(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-08
(45)【発行日】2026-01-19
(54)【発明の名称】オーステナイト・ステンレス鋼鋳物
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20260109BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20260109BHJP
【FI】
C22C19/05 Z
C22C30/00
(21)【出願番号】P 2021138215
(22)【出願日】2021-08-26
【審査請求日】2024-05-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591274299
【氏名又は名称】新報国マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】稲毛 基大
(72)【発明者】
【氏名】小奈 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】横溝 勇太
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105648345(CN,A)
【文献】特表2010-532425(JP,A)
【文献】特開平05-059475(JP,A)
【文献】特開2002-249838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C22C 19/05
C22C 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.08%以下、
Si:2.50%以上、4.00%以下、
Mn:0.30%以上、2.00%以下、
Cr:17.00%以上、30.00%以下、
Ni:45.00%超、57.00%以下、
Nb:
0.20%以上、3.00%以下、
Mo:0%以上、5.00%以下、
Se:0%以上、0.50%以下、
Te:0%以上、0.10%以下、
Bi:0%以上、0.50%以下、
W :0%以上、2.00%以下、
Ti:0%以上、2.00%以下、
Al:0%以上、2.00%以下、
Ce:0%以上、0.20%以下、
La:0%以上、0.20%以下、
Mg:0%以上、0.20%以下、及び
N :0%以上、0.30%以下
を含有し、残部がFe及び不純物である
ことを特徴とするオーステナイト・ステンレス鋼鋳物。
【請求項2】
質量%で、
C :0.08%以下、
Si:2.50%以上、4.00%以下、
Mn:0.30%以上、2.00%以下、
Cr:17.00%以上、30.00%以下、
Ni:45.00%超、57.00%以下、
Nb:0%以上、3.00%以下、
Mo:1.00%以上、5.00%以下
、
Se:0%以上、0.50%以下、
Te:0%以上、0.10%以下、
Bi:0%以上、0.50%以下、
W :0%以上、2.00%以下、
Ti:0%以上、2.00%以下、
Al:0%以上、2.00%以下、
Ce:0%以上、0.20%以下、
La:0%以上、0.20%以下、
Mg:0%以上、0.20%以下、及び
N :0%以上、0.30%以下
を含有し、残部がFe及び不純物である
ことを特徴とするオーステナイト・ステンレス鋼鋳物。
【請求項3】
質量%で、
C :0.08%以下、
Si:2.50%以上、4.00%以下、
Mn:0.30%以上、2.00%以下、
Cr:17.00%以上、30.00%以下、
Ni:45.00%超、57.00%以下、
Nb:0%以上、3.00%以下、
Mo:0%以上、5.00%以下、
Se:0%以上、0.50%以下、
Te:0%以上、0.10%以下、
Bi:0%以上、0.50%以下、
W :0%以上、2.00%以下、
Ti:0%以上、2.00%以下、
Al:0%以上、2.00%以下、
Ce:0%以上、0.20%以下、
La:0%以上、0.20%以下、
Mg:0%以上、0.20%以下、及び
N :0%以上、0.30%以下
を含有し、さらに、Se:0.19%以上、0.50%以下、Te:0.008%以上、0.10%以下、Bi:0.31%以上、0.50%以下の1種以上を含有
し、残部がFe及び不純物である
ことを特徴とす
るオーステナイト・ステンレス鋼鋳物。
【請求項4】
質量%で、
C :0.08%以下、
Si:2.50%以上、4.00%以下、
Mn:0.30%以上、2.00%以下、
Cr:17.00%以上、30.00%以下、
Ni:45.00%超、57.00%以下、
Nb:0%以上、3.00%以下、
Mo:0%以上、5.00%以下、
Se:0%以上、0.50%以下、
Te:0%以上、0.10%以下、
Bi:0%以上、0.50%以下、
W :0%以上、2.00%以下、
Ti:0%以上、2.00%以下、
Al:0%以上、2.00%以下、
Ce:0%以上、0.20%以下、
La:0%以上、0.20%以下、
Mg:0%以上、0.20%以下、及び
N :0%以上、0.30%以下
を含有し、さらに、W:0.98%以上、2.00%以下、Ti:0.21%以上、2.00%以下、Al:0.51%以上、2.00%以下の1種以上を含有
し、残部がFe及び不純物である
ことを特徴とす
るオーステナイト・ステンレス鋼鋳物。
【請求項5】
質量%で、
C :0.08%以下、
Si:2.50%以上、4.00%以下、
Mn:0.30%以上、2.00%以下、
Cr:17.00%以上、30.00%以下、
Ni:45.00%超、57.00%以下、
Nb:0%以上、3.00%以下、
Mo:0%以上、5.00%以下、
Se:0%以上、0.50%以下、
Te:0%以上、0.10%以下、
Bi:0%以上、0.50%以下、
W :0%以上、2.00%以下、
Ti:0%以上、2.00%以下、
Al:0%以上、2.00%以下、
Ce:0%以上、0.20%以下、
La:0%以上、0.20%以下、
Mg:0%以上、0.20%以下、及び
N :0%以上、0.30%以下
を含有し、さらに、Ce:0.04%以上、0.20%以下、La:0.06%以上、0.20%以下、Mg:0.01%以上、0.20%以下の1種以上を含有
し、残部がFe及び不純物である
ことを特徴とす
るオーステナイト・ステンレス鋼鋳物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のオーステナイト・ステンレス鋼鋳物からなる焼却炉の火格子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオーステナイト・ステンレス鋼鋳物に関し、特に耐σ脆化性に優れたオーステナイト・ステンレス鋼鋳物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の使用削減の試みとして、バイオマス資源の活用が検討されている。 バイオマス資源は、無駄に廃棄されている資源の再活用の意味もあり、これを燃焼に活用することが化石燃料の使用削減に結びつき注目されている。
【0003】
バイオマスボイラとしては、砂等の不活性無機物を熱媒体となるベッド材として火炉に充填し、炉床から空気吹き出しノズルを通して燃焼ガスを吹き込んでベッド材を攪拌し、このベッド材を所望温度に保持しつつ、処理対象物を燃焼できる形式であり、広く普及している。
【0004】
近年では、様々なバイオマス資源を燃料としていることから、H2O、CO2、及びO2による酸化の他,プラスチック類の燃料から発生する塩素による塩化及び廃タイヤから発生する二酸化硫黄による腐食が問題となっている。腐食は、侵食したCl、S、Oが空気吹き出しノズルのマトリックスに腐食層を生成して蒸発あるいは剥離する現象である。
【0005】
そのため、上述のようなバイオマスボイラや、あるいは、廃棄物焼却炉のような、高温域で腐食ガスと溶融塩が存在するような雰囲気で用いられるノズル、熱交換器、火格子のような部品には、高い耐腐食性が求められる。
【0006】
特許文献1には、ごみ廃却廃熱ボイラ管用鋼高合金鋼が開示されており、耐応力腐食割れ性及び耐粒界腐食に優れた溶融塩を生成するごみ焼却炉の廃熱ボイラ管用高合金を提案している。
【0007】
特許文献2には、砂による摩耗に優れたノズル材質が開示されている。
【0008】
特許文献3には、高温域の複合ガス雰囲気中で優れた耐摩耗性、耐腐食性を有する、バイオマス用空気吹き出しノズルに用いることができる鋳物が開示されている。
【0009】
特許文献4には、小型水素発生器の構造材料に好適な、耐スケール剥離性,耐浸炭性,耐σ脆化性を高レベルで両立させたオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平4-350149号公報
【文献】特開2017-78198号公報
【文献】特開2021-025080号公報
【文献】特開2003-129192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ゴミ焼却炉の火格子は高温環境下で使用されるため、鋳物で火格子を製造する場合は、塩化、硫化、酸化による腐食の対策が重要となる。
【0012】
特許文献1では、塑性加工品に関し、熱間鍛造などの塑性加工が施されている。これに対し、鋳物の合金組織は、塑性加工により生じた合金組織とは異なり、鋳造時の凝固組織がそのまま残ったものである。鋳物は、鋳型に溶湯を流し込むことにより任意の形状が得られるので、塑性加工品に比べて製造が容易であるという利点がある。
【0013】
特許文献2には砂による摩耗に優れたノズルに用いることができる鋳鉄が開示されているが、複合ガス雰囲気中における耐腐食性について、改善の余地がある。
【0014】
特許文献3は、特許文献1、特許文献2の問題点を改善するためになされた発明である。特許文献3によれば、高温域の複合ガス雰囲気中で優れた耐摩耗性、耐腐食性を有する、バイオマス用空気吹き出しノズルに好適な鋳物を得ることができる。
【0015】
しかしながら、特許文献3の鋳物を、たとえば、バイオマスボイラのような焼却炉の火格子のように、使用時の高温、停止時の常温の間の温度変化が繰り返されるような環境で、焼却炉内に固定されて用いられるような場合には、σ脆化に対する耐性に改善の余地がある。
【0016】
σ脆化はCrやMoが多く含有される鋼で生じやすく、800℃付近でσ相が析出することにより生じる現象である。σ相が生じると冷却後の靭性に悪影響を与え、何らかの振動や衝撃により破損に至る要因となり得る。
【0017】
特許文献4は小型水素発生器の構造材料に好適な、耐スケール剥離性、耐浸炭性、耐σ脆化性を両立させたオーステナイト系ステンレス鋼を開示しているが、焼却炉の火格子の材料として用いるのは改善の余地がある。
【0018】
本発明は、上記の事情に鑑み、高温域の複合ガス雰囲気中で使用し、室温に冷却されることが繰り返されるような温度変化がある場合であっても破損しない、優れた耐腐食性、耐σ脆化性を有する、たとえば焼却炉の火格子に用いることができる鋳物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、高温域の複合ガス雰囲気中で使用し、室温に冷却されることが繰り返されるような温度変化がある場合であっても優れた耐σ脆化性を有する鋼鋳物の成分組成について鋭意検討した。
【0020】
CrはH2O、O2などの酸化雰囲気において、安定なCr2O3又はFeCr2O4を生成して耐高温腐食性に有効である。しかし、SO2あるいはCl2を含有する燃焼ガス雰囲気では、CrS又はCrCl2を生成する。硫化反応が進行するとマトリックスのCr量が減少して耐腐食性が低下し、同様に塩化反応が進行すると反応生成物が蒸発することでマトリックスのCr量が減少し耐腐食性が低下する。このような、マトリックスのCr量の減少による耐腐食性の低下を抑制するためには、Siの添加が有効であると知られている。
【0021】
本発明者らは、さらに、Niを多量に添加するとオーステナイト相が安定化し、σ相の析出が抑制され、耐σ脆化性を向上させることを見出した。また、Niが腐食せずに残存するため、耐腐食性も向上することを見出した。
【0022】
本発明は上記の知見に基づきなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0023】
(1)質量%で、C:0.08%以下、Si:2.50%以上、4.00%以下、Mn:0.30%以上、2.00%以下、Cr:17.00%以上、30.00%以下、Ni:45.00%超、57.00%以下、Nb:0%以上、3.00%以下、Mo:0%以上、5.00%以下、Se:0%以上、0.50%以下、Te:0%以上、0.10%以下、Bi:0%以上、0.50%以下、W:0%以上、2.00%以下、Ti:0%以上、2.00%以下、Al:0%以上、2.00%以下、Ce:0%以上、0.20%以下、La:0%以上、0.20%以下、Mg:0%以上、0.20%以下、及びN:0%以上、0.30%以下を含有し、残部がFe及び不純物であることを特徴とするオーステナイト・ステンレス鋼鋳物。
【0024】
(2)Nbを、質量%で、0.20%以上、3.00%以下含有することを特徴とする前記(1)のオーステナイト・ステンレス鋼鋳物。
【0025】
(3)Moを、質量%で、1.00%以上、5.00%以下含有することを特徴とする前記(1)又は(2)のオーステナイト・ステンレス鋼鋳物。
【0026】
(4)質量%で、Se:0.001%以上、0.500%以下、Te:0.001%以上、0.100%以下、Bi:0.001%以上、0.100%以下の1種以上を含有することを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかのオーステナイト・ステンレス鋼鋳物。
【0027】
(5)質量%で、W:0.001%以上、2.00%以下、Ti:0.001%以上、2.00%以下、Al:0.001%以上、2.00%以下の1種以上を含有することを特徴とする前記(1)~(4)のいずれかのオーステナイト・ステンレス鋼鋳物。
【0028】
(6)質量%で、Ce:0.001%以上、0.20%以下、La:0.001%以上、0.20%以下、Mg:0.001%以上、0.20%以下の1種以上を含有することを特徴とする前記(1)~(5)のいずれかのオーステナイト・ステンレス鋼鋳物。
【0029】
(7)前記(1)~(6)のいずれかのオーステナイト・ステンレス鋼鋳物からなる焼却炉の火格子。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、高温域の複合ガス雰囲気中で高い耐腐食性、及び耐σ脆化性を有する、たとえば焼却炉の火格子に好適なオーステナイト・ステンレス鋼鋳物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明する。はじめに、本発明の耐熱耐摩耗鋳鉄の成分組成について説明する。以下、成分組成についての「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0032】
Cは、鋼中のCrと結合して結晶粒界にCr炭化物として析出する。Crが炭化物として析出すると、基地のCr濃度が低下して耐高温酸化性が劣るので、Cの含有量は少ないほうが好ましい。したがって、Cの含有量は0.08%以下、好ましくは0.05%以下とする。
【0033】
Siは、脱酸剤として働く元素であり、また、特に高温における耐酸化性、耐食性を向上させるために必要な元素である。この効果を十分に得るためにSiの含有量は2.50%以上、好ましくは2.70%以上とする。σ脆化を考慮して、Siの含有量は4.00%以下、好ましくは3.50%以下とする。
【0034】
Mnは、オーステナイト形成元素であり、また、脱酸剤、脱硫剤として有用な成分である。その効果を十分に得るために、Mnの含有量は0.30%以上とする。鋳鉄の脆化の防止や、クリープ強度の低下の防止の観点から、Mnの含有量の上限は2.00%以下とする。
【0035】
Crは高温強度、及び高温での耐酸化性を向上する元素である。その効果を十分に得るために、Crの含有量は17.00%以上、好ましくは19.0%以上とする。バイオマスボイラのような、溶融塩化物が付着するような環境下ではCrの含有量が多くなりすぎると、揮発性のCr2O2Cl2が形成され、耐高温酸化性が低下するので、Crの含有量は30.00%以下、好ましくは28.00%以下とする。
【0036】
Niはオーステナイト形成元素であり、σ相の析出が抑制し、耐σ脆化を向上する元素である。さらに、高温強度や高温での耐食性を向上する元素でもある。また、Niが腐食せずに残存することにより、耐腐食性を向上させる。さらに、加工硬化量を増し、耐摩耗性を高める効果がある。この効果を得るために、Niの含有量は45.00%超、好ましくは46.00%以上、より好ましくは48.00%以上とする。材料コストと効果のバランスを考慮し、Niの含有量は57.00%以下、好ましくは56.00%以下、より好ましくは54.00%以下とする。
【0037】
Nbは炭化物を形成しやすいので、鋼中のCを固定してCr炭化物の析出を抑制することができ、高温強度の低下を防ぐことができる。この効果は少量の添加でもCr炭化物の析出を抑制する効果があるが、添加の効果を十分に得るには、0.20%以上添加するのが好ましく、0.50%以上添加するのがより好ましい。各元素とも、含有量が3.00%を超えると効果が飽和するので、上限は3.00%、好ましくは2.50%とする。
【0038】
本発明のオーステナイト・ステンレス鋼鋳物には、さらに、Moを含有させることができる。Moはオーステナイト中に固溶して、耐摩耗性を高める効果がある。この効果は少量の添加でも得られるが、添加の効果を十分に得るには、Moの含有量を1.00%以上とするのが好ましい。Moの含有量が多くても、効果は飽和し、また、偏析による靭性低下を生じる可能性があるので、上限は3.00%とする。
【0039】
本発明のオーステナイト・ステンレス鋼鋳物には、さらに、Se、Te、Biの1種以上を含有させることができる。
【0040】
Seは、一般に難削鋼であるオーステナイト・ステンレス鋼の被削性を向上させるための元素であり、必要に応じて含有させることができる。この効果は少量の添加でも得られるが、0.001%以上添加させると効果的である。Seの含有量が多すぎても効果が飽和するだけなので、上限は0.50%とする。
【0041】
Teは、Seと同様に被削性を向上させるための元素であり、必要に応じて含有させることができる。この効果は少量の添加でも得られるが、0.001%以上添加させると効果的である。Teの含有量が多すぎても効果が飽和するだけなので、上限は0.10%とする。
【0042】
Biは、SeやTeと同様に被削性を向上させるための元素であり、必要に応じて含有させることができる。この効果は少量の添加でも得られるが、0.001%以上添加させると効果的である。Biの含有量が多すぎても効果が飽和するだけなので、上限は0.50%とする。
【0043】
Se、Te又はBiを添加することで、切削抵抗の減少、工具寿命の延長、構成刃先の抑制、仕上げ面性状の改善、切りくず破砕性の改善という効果が得られる。
【0044】
なお、これらの元素を添加すると熱間加工性が低下するため、鍛造や圧延を施すには好ましくない。本発明のオーステナイト・ステンレス鋼鋳物は鋳造ままの鋳物であるから、熱間加工性の低下は大きな問題とはならず、Se、Te及びBiの添加が被削性向上に有効である。
【0045】
本発明のオーステナイト・ステンレス鋼鋳物には、さらに、W、Ti、Alの1種以上を含有させることができる。
【0046】
Wは炭化物を形成しやすく、鋼中のCを固定してCr炭化物の析出を抑制することができ、高温強度の低下を防ぐことができる。この効果は少量の添加でも得られる、0.001%以上添加させると効果的である。Wの含有量が多すぎても効果が飽和するだけなので、上限は2.00%とする。
【0047】
TiはWと同様に、Cr炭化物の析出を抑制することができ、高温強度の低下を防ぐことができる元素である。この効果は少量の添加でも得られる、0.001%以上添加させると効果的である。Tiの含有量が多すぎても効果が飽和するだけなので、上限は2.00%とする。
【0048】
AlはWやTiと同様に、Cr炭化物の析出を抑制することができ、高温強度の低下を防ぐことができる元素である。この効果は少量の添加でも得られる、0.001%以上添加させると効果的である。Alの含有量が多すぎても効果が飽和するだけなので、上限は2.00%とする。
【0049】
本発明のオーステナイト・ステンレス鋼鋳物には、さらに、Ce、La、Mgの1種以上を含有させることができる。
【0050】
CeはSと結びついてSの粒界偏析を抑え、靭性の低下を抑制することができる。この効果は少量の添加でも得られる、0.001%以上添加させると効果的である。Ceの含有量が多すぎても効果が飽和するだけなので、上限は0.20%とする。
【0051】
LaはCeと同様に、靭性の低下を抑制することができる元素である。この効果は少量の添加でも得られる、0.001%以上添加させると効果的である。Laの含有量が多すぎても効果が飽和するだけなので、上限は0.20%とする。
【0052】
MgはCeやLaと同様に、靭性の低下を抑制することができる元素である。この効果は少量の添加でも得られる、0.001%以上添加させると効果的である。Mgの含有量が多すぎても効果が飽和するだけなので、上限は0.20%とする。
【0053】
本発明のオーステナイト・ステンレス鋼鋳物には、さらに、Nを含有させることができる。Nは応力腐食割れを防止する効果があり、固溶強化により鋼の強度を向上させる元素でもある。また、Nはオーステナイト安定化元素でもある。これらの効果は少量の添加でも得られるが、添加の効果を十分に得るには、Nの含有量を0.01%以上とするのが好ましい。Nの含有量が多くなると、鋼塊中にブローホールによる欠陥が発生するおそれがあるので、上限は0.30%とする。なお、Nは意図的に添加しなくても、鋼中に不純物として0.02%以下程度含有される可能性がある。0.02%以下のNが意図せずに含有されたとしても、本発明のオーステナイト・ステンレス鋼鋳物に悪影響はない。
【0054】
成分組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。不可避的不純物とは、本発明で規定する成分組成を有する鋳物を工業的に製造する際に、原料や製造環境等から不可避的に混入するものをいい、たとえば、P、Sがあげられる。P、Sは、通常0.030%以下程度、鋳物に不可避的に混入する。
【0055】
本発明の製造方法は、特に限定されるものではなく、常法によればよい。はじめに、上述した成分組成を有する溶湯を調整し、溶湯を鋳型に注湯し、注湯された溶湯を冷却して凝固させる。本発明鋳鉄は原則として鋳放しのまま使用されるが、必要に応じて溶体化処理をすることができる。
【0056】
本発明の成分組成を有する溶湯を鋳造することにより、特別な製法を用いることなく、鋳造ままで優れた耐σ脆化性を有するオーステナイト・ステンレス鋼鋳物を得ることが可能である。
【0057】
なお、本発明のオーステナイト・ステンレス鋼鋳物は、所定の形状の鋳型に鋳込んだ後に塑性加工を施さない鋼であり、熱間圧延や鍛造のような塑性加工が施された合金とは区別される。すなわち、鋳物は合金組織として鋳造したままの凝固組織が残ったものであるのに対し、塑性加工が施された合金は加工により生じた合金組織を有するものであり、その組織は大きく異なるものである。本発明の鋳物では、結晶粒の大きさは0.2~10.0mm程度となる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を用いて、本発明をより具体的に説明する。以下にあげる例は本発明の実施態様の一例であり、本発明が以下の実施例により制限されるものでないことはいうまでもない。
【0059】
表1に示す成分組成を有する鋳物を製造し、耐腐食性、及び耐σ脆化性を評価した。なお、表1中の空欄は、当該元素を意図的に添加していないことを示す。
【0060】
耐腐食性は、製造した鋳物からφ15mm×20Lの丸棒試験片を採取し、溶融塩(NaCl-KCl(1:1))10gに、700℃で100Hr浸漬させる腐食試験を実施し、試験後に試験片を切断して、断面の腐食深さを測定することにより評価した。その結果、腐食深さが0.60mm以下のものを耐腐食性に優れると判断した。
【0061】
耐σ脆化性は、製造した鋳物に800℃×144Hrの時効処理を実施し、常温引張試験により評価した。時効処理後の常温引張試験の伸びが6%未満であると、σ脆化により割れが生じる危険性があるので、伸びが6%以上のものを耐σ脆化性に優れると判断した。
【0062】
表1に結果を示す。
【0063】
表1に示すNo.1~25は本発明の鋼を用いた発明例、No.31~33は一般的な鋼を用いた比較例である。表1に示すように、本発明の鋳物は、高温域における耐腐食性、耐σ脆化性に優れていることが確認できた。
【0064】