(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-07
(45)【発行日】2026-01-16
(54)【発明の名称】表面形状の測定方法、マスクブランク用基板の検査方法およびマスクブランクの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/84 20120101AFI20260108BHJP
【FI】
G03F1/84
(21)【出願番号】P 2022068438
(22)【出願日】2022-04-18
【審査請求日】2025-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 彩絵
(72)【発明者】
【氏名】田村 昌彦
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-102664(JP,A)
【文献】特開2015-062054(JP,A)
【文献】特開2010-191162(JP,A)
【文献】国際公開第2012/102313(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板の表面形状を測定機で測定することと、前記第1基板の表面形状の測定データと前記第1基板の表面形状の基準データとの誤差を検出することと、前記第1基板とは別に用意した1枚以上の第2基板の表面形状を前記測定機で測定することと、前記第2基板の表面形状の測定データを前記誤差に基づき補正することと、を有する、表面形状の測定方法であって、
前記誤差に基づき補正した測定データにおいて、前記基準データの取得後に付いた前記第1基板の欠点に起因する異常点を検出することと、
前記異常点とその近傍の表面形状を示す輪郭曲線を平滑化することと、
を有する、表面形状の測定方法。
【請求項2】
前記異常点を検出することは、同じ前記第2基板の表面形状を前記第2基板の向きを変えて測定した複数の測定データを比較することを含む、請求項1に記載の表面形状の測定方法。
【請求項3】
前記異常点を検出することは、2枚以上の前記第2基板の表面形状の測定データを比較することを含む、請求項1に記載の表面形状の測定方法。
【請求項4】
前記比較する測定データとして、高低差を示す画像データを用いることを含む、請求項2または3に記載の表面形状の測定方法。
【請求項5】
前記平滑化することは、第1ガウシアンフィルタを用いることを含む、請求項1に記載の表面形状の測定方法。
【請求項6】
前記第1ガウシアンフィルタを用いることは、前記異常点とその近傍の表面形状を示す輪郭曲線から第1閾値以上の波長成分を抽出することを含み、
前記第1閾値は、1.0mm~10.0mmである、請求項5に記載の表面形状の測定方法。
【請求項7】
前記平滑化した後に、第2ガウシアンフィルタを用いて、前記第2基板の表面形状を示す輪郭曲線から第2閾値以下の波長成分を抽出することを有し、
前記第2閾値は、5.0mm~15.0mmである、請求項1に記載の表面形状の測定方法。
【請求項8】
前記平滑化することは、前記平滑化しない場合に比べて、前記第2ガウシアンフィルタを用いて抽出した成分の最大高低差(PV値)を低減することである、請求項7に記載の表面形状の測定方法。
【請求項9】
前記第1基板と前記測定機の組み合わせを複数準備することと、
複数の前記測定機を用いて測定した同じ前記第2基板の表面形状の測定データを比較することで、前記欠点が付いた前記第1基板と前記測定機の組み合わせを決定することと、を有する、請求項1に記載の表面形状の測定方法。
【請求項10】
前記組み合わせを決定することは、複数の前記測定機を用いて測定した同じ前記第2基板の平坦度を比較することを含む、請求項9に記載の表面形状の測定方法。
【請求項11】
前記比較する測定データとして、高低差を示す画像データを用いることを含む、請求項9に記載の表面形状の測定方法。
【請求項12】
前記第1基板と前記測定機の組み合わせの数は3以上である、請求項9に記載の表面形状の測定方法。
【請求項13】
前記測定機はフィゾー干渉計である、請求項1に記載の表面形状の測定方法。
【請求項14】
請求項1に記載の表面形状の測定方法を用いることを有する、マスクブランク用基板の検査方法。
【請求項15】
請求項1に記載の表面形状の測定方法を用いることを有する、マスクブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、表面形状の測定方法、マスクブランク用基板の検査方法およびマスクブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、極端紫外線(Extreme Ultra-Violet:EUV)を用いた露光技術であるEUVリソグラフィー(EUVL)が開発されている。EUVとは、軟X線および真空紫外線を含み、具体的には波長が0.2nm~100nm程度の光のことである。現時点では、13.5nm程度の波長のEUVが主に検討されている。
【0003】
EUVLでは、反射型マスクが用いられる。反射型マスクは、ガラス基板などの基板と、EUVを反射する多層反射膜と、EUVを吸収する吸収膜と、をこの順で有する。吸収膜には、開口パターンが形成される。EUVLでは、吸収膜の開口パターンを半導体基板などの対象基板に転写する。転写することは、縮小して転写することを含む。
【0004】
EUVL用マスクブランクの製造方法は、基板の表面形状を測定する工程と、基板の表面形状の測定結果を参照し、基板の平坦度を向上すべく、基板を局所加工する工程と、を有する(例えば特許文献1参照)。基板の表面形状は、レーザー干渉式などの非接触式の測定機を用いて測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表面形状の測定方法は、第1基板の表面形状を測定機で測定することと、第1基板の表面形状の測定データと第1基板の表面形状の基準データとの誤差を検出することと、を有する。第1基板は、補正用の参照基板である。第1基板の表面形状の基準データは、予め別の測定機で測定され、真値として測定機に記憶される。
【0007】
基準データと測定データの誤差は、測定機の構造に起因して生じ、例えば波面収差などに起因して生じる。第1基板は、測定機の内部に収納されており、定期的に表面形状の測定に供される。そうして、誤差の検出が定期的に行われる。測定機の状態が経時的に変化することで、誤差が経時的に変化しうるからである。
【0008】
表面形状の測定方法は、第1基板とは別に用意した1枚以上の第2基板の表面形状を測定機で測定することと、第2基板の表面形状の測定データを前記誤差に基づき補正することと、を有する。前記誤差に基づき測定データを補正することで、測定機の構造に起因する誤差を低減できる。
【0009】
ところで、第1基板の表面形状の基準データの取得後に、第1基板に欠点が付くことがある。欠点は、凸状または凹状である。凸状の欠点は、例えばパーティクルなどの付着物である。凹状の欠点は、例えば傷である。第1基板に欠点が付いた状態で、第1基板の表面形状を測定し、その測定データと基準データの誤差を検出することがある。
【0010】
そうすると、検出した誤差に、第1基板の欠点に起因する成分が含まれる。その後に、誤差に基づき第2基板の表面形状の測定データを補正すると、第1基板の欠点に起因する異常点が第2基板の補正した測定データに現れる。異常点は、実際には存在しない幻影である。従って、表面形状の測定精度が低下してしまう。
【0011】
本開示の一態様は、表面形状の測定精度を向上する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様に係る表面形状の測定方法は、第1基板の表面形状を測定機で測定することと、前記第1基板の表面形状の測定データと前記第1基板の表面形状の基準データとの誤差を検出することと、前記第1基板とは別に用意した1枚以上の第2基板の表面形状を前記測定機で測定することと、前記第2基板の表面形状の測定データを前記誤差に基づき補正することと、を有する。表面形状の測定方法は、前記誤差に基づき補正した測定データにおいて、前記基準データの取得後に付いた前記第1基板の欠点に起因する異常点を検出することと、前記異常点とその近傍の表面形状を示す輪郭曲線を平滑化することと、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様によれば、異常点とその近傍の表面形状を平滑化することで、実際には存在しないのに存在するように見える異常点をぼかすことができ、表面形状の測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るマスクブランクの製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、マスクブランク用基板の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、マスクブランクの一例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係る表面形状の測定方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7(A)は第2基板の表面形状の測定データを示す図、
図7(B)は
図7(A)の第2基板を90°回転させたときの測定データを示す図、
図7(C)は
図7(A)の第2基板を180°回転させたときの測定データを示す図、
図7(D)は
図7(A)の第2基板を270°回転させたときの測定データを示す図である。
【
図8】
図8(A)は1枚目の第2基板の表面形状の測定データを示す図、
図8(B)は2枚目の第2基板の表面形状の測定データを示す図、
図8(C)は3枚目の第2基板の表面形状の測定データを示す図である。
【
図9】
図9(A)は誤差に基づき補正した測定データを示す図、
図9(B)は
図9(A)の測定データの一部を切り出した図、
図9(C)は
図9(B)の測定データを平滑化した平滑化データを示す図、
図9(D)は
図9(A)の測定データの一部を
図9(C)の置換データに置換して作成した図である。
【
図10】
図10は、ガウシアンフィルタのゲインの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0016】
図1を参照して、一実施形態に係るマスクブランクの製造方法について説明する。マスクブランクは、特に限定されないが、例えばEUVL用であって反射型である。
図1に示すように、マスクブランクの製造方法は、例えばステップS101~S107を有する。ステップS101の前に、例えば
図2及び
図3に示す基板210が準備される。
【0017】
基板210は、第1主面211と、第1主面211とは反対向きの第2主面212とを含む。第1主面211は、矩形状である。本明細書において、矩形状とは、角に面取加工を施した形状を含む。また、矩形は、正方形を含む。第2主面212は、第1主面211とは反対向きである。第2主面212も、第1主面211と同様に、矩形状である。
【0018】
また、基板210は、4つの端面213と、4つの第1面取面214と、4つの第2面取面215とを含む。端面213は、第1主面211及び第2主面212に対して垂直である。第1面取面214は、第1主面211と端面213の境界に形成される。第2面取面215は、第2主面212と端面213の境界に形成される。第1面取面214及び第2面取面215は、本実施形態では、いわゆるC面取面であるが、R面取面であってもよい。
【0019】
基板210は、例えばガラス基板である。基板210のガラスは、TiO2を含有する石英ガラスが好ましい。石英ガラスは、一般的なソーダライムガラスに比べて、線膨張係数が小さく、温度変化による寸法変化が小さい。石英ガラスは、SiO2を80質量%~95質量%、TiO2を4質量%~17質量%含んでもよい。TiO2含有量が4質量%~17質量%であると、室温付近での線膨張係数が略ゼロであり、室温付近での寸法変化がほとんど生じない。石英ガラスは、SiO2およびTiO2以外の第三成分又は不純物を含んでもよい。
【0020】
平面視にて基板210のサイズは、例えば縦152mm、横152mmである。縦寸法及び横寸法は、152mm以上であってもよい。
【0021】
基板210は、第1主面211に中央領域211Aと周縁領域211Bとを有する。中央領域211Aは、その中央領域211Aを取り囲む矩形枠状の周縁領域211Bを除く、正方形の領域であり、ステップS101~S104によって所望の平坦度に加工される領域であり、品質保証領域である。品質保証領域は、例えば縦142mm、横142mmのサイズを有する。縦寸法及び横寸法は、142mm以上であってもよい。中央領域211Aの4つの辺は、4つの端面213に平行である。中央領域211Aの中心は、第1主面211の中心に一致する。
【0022】
なお、図示しないが、基板210の第2主面212も、第1主面211と同様に、中央領域と、周縁領域とを有する。第2主面212の中央領域は、第1主面211の中央領域と同様に、正方形の領域であって、
図1のステップS101~S104によって所望の平坦度に加工される領域であり、品質保証領域である。品質保証領域は、例えば縦142mm、横142mmのサイズを有する。縦寸法及び横寸法は、142mm以上であってもよい。
【0023】
ステップS101は、基板210の第1主面211及び第2主面212を研磨することを含む。第1主面211及び第2主面212は、本実施形態では不図示の両面研磨機で同時に研磨されるが、不図示の片面研磨機で順番に研磨されてもよい。ステップS101では、研磨パッドと基板210の間に研磨スラリーを供給しながら、基板210を研磨する。
【0024】
研磨パッドとしては、例えばウレタン系研磨パッド、不織布系研磨パッド、又はスウェード系研磨パッドなどが用いられる。研磨スラリーは、研磨剤と分散媒とを含む。研磨剤は、例えば酸化セリウム粒子である。分散媒は、例えば水又は有機溶剤である。第1主面211及び第2主面212は、異なる材質又は粒度の研磨剤で、複数回研磨されてもよい。
【0025】
なお、ステップS101で用いられる研磨剤は、酸化セリウム粒子には限定されず、例えば、酸化シリコン粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化チタン粒子、ダイヤモンド粒子、又は炭化珪素粒子などであってもよい。
【0026】
ステップS102は、基板210の第1主面211及び第2主面212の表面形状を測定することを含む。表面形状の測定には、例えば、表面が傷付かないように、非接触式の測定機が用いられる。測定機は、第1主面211の中央領域211A、及び第2主面212の中央領域の表面形状を測定する。
【0027】
ステップS103は、ステップS102の測定結果を参照し、平坦度を向上すべく、基板210の第1主面211及び第2主面212を局所加工することを含む。第1主面211と第2主面212は、順番に局所加工される。その順番は、どちらが先でもよく、特に限定されない。
【0028】
局所加工には、例えば、GCIB(Gas Cluster Ion Beam)法、PCVM(Plasma Chemical Vaporization Machining)法、磁性流体による研磨法、及び回転研磨工具による研磨から選ばれる少なくとも1つが用いられる。
【0029】
ステップS104は、基板210の第1主面211及び第2主面212の仕上げ研磨を行うことを含む。第1主面211及び第2主面212は、本実施形態では不図示の両面研磨機で同時に研磨されるが、不図示の片面研磨機で順番に研磨されてもよい。ステップS104では、研磨パッドと基板210の間に研磨スラリーを供給しながら、基板210を研磨する。研磨スラリーは、研磨剤を含む。研磨剤は、例えばコロイダルシリカ粒子である。
【0030】
ステップS105は、基板210の第2主面212の中央領域に、
図4に示す導電膜240を形成することを含む。導電膜240は、後述するマスク201(
図5参照)を露光装置の静電チャックに吸着するのに用いられる。導電膜240は、例えば窒化クロム(CrN)などで形成される。導電膜240の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。
【0031】
ステップS106は、基板210の第1主面211の中央領域211Aに、
図4に示す多層反射膜220を形成することを含む。多層反射膜220は、EUVを反射する。多層反射膜220は、例えば高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層したものである。高屈折率層は例えばシリコン(Si)で形成され、低屈折率層は例えばモリブデン(Mo)で形成される。多層反射膜220の成膜方法としては、例えばイオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法が用いられる。
【0032】
ステップS107は、ステップS106で形成された多層反射膜220の上に、
図4に示す吸収膜230を形成することを含む。吸収膜230は、EUVを吸収する。吸収膜230は、位相シフト膜であってもよく、EUVの位相をシフトさせてもよい。吸収膜230は、例えばタンタル(Ta)、クロム(Cr)、パラジウム(Pd)から選ばれる少なくとも1つの元素を含む単金属、合金、窒化物、酸化物、酸窒化物などで形成される。吸収膜230の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。
【0033】
なお、ステップS106~S107は、本実施形態ではステップS105の後に実施されるが、ステップS105の前に実施されてもよい。
【0034】
上記ステップS101~S107により、
図4に示すマスクブランク200が得られる。マスクブランク200は、導電膜240と、基板210と、多層反射膜220と、吸収膜230とをこの順番で有する。なお、マスクブランク200は、導電膜240と、基板210と、多層反射膜220と、吸収膜230とに加えて、別の膜を含んでもよい。
【0035】
例えば、マスクブランク200は、更に、低反射膜を含んでもよい。低反射膜は、吸収膜230上に形成される。その後、低反射膜と吸収膜230の両方に、開口パターン231が形成される。低反射膜は、開口パターン231の検査に用いられ、検査光に対して吸収膜230よりも低反射特性を有する。低反射膜は、例えばTaONまたはTaOなどで形成される。低反射膜の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。
【0036】
また、マスクブランク200は、更に、保護膜を含んでもよい。保護膜は、多層反射膜220と吸収膜230との間に形成される。保護膜は、吸収膜230に開口パターン231を形成すべく吸収膜230をエッチングする際に、多層反射膜220がエッチングされないように、多層反射膜220を保護する。保護膜は、例えばRu、Si、またはTiO2などで形成される。保護膜の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。
【0037】
図5に示すマスク201は、吸収膜230に開口パターン231を形成することで得られる。開口パターン231の形成には、フォトリソグラフィ法およびエッチング法が用いられる。従って、開口パターン231の形成に用いられるレジスト膜が、マスクブランク200に含まれてもよい。
【0038】
図6を参照して、表面形状の測定方法の一例について説明する。表面形状の測定方法は、第1基板の表面形状を測定機で測定すること(ステップS201)と、第1基板の表面形状の測定データと第1基板の表面形状の基準データとの誤差を検出すること(ステップS202)と、を有する。第1基板は、補正用の参照基板である。第1基板の表面形状の基準データは、予め別の測定機で測定され、真値として測定機に記憶される。第1基板の表面形状の基準データは、例えばNIST等の認証機関によって測定される。
【0039】
基準データと測定データの誤差は、測定機の構造に起因して生じ、例えば波面収差などに起因して生じる。第1基板は、測定機の内部に収納されており、定期的に表面形状の測定に供される。そうして、誤差の検出が定期的に行われる。測定機の状態が経時的に変化することで、誤差が経時的に変化しうるからである。
【0040】
測定機は、特に限定されないが、例えばフィゾー干渉計である。フィゾー干渉計は、参照平面で反射した参照光線と、参照平面を透過して基板表面で反射したテスト光線との干渉を利用して、基板の表面形状を測定する。フィゾー干渉計は、特に限定されないが、例えば斜入射干渉計である。斜入射干渉計は、参照平面が三角柱形状のプリズムの一面である。
【0041】
表面形状の測定方法は、第1基板とは別に用意した1枚以上の第2基板の表面形状を測定機で測定すること(ステップS203)と、第2基板の表面形状の測定データを前記誤差に基づき補正すること(ステップS204)と、を有する。第2基板の表面形状の測定データを前記誤差に基づき補正することで、測定機の構造に起因する誤差を低減できる。
【0042】
測定機の構造に起因する誤差を低減するための補正は、一般的なものであるので、詳しい説明を省略する。なお、ステップS204は、さらに第2基板の重力変形に起因する誤差を低減する補正を含んでもよい。その補正も、一般的なものであるので、詳しい説明を省略する。
【0043】
第2基板は、測定用の基板である。第2基板は、特に限定されないが、例えばマスクブランク用基板210である。基板210の表面形状を測定するタイミングは、特に限定されないが、例えば
図1のステップS102である。ステップS102で測定した測定データは、前記誤差に基づき補正したうえで、
図1のステップS103で利用する。
【0044】
表面形状の測定データの補正には、過去に検出した誤差のうち、直近の誤差が用いられる。誤差が経時的に変化しうるからである。通常、n(nは1以上の自然数)回目の誤差の検出から、n+1回目の誤差の検出までの間に、多数枚の第2基板の表面形状が測定される。n回目の誤差の検出から、n+1回目の誤差の検出までの間に測定した測定データの補正には、n回目に検出した誤差が用いられる。
【0045】
ところで、第1基板の表面形状の基準データの取得後に、第1基板に欠点が付くことがある。欠点は、凸状または凹状である。凸状の欠点は、例えばパーティクルなどの付着物である。凹状の欠点は、例えば傷である。第1基板に欠点が付いた状態で、第1基板の表面形状を測定し、その測定データと基準データの誤差を検出することがある。
【0046】
そうすると、検出した誤差に、第1基板の欠点に起因する成分が含まれる。その後に、第2基板の表面形状の測定データを誤差に基づき補正すると、補正した測定データに第1基板の欠点に起因する異常点が現れる。第2基板の補正した測定データに現れる異常点と、第1基板に付いた欠点とは、反転した形状を有する。
【0047】
第1基板に付いた欠点が凸状である場合、第2基板の補正した測定データに現れる異常点は凹状である。一方、第1基板に付いた欠点が凹状である場合、第2基板の補正した測定データに現れる異常点は凸状である。いずれにしろ、異常点は、実際には存在しない幻影である。
【0048】
そこで、表面形状の測定方法は、基準データの取得後に付いた第1基板の欠点に起因する異常点を検出すること(ステップS205)と、異常点とその近傍の表面形状を示す輪郭曲線を平滑化すること(ステップS206)と、を有する。平滑化によって異常点をぼかすことができ、表面形状の測定精度を向上できる。
【0049】
ステップS205は、
図7(A)~
図7(D)に示すように同じ第2基板の表面形状を第2基板の向きを変えて測定した複数の測定データを比較することを含んでもよい。
図7(A)~
図7(D)において、基板表面の高低差はグレースケールで表され、輝度が低いほど、高さが低い。
図8及び
図9において同様である。なお、基板表面の高低差は、カラーで表されてもよい。また、基板表面の高低差は、等高線で表されてもよい。
【0050】
第1基板の欠点に起因する異常点Pは、第2基板に実際には存在しない。従って、第2基板を回転させて第2基板の表面形状を測定しても、異常点Pの位置は回転しない。異常点Pは、不動点として観測される。なお、
図7(A)~
図7(D)は、異なる回転角で測定した同じ第2基板の表面形状を示す画像データであるので、回転させれば、異常点Pを除き同じ画像データになる。
【0051】
ステップS205は、
図8(A)~
図8(C)に示すように2枚以上(
図8では3枚)の第2基板の表面形状の測定データを比較することを含んでもよい。第1基板の欠点に起因する異常点Pは、第2基板に実際には存在しない。従って、異なる第2基板の表面形状を測定しても、異常点Pの位置は変化しない。異常点Pは、不動点として観測される。なお、
図8(A)~
図8(C)は、異なる第2基板の表面形状を示す画像データであるので、回転させても回転させなくても同じ画像データにはならない。
【0052】
ステップS205で比較する測定データとして、高低差を示す画像データを用いることが好ましい。画像データをディスプレイに表示することで、画像データ同士の共通点と相違点を目視で確認できる。複数の画像データは、横に並べて同時に表示してもよいし、同時に表示することなく同じ領域に順番に表示してもよい。後者の場合、不動点である異常点Pの位置が分かりやすい。比較する画像データの枚数は、2枚以上であればよいが、好ましくは3枚~10枚である。
【0053】
ステップS206は、異常点Pとその近傍の表面形状を示す輪郭曲線を平滑化することを含む。先ず、誤差に基づき補正した品質保証領域の測定データD1(
図9(A)参照)から、一部の領域の測定データD2(
図9(B)参照)を切り出す。切り出す領域は、その中心に異常点Pを含む。切り出す領域は、平滑化の方法に応じて適宜決められるが、例えば一辺の長さが10mm~50mmの正方形の領域である。
【0054】
次に、切り出した領域の表面形状を示す輪郭曲線を平滑化することで、異常点Pをぼかした平滑化データD3(
図9(C)参照)を作成する。その後、平滑化データD3の一部を切り出すことで、置換データD4を作成する。置換データD4は、元の測定データD1の一部と置き換えるためのものである。
【0055】
置換データD4を作成する領域は、その中心に異常点Pを含む。置換データD4を作成する領域は、平滑化データD3を作成する領域よりも小さい。異常点Pとその近傍を平滑化すると共に、その他の領域の凹凸を保存することができる。置換データD4を作成する領域は、例えば一辺の長さが0.5mm~3mmの正方形の領域である。
【0056】
最後に、元の測定データD1の一部を置換データD4と置換することで、測定精度を向上した測定データD5(
図9(D)参照)を作成する。作成した測定データD5は、例えばマスクブランク用基板210の局所加工(
図1のステップS103)に用いられる。これにより、基板210の平坦度を精度良く向上できる。
【0057】
ステップS206は、第1ガウシアンフィルタを用いることを含んでもよい。第1ガウシアンフィルタを用いることは、例えば異常点とその近傍の表面形状を示す輪郭曲線から第1閾値以上の波長成分を抽出することを含む。第1閾値は、好ましくは1.0mm~10.0mmである。第1閾値以上の波長成分を抽出することで、第1閾値未満の波長成分を除去でき、平滑化を実現できる。
【0058】
具体的には、JIS B 0634:2017に基づき、カットオフ波長(λc)が第1閾値である正規分布曲線と、輪郭曲線とを畳み込み積分することで、低周波数成分(つまり長波長成分)を抽出した輪郭曲線を得る。第1閾値が5.0mmである場合のローパスフィルタの振幅伝達率は
図10の実線のようになり、カットオフ波長(λc)5.0mmの点でゲインが0.5となる。なお、畳み込み積分の際には遮断定数は用いていない。
【0059】
なお、異常点Pとその近傍の表面形状を平滑化する方法は、特に限定されない。例えば、ガウス分布とは異なるゲイン分布のフィルタを用いてもよい。ゲインは全ての波長で同一であってもよく、平均化フィルタが用いられてもよい。また、異常点Pとその近傍の表面形状を削除した後に、内挿法で異常点Pとその近傍の表面形状を再構築してもよい。
【0060】
ステップS206は、上記の通り、誤差に基づき補正した測定データD1を加工することで、異常点Pとその近傍の表面形状を示す輪郭曲線を平滑化することを含む。但し、本開示の技術はこれに限定されない。ステップS206は、測定データを誤差に基づき補正する前に誤差そのものを補正することで、異常点Pとその近傍の表面形状を示す輪郭曲線を平滑化することを含んでもよい。誤差を補正することは、誤差に含まれる第1基板の欠点に起因する成分を低減することを有する。
【0061】
表面形状の測定方法は、ステップS206の後に、第2ガウシアンフィルタを用いて、記第2基板の表面形状を示す輪郭曲線から第2閾値以下の波長成分を抽出することを有してもよい(不図示)。第2閾値は、好ましくは5.0mm~15.0mmである。第2閾値は、第1閾値以上であってよい。第2閾値以下の波長成分を抽出することで、第2閾値を超える波長成分を除去できる。
【0062】
具体的には、JIS B 0634:2017に基づき、カットオフ波長(λc)が第2閾値である正規分布曲線と、輪郭曲線とを畳み込み積分することで得た新しい輪郭曲線を、元の輪郭曲線から差し引くことで、高周波数成分(つまり短波長成分)を抽出した輪郭曲線を得る。第2閾値が5.0mmである場合のハイパスフィルタの振幅伝達率は
図10の破線のようになり、カットオフ波長(λc)5.0mmの点でゲインが0.5となる。なお、畳み込み積分の際には遮断定数を0.7とする。
【0063】
第2ガウシアンフィルタを用いて短波長成分を抽出することで、基板210の局所加工(
図1のステップS103)において重要な情報を抽出できる。局所加工は、短波長成分を除去する加工である。
【0064】
ステップS206において平滑化することは、平滑化しない場合に比べて、第2ガウシアンフィルタを用いて抽出した成分の最大高低差(PV値)を低減することであることが好ましい。PV値は、最小二乗法で近似した平面を基準高さとしたときの最大高低差である。PV値が小さいほど、平坦度が良い。
【0065】
なお、後述する表1から明らかなように、第1ガウシアンフィルタを用いて平滑化すれば、第2ガウシアンフィルタを用いて抽出した成分のPV値を低減できる。
【0066】
表1に示すように、表面形状の測定方法は、第1基板と測定機の組み合わせを複数準備することと、複数の測定機を用いて測定した同じ第2基板の表面形状の測定データを比較することで、欠点が付いた第1基板と測定機の組み合わせを決定することと、を有してもよい。ここで、比較する測定データは、誤差に基づく補正後の測定データである。
【0067】
【0068】
上記の通り、予め検出した誤差に、第1基板の欠点に起因する成分が含まれることがある。この場合に、誤差に基づき第2基板の表面形状の測定データを補正すると、第1基板の欠点に起因する異常点が第2基板の補正した測定データに現れ、平坦度が悪化する。平坦度は、いわゆるPV値で表す。PV値が大きいほど、平坦度が悪い。
【0069】
ここで、平坦度は、誤差に基づく補正後の測定データから第2ガウシアンフィルタを用いて抽出した波長成分の平坦度であることが好ましい。また、平坦度は、誤差に基づく補正後の測定データから第1ガウシアンフィルタを用いて抽出した波長成分から、さらに第2ガウシアンフィルタを用いて抽出した波長成分の平坦度であることがより好ましい。
【0070】
欠点が付いた第1基板と測定機の組み合わせを決定することは、複数の測定機を用いて測定した同じ第2基板の平坦度を比較することを含んでもよい。表1において、平坦度が最も悪い組み合わせは、第4組である。従って、欠点が付いた第1基板と測定機の組み合わせは、第4組であると決定する。
【0071】
平坦度は、表1に示すように数値化して比較してもよいが、画像データのまま比較してもよい。欠点が付いた第1基板と測定機の組み合わせを決定する際に比較する測定データとして、高低差を示す画像データを用いてもよい。
【0072】
準備する第1基板と測定機の組み合わせの数は、信頼性向上の観点から、3以上であることが好ましい。また、準備する第1基板と測定機の組み合わせの数は、コスト低下の観点から、10以下であることが好ましい。
【0073】
以上、本開示に係る表面形状の測定方法、マスクブランク用基板の検査方法およびマスクブランクの製造方法について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0074】
210 マスクブランク用基板(第2基板)