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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-25
(45)【発行日】2025-12-03
(54)【発明の名称】フェンダーライナー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/18 20060101AFI20251126BHJP
   B62D 29/04 20060101ALI20251126BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20251126BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20251126BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20251126BHJP
   B32B 27/02 20060101ALI20251126BHJP
【FI】
B62D25/18 F
B62D29/04 A
B32B5/18
B32B5/24 101
B32B7/12
B32B27/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022576578
(86)(22)【出願日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2021048512
(87)【国際公開番号】W WO2022158266
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2024-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2021009713
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 圭介
(72)【発明者】
【氏名】下坂 鷹典
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤原 幸宏
【審査官】小林 瑛佑
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-109237(JP,U)
【文献】特開2008-132972(JP,A)
【文献】特開2002-348767(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141801(WO,A1)
【文献】特開2001-039343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/18
B62D 29/04
B32B 5/18
B32B 5/24
B32B 7/12
B32B 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のタイヤの外周に沿って湾曲状に配置されるフェンダーライナーであって、
不織布と、
前記不織布の外部で発泡した後に、前記不織布に重ね合わせた発泡体と、
を備え、
前記不織布は、前記タイヤの外周に沿って湾曲状の形状を有し、
前記発泡体は、前記不織布の前記タイヤとは反対側の面の一部のみに設けられる、フェンダーライナー。
【請求項2】
前記不織布と前記発泡体の間に、前記不織布と前記発泡体の一体化した一体化層が存在しない、請求項1に記載のフェンダーライナー。
【請求項3】
前記不織布と前記発泡体とは、隣接している、請求項1又は2に記載のフェンダーライナー。
【請求項4】
前記不織布と前記発泡体の間に、前記不織布と前記発泡体を接着する接着層を備える、請求項1又は2に記載のフェンダーライナー。
【請求項5】
前記発泡体は、前記不織布の前記タイヤとは反対側の面の少なくとも一部に設けられる第1発泡層と、前記第1発泡層の前記タイヤとは反対側の面の少なくとも一部に設けられる第2発泡層と、を含む、請求項のいずれか1項に記載のフェンダーライナー。
【請求項6】
前記発泡体は、前記第2発泡層の前記タイヤとは反対側の面の少なくとも一部に設けられる第3発泡層をさらに含む、請求項に記載のフェンダーライナー。
【請求項7】
前記タイヤとの対向面に、撥水層を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のフェンダーライナー。
【請求項8】
前記撥水層は、通気性を有する、請求項に記載のフェンダーライナー。
【請求項9】
前記発泡体は、ポリウレタン、ポリアクリル、メラミン、ゴム、ポリオレフィン、又はポリイミドを含む、請求項1~のいずれか1項に記載のフェンダーライナー。
【請求項10】
前記不織布は、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、又はポリプロピレン繊維を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のフェンダーライナー。
【請求項11】
請求項1に記載のフェンダーライナーの製造方法であって、
成形型の内部空間に樹脂組成物を注入することと、
前記成形型の内部空間で前記樹脂組成物を発泡させ、発泡体を成形することと、
前記発泡体を前記成形型から取り出すことと、
前記取り出した前記発泡体を不織布に重ね合わせることと、
を含む、フェンダーライナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フェンダーライナー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の自動車用内外装材は、所定形状に形成された基材と、基材の車体と向き合う一面上の所定箇所において、発泡樹脂を用いたインサート成形によって基材と一体になるように所定形状に形成されている発泡体と、を備える。基材は、不織布等で形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/077003号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発泡体は、発泡樹脂を用いたインサート成形によって不織布と一体化されている。不織布と発泡体とが一体化されているので、不織布と発泡体とを分離するのが困難であり、不織布のリサイクルが困難であった。
【0005】
本開示の一態様は、フェンダーライナーを構成する不織布と発泡体との分離性を向上する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るフェンダーライナーは、車両のタイヤの外周に沿って湾曲状に配置される。前記フェンダーライナーは、不織布と、前記不織布の外部で発泡した後に、前記不織布に重ねた発泡体と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、不織布の外部で発泡した後で不織布に重ねた発泡体を用いることで、不織布と発泡体との分離性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係るフェンダーライナーが搭載された車両の下部構造を示す断面図である。
図2図2は、図1のフェンダーライナーが搭載される前の車両の下部構造を示す断面図である。
図3図3は、図1のフェンダーライナーを示す断面図である。
図4図4は、変形例に係るフェンダーライナーを示す断面図である。
図5図5は、一実施形態に係るフェンダーライナーの製造方法を示すフローチャートである。
図6図6(A)は例1の試験片を示す断面図であり、図6(B)は例2の試験片を示す断面図であり、図6(C)は例3の試験片を示す断面図である。
図7図7は、例1~例3の試験片の吸音特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。また、明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
不織布とは、日本工業規格JIS L 0222:2001で以下のように定義されている。繊維シート,ウェブ又はバットで,繊維が一方向又はランダムに配向しており,交絡,及び/又は融着,及び/又は接着によって繊維間が結合されたもの。ただし,紙,織物,編物,タフト及び縮じゅう(絨)フェルトを除く。
【0011】
先ず、図1図3を参照して、一実施形態に係るフェンダーライナー1について説明する。図1及び図2において、白抜き矢印は車両の進行方向であり、左方が車両前方であり、右方が車両後方である。
【0012】
フェンダーライナー1は、タイヤハウス31の内部に配置される。タイヤハウス31とは、車体3のタイヤ2を収容する空間である。フェンダーライナー1は、タイヤ2の外周に沿って湾曲状に配置される。フェンダーライナー1は、タイヤ2と接触しないように、タイヤ2との間に一定以上の間隙を形成する。
【0013】
フェンダーライナー1は、車両の走行時に跳ね上げられた小石等の異物が車体3に衝突するのを防止する。また、フェンダーライナー1は、車両の走行音、及び異物の衝突音などを吸収する。フェンダーライナー1は、固定具4で車体3に対して取り付けられる。固定具4は、例えばピンなどを含む。
【0014】
図3に示すように、フェンダーライナー1は、不織布11と、発泡体12と、を備える。発泡体12は、不織布11の外部で発泡した後に、不織布11に重ね合わせたものである。従って、不織布11と発泡体12の間に、不織布11と発泡体12の一体化した一体化層が存在しない。一体化層の代わりに、不織布11と発泡体12を分断する分断面が存在する。不織布11と発泡体12は、分断面にて分離自在である。
【0015】
なお、一体化層は、成形型の内部空間の一部に不織布を設置した状態で、成形型の内部空間に樹脂組成物を注入し、樹脂組成物を不織布に含浸させ、不織布の内部で樹脂組成物を発泡させることで得られる。一体化層が存在する場合、不織布11と発泡体12とを分離しようとしても、発泡体12の一部が不織布11に食い付いてしまう。
【0016】
本実施形態の発泡体12は、上記の通り、不織布11の外部で発泡した後に、不織布11に重ね合わせたものである。従って、不織布11と発泡体12の間に、不織布11と発泡体12の一体化した一体化層が存在しない。一体化層の代わりに、不織布11と発泡体12を分断する分断面が存在する。不織布11と発泡体12は、分断面にて分離自在である。よって、不織布11と発泡体12との分離性を向上でき、不織布11のリサイクル率を向上できる。
【0017】
不織布11と発泡体12とは隣接しており、不織布11と発泡体12との間に接着層が存在しない。不織布11と発泡体12を接着する接着層が無ければ、不織布11と発泡体12とを容易に分離でき、不織布11のリサイクル率をより向上できる。また、接着層が無ければ、接着層による音波の反射を防止できる。
【0018】
なお、本実施形態では不織布11と発泡体12が隣接しており、不織布11と発泡体12との間に接着層が存在しないが、接着層が存在してもよい。接着層は、不織布11と発泡体12の界面の一部のみに設けてもよい。接着層は、市松模様状に設けてもよいし、ストライプ状に設けてもよいし、周縁のみに枠状に設けてもよい。不織布11と発泡体12の界面の一部のみに接着層を設ければ、不織布11と発泡体12とを容易に分離でき、また、接着層による音波の反射を抑制できる。
【0019】
不織布11は、タイヤ2の外周に沿って湾曲状の形状を有する。発泡体12は、不織布11のタイヤ2とは反対側の面111に設けられる。強度の高い不織布11を、強度の低い発泡体12よりもタイヤ2の近くに配置することにより、フェンダーライナー1の破損を抑制できる。その破損の原因としては、例えば氷の膜の剥落などが挙げられる。
【0020】
図1に示すように、発泡体12は、例えば、不織布11のタイヤ2とは反対側の面111の一部のみに設けられる。この場合、発泡体12を車体3の複数の取付部32の間に嵌め込み、且つ、各取付部32に不織布11を接した状態で、固定具4で各取付部32に不織布11を固定できる。それゆえ、発泡体12を不織布11に対して固定することなく、発泡体12を不織布11の上に単に載せた状態であっても、車体3に対する発泡体12のずれを抑制できる。また、発泡体12を不織布11の上に単に載せた状態であるので、発泡体12と不織布11とを容易に分離できる。
【0021】
なお、発泡体12は、不織布11のタイヤ2とは反対側の面111の全体に設けてもよい。この場合、発泡体12が不織布11の全体を覆うことで、フェンダーライナー1の全体にわたって吸音率を向上できる。
【0022】
図1に示すように、発泡体12は、不織布11のタイヤ2とは反対側の面111の少なくとも一部に設けられる第1発泡層121と、その第1発泡層121のタイヤ2とは反対側の面の少なくとも一部に設けられる第2発泡層122と、を含んでもよい。例えば図1に示すように、不織布11のタイヤ2とは反対側の面111の一部のみに第1発泡層121が設けられ、第1発泡層121のタイヤ2とは反対側の面の一部のみに第2発泡層122が設けられた場合、第2発泡層122を車体3の凹部33に嵌め込むことで、車体3に対する発泡体12のずれをより抑制できる。
【0023】
第1発泡層121と、第2発泡層122とは、例えば、同一の組成を有し、同一の成形型の内部で同時に発泡したものである。つまり、第1発泡層121と、第2発泡層122とは、一体化されている。第1発泡層121と第2発泡層122とを一体化することで、発泡体12のハンドリング性を向上できる。
【0024】
なお、第1発泡層121と、第2発泡層122とは、異なる組成を有してもよく、異なる吸音特性(例えば異なる吸音ピーク周波数)を有してもよい。これにより、広い周波数帯で騒音の大きさを低減できる。また、第1発泡層121と、第2発泡層122は、異なる成形型の内部で別々に成形されてもよい。
【0025】
第1発泡層121と、第2発泡層122とが、異なる組成を有する場合、第2発泡層122は、第1発泡層121のタイヤ2とは反対側の面の全体に設けられてもよい。この場合、例えば第1発泡層121と、第2発泡層122とが、異なる密度を有することで、発泡体12の吸音率を向上できる。
【0026】
なお、図4に示すように、発泡体12は、不織布11のタイヤ2とは反対側の面111の全体に設けられる第1発泡層121と、第1発泡層121のタイヤ2とは反対側の面の少なくとも一部に形成される第2発泡層122と、を含んでもよい。この場合、第2発泡層122を車体3の複数の取付部32の間に嵌め込み、且つ、各取付部32に第1発泡層121を接した状態で、固定具4で各取付部32に不織布11を固定できる。それゆえ、発泡体12を不織布11に対して固定することなく、発泡体12を不織布11の上に単に載せた状態であっても、車体3に対する発泡体12のずれを抑制できる。また、発泡体12を不織布11の上に単に載せた状態であるので、発泡体12と不織布11とを容易に分離できる。
【0027】
発泡体12は、第2発泡層122のタイヤ2とは反対側の面の少なくとも一部に設けられる第3発泡層123を、さらに含んでもよい。この場合、第3発泡層123を車体3の凹部33に嵌め込むことで、車体3に対する発泡体12のずれをより抑制できる。
【0028】
図4に示すように、発泡体12は、不織布11のタイヤ2とは反対側の面111の全体に設けられる第1発泡層121と、その第1発泡層121のタイヤ2とは反対側の面の一部のみに設けられる第2発泡層122と、第2発泡層122のタイヤ2とは反対側の面の一部のみに設けられる第3発泡層123と、を含んでもよい。この場合、第3発泡層123を車体3の凹部33に嵌め込むことで、車体3に対する発泡体12のずれをより抑制できる。
【0029】
第1発泡層121と、第2発泡層122と、第3発泡層123とは、例えば、同一の組成を有し、同一の成形型の内部で同時に発泡したものである。つまり、第1発泡層121と、第2発泡層122と、第3発泡層123とは、一体化されている。第1発泡層121と第2発泡層122と第3発泡層123とを一体化することで、発泡体12のハンドリング性を向上できる。
【0030】
なお、第1発泡層121及び第2発泡層122と、第3発泡層123とは、異なる組成を有してもよく、異なる吸音特性(例えば異なる吸音ピーク周波数)を有してもよい。これにより、広い周波数帯で騒音の大きさを低減できる。また、第1発泡層121及び第2発泡層122と、第3発泡層123とは、異なる成形型の内部で別々に成形されてもよい。
【0031】
ここで、第2発泡層122と、第3発泡層123とが、異なる組成を有する場合、第3発泡層123は、第2発泡層122のタイヤ2とは反対側の面の全体に設けられてもよい。この場合、例えば第2発泡層122と、第3発泡層123とが、異なる密度を有することで、発泡体12の吸音率を向上できる。
【0032】
不織布11は、ポリエステル(PEs)繊維、ポリエチレン(PE)繊維、又はポリプロピレン(PP)繊維等の集合体である。不織布11は、複数種類の繊維を含んでもよく、例えばポリエステル繊維とレーヨン繊維とを含んでもよい。ポリエステル繊維の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維が挙げられる。
【0033】
不織布11の厚みは、例えば0.10mm~10mmである。不織布11の密度は、例えば5.0kg/m~250kg/mである。不織布11の密度は、いわゆる、かさ密度であって、JIS K7222:2005「発泡プラスチック及びゴム-見掛け密度の求め方」に準拠して測定する。不織布11の密度は、好ましくは25kg/m~220kg/m、より好ましくは50kg/m~200kg/mで、さらに好ましくは100kg/m~180kg/mである。
【0034】
不織布11の吸音率は、例えば0.1~0.5ある。不織布11の吸音率は、厚み10mmの試験片を切り出し、1000Hzの音波を垂直に入射し、JIS A1405-2:2007「音響管による吸音率及びインピーダンスの測定」に準拠して測定する。不織布11の吸音率は、好ましくは0.2~0.4である。吸音率が1.0であることは、音が全く反射されないことを意味する。
【0035】
発泡体12は、不織布11とは異なり、3次元的な網状の骨格を有する。発泡体12は、内部に多数の気泡を有する。多数の気泡は互いにつながっており、その内部を音波が伝播する。その際に、発泡体12の内部で空気が振動する。発泡体12の3次元的な網状の骨格と空気との間に摩擦が生じ、音波のエネルギーが熱のエネルギーに変換される。その結果、音が吸収される。車外の騒音レベル、及び車内の騒音レベルを低減できる。
【0036】
不織布11が2次元的に配向される繊維を含むのに対し、発泡体12は3次元的に張り巡らされた網状の骨格を有する。それゆえ、発泡体12は、不織布11に比べて、吸音率を向上できる。また、発泡体12は、3次元的に張り巡らされた網状の骨格を有し、連続的につながっているので、保形性を向上できる。
【0037】
発泡体12は、例えばポリウレタンの発泡体である。ポリウレタンの発泡体は、いわゆるポリウレタンフォームであって、ポリイソシアネート、ポリオール、触媒、及び発泡剤を含む樹脂組成物を発泡させ、固化して得られる。発泡剤は、水を含む。なお、発泡剤は、塩素を含んでもよい。樹脂組成物の詳細は、後述する。
【0038】
なお、発泡体12は、本実施形態ではポリウレタンの発泡体であるが、ポリアクリル、メラミン、ゴム、ポリオレフィン、又はポリイミドの発泡体であってもよい。ポリウレタンを含むこれらの材料は、軽量性、保形性に優れている。
【0039】
発泡体12の厚みは、軽量性と吸音性の両立の観点から、例えば3mm~30mm、好ましくは4mm~25mm、より好ましくは5mm~20mmである。
【0040】
発泡体12の密度は、軽量性と吸音性の両立の観点から、例えば20kg/m~140kg/mである。発泡体12の密度は、いわゆる、かさ密度であって、JIS K7222:2005「発泡プラスチック及びゴム-見掛け密度の求め方-」に準拠して測定する。発泡体12の密度は、好ましくは30kg/m~130kg/m、より好ましくは55kg/m~120kg/mである。
【0041】
発泡体12の吸音率は、例えば0.4~1.0である。発泡体12の吸音率は、厚み10mmの試験片を切り出し、1000Hzの音波を垂直に入射し、JIS A1405-2:2007「音響管による吸音率及びインピーダンスの測定」に準拠して測定する。発泡体12の吸音率は、好ましくは0.4~1.0である。吸音率が1.0であることは、音が全く反射されないことを意味する。
【0042】
次に、図5を参照して、一実施形態に係るフェンダーライナーの製造方法について説明する。フェンダーライナー1の製造方法は、例えば図5のステップS101~S104を含む。
【0043】
先ず、ステップS101では、成形型の内部空間に樹脂組成物を注入する。成形型は、温度制御性の観点から、金型である。なお、成形型は、砂型、木型又は樹脂型であってもよい。成形型の温度は、50℃~70℃に調節される。
【0044】
成形型の温度が50℃以上であれば、重合反応、及び発泡反応を進めることができる。また、成形型の温度が70℃以下であれば、これらの反応速度を適度に抑制でき、成形型の内部空間の全体に樹脂が行き渡る前に固化が終了するのを抑制でき、不完全な充填が起きる現象、いわゆるショートの発生を抑制できる。
【0045】
なお、成形型の温度分布は、均一でもよいし、不均一でもよい。後者の場合、温度差によって、樹脂組成物の重合反応、及び発泡反応を調整できる。
【0046】
成形型は、例えば下型と上型とに分割されており、内部空間を開閉可能に構成されている。樹脂組成物の注入は、下型と上型で内部空間を閉じた状態で行われる。
【0047】
次に、ステップS102では、成形型の内部空間で樹脂組成物を発泡させ、発泡体12を成形する。発泡体12は、成形型の内部空間と同一の形状及び同一の寸法に成形される。それゆえ、同一の形状及び同一の寸法を有する発泡体12を大量生産できる。また、成形型の内部空間の形状及び寸法で、発泡体12の形状及び寸法が決まるので、微細な構造も付与可能であり、また、切削又はプレスなどの後加工が不要である。
【0048】
次に、ステップS103では、成形型から発泡体12を取り出す。発泡体12の取り出しは、例えば、下型と上型で内部空間を開いた状態で行われる。
【0049】
次に、ステップS104では、成形型から取り出した発泡体12を、不織布11に重ね合わせる。これにより、フェンダーライナー1が得られる。フェンダーライナー1は、固定具4で車体3に対して取り付けられる。
【0050】
フェンダーライナー1のタイヤ2との対向面に不図示の撥水層を形成するステップを含んでもよい。撥水層は、例えば不織布11のタイヤ2との対向面に形成される。撥水層を不織布11に形成するタイミングは、不織布11と発泡体12とを重ねる前でも後でもよい。なお、発泡体12が不織布11よりもタイヤ2寄りに配置される場合、撥水層は発泡体12のタイヤ2との対向面に形成される。
【0051】
撥水層は、タイヤ2によって飛散する水滴を滑りやすくする。従って、水滴が残るのを抑制でき、氷の膜が張るのを抑制できる。氷の膜が張らなければ、氷の膜の剥離による損傷も生じない。撥水層は、例えばフッ素系、シリコーン系又はポリエチレンやポリプロピレンなどの極性の小さい炭化水素系のコーティング剤により形成される。
【0052】
撥水層は、通気性を有してもよい。撥水層が通気性を有していない場合に比べて、タイヤ2の走行音等の音波がフェンダーライナー1の内部に入り込みやすい。従って、音波の反射を抑制できる。通気性を有する撥水層は、例えばニードルパンチ法やスプレーコート法で形成される。
【0053】
次に、発泡体12の原料である樹脂組成物について説明する。発泡体がポリウレタンフォームである場合、樹脂組成物は、ポリイソシアネート、ポリオール、触媒、及び発泡剤を含む。樹脂組成物は、更に添加剤を含んでもよい。樹脂組成物は、通常、ポリイソシアネート以外の原料を含むシステム液と、ポリイソシアネートとを混合して調製する。
【0054】
ポリイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(通称:クルードMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、これらのポリイソシアネートのプレポリマー変性体、イソシアヌレート変性体、ウレア変性体及びカルボジイミド変性体であるが、これらに限定されない。TDIは2,4-TDI及び2,6-TDIのいずれでもよく、混合物でもよい。MDIは2,2'-MDI、2,4'-MDI及び4,4'-MDIのいずれでもよく、これらのうち2種類又は3種類の混合物でもよい。
【0055】
ポリオールとしては、ポリオキシアルキレンポリオール、ポリエステルポリオール等を挙げることができる。
【0056】
発泡剤としては、水を用いることができるが、これに限定されない。水以外の発泡剤としては、低沸点の不活性化合物が好ましい。このような不活性化合物としては、例えば、不活性ガス、及び沸点が70℃以下で、炭素数が8以下の、炭素原子に結合する水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい飽和炭化水素が挙げられる。前記ハロゲン原子は、例えば、塩素原子又はフッ素原子である。飽和炭化水素の例は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ジクロロメタン(塩化メチレン)、トリクロロエタン及び各種フロン化合物であるが、これらに限定されない。また、発泡剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0057】
触媒としては、アミン系触媒及びスズ系触媒からなる群から選択される少なくとも1種である。触媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記アミン系触媒の例は、トリエチレンジアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N',N'-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N-ジメチルアミノエトキシエトキシエタノール、N,N-ジメチルアミノ-6-ヘキサノール、N,N-ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N-ジメチルアミノエトキシエタノールに2モルのエチレンオキシドを付加した化合物、及び5-(N,N-ジメチル)アミノ-3-メチル-1-ペンタノールであるが、これらに限定されない。前記スズ系触媒の例は、2-エチルヘキサン酸スズ、ジ-n-ブチルスズオキシド、ジ-n-ブチルスズジラウレート、ジ-n-ブチルスズジアセテート、ジ-n-オクチルスズオキシド、ジ-n-オクチルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロリド、ジ-n-ブチルスズジアルキルメルカプタン及びジ-n-オクチルスズジアルキルメルカプタンであるが、これらに限定されない。
【0058】
添加剤として、整泡剤を含んでもよい。整泡剤の例として、シリコーン系整泡剤又は含フッ素化合物系整泡剤が挙げられるがこれらに限定されない。整泡剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0059】
添加剤として、架橋剤を含んでもよい。架橋剤としては、水酸基、1級アミノ基及び2級アミノ基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有する化合物を選択することができる。架橋剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ビスフェノールA、エチレンジアミン、3,5-ジエチル-2,4-ジアミノトルエン、3,5-ジエチル-2,6-ジアミノトルエン、2-クロロ-p-フェニレンジアミン、3,5-ビス(メチルチオ)-2,4-ジアミノトルエン、3,5-ビス(メチルチオ)-2,6-ジアミノトルエン、1-トリフルオロメチル-3,5-ジアミノベンゼン、1-トリフルオロメチル-4-クロロ-3,5-ジアミノベンゼン、2,4-トルエンジアミン、2,6-トルエンジアミン、ビス(3,5-ジメチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、m-キシリレンジアミン、1,4-ジアミノヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及びイソホロンジアミンであるが、これらに限定されない。また、架橋剤として、上述した分子量/水酸基数が500未満のポリオキシアルキレンポリオールも使用できる。架橋剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0060】
上記以外の添加剤としては、乳化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の老化防止剤、炭酸カルシウム又は硫酸バリウム等の充填剤、可塑剤、着色剤、難燃剤、抗カビ剤及び破泡剤等の公知の各種添加剤及び助剤が挙げられるが、これらに限定されず、従来ポリウレタンフォームに使用されている添加剤を使用できる。
【実施例
【0061】
以下、実験データについて説明する。下記の例1が実施例であり、例2~例3は比較例である。例1~例3では、発泡体の材料である樹脂組成物として、同じものを用いた。樹脂組成物は、システム液を109.3質量部、ポリイソシアネート(TDIとMDIの混合物、東ソー社製、商品名:コロネート1021)を39.3質量部それぞれ容器に入れ、高速ミキサーで混合し、室温で調製した。システム液は、ポリオキシアルキレンポリオール1(AGC社製、商品名:EXCENOL820)を60質量部、ポリオキシアルキレンポリオール2(AGC社製、商品名:EXCENOL923)を40質量部、発泡剤である水を3質量部、触媒1(東ソー社製、商品名:TEDA L-33)を0.3質量部、触媒2(東ソー社製、商品名:TOYOCAT-ET)を0.05質量部、整泡剤1(Evonik社製、商品名:Tegostab B8737LF2)を3質量部、着色剤(大日精化工業社製、商品名FTR5570)を3質量部、架橋剤1(AGC社製、商品名:EXCENOL555)を3質量部含むものであった。
【0062】
例1では、成形型の内部空間に上記樹脂組成物を注入し、成形型の内部空間で上記樹脂組成物を発泡させ、図6(A)に示す発泡体52を得た。この発泡体52と、アンビック社製の商品名SN50B(PET繊維)を、miniTESTPRESS10型加熱プレス機(東洋精機社製)を用いて170℃、1.6MPaの圧力で3分間プレス圧縮し、厚み1.3mmとした不織布51とを重ね合わせ、試験片5を作製した。不織布51の厚みは1.3mmであり、発泡体52の厚みは8.7mmであり、試験片5の厚みは10mmであった。
【0063】
例2では、成形型の内部空間の一部にアンビック社製の商品名SN50B(PET繊維)を、miniTESTPRESS10型加熱プレス機(東洋精機社製)を用いて100℃、0.3MPaの圧力で3分間プレス圧縮し、厚み2.7mmとした不織布を設置したうえで、成形型の内部空間に上記樹脂組成物を注入し、上記樹脂組成物を不織布に含浸させて発泡させた。その結果、図6(B)に示すように、不織布61と発泡体62の間に、不織布と発泡体の一体化した一体化層63を有する試験片6が得られた。不織布61の厚みは0.2mmであり、発泡体62の厚みは7.3mmであり、一体化層63の厚みは2.5mmであり、試験片6の厚みは10mmであった。
【0064】
例3では、図6(C)に示すように、不織布71のみで構成される試験片7を作製した。試験片7の厚みは10mmであった。不織布としては、アンビック社製の商品名SN50B(PET繊維)をプレス圧縮することなく、2枚重ねたものを用いた。
【0065】
図7に、例1~例3の試験片5~7の吸音特性を示す。試験片5~7の吸音特性として、垂直入射吸音率の周波数依存性を測定した。その測定には、日本音響エンジニアリング社製のWinZacMTXを用いた。吸音特性の測定では、図6に白抜き矢印で示すように、不織布51、61、71に対して音波を垂直に入射させた。
【0066】
図7から明らかなように、例1及び例2では、例3に比べて、車両の走行音の周波数として代表的な1000Hz付近において、吸音率が高かった。これは、例1及び例2では、例3とは異なり、試験片が発泡体を含むためと推定される。また、例1では、例2に比べて、1000Hzよりも高周波数の帯域において、吸音率が高かった。これは、例1では、例2とは異なり、試験片が一体化層を含まないためと推定される。
【0067】
以上、本開示に係るフェンダーライナー及びその製造方法の実施形態などについて説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【0068】
本出願は、2021年1月25日に日本国特許庁に出願した特願2021-009713号に基づく優先権を主張するものであり、特願2021-009713号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0069】
1 フェンダーライナー
11 不織布
12 発泡体
121 第1発泡層
122 第2発泡層
2 タイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7