(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-20
(45)【発行日】2026-01-28
(54)【発明の名称】加水分解酵素を利用した微量物質の測定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/34 20060101AFI20260121BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20260121BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20260121BHJP
G01N 33/579 20060101ALI20260121BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20260121BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20260121BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20260121BHJP
C12N 9/76 20060101ALI20260121BHJP
【FI】
C12Q1/34
G01N27/416 336G
G01N27/416 336B
G01N27/327
G01N33/579
C12N9/14
C12Q1/37
C12N9/16 B
C12N9/76
(21)【出願番号】P 2022515447
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2021015693
(87)【国際公開番号】W WO2021210669
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2024-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2020073489
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 直哉
(72)【発明者】
【氏名】鉞 陽介
(72)【発明者】
【氏名】末永 智一
(72)【発明者】
【氏名】井上 久美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆広
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0091511(US,A1)
【文献】国際公開第2017/141961(WO,A1)
【文献】特開昭63-154957(JP,A)
【文献】特開2019-184580(JP,A)
【文献】特表2002-542154(JP,A)
【文献】SZUBARGA Alex et al,ELECTROCHEMICAL ACTIVITY DETERMINATION OF TRYPSIN-LIKE ENZYMES. IX. FACTOR X AND FACTOR Xa IN PLASMA AND WHOLE BLOOD.,THROMBOSIS RESEARCH,Vol. 36, No. 6,1984年,Pages. 647-650
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
G01N 33/48-33/98
C12N 9/00- 9/99
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質と結合することによって、基質を電気化学測定に適した基質-標識体化合物に変換するために用いられる標識体であって、電極に吸着する性質を有する標識体で標識された基質-標識体化合物を用いることを特徴と
し、
前記基質-標識体化合物から、加水分解酵素の作用により標識体が遊離され、遊離された標識体が電気化学的に測定され、
被検体の加水分解酵素活性、若しくは被検体中に含まれ得る加水分解酵素を活性化する物質を測定するためのものであり、
加水分解酵素を活性化する物質がエンドトキシン又は(1→3)-β-D-グルカンを含み、
標識体が、式Iの構造
【化1】
[式中、
R
7
は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3
、R
4
、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
R
8
は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXは、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、アニリノ、フェノキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]
を有するフェニレンジアミン系化合物、または、
【化2】
を有するアミノアントラキノン系化合物である、
電気化学的測定方法。
【請求項2】
基質と結合することによって、基質を電気化学測定に適した基質-標識体化合物に変換するために用いられる標識体であって、電極に吸着する性質を有する標識体で標識された基質-標識体化合物を用いることを特徴とし、
前記基質-標識体化合物から、加水分解酵素の作用により標識体が遊離され、遊離された標識体が電気化学的に測定され
、
被検体の加水分解酵素活性、若しくは被検体中に含まれ得る加水分解酵素を活性化する物質を測定するためのものであり、
加水分解酵素がトリプシン、ジンジパイン若しくはホスファターゼであり、
標識体が、式Iの構造
【化3】
[式中、
R
7
は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
3-9
シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3
、R
4
、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
R
8
は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXは、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6
アルキル、C
1-6
アルケニル、C
1-6
アルキニル、C
1-6
アルコキシ、アニリノ、フェノキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]
を有するフェニレンジアミン系化合物、または、
【化4】
を有するアミノアントラキノン系化合物である、
電気化学的測定方法。
【請求項3】
加水分解酵素がカブトガニのC因子、B因子、G因子、及び/又はプロクロッティングエンザイムであ
る、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
式Iで表されるフェニレンジアミン系化合物が、
【化5】
【化6】
【化7】
及び
【化8】
からなる群より選択される化合物であるか、又は
式(II)で表されるアミノアントラキノン系化合物が、以下の構造
【化9】
を有する1-アミノ-4-ヒドロキシアントラキノン、若しくは
以下の構造
【化10】
を有する2-アミノ-3-ヒドロキシアントラキノン、
又はその塩、無水物若しくは溶媒和物である、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項5】
基質-標識体化合物を含む、加水分解酵素活性若しくは加水分解酵素を活性化する物質の電気化学測定用試薬であって、前記基質-標識体化合物中の標識体は、電極に吸着する性質を有
し、
前記標識体が、
【化11】
【化12】
【化13】
及び
【化14】
からなる群より選択される化合物であるか、又は
以下の構造
【化15】
を有する1-アミノ-4-ヒドロキシアントラキノン、若しくは
以下の構造
【化16】
を有する2-アミノ-3-ヒドロキシアントラキノン、
又はその塩、無水物若しくは溶媒和物である、
前記試薬。
【請求項6】
請求項
5に記載の試薬を含む、加水分解酵素活性若しくは加水分解酵素を活性化する物質測定用の組成物。
【請求項7】
請求項
5に記載の試薬または請求項
6に記載の組成物を含む電極。
【請求項8】
請求項
7に記載の電極を
含む、電気化学測定用システム。
【請求項9】
基質-標識体化合物を含む、加水分解酵素活性若しくは加水分解酵素を活性化する物質の電気化学測定用試薬であって、前記基質-標識体化合物中の標識体は、電極に吸着する性質を有し、
前記試薬は被検体の加水分解酵素活性、若しくは被検体中に含まれ得る加水分解酵素を活性化する物質を測定するためのものであり、
加水分解酵素を活性化する物質がエンドトキシン又は(1→3)-β-D-グルカンを含み、
標識体が、式Iの構造
【化17】
[式中、
R
7は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
R
8は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXは、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、アニリノ、フェノキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]
を有するフェニレンジアミン系化合物、または、
【化18】
を有するアミノアントラキノン系化合物である、
前記試薬。
【請求項10】
基質-標識体化合物を含む、加水分解酵素活性若しくは加水分解酵素を活性化する物質の電気化学測定用試薬であって、前記基質-標識体化合物中の標識体は、電極に吸着する性質を有し、
前記試薬は被検体の加水分解酵素活性、若しくは被検体中に含まれ得る加水分解酵素を活性化する物質を測定するためのものであり、
加水分解酵素がトリプシン、ジンジパイン若しくはホスファターゼであり、
標識体が、式Iの構造
【化19】
[式中、
R
7は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
R
8は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXは、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、アニリノ、フェノキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]
を有するフェニレンジアミン系化合物、または、
【化20】
を有するアミノアントラキノン系化合物である、
前記試薬。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の試薬を含む、加水分解酵素活性若しくは加水分解酵素を活性化する物質測定用の組成物。
【請求項12】
請求項9もしくは10に記載の試薬または請求項11に記載の組成物を含む電極。
【請求項13】
請求項12に記載の電極を含む、電気化学測定用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加水分解酵素を利用した微量物質の電気化学測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素を用いた電気化学的測定により対象物の定性的または定量的な測定を行う場合、酸化還元酵素が利用されることが一般的である。一方で、酸化還元酵素以外の酵素、例えば、加水分解酵素等を利用した事例は少ない。光学的手法においては、加水分解酵素を利用した測定は一般的であり、酵素活性の測定や、微生物由来物質であるエンドトキシンや(1→3)-β-D-グルカンの測定に用いられていることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
エンドトキシンは、グラム陰性菌の細胞壁を構成するリポ多糖である。エンドトキシンは非常に安定な物質であるため、医薬品や医療機器、透析液等の製造、使用工程で混入すると、除去することや失活させることは困難である。エンドトキシンは代表的な発熱物質であり、エンドトキシンが混入した物質を投与されることにより血中にごく微量でも混入すると、投与された人や動物に発熱を引き起こす他、敗血症に伴う血管内血液凝固等、極めて致死率の高い疾患の原因となることが知られている。そのため注射剤、医療機器、バイオ医薬品、再生医療製品、透析用剤等の分野では、製品がエンドトキシンを含まない状態(パイロジェンフリー)であることが重要であり、エンドトキシン汚染の有無を迅速かつ正確に測定する技術に対する市場のニーズが存在する。
【0004】
エンドトキシンの測定方法としては、現在、リムルス試験が主流となっている。リムルス試験とは、カブトガニ血球抽出物(Limulus Amebocyte Lysate、以下LALとも言う)がエンドトキシンと反応する現象に基づいた試験法であり、ゲル化法、比濁法、比色法、蛍光法といった手法が知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。LALを使用した測定用試薬はLAL試薬、ライセート試薬、リムルス試薬などと表現され、これらはいずれも同義である。
【0005】
LALを利用してエンドトキシンを測定するための原理は、
図1の模式図に示す通りである。エンドトキシンにより、酵素前駆体であるC因子が活性化C因子に変換される。活性化C因子は加水分解酵素として作用し、酵素前駆体であるB因子を活性化B因子へと変換する。活性化B因子も加水分解酵素であり、プロクロッティングエンザイムを活性化されたクロッティングエンザイムに変換する。ゲル化法や比濁法は、活性化されたクロッティングエンザイムが加水分解酵素として作用し、LAL試薬中のコアギュローゲンを凝固性のあるコアギュリンへと変換する度合を指標にエンドトキシンを測定する手法である。他方で比色法は、活性化されたクロッティングエンザイムが加水分解酵素として作用し、エンドトキシン測定用に設計された標識ペプチドの、ペプチド-標識体間の結合を切断することを利用し、切断の結果生成した標識体の発色を測定することにより、エンドトキシンを測定する手法である。蛍光法は、エンドトキシン測定用に設計された標識ペプチドにLAL中の加水分解酵素が作用することで、標識ペプチドから標識体が生成することを利用し、標識体由来の蛍光を測定することによりエンドトキシンを測定する手法である(例えば、特許文献2を参照)。
【0006】
しかし、ゲル化法や比濁法はサンプルに生じる凝固を測定するため、濁りが強い検体や有色の検体を測定する場合など、条件によっては定量が難しい場合がある。また、LAL試薬の使用量が比較的多く、特殊な測定機器を必要とするなど測定コストが比較的高いという実情がある。比色法や蛍光法は操作が煩雑で、必要な試薬量が多い点に課題がある。そのため、より少ない試薬量、簡便な操作でエンドトキシン等の微生物由来物質を検出できる方法が必要とされている。
【0007】
こうした背景から、電気化学測定法を用いたリムルス試験の開発が試みられている。具体的には、電気化学的に活性な標識体を用いて標識ペプチドを合成し、活性化されたクロッティングエンザイムと標識ペプチドを作用させることにより、標識ペプチドから生成した標識体を電気化学的に測定する方法が提案され始めている。
【0008】
非特許文献1は、パラアミノフェノール(p-AP)が結合したペプチドを用いた電気化学的なエンドトキシンの測定方法を提案している。特許文献3では、p-APの電気化学的活性が速い速度で経時的に失われていくという課題を踏まえて、パラメトキシアニリンを結合したペプチドを利用して、エンドトキシンを定量する方法を提案している。また特許文献4は、電気化学的測定における検出感度を高めるために、電極構造の改変に関する提案が開示されている。特許文献5は、N,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン(DMPD)などのフェニレンジアミン誘導体を用いた電気化学的測定を開示している。
【0009】
しかしながら、従来一般的な酸化還元酵素を利用した方法ではなく、加水分解酵素活性を利用して、例えばエンドトキシン等の微量物質の電気化学的測定を実現する技術に関する知見は未だ乏しく、継続的な技術開発が求められている。
【0010】
トリプシンはセリンプロテアーゼの一種であり、血中トリプシン活性の測定は膵臓疾患の診断等、生化学検査分野にて一般的に実施されている。またジンジパインは、主要な歯周病病原菌であるPorphyromonas gingivalisが産生するプロテアーゼの一種であり、口腔内サンプルのジンジパイン活性測定は、被験者の歯周病診断にも応用されている。その他にもアルカリホスファターゼ、エステラーゼ、及びグリコシダーゼ等の加水分解酵素活性を測定することは、生化学研究や医療等の様々な分野で一般的に実施されており、これらの酵素活性を簡便に測定する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開95/14931号パンフレット
【文献】特開2009-150903号公報
【文献】特開2015-187607号公報
【文献】特開2018-072331号公報
【文献】国際公開2017/141961号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【文献】K. Y. Inoue et. al, Analyst, (2013) 138, 6523-6531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本開示は、加水分解酵素活性を利用して対象物を測定するための新規な電気化学的方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題解決のために鋭意研究を重ねた結果、電極に吸着する性質を有する標識体と、測定用に設計された基質とを結合させることにより得られる基質-標識体化合物を用いて、加水分解酵素と基質-標識体化合物を作用させることにより生成する標識体を電気化学的に測定することにより、例えばエンドトキシン等の微量物質を簡便に測定することができることを見出し、これを一実施形態として包含する本発明を完成した。また、トリプシンやジンジパインを簡便に測定することができることを見出し、これを一実施形態として包含する本発明を完成した。
【0015】
本開示は、以下の実施形態を包含する。
[1] 基質と結合することによって、基質を電気化学測定に適した基質-標識体化合物に変換するために用いられる標識体であって、電極に吸着する性質を有する標識体で標識された基質-標識体化合物を用いることを特徴とする、電気化学的測定方法
[2] 基質-標識体化合物から、加水分解酵素の作用により標識体が遊離され、遊離された標識体が電気化学的に測定される、実施形態1に記載の方法
[3] 被検体の加水分解酵素活性、若しくは被検体中に含まれ得る加水分解酵素を活性化する物質を測定するためのものである、実施形態1又は2に記載の測定方法
[4] 加水分解酵素を活性化する物質がエンドトキシン又は(1→3)-β-D-グルカンを含む、実施形態1~3のいずれかに記載の方法
[5] 加水分解酵素がカブトガニのC因子、B因子、G因子、及び/又はプロクロッティングエンザイムか、又はトリプシン、ジンジパイン若しくはホスファターゼであるである、実施形態1~4のいずれかに記載の方法
[6] 標識体が、式Iの構造
【化1】
[式中、
R
7は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
R
8は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXは、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、アニリノ、フェノキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]
を有するフェニレンジアミン系化合物、または、
【化2】
を有するアミノアントラキノン系化合物である、実施形態1~5のいずれかに記載の方法
[7] 式Iで表されるフェニレンジアミン系化合物が、
【化3】
【化4】
【化5】
及び
【化6】
からなる群より選択される化合物であるか、又は
式(II)で表されるアミノアントラキノン系化合物が、以下の構造
【化7】
を有する1-アミノ-4-ヒドロキシアントラキノン、若しくは
以下の構造
【化8】
を有する2-アミノ-3-ヒドロキシアントラキノン、
又はその塩、無水物若しくは溶媒和物である、実施形態6に記載の方法
【0016】
[8] 基質-標識体化合物を含む、加水分解酵素活性若しくは加水分解酵素を活性化する物質の電気化学測定用試薬であって、前記基質-標識体化合物中の標識体は、電極に吸着する性質を有する、前記試薬
[9] 実施形態8に記載の試薬を含む、加水分解酵素活性若しくは加水分解酵素を活性化する物質測定用の組成物
[10] 実施形態8に記載の試薬または実施形態9に記載の組成物を含む電極
[11] 実施形態10に記載の電極を用いる電気化学測定用システム
[12] 標識体が、式Iの構造
【化9】
[式中、
R
7は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
R
8は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXは、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、アニリノ、フェノキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]
を有するフェニレンジアミン系化合物、または、
【化10】
を有するアミノアントラキノン系化合物である、実施形態8に記載の試薬、実施形態9に記載の組成物、又は実施形態10に記載の電極若しくは実施形態11に記載のシステム
[12] 式Iで表されるフェニレンジアミン系化合物が、
【化11】
【化12】
【化13】
及び
【化14】
からなる群より選択される化合物であるか、又は
式(II)で表されるアミノアントラキノン系化合物が、以下の構造
【化15】
を有する1-アミノ-4-ヒドロキシアントラキノン、若しくは
以下の構造
【化16】
を有する2-アミノ-3-ヒドロキシアントラキノン、
又はその塩、無水物若しくは溶媒和物である、実施形態12に記載の試薬、組成物、電極又はシステム。
【0017】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2020-073489号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0018】
本開示の効果として、加水分解酵素活性若しくは加水分解酵素を活性化する物質を安定的に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】LALを用いたエンドトキシン測定法の原理に関する模式図。
【
図2】N-(3-イソプロピルフェニル)p-フェニレンジアミンを用いたサイクリックボルタンメトリーを実施し、掃引速度とIOmaxをプロットした結果を示す。
【
図3】N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンを用いたサイクリックボルタンメトリーを実施し、掃引速度とIOmaxをプロットした結果を示す。
【
図4】N-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンを用いたサイクリックボルタンメトリーを実施し、掃引速度とIOmaxをプロットした結果を示す。
【
図5】N-(4-アミノフェニル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンを用いたサイクリックボルタンメトリーを実施し、掃引速度とIOmaxをプロットした結果を示す。
【
図6】p-アミノフェノールを用いたサイクリックボルタンメトリーを実施し、掃引速度とIOmaxをプロットした結果を示す。
【
図7】p-アミノフェノールを用いたサイクリックボルタンメトリーを実施し、掃引速度とIOmaxをプロットした結果を示す。横軸は掃引速度の平方根である。
【
図8】Leu-Gly-Arg(基質)およびN-(3-イソプロピルフェニル)p-フェニレンジアミン(標識体)を結合させた基質-標識体化合物を用いてサイクリックボルタンメトリーを実施した時の、被検体中のエンドトキシン濃度と120mVにおける酸化電流値の関係を示す。
【
図9】Leu-Gly-Arg(基質)およびN-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン(標識体)を結合させた基質-標識体化合物を用いてサイクリックボルタンメトリーを実施した時の、被検体中のエンドトキシン濃度と120mVにおける酸化電流値の関係を示す。
【
図10】Leu-Gly-Arg(基質)およびN-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン(標識体) を結合させた基質-標識体化合物を用いてサイクリックボルタンメトリーを実施した時の、被検体中のエンドトキシン濃度と110mVにおける酸化電流値の関係を示す。
【
図11】標識体N-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミンと、基質Leu-Gly-Argとを結合させた基質-標識体化合物を用いてクロノアンペロメトリーを実施した時の、被検体中のエンドトキシン濃度と酸化電流値との関係を示す。
【
図12】標識体N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンと、基質Leu-Gly-Argとを結合させた基質-標識体化合物を用い、種々の濃度に調製したトリプシン溶液と反応させた後のサイクリックボルタンメトリー結果を示す。
【
図13】標識体N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンと基質Val-Pro-Argとを結合させた基質-標識体化合物を用い、培養上清と反応させた後の、サイクリックボルタンメトリーの結果を示す。培養上清濃度は原液を1とした相対値で示し、濃度0は、95℃で30分熱処理を行った陰性対照を表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ある実施形態において、本開示は電極に吸着する性質を有する標識体を提供する。この標識体は基質と結合することで、基質-標識体化合物を形成し得る。すなわち、ある実施形態において、本開示は基質-標識体化合物を提供する。基質-標識体化合物は、電気化学的測定に適しているものであり得る。すなわち、ある実施形態において、本開示は基質-標識体化合物を用いる電気化学的測定方法を提供する。別の実施形態において本開示は、基質と結合することによって、基質を電気化学測定に適した基質-標識体化合物に変換するために用いられる標識体であって、電極に吸着する性質を有する標識体で標識された基質-標識体化合物を用いることを特徴とする、電気化学的測定方法を提供する。
【0021】
基質-標識体化合物の結合が、加水分解酵素等の作用により切断されると、標識体が生成し得る。生成した標識体は電気化学的により測定され得る。すなわち、ある実施形態において、本開示は、基質-標識体化合物から、加水分解酵素の作用により標識体が生成され、生成された標識体が電気化学的により測定される、電気化学的測定方法を提供する。基質-標識体化合物中の基質は、加水分解酵素が基質-標識体化合物に作用するよう選択された任意の化合物を用いることができ、例えばアミノ酸、ペプチド、糖、核酸などであり得るがこれに限らない。
【0022】
ある実施形態において、本開示の電気化学的測定方法は、被検体の加水分解酵素活性若しくは被検体中に含まれ得る加水分解酵素を活性化する物質を測定するためのものであり得る。加水分解酵素を活性化する物質はエンドトキシン又は(1→3)-β-D-グルカンを含み得る。
【0023】
ある実施形態において、加水分解酵素はEC第3群に分類される各種の酵素を用いることができる。例として、カブトガニのC因子、B因子、G因子、プロクロッティングエンザイム(凝固酵素前駆体とも称する)、サブチリシン、プロテイナーゼK、トリプシン、キモトリプシン、トロンビン、プラスミン、凝血因子Xa、凝血因子VIIa、凝血因子IXa、凝血因子XIa、凝血因子XIIa、プロテインC、カリクレイン、パパイン、アクチニジン、カスパーゼ、ペプシン、レニン、キモシン、コアグラーゼ、カルパイン、アンジオテンシン変換酵素およびジンジパインなどのプロテアーゼの他、カルボキシルエステラーゼ、トリアシルグリセロールリパーゼ、アセチルコリンエステラーゼアセチルCoAヒドロラーゼ、アルカリホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、プロテインホスファターゼなどのホスファターゼ、5’-ヌクレオチダーゼ、3’-ヌクレオチダーゼなどのエステラーゼ、α-アミラーゼやα-グルコシダーゼなどのグリコシラーゼ、アデノシルホモシステイナーゼ、アルケニルグリセロホスホコリンヒドロラーゼなどのエーテルヒドロラーゼ、アスパラギナーゼ、ウレアーゼなどのペプチド以外の炭素-窒素結合に作用する酵素、ATPaseなどの酸無水物に作用する酵素などがあげられるが、これに限らない。
【0024】
ある実施形態において、標識体は、フェニレンジアミン系化合物であり得る。ある実施形態において、フェニレンジアミン系化合物は下記の一般式Iの化合物でありうる:
【化17】
[式中、
R
7は、水素、場合により1以上のXにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
3-9シクロアルキル、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル又はフェナントレニル、であり、
R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素、場合により1以上のYにより置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン又はアミノであり、
R
8は、場合により1以上のXにより置換されてもよい、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル及びフェナントレニル、からなる群より選択され、
ここでXは、場合によりハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される置換基により置換されてもよい、直鎖又は分枝鎖の、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、C
1-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、アニリノ(すなわちPhNH-基)、フェノキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、シアノ、スルホン又はアミノであり、
Yはハロ、アミノ、シアノ、カルボキシ、カルボニル、アルコキシ及びスルホンからなる群より選択される]。
【0025】
ある実施形態において、フェニレンジアミン系化合物は、N-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミン
【化18】
であり得る。
【0026】
ある実施形態において、フェニレンジアミン系化合物は、N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン
【化19】
であり得る。
【0027】
ある実施形態において、フェニレンジアミン系化合物は、N-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン
【化20】
であり得る。
【0028】
ある実施形態において、フェニレンジアミン系化合物はN-(4-アミノフェニル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン
【化21】
であり得る。
【0029】
フェニレンジアミン系化合物には、酸化還元状態及びイオン化状態があり得る。上記の化学式では、フェニレンジアミン系化合物を、中性型で還元型の形態で記載した。しかしながらこの形態のみならず、フェニレンジアミン系化合物は還元型(ジアミン型)であり得る。遊離したフェニレンジアミン系化合物が電極に吸着し、電極に電位が印加されると、フェニレンジアミン系化合物は酸化され、酸化型(ジイミン型)となり得る。
【0030】
別の実施形態において標識体は、アミノアントラキノン系化合物であり得る。ある実施形態において、アミノアントラキノン系化合物は下記の一般式IIの化合物でありうる:
【化22】
【0031】
ある実施形態において、アミノアントラキノン系化合物は1-アミノ-4-ヒドロキシアントラキノンでありうる。1-アミノ-4-ヒドロキシアントラキノンは、下記の構造
【化23】
を有する(CAS番号116-85-8)。
【0032】
別の実施形態において、アミノアントラキノン系化合物は2-アミノ-3-ヒドロキシアントラキノンでありうる。2-アミノ-3-ヒドロキシアントラキノンは、下記の構造
【化24】
を有する(CAS番号117-77-1)。アミノアントラキノン系化合物はこれらの塩、無水物若しくは溶媒和物であり得る。
【0033】
本明細書において用いるアルキルとは、直鎖または分枝鎖の、例えば6個の炭素原子を有する炭化水素を言う。アルキルの例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、n-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、n-ペンチル、ヘプチルが挙げられるがこれに限らない。
【0034】
本明細書において用いる、(炭素原子など)の原子の数は、例えば「Cx-yアルキル」と表され、これはxからy個の炭素原子を有するアルキル基を言う。他の置換基および範囲についても同じような表記をする。
【0035】
本明細書において「場合により置換されてもよい」、「置換されたまたは置換されていない」とは、1以上の置換基での任意の置換を意味し、これには複数度の置換も含まれる。
【0036】
アミノアントラキノン系化合物には、酸化還元状態及びイオン化状態があり得る。上記の化学式では、アミノアントラキノン系化合物を、中性型で還元型の形態で記載した。しかしながらこの形態のみならず、アミノアントラキノン系化合物は、酸化型、半酸化型、又は還元型であり得る。また、アミノアントラキノン系化合物は、中性型、又はカチオン型でありうる。便宜上、アミノアントラキノン系化合物、例えば上記化学式で表されるアミノアントラキノン系化合物という場合、これは、中性型、又はカチオン型の、酸化型、半酸化型、又は還元型の形態のものを包含するものとする。例えば、測定系に、アミノアントラキノン系化合物として中性型で酸化型の化合物を添加した後、溶液のpHや電子授受によりそれが酸化型でカチオン型の化合物に変化することがあり得るが、そのような化合物もアミノアントラキノン系化合物に包含されるものとする。またアミノアントラキノン系化合物というとき、これはその塩、酸付加塩、無水物及び溶媒和物を包含するものとする。塩としては、第1族元素の塩や第17族元素の塩、例えばNa塩、K塩、Cl塩、Br塩等が挙げられるがこれに限らない。酸付加塩としては塩酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩が挙げられるがこれに限らない。
【0037】
フェニレンジアミン系化合物及びアミノアントラキノン系化合物は、人工合成してもよく、天然物を取得してもよい。また市販されているものであってもよい。合成する場合は、慣用の有機合成手法を用いて有機合成を行い、NMR、IR、質量分析等により生成物を確認することができる。
【0038】
フェニレンジアミン系化合物及びアミノアントラキノン系化合物は、電極と接触させることで電極表面に吸着することができる。このとき、電極に吸着させるために、電極表面を酸処理して活性化するなどの特別の操作は必要ない。ある実施形態において、化合物(標識体)が有する電極に吸着する性質とは、該化合物が電極に物理的に吸着する性質をいい、電極は炭素、金、白金等の素材等を用いることが出来る。さらに、該化合物を炭素粉末又は炭素材料などの一次材料に吸着させ次いで当該炭素粉末又は炭素材料などの一次材料を電極に固定化する態様を含むものとする。ただし、これは、化合物の性質についての説明であって、化合物の使用方法を限定するものではない。すなわち、ある実施形態において、化合物を炭素粉末又は炭素材料などの一次材料に吸着させ次いで当該炭素粉末又は炭素材料などの一次材料を電極に固定化する方法が提供される。
【0039】
ある実施形態において、本開示は基質-標識体化合物を含む、加水分解酵素活性若しくは加水分解酵素を活性化する物質の電気化学測定用試薬を提供する。基質-標識体化合物中の標識体は、電極に吸着する性質を有するものであり得る。ある実施形態において、電極に吸着しない化合物は、本開示における標識体から除かれる。
【0040】
標識体単体、または基質-標識体化合物中の標識体が電極に吸着するかしないかは、後述の任意の電気化学的測定法を用いて確認することができる。例えば、試験化合物が電極に吸着するか否かを、サイクリックボルタンメトリーにより確認することができる。掃引速度を変化させ、例えば4mV/secから200mV/secの範囲で変化させ、酸化電流の最大値(IOmax)がどのように変化するかを調べる。一般的に、標識体が電極に吸着している場合、サイクリックボルタンメトリーの掃引速度とIOmaxの値は比例関係になることが知られている。また、標識体が電極に吸着せず拡散している場合には、掃引速度の0.5乗にIOmaxが比例することが知られている(例えば電気化学測定マニュアル 基礎編 (社団法人電気化学会(編)) p.74-94参照)。このようなIOmaxと掃引速度の関係から、化合物が電極に吸着しているか、吸着せず拡散しているかを決定することができる。
【0041】
ある実施形態において、本開示は前記電気化学測定用試薬を含む、加水分解酵素活性若しくは加水分解酵素を活性化する物質を測定するための組成物を提供する。別の実施形態において本開示は、前記電気化学測定用試薬または前記組成物を含む電極を提供する。別の実施形態において本開示は、前記電極を用いる電気化学測定用システムを提供する。
【0042】
ある実施形態において本開示は、加水分解酵素を活性化する物質の電気化学的測定方法、例えばエンドトキシンや(1→3)-β-D-グルカン等の微生物由来物質の電気化学的測定方法を提供する。そこで、以下、エンドトキシンの電気化学的測定方法を本開示の一例として詳述する。
【0043】
エンドトキシンを含み得る被験体をLAL試薬と混合すると、LAL試薬中のC因子がエンドトキシンにより活性化され、次いでB因子が活性化され、次いでプロクロッティングエンザイムがクロッティングエンザイムへと活性化される。クロッティングエンザイムが本開示に係る基質-標識体化合物に作用すると、標識体が生成する。エンドトキシンの活性単位はEU(endotoxin unit)と標記する。本明細書では特に断らない限り1 EUは1エンドトキシン国際単位(IU)とする。
【0044】
ある実施形態において本開示は、トリプシンの電気化学的測定方法を提供する。トリプシンが本開示に係る基質-標識体化合物に作用すると、標識体が生成する。トリプシンの活性単位は、N-ベンゾイル-L-アルギニンエチルエステルを基質として、pH7.6、25℃において1分間に253nmにおける吸光度を0.003増加させる酵素量を1酵素単位(U)とする。別の実施形態において本開示は、ジンジパインの電気化学的測定方法を提供する。ジンジパインが本開示に係る基質-標識体化合物に作用すると、標識体が生成する。ジンジパインの活性単位は、N-ベンゾイル-L-アルギニン-p-ニトロアニリンを基質として、pH7.6、37℃において1時間に放出されたpNAが1μmolとなる酵素量を1酵素単位(U)とする。
【0045】
生成した標識体は特定の電位で酸化反応することから、電気化学的方法により測定可能である。加えて、本開示に係る標識体は電極に吸着する性質を有する。そのため、本開示に係る標識体は、電極の近傍又は電極の表面に存在する確率が高く、電極に吸着する性質を有しない標識体を用いた場合と比較して、より高感度の測定が可能となる。標識体の酸化反応に起因する電流値と、生成した標識体の物質量、すなわちエンドトキシン濃度との間には相関が成り立ち、この相関を利用して、標識体の濃度を定量し得る。ある実施形態において、標識体は、酸化還元酵素や補酵素のような他の化合物から電子を受け取ることなく、自身が酸化されつつ電極へと電子を渡す。この実施形態において、標識体は、酸化還元酵素や補酵素のような他の化合物から電極への電子伝達を単に媒介するメディエーターとして機能するのではなく、自身が電子を放出する化合物として機能する。
【0046】
なお、測定系には、生成した標識体以外にも、切断されていない基質-標識体化合物が存在し得る。しかしながら、生成した標識体と、基質-標識体化合物とでは、酸化還元電位が異なるため、標識体に起因する電流と、基質-標識体化合物に起因する電流とを容易に区別することができる。また、本開示の方法では、ごく微量の標識体でも電気化学的に測定が可能であることから、エンドトキシン濃度を高精度にて検出し得る。また、トリプシンやジンジパインやホスファターゼを高精度にて検出し得る。
【0047】
また本開示の方法では、電気化学測定により測定対象物質を検出するため、そして、標識体が電極に吸着する性質を有するため、電極表面における反応を高感度にて検出することができ、微量の被検体でも物質の濃度を測定し得る。或いは被験体中に含まれる微量の物質でも測定し得る。高感度検出が可能であるということは、同じ物質量の微量物質を検出するために必要な被検体の量が少なくともよいことを意味し、これはまた、LAL試薬の使用量を削減できることを意味する。また、より安価に微量物質を測定しうることを意味する。
【0048】
また本開示においては、基質-標識体化合物を使用し、標識体が生成することを利用するが、標識体は電気化学活性が安定であるため、正確かつ安定的な検出が可能となる。これらの性質は例えば長時間測定で有利となり得る。また本開示の方法は、比色法や比濁法のように光により検出する方法ではないため、透明性の低い被検体や、組織液等の多成分系の被検体も測定対象にし得る。
【0049】
本開示の方法により測定し得る微量物質としては、例えばエンドトキシン、及び/又は(1→3)-β-D-グルカン、トリプシン、並びにジンジパイン及びホスファターゼが挙げられるがこれに限らない。ある実施形態では、測定される微量物質はエンドトキシンである。別の実施形態では測定される微量物質は(1→3)-β-D-グルカンである。別の実施形態では測定される微量物質はトリプシンである。別の実施形態では測定される微量物質はジンジパインである。別の実施形態では測定される微量物質はホスファターゼである。ある実施形態において、微量物質は微生物由来の物質であり得る。
【0050】
以下、本開示のエンドトキシン、及び/又は(1→3)-β-D-グルカンの検出方法について説明する。
反応工程は、エンドトキシン、及び/又は(1→3)-β-D-グルカンを含み得る被検体と、LAL試薬および基質-標識体化合物とを接触させることを含む。これにより多段階反応を経て基質-標識体化合物から標識体が生成する。
【0051】
LAL試薬として、生体由来成分から単離され精製されたC因子、B因子、G因子、凝固酵素等や、遺伝子組換え技術によって作製された組換えC因子等のリムルス因子を調製したLAL同等物を用いてもよい。カブトガニは、任意の種であり得る。カブトガニとしては、例えば、タキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)、リムルス・ポリフェムス(Limulus polyphemus)、カルシノスコルピウス・ロツンディカウダ(Carcinoscorpius rotundicauda)およびタキプレウス・ギガス(Tachypleus gigas)が挙げられるが、これに限らない。
【0052】
LAL試薬は、市販のものであり得る。市販試薬としては、カイネティック-QCL(ロンザウォーカーズヴィルインク)、エンドスペシー(生化学工業株式会社)、パイロクロム(アソシエーツオブケープコッドインク)、パイロテル-T(アソシエーツオブケープコッドインク)、パイロテル マルチテスト(アソシエーツオブケープコッドインク)、エンドクロム-K(チャールズリバーラボラトリーズインク)等があげられる。
【0053】
また、LAL試薬は、任意のリムルス因子のみを含むよう再構成された試薬でありうる。ある実施形態において再構成LAL試薬はC因子を含み、他のリムルス因子(B因子、G因子、プロクロッティングエンザイム)は含んでもよく、また含まずともよい。別の実施形態において再構成LAL試薬はG因子を含み、他のリムルス因子(C因子、B因子、プロクロッティングエンザイム)は含んでもよく、含まずともよい。再構成LAL試薬は、公知の方法により調製し得る(例えばNakamura T, et al, J. Biochem. 1986 Mar; 99(3): 847-57を参照のこと)。組換えリムルス因子は、リムルス因子遺伝子をコードする核酸を用いて形質転換した宿主細胞に当該遺伝子を発現させ取得し得る。宿主細胞としては、哺乳動物細胞や昆虫細胞が挙げられ、例えばチャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHO細胞)やヒト胎児腎細胞由来細胞株(HEK細胞、例えばHEK293細胞)、Sf9細胞が挙げられるがこれに限らない(例えば国際公開第2012/118226号、国際公開第2014/092079号を参照のこと)。
【0054】
ある実施形態において、基質-標識体化合物における基質は、アミノ酸若しくはオリゴペプチドであり得る。この場合の基質-標識体化合物は、一端に標識体が結合し、他端にアミノ酸若しくはペプチドの保護基が結合したオリゴペプチドであり得る。このようなアミノ酸若しくはオリゴペプチドは、例えば、X-A-標識体で示されるものを挙げることができる。ここで、Xは保護基、Aはアミノ酸若しくはオリゴペプチドを表す。保護基Xはペプチドを保護する基、例えば、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンゾイル基、ベンジル基、アセチル基(Ac)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)等であり得るがこれに限らない。また、保護基はオリゴペプチドに結合していてもいなくてもよい。以下、基質と表現される化合物には、保護基が結合しているものも結合していないものも含まれるものとする。
【0055】
アミノ酸としては、α-アミノ酸やβ-アミノ酸など挙げられるが、ライセート試薬の作用によって標識体を遊離することができるものであれば特に限定されない。オリゴペプチドとしては、LAL試薬の作用によって標識体を生成することができるものであれば特に限定されない。オリゴペプチドは、例えばアミノ酸数が2~10、2~5、又は3~4であり得るがこれに限らない。ある実施形態において、オリゴペプチドはC末端にArg(R)を有し得る。オリゴペプチドとしてはX-Asp-Pro-Arg(X-DPR)、X-Val-Pro-Arg(X-VPR)、X-Leu-Thr-Arg(X-LTR)、X-Met-Thr-Arg(X-MTR)、X-Leu-Gly-Arg(X-LGR)、X-Thr-Gly-Arg(X-TGR)、X-Ile-Glu-Gly-Arg(X-IEGR)、X-Ser-Gly-Arg(X-SGR)、X-Leu-Ala-Arg(X-LAR)、X-Leu-Ser-Arg(X-LSR)、X-Lys-Gly-Arg(X-KGR)、X-Glu-Gly-Arg(X-EGR)、X-Leu-Leu-Gly-Arg(X-LLGR)、及びX-Met-Leu-Gly-Arg(X-MLGR)が挙げられるがこれに限らない。ある実施形態において、Xは0~7アミノ酸を有するペプチドであり得る。
【0056】
例えば、トリペプチドとしては、Leu-Gly-Arg、Thr-Gly-Arg及びVal-Pro-Argが挙げられる。また、例えば、一般式:R1-Gly-Arg-標識体で表されるL-アミノ酸を有するトリペプチドが挙げられる。式中、R1はN-ブロックされたアミノ酸を表す。
【0057】
また、一般式:R2-A1-A2-A3-A4-標識体というテトラペプチドが挙げられる。式中、R2は水素、ブロックしている芳香族炭化水素またはアシル基を表し、A1はIle、ValまたはLeuから選択されるL-アミノ酸またはD-アミノ酸を表し、A2はGluまたはAspを表し、A3はAlaまたはCysを表し、A4はArgを表す。
【0058】
一端に標識体が結合し、他端にペプチドの保護基が結合したオリゴペプチドとしては、具体的には、Boc-Leu-Gly-Arg-標識体、アセテート-Leu-Gly-Arg-標識体、アセテート-Ile-Glu-Ala-Arg-標識体、Boc-Val-Pro-Arg-標識体、アセテート-Val-Pro-Arg-標識体等が挙げられる。
【0059】
別の実施形態において、基質-標識体化合物における基質は、リン酸基であり得る。すなわち、この場合の基質-標識体化合物は、一端が標識体であり、他端がリン酸基であるリン酸エステル化合物であり得る。以下に化合物の構造を例示する。
【0060】
ある実施形態において、基質-標識体化合物は、N-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミンホスフェート
【化25】
であり得る。
【0061】
ある実施形態において、基質-標識体化合物は、N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンホスフェート
【化26】
であり得る。
【0062】
ある実施形態において、基質-標識体化合物は、N-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンホスフェート
【化27】
であり得る。
【0063】
ある実施形態において、基質-標識体化合物は、N-(4-アミノフェニル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンホスフェート
【化28】
であり得る。
【0064】
微量物質を含む被検体と、LAL試薬および基質-標識体化合物とを接触させる場合、緩衝剤を使用し得る。緩衝剤は、測定に使用する加水分解酵素に応じて選択することができ、例えばLAL試薬を用いる場合は、溶液pHをpH 6.0~9.0、例えばpH 7.0~8.5とするものであり得る。緩衝液としては、Tris-酢酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、PIPES緩衝液等が挙げられるがこれに限らない。トリプシン、ジンジパイン、及びホスファターゼ(アルカリホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、プロテインホスファターゼを含む)等の他の加水分解酵素を測定する場合も同様に、酵素反応を進行させるために適した溶液pH(例えば、pH2~13)及び緩衝液を選択し得る。
【0065】
LAL試薬を用いた測定においては、多段階反応により生じる活性型凝固酵素により、ペプチド基質-標識体化合物から標識体が遊離する。多段階反応および遊離反応時には、反応を活性化するために、溶液を加温し得る。多段階反応および遊離反応の反応温度は、例えば20℃~50℃、25~45℃、30~40℃、例えば約37℃とし得る。ある実施形態において反応時間は、例えば1分間以上、5分間以上、10分間以上、15分間以上、20分間以上、30分間以上、1時間以上、例えば2時間以上とし得るがこれに限らない。別の実施形態において反応時間は、2時間以下、1時間以下、30分以下、20分以下、15分以下、5分以下、例えば1分以下とし得るがこれに限らない。
【0066】
トリプシン、ジンジパイン、及びホスファターゼ(アルカリホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、プロテインホスファターゼを含む)等の他の加水分解酵素を測定する場合には、加水分解酵素により基質-標識体化合物から標識体が遊離する。加水分解反応を活性化するために、溶液を加温し得る。反応温度は、例えば20℃~50℃、25~45℃、30~40℃、例えば約37℃とし得る。ある実施形態において反応時間は、例えば1分間以上、5分間以上、10分間以上、15分間以上、20分間以上、30分間以上、1時間以上、例えば2時間以上とし得るがこれに限らない。別の実施形態において反応時間は、2時間以下、1時間以下、30分以下、20分以下、15分以下、10分以下、5分以下、例えば1分以下とし得るがこれに限らない。
【0067】
ある実施形態において、本開示の方法により、0.1 EU/L以上、例えば0.2 EU/L以上、0.3 EU/L以上、0.4 EU/L以上、0.5 EU/L以上、0.6 EU/L以上、0.7 EU/L以上、0.8 EU/L以上、0.9 EU/L以上、1 EU/L以上、2 EU/L以上、3 EU/L以上、4 EU/L以上、5 EU/L以上、6 EU/L以上、7 EU/L以上、8 EU/L以上、9 EU/L以上、例えば10 EU/L以上の濃度のエンドトキシンを測定し得る。ある実施形態において、本開示の方法により、1000 EU/L以下、例えば900 EU/L以下、800 EU/L以下、700 EU/L以下、600 EU/L以下、500EU/L以下、400 EU/L以下、300 EU/L以下、200 EU/L以下、100 EU/L以下、90 EU/L以下、80 EU/L以下、70 EU/L以下、60 EU/L以下、50 EU/L以下、40 EU/L以下、30 EU/L以下、20 EU/L以下、10 EU/L以下の濃度のエンドトキシンを測定し得る。別の実施形態において、本開示の方法により、0.1 U/L以上、例えば0.2 U/L以上、0.5 U/L以上、1 U/L以上、1.5 U/L以上、2 U/L以上、5 U/L以上、10 U/L以上、50 U/L以上、100 U/L以上、例えば1000 U/L以上の濃度のトリプシン、ジンジパイン、又はホスファターゼを測定し得る。別の実施形態において、本開示の方法により、10000 U/L以下、5000 U/L以下、1000 U/L以下、500 U/L以下、100 U/L以下、50 U/L以下、例えば10 U/L以下の濃度のトリプシン、ジンジパイン、又はホスファターゼを測定し得る。特に断らない限り、本開示における数値範囲は、上限値及び下限値も含むものとする(例えば数値範囲a~bは、a以上かつb以下を意味する)。また、本開示は、数値範囲について例示される上限値と下限値のあらゆる組み合わせを包含するものとする。ある実施形態において、本開示の方法により、0.1~1000 EU/L、例えば1~1000 EU/Lの濃度のエンドトキシンを測定し得る。別の実施形態において、本開示の方法により、0.1~10000 U/L、例えば1~1000 U/Lの濃度のトリプシン、ジンジパイン、又はホスファターゼを測定し得る。
【0068】
ある実施形態において、本開示では、基質-標識体化合物を含む、加水分解酵素活性若しくは加水分解酵素を活性化する物質の電気化学測定用試薬、または前記試薬を含む物質測定用の組成物を提供する。これらの試薬または組成物は、測定に必要な種々の物質を含み得る。試薬又は組成物中の基質-標識体化合物の濃度は、測定に応じて適宜選択できるものとし、例えば0.01%(w/w)以上、0.02%(w/w)以上、0.03%(w/w)以上、0.04%(w/w)以上、0.05%(w/w)以上、0.1%(w/w)以上、0.2%(w/w)以上、0.3%(w/w)以上、0.4%(w/w)以上、0.5%(w/w)以上、1%(w/w)以上、2%(w/w)以上、3%(w/w)以上、4%(w/w)以上、5%(w/w)以上、10%(w/w)以上、20%(w/w)以上、30%(w/w)以上、40%(w/w)以上、50%(w/w)以上とすることができるがこれに限らない。別の実施形態において、試薬又は組成物中の基質-標識体化合物の濃度は、例えば99%(w/w)以下、90%(w/w)以下、50%(w/w)以下、40%(w/w)以下、30%(w/w)以下、20%(w/w)以下、10%(w/w)以下、5%(w/w)以下、4%(w/w)以下、3%(w/w)以下、2%(w/w)以下、1%(w/w)以下、0.5%(w/w)以下、0.4%(w/w)以下、0.3%(w/w)以下、0.2%(w/w)以下、0.1%(w/w)以下とすることができるがこれに限らない。なお、ここでの重量%は、乾燥重量での重量%を表す。
【0069】
測定工程は、上記遊離反応後の溶液に対して、電気化学反応を行うことを含む。これにより、測定される電流値に基づき微量物質(例えば微生物由来物質)を定量し得る。反応後の溶液には、基質-標識体化合物から生成した標識体が存在しており、標識体は特定の電位において酸化される。この酸化反応に由来する電流値と、標識体の物質量、すなわち微量物質(例えば微生物由来物質)の濃度との間に相関が成り立つ。この相関を利用して、標識体の濃度を定量することができる。
【0070】
電気化学反応による測定は、任意の方法で行うことができる。測定方法としては例えばアンペロメトリー法、ボルタンメトリー法等が挙げられるがこれに限らない。アンペロメトリー法としては、クロノアンペロメトリー法、ディファレンシャルパルスアンペロメトリー法等が挙げられるがこれに限らない。ボルタンメトリー法としては、ノーマルパルスボルタンメトリー法、ディファレンシャルパルスボルタンメトリー法、サイクリックボルタンメトリー法等が挙げられるがこれに限らない。
【0071】
アンペロメトリー法では、例えば、被検体、LAL試薬および基質-標識体の混合溶液に電極を入れ、アンペロメトリー法に基づく測定を行う。ある実施形態では、作用極に一定電位を印加した状態で、流れる電流を測定する。電位は参照極に対して制御する。電流は作用極および対極の間を流れる。電流値が十分に小さいときは対極を省略してもよい。この場合、参照極が対極の役割を担うことができる。電圧印加時間を横軸に、電流値を縦軸にプロットすると、一定電位を電極に印加開始してから一定時間経過後の電流値をグラフ化し得る。濃度が既知の試料、例えば既知濃度の微量物質と、一定時間経過後の電流値との相関を示した検量線を予め作成しうる。これにより、測定電流値から濃度未知の微生物由来物質を含み得る被験試料中に含まれる、微量物質の濃度を算出し得る。印加する電圧は条件や装置の設定にもよるが、例えば-1000mV~+1000mV (vs.Ag/AgCl)とすることができる。
【0072】
電極は特に限定されず、電気化学測定に用いられる一般的な電極を使用し得る。例えば、作用極としては、グラッシーカーボン、カーボンペースト、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素電極、金、白金等の電気化学的に安定な貴金属を使用し得る。対極としては、金、白金等の電気化学的に安定な貴金属を使用し得る。参照極としては、Ag/AgCl電極等を用いることができる。
【0073】
また、測定装置としては、一般に電気化学測定に使用される装置を用いることができ、例えばポテンショスタット、電流増幅器、情報処理部等を備えた装置が挙げられる。情報処理部は、CPU、メモリ、HDD等の外部記憶機構、モデム等の通信手段、ディスプレイ、マウス及びキーボードなどの入力手段を有し得る。情報処理部は、内部メモリや外部記憶装置等の所定領域に設定したプログラムにしたがい、電気信号を解析し、微量物質の濃度算出を行いうる。情報処理装置は、汎用機でも専用機でもよい。
【0074】
基質-標識体化合物の調製
本開示の標識体を基質に連結することができる。ある実施形態において、基質-標識体化合物は、一端に標識体が結合され、多端にペプチド保護基が結合された化合物、すなわち保護基-基質-標識体という化合物であり得る。別の実施形態において、基質-標識体化合物は、一端に標識体が結合され、多端にリン酸基が結合された化合物、すなわちリン酸-標識体化合物であり得る。ある実施形態において、基質-標識体化合物は、保護基が結合していない化合物であり得る。使用する基質は公知の合成法により合成し得る。基質の構造は、加水分解酵素の基質特異性や反応性に応じて設計し得る。基質への標識体の結合は、有機合成の分野において用いられる一般的な方法により行うことができる。調製した基質-標識体化合物は、シリカゲルカラム等を用いた薄層クロマトグラフィーにより分離及び/又は精製し、質量分析やNMRにより生成物を確認しうる。
【0075】
本開示の実施に当たり、化学、有機合成、生化学、分子生物学、電気化学の従来技術を使用するが、それらは当業者の能力の範囲内である。このような技術は文献に説明されている。たとえば、Organic Chemistry (Jonathan Clayden (編集), Nick Greeves (著), Stuart Warren (著), Peter Wothers (著))、Oxford Univ Pr, 2000や、March's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure (Michael B. Smith (著), Jerry March (著))Wiley-Interscience, 6th edition, 2007を参照されたい。これらの一般的なテキストは、それぞれ参考として本明細書に組み入れられる。
【0076】
実施例において実証したとおり、本開示の方法によりエンドトキシンを測定することができた。また、実施例において実証したとおり、本開示の方法によりトリプシンを測定することができた。また、実施例において実証したとおり、本開示の方法によりジンジパインを測定することができた。これらの方法の特徴は、電極に吸着する標識体を用いた点、及び電気化学的測定により標識体を測定する点にある。本開示の方法は、特定の加水分解酵素に依存するものではなく、標識体が遊離すれば、同じ原理により対象物質を電気化学的に測定し得る。
【実施例】
【0077】
以下の実施例により、本開示をさらに例証する。ただし、本開示の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。実施例では以下の化合物等を下記の省略形で表記することがある:
N,N-ジイソプロピルエチルアミン N,N-DIPEA或いは単にDIPEA
トリエチルアミン Et3N
ジメチルスルホキシド DMSO
メタノール MeOH
酢酸エチル AcOEt
パラジウム炭素 Pd/C
加熱 Δ
水溶性カルボジイミド塩酸塩(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride) WSCl・HCl或いはEDC・HCl
ジクロロメタン DCM或いはCH2Cl2
トリフルオロ酢酸 TFA
tert-ブトキシカルボニル基 Boc
ベンジルオキシカルボニル基 Z或いはCbz
【0078】
[材料および方法]
材料や試薬は特に断らない限り、市販されているか、又は当技術分野で慣用の手法、公知文献の手順に従って入手又は調製したものである。LAL試薬は、エンドスペシーES-24Sセット(生化学工業製)またはリムルスカラーKYシングルテストワコー(富士フイルム和光純薬製、製品コード291-53601)を用いた。エンドトキシン標準液は、USP リファレンス スタンダードエンドトキシン(生化学工業製)を、エンドトキシンフリー蒸留水で所定の濃度に希釈して用いた。トリプシンはトリプシン、ブタ膵臓由来(富士フイルム和光純薬製、製品コード201-19181)を用いた。アルカリホスファターゼは例えば富士フイルム和光純薬社から入手可能である(アルカリホスファターゼ、製品コード018-10693)。化合物N-(3-イソプロピルフェニル)p-フェニレンジアミン、N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(4-アミノフェニル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンおよび前記4化合物の1級アミノ基と、Leu-Gly-Arg若しくはVal-Pro-ArgのArg残基のカルボキシル基をアミド結合させた基質-ペプチド化合物は、渡辺化学工業株式会社より入手した。これらの製造手順は次の通りである。
【0079】
以下のスキームを用いて、N-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(4-アミノフェニル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(スキーム中KIK-MO-xxと表記)を合成した。
【0080】
【0081】
4-フルオロニトロベンゼンと目的化合物に対応するアリールアミン(例えば3-イソプロピルアニリン、3-tert-ブチルアニリン、又は3,5-ジ-tert-ブチルアニリン)に塩基を加えて反応させ、ジフェニルアミン骨格を有する化合物を合成し、次いで接触還元によりニトロ基をアミノ基に還元することで、目的の化合物を合成することができた。
【0082】
以下のスキームを用いてN-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(4-アミノフェニル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの各化合物に、基質であるLeu-Gly-Arg若しくはVal-Pro-Argを結合させた(スキーム中KIK-PE-xxと表記)。また、スキーム中では、標識体化合物を一般化して「NH2-Ar」と表記する。
【0083】
【0084】
あらかじめ合成したKIK-MO-xxとアミノ酸もしくはオリゴペプチドを、Z基、Boc基などの保護基により保護したうえで、水溶性カルボジイミドなどの縮合剤を用いて結合させることで、目的の化合物を合成することができた。
【0085】
生成物はHPLC、及びLC/MSによる確認を行った。他の化合物については、東京化成工業、富士フイルム和光純薬、ナカライテスクより市販品を入手した。
【0086】
[実施例1]フェニレンジアミン系化合物と炭素電極との吸着性確認
4種のフェニレンジアミン系化合物(N-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(4-アミノフェニル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)を用いて、グラッシーカーボン電極によるサイクリックボルタンメトリーを行った。具体的には、1mMのフェニレンジアミン系化合物溶液10μl、100mMリン酸カリウム緩衝液 (pH7.0) 90μl、超純水100μlを混合し、測定溶液を調製した。グラッシーカーボン製棒電極(BAS製:SGCEガラス状カーボン電極3×1.6)を作用極、白金製棒電極(BAS製:PTカウンター電極5.7cm)を対極、銀/塩化銀電極(イーシーフロンティア製:RE-11A)を参照極に用い、サイクリックボルタンメトリーを行った。-400mV~+800mVを掃引範囲とした。掃引速度を4mV/secから200mV/secの範囲で変化させ、酸化電流の最大値(IOmax)がどのように変化するか調べた。一般的に、化合物が電極に吸着している場合、サイクリックボルタンメトリーの掃引速度とIOmaxの値は比例関係になることが知られている。化合物が溶液中で拡散している場合は、掃引速度の0.5乗にIOmaxが比例する。
【0087】
N-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミンを用いたサイクリックボルタンメトリーを実施し、掃引速度とIOmaxをプロットした結果を
図2に示す。その結果、掃引速度とIOmaxが比例関係にあることが確認され、N-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミンがカーボン電極に吸着することが示された。
【0088】
N-(3-イソプロピルフェニル)p-フェニレンジアミンの代わりにN-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、N-(4-アミノフェニル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンを用いて同様の試験を行った結果を
図3、
図4、
図5に示す。いずれの化合物においても掃引速度とIOmaxが比例関係にあることが確かめられ、N-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミンがカーボンと同様、カーボン電極に吸着することが示された。
【0089】
比較例(p-アミノフェノール)
なお、本開示のフェニレンジアミン系化合物の代わりに、既知の標識体であるp-アミノフェノールを用いて同様の測定を実施した結果を
図6および
図7に示す。IOmaxが掃引速度の0.5乗に比例することが確認され、p-アミノフェノールが電極に吸着せず、拡散していることが示された。
【0090】
[実施例2]基質-標識体化合物を用いたエンドトキシンの測定
Leu-Gly-ArgとN-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミンを結合させた化合物(以下LGR- N-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミンと表記)を用いて、エンドトキシンの電気化学的測定を実施した。具体的には、エンドスペシーES-24Sセット付属のLAL試薬に、付属の緩衝液を200μl加えよく混合し、LAL溶液を作製した。1mM LGR- N-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミン溶液10μl、LAL溶液90μl、所定濃度(0、1、10、100、1000EU/l)のエンドトキシン水溶液90μlを乾熱滅菌試験管中で混合し、37℃のインキュベーター中で1時間静置した。その後、実施例1と同様の電極を用い、掃引範囲も実施例1と同様の条件でサイクリックボルタンメトリーを実施した。ただし掃引速度は20mV/secとした。
【0091】
横軸にエンドトキシン濃度、縦軸に120mV(vs.Ag/AgCl)の酸化電流をプロットした結果を
図8に示す。エンドトキシン濃度依存的に電流値が増加していることがわかる。120mV(vs.Ag/AgCl)は標識体であるN-(3-イソプロピルフェニル)p-フェニレンジアミンの酸化電位であり、エンドトキシン濃度と標識体由来の酸化電流に相関がみられる。すなわち、電気化学的測定により被検体中のエンドトキシン濃度を定量可能であることが示された。
【0092】
LGR-N-(3-イソプロピルフェニル)p-フェニレンジアミンの代わりに、Leu-Gly-ArgとN-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、Leu-Gly-ArgとN-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンを結合させた化合物(以下それぞれLGR- N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン、LGR-N-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンと表記)を用いて、同様の試験を行った。結果を
図9、
図10に示す。縦軸に示す酸化電流値は、LGR-N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンは120mV時の電流、LGR-N-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンは110mV時の電流とした。いずれもエンドトキシン濃度依存的に酸化電流値が増加しており、本手法によりエンドトキシン濃度を測定することができた。
【0093】
[実施例3]基質-標識体化合物を用いた低濃度エンドトキシンの測定
LGR-N-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミンを用いて、低濃度のエンドトキシンの電気化学的測定を実施した。具体的には、リムルスカラーKYシングルテストワコー付属のLAL試薬に、エンドトキシンフリーの蒸留水を200μl加えよく混合し、LAL溶液を作製した。LAL溶液90μlと所定濃度(0、1、5、若しくは10 EU/l)のエンドトキシン水溶液90μlを乾熱滅菌試験管中で混合し、37℃のインキュベーター中で1時間静置した。その後、4 mM LGR-N-(3-イソプロピル)-p-フェニレンジアミン溶液を10μl添加し、37℃のインキュベーター中でさらに1時間静置した。反応終了後、実施例1と同様の電極を用い、クロノアンペロメトリーを実施した。最初に0mV(vs. Ag/AgCl)の電位を10秒間印加し、その後、ステップ電位として250mV(vs. Ag/AgCl)を印加した。250mVの印加開始から1秒後の時間点における電流値を測定電流値とした。
【0094】
横軸にエンドトキシン濃度、縦軸に測定電流値をプロットした結果を
図11に示す。エンドトキシン濃度依存的に電流値が増加していることがわかる。250mV(vs.Ag/AgCl)の電位を印加すると、基質-標識体であるLGR-N-(3-イソプロピル)-p-フェニレンジアミンは酸化されず、標識体であるN-(3-イソプロピルフェニル)p-フェニレンジアミンのみ酸化されることから、エンドトキシン濃度と測定電流値に相関がみられる。すなわち、電気化学的測定により被検体中のエンドトキシン濃度を定量可能であることが示された。
【0095】
[実施例4]基質-標識体化合物を用いたトリプシンの測定
LGR-N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンを用いて、トリプシンの電気化学的測定を実施した。トリプシンは、0.1 mM Tris-HCl (pH7.5)を用いて所定の濃度に希釈し用いた。1mM LGR-N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン溶液10μl、所定濃度(0、630、又は6300 U/lの終濃度)のトリプシン水溶液90μl、超純水90μlを乾熱滅菌試験管中で混合し、37℃のインキュベーター中で1時間静置した。その後、実施例2と同様の条件でサイクリックボルタンメトリーを実施した。
【0096】
横軸にトリプシン濃度、縦軸に120mV(vs.Ag/AgCl)の酸化電流をプロットした結果を
図12に示す。トリプシン濃度依存的に電流値が増加していることがわかる。120mV(vs.Ag/AgCl)は標識体であるN-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンの酸化電位であり、トリプシン濃度と標識体由来の酸化電流に相関がみられる。すなわち、電気化学的測定により被検体中のトリプシン濃度を定量することができた。
【0097】
[実施例5]基質-標識体化合物を用いたジンジパインの測定
測定に用いるP. gingivalis JCM8525株は以下の方法で培養した。5mg/mLヘミン保存液は、0.05mgのヘミン(東京化成製、H0008)を1mLの1Nアンモニア水を加えて溶解し、9mLの蒸留水を添加したものをオートクレーブにて加熱滅菌した。1mg/mLビタミンK保存液は、0.1gの2-メチル-1,4-ナフトキノン(東京化成、M0373)を100mLのエタノール(和光純薬)にて溶解して作製した。これらの溶液は、作製後冷蔵保存した。BHI寒天培地は、パールコア ブレインハートインフュジョン(BHI)寒天培地「栄研」(栄研化学、E-MC61)5.2gを蒸留水にて溶解し、ヘミン保存液を0.1mL(終濃度5μg/mL)、ビタミンK保存液(終濃度1μg/mL)を加え、100mLにメスアップし、オートクレーブにて滅菌を行った。滅菌後熱いうちに、約20mLずつ滅菌済みのシャーレにまき、冷却し固化させ、アネロパック(三菱ガス化学)を入れた密閉容器に保存して、脱気した。BHI液体培地は、パールコア ブレインハートインフュジョンブイヨン培地「栄研」(栄研化学、E-MC62)3.7gにヘミン保存液を0.1mL(終濃度5μg/mL)、ビタミンK保存液(終濃度1μg/mL)を加え、100mLにメスアップし、2mLずつシリコン栓をした試験管に分注し、オートクレーブにて滅菌を行った。冷却後、アネロパック(三菱ガス化学)を入れた密閉容器に保存して、脱気した。各菌株のグリセロールストックより、白金耳でBHI寒天培地に植え継いだ。培養は、アネロパック(三菱ガス化学)を入れた密閉容器内で脱気しながら行い、37℃にて1週間程度、静置培養した。コロニーが確認できたところで、BHI液体培地に植え継ぎ、アネロパック(三菱ガス化学)を入れた密閉容器内で脱気しながら行い、37℃にて1週間程度、静置培養した。十分濁りが確認できた時点で、培養終了とした。培養液を4300×gにて20分間遠心を行い、上清を0.22μmのフィルターを用いて菌体を除去し、培養上清原液とした。培養上清原液はリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)(ナカライテスク、製品コード27575-31)にて適宜希釈した。
【0098】
Val-Pro-ArgとN-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンを結合させた化合物(以下VPR-N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンと表記)を用いて、ジンジパインの電気化学的測定を実施した。具体的には、1mM VPR-N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン溶液10μl、所定の割合(原液、2倍希釈、4倍希釈)のP. gingivalis培養上清溶液10μl、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)80μlを乾熱滅菌試験管中で混合し、37℃のインキュベーター中で1時間静置した。その後、実施例2と同様の条件でサイクリックボルタンメトリーを実施した。陰性対照として、P. gingivalis培養上清原液を95℃、30分熱処理した溶液を用い、同様に測定を行った。
【0099】
横軸に培養上清原液を1とした時の測定サンプルの相対濃度、縦軸に120mV(vs.Ag/AgCl)の酸化電流をプロットした結果を
図13に示す。相対濃度0は、培養上清原液を熱処理した陰性対照を表す。培養上清の濃度依存的に電流値が増加していることがわかる。120mV(vs.Ag/AgCl)は標識体であるN-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンの酸化電位であり、培養上清濃度と標識体由来の酸化電流に相関がみられる。また、熱処理によって酸化電流の値が顕著に低下していることから、この酸化電流は酵素活性に基づいていることが強く示唆される。すなわち、電気化学的測定により培養上清中のジンジパイン活性を定量することができた。
【0100】
上記の実施例ではフェニレンジアミン系化合物に基づく標識体を用いてエンドトキシン、トリプシン、及びジンジバリス培養上清に含まれるジンジパインの電気化学的測定を行った。エンドトキシン測定に用いるクロッティングエンザイム、トリプシン、及びジンジパインはいずれもプロテアーゼであるが、ペプチダーゼも同様に測定可能であり、また、本開示の方法は、ホスファターゼ、例えばアルカリホスファターゼ、エステラーゼやグリコシダーゼなど、様々な加水分解酵素に適用可能であることが当業者において理解される。
【0101】
以下に、本開示の方法を用いたアルカリホスファターゼの測定方法を説明する。リン酸と標識体とを結合させた化合物を用いて、アルカリホスファターゼの電気化学的測定を実施する。リン酸基質-標識体化合物として、リン酸とN-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンを結合させた化合物、リン酸とN-(3-イソプロピルフェニル)-p-フェニレンジアミンとを結合させた化合物、若しくはリン酸とN-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミンとを結合させた化合物、又は類似化合物を使用してもよい。例えば1mM リン酸-N-(3-tert-ブチルフェニル)-p-フェニレンジアミン溶液10μl、所定濃度(0、1、2、5、10又は20 U/l)のアルカリホスファターゼ溶液10μl、2.0mmol/L塩化マグネシウム含有0.1mol/L炭酸塩緩衝液(pH9.8)80μlを乾熱滅菌試験管中で混合し、37℃のインキュベーター中で1時間静置する。その後、実施例2と同様の条件でサイクリックボルタンメトリーを実施する。
【0102】
アルカリホスファターゼ濃度と標識体由来の酸化電流の関係を調べ、電気化学的測定によりアルカリホスファターゼを定量する。
【0103】
上記の実施例では主にフェニレンジアミン系化合物に基づく標識体を用いてエンドトキシン、トリプシン及びジンジパインの電気化学的測定を行った。使用されたフェニレンジアミン系化合物は電極に吸着する性質を有することが報告されているものである。したがって、当業者であれば、フェニレンジアミン系化合物の代わりに、電極に吸着する性質を有する他の化合物、例えば式IIのアミノアントラキノン系化合物に基づく標識体を用いてエンドトキシン、トリプシン及びジンジパイン並びにホスファターゼの電気化学的測定が可能である、と理解する。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本開示の微量物質測定方法は、発酵や製薬、生化学研究等の分野等に利用することができる。
【0105】
本明細書においては、特許出願および製造業者のマニュアルを含む複数の文書が引用されている。これらの文書の開示は、本開示の特許性に関連するとはみなされないが、その全体を参照により本明細書に組み入れることとする。より詳細には、全ての参照文書を、各個の文書が参照により組み入れられると具体的かつ個別に示されている場合と同様に、参照により本明細書に組み入れることとする。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。