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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-19
(45)【発行日】2025-11-28
(54)【発明の名称】卵巣悪性腫瘍の検出方法及び検出試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20251120BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20251120BHJP
【FI】
G01N33/574 A ZNA
G01N33/53 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022503238
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2021004736
(87)【国際公開番号】W WO2021172000
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2020030210
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮城 悦子
(72)【発明者】
【氏名】荒川 憲昭
(72)【発明者】
【氏名】大竹 則久
(72)【発明者】
【氏名】明庭 昇平
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084912(WO,A1)
【文献】特開2012-145500(JP,A)
【文献】特開2013-061321(JP,A)
【文献】特表2007-506965(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0037389(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0095592(US,A1)
【文献】INABA N. et al.,Immunohistochemical detection of pregnancy-specific protein (SP1) and placenta-specific tissue protein (PP5, PP10, PP11, and PP12) in ovarian adenocarcinomas,Oncodevelopmental Biology and Medicine,1982年,Vol.3,pp.379-389
【文献】BOLTENBERG Anette and FURGYIK Stefan,Placental Proteins (PP5, PP12 and PP14) in ovarian tumors,Acta Obstet Gynecol Scand,1987年,Vol.66,pp.213-215
【文献】ZHANG Qing et al.,A multiplex methylation-specific PCR assay for the detection of early-stage ovarian cancer using cell-free serum DNA,Gynecologic Oncology,2013年,Vol.130,pp.132-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/574,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII),
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体において、TFPI2量を測定することを含む、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法であって、
卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別することは、卵巣腫瘍が悪性であるか良性であるかのみを鑑別し、
前記TFPI2量の測定値が、予め設定した基準値を超えた場合に、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)が検出されたとする、方法。
【請求項2】
前記TFPI2量が、TFPI2プロセシングポリペプチド量及びインタクトTFPI2量の合計である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TFPI2量の測定が、配列番号1のアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体を用いた抗原抗体反応により行われるものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体が、TFPI2のクニッツドメイン1を認識する抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
質量分析法を用いて測定を行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
さらにTFPI2以外の卵巣癌マーカーを検出する方法を組み合わせて行うものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
配列番号1に示すアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体を含む、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出するための試薬であって、
卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別することは、卵巣腫瘍が悪性であるか良性であるかのみを鑑別する、試薬
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織因子経路インヒビター2(Tissue Factor Pathway Inhibitor 2;TFPI2)を測定対象とする卵巣悪性腫瘍の検出方法及び検出試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
卵巣がんは全世界約28万人、日本約1万人の新規罹患者とされており(GLOBOCAN2018)、婦人科悪性腫瘍の中で最も死亡数が多いがんである。現状の卵巣がん診断は画像診断とCA125を主としCA19-9等の複数マーカーによる血液検査で悪性・良性を推測し、悪性疑いの場合、手術による卵巣摘出、摘出病片の病理検査による確定診断を実施している。しかし、代表的な卵巣癌マーカーであるCA125は卵巣がんの検出においては優れた感度を有するが、月経や腹膜炎、子宮内膜症を含む良性腫瘍などでも大幅に変動する場合がある。その結果、卵巣がん症例に対する治療対応の遅れや疾患の偽陽性判定による良性疾患の過剰治療、それに伴う患者のQOLの低下が問題となっている。従って、CA125を補完する新規卵巣がんマーカーの開発が進められている。
【0003】
ヒト精巣上体蛋白4(human epididymis protein 4:HE4)は2017年に本邦で保険適用された新規卵巣がんマーカーである。HE4はCA125に比べて感度は劣るものの、子宮内膜症やその他良性疾患における陽性率が低く高い特異度を有するマーカーとされている。更に、HE4とCA125は相関が低いことから、両マーカーの測定値と閉経情報等から卵巣悪性腫瘍推定値(Risk of Ovarian Malignancy Algorithm:ROMA)を求めることで、卵巣腫瘍における良性と悪性の鑑別精度がさらに向上するとされている(非特許文献1)。しかしながら、様々な体外診断用医薬品企業から製品化されているCA125はその測定値が企業毎に差異が生じることが指摘されている。その一因として各企業が測定試薬に採用する抗体や濃度算出に用いる標準品の差異が挙げられており、正確なROMAを算出するためにはCA125測定値の試薬間差を考慮しなければならないことが課題とされている。したがって、患者負担の少ない血液検査による簡便かつ正確な卵巣悪性腫瘍の検出方法が切望されている。
【0004】
組織因子経路インヒビター2(TFPI2)は、胎盤タンパク質5(Placental Protein 5;PP5)と同一のタンパク質であり、3つのクニッツ型プロテアーゼインヒビタードメインを含む胎盤由来セリンプロテアーゼインヒビターである。TFPI2は卵巣癌細胞株において明細胞癌細胞株から特異的に産生され、卵巣癌患者組織における遺伝子発現は明細胞癌患者のみで特異的に向上することが明らかにされ(特許文献1)、血中TFPI2の測定により卵巣明細胞癌を検出する方法が開示された(特許文献2および3、非特許文献2および3)。
一方、別の研究グループから卵巣悪性腫瘍の1つである高異型度漿液性がん(HGSC)と卵巣良性腫瘍の血漿のプロテオーム解析の結果、HGSC群で測定中央値が上昇するタンパク質群の一つとしてTFPI2が報告されている(非特許文献4)。しかし今日まで、TFPI2が境界悪性腫瘍を含む多様な組織型を有する卵巣悪性腫瘍と卵巣良性腫瘍の鑑別に適用できるかは不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5224309号
【文献】特許第6074676号
【文献】国際公開第2016/084912号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Tumor Biology, 36.2(2015),1045-1053
【文献】J. Proteome Res., 2013,12(10),4340-4350
【文献】PloS one 11.10 (2016): e0165609.
【文献】Frontiers in oncology 9(2019): 1150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、卵巣悪性腫瘍を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法、及び前記方法に利用できる試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討し、血中TFPI2値は卵巣良性腫瘍患者と比較して卵巣悪性腫瘍患者で有意に向上することを見出し、TFPI2が高い特異度をもって卵巣悪性腫瘍を検出しうることに想到し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]検体において、TFPI2量を測定することを含む、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法。
[2]前記TFPI2量の測定値が、予め設定した基準値を超えた場合に、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)が検出されたとする、[1]に記載の方法。
[3]前記TFPI2量が、TFPI2プロセシングポリペプチド量及びインタクトTFPI2量の合計である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記TFPI2量の測定が、配列番号1のアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体を用いた抗原抗体反応により行われるものである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記抗体が、TFPI2のクニッツドメイン1を認識する抗体である、[4]に記載の方法。
[6]質量分析法を用いて測定を行う、[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
[7]さらにTFPI2以外の卵巣癌マーカーを検出する方法を組み合わせて行うものである、[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8]配列番号1に示すアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体を含む、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出するための試薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、卵巣悪性腫瘍を卵巣良性腫瘍と鑑別して、簡便かつ高い精度で検出する方法、及び前記方法に利用できる試薬が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】卵巣良性腫瘍群と卵巣悪性腫瘍患者群におけるTFPI2又はCA125測定値のボックスプロット(Box Plot)を示した図。縦軸は血中TFPI2又はCA125量を表す。
図2】卵巣良性腫瘍群と卵巣悪性腫瘍群の受信者動作特性(ROC)曲線を示した図。
図3】卵巣良性腫瘍群と卵巣悪性腫瘍患者群におけるTFPI2とCA125との測定値の相関を示した図。縦軸はCA125測定値、横軸はTFPI2測定値を表す。
図4】卵巣良性腫瘍群と卵巣悪性腫瘍患者群におけるTFPI2又はCA125測定値のボックスプロットを示した図。縦軸は血中TFPI2又はCA125量を表す。
図5】卵巣良性腫瘍群と卵巣悪性腫瘍群のROC曲線を示した図。
図6】卵巣良性腫瘍群と卵巣悪性腫瘍患者群におけるTFPI2とCA125との測定値の相関を示した図。縦軸はCA125測定値、横軸はTFPI2測定値を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1>本発明の卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法
本発明の第一の態様は、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法であり、検体においてTFPI2量を測定することを含む。これは、卵巣良性腫瘍と比べて、卵巣悪性腫瘍の血液等の生体試料中においてTFPI2の存在が上昇することに基づく方法である。検体におけるTFPI2量の測定は、通常インビトロ(in vitro)で行われる。この方法により、後述する実施例が示す通り、高い特異度で卵巣悪性腫瘍を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出することができる。
なお、本発明の方法は、卵巣悪性腫瘍を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する段階までを含むものであり、卵巣悪性腫瘍の診断に関する最終的な判断行為は含まれない。医師は、本発明の方法による検出結果等を参照して、卵巣悪性腫瘍を診断したり治療方針を立てたりする。
【0012】
本発明において検出される卵巣悪性腫瘍は、悪性腫瘍と境界悪性腫瘍を指し、これらにそれぞれ含まれる種々の腫瘍が対象となり、高異型度漿液性がんを除くほかは特に限定されない。
悪性腫瘍としては、非浸潤性低異型度漿液性癌、低異型度漿液性癌、粘液性癌、類内膜癌、明細胞癌、悪性ブレンナー腫瘍、漿液粘液性癌、未分化癌(低異型度類内膜間質肉腫、高異型度類内膜間質肉腫)、混合型上皮性間葉系腫瘍(線肉腫・癌肉腫)などの上皮性;純粋型間質性腫瘍(富細胞性線維腫・線維肉腫・悪性ステロイド細胞腫瘍)、純粋型性索腫瘍(成人型顆粒膜細胞腫・若年型顆粒膜細胞腫・セルトリ細胞腫・輪状細管を伴う性索腫瘍)などの性索間質性腫瘍;セルトリ・ライディッヒ細胞腫瘍、その他の性索間質性腫瘍などの混在型性索間質性腫瘍;未分化胚細胞腫瘍/ディスジャーミノーマ・卵黄嚢腫瘍、体芽性癌(胎児性癌)・多胎芽腫・未熟奇形腫(G3)・悪性添加を伴う成熟奇形腫線維肉腫・絨毛癌・混在型胚細胞腫瘍などの胚細胞腫瘍;癌種、肉腫;悪性リンパ腫;二次性(転移性)腫瘍等が挙げられる。これらの中でも、明細胞癌、低異型度漿液性癌、類内膜癌及び粘液性癌が好ましい例示としてあげられる。また、明細胞癌、類内膜癌及び粘液性癌が更に好ましい例示としてあげられる。
境界悪性腫瘍としては、漿液性・微少乳頭状パターンを伴う漿液性、粘液性、類内膜、明細胞、腺線維種、表在性乳頭状、ブレンナー腫瘍、漿液粘液性などの上皮性;顆粒膜細胞、セルトリ・間質細胞腫瘍(中分化型)、ステロイド細胞腫瘍(分類不能型)、ギナンドブラストーマなどの性策間質性腫瘍;未熟奇形腫(G1、G2)、カルチノイド、甲状腺腫性カルチノイドなどの胚細胞腫瘍;性腺芽腫(純粋型);等が挙げられる。
【0013】
本発明において測定されるTFPI2は、特に限定はなく、例えばインタクトTFPI2(以降、「I-TFPI2」とも記す)、TFPI2プロセシングポリペプチド(以降、「NT-TFPI2」とも記す)、又はそれらの両方であってもよい。
配列番号1に、ヒトTFPI2のcDNAに基づくアミノ酸配列を示す。配列番号1において、開始メチオニンから22残基目のグリシンまではシグナルペプチドである。
「インタクトTFPI2」とは、配列番号1のアミノ酸配列の23残基目から235残基目で表されるペプチドをいう。
【0014】
また、「NT-TFPI2」は、特許文献3に記載されるように、インタクトTFPI2のN末端側に位置するクニッツドメイン1を含むペプチド断片をいう。より具体的には、NT-TFPI2は、配列番号1のアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの配列を少なくとも含むペプチド、または、前記配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドである。前記同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。また、このポリペプチドは、前記配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。なお、数個とは、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、さらに好ましくは2~5個をいう。また、前記配列の両側に他のペプチドフラグメントを有していてもよいが、TFPI2のクニッツドメイン3を認識する抗体の抗原決定基(エピトープ)を有しないことが好ましい。
【0015】
本発明における患者由来の検体(被検試料)は、全血、血球、血清、血漿などの血液成分、細胞または組織の抽出液、尿、脳脊髄液、腹腔洗浄液、腹水などが挙げられる。また、卵巣組織生検サンプルを検査対象としてもよいが、その場合は生検試料の抽出液または培養上清を測定する。血液成分や尿などの体液を検体として用いると、簡便かつ非侵襲的に行うことができるため好ましく、検体採取の容易性、他の検査項目への汎用性を考慮すると、血液成分を検体として用いるのが特に好ましい。検体の希釈倍率は無希釈から100倍希釈の中から使用する検体の種類や状態に応じて適宜選択すればよい。
【0016】
本発明の卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法において、TFPI2を検出する方法と卵巣癌の他の腫瘍マーカー(TFPI2以外の卵巣癌マーカー、「他の卵巣癌マーカー」とも記す)を検出する方法とを組み合わせて用いてもよい。その組み合わせ方は、特に制限されない。本発明の卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法における、TFPI2を検出する方法と他の卵巣癌マーカーを検出する方法との組み合わせ方の一例として、
(A)測定対象検体に対し、TFPI2を検出する方法と他の卵巣癌マーカーを検出する方法とを、同時にまたは別個に行ない、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法、
(B)測定対象検体に対し、まずTFPI2を検出する方法を適用し、その結果陰性と判定された検体に対して、他の卵巣癌マーカーを検出する方法で、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法、
(C)測定対象検体に対し、まず他の卵巣癌マーカーを検出する方法を適用し、その結果陰性と判定された検体に対して、TFPI2を検出する方法で、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法、
があげられるが、(B)または(C)の方法が、検出の際用いる試薬に無駄が生じなくなる点で好ましい。
【0017】
本発明の卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法で検出する、他の卵巣癌マーカーは、従来知られているマーカーから適宜選択すればよく、一例として、癌抗原125(Cancer Antigen 125、CA125)、癌抗原546(CA546)、癌抗原72-4(CA72-4)、癌抗原130(CA130)、癌抗原602(CA602)、シアリルTn抗原(Sialyl Tn antigen、SLN)、癌関連ガラクトース転移酵素(Galactosyltransferase Associated with Tumor、GAT)、リゾホスファチジン酸(LysoPhosphatidic Acid、LPA)、ヒト精巣上体タンパク質4(Human Epididymis protein 4、HE4)が挙げられる。このうち、特に他の卵巣癌マーカーとして最も汎用されているCA125は臨床的有用性が確立している点で、本発明の卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法で使用する他の卵巣癌マーカーとして好ましい。また、本発明の卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法において検出される他の卵巣癌マーカーは、1種のみであってもよく、2種またはそれ以上であってもよい。
【0018】
また、本発明における検体の採取時期は、特に限定されない。例えば、画像診断等で骨盤内腫瘤が確認され卵巣悪性腫瘍疑いとなって精密検査が施行される術前時から、術後の病理検査により卵巣悪性腫瘍と確定診断後の経過観察時にかけていつでもよく、確定診断前後、治療開始前後など、いずれの段階で採取した検体であっても、本発明の方法に供することができる。
【0019】
本発明の検出方法では、測定により得たTFPI2量が、予め設定した基準値(Cutoff値)を超えた場合に、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)が卵巣良性腫瘍と鑑別して検出されたと判定することが好ましい。ここで、TFPI2量は、インタクトTFPI2量、NT-TFPI2量、又はインタクトTFPI2量及びNT-TFPI2量の合計のいずれでもよいが、インタクトTFPI2量及びNT-TFPI2量の合計が測定のしやすさと十分な感度・特異度との両立の観点からより好ましい。
【0020】
判定に用いる基準値は、測定値もしくは換算濃度値のいずれでもよい。なお、換算濃度値は、TFPI2を標準試料として作成された検量線に基づいて測定値から換算される値をいう。
卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して判定する基準値(Cutoff値)は、卵巣良性腫瘍と卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)をそれぞれ測定し、受信者動作特性(ROC)曲線解析により最適な感度と特異度を示す測定値に適宜設定することができる。
【0021】
以下、TFPI2の測定方法について説明する。
本発明において、検体中のNT-TFPI2量又はインタクトTFPI2量を個別に測定してもよく、またその値を合計して合計量としてもよい。また、検体中のNT-TFPI2とインタクトTFPI2の合計量を一度に測定できる測定系で測定してもよい。あるいは、後述するように、両方の測定による合計量とインタクトTFPI2単独の測定量とから間接的にNT-TFPI2量を測定してもよい。
本発明の方法において、NT-TFPI2量及び/又はインタクトTFPI2量を測定する方法は特に制限されない。例えば、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識する抗体を用いる抗原抗体反応を利用した方法や、質量分析法を利用した方法が例示できる。
【0022】
(a)標識した測定対象及び測定対象を認識する抗体を用い、標識した測定対象及び検体に含まれる測定対象が、前記抗体に競合的に結合することを利用した競合法。
(b)測定対象を認識する抗体を固定化したチップに検体を接触させ、当該抗体と測定対象との結合に依存したシグナルを検出する表面プラズモン共鳴を用いた方法。
(c)蛍光標識した測定対象を認識する抗体を用い、当該抗体と測定対象とが結合することで蛍光偏光度が上昇することを利用した蛍光偏光免疫測定法。
(d)エピトープの異なる2種類の、測定対象を認識する抗体(うち1つは標識した抗体)を用い、当該2つの抗体と測定対象との3者の複合体を形成させるサンドイッチ法。
(e)前処理として測定対象を認識する抗体により検体中の測定対象を濃縮後、その測定対象を抗体より分離し、質量分析装置等により検出する方法。
(d)、(e)の方法が簡便かつ汎用性が高いが、多検体を処理する上では(d)の方法が試薬及び装置に関する技術が十分確立されている点でより好ましい。
【0023】
抗原抗体反応を利用してNT-TFPI2量及び/又はインタクトTFPI2量を測定する方法は、具体的に以下のものが挙げられる。
(A)NT-TFPI2とインタクトTFPI2の両方を認識する抗体を用いて、NT-TFPI2及びインタクトTFPI2の合計量を測定する方法(NT+I-TFPI2測定系)。なお、前記NT-TFPI2とインタクトTFPI2の両方を認識する抗体は、配列番号1で表されるTFPI2アミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体であることが好ましく、TFPI2のクニッツドメイン1を抗原決定基として認識する抗体であることがさらに好ましい。また、この方法で前述したサンドイッチ法を用いる場合は、通常、前記抗体はエピトープの異なる2種類を用いる。
【0024】
(B)NT-TFPI2を認識せずインタクトTFPI2を認識する抗体を用いて、インタクトTFPI2単独の量を測定する方法(I-TFPI2測定系)。なお、前記NT-TFPI2を認識せずインタクトTFPI2を認識する抗体は、TFPI2のクニッツドメイン3を抗原決定基として認識する抗体であること好ましい。また、この方法で前述したサンドイッチ法を用いる場合は、通常、前記抗体はエピトープの異なる2種類を用い、うち少なくとも1種類はNT-TFPI2を認識せずインタクトTFPI2を認識する抗体を用い、もう1種類はNT-TFPI2を認識せずインタクトTFPI2を認識する抗体であってもNT-TFPI2とインタクトTFPI2の両方を認識する抗体であってもよい。
【0025】
(C)(A)のNT+I-TFPI2測定系で測定したNT-TFPI2及びインタクトTFPI2の合計量から、(B)のI-TFPI2測定系で測定したインタクトTFPI2単独量を減じることにより、NT-TFPI2単独の量を算出する方法。
(D)インタクトTFPI2を認識せずNT-TFPI2を認識する抗体を用いて、NT-TFPI2単独の量を測定する方法。なお、前記インタクトTFPI2を認識せずNT-TFPI2を認識する抗体は、例えば、NT-TFPI2のC末端部分のペプチド配列を特異的に認識する抗体が挙げられる。前述したサンドイッチ法を用いる場合は、例えば、当該抗体を固相抗体とし、クニッツドメイン1を抗原決定基として認識する抗体を検出抗体とする。
【0026】
本発明の卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法においては、前述した(C)や(D)の方法で測定したNT-TFPI2単独の量を判定の基準に用いてもよいが、(A)の方法で測定したNT-TFPI2及びインタクトTFPI2の合計量を判定の基準に用いても十分な感度と特異度が得られるうえ、抗体の取得しやすさや測定が一段階で簡便なことから、後者がより好ましい。
【0027】
NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識する抗体は、NT-TFPI2ポリペプチドまたはタンパク質、インタクトTFPI2ポリペプチド又はTFPI2タンパク質の部分領域からなるオリゴペプチド、NT-TFPI2ポリペプチド又はTFPI2タンパク質のインタクトまたは部分領域をコードするポリヌクレオチドなどを免疫原として、動物に免疫することで得ることができる。前記タンパク質または前記オリゴペプチドやポリペプチドは生体内のTFPI2の立体構造を反映していない、あるいは調製する過程でその構造が変化する可能性がある。そのため、得られた抗体が、所望の生体内のTFPI2に対して高い特異性や結合力を有さない可能性があり、本抗体を用いて測定系を構築しても結果として検体中に含まれるTFPI2濃度を正確に定量できなくなる可能性がある。
【0028】
一方、免疫原としてTFPI2ポリペプチド又はインタクトTFPI2タンパク質のインタクトまたは部分領域をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを用いることで、免疫動物の体内でTFPI2ポリペプチド又はインタクトTFPI2タンパク質のインタクトまたは部分領域が発現され免疫応答が惹起されるため、検体中のTFPI2に対して高い特異性及び結合力(すなわち高親和性)を有した抗体が得られるためより好ましい。
免疫に用いる動物は、抗体産生能を有するものであれば特に限定はなく、マウス、ラット、ウサギなど通常免疫に用いる哺乳動物でもよいし、ニワトリなど鳥類を用いてもよい。
【0029】
さらに、血中にはTFPI2の相同体として知られるTFPI1も存在する。したがって、TFPI1と交叉せずTFPI2のみを特異的に認識する抗体を用いることが望ましい。
【0030】
TFPI2を認識する抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であるのが好ましい。
TFPI2を認識する抗体を産生するハイブリドーマ細胞の樹立は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で免疫した動物からB細胞を採取し、前記B細胞とミエローマ細胞とを電気的にまたはポリエチレングリコール存在下で融合させ、HAT培地により所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞の選択を行ない、選択したハイブリドーマ細胞を限界希釈法によりモノクローン化を行なうことで、TFPI2を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を樹立することができる。
【0031】
本発明で用いるTFPI2を認識するモノクローナル抗体の選定は、宿主発現系に由来する、GPI(glycosylphosphatidylinositol)アンカー型TFPI2または分泌型TFPI2に対する親和性に基づいて行えばよい。
なお、前記宿主としては特に限定はなく、当業者がタンパク質の発現に通常用いる、大腸菌や酵母などの微生物細胞、昆虫細胞、動物細胞の中から適宜選択すればよいが、ジスルフィド結合もしくは糖鎖付加といった翻訳後修飾により、天然型のTFPI2に近い構造を有するタンパク質の発現が可能な、哺乳細胞を宿主として用いると好ましい。哺乳細胞の一例としては、従来用いられている、ヒト胎児腎臓由来細胞(HEK)293T細胞株、サル腎臓細胞COS7株、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはヒトから単離された癌細胞などが挙げられる。
【0032】
本発明で用いられる抗体の精製は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で樹立した、抗体を産生するハイブリドーマ細胞を培養後、その培養上清を回収し、必要に応じ硫酸アンモニウム沈殿による抗体濃縮後、プロテインA、プロテインG、またはプロテインLなどを固定化した担体を用いたアフィニティークロマトグラフィー及び/またはイオン交換クロマトグラフィーにより、抗体の精製が可能である。
なお、前述したサンドイッチ法で抗原抗体反応を行なう際に用いる標識した抗体は、前述した方法で精製した抗体をペルオキシダーゼやアルカリ性ホスファターゼなどの酵素で標識すればよく、その標識も技術が十分確立された方法を用いて行なえばよい。
【0033】
本発明の方法において、質量分析法を利用してTFPI2量を測定する方法について、以下に具体的に説明する。
検体が血液である場合は、前処理工程として血液に多く含まれるアルブミン、イムノグロブリン、トランスフェリン等の主要タンパク質をAgilent Human 14等で除去した後、イオン交換、ゲル濾過または逆相HPLC等でさらに分画することが好ましい。または、抗TFPI2抗体を用いた免疫的手法によりTFPI2のみを特異的に回収することも可能である。
【0034】
測定は、タンデム質量分析(MS/MS)、液体クロマトグラフィ・タンデム質量分析(LC/MS/MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(matrix assisted laser desorption ionization time-of-flight mass spectrometry、MALDI-TOF/MS)、表面増強レーザーイオン化質量分析(surface enhanced laser desorption ionization mass spectrometry、SELDI-MS)等により行うことができる。
【0035】
本発明の卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法は、卵巣悪性腫瘍を治療する方法に適用することができる。すなわち、本発明により、患者における卵巣悪性腫瘍を治療する方法であって、
(i)TFPI2量の測定値が予め設定した基準値を超えるものとして患者を同定する工程、及び
(ii)前記同定された患者に対して治療を施す工程、を含む方法が提供される。
前記工程(i)の同定において、TFPI2量の測定は、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を特異的に認識する抗体を用いて行われてもよいし、質量分析法を用いて行われてもよい。
前記工程(ii)の治療としては、外科的治療、薬物療法、放射線療法等が挙げられるが特に限定されない。
【0036】
<2>本発明の卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出するための試薬
本発明の第二の態様は、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識する抗体を含む、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出するための試薬である。係る抗体としては、NT-TFPI2及びインタクトTFPI2を認識する抗体がより好ましい。より具体的には、配列番号1に示すアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体がさらに好ましい。
本発明の試薬を前述したサンドイッチ法に利用する場合は、前記抗体としてエピトープの異なる2種類の抗体を含むことが好ましい。
本発明の試薬に含まれる抗体は、抗体そのものであってもよく、標識されていてもよく、固相に固定化されていてもよい。
【0037】
本発明の試薬のうち、前述したサンドイッチ法の一態様である2ステップサンドイッチ法に利用する場合について、以下に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
まず、本発明の試薬は、以下の(I)から(III)に示す方法で作製することができる。
(I)まず、サンドイッチ法で用いる、TFPI2を認識する、エピトープの異なる2種類の抗体(以下、「抗体1」及び「抗体2」とする)のうち、抗体1をイムノプレートや磁性粒子等のB/F(Bound/Free)分離可能な担体に結合させる。結合方法は、疎水結合を利用した物理的結合であってもよいし、2物質間を架橋可能なリンカー試薬などを用いた化学的結合であってもよい。
【0038】
(II)担体に前記抗体1を結合させた後、非特異的結合を避けるため、担体表面を牛血清アルブミン、スキムミルク、市販のイムノアッセイ用ブロッキング剤、タンパク質吸着抑制用化学合成ポリマーなどでブロッキング処理を行ない1次試薬とする。
【0039】
(III)他方の抗体2を標識し、得られた標識抗体を含む溶液を2次試薬として準備する。抗体2に標識する物質としては、ペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼといった酵素、蛍光物質、化学発光物質、ラジオアイソトープなどの検出装置で検出可能な物質、又はビオチンに対するアビジンなど特異的に結合する相手が存在する物質等が好ましい。また、2次試薬の溶液としては、抗原抗体反応が良好に行える緩衝液、例えばリン酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液などが好ましい。このようにして作製した本発明の試薬は必要に応じ凍結乾燥させてもよい。
なお、1ステップサンドイッチ法の場合は、前述した(I)~(II)同様に担体に抗体1を結合させブロッキング処理を行なったものを作製し、前記抗体固定化担体に、標識した抗体2を含む緩衝液をさらに添加して試薬を作製すればよい。
【0040】
次に、前述した方法で得られた試薬を用いて、2ステップサンドイッチ法でTFPI2を検出し測定するには、以下の(IV)から(VI)に示す方法で行なえばよい。
(IV)(II)で作製した1次試薬と検体とを一定時間、一定温度のもと接触させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分から180分間反応させればよい。
(V)未反応物質をB/F分離により除去し、続いて(III)で作製した2次試薬と一定時間、一定温度のもと接触させ、サンドイッチ複合体を形成させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分から180分間反応させればよい。
(VI)未反応物質をB/F分離により除去し、標識抗体の標識物質を定量し、既知濃度のTFPI2溶液を標準とし作成した検量線により、検体中のヒトTFPI2を定量する。
【0041】
本発明の試薬に含まれる抗体等の試薬成分の量は、検体量、検体の種類、試薬の種類、測定の手法等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。具体的には、例えば、後述するように検体として血清や血漿を20μL使用して、サンドイッチ法によりTFPI2量の測定を行う場合、当該検体20μLを抗体と反応させる反応系当たり、担体へ結合させる抗体量が100ngから1000μgであってよく、標識抗体量が2ngから20μgであってよい。
【0042】
本発明の試薬は、用手法での測定にも利用可能であり、自動免疫診断装置を用いた測定にも利用可能である。特に自動免疫診断装置を用いた測定は、検体中に含まれる内在性の測定妨害因子や競合酵素の影響を受けることなく測定が可能で、かつ短時間に検体中のTFPI2が定量可能であるため、好ましい。
【0043】
本発明の別の側面は、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2の、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出するための試薬の製造における使用である。
本発明の別の側面は、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2の、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出することにおける使用である。
本発明の別の側面は、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出するために使用される、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2である。
【0044】
本発明の別の側面は、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識する抗体の、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出するための試薬の製造における使用である。
本発明の別の側面は、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識する抗体の、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出することにおける使用である。
本発明の別の側面は、卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出するために使用される、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識する抗体である。
これらの側面における前記抗体としては、配列番号1に示すアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体が好ましい。
【実施例
【0045】
以下に本発明を具体的に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1> TFPI2測定試薬の調製
特許文献3の方法に従い、DNA免疫法により得られたTFPI2抗体を用いてTFPI2測定試薬を以下の通り調製した。
(1)水不溶性フェライト含有担体に抗TFPI2モノクローナル抗体(TS-TF04)を100ng/担体になるように室温にて一昼夜物理的に吸着させ、その後1%BSAを含む100mMトリス緩衝液(pH8.0)にて53℃・4時間ブロッキングを行なうことで、抗TFPI2抗体固定化担体を調製した。
(2)抗TFPI2モノクローナル抗体(TS-TF01)をアルカリフォスファターゼ標識キット(同仁化学社製)にて、アルカリフォスファターゼ標識抗TFPI2抗体を調製した。
(3)磁力透過性の容器(容量1.2mL)に、(1)で調製した12個の抗体固定化担体を入れた後、(2)で調製したアルカリフォスファターゼ標識抗体を1μg/mL含む緩衝液(3%BSAを含むトリス緩衝液、pH8.0)100μLを添加し、凍結乾燥を実施することで、TFPI2測定試薬を作製した。なお、作製したTFPI2測定試薬は窒素充填下にて密閉封印シールを施し、測定まで4℃で保管した。
【0047】
<実施例2> 臨床検体の評価
本実施例で使用した臨床検体の内訳を表1に示す。卵巣良性腫瘍血清33例と卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)血清38例は横浜市立大学産婦人科にて同一プロトコルにて収集された検体であり、インフォームドコンセントの承諾及び横浜市立大学倫理委員会の承認を受けて提供された。
【0048】
【表1】
【0049】
評価用装置は全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-2000(東ソー社製:製造販売届出番号13B3X90002000009)を用いた。全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-2000によるTFPI2の測定は、以下の手順で行った。
(1)サンプル20μLと界面活性剤を含む希釈液80μLを、実施例1で作製したTFPI2測定試薬を収容した容器に自動で分注し、
(2)37℃恒温下で10分間の抗原抗体反応を行ない、
(3)B/F分離後、界面活性剤を含む緩衝液にて8回の洗浄を行ない、
(4)4-メチルウンベリフェリルリン酸塩を添加し、単位時間当たりのアルカリフォスファターゼによる4-メチルウンベリフェロン生成濃度をもって測定値(TFPI2 intensity、nmol/(L・s))とした。
【0050】
市販TFPI2組み換えタンパク(R&D社)を標準品として検量線を作成し、検体中のTFPI2濃度を算出した。CA125の測定はEテストTOSOHII CA125測定試薬(東ソー社製、承認番号20700AMZ00504000)を用いて測定した。
【0051】
血中TFPI2値および血中CA125測定値のBoxPlotを図1に示す。TFPI2およびCA125はいずれも卵巣良性腫瘍と比較して卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)では統計的有意差を持って高値を示すことが明らかとなった(マン=ホイットニーのU検定、p<0.0001)。
ROC解析結果を図2に示す。TFPI2の曲線下面積(AUC)は0.7644、CA125のAUCは0.7699となり、TFPI2はCA125に匹敵する良好な卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)検出性能(卵巣良性腫瘍と卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)の鑑別性能)を有することが示された。
【0052】
<実施例3>TFPI2とCA125の良性悪性鑑別性能の比較
TFPI2のカットオフ値(191pg/mL)は実施例2のROC解析結果よりYouden index(特異度+感度-1)が最大値となる濃度とした。CA125は臨床現場で使用されているカットオフ値(35U/mL)を用いた。2×2分割表を用いて算出した各マーカーの鑑別性能(感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率、陽性尤度比、陰性尤度比)を表2に示す。TFPI2はCA125に比べて特異度、陽性的中率および陽性尤度比に優れることが示された、一方、CA125はTFPI2に比べて感度に優れることが示された。
【0053】
【表2】
【0054】
<実施例4> TFPI2とCA125の相関解析
実施例2の結果を基に、卵巣良性腫瘍または卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)におけるTFPI2とCA125の相関を解析した結果を図3に示す。TFPI2とCA125は卵巣良性腫瘍または卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)のいずれにおいても有意な相関は認められず、独立した指標となることが示唆された。
【0055】
<実施例5> 追加臨床検体の評価
本実施例で使用した臨床検体の内訳を表3に示す。卵巣良性腫瘍血清77例と卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)血清274例は横浜市立大学産婦人科にて同一プロトコルにて収集された検体であり、インフォームドコンセントの承諾及び横浜市立大学倫理委員会の承認を受けて提供された。
【0056】
【表3】
【0057】
評価用装置は全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-900(東ソー社製、製造販売届出番号:13B3X90002000012)を用いた。全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-900によるTFPI2の測定は、以下の手順で行った。
(1)サンプル20μLと界面活性剤を含む希釈液80μLを、実施例1で作製したTFPI2測定試薬を収容した容器に自動で分注し、
(2)37℃恒温下で10分間の抗原抗体反応を行ない、
(3)B/F分離後、界面活性剤を含む緩衝液にて8回の洗浄を行ない、
(4)4-メチルウンベリフェリルリン酸塩を添加し、単位時間当たりのアルカリフォスファターゼによる4-メチルウンベリフェロン生成濃度をもって測定値(TFPI2 intensity、nmol/(L・s))とした。
市販TFPI2組み換えタンパク(R&D社)を標準品として検量線を作成し、検体中のTFPI2濃度を算出した。CA125の測定は、Eテスト「TOSOH」II(CA125)測定試薬(東ソー社製、承認番号:20700AMZ00504000)を用いて測定した。
血中TFPI2値および血中CA125測定値のBoxPlotを図4に示す。TFPI2およびCA125はいずれも卵巣良性腫瘍と比較して卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)では統計的有意差を持って高値を示すことが明らかとなった(マン=ホイットニーのU検定、p<0.0001)。
【0058】
ROC解析結果を図5に示す。TFPI2の曲線下面積(AUC)は0.749、CA125のAUCは0.761となり、TFPI2はCA125に匹敵する良好な卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)検出性能(卵巣良性腫瘍と卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)の鑑別性能)を有することが示された。
【0059】
<実施例6> 追加検体におけるTFPI2とCA125の良性悪性鑑別性能の比較
TFPI2およびCA125のカットオフ値は、実施例3と同じ値(TFPI2:191pg/mL、CA125:35U/mL)を用いた。2×2分割表を用いて算出した各マーカーの鑑別性能(感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率、陽性尤度比、陰性尤度比)を表4に示す。実施例3と同様に、TFPI2はCA125に比べて特異度、陽性的中率および陽性尤度比に優れることが示された、一方、CA125はTFPI2に比べて感度に優れることが示された。
【0060】
【表4】
【0061】
<実施例7> 追加検体におけるTFPI2とCA125の相関解析
実施例5の結果を基に、卵巣良性腫瘍または卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)におけるTFPI2とCA125の相関を解析した結果を図6に示す。TFPI2とCA125は卵巣良性腫瘍または卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)のいずれにおいても有意な相関は認められず、独立した指標となることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、簡便かつ患者負担が比較的少ない血液検査で卵巣悪性腫瘍(但し、高異型度漿液性がんを除く)を卵巣良性腫瘍と鑑別して検出する方法が提供される。これは、有効な腫瘍マーカーが存在せず画像診断に依存している卵巣悪性腫瘍診療への貢献が期待され、産業上非常に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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