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7808100バルーンカテーテル用バルーン及びバルーンカテーテルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-20
(45)【発行日】2026-01-28
(54)【発明の名称】バルーンカテーテル用バルーン及びバルーンカテーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/14 20060101AFI20260121BHJP
   A61M 25/10 20130101ALI20260121BHJP
【FI】
A61L29/14
A61M25/10
A61M25/10 502
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023520794
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2022006686
(87)【国際公開番号】W WO2022239356
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2024-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2021079672
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 こころ
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/141382(WO,A1)
【文献】特開2004-298354(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118807(WO,A1)
【文献】特開平9-038195(JP,A)
【文献】特開2005-305187(JP,A)
【文献】特開2008-000553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 29/14
A61M 25/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子配向を有する樹脂で形成されたバルーンであって、長手軸方向と、前記長手軸方向に垂直な断面において拡張状態の前記バルーンの外周に沿う周方向を有しており、
直管部と、前記直管部よりも近位側に位置している近位側テーパー部と、前記直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部と、を有しており、
前記長手軸方向において、前記直管部の近位端を0%の位置とし遠位端を100%の位置としたとき、
0%の位置から10%の位置までの近位側区間における前記分子配向及び90%の位置から100%の位置までの遠位側区間における前記分子配向の主配向方向は前記周方向であり、
40%の位置から60%の位置までの中央区間における前記分子配向の長手軸方向成分は、前記近位側区間及び前記遠位側区間における前記分子配向の長手軸方向成分よりも多いバルーンカテーテル用バルーン。
【請求項2】
前記中央区間における前記分子配向の主配向方向は、前記長手軸方向である請求項1に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
【請求項3】
前記分子配向の前記長手軸方向成分は、前記中央区間から前記0%の位置に向かって漸減し、前記中央区間から前記100%の位置に向かって漸減している請求項1又は2に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
【請求項4】
10%の位置から40%の位置までの区間を近位側中間区間、60%の位置から90%の位置までの区間を遠位側中間区間としたとき、
前記近位側中間区間及び前記遠位側中間区間において、前記分子配向の主配向方向が前記長手軸方向から前記周方向に変わる請求項2又は3に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
【請求項5】
前記中央区間の前記バルーンの膜厚は、前記近位側区間及び前記遠位側区間の前記バルーンの膜厚よりも薄い請求項1~4のいずれか一項に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のバルーンを備えるバルーンカテーテル。
【請求項7】
請求項6に記載のバルーンカテーテルの製造方法であって、
樹脂で構成されるパリソンを準備するステップと、
内腔を有しており、前記内腔を形成する内壁面が直管部と、前記直管部よりも近位側に位置している近位側テーパー部と、前記直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部と、を有している金型を準備するステップと、
前記金型内に前記パリソンを配置するステップと、
前記金型を加熱しながら、前記パリソンを、前記長手軸方向に応力歪曲線のネッキング領域を超えるまで延伸させる第1延伸工程と、
前記金型を加熱しながら、前記第1延伸工程の後に、前記ネッキング領域を超えるまで延伸された前記パリソンを、前記第1延伸工程よりも前記パリソンの内圧が高い状態で前記長手軸方向にさらに延伸させる第2延伸工程と、を含むバルーンカテーテルの製造方法。
【請求項8】
前記第1延伸工程において前記パリソンは前記第2延伸工程よりも低い圧力で加圧され、前記第2延伸工程において前記ネッキング領域を超えてからさらに加圧される請求項7に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
【請求項9】
前記金型の前記直管部の中央部が最も高温となるように前記金型を加熱するステップを含む請求項7又は8に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテル用バルーン、及びバルーンカテーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管の狭窄部にバルーンカテーテルを挿入してバルーンを拡張させることにより、血管を拡張して血流を確保する血管形成術は低侵襲療法として広く行われている。血管形成術は、例えば心臓の冠動脈に狭窄が生じることにより引き起こされる心筋梗塞等の疾病の治療や、透析のためのシャント部に発生した狭窄の治療などに用いられる。バルーンカテーテルのバルーンは、通常、遠位側と近位側がすぼまった円柱状の形状をしており、円柱状の直管部と、直管部よりも近位側に位置している近位側テーパー部と、直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部とを有する形状である。
【0003】
通常、バルーンカテーテルにより狭窄部を拡張させる際には、対象とする部位に応じた拡張圧力によりバルーンを拡張させるが、手技中に想定外の内圧がバルーンにかかる等によりバルーンの内圧が過加圧となるとバルーンが破壊してしまうことがある。このとき、バルーンが周方向に破壊すると破壊箇所から遠位側のバルーンの断裂片を体内に残存させてしまうという重大なリスクが生じるため、仮にバルーンが破壊してしまう場合であっても、バルーンの破壊が周方向の割れとならずに長手軸方向の割れとするような技術が必要である。
【0004】
例えば特許文献1~3では、バルーンの耐圧性を有し周方向の破壊を抑えることを課題としたバルーンが提案されている。特許文献1には拡張機能部において周方向に配向している高分子鎖の割合の差が所定値以下であるバルーンが、特許文献2には筒状部の周方向配向分配数を軸方向配向分配数によって除して算出される配向分配数の比率が所定位置未満であるバルーンが、特許文献3にはバルーンの材料自身の分子配向が軸方向に揃っており軸方向に亀裂が生じることで飛散破裂しにくいバルーンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-298354号公報
【文献】国際公開第2014/141382号
【文献】特開2008-553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記バルーンはバルーンの分子配向を制御することにより周方向の破壊の抑制や耐圧性の向上を試みているが、バルーンが破壊してしまう場合に長手軸方向割れが生じる部位を制御しながら長手軸方向割れを発生させることで周方向割れを抑制することはできなかった。また、長手軸方向割れが生じた場合に、長手軸方向割れがバルーンの比較的肉厚な近位端側や遠位端側にまで延長し近位端側や遠位端側で周方向割れとなるL字形割れを形成することがあり、L字形の周方向割れ部分で断裂して断裂片が体内に残存するリスクが生じることがあるが、従来のバルーンではこのようなL字形割れを防止するには不十分であった。
【0007】
上記の事情に鑑み本発明は、バルーンが破壊してしまう場合であっても、バルーンの中央部で長手軸方向割れを生じさせることにより周方向割れを抑制できるバルーンカテーテル用バルーンを提供することを目的とする。また、長手軸方向割れを直管部内に留めることにより、長手軸方向割れがバルーンの近位端側や遠位端側にまで延長して端部で周方向割れとなるL字形割れを形成することを防止できるバルーンカテーテル用バルーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し得た本発明のバルーンカテーテル用バルーンの一実施形態は、分子配向を有する樹脂で形成されたバルーンであって、長手軸方向と、長手軸方向に垂直な断面において拡張状態のバルーンの外周に沿う周方向を有しており、直管部と、直管部よりも近位側に位置している近位側テーパー部と、直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部と、を有しており、長手軸方向において、直管部の近位端を0%の位置とし遠位端を100%の位置としたとき、0%の位置から10%の位置までの近位側区間における分子配向及び90%の位置から100%の位置までの遠位側区間における分子配向の主配向方向は周方向であり、40%の位置から60%の位置までの中央区間における分子配向の長手軸方向成分は、近位側区間及び遠位側区間における分子配向の長手軸方向成分よりも多いことに特徴を有する。このように、中央区間における分子配向の長手軸方向成分が近位側区間及び遠位側区間における分子配向の長手軸方向成分よりも多いことで、バルーンが過加圧等により破壊してしまう場合であっても中央区間で長手軸方向割れのきっかけを作ることができ、中央区間で長手軸方向割れが生じることで内圧を逃すことができるため周方向割れを防止できる。また、中央区間で生じた長手軸方向割れが近位側区間及び遠位側区間を越えて勢いよく長手軸方向に走ると、比較的肉厚な近位側テーパー部及び遠位側テーパー部で周方向割れとなるL字形割れを形成するおそれがある。しかし、本発明のバルーンカテーテル用バルーンによれば、近位側区間及び遠位側区間における分子配向の主配向方向が周方向であることにより、中央区間で生じた長手軸方向割れが近位側区間及び遠位側区間に達したとしても、近位側区間及び遠位側区間を越えて近位側テーパー部及び遠位側テーパー部にまで勢いよく及ぶことを防止できるため、長手軸方向割れを直管部内に留めることができ、近位側テーパー部及び遠位側テーパー部で周方向割れとなるL字形割れを形成することを防止することができる。その結果、周方向割れやL字形割れによりバルーンの断裂片が体内に残存してしまうリスクを回避することが可能となる。
【0009】
上記バルーンカテーテル用バルーンにおいて、中央区間における分子配向の主配向方向は、長手軸方向であることが好ましい。
【0010】
上記バルーンカテーテル用バルーンにおいて、分子配向の長手軸方向成分は、中央区間から0%の位置に向かって漸減し、中央区間から100%の位置に向かって漸減していることが好ましい。
【0011】
上記バルーンカテーテル用バルーンにおいて、中央区間における分子配向の主配向方向が長手軸方向であり、10%の位置から40%の位置までの区間を近位側中間区間、60%の位置から90%の位置までの区間を遠位側中間区間としたとき、近位側中間区間及び遠位側中間区間において、分子配向の主配向方向が長手軸方向から周方向に変わることが好ましい。
【0012】
上記バルーンカテーテル用バルーンにおいて、中央区間のバルーンの膜厚は、近位側区間及び遠位側区間のバルーンの膜厚よりも薄いことが好ましい。
【0013】
本発明は、上記バルーンカテーテル用バルーンを備えるバルーンカテーテルも提供する。
【0014】
さらに本発明は、上記バルーンカテーテルの製造方法も提供する。上記課題を解決し得た本発明のバルーンカテーテルの製造方法の一実施態様は、樹脂で構成されるパリソンを準備するステップと、内腔を有しており、前記内腔を形成する内壁面が直管部と、直管部よりも近位側に位置している近位側テーパー部と、直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部と、を有している金型を準備するステップと、金型内にパリソンを配置するステップと、金型を加熱しながら、パリソンを、長手軸方向に応力歪曲線のネッキング領域を超えるまで延伸させる第1延伸工程と、金型を加熱しながら、第1延伸工程の後に、ネッキング領域を超えるまで延伸されたパリソンを、第1延伸工程よりもパリソンの内圧が高い状態で長手軸方向にさらに延伸させる第2延伸工程と、を含むことに特徴を有する。多くの樹脂では、図1に示すような応力歪み曲線において、降伏点Bまでの弾性変形の領域では、折れ曲がった状態の分子鎖が伸びるように応力が働く。降伏点B以降は、分子間力で引き合っていた分子鎖同士がせん断方向にずれる塑性変形が始まる。分子鎖が一旦ずれ始めると分子鎖に緩みが生じ応力が下降伏点Lまで減少する現象を示す樹脂もある。その後は暫く横ばいの応力を示す領域が見られ、このような領域は通常ネッキング領域Rnと称される。ネッキング領域Rnでは歪みにより分子鎖がずれることで一定の応力を示すが、所定の歪み以上になると分子鎖同士が接近して密に配向し分子鎖間に強い分子間力が生まれるため、所定の歪み以上、すなわちネッキング領域Rnを超えた領域では応力は右肩上がりで上昇する。第1延伸工程では、ネッキング領域Rnを超えるまでまずパリソンを長手軸方向に延伸し、その後の第2延伸工程でネッキング領域Rnを超えるまで延伸されたパリソンを内圧が高い状態でさらに長手軸方向に延伸することで、近位側区間及び遠位側区間における分子配向の主配向方向は周方向であり、中央区間における分子配向の長手軸方向成分が近位側区間及び遠位側区間における分子配向の長手軸方向成分よりも多いバルーンカテーテル用バルーンを備えるバルーンカテーテルを製造することが可能となる。
【0015】
上記製造方法は、第1延伸工程において、パリソンは、第2延伸工程よりも低い圧力で加圧され、第2延伸工程においてネッキング領域を超えてからさらに加圧されることが好ましい。
【0016】
上記製造方法は、金型の直管部の中央部が最も高温となるように金型を加熱するステップを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記バルーンカテーテル用バルーン及びバルーンカテーテルの製造方法によれば、バルーンが破壊してしまう場合であっても、バルーンの中央部で長手軸方向割れを生じさせることにより周方向割れを抑制できる。また、長手軸方向割れを直管部内に留めることにより、長手軸方向割れがバルーンの近位端側や遠位端側にまで延長して端部で周方向割れとなるL字形割れを形成することを防止できる。このため、バルーンが仮に過加圧等により破壊したとしても、周方向割れやL字形割れによりバルーンの断裂片が体内に残存してしまうリスクを回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ポリエステル樹脂の応力歪曲線を表す。
図2】本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルの側面図を表す。
図3】本発明の一実施形態に係るバルーンに長手軸方向割れが生じたときの平面図を表す。
図4】バルーンに周方向割れが生じたときの例を示す平面図を表す。
図5】バルーンにL字形割れが生じたときの例を示す平面図を表す。
図6】バルーンにL字形割れが生じたときの別の例を示す平面図を表す。
図7】本発明の一実施形態に係るバルーンの直管部の分子配向を測定するサンプルの作製方法を説明する図を表す。
図8】本発明の一実施形態に係るバルーンを2次元複屈折評価システムで測定して得られるコンター図を表す。
図9】本発明の一実施形態に係るバルーンを2次元複屈折評価システムで測定して得られる位相差のグラフを表す。
図10】本発明の一実施形態に係るバルーンを2次元複屈折評価システムで測定して得られる軸方位のグラフを表す。
図11】本発明の一実施形態に係る金型内にパリソンを配置した状態を示す断面図を表す。
図12】本発明の一実施形態に係る第1延伸工程における状態を示す断面図を表す。
図13】本発明の一実施形態に係る第2延伸工程における状態を示す断面図を表す。
図14】本発明の一実施形態に係る第2延伸工程が終了した後の状態を示す断面図を表す。
図15】実施例1で得られたバルーンのコンター図である。
図16】実施例1で得られたバルーンの位相差のグラフである。
図17】実施例1で得られたバルーンの軸方位のグラフである。
図18】実施例1で得られたバルーンの膜厚を示すグラフである。
図19】比較例1で得られたバルーンのコンター図である。
図20】比較例1で得られたバルーンの位相差のグラフである。
図21】比較例1で得られたバルーンの軸方位のグラフである。
図22】比較例1で得られたバルーンの膜厚を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0020】
1.バルーンカテーテル用バルーン
本発明の実施形態に係るバルーンカテーテル用バルーンは、分子配向を有する樹脂で形成されたバルーンであって、長手軸方向と長手軸方向に垂直な断面において拡張状態のバルーンの外周に沿う周方向を有しており、直管部と、直管部よりも近位側に位置している近位側テーパー部と、直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部と、を有しており、長手軸方向において、直管部の近位端を0%の位置とし遠位端を100%の位置としたとき、0%の位置から10%の位置までの近位側区間における分子配向及び90%の位置から100%の位置までの遠位側区間における分子配向の主配向方向は周方向であり、40%の位置から60%の位置までの中央区間における分子配向の長手軸方向成分は、近位側区間及び遠位側区間における分子配向の長手軸方向成分よりも多いことに特徴を有する。このように、中央区間における分子配向の長手軸方向成分が近位側区間及び遠位側区間における分子配向の長手軸方向成分よりも多いことで、バルーンが過加圧等により破壊してしまう場合であっても中央区間で長手軸方向割れのきっかけを作ることができ、中央区間で長手軸方向割れが生じることで内圧を逃すことができるため周方向割れを防止できる。また、中央区間で生じた長手軸方向割れが近位側区間及び遠位側区間を越えて勢いよく長手軸方向に走ると、比較的肉厚な近位側テーパー部及び遠位側テーパー部で周方向割れとなるL字形割れを形成するおそれがある。しかし、本発明の実施形態に係るバルーンカテーテル用バルーンは、近位側区間における分子配向及び遠位側区間における分子配向の主配向方向が周方向であることにより、中央区間で生じた長手軸方向割れが近位側区間及び遠位側区間に達したとしても近位側区間及び遠位側区間を越えて金側テーパー部及び遠位側テーパー部まで勢いよく及ぶことを防止できるため、長手軸方向割れを直管部内に留めることができ、近位側テーパー部及び遠位側テーパー部で周方向割れとなるL字形割れを形成することを防止できる。その結果、周方向割れやL字形割れによりバルーンの断裂片が体内に残存してしまうリスクを回避することが可能となる。本明細書において、バルーンカテーテル用バルーンを単に「バルーン」と称することがある。
【0021】
図2図6を参照しながら、バルーンカテーテル用バルーンについて説明する。図2は本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルの側面図を表す。図3は本発明の一実施形態に係るバルーンに長手軸方向割れが生じたときの平面図を表し、図4はバルーンに周方向割れが生じたときの例を示す平面図を表し、図5はバルーンにL字形割れが生じたときの例を示す平面図を、図6はバルーンにL字形割れが生じたときの別の例を示す平面図を表す。
【0022】
本発明において、近位側とはバルーンカテーテル1の延在方向又はシャフト3の長手軸方向xに対して使用者又は術者の手元側の方向を指し、遠位側とは近位側の反対方向、すなわち処置対象者側の方向を指す。シャフト3のような長尺状の部材以外もシャフト3と同じ長手軸方向xを有する。長手軸方向xに垂直な断面においてバルーン2の中心と拡張状態のバルーン2の外接円上の点とを結ぶ方向を径方向y、長手軸方向xに垂直な断面すなわち径方向yの断面において拡張状態のバルーン2の外周に沿う方向を周方向zと称する。
【0023】
図2に示すように、バルーンカテーテル1は、シャフト3とシャフト3の遠位側に設けられたバルーン2とを有するものである。バルーン2は、長手軸方向x、径方向y、及び周方向zを有しており、近位側と遠位側にそれぞれ開口を有する筒状に好ましくは形成される。バルーン2は、分子配向を有する樹脂で形成されている。
【0024】
バルーンカテーテル1は、シャフト3を通じてバルーン2の内部に流体が供給されるように構成され、インデフレーター(バルーン用加減圧器)を用いてバルーン2の拡張及び収縮を制御することができる。流体は、ポンプ等により加圧された加圧流体であってもよい。
【0025】
バルーン2は、直管部23と、直管部23よりも近位側に位置している近位側テーパー部22と、直管部23よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部24とを有している。直管部23は長手軸方向xにおいて凡そ同じ径を有していることが好ましく、近位側テーパー部22及び遠位側テーパー部24は直管部23から離れるにつれて縮径するように形成されることが好ましい。直管部23が最大径を有していることにより、バルーン2を狭窄部等の病変部において拡張させた際に直管部23が病変部に十分に接触して病変部の拡張等の治療を行い易くできる。また、縮径された近位側テーパー部22及び遠位側テーパー部24を有していることにより、バルーン2を収縮させた際にバルーン2の近位端部及び遠位端部の外径を小さくしてシャフト3とバルーン2との段差を小さくすることができるため、バルーン2を体腔内で挿通し易くすることができる。
【0026】
バルーン2は、近位側テーパー部22よりも近位側及び遠位側テーパー部24よりも遠位側に、それぞれ、近位側スリーブ部21及び遠位側スリーブ部25を有していてもよい。近位側スリーブ部21及び遠位側スリーブ部25の少なくとも一部がシャフト3と固定される構成とすることができる。
【0027】
長手軸方向xにおいて、直管部23の近位端を0%の位置D0とし遠位端を100%の位置D100としたとき、0%の位置D0から10%の位置D10までの近位側区間23aにおける分子配向、及び90%の位置D90から100%の位置D100までの遠位側区間23eにおける分子配向の主配向方向は周方向zであり、40%の位置D40から60%の位置D60までの中央区間23cにおける分子配向の長手軸方向xの成分は、近位側区間23a及び遠位側区間23eにおける分子配向の長手軸方向xの成分よりも多い。
【0028】
中央区間23cにおける分子配向の長手軸方向成分が近位側区間23a及び遠位側区間23eにおける分子配向の長手軸方向成分よりも多いことで、バルーン2が過加圧等により破壊してしまう場合であっても中央区間23cで長手軸方向xの割れのきっかけを作ることができる。これにより、図3に示すように、中央区間23cで長手軸方向xの割れが生じることで内圧を逃すことができるため、図4に示すような周方向zの割れや図5に示すような端部で生じた長手軸方向xの割れがテーパー部に達してL字形割れ形成することを防止できる。
【0029】
また、中央区間23cで生じた長手軸方向xの割れが近位側区間23a及び遠位側区間23eを越えて勢いよく長手軸方向xに走ると、近位側テーパー部22及び遠位側テーパー部24で周方向zの割れを引き起こし図6に示すようなL字形割れを形成するおそれがある。しかし、近位側区間23a及び遠位側区間23eにおける分子配向の主配向方向が周方向zであることにより、中央区間23cで生じた長手軸方向xの割れが近位側区間23a及び遠位側区間23eに達したとしても、近位側区間23a及び遠位側区間23eを超えて近位側テーパー部22及び遠位側テーパー部24にまで及ぶことを防止できる。これにより、長手軸方向xの割れを直管部23内に留めることができ、比較的肉厚になっている近位側テーパー部22及び遠位側テーパー部24で周方向割れとなるL字形割れを形成することを防止できる。
【0030】
図7図10を参照しながら、直管部23の分子配向の測定方法を説明する。図7は本発明の一実施形態に係るバルーン2の直管部23の分子配向を測定するサンプルの作製方法を説明する図を表す。図8は本発明の一実施形態に係るバルーンをフォトニックラティス社製2次元複屈折評価システムで測定して得られるコンター図の例を表し、図9及び図10は長手軸方向のライン解析の結果得られる位相差のグラフの例及び軸方位のグラフの例を表す。
【0031】
直管部23の分子配向は、直管部23の長方形のサンプルを、フォトニックラティス社製2次元複屈折評価システムを用いて測定することができる。長方形のサンプルは、図7に示すように、第1切断線S1に沿ってバルーン2から近位側テーパー部22及び遠位側テーパー部24を切り落とし、得られた直管部23を長手軸方向xの第2切断線S2に沿って切り開くことにより得られる。
【0032】
測定結果として得られるコンター図の例を図8に、長手軸方向xのライン解析の結果得られる位相差のグラフ及び軸方位のグラフの例をそれぞれ図9及び図10に示す。各図において、左端が直管部23の0%の位置D0、右端が直管部23の100%の位置D100に対応している。コンター図は、位相差の大きさを色のコントラストで表しており、視覚的に配向状態を確認することができる。そして、位相差のグラフから配向の強さの情報を、軸方位のグラフから配向の向きの情報を具体的に得ることができる。
【0033】
主配向方向は、軸方位のグラフから決定できる。所定区間において、80°~100°の範囲に含まれる線の長さが、0°~10°の範囲及び170°~180°の範囲に含まれる線の長さよりも長いときに、当該区間における主配向方向は周方向zである。逆に、所定区間において、80°~100°の範囲に含まれる線の長さが、0°~10°の範囲及び170°~180°の範囲に含まれる線の長さよりも短ければ、当該区間における主配向方向は長手軸方向xである。配向成分の強度については、位相差グラフから得ることができる。近位側区間23a、中間区間23c、及び遠位側区間23eのどの区間で配向方向の長手軸方向xの成分が多いかについては、軸方位のグラフにおいて、それぞれの区間における0°~10°の範囲及び170°~180°の範囲に含まれる線の長さを比較して、含まれる線の長さが最も長い区間が配向方向の長手軸方向xの成分が多い区間であると決定することができる。例えば、図8図10に示した測定結果を示すバルーン2は、軸方位のグラフより、近位側区間23a及び遠位側区間23eにおける分子配向の主配向方向は周方向zであることがわかる。また、中央区間23cにおける分子配向の主配向方向は長手軸方向xであり、中央区間23cにおける分子配向の長手軸方向xの成分は、近位側区間23a及び遠位側区間23eにおける分子配向の長手軸方向xの成分よりも多いことがわかる。さらに、位相差のグラフより、中央区間23cから近位側及び遠位側にいくにつれて配向強度が減少、すなわち分子配向の長手軸方向xの成分が減少していることがわかる。
【0034】
中央区間23cにおける分子配向の主配向方向は、長手軸方向xであることが好ましい。主配向方向が長手軸方向xであることで、バルーン2が過加圧等により破壊してしまう場合であっても中央区間23cで長手軸方向xの割れのきっかけを作ることがより容易となる。これにより、中央区間23cで長手軸方向xの割れが生じることで内圧を逃すことができるため、周方向zの割れをより容易に防止できる。
【0035】
分子配向の長手軸方向xの成分は、中央区間23cから0%の位置D0に向かって漸減し、中央区間23cから100%の位置D100に向かって漸減していることが好ましい。これにより、分子配向の長手軸方向xの成分を中央区間23cで最も多くすることができ、中央区間23cで長手軸方向xの割れのきっかけを作ることがより容易となり、中央区間23cで長手軸方向xの割れが生じることで内圧を逃すことができるため、周方向zの割れをより容易に防止できる。分子配向の長手軸方向xの成分が中央区間23cから0%の位置D0に向かって漸減しているとは、例えば、40%の位置D40、20%の位置、及び0%の位置D0における分子配向の長手軸方向xの成分を比較した場合に順に減っていればよく、また、分子配向の長手軸方向xの成分が中央区間23cから100%の位置D100に向かって漸減しているとは、例えば、60%の位置D60、80%の位置、及び100%の位置D100における分子配向の長手軸方向xの成分を比較した場合に順に減っていればよく、必ずしも中央区間23cから近位側或いは遠位側にいくほど分子配向の長手軸方向xの成分が連続的に減少していなくてもよい。或いは、中央区間23cから近位側或いは遠位側にいくほど分子配向の長手軸方向xの成分が連続的に減少していてもよい。
【0036】
10%の位置D10から40%の位置D40までの区間を近位側中間区間23b、60%の位置D60から90%の位置D90までの区間を遠位側中間区間23dとしたとき、近位側中間区間23b及び遠位側中間区間23dにおいて、分子配向の主配向方向が長手軸方向xから周方向zに変わることが好ましい。近位側中間区間23b及び遠位側中間区間23dで分子配向の主配向方向が長手軸方向xから周方向zに変わることで、中央区間23cで生じた長手軸方向xの割れの進行を近位側中間区間23b及び遠位側中間区間23dで止めることが容易となり、割れが生じる箇所を直管部23内に留めることがより容易となる。分子配向の主配向方向の変化は、軸方位のグラフから知ることができる。図10に示した例では、近位側中間区間23b及び遠位側中間区間23dで分子配向の主配向方向が長手軸方向xから周方向zに変わっていることがわかる。
【0037】
中央区間23cのバルーン2の膜厚は、近位側区間23a及び遠位側区間23eのバルーン2の膜厚よりも薄いことが好ましい。中央区間23cの膜厚が薄いことにより、中央区間23cで長手軸方向xの割れのきっかけを作ることがより容易となるため、長手軸方向xの割れの発生箇所を中央区間23cに限定することが容易となる。
【0038】
図示していないが、バルーン2は外面よりも径方向yの外方に突出しており長手軸方向xに延在している突出部を有していてもよい。突出部は、バルーン2の外面に点状、線状、又は網状等のパターンで設けられることが好ましい。バルーン2の外面に突出部を設けることにより、突出部にスコアリング機能を付与して、血管形成術において石灰化した狭窄部にき裂を入れて拡張することが可能となる。また、バルーン2の高強度化や加圧時の過拡張の抑制も可能となる。
【0039】
バルーン2を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー等のポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ラテックスゴム等の天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂が好適に用いられる。特に、バルーン2の薄膜化や柔軟性の観点からエラストマー樹脂を用いることが好ましい。例えば、ポリアミド系樹脂の中では、ナイロン12、ナイロン11等がバルーン2を構成する樹脂として好適であり、ブロー成形する際に比較的容易に整形可能である点からナイロン12がより好適である。また、バルーン2の薄膜化や柔軟性の観点から、ポリエーテルエステルアミドエラストマー、ポリアミドエーテルエラストマー等のポリアミドエラストマーが好ましく用いられる。中でも、降伏強度が高く、バルーン2の寸法安定性が良好な点から、ポリエーテルエステルアミドエラストマーが好ましく用いられる。
【0040】
バルーン2は、上記の材料から構成されたパリソンを金型に配置し、二軸延伸ブロー成形することにより製造できる。好ましいバルーン2の製造方法については、「3.バルーンカテーテルの製造方法」の項で後述する。
【0041】
2.バルーンカテーテル
本発明のバルーンカテーテルは、上記バルーンカテーテル用バルーンを備えている。本発明の実施形態に係るバルーンカテーテルは、上記「1.バルーンカテーテル用バルーン」の項及び図2を参照して理解できる。
【0042】
シャフト3を構成する材料としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、オリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、シャフト3を構成する材料は、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びフッ素系樹脂の少なくとも1つであることが好ましい。これにより、シャフト3の表面の滑り性を高め、バルーンカテーテル1の体腔内での挿通性を向上できる。
【0043】
バルーン2とシャフト3の接合は、接着剤による接着、溶着、バルーン2の端部とシャフト3が重なっている箇所にリング状部材を取り付けてかしめること等が挙げられる。中でも、バルーン2とシャフト3は、溶着により接合されていることが好ましい。バルーン2とシャフト3が溶着されていることにより、バルーン2を繰り返し拡張及び収縮させてもバルーン2とシャフト3の接合が解除されにくく、バルーン2とシャフト3との接合強度を容易に高めることができる。
【0044】
図2に示すように、バルーンカテーテル1において、シャフト3の近位側にはハブ4が設けられていてもよく、ハブ4にはバルーン2の内部に供給される流体の流路と連通した流体注入部6を有することが好ましい。またハブ4は、ガイドワイヤの挿通路と連通したガイドワイヤ挿入部5が設けられていてもよい。このような構成により、バルーン2の内部に流体を供給してバルーン2を拡張及び収縮させる操作や、ガイドワイヤに沿ってバルーンカテーテル1を治療部位まで送達する操作を容易に行うことができる。図2にはガイドワイヤがシャフト3の遠位側から近位側にわたって挿通される所謂オーバーザワイヤ型のバルーンカテーテル1を示したが、本発明の実施形態に係るバルーン2は、シャフト3の遠位側から近位側に至る途中までガイドワイヤを挿通する所謂ラピッドエクスチェンジ型のバルーンカテーテルにも適用できる。
【0045】
シャフト3とハブ4との接合は、例えば、接着剤による接着、溶着等が挙げられる。中でも、シャフト3とハブ4は、接着により接合されていることが好ましい。シャフト3とハブ4とが接着されていることにより、例えば、シャフト3は柔軟性の高い材料から構成され、ハブ4は剛性の高い材料から構成されている等、シャフト3を構成する材料とハブ4を構成する材料とが異なっている場合に、シャフト3とハブ4との接合強度を高めてバルーンカテーテル1の耐久性を高めることができる。
【0046】
3.バルーンカテーテルの製造方法
本発明のバルーンカテーテルの製造方法の一実施形態は、樹脂で構成されるパリソンを準備するステップと、内腔を有しており、当該内腔を形成する内壁面が直管部と、直管部よりも近位側に位置している近位側テーパー部と、直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部と、を有している金型を準備するステップと、金型内にパリソンを配置するステップと、金型を加熱しながら、パリソンを、長手軸方向に応力歪曲線のネッキング領域を超えるまで延伸させる第1延伸工程と、金型を加熱しながら、第1延伸工程の後に、ネッキング領域を超えるまで延伸されたパリソンを、第1延伸工程よりもパリソンの内圧が高い状態で長手軸方向にさらに延伸させる第2延伸工程と、を含むことに特徴を有する。多くの樹脂では、図1に示すような応力歪み曲線において、降伏点Bまでの弾性変形の領域では、折れ曲がった状態の分子鎖が伸びるように応力が働く。降伏点B以降は、分子間力で引き合っていた分子鎖同士がせん断方向にずれる塑性変形が始まる。分子鎖が一旦ずれ始めると分子鎖に緩みが生じ応力が下降伏点Lまで減少する現象を示す樹脂もある。その後は暫く横ばいの応力を示す領域が見られ、このような領域は通常ネッキング領域Rnと称される。ネッキング領域Rnでは歪みにより分子鎖がずれることで一定の応力を示していたところ、所定の歪み以上になると分子鎖同士が接近して密に配向し分子鎖間に強い分子間力が生まれるため、所定の歪み以上、すなわちネッキング領域Rnを超えた領域では応力は右肩上がりで上昇する。第1延伸工程では、ネッキング領域Rnを超えるまでまずパリソンを長手軸方向に延伸させ、その後の第2延伸工程でネッキング領域Rnを超えるまで延伸されたパリソンを内圧が高い状態でさらに長手軸方向に延伸させることで、近位側区間及び遠位側区間における分子配向の主配向方向は周方向であり、中央区間における分子配向の長手軸方向成分が近位側区間及び遠位側区間における分子配向の長手軸方向成分よりも多いバルーンカテーテル用バルーンを備えるバルーンカテーテルを製造することが可能となる。
【0047】
図11図14を参照しながら、上記の製造方法について説明する。図11は本発明の一実施形態に係る金型内にパリソンを配置した状態を示す断面図を表す。図12は、本発明の一実施形態に係る第1延伸工程において金型を加熱しながらパリソンを長手軸方向に応力歪み曲線のネッキング領域を超えるまで延伸させた状態を示す断面図を表す。図13は、本発明の一実施形態に係る第2延伸工程において金型を加熱しながらネッキング領域を超えるまで延伸されたパリソンを第1延伸工程よりもパリソンの内圧が高い状態で長手軸方向にさらに延伸させた状態を示す断面図を表す。図14は、第2延伸工程が終了した後の状態を示す断面図を表す。
【0048】
まず、樹脂で構成されるパリソン70を準備する。パリソン70は内腔71を有する筒状の部材であり、例えば押出成形により作製できる。パリソン70は一方端及び他方端を有しており、一方端から他方端に向かう長手軸方向xに延在している。
【0049】
図示していないが、パリソン70の長手軸方向xと垂直な方向すなわち径方向yにおける断面形状は、長手軸方向xにおいて略同一であってもよい。或いは、図11に示すように、パリソン70の径方向yにおける断面形状は、長手軸方向xの位置によって異なっていてもよい。パリソン70の一部、例えばバルーン2の直管部23、近位側テーパー部22、及び遠位側テーパー部24に対応する部分の外径が、該一部以外の他部よりも大きくなっていてもよい。
【0050】
パリソン70を構成する樹脂としては、「1.バルーンカテーテル用バルーン」の項に記載したバルーン2を構成する樹脂の説明を参照することができる。
【0051】
次に、内腔88を有しており、内腔88を形成する内壁面が直管部83と、直管部83よりも近位側に位置している近位側テーパー部82と、直管部83よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部84と、を有している金型80を準備する。金型80の内腔88を形成する内壁面は、近位側テーパー部82よりも近位側に位置している近位側スリーブ部81及び遠位側テーパー部84よりも遠位側に位置している遠位側スリーブ部85を有していてもよい。
【0052】
金型80は、一つの部材から形成されていてもよく、複数の部材から形成されていてもよい。例えば、金型80は複数の半割体から形成されていてもよく、複数の金型部材が長手軸方向xに分割可能に形成されていてもよい。
【0053】
図11に示すように、金型80の内腔88にパリソン70を配置する。このとき、パリソン70が一部外径の大きな部分を有している場合、すなわちバルーン2の直管部23、近位側テーパー部22、及び遠位側テーパー部24に対応する部分の外径が大きい場合は、当該部分が金型80の直管部83に位置するように配置されることが好ましい。これにより、当該部分をバルーン2の直管部23、近位側テーパー部22、及び遠位側テーパー部24とすることが容易となる。
【0054】
図12に示すように、金型80を加熱しながらパリソン70を長手軸方向xに延伸させる第1延伸工程を行う。このとき、パリソン70は、パリソン70を構成する樹脂の応力歪み曲線のネッキング領域Rnを超えるまで延伸させる。ネッキング領域Rnは、上述のように降伏点B及び下降伏点L以降の横ばいの応力を示す領域のことであり、この領域では塑性変形を開始した樹脂の分子鎖が応力によりずれる現象が起こっている。第1延伸工程では、このようなネッキング領域Rnを超えるまでパリソン70を延伸することが重要である。
【0055】
第1延伸工程におけるパリソン70の内圧は第2延伸工程におけるパリソン70の内圧よりも低いため、ネッキング領域Rnを超えるまでの上記のような状態において、パリソン70は周方向zへの延伸は抑制されつつ長手軸方向xに延伸されることができる。
【0056】
パリソン70を押出成形により作製する場合等、パリソン70が長手軸方向xにある程度延伸されて準備される場合は、第1延伸工程においてネッキング領域Rnを超えるまでパリソン70を長手軸方向xに延伸する量は押出成形等のパリソン70の準備の条件により異なる。すなわち、押出成形等においてパリソン70が既に長手軸方向xにある程度延伸されている場合は、第1延伸工程においてパリソン70を長手軸方向xに延伸する量がその分少なくてもネッキング領域Rnを超えることができる。
【0057】
図13に示すように、上記第1延伸工程終了後、金型80を加熱しながら、ネッキング領域Rnを超えるまで延伸されたパリソン70を、上記第1延伸工程よりもパリソン70の内圧が高い状態で長手軸方向xにさらに延伸させる第2延伸工程を行う。第2延伸工程では、ネッキング領域Rnを超えた後、樹脂の分子鎖同士が接近して密に配向した状態の樹脂をさらに長手軸方向xに延伸することが行われる。第1延伸工程よりも第2延伸工程においてパリソン70の内圧が高いことで、ネッキング領域Rnを超えるまでの第1延伸工程においてはパリソン70の周方向zへの延伸が抑制されつつ長手軸方向xにパリソン70が延伸されていたところ、ネッキング領域Rnを超えた第2延伸工程においてはパリソン70が周方向zへも延伸されつつ長手軸方向xにも延伸される。
【0058】
このようにして、図14に示すようなバルーン2を得ることができる。上記第1延伸工程及び第2延伸工程を行うことで、近位側区間23aにおける分子配向及び遠位側区間23eにおける分子配向の主配向方向は周方向zであり、中央区間23cにおける分子配向の長手軸方向xの成分は、近位側区間23a及び遠位側区間23eにおける分子配向の長手軸方向xの成分よりも多いバルーン2とすることが可能となる。
【0059】
図1に示した応力歪み曲線は、応力が一定となるネッキング領域Rnを明確に示しているが、樹脂によっては、応力が一定な領域が短かったり完全に平らではなかったりする場合もある。このような場合は、応力歪み曲線が降伏点Bを超えてから、応力歪み曲線の微分係数が降伏点Bまでの平均変化率の5%以上の値となる最初の点をネッキング領域Rnを超える歪みとし、この歪みを超えるまで第1延伸工程を行えばよい。
【0060】
第1延伸工程及び第2延伸工程における加熱温度は、バルーン2を構成する樹脂のガラス転移温度付近までとすることができる。金型80の加熱手段としては、適宜公知のヒーター等を用いることができる。
【0061】
第1延伸工程においては、パリソン70の内腔71に流体が導入されパリソン70内が加圧された状態であることが好ましく、そのときの圧力は3MPa以下が好ましい。或いは、パリソン70の内腔71とパリソン70の外側とが同じ圧力、すなわちパリソン70の内腔71は加圧されていない状態であってもよい。
【0062】
第2延伸工程においては、パリソン70の内腔71に流体が導入されてパリソン70内が加圧された状態であることが好ましく、そのときの圧力は第1延伸工程におけるパリソン70内にかかる圧力よりも高く、例えば、1MPa以上が好ましく、1.5MPa以上がより好ましく、2MPa以上がさらに好ましい。また、5MPa以下が好ましく、4.5MPa以下がより好ましく、4MPa以下がさらに好ましく、3MPa以下であってもよい。
【0063】
第1延伸工程においてパリソン70は加圧されておらず、第2延伸工程においてネッキング領域Rnを超えてからパリソン70に加圧が開始されることが好ましい。これにより、近位側区間23aにおける分子配向及び遠位側区間23eにおける分子配向の主配向方向は周方向zであり、中央区間23cにおける分子配向の長手軸方向xの成分は、近位側区間23a及び遠位側区間23eにおける分子配向の長手軸方向xの成分よりも多いバルーン2とすることがより容易となる。
【0064】
金型80を加熱する際に、金型80の直管部83の中央部が最も高温となるように加熱することが好ましい。これにより、バルーン2の中央区間23cの分子配向の長手軸方向xの成分を近位側区間23a及び遠位側区間23eにおける分子配向の長手軸方向xの成分よりも多いバルーン2とすることが容易となり、中央区間23cのバルーン2の膜厚が近位側区間23a及び遠位側区間23eにおけるバルーン2の膜厚よりも薄いバルーン2とすることがより容易となる。
【0065】
本願は、2021年5月10日に出願された日本国特許出願第2021-79672号に基づく優先権の利益を主張するものである。2021年5月10日に出願された日本国特許出願第2021-79672号の明細書の全内容が、本願に参考ため援用される。
【実施例
【0066】
以下、実施例に従って本発明を説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0067】
実施例1
ポリアミド12を押出成形してパリソンを作製した。金型内にパリソンを配置し、金型を70℃に加熱しながらパリソンに2MPaの内圧を加えて長手軸方向に応力歪み曲線のネッキング領域を超えるまで延伸させた。次に、金型を70℃に加熱しながらパリソンに4.3MPaの内圧を加えて長手軸方向に延伸しバルーンを得た。
【0068】
同様の方法で5本のバルーンを作製した。それぞれのバルーンについて、図7に示すように近位側テーパー部及び遠位側テーパー部を切り落として筒状の直管部を得、長手軸方向の切断線に沿って筒状の直管部を切り開いて長方形のサンプル1~5を得た。サンプル1~5の分子配向を、フォトニクスラティス社製2次元複屈折評価システムWPA-100を用いて測定した。結果を図15図17に示す。図15図17において、上から順にサンプル1~5のデータである。いずれのバルーンも、直管部の中央区間は分子配向の主配向方向が長手軸方向であり、直管部の近位側区間及び遠位側区間は分子配向の主配向方向が周方向のバルーンが安定して得られた。
【0069】
上記5本のバルーンについて、それぞれ、近位側区間(1)、近位側中間区間(2)、中央区間(3)、遠位側中間区間(4)、及び遠位側区間(5)の膜厚をミツトヨ社製スプラインマイクロメータSPM2-25MXを用いて測定した。結果を図18に示す。いずれのバルーンも、中央区間の膜厚が最も薄く、中央区間から近位側及び遠位側に向かって膜厚が厚くなるバルーンが安定して得られた。
【0070】
実施例1と同様の方法で、さらに30本のバルーンを作製した。これら30本のバルーンに、破壊するまで内圧を加え続け、破壊させた後にき裂の状態を観察し、周方向割れの発生有無を確認した。いずれのバルーンにおいても、周方向割れは生じなかった。
【0071】
比較例1
実施例1と同様にパリソンを準備した。実施例1と同じ金型の内腔にパリソンを配置し、金型を60℃に加熱しながらパリソンの内腔に3.5MPaの圧力を加えながら長手軸方向に延伸しバルーンを得た。
【0072】
同様の方法で5本のバルーンを作製した。それぞれのバルーンについて、図7に示すように近位側テーパー部及び遠位側テーパー部を切り落として筒状の直管部を得、長手軸方向の切断線に沿って筒状の直管部を切り開いて長方形のサンプル6~10を得た。サンプル6~10の分子配向を、フォトニクスラティス社製2次元複屈折評価システムWPA-100を用いて測定した。結果を図19図21に示す。図19図21において、上から順次サンプル6~10のデータである。バルーンによって配向状態にばらつきがあり、全てのバルーンが、直管部の中央区間の分子配向の長手軸方向成分が近位側区間及び遠位側区間の分子配向の長手軸方向よりも多いバルーンとはならなかった。
【0073】
上記5本のバルーンについて、それぞれ、近位側区間(1)、近位側中間区間(2)、中央区間(3)、遠位側中間区間(4)、及び遠位側区間(5)の膜厚をミツトヨ社製スプラインマイクロメータSPM2-25MXを用いて測定した。結果を図22に示す。バルーンによって長手軸方向における膜厚の傾向にばらつきがあり、比較例1の方法では長手軸方向における膜厚を制御できないことがわかった。
【0074】
比較例1と同様の方法で、さらに30本のバルーンを作製した。これら30本のバルーンに、破壊するまで内圧を加え続け、破壊させた後にき裂の状態を観察し、周方向割れの発生有無を確認した。30本のうち3本のバルーンに周方向割れが生じた。
【符号の説明】
【0075】
1:バルーンカテーテル
2:バルーン
3:シャフト
4:ハブ
5:ガイドワイヤ挿入部
6:流体注入部
21:近位側スリーブ部
22:近位側テーパー部
23:直管部
23a:近位側区間
23b:近位側中間区間
23c:中央区間
23d:遠位側中間区間
23e:遠位側区間
24:遠位側テーパー部
25:遠位側スリーブ部
70:パリソン
71:パリソンの内腔
80:金型
81:金型の近位側スリーブ部
82:金型の近位側テーパー部
83:金型の直管部
84:金型の遠位側テーパー部
85:金型の遠位側スリーブ部
88:金型の内腔
B:降伏点
0:0%の位置
10:10%の位置
40:40%の位置
60:60%の位置
90:90%の位置
100:100%の位置
L:下降伏点
n:ネッキング領域
1:第1切断線
2:第2切断線
x:長手軸方向
y:径方向
z:周方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22