(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-14
(45)【発行日】2026-01-22
(54)【発明の名称】プレス加工装置及び積層コアの製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 28/14 20060101AFI20260115BHJP
B21D 28/02 20060101ALI20260115BHJP
B21D 28/34 20060101ALI20260115BHJP
【FI】
B21D28/14 A
B21D28/02 C
B21D28/34 C
(21)【出願番号】P 2025003963
(22)【出願日】2025-01-10
【審査請求日】2025-01-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592189206
【氏名又は名称】株式会社小松精機工作所
(74)【代理人】
【識別番号】100096002
【氏名又は名称】奥田 弘之
(74)【代理人】
【識別番号】100091650
【氏名又は名称】奥田 規之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小松 隆史
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2025/181996(WO,A1)
【文献】特表2021-521013(JP,A)
【文献】国際公開第2023/145228(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/00 - 28/34
B26F 1/44
H02K 15/027
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチとダイを備え、パンチとダイの間に搬送された板状の加工対象物をパンチの下降によって打ち抜き、打ち抜かれた加工対象物を製品として回収するプレス加工装置であって、
上記加工対象物が高強度軟磁性箔材よりなり、
上記パンチ側にのみシャーが付与されており、
上記シャーが、パンチの先端に形成された第1のエッジと、パンチの側面に形成された第2のエッジと、第1のエッジと第2のエッジ間を繋ぐ傾斜面とから構成され、
さらに上記パンチが、上記傾斜面に連なる平坦面を有する多段形状を備えたものであり、
上記第1のエッジと接する水平面と上記傾斜面とのなす角であるシャー角を、上記打ち抜かれた加工対象物のバリ高が0.02mm以内に収められる0.23~0.68度の範囲内に設定したことを特徴とするプレス加工装置。
【請求項2】
上記第2のエッジと上記水平面との距離であるシャー高が、上記加工対象物の板厚以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のプレス加工装置。
【請求項3】
上記高強度軟磁性箔材が、鉄基アモルファス合金箔であることを特徴とする請求項1
または2に記載のプレス加工装置。
【請求項4】
請求項1に記載のプレス加工装置によって打ち抜かれ、製品として回収された複数の加工対象物を積層し、各加工対象物間を固着することを特徴とする積層コアの製造方法。
【請求項5】
パンチとダイを備え、パンチとダイの間に搬送された板状の加工対象物をパンチの下降によって打ち抜き、打ち抜かれた加工対象物を製品として回収するプレス加工装置を用いた加工方法であって、
上記加工対象物が高強度軟磁性箔材よりなり、
上記パンチ側にのみシャーが付与されており、
上記シャーが、パンチの先端に形成された第1のエッジと、パンチの側面に形成された第2のエッジと、第1のエッジと第2のエッジ間を繋ぐ傾斜面とから構成され、
さらに上記パンチが、上記傾斜面に連なる平坦面を有する多段形状を備えたものであり、
上記第1のエッジと接する水平面と上記傾斜面とのなす角であるシャー角を0.23~0.68度の範囲内に設定することにより、上記打ち抜かれた加工対象物のバリ高を0.02mm以内に収めることを特徴とするプレス加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工装置及び積層コアの製造方法に係り、特に、鉄基アモルファス合金箔等の高強度軟磁性箔材を打抜き加工するためのプレス加工装置と、当該装置によって形成された打抜き材を用いた積層コアの製造方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
高効率モータ等に用いられる積層コアは、高強度軟磁性箔材を所定の形状にプレス抜き加工した材料を多数積層し、相互間を接着剤等で固着することによって製造されるが、高強度軟磁性箔材は引張強度が約2,000MPa、伸びが約1%という特性を有し、脆性的な素材である。
このため、プレス加工においてパンチおよびダイに大きな負荷がかかり、これら工具の破損や磨耗が顕著となる。
【0003】
プレス金型の寿命延長に対する有効策として、工具へのシャーの付与が考えられる。すなわち、素材の塑性変形を抑制する目的で、加工対象に応じてパンチまたはダイにシャーを付けることが従来から行われてきた。
しかしながら、高強度軟磁性箔材のように弾性変形領域が広い素材に対しては、従来のシャー設計の適用では必ずしも効果的な結果が得られない。
特に、積層コアのように打ち抜かれた側の箔材(打抜き材)を製品として利用するケースでは、製品の変形抑制と、バリの高さを最小限に抑える必要からダイ側にシャーを付与するのが一般的である。
【0004】
【文献】アモルファス合金箔の打抜きにおける各種加工条件が切口面と工具寿命に及ぼす影響/塑性と加工(日本塑性加工学会論文誌)第59巻 第692号(2018-9)/古関伸裕、岡田奨平、山口貴史
【文献】冷間加工(I)せん断加工/鉄と鋼 1959年45巻4号/春日保男
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上に鑑み、高強度軟磁性箔材をプレス抜き加工する際の金型負荷を低減できると共に、打抜き材のバリの高さを抑制可能な技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明に係るプレス加工装置は、パンチとダイを備え、パンチとダイの間に搬送された板状の加工対象物をパンチの下降によって打ち抜き、打ち抜かれた加工対象物を製品として回収する装置であって、上記加工対象物が高強度軟磁性箔材よりなり、上記パンチ側にのみシャーが付与されており、上記シャーが、パンチの先端に形成された第1のエッジと、パンチの側面に形成された第2のエッジと、第1のエッジと第2のエッジ間を繋ぐ傾斜面とから構成され、上記第1のエッジと接する水平面と上記傾斜面とのなす角であるシャー角が、0.23~0.68度の範囲内に設定されていることを特徴としている。
また、この発明に係る積層コアの製造方法は、上記プレス加工装置によって打ち抜かれ、製品として回収された複数の加工対象物を積層し、各加工対象物間を固着することを特徴としている。
【0007】
上記第2のエッジと上記水平面との距離であるシャー高が、上記加工対象物の板厚以上に設定されることが望ましい。
また、上記パンチが、上記傾斜面に連なる平坦面を有する多段形状を備えたものであってもよい。
上記高強度軟磁性箔材としては、例えば鉄基アモルファス合金箔が該当する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るプレス加工装置の場合、パンチ側に最適なシャー角を備えたシャー付けを行っているため、金型負荷が低減されると共に、打抜き材のバリ高を抑制でき、高品質の積層コアの生産が可能となる。
また、ダイにはシャーを付与しないで済むため、メンテナンスに際してダイ側のシャーの再研削が不要となり、メンテナンス工程の簡素化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るプレス加工装置の概略図である。
【
図2】プレス加工時における振動加速度を示す波形図である。
【
図4】パンチに付与したシャーの角度と、打抜き時の最大加速度及び打抜き材のバリ高との関係を示すグラフである。
【
図5】加工開始前のダイの状態を示すSEM写真である。
【
図6】シャーを有さないパンチで500回打ち抜いた際のダイの状態を示すSEM写真である。
【
図7】0.23度のシャーを付与したパンチで20,000回打ち抜いた際のダイの状態を示すSEM写真である。
【
図8】1.14度のシャーを付与したパンチで打ち抜いた打抜き材のバリ高を示すSEM写真及びバリ高の測定グラフである。
【
図9】0.68度のシャーを付与したパンチで打ち抜いた打抜き材のバリ高を示すSEM写真及びバリ高の測定グラフである。
【
図10】この発明に係る他のパンチの刃先部分の拡大図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
図1(a)は、本実施形態に係るプレス加工装置10の概要を例示するものであり、パンチ12と、ダイ 14と、ストリッパープレート16等で構成される。
ストリッパープレート16とダイ14との間には、加工対象物18が配置されている。
【0011】
加工対象物18としては、鉄基アモルファス合金箔等の高強度軟磁性箔材が該当し、ロール状に巻回された板状の加工対象物18が、図示しないローラ等によってパンチ12とダイ14との間に間欠的に供給される。
ただし、鉄基アモルファス合金箔と同等の機械的特性を有する他の金属箔を加工対象物18とすることもできる。
また、加工対象物18は一枚(単層)材に限定されるものではなく、複数枚(重層)材であってもよい。
【0012】
ローラ等による加工対象物18の移送が一時的に停止された時点で、図示しないプレス機からの押圧力がパンチ12に加えられると、
図1(b)に示すように、パンチ12が下降してダイ14との間で加工対象物18を打ち抜く。
この際、ストリッパープレート16に加わる板押さえ力により、加工対象物18を平坦に保った状態で、パンチ12を被加工材から引きはがすことが可能となる。
【0013】
打ち抜かれた加工対象物(以下「打抜き材20」)は、ダイ14の貫通孔14aを介して下方に落下する。この打抜き材20は、製品として回収された後、所定枚数が積層され、接着等で相互間が固着されることにより、積層コアとして利用される。
1回の打ち抜きが完了すると、パンチ12及びストリッパープレート16が上昇すると共に、ローラの回転等によって加工対象物18の次の加工領域がパンチ12とダイ14の間に搬送される。
【0014】
ダイ14の側面及びその周辺には、振動加速度センサ22が装着されている。この振動加速度センサ22は、パンチ12による打ち抜き加工によって発生した振動加速度を検出し、無線または有線にて情報処理装置24に送出する機能を備えている。
情報処理装置24は、例えば振動加速度解析プログラム等を搭載したPCよりなる。
【0015】
図2(a)は、振動加速度センサ22から送出された振動加速度の波形を示すものであり、パンチ12による打抜きの都度、大きな波形30が観測されることが示されている。
本発明においては、
図2(b)に示すように、パンチ12による打抜き処理に際して観測される振動加速度の各波形30の最大値を「最大加速度」と定義している。
ニュートンの運動方程式(F=m×a)に従うならば、加速度aを低減することで力Fを低減でき、ひいては金型負荷の低減に繋がることとなる。
【0016】
図3は、パンチ12の刃先部分の拡大断面図であり、パンチ12の先端に位置する第1のエッジを「E1」と、これよりも後端側に位置する第2のエッジを「E2」と、第1のエッジE1と第2のエッジE2を繋ぐ傾斜面を12aと、第1のエッジE1と第2のエッジE2間の水平方向の距離を「シャー幅W1」と、第1のエッジE1と第2のエッジE2間の垂直方向の距離を「シャー高:L」と、傾斜面12aと水平面Hとの間の角度を「シャー角θ」と、パンチ12の横幅を「パンチ幅W2」と定義している。
すなわち、第1のエッジE1と、第2のエッジE2と、傾斜面12aとによって、パンチ12のシャー40が構成されている。
このパンチ12の場合、「シャー幅W1=パンチ幅W2」となる。
【0017】
本発明は、パンチ12に付与するシャー角θの最適化を図ることにより、金型負荷の低減と、打抜き加工によって形成される打抜き材20のバリの低減を企図している。
このため、異なるシャー角θを備えたパンチ12を複数用意し、加工対象物18に対する打抜き処理を実行すると共に、その際の最大加速度と、形成されるバリの高さ(以下「バリ高」)を計測する実験を行った。
【0018】
図4は、この実験結果を示すグラフであり、シャー角θを0~1.14度の範囲で変化させた場合における、最大加速度及びバリ高の関係を示している。
同図より明らかなように、シャー角θが増大するに連れて最大加速度が低減する(=金型負荷が低減する)反面、バリ高が増大していく傾向が看取できる。
また、シャー角θ=0の所謂エッジパンチを用いた場合には、バリ高が最小化される反面、最大加速度の値が最も高くなり、金型負荷が最大化することが示されている。
【0019】
図5は、プレス加工前のダイ14の状態を示すSEM写真であり、当然ながら貫通孔14aの周辺に破損は一切生じておらず、綺麗なエッジが現れている。
つぎに
図6は、シャー角θ=0のエッジパンチで500回の打抜きを行った際のダイ14の状態を示しており、貫通孔14aのエッジに大きな欠け部が生じていることが示されている。
【0020】
これに対し
図7は、シャー角θ=0.23度のパンチで20,000回の打抜きを行った際のダイ14の状態を示しており、大きな欠けが生じることも無く、加工前とほぼ同じ綺麗なエッジの状態が保持されている。
この結果、パンチ12側に適切なシャー40を付与することにより、少なくともダイ14の寿命が40倍まで伸張され得ることが立証された。
【0021】
因みに、シャー角θ=0.68度のパンチ、及びシャー角θ=1.14度のパンチを用いた場合でも、上記と同様、20,000回の打抜き加工によってダイ14に欠損が生じないことが確認された。
このため、プレス金型の長寿命化という観点からは、シャー角θ=1.14度のパンチでも適合といえるが、打抜き材の品質という観点からすると問題が認められた。
【0022】
すなわち、
図8(a)はシャー角θ=1.14度のパンチ12によって打ち抜かれた打抜き材20の縁部分示すSEM写真であり、同図(b)は同打抜き材20のバリ高の計測結果を示すグラフである。
図示の通り、シャー角θ=1.14度のパンチでは高さ0.025mmの比較的大きなバリ20aが形成されていることがわかる。
【0023】
一方、
図9(a)はシャー角θ=0.68度のパンチ12によって打ち抜かれた打抜き材20の縁部分示すSEM写真であり、同図(b)は同打抜き材20のバリ高の計測結果を示すグラフである。
図示の通り、シャー角θ=0.68度のパンチでは高さ0.011mmの比較的小さなバリ20aの形成で済んでいる。
【0024】
多数枚の打抜き材20を積層してコアを形成することを前提とすると、その品質(上面と下面間の平行性)を保持するためには各打抜き材のバリ高さを0.02mm以内に収める必要がある。
このため、シャー角θは1.14度では大きすぎ、0.023~0.68度の範囲内に設定することが望ましいといえる。
【0025】
ところで、シャー高L、シャー角θ、シャー幅W1間の関係は、以下の三角関数の式1にて表される。
[式1] L=tan θ×W1
したがって、例えばシャー幅W1を2mmに設定するとなると、シャー高Lは以下の通りとなる。
(1) シャー角θが0.023度の場合→シャー高L:0.008 mm
(2) シャー角θが0.068度の場合→シャー高L:0.024 mm
しかしながら、現時点における金属加工技術の水準では0.1 mmのシャー高を実現するのが限界であり、0.008 mmや0.024 mmといった超微細なシャー高をパンチ12に付与することは現実的ではない。
【0026】
そこで、シャー高Lを0.1 mm以上に設定することを前提とすると、シャー幅W1の許容範囲は以下の通りとなる。
(1) シャー角θが0.023度の場合→シャー幅W1:25 mm以上
(2) シャー角θが0.068度の場合→シャー幅W1:9 mm以上
【0027】
この実施形態において、加工対象物(高強度軟磁性箔材)18の板厚Tとしては奇しくも0.1 mmを想定しているため、「シャー高L≧板厚T」の関係性が導かれる。
これまで、バリ高を抑える観点から、加工対象物の板厚の50%程度がシャー高の限界と認識されていたが、高強度軟磁性箔材の場合には板厚の100%を超えるシャー高をパンチ12に付与してもバリ高を0.02mm以下に抑えられることが、今回の実験を通じて確認できた。
【0028】
上記においては、刃先部分に傾斜面12aのみを有するパンチ12を例に説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、例えば
図10に示すように、刃先部分に傾斜面12aと平坦面12bとを備えた多段形状のパンチ12に対しても適用可能である。
この場合であっても、パンチ12には以下の条件を満たすことが求められる。
(1) シャー角θ:0.023~0.68度の範囲内
(2) シャー高L:0.1 mm以上
(3) シャー角θが0.023度の場合のシャー幅W1:25 mm以上
(4) シャー角θが0.068度の場合のシャー幅W1:9 mm以上
因みに、この多段形状のパンチ12の場合、「パンチ幅W2=シャー幅W1+平坦面幅W3(第1のエッジE1と第3のエッジE3間の距離)」となる。
【符号の説明】
【0029】
10 プレス加工装置
12 パンチ
12a パンチの傾斜面
12b パンチの平坦面
14 ダイ
14a ダイの貫通孔
16 ストリッパープレート
18 加工対象物
20 打抜き材
20a 打抜き材のバリ
22 振動加速度センサ
24 情報処理装置
30 振動加速度の波形
40 シャー
E1 パンチの第1のエッジ
E2 パンチの第2のエッジ
E3 パンチの第3のエッジ
H 水平面
L シャー高
θ シャー角
W1 シャー幅
W2 パンチ幅
W3 平坦面幅
【要約】
【課題】高強度軟磁性箔材をプレス抜き加工する際の金型負荷を低減できると共に、打抜き材のバリの高さを抑制可能な技術の提供。
【解決手段】パンチ12とダイ14を備え、両者間に搬送された板状の加工対象物18をパンチ12の下降によって打ち抜き、打抜き材20を製品として回収するプレス加工装置10であって、加工対象物18が鉄基アモルファス合金箔等の高強度軟磁性箔材よりなり、パンチ12側にのみシャー40が付与されており、このシャー40が、パンチ12の先端に形成された第1のエッジE1と、パンチ12の側面に形成された第2のエッジE2と、第1のエッジE1と第2のエッジE2間を繋ぐ傾斜面12aとから構成され、第1のエッジE1と接する水平面Hと傾斜面12aとのなす角であるシャー角が、0.23~0.68度の範囲内に設定されている。
【選択図】
図3