(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-23
(45)【発行日】2026-02-02
(54)【発明の名称】設計手法及び車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20260126BHJP
B60W 40/12 20120101ALI20260126BHJP
B60W 50/04 20060101ALI20260126BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60W40/12
B60W50/04
(21)【出願番号】P 2024541456
(86)(22)【出願日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2023025523
(87)【国際公開番号】W WO2024038710
(87)【国際公開日】2024-02-22
【審査請求日】2024-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022129522
(32)【優先日】2022-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 悠太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤本 博志
(72)【発明者】
【氏名】布施 空由
(72)【発明者】
【氏名】于 広志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】松尾 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】古賀 亮佑
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-65486(JP,A)
【文献】特開2020-11650(JP,A)
【文献】特開2008-265461(JP,A)
【文献】特開2022-21715(JP,A)
【文献】特開2010-137724(JP,A)
【文献】国際公開第2021/210369(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左駆動源からの動力が伝達される左車軸及び左輪を含む左駆動系と右駆動源からの動力が伝達される右車軸及び右輪を含む右駆動系とを備えた車両における前記左駆動源及び前記右駆動源の出力制御に係る設計手法であって、
前記車両の直進時における前記左駆動系及び前記右駆動系、並びに、前記左駆動源及び前記右駆動源の運動状態をモデル化したものである和モデルと、前記車両の旋回時における前記左駆動系及び前記右駆動系、並びに、前記左駆動源及び前記右駆動源の運動状態をモデル化したものである差モデルとを用意し、
前記左駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む左軸入出力と前記右駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む右軸入出力との和に相当する和相当値を算出するとともに、前記左軸入出力と前記右軸入出力との差に相当する差相当値を算出し、
前記和相当値を前記和モデルに適用することで前記車両の直進時における前記左駆動系及び前記右駆動系の運動状態を把握し、
前記差相当値を前記差モデルに適用することで前記車両の旋回時における前記左駆動系及び前記右駆動系の運動状態を把握する
ことを特徴とする、設計手法。
【請求項2】
前記和モデル及び前記差モデルが、ともに2慣性系モデルである
ことを特徴とする、請求項1記載の設計手法。
【請求項3】
前記和モデルが、前記左駆動源及び前記右駆動源の慣性に基づいて算出される駆動側慣性と、剛性及び粘性で設計されるばねダンパと、前記車両の車体重量に基づいて算出される負荷側慣性と、から構成された2慣性系の入出力特性を表す伝達関数を含む
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の設計手法。
【請求項4】
前記差モデルが、トルク差増幅率に基づいて算出される左右差発生時の等価慣性である駆動側慣性と、剛性及び粘性で設計されるばねダンパと、前記車両のヨー慣性に基づいて算出される負荷側慣性と、から構成された2慣性系の入出力特性を表す伝達関数を含む
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の設計手法。
【請求項5】
前記差モデルが、トルク差増幅率に基づいて算出される左右差発生時の等価慣性である駆動側慣性と、剛性及び粘性で設計されるばねダンパと、前記車両のヨー慣性に基づいて算出される負荷側慣性と、から構成された2慣性系の入出力特性を表す伝達関数を含む
ことを特徴とする、請求項3記載の設計手法。
【請求項6】
左駆動源からの動力が伝達される左車軸及び左輪を含む左駆動系と右駆動源からの動力が伝達される右車軸及び右輪を含む右駆動系とを備えた車両における前記左駆動源及び前記右駆動源の出力制御に係る車両制御装置であって、
前記左駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む左軸入出力と前記右駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む右軸入出力との和に相当する和相当値を算出するとともに、前記左軸入出力と前記右軸入出力との差に相当する差相当値を算出する算出部と、
前記車両の直進時における前記左駆動系及び前記右駆動系、並びに、前記左駆動源及び前記右駆動源の運動状態をモデル化したものであって前記和相当値が適用される和モデルと、前記車両の旋回時における前記左駆動系及び前記右駆動系、並びに、前記左駆動源及び前記右駆動源の運動状態をモデル化したものであって前記差相当値が適用される差モデルとを記憶する記憶部と
、
前記和相当値を前記和モデルに適用して得られる和モデル状態量と前記差相当値を前記差モデルに適用して得られる差モデル状態量とを用いて、前記左駆動源及び前記右駆動源の出力を制御する制御部と
を備えることを特徴とする、車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、車両の駆動源の出力制御に係る設計手法及び車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の駆動源を備えた車両において、駆動力伝達系の挙動がモデル化された車両モデルを用いて、駆動力伝達系の振動を抑制しながら各々の駆動源の作動状態を制御する手法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動力伝達系の挙動は、車両の直進時と旋回時とで相違する。そのため、車両の直進時に対応する制御と旋回時に対応する制御とを構築する必要があり、左右それぞれの駆動系についての制御を構築すると、制御構成が複雑になりやすいという課題がある。また、車両の走行状態は、直進状態と旋回状態とが混合した複合状態になることがあるため、制御性を向上させにくいという課題がある。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、簡素な構成で制御性が良好な制御を設計できるようにした設計手法及び車両制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の設計手法及び車両制御装置は、以下に開示する態様または具体例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
開示の設計手法は、左駆動源からの動力が伝達される左車軸及び左輪を含む左駆動系と右駆動源からの動力が伝達される右車軸及び右輪を含む右駆動系とを備えた車両における前記左駆動源及び前記右駆動源の出力制御に係る設計手法であって、前記車両の直進時における前記左駆動系及び前記右駆動系、並びに、前記左駆動源及び前記右駆動源の運動状態をモデル化したものである和モデルと、前記車両の旋回時における前記左駆動系及び前記右駆動系、並びに、前記左駆動源及び前記右駆動源の運動状態をモデル化したものである差モデルとを用意し、前記左駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む左軸入出力と前記右駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む右軸入出力との和に相当する和相当値を算出するとともに、前記左軸入出力と前記右軸入出力との差に相当する差相当値を算出し、前記和相当値を前記和モデルに適用することで前記車両の直進時における前記左駆動系及び前記右駆動系の運動状態を把握し、前記差相当値を前記差モデルに適用することで前記車両の旋回時における前記左駆動系及び前記右駆動系の運動状態を把握する。
【0007】
また、開示の車両制御装置は、左駆動源からの動力が伝達される左車軸及び左輪を含む左駆動系と右駆動源からの動力が伝達される右車軸及び右輪を含む右駆動系とを備えた車両における前記左駆動源及び前記右駆動源の出力制御に係る車両制御装置であって、前記左駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む左軸入出力と前記右駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む右軸入出力との和に相当する和相当値を算出するとともに、前記左軸入出力と前記右軸入出力との差に相当する差相当値を算出する算出部と、前記車両の直進時における前記左駆動系及び前記右駆動系、並びに、前記左駆動源及び前記右駆動源の運動状態をモデル化したものであって前記和相当値が適用される和モデルと、前記車両の旋回時における前記左駆動系及び前記右駆動系、並びに、前記左駆動源及び前記右駆動源の運動状態をモデル化したものであって前記差相当値が適用される差モデルとを記憶する記憶部と、前記和相当値を前記和モデルに適用して得られる和モデル状態量と前記差相当値を前記差モデルに適用して得られる差モデル状態量とを用いて、前記左駆動源及び前記右駆動源の出力を制御する制御部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
開示の設計手法及び車両制御装置によれば、和モデルに和相当値を適用することで直進時の駆動系の挙動を精度よく把握でき、差モデルに差相当値を適用することで旋回時の駆動系の挙動を精度よく把握できる。したがって、直進時と旋回時とで異なる特性を持つ駆動系において、駆動系の状態(挙動)を精度よく把握でき、簡素な構成で制御性が良好な制御を設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両制御装置及び車両の構成を示すブロック図である。
【
図2】車両制御装置が車両に搭載される場合の構成を示すブロック図である。
【
図3】車両の駆動系の構造の一例を示す骨子図である。
【
図4】
図3の構造を持つ車両の動力分配機構の速度線図である。
【
図6】車両の左駆動系及び右駆動系の構造を模式化した模式図である。
【
図7】(A)は和モデルの模式図、(B)は差モデルの模式図である。
【
図8】車両の直進時の挙動を考慮するための模式図である。
【
図9】車両の直進時におけるトルク及び角速度の関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
開示の設計手法によって設計される制御は、車両に実装される制御であり、例えば開示の車両制御装置で使用される。この制御が実装される車両の種類は、例えばエンジン車両(ガソリン自動車,ディーゼル自動車)や電気自動車やハイブリッド自動車であり、少なくとも一つ以上の駆動源(内燃機関やモータ)を用いて左右輪(左右駆動輪)を駆動することで走行する自動車であって、好ましくは複数の駆動源を用いて左右輪(左右駆動輪)を駆動することで走行する自動車である。ここで、複数の駆動源の一つを左駆動源と呼び、他の駆動源の一つを右駆動源と呼ぶ。また、左右輪のうち車両の左側に位置する一方を左輪と呼び、他方を右輪と呼ぶ。開示の設計手法及び車両制御装置は、左駆動源からの動力が伝達される左車軸及び左輪を含む左駆動系と、右駆動源からの動力が伝達される右車軸及び右輪を含む右駆動系とを備えた車両に実装される制御の設計及び当該車両の制御に用いて好適である。
【0011】
左駆動源,右駆動源の各々のレイアウトは、その車両の進行方向を基準として定められる左右方向に対応するように設定してもよいし、そうでなくてもよい。また、左駆動系及び右駆動系は、互いに独立して作動するものであってもよいし、変速機構や動力分配機構を介して互いに接続されたものであってもよい。開示の設計手法及び車両制御装置は、左右輪の各々が個別のモータで駆動されるインホイールモータ車に実装される制御の設計や当該車両の制御に活用可能であるとともに、左右輪が互いに駆動力やトルクを伝達可能なトルクベクタリング車実装される制御の設計にも活用可能である。
【実施例】
【0012】
[1.構成]
実施例としての設計手法を利用する設計装置20の構成を、
図1,
図2に例示する。設計装置20は、車両1に実装される制御を設計するための装置(コンピュータ)である。
図1,
図2には、制御の設計に際して想定される車両1の構造を併せて示している。
図1に示すように、制御の設計段階において、車両1から独立して設けられる設計装置20を用いて制御を設計してもよい。あるいは、
図2に示すように、設計装置20の機能を車両制御装置10(ECU)に内蔵させることで、制御の設計だけでなく車両1の実制御に活用できるようにしてもよい。
【0013】
図1,
図2に示す車両1は、車幅方向に並んで配置される左右輪5(車輪)と、左右輪5にトルク差を付与する動力分配機構3(差動機構)と、動力分配機構3に接続される一対のモータ2とを具備する。実施例の図中において数字符号に付加されるアルファベットのL,Rは、当該符号にかかる要素の配設位置(車両1の左側や右側にあること)を表す。例えば、5Lは左右輪5のうち車両1の左側に位置する一方(左輪)を表し、5Rは右側に位置する他方(右輪)を表す。左右輪5の前後方向の位置は不問であり、車両1の前輪であっても後輪であってもよい。
【0014】
モータ2(駆動源)は、車両1の前輪または後輪の少なくともいずれかを駆動する機能を持つものであり、四輪すべてを駆動する機能を持ちうる。一対のモータ2のうち、左側に配置される一方が左モータ2L(左駆動源)であり、右側に配置される他方が右モータ2R(右駆動源)である。左モータ2L及び右モータ2Rは、互いに独立して作動し、互いに異なる大きさの駆動力を個別に出力しうる。これらのモータ2は、互いに別設された一対の減速機構を介して動力分配機構3に接続される。
【0015】
車両1は、一対のモータ2のトルク差を増幅して左右輪5の各々に分配する動力分配機構3を備える。本実施例の動力分配機構3は、ヨーコントロール機能〔AYC(Active Yaw Control)機能〕を持ったディファレンシャル機構であり、左輪5Lに連結される車軸4(左車軸4L,左軸)と右輪5Rに連結される車軸4(右車軸4R,右軸)との間に介装される。ヨーコントロール機能とは、左右輪5の駆動力(駆動トルク)の分担割合を積極的に制御することでヨーモーメントを調節し、車両1の姿勢を安定させる機能である。動力分配機構3の内部には、遊星歯車機構や差動歯車機構等が内蔵される。なお、一対のモータ2と動力分配機構3とを含む車両駆動装置は、DM-AYC(Dual Motor AYC)装置とも呼ばれる。
【0016】
図3に示すように、動力分配機構3は、モータ2の回転速度を減速する一対の減速機構(
図3中にて破線で囲んだギヤ列)や変速機構(
図3中にて一点鎖線で囲んだギヤ列)を含む。減速機構は、モータ2から出力されるトルク(駆動力)を減速することでトルクを増大させる機構である。減速機構の減速比Gは、モータ2の出力特性や性能に応じて適宜設定される。モータ2のトルク性能が十分に高い場合には、減速機構を省略してもよい。また、変速機構は、左右輪5の各々に伝達されるトルク差を増幅させる機構である。
【0017】
図3に示す動力分配機構3の変速機構は、一対の遊星歯車機構を含む。これらの遊星歯車機構は、各々のキャリアに設けられるプラネタリギヤ及びその自転軸同士が連結された構造を持つ。各キャリアは、プラネタリギヤを自転可能に支持するとともに、プラネタリギヤをサンギヤの周囲で公転させるように支持している。また、一方の遊星歯車機構のリングギヤ及びサンギヤには、左右それぞれのモータ2から伝達される駆動力が入力される。左右輪5に伝達される駆動力は、他方の遊星歯車機構のサンギヤ及びキャリアから取り出される。なお、
図3に示す動力分配機構3の構造は、ヨーコントロール機能を実現するための一例に過ぎず、他の公知構造を援用することも可能である。
【0018】
なお、
図3中のJ
Mはモータイナーシャ(モータ2の慣性モーメント),J
wは車輪イナーシャ(左右輪5の慣性モーメント)を表す。また、左駆動系のパラメータに関して、T
LMは左モータ入力トルク,T
Lmは減速機構による減速後の左モータ入力トルク,ω
LMは左モータ角速度,ω
Lmは減速機構による減速後の左モータ角速度,T
Linは左駆動側トルク,T
Ldsは左車軸トルク,T
LLは左輪負荷側トルク,ω
Ldsは左駆動側角速度,ω
LLは左輪角速度である。同様に、右駆動系のパラメータに関して、T
RMは右モータ入力トルク,T
Rmは減速機構による減速後の右モータ入力トルク,ω
RMは右モータ角速度,ω
Rmは減速機構による減速後の右モータ角速度,T
Rinは右駆動側トルク,T
Rdsは右車軸トルク,T
RLは右輪負荷側トルク,ω
Rdsは右駆動側角速度,ω
RLは右輪角速度である。
【0019】
図4は、動力分配機構3の速度線図である。
図3及び
図4中に示すb
1,b
2は、動力分配機構3に内蔵されるギヤの構造に応じて決定されるトルク差増幅率(減速率,差動減速比)を表す。左モータ2Lから右輪5Rへの動力伝達に係るトルク差増幅率はb
1であり、左モータ2Lから左輪5Lへの動力伝達に係るトルク差増幅率はb
1+1である。また、右モータ2Rから左輪5Lへの動力伝達に係るトルク差増幅率はb
2であり、右モータ2Rから右輪5Rへの動力伝達に係るトルク差増幅率はb
2+1である。
【0020】
図1,
図2に示すように、一対のモータ2の各々は、インバータ6(6L,6R)を介してバッテリ7に電気的に接続される。インバータ6は、バッテリ7側の直流回路の電力(直流電力)とモータ2側の交流回路の電力(交流電力)とを相互に変換する変換器(DC-ACインバータ)である。また、バッテリ7は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池であり、数百ボルトの高電圧直流電流を供給しうる二次電池である。モータ2の力行時には、直流電力がインバータ6で交流電力に変換されてモータ2に供給される。モータ2の発電時には、発電電力がインバータ6で直流電力に変換されてバッテリ7に充電される。インバータ6の作動状態は、車両制御装置10によって制御される。
【0021】
車両制御装置10は、車両1に搭載される電子制御装置(ECU,Electronic Control Unit)の一つである。車両制御装置10は、左モータ2L(左駆動源)からの動力が伝達される左車軸4L及び左輪5Lを含む左駆動系と右モータ2R(右駆動源)からの動力が伝達される右車軸4R及び右輪5Rを含む右駆動系とを備えた車両1において、左モータ2L及び右モータ2Rの各々についての出力を制御する機能を持つ。
【0022】
車両制御装置10には、図示しないプロセッサ(中央処理装置),メモリ(メインメモリ),記憶装置(ストレージ),インタフェース装置等が内蔵され、内部バスを介してこれらが互いに通信可能に接続される。車両制御装置10で実施される判定や制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリに記録,保存され、プログラムの実行時にはプログラムの内容がメモリ空間内に展開され、プロセッサによって実行される。
【0023】
車両制御装置10には、アクセル開度センサ14,ブレーキセンサ15,舵角センサ16,レゾルバ17,車輪速センサ18が接続される。アクセル開度センサ14はアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)やその踏み込み速度を検出するセンサである。ブレーキセンサ15は、ブレーキペダルの踏み込み量(ブレーキペダルストローク)やその踏み込み速度を検出するセンサである。舵角センサ16は、左右輪5の舵角(実舵角またはステアリングの操舵角)を検出するセンサである。
【0024】
レゾルバ17(17L,17R)は、モータ2の角速度を検出するセンサであり、一対のモータ2の各々に個別に設けられる。レゾルバ17は、モータ2の回転角度の情報を二相の交流電圧として出力する。これらの交流電圧の経時変化から、モータ2の角速度が把握される。また、車輪速センサ18(18L,18R)は、車軸4の角速度を検出するセンサである。車両制御装置10は、上記の各種センサ14~18で検出された各情報に基づいてインバータ6(6L,6R)の作動状態を制御することで、一対のモータ2(2L,2R)の出力を制御する。なお、レゾルバ17の代わりに、内部構造や動作原理が異なる他のセンサ(ホールセンサ,エンコーダ等)を用いてもよい。
【0025】
[2.設計装置]
図5は、設計装置20による設計手法の流れを示す模式的なブロック図である。設計装置20の記憶装置には、あらかじめ和モデルと差モデルとを記憶させてある。すなわち、本設計手法において、まず、和モデルと差モデルとが用意される。和モデルとは、車両1の直進時における左駆動系及び右駆動系、並びに、左駆動源(左モータ2L)及び右駆動源(右モータ2R)の運動状態をモデル化したものであり、差モデルとは、車両1の旋回時における左駆動系及び右駆動系、並びに、左駆動源(左モータ2L)及び右駆動源(右モータ2R)の運動状態をモデル化したものである。
【0026】
図5に示すように、和モデルは、和相当値を適用することで、車両1の直進時における左駆動系及び右駆動系の運動状態を把握するものであり、差モデルは、差相当値を適用することで、車両1の旋回時における左駆動系及び右駆動系の運動状態を把握するものである。具体的には、和モデルは、入力要素を持つ和相当値を適用(入力)されて、車両1の直進時における左駆動系及び右駆動系の運動状態を表す和相当値(出力要素を持つ和相当値であり、以下「和モデル状態量」という)を出力する。同様に、差モデルは、入力要素を持つ差相当値を適用(入力)されて、車両1の旋回時における左駆動系及び右駆動系の運動状態を表す差相当値(出力要素を持つ差相当値であり、以下「差モデル状態量」という)を出力する。
【0027】
和相当値とは、左駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む(左駆動系の挙動を表すパラメータである)左軸入出力と右駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む(右駆動系の挙動を表すパラメータである)右軸入出力との和に相当する値の総称である。和相当値には、単なる和だけでなく、和に所定の係数を乗じた値や和の半分の値(算術平均値)が含まれる。また、差相当値とは、左軸入出力と右軸入出力との差に相当する値の総称である。差相当値には、単なる差だけでなく、差に所定の係数を乗じた値が含まれる。
【0028】
図5中のステップA1は、左軸入出力と右軸入出力との和に相当する和相当値を算出する工程に相当する。この工程で算出された和相当値は、
図5中のステップA3で和モデルに適用される。その結果、車両1の直進時における左駆動系及び右駆動系の運動状態を表す和モデル状態量が取得され、直進に係る車両1の運動状態が精度よく把握される。また、
図5中のステップA2は、左軸入出力と右軸入出力との差に相当する差相当値を算出する工程に相当する。この工程で算出された差相当値は、
図5中のステップA4で差モデルに適用される。その結果、車両1の旋回時における左駆動系及び右駆動系の運動状態を表す差モデル状態量が取得され、旋回に係る車両1の運動状態が精度よく把握される。
【0029】
続いて、上記の制御を実施するための具体的な構成を説明する。
図1,
図2に示すように、設計装置20の内部には、算出部21と記憶部22とが設けられる。また、
図2に示すように、設計装置20が車両制御装置10に内蔵される場合には、車両制御装置10の中に制御部23が設けられる。これらの要素は、設計装置20や車両制御装置10の機能を便宜的に分類して示したものである。これらの要素は、各要素の機能を実現するための独立したプログラムとして記述してもよい。あるいは、複数の要素を合体させて一つの複合プログラムとして記述してもよい。
【0030】
算出部21は、和相当値と差相当値とを算出するものである。和相当値及び差相当値は、左軸入出力とこれに対応する右軸入出力とに基づいて算出される。左軸入出力には、例えば左モータ入力トルクTLM,左モータ入力トルク(減速後)TLm,左駆動側トルクTLin,左車軸トルクTLds,左輪負荷側トルクTLL,左モータ角速度ωLM,左モータ角速度(減速後)ωLm,左駆動側角速度ωLds,左輪角速度ωLL,左輪ノミナルスリップ率λLn,左輪ノミナルイナーシャJLL等が含まれる。同様に、右軸入出力には、例えば右モータ入力トルクTRM,右モータ入力トルク(減速後)TRm,右駆動側トルクTRin,右車軸トルクTRds,右輪負荷側トルクTRL,右モータ角速度ωRM,右モータ角速度(減速後)ωRm,右駆動側角速度ωRds,右輪角速度ωRL,右輪ノミナルスリップ率λRn,右輪ノミナルイナーシャJRL等が含まれる。
【0031】
和相当値には、和モードモータ入力トルクTSM,和モードモータ入力トルク(減速後)TSm,和モード駆動側トルクTSin,和モード車軸トルクTSds,和モード車輪負荷側トルクTSL,和モードモータ角速度ωSM,和モードモータ角速度(減速後)ωSm,和モード駆動側角速度ωSds,和モード車輪角速度ωSL,和モード車輪ノミナルスリップ率λSn,和モード車輪ノミナルイナーシャJSL等が含まれる。同様に、差相当値には、差モードモータ入力トルクTDM,差モードモータ入力トルク(減速後)TDm,差モード駆動側トルクTDin,差モード車軸トルクTDds,差モード車輪負荷側トルクTDL,差モードモータ角速度ωDM,差モードモータ角速度(減速後)ωDm,差モード駆動側角速度ωDds,差モード車輪角速度ωDL,差モード車輪ノミナルスリップ率λDn,差モード車輪ノミナルイナーシャJDL等が含まれる。
【0032】
和モードモータ入力トルクTSM及び差モードモータ入力トルクTDMの各々は、左モータ入力トルクTLM及び右モータ入力トルクTRMに基づいて算出される。また、和モードモータ入力トルク(減速後)TSm及び差モードモータ入力トルク(減速後)TDmの各々は、左モータ入力トルク(減速後)TLm及び右モータ入力トルク(減速後)TRmに基づいて算出される。以下に、左軸入出力及び右軸入出力の和の半分を和相当値とし、左軸入出力及び右軸入出力の差の半分を差相当値とする場合の算出式を例示する。
【0033】
【0034】
記憶部22は、車両1の直進時における左駆動系及び右駆動系、並びに、左駆動源(左モータ2L)及び右駆動源(右モータ2R)の運動状態をモデル化してなる和モデルと、車両1の旋回時における左駆動系及び右駆動系、並びに、左駆動源(左モータ2L)及び右駆動源(右モータ2R)の運動状態をモデル化してなる差モデルとを記憶するものである。ここで、和モデル及び差モデルを説明する前に、車両1の左駆動系及び右駆動系の模式的な構造を説明する。
【0035】
図6は、車両1の左駆動系及び右駆動系の構造を模式化した模式図である。左車軸4L及び右車軸4Rのそれぞれは、ばね(車軸剛性K
s)とダンパ(車軸粘性D
s)とを並列に接続した構造物に準えることができる。
図6中のJ
LMは左車軸4Lに対する動力分配機構3側(駆動側)のイナーシャ,J
Lwは左車軸4Lに対する左輪5L側(負荷側)のイナーシャ,J
RMは右車軸4Rに対する動力分配機構3側(駆動側)のイナーシャ,J
Rwは右車軸4Rに対する右輪5R側(負荷側)のイナーシャである。また、
図6には、左駆動側角速度ω
Ldsの微分値(左駆動側角加速度),左輪角速度ω
LLの微分値(左輪角加速度),右駆動側角速度ω
Rdsの微分値(右駆動側角加速度),右輪角速度ω
RLの微分値(右輪角加速度)が併せて示されている。
【0036】
上記の模式図に基づき、和モデルの構成は
図7(A)に示すような構成としてモデル化され、差モデルの構成は
図7(B)に示すような構成としてモデル化される。和モデルは、車両1の直進に係る車軸4及び左右輪5に対する制振制御やスリップ制御に利用することが好適であり、差モデルは、車両1の旋回に係る車軸4及び左右輪5に対する制振制御やスリップ制御に利用することが好適である。なお、本実施例ではこれらの和モデル及び差モデルがともに2慣性系モデルであるが、各々を3つ以上の慣性モーメントやばねダンパからなる多慣性系モデルとして構成してもよい。
【0037】
図7(A)に示すように、和モデルは、駆動側慣性J
SMと、剛性K
s及び粘性D
sで設計されるばねダンパと、負荷側慣性(和モード車輪ノミナルイナーシャ)J
SLとから構成される。駆動側慣性J
SMは、駆動源(左駆動源及び右駆動源)の慣性J
Mに基づいて算出され、例えばJ
SM=G
2J
Mである。また、負荷側慣性J
SLは、車体重量M(車輪換算)に基づいて算出される。なお、駆動側慣性J
SMや負荷側慣性J
SLの算出に際し、フリクションも考慮してもよい。和モデルに係る運動方程式を以下に示す。
【0038】
【0039】
図7(B)に示すように、差モデルは、左右差発生時(旋回時)の等価慣性である駆動側慣性J
DMと、剛性K
s及び粘性D
sで設計されるばねダンパと、負荷側慣性(差モード車輪ノミナルイナーシャ)J
DLとから構成される。駆動側慣性J
DMは、駆動源(左駆動源及び右駆動源)の慣性J
M及び動力分配機構3のトルク差増幅率(b
1,b
2等)に基づいて算出され、例えばJ
DM=(2b
1+1)
2G
2J
Mである。また、負荷側慣性J
DLは、車両1のヨー慣性(車輪換算)に基づいて算出される。なお、駆動側慣性J
DM及び負荷側慣性J
DLの算出に際し、フリクションも考慮してもよい。差モデルに係る運動方程式を以下に示す。
【0040】
【0041】
上記の和モデルに和相当値を適用することで、車両1の直進時における左駆動系及び右駆動系の運動状態を表す和モデル状態量が取得される。和モデル状態量には、和相当値のうち和モデルに適用されたもの以外のパラメータが含まれる。例えば、和モデルに和モード車輪角速度ωSLと和モード車輪ノミナルイナーシャJSnとが適用された場合には、これら以外の和相当値(例えば、和モード車軸トルクTSds等)が和モデル状態量として取得される。
【0042】
差モデルについても同様であり、上記の差モデルに差相当値を適用することで、車両1の旋回時における左駆動系及び右駆動系の運動状態を表す差モデル状態量が取得される。差モデル状態量には、差相当値のうち差モデルに適用されたもの以外のパラメータが含まれる。例えば、差モデルに差モード車輪角速度ωDLと差モード車輪ノミナルイナーシャJDnとが適用された場合には、これら以外の和相当値(例えば、差モード車軸トルクTDds等)が差モデル状態量として取得される。
【0043】
制御部23は、和モデル状態量と差モデル状態量とを用いて左モータ2L及び右モータ2Rの出力を制御するものである。制御部23は、一対のモータ2を駆動することで和モデル状態量と差モデル状態量とが得られる状態になるように(すなわち、和モデル状態量と差モデル状態量とを両立させうるように)、インバータ6の作動状態を制御する。これにより、左駆動系及び右駆動系の運動状態が所望の状態になるように、かつ、精度よく制御されやすくなる。
【0044】
ここで、左右輪5の目標車輪速に基づいて算出された和モード車輪角速度ωSL及び差モード車輪角速度ωDL等が和モデル及び差モデルに適用された結果、和モデル状態量の一つである和モード車軸トルクTSdsと差モデル状態量の一つである差モード車軸トルクTDdsとが取得された場合について説明する。制御部23は、和モード車軸トルクTSds及び差モード車軸トルクTDdsに基づいて一対のモータ2の各々が出力すべきトルクを算出し、そのトルクが得られるように一対のインバータ6を駆動する。
【0045】
和モード車軸トルクTSds及び差モード車軸トルクTDdsに基づく各モータ2のトルクの算出は、和相当値及び差相当値の演算と逆の演算を施すことで実現可能である。例えば、算出すべき各モータ2のトルクを「左モータ入力トルクTLM,右モータ入力トルクTRM」とおく。次に、左モータ入力トルクTLMと右モータ入力トルクTRMとの和が和モード車軸トルクTSdsに一致し、かつ、左モータ入力トルクTLMと右モータ入力トルクTRMとの差が差モード車軸トルクTDdsに一致するような、左モータ入力トルクTLM及び右モータ入力トルクTRMの各々の値を算出する。その後、算出された左モータ入力トルクTLM及び右モータ入力トルクTRMが得られるように各々のインバータ6を駆動する。
【0046】
これにより、実際の車輪速が目標車輪速に対して精度よく追従するようになり、車輪速の制御性が向上する。また、外乱入力時であっても車輪速が目標車輪速に一致しやすくなることから、走行路面の摩擦抵抗や駆動力が変化した場合であっても車輪速が急変しにくくなり、スリップの発生が抑制される。
【0047】
別の事例として、左右輪5の目標駆動トルクに基づいて算出された和モード車輪負荷側トルクTSL及び差モード車輪負荷側トルクTDL等が和モデル及び差モデルに適用された結果、和モデル状態量の一つである和モード車軸トルクTSdsと差モデル状態量の一つである差モード車軸トルクTDdsとが取得された場合について説明する。制御部23は、和モード車軸トルクTSdsと差モード車軸トルクTDdsとに基づいて一対のモータ2の各々が出力すべきトルクを算出し、そのトルクが得られるように一対のインバータ6を駆動する。
【0048】
これにより、実際の左右輪5の駆動トルクが目標駆動トルクに対して精度よく追従するようになり、駆動トルクの制御性が向上する。また、和モデルと差モデルとが独立して設けられることから、和モード車軸トルクTSdsと差モード車軸トルクTDdsとに異なる特性を付与することが容易である。例えば、和モード車軸トルクTSdsに直進時の共振が発生しにくい特性(共振周波数成分を含まない特性)を付与できるとともに、差モード車軸トルクTDdsに旋回時の共振が発生しにくい特性(共振周波数成分を含まない特性)を付与できる。これにより、あらゆる走行状態での振動が抑制される。
【0049】
[3.和モデル及び差モデルの具体例]
[A.負荷側の伝達関数(和モデル)]
図8は、車両1の直進時における負荷側イナーシャを導出するための模式図である。ここで、車両1の直進時の車体速をV
x,車輪速(左右輪5の前進速度)をV
SL,車体重量をM,車輪角速度(和モード車輪角速度)をω
SL,左右輪5の駆動力をF
Sx,車輪動半径をrとおく。和モード車輪負荷側トルクT
SL(路面からの反力や駆動力に対応するトルク)が駆動側トルクである和モード車軸トルクT
Sdsで決定されると仮定して線形化すれば、以下のような式が成り立つ。
【0050】
【0051】
上記の式に基づき、和モード負荷側の伝達関数(和モデルに係る2慣性系の入出力特性を表す伝達関数を含む関係式)が得られる。
【数5】
【0052】
図9は、車両1の直進時におけるトルク及び角速度の関係を示す模式図である。
図9中のJ
SMは駆動側慣性,J
Mはモータイナーシャ,D
SMは和モード駆動側粘性,D
Mはモータ粘性,D
L負荷側粘性である。
和モード駆動側角速度ω
Sdsは、和モード駆動側トルクT
Sinから和モード車軸トルクT
Sdsを減じた値に「1/(J
SM・s+D
SM)」を乗じることで算出される。ここで、J
SM=G
2J
M,D
SM=G
2D
Mである。
【0053】
和モード車軸トルクTSdsは、和モード駆動側角速度ωSdsから和モード車輪角速度ωSLを減じた値に「(Ks/s)+Ds」を乗じることで算出される。ここで、Ks,Dsはばねダンパの剛性,粘性である。
和モード車輪角速度ωSLは、和モード車軸トルクTSdsに「1/(JSL・s+DL)」を乗じることで算出される。
【0054】
[B.負荷側の伝達関数(差モデル)]
車両1の旋回時のヨーレイトをγ,トレッドをd,左右車輪速差をVDxとおく。また、Vxは車体速,Vrlxは左輪基準車輪速,Vrrxは右輪基準車輪速である。
操舵角をゼロと仮定して、ヨーレイトγと差モード車輪角速度ωDLとの関係を考慮すると、以下のような式が成り立つ。
【0055】
【0056】
また、差モード駆動側,ヨー運動,横運動の運動方程式は、以下のように立式される。式中のδfは操舵角,ayは横加速度,Iは車両1のヨーイナーシャ,Cfは前輪コーナリングパワー,Crは後輪コーナリングパワー,lfは重心-前軸間距離,lrは重心-後軸間距離,βは車体スリップ角,FDxは左右駆動力差,λDは差モデルにおけるスリップ率である。
【0057】
【0058】
ここで、車両1の直進状態から旋回状態への過渡期の状態をモデル化するために、操舵角δ
f及び横加速度a
yをゼロと仮定すると、以下のような差モード負荷側の伝達関数(差モデルに係る2慣性系の入出力特性を表す伝達関数を含む関係式)が得られる。
【数8】
【0059】
[C.駆動側の運動方程式(和・差モデル)]
上記の和モデル及び差モデルの導出に関して、動力分配機構3は、ベクトル表現を用いて以下のように数式化してもよい。
【数9】
【0060】
上記の数式を用いて、駆動側の運動方程式(和・差)を左右それぞれで立式すると、以下の通りとなる。式中のZ11は左駆動源(左モータ2L)から左軸(左車軸4L)にかかる減速比,Z22は右駆動源(右モータ2R)から右軸(右車軸4R)にかかる減速比,Zcは左右駆動源からそれぞれの反対側の軸にかかる減速比である。
【0061】
【0062】
上記の数式の両辺に和・差モードへ変換するための行列を作用させると、以下の式が得られる。
【数11】
【0063】
ここで、b1=b2=bとすれば、Z11-Zc=Z22-Zc=|Z|,Z11+Zc=Z22+Zc=1となることから、以下のように数式を変形でき、和・差モードに対応するモータ2の運動方程式を得ることができる。こうして、駆動側の運動方程式を和・差モードの各々に分解することで、両者が非干渉化される。
【0064】
【0065】
[D.車輪及び車軸の運動方程式(和・差モデル)]
駆動側の運動方程式の導出と同様に、左右輪5(負荷側)と車軸4についての運動方程式は、以下のように数式化してもよい。
【数13】
【0066】
[4.効果]
(1)上記の設計手法では、車両1の直進時における左駆動系及び右駆動系の運動状態をモデル化したものである和モデルと、車両1の旋回時における左駆動系及び右駆動系の運動状態をモデル化したものである差モデルとが用意される。また、左駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む左軸入出力と右駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む右軸入出力との和に相当する和相当値が算出され、左軸入出力と右軸入出力との差に相当する差相当値が算出される。さらに、和相当値を和モデルに適用することで車両1の直進時における左駆動系及び右駆動系の運動状態が把握され、差相当値を差モデルに適用することで車両1の旋回時における左駆動系及び右駆動系の運動状態が把握される。
【0067】
また、上記の設計装置20は、算出部21と記憶部22とを備える。算出部21は、左軸入出力と右軸入出力との和に相当する和相当値を算出するとともに、左軸入出力と右軸入出力との差に相当する差相当値を算出する。記憶部22は、車両1の直進時における左駆動系及び右駆動系の運動状態をモデル化したものであって和相当値が適用される和モデルと、車両1の旋回時における左駆動系及び右駆動系の運動状態をモデル化したものであって差相当値が適用される差モデルとを記憶する。
【0068】
上記のような構成により、和モデルに和相当値を適用することで直進時の駆動系の挙動を精度よく把握できるとともに、差モデルに差相当値を適用することで旋回時の駆動系の挙動を精度よく把握できる。直進時と旋回時とで異なる特性を持つ駆動系において、駆動系の状態(挙動)を精度よく把握でき、簡素な構成で制御性(例えば、制御精度や制御応答速度)が良好な制御を設計できる。また、直進状態に対応する和モデルと旋回状態に対応する差モデルとを分離し、互いに独立したモデルとして構築することで、各状態の周波数応答特性等を明確にすることができ、例えば制振制御やスリップ制御等をよりシンプルに設計できるようになる。
【0069】
(2)上記の実施例では、和モデル及び差モデルがともに2慣性系モデルで構築されうる。このような構成により、簡素な構成で、車両1の直進時,旋回時における左右駆動系の運動状態を精度よく把握できる。また、直進と旋回とで異なる特性に対して、それぞれで粘弾性を考慮した制御が可能となる。したがって、車両1の制御性を改善できる。
【0070】
(3)上記の和モデルは、
図7(A)に示すように、左モータ2L及び右モータ2Rの慣性に基づいて算出される駆動側慣性と、剛性及び粘性で設計されるばねダンパと、車両1の車体重量に基づいて算出される負荷側慣性とから構成された2慣性系で表現可能である。また、この2慣性系の入出力特性は、例えば[数5]に示される伝達関数で表現しうる。これにより、粘弾性を考慮した直進時の駆動系の挙動を精度よく把握でき、車両1の制御性を改善できる。
【0071】
(4)上記の差モデルは、
図7(B)に示すように、トルク差増幅率に基づいて算出される左右差発生時の等価慣性である駆動側慣性と、剛性及び粘性で設計されるばねダンパと、車両1のヨー慣性に基づいて算出される負荷側慣性とから構成された2慣性系で表現可能である。また、この2慣性系の入出力特性は、例えば[数8]に示される伝達関数で表現しうる。これにより、粘弾性を考慮した旋回時の駆動系の挙動を精度よく把握でき、車両1の制御性を改善できる。
【0072】
[5.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の利用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は必要に応じて取捨選択でき、あるいは、適宜組み合わせることができる。例えば、上記の実施例では、一対のモータ2を駆動源として搭載した車両1を例示したが、モータ2の代わりに内燃機関を採用してもよく、駆動源の具体的な種類は不問である。
【0073】
また、上記の実施例では、一対のモータ2と動力分配機構3とを含む車両駆動装置(DM-AYC装置)を備えた車両1を例示したが、和モデル及び差モデルの考え方はあらゆる車両に利用可能であり、例えば動力分配機構3を持たない車両やインホイールモータ車両にも利用可能である。少なくとも、左駆動源からの動力が伝達される左車軸及び左輪を含む左駆動系と右駆動源からの動力が伝達される右車軸及び右輪を含む右駆動系とを備えた車両であれば、上記の実施例と同様の制御を実施することができ、上記の実施例と同様の作用,効果を獲得できる。
【0074】
[6.付記]
上記の実施例や変形例に関して、以下の付記を開示する。
[付記1]
左駆動源からの動力が伝達される左車軸及び左輪を含む左駆動系と右駆動源からの動力が伝達される右車軸及び右輪を含む右駆動系とを備えた車両における前記左駆動源及び前記右駆動源の出力制御に係る設計装置であって、
前記左駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む左軸入出力と前記右駆動系の入力パラメータまたは出力パラメータを含む右軸入出力との和に相当する和相当値を算出するとともに、前記左軸入出力と前記右軸入出力との差に相当する差相当値を算出する算出部と、
前記車両の直進時における前記左駆動系及び前記右駆動系、並びに、前記左駆動源及び前記右駆動源の運動状態をモデル化したものであって前記和相当値が適用される和モデルと、前記車両の旋回時における前記左駆動系及び前記右駆動系、並びに、前記左駆動源及び前記右駆動源の運動状態をモデル化したものであって前記差相当値が適用される差モデルとを記憶する記憶部と
を備えることを特徴とする、設計装置。
【0075】
[付記2]
前記和モデル及び前記差モデルが、ともに2慣性系モデルである
ことを特徴とする、付記1記載の設計装置。
【0076】
[付記3]
前記和モデルが、前記左駆動源及び前記右駆動源の慣性に基づいて算出される駆動側慣性と、剛性及び粘性で設計されるばねダンパと、前記車両の車体重量に基づいて算出される負荷側慣性と、から構成された2慣性系の入出力特性を表す伝達関数を含む
ことを特徴とする、付記1又は2記載の設計装置。
【0077】
[付記4]
前記差モデルが、トルク差増幅率に基づいて算出される左右差発生時の等価慣性である駆動側慣性と、剛性及び粘性で設計されるばねダンパと、前記車両のヨー慣性に基づいて算出される負荷側慣性と、から構成された2慣性系の入出力特性を表す伝達関数を含む
ことを特徴とする、付記1~3のいずれか一項に記載の設計装置。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本件は、設計装置や車両制御装置の製造産業に利用可能であり、設計装置によって設計される制御が実装される車両や車両制御装置を搭載する車両の製造産業にも利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 車両
2 モータ(駆動源)
3 動力分配機構
4 車軸
5 左右輪
6 インバータ
7 バッテリ
10 車両制御装置
14 アクセル開度センサ
15 ブレーキセンサ
16 舵角センサ
17 レゾルバ
18 車輪速センサ
20 設計装置
21 算出部
22 記憶部
23 制御部