(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-12-11
(45)【発行日】2025-12-19
(54)【発明の名称】アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金およびそれを負極に用いたアルカリ蓄電池ならびに車両
(51)【国際特許分類】
C22C 19/00 20060101AFI20251212BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20251212BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20251212BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20251212BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20251212BHJP
H01M 4/24 20060101ALI20251212BHJP
【FI】
C22C19/00 F
B22F1/00 M
B22F1/05
B22F1/16
H01M4/38 A
H01M4/24 J
(21)【出願番号】P 2024561264
(86)(22)【出願日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2023039053
(87)【国際公開番号】W WO2024116692
(87)【国際公開日】2024-06-06
【審査請求日】2025-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2022189294
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】能登山 沙紀
(72)【発明者】
【氏名】相馬 友樹
(72)【発明者】
【氏名】工藤 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼志
(72)【発明者】
【氏名】澤 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】大内 政伸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博之
(72)【発明者】
【氏名】江口 遼
(72)【発明者】
【氏名】河野 聡
(72)【発明者】
【氏名】岡西 岳太
(72)【発明者】
【氏名】万力 皐平
(72)【発明者】
【氏名】杉江 尚
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102054982(CN,A)
【文献】特表2018-510965(JP,A)
【文献】国際公開第2021/205749(WO,A1)
【文献】特開2018-185912(JP,A)
【文献】特開2019-220276(JP,A)
【文献】国際公開第2020/195543(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/000-19/07
B22F 1/00-1/18
H01M 4/24,4/38
C22F 1/00,1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池に用いる水素吸蔵合金であって、該水素吸蔵合金はA
2B
7型構造、A
5B
19型構造およびAB
3型構造の結晶構造を合計で主相とし、かつ、下記一般式(1)の条件を満たす、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
記
【化1】
ここで、Rおよび添え字a、b、c、d、e、f、gは、
R:SmおよびCeのいずれか一方または両方、
0.01≦a≦0.12、
0.005≦b≦0.12、
0.13≦c≦0.27、
3.20≦d+e+f+g≦3.75
であって、
3.01≦d≦3.655、
0≦e≦0.12、
0≦f≦0.05、
0≦g≦0.35
を表す。
【請求項2】
さらに、前記一般式(1)が下記条件を満たす、請求項1に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
記
前記一般式(1)中の添え字a、b、c、d、e、f、gは、
0.01≦a≦0.10、
0.005≦b≦0.10、
0.14≦c≦0.26、
3.25≦d+e+f+g≦3.70
であって、
3.01≦d≦3.655、
0≦e≦0.12、
0≦f≦0.04、
0<g≦0.30
を表す。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金は、80℃で水素圧を1MPaまで加圧した時の水素吸蔵量H/M(Hは水素原子数、Mは金属原子数)が0.94以上で、水素放出時の水素吸蔵量H/Mが0.5のときの水素圧P0.5が0.025MPa以上、0.12MPa以下である、請求項1に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金は、150μm以上1mm以下の範囲に粒度調整した水素吸蔵合金に対して、繰り返し水素吸蔵・放出後の体積平均粒径MVが75μm以上である、
ここで、水素吸蔵は80℃で水素圧を3MPaまで加圧して1時間保持し、水素放出は真空排気し、80℃で0.01MPa以下まで減圧して1時間保持し、これを5回繰り返した後に体積平均粒径MVを測定する、請求項1に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金は、80℃の水素吸蔵放出特性において、下記関係式(A)で表される水素吸蔵後の放出時のプラトー傾きBとして算出した値が、1.3以上3.0以下の範囲にあり、
【数1】
ここで、P0.7は、水素吸蔵量(H/M)=0.7の時の水素圧[MPa]、
P0.3は、水素吸蔵量(H/M)=0.3の時の水素圧[MPa]とする、請求項1に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項6】
前記水素吸蔵合金は、Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定において、回折角2θが40~45°の範囲にある最も強い回折ピークの回折強度εに対するAB
5相の(101)面の回折強度ζの比ζ/εが、0.08以下である、請求項5に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項7】
前記水素吸蔵合金は、該水素吸蔵合金の表面の少なくとも一部にYを含有する酸化物あるいは水酸化物の層が存在する、請求項1に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項8】
前記水素吸蔵合金は、該水素吸蔵合金の少なくとも一部の表面に存在する、Yを含有する酸化物あるいは水酸化物の層の、合金粒子表面に密着した厚さが500nm以下である、請求項7に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項9】
前記水素吸蔵合金は、該水素吸蔵合金の表面の少なくとも一部に存在する酸化物あるいは水酸化物が、該水素吸蔵合金に含まれる希土類元素で主に構成される、請求項7に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項10】
前記水素吸蔵合金は、少なくとも一部の表面に酸化物あるいは水酸化物が存在する該水素吸蔵合金のBET比表面積が0.5m
2/gより大きい、請求項1記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項11】
さらに、細孔容積が0.013cm
3/g以下、平均細孔径が40nm以下である、請求項10に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金を負極に用いたアルカリ蓄電池であって、モータを駆動源とするハイブリッド自動車に搭載されて、該モータに電力を供給するものである、アルカリ蓄電池。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金を負極に用いたアルカリ蓄電池であって、スターターモータによりエンジンを始動するアイドリングストップ機能を有する自動車に搭載されて、該スターターモータに電力を供給するものである、アルカリ蓄電池。
【請求項14】
モータへの電力供給源として、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金を負極に用いたアルカリ蓄電池を有する、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池に用いる水素吸蔵合金に関し、特に、ハイブリッド自動車(HEV)やアイドリングストップ車などの電源用のアルカリ蓄電池に用いて好適な水素吸蔵合金、および、ハイブリッド自動車(HEV)やアイドリングストップ車などの電源用として好適なアルカリ蓄電池、ならびにそのアルカリ蓄電池を搭載した車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は、例えば、携帯電話やパーソナルコンピュータ、電動工具、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(EV)などに幅広く使われるようになってきており、これらの用途には、主としてアルカリ蓄電池が用いられている。このうち、ハイブリッド自動車(HEV)やプラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)などの車両関係に用いられるアルカリ蓄電池では、高出力性や高耐久性が特に重要となる。また、これらの用途への普及が拡大するにつれ、アルカリ蓄電池に対する小型化や軽量化の要望が高まっている。
【0003】
従来、アルカリ蓄電池の負極には、AB5型結晶構造の水素吸蔵合金が使用されていたが、該合金では、電池の小型軽量化には限界があり、小型で高容量を実現できる新たな水素吸蔵合金の開発が望まれていた。そこで、その解決策として、特許文献1や特許文献2は、Mgを含む希土類-Mg遷移金属系水素吸蔵合金を提案している。
【0004】
また、アルカリ蓄電池の小型化、軽量化を実現する手法として、例えば負極に用いる水素吸蔵合金の量を削減することが考えられるが、水素吸蔵合金の量を削減すると、ニッケル活性点の減少によるアルカリ蓄電池の出力低下という新たな問題が生じる。これを改善するため、特許文献3には、高水素平衡圧の水素吸蔵合金を用いて作動電圧を高くする手法が提案されている。
【0005】
また、水素吸蔵合金として、希土類-Mg-Ni系合金がいくつか提案されている。例えば、特許文献4には、一般式:Ln1-xMgxNiyAz(式中、Lnは、Yを含む希士類元素とCaとZrとTiとから選択される少なくとも1種の元素であり、Aは、Co、Mn、V、Cr、Nb、Al、Ga、Zn、Sn、Cu、Si、PおよびBから選択される少なくとも1種の元素であり、添字x、yおよびzが、0.05≦x0.25、0<z≦1.5、2.8≦y+z≦4.0の条件を満たす)で表される水素吸蔵合金において、上記のLn中にSmが20モル%以上含まれるようにした水素吸蔵合金が開示されている。
【0006】
また、特許文献5には、ニッケル水素二次電池の負極に用いる水素吸蔵合金として、一般式:(LaaSmbAc)1-wMgwNixAlyTz(式中、A及びTは、Pr、Nd等よりなる群及びV、Nb等よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をそれぞれ表し、添字a、bおよびcはそれぞれ、a>0、b>0、0.1>c≧0およびa+b+c=1で示される関係を満たし、添字w、x、yおよびzはそれぞれ0.1<w≦1、0.05≦y≦0.35、0≦z≦0.5、3.2≦x+y+z≦3.8で示される範囲にある)にて示される組成を有する合金が開示されている。
【0007】
特許文献6には、サイクル特性及び放電特性が改善されたアルカリ蓄電池を提供することを目的として、一般式:(AαLn1-α)1-βMgβNiγ-δ-εAlδTε(式中、Aは、Pr、Nd、Sm及びGdよりなる群から選ばれた少なくともSmを含む1種以上の元素を表し、Lnは、La、Ce、Pm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、TはV、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Zn、Ga、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、添字α、β、γ、δおよびεは、それぞれ、0.4≦α、0.05<β<0.15、3.0≦γ≦4.2、0.15≦δ≦0.30、0≦ε≦0.20を満たす数を表す)で示される組成を有する水素吸蔵合金が開示されている。
【0008】
特許文献7には、高率放電を可能とするため、50%通過率で表わされる中心径D50が8~15μmの範囲にある水素吸蔵合金粒子を用いた水素吸蔵合金電極が報告されている。
【0009】
また、特許文献8には、サイクル寿命性特性の優れた水素吸蔵合金を提供することを目的として Gd2Co7型結晶構造からなる相を含む水素吸蔵合金が開示されている。その相が水素吸蔵合金の全体に対して10重量%以上であり、水素吸蔵合金にはイットリウムが水素吸蔵合金の全体に対して2モル%以上10モル%以下含まれることを特徴とする合金が開示されている。
【0010】
また、特許文献9には、ニッケル水素二次電池の長期放置後においても作動電圧の低下が抑制されて高い作動電圧が得られる、希土類-Mg-Ni系の水素吸蔵合金が開示されている。具体的には、電池に用いる水素吸蔵合金は、一般式:(LaaNdbAcDd)1-wMgwNixAlyTzにて示される組成を有する。式中、A、D及びTは、Sm及びGdよりなる群、Pr,Eu等よりなる群、及び、V,Nb等よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をそれぞれ表し、添字a,b,c,dはそれぞれa≧0,b≧0,c>0,0.1>d≧0,a+b+c+d=1で示される関係を満たし、添字w,x,y,zはそれぞれ0<w≦0.25,0.05≦y≦0.35,0≦z≦0.5,3.15≦x+y+z≦3.35で示される範囲にあることが開示されている。
【0011】
また、特許文献10には、高出力を維持しつつ、コストダウンが可能となるアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金として、一般式 (Re1-xYx)1-y-zZryMgzNia-bAlb(Re:Laのみを含む、もしくはLaを含み、Nd、Smから選択される少なくとも1種の元素、0<x≦0.60、0≦y≦0.02、0.09≦z≦0.13、3.40≦a≦3.80、0.05≦b≦0.20)で表されることを特徴とする合金が開示されている。
【0012】
また、特許文献11には、高容量で、且つ、自己放電特性及びサイクル寿命特性が共に優れるニッケル水素二次電池を提供することを目的として、一般式:(RE1-xTx)1-yMgyNiz-aAla(ただし、式中、REは、Y、Sc及び希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素、Tは、Zr、V及びCaから選ばれる少なくとも一つの元素、添字x、y、z、aは、それぞれ、0≦x、0.05≦y≦0.35、2.8≦z≦3.9、0.10≦a≦0.25を示す)で表される組成を有し、AB2型サブユニット及びAB5型サブユニットが積層された結晶構造を有し、前記Niの一部がCrで置換されてなる水素吸蔵合金が開示されている。
【0013】
また、特許文献12には微粉化が抑制された水素吸蔵合金の提供を目的としており、Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定によって2θ=41°~44°の範囲に現れる最大ピーク強度に対して、2θ=31°~33°の範囲に現れる最大ピーク強度の比が0.1以下(0を含む)である水素吸蔵合金が開示されている。また、具体的な組成として、La1-a-bYaMgbNicAld(aが0.12≦a≦0.15を満たし、bが0.14≦b≦0.16を満たし、cが3.39≦c≦3.53を満たし、dが0.13≦d≦0.17を満たす)が開示されている。
【0014】
また、特許文献13には、耐食性、耐久性に優れた水素吸蔵合金、その水素吸蔵合金を用いたサイクル寿命の優れたニッケル水素蓄電池の提供を目的として、一般式(RE1-a-bSmaMgb)(Ni1-c-dAlcMd)x(0.3<a<0.6;0<b<0.16;0.1<cx<0.2;0≦dx≦0.1;3.2<x<3.5;REはSm以外の希土類元素及びYより選択される1種以上の元素で、Laが必須;MはMn及び/又はCo)が開示されている。
【0015】
また、特許文献14には、耐食性、耐久性に優れた水素吸蔵合金、その水素吸蔵合金を用いたサイクル寿命の優れたニッケル水素蓄電池の提供として、一般式(RE1-a-bSmaMgb)(Ni1-c-dAlcMd)x(0.1≦a≦0.25;0.1<b<0.2;0.02<cx<0.2;0≦dx≦0.1;3.6≦x≦3.7;REはSm以外の希土類元素及びYより選択される1種以上の元素;Laを必須とし、MはMn及び/又はCo)で表される水素吸蔵合金およびそれを用いたニッケル水素電池が開示されている。
【0016】
また、特許文献15には、耐食性に優れた水素吸蔵合金、それを用いてなる電極及びニッケル水素蓄電池に用いる合金粉末として、一般式:Ln1-wMgwNixAlyTz(ただし、式中、Lnは、La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ca,Sr,Sc,Y,Ti,Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Tは、V,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ga,Zn,Sn,In,Cu,Si,P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、添字w,x,y,zはそれぞれ0.08≦w≦0.13,0.05<y<0.20,0≦z≦0.5,3.15≦x+y+z≦3.50で示される範囲にある。)にて表される組成を有する水素吸蔵合金の核と、前記核の表面に一体に形成され、前記組成に比べてアルミニウムの濃度が低減された表面層とを備えることを特徴とするアルカリ蓄電池用の水素吸蔵合金粉末が開示されている。
【0017】
また、特許文献16には、アルカリ蓄電池に適用したときに、長期放置後、特に充放電サイクルを経てからの長期放置後においても作動電圧の低下が抑制されて高い作動電圧を得られる、アルカリ蓄電池用の水素吸蔵合金粉末として、La、Ni、及び、Y又は重希土類元素を含有する少なくとも二つの相を有する水素吸蔵合金であって、第一の相が、一般式R1aR2bR3cNidR4e(式中、R1はLaを必須とする少なくとも1種以上の元素であり、R2はY及び重希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、R3はCa及び/又はMgであり、R4はCo、Mn及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、a、b、c、d及びeは、a+b+c=1、0≦b≦0.3、0≦c≦0.4、3.0<d+e<4.0、かつ、0≦e≦1を満たす数値である。)で表される組成を有し、第二の相が、Y又は重希土類元素の濃度が前記第一の相より高く、前記第一の相中に分散していることを特徴とする水素吸蔵合金が開示されている。
【0018】
また、特許文献17には、高率放電特性及び充放電サイクル特性に優れた密閉型ニッケル水素蓄電池を提供するため、負極に用いる水素吸蔵合金粉末の表面に母層成分中よりニッケル含有比率が大きく厚さが50nm以上400nm以下の層を配し、かつ、前記水素吸蔵合金の表面に連通した亀裂の表面に母層成分中よりニッケル含有比率が大きい層を配したことが開示されている。
【0019】
また、特許文献18にはアルカリ蓄電池の低温環境下における出力特性及び充放電サイクル特性を十分に向上させるために、一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlaMb(式中、Lnは、Yを含む希土類元素、Zr、Tiから選択される少なくとも1種の元素、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P、Bから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦x≦0.30、0.05≦a≦0.30、0≦b≦0.50、2.8≦y≦3.9の条件を満たす。)で示される水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池用負極において、上記の水素吸蔵合金のバルク相の表面に第1層~第3層の3つの層が積層されてなり、バルク相に近い第1層は、この第1層の上に位置する第2層よりも含有される酸素の量が多く、アルカリ溶液に可溶な元素が10原子%以上含まれ、またこの第1層の上に位置する第2層は、Niの含有率が上記のバルク相よりも高く、またこの第2層の上に位置する第3層は、NiOの含有率が上記の第2層におけるNiOの含有率よりも高いことを特徴とするアルカリ蓄電池用負極が開示されている。
【0020】
また、特許文献19には、高率放電特性及び寿命特性の両立を図ることができるニッケル水素二次電池を提供できる合金として、前記ニッケル水素二次電池の負極は、希土類元素、Mg及びNiを含む希土類-Mg-Ni系の水素吸蔵合金の粒子を含んでおり、前記水素吸蔵合金の粒子は、その表面に前記希土類元素の水酸化物である希土類水酸化物を有し、且つ、比表面積が0.1~0.5m2/gであることが開示されている。
【0021】
特許文献20には、安価なFeを用いて、希土類-マグネシウム-ニッケル系水素吸蔵合金の低価格化と高耐食性化と充電受入性が向上した水素吸蔵合金が開示されている。具体的には、一般式(LaaNdbAcBd)l-vMgvNiwAlxFeyTz(AはSm,Gdから選択された少なくとも1種の元素であり、BはPr,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Sc,Zr,Hf,Ca,Yから選択された少なくとも1種の元素であり、TはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Co,Ga,Zn,Sn,In,Cu,Si,P,Bから選択された少なくとも1種の元素である)と表され、一般式におけるa,b,c,dは0≦a,0≦b,0≦c,0≦d<0.1,a+b+c+d=1,0≦z≦0.5の関係を有し、かつ一般式におけるMgのモル比vは0.10≦v≦0.25で、Alのモル比xは0.10≦x≦0.20で、Feのモル比yは0.05≦y≦0.15であり、さらに、3.45≦w+x+y+z≦3.65を満たす水素吸蔵合金が報告されている。
【0022】
一方、非特許文献1には、特性向上を目的として水素吸蔵合金中のLaをYで置換したLa0.80-xYxMg0.20Ni2.85Mn0.10Co0.55Al0.10(x=0,0.05,0.10)が開示されている。
【0023】
また、非特許文献2には同様の目的でLa0.63Y0.20Mg0.17Ni3.1Co0.3Al0.1が開示されている。
【0024】
また、非特許文献3によると、RE-Mg-Ni系水素吸蔵合金(RE:希土類元素)へのCeの影響が開示されており、具体的には、
(La0.5Nd0.5)0.85Mg0.15Ni3.3Al0.2、
(La0.45Nd0.45Ce0.1)0.85Mg0.15Ni3.3Al0.2、
(La0.4Nd0.4Ce0.2)0.85Mg0.15Ni3.3Al0.2、
(La0.3Nd0.3Ce0.4)0.85Mg0.15Ni3.3Al0.2の合金が開示され、評価した結果が報告されている。
【0025】
非特許文献4、5には、Mm0.83Mg0.17Ni2.94-xAl0.17Co0.2Fex(0≦x≦0.2)で表される水素吸蔵合金が報告されている。
【0026】
非特許文献6にはLa0.7Mg0.3Co0.45Ni2.55-xFexで表される水素吸蔵合金が報告されている。
【0027】
非特許文献7にはLa0.80Mg0.20Ni2.85Al0.11M0.53(M=Ni,Si,Cr,Cu,Fe)で表される水素吸蔵合金が報告されている。
【0028】
非特許文献8には、La2Ni6.9-xAl0.1Fex(0≦x≦2.1)で表される水素吸蔵合金の特性が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【文献】特開平11-323469号公報
【文献】国際公開第01/048841号
【文献】特開2005-032573号公報
【文献】特開2009-074164号公報
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【文献】Yang-huan Zhang et al.,Materials Charactarization 61(2010)305
【文献】XU Guochang et al., J.Rare Earth 27 (2009) 250
【文献】袖山英哲 他:茨城講演会講演論文集 p.137(共催 日本機械学会関東支部・精密工学会,2007年9月28日 発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
しかしながら、上記特許文献1や特許文献2に開示の技術は、合金の最適化がなされず、ハイブリッド自動車には搭載されるまでには至らなかった。
【0032】
また、特許文献3に開示の技術では、高水素平衡圧の水素吸蔵合金を用いると、充放電サイクル寿命が低下するという新たな問題が生じた。
【0033】
特許文献4に開示された技術は、Smを比較的多く含んだ合金となっており、Pr、Ndよりは安価な元素を使用しているものの、安価で耐久性に優れた水素吸蔵合金を供しえなかった。
【0034】
特許文献5に開示された技術は、La、Smを比較的多く含んだ合金となっており、Pr、Ndよりは安価な元素を主体に使用しているものの、安価で耐久性に優れた水素吸蔵合金を供しえない。特に、実施例にはZrを必須としており、B/A比は3.6が開示されているのみである。また、La含有量増加で低下した水素平衡圧を電池で使用可能なレベルに上げるとしているが、安価なLaリッチ組成に設定すると不十分な場合が多い。
【0035】
また、特許文献6に開示された水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池は、車載用途としての課題である小型化、高出力および耐久性の3つの特性、言い換えると、放電特性とサイクル寿命特性を両立させるに至らず、車載アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金としては不十分なものであった。
【0036】
また、特許文献7に開示された水素吸蔵合金は、AB5合金(MmNi4.0Co0.4Mn0.3Al0.3)であって、微粒化により放電特性は改善されるものの、車載用途には耐久性などの面で実用化は困難であり、さらなる特性向上が必要であった。
【0037】
また、特許文献8で開示された水素吸蔵合金はYが水素吸蔵合金の2~10モル%と比較的含有量が多く、コスト高になるとともに、水素吸蔵放出に伴う微粉化促進が比較的生じており、その結果、腐食が進行して、耐久性向上効果が十分ではなかった。
【0038】
また、特許文献9で開示された水素吸蔵合金は長期放置後の作動電圧の低下抑制が主たる目的であったが、基本となるサイクル寿命と放電容量のバランスが不十分であり、また構成する希土類元素のコストが高価なものになっていた。
【0039】
また、特許文献10で開示された水素吸蔵合金はYを必須として高出力を目的としているが、十分なコストダウンにはならず、また放電容量が十分大きくならなかったため、電池に適用した場合、特性が十分ではなく、また低温での出力はとれるものの、サイクル寿命も課題であった。
【0040】
また、特許文献11に開示された水素吸蔵合金は、高容量かつ自己放電特性およびサイクル寿命特性がともに優れるニッケル水素電池の実現を目指しているが、高容量までは実現できておらず、その割にはサイクル寿命特性もさらなる特性向上が必要であった。
【0041】
また、特許文献12に開示された水素吸蔵合金は、微粉化抑制による高耐久性を目指しているが、具体的な組成ではY量が多く、コスト面で課題があるとともに水素吸蔵放出での微粉化が進むため、サイクル寿命特性に課題があり、さらなる特性向上が必要であった。
【0042】
また、特許文献13に開示されている水素吸蔵合金は、耐食性、耐久性向上により、充放電サイクル特性向上を目指しているが、開示されているSm量を比較的多く含む水素吸蔵合金ではサイクル特性はまだ不十分であり、耐食性向上などさらなる特性向上が必要であった。
【0043】
また、特許文献14に開示されている水素吸蔵合金は、サイクル寿命向上を目指したが、放電容量とのバランスの観点からみると電池特性向上には不十分であり、さらなる特性向上が必要であった。
【0044】
また、特許文献15に開示されている水素吸蔵合金は、耐食性、耐久性向上により、充放電サイクル特性向上を目指しているが、Yあるいは重希土類元素の濃度を制御した第2相を生成することは容易ではなく、実際に効果のある電池特性は得られなかった。
【0045】
また、特許文献16に開示されている水素吸蔵合金は、耐食性、耐久性の向上により、充放電サイクル特性向上を目指しているが、開示されている合金はNd、Prを含んでおり、比較的高コストであり、アルカリ処理あるいは酸処理をして表面状態を制御しても、十分なサイクル特性、レート特性は得られていない。
【0046】
また、特許文献17に示されている水素吸蔵合金は、低温での出力特性と充放電サイクル特性向上を目指しているが、本特許に開示されているアルカリ処理、あるいは酸処理をして表面状態を制御しても、十分なサイクル特性が得られておらず、さらなる特性向上が必要であった。
【0047】
また、特許文献18に開示されている水素吸蔵合金は、低温での出力と充放電サイクル特性向上を目指しているが、比較的安価な水素吸蔵合金は合金粒子の表面を空気中で加熱処理して、表面状態の制御を行っているが、低温特性は良好とされていたが、まだ、容量、サイクル特性のバランスは不十分であり、さらなる特性向上が必要であった。
【0048】
また、特許文献19に用いられている水素吸蔵合金は、耐食性、耐久性向上により、充放電サイクル特性向上を目指しているが、限定された比表面積でレート特性と寿命特性の両立を狙ったが、開示されているSmを多く含んだ合金ではアルカリ処理後の耐久性が不十分であり、さらなる特性向上が必要であった。
【0049】
また、特許文献20に開示の技術は、安価なFeを用いることを特徴としているものの、高価なNdを含んだ合金を基本に検討しており、結果として安価な合金になり得ず、また、耐久性も一層の向上が必要であった。
【0050】
また、非特許文献1に開示された水素吸蔵合金では、まだサイクル特性が不十分であるとともに、Coが一定量含まれているため、コスト面でも検討が必要であった。
【0051】
また、非特許文献2に開示された水素吸蔵合金では、同様にLaを置換した希土類の中でもその効果は最も低く、さらなる特性向上が必要であった。
【0052】
さらに、非特許文献3では結論として、Ceを含んだ希土類-Mg-Ni系合金は、水素吸蔵放出量が少なく、さらに水素吸蔵放出を繰り返すと微粉化しやすいことから、電池での劣化が大きいことが明らかとなったとしている。
【0053】
また、非特許文献4、5では、Mm0.83Mg0.17Ni2.94-xAl0.17Co0.2Fex(0≦x≦0.2)について、材料特性から電池特性まで報告されている。しかしながら、非特許文献4、5に開示された水素吸蔵合金は、サイクル特性が実用面から不十分であるとともに、Coを含有しているため安価な合金でないため、一層の低コストと高耐久性を両立させる必要があった。
【0054】
また、非特許文献6は、La0.7Mg0.3Co0.45Ni2.55-xFex (0≦x≦0.4)の特性が開示されているが、サイクル特性が不十分であり実用化には一層の特性向上が必要である。
【0055】
また、非特許文献7で開示されているLa0.80Mg0.20Ni2.85Al0.11M0.53(M=Ni,Si,Cr,Cu,Fe)合金では、放電容量が小さく、またサイクル寿命特性も十分でなく、特性向上が望まれていた。
【0056】
また、非特許文献8で開示されているLa2Ni6.9-xAl0.1Fex(0≦x≦2.1)合金は、合金そのものは安価ではあるが、合金に関して示されている特性は、水素吸蔵と放出に関する気固相反応のデータのみである。このため、非特許文献8に開示された合金は、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金としては、不十分な特性しか示さない合金である。このような技術的観点から電池用合金として好ましい特性をもつ安価な水素吸蔵合金が必要であった。
【0057】
本発明は、従来技術が抱えるこれらの問題点に鑑みてなされたものであって、特に車載用のニッケル水素電池(アルカリ蓄電池)に適した水素吸蔵合金、およびそれを用いた電池、さらにはその電池を搭載した車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0058】
上記目的を達成するため、アルカリ蓄電池の負極用の水素吸蔵合金として、A2B7型構造、A5B19型構造およびAB3型構造の結晶構造を合算して主相となる結晶構造を有し、かつY(希土類元素)を含有する特定の成分組成を有する合金を用いる。また、それに加え、Fe置換を活用することにより低コストでかつ充放電サイクル寿命特性が大幅に向上する。このため、アルカリ蓄電池の放電容量特性および充放電サイクル寿命特性をバランスよく、低コストで両立させることができることを知見し、本発明を開発するに至った。
【0059】
本発明は、第一に、アルカリ蓄電池に用いる水素吸蔵合金であって、該水素吸蔵合金はA
2B
7型構造、A
5B
19型構造およびAB
3型構造の結晶構造を合計で主相とし、かつ、下記一般式(1)の条件を満たす、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金である。
記
【化1】
ここで、Rおよび添え字a、b、c、d、e、f、gは、
R:SmおよびCeのいずれか一方または両方、
0.01≦a≦0.12、
0.005≦b≦0.12、
0.13≦c≦0.27、
3.20≦d+e+f+g≦3.75
であって、
3.01≦d≦3.655、
0≦e≦0.12、
0≦f≦0.05、
0≦g≦0.35
を表す。
【0060】
さらに、前記一般式(1)が下記条件を満たす、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金であることがより好ましい課題解決手段になりうる。
記
前記一般式(1)中の添え字a、b、c、d、e、f、gは、
0.01≦a≦0.10、
0.005≦b≦0.10、
0.14≦c≦0.26、
3.25≦d+e+f+g≦3.70であって、
3.01≦d≦3.655、
0≦e≦0.12、
0≦f≦0.04、
0<g≦0.30
を表す。
【0061】
また、本発明に係るアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、
(ア)前記水素吸蔵合金は、80℃で水素圧を1MPaまで加圧した時の水素吸蔵量H/M(Hは水素原子数、Mは金属原子数)が0.94以上で、水素放出時の水素吸蔵量H/Mが0.5のときの水素圧P0.5が0.025MPa以上、0.12MPa以下であること、
(イ)前記水素吸蔵合金は、150μm以上1mm以下の範囲に粒度調整した水素吸蔵合金に対して、繰り返し水素吸蔵・放出後の体積平均粒径MVが75μm以上である、
ここで、水素吸蔵は80℃で水素圧を3MPaまで加圧して1時間保持し、水素放出は真空排気し、80℃で0.01MPa以下まで減圧して1時間保持し、これを5回繰り返した後に体積平均粒径MVを測定すること、
(ウ)前記水素吸蔵合金は、80℃の水素吸蔵放出特性において、下記関係式(A)で表される水素吸蔵後の放出時のプラトー傾きBとして算出した値が、1.3以上3.0以下の範囲にあり、
【数1】
ここで、P0.7は、水素吸蔵量(H/M)=0.7の時の水素圧[MPa]、P0.3は、水素吸蔵量(H/M)=0.3の時の水素圧[MPa]とすること、
(エ)前記水素吸蔵合金は、Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定において、回折角2θが40~45°の範囲にある最も強い回折ピークの回折強度εに対するAB
5相の(101)面の回折強度ζの比ζ/εが、0.08以下であること、
(オ)前記水素吸蔵合金は、該水素吸蔵合金の表面の少なくとも一部にYを含有する酸化物あるいは水酸化物の層が存在すること、
(カ)前記水素吸蔵合金は、該水素吸蔵合金の少なくとも一部の表面に存在する、Yを含有する酸化物あるいは水酸化物の層の、合金粒子表面に密着した厚さが500nm以下であること、
(キ)前記水素吸蔵合金は、該水素吸蔵合金の表面の少なくとも一部に存在する酸化物あるいは水酸化物が、該水素吸蔵合金に含まれる希土類元素で主に構成されていること、
(ク)前記水素吸蔵合金は、少なくとも一部の表面に酸化物あるいは水酸化物が存在する該水素吸蔵合金のBET比表面積が0.5m
2/gより大きいこと、
(ケ)さらに、細孔容積が0.013cm
3/g以下、平均細孔径が40nm以下であること、
などがより好ましい課題解決手段になりうる。
【0062】
本発明は、第二に、上記いずれかの水素吸蔵合金を負極に用いたアルカリ蓄電池であって、モータを駆動源とするハイブリッド自動車に搭載されて、該モータに電力を供給するものであること、または、スターターモータによりエンジンを始動するアイドリングストップ機能を有する自動車に搭載されて、該スターターモータに電力を供給するものであること、のいずれかのアルカリ蓄電池を提供する。
【0063】
本発明は、第三に、モータへの電力供給源として、上記いずれかの水素吸蔵合金を負極に用いたアルカリ蓄電池を有することを特徴とする車両を提供する。
【発明の効果】
【0064】
本発明に係るアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金、および、この水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池は、高出力密度を有し、特に優れた充放電サイクル寿命特性(耐久性)も優れているため、放電容量特性に優れ、車載の使用条件でも十分に高い高率放電ができる。
【0065】
また、本発明に係るアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、特定の水素吸蔵特性を持つこと、繰り返し水素吸蔵・放出後における当該アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の微粉化された合金粒子の平均粒径が所定の範囲にあること、AB5相を所定量以下に管理することで、電気的特性を維持しつつ、耐久性が向上するので好ましい。
つまり、本発明に係るアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、当該合金そのものに水素吸蔵放出などの条件でクラックが入り、割れが促進、微粉化することを抑制することができる。
【0066】
さらには、本発明に係るアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、Yを含有する、あるいは、希土類元素を主とする酸化物層あるいは水酸化物層が表面層として合金粒子に密着することにより、耐食性を向上させるAl量を削減することができ、ひいては、アルカリ蓄電池の放電容量を増大させることができる。
つまり、水素吸蔵合金の表面の少なくとも一部に形成される表面層は、当該合金を構成するYあるいは希土類元素等の元素を主体とする水酸化物あるいは酸化物から構成されているため、アルカリ耐食性に優れている。
さらに、水素吸蔵合金の表面に形成されたその表面層は、細孔容量及び平均細孔径(サイズ)が小さいことからクラックの発生確率が下がるため、当該水素吸蔵合金の耐食性をより高めることができる。
【0067】
また、本発明に係るアルカリ蓄電池によれば、小型軽量化が可能となり、これを自動車など車両に搭載した場合には、高い運動性能を有するとともに、低燃費のハイブリッド自動車(HEV)等を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】本発明の水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池を例示する部分切欠斜視図である。
【
図2】本発明の水素吸蔵合金に関するPCT特性の一例である。
【
図3】本発明の水素吸蔵合金に関するX線回折測定結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。本実施形態に係る水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池について、
図1に基づき説明する。
図1は、その電池の一例を示す部分切欠斜視図である。
図1に示されるように、アルカリ蓄電池10は、水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)を主正極活物質とするニッケル正極1と、本実施形態に係る水素吸蔵合金(MH)を負極活物質とする水素吸蔵合金を含む負極2と、セパレータ3とからなる電極群を、アルカリ電解液を充填した電解質層(図示せず)とともに筐体4内に備えた蓄電池である。
【0070】
アルカリ蓄電池10は、いわゆるニッケル-金属水素化物電池(Ni-MH電池、以下「ニッケル水素電池」ともいう。)に該当し、以下の反応が生じる。
【0071】
【0072】
[水素吸蔵合金]
以下、本実施形態に係るアルカリ蓄電池の負極に用いる水素吸蔵合金について説明する。本実施形態に係るアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金(以下「水素吸蔵合金」ともいう。)は、アルカリ蓄電池に用いる水素吸蔵合金であって、該水素吸蔵合金はA
2B
7型構造、A
5B
19型構造およびAB
3型構造の結晶構造を合計で主相とし、かつ、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
記
【化3】
ここで、Rおよび添え字a、b、c、d、e、f、gは、
R:SmおよびCeのいずれか一方または両方、
0.01≦a≦0.12、
0.005≦b≦0.12、
0.13≦c≦0.27、
3.20≦d+e+f+g≦3.75
であって、
3.01≦d≦3.655、
0≦e≦
0.12、
0≦f≦0.05、
0≦g≦0.35
を表す。
ここで、A
2B
7型構造、A
5B
19型構造およびAB
3型構造の結晶構造は、それぞれCe
2Ni
7型およびGd
2Co
7型、Pr
5Co
19型およびCe
5Co
19型ならびにCeNi
3型およびPuNi
3型である。
【0073】
本実施形態では、上記水素吸蔵合金は、さらに、上記一般式(1)が下記条件を満たす、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金であることが好ましい。
記
前記一般式(1)中の添え字a、b、c、d、e、f、gは、
0.01≦a≦0.10、
0.005≦b≦0.10、
0.14≦c≦0.26、
3.25≦d+e+f+g≦3.70であって、
3.01≦d≦3.655、
0≦e≦0.12、
0≦f≦0.04、
0<g≦0.30
を表す。
【0074】
一般式(1)で表される水素吸蔵合金は、アルカリ蓄電池の負極として用いたとき、当該アルカリ蓄電池に高い放電容量および充放電サイクル寿命特性を付与する。このため、一般式(1)で表される水素吸蔵合金は、アルカリ蓄電池の小型化・軽量化や高耐久性の達成に寄与する。
【0075】
以下、本実施形態に係る水素吸蔵合金の成分組成を限定する理由について説明する。
希土類元素:La1-a-bYaRb(ただし、0<a≦0.12、0≦b≦0.12、好ましくは0<a≦0.10、0<b≦0.10)
本実施形態に係る水素吸蔵合金は、A2B7型構造、A5B19型構造およびAB3型構造のA成分の元素として、希土類元素を含有する。希土類元素は、水素吸蔵能力をもたらす基本成分として、LaおよびYの2つの元素を必須とする。LaとYは原子半径が異なるため、この成分比率によって、水素平衡圧を制御することができ、電池電圧に比例する水素平衡圧を任意に設定できる。Yの希土類元素中に占める原子比率a値は、0を超え0.12以下の範囲である。
この範囲であれば、アルカリ蓄電池に適した水素平衡圧に設定しやすく、また、水素吸蔵合金の良好な耐食性、微粉化しにくい特性が得られ、結果として、アルカリ蓄電池の高耐久性が得られる。
a値が0.12を超えると、水素吸蔵放出に伴う水素吸蔵合金の微粉化が進行してしまい、その耐食性向上効果があっても、アルカリ蓄電池の耐久性は、徐々に低下してしまう。a値は、0.10以下が好ましく、0.003以上がさらに好ましい。Yは、水素吸蔵合金の表面の少なくとも一部に存在する酸化物層あるいは水酸化物層から構成される表面層内に酸化物や水酸化物として存在することにより、当該水素吸蔵合金の耐久性向上に大きな役割をもつ。
【0076】
一方、Rは、CeおよびSmのうちいずれか一方または両方であり、Yとともに水素平衡圧の制御、水素吸蔵合金の耐食性向上に寄与する。Rの希土類元素中に占める原子比率の合計量b値は、0を含み、0.12以下の範囲である。YとRを合わせた水素平衡圧の制御、耐久性を考えると、b値が0.12を超えると水素吸蔵放出に伴う水素吸蔵合金の微粉化が促進し、アルカリ蓄電池の耐久性が低下するおそれがある。b値は、0.10以下が好ましく、0.005以上がさらに好ましい。
【0077】
YとともにRが必須、つまり、CeおよびSmのうちいずれか一方または両方を必須とすることが好ましく、特にCeを用いることがさらに好ましい。その場合、b値として0.10以下であることが、電池特性に関連する水素吸蔵合金の水素吸蔵・放出特性などの特性制御上好ましい。
【0078】
Laが多い組成では、アルカリ蓄電池の放電容量が高くなり、Laを他の元素と組み合わせたときに、さらに当該アルカリ蓄電池の放電容量特性が向上する。また、希土類元素として、PrやNdは積極的に活用しないが、不可避不純物レベルで含有していてもよい。
【0079】
Mg:Mgc(ただし、0.13≦c≦0.27、好ましくは0.14≦c≦0.26)
Mgは、A2B7型構造、A5B19型構造およびAB3型構造のA成分の元素を構成する本実施形態では必須の元素である。Mgは、水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池の放電容量特性の向上および充放電サイクル寿命特性の向上に寄与する。A成分中のMgの原子比率を表すc値は、0.13以上0.27以下の範囲とする。
c値が0.13未満では水素吸蔵合金の水素放出能力が低下するため、アルカリ蓄電池の放電容量が低下してしまう。
一方、c値が0.27を超えると、特に水素吸蔵放出に伴う水素吸蔵合金の微粉化が促進し、アルカリ蓄電池の充放電サイクル寿命特性、すなわち耐久性が低下する。好ましくは、c値が0.14以上0.26以下の範囲である。
【0080】
Ni:Nid
Niは、A2B7型構造、A5B19型構造およびAB3型構造のB成分の主たる元素である。A成分に対するNiの原子比率d値は後述する。
【0081】
Al:Ale(ただし、Fe必須の場合は0≦e≦0.14、Fe必須でない場合は0.03≦e≦0.13、)
Alは、A2B7型構造、A5B19型構造およびAB3型構造のB成分の元素として含有される元素である。Alは、電池電圧に関係する水素平衡圧の調整に有効であるとともに、耐食性を向上でき、水素吸蔵合金の耐久性向上、すなわち、アルカリ蓄電池の充放電サイクル寿命特性に効果がある。
上記効果を確実に発現させるためには、A成分に対するAlの原子比率を表すe値は、0.03以上0.14以下の範囲である。
e値が0.03未満では、当該水素吸蔵合金の耐食性が十分ではなくなり、その結果、アルカリ蓄電池の充放電サイクル寿命特性が十分でなくなる。
一方、e値が、0.14を超えると、アルカリ蓄電池の放電容量が低下してしまうとともに、水素吸蔵放出に伴う水素吸蔵合金の微粉化が進み、その耐久性に問題が生じる。好ましいe値は、0.04以上0.13以下の範囲である。
一方、水素吸蔵合金のB成分として、Feを必須元素として含有する場合において、Alによって付与される水素吸蔵合金の耐食性効果をFeによって実現することができる。このため、e値は、0以上0.13以下の範囲である。
このように、本実施形態に係る水素吸蔵合金を微小径の合金粒子からなる粉末とする場合、当該合金に含まれるAlの含有量は、本実施形態の範囲の少ない側で十分である。このため、水素吸蔵合金に含まれるAlの含有量を少なくすることができ、その分だけ、アルカリ蓄電池の放電容量を大きくすることができる。
【0082】
Cr:Crf(ただし、0≦f≦0.05、好ましくは0≦f≦0.04)
Crは、A2B7型構造、A5B19型構造およびAB3型構造のB成分の元素として含有される元素である。Crは、電池電圧に関係する水素平衡圧の調整に有効であるとともに、Alとともに水素吸蔵合金の耐食性向上に寄与する。特に、アルカリ蓄電池の耐久性向上、すなわちアルカリ蓄電池の充放電サイクル寿命特性に効果がある。上記効果を確実に発現させるためには、A成分に対するCrの原子比率を表すf値は、0を含み、0.05以下の範囲である。Crは必須ではないが、YやAlとの相乗効果で水素吸蔵合金の耐食性効果が高め、その耐久性を向上させる。
ただし、Crの量がf値で0.05を超えると水素吸蔵放出に伴う水素吸蔵合金の割れが促進され、結果として、アルカリ蓄電池の耐久性が低下して、アルカリ蓄電池の充放電サイクル寿命特性が十分でなくなる。f値は、0.04以下が好ましく、0.003以上がさらに好ましい。
なお、本実施形態に係る水素吸蔵合金を微小径の合金粒子からなる粉末とする場合、当該合金に含まれるCrの含有量は、本実施形態の範囲の少ない側で十分である。このため、水素吸蔵合金に含まれるCrの含有量を少なくすることができ、その分だけ、アルカリ蓄電池の放電容量を大きくすることができる。
【0083】
Fe:Feg(ただし、0≦g≦0.35)
Feは、A2B7型結晶構造及びA5B19型結晶構造から選ばれるいずれか一方又は両方を主相とする水素吸蔵合金のB成分として含有される。すなわち、Feは、本発明に係る水素吸蔵合金の必須元素として含有されていてもよい。Feは、アルカリ蓄電池の電池電圧に関係する水素平衡圧の制御に有効であるとともに、著しく耐食性を向上することができ、水素吸蔵合金の耐久性向上、すなわち、アルカリ蓄電池の充放電サイクル寿命特性に効果がある。
本発明に係る水素吸蔵合金の構成元素として、FeとYとを必須元素とすることにより、アルカリ蓄電池に適した水素平衡圧に容易に制御でき、高耐食性、高耐久性かつ低価格を実現できる。
【0084】
上記効果を確実に実に発現させるためには、一般式(1)において、Feの原子比率を表すg値は、0以上0.35以下の範囲である。
g値が0.35を超えると、アルカリ蓄電池の放電容量が低下してしまう。好ましいg値は、0を超え0.30以下である。ニッケル水素電池の場合、電池容量の正極規制により、負極に用いる水素吸蔵合金は、リザーバーといって、電解液であるアルカリ溶液による水素吸蔵合金のアルカリ腐食を想定して、通常よりも2~3割余分に多く用いられている。
【0085】
一方、Feを必須元素とする本実施形態に係る水素吸蔵合金をアルカリ蓄電池に採用することにより、当該電池の放電容量の容量劣化をきわめて抑制することができる。すなわち、本実施形態に係る水素吸蔵合金を備えたアルカリ蓄電池は、その放電容量の劣化が少ないことから、アルカリ腐食を想定して余分に多く用いられているリザーバーに相当するこの部分の水素吸蔵合金を大幅に減らすことができる。
【0086】
つまり、本実施形態に係る水素吸蔵合金において、その成分組成である高価なNiの一部を安価なFeに替えて、Feを必須元素とすることにより、水素吸蔵合金を製造するために必要となる素材コストばかりでなく、アルカリ蓄電池に搭載する水素吸蔵合金の使用量をきわめて低減できる。結果として、安価、かつ容易に入手することができるFeを必須元素とする本実施形態に係る水素吸蔵合金をアルカリ蓄電池に採用することにより、アルカリ蓄電池の製造コストの低コスト化を実現することができる。
【0087】
A成分とB成分の比率:3.20≦d+e+f+g≦3.75(好ましくは3.25≦d+e+f+g≦3.70)
A2B7型構造、A5B19型構造およびAB3型構造のA成分に対するB成分(Ni、AlおよびCr)のモル比である化学量論比、すなわち、一般式で表されるd+e+f+gの値は、3.20以上3.75以下の範囲である。
d+e+f+gの値が3.20未満では、水素吸蔵合金に副相すなわちAB2相が増えてしまい、特に、アルカリ蓄電池の放電容量が低下する。
本実施形態に係る水素吸蔵合金の組成範囲で生成するAB2相は、水素を吸蔵するものの放出しづらい性質をもっており、結果的に水素吸蔵合金の水素吸蔵量が低下し、アルカリ蓄電池の放電容量が低下することになる。
一方、d+e+f+gの値が3.75を超えると、水素吸蔵合金にAB5相が増え、水素吸蔵放出に伴う水素吸蔵合金の合金粉の微粉化が促進されるようになる。結果として、水素吸蔵合金の耐久性、すなわち、アルカリ蓄電池のサイクル寿命が低下してしまう。d+e+f+gの値は、好ましくは3.25以上3.70以下の範囲である。
【0088】
本実施形態に係る水素吸蔵合金は、上記組成を有するとともに、当該水素吸蔵合金が微粉化された合金粒子の質量基準の50%通過率粒径D50が3μm以上30μm以下の範囲であり、かつ、質量基準の90%通過率粒径D90が8μm以上60μm以下の範囲であることが好ましい。
本実施形態に係る水素吸蔵合金は、当該水素吸蔵合金が微粉化された合金粒子の平均粒径を所定の範囲に設定することにより、水素吸蔵・放出特性に優れるとともに、耐久性に優れる。
【0089】
[水素吸蔵合金の水素吸蔵放出特性]
本実施形態の水素吸蔵合金は、80℃で水素圧を1MPaまで加圧した時の水素吸蔵量H/M(Hは水素原子数、Mは金属原子数)が0.94以上であることが好ましい。
さらに、80℃での水素放出時の水素吸蔵量(H/M:水素原子(H)と金属原子(M)の原子数比)が0.5の時の水素圧(P0.5、以下、水素平衡圧と呼ぶ)が0.025MPa以上、0.12MPa以下であることが好ましい。
水素吸蔵量がこの範囲であれば、各種温度条件で問題なく電池動作ができる。水素平衡圧と水素吸蔵量を測定するPCT(Pressure-Composition-Temperature)特性の具体例を
図2に示す。
【0090】
ニッケル水素電池の特性を向上させるにあたり、放電容量は、水素吸蔵合金の成分組成で決まる部分が多い。一方、水素吸蔵合金の耐久性に関しては水素吸蔵放出に伴う水素吸蔵合金の微粉化の程度、あるいはアルカリ水溶液中への水素吸蔵合金の成分の溶出などに左右される。これは、水素吸蔵合金の成分組成と熱処理に基づき生成する合金相の割合や合金相の性質による。
このような技術的観点から、高耐久性の要求を満足する水素吸蔵合金の開発を進めるにあたり、水素吸蔵・放出の繰り返しによる水素吸蔵合金の割れ性を評価することを鋭意研究した。
その結果、水素吸蔵合金の割れ性を評価する際に、水素吸蔵合金を機械粉砕した合金粒子であり、150μm以上1mm以下にふるいわけした合金粒子を用いて80℃で3MPaまで水素を加圧し、当該合金に水素を吸蔵させた後、真空排気により合金から水素を放出させる。
これを5回繰り返した後の合金粒子の粒度分布を評価し、その体積平均粒径(MV)を代表値として表すことで、特に耐久性に優れた水素吸蔵合金を見出すに至った。詳細な条件は、以下の通りである。ここで、「150μm以上1mm以下にふるいわけ」とは、150μmの目開きのふるい上であって、1mm目開きのふるい下であることを表す。
【0091】
具体的には、PCT評価装置の測定ホルダーに水素吸蔵合金7gを充填、80℃で1時間真空排気(0.01MPa以下)を行う。その後、温度をキープして水素圧0.01~3MPaの範囲で水素吸蔵・放出測定(PCT特性評価)を行う。
この後、1時間真空排気(0.01MPa)を行い、3MPaまで水素ガスを導入して1時間保持して、水素吸蔵合金に水素をほぼ上限まで吸蔵させ、1時間真空排気(0.01MPa)して水素を放出させる。これを3回繰り返す。
最後に1サイクル目と同様に水素圧0.01~3MPaの範囲で水素吸蔵・放出測定(PCT特性評価)を行う。1回目と5回目の水素吸蔵・放出と2~4回目の水素吸蔵・放出の違いは処理時間である。2~4回目の水素吸蔵・放出は、一気に3MPaまで水素圧をかけるため、所要時間が短い。
【0092】
このように水素吸蔵・放出サイクルを合計5回行った後、水素吸蔵合金粉を取り出し、その粒度分布測定を行う。繰り返し水素吸蔵・放出後における水素吸蔵合金を微粉化した合金粒子の体積平均粒径MVの範囲は、75μm以上であることが好ましい。合金粒子の体積平均粒径MVがこの範囲であれば、実際に水素吸蔵合金をアルカリ蓄電池に組み込んだ時の充放電に伴う当該水素吸蔵合金の微粉化が進行しないため好ましい。すなわち、本実施形態に係る水素吸蔵合金は、アルカリ溶液中での良好な耐食性と相まって、耐久性に優れていることが判る。
なお、合金粒子の体積平均粒径MVは、レーザー回折粒度分布測定装置で測定すればよく、測定装置としては、例えばマイクロトラック・ベル社製MT3300EXII型などを用いることができる。
【0093】
水素吸蔵合金の割れは、水素吸蔵・放出に伴う当該合金の結晶格子の膨張・収縮による歪みに起因すると考えられる。従って、水素吸蔵量が少ないと、結晶格子の膨張・収縮は少なくなり、結果として、水素吸蔵合金が微粉化しにくい。
しかし、一方で水素吸蔵合金の水素吸蔵量が少ないと、電池材としての放電容量が小さくなり、一定の電池容量を得るには、電池の大型化や高コスト化につながるため、好ましくない。
従って、上記繰り返し水素吸蔵・放出後における水素吸蔵合金を微粉化した合金粒子の体積平均粒径MVを実現するのに必要な条件として、80℃でのPCT測定から得られる1MPaでの水素吸蔵量の指標H/M(水素Hと金属Mの原子比率)の値を0.94以上とすることが好ましい。水素吸蔵量がこの範囲であれば、このような水素吸蔵合金を負極活物質として含む負極を備えたアルカリ蓄電池は、十分な放電容量を保持できることから、高耐久性の水素吸蔵合金が得られているといえる。
【0094】
また、
図2に示すように、以下の関係式(A)で示される水素吸蔵後の放出時のプラトー傾きBを水素吸蔵量H/M=0.3の時の水素圧P0.3(MPa)と、水素吸蔵量H/M=0.7の時の水素圧P0.7(MPa)と、に基づいて算出した。すなわち、プラトー傾きBは、水素放出曲線の水素吸蔵量H/M=0.7と、水素吸蔵量H/M=0.3の時の水素圧を測定して、上記関係式(A)により算出される値である。
【0095】
【0096】
すなわち、上記関係式(A)で示される[log(P0.7/P0.3)]/0.4で算出した値であるプラトーの傾きBが1.3以上3.0以下の範囲にあることが好ましい。プラトーの傾きBが1.3より小さいと、水素吸蔵時における水素吸蔵合金の結晶格子の膨張が一方向に起こりやすく、言い換えると、異方的に伸び縮みしやすい。このため、水素吸蔵合金の結晶格子に生じたひずみにより、当該水素吸蔵合金の割れが促進されるおそれがある。
一方、プラトーの傾きBが3.0を超えると、水素圧をかけても水素吸蔵量が増えにくくなり、結果としてアルカリ蓄電池の放電容量が低下するおそれがある。好ましくは、プラトーの傾きB値が1.35以上、2.95以下である。
【0097】
[X線回折強度比]
本実施形態の水素吸蔵合金は、Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定において、回折角40~45°の範囲にある最強回折ピークの回折強度(ε)に対するAB5相の(101)面の回折強度(ζ)の比が、ζ/ε≦0.08であることが好ましい。ζ/ε比が0.08を超えると、アルカリ蓄電池の充放電サイクル寿命特性が低下してしまうおそれがある。ζ/ε比は、さらに好ましくは、0.05以下である。
【0098】
図3は、本実施形態に係る水素吸蔵合金に関するX線回折測定結果の一例を示したグラフである。
図3のXRDグラフに基づいて具体的に回折線を説明すると、ζ/ε比は、*で示す最強回折ピークの高さに対する、■で示す回折ピークの高さの比である。ζ/ε比がこの範囲であれば、水素吸蔵合金の耐久性を低下させるAB
5相の比率が低いので、当該水素吸蔵合金の耐久性の向上が期待できる。
【0099】
なお、X線回折測定条件は下記の通りである。粒径75μmアンダーに粉砕した合金粒子からなる水素吸蔵合金の粉末を試料ホルダーにセットし、ターゲットをCuとして、下記条件で、kβフィルタのみ使用して測定する。
管電圧:40kV
管電流:40mA
スキャンスピード:0.5°/分
スキャンステップ:0.02°
発散スリット(DS):1°
散乱スリット(SS):1°
受光スリット(RS):なし
【0100】
[合金表面層]
本発明の水素吸蔵合金の表面には、上記一般式(1)に示した適正量のYを含む酸化物層あるいは水酸化物層からなる表面層が水素吸蔵合金を構成する合金粒子に密着して形成されている。このため、本発明の水素吸蔵合金は、適正量のYを含む酸化物層あるいは水酸化物層からなる表面層の存在により耐久性に優れる。
この表面層は、水素吸蔵合金の内部に予めに含まれるYなどの元素が負極活物質を作製する過程において、金属酸化物あるいは金属水酸化物となり、当該水素吸蔵合金の表面に酸化物層あるいは水酸化物層として含まれることによって形成されるものである。Yを含む酸化物層あるいは水酸化物層からなる表面層には、好ましくは、水素吸蔵合金に含まれる「希土類元素を主として」、MgおよびAlを含む。ここで、「希土類元素を主として」とは、水素吸蔵合金の表面に形成された酸化物層や水酸化物層に、質量比率で半分を超えた希土類元素の酸化物や水酸化物が占めることを表す。
【0101】
その水素吸蔵合金のBET比表面積としては、0.5m2/gより大きいことが好ましく、0.55~7.0m2/gがより好ましく、0.6~4.0m2/gがさらに好ましい。BET比表面積がその範囲であれば、当該水素吸蔵合金をアルカリ蓄電池の負極に含まれる負極活物質に用いて好適である。また、表面層が存在する水素吸蔵合金の細孔容積は、0.013cm3/g以下、平均細孔径は40nm以下であることが好ましい。より好ましくは、細孔容積が0.0025~0.0125cm3/gの範囲、および、平均細孔径が10~35nmの範囲である。細孔容積が0.013cm3/gを超え、かつ平均細孔径が40nmを超え、大き過ぎると、表面層が低密度化し、クラック発生の確率が上昇し、水素吸蔵合金の耐久性が低下する恐れがある。
【0102】
一方で、細孔容積が0.0025cm3/g未満、かつ、平均細孔径が10nm未満となり、小さくなると、水素吸蔵合金の表面層への電解液の含浸が不十分となり、水素吸蔵放出特性が低下する。合金粒子に密着した酸化物層あるいは水酸化物層からなる表面層の厚みは、500nm以下であり、好ましくは、50~450nmの範囲である。表面層の厚さが500nmを超えて厚すぎると、水素吸蔵合金の表面層への電解液の含浸が不十分となり、水素吸蔵放出特性が低下するおそれがある。一方で、本発明の水素吸蔵合金の表面に表面層が形成されていないと、水素吸蔵合金の耐食性が大幅に低下する。
【0103】
本実施形態に係る水素吸蔵合金は、高出力・高耐久性の両立を実現するため、当該合金そのものの耐久性、すなわち水素吸蔵放出に伴う当該合金の微粉化を抑制している。さらに、かかる水素吸蔵合金は、合金粒子の表面に高水素吸放出特性及びアルカリ耐食性が共に優れた表面層を形成しやすい。このため、本実施形態に係る水素吸蔵合金は、特に耐久性に優れている。すなわち、かかる水素吸蔵合金を負極活物質として用いたアルカリ蓄電池は、充放電サイクル特性に優れていながら高い出力特性を実現している。
【0104】
[水素吸蔵合金の製造方法]
次に、本実施形態の水素吸蔵合金の製造方法について説明する。
本実施形態の水素吸蔵合金は、希土類元素(Sm、Y、La、Ceなど)やマグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、鉄(Fe)などの金属元素を所定のモル比となるように秤量した後、これらの原料を、高周波誘導炉に設置したアルミナるつぼに投入してアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で溶解した後、鋳型に鋳込んで水素吸蔵合金のインゴットを作製する。あるいは、ストリップキャスト法を用いて、200~500μm厚程度のフレーク状試料として本実施形態に係る水素吸蔵合金を直接作製してもよい。
【0105】
なお、本実施形態の水素吸蔵合金は、主成分として、融点が低く高蒸気圧のMgを含有しているため、全合金成分の原料を一度に溶解すると、Mgが蒸発してしまい、目標とする化学組成の合金を得ることが困難となる場合がある。そこで、本実施形態の水素吸蔵合金を溶解法により製造するに当たっては、まず、Mgを除いた他の合金成分を溶解した後、その溶湯内に金属MgおよびMg合金などのMg原料を投入するのが好ましい。また、この溶解工程は、アルゴンまたはヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うのが望ましく、具体的には、アルゴンガスを80vol%以上含有した不活性ガスを0.05~0.2MPaに調整した減圧雰囲気下で行うのが好ましい。上記条件にて溶解した合金は、その後、水冷の鋳型に鋳造し、凝固させて水素吸蔵合金のインゴットとするのが好ましい。
【0106】
次いで、得られた各水素吸蔵合金のインゴットについて、DSC(示差走査熱量計)を用いて融点(Tm)を測定する。これは、本実施形態の水素吸蔵合金は、上記鋳造後のインゴットを、アルゴンまたはヘリウム等の不活性ガスまたは窒素ガスのいずれか、もしくは、それらの混合ガス雰囲気下で、800℃以上で合金の融点(Tm)以下の適正な温度で3~50時間保持する熱処理を施すことが好ましいためである。
この熱処理により、水素吸蔵合金中における主相としてのA2B7型、A5B19型およびAB3型の結晶構造の合計比率を70質量%以上、好ましくはA2B7型およびA5B19型の結晶構造の合計比率で70質量%以上とし、鋳造時に生成した副相であるAB2相、AB5相を減少あるいは消滅させることができる。
得られた水素吸蔵合金の主相の結晶構造がA2B7型構造やA5B19型構造、AB3型構造であることは、Cu-Kα線を用いたX線回折測定により確認することができる。水素吸蔵合金の主相とは50質量%超えを意味し、70質量%以上であることが好ましい。
【0107】
上記熱処理温度が800℃未満では、元素の拡散が不十分であるため、副相が残留してしまい、電池の放電容量の低下や充放電サイクル特性の劣化を招いてしまうおそれがある。一方、熱処理温度が合金の融点Tmより-20℃以上(Tm-20℃以上)となると、主相の結晶粒の粗大化や部分的溶融、あるいはMg成分の蒸発が生じる結果、微粉化や化学組成の変化による水素吸蔵量の低下が起こってしまうおそれもある。したがって、熱処理温度は好ましくは800℃~(Tm-30℃)の範囲である。
【0108】
また、熱処理の保持時間が3時間以下では、安定的に主相の比率を70質量%以上とすることができず、また、主相の化学成分の均質化が不十分となる。このため、水素吸蔵・放出時における水素吸蔵合金を構成する結晶格子の膨張・収縮が不均一となり、発生する歪みや欠陥量が増大して、アルカリ蓄電池の充放電サイクル寿命特性にも悪影響を与えるおそれがある。
なお、上記熱処理の保持時間は4時間以上とするのが好ましく、水素吸蔵合金の主相の均質化や結晶性向上の観点からは、5時間以上とするのがより好ましい。
ただし、保持時間が50時間を超えると、Mgの蒸発量が多くなって水素吸蔵合金の化学組成が変化し、その結果、AB5型の副相が生成してくるおそれがある。さらに、製造コストの上昇や、蒸発したMg微粉末による粉塵爆発を招くおそれもあるため好ましくない。
【0109】
熱処理した水素吸蔵合金は、乾式法または湿式法で微粉化される。乾式法で微粉化する場合は、例えばハンマーミルやACMパルベライザーなどを用いて粉砕する。一方、湿式法で水素吸蔵合金を微粉化する場合は、ボールミルやアトライターなどを用いて粉砕する。特に、水素吸蔵合金の微粉を得る場合には、湿式粉砕の方が安全に作製できるため好ましい。
【0110】
本実施形態に係る水素吸蔵合金を車載用途の電池に用いる場合、微粉化する合金粒子の粒径は、出力、サイクル寿命特性などの電池特性のバランス上、質量基準の50%通過率粒径D50で3μm以上30μm以下の範囲が好ましく、5μm以上25μm以下の範囲がより好ましい。さらに、合金粒子の粒径分布が広すぎると、上記特性が劣化するので、質量基準の10%通過率粒径D10は、0.5μm以上15μm以下の範囲、90%通過率粒径D90は、8μm以上60μm以下の範囲であるのが好ましい。さらに、10%通過率粒径D10は、1μm以上10μm以下の範囲、90%通過率粒径D90は、10μm以上50μm以下の範囲であるのがより好ましい。
なお、上記合金粒子の粒径は、メディアの径、量、回転数などの条件を調整することにより制御することができる。
ここで、上記した合金粒子の粒径分布D50、D10およびD90は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定した値を用いることとし、測定装置としては、例えば、マイクロトラック・ベル社製 MT3300EXII型などを用いることができる。
【0111】
上記した本実施形態に係る水素吸蔵合金としては、主相がA2B7型結晶構造、A5B19型結晶構造およびAB3型結晶構造からなる合金である。具体的にはA2B7型結晶構造は六方晶系(2H)であるCe2Ni7相と菱面体晶系(3R)のGd2Co7相が共存しても問題なくいずれかであるが、前者が多く含まれるほうが好ましい。
また、A5B19型結晶構造(六方晶系であるGd5Co19相あるいは菱面体晶系であるPr5Co19相)では前者の方が多く含まれている方が好ましく、A2B7型結晶構造、A5B19型結晶構造およびAB3型結晶構造を合わせて少なくとも合わせて70質量%以上であることが好ましい。
さらに好ましくは、A2B7型結晶構造、A5B19型結晶構造の相を合わせて70質量%以上である。これらの水素吸蔵合金の結晶構造は、X線回折測定の結果に基づき、リートベルト解析で評価できる。
【0112】
水素吸蔵合金の表面にYを含む酸化物あるいは水酸化物の層が密着された本実施形態の負極活物質として用いられる水素吸蔵合金を得るには、積極的に、水素吸蔵合金の表面を酸化させるのがよい。
以下、本実施形態の水素吸蔵合金を例として、水素吸蔵合金に対して好適な方法で処理(以下、水素吸蔵合金の処理方法という。)を行い、アルカリ蓄電池の負極活物質として用いられる本実施形態に係る水素吸蔵合金を製造する手順を説明する。
【0113】
水素吸蔵合金の処理方法は、
N-1)水素吸蔵合金をアルカリ水溶液で処理する工程、
N-2)前記N-1)工程後の水素吸蔵合金の表面を酸化する工程、
を有する。
N-1)水素吸蔵合金をアルカリ水溶液で処理する工程(以下、単に「N-1)工程」という。)は、水素吸蔵合金を酸化させるための必須の工程ではないが、後述するとおり、かかる工程を経ることに因り、より好適な本実施形態に係る負極活物質として用いることができる水素吸蔵合金を得ることができる。
【0114】
まず、「N-1)工程」について説明する。
N-1)工程に用いられる水素吸蔵合金は、La、Y、Ceなど希土類元素、Mg、AlおよびNiを含有するA2B7型結晶構造、A5B19型結晶構造およびAB3型結晶構造からなる相を主相とする水素吸蔵合金である。
【0115】
N-1)工程で水素吸蔵合金をアルカリ金属の水酸化物を溶解したアルカリ水溶液で処理すると、当該合金の表面から腐食が進行する。
特に、水素吸蔵合金に含まれる成分の中でアルカリ水溶液に対して酸化しやすく溶解性の高い希土類元素、Mg、Alは、一部が酸化物あるいは水酸化物にその場で変化しつつ、一部が水素吸蔵合金の表面から溶出することになる。
ここで、Niは、アルカリ水溶液に対して耐食性が高くかつ溶解性が低いため、その場で残存する。結果的に、水素吸蔵合金の表面に、金属と酸化物及び水酸化物が混在した層が形成される。
以下、本実施形態に係る水素吸蔵合金において、当該水素吸蔵合金の表面に新たに形成されたこの表面層のことを、表面処理層という。表面処理層は、金属酸化物あるいはアルカリ金属の水酸化物からなる。水素吸蔵合金の表面に形成されたこの表面処理層の存在に因り、アルカリ蓄電池の負極活物質として用いられる水素吸蔵合金の性能が向上すると考えられる。
【0116】
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを例示でき、中でも、水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ水溶液として、水酸化ナトリウム水溶液を用いることで、他の水酸化リチウムや水酸化カリウムを用いる場合と比較して、本実施形態に係るアルカリ蓄電池であるニッケル水素電池の電池特性が好適化する場合がある。
【0117】
アルカリ水溶液としては強塩基のものが好ましい。アルカリ水溶液におけるアルカリ金属の水酸化物の濃度として、10~60質量%の範囲が好ましく、より好ましくは20~55質量%の範囲を例示できる。
【0118】
N-1)工程は、水素吸蔵合金をアルカリ水溶液に浸ける方法で行うのが好ましい。その際には、撹拌条件下で行うのが好ましく、また、加熱条件下で行うのが好ましい。加熱温度の範囲としては、50~150℃の範囲が好ましく、より好ましくは70~140℃の範囲を例示できる。加熱時間は、アルカリ水溶液の濃度や加熱温度や攪拌条件に応じて適宜決定すればよいが、0.1~10時間の範囲が好ましく、より好ましくは0.2~5時間の範囲を例示できる。
【0119】
水素吸蔵合金とアルカリ水溶液の量の関係は、質量比で1:0.5~1:10の範囲が好ましく、1:0.7~1:8の範囲がより好ましい。アルカリ水溶液の量が過少であれば、水素吸蔵合金に表面処理層が十分に形成されない場合があり、他方、アルカリ水溶液の量が過多であれば、コスト面で不利になる。
【0120】
N-1)工程が終了した時点におけるアルカリ水溶液には、水素吸蔵合金から一部溶出した希土類元素やMg、Alが存在する。そして、当該希土類元素やMg、Alは、アルカリ水溶液と水素吸蔵合金の分離時に、水素吸蔵合金の表面に、希土類元素やMg、Alの水酸化物として付着し得る。
【0121】
N-1)工程においては、アルカリ水溶液での処理に引き続き、水素吸蔵合金に対する水での洗浄を行ってもよい。水での洗浄を行うことで水素吸蔵合金の表面に付着するアルカリ水溶液を除去できる。水での洗浄時における水素吸蔵合金と水の量の関係は、質量比で1:1~1:50が好ましく、1:2~1:30がより好ましい。
【0122】
次に、N-2)前記N-1)工程後の水素吸蔵合金の表面を酸化する工程(以下、単に「N-2)工程」という。)について説明する。
上述したN-1)工程におけるアルカリ水溶液での処理後に実施され得る水素吸蔵合金に対する水での洗浄を、大気下で実施することで、N-2)工程としてもよい。N-2)工程としては、空気中に水素吸蔵合金を曝して、空気中の酸素で水素吸蔵合金の表面を酸化させる方法でもよいし、水素吸蔵合金を過酸化水素などの酸化剤と接触させて酸化させる方法でもよい。
ただし、いずれの方法においても、水素吸蔵合金の過剰な発熱を抑制するために、水素吸蔵合金を冷却しながら実施するのが好ましい。具体的には、水素吸蔵合金に水を浴びせて水素吸蔵合金を冷却しながら実施するか、水中に水素吸蔵合金を配置した上で、又は、過酸化水素などの酸化剤を含む水溶液中に水素吸蔵合金を配置した上で実施するのが好ましい。
【0123】
N-1)及びN-2)工程を経て製造される、好適な本実施形態の負極活物質は、その表面に金属と酸化物及び水酸化物が混在した層を含有する。また、好適な本実施形態の負極活物質は、表面に金属と酸化物及び水酸化物が混在した表面処理層を具備すると表現することもできる。
【0124】
前記プロセスを経ることで、本実施形態の水素吸蔵合金の表面には密着した少なくとも一部にYを含有する酸化物層あるいは水酸化物層からなる表面層を形成することができる。このため、本実施形態の水素吸蔵合金の耐食性が向上する。
また、この水素吸蔵合金の表面処理層に含まれる酸化物あるいは水酸化物は、水素吸蔵合金に含まれる希土類元素及びMg、Alで主に構成されることが好ましい。
【0125】
さらには、この酸化物層あるいは水酸化物層からなる表面処理層が形成されている水素吸蔵合金の細孔容積は、0.013cm3/g以下、平均細孔径は40nm以下であることが好ましい。細孔容積が0.013cm3/gを超えると表面処理層が低密度化し、クラックの発生確率が上昇することでアルカリ溶液の浸漬による水素吸蔵合金の腐食の加速、すなわち当該合金の耐食性が低下する恐れがある。平均細孔径が40nmを超えて大き過ぎると、アルカリ容液の浸漬が過剰になることで水素吸蔵合金の腐食の加速、すなわち耐久性が低下する恐れがある。
一方で、細孔容積が0.0025cm3/g未満、平均細孔径が10nm未満になると、水素吸蔵合金への電解液の含浸が不十分となり、当該合金の水素吸放出特性が低下するおそれがある。好ましくは細孔容積が0.0025~0.0125cm3/g、平均細孔径が10~35nmである。
【0126】
さらには、本実施形態に係る水素吸蔵合金の表面に形成された少なくとも一部にYを含有する酸化物層あるいは水酸化物層からなる表面層は、合金粒子表面に密着した厚さが500nm以下であることが好ましい。表面層の厚さが500nmを超えると、水素吸蔵合金への電解液の含浸が不十分となり、当該合金の水素吸放出特性が低下するおそれがある。
一方、本実施形態に係る水素吸蔵合金に表面処理層が少なくとも一部にも形成されない場合、当該合金の耐食性が著しく低下してしまう。表面層の厚さは、好ましくは50~450nmである。
【0127】
なお、負極活物質表面の分析については以下の通りである。透過型電子顕微鏡を用いて水素吸蔵合金表面に形成された表面処理層を観察した。具体的には負極活物質粉末をエポキシ樹脂に混合後、120℃で30分間、当該樹脂を硬化させ、樹脂包埋をした。
その後、アルゴンビームを用いた薄片化処理により100nm以下の薄片状サンプルを得る。薄片化処理には、日本電子製イオンスライサー(EM09100 IS)を用い、加速電圧6kVで数μmの細孔が空くまで薄く研磨した後、加速電圧1.0kVで15分仕上げを行う。得られた薄片状サンプルについて、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM2100F)を用い、加速電圧200kVで合金表面に得られた表面処理層を観察する。また、同装置搭載のエネルギー分散型X線発光分光装置(日本電子製JED2300)を用いて、表面処理層に含まれる元素分析を実施する。
【0128】
また、細孔径分布の分析は、下記の通りの手法で評価する。負極活物質を100℃で2時間真空乾燥した後、全自動ガス吸着量測定装置(AS1-MP、AntonPaar社)を用い、負極活物質の液体窒素温度(77.3K)における窒素の吸脱着等温線を測定する。
吸脱着等温線における水素吸蔵合金の単位重量あたりの窒素吸着量は、標準状態(STP;Standard Temperature and Pressure)の気体窒素の体積で表されるように算出する。
ここで、気体の標準状態は0℃、101325Paとし、体積の単位の前に記号「N」を付す。全細孔容積は吸着等温線の相対圧(p/p0=0.99)のときの窒素吸着量をV[Ncm3/g]として、下記の計算式(B)より算出した。
【0129】
【数3】
上記の式中、1molの気体の標準状態における体積を22414Ncm
3、窒素の分子量Mを28.013g/mol、液相状態の窒素の密度ρを0.808g/cm
3とする。
さらに、吸脱着等温線を用いて、メソポア領域の細孔径分布はBJH法で解析し、ミクロポア~メソポア領域の細孔径分布はDFT法で解析し、平均細孔径を算出する。
【0130】
本実施形態に係る負極活物質として用いる水素吸蔵合金のBET比表面積は、0.5m2/gより大きいことが好ましい。水素吸蔵合金のBET比表面積がこれ以下であると、平均細孔径が大きくなりすぎるおそれがある。水素吸蔵合金のBET比表面積は、0.55~7.0m2/gの範囲がより好ましく、0.6~4.0m2/gの範囲がさらに好ましい。
なお、N-1)工程のアルカリ水溶液処理とN-2)工程の表面酸化工程以外に酸処理工程を組み合わせてもよい。
酸処理工程は、硝酸、硫酸、塩酸等の各水溶液を用いて、水素吸蔵合金の表面の酸処理を行う。酸処理工程により、さらに良好な電池特性、特に耐久性、低温放電特性を示す水素吸蔵合金が得られる。これは、水素吸蔵合金の表面にNiの微粒子を多数析出させることで、水素吸蔵合金の触媒作用が向上し、水素吸蔵放出が容易に行われることとなるためである。
従って、低温での放電特性が向上するとともに、表面にNiの微粒子が増えることで耐食性が向上、耐久性が向上する。
【0131】
[アルカリ蓄電池]
次に、本発明の水素吸蔵合金を用いた負極を備えたアルカリ蓄電池の構成例について、
図1を参照しながら説明する。
ここで、本発明のアルカリ蓄電池10は、少なくとも、正極1、負極2およびセパレータ3と、電解質を充填してそれらを収納する筐体4(電池ケース)から構成されている。以下、具体的に説明する。
【0132】
<正極>
正極1は、通常、正極活物質層および正極集電体から構成されている。正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する。正極活物質層は、さらに、正極添加剤、導電助剤、結着剤および増粘剤の少なくとも一つを含有していてもよい。
正極活物質としては、上述した水素吸蔵合金(負極材料)と組み合わせた場合に、電池として機能する物質であれば特に限定されず、例えば、金属単体や合金、水酸化物等を挙げることができる。
正極活物質としては、ニッケル酸化物を含み、主にオキシ水酸化ニッケルおよび/または水酸化ニッケルからなるものを用いることができる。正極活物質に占めるニッケル酸化物の量は、例えば、90~100質量%であり、95~100質量%であってもよい。ニッケル酸化物の平均粒径は、例えば、3~35μmの範囲から適宜選択でき、好ましくは3~25μmの範囲である。
正極活物質としては、あらかじめ、正極活物質の周りに導電助剤の層を形成させたものが好ましい。さらには、あらかじめ、正極活物質の周りにオキシ水酸化コバルトの層を形成させ、かつ、オキシ水酸化コバルトの層にアルカリ金属をドープしたものが好ましい。
【0133】
正極添加剤は、ニッケル水素電池の電池特性を向上させるために正極に添加されるものである。正極添加剤としては、ニッケル金属水素化物電池の正極添加剤として用いられるものであれば限定されない。具体的な正極添加剤として、Nb2O5などのニオブ化合物、WO2、WO3、Li2WO4、Na2WO4及びK2WO4などのタングステン化合物、Yb2O3などのイッテルビウム化合物、TiO2などのチタン化合物、Y2O3などのイットリウム化合物、ZnOなどの亜鉛化合物、CaO、Ca(OH)2及びCaF2などのカルシウム化合物、並びに、その他の希土類酸化物を挙げることができる。
【0134】
導電助剤は、電子伝導性を正極に付与することができる材料であれば特に限定されず、例えば、Ni粉末等の金属粉末や酸化コバルト等の酸化物、グラファイト、カーボンナノチューブ等のカーボン材料を挙げることができる。導電助剤の添加量は、特に限定されないが、例えば、正極活物質100質量部に対して、0.1~50質量部の範囲が好ましく、0.1~30質量部の範囲がさらに好ましい。
【0135】
結着剤は活物質などを集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ニッケル水素電池の電極用結着剤として用いられるものであれば限定されない。具体的な結着剤として、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン及びフッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、ポリプロピレン及びポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリイミド及びポリアミドイミドなどのイミド系樹脂、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、スチレンブタジエンゴムなどの共重合体、並びに、(メタ)アクリル酸誘導体をモノマー単位として含有する、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸及びポリメタクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系樹脂を挙げることができる。結着剤の量は、正極活物質100質量部に対して、例えば、7質量部以下であればよく、0.01~5質量部の範囲であっても、さらに0.05~2質量部の範囲であってもよい。
【0136】
さらに、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースおよびその変性体(Na塩などの塩も含む)や、メチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニルユニットを有するポリマーのケン化物、ポリエチレンオキサイドなどのポリアルキレンオキサイドなどが挙げられる。これらの増粘剤は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて使用してもよい。増粘剤の量は、正極活物質100質量部に対して、例えば、5質量部以下であり、0.01~3質量部の範囲であってもよく、さらに0.05~1.5質量部の範囲であってもよい。
【0137】
また、正極集電体の素材としては、例えば、ステンレス鋼やアルミニウム、ニッケル、鉄、チタン等を挙げることができる。なお、正極集電体の形状としては、例えば、箔状やメッシュ状、多孔質状等があり、いずれの形状でもよい。
【0138】
正極は、正極活物質を含む正極合剤を支持体(正極集電体)に付着させることにより形成することができる。正極合剤は、通常、上記した正極活物質、正極添加剤、導電助剤、結着剤とともにペースト化して作成する。分散媒としては、水、有機媒体、またはこれらから選択される二種以上の媒体を混合した混合媒体などが使用できる。必要に応じて、正極添加剤、導電助剤、結着剤、増粘剤などを添加してもよいが、これら(特に、正極添加剤、結着剤、増粘剤)は、必ずしも添加する必要はない。
【0139】
正極は、上記正極合剤ペーストを支持体の形状などに応じて支持体に塗布してもよく、支持体の空孔に充填させてもよい。正極は、支持体に塗布または充填し、乾燥して分散媒を除去し、得られた乾燥物を厚み方向に圧縮(例えば、一対のロール間で圧延)することにより形成できる。
【0140】
<負極>
負極2は、通常、負極活物質層および負極集電体から構成されている。負極活物質層は、負極活物質として、少なくとも上記に記載した本発明の水素吸蔵合金を含有する必要がある。負極活物質層は、さらに、負極添加剤、導電助剤、結着剤および増粘剤の少なくとも一つを含有していてもよい。
【0141】
負極添加剤は、ニッケル水素化物電池の電池特性を向上させるために負極に添加されるものである。負極添加剤としては、ニッケル水素化物電池の負極添加剤として用いられるものであれば限定されない。具体的な負極添加剤として、CeF3及びYF3などの希土類元素のフッ化物、Bi2O3及びBiF3などのビスマス化合物、In2O3及びInF3などのインジウム化合物、並びに、正極添加剤として例示した化合物を挙げることができる。
【0142】
導電助剤は、電子伝導性を付与することができる材料であれば特に限定されず、例えば、Ni粉末等の金属粉末や酸化コバルト等の酸化物、グラファイト、カーボンナノチューブ等のカーボン材料を挙げることができる。導電助剤の添加量は、特に限定されないが、例えば、水素吸蔵合金粉末100質量部に対して、0.1~50質量部の範囲が好ましく、0.1~30質量部の範囲がさらに好ましい。
【0143】
また、結着剤としては、例えば、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴムやカルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)等のポリオール、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂等を挙げることができる。結着剤の量は、水素吸蔵合金粉末100質量部に対して、例えば、7質量部以下であればよく、0.01~5質量部の範囲であっても、さらに0.05~2質量部の範囲であってもよい。
【0144】
負極集電体の素材としては、例えば、鋼やステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、カーボン等を挙げることができる。また、負極集電体の形状としては、例えば、箔状やメッシュ状、多孔質状等があり、いずれの形状でもよい。
負極活物質層を負極集電体上に形成するには、負極活物質等の負極活物質層に含まれる成分をペースト化して負極ペーストとする。負極ペーストは、上記の負極活物質、負極添加剤、導電助剤、結着剤、増粘剤などを溶媒に含有させて作製する。
このニッケル水素電池用負極は、本発明の水素吸蔵合金粉末を負極活物質として含む負極ペーストを所定形状に成形し、成形した負極ペーストを負極芯材(負極集電体)によって支持することによって作製するか、あるいは、上記水素吸蔵合金粉末を含む負極ペーストを調製し、これを負極集電材に塗布し、乾燥することによって作製される。
【0145】
<電解質層>
電解質層は、正極および負極の間に形成された、水系電解液を含有する層である。ここで、上記水系電解液とは、溶媒として主に水を用いた電解液のことをいい、該溶媒には水以外のものを含んでいてもよい。電解液の溶媒全体に対する水の割合は、50mol%以上であればよく、70mol%以上であっても、90mol%以上であっても、100mol%であってもよい。
【0146】
水系電解液は、アルカリ水溶液であることが好ましい。アルカリ水溶液の溶質としては、例えば、水酸化カリウム(KOH)や水酸化ナトリウム(NaOH)等を挙げることができ、これにLiOHが含まれていてもよい。水系電解液における溶質の濃度は、2~10mol/Lが好ましく、3~9mol/Lがより好ましく、4~8mol/Lがさらに好ましい。水系電解液には、ニッケル水素化物電池用電解液に採用される公知の添加剤が添加されていてもよい。
【0147】
電解質層は、セパレータ3を有している。セパレータ3を設置することで、短絡を効果的に防止できる。セパレータ3としては、例えば、スルホン化処理したポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂を含有する不織布や多孔膜を挙げることができる。
【0148】
<筐体>
筐体4は、上記した正極1、負極2およびセパレータ3を収納し、電解質を充填した電池ケース(セル容器)である。その素材は、電解液に対して腐食されることがなく安定であり、充電時に一時的に発生するガス(酸素または水素)および電解液を外部に漏らさず保持できるものであればよく、例えば、金属ケースや樹脂ケース等が一般に用いられている。また、正極1及び負極2がセパレータ3を介して複数積層された積層体を有する積層型のアルカリ蓄電池10である場合、筐体4は当該積層体の周囲を枠状の樹脂でシールした構造であってもよい。
【0149】
<電池用途>
本発明のアルカリ蓄電池10は、通常、二次電池である。そのため、繰り返し充放電できるので、例えば車載用の電池として好適である。その際、アルカリ蓄電池10は、自動車駆動用のモータに電力を供給する形態となるハイブリッド自動車用電池としての使い方だけに限定されない。アイドリングストップ機能を有する自動車でエンジンの再始動を行うためのスターターモータに電力を供給する形態としてアルカリ蓄電池10を適用してもよい。
なお、二次電池には、二次電池の一次電池的使用(充電後、一度の放電だけを目的とした使用)も含まれる。また、電池の形状としては、例えば、コイン型やラミネート型、円筒型、角型等があるが、いずれの形状でもよい。
【0150】
[車両]
本発明の車両は、上記水素吸蔵合金を負極に用いたアルカリ蓄電池を、モータへの電力供給源として搭載したものである。従来に比べ、各段に小型軽量化された本発明のアルカリ蓄電池を用いることにより、本発明の車両は、運動性能の向上や燃費の低減、航続距離の延長を図ることができる。
【実施例】
【0151】
<実施例1>
下記の表1-1~1-4に示した成分組成を有するNo.1~70の合金(水素吸蔵合金)を負極活物質とする負極を備えた評価用セルを、以下に説明する要領で作製し、その特性を評価する実験を行った。
なお、表1-1~1-4に示したNo.1~33の合金は、本発明の条件に適合する合金例(発明例)、No.34~70は、本発明の条件を満たさない合金例(比較例)である。また、比較例のNo.34の合金は、セルの特性を評価するための基準合金に用いた。
【0152】
(負極活物質の作製)
表1-1~1-4に示したNo.1~70の合金の原料(La、Y、Ce、Sm、Nd、Pr、Gd、Zr、Mg、Ni、Co、Mn、Al、Feなどそれぞれ純度99%以上)を、高周波誘導加熱炉を用いてアルゴン雰囲気下(Ar:100vol%、0.1MPa)で溶解し、鋳造して水素吸蔵合金からなる合金インゴットとした。
次いで、これらの合金インゴットを、アルゴン雰囲気下(Ar:90vol%、0.1MPa)で、各合金の融点Tm-50℃の温度(940~1130℃)で10時間保持する熱処理を施した。
その後、熱処理した合金インゴットを粗粉砕した後、さらに湿式ボールミルで粗粉砕し、質量基準の50%通過率粒径D50で16μmになるまで微粉砕して濾過し、微粉砕濾過生成物を得た。
【0153】
この後、水素吸蔵合金をアルカリ水溶液で処理する工程として、以下の処理を実施した。実施例1の微粉砕濾過生成物50質量部にアルカリ水溶液として水酸化ナトリウムを48質量%で含有する水酸化ナトリウム水溶液を50質量部加えて懸濁液とした。この懸濁液を100℃に加熱して2時間保持し、その後、室温に冷却した。
この懸濁液を静置して上澄み液を除去し、アルカリ水溶液から水素吸蔵合金を分離した。水素吸蔵合金の上から水800質量部を注ぎ、水素吸蔵合金を水洗した。再度、懸濁液を静置して上澄み液を除去し、アルカリ水溶液から水素吸蔵合金を分離した。
【0154】
さらに、上記工程後に水素吸蔵合金の表面を酸化する工程として、以下の処理を実施した。前段落で得た微粉砕濾過生成物全量に、10質量%の過酸化水素水を25質量部加えて20分間撹拌した。水400質量部を注ぎ、水素吸蔵合金を水洗した。
再度、懸濁液を静置して上澄み液を除去し、アルカリ水溶液から水素吸蔵合金を分離した。水素吸蔵合金の上から水400質量部を注ぎ、水素吸蔵合金を水洗した。この濾過後の水素吸蔵合金を評価用セルの負極活物質とした。
なお、評価用セルの基準として用いるNo.34のAB5合金については、当該合金を湿式粉砕により質量基準の50%通過率粒径D50で25μmの微粉末にして、評価用セルの試料(負極活物質)とした。
【0155】
(評価用セルの作製)
上記負極活物質を97.8質量部、結着剤としてアクリル系樹脂エマルションを固形分として1.5質量部、結着剤としてカルボキシメチルセルロースを0.7質量部、及び、適量のイオン交換水を混合して、スラリーを製造した。
負極用集電体として厚み20μmのニッケル箔を準備した。このニッケル箔の表面に、上記スラリーを膜状に塗布した。上記スラリーが塗布されたニッケル箔を乾燥して水を除去し、その後、ニッケル箔をプレスして、負極溶集電体の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
【0156】
正極活物質として、ナトリウムおよびリチウムを含有するオキシ水酸化コバルト層で被覆された亜鉛とコバルトを固溶した水酸化ニッケル粒子を準備した。これを実施例1の評価用セルに用いる正極活物質とした。
上記正極活物質を94.3質量部、導電助剤としてコバルト粉末を1.0質量部、結着剤としてアクリル系樹脂エマルションを固形分として3.5質量部、結着剤としてカルボキシメチルセルロースを0.7質量部、正極添加剤としてY2O3を0.5質量部、及び、適量のイオン交換水を混合して、スラリーを製造した。
正極用集電体として厚み20μmのニッケル箔を準備した。このニッケル箔の表面に、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布されたニッケル箔を乾燥して、スラリーから水を除去し、その後、ニッケル箔をプレスして、正極用集電体の表面に正極活物質層が形成された正極を製造した。当該正極用集電体上に存在する正極活物質層の量は、28mg/cm2であり、正極活物質層の密度は、2.9g/cm3であった。
【0157】
電解液として、水酸化カリウムの濃度が5.4mol/Lであり、水酸化ナトリウムの濃度が0.8mol/Lであり、水酸化リチウムの濃度が0.5mol/Lであり、Na2WO4の濃度が0.16mol/Lである水溶液を準備した。
【0158】
セパレータとして、スルホン化処理が施された厚さ104μmのポリオレフィン繊維製不織布を準備した。
【0159】
正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。樹脂製の筐体に、極板群を配置して、さらに上記電解液を注入し、筐体を密閉することで、ニッケル水素電池として評価用セルを製造した。
【0160】
(合金の各種評価)
本実施例では、熱処理後、合金を粉砕した粉末をX線回折測定した。X線回折の測定条件は、粒径75μmアンダーに粉砕した粉末を試料ホルダーにセットし、ターゲットをCuとして、管電圧40kV、管電流40mA、スキャンスピード0.5°/分、スキャンステップ0.02°、発散スリット(DS)1°、散乱スリット(SS)1°、受光スリット(RS)なしでkβフィルタのみ使用で測定した。
【0161】
各合金を粉砕した粉末をX線回折測定して得られた回折線データに基づいてリートベルト解析を実施した。その結果、発明例のNo.1~33の合金は、いずれも主相がA2B7相、A5B19相、あるいはAB3相からなる相を主相として、70質量%以上になっていることを確認した。特に、発明例のNo.22の合金を除くと、発明例におけるすべての合金がA2B7相、A5B19相の2つの相で70質量%を超えていることを確認した。
【0162】
また、同じ回折線データを用いて、回折角40~45°の範囲にある最強回折ピークの回折強度(ε)に対するAB5相の(101)面の回折強度(ζ)の比を評価した。その結果、本発明例の合金は、いずれもζ/ε≦0.08であることを確認した。
【0163】
合金のPCT特性を以下の手順で評価した。まず、水素吸蔵合金塊を粉砕して、上記と同様150μm以上1mm以下にふるいにて粉砕された水素吸蔵合金からなる合金粒子の粒度を調整した。粉砕された水素吸蔵合金の合金粒子をPCT測定装置に充填し、80℃下で1時間真空排気(0.01MPa以下)を行った。
次に、温度を維持して3MPaの水素ガスを加圧して3.5時間保持し、水素吸蔵合金に水素を吸蔵、その後1時間真空排気して水素吸蔵合金から水素を放出させて活性化処理とする。
その後、水素圧0.01~1MPaの範囲で発明例の合金について、水素吸蔵・放出測定(PCT特性評価)を行う。表1-1~1-4中に1MPa加圧時の水素吸蔵量をH/Mとして、また、プラトー傾きBとして、上記関係式(A)[log(P0.7/P0.3)]/0.4の計算値を示す。
これらの表から明らかなとおり、発明例の合金は、そのプラトー傾きBが1.3以上3.0の範囲に入っていることがわかる。
【0164】
また、水素吸蔵・放出繰り返しによる合金の割れ性評価は、以下のとおりである。水素吸蔵合金塊を粉砕して、水素吸蔵合金の合金粒子とした。その後150μmのふるい上に残り、かつ1mm以下となるように水素吸蔵合金の合金粒子を粒度調整した。PCT(Pressure-Composition-Temperature)評価装置の測定ホルダーに合金粒子からなる水素吸蔵合金7gを充填、80℃で1時間真空排気(0.01MPa以下)を行った後、温度をキープして水素圧0.01~3MPaの範囲で水素吸蔵・放出測定(PCT特性評価)を行う。
この後、1時間真空排気(0.01MPa以下)を行い、3MPaまで水素ガスを導入して1時間保持して、水素吸蔵合金に水素をほぼフルに吸蔵させた後、1時間真空排気(0.01MPa以下)して水素を放出させる。これを3回繰り返す。
最後に1サイクル目と同様に水素圧0.01~3MPaの範囲で水素吸蔵・放出測定(PCT特性評価)を行う。この水素吸蔵・放出サイクルを5回行った後、水素吸蔵合金粉を取り出し、粒度分布測定を行った。その繰り返し水素吸蔵・放出後における微粉化された水素吸蔵合金を構成する合金粒子の体積平均粒径MVの値を表1-1~1-4に示す。これらの表に記載の通り、本発明に係る水素吸蔵合金の合金粒子は、平均粒径75μm以上の値を示している。
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
(セルの特性評価)
上記のようにして得た合金No.1~70にかかる評価用セルの評価試験は、以下の要領で行った。この際の評価温度はすべて40℃とした。結果を表2-1~表2-4にまとめて示す。
【0170】
(1)電極の放電容量
下記の手順で作用極の電極の放電容量の確認を行った。作用極の活物質あたり80mA/gの電流値で定電流充電を10時間行った後、作用極の活物質あたり40mA/gの電流値で定電流放電を行った。放電の終了条件は、作用極の電位を-0.5Vとした。上記の充放電を10回繰り返し、放電容量の最大値を、その作用極の電極の放電容量とした。
なお、10回の充放電により作用極の放電容量が飽和し、安定したことを確認している。測定した放電容量は、表1-2に示したNo.34のAB5合金の放電容量を基準容量とし、それに対する比率を下記関係式(2)で算出し、この比率が1.15より大きいものを、AB5合金より放電容量が大きく、優れていると評価した。
【0171】
【0172】
(2)サイクル寿命特性
上記(1)電極の放電容量で作用極の電極の放電容量が確認されたセルを用いて、下記の手順で作用極のサイクル寿命特性を求めた。上記(1)電極の放電容量で確認された作用極の電極の放電容量を、1時間で充電または放電を完了させる際に必要な電流値を1Cとしたとき、作用極の充電率が20~80%の範囲において、C/2の電流値で定電流充電および定電流放電を行うことを1サイクルとし、これを300サイクル繰り返して行い、300サイクル後の放電容量を測定し、下記関係式(3)で容量維持率を求めた。
【0173】
【数5】
サイクル寿命特性の評価は、表1-2に示したNo.34のAB
5合金の300サイクル後の容量維持率を基準容量維持率とし、それに対する比率を下記関係式(4)で算出し、この比率が1.15より大きいものをAB
5合金よりサイクル寿命特性が大きく、優れていると評価した。
【0174】
【0175】
(合金コスト)
合金コストは、表1-1~1-4に記載の成分組成の合金を純度99%の金属から溶解して製造する原料コストを相対評価した。No.34の合金(基準コスト)と比較して、10%以上安価な合金を◎、0~10%安価な合金を○、0を超え10%まで高額のものを△とし、10%以上高額な合金を×とした。結果を表2-1~2-4に示す。これらの表から明らかなとおり、特性面、コスト面を含めて、発明例の水素吸蔵合金は良好な値を示している。
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
表2-1~2-4から明らかなように、発明例のNo.1~33の合金はNo.34のAB5合金に対して、放電容量およびサイクル寿命特性の評価値がいずれも1.15以上とバランスよく優れた特性を有していることがわかる。これに対して、比較例のNo.34~70の合金は、いずれかの特性の評価値が1.15未満となっていることがわかり、電池特性のバランスの悪い水素吸蔵合金である。
【0181】
本発明は、耐久性向上に対して規定した合金の表面処理層の存在と合金そのものの特性を合わせて見出し、発明の完成に至っている。発明例は全て適正量のYを含有する合金であり、比較例はYの含有量が適正量範囲を外れた合金、あるいはYを含有しない合金であり、全てY2O3を外部添加したものである。
適正量範囲を外れたYを含有する合金は、当該合金そのものが水素吸蔵放出の影響を受けて割れやすくなっており、合金に耐久性をもたらす表面処理層を十分形成できない。また、これらの合金に加え、Yを含有しない合金は、外部添加のY2O3の効果で、その耐久性は向上することもあるが、要求される耐久性のレベルには到達しない。これは、合金の内部に適正量のYを含有する合金で形成される表面処理層とは異なるものが出来ているためと推測される。
【0182】
<実施例2>
発明例として、表1-1~1-2に示したNo.7、8、21、25の水素吸蔵合金について、所定の処理を行った後、粉末表面分析と細孔径分布の評価を行った。
【0183】
粉末表面分析は、透過型電子顕微鏡を用いて合金表面に形成された表面処理層を観察した。具体的には、No.7、8、21、25の試料に対し、所定の処理を行った水素吸蔵合金を、エポキシ樹脂に混合後120℃で30分間、エポキシ樹脂を硬化させ、樹脂包埋をした後、アルゴンビームを用いた薄片化処理により100nm以下の薄片状サンプルを得た。
薄片化処理には、日本電子製イオンスライサー(EM09100IS)を用いて、加速電圧6kVで数μmの細孔が薄片状サンプルに空くまで薄く研磨した後、加速電圧1.0kVで15分間、仕上げを行った。
【0184】
得られた薄片状サンプルについて、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM2100F)を用い、加速電圧200kVで合金表面に形成された表面処理層を観察した。また、同装置搭載のエネルギー分散型X線発光分光装置(日本電子製JED2300)を用いて、表面処理層に含まれる元素分析を実施した。
その結果、上記水素吸蔵合金の表面には合金粒子表面に密着した少なくとも一部にYを含有する酸化物あるいは水酸化物の層が存在していることを確認した。
さらに、No.7の水素吸蔵合金におけるこの表面処理層の厚さは220nmであり、水素吸蔵合金に含有されるY量の増加と共に表面処理層の厚さが薄くなることを確認した。
【0185】
一方、細孔径分布について下記の通りの評価を行った。前記所定の処理を行ったNo.7、8、21、25の水素吸蔵合金について、100℃で2時間真空乾燥した後、全自動ガス吸着量測定装置(AS1-MP、AntonPaar社)を用い、水素吸蔵合金の液体窒素温度(77.3K)における窒素の吸脱着等温線を測定した。吸脱着等温線における水素吸蔵合金の単位重量あたりの窒素吸着量は、標準状態の気体窒素の体積で表されるように算出した。全細孔容積は吸脱着等温線の相対圧(p/p0=0.99)のときの窒素吸着量をV[Ncm3/g]として、上記関係式(B)より算出した。
【0186】
さらに、吸脱着等温線を用いて、メソポア領域の細孔径分布はBJH法で解析し、ミクロポア~メソポア領域の細孔径分布はDFT法で解析し、平均細孔径を算出した。この結果、全細孔容積は0.0046cm3/g、平均細孔径は25.9nmであった。また、BET比表面積は0.702m2/gであった。No.8、21、25の水素吸蔵合金では、全細孔容積は0.0040~0.0125cm3/g、平均細孔径は10~35nmの間の値を取った。また、BET比表面積はいずれも0.790m2/g以上を示した。これらの測定結果は、水素吸蔵合金の表面に形成された、合金粒子表面に密着した少なくとも一部にYを含有する酸化物あるいは水酸化物の層、即ち表面処理層の細孔組織の特徴を示している。
【0187】
比較例として、表1-3に示したNo.43、48を用いたこと以外は、上記と同様の方法で比較例の水素吸蔵合金を得た。比較例の水素吸蔵合金の表面には、密着した少なくとも一部にYを含有する酸化物あるいは水酸化物の層は存在せず、表面処理層には500nmを超える部分が存在した。また、いずれの合金も本発明の範囲の全細孔容積、平均細孔径、BET比表面積の範囲外であった。
【0188】
(電池特性)
上記所定の処理を行った水素吸蔵合金を用いてSOC(State of Charge)60%に調整したニッケル水素電池について、25℃の条件下、1Cレートで5秒間放電させた。放電前後の電圧変化量及び放電時の電流値から、オームの法則に基づき、放電抵抗を算出した。
【0189】
放電容量を実施例1の方法に準じて確認した。C/3の電流値で定電流充電および定電流放電を行うことを1サイクル(終了電圧を1.0Vとした)とし、1800サイクルの充放電を行った。その後、1800サイクル後の放電容量を測定し、下記関係式(5)で容量維持率を求めた。
【0190】
【0191】
以上の放電抵抗及び容量維持率の結果を、表3に示す。
【0192】
【0193】
表3から明らかなように、発明例、つまり、No.7、8、21および25の合金から得た負極活物質は、耐久試験後の容量維持率が高く、同時に低い放電抵抗を示している。つまり、発明例の合金を用いた負極活物質は出力特性と耐久性を高い水準で両立していると言える。
【0194】
これらのサンプルにつき、耐久性を評価した後、同様に合金の表面状態を評価した。その結果、発明例では、耐久性を評価する前と同様の上記実施形態の表面状態が確認できた。一方、比較例では、上記実施形態の表面状態は確認できず、Yが適正量だけ合金内に含まれる場合と、YをY2O3として外部添加する場合とを比較すると、耐久性に及ぼすYの効果が異なることが言える。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明の水素吸蔵合金は、放電容量およびサイクル寿命特性のいずれも従来使用されていたAB5型の水素吸蔵合金より優れているので、ハイブリッド自動車やアイドリングストップ車用途のアルカリ蓄電池の負極材として好適であるばかりでなく、電気自動車用のアルカリ蓄電池にも好適に用いることができる
【符号の説明】
【0196】
1:正極
2:負極
3:セパレータ
4:筐体(電池ケース)
10:アルカリ蓄電池