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7810050遷移金属複合酸化物粉末、それを用いた蓄電デバイス用電極、及び蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-26
(45)【発行日】2026-02-03
(54)【発明の名称】遷移金属複合酸化物粉末、それを用いた蓄電デバイス用電極、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C01G 39/00 20060101AFI20260127BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20260127BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20260127BHJP
【FI】
C01G39/00 Z
H01G11/30
H01M4/485
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022060539
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2023151101
(43)【公開日】2023-10-16
【審査請求日】2025-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 圭
(72)【発明者】
【氏名】大谷 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝昭
(72)【発明者】
【氏名】川辺 和幸
【審査官】福田 浩生
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-177900(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0280291(US,A1)
【文献】特開2016-177972(JP,A)
【文献】特開2022-047958(JP,A)
【文献】国際公開第2022/043704(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 39/00
H01G 11/30
H01M 4/485
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属複合酸化物であって、上記遷移金属複合酸化物がモリブデン、ニオブ、およびチタンを含有し、下記式(1)を満たす遷移金属複合酸化物粉末。
TiMoNb(a=1-x b=16x c=16x+2 d=86x+7 x=0.05~0.6)・・・(1)
【請求項2】
前記式(1)がx=0.08~0.3を満たすことを特徴とする請求項1に記載の遷移金属複合酸化物粉末。
【請求項3】
前記遷移金属複合酸化物粉末がTi0.9Mo1.6Nb3.615.6、Ti0.88Mo1.92Nb3.9217.32、Ti0.85Mo2.4Nb4.419.9、Ti0.8Mo3.2Nb5.224.2、Ti0.75MoNb28.5から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の遷移金属複合酸化物粉末。
【請求項4】
前記遷移金属複合酸化物粉末のレーザー回折散乱法による体積基準粒度分布における体積累積が50%に相当する一次粒子のD50が0.6μm以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の遷移金属複合酸化物粉末。
【請求項5】
前記遷移金属複合酸化物粉末の比表面積が2m/g以上15m/g以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の遷移金属複合酸化物粉末。
【請求項6】
蓄電デバイスの電極材料である請求項1~5のいずれか一項に記載の遷移金属複合酸化物粉末。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の遷移金属複合酸化物粉末を活物質として含むことを特徴とする、蓄電デバイス用電極。
【請求項8】
請求項7に記載の電極を含むことを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの電極材料等として好適な遷移金属複合酸化物粉末、それを用いた蓄電デバイス用電極、及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイスの電極材料として種々の材料が研究されている。その中でもチタン酸リチウムは、活物質材料として用いた場合に、特に低温領域での入出力特性に優れる点から、HEV、PHEV、BEVといった電気自動車用の蓄電デバイスの活物質材料として注目されている。
【0003】
電気自動車用の蓄電デバイスには、燃費または電費向上の観点から高いエネルギー密度が求められる。チタン酸リチウムは入出力特性に優れる点があるものの、エネルギー密度が175mAh/gに留まるため、更なる高エネルギー化には課題が残る。そこで代替候補として、高い放電容量が得られる持つニオブ、タングステンやモリブデンを含有する遷移金属酸化物を負極材料として活用する動きが見られている。
【0004】
特許文献1には、5CのCレートで充電及び/又は放電するためにニオブモリブデン酸化物が開示されており、具体的な化合物としてはNbMo14、Nb14Mo44、およびNb12MoO44が開示されている。
【0005】
特許文献2には、体積あたりの放電容量を高めるためにニオブモリブデン酸化物が開示されており、ニオブとモリブデンのモル比を規定することで電池特性が高められることが報告されている。
特許文献3には、モリブデンの一部を別の金属元素で置換したニオブモリブデン酸化物が開示されており、具体的な化合物としてはTi0.05Mo0.95Nb1232.95、Zr0.05Mo0.95Nb1232.95、W0.25Mo0.75Nb1232.95が開示されており、レート特性が改善することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2021-527306号公報
【文献】特開2021-61223号公報
【文献】国際公開2021/245411号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3のニオブとモリブデンからなる酸化物を負極材料として適用した蓄電デバイスでは、高い放電容量が得られるものの、平均放電電圧(Liに対する電圧)が高いため、エネルギー密度としてはそれほど高めることができないという課題があった。なお、電池容量を上げるメリットとして、単位重量または単位面積あたりのエネルギー密度向上に繋がるので、電気自動車の走行距離延長や蓄電池の設置スペース確保に繋がる点などが挙げられる。
【0008】
そこで本発明では、蓄電デバイスの電極材料として用いられエネルギー密度、及び、放電レート特性に優れた蓄電デバイスの電極材料として好適な遷移金属複合酸化物粉末、それを用いた蓄電デバイス用電極、及び蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の目的を達成すべく種々検討した結果、モリブデン、ニオブ、およびチタンからなる遷移金属酸化物においてモリブデン、ニオブ、およびチタンのモル比をある範囲に規定した遷移金属複合酸化物粉末を電極材料として適用することにより蓄電デバイスのエネルギー密度、及び、放電レート特性に優れることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0010】
(1)遷移金属複合酸化物であって、上記遷移金属複合酸化物がモリブデン、ニオブ、およびチタンを含有し、下記式(1)を満たす遷移金属複合酸化物粉末。
TiMoNb (a=1―x b=16x c=16x+2 d=86x+7 x=0.05~0.6)・・・(1)
(2)前記式(1)がx=0.08~0.3を満たすことを特徴とする(1)に記載の遷移金属複合酸化物粉末。
(3)前記遷移金属複合酸化物粉末がTi0.9Mo1.6Nb3.615.6、Ti0.88Mo1.92Nb3.9217.32、Ti0.85Mo2.4Nb4.419.9、Ti0.8Mo3.2Nb5.224.2、Ti0.75MoNb28.5から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の遷移金属複合酸化物粉末。
(4)前記遷移金属複合酸化物粉末のレーザー回折散乱法による体積基準粒度分布における体積累積が50%に相当する一次粒子のD50が0.6μm以上である(1)~(3)のいずれか一項に記載の遷移金属複合酸化物粉末。
(5)前記遷移金属複合酸化物粉末の比表面積が2m/g以上15m/g以下である(1)~(4)のいずれか一項に記載の遷移金属複合酸化物粉末。
(6)蓄電デバイスの電極材料である(1)~(5)のいずれか一項に記載の遷移金属複合酸化物粉末。
(7)(1)~(6)のいずれか一項に記載の遷移金属複合酸化物粉末を活物質として含むことを特徴とする、蓄電デバイス用電極。
(8)(7)に記載の電極を含むことを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるとエネルギー密度、及び、放電レート特性に優れた蓄電デバイスの電極材料として好適な遷移金属複合酸化物粉末、それを用いた蓄電デバイス用電極、及び蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[遷移金属複合酸化物粉末]
本発明の遷移金属複合酸化物粉末は、一般式TiMoNb (a=1-x b=16x c=16x+2 d=86x+7 x=0.05~0.6)で表される遷移金属複合酸化物粉末であるものをいう。
【0013】
<一般式TiMoNb (a=1-x b=16x c=16x+2 d=86x+7 x=0.05~0.6)で表される遷移金属複合酸化物>
本発明の遷移金属複合酸化物粉末は、一般式TiMoNb (a=1-x b=16x+2 c=16x d=86x+7 x=0.05~0.6)で表される遷移金属複合酸化物を含有する。具体的な化合物の例には、LiイオンやNaイオンを吸蔵・放出することが可能なモリブデンニオブチタン複合酸化物であるTi0.9Mo1.6Nb3.615.6、Ti0.88Mo1.92Nb3.9217.32、Ti0.85Mo2.4Nb4.419.9、Ti0.8Mo3.2Nb5.224.2、Ti0.75MoNb28.5、Ti0.5MoNb1050等が含まれる。モリブデンニオブチタン複合酸化物については、一部に合成原料由来のチタン酸化物相(例えばルチル型TiO、TiOなど)を含んでもよい。モリブデンニオブチタン複合酸化物の場合、xは0.05~0.45の範囲が好ましく、0.05~0.35の範囲がより好ましく、0.08~0.3の範囲が特に好ましい。この範囲であると、モリブデンニオブチタン複合酸化物のエネルギー密度が向上する。
【0014】
<比表面積>
本発明の遷移金属複合酸化物粉末の比表面積とは、窒素を吸着ガスとして用いて、単位質量あたりの表面積のことである。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0015】
本発明の遷移金属複合酸化物粉末は、比表面積が15m/g以下であればよく、エネルギー密度、及び、放電レート特性に優れた蓄電デバイスを得ることができる。2m/g以上12m/g以下が好ましく、2.5m/g以上10m/g以下がより好ましい。
【0016】
<D50>
本発明の遷移金属複合酸化物粉末のD50とは体積中位粒径の指標である。レーザー回折・散乱型粒度分布測定によって求めた体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して50%になる粒径を意味する。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0017】
本発明の遷移金属複合酸化物粉末について、一次粒子であっても、一次粒子が凝集した二次粒子であっても良い。遷移金属複合酸化物粒子からなる一次粒子が凝集した二次粒子を含む場合、その一部としては、二次粒子を形成しておらず、一次粒子そのものの形態となっていてもよい。
【0018】
本発明の遷移金属複合酸化物粉末が二次粒子の場合、二次粒子のD50は、電極密度向上の観点から、下限値は、11μm以上であることが好ましく、12μm以上がより好ましく、13μm以上がさらに好ましい。さらに、二次粒子のD50の上限値は、20μm以下であることが好ましく、18μm以下がより好ましく、14μm以下がさらに好ましい。なお、二次粒子のD50は、解砕処理(超音波器で超音波をかける)前のD50を表す。
【0019】
本発明の遷移金属複合酸化物粉末の一次粒子のD50は、放電レート特性の観点から、D50の下限値は、0.6μm以上であればよく、0.7μm以上が好ましい。また、D50の上限値は、5μm以下であればよく、4μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。なお、一次粒子のD50は、解砕処理(超音波器で超音波をかけた)後のD50を表す。
【0020】
[遷移金属複合酸化物粉末の製造方法]
以下に、本発明の遷移金属複合酸化物粉末の製造方法の一例を、原料の調製工程、焼成工程、及び表面処理工程に分けて説明するが、本発明の遷移金属複合酸化物粉末の製造方法はこれに限定されない。
【0021】
<原料の調製工程>
まず、出発原料を混合する。特にモリブデンニオブチタン複合酸化物の場合、出発原料として、Mo、Tiと、Nbとを含む酸化物または塩を用いる。また、モリブデンニオブチタン複合酸化物のその他の添加元素を含む場合、出発原料として用いる塩は、水酸化物塩、炭酸塩、硝酸塩のような、比較的低融点で分解して酸化物を生じる塩であることが好ましい。また、一次粒子径を小さくするため、出発原料に平均一次粒径が2μm以下、好ましくは平均一次粒径が0.5μm以下の粉末を用いることが好ましい。
【0022】
原料の混合方法については、特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法でも良い。例えば、ヘンシェルミキサー、超音波分散装置、ホモミキサー、乳鉢、ボールミル、遠心式ボールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、アトライター式の高速ボールミル、ビーズミル、ロールミル等を用いることができる。
【0023】
<焼成工程>
次に、上記で得られた混合物を焼成する。焼成は600~800℃の温度範囲で、より好ましくは650~750℃の範囲で行う。焼成温度を800℃以下で行うことで汎用の設備を利用することができる。なお、混合物を短時間で焼成する場合は、焼成前に混合物を構成する混合粉末を、レーザー回折・散乱型粒度分布測定機にて測定される粒度分布曲線におけるD95が5μm以下になるように調製することが好ましい。ここで、D95とは、体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して95%になる粒径のことである。
【0024】
前記条件で焼成できる方法であれば、焼成方法は特に限定されるものではない。利用できる焼成方法としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が挙げられる。ただし、短時間で効率的な焼成をする場合は、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が好ましい。特に、ロータリーキルン式焼成炉は、混合物を収容する容器が不要で、連続的に混合物を投入しながら焼成ができる点、被焼成物への熱履歴が均一で、均質な酸化物を得ることができる点から、本発明の遷移金属複合酸化物粉末を製造するには特に好ましい焼成炉である。
【0025】
以上のようにして得られた熱処理後の遷移金属複合酸化物粉末は、軽度の凝集はあるものの、粒子を破壊するような粉砕を行わなくても良く、そのため、熱処理後には、必要に応じて凝集を解す程度の解砕や分級を行えば良い。
【0026】
本発明の遷移金属複合酸化物粉末に含まれる水分量を低減させるために、熱処理工程で露点管理を行っても良い。熱処理後の粉末は、そのまま大気に晒すと粉末に大気中の水分が吸着するため、熱処理炉内での冷却時と熱処理後は、露点管理された環境下で粉末を扱うことが好ましい。熱処理後の粉末は、粒子を所望の最大粒径の範囲にするために必要に応じて分級を行っても良い。熱処理工程で露点管理をする場合は、発明の遷移金属複合酸化物粉末をアルミラミネート袋などで密閉した後に露点管理外の環境下に出すことが好ましい。露点管理下においても、熱処理後の遷移金属複合酸化物粉末の粉砕を行うと破砕面から水分を取り込みやすくなり、粉末に含まれる水分量が増加するため、熱処理を行った場合には粉砕を行わないことが好ましい。熱処理条件としては、温度と保持時間が特定の範囲にあることで二次粒子形態や表面処理工程に大きく影響する。熱処理温度としては、450℃以上が好ましく、550℃未満が好ましい。熱処理温度が550℃を超えると比表面積が大きく低下し、電池性能、特にレート特性が大幅に低下するためである。また保持時間は1時間以上が好ましい、保持時間が短い場合、粉末に含まれる水分量が増加に加え、粒子表面状態にも影響を与えると推測されるためである。
【0027】
[活物質材料]
本発明の活物質材料は、本発明の遷移金属複合酸化物粉末を含むものである。本発明の遷移金属複合酸化物粉末以外の物質を1種又は2種以上含んでいてもよい。他の物質としては、例えば、炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛等)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕、スズやスズ化合物、ケイ素やケイ素化合物、リチウムを含む金属酸化物が使用される。特に、リチウムを含む金属酸化物として、LiTi12を主成分とするチタン酸リチウムが挙げられる。
【0028】
[蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイスは、本発明の活物質材料を含む電極を備え、このような電極へのリチウムイオンのインターカレーション、脱インターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵、放出するデバイスであって、例えば、ハイブリッドキャパシタやリチウム電池などが挙げられる。
【0029】
[ハイブリッドキャパシタ]
前記ハイブリッドキャパシタとしては、正極に、活性炭など電気二重層キャパシタの電極材料と同様の物理的な吸着によって容量が形成される活物質や、グラファイトなど物理的な吸着とインターカレーション、脱インターカレーションによって容量が形成される活物質や、導電性高分子などレドックスにより容量が形成される活物質を使用し、負極に本発明の活物質材料を使用するデバイスである。本発明の活物質材料は、通常、前記ハイブリッドキャパシタの電極シートの形態にて用いられる。
【0030】
[リチウム電池]
本発明のリチウム電池は、リチウム一次電池及びリチウム二次電池を総称する。また、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池や全固体型リチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0031】
前記リチウム電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液、または固体電解質等により構成されているが、本発明の活物質材料は電極材料として用いることができる。本発明の活物質材料は、通常、前記リチウム電池の電極シートの形態にて用いられる。この活物質材料は、正極活物質及び負極活物質のいずれとして用いてもよいが、以下には負極活物質として用いた場合を説明する。
【0032】
<負極>
負極は、負極集電体の片面または両面に、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を含む負極層を有する。この負極層は、通常、電極シートの形態とされる。多孔質体などで空孔を有する負極集電体の場合は、空孔中に負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤、結着剤を含む負極層を有する。
【0033】
前記負極用の導電剤としては、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チェンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、単相カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ(グラファイト層が多層同心円筒状)(非魚骨状)、カップ積層型カーボンナノチューブ(魚骨状(フィッシュボーン))、節型カーボンナノファイバー(非魚骨構造)、プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)等のカーボンナノチューブ類等が挙げられる。また、グラファイト類とカーボンブラック類とカーボンナノチューブ類を適宜混合して用いてもよい。特に限定されることはないが、カーボンブラック類の比表面積は好ましくは30m/g~3000m/gであり、さらに好ましくは50m/g~2000m/gである。また、グラファイト類の比表面積は、好ましくは30m/g~600m/gであり、さらに好ましくは50m/g~500m/gである。また、カーボンナノチューブ類のアスペクト比は、2~150であり、好ましくは2~100、より好ましくは2~50である。
【0034】
導電剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、負極層中に、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~5質量%である。0.1質量%未満では、負極層の導電性が確保できなくなり、10質量%超では、活物質比率が減少し、負極層の単位質量及び単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量が不十分になるため高容量化に適さない。なお、導電剤の添加形式は、電極作成時でもよく、活物質そのものに導電剤を被覆する形でも構わない。炭素繊維などの導電剤で被覆することで、負極層の導電性が更に向上しうるためである。
【0035】
前記負極用の結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。特に限定されることはないが、ポリフッ化ビニリデンの分子量は、好ましくは2万~100万である。負極層の結着性を確保する観点から、2.5万以上であることが好ましく、3万以上であることがより好ましく、5万以上であることがさらに好ましい。活物質と導電剤との接触を妨げずに導電性が確保する観点から、50万以下であることが好ましい。特に活物質の比表面積が10m/g以上の場合には、分子量は10万以上であることが好ましい。
【0036】
前記結着剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、負極層中に、好ましくは0.2質量%~15質量%である。結着性を高め負極層の強度を確保する観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。活物質比率が減少し、負極層の単位質量及び単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量を低減させない観点から、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
前記負極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、焼成炭素、あるいはそれらの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を被覆させたもの等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により負極集電体表面に凹凸を付けてもよい。また、前記負極集電体の形態としては、例えば、シート、ネット、フォイル、フィルム、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。前記負極集電体の形態として、多孔質アルミニウムが好ましい。前記多孔質アルミニウムの空孔率は80%以上、95%以下であり、好ましくは85%以上である。
【0038】
前記負極の作製方法としては、負極活物質(本発明の活物質材料を含む)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合し塗料化した後、前記負極集電体上に塗布し、乾燥、圧縮することによって得ることができる。多孔質体などで空孔を有する負極集電体の場合は、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合した塗料を集電体の空孔に圧入して充填、または前記塗料中に空孔を有する集電体を浸潰し空孔中に拡散した後に、乾燥、圧縮することによって得ることができる。
【0039】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合し塗料化する方法としては、例えば、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置、ビーズミル、高速旋回型ミキサ、粉体吸引連続溶解分散装置などを用いることができる。また、製造工程として、固形分濃度によって工程を分け、これらの装置を使い分けてもよい。
【0040】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合するには、活物質の比表面積、導電剤の種類、結着剤の種類やこれらの組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置などを用いる場合には、製造工程として固形分濃度によって工程を分け、固形分濃度が高い状態で混練した後、徐々に固形分濃度を下げ塗料の粘度を調製するのが好ましい。固形分濃度が高い状態としては、好ましくは60質量%~90質量%、さらに好ましくは60質量%~80質量%である。60質量%以上であればせん断力が得られるので好ましく、90質量%以下であれば装置の負荷が軽減されるので好ましく、80質量%以下であればより好ましい。
【0041】
混合手順としては、特に限定されることはないが、負極活物質と導電剤と結着剤を同時に溶剤中で混合する方法、導電剤と結着剤をあらかじめ溶剤中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法、負極活物質スラリーと導電剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法などが挙げられる。これらの中でも均一に分散させるには、導電剤と結着剤をあらかじめ溶剤中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法及び負極活物質スラリーと導電剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法が好ましい。
【0042】
溶剤としては、有機溶媒を用いることができる。有機溶剤としては、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなど非プロトン性有機溶媒を単独、または2種類以上混合したものが挙げられ、好ましくは1-メチル-2-ピロリドンである。
【0043】
溶剤に有機溶剤を用いる場合には、結着剤をあらかじめ有機溶剤に溶解させて使用するのが好ましい。
【0044】
<正極>
正極は、正極集電体の片面または両面に、正極活物質、導電剤及び結着剤を含む正極層を有する。
【0045】
前記正極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な材料が使用され、例えば、活物質としては、コバルト、マンガン、ニッケルを含有するリチウムとの複合金属酸化物やリチウム含有オリビン型リン酸塩などが挙げられ、これらの正極活物質は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiCo1-xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn3/2等が挙げられ、これらのリチウム複合酸化物の一部は他元素で置換してもよく、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をB、Nb、Sn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも1種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、あるいは、これらの他元素を含有する化合物を被覆することができる。リチウム含有オリビン型リン酸塩としては、例えば、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO、LiFe1-xMxPO(MはCo、Ni、Mn、Cu、Zn、及びCdから選ばれる少なくとも1種であり、xは、0≦x≦0.5である。)等が挙げられる。
【0046】
前記正極用の導電剤及び結着剤としては、負極と同様のものが挙げられる。前記正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により正極集電体表面に凹凸を付けてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、シート、ネット、フォイル、フィルム、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。
【0047】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒中に電解質塩を溶解させたものである。この非水電解液には特に制限は無く、種々のものを用いることができる。
【0048】
前記電解質塩としては、非水電解質に溶解するものが用いられ、例えば、LiPF、LiBF、LiPO、LiN(SOF)、LiClO等の無機リチウム塩、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso-C、LiPF(iso-C)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF(SONLi、(CF(SONLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を含有するリチウム塩、ビス[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウムやジフルオロ[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウム等のオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩が挙げられる。これらの中でも、特に好ましい電解質塩は、LiPF、LiBF、LiPO、及びLiN(SOF)であり、最も好ましい電解質塩はLiPFである。これらの電解質塩は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの電解質塩の好適な組み合わせとしては、LiPFを含み、更にLiBF、LiPO、及びLiN(SOF)から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が非水電解液中に含まれている場合が好ましい。
【0049】
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が更に好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.5M以下が更に好ましい。
【0050】
一方、前記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル、アミド、リン酸エステル、スルホン、ラクトン、ニトリル、S=O結合含有化合物等が挙げられ、環状カーボネートを含むことが好ましい。なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0051】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種又は二種以上が挙げられ、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種以上が、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量を抑制する観点からより好適であり、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート及び2,3-ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上が更に好適である。全環状カーボネート中のアルキレン鎖を有する環状カーボネートの割合が55体積%~100体積%であることが好ましく、60体積%~90体積%であることが更に好ましい。
【0052】
したがって、前記非水電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オンから選ばれる一種以上の環状カーボネートを含む非水溶媒に、LiPF、LiBF、LiPO、及びLiN(SOF)から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩を含む電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることが好ましく、前記環状カーボネートとしては、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート及び2,3-ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上が更に好ましい。
【0053】
また、特に、全電解質塩の濃度が0.5M~2.0Mであり、前記電解質塩として、少なくともLiPFを含み、更に0.001M~1MのLiBF、LiPO、及びLiN(SOF)から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩が含まれる非水電解液を用いることが好ましい。LiPF以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合が0.001M以上であると、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が発揮されやすく、1.0M以下であると蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が低下する懸念が少ないので好ましい。LiPF以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合は、好ましくは0.01M以上、特に好ましくは0.03M以上、最も好ましくは0.04M以上である。その上限は、好ましくは0.8M以下、さらに好ましくは0.6M以下、特に好ましくは0.4M以下である。
【0054】
また、前記非水溶媒は、適切な物性を達成するために、混合して使用されることが好ましい。その組合せは、例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとラクトンとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとエーテルの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートと鎖状エステルとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとニトリルとの組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネートとS=O結合含有化合物との組合せ等が挙げられる。
【0055】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネート、及びエチルプロピルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、及びジブチルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の対称鎖状カーボネート、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピル等のピバリン酸エステル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸メチル、及び酢酸エチル(EA)から選ばれる1種又は2種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられる。
【0056】
前記鎖状エステルの中でも、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、プロピオン酸メチル、酢酸メチル及び酢酸エチル(EA)から選ばれるメチル基を有する鎖状エステルが好ましく、特にメチル基を有する鎖状カーボネートが好ましい。
【0057】
また、鎖状カーボネートを用いる場合には、2種以上を用いることが好ましい。さらに対称鎖状カーボネートと非対称鎖状カーボネートの両方が含まれるとより好ましく、対称鎖状カーボネートの含有率が非対称鎖状カーボネートより多く含まれると更に好ましい。
【0058】
鎖状エステルの含有率は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60体積%~90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有率が60体積%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、90体積%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下して蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0059】
鎖状カーボネート中に対称鎖状カーボネートが占める体積の割合は、51体積%以上が好ましく、55体積%以上がより好ましい。その上限としては、95体積%以下がより好ましく、85体積%以下であると更に好ましい。対称鎖状カーボネートにジメチルカーボネートが含まれると特に好ましい。また、非対称鎖状カーボネートはメチル基を有するとより好ましく、メチルエチルカーボネートが特に好ましい。上記の場合に蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が向上するので好ましい。
【0060】
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果を高める観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90~45:55が好ましく、15:85~40:60がより好ましく、20:80~35:65が特に好ましい。
【0061】
<リチウム電池の構造>
本発明のリチウム電池の構造は特に限定されるものではなく、正極、負極及び単層又は複層のセパレータを有するコイン電池、さらに、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池や角型電池等が一例として挙げられる。
【0062】
前記セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース紙、ガラス繊維紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド微多孔膜などが挙げられ、2種以上を組み合わせて構成された多層膜としたものも用いることができる。またこれらのセパレータ表面にPVDF、シリコン樹脂、ゴム系樹脂などの樹脂や、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウムなどの金属酸化物の粒子などをコーティングすることもできる。前記セパレータの孔径としては、一般的に電池用として有用な範囲であればよく、例えば、0.01μm~10μmである。前記セパレータの厚みとしては、一般的な電池用の範囲であればよく、例えば5μm~300μmである。
【0063】
<固体電解質>
固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。特に、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオンおよびアニオンに解離または遊離していない。無機固体電解質は周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有するものであれば特に限定されず電子伝導性をほとんど有さないものが一般的である。無機固体電解質は(A)硫化物無機固体電解質と(B)酸化物無機固体電解質が代表例として挙げられる。特に、高いイオン伝導性を有し、室温での加圧のみで、粒界の少ない緻密な成形体が形成できるため、硫化物無機固体電解質が好ましく用いられる。ここで言う周期律表は長周期型の周期律表を指す。
【0064】
硫化物無機固体電解質は非結晶ガラスであっても良く、結晶化ガラスであっても良く、結晶性材料であっても良い。硫化物無機固体電解質として、具体的に以下の組み合わせが好適に挙げられるが特に限定されない。
LiS-P、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、Li10GeP12
【0065】
前記組み合わせのなかでも、LiS-Pを組み合わせて製造されるLPSガラスおよびLPSガラスセラミックスが好ましい。また上記以外の硫化物無機固体電解質として、LiPSClやLiPSBrなどのアルジェロダイト型固体電解質も好適に挙げられる。
【0066】
酸化物無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族に属する金属イ
オン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
【0067】
酸化物無機固体電解質としては、例えば、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、およびLiBaLaTa12等が好適に挙げられる。
【0068】
無機固体電解質の体積平均粒径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【実施例
【0069】
次に、実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせを包含する。
【0070】
[実施例1]
酸化モリブデン(MoO)5.900g、酸化ニオブ(Nb)12.258g、およびアナターゼ型TiO1.842gを秤量し、混合した。モル比換算では、MoO:Nb:TiO=16:18:9に相当。この混合粉末を700℃で12時間熱処理を施した。得られた粉末試料をメノウ製乳鉢で数分間解砕した。得られた焼成粉末試料について、サンプリング間隔0.01°、スキャン速度2°/minの条件にて粉末X線回折測定を実施した。このようにして、実施例1に係る遷移金属複合酸化物を作製した。
【0071】
[実施例2、3及び比較例1~3]
上記実施例1の金属種、配合量、および遷移金属複合酸化物の組成比を表1に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様の手順で実施例2、3および比較例1~3に係る遷移金属複合酸化物を作製した。なお、比較例1においては、アナターゼ型TiOを使用しなかった。
【0072】
[粉末物性の測定]
各実施例、比較例の遷移金属複合酸化物粉末の各種物性を以下のようにして測定した。
【0073】
<比表面積の測定>
各実施例、各比較例の遷移金属複合酸化物粉末の比表面積(m/g)は、全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、商品名「Macsorb HM model-1208」)を使用して、吸着ガスは窒素ガスを使用した。測定サンプル粉末を0.5g秤量し、φ12標準セル(HM1201-031)に入れ、100℃真空下で0.5時間脱気した後、BET一点法で測定した。
【0074】
<D50の算出:乾式レーザー回折散乱法>
各実施例、各比較例の遷移金属複合酸化物粉末のD50は、レーザー回折・散乱型粒度分布測定機(日機装株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を使用して測定した粒度分布曲線より算出した。50mlのイオン交換水を測定溶媒として収容した容器に50mgの試料を投入し、目視で粉が測定溶媒中に均一に分散したと分かるくらいまで容器を手で振り、容器を測定セルに収容して測定した。解砕処理は、装置内の超音波器で超音波(30W、3s)をかけた。さらに測定溶媒をスラリーの透過率が適正範囲(装置の緑のバーで表示される範囲)になるまで加えて粒度分布測定を行った。得られた粒度分布曲線から、解砕後の混合粉末のD50を算出した。なお、解砕後D50は一次粒子のD50、に相当する。
【0075】
[電池特性の評価]
各実施例、比較例の遷移金属複合酸化物粉末を用いてコイン型電池を作製し、それらの電池特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0076】
<負極シートの作製>
負極シートは、室温25℃、露点-20℃以下に管理された部屋で次のようにして作製した。各実施例の遷移金属複合酸化物粉末を活物質として90質量%、アセチレンブラックを導電剤として5質量%、ポリフッ化ビニリデンを結着剤として5質量%の割合で、次のように混合して塗料を作製した。あらかじめ1-メチル-2-ピロリドンに溶解させたポリフッ化ビニリデンとアセチレンブラックと1-メチル-2-ピロリドンを遊星式撹拌脱泡装置にて混合した後、遷移金属複合酸化物粉末を加え、全固形分濃度が64質量%となるように調製して、遊星式撹拌脱泡装置にて混合した。その後、1-メチル-2-ピロリドンを加え全固形分濃度が50質量%となるように調製し遊星式撹拌脱泡装置にて混合して塗料を調製した。得られた塗料をアルミニウム箔上に塗布し乾燥させて、後述のコイン電池に用いる負極片面シート、及び後述のラミネート電池に用いる負極両面シートを作製した。なお、塗工時の目標目付けは7.5mg/cmとした。
【0077】
<電解液の調製>
特性評価用の電池に用いる電解液は、次のように調製した。温度25℃で露点-70℃以下に管理されたアルゴングローブボックス内で、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:2(体積比)の非水溶媒を調製し、これに電解質塩としてLiPFを1Mの濃度になるように溶解して後述のコイン電池用電解液を調製した。
【0078】
<コイン電池の作製>
前述の方法で作製した負極片面シートを直径14mmの円形に打ち抜き、2t/cmの圧力でプレス加工した後、120℃で5時間真空乾燥することによって評価電極を作製した。作製した評価電極と金属リチウム(厚み0.5mm、直径16mmの円形に成形したもの)をグラスフィルター(ADVANTEC製GA-100とワットマン製GF/Cを各1枚ずつ)を介して対向させ、前述の<電解液の調製>にて説明した方法で調製した非水電解液を加えて封止することによって、2032型コイン電池を作製した。
【0079】
<電池特性:初期放電容量、5Cレート放電特性の測定>
25℃の恒温槽内にて、上述の<コイン電池の作製>で説明した方法で作製したコイン型電池に、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電として、0.2mA/cmの電流密度で1Vまで充電を行い、さらに1Vで充電電流が0.05mA/cmの電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.2mA/cmの電流密度で3Vまで放電させる定電流放電を行った。得られた放電容量の0.2Cに相当する電流で1Vまで充電を行い、さらに1Vで充電電流が0.05Cに相当する電流になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.2Cに相当する電流で3Vまで放電させる定電流放電を行った。放電容量(mAh)を遷移金属複合酸化物粉末の質量で割ることで、初期放電容量(mAh/g)として求めた。また放電曲線から得られる遷移金属複合酸化物の平均放電電圧、初期放電容量から、平均放電電圧が3.7Vである正極と組み合わせた場合でのエネルギー密度を算出した。次に、初期放電容量の0.3Cに相当する電流で1Vまで充電した後、5Cの電流で2Vまで放電させて、5C放電容量を求めた。その5C放電容量を初期放電容量で除することで5Cレート放電容量率(%)を算出した。そして、比較例1のコイン電池にて測定した5Cレート放電容量率を100とし、実施例1~3、ならびに比較例1~3の5Cレート放電容量率を相対比として算出した結果を、5Cレート放電特性(相対比%)として表1に示す。遷移金属複合酸化物の5Cレート放電特性が高いと、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、蓄電デバイスの充電レート特性の向上が期待できる。1CのCとは充放電するときの電流値を表す。例えば、1Cは理論容量を1/1時間で完全放電(もしくは完全充電)できる電流値を指し、0.1Cなら理論容量を1/0.1時間で完全放電(もしくは完全充電)できる電流値を指す。

【表1】
【0080】
<評価結果>
実施例1~3の遷移金属複合酸化物粉末を用いた電極は、遷移金属複合酸化物におけるMo、NbおよびTiのモル比を特定の範囲にすることで比較例1,3に対して初期放電容量を維持しつつ、平均放電電圧を下げることができ、エネルギー密度を向上させることができ、更に放電レート特性を高めることができることが分かった。また、Tiのモル比が多すぎる比較例2は、初期放電容量が低くなり、エネルギー密度が不十分なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明で得られる遷移金属複合酸化物粉末は、初期放電容量を維持しながら、エネルギー密度、及び、放電レート特性を高めることができるので、リチウムイオン二次電池の電極活物質として有用であり、また、この遷移金属複合酸化物粉末を電極活物質として用いるリチウムイオン二次電池は、安定した高速充放電ができるため、自動車や電子機器等、各種機器の駆動用またはバックアップ用、家庭や事務所等での夜間電力貯蔵用の二次電池として有用である。