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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-13
(45)【発行日】2026-01-21
(54)【発明の名称】水素エンジン
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20260114BHJP
   F02B 25/04 20060101ALI20260114BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20260114BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20260114BHJP
【FI】
F01M13/00 M
F02B25/04
F02M21/02 G
F02B37/00 302G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024522951
(86)(22)【出願日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2023013326
(87)【国際公開番号】W WO2023228570
(87)【国際公開日】2023-11-30
【審査請求日】2024-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2022084447
(32)【優先日】2022-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101351
【弁理士】
【氏名又は名称】辰巳 忠宏
(72)【発明者】
【氏名】和知 明良
(72)【発明者】
【氏名】岩本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 耀
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0008420(US,A1)
【文献】特開2007-132250(JP,A)
【文献】特開2017-166386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/00
F02B 25/04
F02M 21/02
F02B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に往復動可能に設けられるピストンと、
前記シリンダと前記ピストンとによって規定される燃焼室に吸気するために前記シリンダに設けられる吸気ポートと、
前記燃焼室から排気するために前記シリンダに設けられる排気ポートと、
前記シリンダ内に水素燃料を供給するために前記シリンダに設けられる水素供給部と、
前記シリンダに連設されるクランクケースと、
前記クランクケース内のクランク室から排気するために前記クランクケースに設けられる排出口と、
前記燃焼室または前記クランク室へ吸気を過給するために前記吸気ポートの上流に設けられる過給機と、
前記過給機によって過給された吸気を、前記クランク室に供給するか少なくとも前記燃焼室に供給するかを切り替える切替部とを備える、水素エンジン。
【請求項2】
当該水素エンジンは、水素2ストロークエンジンであり、
前記ピストンは、前記シリンダの内周面に対して摺動可能なピストンリングを含み、
前記吸気ポートは、前記シリンダの側面において前記ピストンリングの可動域に設けられ、
前記ピストンリングは、前記過給機によって過給された吸気を、前記吸気ポートを介して前記クランク室へ供給するか前記吸気ポートを介して前記燃焼室へ供給するかを切り替え、前記切替部として機能する、請求項1に記載の水素エンジン。
【請求項3】
前記排気ポートは、前記ピストンの上死点より上方に位置し、
前記排気ポートを開閉するために前記シリンダに設けられる排気弁をさらに含む、請求項1または2に記載の水素エンジン。
【請求項4】
当該水素エンジンは、水素4ストロークエンジンであり、
前記吸気ポートと前記過給機とを連通する吸気路と、
前記吸気路と前記クランク室とを連通するバイパス路と、
前記過給機からの過給された吸気を、前記バイパス路を介して前記クランク室に供給するか少なくとも前記吸気ポートを介して前記燃焼室に供給するかを切り替え、前記切替部として機能する切替弁とをさらに含む、請求項1に記載の水素エンジン。
【請求項5】
前記切替弁は、前記吸気ポートを開閉するために前記シリンダに設けられる吸気弁を含む、請求項4に記載の水素エンジン。
【請求項6】
前記燃焼室に点火するために前記シリンダにおいて前記ピストンの上死点より上方に設けられる点火プラグをさらに含む、請求項1、2、4および5のいずれかに記載の水素エンジン。
【請求項7】
前記点火プラグは、前記燃焼室の上部に位置する、請求項6に記載の水素エンジン。
【請求項8】
前記水素供給部は、前記燃焼室に前記水素燃料を直噴するために前記ピストンの上死点より上方に設けられる水素インジェクタを含む、請求項1、2、4および5のいずれかに記載の水素エンジン。
【請求項9】
輸送機器に用いられる、請求項1、2、4および5のいずれかに記載の水素エンジン。
【請求項10】
前記輸送機器は小型モビリティを含む、請求項9に記載の水素エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は水素エンジンに関し、より特定的には輸送機器などに用いられる水素エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
水素エンジンでは、燃焼室で水素燃料を燃焼させると、燃焼室内には燃焼によって生成された水蒸気(水)および未燃焼の水素燃料が残存する。このとき生成される水は、ガソリンエンジンでの燃焼により生成される水より多い。燃焼室内の水蒸気および未燃焼の水素燃料の一部はブローバイガスとして、シリンダとピストンとの間を通ってクランク室に移動するが、クランク室内のエンジンオイルの乳化や構成部品の脆化を抑制すべく、クランク室からブローバイガスを排出することが望まれる。
【0003】
クランク室からブローバイガスを排出する従来技術の一例として、特許文献1において4ストロークエンジンが開示されている。このエンジンは、水素ガスを含む燃料での運転が可能な4ストロークエンジンであって、換気口が形成されたクランクケースと、クランクケースの外部と換気口とを連絡する換気流路と、水素ガスを含む気体をクランクケースの内部から外部へ強制的に排出するために換気流路に設けられる換気ファンとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-127704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたエンジンでは、水素ガスを含む気体をクランクケースの内部から外部へ強制的に排出するために換気ファンを外付けする必要があり、構造が複雑である。
【0006】
それゆえにこの発明の主たる目的は、簡単な構造でクランク室からブローバイガスを排出できる、水素エンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の或る見地によれば、シリンダと、シリンダ内に往復動可能に設けられるピストンと、シリンダとピストンとによって規定される燃焼室に吸気するためにシリンダに設けられる吸気ポートと、燃焼室から排気するためにシリンダに設けられる排気ポートと、シリンダ内に水素燃料を供給するためにシリンダに設けられる水素供給部と、シリンダに連設されるクランクケースと、クランクケース内のクランク室から排気するためにクランクケースに設けられる排出口と、燃焼室またはクランク室へ吸気を過給するために吸気ポートの上流に設けられる過給機と、過給機によって過給された吸気を、クランク室に供給するか少なくとも燃焼室に供給するかを切り替える切替部とを備える、水素エンジンが提供される。
【0008】
この発明では、過給機によって過給された吸気は、切替部によって、燃焼室およびクランク室のいずれかに供給される。燃焼室では、過給された吸気に含まれる酸素と水素供給部によって供給された水素燃料とを含む混合気体が形成され、水素エンジンの駆動に用いられる。一方、過給された吸気をクランク室に供給することによって、クランク室内のブローバイガス(水蒸気および未燃焼の水素燃料を含む)が排出口から積極的に排出される。このように、過給機によって過給された吸気を、燃焼室に供給するだけではなく、クランク室にも供給することによって、換気ファン等を用いることなく簡単な構成でクランク室からブローバイガスを排出でき、クランク室内のエンジンオイルの乳化や構成部品の脆化を抑制できる。
【0009】
好ましくは、当該水素エンジンは、水素2ストロークエンジンであり、ピストンは、シリンダの内周面に対して摺動可能なピストンリングを含み、吸気ポートは、シリンダの側面においてピストンリングの可動域に設けられ、ピストンリングは、過給機によって過給された吸気を、吸気ポートを介してクランク室へ供給するか吸気ポートを介して燃焼室へ供給するかを切り替え、切替部として機能する。この場合、水素2ストロークエンジンにおいて、切替部として機能するピストンリングがシリンダの内周面に対して摺動するだけで簡単に、過給機によって過給された吸気を、吸気ポートを介して燃焼室へ供給するか、または吸気ポートを介してクランク室へ供給するかが切り替えられる。すなわち、ピストンリングがシリンダの側面に設けられる吸気ポートより下方に位置する状態では、過給機によって過給された吸気は燃焼室へ供給され、一方、ピストンリングがシリンダの側面に設けられる吸気ポートより上方に位置する状態では、過給機によって過給された吸気はクランク室へ供給される。
【0010】
また好ましくは、排気ポートは、ピストンの上死点より上方に位置し、当該水素エンジンは、排気ポートを開閉するためにシリンダに設けられる排気弁をさらに含む。この場合、ピストンの位置にかかわらず、排気弁によって排気ポートを開閉することにより所望のタイミングで燃焼室から排気ポートを介して排気できる。
【0011】
さらに好ましくは、当該水素エンジンは、水素4ストロークエンジンであり、吸気ポートと過給機とを連通する吸気路と、吸気路とクランク室とを連通するバイパス路と、過給機からの過給された吸気を、バイパス路を介してクランク室に供給するか少なくとも吸気ポートを介して燃焼室に供給するかを切り替え、切替部として機能する切替弁とをさらに含む。この場合、水素4ストロークエンジンにおいて、切替部として機能する切替弁によって簡単に、過給機によって過給された吸気を、少なくとも吸気ポートを介して燃焼室へ供給するか(燃焼室およびクランク室のうち少なくとも燃焼室に供給するか)、またはバイパス路を介してクランク室へ供給するかが切り替えられる。
【0012】
好ましくは、切替弁は、吸気ポートを開閉するためにシリンダに設けられる吸気弁を含む。この場合、水素4ストロークエンジンが通常備える吸気弁を、切替弁として用いることによって、切替弁を、別途用意することなく、設けることができる。典型的には、ピストンが上死点から下死点に向かって下降する間に、吸気弁によって吸気ポートが開かれ、過給機によって過給された吸気は、吸気ポートを介して燃焼室へ供給されるとともに、バイパス路を介してクランク室にも供給される。一方、それ以外の時間帯では吸気弁によって吸気ポートが閉じられ、過給機によって過給された吸気は、燃焼室へ供給されることなく、バイパス路を介してクランク室へ供給される。
【0013】
また好ましくは、当該水素エンジンは、燃焼室に点火するためにシリンダにおいて上死点より上方に設けられる点火プラグをさらに含む。この場合、ピストンの位置にかかわらず、所望のタイミングで燃焼室内の混合気体に点火できる。
【0014】
さらに好ましくは、点火プラグは、燃焼室の上部に位置する。この場合、所望のタイミングで燃焼室内の混合気体に確実に点火できる。
【0015】
好ましくは、水素供給部は、燃焼室に水素燃料を直噴するためにピストンの上死点より上方に設けられる水素インジェクタを含む。この場合、ピストンの位置にかかわらず、所望のタイミングで燃焼室に水素燃料を直噴できる。
【0016】
この発明に係る水素エンジンは、排気に二酸化炭素を含まないので、輸送機器のカーボンニュートラルに寄与でき、輸送機器に好適に用いられる。
【0017】
この発明に係る水素エンジンは、排気に二酸化炭素を含まず、かつ小排気であっても出力およびトルクを向上できるので、小型モビリティのカーボンニュートラルならびに出力およびトルクの向上に寄与でき、小型モビリティに好適に用いられる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、簡単な構造でクランク室から排気できる、水素エンジンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の一実施形態に係る水素エンジンを示す模式図である。
図2図1の水素エンジンの動作を説明するための図解図である。
図3図1の水素エンジンを搭載した小型モビリティを示す模式図である。
図4】この発明の他の実施形態に係る水素エンジンを示す模式図である。
図5図4の水素エンジンの動作を説明するための図解図である。
図6図5の動作の続きを示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
【0021】
図1を参照して、この発明の一実施形態に係る水素エンジン10は、ユニフロー型の水素2ストロークエンジンであり、シリンダ12を含む。シリンダ12にはクランクケース14が連設される。シリンダ12内にはピストン16が往復動可能に設けられる。クランクケース14内には、クランクシャフト18が収容される。ピストン16とクランクシャフト18とは、コネクチングロッド20によって連結される。ピストン16は、シリンダ12の内周面に対して摺動可能なピストンリング22を含む。ピストンリング22は、ピストン16の上端部近傍に設けられる。ここで、ピストン16の上端部とは、ピストン16における燃焼室24側の端部をいう。ピストンリング22は、過給機30(後述)によって過給された吸気を、吸気ポート26(後述)を介してクランク室50(後述)へ供給するか吸気ポート26を介して燃焼室24へ供給するかを切り替え、切替部として機能する。
【0022】
シリンダ12とピストン16とによって規定される燃焼室24に吸気するために、シリンダ12の側面に吸気ポート26が設けられる。燃焼室24から排気するために、シリンダ12において吸気ポート26より上方に排気ポート28が設けられる。
【0023】
吸気ポート26は、ピストン16の下死点より上方かつ上死点より下方に位置する(図2(b)および(d)参照)。すなわち、吸気ポート26は、ピストン16の上死点と下死点との間、言い換えれば、ピストン16の上端部の可動域に設けられる。また、吸気ポート26は、ピストンリング22の可動域に設けられる。したがって、吸気ポート26は、ピストン16が下死点に位置するときピストン16の上端部より上方に位置し、ピストン16が上死点に位置するときピストン16の上端部より下方に位置する。また、排気ポート28は、ピストン16の上死点より上方に位置する。
【0024】
吸気ポート26から燃焼室24またはクランク室50への吸気を過給するために、吸気ポート26の上流に過給機30が設けられ、吸気ポート26と過給機30とは、吸気路となる吸気管32を介して連通される。過給機30として、ターボチャージャーおよびスーパーチャージャーのいずれが用いられてもよい。吸気管32内には、吸気の供給量を調整するためのスロットル弁34が配置される。この実施形態では、過給機30によって吸気は常時過給される。
【0025】
燃焼室24から排気するために、排気ポート28には排気管36が取り付けられる。排気を浄化するために、排気管36内にはフロント触媒38が設けられる。排気ポート28を開閉するために、シリンダ12には排気弁40が設けられる。この実施形態では、排気弁40は、ポペットバルブからなる。
【0026】
燃焼室24に点火するために、シリンダ12においてピストン16の上死点より上方に点火プラグ42が設けられる。点火プラグ42は、燃焼室24の上部に位置する。
【0027】
燃焼室24に水素燃料を直噴するために、シリンダ12に水素インジェクタ44が設けられる。水素インジェクタ44は、シリンダ12内に水素燃料を供給するための水素供給部として機能する。水素インジェクタ44は、ピストン16の上死点より上方に位置する。水素インジェクタ44には、レギュレータ46を介して水素タンク48が接続される。水素インジェクタ44は、水素タンク48から供給されかつレギュレータ46によって噴射圧力が調整された水素燃料を、燃焼室24に直噴する。
【0028】
クランクケース14内のクランク室50から排気するために、クランクケース14には排出口52が設けられ、排出口52には排出管54が取り付けられる。排出管54からは、たとえばクランク室50内に存在するブローバイガスが外部に排出される。
【0029】
このような水素エンジン10は、たとえば以下のように動作する。
【0030】
まず、図2(a)に示すように、ピストン16が下降し、図2(b)に示すように、ピストン16が下死点に位置すると、排気弁40によって排気ポート28が開けられる。すると、図2(b)において矢印で示すように、過給機30によって吸気ポート26から燃焼室24内に吸気が過給されるとともに、燃焼室24から掃気される。すなわち、ユニフローによって燃焼室24から水蒸気を含む排気が排出される。これにより、燃焼室24内の気体は入れ替えられ、燃焼室24内には酸素を含む吸気(空気)が導入される。
【0031】
その後、ピストン16が上昇するとともに、排気弁40によって排気ポート28が閉じられていく。図2(c)に示すように、ピストンリング22が吸気ポート26より上方まで移動して燃焼室24に吸気できない状態になると、排気弁40によって排気ポート28は完全に閉じられ、閉空間の燃焼室24が形成される。このとき、ピストンリング22によって、過給された吸気の供給先が切り替えられ、過給機30によって過給された吸気は、クランク室50へ供給される。すると、クランク室50内のブローバイガスが、排出口52から排出管54を介して外部に排出される。
【0032】
このような状態で、ピストン16がさらに上死点に向かって上昇するにつれて、燃焼室24が圧縮されていく。そして、所定のタイミングで燃焼室24内に水素インジェクタ44によって水素燃料が直噴されると、燃焼室24内には水素と酸素とが圧縮された混合気体が形成される。さらに図2(d)に示すようにピストン16が上死点に到達する時点付近で、点火プラグ42によって燃焼室24に点火され、燃焼室24内で燃焼(爆発)が発生する。
【0033】
すると、ピストン16は下方(下死点側)に押され、水素エンジン10は、図2(a)の状態に戻る。ここで、クランク室50への吸気の供給は、ピストンリング22が下降して吸気ポート26を通過するまで継続され、その後は、燃焼室24への吸気の供給に切り替えられる。
【0034】
以降、上述の動作が繰り返される。このように水素エンジン10では、ピストン16が一往復する間に、吸気・圧縮・燃焼・排気が完了する。水素エンジン10は、図3に示すような小型モビリティ1に好適に用いられる。
【0035】
このような水素エンジン10によれば、過給機30によって過給された吸気は、切替部によって、燃焼室24およびクランク室50のいずれかに供給される。燃焼室24では、過給された吸気に含まれる酸素と水素インジェクタ44によって供給された水素燃料とを含む混合気体が形成され、水素エンジン10の駆動に用いられる。一方、過給された吸気をクランク室50に供給することによって、クランク室50内のブローバイガス(水蒸気および未燃焼の水素燃料を含む)が排出口52から積極的に排出される。このように、過給機30によって過給された吸気を、燃焼室24に供給するだけではなく、クランク室50にも供給することによって、換気ファン等を用いることなく簡単な構成でクランク室50からブローバイガスを排出でき、クランク室50内のエンジンオイルの乳化や構成部品の脆化を抑制できる。
【0036】
点火プラグ42はシリンダ12において上死点より上方に設けられるので、ピストン16の位置にかかわらず、所望のタイミングで燃焼室24内の混合気体に点火できる。
【0037】
点火プラグ42は、燃焼室24の上部に位置するので、所望のタイミングで燃焼室24内の混合気体に確実に点火できる。
【0038】
水素インジェクタ44は、ピストン16の上死点より上方に設けられるので、ピストン16の位置にかかわらず、所望のタイミングで燃焼室24に水素燃料を直噴できる。
【0039】
水素エンジン10は、排気に二酸化炭素を含まず、かつ小排気であっても出力およびトルクを向上できるので、小型モビリティ1のカーボンニュートラルならびに出力およびトルクの向上に寄与でき、小型モビリティ1に好適に用いられる。
【0040】
上述の作用効果は、後述する水素エンジン100においても同様に奏することができる。
【0041】
また、水素エンジン10によれば、切替部として機能するピストンリング22がシリンダ12の内周面に対して摺動するだけで簡単に、過給機30によって過給された吸気を、吸気ポート26を介して燃焼室24へ供給するか、または吸気ポート26を介してクランク室50へ供給するかが切り替えられる。すなわち、ピストンリング22がシリンダ12の側面に設けられる吸気ポート26より下方に位置する状態では、過給機30によって過給された吸気は燃焼室24へ供給され、一方、ピストンリング22がシリンダ12の側面に設けられる吸気ポート26より上方に位置する状態では、過給機30によって過給された吸気はクランク室50へ供給される。
【0042】
排気ポート28は、ピストン16の上死点より上方に位置するので、ピストン16の位置にかかわらず、排気弁40によって排気ポート28を開閉することにより所望のタイミングで燃焼室24から排気ポート28を介して排気できる。
【0043】
ついで、この発明の他の実施形態に係る水素エンジン100について説明する。
【0044】
図4を参照して、水素エンジン100は、水素4ストロークエンジンであり、シリンダ102を含む。シリンダ102にはクランクケース104が連設される。シリンダ102内にはピストン106が往復動可能に設けられる。クランクケース104内には、クランクシャフト108が収容される。ピストン106とクランクシャフト108とは、コネクチングロッド110によって連結される。ピストン106は、シリンダ102の内周面に対して摺動可能なピストンリング112を含む。ピストンリング112は、ピストン106の上端部近傍に設けられる。ここで、ピストン106の上端部とは、ピストン106における燃焼室114側の端部をいう。
【0045】
シリンダ102とピストン106とによって規定される燃焼室114に吸気するために、シリンダ102の上部に吸気ポート116が設けられる。燃焼室114から排気するために、シリンダ102の上部に排気ポート118が設けられる。
【0046】
吸気ポート116から燃焼室114またはクランク室142への吸気を過給するために、吸気ポート116の上流に過給機120が設けられ、吸気ポート116と過給機120とは、吸気路となる吸気管122を介して連通される。過給機120として、ターボチャージャーおよびスーパーチャージャーのいずれが用いられてもよい。吸気管122内には、吸気の供給量を調整するためのスロットル弁124が配置される。この実施形態では、過給機120によって吸気は常時過給される。吸気ポート116を開閉するために、シリンダ102には吸気弁126が設けられる。この実施形態では、吸気弁126は、ポペットバルブからなる。吸気弁126は、過給機120からの過給された吸気を、バイパス路144(後述)を介してクランク室142(後述)に供給するか、バイパス路144を介してクランク室142に供給するとともに吸気ポート116を介して燃焼室114に供給するかを切り替え、切替部(切替弁)として機能する。
【0047】
燃焼室114から排気するために、排気ポート118には排気管128が取り付けられる。排気を浄化するために、排気管128内にはフロント触媒130が設けられる。排気ポート118を開閉するために、シリンダ102には排気弁132が設けられる。この実施形態では、排気弁132は、ポペットバルブからなる。
【0048】
燃焼室114に点火するために、シリンダ102においてピストン106の上死点より上方に点火プラグ134が設けられる。点火プラグ134は、燃焼室114の上部に位置する。
【0049】
燃焼室114に水素燃料を直噴するために、シリンダ102に水素インジェクタ136が設けられる。水素インジェクタ136は、シリンダ102内に水素燃料を供給するための水素供給部として機能する。水素インジェクタ136は、ピストン106の上死点より上方に位置する。水素インジェクタ136には、レギュレータ138を介して水素タンク140が接続される。水素インジェクタ136は、水素タンク140から供給されかつレギュレータ138によって噴射圧力が調整された水素燃料を、燃焼室114に直噴する。
【0050】
吸気管122とクランクケース104内のクランク室142とは、バイパス路144によって連通される。クランクケース104内のクランク室142から排気するために、クランクケース104には排出口146が設けられ、排出口146には排出管148が取り付けられる。排出管148からは、たとえばクランク室142内に存在するブローバイガスが外部に排出される。
【0051】
このような水素エンジン100は、たとえば以下のように動作する。
【0052】
まず、図5(a)に示すように、ピストン106が上死点から下死点に向かう過程で、吸気弁126によって吸気ポート116が開けられ、矢印で示すように、過給機120によって吸気ポート116から燃焼室114内に吸気される。図5(b)に示すように、ピストン106が下死点に達した時点では、吸気弁126によって吸気ポート116は完全に閉じられ、閉空間の燃焼室114が形成され、燃焼室114内には酸素を含む吸気(空気)が充填される。このように吸気弁126が閉じることによって、過給機120によって過給された吸気は、燃焼室114へ供給されず、バイパス路144を介してクランク室142にのみ供給される。
【0053】
このような状態で、図5(c)に示すように、ピストン106が上死点に向かって上昇するにつれて、燃焼室114が圧縮されていく。そして、所定のタイミングで燃焼室114内に水素インジェクタ136によって水素燃料が直噴されると、燃焼室114内には水素と酸素とが圧縮された混合気体が形成される。さらに図5(d)に示すようにピストン106が上死点に到達する時点付近で、点火プラグ134によって燃焼室114に点火され、燃焼室114内で燃焼(爆発)が発生する。
【0054】
すると、ピストン106は、下方(下死点側)に押され、図6(a)の状態を経て、図6(b)に示すように下死点に達する。
【0055】
その後、図6(c)に示すように、ピストン106が下死点から上死点に向かう過程で、排気弁132によって排気ポート118が開けられ、矢印で示すように、燃焼室114から水蒸気を含む排気が排出される。
【0056】
図6(d)に示すように、ピストン106が上死点に達した時点では、排気弁132によって排気ポート118は完全に閉じられ、その後、図5(a)の状態に戻る。
【0057】
この実施形態では、過給機120によって過給された吸気は、常時、バイパス路144を介してクランク室142に供給される。すると、クランク室142内のブローバイガスは、常時、排出口146から排出管148を介して外部に排出される。
【0058】
以降、上述の動作が繰り返される。このように水素エンジン100では、ピストン106が2往復する間に、吸気・圧縮・燃焼・排気が完了する。水素エンジン100についても、図3に示すような小型モビリティ1に好適に用いられる。
【0059】
このような水素エンジン100によれば、水素4ストロークエンジンが通常備える吸気弁126を、切替弁として用いることによって、切替弁を、別途用意することなく、設けることができる。典型的には、ピストン106が上死点から下死点に向かって下降する間に、吸気弁126によって吸気ポート116が開かれ、過給機120によって過給された吸気は、吸気ポート116を介して燃焼室114へ供給されるとともに、バイパス路144を介してクランク室142にも供給される。一方、それ以外の時間帯では吸気弁126によって吸気ポート116が閉じられ、過給機120によって過給された吸気は、燃焼室114へ供給されることなく、バイパス路144を介してクランク室142へ供給される。
【0060】
なお、水素エンジン100において、吸気管122とバイパス路144との分岐箇所に、切替部として機能する切替弁が設けられてもよい。この切替弁を用いることによって、過給機120からの過給された吸気を、バイパス路144を介してクランク室142に供給するか、吸気ポート116を介して燃焼室114に供給するかを簡単に切り替えることができる。
【0061】
この発明に係る水素エンジン10および100は、小型モビリティ1だけではなく、任意の輸送機器に用いることができる。水素エンジン10および100は、排気に二酸化炭素を含まないので、輸送機器のカーボンニュートラルに寄与でき、輸送機器に好適に用いられる。
【0062】
以上、この発明の好ましい実施形態について説明されたが、この発明の範囲および精神を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能であることは明らかである。この発明の範囲は、添付された請求の範囲のみによって限定される。
【符号の説明】
【0063】
1 小型モビリティ
10,100 水素エンジン
12,102 シリンダ
14,104 クランクケース
16,106 ピストン
18,108 クランクシャフト
20,110 コネクチングロッド
22,112 ピストンリング
24,114 燃焼室
26,116 吸気ポート
28,118 排気ポート
30,120 過給機
32,122 吸気管
36,128 排気管
40,132 排気弁
42,134 点火プラグ
44,136 水素インジェクタ
50,142 クランク室
52,146 排出口
54,148 排出管
126 吸気弁
144 バイパス路
図1
図2
図3
図4
図5
図6