(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-12-22
(45)【発行日】2026-01-06
(54)【発明の名称】香味油の製造方法及び香味油
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20251223BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20251223BHJP
【FI】
A23L27/00 C
A23L27/00 D
A23D9/00 504
(21)【出願番号】P 2024046621
(22)【出願日】2024-03-22
【審査請求日】2024-10-23
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】花田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】赤松 浩行
(72)【発明者】
【氏名】佐野 敦志
(72)【発明者】
【氏名】柚木 雅信
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-049434(JP,A)
【文献】特許第6343710(JP,B1)
【文献】中台忠信,醤油の火入れ,醤油の研究と技術,財団法人日本醤油技術センター,2008年,第34巻第5号,pp.275-282
【文献】大西茂彦,ガスクロマトグラフ質量分析計による醤油香気成分の分析と醤油火入れ条件検討への応用,月刊JETI,日本,株式会社日本出版制作センター,2023年,第71巻 第2号,pp.10-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-35/00
A23D 7/00-9/05
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/AGRICOLA/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香味成分を含む醤油又は醤油様調味料と食用油脂との混合物を加熱して香味油を得る、香味油の製造方法であって、
前記香味成分はフェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンを含み、
前記醤油又は醤油様調味料の製造方法は、醤油諸味を得る工程と、醤油諸味液汁を得る工程と、前記醤油諸味液汁について酵母発酵を実施する工程とを含む方法であ
り、
前記混合物中で前記香味成分を含む醤油または前記醤油様調味料と前記食用油脂とは乳化していない、
香味油の製造方法。
【請求項2】
前記混合物を加熱して、前記香味成分を前記食用油脂に移行させて前記香味油を得る、請求項1に記載の香味油の製造方法。
【請求項3】
前記香味成分を含む醤油又は醤油様調味料は前記フェネチルアセテートを10ppb以上含有する、請求項1または2に記載の香味油の製造方法。
【請求項4】
前記香味成分を含む醤油又は醤油様調味料は前記γ-ノナラクトンを20ppb以上含有する、請求項1または2に記載の香味油の製造方法。
【請求項5】
前記混合物は前記香味成分を含む醤油または前記醤油様調味料を20w/v%以上含有する、請求項1または2に記載の香味油の製造方法。
【請求項6】
前記混合物を以下(1)~(4)のいずれかの加熱条件で加熱する、請求項1または2に記載の香味油の製造方法。
(1)温度30℃以上50℃未満で20分~240分加熱する
(2)温度50℃以上70℃未満で7分~210分加熱する
(3)温度70℃以上80℃未満で7分~150分加熱する
(4)温度80℃以上95℃未満で7分~45分加熱する
【請求項7】
香味成分を含む醤油または醤油様調味料と食用油脂との混合物を加熱して、前記香味成分を前記食用油脂に移行させて得られる香味油であって、前記香味成分はフェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンであり、前記醤油又は醤油様調味料は、醤油諸味を得る工程と、醤油諸味液汁を得る工程と、前記醤油諸味液汁について酵母発酵を実施する工程とを含む方法によって得られた醤油又は醤油様調味料であ
り、
前記混合物中で前記香味成分を含む醤油または前記醤油様調味料と前記食用油脂とは乳化していない、香味油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味油の製造方法及び香味油に関する。
【背景技術】
【0002】
醤油等の調味料は、店頭で販売される弁当、総菜、冷凍食品等の、調理済または半調理済の加工食品に頻繁に用いられる。通常、弁当や総菜は、調理後の消費期限が数日程度と短いため、近年、食品ロスを削減すべく、加工食品の消費期限の延長が試みられている。しかし、加工食品の出来立て時は、味や香りのメリハリがあるにもかかわらず、時間の経過とともに、醤油等の調味料の香りや風味が飛散し、これらが感じられにくくなって出来立て感が弱まるという課題があった。
【0003】
上記課題を解決すべく、これまでに、香料を用いて加工食品の香りを補うという方法や、加工食品に用いる調味料の使用量を増やすという方法、さらには、弁当や総菜に添加物を加える方法等が提案されている。
また、特許文献1には、香りが豊かな醤油を用いる方法が開示されている。特許文献2には、深み、コク、ロースト感のある醤油の加熱風味を有する風味油が開示されており、当該風味油を用いることで調理時間を短縮し、調理感を付与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6343710号
【文献】特許第3073802号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、香料を用いて加工食品の香りを補うという方法では、自然な味が再現できないという欠点がある。また、加工食品に用いる調味料の使用量を増やすという方法で製造した加工食品は、味が変わりやすい。また、近年、食塩の過剰摂取と高血圧症、腎臓病などとの関連性が指摘されていることから、消費者には食塩摂取量は控えたいというニーズがある。さらに、弁当や総菜に添加物を加える方法についても、添加物を含む食品は消費者に敬遠される傾向がある。
【0006】
また、香りの豊かな醤油を用いる方法では、香りの飛散という課題を十分に克服できない。また、調理感を付与する風味油では出来立て感を十分に補うことができない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、香りや風味が十分に感じられる調味料の製造方法、および当該調味料を提供することにある。また、好ましくは、香りや風味が十分に感じられ、かつ、出来立て感を維持できる調味料の製造方法、および当該調味料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、香味油の香りや風味は揮発しにくいという点に着目し、鋭意検討を重ねた。その結果、香味成分を含む醤油又は醤油様調味料と食用油脂との混合物を加熱して、醤油又は醤油様調味料に含まれる特定の香味成分を食用油脂に移行させることで、上記課題を解決できることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 香味成分を含む醤油又は醤油様調味料と食用油脂との混合物を加熱して香味油を得る、香味油の製造方法であって、
前記香味成分はフェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンを含む、
香味油の製造方法。
[2] 前期混合物を加熱して、前記香味成分を前記食用油脂に移行させて前記香味油を得る、上記[1]に記載の香味油の製造方法。
[3] 前記香味成分を含む醤油又は醤油様調味料は前記フェネチルアセテートを10ppb以上含有する、上記[1]または[2]に記載の香味油の製造方法。
[4] 前記香味成分を含む醤油又は醤油様調味料は前記γ-ノナラクトンを20ppb以上含有する、上記[1]または[2]に記載の香味油の製造方法。
[5] 前記混合物は前記香味成分を含む醤油または前記醤油様調味料を20w/v%以上含有する、上記[1]または[2]に記載の香味油の製造方法。
[6] 前記混合物を以下(1)~(4)のいずれかの加熱条件で加熱する、上記[1]または[2]に記載の香味油の製造方法。
(1)温度30℃以上50℃未満で20分~240分加熱する
(2)温度50℃以上70℃未満で7分~210分加熱する
(3)温度70℃以上80℃未満で7分~150分加熱する
(4)温度80℃以上95℃未満で7分~45分加熱する
[7] 前記混合物中で前記香味成分を含む醤油または前記醤油様調味料と前記食用油脂とは乳化していない、上記[1]または[2]に記載の香味油の製造方法。
[8] 香味成分を含む醤油または醤油様調味料と食用油脂との混合物を加熱して、前記香味成分を前記食用油脂に移行させて得られる香味油であって、前記香味成分はフェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンである、惣菜または弁当用の香味油。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、香りや風味が十分に感じられ、好適には出来立て感を維持できる香味油を製造できる。具体的には、食用油脂をベースに香りを移行させることで、香りの濃縮、維持が可能であるため、高力価で、香りの安定した香味油を製造できる。また、食用油脂をベースに香りを移行させることで、食材の内部に香りが入り込みにくいため、出来立ての濃度勾配を保つことができ、出来立て感を維持できる。また、食塩を使用しないため、塩分の過剰摂取を防ぐことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態の香味油の製造方法において、容器13内で香味成分を含む醤油又は醤油様調味料12と食用油脂11との混合物10を加熱する状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の構成及び好ましい形態について更に詳しく説明する。
本明細書において、範囲を示す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。また、本明細書において、「重量」と「質量」、及び「重量%」と「質量%」は、それぞれ同義語として扱う。
本明細書において、「香味成分」とは、香味(香りまたは味)を形成し得るものであればよく、香味に寄与する物質又はその類縁体をいう。
本明細書において、「香味油」とは、食用油脂に香味成分を移行させることで得られる食用油脂をいう。
本明細書において、「ppb」とは、通常知られている意味のとおりの単位であり、具体的には1ppbは1/109であり、質量換算では1ng/gであり、質量体積換算では概ね1μg/lである。
【0013】
<香味油の製造方法>
本発明の一実施形態の香味油の製造方法(以下、本実施形態の製造方法ともいう)は、香味成分を含む醤油又は醤油様調味料と食用油脂との混合物を加熱して香味油を得る、香味油の製造方法であって、前記香味成分はフェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンを含むことを特徴とする。
【0014】
本実施形態の製造方法により、香りや風味が十分に感じられ、好適には出来立て感を維持できる香味油が得られるのは、以下のような作用機序によるものと推測される。すなわち、香味成分を含む醤油又は醤油様調味料と食用油脂との混合物を加熱することによって、醤油又は醤油様調味料に含まれる香味成分を、上記食用油脂に移行させる。これは、香味成分を含む醤油又は醤油様調味料よりも食用油脂の比重が小さいため、
図1に示すように、混合物10においては、容器13内に食用油脂11が、香味成分を含む醤油又は醤油様調味料12の上部に位置することになる。その状態で混合物を加熱することで、醤油又は醤油様調味料12に含まれる香味成分が揮発し、上部に位置する食用油脂11に当該香味成分が溶け込むことで、当該香味成分が食用油脂11へと移行し、香味油が得られる。移行する香味成分には、フェネチルアセテートやγ-ノナラクトンという甘くフルーティーな香りを有する。また、香味油の香りや風味は親油性のため揮発しにくい。さらに、食用油脂をベースとして香味成分を移行させることで、得られる香味油における香りの濃縮や維持が可能となる。そのため、得られる香味油においては、香りや風味が十分に感じられ、好適には出来立て感が維持される。なお、本発明は上記作用機序を有するものに限定して解釈されるものではない。
【0015】
(醤油又は醤油様調味料)
本実施形態の製造方法に用いる醤油(しょうゆ、しょう油ともよぶ。)は、例えば、農林水産省告示「しょうゆ品質表示基準」及び「しょうゆの日本農林規格」に記載されているようなものなどが挙げられ、具体的には濃口醤油、淡口醤油、白醤油、たまり醤油、再仕込醤油がある。その他にも生醤油、ダシ醤油、照り醤油、生揚げ醤油、速醸醤油、アミノ酸混合醤油、減塩醤油及び低食塩醤油などが挙げられる。醤油は、上記のとおりに挙げられたものの1種の単独であってもよく、2種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0016】
本実施形態の製造方法に用いる醤油様調味料は、日本農林規格に規定される「しょうゆ」と同様の用途で用いられる調味料をいい、醤油、醤油加工品及び発酵調味料を含む調味料である。醤油様調味料は、醤油本来の風味を有し、かつ「しょうゆ」と同様の用途で用いられる限り、醤油麹に由来する原料(例えば、大豆や小麦)を用いて得られるものでなくともよい。
【0017】
本実施形態の製造方法に用いる醤油又は醤油様調味料は、特許第6343710号記載の製法で得られるものであることが好ましい。つまり、本実施形態の製造方法に用いる醤油又は醤油様調味料は、通常の醤油の製造方法によって乳酸発酵を行った後に得られる醤油諸味を固液分離し、さらに液体部分をUF膜で処理して醤油諸味液汁を得て、次いで該醤油諸味液汁を醤油酵母により酵母発酵に供することを含む方法などにより製造することができる。該方法では、通常の醤油の製造方法と違って、乳酸発酵後の醤油諸味を連続的に酵母発酵に供するのではなく、酵母発酵に供する前に醤油諸味を不溶性固形部分(醤油諸味濃縮物)と液体部分(醤油諸味液汁)とに分けて、次いで醤油諸味液汁について酵母発酵を実施することを含む。したがって、該方法では、醤油諸味を得る工程と、醤油諸味液汁を得る工程と、酵母発酵を実施する工程とを少なくとも含む。該方法で得られる醤油又は醤油様調味料としては、例えばキッコーマン社製の「香味発酵しょうゆ」等が挙げられる。
【0018】
(香味成分)
本実施形態の製造方法に用いる醤油又は醤油様調味料は、香味成分を含有する。
本実施形態の製造方法において、香味成分はフェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンを含む。香味成分がフェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンを含有することにより、後述する加熱工程により、醤油又は醤油様調味料から香味成分のフェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンが食用油脂に移行するところ、フェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンは甘くフルーティーな香りを有するため、当該香りを十分に有する香味油を得ることができる。
【0019】
醤油又は醤油様調味料は、上記2成分以外の香味成分を含んでいてもよく、食用可能である限りその種類は限定されない。上記2成分以外の香味成分としては、例えば、フルフラール、フェネチルアルコール、及びピラジン等が挙げられる。これらの香味成分は1種の単独で含まれていてもよく、2種以上を組み合わせて含まれていてもよい。
【0020】
また、醤油又は醤油様調味料は香味成分としてのフェネチルアセテートを、10ppb以上含有するのが好ましく、30ppb以上含有するのがより好ましく、50ppb以上含有するのがさらに好ましく、また、2000ppb以下含有するのが好ましく、1000ppb以下含有するのがより好ましく、500ppb以下含有するのがさらに好ましい。
【0021】
また、醤油又は醤油様調味料は香味成分としてのγ-ノナラクトンを、20ppb以上含有するのが好ましく、30ppb以上含有するのがより好ましく、40ppb以上含有するのがさらに好ましく、また、3000ppb以下含有するのが好ましく、2500ppb以下含有するのがより好ましく、2000ppb以下含有するのがさらに好ましい。
【0022】
本実施形態の製造方法においては、上述した香味成分を含む醤油又は醤油様調味料と、後述する食用油脂との混合物を用いる。混合物は、醤油又は醤油様調味料に含まれる香味成分が食用油脂に移行することでその特徴が得られるという観点から、上述した香味成分を含む醤油又は醤油様調味料を20w/v(重量/体積)%以上含有するのが好ましく、30w/v%以上含有するのがより好ましく、40w/v%以上含有するのがさらに好ましい。また、混合物は、製造効率及びコスト合理性の観点から、上述した香味成分を含む醤油又は醤油様調味料を90w/v%以下含有するのが好ましく、75w/v%以下含有するのがより好ましく、60w/v%以下含有するのがさらに好ましい。
【0023】
(食用油脂)
本実施形態の製造方法に用いる食用油脂としては、例えば、ラード、牛脂、鶏油やバターなどの動物由来の食用油脂、大豆油、こめ油、菜種油、コーン油、オリーブオイルなどの植物由来の食用油脂が挙げられる。なかでも、上述した加熱による酸化劣化の起こりにくさ、常温で液体という取り扱いのしやすさ、および醤油香味との相性の良さの観点から、大豆油、こめ油、及び菜種油が好ましい。これらの食用油脂は1種の単独で含まれていてもよく、2種以上を組み合わせて含まれていてもよい。
【0024】
本実施形態の製造方法において、上記混合物は、製造効率及びコスト合理性の観点から、上述した食用油脂を10w/v%以上含有するのが好ましく、25w/v%以上含有するのがより好ましく、40w/v%以上含有するのがさらに好ましい。また、混合物は、醤油又は醤油様調味料に含まれる香味成分が食用油脂に移行することでその特徴が得られるという観点から、上述した食用油脂を80w/v%以下含有するのが好ましく、70w/v%以下含有するのがより好ましく、60w/v%以下含有するのがさらに好ましい。
【0025】
(その他成分)
また、本発明の効果を妨げない範囲で、上記混合物は、香味成分を含む醤油又は醤油様調味料及び食用油脂以外のその他の成分を含んでいてもよい。
【0026】
(加熱)
本実施形態の製造方法においては、上記混合物を加熱する。
上記混合物は、上記香味成分を含む醤油又は醤油様調味料と上記食用油脂とを混合して得てもよい。なお、上記混合とは、上記香味成分を含む醤油又は醤油様調味料と上記食用油脂とを混ぜ合わせて乳化のような均一の状態にすることを意味するのではなく、醤油又は醤油様調味料と食用油脂のいずれか一方に対し他方を添加すること等により、乳化させることなく両成分を接触させることを意味するものとする。通常、香味成分を含む醤油又は醤油様調味料よりも食用油脂の比重が小さいため、
図1に示すように、混合物10においては、容器13内に食用油脂11が、香味成分を含む醤油又は醤油様調味料12の上部に位置する状態となる。この状態で、混合物10の加熱を行う。
混合物10の加熱は、混合物10の下方側、すなわち、香味成分を含む醤油又は醤油様調味料の下方側から行うのが好ましい。これにより、醤油又は醤油様調味料に含まれる香味成分を効率的に食用油脂へ移行させることができる。
【0027】
容器としては耐熱性のものであれば特に制限されず、従来公知の耐熱性の容器を任意に用いることができる。
加熱方法としては任意の方法が挙げられ、例えば、耐熱容器内の混合物をヒーター、ガスコンロ、ウォーターバス等を用いて加熱を行ってもよい。
【0028】
混合物の加熱温度は、上述した醤油又は醤油様調味料に含まれる香味成分を、上記食用油脂に十分に移行させる観点、及び、醤油又は醤油様調味料を焦がさない観点から、50~90℃が好ましく、60~85℃がより好ましく、70~80℃がさらに好ましい。
【0029】
また、混合物の加熱時間は、上述した醤油又は醤油様調味料に含まれる香味成分を、上記食用油脂に十分に移行させる観点、及び、醤油又は醤油様調味料を焦がさない観点から、15分~4時間が好ましく、30分~3時間がより好ましく、1~2時間がさらに好ましい。
なかでも、混合物を以下(1)~(4)のいずれかの加熱条件で加熱するのが好ましい。これにより、香りや風味が十分に感じられ、かつ、こげ臭や油臭を有しない香味油が得られる。
(1)温度30℃以上50℃未満で20分~240分加熱する
(2)温度50℃以上70℃未満で7分~210分加熱する
(3)温度70℃以上80℃未満で7分~150分加熱する
(4)温度80℃以上95℃未満で7分~45分加熱する
【0030】
混合物を加熱する際、混合物中で醤油または醤油様調味料と食用油脂とは乳化していない、非乳化の状態であるのが好ましい。すなわち、混合物を加熱する際に、両者が乳化する程度にまで混合撹拌しないのが好ましい。混合物中で醤油または醤油様調味料と食用油脂とが乳化しないことで、油の劣化や油の濁りを抑えることができ、またその後、得られる香味油を分離させやすくなるためである。
【0031】
本実施形態の製造方法においては、上記混合物を加熱することによって、上述した醤油又は醤油様調味料に含まれる香味成分を、上記食用油脂に移行させる。これは、上述したとおり、混合物においては、容器内に食用油脂が、香味成分を含む醤油又は醤油様調味料の上部に位置することになり、その状態で混合物を加熱することで、醤油又は醤油様調味料に含まれる香味成分が揮発し、上部に位置する食用油脂に当該香味成分が溶け込むためである。なお、食用油脂に移行させる香味成分は、醤油又は醤油様調味料に含まれる香味成分全体であってもよいし、当該香味成分の一部であってもよい。言い換えると、食用油脂に移行させる香味成分は、醤油又は醤油様調味料に含まれる香味成分の少なくとも一部であってよい。
【0032】
また、本実施形態の製造方法においては、食用油脂の酸化劣化や食用油脂からの香りの揮発を抑えるため、密閉系かつヘッドスペースの小さい容器や、酸素を窒素等で置換した状態で、混合物の加熱を行うのが好ましい。
また、加熱昇温時間を短時間に行える効率的な加熱装置を用いることが好ましい。
【0033】
(香味油)
本実施形態の製造方法により得られる香味油は、上記醤油又は醤油様調味料が含有する香味成分の少なくとも一部を含有する。当該香味油は香味成分として、フェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンを含む。
【0034】
また、本発明の一実施形態の香味油は、香味成分を含む醤油または前記醤油様調味料と油との混合物を加熱して、前記香味成分を前記食用油脂に移行させて得られる惣菜または弁当用の香味油として規定し得る。これは、香味油は、醤油または前記醤油様調味料に含まれる香味成分のうち、フェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンを除くいかなる成分がどの程度食用油脂に移行するかは、加熱条件等に応じて種々変動しうるものであり、得られる香味油を成分や含有量により直接特定することが不可能であり、また、およそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するため、「香味成分を食用油脂に移行させて得られる惣菜及び弁当用の香味油」との規定により、香味油を「物」として妥当に特定したものである。
【0035】
また、本発明の一実施形態の香味油は、こげ臭または油臭を有しないのが好ましく、こげ臭および油臭を有しないのが好ましい。かかる香味油は、上述したとおり、製造時において加熱温度や加熱時間等を適切に設定することにより得ることができる。
【0036】
以上説明したように、本明細書には次の事項が開示されている。
[1] 香味成分を含む醤油又は醤油様調味料と食用油脂との混合物を加熱して香味油を得る、香味油の製造方法であって、
前記香味成分はフェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンを含む、
香味油の製造方法。
[2] 前期混合物を加熱して、前記香味成分を前記食用油脂に移行させて前記香味油を得る、上記[1]に記載の香味油の製造方法。
[3] 前記香味成分を含む醤油又は醤油様調味料は前記フェネチルアセテートを10ppb以上含有する、上記[1]または[2]に記載の香味油の製造方法。
[4] 前記香味成分を含む醤油又は醤油様調味料は前記γ-ノナラクトンを20ppb以上含有する、上記[1]~[3]のいずれか1に記載の香味油の製造方法。
[5] 前記混合物は前記香味成分を含む醤油または前記醤油様調味料を20w/v%以上含有する、上記[1]~[4]のいずれか1に記載の香味油の製造方法。
[6] 前記混合物を以下(1)~(4)のいずれかの加熱条件で加熱する、上記[1]~[5]のいずれか1に記載の香味油の製造方法。
(1)温度30℃以上50℃未満で20分~240分加熱する
(2)温度50℃以上70℃未満で7分~210分加熱する
(3)温度70℃以上80℃未満で7分~150分加熱する
(4)温度80℃以上95℃未満で7分~45分加熱する
[7] 前記混合物中で前記香味成分を含む醤油または前記醤油様調味料と前記食用油脂とは乳化していない、上記[1]~[6]のいずれか1に記載の香味油の製造方法。
[8] 香味成分を含む醤油または醤油様調味料と食用油脂との混合物を加熱して、前記香味成分を前記食用油脂に移行させて得られる香味油であって、前記香味成分はフェネチルアセテートおよびγ-ノナラクトンである、惣菜または弁当用の香味油。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
<香味油の製造>
実施例1~6
ステンレス容器に、香味成分を含む醤油(キッコーマン社製、商品名:「香味発酵しょうゆ」、香味成分:フェネチルアセテート17.1ppb、γ-ノナラクトン29.6ppb)と、食用油脂として大豆油(J-オイルミルズ社製、商品名:「大豆の油」)を合計で5Lになるように入れ、得られた混合物をウォーターバス中で加熱した。香味成分を含む醤油及び食用油脂の分量(L、w/v%)、及び加熱条件は下記表1に示す通りである。加熱完了後、上層部の油を分離、回収し、香味油を得た。
【0039】
【0040】
<官能評価試験1>
醤油(キッコーマン社製、商品名:「こいくちしょうゆ」)250g、みりん(キッコーマン社製、商品名:「濃厚熟成本みりん」)50g、ブドウ糖果糖液糖350g、グラニュー糖20g、食塩8g、水322gを混合、攪拌して固形分を溶解し、肉そぼろ用の調味液とした。調理用の鍋に鶏挽き肉600gと上記調味液180gを入れ、よく混ぜ合わせてから、ガスコンロで中火にかけた。鶏挽き肉と調味液の合計重量が600gになるまで、よく混ぜながら煮詰めた。ラップをかけて静置し、常温になるまで冷却し、肉そぼろを得た。その後、肉そぼろに対して、市販の大豆油と上記で作製した香味油を1.5%(w/v)ずつ添加し、冷蔵保存した。2日後、電子レンジで加温し、識別能力を有するパネル10名により、市販の大豆油を比較対象とした一対比較の官能評価を行い、下記の評価基準にて「出来立て感」「しょうゆの香り」「こげ臭」「油臭」「全体の好ましさ」について7段階評価した。
【0041】
(評価基準)
・「出来立て感」「しょうゆの香り」「こげ臭」「油臭」
3点:かなり強い
2点:強い
1点:やや強い
0点:同程度
-1点:やや弱い
-2点:弱い
-3点:かなり弱い
・「全体的な好ましさ」
3点:かなり好き
2点:好き
1点:やや好き
0点:同程度
-1点:やや嫌い
-2点:嫌い
-3点:かなり嫌い
【0042】
(評価結果)
市販の大豆油に対する評点を下記の表2に示した。なお、「**」は市販品と比較して1%、「*」は市販品と比較して5%の危険率で有意差があることを示す。
【0043】
【0044】
表2の結果からわかるように、実施例の香味油を肉そぼろに添加することで、調理から時間が経過しても、しょうゆの香りが保持され、出来立て感を感じられる品質を保ち、有意に好まれる結果となった。また、加熱温度や加熱時間を適切に設定したため、こげ臭や油臭も有さず、乳化もみられなかった。
【0045】
<官能評価試験2>
以下の追加試験を実施し、香味油作製に適した加熱時間、及び加熱温度の条件について、より詳細に確認することとした。
まず、ステンレス容器に、2.5Lの香味成分を含む醤油(キッコーマン社製、商品名:「香味発酵しょうゆ」、香味成分:フェネチルアセテート17.1ppb、γ-ノナラクトン29.6ppb)と、食用油脂として2.5Lの大豆油(J-オイルミルズ社製、商品名:「大豆の油」を入れ、得られた混合物をウォーターバス中で、表3に記載の各加熱条件で加熱をした。加熱完了後、上層部の油を分離、回収した。市販の大豆油と試作した香味油を肉そぼろに1.5%(w/v)ずつ添加し、冷蔵保存した。2日後、識別能力を有するパネル6名により、市販の大豆油を比較対象として各香味油の官能評価を実施し、下記の評価基準で評価した。
【0046】
(評価基準)
〇:しょうゆの香りを強く感じ、こげ臭、油臭は感じない
▲:しょうゆの香りを強く感じるが、こげ臭、油臭も感じる
×:しょうゆの香りの強さの違いを感じない
【0047】
(評価結果)
市販の大豆油に対する評点を下記の表3に示した。なお、「**」は市販品と比較して1%、「*」は市販品と比較して5%の危険率で有意差があることを示す。
【0048】
【0049】
以上の結果より、品質の観点から加熱油作成に適した加熱条件は下記の通りと考えられた。
加熱温度20℃:不適
加熱温度40℃:加熱時間30~240分
加熱温度60℃:加熱時間10~180分
加熱温度75℃:加熱時間10~120分
加熱温度90℃:加熱時間10~30分
【0050】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 混合物
11 食用油脂
12 香味成分を含む醤油又は醤油様調味料
13 容器