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7811212ガラス板、円板状ガラス、磁気ディスク用ガラス基板、およびガラス板の製造方法
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  • -ガラス板、円板状ガラス、磁気ディスク用ガラス基板、およびガラス板の製造方法 図1
  • -ガラス板、円板状ガラス、磁気ディスク用ガラス基板、およびガラス板の製造方法 図2
  • -ガラス板、円板状ガラス、磁気ディスク用ガラス基板、およびガラス板の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-27
(45)【発行日】2026-02-04
(54)【発明の名称】ガラス板、円板状ガラス、磁気ディスク用ガラス基板、およびガラス板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 25/00 20060101AFI20260128BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20260128BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20260128BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20260128BHJP
【FI】
C03B25/00
G11B5/73
G11B5/82
G11B5/84 C
G11B5/84 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023533148
(86)(22)【出願日】2022-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2022026729
(87)【国際公開番号】W WO2023282262
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2025-07-04
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/025369
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
(72)【発明者】
【氏名】玉置 将徳
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165607(JP,A)
【文献】特開2017-178711(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204224(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/117897(WO,A1)
【文献】特表2003-519884(JP,A)
【文献】特開2002-003240(JP,A)
【文献】特開2016-011232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 25/00 - 25/12
G11B 5/00 - 5/86
C03C 1/00 - 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が0.68mm未満である矩形のガラス板であって、
前記ガラス板の短辺方向の両端それぞれから、前記ガラス板の内側に前記ガラス板の短辺の5~20%の長さの端部領域、及び、前記ガラス板の長辺方向の両端それぞれから、前記ガラス板の内側に前記ガラス板の長辺の5~20%の長さの端部領域、を除いた前記ガラス板の中央領域のうちから切り出した一辺100mmの正方形の被測定領域の平坦度が30μm以下であり、
前記被測定領域を700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの前記被測定領域の熱収縮率が130ppm以下であり、
前記ガラス板のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、前記被測定領域をTg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う前記被測定領域の平坦度の変化量が10μm以下であり、
前記被測定領域の熱収縮率は、前記被測定領域の主表面に平行な方向において、前記被測定領域の中心を通り、円周方向に7.2度ずつ変化させた25個の方向においてそれぞれ測定した熱収縮率の最大値である、ことを特徴とするガラス板。
【請求項2】
短辺長さが900mmを超える、請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
前記ガラス板は、フロート法、フルコール法、ピッツバーグ法、ダウンドロー法、コルバーン法、及びリドロー法のいずれか1つを用いて成形された長尺状のガラスシートから切り出された部分である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項4】
前記被測定領域の面内方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の前記被測定領域の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の前記被測定領域の熱収縮量S2との差は1.0μm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス板。
【請求項5】
板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下であり、直交する二辺の長さがそれぞれ95~120mmの矩形のガラス板であって、
700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下であり、
前記ガラス板のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下であり、
前記第1の加熱処理をしたときの熱収縮率は、前記ガラス板の主表面に平行な方向において、前記ガラス板の中心を通り、円周方向に7.2度ずつ変化させた25個の方向においてそれぞれ測定した熱収縮率の最大値である、ことを特徴とするガラス板。
【請求項6】
前記矩形のガラス板は、円形の外周を有する円板状ガラスの元となる素板であり、
前記矩形のガラス板の主表面の面積は、前記円板状ガラスの外周の内側の面積の1.6倍以下の大きさである、請求項に記載のガラス板。
【請求項7】
板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下であり、直径が95~100mmの円形の外周を有する円板状ガラスであって、
700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下であり、
前記円板状ガラスのガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下であり、
前記第1の加熱処理をしたときの熱収縮率は、前記円板状ガラスの主表面に平行な方向において、前記円板状ガラスの中心を通り、円周方向に7.2度ずつ変化させた25個の方向においてそれぞれ測定した熱収縮率の最大値である、ことを特徴とする円板状ガラス。
【請求項8】
前記25個の方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮量S2との差は1.0μm以下である、請求項に記載の円板状ガラス。
【請求項9】
板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下であり、直径が95~100mmの磁気ディスク用ガラス基板であって、
700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下であり、
前記磁気ディスク用ガラス基板のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下であり、
前記第1の加熱処理をしたときの熱収縮率は、前記磁気ディスク用ガラス基板の主表面に平行な方向において、前記磁気ディスク用ガラス基板の中心を通り、円周方向に7.2度ずつ変化させた25個の方向においてそれぞれ測定した熱収縮率の最大値である、ことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項10】
前記25個の方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮量S2との差は1.0μm以下である、請求項に記載の磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項11】
前記第1の加熱処理に伴う真円度の変化量が0.5μm以下である、請求項または10に記載の磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項12】
ガラス板の製造方法であって、
前記ガラス板の元となるガラス板材をアニール処理する工程を含み、
前記ガラス板は、
板厚が0.68mm未満である矩形の板であって、
前記ガラス板の短辺方向の両端それぞれから、前記ガラス板の内側に前記ガラス板の短辺の5~20%の長さの端部領域、及び、前記ガラス板の長辺方向の両端それぞれから、前記ガラス板の内側に前記ガラス板の長辺の5~20%の長さの端部領域、を除いた前記ガラス板の中央領域のうちから切り出した一辺100mmの正方形の被測定領域の平坦度が30μm以下であり、
前記被測定領域を700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの前記被測定領域の熱収縮率が130ppm以下であり、
前記ガラス板のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、前記被測定領域をTg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う前記被測定領域の平坦度の変化量が10μm以下であり、
前記被測定領域の熱収縮率は、前記被測定領域の主表面に平行な方向において、前記被測定領域の中心を通り、円周方向に7.2度ずつ変化させた25個の方向においてそれぞれ測定した熱収縮率の最大値である、ことを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項13】
ガラス板の製造方法であって、
前記ガラス板の元となるガラス板材をアニール処理する工程と、
前記アニール処理後の前記ガラス板材から、前記ガラス板を取り出す工程と、を含み、
前記ガラス板は、
板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下であり、直交する二辺の長さがそれぞれ95~120mmの矩形の板であって、
700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下であり、
前記ガラス板のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下であり、
前記第1の加熱処理をしたときの熱収縮率は、前記ガラス板の主表面に平行な方向において、前記ガラス板の中心を通り、円周方向に7.2度ずつ変化させた25個の方向においてそれぞれ測定した熱収縮率の最大値である、ことを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項14】
前記矩形のガラス板は正方形であって、円形の外周を有する円板状ガラスの元となる素板であり、
前記矩形のガラス板の主表面の面積は、前記円板状ガラスの外周の内側の面積の1.6倍以下の大きさである、請求項12又は13に記載のガラス板の製造方法。
【請求項15】
円板状ガラスの製造方法であって、
前記円板状ガラスの元となるガラス板材をアニール処理する工程と、
前記アニール処理後の前記ガラス板材から、前記円板状ガラスを取り出す工程と、を含み、
前記ガラス板材は、矩形のガラス板であって、
前記円板状ガラスは、
板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下であり、直径が95~100mmであり、
700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下であり、
前記円板状ガラスのガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下であり、
前記第1の加熱処理をしたときの熱収縮率は、前記円板状ガラスの主表面に平行な方向において、前記円板状ガラスの中心を通り、円周方向に7.2度ずつ変化させた25個の方向においてそれぞれ測定した熱収縮率の最大値である、ことを特徴とする円板状ガラスの製造方法。
【請求項16】
前記矩形のガラス板は正方形であって、
前記矩形のガラス板の主表面の面積は、前記円板状ガラスの外周の内側の面積の1.6倍以下の大きさである、請求項15に記載の円板状ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ装置に用いる磁気ディスク用ガラス基板、円板状ガラス、ガラス板、およびガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のクラウドコンピューティングの隆盛に伴って、クラウド向けのデータセンターでは記憶容量の大容量化のために多くのハードディスクドライブ(HDD)装置が用いられている。HDD装置には、記憶媒体として、円環形状の非磁性の磁気ディスク用ガラス基板に磁性層を設けた磁気ディスクが用いられる。HDD装置の記憶容量を増やすためには、磁気ディスクの記録密度を高めることに加え、薄い磁気ディスクを数多く搭載して磁気ディスクの搭載枚数を増やすことが好ましい。
【0003】
記録密度の高密度化のため、磁気ディスクへの記録方式として、従来の垂直磁気記録方式に加えて、熱アシスト磁気記録方式(HAMR)やマイクロ波アシスト磁気記録方式(MAMR)が検討されている。近年、これらの記録方式に適する磁気記録層を形成するため、磁性膜の熱処理が行われている。熱処理は、例えば、磁性膜形成後のガラス基板を高温で加熱処理したり、ガラス基板を高温で加熱しながら磁性膜を形成したりすることによって行われる。このとき磁性膜の温度は、600℃をはるかに超えて700℃以上に達する場合もある。この熱処理では、磁性膜と共にガラス基板も加熱されるので、熱変形しないよう、磁気ディスク用ガラス基板には、耐熱性が高いこと、すなわち、ガラス転移温度(Tg)が高いことが要求される。
【0004】
磁気ディスク用ガラス基板の元材となるガラス板の製造方法として、プレス法やフロート法、フルコール法、ピッツバーグ法、ダウンドロー法、コルバーン法、リドロー法などを用いることができる。このうち、フロート法、フルコール法、ピッツバーグ法、ダウンドロー法、コルバーン法、リドロー法は、プレス法と比べて大きなサイズのガラス板を作りやすいため、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)向けガラス基板の製造に好適である。
【0005】
FPDには、薄膜トランジスタ(TFT)などの電子素子を設けたガラス基板が用いられる。TFTの製造プロセスでは、ガラス基板が高温に加熱されるので、ガラス基板が熱収縮し、寸法が変化しやすいという問題がある。このため、フロート法等の上述の方法でガラス板を作製する際には、ガラス板を成形しつつ徐冷を行い、徐冷の条件を調整することで、ガラス板の残留応力を小さくし、熱収縮率を小さくすることが行われている。また、ガラス板の熱収縮率をさらに小さくするための方法として、成形された長尺状のガラスシートから所定のサイズに切り出されたガラス板に対して熱処理を行うオフラインアニールが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-178711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フロート法等の上述の方法により製造されたガラス転移温度(Tg)の高いガラス板から磁気ディスク用ガラス基板を作製し、これを用いて磁気ディスクを作製したときに、磁性膜の熱処理によってガラス基板が熱収縮しつつ撓むように変形し、磁気ディスクの平坦度が悪化することがわかってきた。そして、このような平坦度の悪化は、特に、板厚の薄い磁気ディスク用ガラス基板を用いたときに顕著に発生することが明らかになってきた。磁気ディスクの平坦度が悪いと、HDD装置においてフラッタリングが発生しやすくなり、安定した読み取りを行うことができない。
【0008】
そこで、本発明は、磁気ディスクの磁気記録層を形成するための熱処理に伴う平坦度の悪化を抑制できる磁気ディスク用ガラス基板、および、そのような磁気ディスク用ガラス基板に用いられる円板状ガラス、ガラス板、およびガラス板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、ガラス板である。
前記ガラス板は、板厚が0.68mm未満である矩形のガラス板であって、
前記ガラス板の短辺方向の両端それぞれから、前記ガラス板の内側に前記ガラス板の短辺の5~20%の長さの端部領域、及び、前記ガラス板の長辺方向の両端それぞれから、前記ガラス板の内側に前記ガラス板の長辺の5~20%の長さの端部領域、を除いた前記ガラス板の中央領域のうちから切り出した一辺100mmの正方形の被測定領域の平坦度が30μm以下であり、
前記被測定領域を700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの前記被測定領域の熱収縮率が130ppm以下であり、
前記ガラス板のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、前記被測定領域をTg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う前記被測定領域の平坦度の変化量が10μm以下である、ことを特徴とする。
【0010】
短辺長さが900mmを超える、ことが好ましい。
【0011】
前記ガラス板は、フロート法、フルコール法、ピッツバーグ法、ダウンドロー法、コルバーン法、及びリドロー法のいずれか1つを用いて成形された長尺状のガラスシートから切り出された部分である、ことが好ましい。
【0012】
前記被測定領域の面内方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の前記被測定領域の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の前記被測定領域の熱収縮量S2との差は1.0μm以下である、ことが好ましい。
【0013】
前記ガラス板は、熱収縮率を低減するためのアニール処理がなされたものであり、
前記アニール処理前のガラス板は、前記被測定領域と対応する当該ガラス板の領域の面内方向によって熱収縮率の大きさが異なる、熱収縮率の異方性を有し、
前記面内方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の当該領域の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の当該領域の熱収縮量S2との差は1.0μmより大きくてもよい。
【0014】
本発明の別の一態様は、ガラス板である。
前記ガラス板は、板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下であり、直交する二辺の長さがそれぞれ95~120mmの矩形のガラス板であって、
700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下であり、
前記ガラス板のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下である、ことを特徴とする。
【0015】
前記矩形のガラス板は、円形の外周を有する円板状ガラスの元となる素板であり、
前記矩形のガラス板の主表面の面積は、前記円板状ガラスの外周の内側の面積の1.6倍以下の大きさである、ことが好ましい。
【0016】
本発明の別の一態様は、円板状ガラスである。
前記円板状ガラスは、板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下であり、直径が95~100mmの円形の外周を有する円板状ガラスであって、
700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下であり、
前記円板状ガラスのガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下である、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の別の一態様は、磁気ディスク用ガラス基板である。
前記磁気ディスク用ガラス基板は、板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下であり、直径が95~100mmの磁気ディスク用ガラス基板であって、
700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下であり、
前記磁気ディスク用ガラス基板のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下である、ことを特徴とする。
【0018】
前記第1の加熱処理に伴う真円度の変化量が0.5μm以下である、ことが好ましい。
【0019】
本発明の別の一態様は、ガラス板の製造方法である。
前記ガラス板の製造方法は、
前記ガラス板の元となるガラス板材をアニール熱処理する工程を含み、
前記ガラス板は、
板厚が0.68mm未満である矩形の板であって、
前記ガラス板の短辺方向の両端それぞれから、前記ガラス板の内側に前記ガラス板の短辺の5~20%の長さの端部領域、及び、前記ガラス板の長辺方向の両端それぞれから、前記ガラス板の内側に前記ガラス板の長辺の5~20%の長さの端部領域、を除いた前記ガラス板の中央領域のうちから切り出した一辺100mmの正方形の被測定領域の平坦度が30μm以下であり、
前記被測定領域を700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの前記被測定領域の熱収縮率が130ppm以下であり、
前記ガラス板のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、前記被測定領域をTg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う前記被測定領域の平坦度の変化量が10μm以下である、ことを特徴とする。
【0020】
本発明の別の一態様は、ガラス板の製造方法である。
前記ガラス板の製造方法は、
前記ガラス板の元となるガラス板材をアニール処理する工程と、
前記アニール処理後の前記ガラス板材から、前記ガラス板を取り出す工程と、を含み、
前記ガラス板は、
板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下であり、直交する二辺の長さがそれぞれ95~120mmの矩形の板であって、
700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下であり、
前記ガラス板のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下である、ことを特徴とする。
【0021】
前記矩形のガラス板は正方形であって、円形の外周を有する円板状ガラスの元となる素板であり、
前記矩形のガラス板の主表面の面積は、前記円板状ガラスの外周の内側の面積の1.6倍以下の大きさである、ことが好ましい。
【0022】
本発明の別の一態様は、ガラス板の製造方法である。
前記ガラス板の製造方法は、
円板状ガラスの製造方法であって、
前記円板状ガラスの元となるガラス板材をアニール処理する工程と、
前記アニール処理後の前記ガラス板材から、前記円板状ガラスを取り出す工程と、を含み、
前記ガラス板材は、矩形のガラス板であって、
前記円板状ガラスは、
板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下であり、直径が95~100mmであり、
700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下であり、
前記円板状ガラスのガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下である、ことを特徴とする。
【0023】
前記矩形のガラス板は正方形であって、
前記矩形のガラス板の主表面の面積は、前記円板状ガラスの外周の内側の面積の1.6倍以下の大きさである、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
上述の磁気ディスク用ガラス基板によれば、磁気ディスクの磁気記録層を形成するための熱処理に伴う平坦度の悪化を抑制できる。また、上述のガラス板および円板状ガラスによれば、そのような磁気ディスク用ガラス基板を得ることができる。さらに、上述のガラス板の製造方法によれば、上述のガラス板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(a)は、一実施形態であるガラス板(大板ガラス)の外観図であり、(b)は、ガラス板の被測定領域を説明する平面図である。
図2】(a)は、一実施形態であるガラス板(個片化ガラス)の外観図であり、(b)は、円板状ガラスとなる部分を示すガラス板の平面図である。
図3】一実施形態である円板状ガラスの外観図である。
図4】一実施形態である磁気ディスク用ガラス基板の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、一実施形態のガラス板およびガラス板の製造方法、円板状ガラス、および磁気ディスク用ガラス基板、について詳細に説明する。
【0027】
(大板ガラス)
図1(a)に、一実施形態であるガラス板10の外観図を示す。また、図1(b)に、ガラス板10の後述する被測定領域13を説明する平面図を示す。
【0028】
ガラス板10は、板厚が0.68mm未満である矩形の板である。
【0029】
ガラス板10の板厚が0.68mm未満であることで、ガラス板10から作製した磁気ディスク用ガラス基板(以降、ガラス基板ともいう)を磁気ディスクにしたときの板厚を薄くでき、HDD装置への搭載枚数を増やせる。ガラス板10の板厚は、好ましくは0.61mm未満、より好ましくは0.58mm未満である。ガラス板10の板厚の下限値は、特に制限されないが、例えば、0.2mmである。
【0030】
ガラス板10の短辺長さは900mmを超えることが好ましい。これにより、ガラス板10から多くの磁気ディスク用ガラス基板を作製でき、磁気ディスク用ガラス基板の製造コストを低減できる。ガラス板10の長辺長さは、図1に示す例のように短辺長さより長くてもよく、短辺長さと等しくてもよい。すなわち、ガラス板10は長方形又は正方形である。ガラス板10が短辺と長辺とを有する場合、長辺の長さと短辺の長さの比(長辺の長さ÷短辺の長さ)は、1.2以下であることが好ましい。上記比が1.2以下のガラス板10の元となるガラス板材に対して後述する精密アニール処理をすることで、熱収縮率を小さくしやすくなるとともに、熱収縮率の異方性(後述)も小さくしやすくなる。こうなる理由は、正方形に近いワークの方がアニール処理時にワーク面内の位置の違いによる熱履歴の差が生じにくいためと考えられる。このような短辺長さが900mmを超えるガラス板を、本明細書では、「大板ガラス」という場合がある。なお、ガラス板10の長辺長さは2000mm以下であることが好ましい。長辺長さが2000mmを超えると、後述する精密アニール処理をする際に炉内の温度の均一性を保つことが困難となる場合がある。
【0031】
ガラス板10の中央領域から切り出された被測定領域13の平坦度は30μm以下である。被測定領域13の平坦度が30μm以下であることで、ガラス板10から磁気ディスク用ガラス基板を作製する際の研削又は研磨による取り代が少なくて済み、歩留まり良く磁気ディスク用ガラス基板を作製できる。また、被測定領域13の平坦度が30μm以下であることで、ガラス板10を元材として作製した磁気ディスクを高速で回転させた場合に、フラッタリングが発生し難く、HDD装置の読み取り部のヘッドによる安定した読み取りを行うことができる。特に、磁気ディスクの板厚が薄いと、ガラス基板の剛性が低いために、フラッタリングの原因となる撓みが発生する場合があるが、ガラス板10の平坦度が小さいことで、板厚が薄くてもフラッタリングを抑制することができる。
本明細書において、平坦度は、JIS B0621-1984に準拠した平面度を意味する。平坦度の測定は、例えば、干渉式平坦度測定機を使用し、所定の測定波長(例えば680nm)で位相測定干渉法(フェイズシフト法)により実施することができる。被測定領域13の平坦度は、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、上記の平坦度とは、後述の第1又は第2の加熱処理が行われる前の被測定領域13の平坦度である。以下、特に説明のない場合も同様である。
【0032】
ガラス板10の中央領域12とは、ガラス板10の短辺方向の両端それぞれから、ガラス板10の内側にガラス板10の短辺10aの長さLの5~20%の長さLeの端部領域11a、あるいは、ガラス板10の長辺方向の両端それぞれから、ガラス板10の内側にガラス板の長辺10bの長さWの5~20%の長さWeの端部領域11b、を除いたガラス板10の領域を意味する。中央領域12の短辺方向の長さはLc、長辺方向の長さはWcである。
【0033】
被測定領域13は、ガラス板10の中央領域12のうちから切り出した一辺100mmの正方形の領域である。被測定領域13は、図1(b)に示すように切り出されなくてもよく、中央領域12のうちから任意に切り出すことができる。被測定領域13のサイズ及び形状は、磁気ディスク用ガラス基板の元となる後述するガラス板(後述する「個片化ガラス」)のサイズ及び形状に近い。
【0034】
本発明者の検討によれば、ガラス板10のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、被測定領域13を700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの被測定領域13の熱収縮率が130ppm以下であり、被測定領域13をTg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う被測定領域13の平坦度の変化量が10μm以下であることによって、次の効果が得られることが明らかになった。すなわち、板厚が0.68mm未満であり、被測定領域13の平坦度が30μm以下のガラス板10から作製した磁気ディスク用ガラス基板において磁性膜の熱処理を行ったときに、ガラス基板の熱収縮が抑制され、これにより、ガラス基板が熱収縮しながら撓むように変形することが抑制され、その結果、ガラス基板の平坦度の悪化を抑制できることが明らかになった。このような効果が発揮されることで、磁性膜の熱処理後のガラス基板において、30μm以下のガラス板10における平坦度の悪化が抑制され、磁気ディスクにして高速で回転させたときのフラッタリングが抑制される。
【0035】
以上の理由から、本実施形態のガラス板10は、被測定領域13を700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの被測定領域13の熱収縮率を130ppm以下とし、被測定領域13をTg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う被測定領域13の平坦度の変化量を10μm以下とする。第1の加熱処理をしたときの被測定領域13の熱収縮率が130ppmを超え、第2の加熱処理に伴う被測定領域13の平坦度の変化量が10μmを超えると、熱収縮しながら撓むようなガラス基板の変形を抑制できず、ガラス板の平坦度が悪化してしまう。30μm以下という高い平坦度は、僅かな熱収縮によっても大きく損なわれてしまう。
第1及び第2の加熱処理の条件は、磁性膜の熱処理を行うときの処理条件を参照して定められる。第1の加熱処理の条件は、600℃以上の磁性膜の熱処理時におけるガラス基板の平坦度の悪化と関係があると推定される、高温かつ長時間の加熱時の熱収縮率を評価できる温度条件とする観点から定められる。また、第2の加熱処理の条件は、600℃以上の磁性膜の熱処理時におけるガラス基板の平坦度の悪化量を直接評価できる温度条件とする観点から定められる。これは、熱アシスト磁気記録方式(HAMR)やマイクロ波アシスト磁気記録方式(MAMR)などのエネルギーアシスト磁気記録方式(EAMR)に最適とされるL1構造の磁性膜を形成するための温度が、600℃をはるかに超えて700℃以上に達する場合があるためである。
本明細書において、熱収縮率は、特に断った場合を除いて、第1の加熱処理の前後における熱収縮率であり、測定対象の主表面に平行な方向において、測定対象の中心を通り、円周方向に7.2度ずつ変化させた25個の方向においてそれぞれ測定した熱収縮率の最大値を意味する。なお、上記方法で熱収縮率を測定することで、全方向(360度)に対する熱収縮率を測定することができるので、従来よりも正確に熱収縮率を評価することができる。
【0036】
第1の加熱処理における加熱(昇温)、温度の維持及び冷却(降温)は、好ましくは、温度条件を除いて同じ条件の雰囲気中(例えば、一つのアニール炉内の雰囲気中)で連続して行われる。第1の加熱処理における昇温は、好ましくは、2.5時間かけて室温(常温)から行われる。換言すると、被処理基板は、室温から700℃まで270℃/時間の速度で昇温されるのが好ましい。また、降温については、700℃から室温まで50℃/時間の速度で冷却(降温)することが好ましい。
なお、第1の加熱処理の実施にあたっては、被処理基板(ガラス板10の被測定領域13であってもよく、後述する、ガラス板20、円板状ガラス30、または磁気ディスク用ガラス基板40であってもよい)の平坦度の大幅な悪化を避けるため、後述するセッターを2枚用いて被処理基板を上下から挟むようにして平置きにより実施するのが好ましい。平坦度の大幅な悪化を避けることで、熱収縮率を正確に測定することが可能となる。このときセッターのサイズは被処理基板と同等以上とする。被処理基板の上部に載せるセッターの厚みは、被処理基板の熱収縮を妨げず、平坦度をほぼ維持できる(例えば平坦度が30μm以下を維持する)ような重量となるように設定すればよい。なおここで、被処理基板の厚みが薄くなるほどの重量のセッターは不適切であることは言うまでもない。被処理基板の平坦度がほぼ維持されることで、同一の被処理基板を用いて、第1の加熱処理による熱収縮率の評価の後、後述の第2の加熱処理による平坦度変化量の評価を行うことができる。
なお、第1の加熱処理による熱収縮率の評価と、後述の第2の加熱処理による平坦度変化量の評価とを、別々の被処理基板を用いて行ってもよい。
【0037】
第2の加熱処理に関して、大気中で冷却とは、冷却速度の制御のための温度調整を行わず、室温の雰囲気中で放冷することを意味する。室温は、例えば25℃である。第2の加熱処理における基板の加熱と温度の維持は、例えば、2つのパネル状のヒータを備えた加熱装置内のヒータ間の雰囲気中で、基板ホルダに基板を保持させた状態で行われる。この加熱装置は、磁気ディスクの磁性膜等の成膜に用いられる公知の枚葉式の真空成膜装置内に設けられる基板加熱用チャンバーを模したものである。基板は地面に対して垂直に立てる方向で、公知の成膜用の基板ホルダ(キャリアとも言う)にセットされる。基板ホルダ(例えば、特開2011-117019号公報の段落0045、図4等に記載の基板ホルダ)には、3つ又は4つのL字型の板バネである支持部材が固定されており、それらの先端を基板の外周端面に押し付けることで板バネの弾性によって基板が基板ホルダに固定される。基板が円形状である場合のみでなく、四角形等である場合も同様に保持することができる。基板ホルダの仕様を調整することで、様々な形状の基板を同じように加熱することができる。なお、基板には支持部材から板バネの弾性による力が、基板を撓ませる方向に常に加わるため、支持部材を使わないで加熱する場合(例えば平置きの場合)と比べて撓みやすくなっている点を考慮する必要がある。
【0038】
熱収縮率は、例えば、熱処理の前後で被測定領域13における長さ変化を測定し、次式に従って計算することにより求められる。
C(熱収縮率)=(L-L)/L
ここで、Lは熱処理前の長さであり、Lは熱処理後の長さである。Cの符号は、熱処理により収縮した場合はプラス、逆に膨張した場合はマイナスとなる。
及びLは、例えば、切り出した被測定領域13の表面に2ヶ所のマーキングを入れて、熱処理前と後に2つのマーキングの距離を測定することで求められる。その他、L及びLは、被測定領域13の熱処理前後の長さであってもよい。これらの長さは、被測定領域13の中心を通る長さであるのが好ましい。測定対象が円板状ガラスや磁気ディスク用ガラス基板の場合は直径を用いてもよい。
また、熱収縮率の異方性を評価する際は、例えば、測定対象の中心に対し、円周方向に7.2度ずつ変化させた25個の方向の長さ(例えば直径など)を用いることができる。25個の方向の熱収縮率を測定し、そのなかの最大値から最小値を引くことで得られる熱収縮率の差の絶対値を、熱収縮率の異方性の指標とすることができる。なお、熱収縮率(C)の代わりに熱収縮量(S)を用いて、上記の25個の方向の熱収縮量のうち最大値と最小値の差の絶対値を求めて、それを上記異方性の指標としてもよい。S(熱収縮量)は、S=(L-L)である。
【0039】
第1の加熱処理をしたときの被測定領域13の熱収縮率は、好ましくは90ppm以下、より好ましくは50ppm以下である。第2の加熱処理をしたときの被測定領域13の平坦度の変化量は、好ましくは7.5μm以下、より好ましくは5μm以下である。
【0040】
ガラス板10は、フロート法、フルコール法、ピッツバーグ法、ダウンドロー法、コルバーン法、及びリドロー法のいずれか1つを用いて成形された長尺状のガラスシートから切り出された部分であることが好ましい。これらの方法により成形されたガラスシートからは、サイズの大きいガラス板10が得られるので、ガラス板10から、磁気ディスク用ガラス基板の元となる個片化ガラスを多く得ることができ、磁気ディスク用ガラス基板の製造コストを低減できる。また、これらの方法は、ガラス転移温度(Tg)の高いガラスシートを成形するのに有利であるため、ガラス転移温度(Tg)の高いガラス板10の製造コストを低減できる。ダウンドロー法の具体例として、スロットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法が挙げられる。また、ガラス板10の少なくとも一方の主表面が火造り面であることが好ましい。こうすることで、磁気ディスク用ガラス基板を製造する際に一般的に必要とされる、基板の主表面の研削処理や研磨処理の一部を省略したり、取代を小さくすることができる。換言すれば、ガラス板10の少なくとも一方の主表面は非研削面及び/又は非研磨面であることが好ましい。
【0041】
フロート法等の上述の方法により得られたガラスシートは、通常、ガラスシートの長手方向(溶融炉からガラスが流れ出る方向)と直交するガラスシートの幅方向の両端部の板厚が、幅方向の中央部と比べ厚くなっているので、ガラス板10の元となるガラス板材は、ガラスシートの幅方向の両端部を切り落としたガラスシートの残りの部分から切り出される。通常、ガラス板10の元となるガラス板材は、ガラスシートの幅方向が、ガラス板10の短辺方向あるいは長辺方向と一致するよう、切り出される。
【0042】
ガラス板10は、熱収縮率の異方性を有している場合がある。熱収縮率の異方性とは、熱収縮率の大きさが被測定領域13の主表面の面内の様々な方向によって異なる特性をいう。本発明者の検討によれば、ガラス板10が熱収縮率の異方性を有していると、ガラス板10から得られる磁気ディスク用ガラス基板において磁性膜の熱処理を行ったときに、ガラス基板の真円度(JIS B0621-1984)が悪化するおそれがあることが明らかになった。特に、ガラス板10の元となるガラス板材が、フロート法等の上述の方法を用いて成形されたガラスシートから切り出された部分である場合は、ガラスシートの面内方向によって熱収縮率の差が生じやすく、熱収縮率の異方性が生じやすい。さらに本発明者は、主表面の面内方向において、熱収縮率が最大となる方向と最小となる方向とは、必ずしも90度直交しないことも見出した。すなわち、従来、熱収縮率の異方性を評価する際には、上記のガラスシートの長手方向と、それに直交するガラスシートの幅方向との2方向の熱収縮率を測定し、それらの差を異方性の指標としていたが、その方法では、熱収縮率の最大値や最小値、それらの差を正確に評価できない場合があることがわかった。この原因は必ずしも明確ではないが、一般的にフロート法やダウンドロー法などの連続的に長尺状のガラスシートを得る方法では、溶融炉や軟化炉から流れ出るガラスは流出方向に引っ張られつつ移動しながら、幅方向にも引き延ばされてガラスシートに成形されるため、上述の直交する2つの方向を合成した斜めの方向にも引っ張られるためと推察される。また、上記の引っ張られる方向は、成形条件やガラスシート内における位置によって異なるとともに経時的にも変化し、加えて前記位置によって熱履歴も異なるため、熱収縮率が最大となる方向、最小となる方向、熱収縮率の大きさなどが様々に変化すると考えられる。したがって、異方性を精密に評価する場合、長尺状のガラスシートから所望のガラスを切り出して、全方向について調べる必要がある。
【0043】
上記のように磁気ディスク用ガラス基板の外周の真円度が悪化すると、磁気ディスクを高速で回転させたときにぶれが生じ、フラッタリングが発生しやすくなる。よって、磁気ディスク用ガラス基板や、その素板となる円板状ガラス、さらに円板状ガラスの元となるガラス板について、熱収縮率が最大となる方向と最小となる方向、それぞれの方向における熱収縮率の値とそれらの差を精密に把握することは非常に重要である。このようなガラス基板の真円度の悪化を抑える観点から、被測定領域13の面内方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮率C1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率C2との差(絶対値)は10ppm以下であることが好ましい。また、熱収縮率が最小となる方向の被測定領域の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の被測定領域の熱収縮量S2との差(絶対値)は1.0μm以下であることが好ましい。
【0044】
ガラス板10は、好ましくは、熱収縮率を低減するためのアニール処理(例えば、後述する「精密アニール」)がなされたものである。本件のアニール処理前のガラス板(ガラス板10の元となるガラス板材)は、被測定領域13と対応する当該ガラス板の領域の面内方向によって熱収縮率の大きさが異なる、熱収縮率の異方性を有し、面内方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮率C1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率C2との差(絶対値)が10ppmより大きい場合がある。また、熱収縮率が最小となる方向の当該領域の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の当該領域の熱収縮量S2との差(絶対値)が1.0μmより大きい場合がある。このような熱収縮率の異方性を有している場合であっても、本件のアニール処理済みのガラス板10は、上述した、熱収縮率及び平坦度の変化量の範囲を満たしているので、ガラス板10から得られる磁気ディスク用ガラス基板において磁性膜の熱処理を行った場合に平坦度や真円度の悪化が抑制される。上記真円度の変化量(悪化量)は、0.5μm以下であると好ましく、0.2μm以下であるとより好ましい。
【0045】
一実施形態によれば、ガラス板10の端部領域11a,11bを含むガラス板10全体のうちから切り出した一辺100mmの正方形の被測定領域が、上記被測定領域13と同様に、平坦度、熱収縮率、及び平坦度の変化量がそれぞれ上述の範囲を満たしていることが好ましい。このようなガラス板10からは、中央領域12から磁気ディスク用ガラス基板を作製する場合と比べ、より多くの磁気ディスク用ガラス基板を作製することができる。
【0046】
ガラス板10の材料としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノ珪酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることが好ましい。
【0047】
ガラス板10のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは750℃以上であり、より好ましくは770℃以上である。このようなガラス転移温度(Tg)の高いガラス板10から作製された磁気ディスク用ガラス基板は、高温で変形し難いので、例えば700℃で磁性膜の熱処理を行ったときに平坦度が悪化することを抑制する効果が大きい。ガラス板10のガラス転移温度(Tg)の上限は特に定めなくてもよいが、好ましくは850℃以下である。ガラス転移温度(Tg)が850℃を超える場合、薄いシートガラスの成形が困難となる場合がある。
また、ガラス板10のヤング率は、好ましくは80GPa以上である。ヤング率が80GPa未満の場合、例えば700℃で磁性膜の熱処理を行ったときに、上述の基板保持用の支持部材からの弾性応力による反りが発生し、それが上記熱処理による反りと合わさって平坦度が大きく悪化する場合がある。平坦度が大きく悪化しすぎると、成膜中に基板ホルダから落下するなどのトラブルが起きる場合がある。
また、ガラス板10の、100~300℃における平均線膨張係数は45×10-7/℃以下であることが好ましい。平均線膨張係数が45×10-7/℃を超えると、生産性向上のために基板の急加熱や急冷却などを行う際に基板が割れるリスクが高くなる場合がある。
また、ガラス板10の密度は、2.65g/cm以下であることが好ましく、2.60g/cm以下であるとより好ましい。当該密度が高すぎると、磁気ディスク用ガラス基板とした場合に重量が増えて、HDDの消費電力が増加しやすくなる。
【0048】
(ガラス板の製造方法)
以上説明したガラス板10は、ガラス板10の元となるガラス板材を所定の条件で加熱するアニール処理を含む、ガラス板の製造方法により製造することができる。以降の説明では、この所定の条件で行うガラス板材のアニール処理を、「精密アニール」という。精密アニールは、ガラス板10の被測定領域13が、上述した、熱収縮率及び平坦度の変化量の範囲を満たすように、ガラス板材に対して行われる。
【0049】
本発明者の検討によれば、上述したように、フロート法等の上述の方法により製造された従来のガラス板から小さいガラスを抜き出して磁気ディスク用ガラス基板を作製し、磁気記録層となる磁性膜の熱処理を行うと、ガラス基板が熱収縮しつつ撓むように変形し、磁気ディスクの平坦度が悪化することがわかってきた。フロート法等の上述の方法により成形されるガラスシートは、様々な方向に引き延ばされつつ広い面積のまま急速に冷却されるため、ガラスシート全面にわたって応力や温度、熱履歴を一定に保つことが難しく、ガラスシート全面において熱収縮率を均等に低下させることが難しい。そのため、ガラスシートの面内位置の違いによる熱収縮率のばらつきが発生していると考えられる。このため、ガラスシートから一部を抜き出して後で加熱したときに、熱収縮量が大きい場合が生じる。すなわち、ガラスシートをFPD用ガラス基板として使う場合は面積が大きい状態のまま使用されるのでガラスシート全体で測定した1つの熱収縮率の値が許容範囲内にあればよく、熱収縮率の面内ばらつきを考慮する必要はなかったが、磁気ディスク用ガラス基板はFPD用ガラス基板よりもサイズが非常に小さいため、熱収縮率の面内ばらつきに起因して、熱収縮率が大きな磁気ディスク用ガラス基板が作製される場合があることがわかった。加えて、磁気ディスク用ガラス基板に形成した磁性膜の熱処理の温度は、近年高くなりつつあり、例えば700℃以上に達する場合がある。この温度は、高耐熱用のガラス基板のガラス転移温度(Tg)に近い高さになっている。このような磁性膜の熱処理の条件は、FPD用ガラス基板にTFTを成膜する際にガラス基板が加熱される条件(例えば350~600℃)よりも非常に厳しいので、成形時の徐冷によってFPD用ガラス基板向けには問題とならないレベルとなった僅かな熱収縮率でも、磁性膜の熱処理を行ったときに大きな悪影響を与えることがわかってきた。すなわち、磁性膜の熱処理によって、ガラス基板が大きく熱収縮したり、熱収縮しながら撓むように変形したりすることがわかってきた。本発明者は、ガラス板10の元となるガラス板材に対し、上記した精密アニールを行うことで、ガラス板10の平坦度を所定の値以下に維持したまま熱収縮率の面内ばらつきが発生しないように精密に除去することができること、すなわち、上述した、被測定領域13の熱収縮率及び平坦度の変化量が所定の範囲内にあるガラス板10が得られることを見出した。
【0050】
さらに、本発明者が検討を進めるうちに、磁性膜の熱処理を行ったときにガラス基板が熱収縮しつつ撓むように変形するという上述の問題に対して、例えば、オフラインアニールのような、従来知られた一般的なアニール処理を行っても、次の問題が生じることが判明した。すなわち、大板ガラスの元となるガラス板材に対し一般的なアニール処理を行った場合に、アニールの効果(熱収縮率の低減効果など)がガラス板材の面内全体に均一に行き渡らず、その結果、大板ガラス全体としては、上述の第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が所定値以下であっても、大板ガラスから、例えば一辺がそれぞれ95~120mmの大きさの複数の矩形のガラス板を切り出し(個片化し)たときに、個片化されたガラス板の中に、熱収縮率が所定値以下にならない、あるいは、磁気ディスク用ガラス基板として磁性膜の熱処理を行ったときに反りが生じるものが含まれ、個片化された複数のガラスの間で特性のばらつきが生じることが判明した。特に、ガラス板10の元となるガラス板材が、フロート法やダウンドロー法等の上述の方法を用いて成形されたガラスシートから切り出された部分である場合は、ガラスシートの各辺近傍の端部領域を除く中央領域から切り出して作製した磁気ディスク用ガラス基板において上記のようなばらつきが生じる場合があることがわかった。大板ガラスの中央領域については、中央領域内のより狭い領域のアニールの効果を直接測定することができないため、仮にアニール効果が低い部分が存在していても、そのことに気づくことができなかった。
一般的なアニール処理を行ってもこのようなばらつきが生じることについて、本発明者が原因を検討したところ、アニール処理時において、ガラス板材の外周近傍の部分と中央部分との間の熱履歴の僅かな差が主に影響していると推察された。そして、大板ガラスの中央部分(中央領域)の熱収縮率は、その周囲を取り囲む外周部(端部領域)と繋がっている限り、当該外周部が中央部分の動きを拘束して中央部分の熱収縮を妨げたり、外周部の熱収縮に引きずられるように中央部分が過度に収縮したりすることにより、目的とする部分を切り出さない限り正確にはわからないことがわかった。本発明者は、上記した精密アニールを行うことによって得たガラス板10であれば、アニールの効果のばらつきが解消され、中央領域12から取り出した個片化されたガラス(個片化ガラス)においても、このような個片化ガラスの間での特性のばらつきが抑えられることを見出した。したがって、被測定領域13は、上述したように、ガラス板10の中央領域12から切り出される。中央領域12の大きさを定める端部領域11a,11bの大きさは、複数の個片化ガラスの間の上述した熱収縮率及び平坦度の変化量のばらつきを抑制する観点から定められている。
【0051】
以上の理由により、精密アニールは、ガラス板10の被測定領域13が、上述した、熱収縮率及び平坦度の変化量の範囲を満たすように、ガラス板材に対して行われる。精密アニールは、好ましくは、Tg-110℃以上で4時間以上の加熱処理、より好ましくは、Tg-80℃以上で4時間以上の加熱処理を行う。このような加熱処理の条件は、磁性膜の熱処理を行うときの処理条件を参照して定められる。精密アニールにおける加熱(昇温)、温度の維持及び冷却(降温)は、好ましくは、温度条件を除いて同じ条件の雰囲気中(例えば、一つのアニール炉内の雰囲気中)で連続して行われる。精密アニールにおける昇温は、好ましくは、2.5時間かけて室温(常温)から行われる。換言すると、ガラス板材は、室温から、好ましくはTg-110℃以上の温度、より好ましくはTg-80℃以上の温度まで270℃/時間の速度で昇温されるのが好ましい。また、降温については、好ましくはTg-110℃以上の温度、より好ましくはTg-80℃以上の温度から室温まで50℃/時間の速度で冷却(降温)することが好ましい。
【0052】
精密アニールは、下記説明するアニール処理用板材(以降、セッターという)を用いて行うことが好ましい。これにより、上述した、平坦度、熱収縮率、及び平坦度の変化量の範囲を満たすガラス板10を効率よく得ることができる。
【0053】
セッターは、一対の主表面を有する板状の形態を有しており、少なくとも一方の面が、ガラス板10の元となるガラス板材の主表面と接するよう構成されている。セッターの主表面は、ガラス板10の元となるガラス板材の主表面よりも広く、ガラス板材の全周からはみだす大きさである。はみだす長さは、ガラス板材の中心から離れる方向に例えば5センチメートル以上である。
【0054】
セッターの平坦度は、平坦度が30μm以下のガラス板10を効率よく得るために、平坦度が30μmより小さいことが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であるとさらに好ましい。
【0055】
セッターの熱伝導率は、20℃において例えば1~200W/(m・K)である。セッターの熱伝導率が上記範囲内にあることで、ガラス板10の元となるガラス板材の精密アニールを行ったときに、ガラス板材が均等に加熱及び冷却されやすく、精密アニール後の熱収縮率の大きさがガラス板10の面内位置によってばらつくことを効果的に抑えられる。
【0056】
セッターの材料としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、ジルコニア(ZrO2)、サイアロン(Si3N4・Al2O3)、ステアタイト、スピネル、コージライト等が挙げられる。中でも、アルミナ(Al2O3)、炭化ケイ素(SiC)が好ましく用いられる。
【0057】
セッターを用いた精密アニールの一例として、2枚のセッターと断熱材を用いる方法が挙げられる。一実施形態によれば、精密アニールは、ガラス板材を、ガラス板材より大きい主表面を有する2枚のセッターの間に挟み、セッターの間の隙間に配置した断熱材により囲んだ状態で行うことが好ましい。断熱材は、高い耐熱性を有する繊維材料からなることが好ましい。繊維材料には、以下に説明するロックウールのほか、セラミック繊維、ガラス繊維等の無機繊維が好ましく用いられる。この例の精密アニールは、ガラス板材より面積の大きい2枚のセッターで1枚のガラス板材を挟むようにセッターとガラス板材を積層し、さらにガラス板材の側面(端面)に隣接する2枚のセッター間の隙間を高耐熱性のロックウールで埋めた状態で行われる。ここで、2枚のセッターは同じ形状とし、ガラス板材をはさみつつ厚さ方向に互いにほぼぴったり重なるように(すなわち、面内方向のズレがないように)するとともに、セッターの外周部が全周にわたってガラス板材から略均等にはみ出すようにして、ガラス板材の端面の全体の近傍に2枚のセッター間の隙間ができるようにする。その隙間に高耐熱性のロックウールを軽く詰めることで、ガラス板材の全体が、セッター及びロックウールで覆われるようにするとともに、ガラス板材の主表面にセッターの荷重が適度にかつ均等にかかるようにすることができる。
この例の精密アニールは、複数のセッター及び複数のガラス板材を交互に積み重ねて形成した積層体を精密アニールする場合と比べてガラス板材にかかる重量が軽いため、セッター及びガラス板材の重さの影響によって下方に位置するガラス板材の面内方向への伸び縮みが阻害されることを抑制でき、ガラス板10の面内の位置によらず熱収縮率を小さくすることに寄与する。
ロックウールは断熱性とともに通気性があるため、セッター間の隙間を好適に塞ぐことができる。その結果、ガラス板材全体を均等に加熱又は冷却(均熱化)しやすくなり、ガラス板材の面内位置によらず熱収縮率を低減することができる。
また、ロックウールは、ガラス板材に載せたセッターによるガラス板材への荷重を阻害しない程度に使用される。よって、ガラス板材の主表面にセッターの荷重が適度にかつ均等にかかるため、精密アニール処理中にガラス板材の平坦度が悪化することを抑制することができ、場合によっては当該平坦度を小さくすることができる。
換言すると、上記の方法により、セッターの重さによるガラス板材への影響を抑えてガラス板10の熱収縮率を面内の位置によらず小さくしつつ、ガラス板材の平坦度を小さくする効果を高めることができる。
以上説明した精密アニールは、ガラス板10の元となる板材に対して行うことに制限されず、後述するように、ガラス板20の元となる個片化されたガラス板材に対しても行うことができる。
【0058】
以上の精密アニールを含む、ガラス板の製造方法により、ガラス板10を製造することができる。
【0059】
(個片化ガラス)
図2(a)に、一実施形態であるガラス板20の外観図を示す。また、図2(b)は、円板状ガラスとなる部分を破線で示したガラス板20の平面図を示す。
【0060】
ガラス板20は、板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下であり、直交する二辺の長さがそれぞれ95~120mmの矩形の板である。このガラス板は、上記説明したガラス板(大板ガラス)10と比べサイズが小さく、本明細書では、「個片化ガラス」という場合がある。
【0061】
ガラス板20は、95~120mmの矩形の板であり、磁気ディスク用ガラス基板の素板となる円板状ガラス(後述)、ひいては磁気ディスク用ガラス基板を作製する際の取り代が少なく、これらを作製するのに適した大きさを有している。ガラス板20は、好ましくは正方形の板である。正方形のガラス板20の元となるガラス板材に対して精密アニール処理をすることで、上記と同様の理由で、熱収縮率を小さくしやすくなるとともに、熱収縮率の異方性も小さくしやすくなる。なお、縦と横の辺の長さの比が僅かに異なる場合(例えば当該比が0.95~1.05の場合)も上記の正方形の範囲内に含まれるものとする。
ガラス板20の板厚は、好ましくは0.61mm未満、より好ましくは0.58mm未満である。また、当該板厚の下限値は、特に制限されないが、例えば、0.2mmである。
【0062】
700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときのガラス板20の熱収縮率は130ppm以下である。当該熱収縮率は好ましくは90ppm以下、より好ましくは50ppm以下である。また、ガラス板20のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴うガラス板20の平坦度の変化量は10μm以下である。当該平坦度の変化量は、好ましくは7.5μm以下、より好ましくは5μm以下である。
【0063】
ガラス板20は、円板状ガラスの元となる素板である。ガラス板20の主表面の面積は、円板状ガラスの外周の内側の面積の1.6倍以下の大きさであることが好ましく、1.5倍以下の大きさであることがより好ましい。このように、ガラス板20の主表面の面積が、円板状ガラスの外周の内側の面積と近い大きさであることで(内孔の影響は軽微であるため無視できる)、ガラス板20が備える上述した、熱収縮率、及び平坦度の変化量の2つの特性を、円板状ガラスも備えやすくなる。換言すれば、円板状ガラスの上記特性は、切り出す前のガラス板20の上記特性から大きく外れることがない。この効果は、ガラス板20の元となる個片化されたガラス板材に対し精密アニール(個片化後の精密アニール)を行って作製したガラス板20において、特に有効である。すなわち、個片化されたガラス板材は、面積が小さいため、精密アニールしたときの効果が、個片化されたガラス板材の外周部の隅々にまで及びやすく、面内位置によるアニール効果のばらつきが小さい。そのため、ガラス板20から切り出した円板状ガラスにおいて、磁性膜の熱処理を行ったときの平坦度の悪化を抑制する効果が大きくなる。このように、精密アニールを施すガラス板材の形態が、磁気ディスク用ガラス基板の形態に近いほど、精密アニールの効果が大きくなる。
なお、個片化とは、大板ガラス10から個片化ガラス20を得ること、あるいは、大板ガラス10の元となるガラス板材から、個片化ガラス20と同じ寸法のガラス板材を得ること、を意味する。
【0064】
ガラス板20は、例えば、ガラス板10(精密アニール処理済み)から切り出すことにより、あるいは、ガラス板10の元となるガラス板材を個片化したものに対し精密アニールを行うことにより得られる。
【0065】
ガラス板20は、好ましくは、熱収縮率を低減するためのアニール処理(例えば、上述した精密アニール)がなされたものである。アニール処理前のガラス板(ガラス板20の元となるガラス板材)は、当該ガラス板の面内方向によって熱収縮率の大きさが異なる、熱収縮率の異方性を有し、面内方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮率C1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率C2との差(絶対値)が10ppmより大きくてもよい。また、熱収縮率が最小となる方向の当該ガラス板の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の当該ガラス板の熱収縮量S2との差(絶対値)が1.0μmより大きくてもよい。
【0066】
ガラス板20は、ガラス板20の面内方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮率C1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率C2との差(絶対値)が10ppm以下であることが好ましい。また、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮量S2との差(絶対値)は1.0μm以下であることが好ましい。
【0067】
以上説明したガラス板20は、例えば、大板ガラス10から切り出し、個片化することで作製される。切り出しの方法は、周知のスクライバ(カッター)を用いた切筋形成及び割断によって行ってもよいし、レーザー光を大板ガラス10に照射して、一定間隔で欠陥等を形成してその後それらの欠陥をつなげることで大板ガラス10から分離して切り出してもよい。ガラス板20は、大板ガラス10の中央領域12から切り出されることが好ましい。したがって、ガラス板20の少なくとも一方の主表面が火造り面であることが好ましい。こうすることで、磁気ディスク用ガラス基板を製造する際に一般的に必要とされる、基板の主表面の研削処理や研磨処理の一部を省略したり、取代を小さくすることができる。換言すれば、ガラス板20の少なくとも一方の主表面は非研削面及び/又は非研磨面であることが好ましい。
【0068】
また、ガラス板20は、例えば、大板ガラス10の元となる精密アニール前のガラス板材を個片化した後に精密アニールを行うことで作製できる。すなわち、ガラス板20は、ガラス板20の元となる個片化されたガラス板材の精密アニールを含む、ガラス板の製造方法により製造することができる。
この方法における精密アニールは、ガラス板20の元となる個片化されたガラス板材を加熱の対象として、大板ガラス10について上述した精密アニールと同様の方法で行う。この方法で用いられる、ガラス板20の元となる個片化されたガラス板材は、例えば、大板ガラス10の元となるガラス板材から、精密アニールを行うことなく切り出し、個片化した板材であり、ガラス板20と略同じ寸法形状を有する。
本発明者の検討によれば、このようにガラス板20の元となる個片化されたガラス板材に対して精密アニールを行うことによって、精密アニール済みの大板ガラス10から切り出したガラス板20と比べ、上述した、熱収縮率及び平坦度の変化量がさらに小さいガラス板20が得られることが見出された。したがって、ガラス板20の元となる個片化されたガラス板材に対して精密アニールを行うことによって、上述した、熱収縮率及び平坦度の変化量がさらに小さいガラス板20が得られる。
【0069】
(円板状ガラス)
図3に、一実施形態である円板状ガラス30の外観図を示す。
【0070】
円板状ガラス30は、例えば、磁気ディスク用ガラス基板の元となる素板である。
円板状ガラス30は、円形の外周を有する。円板状ガラスの中心部には、板厚方向に貫通する孔(内孔)が設けられ、円板状ガラスは円環形状を有していてもよいが、図3に示す例の円板状ガラス30のように、内孔を有していなくてもよい。
【0071】
円板状ガラス30は、板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下である。
円板状ガラス30は、700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下である。当該熱収縮率は好ましくは90ppm以下、より好ましくは60ppm以下、より一層好ましくは50ppm以下である。円板状ガラス30のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下である。当該平坦度の変化量は、好ましくは7.5μm以下、より好ましくは6μm以下、より一層好ましくは5μm以下である。
円板状ガラス30の板厚は、好ましくは0.61mm未満、より好ましくは0.58mm未満である。また、当該板厚の下限値は、特に制限されないが、例えば、0.2mmである。
【0072】
円板状ガラス30は、円板状ガラス30の面内方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮率C1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率C2との差(絶対値)が10ppm以下であることが好ましい。上記差(C2-C1)は、7ppm以下であるとより好ましく、5ppm以下であるとより一層好ましい。また、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮量S2との差(絶対値)は1.0μm以下であることが好ましい。上記差(S2-S1)は、0.7μm以下であるとより好ましく、0.5μm以下であるとより一層好ましい。
【0073】
円板状ガラス30は、例えば、ガラス板20から切り出して得られる。
円板状ガラス30の切り出しは、例えば公知のスクライビング法やコアリング法を用いることにより、上記ガラス板20から抜き出すことができる。スクライビング法は、例えばダイヤモンドスクライバやスクライビングホイール、レーザー等を用いて実施できる。したがって、円板状ガラス30の少なくとも一方の主表面が火造り面であることが好ましい。こうすることで、磁気ディスク用ガラス基板を製造する際に一般的に必要とされる、基板の主表面の研削処理や研磨処理の一部を省略したり、取代を小さくすることができる。換言すれば、円板状ガラス30の少なくとも一方の主表面は非研削面及び/又は非研磨面であることが好ましい。
円板状ガラス30の直径は、磁気ディスク用ガラス基板の元となる素板(中間体)とする場合、最終的に製造する磁気ディスク用ガラス基板のサイズに応じて調整するのが好ましい。下記に示す数値や数値範囲はいずれも例である。公称直径3.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の元となる素板とする場合、外径(直径)を95~100mmとすることができる。また、内孔を設ける場合、内径(直径)を23~25mmとすることができる。他方、公称直径2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の元となる素板とする場合、外径(直径)を65~70mmとすることができる。また、内孔を設ける場合、内径(直径)を18~20mmとすることができる。
【0074】
(磁気ディスク用ガラス基板)
図4に、一実施形態である磁気ディスク用ガラス基板40の外観図を示す。図4に示す磁気ディスク用ガラス基板40は、中心部に内孔を有している。
【0075】
ガラス基板40のサイズは制限されないが、例えば、公称直径3.5インチや2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板のサイズである。公称直径3.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の場合、外径(直径)を例えば95~100mm、内孔の径(直径)を例えば24~26mmとすることができる。具体的には、例えば、外径(直径)が95mmや97mmであり、内孔の径(直径)が例えば25mmである。他方、公称直径2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の場合、外径(直径)を例えば65~70mm、内孔の径(直径)を例えば19~21mmとすることができる。具体的には例えば、外径(直径)が65mmや67mmであり、内孔の径(直径)が例えば20mmである。
【0076】
磁気ディスク用ガラス基板40は、板厚が0.68mm未満、平坦度が30μm以下である。
磁気ディスク用ガラス基板40は、700℃で4時間維持した後、700℃から400℃まで50℃/時間の速度で冷却する第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下である。当該熱収縮率は好ましくは90ppm以下、より好ましくは60ppm以下、より一層好ましくは50ppm以下である。磁気ディスク用ガラス基板40のガラス転移温度をTg(℃)で表すとき、Tg-160℃で60秒間維持した後、大気中で室温まで冷却する第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量が10μm以下である。当該平坦度の変化量は、好ましくは7.5μm以下、より好ましくは6μm以下、より一層好ましくは5μm以下である。
磁気ディスク用ガラス基板40の板厚は、好ましくは0.61mm未満、より好ましくは0.58mm未満である。また、当該板厚の下限値は、特に制限されないが、例えば、0.2mmである。
【0077】
磁気ディスク用ガラス基板40は、磁気ディスク用ガラス基板40面内方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮率C1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率C2との差(絶対値)が10ppm以下であることが好ましい。上記差(C2-C1)は、7ppm以下であるとより好ましく、5ppm以下であるとより一層好ましい。また、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮量S2との差(絶対値)は1.0μm以下であることが好ましい。上記差(S2-S1)は、0.7μm以下であるとより好ましく、0.5μm以下であるとより一層好ましい。
【0078】
磁気ディスク用ガラス基板40は、例えば、円板状ガラス30の主表面の研削及び/又は研磨の処理を含む、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により得られる。磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、円板状ガラス30の主表面の研削及び/又は研磨のほかに、面取り面の形成、端面の研削及び/又は研磨、化学強化、洗浄、等の処理を含んでいてもよい。また、内孔を有しない円板状ガラス30から磁気ディスク用ガラス基板40を作製する場合に、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、円板状ガラス30に内孔を形成する処理(例えば上記のスクライビング法又はコアドリルによるコアリング法による処理)を含んでいてもよい。
【0079】
磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、一例によれば、次のように行われる。すなわち、円環形状の円板状ガラス30の内外周端面に面取り面を形成する。次いで、面取り面を形成した円板状ガラスの主表面の研削を行う。研削処理では、固定砥粒をシート状に形成した研削部材、あるいは、遊離砥粒を含むスラリーを用いて円板状ガラスの主表面の研削を行う。次いで、主表面を研削した円板状ガラスの主表面の研磨を行う。研磨処理では、研削処理で用いられる遊離砥粒よりも粒径の小さい遊離砥粒を含むスラリーと研磨パッドとを用いて研磨を行う。研磨処理は、複数の処理に分けて、粒径の異なる砥粒又は硬さの異なる研磨パッドを用いて行うことができる。
【0080】
化学強化を行う場合、例えば、研磨処理のうち最後に行う処理の前後に行うことが好ましい。化学強化処理では、例えば複数の種類の硝酸塩の混合塩の溶融液中に円板状ガラスを浸漬して行う。洗浄では、化学強化の後、あるいは、研磨処理のうち最後に行う処理の後に、洗浄液で円板状ガラスを洗浄する。なお、上記の各処理の間に適宜洗浄処理を追加してもよい。
【0081】
(実験例1)
本発明の効果を調べるため、下記表に示した種々の磁気ディスク用ガラス基板(従来例1、及び実施例1~5)を作製し、上記第1の加熱処理をしたときの熱収縮率と真円度の変化量を評価し、上記第2の加熱処理をしたときの平坦度の悪化の程度を評価した。なお、熱収縮率に関しては、熱収縮率の異方性評価として、熱収縮率の差(C2-C1)、熱収縮量の差(S2―S1)及び熱収縮率の最大方向と最小方向がなす角度、も評価した。ただし、熱収縮量の差(S2―S1)が0.5μm以下の場合は、異方性が極めて小さいと判断できるため、角度計測対象外とした。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
従来例1、実施例1~5の磁気ディスク用ガラス基板はいずれも、下記の仕様とした。
・ガラス転移温度(Tg)が810℃のアルミノシリケートガラス、
・外径97mm、内径25mm、板厚0.5mm、主表面の平坦度5μm。
なお、実施例で作製した磁気ディスク用ガラス基板はいずれも、主表面におけるリタデーションの平均値は0.5nm以下であった。すなわち、実施例で作製した磁気ディスク用ガラス基板の残留応力は十分に小さいため、各種評価において残留応力の影響はほぼないと考えられる。
【0085】
従来例1、実施例1~5のガラス基板はそれぞれ、次の要領で作製した。
(従来例1)
オーバーフローダウンドロー法を用いて、徐冷を行いながら成形したガラスシートから、幅方向の中央部と比べ板厚の厚い両端部を切り落とし、残りのガラスシートの部分から、ガラスシートの所定の領域を切り出して、短辺1000mm×長辺1200mm、板厚0.6mmの矩形のガラス板材を得た。ガラス板材の長辺方向は、ガラスシートの幅方向と対応していた。得られたガラス板材において短辺方向及び長辺方向の両端それぞれからガラス板材の内側に200mmの端部領域を除いた中央領域から、一辺109mmの正方形に個片化したガラス板材(個片化ガラス)を切り出した。
その後、上記個片化ガラスから直径99mmの円板状ガラスを、スクライビング法により切り出した。このとき、個片化ガラスと円板状ガラスの面積比は、約1.54であった。その後、いずれも公知の方法を用いて、円孔形成、面取り面の形成、外径及び内径の調整、端面研磨、主表面に対する研削及び研磨、洗浄等を行い、上記仕様の磁気ディスク用ガラス基板を得た。
(実施例1)
短辺1000mm×長辺1200mm、板厚0.6mmの矩形のガラス板材(大板)に対して上記の精密アニールを行ったこと以外は、従来例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。
(実施例2)
個片化したガラス板材に精密アニールを行ったこと以外は、従来例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。
(実施例3)
個片化ガラスのサイズを106mm×106mmとし、個片化ガラスと円板状ガラスの面積比を約1.46としたこと以外は、実施例2と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。
(実施例4)
個片化ガラスのサイズを112mm×112mmとし、個片化ガラスと円板状ガラスの面積比を約1.63としたこと以外は、実施例2と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。
(実施例5)
個片化ガラスを118.3mm×106mmのサイズの長方形としたこと以外は、実施例4と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。
【0086】
精密アニールは、炉内の雰囲気温度を700℃(Tg-110℃)に調整したアニール炉内にガラス板材を配置して4時間保持することにより行った。より具体的には、2.5時間かけて700℃まで昇温を行い、700℃で4時間保持した後、50℃/時間の速度で降温を行った。その際、ガラス板材を、ガラス板材より主表面が広く、ガラス板材の全周からはみ出す大きさの2枚のセッターで、セッターの外周部がガラス板材の全周から5cmはみ出した状態で挟むように積層し、さらに、ガラス板材の側面と接する2枚のセッターの間の隙間にロックウールを軽く詰め、ガラス板材の全体がセッター及びロックウールで覆われるようにして行った。
【0087】
<熱収縮率及び真円度変化量の測定>
測定対象のガラス基板に、下記の第1の加熱処理を実施した。
(第1の加熱処理)
室温のアニール炉内にガラス基板を配置して700℃に昇温し、ガラス基板を700℃で4時間維持した後、700℃から400℃までの間を50℃/hの速度で冷却する。
【0088】
熱収縮率については、ガラス板の中心を通り、この中心の周りの円周方向に中心角7.2度の間隔を互いにあけた、計25の方向のそれぞれにおいて第1の加熱処理前後の直径の変化量から熱収縮率を算出し、その最大値をガラス基板の熱収縮率とした。
また、熱収縮率の差(C2-C1)は、上記25の方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮率C1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮率C2との差(絶対値)である。そして、熱収縮量の差(S2―S1)は、上記25の方向のうち、熱収縮率が最小となる方向の熱収縮量S1と、熱収縮率が最大となる方向の熱収縮量S2との差(絶対値)である。
【0089】
真円度変化量は、第1の加熱処理の後の真円度から第1の加熱処理の前の真円度を引き算することで算出した。真円度変化量の値はいずれも絶対値とした。真円度は、真円度測定器を用いて測定した。なお、原則として、第1の加熱処理の後の真円度の方が第1の加熱処理の前の真円度より大きかった。
真円度の悪化の程度は、第1の加熱処理の前後に測定したガラス基板の外周の真円度の差が、0.2μm以下だった場合をA、0.2μmを超え0.5μm以下だった場合をB、0.5μmを超えた場合をC、と評価し、A及びBを、真円度の悪化を抑制できたと評価した。
【0090】
<平坦度変化量の測定>
測定対象のガラス基板に、下記の第2の加熱処理を実施した。
(第2の加熱処理)
室温の加熱装置内にガラス基板を配置して50秒で650℃(Tg-160℃に相当)まで昇温し、ガラス基板を650℃で60秒間維持した後、装置から取り出し、大気中で室温まで自然冷却する。加熱装置には、上記のとおり、間隔をあけて平行に配置した2つのパネルヒータを備える装置を用いる。ガラス基板は、保持具(基板ホルダ)に装着されて、パネルヒータ間の隙間内に鉛直に立てた状態で配置可能となっている。また、ガラス基板を装着した保持具(基板ホルダ)は、大気中である加熱装置外と加熱装置内とを行き来可能となっている。
【0091】
平坦度変化量は、第2の加熱処理の後の平坦度から第2の加熱処理の前の平坦度を引き算することで算出した。各平坦度の値及び平坦度の変化量はいずれも絶対値とした。
平坦度の悪化の程度は、第2の加熱処理の前後に測定した平坦度の差が、7μm以下だった場合をA、7μmを超え10μm以下だった場合をB、10μmを超えた場合をCとし、このうち、A及びBを、平坦度の悪化を抑制できたと評価した。
【0092】
従来例1と実施例1の比較から、個片化する前の大板の状態で精密アニールを行うことにより、第1の加熱処理をしたときの熱収縮率が130ppm以下となり、第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量を10μm以下に抑制できることがわかる。また、熱収縮率の異方性についても熱収縮率の差(C2-C1)が10ppm以下となってガラス基板の真円度の悪化も抑制できることがわかる。
実施例1と実施例2の比較から、個片化された後のガラス板材を精密アニールすることによって、個片化する前の大板の状態で精密アニールした場合と比べ、ガラス基板の平坦度の悪化を抑制する効果が大きくなることがわかる。また、ガラス基板の真円度の悪化を抑制する効果も大きくなることがわかる。
実施例2~4の比較から、個片化ガラスと円板状ガラスの面積比が1.6以下、好ましくは1.5以下であることによって、第1の加熱処理をしたときの熱収縮率を小さくし、第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量を小さく抑制する効果が向上することがわかる。また、熱収縮率の異方性についても熱収縮率の差(C2-C1)が小さくなって、ガラス基板の真円度の変化量を小さくする効果が向上することがわかる。
実施例4と実施例5の比較から、個片化ガラスの形状が正方形であることによって、個片化ガラスの形状が正方形でない場合と比べ、第1の加熱処理をしたときの熱収縮率を小さくし、第2の加熱処理に伴う平坦度の変化量を小さく抑制する効果が向上することがわかる。また、熱収縮率の異方性についても熱収縮率の差(C2-C1)が小さくなってガラス基板の真円度の変化量を小さくする効果が向上することがわかる。
【0093】
なお、従来例1の方法で製造した別の磁気ディスク用ガラス基板(複数)について、熱収縮率を測定する際の第1の加熱処理の条件を、室温から600℃まで100℃/時で昇温し、600℃で80分保持し、600℃から室温まで100℃/時で降温するように変更して熱収縮率を測定したところ、20~40ppmであり、第1の加熱処理を行ったときの従来例1と比べ熱収縮率はだいぶ小さかった。この理由は、主に熱収縮率の測定条件における加熱温度と維持時間がいずれも緩和されたためと思われる。このことから、熱収縮率の値は、測定条件中の加熱処理条件の影響を顕著に受けることがわかる。
【0094】
(実験例2)
従来例1の条件で磁気ディスク用ガラス基板を20枚製造して熱収縮率(上記25個の方向の熱収縮率の最大値)を測定し、20枚の基板の間での最大値と最小値との差(ばらつき)を算出したところ、188ppmであった。
上記と同様にして、実施例1の条件の磁気ディスク用ガラス基板を準備し、20枚の基板の間での熱収縮率の最大値と最小値との差(ばらつき)を算出したところ、37ppmであった。
上記と同様にして、実施例2の条件の磁気ディスク用ガラス基板を準備し、20枚の基板の間での熱収縮率の最大値と最小値との差(ばらつき)を算出したところ、9ppmであった。
【0095】
なお、磁気ディスク用ガラス基板の替わりに、円板状ガラスを切り出す直前の個片化ガラスを用いたこと以外は、上記(実験例2)と同様にして、従来例1、実施例1,実施例2の熱収縮率のばらつき(最大値と最小値の差)を比較したところ、上記(実験例2)と概ね同様の結果が得られた。
上記結果から、(1)精密アニールを行うことにより、個片化ガラスの間の熱収縮率のばらつきが小さくなること、(2)精密アニールは大板ガラスに実施するよりも、個片化後のガラスに実施する方が熱収縮率のばらつきが小さくなること、がわかる。
【0096】
以上、本発明の磁気ディスク用ガラス基板、円板状ガラス板、ガラス板、およびガラス板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0097】
10 ガラス板(大板ガラス)
10a 短辺
10b 長辺
11a,11b 端部領域
12 中央領域
13 被測定領域
20 ガラス板(個片化ガラス)
30 円板状ガラス
40 磁気ディスク用ガラス基板
図1
図2
図3
図4