(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-08
(45)【発行日】2026-01-19
(54)【発明の名称】遷移金属ジカルゴゲナイド薄膜を備える光電変換素子及び該光電変換素子を備える受光素子
(51)【国際特許分類】
H10F 30/10 20250101AFI20260109BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20260109BHJP
【FI】
H10F30/10
B82Y20/00
(21)【出願番号】P 2022578042
(86)(22)【出願日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2021036590
(87)【国際公開番号】W WO2022163024
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2024-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2021010228
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514274672
【氏名又は名称】延世大学校 産学協力団
【氏名又は名称原語表記】UIF (University Industry Foundation), Yonsei University
【住所又は居所原語表記】50,YONSEI-RO, SEODAEMUN-GU, SEOUL 03722, REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】仲沢 達也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒョンジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム ドンヒョン
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0372163(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110993731(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0164717(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106984830(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111029416(CN,A)
【文献】ZHANG, Kaixuan et al.,"Recent progress and challenges based on two-dimensional material photodetectors",Nano Express,2021年01月04日,Vol.2, Article Number 012001,pp.1-21
【文献】Yi Wang et al.,"High-speed infrared two-dimensional platinum diselenide photodetectors",Applied Physics Letters,2020年,Vol.116,pp.211101-1 - 211101-5,<DOI: 10.1063/5.0010034>
【文献】Michele N. Cristiano et al.,"Quantifying and optimizing photocurrent via optical modeling of gold nanostar-, nanorod-, and dimer-decorated MoS2 and MoTe2",The Journal of Chemical Physics,2020年,Vol.152,pp.014705-1 - 014705-8,<DOI: 10.1063/1.5127279>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10F 10/00-99/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の上に形成された遷移金属ジカルコゲナイドからなる薄膜と、を含み、700nm~1600nmの波長域で作用する光電変換素子であって、
前記遷移金属ジカルコゲナイドは、Pt又はPdのカルコゲナイドであり、
前記遷移金属ジカルコゲナイドからなる薄膜の表面が、AuからなるAuナノロッド粒子及びAgからなるAgナノロッド粒子の少なくともいずれかのナノロッド粒子により修飾されており、
前記Auナノロッド粒子の平均アスペクト比(長軸/短軸)が3.0以上12.0以下であり、
前記Agナノロッド粒子の平均アスペクト比(長軸/短軸)が3.0以上13.0以下であ
り、
ナノロッド粒子で修飾された遷移金属ジカルコゲナイドからなる薄膜の表面を走査型電子顕微鏡により倍率50000倍で観察したとき、反射電子像の観察視野領域の面積を基準とするナノロッド粒子の投影面積の合計の面積比率が0.1%以上1%以下である、光電変換素子。
【請求項2】
遷移金属ジカルコゲナイドのカルコゲン元素は、硫黄、セレン、テルルのいずれかである
請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
ナノロッド粒子の短軸の平均は、10nm以上60nm以下である
請求項1又は請求項2記載の光電変換素子。
【請求項4】
基材は、ガラス、石英、シリコン、炭素、セラミックス又は金属のいずれかよりなる
請求項1~請求項3のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載の光電変換素子を含む受光素子
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属ジカルゴゲナイドからなる薄膜を備える光電変換素子に関する。詳しくは、遷移金属ジカルゴゲナイドからなる薄膜の表面を金属ナノロッド粒子で修飾し、当該金属ナノロッド粒子の局在表面プラズモン共鳴により、近赤外線領域の波長の光に対する応答特性が向上された光電変換素子及びこの光電変換素子を備える受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、受光素子や太陽電池等の光電変換素子を備える受光デバイスや電界効果トランジスタ(FET)等の各種の半導体デバイスを構成する半導体材料として、遷移金属ジカルコゲナイド(TMDC:Transition Metal Dichalcogenide)が注目されている。遷移金属ジカルコゲナイドとは、遷移金属に属する第3族元素~第11族元素の金属(M)と、酸素を除くカルコゲン元素(X)との化合物(MX2)である。遷移金属ジカルコゲナイドは、中心金属Mの種類に基づき、特異な電気的特性や光半導体特性を示し、これにより前記の各種用途に利用される(例えば、特許文献1)。
【0003】
遷移金属ジカルコゲナイドの応用が特に期待される用途として、センサ等の受光素子を構成する光電変換素子が挙げられる。その一例として、LIDAR(Light Detection and Ranging)に適用される受光素子について説明する。LIDARとは、レーザー光を用いたセンシング技術であり、レーザー光を対象物に照射し、その反射光を受光素子で感知して対象物との距離・角度を検出するシステムである。LIDARは、カメラやミリ波レーダによる検出システムに対して、対象物との距離・角度を高精度に検出できるという利点がある。そして、これまでLIDARは、自動車自動運転・ドローン・船舶等におけるリモートセンシングシステムとして活用される技術である。また、最近では、スマートフォンやタブレット等における顔認証技術や拡張現実(AR)技術へも応用されている。
【0004】
LIDARに適用される光電変換素子として従来から検討されている半導体材料としては、HgCdTe合金(Hg1-XCdXTe合金:MCT合金)やInGaAs合金(In1-XGaXAs合金)が挙げられる(例えば、特許文献2、特許文献3)。これらの半導体合金は、適宜の組成(x)を設定することでバンドギャップが調整可能であり、1~30μmの広範な赤外線の検出が可能である。これらの合金を用いた受光素子(光電導素子)も既に市販されている。
【0005】
しかし、HgCdTe合金やInGaAs合金のLIDARの受光素子に適用する際には、性能面や製造コスト等の観点からの問題が指摘されている。性能面においては、HgCdTe合金は、室温におけるSN比が低くノイズの発生なく動作させるためには素子の冷却が必要となる。冷却のために受光素子ユニットに冷却機構を付加することは、小型化が必須のドローン、スマートフォン等では好ましくない。また、室温での運用が前提となる自動車機器においても冷却機構の付加は好ましくない。InGaAs合金も室温下での応答性に乏しく、更に作動電圧が高く構造的に不安定であるという問題がある。
【0006】
また、HgCdTe合金及びInGaAs合金を使用するデバイスにおいては、製造コスト面でも問題がある。これらの合金を所望の組成で製造するためには、MBE(分子線エピタキシー法)の利用が必須となっている。MBEは超高真空下で実施される薄膜形成プロセスであり、所望の厚さの薄膜形成に要する時間が長いため製造効率が低い。また、これらの合金をMBEにて製造する場合には、基板材質が高価なCdZnTe、GaAs等に限定されている。
【0007】
遷移金属ジカルコゲナイドには、HgCdTe合金及びInGaAs合金で指摘される上記のような問題がない。遷移金属ジカルコゲナイドは、室温域でのSN比が高いことが報告されており、室温域での使用における性能上の問題が解決可能である。また、遷移金属ジカルコゲナイドの製造方法は、MBEに限定されることなく、様々な薄膜形成プロセスが適用可能である。特に、高収率の薄膜形成プロセスとして知られている、化学気相蒸着法(CVD法)・原子層蒸着法(ALD法)等の化学蒸着法での製造が可能である。そして、その際の基板材質の選択肢も広く、Siウエハーやガラス基板(SiO2)にも成膜可能である。よって、遷移金属ジカルコゲナイドはコスト面でも優位にあると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2018-525516号公報
【文献】特公平6-9240号公報
【文献】特開2007-165359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、受光素子等の光電変換素子においては、用途に応じた波長域の光に対して高い応答性が要求される。上記したLIDARに適用される受光素子においては、近赤外線領域の光に対する応答特性を有することが求められる。この点、遷移金属ジカルコゲナイドは、層状構造を有する2次元材料であり、その層数に応じてバンドギャップが変化する半導体材料である。そのため、遷移金属ジカルコゲナイドは、適切な構成とすることで広範な波長域における光応答性を発揮し得る。
【0010】
もっとも、遷移金属ジカルコゲナイドの光応答特性に改善の余地がない訳ではない。遷移金属ジカルコゲナイドは、広範な波長域における光応答性を有するとはいっても、必ずしも十分な感度を有するとは言い難い。上記したLIDAR等の受光素子の性能向上のためには、遷移金属ジカルコゲナイドの近赤外線領域の波長における感度向上が望まれることとなるが、これを遷移金属ジカルコゲナイドの構成の改良のみから達成するのには限界がある。
【0011】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、遷移金属ジカルコゲナイド薄膜を備える光電変換素子について、特に近赤外線領域の波長の光に対する感度を向上させたものを提供することを目的とする。尚、本発明において、感度向上させる近赤外線領域の光とは、700nm近傍~1600nm近傍の波長の光とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題解決する本発明は、基材と、前記基材の上に形成された遷移金属ジカルコゲナイドからなる薄膜と、を含む光電変換素子であって、前記遷移金属ジカルコゲナイドからなる薄膜の表面が、AuからなるAuナノロッド粒子及びAgからなるAgナノロッド粒子の少なくともいずれかのナノロッド粒子により修飾されており、前記Auナノロッド粒子の平均アスペクト比(長軸/短軸)が3.0以上12.0以下であり、前記Agナノロッド粒子の平均アスペクト比(長軸/短軸)が3.0以上13.0以下である、光電変換素子である。
【0013】
本発明では遷移金属ジカルコゲナイド薄膜表面をAu又はAgからなる金属ナノロッド粒子の少なくともいずれかで修飾することで、薄膜の近赤外領域における光感度向上を図るものである。具体的には、本発明は、遷移金属ジカルコゲナイド薄膜が有する光電効果を、所定のアスペクト比の金属ナノロッド粒子で発現する局在表面プラズモン共鳴(LSPR)によって増感させている。ここで、プラズモン共鳴とは、光照射等の外部電場により励起された金属表面の自由電子が集団的に振動し、当該外部電場と共鳴する現象である。そして、AuやAg等の所定の金属のナノ粒子において発生する表面自由電子の振動の外部電場との共鳴は局在プラズモン共鳴と称される。また、AuやAg等のナノ粒子で局在プラズモン共鳴が発生する光の波長は、ナノ粒子のアスペクト比によって変化する。本発明は、Au又はAgからなり、適切なアスペクト比を有するロッド状のナノ粒子(以下、ナノロッド粒子と称する)で遷移金属ジカルコゲナイドを修飾することで、近赤外線領域に対する応答特性を向上させたものである。
【0014】
上記の通り、本発明に係る光電変換素子は、光電効果を有する遷移金属ジカルコゲナイド薄膜と、局在表面プラズモン共鳴により当該薄膜の光電効果を増幅させるナノロッド粒子とを主要構成とする。以下、本発明に係る光電変換素子の構成及び製造方法、並びに本発明に係る光電変換素子を適用した受光素子について詳細に説明する。
【0015】
(A)本発明に係る光電変換素子の構成
(A―1)遷移金属ジカルコゲナイド薄膜
上記の通り、遷移金属ジカルコゲナイドとは、遷移金属に属する第4族元素~第11族元素の金属(M)と、酸素を除くカルコゲン元素(X)との化合物(MX2)である。本発明に係る光電変換素子の遷移金属ジカルコゲナイド薄膜を構成する遷移金属としては、具体的には、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)等が挙げられる。また、カルコゲン元素は、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)が挙げられる。
【0016】
そして、本発明で特に好ましい遷移金属ジカルコゲナイドは、白金族金属であるPt、Pdのカルコゲナイドである。これらの白金族金属のカルコゲナイドは、近赤外線領域における光電効果に優位なバンドギャップを有する半導体材料である。そのため、ナノロッド粒子による増感効果により、近赤外領域の光に対して特に優れた応答特性を発揮し得る。Pt、Pdのカルコゲナイドとは、具体的には、PtSe2、PtS2、PtTe2、PdSe2、PdS2、PdTe2である。尚、Mo、W等の他の金属の遷移金属ジカルコゲナイドは、Pt、Pdのジカルコゲナイドに対してバンドギャップが1eV程度大きく、それ自体は近赤外領域での使用に幾分適さない。但し、Pt、Pd以外の遷移金属のカルコゲナイド薄膜であっても、Au、Agナノロッド粒子の修飾による増感効果が認められることから、それらの遷移金属ジカルコゲナイドへのナノロッド粒子の使用が忌避されることはない。
【0017】
遷移金属ジカルコゲナイドは、各構成元素がイオン結合及び/又は共有結合により強固に結合した2次元物質であり、遷移金属ジカルコゲナイドの薄膜は、前記2次元物質からなる単位層が層状に積層した構造を有する。遷移金属ジカルコゲナイドの単位層は、比較的弱い結合(ファンデルワールス力)によって結合している。本発明における遷移金属ジカルコゲナイドの薄膜においても、前記単位層を単層又は複数層で構成することができる。この層数によって半導体薄膜としてのバンドギャップが変化するため、適用するデバイスに合わせて層数を調整することができる。よって、本発明で遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の厚さを制限する必要はない。例えば、LIDAR等の光学素子への適用には、層数は1層以上3層以下とすることが好ましく、1層以上2層以下とすることがより好ましい。このときの薄膜の厚さは、0.5~5nmとなる。
【0018】
(A―2)Auナノロッド粒子、Agナノロッド粒子
本発明で遷移金属ジカルゴゲナイドからなる薄膜を修飾するのは、Au(金)からなるナノロッド粒子及び/又はAg(銀)からなるナノロッド粒子である。これらの金属はナノ粒子化することで局在表面プラズモン共鳴を優位に発現する金属である。本発明において、Auナノロッド粒子はAuのみからなる粒子であり、Agナノロッド粒子はAgのみからなる粒子である。また、遷移金属ジカルゴゲナイド薄膜の修飾は、Auナノロッド粒子とAgナノロッド粒子の少なくともいずれかを修飾する。
【0019】
Au又はAgからなるナノロッド粒子の局在表面プラズモン共鳴による遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の増感作用のメカニズムとしては、共鳴振動の減衰により生成したホットキャリアに起因するものと推定される。局在表面プラズモン共鳴は、光子放出を伴う放射性再放出、又は、高エネルギーの電子-ホールペア(ホットキャリア)への崩壊を伴う非放射性のランダウ減衰によって減衰することが知られている。本発明においては、後者のランダウ減衰を介して生成したホットエレクトロンが遷移金属ジカルコゲナイドに注入され、これによるキャリア密度上昇によって光電子が増加したことで応答性能が上昇すると推定される。即ち、本発明における増感作用は、電子ドナーであるナノロッド粒子による、電子アクセプターである遷移金属ジカルコゲナイドへのキャリア注入によるものであると考えることができる。
【0020】
こうしたナノロッド粒子の局在表面プラズモン共鳴による増感作用は、下地となる遷移金属ジカルコゲナイド薄膜のバンドギャップの大小に関わらず有効に作用する。遷移金属ジカルコゲナイドのような2次元材料は、層数の増加に伴いバンドギャップが小さくなり、発生する光電流は減少することが知られている。こうしたバンドギャップが小さい領域の遷移金属ジカルコゲナイド薄膜に対しても、本発明は有効である。例えば、PtSe2薄膜について、バンドギャップが1eV以下と小さい領域がある薄膜に対しても、ナノロッド粒子による光電流増感作用は極めて効果的に発揮される。
【0021】
ナノロッド粒子に局在表面プラズモン共鳴を発現させる光の波長は、ナノロッド粒子のアスペクト比(長軸/短軸)によって変化する。具体的には、ナノロッド粒子による増感作用は、低アスペクト比側で短波長側の光に対して発現し、高アスペクト比側の光では長波長側の光で発現する。そして、近赤外領域の波長範囲における増感作用を発揮させるため、Auナノロッド粒子のアスペクト比3.0以上12.0以下とし、Agナノロッド粒子のアスペクトは3.0以上13.0以下とする。尚、本発明では、複数のナノロッド粒子が薄膜表面を修飾することができるが、その場合のアスペクト比とはそれらの平均値とする。
【0022】
尚、ナノロッド粒子に局在表面プラズモン共鳴を発現させる光の波長依存性は、主に上述したアスペクト比に依拠する。即ち、ナノロッド粒子の短軸及び長軸の個々の長さ自体は、局在表面プラズモン共鳴の波長依存性への関与は皆無若しくは僅かであると考えられる。よって本発明において、ナノロッド粒子の寸法は特段に制限する必要はない。但し、好ましくは、短軸が10nm以上60nm以下のナノロッド粒子の適用が好ましい。後述する修飾されたナノロッド粒子の面積率を好ましいものとするとき、過度に大きいナノロッド粒子では面積率を調整することが困難となる。尚、ナノロッド粒子の長軸の長さは、ナノロッド粒子の成長速度等を決定する合成条件によって制御が可能であるので特に限定はされない。
【0023】
これまで述べたように、Au及び/又はAgからなるナノロッド粒子による遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の表面の修飾は、本発明の主要な特徴である。ここで、本発明において修飾とは、物理吸着・化学吸着等の吸着力や、金属結合・イオン結合・共有結合等の結合力によって、遷移金属ジカルコゲナイド薄膜表面に1個又は複数個のナノロッド粒子が結合した状態を意味する。この場合において、単独のナノロッド粒子が個々に分散した状態にあっても良いし、一部又は全部のナノロッド粒子が連結した状態にあっても良い。
【0024】
遷移金属ジカルコゲナイド薄膜表面上のナノロッド粒子の数に制限はない。もっとも、遷移金属ジカルコゲナイド薄膜をナノロッド粒子で修飾する際、ナノロッド粒子の数が多ければ多い程良いという訳ではない。上述のとおり、ナノロッド粒子による増感作用は、局在表面プラズモン共鳴で生じたホットエレクトロンが遷移金属ジカルコゲナイドへ注入されてキャリア密度が上昇することで発現する。ナノロッド粒子を過剰に修飾し、ナノロッド粒子の粒子間隔がホットエレクトロンの平均自由工程よりも小さいと、ナノロッド粒間で導通パスが形成され注入エネルギーの一部がリーク電流を生じさせるおそれがある。そして、遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の半導体としての特性が減じられるおそれがある。よって、例えば、薄膜表面を全面的又はこれに準じた状態で被覆するようにナノロッド粒子を修飾することは好ましくない。
【0025】
遷移金属ジカルコゲナイド薄膜を修飾するナノロッド粒子の数・量については、薄膜の表面積に対するナノロッド粒子が占める比率(密度)に基づき規制することができる。具体的な基準としては、ナノロッド粒子で修飾された遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の表面を観察したとき、観察視野領域の面積を基準とし、薄膜上のナノロッド粒子の面積(投影面積)の合計の面積比率が0.1%以上1%以下とすることが好ましい。0.1%未満では、ナノロッド粒子の修飾による効果が現れ難くなる。また、1%を超えるナノロッド粒子の修飾は、上記したような増感効果の低減の可能性がある。
【0026】
ナノロッド粒子の面積比率の測定の具体的な手法としては、ナノロッド粒子で修飾された遷移金属ジカルコゲナイドからなる薄膜の表面に対して、走査型電子顕微鏡を用いて倍率50000倍~100000倍で表面観察したときの反射電子像の観察視野領域に基づいて行うことが好ましい。この倍率の理由は、倍率が低すぎてもナノロッド粒子の観察が出来ず、倍率が高すぎても観察視野領域におけるナノロッド粒子の分布に偏りが生じて観察結果にバラツキが出るためである。
【0027】
以上説明したナノロッド粒子により修飾された遷移金属ジカルゴゲナイドからなる薄膜は、適宜の基材上に形成されることが好ましい。基材は、遷移金属ジカルゴゲナイドからなる薄膜を支持するための部材である。基材の材質に関しては、遷移金属ジカルゴゲナイドからなる薄膜を支持できるものであれば、どのような材質でも良い。例えば、ガラス、石英、シリコン、セラミックスもしくは金属等の材質が例示される。また、基材の形状及び寸法は、特に限定されない。
【0028】
(A―3)本発明に係る光電変換素子の具体的用途
本発明に係る光電変換素子は、一般的な光電変換素子として適宜にユニット化されて各種用途に適用される。例えば、受光素子、光学センサ、光検出器等の光学デバイス用途の光電変換素子として利用できる。特に、受光素子について、受光感度に優れるため有用である。具体的には、近赤外線領域(波長域:700nm近傍~1600nm近傍)で使用可能であり、かつ、優れた受光感度を有するため、LIDAR用途の受光素子に好適である。
【0029】
(B)本発明に係る光電変換素子の製造方法
次に、本発明に係る光電変換素子の製造方法について説明する。これまで述べた通り、本発明は、遷移金属ジカルコゲナイドからなる薄膜の表面にナノロッド粒子を修飾することを特徴とする。そのため、遷移金属ジカルコゲナイド薄膜へのナノロッド粒子の修飾する工程を必須とするが、その前後の工程である遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の成膜工程と、ナノロッド粒子修飾後の工程についての制限はない。以下、各工程について説明する。
【0030】
(B―1)遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の成膜工程
基材への遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の成膜方法については、特に限定されることなく、従来の遷移金属ジカルコゲナイドの製造方法が適用される。遷移金属ジカルコゲナイドの製造方法としては、基板上に遷移金属薄膜を形成し、これをカルコゲン元素雰囲気(硫黄ガスやセレンガス等)で熱処理してカルコゲナイドとする金属膜反応法の他、スパッタリング法(反応性スパッタリング法)、真空蒸着法等の物理蒸着法や化学気相蒸着法(CVD法)や原子層蒸着法(ALD法)等の化学蒸着法といった薄膜形成プロセスが挙げられる。本発明においては、後者の物理蒸着法や化学蒸着法の適用が好ましい。特に好ましい成膜方法は、化学蒸着法である。
【0031】
化学蒸着法によれば、所望の膜厚(層数)の遷移金属ジカルコゲナイド薄膜を効率的に得ることができる。化学蒸着法による遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の製造方法では、カルコゲン元素雰囲気にある反応器内に、遷移金属の有機金属化合物(プリカーサ)を気化して得られた原料ガスを導入し、加熱した基板上に遷移金属ジカルコゲナイドを析出させる。上記において好適な遷移金属として挙げた白金族金属のプリカーサとしては、白金の場合は、ジメチル(N,N-ジメチル-3-ブタン-1-アミン-N)白金(DDAP)、1,5-ヘキサジエンジメチル白金(HDMP)、(トリメチル)メチルシクロペンタジエニル白金(MeCpPtMe3)、ビス(アセチルアセトナト)白金(Pt(acac)2)等の有機白金化合物が使用される。また、パラジウムについては、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)パラジウム(Pd(hfac)2)、シクロペンタジエニルアリルパラジウム(CpPd(allyl))、ビス(メチルアリル)パラジウム(Pd(Meallyl)2)等の有機パラジウム化合物が使用される。
【0032】
(B―2)ナノロッド粒子の修飾工程
基板上に遷移金属ジカルコゲナイド薄膜を形成後、薄膜表面にナノロッド粒子を修飾する。ナノロッド粒子の生成方法については、既に公知であり、逆ミセル法、電気化学的成長法、コロイド成長法(シード媒介成長法)等のいくつかの製造プロセスが知られている。ナノロッド粒子の製造方法として好ましい方法としては、コロイド成長法である。コロイド成長法は、比較的簡易な装置でナノロッド粒子を生成することでき、生成条件を適切に管理することで、アスペクト比の調整が可能な方法である。
【0033】
コロイド成長法によるナノロッド粒子の製造方法について、一例としてAuのナノロッド粒子の製造法を説明する。Auナノロッド粒子のコロイド成長法では、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、硝酸銀(AgNO3)、塩化金酸(HAuCl4)、水からなる成長溶液と称される溶液が使用される。成長液には前記成分の他に界面活性剤を添加することもある。そして、成長液にシード(種粒子)となるコロイド粒子を加えると共に、アスコルビン酸やヒドロキノン等の還元剤を添加し、成長液中のAuイオン(Au3+)の還元を行いつつAu粒子を成長させる。種粒子となるコロイド粒子としては、AuコロイドやAgコロイドが適用される。種粒子であるコロイド粒子は、塩化白金酸又は硝酸銀等の金属塩とCTABとの水溶液に還元剤(水素化ホウ素ナトリウム等)を添加することで生成可能である。成長液に種粒子を加えるのは、還元されたAuイオンを速やかに金属Au(0価)にし、ロッド粒子の成長を促進するためである。コロイド成長法におけるナノロッド粒子の製造では、種粒子の添加量や成長液の組成や還元剤添加後の反応時間等を調整することでアスペクト比を調節することが可能である。
【0034】
また、コロイド成長法によりナノロッド粒子が生成した後の合成系(合成溶液)には、目的となるアスペクト比のナノロッド粒子以外に、球形・矩形・不定形の粒子が含まれることがある。よって、ナノロッド粒子生成後の合成系については、精製を行い所望のナノロッド粒子を分離回収することが好ましい。この精製方法としては、遠心分離が好ましく、アスペクト比に応じた回転速度(rpm)又は遠心力(xg)と処理時間を設定することで所望のナノロッド粒子を回収することができる。そして、このようにして生成・回収したナノロッド粒子のアスペクト比が、遷移金属ジカルコゲナイド薄膜へ修飾後の光電変換素子のナノロッド粒子のアスペクト比となる。
【0035】
ナノロッド粒子の遷移金属ジカルコゲナイド薄膜への修飾は、ナノロッド粒子を適宜の分散媒に分散させて、分散液を薄膜へ塗布することで可能である。このときの分散媒としては、アルコール、カルボン酸溶液、アミン塩溶液、テトラヒドロフラン、クロロホルム等の水系・有機系分散媒が使用できる。ナノロッド粒子の分散液を塗布する方法としては、特に限定されることはなく、滴下・噴霧・浸漬等の方法でも良いが、好ましくはスピンコート法により均一塗布することが好ましい。尚、Auナノロッド粒子とAgナノロッド粒子の双方を同時に修飾する場合、遷移金属ジカルコゲナイド薄膜への修飾前に、Auナノロッド粒子の分散液とAgナノロッド粒子の分散液とを混合した混合分散液を塗布しても良い。また、いずれか一方のナノロッド粒子の分散液を塗布し、その後に他方のナノロッド粒子の分散液を塗布する段階的な方法であっても良い。
【0036】
また、遷移金属ジカルコゲナイド薄膜表面におけるナノロッド粒子の量(上述した面積率)は、分散液のナノロッド粒子の濃度によって調整可能である。上記した好適な面積率とするための好ましい分散液の濃度としては、1nM以上10nM以下となる。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように、本発明に係る光電変換素子は、従来の遷移金属ジカルコゲナイドに対して、近赤外線領域における応答感度が向上されている。本発明は、遷移金属ジカルコゲナイドが有する低い製造コスト・室温下での使用という利点を維持しつつ、受光素子として好適な感度を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】第1実施形態で製造したAuナノロッド粒子の外観を示すTEM写真。
【
図2】第1実施形態で製造したAuナノロッド粒子の吸収波長の測定結果を示す図。
【
図3】第1実施形態で製造した光電変換素子(Auナノロッド粒子/PtSe
2)の表面形態を示すSEM画像。
【
図4】第1実施形態で製造したAuナノロッド溶液中のAuナノロッド粒子の濃度と面積率との関係を示すグラフ。
【
図5】第1実施形態及び比較例の光電変換素子のIR応答特性を示す図。
【
図6】第1実施形態及び比較例の光電変換素子について、塗布したナノロッド溶液の濃度と光電流との関係を示すグラフ。
【
図7】第2実施形態で製造したAgナノロッド粒子の外観を示すTEM写真。
【
図8】第2実施形態で製造したAgナノロッド粒子の吸収波長の測定結果を示す図。
【
図9】第2実施形態で製造した光電変換素子(Agナノロッド粒子/PtSe
2)の表面形態を示すSEM画像。
【
図10】第2実施形態及び比較例の光電変換素子のIR応答特性を示す図。
【
図11】第1、第2実施形態を参照して製造したAuナノロッド粒子(アスペクト比12.0)とAgナノロッド粒子(アスペクト比13.0)の吸収波長の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
第1実施形態:以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、遷移金属ジカルコゲナイドとしてPtSe2からなる薄膜を基材の上に形成した。そして、ナノロッド粒子としてAuナノロッド粒子を製造して、これを前記薄膜の表面に修飾して光電変換素子を作製した。製造した光電変換素子について、近赤外線に対する光応答特性を評価すると共に、表面形態を検討した。
【0040】
[光電変換素子の製造]
遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の形成
基材として、Si/SiO2基板(表面280nm酸化、寸法:20×20厚さ1.5mm)を用意し、この基材にCVD法(熱CVD)によりPtSe2薄膜を成膜した。まず、基板をCVD装置(ホットウォール式横型CVD装置)にセットすると共に、基板の上流側にセレン粉末5gを配置した。基板温度とセレン粉末の温度はそれぞれ制御可能となっている。成膜前に反応器内をアルゴンガス(200sccm)でパージした。
【0041】
そして、薄膜原料として白金錯体(ジメチル(N,N-ジメチル-3-ブタン-1-アミン-N)白金(DDAP))を使用し、白金錯体を加熱気化してキャリアガスと共に反応器内に導入し、基板上で気化した白金錯体を分解させると共に、白金とセレンと反応させてPtSe2を基板上に析出させてPtSe2薄膜を形成した。成膜条件は、以下の通りである。この成膜工程で基材上に成膜されたPtSe2薄膜の膜厚は、4nmであった。
・原料加熱温度:67℃
・キャリアガス:アルゴン/10sccm
・フローガス:アルゴン/200sccm
・基板温度/セレン粉末加熱温度:400℃/220℃
・成膜時間:15分
【0042】
Auナノロッド粒子の製造
コロイド粒子成長法にてAuナノロッド粒子を製造した。本実施形態では、極大吸収波長940nm(アスペクト比6.0)のAuナノロッド粒子を製造目標とした。まず、種粒子となるAuコロイド粒子を製造した。0.5mMの塩化金酸塩水溶液0.5mLと200mMのCTAB水溶液0.5mLとの混合溶液に、還元剤である10mMの水素化ホウ素ナトリウムを60μL添加し、ボルテックスで2分間激しく攪拌してAuコロイド粒子を製造した。以上で製造した種粒子溶液となるAuコロイド溶液は、次工程のナノロッド粒子の製造工程で使用するまで30℃で保管しておいた。
【0043】
1mMの塩化金酸塩水溶液0.5mL及び100mMの硝酸銀水溶液7μLと200mMのCTAB水溶液0.5mLとの混合溶液を成長液として調整した。この水溶液に100mMのヒドロキノン50μLを添加し、更に上記で製造したAuコロイド粒子溶液(種粒子溶液)を32μL添加し混合した。その後、30℃にて一晩(16時間)静置しAuナノロッド粒子(AuNRs)を生成させた。
【0044】
次に、上記で製造したAuナノロッド粒子を含む分散液を精製した。本実施形態の精製工程では、上記で製造したAuナノロッド粒子を含む分散液を遠心分離機にて12000g、10分の条件で遠心してペレッティングして回収し、精製水に分散させる。これを2回繰り返して、精製水に置換した。更に、前記のようにして分散媒置換したナノロッド水溶液を0.1容、100mMのCTAB溶液を0.01容、500mMのベンジルジメチルアンモニウムクロリド(BDAC)溶液を0.4容とし、ここに精製水を加えて全体で1容となるようにした。この溶液を30℃で一晩(16時間)静置した後、副生成物を含む上澄みを除去し、底面に沈殿するAuナノロッド粒子を回収した。前述と同様に遠心分離による精製水への置換を2回繰り返した。
【0045】
図1は、本実施形態で製造したAuナノロッド粒子の外観を示すTEM写真である。このAuナノロッド粒子について長軸・短軸長さを測定しアスペクト比を算出した。この測定は、画像から任意に200個のナノロッド粒子を抽出して、それぞれについて長軸と短軸を測定してアスペクト比を算出し、アスペクト比、長軸長さ及び短軸長さの平均値を算出した。本実施形態で製造したAuナノロッド粒子においては、アスペクト比の平均値5.9であった。また、長軸・短軸長さの平均値は、それぞれ、97.5nm、16.9nmであった。また、
図2は、本実施形態で製造したAuナノロッド粒子について、紫外可視近紫外分光光度計で測定した吸収スペクトルの測定結果を示す。本実施形態のAuナノロッド粒子は、極大吸光波長が約950nm付近にあることが確認された。
【0046】
PtSe
2
薄膜へのAuナノロッド粒子の修飾と受光素子の作製
次に、上記で成膜したPtSe2薄膜について、その薄膜の表面にAuナノロッド粒子を修飾した。本実施形態では、分散媒を精製水とし、分散液中のAuナノロッド粒子の濃度(質量基準)を0.5nM、1.0nM、5.0nM、10nM、25M、50nMに調整した分散液を作製した。これら6種のナノロッド溶液を塗布して、被修飾遷移金属ジカルコデナイド薄膜を製造した。Auナノロッド粒子分散液の塗布はスピンコーターにより、塗布条件として、1μLのナノロッド溶液を30秒間2000rpmで塗布した。
【0047】
PtSe2薄膜にAuナノロッド粒子を修飾し、洗浄・乾燥した後、薄膜表面にくし形電極を形成して光電変換素子である受光素子を製造した。くし形電極は、Auナノロッド粒子が修飾されたPtSe2薄膜の表面に対して、Ti膜(膜厚5nm)、Au膜(膜厚40nm)の順にくし形へパターニングして形成した。
【0048】
比較例:上記した実施形態に対する比較例として、PtSe2薄膜へのAuナノロッド粒子の修飾がない光電変換素子を製造した。上記実施形態において、基板へのPtSe2薄膜の成膜後、Auナノロッド粒子の修飾を行うことなく、くし形電極を形成して受光素子とした。
【0049】
[ナノロッド粒子の面積率の測定]
本実施形態の受光素子における遷移金属ジカルコデナイド薄膜表面のAuナノロッド粒子のSEM像の一例を
図3に示す。そして、SEM画像に基づきナノロッド粒子の面積率を求めた。ナノロッド粒子の面積比率の測定は、画像の観察領域に占めるナノロッド粒子の面積の比率を百分率(%)で計算した。この計算は、画像解析ソフトウエア(製品名ImageJ)にて行い、解析条件として画像を8ビットに変換後、二値化処理を行いし、全ナノロッド粒子の面積と測定領域の面積から面積率を得た。
【0050】
図4は、各濃度のナノロッド溶液により修飾された遷移金属ジカルコデナイド薄膜表面のAuナノロッド粒子の面積率を示すものである。この図から、薄膜に塗布するナノロッド溶液の濃度と、薄膜表面におけるナノロッド粒子の面積率との間には比例関係があり、溶液の濃度による面積率の調整が可能であることが確認できる。
【0051】
[受光素子の光応答性の評価]
上記で作製した本実施形態及び比較例の受光素子について、近赤外線に対する光応答性を測定した。測定方法としては、各受光素子に近赤外線を照射し、マルチメーターを用いて光電流を室温で測定した。照射する近赤外線の波長は、740nm、850nm、940nmの3パターンを行い、各波長における応答特性を測定した。近赤外線の照射は、40秒の間隔を設けつつ、20秒間の照射を断続的に行った。四端子法は、バイアス電圧として0.5Vを負荷した。
【0052】
光応答特性の評価結果を
図5に示す。
図5においては、各受光素子の測定結果について、それぞれに400nA毎のオフセットを設定して作図している。また、この結果に基づき算出した、ナノロッド溶液の濃度と最大光電流との関係を
図6に示す。
【0053】
この応答特性の測定結果より、Auナノロッド粒子が修飾された遷移金属ジカルコデナイド薄膜(PtSe2薄膜)は、740nm~940nmの近赤外領域において、Auナノロッド粒子の修飾のない薄膜よりも高い光電流を発生可能であることが確認された。特に、濃度5nMのナノロッド溶液で修飾されたPtSe2薄膜(ナノロッド粒子の面積率:0.3%)においては、修飾無しのPtSe2薄膜に対して5倍以上の光電流を発生させる。
【0054】
但し、濃度50nMのナノロッド溶液で修飾したPtSe2薄膜(面積率2.5%)についての結果を見ると、その光電流値は、ナノロッド粒子の修飾のないPtSe2薄膜よりも低くなる。よって、Auナノロッド粒子による修飾も過剰に行うことは好ましくないと考えられる。
【0055】
第2実施形態:本実施形態では、第1実施形態と同じPtSe2遷移金属ジカルコゲナイド薄膜を基材の上に形成し、この薄膜表面に、ナノロッド粒子としてAgナノロッド粒子を修飾して光電変換素子を作製した。
【0056】
[光電変換素子の製造]
遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の形成
第1実施形態と同じSiO2ガラス基板にCVD法によりPtSe2薄膜を成膜した。この遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の原料及び製造方法は第1実施形態と同様とし、PtSe2薄膜の膜厚は、4nmであった。
【0057】
Agナノロッド粒子の製造
コロイド粒子成長法にてAgナノロッド粒子を製造した。本実施形態では、極大吸収波長940nm(アスペクト比5.0)のAgナノロッド粒子を製造目標とした。まず、種粒子となるAgコロイド粒子を製造した。50mMのクエン酸ナトリウム50μLと0.5mM ポリビニルピロリドンを3μL、5mM L-アルギニンを5μL,20μLの硝酸銀を700μLの水に加えよく混合した。この混合溶液に、還元剤である100mMの水素化ホウ素ナトリウムを8uL添加し、ボルテックスで2分間激しく攪拌してAgコロイド粒子(種粒子)を製造した。この種粒子溶液であるAgコロイド粒子溶液は、次工程のナノロッド粒子の製造工程で使用するまで30℃で15分間保管した。
【0058】
Agナノロッド粒子の製造に際し、まず、上記で調製した種粒子溶液に青色ダイオードアレイランプを16時間照射して正十面体銀ナノ粒子を生成した。その後、生成した正十面体銀ナノ粒子溶液1mLを12000gで10分間遠心分離して上澄みを除去し、500μLの水に分散させて精製した。
【0059】
水1mL、クエン酸ナトリウム200μL、33μLの0.5mMポリビニルピロリドンを20mLのガラスバイアルに入れ、電子レンジで100Wの出力で1分間予熱して成長液を作製した。この水溶液に上記で精製した正十面体銀ナノ粒子溶液500μLと10mMの硝酸銀200μLを加えて混合し、更に15分加熱しAgナノロッド粒子を得た。
【0060】
図7は、本実施形態で製造したAgナノロッド粒子の外観を示すTEM写真である。このAgナノロッド粒子について、第1実施形態と同様にして長軸・短軸長さを測定しアスペクト比を算出した。本実施形態で製造したAgナノロッド粒子においては、アスペクト比の平均値4.9であった。また、長軸・短軸長さの平均値は、それぞれ、187.9nm、37.7nmであった。また、
図8は、Agナノロッド粒子について、第1実施形態と同様にして測定した吸光波長の測定結果を示す。本実施形態のAgナノロッド粒子は、極大吸光波長が約950nm付近にあることが確認された。
【0061】
PtSe
2
薄膜へのAgナノロッド粒子の修飾と受光素子の作製
次に、上記で成膜したPtSe2薄膜について、その薄膜の表面にAgナノロッド粒子を修飾した。本実施形態では、分散媒を精製水とし、分散液の吸光度が2.5となるようにAgナノロッド粒子の濃度を調整して分散液を作製した(Agナノロッド粒子の濃度1nM))。Agナノロッド粒子分散液の塗布はスピンコーターにより、塗布条件として、1μLのナノロッド溶液を30秒間2000rpmで塗布した。
【0062】
PtSe
2薄膜にAgナノロッド粒子を修飾し、洗浄・乾燥した後、薄膜表面に第1実施形態と同様にくし形電極をパターニング・形成して光電変換素子である受光素子を製造した。本実施形態で製造した受光素子のPtSe
2薄膜表面のAgナノロッド粒子のSEM像の一例を
図9に示す。このSEM画像に基づきAgナノロッド粒子の面積率を第1実施形態と同様に測定したところ、面積率は0.98%であった。
【0063】
[受光素子の光応答性の評価]
上記で作製した第2実施形態の受光素子について、近赤外線に対する光応答性を測定した。測定方法は、第1実施形態と同様にし、740nm、850nm、940nmの各波長の近赤外線に対する応答特性を測定した。尚、本実施形態でも、比較例としてAgナノロッド粒子の修飾のない受光素子についての測定を行った。
【0064】
光応答特性の評価結果を
図10に示す。この応答特性の測定結果より、Agナノロッド粒子が修飾された遷移金属ジカルコデナイド薄膜(PtSe
2薄膜)についても、740nm~940nmの近赤外領域において、Agナノロッド粒子の修飾のない薄膜よりも高い光電流を発生可能であることが確認された。
【0065】
以上説明した第1実施形態(Auナノロッド粒子)と第2実施形態(Agナノロッド粒子)の結果から、これらによる遷移金属ジカルコデナイド薄膜の増感作用が確認された。これらAu/Agナノロッド粒子は、製造条件を変更することでアスペクト比を調製することができる。そそて、Au/Agナノロッド粒子は、アスペクト比に応じた光学的特性を示す。
【0066】
アスペクト比調整のためのナノロッド粒子の製造条件の一例としては、種粒子溶液を成長液に添加する際の種粒子溶液の量・濃度(即ち、種粒子数)を調製する。例えば、第1実施形態のAuナノロッド粒子の製造では、種粒子溶液32μLを成長溶液と混合して、アスペクト比5.9のAuナノロッド粒子を得ている。Auナノロッド粒子のアスペクト比をこれよりも大きくするためには、種粒子溶液の添加量を第1実施形態よりも少なくすればよい。逆に、アスペクト比が第1実施形態よりも小さいAuナノロッド粒子を得るためには、種粒子溶液の添加量を第1実施形態よりも多くすればよい。
【0067】
また、ナノロッド粒子のアスペクト比は、種粒子溶液を成長液に添加後の加熱時間(反応時間)によっても調整できる。第2実施形態のAgナノロッド粒子の製造では、種粒子を正十面体銀ナノ粒子溶液とし、これを硝酸銀と混合して15分加熱してアスペクト比の平均が4.9のAgナノロッド粒子を製造した。この加熱時間を長くすることでAgナノロッド粒子のアスペクト比は、第2実施形態よりも大きくすることができる。
【0068】
そこで、第1、第2実施形態に基づき、種粒子溶液の添加量・加熱時間を調製し、アスペクト比(平均値)が12.0のAuナノロッド粒子と、アスペクト比(平均値)が13.0のAgナノロッド粒子を製造した。製造した各ナノロッド粒子について、第1実施形態と同様に吸光波長を測定した。
【0069】
図11は、Auナノロッド粒子(アスペクト比:12.0)とAgナノロッド粒子(アスペクト比:13.0)の吸収波長の測定結果を示す図である。アスペクト比12.0のAuナノロッド粒子の極大吸光波長は約1680nmであり、となる。アスペクト比13.0のAgナノロッド粒子の極大吸光波長は約1780nmとなる。このように、Au及びAgのナノロッド粒子は、アスペクト比を調製することで、光吸収特性を最適化できることが分かる。これにより、1600nm近傍までの近赤外領域の波長の光に対しても作用することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したように、発明に係る遷移金属ジカルコゲナイド薄膜を適用する光電変換素子は、従来の遷移金属ジカルコゲナイド薄膜に対して近赤外領域における光応答特性が改善されている。本発明によれば、低製造コストや室温における適応性という遷移金属ジカルコゲナイド薄膜の好適条件を活かしつつ、高感度の光電変換素子とすることができる。本発明は、近赤外領域に対応する受光素子として特に有用であり、LIDAR用途の受光素子の素材として、LIDARの測定精度のさらなる向上に寄与することが期待できる。