(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-12-12
(45)【発行日】2025-12-22
(54)【発明の名称】網状構造体及びその製造方法、並びにβ-1,3グルカンビーズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 99/00 20060101AFI20251215BHJP
C08B 37/00 20060101ALI20251215BHJP
C08J 3/14 20060101ALI20251215BHJP
D01F 9/00 20060101ALI20251215BHJP
【FI】
C08J99/00 CEP
C08B37/00 C
C08J3/14
D01F9/00 Z
(21)【出願番号】P 2023566315
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2022044818
(87)【国際公開番号】W WO2023106276
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2024-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2021200614
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】芝上 基成
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/159714(WO,A1)
【文献】特開2012-127024(JP,A)
【文献】特開2014-231479(JP,A)
【文献】特開2021-088528(JP,A)
【文献】特開2017-179182(JP,A)
【文献】特開2019-006968(JP,A)
【文献】特開2014-037657(JP,A)
【文献】特開2014-095159(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116936(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 99/00
C08J 3/14
C08B 37/00
D01F 9/00
A61K 31/716
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-1,3-グルカンを含み平均繊維径が100nmを超え1000nm未満であるフィブリルが互いに繋がりつつ線状に延びて網目を区画している網目構造を含
み、
前記フィブリルは、以下の(1)~(2):
(1)各フィブリルは互いに絡み合っておらず、かつ束状に集合していない、
(2)フィブリル同士が互いに一部を共有しあって線状に延びている、
のいずれか又は両方を満たす、網状構造体。
【請求項2】
前記フィブリルが、一続きに繋がりつつ直線状又は曲線状に延びて網目を区画している、請求項1に記載の網状構造体。
【請求項3】
前記フィブリルが、分岐しながら線状に延びて網目を区画している、請求項1に記載の網状構造体。
【請求項4】
前記フィブリルが、前記分岐と分岐との間において他の前記フィブリルと分離されている、請求項3に記載の網状構造体。
【請求項5】
前記網目構造が、2以上の前記網目が連なって形成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の網状構造体。
【請求項6】
前記網目構造が、3以上の前記網目が互いに接して形成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の網状構造体。
【請求項7】
前記網目構造における前記フィブリルの端部の数が、走査電子顕微鏡によって2000倍で観察した1視野において10個以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の網状構造体。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項に記載の網状構造体の製造方法であり、
原料β-1,3-グルカン及び良溶媒を含むβ-1,3-グルカン溶液を、貧溶媒中に滴下してβ-1,3-グルカンビーズを得ることを含む、製造方法。
【請求項9】
β-1,3-グルカンビーズを解繊処理することをさらに含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
良溶媒が、非プロトン性溶媒及びイオン性液体から選ばれる1以上の溶媒を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
貧溶媒が、アルコールを含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
解繊処理が、貧溶媒中でせん断処理することを含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項13】
β-1,3-グルカンを含み平均繊維径が100nmを超え1000nm未満であるフィブリルが互いに繋がりつつ線状に延びて網目を区画している網目構造を含
み、
前記フィブリルは、以下の(1)~(2):
(1)各フィブリルは互いに絡み合っておらず、かつ束状に集合していない、
(2)フィブリル同士が互いに一部を共有しあって線状に延びている、
のいずれか又は両方を満たす、β-1,3-グルカンビーズ。
【請求項14】
原料β-1,3-グルカン及び良溶媒を含むβ-1,3-グルカン溶液を、貧溶媒中に滴下することを含む、β-1,3-グルカンビーズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網状構造体及びその製造方法、並びにβ-1,3グルカンビーズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷が小さい天然由来の繊維として、パラミロンに代表されるβ-1,3-グルカンを原料とする繊維が注目されている。パラミロンは、ミドリムシが産生する貯蔵多糖であり、グルコース約2,000個がβ-1,3結合でつながってできており、ミドリムシ細胞内では直径が数マイクロメートルの粒子として存在している。特許文献1には、パラミロン顆粒をせん断力によって繊維化して得られた繊維化パラミロンが提案されている。非特許文献1には、β-1,3-グルカンを水酸化ナトリウム水溶液中で一本鎖の状態(ランダムコイル状態)とした後に、水により水酸化ナトリウムの濃度を低下させてより安定な三重らせん構造を構築させてナノファイバーとする技術(希釈法)が記載されている。
【0003】
【0004】
【文献】Carbohydrate Polymers、2013年、第93巻、第499-505頁
【発明の概要】
【0005】
特許文献1の繊維化パラミロンは、複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態になっているとされている。また、複数の繊維状物が集合して網状になった網目状構造を有するとされている。非特許文献1のナノファイバーは、パラミロンが本来有する自己組織化能に基づく集合体である。溶液中に分散しているランダムコイル状のパラミロンが寄り集まってナノファイバーを形成するが、その繊維径は数十nm程度で止まるので、繊維径が100nmを超えるサブミクロンフィブリルを形成することは難しい。また各ナノファイバーには分岐構造は見られず、各ナノファイバーはその構造の一部を他のナノファイバーと共有することもないため、網目構造を形成していない。
【0006】
本発明の課題は、β-1,3グルカンを含むサブミクロンフィブリルによって形成されている新規な網状構造体及びその製造方法を提供することにある。本発明の別の課題は、β-1,3グルカンビーズ及びその製造を提供することにある。
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1]β-1,3-グルカンを含み平均繊維径が100nmを超え1000nm未満であるフィブリルが互いに繋がりつつ線状に延びて網目を区画している網目構造を含む、網状構造体。
[2]前記フィブリルが、一続きに繋がりつつ直線状又は曲線状に延びて網目を区画している、[1]に記載の網状構造体。
[3]前記フィブリルが、分岐しながら線状に延びて網目を区画している、[1]又は[2]に記載の網状構造体。
[4]前記フィブリルが、前記分岐と分岐との間において他の前記フィブリルと分離されている、[3]に記載の網状構造体。
[5]前記網目構造が、2以上の前記網目が連なって形成されている、[1]から[4]のいずれかに記載の網状構造体。
[6]前記網目構造が、3以上の前記網目が互いに接して形成されている、[1]から[5]のいずれかに記載の網状構造体。
[7]前記網目構造における前記フィブリルの端部の数が、走査電子顕微鏡によって2000倍で観察した1視野において10個以下である、[1]から[6]のいずれかに記載の網状構造体。
「8][1]から[7]のいずれかに記載の網状構造体の製造方法であり、
原料β-1,3-グルカン及び良溶媒を含むβ-1,3-グルカン溶液を、貧溶媒中に滴下してβ-1,3-グルカンビーズを得ることを含む、製造方法。
[9]β-1,3-グルカンビーズを解繊処理することをさらに含む、[8]に記載の製造方法。
[10]良溶媒が、非プロトン性溶媒及びイオン性液体から選ばれる1以上の溶媒を含む、[8]又は[9]に記載の製造方法。
[11]貧溶媒が、アルコールを含む、[8]から[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]解繊処理が、貧溶媒中でせん断処理することを含む、[8]から[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]β-1,3-グルカンを含み平均繊維径が100nmを超え1000nm未満であるフィブリルが互いに繋がりつつ線状に延びて網目を区画している網目構造を含む、β-1,3-グルカンビーズ。
[14]原料β-1,3-グルカン及び良溶媒を含むβ-1,3-グルカン溶液を、貧溶媒中に滴下することを含む、β-1,3-グルカンビーズの製造方法。
【0008】
本発明によれば、β-1,3グルカンを含むサブミクロンフィブリルによって形成されている新規な網状構造体及びその製造方法を提供することができる。本発明によれば、β-1,3グルカンビーズ及びその製造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】パラミロン粒子からスタートしてサブミクロンフィブリルによる網目構造が形成される様子を示す模式図である。
【
図2】β-1,3-グルカンビーズの一例を示す写真である。(a)は家庭用デジタルカメラによる写真であり、(b)は50倍の走査電子顕微鏡写真である。
【
図3】β-1,3-グルカンビーズの断面の走査電子顕微鏡写真である。(a)は50倍の写真であり、(b)は2000倍の写真であり、(c)は3000倍の写真であり、(d)は5000倍の写真であり、(e)は10000倍の写真である。
【
図4】β-1,3-グルカンビーズの
図3の領域よりも中央側に位置する領域の断面の2000倍の走査電子顕微鏡写真である。
【
図5】β-1,3-グルカンビーズを解繊処理した後に得られた網状構造体の一例の走査電子顕微鏡写真である。(a)は100倍の写真であり、(b)は1000倍の写真であり、(c)は2000倍の写真である。
【
図6】実施例1で得られた網状構造体の500倍の走査電子顕微鏡写真である。(a)は、パラミロンビーズをエタノール中に1時間浸漬した後20分間解繊処理して得られた網状構造体の写真であり、(b)は、パラミロンビーズをエタノール中に3時間浸漬した後10分間解繊処理して得られた網状構造体の写真である。
【
図7】実施例2で得られた網状構造体の500倍の走査電子顕微鏡写真である。
【
図8】実施例3で得られた網状構造体の500倍の走査電子顕微鏡写真である。
【
図9】実施例4で得られた網状構造体の500倍の走査電子顕微鏡写真である。
【
図10】比較例1で得られたものの2000倍の走査電子顕微鏡写真である。
【
図11】比較例2で得られたものの500倍の走査電子顕微鏡写真である。
【
図12】比較例3で得られたものの500倍の走査電子顕微鏡写真である。
【
図13】ポリ乳酸-パラミロンサブミクロンフィブリルネットワーク複合体の貯蔵弾性率及び損失弾性率の周波数依存性に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。
【0011】
[網状構造体]
本実施形態に係る網状構造体は、β-1,3-グルカンを含み平均繊維径が100nmを超え1000nm未満であるフィブリル(本明細書において、「サブミクロンフィブリル」、又は単に「フィブリル」ともいう)が、互いに繋がりつつ線状に延びて網目を区画している網目構造(以下、「ネットワーク」ともいう)を含む。このような特徴を有する網状構造体はこれまで知られていない。
「網状構造体」は、少なくとも、表面及び/又は内部の一部に、走査電子顕微鏡によって100~10000倍の少なくとも1以上の倍率で観察可能な網目構造を有する物品のことを意味している。
「網目構造」は、網目が2以上集まって構成されている。
「網目」は、走査電子顕微鏡によって100~10000倍の少なくとも1以上の倍率で観察したときに、フィブリルと、フィブリルに取り囲まれた孔と、で構成されている。走査電子顕微鏡写真において、フィブリルは線状の領域として観察され、孔は暗い影として観察される。網目の孔の形状は、限定されず、円形状、細長い円形状、まゆ形状、多角形状において角が丸みを帯びている形状等を含み得る。
「繋がりつつ線状に延びて」は、フィブリル同士が互いに一部を共有しあって線状に延びていることを意味している。フィブリルが寄り集まったり絡まりあったりして物理的に接しているだけの状態は、フィブリル同士は繋がっていない。
「区画している」は、フィブリルが領域を区切っていることを意味している。隣り合う網目は、少なくとも一部において1以上のフィブリルを共有している。
【0012】
フィブリルが互いに繋がりつつ線状に延びて網目を区画している網目構造は、水中又は樹脂中に分散させた場合でも崩れにくい強固なネットワークであることから、優れた強度を有する網状構造体とすることができる。また、フィブリルは既にネットワークを形成しているので、さらに凝集することがなく、水中又は樹脂中に分散させた場合に凝集しにくい。その結果、水中又は樹脂中における分散性が優れている網状構造体とすることができる。
【0013】
これに対して、パラミロン粒子は、繊維径が4nm程度の独立した繊維状物が平行に配列してできていることが知られており(例えば、Amer. J. Bot., 74(6), 877 (1987)等)、パラミロン粒子内では繊維状物は密なネットワークを構築しているわけではない。そのため、従来のトップダウン法により製造された、繊維状物同士が単に物理的に絡み合っている状態の繊維状パラミロンは、例えば水溶液中での分散した状態ではその絡み合いは絶えず変化しており、外力が加えられた場合、外力に対する繊維状物の機械的安定性は低い。
【0014】
(フィブリル)
フィブリルは、β-1,3-グルカンを含み平均繊維径が100nmを超え1000nm未満である。平均繊維径が100nmを超え1000nm未満であるフィブリルは、サブミクロンフィブリルとも呼ばれる。フィブリルは、β-1,3-グルカンを繊維状化したものであることが好ましい。
【0015】
β-1,3-グルカンは、グルコースがβ-1,3結合で連結された構造を有する多糖を意味している。すなわち、β-1,3-グルカンは、グルコースの1位と別のグルコースの3位とがβ-1,3-グルコシド結合を形成している構造を有している。「β-1,3-グルカン」との用語には、β-1,3-グルカン及びその誘導体を含む。一実施形態において、誘導体は、β-1,3-グルカンが有する1以上の水酸基の水素原子が他の基で置換されたものであり得る。β-1,3-グルカンは、主に藻類や菌類などにより生産される。
【0016】
一実施形態において、β-1,3-グルカンは、以下の式(1):
で示される構造を有することが好ましい。
【0017】
化学式(1)中、nは60~3,000の整数を表す。nは500~2,800が好ましく、700~2,500がより好ましく、800~2,200がさらに好ましく、1,000~2,000が特に好ましい。なお、ユーグレナが合成及び蓄積するパラミロンは、通常1500~2000個のグルコースがβ-1,3結合しているβ-1,3-グルカンである。
一実施形態において、β-1,3-グルカンは、パラミロンを含むことが好ましい。一実施形態において、β-1,3-グルカンは、パラミロンである。一実施形態において、β-1,3-グルカンは、パラミロンと、パラミロン以外のβ-1,3-グルカンを含むことができる。
【0018】
フィブリルの平均繊維径は、100nmを超え1000nm未満であり、好ましくは200~990nmであり、より好ましくは300~950nmであり、さらに好ましくは400~950nmであり、よりさらに好ましくは430~900nmであり、特に好ましくは430~700nmである。
平均繊維径は、走査電子顕微鏡で2000倍の視野において、任意の20本のフィブリルについて3か所ずつ繊維幅を計測し、その平均値とする。なお、本明細書において、網目構造における一つの分岐ともう一つの分岐との間に延びるフィブリルを、1本のフィブリルと数える。
【0019】
非特許文献1のような従来のボトムアップ法で製造されたナノファイバーは、ランダムコイル状のβ-1,3-グルカンの3分子が水中で三重らせん構造を形成し、さらにそれらが束状に自己集合して形成されたものであり、その太さは数nm~数十nm程度である。本実施形態に係る網状構造体においては、ナノファイバーがさらに集合することで従来のナノファイバーよりも太いサブミクロンフィブリルとなり、さらに、長さ方向に延びるように互いに繋がることによって網目構造を形成している。
【0020】
特許文献1のような従来のトップダウン法で製造された繊維化パラミロンは、直径数マイクロメートルのパラミロン粒子を機械的せん断により解繊することにより得られているので、一つ一つの繊維状物の長さはパラミロン粒子を構成する天然状態の繊維状物の長さを超えるものではない。本発明者が、パラミロン粒子を溶媒(溶媒名:ジメチルスルホキシド(DMSO))に浸すことで解繊して得られた、一本鎖状態のナノファイバーの走査プローブ顕微鏡写真を撮影して観察したところ、その長さはおおよそ3μm程度であり、幅は約40nmであった。また、トップダウン法で製造された繊維化パラミロンは、せん断力により繊維化されたものであるので、ボトムアップ法における自己組織化のような、各繊維状物が互いの一部を共有するプロセスを経ていない。すなわち、トップダウン法で製造された繊維化パラミロンは、フィブリルが互いに繋がることにより線状に延びて網目構造を形成することはできない。
特許文献1のような従来のトップダウン法で製造された繊維化パラミロンは、複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態になっているだけであるので、繊維状物同士は繋がっていない、顕微鏡で観察したときに網目構造に切れ目(繊維状物の端部)が多く存在する、各繊維状物間の隙間が少ない等の特徴がある。
【0021】
一実施形態において、フィブリルは、一続きに繋がりつつ直線状又は曲線状に延びて網目を区画していることが好ましい。一実施形態において、フィブリルは、一連となって網目構造を形成していることが好ましい。「一連となって網目構造を形成している」は、フィブリルが連続的に配列して一つの網目構造を形成していることを意味している。
【0022】
一実施形態において、走査電子顕微鏡によって500倍(好ましくは2000倍)で観察したときに各フィブリル間の境界が観察されないことが好ましい。
【0023】
一実施形態において、フィブリルは、分岐しながら線状に延びて網目を区画していることが好ましい。この場合、網目構造は2以上の分岐を有している。分岐しながら線状に延びていることにより、2以上の隣接する網目を区画しやすい。
この実施形態において、フィブリルは、分岐と分岐との間において他のフィブリルと分離されていることが好ましい。フィブリルが分岐と分岐との間において他のフィブリルと分離されている場合、フィブリル同士は絡まりあっていない。隣り合う分岐間の直線距離は、限定されず、好ましくは0.5~100μmであり、より好ましくは0.5~100μmであり、より好ましくは0.5~50μmであり、さらに好ましくは2~20μmである。
【0024】
一実施形態において、フィブリルは、互いに絡み合っていないことが好ましい。一実施形態において、フィブリルは、走査電子顕微鏡によって500倍(より好ましくは2000倍)で観察したときに分岐と分岐との間において1本の繊維状物として観察されることが好ましい。1本の繊維状物として観察される場合、フィブリル同士は絡まりあっていない。
一実施形態において、フィブリルは、他のフィブリルとの間に幅方向において空間を形成しながら延びていてもよい。他のフィブリルとの間に幅方向において空間を形成している場合、フィブリル同士は絡まりあっていない。空間は、環状領域であってよく、不定形領域であってよく、矩形領域であってもよい。
一実施形態において、フィブリルは、切れ目なく繋がって網目構造を形成していることが好ましい。
【0025】
(網目構造)
網目構造は、フィブリルによって区画される2以上の網目によって形成されている。網目構造は、フィブリルによって区画される網目が多数寄り集まった状態であることが好ましい。網目が多数寄り集まっている場合は、より強固なネットワークを有する網状構造体とすることができる。フィブリルによって区画される網目が多数寄り集まった状態の網目構造として、以下のような実施形態が挙げられる:
すなわち、一実施形態において、網目構造は、フィブリルによって区画される2以上の網目が連なって形成されていることが好ましい。「2以上の網目が連なって形成されている」とは、ここでは隣接する2以上の網目が連続的に配列して一つの網目構造が形成されていることを意味する。一実施形態において、網目構造は、2以上の異なる大きさの網目が隣接して配置されていてもよい。
一実施形態において、網目構造は、3以上の網目が互いに接していることが好ましい。
一実施形態において、網目構造は、網目が密集した構造を有していることが好ましい。「密集した」は、網目(網目の孔)が数多寄り集まっていることを意味している。
一実施形態において、網目は、平面方向と、平面方向に対してある角度で交わる1以上の方向と、に延びて配置されていることが好ましい。平面方向と、平面方向に対してある角度で交わる1以上の方向と、に延びて配置されている網目により構成される網目構造は、四方八方に網目が多数寄り集まっている網目構造であるといえる。
【0026】
特許文献1のような従来のトップダウン法で製造された繊維化パラミロンは、複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態になっており、2以上の隣接した網目を有する網目構造を有しない。
非特許文献1のような従来のボトムアップ法で製造されたナノファイバーは、各ナノファイバーが束となって集合したり絡まり合ったりしているが、2以上の隣接した網目を有する網目構造を有しない。
【0027】
網目が多数寄り集まった網目構造は、網目の孔の割合が多い。一実施形態において、網目構造における網目の孔の割合が、走査電子顕微鏡における64マイクロメートル×48マイクロメートルの視野において画像処理ソフトで二値化して得られる面積の割合として、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。
一方、後述するβ-1,3-グルカンビーズのように、球状に集合している網状構造体は、表面に近い領域において、網目の孔は押しつぶされていることがある。一実施形態において、網目構造における網目の孔の割合が、走査電子顕微鏡における64マイクロメートル×48マイクロメートルの視野において画像処理ソフトで二値化して得られる面積の割合として、50%以下であり得る。
【0028】
一実施形態において、網目の孔の大きさは、内径の最大距離として、0.5~100μmであることが好ましく、0.5~50μmであることがより好ましく、0.5~20μmであることがさらに好ましい。一実施形態において、1μm以下、より好ましくは0.5μm~1μm程度の小さい孔の割合が多いことがさらに好ましい。小さい孔が多い網目構造を有することにより、より強固なネットワーク(網目構造)を有する網状構造体とすることができる。
【0029】
一実施形態において、網目構造におけるフィブリルの端部の数が、走査電子顕微鏡によって2000倍で観察した1視野において、好ましくは10個以下であり、より好ましくは8個以下であり、さらに好ましくは5個以下であり、特に好ましくは0個である。フィブリルの端部の数が10個以下である場合は、フィブリル同士の切れ目の数が少なく、より強固なネットワーク(網目構造)を有する網状構造体とすることができる。
【0030】
(網状構造体)
網状構造体は、少なくとも、表面及び/又は内部の一部に、走査電子顕微鏡によって100~10000倍の少なくとも1以上の倍率で観察可能な網目構造を有する物品である。網状構造体は、上記した網目構造を1以上含む。網状構造体は、上記した網目構造の他に、網目を有していない領域を有していてもよく、フィブリル同士が隙間なく密集した領域や、フィブリル同士が絡まり合っている領域などを有していてもよい。
網状構造体の大きさは、限定されず、用途に応じた大きさとすることができる。一実施形態において、網状構造体の形状は、ビーズ状、粉末状やシート状(膜状)、またはそれらが混在した形状などの種々の形状を取り得る。例えば、網状構造体は、平均粒径が1~3mm、又は0.5~5mmの粉末状、球状粒子(ビーズ)及び/又はその破断物を含み得る。平均粒径は、走査電子顕微鏡で2000倍の視野において、任意の10個の網状構造体について直径(最大の直線距離)を計測し、その平均値とする。一実施形態において、網状構造体は、非限定的に、100~1000mm×100~1000mmの膜状であり得る。
【0031】
(用途)
本実施形態に係る網状構造体は、凝集しにくく水中又は樹脂中での分散性に優れているので、例えば、樹脂用フィラー(補強材)として好ましく用いることができる。
本実施形態に係る網状構造体は、フィブリル同士が繋がっているので、フィブリル同士が互いに一部を共有して結合しており、機械的強度の高い高密度・高架橋ネットワークとなっている。機械的強度に優れているので、機能性分離膜やその他の膜材料として好ましく用いることができる。
本実施形態に係る網状構造体は、天然成分率が100%のサブミクロンフィブリルネットワークであるので、生分解性のフィラーとして用いることができる。さらに、水中でも強固なネットワークを維持することができるので、耐水性も備えている。よって、耐水性網状構造体として用いることができる。
【0032】
[網状構造体の製造方法]
本実施形態に係る網状構造体の製造方法においては、パラミロン粒子等の原料β-1,3-グルカンを構成する天然型β-1,3-グルカンナノファイバーをそのまま繊維の構成成分として利用するのではなく、これを良溶媒にいったん溶解してコンホメーションがランダムコイルであるβ-1,3-グルカン溶液としたものを貧溶媒に滴下することにより、ランダムコイル状のβ-1,3-グルカンが高濃度の状態で球状空間に収容されたビーズを調製し、ビーズ内で網状構造を形成させる。
【0033】
すなわち、本実施形態に係る網状構造体の製造方法は、
(工程1)原料β-1,3-グルカンと、非プロトン性溶媒及びイオン性液体から選ばれる1以上の溶媒と、を含むβ-1,3-グルカン溶液(以下、単に「β-1,3-グルカン溶液」ともいう)を、貧溶媒中に滴下してβ-1,3-グルカンビーズを得ること
を含む。
【0034】
(溶解工程)
本実施形態に係る網状構造体の製造方法は、工程1に先立って、必要に応じて、β-1,3-グルカン溶液を準備する工程を有していてもよい。β-1,3-グルカン溶液は、原料β-1,3-グルカンを、良溶媒中に溶解させることにより得ることができる。「良溶媒」は、原料β-1,3-グルカンを溶解することができる溶媒を意味する。
良溶媒としては、非プロトン性溶媒、イオン性液体、及び深共晶溶媒等が挙げられる。良溶媒は、これらから選ばれる1以上を含むことが好ましく、非プロトン性溶媒及びイオン性液体から選ばれる1以上の溶媒を含むことがより好ましく、非プロトン性溶媒を含むことがさらに好ましい。
非プロトン性溶媒、イオン性液体及び深共晶溶媒は、原料β-1,3-グルカンをランダムコイル状の分子鎖に解繊して溶解することができ、かつ、その後に貧溶媒中に滴下することでサブミクロンフィブリルによる強固なネットワークを形成することができる。これに対して、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液を用いる場合は、原料β-1,3-グルカンを溶解することはできるものの、後述する比較例に示すように、その後に貧溶媒中に滴下したとしてもサブミクロンフィブリルによる強固なネットワークを形成することができない。
【0035】
一実施形態において、原料β-1,3-グルカンは、以下の式(1):
で示される構造を有することが好ましい。
化学式(1)中、nは60~3,000の整数を表す。nは500~2,800が好ましく、700~2,500がより好ましく、800~2,200がさらに好ましく、1,000~2,000が特に好ましい。
【0036】
原料β-1,3-グルカンは、環境負荷低減の点から、生物由来のものが好ましく、植物由来のものがより好ましい。中でも、細胞内でβ-1,3-グルカンを合成する微細藻類から分離したβ-1,3-グルカンを原料として用いることが好ましい。微細藻類としては、ユーグレナ(ユーグレナ植物門に属する微細藻類)が好ましい。ユーグレナは、培養が容易であり、成長サイクルも早いことに加えて、パラミロン粒子を細胞内に大量に蓄積するためである。ユーグレナが合成して蓄積するパラミロンは、通常1500~2000個のグルコースがβ-1,3結合してなるβ-1,3-グルカンである。パラミロン等のβ-1,3-グルカンの微細藻類からの分離は、常法により行うことができる。
一実施形態において、β-1,3-グルカンは、パラミロンを含むことが好ましい。一実施形態において、β-1,3-グルカンは、パラミロンである。一実施形態において、β-1,3-グルカンは、パラミロンと、パラミロン以外のβ-1,3-グルカンを含むことができる。
【0037】
非プロトン性溶媒としては、例えば、アセトン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。
イオン液体としては、正電荷の化合物と負電荷の化合物との組み合わせによる公知のイオン液体が挙げられ、その一例として、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、N,N-ジエチル-N-(2-メトキシエチル)-N-メチルアンモニウム 2-メトキシアセテート等が挙げられる。
深共晶溶媒としては、例えば、コリンクロリド-塩化亜鉛等が挙げられる。
一実施形態において、良溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含むことが好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)と他の非プロトン性溶媒との混合溶媒を用いることもできる。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)とメタノールとの混合溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)と水との混合溶媒を用いることもできる。
一実施形態において、良溶媒がN,N-ジメチルアセトアミドを含む場合は、N,N-ジメチルアセトアミドと塩化リチウム(無機塩)との混合溶媒を用いることが好ましい。
【0038】
原料β-1,3-グルカンを良溶媒中に溶解させる方法は、限定されず、例えば、原料β-1,3-グルカンを良溶媒中に入れ、必要に応じてマグネチックスターラー等を用いて、10~60℃、好ましくは20~30℃で、1~72時間、好ましくは10~24時間攪拌することで溶解させることができる。
β-1,3-グルカン溶液中の原料β-1,3-グルカンの濃度は、好ましくは1~12重量%であり、より好ましくは4~10重量%である。
【0039】
(工程1:β-1,3-グルカンビーズ作製工程)
工程1では、β-1,3-グルカンと非プロトン性溶媒及びイオン性液体から選ばれる1以上とを含むβ-1,3-グルカン溶液を貧溶媒中に滴下してβ-1,3-グルカンビーズを得る。β-1,3-グルカン溶液を貧溶媒中に滴下すると、速やかに、β-1,3-グルカンを含む球状の粒子(本明細書において、「β-1,3-グルカンビーズ」ともいう)が形成される。
【0040】
「貧溶媒」は、ここではβ-1,3-グルカンを溶解しない溶媒を意味している。貧溶媒としては、水;及びメタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール;クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒;酢酸エチル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ピリジン、アセトン、DMF、石油エーテル、トルエン等が挙げられる。一実施形態において、貧溶媒は、アルコールを含むことが好ましく、エタノールを含むことがより好ましい。一実施形態において、貧溶媒は、水とアルコールとの混合溶媒を用いることができる。一実施形態において、貧溶媒は、異なる種類のアルコールの混合溶媒(例えばエタノールとメタノールとの混合溶媒)を用いることができる。
【0041】
β-1,3-グルカンビーズの作製工程は、好ましくは貧溶媒を撹拌しながら、4~60℃で行うことが好ましく、10~40℃で行うことがより好ましく、20~30℃で行うことがさらに好ましい。
β-1,3-グルカン溶液の総滴下量は、限定されず、例えば貧溶媒50mL当たり0.01~10gとすることができる。
液滴の大きさは、限定されず、得られるβ-1,3-グルカンビーズに求められる大きさに応じて、使用するピペットやノズル等の器具の口の大きさによって決めることができる。
【0042】
一実施形態において、β-1,3-グルカンビーズを貧溶媒中に浸漬することを含むことが好ましい。例えば、β-1,3-グルカン溶液を貧溶媒中に滴下した後、好ましくは貧溶媒を撹拌した状態で、得られたβ-1,3-グルカンビーズを貧溶媒中に浸漬したままにすることが好ましい。β-1,3-グルカンビーズを貧溶媒中に浸漬することで、貧溶媒をβ-1,3-グルカンビーズのより内部まで容易に浸透させることができ、より強固なネットワークを形成することができる。
【0043】
β-1,3-グルカンビーズを貧溶媒中に浸漬する時間は、好ましくは0.1~72時間であり、より好ましくは0.5~10時間であり、さらに好ましくは1~3時間である。
【0044】
図1は、原料β-1,3-グルカンとしてパラミロン粒子を用いた場合の、サブミクロンフィブリルによるネットワークが形成される様子を示す模式図である。
図1に示すように、β-1,3-グルカン溶液中では、ランダムコイル状のパラミロンが形成されている。このβ-1,3-グルカン溶液を貧溶媒中に滴下することで、球状の粒子(ビーズ)が形成される。ビーズ中には、ランダムコイル状のβ-1,3-グルカンが高濃度で収容されている。ビーズ中の良溶媒は、徐々に貧溶媒に置換され、内包されたランダムコイル状のβ-1,3-グルカンが貧溶媒と徐々に接触する。これにより、β-1,3-グルカンは自己組織化能を発現して繊維化する。ビーズ内にはランダムコイル状のβ-1,3-グルカンが高濃度の状態で収容されているので、非特許文献1に記載の直径20ナノメートルの従来のナノファイバーよりも太い、サブミクロンフィブリルが形成され、かつ複数のサブミクロンフィブリルが互いに構成部位を共有しながら一連となって切れ目の少ない高密度かつ高架橋な球状のネットワーク(網目構造)が形成される。
【0045】
工程1において形成されるβ-1,3-グルカンビーズの大きさは、β-1,3-グルカンが良溶媒中に溶解した溶液を貧溶媒中に滴下する際の液滴の大きさによって、種々の大きさに調整することができる。例えば、β-1,3-グルカンビーズの大きさは、ピペットやノズルの口の大きさによって、平均粒径が10μm~10mmとすることができ、0.5~5mm、又は1~3mmとすることができる。さらに大きい注ぎ口の機器を使用することで、センチメートル単位の直径を有するビーズを作製することもできる。ビーズの大きさを調整することで、得られる網状構造体の大きさを調整することができる。平均粒径は、走査電子顕微鏡で2000倍の視野において、任意の10個について直径(最大直線距離)を計測し、その平均値とする。
【0046】
図2に、パラミロン粒子を用いて得られたβ-1,3-グルカンビーズの走査電子顕微鏡写真を示す。
図2(b)は、
図2(a)中の一粒子の拡大写真である。
図2(a),(b)に示すように、β-1,3-グルカンビーズは、平面視において丸みを帯びており、略円形状である。
図2に示すβ-1,3-グルカンビーズの直径は1ミリメートル程度であり、直径数マイクロのパラミロン粒子と比較しておおよそ10
7倍大きい。これにより、構築される高密度かつ高架橋ネットワーク(網目構造)の大きさもセンチメートルオーダーとすることができる。
【0047】
図3,4に、パラミロン粒子を用いて得られたβ-1,3-グルカンビーズの断面の走査電子顕微鏡写真を示す。
図3,4は、パラミロン粒子を用いて得られたβ-1,3-グルカンビーズをナイフで割断した後、液体窒素で急速凍結して走査電子顕微鏡で観察した写真である。
図3(a)~(e)は、同じ粒子について異なる拡大率で観察した写真である。
図4は、β-1,3-グルカンビーズの
図3とは異なる領域においてサブミクロンフィブリルのネットワークの形成状況を観察した写真である。
【0048】
図3(a)~(e)に示すように、β-1,3-グルカンビーズの内部では、フィブリルが形成されていると共に、フィブリル同士が結合したネットワークが形成されている。つまり、β-1,3-グルカンビーズは、球形状に集合している網状構造体である。
図3(b)~(d)に示すように、粒子の表面においてもフィブリルのネットワークが形成されている。これらの結果から、β-1,3-グルカンビーズは内部及び表面を含む全領域に亘ってフィブリル化が進行し、高密度かつ高架橋なネットワークが形成されていることが分かった。
【0049】
図4に示すように、β-1,3-グルカンビーズ内には、フィブリルによって区画される網目が密集しており、高密度かつ高架橋なネットワークが形成されている。
【0050】
(工程2:解繊処理工程)
必要に応じて、上記工程1に続き、β-1,3-グルカンビーズを解繊処理することができる。解繊処理することより、β-1,3-グルカンビーズ中に構築された高密度かつサブミクロンファイバーネットワークが解繊され、比較的大きな網目が表面に露出した網状構造体を得ることができる。
【0051】
解繊処理は、例えば、β-1,3-グルカンビーズをせん断力により解繊することが挙げられ、貧溶媒中でせん断処理することにより行うことが好ましい。貧溶媒については、上記のとおりである。工程1に引き続き工程2を行う場合は、工程1で用いた貧溶媒をそのまま用いることができる。
せん断処理は、限定されず、公知の機器を使用した公知の方法によって行うことができ、例えば、ホモジナイズ処理;ウォータージェット法、ボールミル法、グラインダー法などの粉砕・粉末化処理;等の、機械的せん断処理とすることができる。
一実施形態において、解繊処理は、β-1,3-グルカンビーズを水中でホモジナイズ処理することを含むことが好ましい。ホモジナイズ処理は、ホモジナイザー等の公知の機器を使用して行うことができる。
【0052】
解繊処理温度は、好ましくは4~40℃である。解繊処理時間は、好ましくは1~60分であり、より好ましくは3~30分であり、さらに好ましくは5~20分である。
【0053】
図5に、解繊処理後に得られた網状構造体の走査電子顕微鏡写真を示す。この網状構造体は、β-1,3-グルカン溶液を貧溶媒中に滴下した後、撹拌しながら3時間浸漬し(工程1)、水中で20分間ホモジナイズ処理して得られたものである。
図5(a)~(c)は、倍率がそれぞれ、100倍、1000倍、又は2000倍の写真である。
図5の右下に記載されているスケールは、
図5(a)は500μmであり、
図5(b)は50.0μmであり、
図5(c)は20.0μmである。
【0054】
図5に示す網状構造体は、平均繊維径が100nmを超え1000nm未満であるフィブリル(サブミクロンフィブリル)が互いに繋がりつつ線状に延びて2以上の隣接する網目を区画することにより網目構造を形成している。各フィブリルは一連となって網目構造を形成している。各フィブリルは互いに絡み合っておらず、束状に集合している様子も見られない。フィブリルは、他のフィブリルと一部を共有して繋がっている。ほぼすべてのフィブリルは、他のフィブリルと連結している。フィブリルの構成部位の共有により構築された網目が至る所に見られる。
図5に示す網目構造は、1以上のフィブリルにそれぞれ区画された2以上の隣接した網目を有している。網目構造は、ハチの巣状に広がっている。網目構造は、大小数多の網目の孔が連なって形成されている。網目構造は、孔の大きさが0.5μm~20μm程度の小さい網目が多く存在している。
図5(c)に示す網目構造における網目の孔の割合は、走査電子顕微鏡における64マイクロメートル×48マイクロメートルの視野において画像処理ソフトで二値化して得られる面積の割合として90%以上である。
図5(c)に示す網目構造の切れ目の数は、走査電子顕微鏡によって2000倍で観察した1視野において10個以下である。
このような構造的特徴は、ネットワークの機械的強度の向上に貢献するものであり、従来技術であるパラミロン粒子の機械的せん断により得られる繊維状物には見られない特徴である。さらには強固なネットワークを構築しているため、サブミクロンフィブリル同士の凝集も回避できる。
【0055】
(その他の工程)
本実施形態に係る網状構造体の製造方法は、必要に応じて、工程2の後に、公知の方法による、洗浄工程、乾燥工程、化学変性工程等を有していてよい。
【0056】
[β-1,3-グルカンビーズ]
本実施形態に係るβ-1,3-グルカンビーズは、β-1,3-グルカンを含み平均繊維径が100nmを超え1000nm未満であるフィブリルが互いに繋がりつつ線状に延びて網目を区画している網目構造を含む。「β-1,3-グルカンビーズ」は、β-1,3-グルカンを含む球状の粒子を意味する。「球状」とは、平面視が丸みを帯びていることを意味している。一実施形態において、一つのβ-1,3-グルカンビーズをその中心を通るように割断した面が、どの角度から割断した場合においても略円であることが好ましい。一実施形態において、β-1,3-グルカンビーズは、球形状に集合している網状構造体である。
【0057】
上記したように、
図2(a),(b)に示すβ-1,3-グルカンビーズは、平面視において丸みを帯びており、略円形状である。
β-1,3-グルカンビーズの内部の網目構造の様子については、
図3,4及び上記のとおりである。β-1,3-グルカンについての記載及びβ-1,3-グルカンビーズについての他の記載についても、上記のとおりである。
【0058】
β-1,3-グルカンビーズの平均粒径は、限定されず、製造時に使用するピペットやノズル等の器具の口の大きさによって調整することができる。例えば、β-1,3-グルカンビーズの平均粒径は、1~3mm、又は0.5~5mmであり得る。一実施形態において、β-1,3-グルカンビーズの平均粒径は、10μm~10mmであり得る。平均粒径は、走査電子顕微鏡で2000倍の視野において、任意の10個について直径(最大直線距離)を計測し、その平均値とする。
【0059】
[β-1,3-グルカンビーズの製造方法]
本実施形態に係るβ-1,3-グルカンビーズの製造方法は、β-1,3-グルカンと、非プロトン性溶媒及びイオン性液体から選ばれる1以上の溶媒と、を含むβ-1,3-グルカン溶液を、貧溶媒中に滴下することを含む。この詳細は、上記網状構造体の製造方法における工程1(β-1,3-グルカンビーズ作製工程)に記載のとおりである。
【0060】
本実施形態に係るβ-1,3-グルカンビーズの製造方法は、β-1,3-グルカン溶液を貧溶媒中に滴下することに先立って、必要に応じて、原料β-1,3-グルカンを、非プロトン性溶媒及びイオン性液体から選ばれる1以上を含む溶媒中に溶解させる工程を有していてもよい。その詳細は、上記網状構造体の製造方法における溶解工程に記載のとおりである。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]パラミロンドープ(1)(1.0g/DMSO10mL)
ユーグレナグラシリス(NIES-48、国立環境研究所より分譲)をKoren-Hutner培地(pH3.5)で28℃で4日間培養したのち、得られたユーグレナ細胞を遠心分離し、凍結乾燥した。得られた乾燥粉末を0.25mol/L水酸化ナトリウム水溶液に分散し、室温にて2.5時間撹拌した。沈殿した白色固体を水で繰り返し洗浄し、パラミロン粒子を得た。パラミロン粒子は凍結乾燥法で乾燥粉末とした。13C-NMR測定(Bruker AVANCE 500)により高純度のパラミロンであることを確認した。
【0063】
上記で得られた原料パラミロン粒子1.00gをDMSO10mLに分散し、スターラーバーを用いた撹拌で溶解させることにより、パラミロンドープ(1)(ランダムコイル状のパラミロンを含む均一溶液、パラミロン濃度10重量%)を調製した(溶解工程)。
パラミロンドープ(1)(1.38g)をエタノール50mLに滴下し、パラミロンビーズを生じさせた(工程1)。そのまま撹拌し、1時間及び3時間後にそれぞれパラミロンビーズ約80mg(湿潤状態の重量)を取り出し、Milli-Q水10mLに分散してホモジナイザー(型番AHG-160A、シフトジェネレーター HT1008、回転数13500rpm、アズワン)で室温にてホモジナイズ処理を行った(工程2)。1時間後に取り出したパラミロンビーズについては、ホモジナイズ処理を20分間行い、3時間に取り出したパラミロンビーズについてはホモジナイズ処理を10分間行った。
【0064】
ホモジナイズ処理後の分散液をそれぞれ100μL抜き取り、走査電子顕微鏡(TM4000、日立ハイテクノロジーズ)により分散液中に含まれている固体の形状を観察した。走査電子顕微鏡写真(500倍)を
図6に示す。
図6(a)は、パラミロンドープ(1)をエタノール中に滴下後、1時間撹拌して得られたパラミロンビーズを20分間解繊処理して得られた固体の走査電子顕微鏡写真であり、
図6(b)は、パラミロンドープを(1)エタノール中に滴下後、3時間撹拌して得られたパラミロンビーズを10分間解繊処理して得られた固体の走査電子顕微鏡写真である。
図6に示すように、いずれも平均繊維径が500nmのサブミクロンフィブリルから構成されるネットワークが確認され、網状構造体が得られた。
【0065】
[実施例2]パラミロンドープ(2)(0.5g/DMSO10mL)
実施例1と同じ方法で準備した原料パラミロン粒子0.5gをDMSO10mLに分散し、スターラーバーを用いた撹拌で溶解させることにより、パラミロンドープ(2)(ランダムコイル状のパラミロンを含む均一溶液、パラミロン濃度5重量%)を調製した。
パラミロンドープ(2)(1.07g)をエタノール50mLに滴下し、生じたパラミロンビーズをそのまま撹拌し、4時間後にこれを取り出し、ホモジナイズ処理を20分間行い、走査電子顕微鏡(500倍)で形状を確認した。走査電子顕微鏡写真を
図7に示す。
図7に示すように、平均繊維径が500nmのサブミクロンフィブリルから構成されるネットワークが確認され、網状構造体が得られた。
【0066】
[実施例3]パラミロンドープ(3)(1.2g/DMSO10mL)
実施例1と同じ方法で準備した原料パラミロン粒子1.2gをDMSO10mLに分散し、スターラーバーを用いた撹拌で溶解させることにより、パラミロンドープ(3)(ランダムコイル状のパラミロンを含む均一溶液、パラミロン濃度12重量%)を調製した。
パラミロンドープ(3)(1.36g)をエタノール50mLに滴下し、生じたパラミロンビーズをそのまま撹拌し、3時間後にこれを取り出し、ホモジナイズ処理を20分間行い、走査電子顕微鏡(500倍)で形状を確認した。走査電子顕微鏡写真を
図8に示す。
図8に示すように、平均繊維径が500nmのサブミクロンフィブリルから構成されるネットワークが確認され、網状構造体が得られた。
【0067】
[実施例4]乾燥ビーズ
実施例1と同じ方法で調整したパラミロンドープ(1)(1.0g/DMSO10mL)から調製したパラミロンビーズを風乾してビーズに含まれるDMSOをすべて除いて乾燥ビーズを得た。乾燥ビーズ49mgをMilli-Q水10mLに分散したのちホモジナイズ処理し、10分後に抜き出して走査電子顕微鏡(500倍)でその形状を確認した。走査電子顕微鏡写真を
図9に示す。
図9に示すように、平均繊維径が500nmのサブミクロンフィブリルから構成されるネットワークが確認され、網状構造体が得られた。
【0068】
[比較例1]天然パラミロン粒子のホモジナイズ処理
実施例1と同じ方法で準備した原料パラミロン粒子12mgをMilli-Q水10mLに分散し、20分間ホモジナイズ処理を行い、走査電子顕微鏡で形状を確認した。走査電子顕微鏡写真(2000倍)を
図10に示す。
図10に示すように、ファイバー状の物質は確認できず、パラミロン粒子だけが確認された。この結果から、実施例1~4の各工程に含まれる、パラミロンの溶解と貧溶媒(エタノール)への浸漬はサブミクロンフィブリルネットワーク構築に必須であることが分かる。
【0069】
[比較例2]水酸化ナトリウム水溶液からの繊維化
実施例1と同じ方法で準備した原料パラミロン粒子503mgを1mol/L水酸化ナトリウム水溶液10mLに分散し、均一になるまで室温で攪拌した。得られた均一溶液をエタノール100mLに攪拌しながら滴下して白沈を得た。デカンテーションでこれを分離し、エタノール100mLで攪拌洗浄(80分間)、続いてメタノールで攪拌洗浄(100mL、約60min×4回)した後、濾紙乾燥し(濾紙に挟んで水分を濾紙に浸み込ませることで乾燥し)、風乾した。得られた固体340mgをMilli-Q水10mLとともに試験管に入れ2日間放置した(pH7.54)。分散液をホモジナイズ処理し、分散液100μLを10分後に抜き出した。走査電子顕微鏡写真(500倍)を
図11に示す。
図11に示すように、大部分が長さ10μm程度のフィブリルが不規則に集まった凝集体であり、ネットワークは形成されていない。よって、水酸化ナトリウム水溶液の使用はサブミクロンフィブリルネットワークの構築には適さない。
【0070】
[比較例3]加熱したDMSO溶液からの繊維化
実施例1と同じ方法で準備した原料パラミロン粒子996mgをDMSO10mLに30分間浸漬した後、90℃で3時間加熱攪拌することで均一溶液を得た。続いて得られた均一溶液をテフロン(登録商標)皿に入れ、室温まで冷却することでDMSOを含むゲル状固体5.44gを得た。シート状のゲル固体113mgをMilli-Q水10mLに分散して室温にてホモジナイズ処理し、分散液100μLを10分後に抜き出した。走査電子顕微鏡写真(JSM-6060、日本電子、500倍)を
図12に示す。
図12に示すように、アモルファス状の凝集体のみが確認された。よって、サブミクロンフィブリルネットワーク構築のためには、パラミロンビーズ調製工程に含まれるエタノール等の貧溶媒への滴下は必須である。
【0071】
[実施例5]ポリ乳酸とパラミロンサブミクロンフィブリルネットワークとの複合体(ポリ乳酸-パラミロンサブミクロンフィブリルネットワーク複合体)
ポリ乳酸(NatureWorks Ingeo Biopolymer 10361D)8.6gと、実施例1と同じ方法で得られた網状構造体を真空加熱乾燥(100℃、8時間)して調製したパラミロンサブミクロンフィブリルネットワーク0.96gとを、小型セグメントミキサKF6を装着したラボプラストミル(東洋精機(株)製)で混錬(185℃、10分間)し、ポリ乳酸とパラミロンサブミクロンフィブリルネットワークとの複合体を得た。ポリ乳酸とパラミロンサブミクロンフィブリルネットワークとの複合体は、ポリ乳酸とパラミロンサブミクロンフィブリルネットワークとを含む樹脂組成物である。
【0072】
得られた混錬サンプルについて、測定時の周波数を0.01Hz~100Hzに変更しながら弾性率(貯蔵弾性率及び損失弾性率)を粘弾性測定装置(MCR302、アントンパール社)にて測定した。同様にして、ポリ乳酸の貯蔵弾性率及び損失弾性率を測定した。そのデータを
図13に示す。
図13において、「ポリ乳酸+ファイバー」は、ポリ乳酸とパラミロンサブミクロンフィブリルネットワークとの複合体を表している。
【0073】
ポリ乳酸とパラミロンサブミクロンフィブリルネットワークとの複合体の貯蔵弾性率(
図13の白丸(〇))において、0.1Hz付近にプラトー領域が確認される。この領域においては、貯蔵弾性率Gと材料の絡み合い転換分子量Meの間には、以下の関係:
Me=ρRT/G (但し、ρは比重1、Rは気体定数、Tは温度である)
が成立することが知られている。
ここで、ρ=1000kg/m
3、R=8.31、T=300K、0.1Hzにおける、「ポリ乳酸+ファイバーの貯蔵弾性率」と「ポリ乳酸+ファイバーの損失弾性率」の差(88.3-17.2=)71.1Paを代入するとMe=35,063となる。パラミロンのモノマーユニット(グルコース)の分子量は162であることから、35,063/162=216、つまり重合度216ごとに1回の交差が発生することをこの数式は示唆する。パラミロンの重合はおおよそ2000であり、216のおおよそ10倍であることから、パラミロンはポリ乳酸に対して補強効果を発現できるだけの交差を持つような分散構造を構築していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本実施形態に係る網状構造体は、例えば、樹脂用フィラー(補強材)、機能性分離膜やその他の膜材料、生分解性のフィラー、耐水性網状構造体等として産業上の利用可能性を有している。