成した。モールド間の間隙(略円中心部の離間距離6mm)に調合液を注型し、25℃から120℃まで、16時間かけて昇温した。室温まで冷却させて、ガラスモールドから外し、径81mmのレンズを得た。このレンズを、径75mmに加工し、さらにコバ厚11mmのうち凸面(面14a)から厚さ方向に7mmおよびコバ部分(周端部)から直径方向に厚み2mmを削り、全周に亘って切欠き部24を備える樹脂基板S1(樹脂基板14)を作成した。樹脂基板S1の略円中心部の厚みは6mmであった。
基板12として凹面(面12a)がR215.80mmのガラスモールドを使用し、基板12の凹面(面12a)と樹脂基板S1の凸面(面14a)とが対向するように、テープ(固定部材16)で基板12の端部と樹脂基板S1の端部を巻き回して固定し、間隙20を備える注入成形装置10を作成した。間隙20の中心部の離間距離は0.5mmであった。注入成形装置10には、テープ(固定部材16)と基板12の凹面(面12a)と切欠き部24で囲繞されて、間隙20の周縁全体に亘って空間22が形成された。固定部材16に空間22に連通する開口(注入部18)を形成した。
【0123】
(フォトクロミックレンズの作成)
事前に2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンを含む組成物9.73重量部に、フォトクロミック化合物として、Vivimed社製Reversacol Wembley Greyを0.02重量部、Vivimed社製Reversacol Jalapeno Redを0.02重量部、Vivimed社製 Reversacol Marine Blueを0.02重量部、Vivimed社製 Reversacol Adriatic Blueを0.05重量部、およびVivimed社製 Reversacol Reversacol Mendip Greenを0.08重量部、紫外線吸収剤としてHOSTAVIN PR-25を0.075重量部、溶解してマスター液を準備した。2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンを含む組成物30.28重量部に、得られたマスター液10重量部を加えて攪拌し、そこにアデカ社製アデカプルロニックL-64を2.52重量部、共栄社化学製ポリフロー KL-100を0.4重量部、酸性リン酸エステルとして城北化学工業社製JP-506Hを0.05重量部、をそれぞれ加えて、15℃~20℃の間で30min攪拌した(混合工程A)。
混合工程Aで得られた混合液に、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を19.97重量部、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンを27.23重量部、それぞれ加えて15℃~20℃の間で15min攪拌した(混合工程B)。
事前に2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンを含む組成物10重量部に、ジメチルチンジクロリドを0.015重量部加え、均一に溶解させて溶液を作成した。この溶液を、混合工程Bで得られた混合液に加えて15℃~20℃の間で15min攪拌し、重合性組成物を得た(混合工程C)。この重合性組成物の粘度(B型粘度計、25℃、60rpm、ローター番号2)は48.5mPa・sであった。
その後、重合性組成物を、400Pa以下の減圧環境下、15℃~20℃の間で1時間30分間、攪拌・脱気を行った後、1.0μmのPTFEフィルターを使用してろ過を行い、得られた重合性組成物を、基板12であるガラスモールドと樹脂基板S1(樹脂基板14)との間の間隙20へ、注入成形装置10の上端に位置する開口(注入部18)からピペットチップを備えた注入器具によって調合液を注入速度30ml/分で注入した。注型した後、10℃から130℃まで、24時間かけて昇温した。室温まで冷却し、ガラスモールド(基板12)から外し、樹脂基板S1上にフォトクロミック層が積層されたレンズ(略円中心部の厚み;6.7mm)を得た。得られたレンズの略円中心部の厚みが1.1mmになるように樹脂基板S1を削りフォトクロミックレンズを得た。
得られたフォトクロミックレンズ(成形体サンプル)について上記(1)の評価・測定を行った。結果を表-1に示す。
また、得られたフォトクロミックレンズは無色透明であり、太陽光線下に置くと直ちに発色し、光線を遮断すると消色するという良好な調光性能を有するものであった。また微細な凝集物および脈理が確認されず、外観が良好なものであった。
【0124】
[実施例2]
樹脂基板を作成する際に、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンとの混合物50.6重量部をキシリレンジイソシアネート52.0重量部とし、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンを含むチオール組成物25.5重量部と、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を含むチオール組成物23.9重量部を4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン組成物48.0重量部とし、樹脂基板14として樹脂基板S2を用いた以外は実施例1と同様の操作で樹脂基板14上にフォトクロミック層が積層されたフォトクロミックレンズを得た。
得られたフォトクロミックレンズ(成形体サンプル)について上記(1)の評価・測定を行った。結果は表-1に示す通りであった。
【0125】
[実施例3]
樹脂基板を作成する際に、
2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタンとの混合物50.6重量部を、キシリレンジイソシアネート50.6重量部とし、
4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンを含むチオール組成物25.5重量部と、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)とを含むチオール組成物23.9重量部を、
5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物49.4重量部とし、
樹脂基板14として樹脂基板S3を用いた以外は、実施例1と同様の操作で樹脂基板S3上にフォトクロミック層が積層されたフォトクロミックレンズを得た。
得られたフォトクロミックレンズ(成形体サンプル)について上記(1)の評価・測定を行った。結果は表-1に示す通りであった。
【0126】
[実施例4]
(樹脂基板の作成)
ビス(2,3-エピチオプロピル)ジスルフィド 100.0重量部に、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン0.1重量部、N,N-ジシクロヘキシルメチルアミン0.02重量部、BASF社製:TINUVIN PS1.1重量部を溶解させ、さらに、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、および5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを主成分とする混合物10.0重量部を混合し、20℃で30分間攪拌して調合液を調製した。この調合液を600Paにて1時間脱泡を行い、1μmPTFEフィルターにて濾過を行い、調合液を得た。得られた調合液を、実施例1と同様の操作で重合硬化させ、樹脂基板S4(樹脂基板14)を得た
得られた樹脂基板S4を用いて、実施例1-1と同様の操作で樹脂基板S4上にフォトクロミック層が積層されたフォトクロミックレンズを得た。
得られたフォトクロミックレンズ(成形体サンプル)について上記(1)の評価・測定を行った。結果は表-1~4に示す通りであった。
【0127】
[実施例5~25、比較例1~5]
表-1に記載のように樹脂基材(樹脂基板)、成分および添加量、厚みを変えた以外は実施例1と同様に積層レンズ(フォトクロミック層が積層されたフォトクロミックレンズ)を製造した。
得られたフォトクロミックレンズ(成形体サンプル)について上記(1)の評価・測定を行った。評価結果を表-1~4に示す。
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】
【0131】
【表4】
【0132】
この出願は、2021年3月22日に出願された日本出願特願2021-046914号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0133】
10 注入成形装置
12 基板
12a 面(湾曲面)
14、15 樹脂基板
14a、15a 面(湾曲面)
16 固定部材
18 注入部
20 間隙
22 空間
23 空間
24 切欠き部
30 積層レンズ(積層体)
32 フォトクロミック層
32a 表面(対物面)
34 突出部
36 樹脂基板
36a 表面(対眼面)
i 空間22の厚さ方向の幅
ii 空間22の直径方向の幅
iii 樹脂基板36の直径
a、b 曲率半径
c、d 樹脂基板の厚さ方向の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7